説明

経編シート、および該経編シートを用いた補修補強方法

【課題】
本発明は、強化繊維であるたて挿入糸の真直性を保ちつつ、かつ、たて挿入糸への優れた樹脂含浸性を有する経編シートを提供せんとするものである。
【解決手段】
本発明は、マルチフィラメントの強化繊維であるたて挿入糸と、よこ挿入糸と、地編糸とからなるに経編シートであって、たて挿入糸の断面積S1と、たて挿入糸の最密充填時における断面積S0との比S1/S0が、1.5〜4.0の範囲内であることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物や地盤等の被補修補強体の補修補強材として好適に用いられる、強化繊維であるマルチフィラメントのたて挿入糸と、よこ挿入糸と、地編糸とから構成される経編シート、および該経編シートを用いた補修補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋脚、トンネル、煙突や建物などのコンクリート構造物は、長年の使用による劣化や、耐震基準の見直しなどによって、補修補強や剥落防止の措置が必要となってきている。このようなコンクリート構造物を補修補強する代表的な工法として、繊維シート工法が用いられている。この繊維シート工法は、現場で繊維シートを被補修補強体上に積層し、該繊維シート積層体に樹脂を含浸・固化させ、いわゆる繊維強化プラスチック(FRP)とすることで補修補強したり、剥落防止したりする工法である。このように繊維シートでコンクリート構造物を補修補強や剥落防止するに当たっては、FRPのマトリックスとなる樹脂(例えば、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂およびアクリル系樹脂など)などを繊維シートに塗布し、その樹脂を塗布した繊維シートを積層し、ローラなどで樹脂の分布が均一になるように樹脂を繊維シートに含浸させFRPとする。また、モルタル、コンクリートおよびアスファルトなどのマトリックスを繊維シートに含浸し固化させたコンポジットが用いられる場合もある。
【0003】
これら工法に用いられる繊維シートとしては、例えば、織物、編物およびメッシュ状布帛などが挙げられる(例えば、特許文献1〜9)。中でも、集束して棒状または長手方向に幅変動を持たせた形状にて用いられる場合には(例えば、特許文献10、11)、編物が好適に使用される。
【0004】
例えば、特許文献12〜15には、たて方向に編成された経編地に、所定間隔にて複数本の強化繊維糸条を経挿入した経編シートの提案がある。何れも、施工における形態安定性、賦形性、マトリックス樹脂含浸性、補強効果のそれぞれを鑑みて、種々の態様が提案されている。
【0005】
経編シートに要求される特性は、形態安定性や樹脂含浸性といった施工性に関する特性と、施工後の補強効果といった力学特性に大別される。一般的に、この施工性と力学特性をともに向上させることは難しく、例えば、力学特性を上げるために強化繊維の真直性を向上させようとすると、マトリックス樹脂含浸性が低下するといった問題があり、その逆もまた然りである。上述した特許文献1〜15をはじめとした従来技術においても、この問題を抜本的に解決するには至っておらず、この問題を解決する技術が渇望されている。
【特許文献1】実開昭63−042195号公報
【特許文献2】実開平02−106477号公報
【特許文献3】特開平03−028155号公報
【特許文献4】特開昭64−040632号公報
【特許文献5】特開平10−102792号公報
【特許文献6】特開2001−226849号公報
【特許文献7】特開2001−329466号公報
【特許文献8】特開2002−020953号公報
【特許文献9】特開2006−225812号公報
【特許文献10】特開平09−158492号公報
【特許文献11】特開2004−027728号公報
【特許文献12】特開平06−101143号公報
【特許文献13】特開平10−037051号公報
【特許文献14】特開2004−360106号公報
