説明

経穴温度刺激治療装置

【課題】経穴皮膚表面の温度制御を行い、更に、温熱の刺激周囲を適切に制御して、治療効果を増す。
【解決手段】温度制御装置10からの通電により、ヒータ16の電気抵抗で経穴に加熱を行いつつ、温度センサ18で経穴皮膚の表面温度を計測して、所定の温度(例えば42℃)に保つように制御している。さらに、加熱している経穴周囲を、冷却水を循環している冷却パット22で覆い、循環している冷却水の温度を冷却水循環装置20により、所定の温度(経穴皮膚の表面温度より低い温度)に保っている。冷水循環による周辺部位冷却により、温灸治療効果を高めることができる。温度制御装置10と冷却水循環装置20は、コンピュータ40(図示せず)に接続されて、コンピュータ40により制御されている。
経穴に局所加熱し、周囲を冷やすと、周りの毛管を収縮させ、患部に血流を集中させることで、温灸治療効果を高めている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、東洋医学における鍼灸治療等に用いる経穴温度刺激治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鍼灸治療に用いるこの種の方法としては、もぐさを用いて経穴の上で火をつけて加熱する方法論が用いられていた。このような技術は漢方医学における教科書などにも記載されている(非特許文献1)。これは、火を使って薬草(もぐさ)を燃やすものであり、火事の危険がある上、においや煙の問題もあり、更には、やけどの危険もあり、その上、加熱時間はもぐさの物量のみに依存するのでコントロールも難しく、一般病院には普及できないという大きな問題があった。
【0003】
また、特許文献1、2には、温灸器が記載されているが、単に熱を経穴に加えるものであり、経穴の皮膚表面の適切な温度制御が難しく、鍼灸の治療効果を挙げるのが難しい。その上、人体はやがて灸の温度に馴れてしまうので、治療効果が低下する問題がある上、低温やけどの危険もあるという大きな欠点がある。
【0004】
【非特許文献1】中医学入門、神戸中医学研究会 (編集)、出版社: 医歯薬出版; 1999
【特許文献1】特開2007−14679号公報
【特許文献2】特開2006−333881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように従来の技術では、もぐさを燃やす方法では火事の危険もある上、においや煙の発生の問題もあり、危険な上に精密なコントロールが難しく、治療効果を上げにくいという問題がある。また、ヒーターで経穴の温熱刺激を行うことも提案されているが、経穴の皮膚表面の適切な温度制御が難しく鍼灸の治療効果を挙げるのが難しい上、人体はやがてその温度に馴れてしまうので、治療効果が低下する問題がある上、低温やけどの危険もあるという大きな欠点がある。
本発明は、経穴皮膚表面の温度制御を行うことが可能であり、更に、温熱の刺激周囲を適切に制御して、治療効果を増す。さらに、やけどなど合併症発生の危険を最小限に抑え、人体の馴れの効果を軽減して治療効果を上げる経穴温度刺激治療装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために、本発明は、経穴温度刺激治療装置であって、経穴部位を加熱又は冷却して、温度刺激する経穴部位温度刺激手段と、前記経穴部位の周囲領域を所定温度に保つ周辺領域温度調節手段と、前記経穴部位温度刺激手段及び前記周辺領域温度調節手段の温度を制御する温度制御手段とを備え、前記経穴部位を温度刺激すると同時に、前記周囲領域を所定温度に保つことを特徴とする。
前記温度制御手段は、前記経穴部位温度刺激手段を、ゆらぎによる時系列変化の刺激パターンの加熱を行うように制御して、経穴部位を温度刺激するとよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、温度制御システムで経穴皮膚表面温度をコントロールし、さらに、経穴を加熱する場合、経穴の周囲領域を、冷却水循環などにより冷却を行うこと等で、経穴部位の加温刺激の効果を、より強く増強させ、鍼灸治療効果を高めることができる。
更に、温熱刺激などの物理刺激における時系列パターンに1/fのようなフラクタル的な時系列のゆらぎを加えることで、治療効果を最大にし、やけどなど合併症発生の危険を最小限に抑え、人体の馴れの効果を軽減して治療効果を上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
