説明

経皮免疫感作のためのワクチン

【課題】病原体たとえば毒素原性大腸菌(ETEC)による感染及び/又はそれによって生じる下痢性疾患の他の症状を治療するための、ワクチン及び経皮免疫感作の提供。
【解決手段】経皮免疫感作により送達されるワクチンは病原体たとえば毒素原性大腸菌(ETEC)による感染及び/又はそれによって惹起される下痢疾患の症状に対して効果的な処置を提供する。たとえば、ETECから誘導される1,2,3,4,5又はそれ以上の、抗原特異的免疫応答を誘発できる抗原(たとえばトキシン、コロニゼーション又はビルレンス因子)、及び任意の1又は2種以上のアジュバント(たとえば、全細菌性ADP−リボシル化エキソトキシン、Bサブユニット又はそれらのトキソイド、脱毒素突然変異体及びそれらの誘導体)が、ワクチンの製造又は全身性及び/又は粘膜免疫の誘発のために使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願との引照)
本出願は、2001年2月13日出願の米国特許仮出願60/268,016;2001年7月11日出願の米国特許出願60/304,110;2001年8月8日出願の米国特許出願60/310,447及び2001年8月8日出願の米国特許出願60/310,483の利益を請求する。
【0002】
(合衆国政府の助成に関する陳述)
合衆国政府は、本発明に、MRMC/DAMD17−01−0085及びNIH/AI 45227−01の契約に基づくある種の権利を有する。
【0003】
(技術分野)
本発明は、病原体たとえば毒素原性大腸菌(ETEC)による感染及び/又はそれによって生じる下痢性疾患の他の症状を治療するための、ワクチン及び経皮免疫感作に関する。
【背景技術】
【0004】
ヒトの最大の臓器である皮膚は、感染原による侵入に対する生体の防御に重要な役割を果たし、有害な物質と接触する。しかしながら、この皮膚の障壁機能のため、経皮免疫感作がワクチンの腸内、粘膜及び非経口投与の有効な代替を提供したことの評価は、技術分野において妨げられてきたように思われる。
【0005】
解剖学的に、皮膚は3つの層から構成される。すなわち、表皮、真皮、及び皮下脂肪である。表皮は基底層、有棘皮層、顆粒層及び角化層から構成される。表皮角質層は角化層及び脂質からなる。皮膚の主要抗原提示細胞、ランゲルハンス細胞はヒトでは表皮の中間部ないし上部有棘皮層にあると報告されている。真皮は主として結合組織を含有する。血管及びリンパ管は真皮及び皮下脂肪に閉じ込められている。
【0006】
表皮角質層は、死滅した皮膚細胞と脂質の層であリ、旧来より敵対世界に対する障壁と考えられ、角質層の下の生存細胞から生物及び有害な物質を排除すると考えられてきた。表皮角質層はまた皮膚からの水分の喪失に対する障壁としても働く。比較的乾燥した角質層の水分含量は5〜15%、一方さらに深い表皮及び真皮の層は比較的良好に水和されていて、水分含量は85〜90%と報告されている。ごく最近、抗原提示細胞(たとえば、ランゲルハンス細胞)によって提供される二次防御を有することが認められた。しかも、透過促進の存在又は不存在下に皮膚活性アジュバントを用いる、皮膚を通しての免疫感作能力(すなわち経皮免疫感作)は、ごく最近報告されたのみである。望ましくない皮膚反応たとえばアトピー及び皮膚炎は本技術分野においてよく知られているが、経皮免疫感作(TCI)の治療的利点の認識は、皮膚が約500ダルトンよりも大きい分子の通過に障壁を提供すると信じられていたことから、過去には評価されていなかったものと思われる。
【0007】
本発明者らは様々なアジュバントがTCIにより有効に投与され、別個の、共投与された抗原に対する全身性及び局所性抗原特異的免疫応答を誘発することを示した。たとえばWO98/20734,WO99/43350,及びWO00/61184;米国特許第5,910,306号及び第5,980,898号;及び米国特許出願09/257,188;09/309,881;09/311,720;09/316,069;09/337,746及び09/545,417参照。たとえば、ADP−リボシル化エキソトキシンのようなアジュバントは、経皮的に適用した場合に安全かつ有効であり、これに反し腸内、粘膜又は非経口経路で投与された場合には、それらの使用は欠点を伴う。
【0008】
米国特許4,220,584号及び4,285,931号では大腸菌誘発性下痢に対する免疫感作のために、大腸菌熱不安定性エンテロトキシンを使用している。ウサギに免疫原及びフロインドのアジュバントを筋肉内注射した。トキシンによるチャレンジに対する保護及び回腸ループ活性に対する毒性作用の中和が示された。米国特許5,182,109号にはワクチンとトキシン(たとえば、大腸菌熱不安定性トキシン)の合剤、及び注射、スプレー又は経口投与用形態での投与が記載されている。中和は免疫感作されたウシの初乳において証明された。エンテロトキシンの突然変異バージョンも免疫原性を保持し、毒性は消失していることが記載されている(たとえば米国特許4,761,372及び5,308,835)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第98/20734号パンフレット
【特許文献2】国際公開第99/43350号パンフレット
【特許文献3】国際公開第00/61184号パンフレット
【特許文献4】米国特許第5,910,306号明細書
【特許文献5】米国特許第5,980,898号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2009/257,188号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2009/309,881号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2009/311,720号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2009/316,069号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2009/337,746号明細書
【特許文献11】米国特許出願公開第2009/545,417号明細書
【特許文献12】米国特許第4,220,584号明細書
【特許文献13】米国特許第4,285,931号明細書
【特許文献14】米国特許第5,182,109号明細書
【発明の概要】
【0010】
新規な本発明のワクチン処方、ならびにその製造方法及び使用方法が本明細書に開示されている。とくにTCI、及び下痢性疾患を治療するためのヒトワクチン接種におけるそれに由来する利点が証明されている。重要な開示は、多価ワクチンにおける様々な抗原間の競合が、経皮免疫感作によって投与された場合には、障害にならなかったことである。本発明の他の利点は以下に論じられるか、本明細書の開示から明らかである。
【0011】
免疫原は、少なくとも1種のアジュバント及び/又は、病原体、たとえば腸毒素原性大腸菌(ETEC)に対して免疫応答を誘発できる、1又は2種以上の抗原から構成される。アジュバントは、ADP−リボシル化エキソトキシン(たとえば大腸菌熱不安定性エンテロトキシン、コレラトキシン、ジフテリアトキシン、百日咳トキシン)又はアジュバント活性を有するそれらの誘導体であり、抗原は細菌トキシン(たとえば熱不安定性又は熱安定性エンテロトキシン)又はコロニゼーションもしくはビルレンス因子(たとえば、CFA/I,CS1,CS2,CS3,CS4,CS5,CS6,CS17,PCF 0166)又は免疫原活性を有するペプチドフラグメントもしくはその抱合体から誘導することができる。免疫原及びパッチからなるサブユニット又は全細胞ワクチンも前述の製品の製造方法及び免疫感作のためのそれらの使用に従って提供される。病原体に関連する分子(たとえば、トキシン、膜タンパク質)に特異的な免疫応答は、様々な経路(たとえば腸内、粘膜、経皮)によって誘導される。治療できる他の興味ある旅行者疾患には、キャンピロバクテリア症(Campylobacter jejuni)、ジアルジア症(Giardia intestinalis)、肝炎(A及びB型肝炎ウイルス)、マラリア(Plasmodium falciparum)、P.vivax,P.ovale及びP.malariae)、細菌性赤痢(Shigella boydii,S.dysenteriae,S.flexneri及びS.sonnei)、ウイルス性胃腸炎(ロタウイルス)、及びそれらの合併症が包含される。有効性は臨床的又は実験室的基準により評価することができる。防御は代替マーカーを用いて、又は直接、コントロール試験により評価される。本技術分野の熟練者には、本発明の更なる態様が以下の詳細な説明及び請求の範囲ならびにその普遍化から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】アジュバントと混合した抗原(LT+CS6)又は抗原単独(CS6)で免疫感作したヒトボランティア中、LT(A及びB)及びCS6(C及びD)に対する抗体力価における個々のIgG及びIgAピークの上昇倍率。横のバーは抗体力価における平均上昇倍率を表す。
【図2】経皮経路を用いて免疫感作及びブースター(矢印)されたボランティア中での抗−LT(A及びB)及び抗−CS6(C及びD)IgA及びIgG抗体応答のキネティクス。円は最初の免疫感作後その日までの幾何平均力価を、バーは相当する95%信頼区間を表示する。ブースター免疫感作間の抗体力価応答を比較する。p<0.05,**p<0.01,***p<0.001,NS有意差なし、Wilcoxonの順位和検定。
【図3】アジュバントと混合した抗原を用いた免疫感作に対するレスポンダー間で、ピーク値に達する前の免疫感作による10PBMCあたり抗−LT(A及びB)及び抗−CS6(C及びD)ASCの個々のピーク数。
【図4】LTR192Gアジュバントを使用し又は使用しないで、CS3及びCS6でのTCIに対する血清IgG応答。マウスは、尾の基部の背側表面をワクチン接種の48時間前に剃毛した。剃毛した皮膚を10%グリセロール及び70%イソプロピルアルコールでの水和により前処置し、テープを10回剥離して角質層を破壊した。ガーゼのパッチを接着性バッキングに固着し、25μL容量の25μg CS6又は25μg CS6とLTR192G10μgを負荷した。準備した皮膚にパッチを適用し、その場に約18時間置いた。1群のマウスに25μLのCS6(25μg)を尾の基部に皮内注射した。すべてのマウスは、日0,14及び28にワクチン接種を受けた。第三のワクチン投与後14日目(日42)に血清サンプルを収集した。パネルは、CS3に対する血清IgG力価(A)、CS6に対する血清IgG力価(B)及びLTR192Gに対する力価(C)を示す。
【図5】2価及び3価のETECサブユニットワクチンによるTCIに対する血清IgG応答。尾の基部のワクチン接種部位は図4に記載の操作を用い準備した。接着性バッキングに固着したガーゼパッチに、以下の混合物からなる25μL容量を負荷した:25μg CS3と10μg LTR192G;25μg CS3、25μg CS6と10μg LTR192G。準備した皮膚にパッチを適用し、その場に約18時間置いた。すべてのマウスは、日0及び14に経皮的にワクチン接種を受けた。第二の免疫感作後10日目(日24)に血清サンプルを収集した。パネルは、CS3に対する血清IgG力価(A)及びCS6に対する血清IgG力価(B)を示す。
【図6】CS3,CS6及びLTR192G多価ワクチンを用いたTCIに対する血清IgG応答。尾の基部のワクチン接種部位は、図4に記載の操作によって準備した。接着性バッキングに固着したガーゼパッチに以下の混合物からなる25μL容量を負荷した:25μg CS3;25μg CS6;各25μgのCS3とCS6;各25μgのCS3とCS6及び10μgのLTR192G。前処置した皮膚にパッチを適用し、その場に約18時間置いた。すべてのマウスは日0及び14の2回経皮ワクチン接種を受けた。第二の免疫感作後10日目(日24)に血清サンプルを収集した。パネルは、CS3に対する血清IgG力価(A)及びCS6に対する血清IgG力価(B)を示す。
【図7】CS3とCS6の間における交叉反応性の欠如。尾の基部の部位は図4に記載の操作によって準備した。接着性バッキングに固着したガーゼパッチに以下の混合物からなる25μL容量を負荷した:25μg CS3と10μgのLTR192G(パネルA及びB)及び25μgのCS6と10μgのLTR192G(パネルC及びD)。パッチは一夜(約18時間)適用した。すべてのマウスは日0及び14の2回の経皮ワクチン接種を受けた。第二の免疫後10日目(日24)に血清サンプルを収集した。CS3に対する血清IgG力価(パネルA及びC)及びCS6に対する血清IgG力価(B及びD)を測定した。
【図8】LTR192Gを使用し又は使用しないで、CS3での経皮的ワクチン接種によって誘発した血清IgGサブクラス。マウスは、尾の基部の背側表面をワクチン接種の48時間前に剃毛した。剃毛した皮膚を10%グリセロール及び70%イソプロピルアルコールでの水和により前処置した。水和した皮膚をついで、紙やすりで穏やかに10回研摩した。ガーゼのパッチを接着性バッキングに固着し、25μLの以下の混合物:25μg CS3又は25μg CS6をLTR192G10μgと、又はLTR192Gを使用しないで負荷した。パッチを一夜(約18時間)適用した。すべてのマウスは日0,14及び28に経皮的ワクチン接種を3回受けた。第三のワクチン投与後30日目(日58)に血清サンプルを収集した。パネルは、CS3に対する総血清IgG力価(A)、CS3に対する血清IgG1サブクラス(B)及びCS3に対する血清IgG2aサブクラス(C)を示す。
【図9】LTR192Gを使用し又は使用しないで、CS6でのTCIによって誘発した血清IgGサブクラス。マウスは、尾の基部の背側表面をワクチン接種の48時間前に剃毛した。剃毛した皮膚を10%グリセロール及び70%イソプロピルアルコールでの水和により前処置した。水和した皮膚をついで、紙やすりで穏やかに10回研摩した。ガーゼのパッチを接着性バッキングに固着し、25μLの以下の混合物:25μg CS6又は25μg CS3をLTR192G10μgと、又はLTR192Gを使用しないで負荷した。パッチを一夜(約18時間)適用した。すべてのマウスは日0,14及び28に経皮的ワクチン接種を3回受けた。第三のワクチン投与後30日目(日58)に血清サンプルを収集した。パネルは、CS6に対する総血清IgG力価(A)、CS6に対する血清IgG1サブクラス(B)及びCS6に対する血清IgG2aサブクラス(C)を示す。
【図10】LTR192GのTCIで誘発された血清IgGサブクラス。マウスは尾の基部の背側表面をワクチン接種の48時間前に剃毛した。剃毛した皮膚を10%グリセロール及び70%イソプロピルアルコールでの水和により前処置した。水和した皮膚をついで、紙やすりで穏やかに10回研摩した。ガーゼのパッチを接着性バッキングに固着し、25μLのLTR192G 10μgを負荷した。パッチを一夜(約18時間)適用した。すべてのマウスは日0,14及び28に経皮的にワクチン接種を3回受けた。第三のワクチン投与後30日目(日58)に血清サンプルを収集した。パネルは、LTR192Gに対する総血清IgG力価(A)、LTR192Gに対する血清IgG1サブクラス(B)及びLTR192Gに対する血清IgG2aサブクラス(C)を示す。
【図11】C3又はCS6と共投与されたLTR192Gにより誘発される血清IgGサブクラス。マウスは尾の基部の背側表面をワクチン接種の48時間前に剃毛した。剃毛した皮膚を10%グリセロール及び70%イソプロピルアルコールでの水和により前処置した。水和された皮膚をついで紙やすりで穏やかに10回研摩した。ガーゼのパッチを接着性バッキングに固着し、25μLの以下の混合物:25μgのCS3と10μgのLTR192G及び25μgのCS6と10μgのLTR192Gを負荷した。パッチを一夜(約18時間)適用した。すべてのマウスは日0,14及び28に経皮的ワクチンを3回受けた。第三のワクチン接種後30日目(日58)に血清サンプルを収集した。パネルはLTR192Gに対する総血清IgG力価(A)、LTR192Gに対する血清IgG1サブクラス(B)及びLTR192Gに対する血清IgG2aサブクラス(C)を示す。
【図12】TCI後のCS3特異的糞便IgA(上部パネル)及びIgG(下部パネル)の検出。マウスは尾の基部の背側表面をワクチン接種の48時間前に剃毛した。剃毛した皮膚を10%グリセロール及び70%イソプロピルアルコールでの水和により前処置した。次に、水和した皮膚でテープを10回剥離した。ガーゼのパッチを接着性バッキングに固着し、25μLの以下の混合物:リン酸緩衝食塩溶液(パネルA及びE);25μgのCS3(パネルB及びF)及び25μgの CS3と10μgのLTR192G(パネルC及びG)を負荷した。パッチを一夜(約18時間)適用した。1群のマウスを、25μgの CS3の皮内注射(ID)によりワクチン接種した(パネルD及びH)。すべてのマウスは3回、日0,14及び28にワクチン接種を受けた。第三の免疫感作から1週後(日35)に、糞サンプルを収集した。サンプルを処理し、CS3に対する糞便IgA(パネルA〜D)及びIgG(パネルE〜H)を評価した。
【図13】TCI後のCS6特異的糞便IgA(上部パネル)及びIgG(下部パネル)の検出。マウスは尾の基部の背側表面をワクチン接種の48時間前に剃毛した。剃毛した皮膚を10%グリセロール及び70%イソプロピルアルコールでの水和により前処置した。次に、水和した皮膚でテープを10回剥離した。ガーゼのパッチを接着性バッキングに固着し、25μLの以下の混合物:リン酸緩衝食塩溶液(パネルA及びE);25μgのCS6(パネルB及びF)及び25μgのCS6と10μgのLTR192G(パネルC及びG)を負荷した。パッチを一夜(約18時間)適用した。1群のマウスを、25μgのCS6の皮内注射(ID)によりワクチン接種した(パネルD及びH)。すべてのマウスは3回、日0,14及び28にワクチン接種を受けた。第三の免疫感作から1週後(日35)に、糞便サンプルを収集した。サンプルを処理し、CS6に対する糞中IgA(パネルA〜D)及びIgG(パネルE〜H)を評価した。
【図14】TCI後のLTR192G特異的糞便IgA(上部パネル)及びIgG(下部パネル)の検出。マウスは尾の基部の背側表面をワクチン接種の48時間前に剃毛した。剃毛した皮膚を10%グリセロール及び70%イソプロピルアルコールでの水和により前処置した。次に、水和した皮膚で、テープを10回剥離した。ガーゼのパッチを接着性バッキングに固着し、25μLの以下の混合物:リン酸緩衝食塩溶液(パネルA及びE);10μgのLTR192G(パネルB及びF);25μgのCS3と10μgのLTR192G(パネルC及びG)及び25μgのCS6と10μgのLTR192G(パネルD及びH)を負荷した。パッチを一夜(約18時間)適用した。すべてのマウスは3回、日0,14及び28にワクチン接種を受けた。第三の免疫感作から1週後(日35)に糞便サンプルを収集した。サンプルを処理し、LTR192Gに対する糞便IgA(パネルA〜D)及びIgG(パネルE〜H)を評価した。
【図15】1価及び2価ETECサブユニットワクチンで経皮的にワクチン接種したマウスの脾臓における、CS3,CS6及びLTR192G特異的抗体分泌細胞(ASC)の検出。マウスは尾の基部の背側表面をワクチン接種の48時間前に剃毛した。剃毛した皮膚を10%グリセロール及び70%イソプロピルアルコールでの水和により前処置した。次に、水和した皮膚でテープを10回剥離した。ガーゼのパッチを接着性バッキングに固着し、25μLの以下の混合物:リン酸緩衝食塩溶液(ビヒクル);25μgのCS3;25μgのCS6;25μgのCS3と10μgのLTR192G;及び25μgのCS6と10μgのLTR192Gを負荷した。パッチを一夜(約18時間)適用した。さらにマウスの群を25μgのCS3又はCS6を尾の基部に皮内注射(ID)してワクチン接種した。すべてのマウスは3回、日0,14及び28にワクチン接種を受けた。第三の免疫感作後30日目(日58)に脾臓を収穫した。パネルはCS3−特異的IgA−ASC(A)及びIgG−ASC(B);CS6−特異的IgA−ASC(C)及びIgG−ASC(D);ならびにLTR192G−特異的IgA−ASC(A及びC)及びIgG−ASC(B及びD)を示す。
【図16】3価のETECサブユニットワクチンで経皮的にワクチン接種したマウスの脾臓における、CS3,CS6及びLTR192G特異的抗体分泌細胞(ASC)の検出。マウスは尾の基部の背側表面をワクチン接種の48時間前に剃毛した。剃毛した皮膚を10%グリセロール及び70%イソプロピルアルコールでの水和により前処置した。次に、水和した皮膚でテープを10回剥離した。ガーゼのパッチを接着性バッキングに固着し、25μLの以下の処方物:25μgCS3/25μgCS6/10μgのLTR192Gを負荷した。パッチを一夜(約18時間)適用した。マウスは3回、日0,14及び28にワクチン接種した。第三の免疫感作後30日目(日58)に脾臓を収穫した。パネルはCS3,CS6及びLTR192G特異的IgA−ASC(A)、ならびにCS3,CS6及びLTR192G特異的IgG−ASC(B)を示す。
【図17】1価及び2価のETECサブユニットワクチンで経皮的にワクチン接種したマウスの鼠径リンパ節における、CS3,CS6及びLTR192G特異的抗体分泌細胞(ASC)の検出。マウスは尾の基部の背側表面をワクチン接種の48時間前に剃毛した。剃毛した皮膚を10%グリセロール及び70%イソプロピルアルコールでの水和により前処置した。次に、水和した皮膚でテープを10回剥離した。ガーゼのパッチを接着性バッキングに固着し、25μLの以下の混合物:リン酸緩衝食塩溶液(ビヒクル);25μgのCS3;25μgのCS6;25μgのCS3と10μgのLTR192G;及び25μgのCS6と10μgのLTR192Gを負荷した。パッチを一夜(約18時間)適用した。さらに別個のマウス群には、尾の基部に25μgのCS3又はCS6を皮内注射(ID)してワクチン接種した。すべてのマウスは3回、日0,14及び28にワクチン接種した。第三の免疫感作後30日目(日58)に鼠径リンパ節を収集した。パネルはCS3−特異的IgG−ASC(A),CS6−特異的IgG−ASC(B)及びLTR192G−特異的IgG−ASC(A及びB)を示す。
【図18】3価のETECサブユニットワクチンで経皮的にワクチン接種したマウスの鼠径リンパ節における、CS3,CS6及びLTR192G特異的抗体分泌細胞(IgG−ASC)の検出。マウスは尾、の基部の背側表面をワクチン接種の48時間前に剃毛した。剃毛した皮膚を10%グリセロール及び70%イソプロピルアルコールでの水和により前処置した。次に、水和した皮膚でテープを10回剥離した。ガーゼのパッチを接着性バッキングに固着し、25μgのCS3,25μgのCS6,及び10μgのLTR192Gからなる混合物25μLを負荷した。パッチを一夜(約18時間)適用した。すべてのマウスは3回、日0,14及び28にワクチン接種した。第三の免疫感作後30日目(日58)に鼠径リンパ節を収集した。
【図19】LTR192Gアジュバントを使用し又は使用しないでCFA/IでのTCIに対する血清IgG応答。マウスは尾の基部の背側表面をワクチン接種の48時間前に剃毛した。剃毛した皮膚を10%グリセロール及び70%イソプロピルアルコールでの水和により前処置し、紙やすりで穏やかに5回研摩して角質層を破壊した。ガーゼのパッチを接着性バッキングに固着し、25μL容量の25μgのCFA/I及び25μgのCFA/Iと10μgのLTR192Gを負荷した。パッチを準備した皮膚に適用し、約18時間置いた。別個のマウスの群に、25μLのCFA/I(25μg)を尾の基部に皮内注射した。すべてのマウスは日0及び14にワクチン接種を受けた。第二の免疫感作後10日目(日24)に血清サンプルを収集した。パネルはCFA/Iに対する血清IgG力価(A)及びLTR192Gに対する血清IgG力価(B)を示す。
【図20】TCI後、CFA/I特異的な糞便IgA(上方パネル)及びIgG(下方パネル)の検出。マウスは尾の基部の背側表面をワクチン接種の48時間前に剃毛した。剃毛した皮膚を10%グリセロール及び70%イソプロピルアルコールでの水和により前処置した。ついで、水和した皮膚を紙やすりで穏やかに5回研摩した。ガーゼのパッチを接着性バッキングに固着し、25μL容量の以下の混合物:リン酸緩衝食塩溶液(パネルA及びE);25μgのCFA/I(パネルB及びF);及び25μgのCFA/Iと10μgのLTR192G(パネルC及びG)を負荷した。パッチを一夜(約18時間)適用した。1群の別個のマウスには、25μgのCFA/I(パネルD及びH)を皮内注射(ID)によりワクチン接種した。すべてのマウスは、3回、日0,14及び28にワクチンを投与された。第三の免疫感作2週後(日42)に糞便サンプルを収集した。サンプルを処理し、CFA/Iに対する糞便IgA(パネルA〜D)及びIgG(E〜H)を評価した。
【図21】3価のETECサブユニットワクチンでのTCIに対する血清IgG応答。マウスは尾の基部の背側表面をワクチン接種する48時間前に剃毛した。剃毛した皮膚を10%グリセロール及び70%イソプロピルアルコールでの水和により前処置した。次に、水和した皮膚を紙やすりで穏やかに5回研摩した。ガーゼのパッチを接着性バッキングに固着し、25μgのCFA/I,25μgのCS3,25μgのCS6及び10μgのLTR192Gからなる混合物を負荷した。準備した皮膚にパッチを適用し、その場に約18時間置いた。すべてのマウスは日0及び14にワクチンを経皮的に接種された。第二の免疫感作後10日目(日24)に血清を収集した。
【図22】4価のETECワクチンによるTCI後における、コロニゼーション因子抗原に対する糞便IgA(上部パネル)及びIgG(下部パネル)抗体の検出。マウスは尾の基部の背側表面をワクチン接種の48時間前に剃毛した。剃毛した皮膚を10%グリセロール及び70%イソプロピルアルコールでの水和により前処置した。次に、水和した皮膚を紙やすりで穏やかに研摩した。ガーゼのパッチを接着性バッキングに固着し、4価のワクチン:25μgのCFA/I,25μgのCS3,25μgのCS6及び10μgのLTR192Gを負荷した。パッチを一夜(約18時間)適用した。すべてのマウスは3回、日0,14及び28にワクチン接種を受けた。第三の免疫感作から2週後(日42)に糞サンプルを収集した。サンプルを処理し、CFA/I(A),CS3(B)及びCS6(C)に対する糞中IgAを評価した。処理したサンプルはCFA/I(D),CS3(E)及びCS6(F)に対する糞中IgGも評価した。