【特許文献15】特開2006−124945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解消することにあり、強化繊維であるたて挿入糸の真直性を保ちつつ、かつ、たて挿入糸への優れた樹脂含浸性を有する経編シートを提供することにある。さらには、該経編シートを用いた補強補修方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は次の構成を採用するものである。すなわち、
(1)マルチフィラメントの強化繊維であるたて挿入糸と、よこ挿入糸と、地編糸とからなる経編シートであって、たて挿入糸の断面積S1と、たて挿入糸の最密充填時における断面積S0との比S1/S0が、1.5〜4.0の範囲内にある、経編シート。
【0008】
(2)地編糸が、合成繊維のマルチフィラメントからなる捲縮加工糸であり、かつ、捲縮加工糸のバルキー性を表す指標である伸縮復元率が10〜60%である捲縮加工糸である、(1)に記載の経編シート。
【0009】
(3)地編糸の編組織が、鎖編組織であり、かつ、コース数が3〜10コース/cmである、(1)または(2)に記載の経編シート。
【0010】
(4)少なくとも1本のたて挿入糸に沿って、着色された合成繊維のトレーサー糸が挿入された(1)〜(3)いずれかに記載の経編シート。
【0011】
(5)(1)〜(4)いずれかに記載の経編シートを被補強物上に複数枚積層し、経編シートに熱硬化性樹脂を含浸させ、該熱硬化性樹脂を硬化して被補強物を補強補修する、補修補強方法。
【0012】
(6)経編シートを被補強物上に積層する手段が、経編シートを幅方向に折り畳む工程を含むものである、(5)に記載の補修補強方法。
【0013】
(7)(1)〜(4)いずれかに記載の経編シートを被補強物上で経編シート幅方向に伸縮させて被補強物の単位幅あたりに配置される強化繊維の本数を調整して配置した後、経編シートに熱硬化性樹脂を含浸させ、該熱硬化性樹脂を硬化して被補強物を補修補強する、補修補強方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、例えば、補修補強用途などにおいて補強材として好ましく用いられる経編シートに関して、強化繊維であるたて挿入糸の真直性を保ちつつ、かつ、たて挿入糸への優れた樹脂含浸性を有する経編シートを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、前記課題、すなわち強化繊維であるたて挿入糸の真直性を保ちつつ、かつ、たて挿入糸への優れた樹脂含浸性を有する経編シートについて鋭意検討した結果、特定の条件により、たて挿入糸の断面積を特定の値となるように経編シートを作製したところ、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0016】
以下、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
本発明の経編シートは、マルチフィラメントの強化繊維であるたて挿入糸と、よこ挿入糸と、地編糸とからなる経編シートであって、たて挿入糸の断面積S1と、たて挿入糸の最密充填時における断面積S0との比S1/S0が1.5〜4.0の範囲内である。たて挿入糸の最密充填時における断面積S0は、たて挿入糸の種類によって決まるため、たて挿入糸の断面積S1が実質的な変数となる。S1/S0が1.5〜4.0の範囲内であると、たて挿入糸は適度に拘束されているので真直性に優れ、一方、たて補助糸のストランド内には適度な空間が存在するためストランド内への樹脂含浸性にも優れる。すなわち、通常、相反する関係にあるストランドの真直性とストランド内への樹脂含浸性を、本発明の範囲により、初めて両立することが出来ることを見出した。さらに、コンポジットにおける力学特性を十分に発現するためには、S1/S0は、1.5〜2.5の範囲内であることがさらに好ましい。
【0018】
ここで、本発明における最密充填とは、図1に断面模式図を示すように、たて挿入糸の断面を真円とみなし、該真円の隙間が最も小さくなるように配置した充填状態を表す。この最密充填に配置した真円の集合体を外挿した線により囲んだ領域の面積が、最密充填時における断面積S0となる。すなわち、S0はフィラメントの断面積だけではなく、フィラメント間の隙間をも含む集合体の総断面積である。