発明者は、東北大学大学院医学系研究科の倫理委員会の認可を経て、温灸治療の臨床例を行った。臨床例に用いた経穴温度刺激治療装置を図1に示す。
図1に示す経穴温度刺激治療装置において、温度制御装置10からの通電により、ヒーター16の電気抵抗で経穴に加熱を行いつつ、温度センサ18で経穴皮膚の表面温度を計測し、コンピュータ40に計測した温度を入力し、温度制御装置10をコンピュータ40により制御して、経穴皮膚表面温度の自動制御を行う。
ヒーター16はラバーヒーターを用い、ヒーター周囲の熱伝導部は、銅のように熱伝導の良いものを用いた。さらに、熱伝導部の周囲は断熱材(ベークライト)で覆い、衛生上等で必要があれば、プラスチックの薄膜で覆う。なお、今回は、銅の表面に金メッキをしてさびを防ぎ、人体の親和性を向上させた。
【0009】
さて、臨床例の対象は49歳女性であり、47歳の時に成人T細胞白血病の診断を受け、臍帯血移植の治療を受けている。一時、寛解したが、その後、拒絶反応により悪心・食欲不振、倦怠感・下痢が続き、食事が出来ない状況が続いていたが、本発明による温灸治療を週に三回施行したところ、症状が改善し、退院に至った。
本症例では、へそ周囲の経穴、「天枢(てんすう)」を対象にした鍼灸治療を行った。天枢は、腸管の蠕動運動を促し、食欲を増進させる経穴である。
図2に、本発明による経穴温度刺激治療装置を使った、経穴への加熱結果のグラフを提示する。図2のグラフに表されているように、42℃の目標値に対して、均一な温度上昇が行われ、約4分(240秒)後に目標値になり、以後その目標値を保持している。
【0010】
図3は、経穴温度刺激治療装置による経穴鍼灸治療後の皮膚表面のサーモグラフィである。図3に示すように、均一な経穴部の温度上昇が確認され、有効な加温結果が得られている。
図4は、倫理委員会の審査の後、経穴温度刺激治療装置による温灸治療を施行した一症例の経過を説明する図である。
図4に示すように、開始直後は1回約20分間の温灸治療を頻繁に繰り返し、その後、1週間に3回程度の温灸治療を行った。本症例では、天枢における経穴刺激の直接作用として、食欲不振状態から、食事摂取量の増加が観測された。図4に示す結果は、食欲を増進させる鍼灸治療を行って、食欲の増進と言う鍼灸治療の効果が明らかに認められた症例であり、治療効果の意義を表す定量的な指標を表すものである。
【0011】
本発明者は、上述に説明した経穴温度刺激治療装置にさらに改良を加え、経穴物理刺激効果を増加させることができる経穴温度刺激治療装置を提案する。
図5(a)(b)に、周辺組織冷却による経穴物理刺激効果を増加させることができる本発明の一形態を提示する。図5において、図1と同様のものは、同じ符号で示す。図5(a)は概略図であり、図5(b)は、図5(a)を詳しく示した図である。
図5(a)(b)において、温度制御装置10からの通電により、ヒーター16の電気抵抗で経穴に加熱を行いつつ、温度センサ18で経穴皮膚の表面温度を計測して、所定の温度(例えば42℃)に保つように制御している。さらに、加熱している経穴周囲を、冷却水を循環している冷却パット22で覆い、循環している冷却水の温度を冷却水循環装置20により、所定の温度(経穴皮膚の表面温度より低い温度)に保っている。冷却水循環による周辺部位冷却により、温灸治療効果を高めることができる。温度制御装置10と冷却水循環装置20は、図1と同様に、コンピュータ40(図示せず)に接続されて、コンピュータ40により制御されている。
【0012】
図5(a)(b)では、経穴に局所加熱し、周囲を冷やすと、周りの毛管を収縮させ、患部に血流を集中させることで、温灸治療効果を高めているのである。なお、周囲の温度は、経穴皮膚に加熱する温度により決定され、室温より高いが、経穴皮膚の温度より低い温度でもよい。
また、温度制御装置10と冷却水循環装置20とに、制御部を組み込み、自立的に温度を制御してもよい。
【0013】
経穴温度刺激治療装置における、ヒーターによる加熱刺激部において、ヒーターからの熱を経穴に伝導して接触する加熱面に、アルミニウム、銅または黄銅などの熱伝導率の高い材料を使うことにより、経穴の皮膚接触面の温度を、均一に加熱・冷却することができる。
また、加熱刺激部の経穴に接触する加熱面の表面に、薄いプラスティック・フィルムなどのコーティングを行うことにより、生体親和性の高い素材で、経穴の皮膚温変化をもたらすことにより、安全で正確な治療を行うことができる。