【図23】4価のETECワクチンによるTCI後における、LTR192Gに対する糞便IgA(上部パネル)及びIgG(下部パネル)抗体の検出。マウスは尾の基部の背側表面をワクチン接種の48間前に剃毛した。剃毛した皮膚を水和により前処置し、図18に記載のように研摩した。ガーゼのパッチを接着性バッキングに固着し、ついで以下のもの:10μgのLTR192G(mLT);25μgのCFA/I及びLTR192G;又は25μgのCFA/I,25μgのCS3,25μgのCS6及び10μgのLTR192Gを負荷した。パッチを一夜(約18時間)適用した。すべてのマウスは日0,14及び28に3回ワクチン接種を受けた。第三の免疫感作から1週後(日35)に糞サンプルを収集した。サンプルを処理し、LTR192Gに対する糞中IgA(パネルA〜C)及びLTR192Gに対する糞中IgG(D〜F)を評価した。
【図24】CS3及びLTR192Gサブユニットワクチンによる経皮的ワクチン接種はCS3発現ETEC全細胞を認識する血清抗体を誘発する。マウスは尾の基部を標準操作によって剃毛した。パッチの適用直前に、剃毛した皮膚でテープを10回剥離した。接着性バッキングに固着したガーゼのパッチに、適用直前に25μgのCS3及び10μgのLTR192Gを負荷した。パッチは約18時間適用した。1群10匹のマウスに2回、日0及び14にパッチを適用した。第二の免疫感作から10日後(日24)に血清サンプルを収集した。血清について、CS3,LTR192G及びETEC全細胞(E243778)に対する抗体を評価した。
【図25】死滅腸毒素原性大腸菌全細胞(EWC)による経皮的ワクチン接種。EWCは細菌培養液中でETEC(株E243778)を培養して調製した。細胞を遠心分離によって収穫し、一夜2.5%のホルマリンで固定して(室温)不活性化した。不活性化された、死滅全細胞をリン酸緩衝食塩溶液で洗浄してホルマリンを除去した。免疫感作の前にマウスは尾の基部を剃毛した。パッチの適用直前に剃毛した皮膚でテープを10回剥離した。接着性バッキングに固着したガーゼのパッチに、10EWC及び10μgのLTR192Gを負荷した。1群10匹のマウスを日0及び14に経皮的にワクチン接種した。第二の免疫感作から10日後に血清を収集した。血清を、材料と方法の項に記載のELISA法を用いて、EWC及びLTR192Gに対する抗体について評価した。図22における結果は、死滅した細菌全細胞による経皮的ワクチン接種が全細胞及びLTR192Gアジュバントを認識する抗体を誘発したことを示している。これらの結果により、死滅ETEC細菌はアジュバントとともに皮膚に適用することが可能で、特異的な免疫を誘発できることが証明される。これは、TCIがサブユニットワクチンとして、また死滅全細胞ワクチンの送達に適用可能であることを初めて証明するものであり、これらの結果は、この点において有意義である。
【図26】多重のコロニゼーション因子及び2つのエンテロトキシン、LT及びSTから構成される多価ETECワクチンによる経皮的ワクチン接種。マウスは尾の基部の背側表面をワクチン接種の48時間前に剃毛した。剃毛した皮膚を10%グリセロール及び70%イソプロピルアルコールでの水和により前処置し、テープを10回剥離して角質層を破壊した。ガーゼのパッチを接着性バッキングに固着し、25μL容量の25μg CS3/25μg CS6;25μg CS3/25μg CS6/10μg LTR192G及び25μg CS3/25μg CS6/10μg LTR192G/8μg STaを負荷した。準備した皮膚にパッチを適用し、そこに約18時間置いた。すべてのマウスは日0,14及び28にワクチン接種を受けた。第二ワクチンの投与から14日後(日42)に血清サンプルを収集した。パネルはCS3に対する血清IgG力価(A)及びCS6に対する血清IgG力価(B)を示す。
【図27】湿潤及び乾燥パッチ処方はTCI用製品の製造に適している。これらの研究においては、様々な液体及びパッチ処方物の調製例としてLTを用いた。略述すれば、LTをリン酸緩衝食塩溶液及び5%ラクトース中に製剤化し、LTを接着剤(Klucel)とブレンドし、閉塞性のバッキング上に薄いフィルムとして広げ、室温で風乾した。LT溶液はガーゼパッチに直接適用し、使用前に風乾し、LT溶液をガーゼパッチに適用して、完全に水和されたパッチとして投与した。液体LT製剤を受けるマウスの場合は、10μgのLTを皮膚に直接適用し(被覆するガーゼを使用し、又は使用しないで)、ついで濯いだ。パッチを投与されるマウスについては様々なパッチ処方を約24時間適用したのち除去した。皮膚を10%グリセロール及び70%イソプロピルアルコールで水和し、ついで軽石を含む綿棒(PDI/NicePak)で穏やかに角質層を破壊研摩した。すべてのマウスは日0及び14に2回10μgに相当するワクチン接種を受けた(面積〜1cm)。2週後(日28)に血清サンプルを収集し、血清のLTに対する血清抗体を評価した。水性溶液、接着剤中タンパク質を含み、風乾し、完全に水和したパッチ処方がETEC抗原の経皮的送達に適当である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の特異的実施態様の説明
動物及びヒトに免疫応答(たとえば、抗原に特異的な体液性及び/又は細胞性エフェクター)を誘導する、経皮免疫感作(TCI)のためのシステムが提供される。この送達システムは、1又は2種以上のアジュバント、抗原、及び/又はポリヌクレオチド(アジュバント及び/又は抗原をコードする)からなる処方の、動物又はヒト対象への簡単な上皮適用を提供する。これにより、化学的及び/又は物理的な浸透増強の補助を使用し、又は使用しないで1又は2種以上の病原体たとえば毒素原性大腸菌(ETEC)に対して抗原特異的な免疫応答が誘発される。処方の少なくとも1種の成分(すなわち、抗原又はアジュバント)は、処方の投与に先立ち乾燥形態で及び/又はパッチの部分として提供され得る。このシステムは慣用の腸内、粘膜、又は非経口的免疫技術と組み合わせて使用することもできる。
【0014】
アジュバント、抗原、及び抗原提示細胞(APC)の1又は2以上の活性化が免疫応答の促進を補助し得る。APCは抗原を処理して、1又は2種以上のエピトープをリンパ球に提示する。活性化は処方物とAPC(たとえばランゲルハンス細胞、他の樹状細胞、マクロファージ、Bリンパ球)の間の接触、処方物のAPCによる取り込み、APCによる抗原のプロセッシング及び/又はエピトープの提示、APCの移動及び/又は分化、APCとリンパ球の間の相互作用又はそれらの組み合わせを促進する。アジュバントはそれ自体、APCを活性化する。たとえば、ケモカインは抗原提示細胞を所定の部位に補給し、活性化する。とくに抗原提示細胞は皮膚からリンパ節に移動してリンパ球に抗原を提示し、それにより抗原特異的免疫応答を誘発する。さらに処方物は、抗原を認識するリンパ球と直接接触し、抗原特異的免疫応答を誘発する。
【0015】
抗体及び細胞毒性Tリンパ球(CTL)を包含する抗原特異的B−細胞及び/又はT−細胞集団の活性化及び/又は増殖につながる免疫応答の誘発に加えて、本発明は、免疫システムの1又は2以上の成分を、抗原特異的ヘルパー(Th1及び/又はTh2)又は遅延型過敏性T−細胞サブセット(TDTH)に影響する経皮免疫を使用して、陽性に及び/又は陰性に調整することができる。これは、異なるT−ヘルパー応答を生じることができるコレラトキシン及び大腸菌熱不安定性エンテロトキシンの異なる挙動によって例示することができる。本発明によって誘導される望ましい免疫応答は、好ましくは全身性又は局部的(例えば、粘膜の)であるが、通常、望ましくない免疫応答である(たとえば、アトピー、皮膚炎、湿疹、乾癬、又は他のアレルギー性もしくは過敏性反応)。本明細書に記載のように誘発された免疫応答は感染疾患の処置に有用な治療的又は予防的免疫応答を提供する量的及び質的応答である。
【0016】
TCIは皮膚透過を用い又は用いないで実施される。たとえば、化学的又は物理的透過増強技術は皮膚層を通して穿孔しない限り使用される。処方の適用前、適用の間、又は適用直後における無傷の皮膚の水和が好ましく、一部又は多くの例でこれが要求される。たとえば、水和は皮膚の最上層(たとえば、透過増強技術により露出された角質層又は表面表皮層)における水分含量を25%,50%又は75%以上に増加させる。
【0017】
皮膚は、水和物又は化学的透過物質を含有するアプリケーター(たとえば、パッド又はスティック上の吸収物質)で拭うか、あるいはそれらを皮膚に直接適用する。たとえば、水性溶液(たとえば水、食塩水、他の緩衝液)、アセトン、アルコール(たとえば、イソプロピルアルコール)、洗剤(たとえば、ドデシル硫酸ナトリウム)、脱毛剤又は角質溶解剤(たとえば、水酸化カルシウム、サリチル酸、尿素)、保湿剤(たとえば、グリセロール、他のグルコール)、ポリマー(たとえば、ポリエチレン又はプロピレングリコール、ポリビニルピロリドン)、又はそれらの組み合わせを使用するか、又は処方中に導入する。同様に、皮膚の研摩(たとえば、やすり板もしくは紙、サンドペーパー、繊維パッド、軽石)、皮膚の表面層の除去(たとえば、接着テープを貼って、剥がす)、エネルギー源(たとえば、熱、光、音、電気、磁気)を用いる皮膚のマイクロポレーション又は障壁破壊デバイス(ガン、微小針)、又はそれらの組み合わせは、物理学的透過エンハンサーとして作用する。皮膚のマイクロポレーションについてはWO98/29134を、微小針については米国特許6,090,790、及び経皮ワクチン接種に適用できる経皮ガンについては米国特許WO6,168,587を参照されたい。TCIに化学的又は物理学的透過増強を組み合わせる目的は、真皮の層まで皮膚を穿孔することなく、少なくとも角質層又はさらに深い表皮層を除去することである。これは好ましくは、ヒト又は動物対象に与える不快感はきわめて僅かで、その部位に出血を生じることもなく達成される。たとえば、無傷の皮膚への処方の適用は、角質層又は表皮下の皮膚の層を穿孔する熱、光、音波又は電磁エネルギーを含まない。
【0018】
ワクチン接種に有用な処方はまた、それらの製造方法とともに提供される。処方は乾燥又は液体型である。乾燥処方の方が慣用のワクチンより保存及び輸送が容易であり、ワクチンの製造場所からワクチン接種が行われる場所まで要求されるコールドチェーンを止めさせることができる。特定の作用機構に限定されることなく、乾燥処方が液体処方に勝る改良となる他の方法は、処方の高濃度の乾燥活性成分(たとえば1又は2種以上のアジュバント及び/又は抗原)の免疫感作部位における直接可溶化によって短いタイムスパンで達成される。皮膚からの湿気(たとえば発汗)及び閉塞性の包帯はこの過程を促進する。この方法で、活性成分の溶解限界に近い濃度がインシチュで達成される。別法として、処方自体の乾燥した活性成分が、抗原提示細胞によって取り込ませ、処理させる固体粒子型を提供することによる改良であってもよい。これらの可能な機構は本発明の範囲又は均等物を制限せずに論じられ、本発明の操作への洞察を提供し、ならびに免疫感作及びワクチン接種におけるこの処方の使用を導く。
【0019】
処方は液体、クリーム、エマルジョン、ゲル、ローション、軟膏、ペースト、懸濁液又は他の液体の形態として提供される。乾燥処方は様々な形態で、たとえば微粉末又は顆粒末、均一なフィルム、ペレット及び錠剤として提供される。処方は溶解させ、ついで容器中又は平坦な表面(たとえば皮膚)上で乾燥させるか、又は単純に平坦な表面上に散布する。乾燥は風乾、高温での乾燥、凍結又はスプレー乾燥、固体基板上へのコーティング又はスプレー及びそれにつぐ乾燥、固体基板上への散布、迅速な凍結、ついで真空下における緩徐な乾燥又はそれらの組み合わせで行うことができる。様々な分子が処方の活性成分である場合には、それらを溶液中で混合しついで乾燥してもまた乾燥型のみで混合してもよい。パッチのコンパートメント又はチャンバーは、ただ1種の抗原又はアジュバントが投与前には乾燥状態に保持されるように、活性成分を分離するために使用される。この方法での液体及び固体の分離は、長時間にわたり少なくとも1種の乾燥活性成分の溶解速度をコントロールすることを可能にする。
【0020】
「パッチ」の語は固体サブストレート(たとえば、閉塞性又は非閉塞性外科用包帯)ならびに少なくとも1種の活性成分を包含する製品を意味する。液体をパッチ中に導入することもできる(すなわち、湿潤パッチ)。処方の1又は2種以上の活性成分は基体上に適用され、パッチの基体又は接着剤に導入されるか、又はそれらの組み合わせである。乾燥パッチには、処方を可溶化するための液体貯蔵部を使用しても、又は使用しなくてもよい。
【0021】
液体又は固体型の処方は、同一又は分離された場所に1又は2種以上のアジュバント及び/又は抗原の両者が、同時にもしくは多くの場合、反復して適用される。パッチには、コントロールされた放出貯蔵部又は速度調節マトリックスを包含することが可能で、アジュバント及び/又は抗原を段階的に放出することができる。それは、アジュバント及び/又は抗原を単一の貯蔵部に、又は個々の抗原及びアジュバントを別個に多重貯蔵部に含有させる。パッチには、パッチの適用が多重抗原に対する免疫応答を誘発するように、付加的な抗原を含有させてもよい。このような場合、抗原は同じ源から誘導しても異なる源から誘導してもよいが、異なる抗原に特異的な免疫応答を誘発するように異なる化学構造をもたせることになる。多重パッチは同時に適用することができ、単一のパッチが多重の貯蔵部を含有することもできる。効果的な処置のためには多重パッチがある間隔で、又はある期間にわたり一定に適用される。それらは異なる時間に、重複する期間に、又は同時に適用される。少なくとも1種のアジュバント及び/又はアジュバントは投与前には乾燥型に維持される。ついで貯蔵部からの液体の放出又は処方の乾燥成分を含有する貯蔵部への液体の侵入により、少なくとも部分的にその成分が溶解する。
【0022】
固体(たとえばナノメーター又はマイクロメーターの大きさの粒子)も処方中に導入し得る。固体剤形(ナノ粒子又はマイクロ粒子)は、活性成分の分散又は可溶化を補助し、処方の皮膚表層を通る運搬を助け、アジュバント、抗原又は両者に抗原提示細胞によってオプソニン化され得る基体への付着点を提供する。又はこれらの組み合わせが実行される。シート、ロッド又はビーズとして形成された多孔性固体からの処方の長期放出により、貯蔵としての役割が果たされる。
【0023】
処方は、生化学的薬剤又はワクチンのための適当な規制機関(たとえば、食品医薬局)に承認された無菌条件下に製造される。所望により、免疫学的には不活性ではあっても、乾燥剤、賦形剤、安定剤、湿潤剤、保存剤、接着剤、パッチ材料、又はそれらの組み合わせが処方中に包含される。しかしながら、それらは他の望ましい性質又は特性を示してもよい。
【0024】
投与に適当な単一又は単位用量の処方が提供される。単位用量中のアジュバント又は抗原の量は約0.001〜約10mgの広い範囲のいずれでもよい。この範囲は約0.1μg〜約1mgでもよい。狭い範囲では、約5μg〜約500μgである。他の適当な範囲は約1μg〜約10μg、約10μg〜約50μg、約50μg〜約200μg、約1mg〜約5mgである。トキシンについての好ましい用量は約50μg〜約100μg又はそれ未満である(たとえば、約1μg〜約50μg又は100μgである)。抗原とアジュバントの比は約1:1(たとえば、抗原及びアジュバントの両者である大腸菌熱不安定性エンテロトキシンの場合)であるが、さらに高い比も、貧弱な抗原の場合には適当である(たとえば約1:10又はそれ未満)、又はアジュバントに対して低い抗原の比(たとえば10:1又はそれ以上)も使用できる。LT及びETEC抗原の自然の比は全細胞又は溶解物の処方に使用される。
【0025】
アジュバント及び抗原又はポリヌクレオチドを含む処方は、ヒト又は動物対象に適用され、抗原は免疫細胞に提示され、抗原特異的な免疫応答が誘発される。これは、病原体による感染の前、感染の間又は感染後に行われる。抗原又は抗原をコードするポリヌクレオチドのみが必要であり、処方の免疫原性がアジュバント活性を要求しない程に充分な場合は付加的なアジュバントは加えない。処方の適用が多重抗原に対する免疫応答を誘発するような付加的な抗原を処方に包含させてもよい(即ち、多価(multivalent))。このような場合、抗原は同じ源から誘導しても、異なる源から誘導してもよいが、異なる抗原に対して特異的な免疫応答を誘発するように、抗原は化学的に異なる構造を有することになる。抗原特異的リンパ球が免疫応答に参加し、Bリンパ球による参加の場合、抗原特異的抗体は免疫応答の一部分である。上述の処方は、乾燥剤、賦形剤、保湿剤、安定化剤、保存剤、接着剤、及び本技術分野で周知のパッチ材料を包含する。
【0026】
本発明は、対象(たとえば、疾患の防止、感染の影響からの保護、現存の疾患又は症候群の治療、又はそれらの組み合わせの処置が必要なヒト又は動物)の処置に使用される。抗原が病原体から誘導される場合、処置により、対象は病原体による感染、又はたとえばトキシン分泌によって惹き起こされる病原性作用に対してワクチン接種される。本発明は、現存の疾患の治療的処置、疾患の保護的予防、疾患の重症度の低減及び/又は持続期間の短縮、疾患の症状の緩和、及びそれらの組み合わせに使用される。
【0027】
適用部位は抗炎症性コルチコステロイドたとえばヒドロコルチゾン、トリアムシノロン及びモメタゾン又は非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の保護により、可能性のある局所的皮膚反応を低下又は免疫応答の型を調節する。同様に、抗炎症性ステロイド又はNSAIDをパッチ材料、又は液体もしくは固体処方に包含させ、コルチコステロイド又はNSAIDを免疫感作後に適用する。IL−10,TNF−α又は他の免疫モデュレーターを抗炎症剤に代えて使用し得る。さらに、処方の単一又は多重の適用を使用し、2以上の排出リンパ節野上の皮膚に適用される。処方にはその適用が多重抗原に対する免疫応答を誘発するように付加的な抗原を包含させてもよい。このような場合、抗原は同じ源から誘導されても、異なる源から誘導されてもよいが、異なる抗原に特異的な免疫応答を誘発するように、異なる化学構造を有する。多重チャンバーを有するパッチは、各チャンバーが異なる抗原提示細胞をカバーするので、多価ワクチンのより効果的な送達を可能にした。すなわち、抗原提示細胞はただ1個の抗原に遭遇し(アジュバントは使用又は使用しない)、従って抗原の競合はなく、そのため多価ワクチン内のそれぞれの抗原に対する応答は増強される。
【0028】
処方は、皮膚に免疫応答を始動させ、ブースターするため表皮に、透過技術又は他の免疫感作経路と接合して適用される。単一又は多重適用の経皮的免疫感作(TCI)の始動に続いては、同じ又は別の抗原によるブースター免疫感作のため、腸、粘膜、非経口、及び/又は皮内投与技術が行われ得る。単一又は多重適用による腸、粘膜、非経口、及び/又は皮内免疫感作による始動に続いては、同じ又は別の抗原によるブースター免疫感作のための経皮的技術が行われ得る。TCIは慣用の局所的技術、たとえば粘膜又は皮内免疫感作とは、前者が皮膚には存在しない粘膜(即ち、肺、口腔、鼻、直腸)を必要とし、後者は真皮を通した皮膚の穿孔を必要とする点で著しく異なることを銘記すべきである。処方には、多重抗原に対する免疫応答を誘発するように皮膚に適用される付加的な抗原が包含され得る。
【0029】
抗原及びアジュバントに加えて、処方はビヒクルを含む。たとえば処方はAQUAPHOR,Frend,Ribi又はSyntex乳化液、油中水乳化液(たとえば、水性クリーム,ISA−720)、水中油乳化液(たとえば、オイルクリーム、ISA−51,MF59)、マイクロ乳化液、無水リピド及び水中油型乳化液、他のタイプの乳化液、ゲル、脂肪、ワックス、油脂、シリコン及び保湿剤(たとえばグリセロール)を含み得る。
【0030】
抗原は、ヒト又は動物対象に感染するいかなる病原体(たとえば、細菌、ウイルス、カビ又は原生動物)から誘導され得る。抗原の化学構造は1又は2以上の炭水化物、脂肪酸及びタンパク質(たとえば、グリコリピド、糖タンパク質、リポタンパク質)である。タンパク質性抗原が好ましい。抗原の分子量は500ダルトン、800ダルトン、1000ダルトン、10キロダルトン、100キロダルトン又は1000キロダルトン以上であり得る。化学又は物理学的透過増強は、細胞、ウイルス粒子及び1メガダルトン以上の巨大分子構造(たとえば、CS6抗原)に関して好ましいが、水和及び溶媒を含む綿棒による拭き取りなどの技法が皮膚を横切って免疫感作を誘発するのに十分である。抗原は組換え技術、化学合成又は天然の源から少なくとも部分的に精製して得られる。それは化学的又は組換え抱合体たとえば化学的反応基の間の連結又はタンパク質融合体である。抗原は生存細胞又はウイルス、緩和生存細胞又はウイルス、死滅細胞、又は不活性化ウイルスとして提供される。別法として、抗原は少なくとも部分的に精製された細胞フリーの型(たとえば、細胞又はウイルスの溶解物、膜又は他の細胞下フラクション)である。大部分のアジュバントはまた、免疫原性活性を有し、抗原とも考えられるので、アジュバントには抗原の上述の性質及び特性が期待される。
【0031】
アジュバントの選択は免疫応答の増強及び調節を可能にする。さらに、適当なアジュバントの選択は、体液性又は細胞性免疫応答、特異的抗体アイソタイプ(たとえば、IgM,IgD,IgA1,IgA2,IgE,IgG1,IgG2,IgG3及び/又はIgG4)、及び/又は特異的T−細胞サブセット(たとえばCTL,Th1,Th2及び/又はTDTH)を優失的に誘発する。アジュバントは好ましくは化学的に活性化(たとえば蛋白分解消化)又は遺伝子的に活性化(たとえば、融合、欠失又は点突然変異)されたADP−リボシル化エキソトキシン又はそのBサブユニットである。アジュバント、抗原又は両者は、任意によりアジュバント又は抗原を適宜コードするポリヌクレオチド(たとえばDNA,RNA,cDNA,cRNA)との処方として提供されてもよい。共有結合によって閉じられた環状DNAたとえばプラスミドは好ましいポリヌクレオチドの型であるが、線状の型も使用することができる。ポリヌクレオチドは、たとえば複製の起源、セントロメア、テロメア、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー、転写開始又は終結シグナル、スプライスアクセプター又はドナー部位、リボソーム結合部位、翻訳開始又は終結シグナル、ポリアデニル化シグナル、細胞局在シグナル、プロテアーゼ切断部位、ポリリンカー部位又はそれらの組み合わせが発現ベクター中に見出されている。
【0032】
「抗原」は、免疫感作又はワクチン接種後に、ヒト又は動物対象の免疫系によって特異的に認識される処方の活性成分である。抗原は、B−細胞によって認識される単一又は多重の免疫原性エピトープ(すなわち、分泌又は膜結合抗体)又はT−細胞受容体を含み得る。T−細胞受容体によって認識されるタンパク質性エピトープは、それらが抗原提示細胞上の主要組織適合性複合体(MHC)クラスI又はクラスII分子によって結合されているかどうかに依存して、典型的な長さ及び保存されたアミノ酸残基を有する。これに反して、抗体によって認識されるタンパク質性エピトープは、長さが変動する短い、延長されたオリゴペプチドと長いフォールディングされたポリペプチドを含む。エピトープ間の単一アミノ酸の差は区別し得る。抗原は病原体分子に対して免疫応答を誘発できる(たとえば、CS6抗原はETECのCS6分子に対して特異的免疫応答を誘発することができる)。すなわち、抗原は通常、病原体の特定の分子の化学構造と同一であるか少なくともそれから誘導されるが、このような化学構造に遠縁にすぎない模倣体が、成功裡に使用される。
【0033】
「アジュバント」は抗原に対する免疫応答の誘発を補助する、処方の活性成分である。アジュバント活性は、処方中にアジュバントそれ自体を包含させることにより、又は処方の他の成分と組み合わせることにより、あるいは特定の免疫感作技術によって、異種抗原(すなわちアジュバントとは別個の化学構造である抗原)に対する免疫応答を上昇させる能力である。上述のように、抗原とアジュバントの化学的抱合又は抗原とアジュバントコード領域の遺伝子的融合により抗原とアジュバントの両者を分子内に含有することができる。すなわち、処方はただ1種のみの活性成分又は成分を含有することもできる。
【0034】
「有効量」の語は、抗原特異的免疫応答を誘発するアジュバント又は抗原の量を記載する。「サブユニット」免疫原又はワクチンは、病原体の他の細胞性又はウイルス成分から、組換え技術、化学的合成、又は天然の源から少なくとも部分精製により単離された活性成分(たとえばアジュバント、抗原)からなる。
【0035】
免疫応答の誘発は、たとえば感染疾患の予防的又は治療的ワクチン接種のための処置を提供する。その存在下又は不存在下に免疫応答の大きさ及び/又はキネティクスにおける統計的に有意な変化;免疫系の誘発エレメント(たとえば、体液性対細胞性、Th1対Th2)における変化;対象の健康及び安寧に対する効果;又はそれらの組み合わせにを生じた場合、製品又は方法は「誘発する」。
【0036】
本発明において使用される「排出リンパ節野」の語は、その上で収集されたリンパが所定のリンパ節のセット(たとえば、頸部、補助、鼠径部、上顎、腺窩、それらの腹部及び胸郭)を通してろ過される、解剖学的領域を意味する。すなわち、同じ排出リンパ節野が、免疫感作の部位及び時間が、処方の異なる成分を一緒にもたらすように間隔を有する場合(たとえば、単独では有効に使用されない場合でも、アジュバント又は抗原を含む二つの接近配置パッチは有効となり得る)抗原提示細胞がリンパ節に移動するために必要な数日以内の免疫感作(たとえば、腸、粘膜、非経口、経皮、皮内)によって標的化され得る。たとえば、経皮技術によるアジュバンド送達パッチを、従来のワクチンと共に注射するのと同様に、同一の腕上に付して、高齢者、小児又は他の免疫的に、損われた者におけるその有効性をブースターすることができる。それに対し、異なる腕にパッチを貼り付けることにより、アジュバント含有パッチが抗原のみを含むパッチの有効性をブースターすることを防ぐことができる。
【0037】