【0019】
本発明の経編シートは、地編糸が、合成繊維の捲縮加工糸であることが好ましい。捲縮加工糸とは、合成繊維からなるマルチフィラメントに撚りを掛けることにより、嵩高(バルキー)となるように加工された糸条(ストランド)である。嵩高であるため、繊維長手方向に引っ張ると、優れた伸縮性を示す。経編シートの地編糸として、合成繊維の捲縮加工糸を用いることにより、経編シートの状態においても地編糸は伸縮性を有するため、たて挿入糸は適度に拘束され、たて挿入糸の断面積を所定の範囲内に調整することが容易となる。地編糸の伸縮性の程度としては、捲縮加工糸のバルキー性を表す指標である伸縮復元率(CR)が、10〜60%の範囲内にあることが好ましい。CRは実施例にて記載した方法に基づき測定することができる。CRが10%より小さい場合、地編糸によるたて挿入糸の拘束が強くなり、たて補助糸の断面積が小さくなる場合があり好ましくない。一方、CRが60%より大きい場合は、地編糸の取扱い性が低下するため、製編時に地編糸同士が絡み合うなどの不具合が生じる場合があり好ましくない。
【0020】
本発明における、地編糸に用いる合成繊維の種類としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエチレン繊維、PBO繊維およびポリウレタン繊維などからなる糸条が好ましく用いられる。中でも、特に安価で寸法安定性にも優れるポリエステル繊維が好ましい。さらに、地編糸に用いる合成繊維の繊度としては、たて挿入糸の種類(繊度等)により最適な繊度は多少変動するものの、概ね1.5〜150tex程度の合成繊維の中から適宜選択することが好ましく、より好ましくは3〜100tex、さらに好ましくは3〜50texである。フィラメント数としては特に制限はないが、10〜1,000本であるのが好ましく、より好ましくは30〜400本である。
【0021】
本発明の経編シートは、地編糸の編組織が鎖編組織であることが好ましい。鎖編組織とは、図2に示すように一つのループから糸を引き出して次のループを作る編み方であるが、図3に示すように該ループの中にたて挿入糸を配置することにより、たて挿入糸は該ループにより拘束された状態となり、たて挿入糸の真直性を保つといった観点からも、鎖編組織が適している。
【0022】
さらに、本発明の経編シートは、前記鎖編組織のコース数が3〜10コース/cmであることが好ましい。コース数が上記の範囲内であれば、鎖編組織により拘束されたたて挿入糸は、真直性を保ちつつ、断面積を所定の範囲内に調整することが可能となる。コース数が3コース/cmより小さい場合、たて挿入糸の真直性が低下し、コンポジットにした際の力学特性が低下する場合があり好ましくない。一方、コース数が10コース/cmより多い場合、鎖編組織によるたて挿入糸の拘束が強くなり断面積を所定の範囲内に調整することが難しくなる場合がある。さらに、鎖編組織が密となるため、たて挿入糸への樹脂含浸性が低下することがあり好ましくない。
【0023】
本発明の経編シートは、少なくとも1本のたて挿入糸に沿って、着色された合成繊維のトレーサー糸が挿入されていることが好ましい。トレーサー糸を挿入することにより、補修補強用途等における施工時において、トレーサー糸が経編シートを配置する方向や位置を調整する目印となるため、作業ミスが低減し、結果として本発明の経編シートのポテンシャルを十分に発現することが可能となる。さらに、本発明の経編シートをシートよこ方向に折り畳んで使用する場合、折り畳む箇所のたて挿入糸に沿ってトレーサー糸を挿入することにより、施工時において折り畳む箇所が容易にわかるため、作業ミスが低減する。トレーサー糸の挿入方法としては、たて挿入糸と単純に引き揃えて挿入する方法、たて挿入糸をカバリングして挿入する方法、或いは、トレーサー糸を地編糸とともに、または地編糸として編み込む方法などがある。中でも、トレーサー糸を挿入する意義である目印になるよう目立たせるという観点からは、トレーサー糸を地編糸として編み込むことが好ましい。トレーサー糸の種類としては、特には問わないが、地編糸と同程度の繊度である合成繊維が好ましく、最も好ましい態様は、地編糸と同種で、かつ、着色された合成繊維である。