さらに、プラスティック・フィルムの素材としては生体親和性の高いシリコンやポリ塩化系などのポリマー素材を用い、取り外しができるようにすることで、感染症の発生を完全に予防できる経穴温度刺激治療装置を提供することができる。
【0014】
また、周囲領域の温度調節は、上述では水の循環により行ったが、例えば、加熱と冷却が同時にできるペルティエ素子を使用して冷却に利用するとともに、経穴に対する加熱にも利用する等の構成としてもよい。
さらに、上述の経穴温度刺激治療装置の作動とは逆に、周辺領域を温水により温めて、経穴部位を低い温度で冷却することにより、冷灸効果により刺激することもできる。
【0015】
コンピュータ40のコントロールで、ヒーターに印加する電流・電圧に対して、時系列的にゆらぎ構造(例えば、1/fのようなフラクタル)の変化をもたせ、ゆらぎ構造を持つ時系列変化による経穴刺激を具現化することで、人体の馴れによる治療効果の低下を軽減する。
ゆらぎ構造の時系列変化の形態に関しては、フラクタル的な時系列変化である、1/fフラクタルに限るものではなく、1/f2のフラクタル構造や、1/f3のフラクタル構造、カオス的時系列構造、更に、ランダムのフラットな周波数パターンまで様々なゆらぎ構造を含む。
カオスによるゆらぎは、例えば式1に示すような、ロジスティック写像の方程式を用いて簡単に作成することができる。例えば、ある時点に置ける制御目標温度がXになり、ある時間遅れ後の目標値へ繰り込まれる。a=4以上でカオスの発生がみられる。
[数1]

Xn+1 = aXn(1-Xn) (1)

カオスやフラクタルによるゆらぎのための時系列の作成は、ロジスティック方程式にこだわるものではなく、カオスやフラクタルを形成する様々な方法論を用いることができる。
更に、周辺領域の冷却により、高い治療効果を得ることもできる。
【0016】
図6に、ロジスティック方程式で導かれるカオス時系列の1例を提示する。図6のグラフにおいて、縦軸は、目標値を1とした割合、横軸は時間である。
図6に示すように、このようなゆらぎを経穴に加熱する温度目標値に重畳することで、熱傷を起こさない範囲で予測のできない時系列の加熱を行い、人体の慣れの効果を予防する。
【0017】
ゆらぎを用いることで、経穴温度刺激治療装置は、東洋医学における温灸、冷灸などのような単純な温度刺激による治療だけでなく、ゆらぎをもたらす時系列の温度刺激で、経穴部位を同時に加温・冷却することにより、より治療効果の高い経穴温度刺激治療装置を提供できる。
更に、医療行為としてではなく、病院にいく前に軽度の症状の改善を目指して自宅で患者が自らコントロールすることで、予防医学としての鍼灸治療が具現化し、国家的な医療経済改善に大きく貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】臨床例に用いた経穴温度刺激治療装置の構成を示す図である。
【図2】臨床例における経穴皮膚温度自動制御結果の一例を示すグラフである。
【図3】臨床例における鍼灸治療後のサーモグラフィの図である。
【図4】臨床例における経過を示すグラフである。
【図5】経穴温度刺激治療装置の構成を示す図である。
【図6】ロジスティック方程式に導かれるカオス時系列の波形を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経穴温度刺激治療装置であって、
経穴部位を加熱又は冷却して、温度刺激する経穴部位温度刺激手段と、
前記経穴部位の周囲領域を所定温度に保つ周辺領域温度調節手段と、
前記経穴部位温度刺激手段及び前記周辺領域温度調節手段の温度を制御する温度制御手段と
を備え、前記経穴部位を温度刺激すると同時に、前記周囲領域を所定温度に保つことを特徴とする経穴温度刺激治療装置。
【請求項2】
請求項1に記載の経穴温度刺激治療装置において、
前記温度制御手段は、前記経穴部位温度刺激手段を、ゆらぎによる時系列変化の刺激パターンの加熱を行うように制御して、経穴部位を温度刺激することを特徴とする経穴温度刺激治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−219799(P2009−219799A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70128(P2008−70128)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】