本発明の操作においていかなる特定の理論にも拘泥するものではないが、本発明者らの観察の説明を提供すれば、この経皮的送達システムは、免疫応答が誘発される免疫系の細胞に抗原を運搬する。抗原は皮膚の正常に存在する保護外層(すなわち、角質層)を通過して直接、免疫応答を誘発するか、又は処理した抗原をリンパ球に提示する、上皮の抗原提示細胞集団(たとえば、マクロファージ、組織マクロファージ、ランゲルハンス細胞、他の樹状細胞、Bリンパ球、又はクッパー細胞)を介して免疫応答が誘発される。すなわち、透過増強技術を用い又は用いないで、皮下注射又は経皮的な技術では真皮は透過されない。所望により、抗原は毛包又は皮膚オルガネラ(たとえば、汗腺、皮下腺)を介して角質層を通過する場合がある。
【0038】
たとえば、細菌性ADP−リボシル化エキソトキシン(bARE)による経皮的免疫感作は、とくに最も効率的な抗原提示細胞(APC)として知られる上皮ランゲルハンス細胞を標的とする。APCの成熟は形態学的に、又は表現型(たとえばMHCクラスII分子、CD83又は共刺激分子の発現)によって評価される。本発明者らは無傷の皮膚の上皮に適用した場合、bAREがランゲルハンス細胞を活性化するように思われることを見出した。アジュバントたとえばトリプシン切断bAREはランゲルハンス細胞の活性化を増強し得る。ランゲルハンス細胞は抗原の貪食によって特異的免疫応答を指示し、APCとして抗原をリンパ球に提示するように働くようになるリンパ節に移動し、そこで強力な免疫応答を誘発する。一般に、皮膚は病原体に対する障壁と考えられているが、この障壁の不完全さが、皮膚を通して侵入する生物体に対する免疫応答を編成するように設計された、上皮にわたって分布する多数のランゲルハンス細胞により立証される。
【0039】
Udey,Clin.Exp.Immunol.107:s6−s8,1997によると:
「ランゲルハンス細胞は、哺乳動物の層をなす扁平上皮のすべてに存在する骨髄誘導細胞である。それらは、淡症を生じていない上皮に存する補助細胞の活性のすべてを有し、現時点における規範においては上皮に適用された抗原に向けられた免疫応答の開始及び増強に必須である。ランゲルハンス細胞は強力な補助細胞(樹状細胞)のファミリーであり広く分布するが、上皮及び固体臓器ならびにリンフォイド組織には滅多に現れない。
【0040】
今回、ランゲルハンス細胞(及び多分、他の樹状細胞)は少なくとも2つの異なるステージを含むライフサイクルを有することが認められた。上皮に存在するランゲルハンス細胞は、抗原捕獲「センチネル(sentinel)」細胞の規則的なネットワークを構築する。上皮のランゲルハンス細胞は微生物を包含する粒子を取り込み、効率的な複合抗原のプロセッサーである。しかしながら、それらは低レベルのMHCクラスI及びクラスII抗原及び共刺激分子(ICAM−1,B7−1及びB7−2)ならびにプライムされていない貧弱なT細胞のスティミュレーターしか発現しなかった。抗原との接触後、一部のランゲルハンス細胞が活性化され、上皮から離れ、局所性リンパ節のT−細胞依存性領域に移動し、そこでそれらは成熟樹状細胞として存在する。上皮を離れ、リンパ節に移動する過程で、抗原を有する上皮ランゲルハンス細胞(現時点では「メッセンジャー」)は形態、表面表現型及び機能に劇的な変化を生じる。上皮ランゲルハンス細胞とは対照的に、リンフォイド樹状細胞は本質的に非貪食細胞であり、タンパク質抗原を非効率的にプロセッシングするが、高レベルのMHCクラスI及びクラスII抗原ならびに様々の共刺激分子を発現し、同定された最も強力なナイーブT細胞のスティミュレーターである。」
【0041】
ランゲルハンス細胞の強力な抗原提示能力は経皮的に送達される免疫原及びワクチンの開発を可能にした。皮膚の免疫系を使用する免疫応答は処方を角質層(すなわち、角質化細胞及びリピドから構成される皮膚の最上層)内のランゲルハンス細胞にのみ送達させ、ついで、ランゲルハンス細胞を活性化して抗原を取り込ませ、B−細胞小胞及び/又はT−細胞依存性領域に移動させ、ついで抗原をB及び/又はTリンパ球に提示させることによって達成された。他の抗原bARE(たとえば、トキシン、コロニゼーション又はビルレンス因子)がランゲルハンス細胞に貪食されると、これらの抗原もリンパ節に輸送され、Tリンパ球に提示され、ついでその抗原に特異的な免疫応答が誘発される。すなわち、TCIの特徴は多分、bARE又はその誘導体、ケモカイン、サイトカイン、PAMP、又は接触センシタイザー及びアジュバントを誘導する他のランゲルハンス細胞活性化物質によるランゲルハンス細胞の活性化である。ランゲルハンス細胞の皮膚集団のサイズ又はそれらの活性化状態の上昇もまた、免疫応答を増強することが期待される(たとえば、アセトン前処置)。高齢者又は皮膚のランゲルハンス細胞が枯渇した(すなわち、UV傷害)対象では、ランゲルハンス細胞集団の再補給(たとえば、トレチノイン前処置)が可能である。
【0042】
アジュバントたとえばbAREは、注射又は全身的に投与された場合、高度な毒性を示すことは周知である。しかし、無傷の皮膚の表面(すなわち、表皮上)に置いた場合、全身的な毒性を誘導するとは考えられない。すなわち、経皮的な経路では、全身性の毒性はなく、アジュバント作用の利点の達成が可能である。同様の毒性の不在は、皮膚が角質層のすぐ下で(たとえば、上皮付近又は上皮上で)透過され、真皮を通さない場合に期待される。すなわち、皮膚を通して免疫系の活性化誘発能は、全身性の毒性はなく、強力な免疫応答という予期されなかった利点を付与する。
【0043】
親和性成熟及び優勢なIgG抗体へのアイソタイプスイッチングにより誘発される抗体応答の大きさは、一般にT−細胞の補助ならびにTh1及びTh2両者の経路の活性化によって達成され、IgG1及びIgG2aの産生によって示唆される。また、大きな抗体応答が胸腺独立性の抗原、1型(TI−1)によって誘発され、これは直接Bリンパ球を活性化し、又はMHCクラスII,B7,CD40,CD25及びICAM−1分子の上方調節のようなBリンパ球に対する類似の活性化作用を示す。
【0044】
一般的に知られている皮膚免疫応答のスペクトルはアトピー及び接触性皮膚炎によって代表される。ランゲルハンス細胞の活性化の病原性表出である接触性皮膚炎は、抗原を貪食し、リンパ節に移動し、抗原を提示し、皮膚に移動して冒された皮膚部位に強力な破壊的細胞応答を生じるTリンパ球を感作するランゲルハンス細胞によって指示される。このような応答が抗原特異的なIgG抗体を伴うことは一般には知られていない。アトピー性皮膚炎はランゲルハンス細胞を類似の方法で使用するが、Th2細胞で同定され、一般に高いレベルのIgEを伴う。
【0045】
一方、bAREによる経皮的免疫感作は有用かつ所望の免疫応答を提供する。通常、誘発された高いIgGレベルを与えるアトピー又は接触性皮膚炎の典型的な所見はない。皮膚の表皮に適用されたコレラトキシン又は大腸菌熱不安定性エンテロトキシンは、免疫感作後24,48及び120時間後リンパ球浸潤のない免疫感作を達成することができる。前臨床試験で認められたわずかな皮膚反応は容易に処置された。これは経皮免疫感作に従事するランゲルハンス細胞が、「炎症を生じていない上皮に存する補助細胞の活性のすべてを有し、現時点における規範においては上皮面に適用された抗原に向けられた免疫応答の開始及び増強に必須である」(Udey,1997)ことを示している。経皮的な免疫応答の独特さは、高レベルの抗原特異的IgG抗体及び産生される抗体のタイプ(たとえば、IgM,IgG1,IgG2a,IgG2b,IgG3及びIgA)及び一般に抗原特異的なIgE抗体の不存在の両者によって指示される。経皮的免疫感作は、もし、抗原提示細胞及びTリンパ球の十分な活性化がアトピー又は接触性皮膚炎と同時に存する経皮反答において起これば、皮膚の炎症と並んで生ずると想像できる。
【0046】
ランゲルハンス細胞の経皮的な標的化は、それらの抗原提示機能のすべて又は部分を脱活性化する物質を並んで用いて、免疫感作の修飾又は感作の防止が行われる。ランゲルハンスの活性化又は他の皮膚免疫細胞をモデュレートする技術には、たとえば抗炎症性ステロイド又は非ステロイド性薬剤(NSAID)、シクロスポリン、FK506、ラパマイシン、シクロホスファミド、グルココルチコイド、又は他の免疫抑制剤;インターロイキン−10、インターロイキン−1モノクローナル抗体(mAB)又は可溶性受容体アンタゴニスト(RA);インターロイキン−1変換酵素(ICE)インヒビター;又は超抗原を介する枯渇、たとえばStaphlococcalエンテロトキシンA(SEA)により誘発される表皮ランゲルハンス細胞の枯渇の使用が包含される。類似の化合物がランゲルハンス細胞の内部応答の修飾及び異なるT−ヘルパー応答(Th1又はTh2)の誘発のために使用され、また免疫感作の副作用の可能性を低下させるために皮膚の炎症反応応答をモデュレートさせる。同様に、免疫抑制剤を別個に又は処方を免疫抑制剤と共投与することによって、免疫感作の前、免疫感作の間又はその後に、リンパ球が免疫抑制される。たとえば、通常アレルギー又は刺激性の接触性過敏症を生じる物質を用いて、強力な全身性保護免疫応答を誘発することができが、ICのインヒビターの添加により悪い皮膚反応を緩和し得る。
【0047】
TCIは、CT,LT又はそれらのサブユニット(たとえば、CTB又はLTB)のガングリオシドGM1結合活性によって達成される。ガングリオシドGM1は哺乳動物細胞に見出される普遍的な細胞膜グリコリピドである。5量体のCTBサブユニットが細胞表面に結合した場合、親水性孔部が形成され、これがAサブユニットのリピド二重層を横切る挿入を可能にする。APC上の他の結合標的も使用される。LTBサブユニットはガングリオシドGM1、さらに他のガングリオシドに結合し、その結合活性はLTが皮膚上で高い免疫原性を示す事実を説明する。
【0048】
bARE又はBサブユニットを含有するフラグメント又はその抱合体を用いるTCIは、それらのGM1ガングリオシド結合活性を必要とする。マウスをCT,CTA及びCTBで経皮的に免疫感作した場合、免疫応答の誘発にはCT及びCTBが必要となった。CTAはADPリボシル化エキソトキシン活性を含有するが、結合活性を含有するCT及びCTBのみが免疫応答を誘発可能である。これは、Bサブユニットが皮膚を通じての免疫感作に必要かつ十分であることを指示している。本発明者らは、ランゲルハンス細胞又は他のAPCがその細胞表面へのCTBの結合によって活性化され、経皮的免疫応答を生じると結論した。
【0049】
抗原
経皮免疫感作システムは、物質を免疫応答を生じる分化した細胞(たとえば、抗原提示細胞、リンパ球)に送達する。これらの物質は抗原と呼ばれる。抗原はたとえば、炭水化物、グリコリピド、糖タンパク質、リピド、リポタンパク質、ホスホリピド、ポリペプチド、それらの抱合体、又は免疫応答を誘発することが知られている他の物質等の化学構造から構成される。抗原は全生物体、たとえば細菌又はビリオンとして提供されるか;抗原は抽出物又は溶解物から、全細胞又は膜単独のいずれかから得られるか;あるいは抗原は化学的に合成され、又は組換え技術により製造される。
【0050】
本発明の抗原は、組換え技術により、好ましくは、親和性又はエピトープタグを付した融合タンパク質として発現され得る;遊離又は担体タンパク質に抱合した化学合成オリゴペプチドが、本発明の抗原を得るために使用され得る。オリゴペプチドはポリペプチドの1タイプと考えられる。オリゴペプチドの長さは6残基〜20残基であることが好ましい。ポリペプチドも分岐構造として合成されてもよい(たとえば、米国特許5,229,490及び5,390,111)。抗原性ポリペプチドにはたとえば、合成又は組換えB−細胞及びT−細胞エピトープ、普遍的T−細胞エピトープ、及び1生物体又は疾患からの混合T−細胞エピトープ、及び他からのB−細胞エピトープが包含される。組換え技術又はペプチド合成によって得られた抗原ならびに天然の源又は抽出液から得られた抗原は、抗原の物理学的又は化学的特徴により、好ましくは分画化又はクロマトグラフィーによって精製することができる。組換え体はbAREのBサブユニット又はキメラと混合する。多重抗原処方は同時に2以上の抗原に対する免疫応答を誘発させるために用いられる。抱合体は多重抗原に対する免疫応答の誘発、免疫応答のブースター又は両者のために使用される。さらに、トキシンはトキソイドの使用によってブースターされ、又はトキソイドはトキシンの使用によりブースターされる。経皮的免疫感作は、初めに他の免疫感作経路、たとえば経口、経鼻、又は非経口経路によって誘発された応答をブースターするために使用される。抗原には、たとえば、トキシン、トキソイド、それらのサブユニット、又はそれらの組み合わせ(たとえば、コレラトキシン、破傷風トキソイド)が包含され、さらにトキシン、トキソイド、それらのサブユニット又はそれらの組み合わせが抗原及びアジュバントの両者として作用する。このような経口/経皮又は経皮/経口免疫感作は、とくに粘膜免疫が保護と相関している疾患における粘膜免疫の増強に重要である。
【0051】
抗原は、緩衝液又は水もしくは有機溶媒たとえばアルコール又はDMSOに溶解するか、又はゲル、乳化液、マイクロ乳化液及びクリーム中に導入することができる。適当な緩衝液には、それらに限定されるものではないが、Ca++Mg++フリーのリン酸緩衝食塩溶液、リン酸緩衝食塩溶液、正規(水中150mM NaCl)食塩溶液、及びHepes又はTris緩衝液が包含される。中性緩衝液に不溶の抗原は10mMの酢酸に溶解し、ついで中性の緩衝液たとえばPBSで所望の容量に希釈する。酸性のpHでのみ可溶の抗原の場合には、希釈酢酸中に溶解したのち希釈液として酸性pHにおける酢酸塩−PBSを使用する。グリセロールは本発明に用いられる非水性緩衝液として適当である。
【0052】
疎水性抗原、たとえば膜をまたぐドメインを含有するポリペプチドは、界面活性剤又は表面活性剤仲に溶解することができる。さらに、リポソームを含有する処方については、界面活性剤の溶液中の抗原(たとえば、細胞膜抽出液)をリピドと混合し、ついで希釈、透析又はカラムクロマトグラフィーによって界面活性剤を除去してリポソームを形成させることができる。ある種の抗原(たとえば、膜タンパク質)はそれ自体可溶性である必要はないが、直接リピド膜(たとえば、ビロソーム)にビリオン単独の懸濁駅に、もしくはマイクロスフィア懸濁液に又は活性化抗原提示細胞により取り込まれる熱不活性化細菌に挿入することができる(オプソニン化)。抗原は、WO99/43350に記載されたように透過増強剤と混合することもできる。
【0053】
ヒト又は動物対象のワクチン接種に使用可能で、特定の病原体に特異的な免疫応答を誘発する多くの抗原、ならびに抗原の製造方法、適当な抗原用量、免疫応答の誘導についてのアッセイ、病原体(たとえば、細菌、ウイルス、カビ、又は原生動物)による感染の処置については本技術分野において周知である。
【0054】
哺乳動物の大腸菌による感染による効果は、生物体の特定の株に依存する。腸内には有益な大腸菌が多く存在する。下痢疾患との初期の関連以来、5種の下痢病原性大腸菌が同定されたことによる。すなわち、腸毒素原性(ETEC)、腸病原性(EPEC)、腸出血性(EHEC)、腸集合性(EAggEC)及び腸侵襲性(EIEC)である。それらは特徴的なビルレンス性、たとえばトキシンの同化、及びコロニゼーション因子及び/又は腸内皮細胞との相互作用の特異的なタイプによってグループ分けされている。ETECが最も一般的な下痢原性大腸菌であり、旅行者に最大のリスクを提起する。ヒトから培養された株にはB7A(CS6,LT,STa)、H10407(CFA/I,LT,STa)及びE24377A(CS3,CS1,LT,STa)が包含される。それらは単一又は組み合わせで、抗原の全細胞源として使用され、様々な異なるトキシン及びコロニゼーション因子を提供する。
【0055】
腸毒素原性大腸菌に対して特異的で、より一般的なコロニゼーション及びビルレンス因子に対して交叉反応し、交叉保護する抗体を励起するワクチンの必要性がある。フィンブリエタンパク質のCS4−CFA/Iファミリーは、ある種のより流行している腸毒素原性大腸菌株に見出され、このファミリーのETEC抗原のメンバーは6種、CFA/I,CS1,CS2,CS4,CS17及びPCF0166である。
【0056】
ETECのコロニゼーション因子抗原(CFA)は、腸上皮に対する細菌のコロニゼーション及び付着の最初の工程において重要である。下痢を有する成人及び小児の疫学的研究では、ETECに帰せられる有病率の大きな百分率にCFA/Iが見出される。CFA/Iは細菌の表面上にピリ(フィンブリエ)の形で存在する。これは、剛性で、反復するピリンサブユニットから構成される直径7nmのタンパク質繊維である。CFA/I抗原はヒト刷子縁へのマンノース抵抗性付着を明らかなシアル酸感受性によって促進する。したがって、これらのタンパク質に対する免疫を確立させるワクチンは宿主組織への付着、及びそれに次ぐ疾患を防止するものと推定されている。
【0057】
CS3,CS5及びCS6としては、他の抗原が包含される。CFA/I,CS3及びCS6は単独でも存在し得るが、稀な例外としてCS1はCS3と、CS2はCS3と、CS4はCS6と、CS5はCS6とのみ見出される。血清学的研究では、これらの抗原は、研究部位に依存して、ETECの場合約75%まで又は少なくとも約25%に相当する緯度に存在する。
【0058】
大腸菌ファミリーCS4−CFA/Iのすべてのメンバーの抗原に対して抗体を励起するコンセンサスペプチドが米国特許5,914,114に記載されている。このファミリーのメンバーのN−末端は高度な同一性を示すが、そのタンパク質配列の残部には、種をまたいだ関連性があまり認められない。コンセンサスペプチドは、既知の線状B及びT細胞エピトープを包含し、進化的に高度の関連性が6つの異なるコロニゼーション因子にみられる。たとえば、コンセンサスペプチドはそのアミノ酸配列(アミノ酸残基は末端又は修飾された内部に付加して反応性結合鎖を提供する):VEKNITVTASVDPTIDLLQADGSALPSAVALTYSPA(配列番号:1)及びVEKNITVTASVDPTIDLLQADGSALPASVALTYSPA(配列番号:2)
を有する。
【0059】
これらのコンセンサスペプチドは、CFA/I,CS1,CS2,CS4,CS17及びPCF 0166抗原の相同な領域に基づいて構築された。
【表1】

【0060】
CS6,コロニゼーション因子IV(CFA/IV)の成分はまた血清学的検査(たとえば、中東の兵士)において、ETEC株の約25%より多くに見出されている。CS3及びCS6抗原のヌクレオチド配列は、それらの製造方法とともに米国特許5,698,416に記載されている。
【0061】
使用できる他の抗原は腸疾患を起こすトキシン、たとえばシガトキシン及び大腸菌エンテロトキシンである。熱不安定エンテロトキシン(LT)については以下に説明する。しかし、疾患症状群を生じる熱安定性エンテロトキシン(たとえば、STa,STb)も抗体により中和することができる。LTはペリプラズムトキシンで、STは細胞外トキシンである。STaはメタノール可溶性で、STbはメタノール不溶性である。2種の異なる前駆体が用いられる。STaは18〜19アミノ酸ペプチド、STbは48アミノ酸ペプチドであり、それらの間には配列の類似性はない。LTとST又はST突然変異体との抱合体も使用できる(米国特許4,886,663)。
【0062】
広範囲の一般的な旅行者疾患、とくに腸の感染疾患のためのワクチンが開発されれば有利である。たとえば、キャンピロバクテリア症(Campylobacter jejuni)、ジアルジア症(Giardia intestinalis)、肝炎(肝炎ウイルスA又はB型)、マラリア(Plasmodium falciparum,P.vivax,P.ovale及びP.malariae)、細菌性赤痢(Shigella boydii,S.dysenteriae,S.flexneri及びS.sonnel)、ウイルス性胃腸炎(ロタウイルス)、ならびにそれらの組み合わせが、応答可能な病原体から誘導される抗原を含ませることによって処置される。毒性を中和し、又は細胞への付着及び侵入をブロックする全身性又は粘膜性抗体が望ましい。病原体に関連する分子(たとえば、トキシン、膜タンパク質)に対し特異的な免疫応答が様々な投与経路(たとえば、腸内、粘膜、非経口、経皮)により誘発される。
【0063】
アジュバント
処方にはアジュバントが含まれる。ただし、単一分子がアジュバント及び抗原の両性質を有していてもよい(たとえば、熱不安定性エンテロトキシン)。アジュバントは、特異的に又は非特異的に、抗原特異的免疫応答を、多分、抗原提示細胞(たとえば、様々な皮膚層における樹状細胞、とくにランゲルハンス細胞)の活性化によって強化するために使用される物質である。また、Elsonら(Handbook of Mucosal Immunology,Academic Press,1994)も参照されたい。活性化は初期には表皮又は真皮で起こるが、その効果は樹状細胞がリンパ系及び循環を通して移動する間持続する。アジュバントは抗原とともに、又は抗原なしで処方され適用されるが、アジュバントによる抗原提示細胞の活性化は一般に抗原の提示前に起こる。またそれらは短時間の間隔内で別個に、ただし同じ解剖学的領域(たとえば、同じ排出リンパ節野)に提供されてもよい。
【0064】
アジュバントにはたとえば、ケモカイン(たとえばデフェンシン、HCC−1,HCC−4,MCP−1,MCP−3,MCP−4,MIP−1α,MIP−1β,MIP−1δ,MIP−3α,MIP−2,RANTES);ケモカイン受容体の他のリガンド(たとえばCCR1,CCR2,CCR−5,CCR−6,CXCR−1);サイトカイン(たとえばIL−1β,IL−2,IL−6,IL−8,IL−10,IL−12,INF−γ,TNF−α,GM−CSF);それらのサイトカインに対する受容体のリガンド、細菌DNA又はオリゴヌクレオチドにおける免疫刺激性CpGモチーフ;ムラミルジペプチド(MDP)及びその誘導体(たとえばムラブチド、スレオニル−MDP,ムラミルトリペプチド);熱ショックタンパク質及びその誘導体;elF4aのリーシュマニア相同体及びその誘導体;細菌性ADP−リボシル化エキソトキシン及びそれらの誘導体(たとえば、遺伝子突然変異体、A及び/又はBサブユニット含有フラグメント、化学的にトキソイド化されたバージョン);細菌性ADP−リボシル化エキソトキシン含有化学的抱合体又は遺伝子組換え体又はそれらの誘導体;C3dタンデムアレイ;リピドA及びその誘導体(たとえばモノホスホリル又はジホスホリルリピドA、リピドAアナログ、AGP,AS02,AS04,DC−Chol,Detox,OM−174);ISCOMS及びサポニン(たとえばQuil A,QS−21);スクアレン;超抗原;又は塩(たとえば、水酸化又はリン酸アルミニウム、リン酸カルシウム)が包含される。他の有用なアジュバントは、Nohriaら(Biotherapy,7:261−269、1994)及びRichardsら(Vaccine Design,Eds.Powellら,Plenum Press,1995)参照。
【0065】
アジュバントは、好ましくは抗体又は細胞性エフェクター、特異的抗体アイソタイプ(たとえばIgM,IgD,IgA1,IgA2,分泌型IgA,IgE,IgG1,IgG2,IgG3及び/又はIgG4)又は特異的T−細胞サブセット(たとえば、CTL,Th1,Th2及び/又はTDTH)を誘導するように選択される。たとえば、抗原提示細胞はクラスII−限定抗原を前駆体CD4+T細胞に提示し、Th1又はTh2経路に入る。能動的にサイトカインを分泌するTヘルパー細胞は一次エフェクター細胞であり、それらは静止していれば記憶細胞である。記憶細胞の再活性化は記憶エフェクター細胞を産生する。Th1は特徴的に、INF−γを分泌し(TNF−β及びIL−2も分泌される)、細胞性免疫の「ヘルプ」を伴う。一方、Th2は特徴的に、IL−4を分泌し(IL−5及びIL−13も分泌される)、体液性免疫の「ヘルプ」を伴う。疾患の病原性に依存して、アジュバントはTh1応答(たとえば、抗原特異的細胞溶解細胞)対Th2応答(たとえば抗原特異的抗体)に好ましいように選択される。
【0066】
非メチル化CpGジヌクレオチド又は類似のモチーフはBリンパ球及びマクロファージを活性化することが知られている(米国特許第6,218,371)。他の形の細菌性DNAがアジュバントとして使用できる。細菌性DNAは、免疫系によるそれらの病原性起源を認識し、先天的免疫応答を刺激して養子免疫応答の招来を可能にするパターンを有する構造クラス中にある。これらの構造は、病原体関連分子パターン(PAMP)と呼ばれ、リポポリサッカライド、テイコイン酸、非メチル化CpGモチーフ、二重鎖RNA及びマンニンス(mannins)を包含する。PAMPは炎症応答を仲介できる内因性シグナルを誘導し、T細胞機能の共刺激物質として作用し、エフェクター機能をコントロールする。PAMPがこれらの応答を誘発する能力はアジュバントとしてのそれらの可能性に役割を果たし、それらの標的は抗原提示細胞、たとえば樹状細胞及びマクロファージである。皮膚の抗原提示細胞は同様に、皮膚により伝達されたPAMPによって刺激されることができた。たとえば、樹状細胞の1タイプのランゲルハンス細胞は、経皮的には貧弱な免疫原性を有する分子と共に存在する、皮膚上の溶液中のPAMPにより活性化され、この貧弱な免疫原性分子をリンパ節内のT−細胞へ移動し、提示するように誘発され、貧弱な免疫原性を有する分子に対する抗体応答を誘発することができた。PAMPはまた、他の皮膚アジュバント、例えばコレラトキシンと共に用いて、異なる同時刺激性分子を誘発し、免疫応答を、例えばTh2からTh1応答のように誘導する異なるエフェクター機能を制御することができた。
【0067】
大部分のADP−リボシル化エキソトキシン(bARE)は、受容体結合活性を含有するBサブユニット及びADP−リボシルトランスフェラーゼ活性を含有するAサブユニットでA:Bヘテロダイマーとして組織化されている。bAREの例にはコレラトキシン(CT)大腸菌熱不安定性エンテロトキシン(LT)、ジフテリアトキシン、シュードモナスエキソトキシンA(ETA)、百日咳トキシン(PT)、C.botuli−numトキシンC2,C.botulinumトキシンC3,C.limosumエキソ酵素、B.cereusエキソ酵素、シュードモナスエキソトキシンS、S.aureus EDN、及びB.sphaericusトキシンが包含される。たとえばトリプシン切断部位の突然変異を含有するbARE(たとえば、Dickensonら,Infect,Immun.63:1617−1623,1995)又はADP−リボシル化に影響する突然変異(たとえばDouceら,Infect,Immun.65:28221−282218,1997)を使用することができる。