【0024】
さらに、本発明の経編シートでは、地編糸の編組織を保持し裁断時の解れなどを防ぐために、たて挿入糸に引き揃えて挿入した目どめ用繊維により地編糸を固定することが出来る。該目どめ用繊維としては、地編糸が溶融しない温度で溶融するものであることが好ましい。例えば、地編糸にポリエステル繊維からなる糸条を用いた場合は、ポリエステル繊維の融点255℃よりも低い融点を有する繊維が好ましく、具体的には、融点が80〜200℃の低融点の共重合ポリエステル繊維、共重合ポリアミド繊維、およびポリオレフィン繊維などが好ましく用いられる。
【0025】
本発明におけるよこ挿入糸としては、繊度が1.5〜150tex程度のマルチフィラメント糸やモノフィラメント糸を用いることが出来る。よこ挿入糸の種類は特に問わないが、経編シートとしての材料構成をシンプルにするという観点からは、地編糸と同種の合成繊維とすることが好ましい。よこ挿入糸の挿入方法としては、よこ挿入糸が隣り合う地編糸の間を鎖編組織2〜10コースの間に1回往復するように挿入することが好ましい。ここで、このよこ挿入糸が1回往復するのに要する鎖編組織のコースの数を、よこ挿入糸間隔と称する。すなわち、よこ挿入糸が隣り合う地編糸の間を鎖編組織5コースの間に1回往復する場合、よこ挿入糸間隔は、5(コース/回)であるということとする。上述のように、よこ挿入糸は、たて挿入糸および鎖編組織を経編シートのよこ方向に連結する機能を担い、経編シートの形態を維持する上で重要な役割を果たしている。したがって、よこ糸頻度が小さいほど、隣り合う鎖編組織の間を連結するよこ挿入糸の量が増加するため、経編シートの形態保持性も向上し、取扱い性の観点から好ましい。加えて、隣り合うたて挿入糸同士の真直性および平行度も向上することから、補強効果の観点からも好ましいといえる。
【0026】
本発明における強化繊維であるマルチフィラメントのたて挿入糸としては、炭素繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエチレン繊維、PBO繊維、ガラス繊維、SUSなどの金属繊維およびセラミック繊維などからなる強化繊維糸条を用いることができる。中でも、比強度および比弾性率において特に優れた性質を有している炭素繊維が好ましく、炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、およびこれらを2種類以上ブレンドして構成された糸条等が例として挙げられる。複合材料の強度や弾性率を更に重要視する場合は、これらの中でもPAN系炭素繊維を用いることが好ましい。
【0027】
また、本発明の効果は、特に太い繊度の炭素繊維糸条をたて挿入糸として用いた場合に顕著になるため、炭素繊維糸条のフィラメント数は12,000〜100,000本であることが好ましく、より好ましくは24,000〜50,000本である。また、本発明に用いる炭素繊維糸条は、繊度は700〜8,000texであることが好ましく、より好ましくは1,500〜4,000texである。またかかる太繊度の炭素繊維糸条は、生産性よく経編シートを製造できるだけでなく、安価に入手することができる。なお、本発明でいう炭素繊維には、一般に黒鉛繊維と称される高弾性率のものも含むものとする。
【0028】
本発明の経編シートを製造する装置としては、特に制限されるものでなく、ラッシェル機、トリコット機、ステッチボンディング機、等のいずれであってもよい。
【0029】