【0068】
CT,LT,ETA及びPTは異なる細胞結合部位を有するにもかかわらず、経皮的免疫感作において強力なアジュバントであり、IgG抗体を誘発するが、IgE抗体は誘発しない。CTなしのCTBもIgG抗体を誘発することができる。すなわちbARE及びその誘導体はいずれも皮膚に表皮を通して適用された場合、効果的に免疫することができる。しかしながら、アジュバント及び抗原として、ネイティブなLTがネイティブなCTほど強力ではないことは明らかである。しかし、活性化されたbAREは、経皮的免疫系において弱い免疫原性抗原として働くことができる。すなわち、1又は2以上の抗原による免疫感作は別個に、又は抗原提示細胞の免疫刺激と接合させて、予防的又は治療的免疫応答の誘発に使用できる。
【0069】
一般的に、トキシンは化学的に不活性化して、毒性は低いが免疫原性は維持するトキソイドを形成させることができる。本発明者らは、トキシンベースの免疫原とアジュバントを用いる経皮的免疫感作が、これらの疾患に対する保護に適当なレベルの抗−トキシンを達成することができると想定する。抗−トキシン抗体は、トキシン、又は遺伝子的に脱毒性化したトキソイド自体もしくはトキソイドとアジュバントによる免疫感作により誘発できる。ADP−リボシル化エキソトキシン活性又はトリプシン切断部位が変わった、遺伝子的にトキソイド化されたが結合活性は維持されるトキシンは、経皮的免疫感作に用いられる抗原提示細胞の非毒性アクティベーターとしてとくに有用で、トキシンの使用における懸念を減少させる。
【0070】
bAREは経皮的免疫感作により、抗原特異的CTLを誘発するアジュバントとして働くこともできる。bAREアジュバントは、他の抗原、たとえば炭水化物、ポリペプチド、グリコリピド及び糖タンパク質抗原に化学的に抱合させることもできる。トキシン、それらのサブユニット又はトキソイドとこれらの抗原との化学的抱合は、表皮から適用した場合、これらの抗原に対する免疫応答の増強が期待される。トキシンの毒性(たとえば、ジフテリアトキシンは毒性がきわめて強いことが知られていて、1分子が1個の細胞を死滅させる)の問題を克服するために、また、破傷風のような強力なトキシンで作業する問題を克服するために、何人かの研究者は遺伝子的に製造されるトキソイドの産生に、組換えによるアプローチを採用している。これは、ADP−リボシル化トランスフェラーゼの触媒活性を遺伝子欠失による不活性化に基づいている。これらのトキシンは、結合能力は維持しているが、天然のトキシンの毒性を欠いている。このような遺伝子的にトキソイド化されたエキソトキシンには、経皮的免疫応答の誘発とアジュバントとしての作用が期待される。トキソイドには毒性はないと考えられるので、安全性に対する懸念を生じることがない点で、経皮的免疫系に利点を提供する。しかしながら、トリプシン切断のような技術による活性化は、トリプシン様酵素を欠く皮膚を通じてのLTのアジュバント性を増強させることが期待される。さらに、トキシンを化学的に修飾して、上記の問題を解決する幾つかの技術がある。これらの技術は、摂取されたトキシンが有害な反応を生じる可能性がある、ある種の適用たとえば、とくに高齢者への適用に重要である。
【0071】
アジュバントは、生化学的に、天然のソース(たとえば、pCT又はpLT)から精製するか、又は組換えによって製造してもよい(たとえば、rCT又はrLT)。ADT−リボシル化エキソトキシンは蛋白分解(すなわち、活性化)の前又は後に精製することができる。ADP−リボシル化エキソトキシンのBサブユニットも使用できる。蛋白分解後にネイティブな酵素から精製され、又は酵素の全コード領域のフラグメントから製造されて使用される。ADPリボシル化−エキソトキシンのサブユニットは別個に(たとえばCTB又はLTB)又は一緒に(たとえばCTA−LTB,LTA−CTB)、化学的抱合又は遺伝子融合によって使用できる。
【0072】
点突然変異(たとえば、単一、二重又は三重アミノ酸置換)、欠失(たとえば、プロテアーゼ認識部位)及びADP−リボシル化エキソトキシンの単離された機能ドメインもアジュバントとして使用することができる。毒性が低いか、又はそれらのADP−リボシル化活性は失われているが、それらのアジュバント活性は維持されている誘導体が記載されている。大腸菌熱不安定性エンテロトキシンの特異的な突然変異体には、LT−K63,LT−R72,LT(H44A),LT(R192G),LT(R192G/L211A)及びLT(Δ192−194)が包含される。毒性はY−1副腎細胞アッセイ(Clements & Finkelstein,Infect,Immun,24:760−769)でアッセイした。ADP−リボシル化はNAD−アグマチンADP−リボシルトランスフェラーゼアッセイ(Mossら,J.Biol.Chem,268:6383−6387,1993)によりアッセイした。特定のADP−リボシル化エキソトキシン、それらの誘導体、ならびにそれらの製造及び特徴決定は、米国特許4,666,837;4,935,364;5,308,835;5,785,971;6,019,982;6,033,673及び6,149,919に記載されている。
【0073】
ランゲルハンス細胞のアクティベーターはまたアジュバントとして使用できる。このようなアクティベーター例には、熱ショックタンパク質のインデフューサー、接触センシタイザー(たとえば、トリニトロクロロベンゼン、ジニトロフルオロベンゼン、ナイトロジェンマスタード、ペンタデシルカテコール);トキシン(たとえばシガトキシン、StaphエンテロトキシンB);リポポリサッカライド(LPS)、リピドA又はその誘導体;細菌性DNA;サイトカイン(たとえば、TNF−α、IL−1β、IL−10、IL−12);TGFβスーパーファミリーのメンバー、溶液中カルシウムイオン、カルシウムイオノフォア、及びケモカイン(たとえば、デフェンシン1又は2,RANTES,MIP−1α、MIP−2,IL−8)が包含される。
【0074】
抗原及びアジュバントの両者であるLTの場合のように、免疫感作抗原が十分なランゲルハンス細胞活性化能力を有する場合には、別のアジュバントは必要ない。また、このような抗原は十分に免疫原性であるから、アジュバントは必要ないとも考えることができる。生存細胞又はウイルス調製物、弱毒化生存細胞又はウイルス、死滅細胞、不活性化ウイルス及びDNAプラスミドは、経皮的免疫感作に有効に使用することができた。また、低濃度の接触センシタイザー又はランゲルハンス細胞の他のアクティベーターも、皮膚損傷を誘発することなく免疫応答の誘導に使用することができる。
【0075】
アジュバントの活性を増大させる他の技法には、有効な添加物質たとえば界面活性剤及び/又はホスホリピドを処方に加えて、ADP−リボシル化因子によるADP−リボシル化エキソトキシンのアジュバント活性を増強させる。1又は2以上のADP−リボシル化因子(ARF)をbARF(たとえば、ARF1,ARF2,ARF3,ARF4,ARF5,ARF6,ARD1)のアジュバント性を増強するために使用することができる。同様に、1又は2以上のARFがADP−リボシル化エキソトキシンとともにそのアジュバント活性を増強させるために使用される。
【0076】
望ましくない性質又は有害な副作用(たとえば、アレルギー性又は過敏性反応、アトピー、接触性皮膚炎、又は湿疹;全身性毒性)は、経皮的免疫感作の有効性を破壊することなく、修飾によって低減させることができる。修飾にはたとえば可逆性化学修飾(たとえば蛋白分解)又は免疫系から処方の1又は2以上の成分を可逆的に単離するコーティング中へのカプセル封入が包含される。たとえば、処方の1又は2以上の成分を、送達のための粒子(たとえば、マイクロスフィア、ナノ粒子)中へのカプセル封入できるが、本発明者らはリピド小胞へのカプセル化は経皮的免疫感作には必要なく、マイナスの効果があるように思われることを示した。粒子の貪食作用は独力で、MHCクラスI及び/又はクラスII分子及び/又は共刺激分子(たとえば、CD40,B7ファミリーメンバーたとえばCD80及びCD86)の発現は上方調節によって、抗原提示細胞の活性化を上昇させる。
【0077】
処方
医薬的処方の製造方法はよく知られている。処方の成分を医薬的に許容される担体又はビヒクル、ならびに任意の添加物の組み合わせ(たとえば、少なくとも1種の希釈剤、結合剤、賦形剤、安定化剤、乾燥剤、保存剤、着色剤又はそれらの組み合わせ)を混合する。一般的にUllman’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,6thEd.(electronic edition、1998年);Remington’s Pharmaceutical Sciences,22nd(Gennaro,1990,Mack Publishing);Pharmaceutical Dosage Forms,2ndEd.(編者多数,1989−1998,Marcel Dekker);及びPhamaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems(Anselら,1994,Williams & Wilkins)参照。
【0078】
グッドマニュファチャリングプラクティス(GMP)は医薬品工業において周知であり、政府機関(たとえば食品医薬局)によって規制されている。滅菌された液体処方は、処方の意図された成分を十分な量の溶媒に溶解し、ついでろ過して夾雑する微生物を除去することによって滅菌することによって調製される。一般的には、処方の様々な滅菌成分を、基本の分散メジウム中に含有する滅菌ビヒクル中に導入することによって分散液を調製する。滅菌が要求される固体剤形の製造には真空乾燥又は凍結乾燥を使用できる。固体剤形(たとえば、散剤、顆粒剤、ペレット、錠剤)又は液体剤形(たとえば、アンプル、カプセル、バイアル中の液体)は、処方の少なくとも1種の活性成分又は成分から調製できる。
【0079】
様々な投与剤形の製造及びパッチの製造に適当な操作は周知である。処方は、少なくとも1種の活性成分又は成分の固体又は液体剤形をカプセルに封入するか、又はそれらをコンパートメント又はチャンバー中に別個に保持させることにより製造される。パッチは、圧によって破壊され、ついでパッチの乾燥処方を溶解させるビヒクル(たとえば食塩溶液)を含有するコンパートメントを包含できる。各投与用量のサイズ及び対象に投与される間隔は、容器、コンパートメント又はチャンバーの適当なサイズ及び形状を決定するために用いられる。
【0080】
処方は、活性成分(たとえば、抗原及びアジュバント)の有効量を、ヒト又は動物への投与に適当な医薬的に許容される組成物を提供するために、担体又は適当量のビヒクルとともに含有する。ビヒクルを含有する処方は、クリーム、乳化液、ゲル、ローション、軟膏、ペースト、溶液、懸濁液、又は本技術分野で既知の他の液体剤形、とくに皮膚の水和を増大させる剤形とする。
【0081】
投与及び投与スケジュール内での活性成分の相対的な量は、対象(たとえば動物又はヒト)への有効な投与のために適宜調整される。この調整は対象の特定の疾患又は状態、及び治療又は予防が意図されるかに依存する。対象への処方の投与を単純化するために、単一ラウンドの免疫感作のために予め定められた量の活性成分を各単位用量中に含有させる。
【0082】
タンパク質の不安定性又は変性の多くの原因には加水分解及び変性が包含される。変性の場合は、タンパク質のコンフォメーションが妨害され、タンパク質はその自然の球体構造から脱フォールドされる。その自然のコンフォメーションに再フォールディングされるのではなく、疎水性相互作用が分子を一緒にクランプ(凝集)させるか、自然ではないコンフォメーションへ再フォールディングさせる。いずれの結果も抗原性又はアジュバント活性の低下又は喪失を招く。安定化剤はこのような問題を減少させるか防止するために添加される。
【0083】
処方又はその製造の任意の中間体は予め保護剤(すなわち、凍結防止剤又は乾燥安定化剤)によって前処理され、ついで氷の結晶の形成を最小にする冷却速度及び最終温度に付すことができる。凍結防止剤の適切な選択及び予め選択された乾燥パラメーターの使用はほとんどすべての処方を、適当な所望の最終的使用のために低温調製することを可能にする。
【0084】
以下の任意の添加物、たとえば賦形剤、安定化剤、乾燥剤及び保存剤、以下の考察においてそれらの機能によって説明することを理解すべきである。すなわち、特定の化学物質が、賦形剤、安定化剤、乾燥剤及び/又は保存剤のある種の組み合わせとして働く。このような化学物質は、直接免疫応答を誘発しないが、抗原又はアジュバントの免疫学的活性を上昇させることにより、たとえば乾燥及び溶解サイクルにおける抗原又はアジュバントの還元修飾により応答を増強する。
【0085】
安定化剤には、シクロデキストリン及びその誘導体が包含される(米国特許5,730,969参照)。適当な保存剤、たとえば、スクロース、マンニトール、ソルビトール、トレハロース、デキストラン、及びグリセリンは最終処方を安定化するために添加することができる。非イオン界面活性剤、D−グルコース、D−ガラクトース、D−キシロース、D−グルクロン酸、D−グルクロン酸の塩、トレハロース、デキストラン、ヒドロキシエチルデンプン及びそれらの混合物から選択される安定化剤を処方に添加することができる。アルカリ金属塩又は塩化マグネシウムの添加はポリペプチドを安定化し、任意に加えられる血清アルブミン及び凍結乾燥を含めて、安定性をさらに増強する。ポリペプチドはそれを、デキストラン、コンドロイチン硫酸、デンプン、グリコーゲン、インスリン、デキストリン、及びアルギン酸塩からなる群から選択されるサッカライドと接触させることによっても安定化される。添加できる他の糖には、モノサッカライド、ジサッカライド、糖アルコール及びそれらの混合物(たとえば、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、スクロース、マルトース、ラクトース、マンニトール、キシリトール)が包含される。ポリオールはポリペプチドを安定化し、水混和性又は水溶性である。適当なポリオールはポリヒドロキシアルコール、モノサッカライド及びジサッカライドであり、たとえばマンニトール、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチルグリコール、ビニルピロリドン、グルコース、フルクトース、アラビノース、マンノース、マルトース、スクロース及びそれらのポリマーが包含される。様々な賦形剤、たとえば血清アルブミン、アミノ酸、ヘパリン、脂肪酸及びホスホリピド、界面活性剤、金属、ポリオール、還元剤、金属キレート剤、ポリビニルピロリドン、加水分解ゼラチン、及び硫酸アンモニウムもポリペプチドを安定化し得る。
【0086】
単一用量の処方は、適当な賦形剤及び安定化剤の選択により、ポリ(乳酸)及びポリ(ラクチド−コ−グリコリド)(PLGA)の微小球体中に安定化することができる。トレハロースは非還元糖であり、したがってアミノ基を有する物質、たとえばタンパク質、とアミノカルボニル反応を起こさないので、添加物として有利に使用することができる。
【0087】
対象に、乾燥した非液体型で投与できる処方はコールドチェーンを必要としない条件で保存することができると考えられる。溶液中の抗原(たとえば、CS6)はアジュバント、たとえばLT、と溶液中で混合して、閉塞性バッキング、たとえばプラスチックラップ、をもつガーゼパッド上に置き、乾燥させる。このパッチをついでガーゼ側を皮膚と直接接触するように皮膚上にある期間置き、単純な閉塞、たとえばプラスチックラップ及び接着テープで覆ってその位置に保持できる。パッチは多くの組成とすることができる。基体は綿のガーゼ、レーヨン−ナイロンの組み合わせ又は他の合成材料であり、閉塞性の固体バッキングたとえばポリ塩化ビニル、レーヨン、他のプラスチック、ゲル、クリーム、乳化液、ワックス、油、パラフィン、ゴム(合成又は天然)、布又は膜を有する。様々な接着剤を用いて、パッチは皮膚上に保持できる、パッチの成分は一緒に保持できる。1又は2以上のアジュバント及び/又は抗原はパッチの基体又は接着剤部分に導入できる。
【0088】
液体又は準液体処方は直接皮膚に適用され、風乾させれ;皮膚又は頭皮に擦り込まれ;(特に動物の)耳、鼠蹊部、又は皮膚の擦れ合う領域に付され;肛門/直腸組織に付され;包帯、パッチ又は吸収材料でその位置に保持され;浸水させるか、又はほかにストッキング、スリッパー、グローブ又はシャツのようなデバイスによって保持されるか;又は皮膚上にスプレーして、皮膚との最大接触を可能にする。処方は吸収材料包帯又はガーゼに適用してもよい。処方は閉塞性包帯、たとえばAQUAPHOR(Beiersdorfからの石油乳化液、鉱油、鉱油ワックス、ウールワックス、パンテノール、ビサボール及びグリセリン)、プラスチックフィルム、COMFEEL(Coloplast)又はバセリン石油ジェリー;又は非閉塞性包帯たとえばTEGADERM(3M)、DUODERM(3M)又はOPSITE(Smith & Napheu)で覆ってもよい。閉塞性包帯は水の通過を排除する。このような処方は単一又は複数の部位、単一又は複数の肢に、又は皮膚の大きな表面積に、完全な含浸により適用することができる。処方は直接、皮膚に適用してもよい。使用できる他の基体は圧感受性接着剤たとえばアクリリックス、ポリイソブチレン、及びシリコーンである。処方は多孔性のパッド(たとえばガーゼ)又は吸水性ストリップ(たとえばろ紙)の代わりに、多分それ自体接着性の基体に、直接導入されてもよい。
【0089】
パッチを使用するか否かに拘わらず、処方に添加されたポリマーは、活性成分の賦形剤、安定化剤及び/又は保存剤、及び乾燥型活性成分を溶解するために用いた溶液を飽和させる活性成分濃度を低下させるように働く。このような低下はポリマーが「空」のスペースを満たすことにより溶液の有効容量を低下させるので生じる。この方法で、抗原/アジュバントの量は飽和溶液の量を減少させることなく保存することができる。重要な熱力学的考察は、飽和溶液中の活性成分が濃度の低い領域へと皮膚を通って「駆動」されることである。溶液中で、ポリマーはまた、処方の可溶化された成分の抗原/アジュバント活性を安定化及び/又は保存できる。このようなポリマーには、エチレン又はプロピレングリコール、ビニルピロリドン、及びβ−シクロデキストリンポリマー及びコポリマーが包含される。
【0090】
経皮的送達
処方の経皮的送達はランゲルハンス細胞に標的化され、したがって有効で効率的な免疫感作が達成される。これらの細胞は皮膚に豊富に見出され、T−細胞の記憶と強力な免疫応答を誘導できる効率的な抗原提示細胞(APC)である。皮膚における多数のランゲルハンス細胞の存在から、経皮的な送達の効率は抗原及びアジュバントに暴露された表面積に関連するのかもしれない。実際、経皮的な免疫感作がきわめて有効な理由は、皮内の免疫感作より、これらの多数の有効な抗原提示細胞が標的化されることであろう。
【0091】
本発明は、免疫感作への接近を増大させ、一方では強力な免疫応答を誘発させる。経皮的免疫感作は皮下用注射針による注射(すなわち、真皮への透過又は通過)ならびに複雑性及び困難性を要求せず、医学的熟練者、滅菌技術及び滅菌装置の要求を低下させる。さらに、多重部位での免疫感作又は多重免疫への障壁が減少する。処方の単一適用による免疫感作も計画される。
【0092】
免疫感作は局所的又は表皮への抗原及びアジュバントの単純な処方の適用によって無傷の皮膚に行われ、閉塞性の包帯又は他のパッチ技法を用いて任意に被覆し、化学的又は物理学的な透過を実施し又は実施しない。免疫感作は訓練されていない人でも行うことができ、自分にでも適用できる。免疫感作への容易なアクセスを与え、大規模な領域の免疫感作を可能にした。さらに単純な免疫感作操作は、小児科、老人科及び第三世界集団による免疫感作へのアクセスを改善すると思われる。本発明による経皮的な免疫によれば、抗原及びアジュバントを、免疫系とくに皮下に存する特異的抗原提示細胞(例えば、ランゲルハンス細胞)へ送達できる方法が提供される。
【0093】
旧来のワクチンでは、それらの処方が皮膚に針を用いて注射された。針を用いるワクチンの注射には、滅菌した針及びシリンジ、ワクチンの投与のために訓練された医学関係者、注射からの不快感、針に由来する疾患、再使用できる可能性がある針による皮膚の穿孔でもたらされる併発症の可能性を包含する欠点を有する。皮下用針を使用しない経皮免疫感作は、皮下用針を避けることによりワクチン送達に関する進歩を示す。
【0094】
しかも経皮的免疫感作は、皮膚の大きな表面積を標的する幾つかの位置を用いることにより、より多くの免疫細胞が標的化されることになるので、皮下用針を用いる免疫感作よりも優れている。免疫応答を誘発するのに十分な治療的有効量が単一の皮膚の位置に、あるいは多くの排出リンパ節野を覆う皮膚の領域(たとえば、頸部、腋窩、鼠蹊部、内側上頬、腺窩、腹部及び胸郭のリンパ節)上に、経皮的に送達することができる。このような位置は全身の数多くの異なるリンパ節の位置に近く、少量の抗原が単一の位置に皮内、皮下又は筋肉内注射された場合よりも、より広範囲の刺激を免疫系に提供することになる。
【0095】
皮膚を通過又は皮膚に侵入した抗原は、抗原提示細胞に遭遇し、それは免疫応答を誘発するように抗原を処理する。多重免疫感作部位に多数の抗原提示細胞が徴集され、徴集された大集団の抗原提示細胞が大きな免疫応答を誘発する。皮膚の使用が抗原を皮膚の貪食細胞たとえば樹状細胞、ランゲルハンス細胞、マクロファージ、及び他の皮膚抗原提示細胞に送達し;抗原はまた、血流又はリンパ系を通して抗原提示細胞として働くことが既知の肝臓、脾臓、及び骨髄にも送達される、と考えられる。
【0096】
ランゲルハンス細胞、他の樹状細胞、マクロファージ又はそれらの組み合わせは、それらのアシアログリコタンパク質受容体、マンノース受容体、Fcγ受容体CD64、IgEに対する高親和性受容体又は他の高度に発現される膜タンパク質を用いて特異的に標的化される。それらの受容体のいずれかに特異的なリガンド又は抗体は、アジュバント、抗原又は両者と抱合されるか又はそれらとの融合タンパク質として組換えにより産生させることができる。さらに、アジュバント、抗原又は両者はプロテインA又はGと抱合又はそれらとの融合タンパク質として組換え技術により製造し、Bリンパ球の表面免疫グロブリンに標的化することができる。想像された結果は、抗原の抗原提示細胞への広範囲な、稀な程度の、現在の免疫実務では達成されたことのない分布である。
【0097】
遺伝子免疫感作は米国特許5,589,466,5,593,972及び5,703,055に記載されている。その処方中に含有される核酸(単数又は複数)は抗原、アジュバント又はその両者をコードしてもよい。核酸は複製可能であっても、また複製できなくてもよい。それは非組込み性及び非感染性である。たとえば核酸は、免疫応答をクラスI制限応答に向ける抗原及びユビキチンドメインからなる融合ポリペプチドをコードしてもよい。核酸は、抗原又はアジュバントをコードする配列に作用可能に連結された調節領域をさらに含んでいてもよい。核酸にはアジュバントが添加されてもよい。核酸はそのトランスフェクションを促進する物質、たとえば陽イオン性リピド、リン酸カルシウム、DEAE−デキストラン、ポリブレン−DMSO又はそれらの混合物と複合されていてもよい。免疫細胞は、DNAのFc受容体もしくはタンパク質A/Gの複合によって、又はそれをα−マクログロブリンもしくはタンパク質A/G、又は類似のAPC標的化材料に連結させる物質にDNAを付着させることによって標的化することができる。
【0098】
特異的免疫応答は体液性(すなわち、抗原特異的抗体)及び/又は細胞性(すなわち、抗原特異的リンパ球たとえばBリンパ球、CD4T細胞、CD8T細胞、CTL,Th1細胞、Th2細胞、及び/又はTDTH細胞)エフェクターアームからなる。さらに、免疫応答はNK細胞及び、抗体依存性細胞仲介細胞毒性(ADCC)を仲介する他の白血球からなる。
【0099】
本発明の処方によって誘発される免疫応答には、抗原特異的抗体及び/又はリンパ球の誘発が包含される。抗体はイムノアッセイ法によって検出することができる。様々な抗体アイソタイプ(IgM,IgD,IgA1,IgA2,分泌IgA,IgE,IgG1,IgG2,IgG3又はIgG4)の検出は、全身性又は局所性免疫応答を指示する。
免疫応答は中和化アッセイによっても検出できる。抗体とはBリンパ球により産生される保護的タンパク質である。それらは高度に特異的で、一般に抗原の1つのエピトープを標的とする。しばしば、抗体は病原体由来の疾患を生じる抗原との特異的な反応によって、疾患に対する保護において重要な役割を果たす。免疫感作は免疫感作抗原(例えば、細菌トキシン)に特異的な抗体を誘発し得る。
【0100】
CTLは、病原体による感染に対して保護するために産生される免疫細胞である。それらはまた、きわめて特異的である。免疫感作は抗原特異的なCTL、たとえばマラリアタンパク質をベースにした合成オリゴペプチドを、自己主要組織適合性抗原とともに誘導する。経皮的送達システムによる免疫感作によって誘発されるCTLは、病原体感染細胞を殺滅することができる。免疫感作はまた、抗体及びCTLにおけるブースター応答によって示めされるように、記憶応答を生じ、抗原により刺激されたリンパ球の培養によるリンパ球増殖を生じ、また皮膚に抗原単独の皮内チャレンジに対する遅延型過敏症応答を生じる。
【0101】
保護の成功は、病原体による感染又はトキシンの投与を使用するチャレンジ研究、又は臨床的基準(たとえば、高い抗体力価、又は粘膜におけるIgA抗体分泌細胞の産生が指標マーカーとして使用される)の測定によって証明される。
【実施例】
【0102】
以下は本発明の例示を意図するものであり、本発明の実施は、以下の実施例によっていかなる意味においても制限又は限定されるものではない。
【0103】
動物実施例
BABL/c及びC57BL/6マウスはJackson Laboratoriesから入手した。マウス(6〜10週齢)は病原体フリーの状態に維持し、齧歯類用固形飼料と水を自由に与えた。雌のHartleyモルモットは4〜6週齢で、Charles River Laboratoriesから入手し、病原体フリーの状態に維持し、飼料と水を自由に与えた。
【0104】
コレラトキシン(CT)はList Biologicalsから購入し、大腸菌熱不安定性エンテロトキシン(LT)はSwiss Serum and Vaccine Institute(SSVI)から購入した。
【0105】
組換えCS6(rCS6)を調製するためには、カナマイシン耐性遺伝子を含有するpUC誘導体化プラスミド上、大腸菌株HB10(Wolfら,1997;Wolfら,1977)にCS6の完全な4−遺伝子オペロン(約5kb)をクローン化した。このクローンを用いてrCS6をNew BrunswickBioFlo 3000ファーメンターで産生させた。発酵ブロスを遠心分離によって収穫し、rCS6を接線フローろ過によって精製し、ついで硫酸アンモニウムで沈殿させた(Wolfら,1997)。ついで、rCS6をリン酸緩衝食塩溶液(PBS)で緩衝液交換に付した。精製されたrCS6を免疫感作まで−20℃で保存した。rCS6の純度はドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)、クーマッシーブルー染色、及び密度測定走査により>98%と測定された(Casselsら,1992;Schgger & von Jagow,1987)。
【0106】
臨床的なETEC株E8775及びE9034Aは、それぞれ、ネイティブなCS6(nCS6)及びCS3のソースとして使用した。CFAアガー(Evansら,1977)上において増殖させた2種の株の熱及び食塩水抽出液は硫酸アンモニウム、ついで10%飽和間隔(Wolfら,1997)で処理した。60%及び30%飽和における沈殿は、SDS−PAGE及びELISAアッセイで測定してそれぞれ最大量及び最高純度のネイティブなCS6及びCS3を含有した。
【0107】
P.falciparum MSP(MSP−142、3D7)をポリヒスチジンタグ(Novagen)とともに、大腸菌BL21(DE3)で発現させた。抗原は3つのクロマトグラフィー工程すなわちニッケル親和性、Q陰イオン交換及びCM陽イオン交換を用いてほぼ均一まで精製した。
【0108】
マウスは前述のように経皮的に免疫された(Scharton−Kersteinら, 2000)。略述すれば、動物は、視覚刺激又は皮膚の変化を残さないで背部をNo.40のクリッパーで剃毛し、48時間休息させた。マウス及びモルモットはケタミン/キシラジンの混合物の後腿部への筋肉内(IM)注射又は腹腔内注射(IP)で麻酔し、免疫感作操作時の自己の身繕いを防止した。露出した皮膚表面を水で濡らしたガーゼによって5〜10分間水和し、免疫感作前に乾燥したガーゼで軽く吸い取った。25〜100μLの免疫感作溶液を剃毛した皮膚上の2−cmの面積に1時間置いた。ついで動物を尾を下にして流水にまかせて約30秒間徹底的に洗浄し、撫ぜて乾燥させ、再度洗浄した。
【0109】
受動免疫感作は、10,000ELISA単位を越える抗−LT IgG力価を含有するマウスのマッチした株からプールした超免疫血清を尾静脈注射することによって達成された。ナイーブなBALB/cマウスに、LT又は重炭酸塩緩衝液を経口的にチャレンジする1時間前に、0.5mLの血清を注射した。ナイーブなC57BL/6マウスも同じ操作を用いてチャレンジの12時間前に受動免疫感作した。
【0110】
外毒素のチャレンジモデルについては記載がある(Richardsonら,1984)。BALB/cマウスには、10%重炭酸ナトリウム(NaHCO)溶液中に懸濁したLT(500μL中10μg)を与えた。C57BL/6マウスには体重をベースにLT(500μLの10%NaHCO中、体重1gあたり100pg)を給与した。対照動物には500μLの10%NaHCO単独を投与した。糞食を防止するため、マウスは針金の網の床になっているケージに移した。チャレンジ前12時間及びチャレンジの間のマウスには10%のグルコース水を与え、飼料は与えなかった。チャレンジ6時間後に、動物を秤量して屠殺した。ついで小腸(幽門弁から回腸−盲腸接合部まで)を切り離し、液体の喪失を防止するために結紮し、秤量した。液体の蓄積は式FA=(G/(B−G))1000(式中、Gは消化管重量+液体のグラム数、Bは体重のグラム数)を用いて計算された。この式を用いると、非処置又は重炭酸塩給与動物における液体蓄積のベースライン値は、動物の初期体重に依存して30〜150である。
【0111】
組織病理学的な研究は、Walter Reed Army Institute of ResearchにおけるComparative Pathology DivisionのGary M.Zaucha, AVP,ABT及びACVPMにより実施された。処置群あたり2匹のモルモット及び1匹の対照動物を病理学的研究に準備した。動物は3回のワクチン接種のそれぞれについて暴露して2日後に、麻酔して完全な肉眼的剖検に付した。高用量群の組織病理学的検査には皮膚をもつ組織(毛の生えた皮膚及び背側腰部の暴露部位)の完全な補体の検査を包含させ、残った群で肝臓を評価した。高用量群で収集しホルマリンで固定した組織は、脳、下垂体、舌、肺、気管、食道、甲状腺、胸腺、心臓、膵臓、脾臓、肝臓(付着した胆嚢とともに)、胃、小腸、盲腸、回腸、腸間膜リンパ節、腎臓、副腎、膀胱、卵巣、子宮、唾液腺、顎下腺リンパ節、骨髄(胸骨)、毛の生えた皮膚、背側腰部の暴露部位、及び肉眼的な損傷であった。個々の動物の組織病理学的所見は1〜5の評点(1=軽微、2=軽度、3=中等度、4=著明、5=重度)で分類した。
【0112】
CT,LT,ネイティブなCS3,ネイティブなCS6,rCS6及びMSP−142に対する抗体のレベルはELISAにて測定した。イムロン−2ポリスチレンプレート(Dynex Laboratories)を0.1μg/ウエルの抗原でコーティングし、室温において一夜インキュベートし、PBS中0.5%のカゼイン緩衝液でブロックし、洗浄し、標本の系列希釈を適用し、プレートを室温で2時間インキュベートした。IgG(H+L)抗体はHRP−結合ヤギ抗−マウスIgG(H+L)(Biorad)を用いて1時間検出した。抗−LT特異的IgAのレベルは上述のように、二次抗体として置換したHRP−結合ヤギ抗−マウスIgA(Zymed)で測定した。分泌型IgA(S−IgA)抗体のレベルもELISAによって測定し、この場合、LTコーティングプレートは、順次、ナイーブな又は免疫感作マウスからの糞、肺洗浄液又は膣洗浄液、精製ウサギ抗−分泌鎖(SC)抗体(16〜24時間4℃)(Crottetら,1999)及びペルオキシダーゼ標識ヤギ抗−ウサギIgG(H+L)(Kirkegaard and Perry)(2時間室温)とインキュベーションした。結合抗体は2,2’−アジノ−ジ(3−エチルベンズチアゾリンスルホン酸)基体(ABTS;Kirkegaard and Perry)を用いて明らかにし、反応は30分後に1%SDS溶液を用いて停止させた。プレートを450nmで読み取った。抗体力価の結果は、OD(405nm)又はELISA単位で記録し、これは、光学密度(OD)1.0を生じる血清の逆希釈として定義される。モルモット抗−rCS6 ELISAは上述のように、検出工程に含まれるペルオキシダーゼ抱合ヤギ抗−モルモットIgG(Jackson Immuno Research)により実施された。抗−SC二次抗体は抗原(rCS6)でコーティングされたプレートと反応させ、得られる高いバックグランドは、このアッセイを抗−rCS6SCの検出には不適当なものとした。
【0113】
1μLのrCS6(0.5μg)、ネイティブなCS6(1.6μg)及びネイティブなCS3(0.5μg)をニトロセルロースストリップ(Schleicher and Schuell)上にスポットし、一夜乾燥させた。ストリップをPBS中0.05%Tween20(PBS−T,Sigma)及び1%ウシ血清アルブミンと2時間インキュベートしてブロックした。一次マウス抗体を1:1000及び1:4000に希釈し、ストリップと1時間インキュベートし、ついで3回、1,5及び10分間すべてPBS−T中で洗浄した。ついでストリップを、西洋ワサビペルオキシダーゼ(PBS−T中1:5000)で標識した抗−マウスIgGと30分インキュベートした。PBS中で3回10分ずつ洗浄したのち、ストリップを3,3’ジアミノベンチジン(DAB,Sigma)、過酸化水素(Sigma)及び塩化コバルト(Mallinckrodt)で、Harlow & Lane(1988)に記載のように展開した。すべてのインキュベーション及び洗浄はすべて軌道シェーカー上、室温で行われた。
【0114】
最後の免疫感作から7日後に、単核球細胞を脾臓及び表層腹側頸部節から単離し、以前に記述のELISPOTアッセイ(Hartmanら,1994;Hartmanら,1999)に使用する前に1mLあたり50mgのゲンタマイシンを含有するRPMI 1640中で洗浄した。洗浄した脾臓及びリンパ節細胞を計数し、培養メジウム(2mMグルタミン,1mLあたり50mgのゲンタマイシン及び10%ウシ胎児血清を含むRPMI1640)中2.5×10/mLの密度まで希釈した。100mLの細胞懸濁液を、予め炭酸塩緩衝液,pH9.6中0.1μg/ウエルのCS6抗原又はコーティング緩衝液単独でコートしたマイクロウエル中に接種した。各サンプルは四重にアッセイした。37℃で4時間インキュベートしたのち、プレートを洗浄し、ウサギ抗−モルモットIgG(1:1200)、IgA(1:700)又はIgM(ICN Laboratories)(1:800)を加えた。4℃で一夜インキュベートしたのち、プレートを洗浄し、アルカリホスファターゼ抱合ヤギ抗−ウサギ抗血清(Sigma)を1:200に希釈して添加した。2時間37℃に置いたのち、プレートを洗浄し、1mLあたり100mgの5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスフェートを含む溶解アガロース100mLの添加により、スポットを可視化した。ついで、スポット形成細胞を立体顕微鏡で計数した。
【0115】
新たに収集したマウスの糞、肺洗浄液又は膣洗浄液の肉眼検査では、血液の混入は明らかではなかった。HEMASTIXストリップ(Bayer)によりさらに試験すると、血液の混入は1μLにつき≦5−20の無傷の赤血球、又は1dLにつき≦0.015−0.062mgの遊離ヘモグロビンであった。
【0116】
糞のペレットを、自然排便によるチャレンジの前日に収集し、秤量し、100mgの糞材料あたり1mLのPBS中にホモジナイズし、遠心分離し、上清を収集し、−20℃で保存した。
【0117】
マウスを放血させ、気管を切開し、22−ゲージのポリプロピレンチューブを挿入し、PBSを静かに注入して肺を膨らませた。ついで、注入した材料を放出させ、計3サイクル再注入し、−20℃で保存した。
【0118】
膣腔を、PBS(80μL)の膣腔への穏やかな反復挿入及び吸引を計3サイクル行って洗浄した。膣からの材料を10分間3,000rpmで回転させ、上清を清潔な容器に移し、−20℃で保存した。
【0119】
BALB/cマウスをMSP1単独又はCT及びMSP1により、0,4,8及び12週に皮膚上で免疫感作した。脾臓及び排出リンパ節(鼠蹊部)組織を一次免疫後24週の時点で除去した。各群内の個々のマウスからの脾臓組織又はプールしたLNから単一細胞懸濁液を調製した。細胞を96−ウエルプレート中、ウエルあたり4×10で5日間37℃、5%COにおいて、10μg/mLのMSP1抗原の存在下又は不存在下に培養した。5μg/mLのコンカナバリンA(ConA)を陽性対照として使用した。培養メジウムは、10%ウシ胎児血清(Gibco),ペニシリン(10 U/mL,BioWhittaker)、ストレプトマイシン(100μg/mL,Bio Whittaker)、L−グルタミン(2mM,Sigma)及びHepes(10μM,BioRad)を補充したRPMI1640を含有させた。[H]−チミジン(1μCi/ウエル)を、5日間の培養期間における最後の20時間に添加した。ガラス繊維フィルター上への収穫、ついで液体シンチレーションカウンターによりチミジンの取り込みを評価した。
【0120】
CD4細胞は、CT/MSP1免疫群のプールした脾臓細胞からCD4細胞選択カラムを用い、製造業者(R & D Systems)の説明書に従ってプールした。カラム(CD4)から溶出した細胞を96ウエルプレート中、ウエルあたり1×10細胞で、ナイーブなマウスからの3×10照射(3000rad)フィーダー細胞の存在下又は不存在下に培養した。増殖アッセイは上述のように抗原刺激の存在下又は不存在下に行った。
【0121】
他の指示がなければ、示したELISAデータは個々の動物からの幾何平均値であり、誤差の線は平均からの2標準偏差を表す。抗体力価と液体蓄積(FA)の群内での比較には、ペアのないStudentの両側t検定を用い、有意差p値<0.05を有意とした。
【0122】
細菌性アジュバント及びコロニゼーション因子CS6による皮膚上への免疫感作は、保護抗体応答を生じる。TCIが、適当なETEC免疫応答を誘発するのに有効な方法であるかどうかを決定するため、マウスをCT及びrCS6を用いTCIにより4回免疫感作し、抗−CS6応答についてアッセイし、ついでCTホロトキシンを経口的にチャレンジし、急性の腸腫脹(液体蓄積)の程度を6時間後に定量した。陽性対照群は明礬中5μgのrCS6により筋肉内経路(IM)で免疫した。陰性対照群は皮膚上にrCS6単独を投与した。RCS6抗原と反応する抗体は、低(10μg)又は高(100μg)用量のアジュバントのいずれかを投与した動物における第一の免疫後に明らかであり、第二、第三のブースター免疫後に力価は上昇を続けた。アジュバント(10又は100μg)の存在下CS6に対する免疫応答は、抗原単独を12週にTCIによって送達した場合にみられる応答よりも大きかった(p<0.05)。抗−CS6力価の幾何平均は第三の免疫感作後の高用量群(CT100μg)最大であり、高い幾可平均抗−CS6力価は、筋肉内免疫感作に比べて、TCIを用いて産生されたが、いずれの差も有意ではなかった。抗−CT力価はCTアジュバントした群においてすべての時点で上昇していた。皮膚上CS6単独で免疫感作された動物は、抗原又はアジュバントに対する一定した抗体応答を発生しなかった。
【0123】
皮膚におけるナイーブな、抗原単独、及びCT+CS6(100μg/100μg)群を、TCIを用いた免疫感作後のCTによる経口的チャレンジに選択した。CS6単独及びCT/CS6群を、第三の免疫感作後11週にブースターした(研究19週時点)。2週後、動物に重炭酸塩緩衝液単独(10%NaHCO)又は10μgのCTを含有する重炭酸塩緩衝液のいずれかを給与し、得られた腸の腫脹を測定した。重炭酸塩単独を給与されたナイーブなマウスからの腸は、103(範囲78〜146)ベースラインの液体蓄積を示した。ナイーブなマウスにおけるCTの経口投与は液体蓄積に2倍の上昇を生じた(平均209;範囲164〜359)。同様に、rCS6単独でワクチン接種し、ついでCTを給与したマウスも液体の蓄積に約2倍の上昇を示し(平均192;範囲119〜294)を示した。これに反しTCIによりCTでワクチン接種されたマウスではチャレンジ後、無視できる腸腫脹を発症した(平均105,範囲84〜120)、液体応答は重炭酸塩緩衝液単独を給与されたナイーブ群で観察された場合と区別できなかった(p<0.5)。
【0124】
経皮的に投与されたCS6抗原に対するCT及びLTの匹敵するアジュバント作用.ETECワクチンに対するアジュバントとしてのLTの使用は、LTがETEC下痢の有意に多くの場合において原因物質であることから(Wolfら,1993)、また、そのため抗原及びアジュバントの両方として機能できることから、望ましいと考えられる。rCS6のためのCT及びLTアジュバントの相対的な強度を試験するために、マウスを100μgのrCS6及びある範囲(10,20及び100μg)のCT又はLTを用いて4週間隔で3回皮膚上に免疫感作を行った。得られた血清抗−rCS6及びアジュバント力価は最終の免疫感作から2週後に評価した。期待されたように抗−アジュバント(CT又はLT)IgG力価はすべてのアジュバント用量で明らかであり、力価は高く、高用量(100μg)の動物内では、最も一定していた。対照的に、CS6ならびにLT/CT群のすべてが高い抗−CS6力価を生じたものの、応答は最低用量で最高であり(10μg対100μg)、一般的にIM経路による前の経験に匹敵した。
【0125】
rCS6及びLTにより免疫されたマウスからの血清抗体はネイティブなCS6を認識する。rCS6で免疫されたマウスはELISAアッセイに使用した組換えタンパク質と反応する高力価の血清IgGを産生する。これらの結果は、TCIがETEC感染及び疾患を緩和するのに有効であることを示唆するが、重要なことは、誘発された抗体が大腸菌単離体中に存在するネイティブなCS6(nCS6)と反応するか否かであった。抗−CS6応答の特異性を試験するために、rCS6で免疫したマウスからの血清を、ネイティブなCS6タンパク質に対する反応性についてELISA及びイムノブロットアッセイで解析した。ELISAでは、rCS6及びLTに対して反応性を有する3種のサンプルそれぞれはネイティブなCS6タンパク質に対して特異的であるが、ネイティブなCS3タンパク質には特異的でないことが証明された。同様に、イムノブロットアッセイでは、rCS6及びLTで免疫されたマウスはいずれも、免疫感作rCS6抗原及び部分精製されたネイティブなCS6の両者と反応し、免疫前血清とはほとんど若しくはまったく反応しなかった。ネイティブなCS3対照抗原とは、いずれのマウス血清も反応しなかった。rCS6により非経口的に免疫された(IM注射)マウスからの血清は、経皮的に免疫したマウスからの血清の場合と同様に、ネイティブなCS6及びrCS6の両者に応答した。さらに、BALB/cマウスはC57BL/6マウスの場合と同じ様式で応答した。すなわち、rCS6を用いるTCIでは、ネイティブな抗原を認識できる血清抗体が誘発された。
【0126】
LTに対する抗体は、LTによる経口チャレンジからマウスを能動的及び受動的に保護する。しかしながら、LTはLT仲介ETEC疾患の原因物質であり、CTに酷似し、コレラトキシンBサブユニット(CTB)抗体(Clementら,1988)と交叉保護を示すが、LT抗体を使用するLTの経口的チャレンジに対する直接保護はこれまで記載されていなかった。LT及びrCS6を用いTCIにより免疫したマウスを記載のように経口的なLTによりチャレンジした。高レベルの抗−LT IgGが免疫感作マウスの血清中に検出された(BALB/cについての幾何平均=36,249ELISA単位;C57BL/6=54,792ELISA単位)。経口的トキシンのチャレンジには、チャレンジに対する感度の異なる2種のマウス株を用いた。C57BL/6マウスはBALB/cに比べLTトキシンのチャレンジに対して高度に感受性であり、両株における保護は、遺伝的にさらに異なるセッティングで保護的効果が観察されることを示唆するものである。LTチャレンジに対する有意な保護は両株でみられた(p<0.05)。
【0127】
イヌ及びヒトETEC疾患の研究は、血清抗体が無傷な細菌ならびに単離されたトキシンによる下痢に対する保護に寄与することを示唆している(Pierceら,1980;Pierceら,1972;Pierce & Reynolds,1974)。この前提に呼応し、本発明者ら及び他の研究者は以前に、経皮的に誘発された血清因子が動物をCTによる致命的な鼻内チャレンジから保護することを報告している(Beignonら,2001;Glennら,1998b)。すなわち本発明者らは、経皮的に免疫されたマウスにおけるトキシン誘発腸腫脹の防止には多分、抗毒素抗体と考えられる血清因子が寄与するものと仮定した。抗毒素抗体血清による宿主保護の役割を、TCIによって処置された動物からの血清を投与されたナイーブな受動免疫マウスの経口トキシンチャレンジによって誘発される腸腫脹を定量化することにより評価した。受動免疫の効果はBALB/c及びC57BL/6マウス株の両者において評価した。ナイーブなマウスへのLTの経口投与は常に、肉眼検査で明らかな液体の蓄積を誘発した。これに対し、受動免疫されたマウスでは、緩衝液単独給与群において観察されたものに匹敵する程度の程度の無視できる液体の蓄積を生じた。すなわち、経皮的に免疫されたマウスからの抗体を与えた受動免疫マウスは、経口的なトキシンチャレンジの続発症から保護された。また、これらの結果は、経皮的に免疫されたマウスは動物をトキシンへの暴露から保護できる血清抗体を産生することが指示される。
【0128】
TCIによるETEC抗原に特異的な粘膜IgG,IgA及び分泌型IgA応答。血清IgG応答は、多くの感染物質に対する宿主の保護を伴うが、粘膜免疫応答は粘膜から取得された病原体とくに腸病原体たとえばETECの緩和及び防止に重要であると思われる。rCS6を用いるTCIが粘膜で検出可能な抗体応答を誘発するかどうかを決定するため、皮膚上でrCS6及びアジュバントで免疫したマウスから収穫した糞、肺及び膣標本においてIgG及びS−IgA応答を分析した。C57BL/6マウスを、CS6単独、LT/CS6又はCT/CS6により3回免疫した。CS6−特異的IgGを第三の免疫感作後9週に収集した糞、肺及び膣洗浄標本中で評価した。rCS6単独での免疫感作では、高いCS6−特異的IgGは糞、肺及び膣洗浄標本のいずれにも誘発されなかった。これに反し、CT/CS6群の動物では3例中3例が検出可能な抗−CS6IgGを肺及び膣洗浄標本中のいずれにも含有した。同様にCS6特異的IgG抗体はLTアジュバント群からの肺及び膣標本中、及びCTとLTアジュバント群からの糞標本中に観察した。しかしながら、応答はあまり一定しなかった。糞サンプルの収集方法が糞抗体における一致を起こさせた可能性がある。とくに応答が中等度である場合には、他の収集方法が検討されるべきである。
【0129】
局所的に産生されるIgAは、通常分泌型鎖(SC)と会合したダイマータンパク質であり、上皮の膜を通過する輸送が可能である。TCIが分泌型IgA(S−IgA)の産生を誘導できるかどうかを決定するために、動物を皮膚上でLTにより2回免疫感作し、抗原特異的IgG,IgA及びS−IgA力価を粘膜標本においてELISAで評価した。ナイーブな動物からの標本と比較して、免疫感作マウスの糞及び膣標本では、10例中10例でLTを用いる免疫感作により抗原特異的IgG及びIgAが誘発された。さらに重要なことは、試験した10すべての糞及び膣標本でS−IgAが容易に検出されたことである。
【0130】
CT及びマラリアワクチン抗原の共投与後における保護抗毒素免疫の誘導。多重感染物質に対して標的化されたワクチン接種は期待寿命が比較的短く、2種以上の病原体による個体感染を伴う有病率及び死亡率が高い開発途上国においては望ましい。多重の無関係な感染物質に対する保護の誘発のためにTCIが使用できるかどうかを決定するため、マウスをCT及びPlasmodium falciparumのタンパク質である、メロゾイト表面タンパク質1(MSP−142)のC−末端42kDaフラグメントで同時にワクチン接種した。CT(0,10又は100μg)及びMSP(100μg)タンパク質を0,4,8及び13週に皮膚に適用した。免疫後の力価が免疫前血清の1:100希釈で測定されたODの3倍であればマウスはMSP応答性であるとみなした。この基準に基づいて、CTとMSPで一緒に免疫したマウスからの血清中にMSPを検出したが、対照群(MSP単独)から又は免疫前に収穫した(前血液)血清では検出されなかった。二重に免疫したマウスにおける抗−CT抗体応答の有効性を評価するために、高レベルの抗−CT抗体を発生したCT(100μg)プラスMSP(100μg)群からの動物にCTを経口的にチャレンジし、腸の腫脹(液体の蓄積)の程度を、MSP単独でワクチン接種したマウスにおける誘発と比較した。皮膚上CT及びMSPを一緒に免疫したすべての動物は、MSP単独への暴露群に比べてかなり低い液体蓄積レベル(p<0.01)を示した。しかも、免疫マウスからの脾臓及び排出リンパ節細胞は、排出リンパ節細胞及び脾臓中インビトロにおいて強力な抗原特異的増殖性応答を示し、これにはCD4T細胞が寄与した。これらの結果は、アジュバントに対する抗体がLT仲介疾患に対して防御を付与し、一方、他の抗原、たとえばマラリアワクチン抗原候補に対してはアジュバントとして機能することを示唆するものである。
【0131】
モルモットにおけるETEC抗原に対する免疫応答。TCIによる抗体分泌細胞(ASC)の誘導能力を評価するため、確立されたモルモットASC動物モデルを選択した。モルモットはアジュバント及び抗原の上皮投与に応答する毒性反応の評価に慣用されるモデルである。モルモットの皮膚をLT(12〜100μg)及びrCS6(25〜200μg)の増加させた用量に、日0,21及び42に暴露した。血清を血清学的検討のために日1,20,41及び56に収集し、抗原及びアジュバントに対する抗体力価をELISAによって測定した。マウスによる研究の結果と同様に、rCS6及びLTワクチンのTCI投与は、CS6及びLT濃度に関して用量相関すると思われる、CS6及びLT抗体応答の誘発を生じた(表2)。CS6に対する血清抗体の発見は、脾臓及び排出リンパ節組織におけるCS6に特異的なASCの観察によって確認された。シャムPBS及びCS6/LT免疫感作動物から新たに単離された細胞について実施されたELISPOTアッセィでは、抗原に暴露された4匹中4匹で、rCS6−特異的IgA及びIgM産生細胞の数において有意な(p<0.05)上昇が明らかにされた。抗原特異的IgA及びIgM産生細胞も、現実に検出された細胞数は少なくあまり一致しない(表3)が、上昇したものと思われる。
【表2】

【0132】
3回の暴露の各々において、処置群あたり2匹のモルモットを、及び対照群から一匹を、病理学的研究のために準備した(表2)。高用量群の組織の完全な補体を組織病理学的評価に付した。残りの群(対照、低、及び中等度群)から収集した組織は皮膚と肝臓に限られた。高用量群の肉眼的壊死及び組織病理学的検討は、いずれかの暴露における試験製品の投与に帰せられる全身的損傷を証明できなかった。肝臓の壊死はPBS対照を含めてすべての動物に肉眼的に観察されたが、この所見には処置群との相関はなかった。血清アラニンアミノトランスフェラーゼ、アスパルギン酸アミノトランスフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、ナトリウム、カリウム及び血中尿素窒素を評価し、すべての処置群で正常であることがわかった。
【0133】