次に、本発明の補修補強方法は、上述の経編シートを被補強物上に複数枚積層し、経編シートに熱硬化性樹脂を含浸させ、該熱硬化性樹脂を硬化して被補強物を補修補強することが好ましい。補修補強の程度にも因るが、十分な補修補強効果を得るためには、補強シートを被補強物上に複数枚積層して補修補強する必要がある。本発明の経編シートは、たて挿入糸が地編糸によりそれぞれ適度に拘束されているため、隣り合うたて挿入糸間に隙間が生じ、たて挿入糸間への樹脂含浸性に優れ、かつ、たて挿入糸内への熱硬化性樹脂の含浸性にも優れるため、被補強物上に複数枚積層して補修補強した際も、十分な熱硬化性樹脂の含浸性を確保することが出来る。その結果、経編シートのポテンシャルを十分に発現した補修補強を行うことが出来る。なお、熱硬化性樹脂とは、エポキシ系樹脂に代表されるように、化学反応により架橋することにより三次元的な架橋構造を形成することで硬化する樹脂をいい、前記化学反応が、常温で進行するものも含むものとする。
【0030】
さらに、本発明の補修補強方法は、経編シートを被補強物上に積層する手段が、経編シートを幅方向に折り畳む工程を含むものであることが好ましい。施工時において、経編シートを被補強物上に複数枚積層する場合、それぞれのシートを手作業で同方向に引き揃えることは困難である。そこで、予め、(所定の幅)×(積層数)の幅の経編シートを用意しておき、施工時に経編シートを幅方向に折り畳むことにより、所定の幅で所定の積層数の経編シートを容易に得ることが出来る。この時、折り畳む箇所のたて挿入糸に沿ってトレーサー糸を挿入していると、折り畳む箇所を間違えることなく、容易に折り畳むことが出来る。
【0031】
別の観点からは、本発明の補修補強方法は、経編シートを被補強物上で経編シート幅方向に伸縮させて被補強物の単位幅あたりに配置される強化繊維の本数を調整して配置した後、経編シートに熱硬化性樹脂を含浸させ、該熱硬化性樹脂を硬化して被補強物を補修補強することが好ましい。十分な補修補強効果を得るため手段として、前述のように被補強物上に複数枚積層するだけではなく、被補強物上で経編シート幅方向に伸縮させて被補強物の単位幅あたりに配置される強化繊維の本数を調整することによっても同様の効果を得ることが出来る。経編シートに幅方向への伸縮性を持たせる手段としては、例えば、よこ挿入糸として伸縮性を有する捲縮加工糸を用いることが出来る。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。本発明の実施例では、次の材料を用いた。
・たて挿入糸:炭素繊維糸条(東レ株式会社製“トレカ(登録商標)”、引張強度4,900MPa、引張弾性率230GPa、フィラメント数24,000本、繊度1,650tex、単糸径7μm、最密充填断面積(S0)1.02mm
・地編糸1、よこ挿入糸1:ポリエステル繊維の捲縮加工糸(東レ株式会社製“テトロン(登録商標)”、フィラメント数24本、繊度5.6tex、融点255℃、CR30%)
・地編糸2、よこ挿入糸2:ポリエステル繊維の生糸(東レ株式会社製“テトロン”、フィラメント数24本、繊度5.6tex、融点255℃)
・地編糸3:ポリエステル繊維の捲縮加工糸(東レ株式会社製“テトロン”、フィラメント数36本、繊度8.4tex、融点255℃、CR50%)
・目どめ用繊維:共重合ポリアミド繊維(東レ株式会社製“エルダー(登録商標)”、繊度5.6tex、融点110℃)
・常温硬化タイプのエポキシ樹脂:東レ株式会社製“TSレジンSRCF”
また、本発明の実施例における各種評価方法を下記に示すが、本発明は、特にこれに限定されるものではない。
<たて挿入糸断面積>
地編糸により拘束された、たて挿入糸を円柱形状であるとみなし、たて挿入糸を側面から写真撮影して、かかる側面写真より直径を測定し、かかる直径を用いてたて挿入糸の断面積を算出した。前記写真撮影は、無張力下の経編シートのシート面を、デジタルマイクロスコープ((株)キーエンス製、倍率200倍)を用いて行った。なお、無作為に10箇所撮影した後、各写真の中央に最も近いたて挿入糸について、測定を行い、測定個所に地編糸が位置する場合には、測定箇所の両側の地編糸のない部分を補助線でむすび、かかる補助線をたて挿入糸の輪郭と見なして、たて挿入糸の直径を測定した。
<CR率>