LT/CS6によるTCIは暴露した局所部位に限定される、最小限から軽度の炎症の変化のみを生じ、25μg LT/50μg CS6以上への用量の増加も局所反応の重症度に見るべき影響を与えなかった。典型的な所見は、少ない数の顆粒球及びリンパ球による真皮表層への浸潤(炎症)、ケラチン細胞の過形成による表皮の軽度な肥厚(アカントシス)、及び時に、表皮細胞が凝集力を失い、遊離のケラチン細胞を含む表皮内小胞の形成を生じる小さな病巣(棘細胞離開)である。3時点における最小な変化は、最低の用量群(LT 12μg/CS6 125μg)でみられ、PBSに暴露された対照では皮膚の変化は観察されなかった。マウス及びモルモットの両者では、免疫感作の反復による皮膚所見におけるの重症度には臨床的進行はなく、みられた場合でも、小胞は消散又は圧挫されるか、数日で自然に消散する。
【表3】

【0134】
ヒト実施例
年齢18〜45歳の健康な男性及び女性ボランティアを、Washington D.C.のメトロポリタン地域から徴集した。除外基準には前年のETEC流行地域への旅行、最近の旅行者下痢歴、妊娠、HIV、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスによる感染、及び抗生物質に対するアレルギーが包含された。
【0135】
ワクチンの成分は、LTと混合したCS6抗原から構成された。CS6は現在の優れた製造実務(GMP)下でForest Glen Pilot BioProduction Facility of the Walter Reed Army Institute Researchにおいて産生された。CS6の産生のために用いた細菌株は大腸菌株HB101から構築され、CS6の発現に必要な4−遺伝子オペロンを含有するプラスミドを組換え技術によって挿入された。CS6遺伝子はETEC株E8875(Wolfら,1997)からクローン化された。CS6の産生における主要な工程には、細菌の発酵;接線流ろ過、それに次ぐ硫酸アンモニウムによる沈殿による発酵培養液からのCS6の精製;バルクCS6タンパク質のリン酸緩衝食塩(PBS)溶液中−80℃での中間的保存;解凍、攪拌及びバイアル中への分配;及び−80℃での保存が包含される。CS6はアルミニウムクリンプで封じた灰色のスプリットラバーストッパーを施した2mLの血清バイアル中に精製タンパク質として処方された。各バイアルには、PBS中0.9mL(1.3mg/mL)のCS6タンパク質が含有された。大腸菌のネイティブなLTは現在のGMP下Swiss Serum and Vaccine Institute(SSVI)で製造された。LTは大腸菌株HE22TP235Kmから産生された。LTは凍結乾燥粉末として供給された。各バイアルは500μLの凍結乾燥したLTを含有し、1mLの滅菌蒸留水で再構築された。ワクチン接種グループによるアジュバント(LT)及び抗原(CS6)の用量は表4に示す。
【0136】
ワクチンは3用量で投与された。最初の用量は日0に投与され、第二及び第三の免疫感作は最初の免疫感作から、それぞれ28及び84日目に行われた。ワクチンは、2×2インチの綿のガーゼマトリックス(2層Kendall#2556)から構成される半閉塞性パッチを用いて経皮的に投与された。これは2×2インチのポリエチレン(Saran Wrap)のバッキングでカバーされ、さらにこれは4×4インチのTegaderm包帯(半閉塞性、3M cat#1616)で覆った。
【0137】
ワクチン接種の際には、ワクチンを、500μLの滅菌食塩水中で適用し、各上腕に分割用量として投与した。各分割用量は相当する用量のCS6(抗原)単独又は250μgのLT(アジュバント)との組み合わせを含有した。上腕を診察テーブル上に半分伸ばしたように位置させ、イソプロピルアルコール(70%)の綿棒で5回軽くこすって準備した。綿のガーゼを各上腕に置き、免疫溶液をガーゼにシリンジで適用した。ついで、含浸された綿のガーゼ上にポリエチレンのバッキングを置き、Tegaderm包帯で覆った。パッチの適用後20分、観察のためにボランティアは研究クリニックに留まらせた。ボランティアは、パッチが装着されている間は、パッチに触れないこと、また激しい肉体的活動には従事しないことを指示された。適用6時間後(範囲:4〜8時間)にパッチを除去させた。ついで免疫部位を500mLの水で濯ぎ、軽く叩いて乾燥させた。ボランティアには、夜には風呂又はシャワーを使用してもよいが、免疫部位を石鹸でひどく擦ることは避け、皮膚に異常な刺激を与えないように指示された。ボランティアは最初の免疫感作から28及び84日後に再度免疫感作された。各ボランティアは各免疫感作で、同じ用量のワクチンを投与された。
【0138】
ボランティアは各投与後20分間、即時性の有害作用の発症について観察した。ボランティアには、ワクチン接種の投与後に観察される兆候及び症状を記録するために日記を与えた。記録された症状は、軽度(気付くことができる)、中等度(日々の活動に影響)又は重度(日々の活動の停止)に分類した。ボランティアは臨床的査定及び副作用の可能性評価のために、24及び48時間に評価した。ワクチンの皮膚反応の徴候を認めたボランティアには、さらに72時間に臨床的査定のためにクリニックに戻るように指示した。ついでボランティアは、副作用が完全に治まるまで必要に応じて追跡した。免疫感作部位に皮膚の発赤を発症した1例のボランティアは皮膚のバイオプシーを実施するか尋ねられた。このバイオプシーは別のインフォームドコンセントの書類に基づき、標準の操作に従って皮膚科医によって行われた。
【0139】
ワクチン抗原に対する抗体分泌細胞(ASC)の免疫応答は、以前の研究で、ASC応答が粘膜腸免疫応答と相関することが示されているので(Wennerasら,1992)、この研究の免疫学的終点として選択された。静脈血サンプルはボランティアから、免疫感作前の日0、及び最初の免疫感作後、日7,28,35,56,84,91,98及び112に取得した。血液標本はEDTA−処置した試験管のVACUTAINERシステム(Becton Dickinson)を用いて収集した。末梢血の単球細胞(PBMC)はFicoll−Hypaque(Sigma)上勾配遠心分離によって単離し、総及びワクチン特異的なIgA及びIgG ASC数をELISpot法(Czerkinskyら,1988;Wennerasら,1992)によってアッセイした。ニトロセルロース底96−ウエルプレート(Milli−titer HA,Millipore,Bedford,MA)の個々のウエルを、0.1mLの精製CS6(20μg/mL)又はGMガングリオシド(0.5μg/mL)でコーティングし、一夜4℃でインキュベートした。PBSで洗浄後に、GMでコートしたウエルをLT(0.5g/mL)に37℃で2時間暴露した。PBSで洗浄後、プレートを、5%ウシ胎児血清(Gibco)及び50μg/mLのゲンタマイシン(Gibco)を補充した完全RPMIメジウムでブロックした。完全RPMIメジウム中PBMCを2×10生存細胞/mLに調整した。最終の0.1mLのPBMC懸濁液を各ウエルに加え(ウエルあたり1×10PBMCを加えた)、プレートを、5.0%CO中37℃で4時間インキュベートした。プレートを洗浄し、一方はアルカリホスファターゼ(IgG)他方は西洋ワサビペルオキシダーゼ(IgA)(Southern Biotech Associate)と抱合した別のアイソタイプ特異性を有する2つの親和性−精製ヤギ抗−ヒト免疫グロブリン抗体混合物と4℃で一夜インキュベートし、適当なクロモーゲン酵素基質(Sigma)に暴露した。個々の細胞により分泌される抗体の地帯に相当するスポットを三重のウエルから倍率40×下に計数し、データを10PBMCあたりのスポット形成細胞数として表した。
【0140】
以前に記載されたように(Ahrenら,1998;Jertbornら,1998;Jertbornら,2001)、本発明者らは陽性なASC応答を、ベースラインサンプルにおける10PBMCあたりのASC数が≧0.5である場合、10PBMCあたりのASCのベースライン値を越えた≧2倍の上昇として定義した。ASC数が10PBMCあたり免疫感作前に0.5未満であった場合、投与後の値が10PBMCあたり>1.0であれば陽性とみなした。
【0141】
免疫前及び各免疫感作後日14及び28日に、血清抗体力価を測定するために、ボランティアから静脈血液サンプルを取得した。LTに対するIgA及びIgG抗体力価をGM1−ELISA法(Jertbornら,1998,Svennerholmら,1983)により、CS6に対する力価は前述のELISA法(Hallら,2001;Stollら,1986)によって測定した。LT(SSVIにより提供された)及びCS6(GMP,ロット0695,WRAIR)を固相抗原として使用した。ELISAアッセイに用いたLT及びCS6にはワクチン調製物について用いたのと同一ロットを使用した。個々のマイクロタイターウェル(Nunc−Immunoplate)をGM1ガングリオシド(0.5μg/mL)(Sigma)により室温で一夜コーティングするか、又はCS6の調製物1.0μg/mLの0.1mLにより37℃で一夜コーティングした。GM1で被覆されたウエルをPBSで洗浄し、0.1mLのLT(0.5μg/mL)37℃で2時間インキュベートした。0.1%ウシ血清アルブミン(Sigma)でブロックしたのち、血清サンプルを3倍希釈系列(最初は1:5に希釈)で希釈し、ついで室温で90分間インキュベートした。結合した抗体は、西洋ワサビペルオキシダーゼと抱合したウサギ抗−ヒトIgA又はIgG(Jackson ImmunoResearch Laboratories,PA)を添加し、90分間室温でインキュベートしてついでO−フェニレンジアミン(OPD)−H(Sigma)を加え、証明した。終点力価を、バックグランド(450nmにおける吸収)を0.4越える450nmのODを与えるサンプルの内挿希釈として指定した。力価を日々の変動を補償した各試験に含まれる対照標本に関連して調整した。両抗原について、同じボランティアからの投与前及び投与後血清サンプルを常に一緒に試験した。各サンプルに帰せられる抗体力価は、異なる日に実施した二重の測定値の幾何平均で表した。互いの終点力価<5は、計算の目的で2.5に割り当てた。各ELISAの方法論的誤差の本発明者らの計算に基づいて、本研究の前に、本発明者らは有意な応答(セロコンバージョン)を免疫感作前と処置後の標本の終点力価間の≧2倍の上昇と定義し(Jetbornら、1986)、免疫感作後の相互力価≧10の基準を加えることとした。
【0142】
3回のスケジュールされたワクチンの投与を受けたボランティアにはすべて、投与後の安全性及び免疫原性分析が行われた。比率はα=0.05,検定力=0.80で、2×nχ試験を用いて比較した。セルの1つに含まれる数が5未満の場合は2×2表でFisherの直接テストを用いた(Sahai & Khurshid、1995)。平均ASC数及び平均血漿抗体の力価の上昇倍率は、ワクチン接種の各連続投与のブースター効果を評価するために、別個にWilcoxon順位試験を用いた(Forrester & Ury,1969)。すべての統計学的試験は両側検定で行った。
【0143】
すべてのボランティアからインフォームドコンセントを取得し、この試験の実施に際してはU.S.Department of Defenseのヒト使用ガイドラインに従った。33例のボランティアが組み込まれ、少なくとも1回、試験ワクチンを投与された。プロトコールはInstitutional Review Board of the Office of the Surgeon General,U,S,Armyによって承認された。ボランティアは年齢21〜44歳、女性17例及び男性16例;黒人15例、白人16例及びアジア人2例であった。33例のボランティア中、試験に無関係な理由(彼らの仕事のスケジュールにおける都合(4)、D.C.メトロポリタン地域からの移動(2)、及び不法薬の使用のために地方の診療所に入院(1))から7例が試験を完了しなかった。26例のボランティアが3回のスケジュールされたワクチン投与を受け、ワクチン投与後の追跡訪問を完了し、これらのボランティアに関するデータを示した。これらのボランティアは年齢21〜44歳、女性13例及び男性13例、黒人12例、白人12例及びアジア人2例であった。ワクチンの用量によるボランティア数は表4に示す。
【表4】

【0144】
LT/CS6の組み合わせを投与されたボランティア中74%(14/19)がワクチン接種部位に丘疹状の発赤を発症した。CS6単独を投与されたボランティアには発赤の発症はなかった。反応は13例のボランティアで軽度、1例のボランティアで中等度であった。白人のボランティアでの発赤の発症は、黒人のボランティアの場合よりも有意に多かった(11/11対3/8,p<0.005)。7例の反応は第二投与後に、14例では第三の投与後に発症した。第二の投与に関連して発赤を生じた7例のボランティアはすべて第三の適用後にも発赤を発症した。臨床的診断は接触性皮膚炎(遅延型過敏症、DTH)であった。典型的な発赤を示した1例のボランティアは、LT/CS6の第三の投与後に、冒された皮膚のバイオプシーを受けた。バイオプシーでは、限局性の海綿状態を伴う軽度の皮膚慢性炎症(リンパ球)を示した。病理学的診断はDTHの特徴を有する亜急性海綿体皮膚炎であった。発赤は通常、パッチ適用後24時間以内に始まっていた。第二の投与後における発赤の発症は平均9日間(範囲1〜14)、第三の投与による発赤は平均6日間(1〜11)続いた。ボランティアには、ワクチンに関連すると思われる症状の緩和のために0.1%トリアムシノロンクリームが提供された。第一又は第二の免疫感作後にクリームを使用した対象はなかった。第三の投与後に発赤を生じた8例の患者でトリアムシノロンによる処置が行われた。ワクチンの用量により比較した場合、局所症状(掻痒)又は徴候(紅斑、丘疹)の外観及び重症度には明らかな臨床上の差はなかった。トリアムシノロンクリームの使用者と非使用者の間で比較した場合、血清学的免疫応答に統計的有意差はなかった。
【0145】
アジュバント及び抗原の両者を投与されたボランティアにのみ免疫応答が検出されたが、CS6単独を2回投与されただけで1例のボランティアが、単一の時点で、陽性の抗−CS6IgA応答を示した(ただし、CS6IgGは陽性ではない)。アジュバント及び抗原の組み合わせを投与された4群の間では、LT及びCS6に対する血清抗体又はASC応答の頻度及び大きさに有意差はなかった。したがって、さらに統計的解析及び提示を行うためにデータをプールした。LTを投与されたすべてのボランティア(100%)が血清抗−LT IgG応答を示し、90%が抗−LT IgAを産生した。抗−CS6血清抗体応答率は抗−LT応答率よりも低く、抗−CS6IgG及びIgA力価に2倍以上の上昇を示したボランティアはそれぞれ68%及び53%であった。LT及びCSに対する血清抗体における個々のピークの上昇倍率は図1に示す。LT及びCS6の両者に対する強固な応答は、血清抗体とともに観察されたが、応答の大きさには著しい変動があった。LTに対する抗−LT IgGの平均は、ほぼログだけ、以前に記載された応答の平均倍率(Glennら,2000)を超え、CS6に対する応答よりも大きかった。
【0146】
血清抗体応答の速度論を図2に示す。各群についての投与後血清抗体力価を合わせて、幾何平均力価として95%信頼間隔とともに示す。LTに対する免疫応答の速度論は、LTに対する応答の強力な始動とブースターを示すCS6に対する応答のキネティクススとは著しく異なっている。CS6に対する応答には、主にブースターが認められた。第二及び第三いずれの免疫感作後の両方にプールした抗−CS6IgG及びIgA応答には有意差が示唆されるように、CS6に対する記憶応答があるように思われる。
【0147】
ASC応答率及び抗原特異的ASC×10PMBCを表5に示す。CS6及びLTに特異的なASCの両者が検出された。特異的ASCの型によるそれぞれ個々のレスポンダーに関するピーク数ASCの時間及び大きさを図3に示す。大部分のレスポンダーにおいては、ピ−クASCは第二又は第三の免疫感作後に検出された。抗−CS6 IgG ASCが認められた7人のすべてのボランティアは、第三の免疫感作後にそれらのASCのピーク数を示した。
【表5】

【0148】
腸毒素原性大腸菌(ETEC)は、開発途上国における小児の下痢の最も一般的な原因の一つである。それはまた、旅行者下痢の主な原因である。疾患の臨床的な表出は、1又は2種のエンテロトキシン、熱不安定性エンテロトキシン(LT)及び免疫原性は弱い熱安定性エンテロトキシン(ST)を分泌する細菌によって惹き起こされる。いずれも腸に作用し、疾患の特徴である水性の下痢を生じる。感染に要求されることは、ETEC生物体が腸の上皮に付着する能力を有することである。これは線毛と呼ばれる外膜上の構造を介して行われる。一クラスとしてこれらの構造は抗原的に区別され、コロニゼーション因子抗原(CFA)と呼ばれる。今日までに20の異なるコロニゼーション因子が同定されている。最も広くいきわたり、ヒトに疾患に関連する因子には、CFA/I,CFA/II及びCFA/IVが包含される。CFA/IIは大腸菌表面抗原1(CS1),CS2及びCS3と呼ばれる3種の別個の抗原からなる。CFA/IVは3種の抗原、CS4,CS5及びCS6からなる。
【0149】
開発途上国におけるETEC感染の発症率の年齢に関連する低下は、保護免疫の発生に起因するものと考えられてきた。疫学的研究では、感染した小児は同じ化合物株による再感染に対し抵抗性になる(保護される)ことが例証されている。実験的に感染させたボランティアでは同種の株による再チャレンジから保護されることが示されている。異種のETEC株でチャレンジされたヒトボランティアは、臨床的疾患に対して防御されない。
【0150】
CFAは、ETECワクチンの評価のための候補としての可能性が同定されている。しかしながら、この自然の感染に対する広範囲のカバーのためには、ETECワクチンは多重のコロニゼーション因子抗原から構成されなければならない。最も広い範囲をカバーするためには(80〜95%)、数種のCFA(CS3,CS6及びCFA/I)及びエンテロトキシン(LT及びST)から構成される多重ワクチンの開発が要求される。経口投与は可能であるが、これらのタンパク質抗原は、胃内の低いpHでの加水分解及び酵素的分解に感受性である。しかも、経口ワクチンには大用量を要し、製品としての実用性がない。エンテロトキシン(LT及びST)は他の経路たとえば経口、経鼻、肺内、経直腸又は非経口経路による投与した場合、反応原性(下痢性)及び炎症性であるから、ETECワクチンは他の投与経路に適用できない。
【0151】
TCIの有効性及び安全性は、このワクチン接種の問題にも適用された。以下の実施例において、CS3,CS6,CFA/I,LT及びSTの多価の組み合わせが、透過の増強下又は増強を行わないで、角質層を通過して効果的送達が可能であり、それらは多価ワクチンの各成分に対する免疫応答を誘発することが証明される。TCIによるワクチン接種は、低用量の抗原(CS3,CS6及びCFA/)を要求し、免疫応答は同時に共投与されるアジュバントによって有意に増強される。TCIは、安全にまた重篤な有害副作用を誘発することなく実施することができる。本発明者らは、経皮免疫感作のための抗原及びアジュバントの有効な用量、効果的な投与基準、ワクチンの皮膚内の抗原提示細胞への至適送達、安定な医薬的に許容される処方を記述する。
【0152】
材料及び方法
主要な研究は、CFA及びLTの複合混合物によるTCIのための至適方法を確立するために実施された。以下の研究の目的はCS3,CS6,CFA/I,LT及びSTaの混合物によるワクチン接種が実行可能であることを証明することであった。これらの研究では、成熟C57BL/6マウス(7〜8週齢)を使用した。
【0153】
マウスは、尾の基部において背腹側表面を、ワクチン接種24〜48時間前に剃毛した。すべてのマウスはケタミン(100mg/mL)及びキシラジン(100mg/mL)の混合物25μLの腹腔内注射によって麻酔した。剃毛部位を食塩水又は10%グリセロールと70%イソプロピルアルコールの混合物による水和で前処置した。まだ完全に水和されている間に、2つの方法の1つで皮膚の最外層、角質層(SC)を穏やかに処置して破壊した。テープ剥離は3M又はD−squame(商標)接着テープを処置表面に適用し、ついでテープを穏やかに除去することを10回実施した。別法として、水和した皮膚を紙やすり(GE Medical Systems)又は軽石を含む綿棒(PDI/NicePak)で穏やかに研摩して前処置した。皮膚表面を、上下動を用いて10回緩衝した。接着性バッキングに固着させたNu−ガーゼパッド(約1cm)に、その適用の直前に、CS3(25μg)、CS6(25μg)、CFA/I(25μg)、STa(8μg)及びLTR192G(25μg)の様々な組み合わせを含有する25μL容量を負荷した。ワクチン負荷パッチは一夜(約18時間)適用し、除去し、皮膚を水で濯いだ。すべてのマウスは2週の間隔をあけて2又は3回、日0,14及び28に投与された。
【0154】
末梢血を尾静脈を裂いて得られた。血液は試験管中に回収し、凝血させ、遠心分離し、血清を収集した。サンプルは日0(免疫前)、日14、日28及び日42(第三の投与後2週)に収集した。血清はワクチン接種抗原(CS3,CS6,CFA/I及びSTa)及びアジュバント(LTR192G)に対する抗体について評価するまで−20℃で凍結した。後者はU.S.Navy Medical Research Centreによって提供された。
【0155】
糞サンプルは日35(第三の免疫感作後7日目)に収集した。新鮮なサンプルを各マウスから収集し、PMSF(食塩水中3μg/mL)で抽出した。サンプルを攪拌(Vortexミキサー)して懸濁液を形成させ、遠心分離(3,000rpm,Microfuge)により澄明にした。澄明な上清を回収し、ELISA法による粘膜IgG及びIgAの評価まで−20℃に保存した。
【0156】
血清IgGの評価には、固相酵素免疫測定法(ELISA)を使用した。96ウエルプレートをウエルあたり1μg抗原/100μLで一夜℃においてコートした。リン酸緩衝食塩溶液及びTween20(PBS−T)で洗浄後、プレートを100μLのブロッキング緩衝溶液(0.5%カゼイン及び0.5%ウシ血清アルブミン)により室温で1時間ブロックした。プレートをPBS−Tで洗浄後、サンプルを、系列希釈(血清サンプルは3倍系列希釈、糞サンプルは2倍系列希釈)で希釈した。プレートを一夜4℃でインキュベートした。プレートをPT緩衝液で洗浄し、HRP(Bio Rad)抱合至適希釈(1:2,000)ヤギ抗−マウスIgG又は抱合ヤギ抗−マウスIgA(Zymed)100μLを各ウエルに加えた。プレートを室温で2時間インキュベートし、PT緩衝液で洗浄し、100μLの基質ABTS(KPL)をウエルに加え、30分反応させた。100μLの1%SDS溶液(Gibco)を加えて反応を停止させた。ELISAプレートリーダーにより405nmで光学密度が読み取られ、データはSoftmax Pro2.4ソフトウエア(Molecular Devices)を用いて解析した。
【0157】
ホルマリン不活性化ETEC全細胞に対する血清抗体をELISA法で測定した。腸毒素性大腸菌株E243778をアガールプレート上で培養し、細胞を収穫し、2.5%ホルマリン中、室温で一夜不活性化した。ウエルを5×10の死滅全細胞(EWC)によりコートした。プレートは他の抗原についての記載と同様にして調製した。EWCに対する血清抗体は上述の方法で測定した。
【0158】
マウスを二酸化炭素で窒息させて屠殺し、脾臓と鼠蹊部リンパ節を摘出した。組織を、RPMI1640メジウム(Gibco)を含有する試験管中、氷上に維持した。組織を5ccシリンジのバレルで磨砕して単一細胞懸濁液を調製した。組織屑を試験管の底に沈着させ、細胞懸濁液を別の試験管に移した。細胞をRPMI1640メジウムで2回洗浄し、培養メジウム(RPMI1640,10%FBS,2mmol L−グルタミン及び2mmolペン−ストレップ)中に懸濁した。
【0159】
96ウエルろ過プレート(Millipore Bedford,MA)をPBS中3μg/mLの抗原100μLでコートし、一夜4℃でインキュベートした。プレートを3回PBAで濯ぎ、2%BSA(Sigma)で1時間ブロックし、BSAで濯いだ。細胞を、培養メジウム(RPMI 1640,10%FBS,2mmol L−グルタミン及び2mmolペン−ストレップ)中各ウエルあたり100μLで分配し、プレートを加湿した5%COインキュベーター中37℃で一夜インキュベートした。プレートをPBS−0.05%Tween20(PBS−T)で4回洗浄した。細胞を水による低張ショックにより溶解した。100μLのビオチン抱合ヤギ抗−マウスIgA(Southern Biotechnology)又はビオチン抱合ヤギ抗−マウスIgG(Amersham)のPBS中2%BSAでの1:2000希釈液を加えた。プレートを室温で2時間インキュベートした。プレートをPBS−Tで洗浄後、100μLのアルカリホスファターゼ標識アビジンD抗体(Vector)1:2000を各ウエルに加え、さらに2時間室温でインキュベートした。プレートをPBS−Tで洗浄し、100μLのBCIP/NBT溶液(Kirkegaard & Perry)をウエルに加えて、プレートを室温で5〜30分間、青色のスポットが現れるまでインキュベートした。プレートを蒸留水で洗浄して反応を停止させた。抗原特異的ASCを青色のスポットとして可視化し、解剖顕微鏡で計数し、細胞10あたりのIgG−ASC又はIgA−ASCとして記録した。
【0160】
ETECエンテロトキシンLTに対する中和抗体の特性を解析するためのインビトロアッセイ
大腸菌からの熱不安定性エンテロトキシン(LT)はA及びBサブユニットを有する多重サブユニットとして産生される。エンテロトキシンの宿主細胞膜受容体(GM1ガングリオシド)との初期の相互作用ののち、Bサブユニットは細胞膜を貫通して真核動物細胞内へのAサブユニットの透過を容易にする。化学的還元により、このAサブユニットは2つの小さいペプチドに解離する。Aは、上皮細胞の基底外側表面上のアデニレートサイクラーゼ酵素複合体における刺激GTP−結合タンパク質のADP−リボシル化を触媒する。これはサイクリックAMP(cAMP)の細胞内レベルの上昇を生じる。このcAMPの上昇は水及び電解質の小腸への分泌を惹き起こし、臨床的疾患を生じる。
【0161】