捲縮糸をカセ取りし、無荷重の状態で沸騰水中で15分間処理した後、25℃、相対湿度65%の雰囲気下にて24時間乾燥した。このサンプルに0.088cN/dtex(0.1gf/d)相当の荷重をかけ水中に浸漬し、2分後のかせ長L0を測定した。次に、水中で0.088cN/dtex相当のカセを除き、0.0018cN/dtex(2mgf/d)相当の微荷重に交換し、2分後のかせ長L1を測定した。そして下式によりCRを計算した。
CR(%)={(L0−L1)/L0}×100
(実施例1)
たて挿入糸である炭素繊維糸条と目どめ用繊維とを引き揃えて編機に供給し、地編糸1により7コース/cmの鎖編組織で炭素繊維糸条を拘束し、続けてよこ挿入糸2により、隣り合う炭素繊維糸条をよこ糸頻度4コースで連結することにより製編を行った。製編後のシート巻取工程前に該経編シートを150℃で2秒間加熱することにより、目どめ用繊維のみを溶融させて地編糸を目どめした。
【0033】
得られた経編シートにおいて、炭素繊維糸条の断面積S1を測定した結果、2.05mmであり、最密充填時における断面積S0との比S1/S0の値は2.0であった。炭素繊維糸条の真直性は、炭素繊維糸条の中心線が、たて方向に対してよこ方向の振幅が1mm以内に収まっており良好であった。
【0034】
次に、得られた経編シートを幅方向に1回折り畳むことより2層に積層し、上記の常温硬化タイプのエポキシ樹脂を用いて、ハンドレイアップ成形により平板状のコンポジットを成形した。コンポジットの断面を観察したところ、炭素繊維糸条間はもちろん、炭素繊維糸条内へもエポキシ樹脂は含浸しており、樹脂の未含浸箇所は観察されなかった。
【0035】
コンポジットの引張試験をJIS A1191に準拠して行った結果、引張強度4950MPa、引張弾性率260GPaであり、炭素繊維糸条のポテンシャルを十分に発現した値が得られた。
【0036】
(実施例2)
よこ挿入糸としてよこ挿入糸1を用いた以外は、実施例1と同様にして、経編シートの製編を行った。
【0037】
得られた経編シートにおいて、炭素繊維糸条の断面積S1を測定した結果、2.12mmであり、最密充填時における断面積S0との比S1/S0の値は2.1であった。炭素繊維糸条の真直性は、炭素繊維糸条の中心線が、たて方向に対してよこ方向の振幅が1mm以内に収まっており良好であった。
【0038】
次に、得られた経編シートを幅方向に1/2の幅となるように伸縮させ、実施例1と同様に平板状のコンポジットを成形した。コンポジットの断面を観察したところ、炭素繊維糸条間はもちろん、炭素繊維糸条内へもエポキシ樹脂は含浸しており、樹脂の未含浸箇所は観察されなかった。
【0039】
コンポジットの引張強度は4900MPa、引張弾性率は260GPaであり、炭素繊維糸条のポテンシャルを十分に発現した値が得られた。
【0040】
(実施例3)
地編糸として地編糸3を用いた以外は、実施例1と同様にして、経編シートの製編、およびコンポジットの成形を行った。
【0041】
得られた経編シートにおいて、炭素繊維糸条の断面積S1を測定した結果、3.75mm2であり、最密充填時における断面積S0との比S1/S0の値は3.7であった。炭素繊維糸条の真直性は、炭素繊維糸条の中心線が、たて方向に対してよこ方向の振幅が1mm程度であり比較的良好であった。
【0042】
コンポジットの断面を観察したところ、炭素繊維糸条間はもちろん、炭素繊維糸条内へもエポキシ樹脂は含浸しており、樹脂の未含浸箇所は観察されなかった。
【0043】
コンポジットの引張強度は4800MPa、引張弾性率は240GPaであり、炭素繊維糸条のポテンシャルを十分に発現した値が得られた。
【0044】
(比較例1)
地編糸として地編糸2を用いた以外は、実施例1と同様にして、経編シートの製編を行った。
【0045】
得られた経編シートにおいて、炭素繊維糸条の断面積S1を測定した結果、1.43mmであり、最密充填時における断面積S0との比S1/S0の値は1.4であった。炭素繊維糸条の真直性は、炭素繊維糸条の中心線が、たて方向に対してよこ方向の振幅が1mm以内に収まっており良好であった。
【0046】
続いて、実施例1と同様にコンポジットの成形を行った後、コンポジットの断面を観察したところ、炭素繊維糸条間にはエポキシ樹脂が含浸していたものの、炭素繊維糸条中心部にはエポキシ樹脂が含浸しておらず、糸条中心部の炭素繊維はドライな状態であった。
【0047】
(比較例2)
地編糸のコース数を2コース/cmとした以外は、実施例1と同様にして、経編シートの製編を行った。
【0048】
得られた経編シートにおいて、炭素繊維糸条の断面積S1を測定した結果、4.48mmであり、最密充填時における断面積S0との比S1/S0の値は4.4であった。炭素繊維糸条の真直性は、炭素繊維糸条の中心線が、たて方向に対してよこ方向の振幅が2mm以上に振れており不良であった。
【0049】
続いて、コンポジットの成形を行った後、コンポジットの断面を観察したところ、炭素繊維糸条間はもちろん、炭素繊維糸条内へもエポキシ樹脂は含浸しており、樹脂の未含浸箇所は観察されなかった。
【0050】
コンポジットの引張強度は4300MPa、引張弾性率は150GPaであり、特に引張弾性率が低い値となった。これは、強化繊維である炭素繊維糸条の真直性が低下したためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の経編シートによると、シートの取扱い性に優れ、成形時における樹脂等のマトリックスの含浸性が良好となり、軽量、かつ力学特性に優れた複合材料を得ることが出来る。中でも、コンクリート構造物や建築物や地盤や盛土の補修補強など、表面に貼り付ける補修補強材をはじめ、モルタル、コンクリート、アスファルトまたは樹脂などに埋没させる補修補強材として特に好適であり、土木建築分野、特に建築分野の補修補強材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明における、たて挿入糸断面を示す概略断面図である。
【図2】本発明における、鎖編組織の一例を示す概略平面図である。
【図3】本発明の経編シートの一実施態様を示す概略平面図である。
【符号の説明】
【0053】
1:たて挿入糸断面
2:たて挿入糸フィラメント
3:集合体の外挿線
4:地編糸
5:経編シート
6:たて挿入糸
7:よこ挿入糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチフィラメントの強化繊維であるたて挿入糸と、よこ挿入糸と、地編糸とからなる経編シートであって、たて挿入糸の断面積S1と、たて挿入糸の最密充填時における断面積S0との比S1/S0が、1.5〜4.0の範囲内にある、経編シート。
【請求項2】
地編糸が、合成繊維のマルチフィラメントからなる捲縮加工糸であり、かつ、捲縮加工糸のバルキー性を表す指標である伸縮復元率が10〜60%である捲縮加工糸である、請求項1に記載の経編シート。
【請求項3】
地編糸の編組織が、鎖編組織であり、かつ、コース数が3〜10コース/cmである、請求項1または2に記載の経編シート。
【請求項4】
少なくとも1本のたて挿入糸に沿って、着色された合成繊維のトレーサー糸が挿入された請求項1〜3いずれかに記載の経編シート。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の経編シートを被補強物上に複数枚積層し、経編シートに熱硬化性樹脂を含浸させ、該熱硬化性樹脂を硬化して被補強物を補強補修する、補修補強方法。
【請求項6】
経編シートを被補強物上に積層する手段が、経編シートを幅方向に折り畳む工程を含むものである、請求項5に記載の補修補強方法。
【請求項7】
請求項1〜4いずれかに記載の経編シートを被補強物上で経編シート幅方向に伸縮させて被補強物の単位幅あたりに配置される強化繊維の本数を調整して配置した後、経編シートに熱硬化性樹脂を含浸させ、該熱硬化性樹脂を硬化して被補強物を補修補強する、補修補強方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−24554(P2010−24554A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183494(P2008−183494)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】