細胞培養液中において、LTは高い親和性(K=7.3×10−12)でGM1ガングリオシド受容体に結合し、これは多くの真核動物組織及び細胞で発現される。LTは細胞培養中、多くの真核動物細胞(たとえばCHO及びY1)に対して著しい形態学的変化を生じる。この性質を用いて、TCIによって誘発された抗体がGM1ガングリオシド受容体へのLTの結合を阻害(中和)するかどうかを決定するためのインビトロアッセイ方法が開発された。これらの研究では、CHO細胞を、10%ウシ胎児血清(FCS)を補充したF12メジウム中で培養した。細胞は、37℃,5%COで対数期の増殖を維持させた。細胞はTフラスコからトリプシン化し、96ウエルプレートに、1%FCSを補充したF12の0.2mL中5×10でプレーティングした。LTで経皮的にワクチン接種し、ELISA法でLTに対する抗体を持つと決定されたボランティアから、免疫前(日0)及び免疫後(日321)の血清を収集した。これらの血清は培養メジウムで1:4希釈し、一連に2倍希釈し、1:8192まで希釈した。等容量の希釈血清をLTと1時間37℃で混合した。50μLの血清/LT(6.5ngのLT含有)を、新たにプレーティングしたCHO細胞培養物(15μLのメジウム中5×10細胞)の二重サンプルに移した。細胞を37℃で24時間培養した。培養期の終了時に、メジウムを除去し、細胞をF12で洗浄し、メタノールで固定し、ギムザ染色で染色した。培養物を倒立光顕微鏡で調べ、培養物を正常な外観又は延長した形態に分類した。結果は、培養物内で90%を超えて細胞の延長をブロック(中和)した、血清の最低希釈として表した。
【0162】
免疫原性及び皮膚を通しての送達を改善するため、熱安定性トキシン(STa)のLT又は他の運搬タンパク質に対する抱合
STa(ロット1184A,List Biological)のLTへの抱合は2工程を含む。第一の工程はLTのマレイミド活性化であり、400μgのLT(ロット200 100,Berna Biotech)を400μLのリン酸緩衝0.15M NaCl緩衝液(pH7.2)に溶解した。160μLのスクシンイミジル1−6[(β−マレイミドプロピプロピオンアミドヘキサノエート)](SMPH,Pierce)を約8μLのLR溶液に添加し、90分間室温でインキュベートした。反応混合物を脱塩カラム(Pierce)上でPBSを用いて脱塩し、分画を収集した。活性化LTピークをプールし、BCAアッセイ(Pierce)によりタンパク質を測定した。第二の工程は抱合であり、80μgのSTaをマレイミド活性化LTと混合し、一夜4℃でインキュベートした。ST−LT抱合体を500mLのPBS緩衝液に対して透析した。
【0163】
精製したSTa(100μg)を、10mgの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(Pierce)及び0.1Mのリン酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)を含有する反応混合物1mL中の800μgのニワトリ卵オバルブミン(OVA,Sigma)にカップリングさせた。反応混合物をリン酸緩衝食塩溶液(20nm,pH7.2,PBS)に対して4時間透析した。
【0164】
抱合は、SDS−PAGE法を用いて、オバルブミン及びLT−Bの分子量におけるシフトによって確認した。各サンプルは4×サンプル緩衝液(Initrogen)に溶解し、100℃に5分間加熱し、NuPAGE4−12%Bis−Trisゲル(Initrogen)を分析した。電気泳動後、タンパク質のバンドを、銀染色キット(Initrogen)を用いて可視化し、抱合体の分子量を、ゲル上を流した内部対照標準との比較で測定した。
【0165】
例1.ETECコロニゼーション因子による経皮的及び皮内ワクチン接種に対する血清IgG応答の比較
この研究の目的は、CS3及びCS6による経皮的ワクチン接種により誘発される免疫応答を、皮内ワクチン接種の場合と比較することを目的とする。グループのマウスを10回のテープ剥離により前処置し、角質層を除去した。5匹のマウスの群を、10μgのLTR192Gアジュバントを使用し又は使用しないで、CS3(25μg)、CS6(25μg)で経皮的にワクチン接種した。パッチにはCS3もしくはCS6単独、又はCS3プラスLTR192GもしくはCS6プラスLTR192Gを含有する容量25μLを負荷した。パッチは一夜(約18時間)適用した。マウスの別の群には25μgのCS3又はCS6を皮内注射した。すべてのマウスに3回のワクチン接種(日0,14及び28)を行った。第三の免疫感作の2週後に血清を収集し、CS3,CS6及びLTR192Gに対する抗体について評価した。
【0166】
図4に示す結果は、CS3及びCS6は経皮的に皮膚に適用した場合、血清抗体を誘発することを証明する。この血清抗体応答は低用量のLTR192G(10μg)を共投与することによってさらに増強された。図4に示すように、CS3及びCS6に対する血清力価は、LTR192Gアジュバントの付加によって、それぞれ2倍及び12倍に上昇した。CS3の皮内注射は上皮への適用(1:30,581)に比べて高い力価応答(1:273,695)を誘発したCS6での経皮的ワクチン接種はきわめて高い力価の抗体を誘発した(1:188,984)。これはCS6の皮内注射(1:17,036)に比べて10倍大きかった。さらに、LTR192Gを単独でも、又はCS3もしくはCS6との組み合わせで上皮に適用してもLTR192Gに対する高い抗体力価が検出された。これらの結果は、高分子量のETEC抗原(CS3は約3メガダルトン、CS6は約1メガダルトン)は、角質層を除去する前処置を施した皮膚にパッチとして投与した場合、免疫原性であることを示している。免疫応答の大きさはアジュバント(LTR192)の共投与で著しく増強された。変異体LTR192Gも単独で又はCS3もしくはCS6との組み合わせで上皮に適用した場合、それ自身に対する高力価の抗体の産生を誘発した。
【0167】
例2.ETECサブユニットワクチンの2価及び3価の組み合わせによる経皮的ワクチン接種
皮膚は例1に記載のように前処置した。マウスは25μg CS3/10μg LTR 192G;25μg CS6/10μgLTR192G;又は25μg CS3/25μg CS6/10μgLTR192Gのカクテルを含有するパッチで経皮的にワクチン接種した。結果は図5に示す。これらの結果は3価のワクチンの組み合わせ(CS3/CS6/LTR192G)が、2価ワクチン(CS3/LTR192G及びCS6/LTR192G)に匹敵する血清IgG力価を誘発することを証明する。
【0168】
これは、多重ETECサブユニットワクチンを単一のパッチ中に組み合わせるにとの実行可能性、及び多重サブユニットワクチンがいずれのサブユニット(すなわち、CS3又はCS6)に対する免疫応答の大きさにマイナスに影響することなく共投与できることを明瞭に証明するものである。
【0169】
例3.LTR192Gアジュバントを共投与又は共投与しない場合のCS3/CS6を用いたTCI
次の研究は、上皮投与されたCS3及びCS6の組み合わせに対する免疫応答を、LTR192Gがアジュバントするか否かを決定するために行われた。動物を例1に記載のように前処置し、ワクチンを負荷したパッチを前処置した皮膚(尾の基部)に適用した(一夜)。図6に示した結果は、CS3及びCS6に対する免疫応答が、3価の混合物に対する10μgのLTの添加によって、それぞれ5倍及び24倍に著しく増強されたことを証明する。これは、3種のETEC抗原による経皮的ワクチン接種が実行可能であることを確立する。LTR192Gは重要なアジュバント及び抗原であり、それはCS3に対する免疫応答を5倍まで及びCS6に対する免疫応答を24倍まで上昇させた。
【0170】
例4.CS3及びCS6分子は抗原的に異なっている
CS3及びCS6に対する免疫応答の特異性を決定した。マウスをテープの剥離によって前処置し、パッチを2回、一方は日0に他方は日14に投与した。動物のグループを25μgのCS3/10μg LTR192G又は25μgCS6/10μgLTR192Gでワクチン接種した。第二の免疫感作後10日目(日24)に血清を収集し、CS3及びCS6に対する抗体について評価した。図7に示す結果は、CS3でのワクチン接種がCS6と交叉反応性を示さない特異的抗体を誘発することを証明する。同様に、CS6に対する抗体はCS3を認識しなかった。これらの結果は、CS3及びCS6に対する免疫は高度に特異的であり、腸毒素原性大腸菌株に対する広範囲の保護を意図するETECワクチンは多価であることが必要なことを明瞭に示している。
【0171】
例5.CS3及びLTR192Gを用いるTCIはIgG1及びIgG2aサブクラス抗体を誘発する
マウスは、それらの尾の基部において予め剃毛し、皮膚を10%グルセロール及び70%イソプロピルアルコールで水和した。それらの水和した皮膚を紙やすりで10回前処置した。マウスのグループを25μgのCS3単独又は25μgのCS3/10μg LTR192Gの組み合わせでワクチン接種した。マウスは経皮的に3回(日0,14及び28)ワクチン接種され、第三の免疫感作後30日目(日58)に血清を収集した。図8に示す結果は、この場合に誘発される主要なIgGサブクラスはIgG1であることを証明するものである。IgG1の力価は、LTR192GアジュバントがCS3と共投与された場合より大きかった。さらに、測定可能な抗原特異的IgG2aも検出された。しかしながら、IgG2aサブクラスはアジュバントを共投与した場合にのみ検出された。これらの結果は、LTR192GアジュバントがCS3に対する血清抗体応答を増強することを確認及び拡大するものであり、さらにアジュバントは上皮の経路で送達された抗原に対するTh2及びTh1免疫応答も指示できることを証明するものである。
【0172】
例6.CS6及びLTR192Gを用いるTCIはIgG1及びIgG2aサブクラス抗体を誘発する
マウスは剃毛し、例5に記載のように前処置した。マウスのグループに、経皮的に25μgのCS6単独又は25μgのCS6/10μg LTR192Gの組み合わせのワクチンを投与した。マウスは3回(日0,14及び28)ワクチンを投与され、第三の免疫感作後30日目(日58)に血清を収集した。図9の結果は、LTR192GがCS6に対する血清IgG応答をアジュバント(増強)したことを証明する。CS3と同様に、CS6に対する抗体はIgG1及びIgG2aサブクラスの両者であった。しかしながら、CS6−特異的IgG2aの発生はLTR192Gアジュバントの使用に依存した。
【0173】
例7.TCI後、LTR192Gに対して誘発される血清IgGサブクラス
マウスは例5及び6の記載と同じ操作で前処置した。マウスに、経皮的に3回(日0, 14及び28)ワクチンを投与し、第三の免疫感作後30日目(日58)に血清を収集した。図10に示す結果は、IgG1がTCIによって誘発される主要な血清抗体サブクラスであることを示している。CS3,CS6,LTR192G−特異的IgG2aサブクラスも同様にTCIにより誘発された。
【0174】
例8.TCIにおいてCS3又はCS6を用いて共投与された場合、LTR192Gに対して誘発される血清IgGサブクラス
マウスは例5〜7記載の操作で前処置した。本研究では10μgのLTR192Gを25μgのCS3又は25μgのCS6と混合した。マウスのグループに、経皮的に3回、日0,14及び28にワクチンを投与し、第三の免疫感作後30日目(日58)に血清を収集した。例7で観察されたように、血清IgG1がLTR192Gに対して誘発された主要なサブクラス抗体であった(図11)。測定可能なIgG2aも産生された。この研究は、CS3/LTR192G又はCS6/LTR192Gの組み合わせを用いたワクチン接種が、アジュバントに対する抗体の産生にネガティブに影響しなかったことをさらに証明するものである。これらの結果は、ETECワクチンの成分としてのLTR192Gは、アジュバントとして及びワクチン中の抗原として、二重の目的で働くことを指示するものである。
【0175】
IgGサブクラスの特性決定の重要性は、経皮的なETECワクチンが自然感染に対して保護を示す機構に関係する。これらの結果は、経皮的なワクチン接種が、自然感染に対する宿主の保護に異なる機能を示すことが期待される2つのIgG抗体サブクラスを誘発することを証明する。これらの機構は「中和」及び「補体仲介細胞毒性」によるものである。CS3及びCS6に対するIgG1抗体は、たとえば、病因に必須な工程である小腸でのCS3及びCS6ETEC株によるコロニー形成能を遮断(中和)することが期待される。IgG2aクラスの抗体には様々な機構による感染から宿主を保護することが期待される。このクラスの抗体は、腸毒素原性大腸菌の表面上でCS3又はCS6抗原と複合体を形成した場合、補体の活性化を仲介し、それが一連の酵素工程を経て細菌細胞の溶解(死滅)をもたらす。いずれの機構も感染からの対象の保護に効果的である。
【0176】
例9.TCI後のCS3抗原に対する粘膜免疫
ETECサブユニットワクチンを用いるTCIにより誘発される粘膜(胃腸管)免疫応答を特徴づけた。試験はLTR192Gを用いた場合、及び用いない場合で、CS3によるTCIが胃粘膜で抗体の産生を生じるかどうかを決定するために実施された。マウスは尾の基部で剃毛し(48時間前)、水和した皮膚でテープを10回剥離した。ワクチンを負荷したパッチを前処置した皮膚の上に置いた。マウスのグループは以下の処方を含有するパッチを受けた。すなわち、リン酸緩衝食塩溶液(PBS);25μgのCS3単独;及び25μg CS3/10μg LTR192Gである。パッチは一夜適用した。別個の群のマウスには25μg CS3の皮内注射によりワクチン接種した。すべてのマウスは3回ワクチン接種した(日0,14及び28)。第三の免疫感作後7日目(日35)に糞サンプルを収集した。サンプルを材料と方法の項に記載したように処理した。CS3単独によるワクチン接種は1匹の動物の例外を除いて抗原特異的抗体を誘発しなかった(図12B及びC)。CS3/LTR192Gでワクチン接種されたマウスは検出可能なCS3に対する糞中IgGを発生した。CS3に対する糞IgAは低レベルであった(図12C及びG)。CS3による皮内ワクチン接種は測定可能な、CS3に対する糞中IgA及びIgGを生じた。
【0177】
例10.TCI後のCS6抗原に対する粘膜免疫
マウスは例9に記載のように前処置し免疫した。マウスのグループを以下の処方を含有するパッチで経皮的にワクチン接種した。すなわち、リン酸緩衝食塩溶液(PBS);25μgのCS6;25μg CS6と10μgのLTR192Gである。パッチは一夜適用した。別個の群のマウスには25μg CS6単独の皮内注射により免疫感作した。すべてのマウスは3回ワクチン接種し(日14及び28)、第三の免疫感作後7日目に糞サンプルを収集した。これらの結果は図13に示す。CS6単独を投与されたマウスは糞中IgA及びIgGをほとんど又は全く発生しなかった(パネルB及びF)。CS6/LTR192Gで経皮的にワクチン接種されたマウスは力価の低いが測定可能なCS6−特異的IgA(パネルC)を有した。CS6−特異的IgGはすべてのマウスのサンプル中から容易に検出された(パネルG)。CS6を皮内に投与されたマウスは測定可能な抗原特異的IgA及びIgG(パネルD及びH)を発生した。
【0178】
例11.TCI後のLTR192G抗原に対する粘膜免疫
マウスは例9に記載のように前処置し免疫した。マウスのグループを以下の処方を含有するパッチで経皮的にワクチン接種した。すなわち、リン酸緩衝食塩溶液(PBS);10μgのLTR192G単独;25μg CS3/10μg LTR192G;及び25μg CS6/10μg LTR192Gである。パッチは一夜適用した。別個の群のマウスには25μg CS6単独の皮内注射により免疫感作した。すべてのマウスは3回ワクチン接種し(日0,14及び28)、第三の免疫感作後7日目に糞サンプルを収集した。これらの結果は図14に示す。TCIによりLTR192G単独を投与されたマウスは測定可能な糞中IgA及びIgGを発生した(パネルB及びF)。CS3/LTR192Gで経皮的にワクチン接種されたマウスは測定可能なLTR192G−特異的IgA(パネルC)及び糞中IgG(パネルG)を発生した。CS6/LTR192Gで経皮的にワクチン接種されたマウスは測定可能なLTR192Gに対する糞中IgA及びIgG(パネルD及びH)を発生した。これらの結果は、多価ETECワクチンにおけるLTR192Gの二重の役割、すなわち、コロニゼーション因子抗原に対する全身性及び粘膜性免疫応答をブースターするための強力なアジュバント及び熱不安定エンテロトキシン、臨床的疾患に関与するトキシンに対するワクチンとしての役割を支持する。
【0179】
例12.2価のETECワクチンを用いるTCIは脾臓内に抗原特異的抗体分泌細胞(ASC)を誘導する
次に、ワクチン接種されたマウスの脾臓内で抗原特異的B細胞を検出した。マウスは例9に記載のように、前処置し、経皮的にワクチン接種した。
マウスの群を以下の処方のいずれかを用いてワクチン接種した:25μgCS3;25μgCS3/10μgLTR192G;25μgCS6;又は25μgCS6/10μgLTR192G。パッチを前処理した皮膚に対し一晩適用した。別のマウス群は、尾の基において、25μgのCS3及び25μgのCS6を用いた皮内注射によりワクチン接種した。すべてのマウスは3回のワクチン接種を受けた(日0、14及び28)。方法及び材料の項に記載したように、脾臓を第3の免疫感作(日58)の30日後に回収し、単一細胞懸濁液を調製し、抗原特異的IgG(IgG−ASC)及びIgA(IgA−ASC)を産生するB細胞の同定のために染色した。CS3単独(図15、パネルA及びB)又はCS6単独(図15、パネルC及びD)を用いて経皮的に免疫感作したマウスからの脾臓には、IgA‐又はIgG−ASCは一切検出されなかった。それに対して、CS3/LTR192G又はCS6/LTR192Gを用いて経皮的に免疫感作したマウスはCS3−及びCS6−特異的IgA−及びIgG−ASCを生じた。これは、脾臓におけるASCの発生がアジュバントの同時投与に依存することを示している。さらに、LTR192G特異的IgA−及びIgG−ASCが、二価のワクチン(即ち、CS3/LTR192G及びCS6/LTR192G)を用いてワクチン接種したマウスの脾臓懸濁液に存在した。これらの結果は、TCIによる抗原特異的B細胞免疫の発生がこれらの抗原についてのLTR192Gの同時投与に依存することを証明している。
【0180】
例13.3価のETECワクチン(CS3,CS6及びLTR192G)を用いるTCIは脾臓に抗原特異的抗体分泌細胞を誘導する
この研究の目的は、3価のETECワクチンを用いるTCI後の脾臓におけるB細胞応答を特性づけることであった。マウスを例12の記載のように前処置し、ワクチン接種した。マウスは、25μg CS3/25μg CS6/10μg LTR192Gのカクテルを含むパッチでワクチン接種した。パッチを一夜適用し、すべてのマウスは3回(日0,14及び28)に経皮的にワクチン接種した。第三の免疫感作後30日目(日58)に脾臓を収集した。脾臓細胞を、材料と方法の項に記載のように培養し、抗原特異的ASCを染色し、計数した。結果は図16に示す。3価のワクチン(CS3,CS6及びLTR192G)でワクチン接種したマウスはワクチン中の各ETEC抗原に対するIgA−ASC(パネルA)及びIgG−ASC(パネルB)を発生することが見出された。これらの結果は、ETECサブユニット抗原の混合物による経皮的ワクチン接種が実行可能であり、脾臓内に抗原特異的B細胞のクローン性増殖を誘導することを証明するものである。
【0181】
例14.1価又は2価のETECサブユニットワクチンを用いるTCIはリンパ節に抗原特異的抗体分泌細胞を誘導する
尾の基部における経皮的なワクチン接種は、尾の背部皮膚表面を排出するリンパ節内のB細胞のクローン性増殖を生じると仮説されている。この仮説を試験するため、マウスを、テープを10回剥離した尾の基部の皮膚で上皮的に免疫感作した。マウスのグループを以下の処方を3回投与した。すなわち、25μg CS3;25μg CS6;25μg CS3/10μg LTR192G及び25μg CS6/10μg LTR192Gである。パッチは一夜適用した。別個の群には、25μg CS3又は 25μg CS6を皮内に注射した。すべての群は3回(日0,12及び28)ワクチン接種し、第三の免疫感作から30日後に鼠蹊部リンパ節を収集した。単一細胞懸濁液を調製し、抗原とともに培養し、これをマイクロウェル上にプレーティングした。IgG−及びIgA−ASCを材料と方法の項に記載したように染色して可視化した。図17に示した結果は、CS3−又はCS6−特異的IgG−ASCの発生(それぞれパネルA及びB)はアジュバントの共投与に依存することを証明する。また、CS3,CS6及びLTR192G特異的なASCは脾臓よりも鼠蹊部リンパ節に多いことも観察された(図15)。これは、皮膚免疫感作が同様に、内在性皮膚ランゲルハンス細胞の移動と活性化を包含し、(LTR192GのGM1受容体との相互作用によって活性化されるという仮説と一致する。抗原が負荷され、活性化されたランゲルハンス細胞は上皮から出て、真皮を貫通して排出リンパ管に移動するものと考えられる。リンパ節内のレジデンスに取り込まれた、抗原を有するランゲルハンス細胞はB細胞のクローン性増殖を惹き起こし、したがってそれを排出鼠蹊リンパ節内におけるCS3,CS6及びLTR192Gが比較的豊富になる。
【0182】
例15.TCIによって送達されるETEC抗原の複合混合物に対するB−細胞免疫の発生
本発明者らはまた、抗原の複合混合物による免疫感作にTCIが適していることも証明する。マウスは例14に記載したように前処置し、免疫した。パッチには、次の処方:25μg CS3,25μg CS6及び10μg LTR192Gの3種のETEC抗原のカクテル負荷した。3種の上皮免疫感作ののち、鼠蹊部リンパ節を収集し、CS3,CS6及びLTR192G特異的IgG−ASCを測定した。図18は3価のETECワクチンを用いるTCIが、ワクチン中の各サブユニット抗原に特異的なASCの発生を刺激しなかったことを示す。
【0183】
例16.CFA/Iによる経皮的ワクチン接種は全身性免疫を誘発する
高分子量抗原の混合物により皮膚を介して免疫することの可能性が確立されたので、本発明者らは次に、4価のETECワクチンによるTCIの実行可能性を検討した。CFA/Iは世界中から単離されたETEC株によって広く発現されている。すべてのヒトETEC株の30%がCFA/Iを発現すると推定されている。最初、本発明者らは、CFA/Iが皮膚に送達された場合、免疫原性であるかどうかを決定した。これらの研究では、マウスを尾の基部で剃毛し、皮膚を水和し、紙やすりで5回穏やかに研摩して角質層を破壊した。以下の処方のいずれかをパッチに負荷した:25μg CFA/I/10μg LTR192G。パッチは一夜適用した。別個のグループは25μg CFA/Iを皮内注射して免疫した。すべてのマウスに2回(日0及び14)投与を行い、第二の免疫感作から10日後(日24)、分析のために血清を収集した。図19に示すように、CFA/Iで経皮的にワクチン接種されたマウスは、2回の免疫感作後に血清抗体を発生した(パネルA)。LTR192Gとの共投与では血清学的応答は約8倍に上昇し、LTR192Gは、皮膚に提示された抗原に対する免疫応答を刺激する一般的なアジュバントであることを指示する。期待されたように、経皮的にワクチン接種されたマウスはLTR192Gに対する抗体も発生した(パネルB)。
【0184】
例17.CFA/Iによる経皮的ワクチン接種は粘膜免疫を誘発する
例16においてCFA/Iにより経皮的に免疫されたマウスから、新鮮な糞サンプルを収集した。糞サンプルはCFA/I特異的なIgA及びIgGについて試験した。図20に示すように、CFA/I単独では、検出可能な糞中IgA(パネルB)及びIgG(パネルF)の発生を誘発しなかった。CFA/IとLTR192Gを投与されたマウスでは、ワクチン接種後に糞中IgA(パネルC)及びIgG(パネルG)が産生された。興味あることに、CFA/Iを皮内注射により投与されたマウスでは、抗原に対する糞中の抗体は発生しなかった(パネルD及びH)。
【0185】
例16及び17はCFA/Iによる経皮的ワクチン接種が実行可能であること、及び大部分がアジュバントの共投与に依存する全身性及び粘膜応答の産生を証明するものである。
【0186】
例18.4価のETECワクチンによる経皮的ワクチン接種は全身性免疫を誘発する
ETEC感染を防止するためのワクチンによる広いカバーには多価のワクチンの使用が要求される。疫学的研究では広いカバー(ETEC株の80〜90%)の、ETECワクチンは、大腸菌熱不安定性エンテロトキシン(LT)と少なくとも3種のコロニゼーション因子抗原の組み合わせが要求されるようであると考えられる。以下の研究は、4価のワクチンによる経皮的ワクチン接種が実行可能であることを証明するために実施された。マウスはTCIの約48時間前に前処置し、皮膚を10%グリセロール及び70%イソプロピルアルコールで水和した。ワクチン部位は、紙やすりで5回前処置し、ワクチンを負荷したパッチを皮膚に適用した。ここで用いた処方は、25μg CFA/I,25μg CS3,25μg CS6 及び10μg LTR192Gである。マウスは日0及び14の2回にワクチン接種し、第二の免疫感作から10日後(日24)に評価のために血清を収集した。図21に示す結果は、ワクチンの4成分のすべてが、2回の免疫感作後に血清応答を誘発したことを示す。また、LTR192G−アジュバントの用量(10μg)は、免疫を達成するためにさらに増量させる必要はなかったことも指摘される。サブユニットワクチンの複合混合物は皮膚を通して送達され、LTR192Gのアジュバント活性はアジュバントの用量の更なる増量を要求しないことが明瞭に指示されるので、この観察は重要である。さらに、LTR192Gの抗原性は多重抗原(CS3,CS6又はCFA/I)の共投与によって減弱されなかった。
【0187】
例19.4価のETECワクチンを用いる経皮的ワクチン接種はコロニゼーション因子抗原に対する粘膜免疫を誘発する
マウスは例18の記載のように前処置した。マウスのグループを以下の処方を含有するパッチでワクチン接種した。すなわち、25μg CFA/I,25CS3,25μg CS6及び10μg LTR192Gである。すべてのマウスは尾の基部で、日0,14及び28に経皮的にワクチン接種した。第三の免疫感作から2週後(日42)に糞サンプルを収集した。サンプルは処理し、ワクチン中の各抗原に対する抗体について評価した。図22に示す結果は糞中にCFA/I(パネルA及びD)CS3(パネルB及びE)及びCS6(パネルC及びF)に対するIgA及びIgGが誘発されたことを証明する。
【0188】
例20.4価のETECワクチンを用いるTCIは抗−トキシン(LT)免疫を誘発する
例18及び19に記載のようにワクチン接種したマウスから、糞サンプルを収集した。サンプルを材料及び方法の項に記載のように処理し、LTR192Gに対する糞中IgA及びIgGについて評価した。図23に示すように、LTR192Gは抗原特異的IgA及びIgG抗体の有意な力価を誘発した。この場合、アジュバント単独(パネルA及びD)、CFA/I抗体と(パネルB及びE)又は4価のカクテルとして(パネルC及びF)投与した。
【0189】
上記のこれらの例は、多価ワクチンが皮下注射針、ジェットインジェクター又は他の障壁破壊剤を使用しないで、皮膚を通して有効に送達できることを証明する。これらの例はまた、LTアジュバントが、高力価血清抗体の産生の刺激;抗原特異的IgG2a及びIgG1の産生を仲介することによる体液性応答の指示に重要な役割を有し、ある場合には、それはETECコロニゼーション因子抗原に対する粘膜抗体応答の促進が本質的であることも証明する。本発明者らは、抗原のカクテル中で有害な競合を示すことなく、多価ワクチンがTCIにより効果的に送達されることを証明した。これは、ワクチンに、4,5,6,7,8又はそれ以上の抗原を含むことが多分要求されるであろう多くの異なる単離体のカバーを保証するので、様々な抗原特異性を発現する病原体によって惹き起こされる疾患の処置に重要である。トキシンの中和及び感染の防止は、宿主−病原体の相互作用における2つの重要な点での処置(治療及び/又は予防)を提供する。これは予期しなかった先行技術の改良である。
【0190】
例21.TCIはLTに対して長期に持続する中和抗体を誘発する
ヒトボランティアを第I相臨床試験に組み込んだ。これらのボランティアを、三角筋上の皮膚に経皮免疫した。皮膚はイソプロピルアルコールで前処置し、10%グリセロール及び70%イソプロピルアルコールの混合物で水和した。ガーゼパッチ(4×4インチ)を接着性バッキングに固着させ、LTの水性溶液をパッチに適用した。湿ったパッチ処方はPBS中5%ラクトースと以下の量のLT:50μg,100μg,250μg又は500μgのいずれかを含有した。ボランティアは2回の用量を投与された(日0及び30)。血清は免疫感作に先立って(免疫前)及び第一の免疫感作後312日(免疫感作後)に採集した。ELISAによると、血清はそれらの免疫前力価以上のLTR192Gに対する抗体力価を示した(表6)。
【表6】

【0191】
インビトロCHO細胞アッセイを使用して、抗体を含有するこれらの血清がLT受容体結合及びインビトロ毒性を中和するか否かを決定した。すべての血清は、インビトロにおいてLTの毒性をブロック(中和)する抗体を有することが見出された。この結果は、TCIが、細胞上の熱不安定性エンテロトキシンLTの毒性作用を中和する機能を有する抗体を誘発しないことを示している。TCIはLTに対して長期に持続する免疫を誘発し、その際誘発される抗体はそのトキシンを中和する。
【0192】
例22.CS3及びLTR192Gサブユニットワクチンを用いる経皮的ワクチン接種は、CS3ETEC全細胞上の抗原を認識する血清抗体を誘発する
次に、本発明者らは、経皮的ワクチン接種により誘発された抗体が、腸毒素原性大腸菌生物によって発現されたネイティブなコンフォメーションのエピトープと免疫反応性であることを示す。マウスは予め剃毛し、皮膚を水和した。パッチは25μgのCS3及び10μgのLTR192Gの25μLから構成される水性溶液を、ガーゼパッチに直接適用することにより調製した。皮膚がまだ水和されている間にパッチを適用し、その場に約18時間置いた。1群10匹のマウスにパッチを2回、日0及び14に投与した。第二の免疫感作から10日後、日24に血清を収集した。これらの血清はELISA法により、精製CS3に対する抗体について、LTR192G及びCS3を発現する腸毒素原性大腸菌(E243778株)に対する抗体について評価した。結果を示す図24は免疫感作マウスが精製CS3(1:70,464)及びLTR192G(1:32,657)に対する有意な血清抗体力価を発生することを証明する。これらの血清はまた、ETEC全細胞(1:11,206)に対して顕著な血清抗体力価を有することが見い出された。これらの結果は、ETECサブユニットワクチン(たとえばCS3及びLTR192G)によるTCIが、CS3−発現ETEC株上のネイティブなコンフォメーション決定基を認識する抗体の産生を生じることを証明する。
【0193】
例23.死滅ETECを用いたTCIは細菌性病原体に対して免疫を誘発する
皮膚に適用した死滅細菌性病原体による経皮的なワクチン接種が実行可能である。ETEC(株E243778)を細菌増殖メジウム上で増殖させた。細菌は遠心分離によって収穫し、リン酸緩衝食塩溶液で洗浄した。2%のホルマリン溶液を細胞ペレットに加え、細胞を単一細胞懸濁液に懸濁した。すべての細菌を死滅させるために、細胞を一夜室温で混合した。死滅細胞を洗浄し、PBSに再懸濁した。マウスは剃毛し、尾の基部の皮膚でテープを10回剥離して前処置し、角質層を除去した。ガーゼパッチに、10死滅ETEC全細胞(EWC)を含有する25μLの液を負荷し、10μgのLTR192Gをこの混合物に加えた。パッチは一夜適用した。1群10匹の動物を日0及び14にワクチン接種した。第二の免疫感作から10日後に血清を収集した。血清を、材料と方法の項に記載のELISA法を用いて、EWC及びLTR192Gに対する抗体について評価した。図25に結果を示す。すべてのマウスが血清学的に変換されていること、及び細菌全細胞(1:324)ならびにLTR192G(1:21,044)に対する血清抗体を有することが見出された。これらの結果は、死滅細菌全細胞による経皮的ワクチン接種が実行可能であり、生物特異的な免疫応答が誘発されることを最初に証明するものである。
【0194】
例24.ETECコロニゼーション因子、熱不安定性エンテロトキシン(LT)及び熱安定性トキシン(ST)抗原を用いたTCI
ある種の腸毒素性大腸菌が、熱安定性エンテロトキシン(ST)と呼ばれる第二のエンテロトキシンを産生することは周知である。熱不安定性エンテロトキシン(LT)のように、STはヒトで高度に反応原性で、小児及び成人でひどい下痢を生じる。ETECの株は、STa単独、LT単独、又はSTaとLTの組み合わせを産生する。STaは分子量の小さい19アミノ酸ペプチドであり、6個のシステインを含有する。STaは注射によって投与された場合、貧弱な免疫原性を示すことが知られている。この研究は、多重コロニゼーション因子(CS3及びCS6)及び両エンテロトキシン(LT及びST)から構成される複合ETECワクチンの経皮送達が可能なことを証明するために実施された。本明細書に記載の方法で、マウスは尾の基部でテープを10回剥離して前処置した。ここでは以下のパッチ処方を使用した25μg CS3/25μg CS6;25μg CS3/25μg CS6/10μg LTR192G;及び25μg CS3/25μg CS6/10μg/LTR192G/68μg STを負荷した。マウスは日0,14及び28の3回、ワクチンを経皮的に投与された。第三の免疫感作2週後、血清を収集した。図26に示す結果は、コロニゼーション因子に対する免疫はLTR192Gの添加によって有意に増強されたことを証明する。この研究はまた、多重ETECワクチンへのSTの添加が、LTR192Gのアジュバント作用又はこれらのコロニゼーション因子の免疫応答発生に有害な影響を与えることなく可能であることを証明する。CS3,CS6,CFA/I,LT及びSTa又は抗原の他の組み合わせから構成される5価のETECワクチンの開発が可能であることが示唆される。これらの抗原は、TCIにより、毒性又は重篤な有害な副作用もなく、安全に投与することができる。
【0195】
例25.ETEC抗原の送達のための、湿潤、接着剤中タンパク質及び風乾パッチ処方
パッチはETECワクチンのTCIによる送達のための多岐にわたるビヒクルである。ここでは、LTを4つの異なる方法で処方した。第一に、LT(10μg)を、5%(w/v)のラクトースを含む中性pHのリン酸緩衝食塩溶液から構成される水性溶液中に処方した。この処方は、10%グリセロール及び70%イソプロピルアルコールで水和した皮膚に直接適用した。この溶液を静かに又はガーゼパッドで覆って1時間放置した。第二に、LTを様々な接着剤(たとえばKlucel)と配合した。この処方をついで閉塞性バッキングの上に薄いコートとして広げた。LTは面積1cmあたり10μgの有効濃度で、Rotograveurプレスを用いて薄いフィルムに広げた。フィルムを室温で風乾し、水分含量を0.2%〜5%未満にした。パッチ(〜1cm)をシートから打ち抜いた。パッチは常温及び4℃で保存し、同じ送達特性を示した。第三に、LTはガーゼパッドに直接適用し、表面上に10μg/cmの濃度に均一に広げた。これらのパッチは一夜風乾した。第四に、水性処方中LT(25μLのPBS中10μg及び5%ラクトース)を、接着性バッキングに固着したガーゼパッド(〜1cm)に直接滴下した。これらのパッチは一夜常温で風乾した。これらのパッチは使用前1ヶ月4℃に保存した。
【0196】
パッチは、材料及び方法の項に記載のマウスモデルを用いてLT抗原の送達について比較した。尾の基部で皮膚を剃毛し、水和し、軽石を含む綿棒で前処置し(10%グリセロール及び70%イソプロピルアルコールで処方)、角質層を破壊した。5匹のマウスの群に2つのパッチを、1つは日0に、他は日14に投与した。適用の前に、風乾したパッチを水25μLにより再水和した。24時間後にパッチを除去した。液体処方については、LT含有溶液を皮膚上に1時間置き、次いで過剰のLTを水で濯いで除去した。第二の免疫感作から2週後(日28)に、各動物から血清を収集した。結果は図27に示す。これらの結果は、すべての方法が皮膚を通してのLTの経皮送達に適当であることを証明した。この例は、パッチ処方が、パッチに重ねて皮膚に直接適用される水性液体;接着剤(接着剤中のタンパク質)内に抗原を導入し、閉塞性バッキング上に薄いフィルムコーティングとして広げた乾燥パッチ;抗原を適当な表面に直接、溶液で適用し(別個に、又はカクテルとして)、風乾させたパッチ;又は抗原は溶液中に存在し、パッチの適用直前に、パッチ表面に直接適当量の溶液を適用する水和パッチのいずれでもよいことを示す。
【0197】
例26.ETECサブユニットワクチン及びエンテロトキシンの経皮送達のための接着剤中タンパク質処方
接着剤中タンパク質処方は、接着剤処方に1又は2種以上のETECサブユニット抗原の導入を意図するものである。この処方はまた、死滅ETEC全細胞(用量あたり〜10〜10死滅細菌)のLT−アジュバントとともに又はそれなしでの導入に適している。このブレンドをついで、薄いフィルムとした閉塞性(又は半閉塞性)バッキングシート上に注いで鋳造する。ワクチン/接着剤混合物を、フィルムが乾燥するまで(水分含量は0.5〜5%を変動する。1〜2%が望ましい)硬化させる(室温又は40℃)。型をとったフィルムをダイカストから所望のサイズ及び形状に切断する。ついで、乾燥パッチを、遮光した防水性プラスチック又はフォイルの袋でシールする。この方法で製造されたパッチは冷蔵庫又は室温で保存する。接着剤中タンパク質は、1又は多重抗原及びアジュバントが様々な量及び比で変動させて導入できる点で柔軟性である。さらに、パッチのサイズは用量を調整するために変動させることができる。個人の年齢に依存して、パッチのサイズ(用量)は小児及び成人で変動させることができる。
【0198】
接着剤中タンパク質処方は、柔軟で独特に、ワクチンの層によるコーティングを可能にする。これらのパッチは、各ワクチン成分がパッチバッキング上に別個に層を形成するように製造される。目的は、成分1がバッキング上に層を形成し、成分2のフィルムが1の上に層を形成し、成分3が成分1及び2の上に層を形成し、成分4が最も外の層になるような多重層膜を形成させる。このアプローチの利点は、処方に柔軟性を与えること(すなわちパッチは異なる比の抗原及びアジュバントを用いる同一方法で製造され、又は1又は2種のみの成分を含有する場合も同じ方法でワクチンが製造される)。この多重処方は各抗原及びアジュバントの放出速度をコントロールできる利点を有する。一部の例では、LT−アジュバントは、皮膚樹状細胞(ランゲルハンス細胞)を他の抗原が放出される前に予め始動させるために、直ちに放出されることが望ましい。このような処方では、LT−始動ランゲルハンス細胞はトキシン及びコロニゼーション因子抗原をより効率的に捕獲し、処理する。コントロールされた送達は、アジュバント及び抗原のより効果的な使用であり、用量をさらに低下させる。
【0199】
表7及び8は、アジュバント及び/又は抗原を接着剤中に安定化するために適当な処方を記載する。以下はこのような処方を例示する意図であり、処方を限定する意図ではない。
【表7】

【0200】
例27.ETECサブユニットワクチン(C3,C6,CFA/I,ST及びLT)及び死滅ETEC全細胞の送達のためのゲル処方
ゲルは完全水和又は湿潤パッチの例である。これらの処方は、ゲルマトリックス内に捕捉された1又は2種以上のETECサブユニット抗原を導入する意図である。この処方はまた、死滅ETEC全細胞(用量あたり約10〜10死滅細菌)のLTとともに又はLTなしでの経皮的送達に適している。ワクチンは、カルボマー、プルロニック、又は2つのゲル成分(以下参照)と所望の量及び比で、抗原含有溶液を配合することによって処方される。ゲル含有ワクチンはついで、こぼさないで正しい位置に保持する細片材料上にコーティングする。この材料はワクチン中のタンパク質に対して低い結合能を有することが重要である。細片は、たとえばポリマー、天然及び合成織布、不織布、フォイル、紙、ゴム又はそれらの混合物からなることができる。細片は単一層又は2以上の層のラミネートとする。一般に、細片は実質的に水非透過性であり、皮膚を水和状態に維持することを補助する。この材料は可撓性及びタンパク質に対する低結合性の要求に合致する限り、任意のタイプのポリマーでもよい。適当なポリマーには、それらに限定されるものではないが、ポリエチレン、ビニル酢酸エチル、エチルビニルアルコール、ポリエステル又はテフロン(登録商標)が包含される。ゲルを保持する細片材料の厚さは、1mm未満、好ましくは0.05未満、最も好ましくは0.001〜0.03mmである。
【0201】
ゲルを負荷した細片は様々なサイズ及び形状とすることができる。コーナーは丸くするのが適用に便利である。細片の長さは様々に変動可能であり、使用者(すなわち、小児又は成人)に依存する。それは約2cm〜約12cmであり、好ましくは約4cm〜約9cmである。細片の幅は約0.5cm〜約4cmである。
【0202】
細片は浅いポケット又は窪みを含有することができる。正しい位置に保持させるため、ワクチン含有ゲルを細片上にコーティングする場合には、ゲルの保存部を提供する浅いポケットをゲルで満たす。浅いポケットの横幅は約0.4mm、深さは約0.1mmとしてもよい。ゲルを負荷したパッチの厚さは約1mm、好ましくは約0.5mm又はそれ未満である。
【0203】
ゲルと皮膚の間の最大接触を維持しなければならないので、曲げに対する硬直性が重要である。細片はパッチが適用される位置(たとえば、三角筋上の皮膚、掌側の前腕、頸部、耳の後部又は他の位置)の解剖学的位置の外郭に合わせる必要がある。曲げに対する強直性はHandle−O−Meter(Thwing Albert Instruments)で測定できる。曲げに対する強直性は5gm/cm未満、好ましくは3gm/cm未満でなければならない。比較的低い曲げ強直性により、細片の材料はほとんど力を要しないで輪郭上にまとわせることが可能である。
【0204】
ゲルを負荷した細片は、細片を接着性のバッキングに、細片のゲル表面が接着性バッキングと向かい合わないように正しい位置に固着させる。バッキングの材料は閉塞性又は半閉塞性である(たとえば、Tegadam)。バッキングはパッチを正しい位置に保持し、皮膚とゲル間の最大接触の維持を助け、装着時にゲルの脱水を防止するように設計される。
【0205】
保存時又は取り扱い時の湿潤パッチの脱水を防止するため、かなり剛性な不活性プラスチックの細片上に配置する。ゲル表面はこのプラスチックの細片と直接接触し、ゲル/プラスチックのインターフェースは弱い剥離力を有し、プラスチックの細片からゲル細片の分離を容易にする。プラスチックの細片はポリエチレン又は類似の材料で作成する。ゲルパッチは、光から保護された水の漏らないプラスチック又はフォイルの袋で包装する。袋は冷蔵庫又は室温で保存できる。
【0206】
以下の記載は、水和ゲル処方の例示を意図し、限定を意図するものではない。ゲルは、リン酸緩衝食塩溶液;1%Carbomer1342;1.5%Carbomer940;1.5%Carbomer934;1.5%Carbomer940,2%スクロース,10%イソプロピルアルコール、10%グリセロール;50%Pluronic F87;及び30%Pluronic F108中にゲルを処方する。
【0207】
カルボマーポリマーは、高分子量のアクリル酸ベースのポリマーであり、アリルスクロース又はアリルペンタエリスリトールによる架橋、及び/又はC10〜C30アルキルアクリレートによる修飾を受けていてもよい。これらはパッチに導入されても、導入されなくてもよく、本技術分野で既知の他の手段によって皮膚内に送達されてもよい。
【0208】
処方は平均分子量が異なるカルボマーから構成されてもよい。たとえば、ポリマーはCarbomer1342(たとえば1.5%Carbomer1342,0.6mg/mLのLT,0.3%のメチルパラベン、0.1%のプロピルパラベン、2.5%のラクトース、1×PBS);Carbomer934(たとえば1.5%Carbomer934,0.6mg/mLのLT,0.3%のメチルパラベン、0.1%のプロピルパラベン、2.5%のラクトース、1×PBS);又はCarbomer940(たとえば1.5%Carbomer940,0.6mg/mLのLT,0.3%のメチルパラベン、0.1%のプロピルパラベン、2.5%のラクトース、1×PBS)とすることができる。各処方はリン酸緩衝食塩溶液中に調製し、LTを0.6mg/mL又はそれ未満の濃度で含有するが、抗原及びアジュバントも約0.001mg/mL〜約0.6mg/mL,又は約0.6mg/mL〜約6mg/mL処方される。さらに、抗微生物剤たとえばメチルパラベン及びプロピルパラベンも包含させることができる。
【0209】
Carbomer940とPluronic F87の組み合わせ(たとえば1.5%Carbomer940,0.5%Pluronic F87,0.6mg/mLのLT,0.3%のメチルパラベン、0.1%のプロピルパラベン、2.5%のラクトース、1×PBS)が使用できる。Pluronicはエチレンオキシド−プロピレンオキシードエチレンオキシドの反復セグメントを含有する他のクラスのハイドロゲルである。処方中のLT及び抗微生物剤の量は、同一である。
【0210】
他の処方では、透過エンハンサー及びカルボマーを用いて送達を増強できる。たとえば、ゲルはCarbomer940とPharmasolveを含む(たとえば1.5%Carbomer940,10%Pharmasolve,0.6mg/mLのLT,0.3%のメチルパラベン、0.1%のプロピルパラベン、2.5%のラクトース、1×PBS)、最終のゲルはCarbomer940,グリセロール及びイソプロパノールを含有し得る(たとえば1.5%Carbomer940,10%グリセロール、10%イソプロパノール、0.6mg/mLのLT,0.3%のメチルパラベン、0.1%のプロピルパラベン、2.5%のラクトース、1×PBS)。LT及び抗微生物剤の濃度は前の処方と同じままであるか、又は特定された他の範囲とすることができる。
【0211】
例28.CS3,CS6,CFA/I,ST及びLTに対する投与量
用量範囲は変動し、対象の年齢及び医学的状態に依存し得る。1mg〜5μg未満の用量によりヒト及び動物対象の両者で抗原特異的免疫応答を誘発し得る。望ましい成人用量はコロニゼーション因子について、それぞれ約1μg〜約100μgの範囲(たとえば、CS3,CS6及びCFA/I)であり;各コロニゼーション因子の好ましい用量は約5μg〜約50μgである。LTについての望ましい成人用量は約1μg〜約100μgの範囲であり;LTの好ましい用量は約5μg〜約50μgである。望ましい成人用量はST(担体タンパク質に抱合されていない)について約1μg〜約100μgである。STは貧弱な免疫原性であるから、成人用量は約25μg〜約100μgである。STがLTに化学的にカップリングしている場合(LT−ST)、STの相当用量は約5μg〜約50μgである。STを他の担体タンパク質、たとえばアルブミン、KLH又は凝集抗体に抱合させることにより、免疫原性を改良することができる。後者の場合、STの用量は約5μg〜約50μgである。
【0212】















【0213】
上に引用された参考文献(たとえば、論文、著書、特許及び特許出願)は、本技術分野の技術レベルを示すものであり、参考として本明細書に導入される。
【0214】
特許請求の範囲の意味及びそれらの法的な均等物の範囲内に入る修飾及び置換はそれらの範囲内に包含される。「を含む(comprising)」の移行部を用いる特許請求の範囲は、特許請求の範囲内に他のエレメントを包含させることができる。本発明はまた、移行部の語句「・・・から本質的になる(essentiallg consisting of)」を用いる請求の範囲によっても記載され(すなわちそれらが本発明の操作に実質的に影響しなければ、他のエレメントを請求の範囲内に包含される)、また、「からなる(cousisting of)」の移行部の語句(請求の範囲に掲示された、通常は本発明に付随する不純物又は取るに足りない活動以外のエレメントのみを許容する)が「を含む(comprising)」の語句に代わって使用される。請求の範囲に明示された関係がなければ、請求範囲の限定間には特定の関係はない(たとえば、物の請求項における成分の配置又は方法の請求項における工程の順序は、そうであることが例外として述べられていなければ、請求項の限定とならない)。すなわち、本明細書に開示された個々のエレメントの可能なすべての組み合わせ及び順序が、本発明の部分を意図すると考えられる。
【0215】
上記記載から、本技術分野における熟練者には、本発明はその精神又は本質的な特性から逸脱することのない他の特異的な形態を包含することができることは明らかである。記載された実施態様は、本発明に与えられる法的な保護範囲は本明細書の記載ではなく、付随する特許請求の範囲によって指示されることから、単に例示的なものであり、限定的なものではないと考えるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経皮免疫感作のための免疫であって、上記免疫原は毒素原性大腸菌(ETEC)の1又は2種以上の株に対して免疫応答を誘発するのに有効な量の1又は2種以上の抗原を含む、上記免疫原。
【請求項2】
少なくとも1種のアジュバントをさらに含む「請求項1」記載の免疫原。
【請求項3】
アジュバントはADP−リボシル化エキソトキシン又はアジュバント活性を有するその誘導体である「請求項2」記載の免疫原。
【請求項4】
アジュバントは、コレラトキシン(CT)、大腸菌熱不安定性エンテロトキシン(LT)及びアジュバント活性を有するそれらの突然変異体からなる群から選択される「請求項1」記載の免疫原。
【請求項5】
上記抗原の少なくとも1種は、大腸菌コロニゼーション因子抗原(CFA)に対する免疫応答を誘発する「請求項1〜4」のいずれかに記載の免疫原。
【請求項6】
大腸菌コロニゼーション因子抗原は、CFA/1,CS1,CS2,CS3,CS4,CS5,CS6,CS17及びPCF0166からなる群から選択される「請求項5」記載の免疫原。
【請求項7】
上記抗原の少なくとも1種は大腸菌エンテロトキシンSTaに対する免疫応答を誘発する「請求項1〜4」のいずれかに記載の免疫原。
【請求項8】
1又は2種以上の抗原は少なくともCS3及びCS6;CS3及びCFA/1;CS6及びCFA/1;CS3及びSTa;CS6及びSTa;又はCFA/1及びSTaに対する免疫応答を誘発する「請求項1〜4」のいずれかに記載の免疫原。
【請求項9】
1又は2種以上の抗原は少なくともCFA/1,CS3及びCS6;CF3,S6及びSTa;CEA/1,CS3及びSTa;CFA/1,CS6及びSTa;又はCS3,CS6及びSTaに対する免疫応答を誘発する「請求項1〜4」のいずれかに記載の免疫原。
【請求項10】
経皮免疫感作に適当なワクチンであって、上記ワクチンはパッチ及び「請求項1〜9」のいずれかに記載の免疫原を含む、上記ワクチン。
【請求項11】
経皮免疫感作に適当なサブユニットワクチンであって、上記ワクチンは化学的合成された、組換え技術によって産生された、少なくとも部分的に精製された、またはそれらの組合せによる、細胞フリーな型にある「請求項1〜9」のいずれかに記載の免疫原を含むワクチン。
【請求項12】
経皮免疫感作に適当な全細胞ワクチンにおいて、上記ワクチンは全細胞型での「請求項1〜9」のいずれかに記載の免疫原を含む、上記ワクチン。
【請求項13】
1又は2種以上のETEC株に対して免疫応答を誘発するための「請求項1〜12」のいずれかに記載の免疫原又はワクチンの使用。
【請求項14】
旅行者の下痢に伴う1又は2以上の疾患症状の処置及び/又は予防のための「請求項1〜12」のいずれかに記載の免疫原又はワクチンの使用。
【請求項15】
化学的及び/又は物理学的浸透増強をさらに含む、「請求項13又は14」記載の使用。
【請求項16】
経皮免疫感作によってETECの1又は2種以上の株に対する免疫応答を誘発する免疫原又はワクチンを製造するための1又は2種以上の抗原の有効量の使用。
【請求項17】
経皮免疫感作によってETECの1又は2種以上の株に対する免疫応答を誘発する免疫原又はワクチンを製造するための少なくとも1種のアジュバント及び1又は2種以上の抗原の有効量の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2010−180228(P2010−180228A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85208(P2010−85208)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【分割の表示】特願2002−563955(P2002−563955)の分割
【原出願日】平成14年2月13日(2002.2.13)
【出願人】(503291392)
【Fターム(参考)】