説明

結晶粒度が小さいヘテロポリモリブデン酸塩の製造方法

【課題】結晶粒度が小さく、しかも、高純度のヘテロポリモリブデン酸塩の製造方法を提供する。
【解決手段】ヘテロポリモリブデン酸水溶液を攪拌しながら、この中へアルカリを投入し、ヘテロポリモリブデン酸塩が生成析出した懸濁液を調製し、この懸濁液を80℃以下で減圧加熱濃縮してヘテロポリモリブデン酸塩のスラリーを形成し、このスラリーを90℃以下で乾燥することにより、結晶粒度が小さく、しかも、高純度のヘテロポリモリブデン酸塩を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、触媒、比色分析、エレクトロクロミズム材料等多方面で使用されているヘテロポリモリブデン酸塩の製造方法に関し、さらには、結晶粒度が小さく、しかも、高純度のヘテロポリモリブデン酸塩を得ることができる製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ヘテロポリモリブデン酸塩の製造方法としては、種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1、非特許文献1には、リン酸、硝酸アンモニウム、モリブデン酸アンモニウムまたは三酸化モリブデンとアンモニア水を水に溶解し、加熱攪拌してヘテロポリモリブデン酸塩の沈殿を得る方法が提案されている。
また、上記の方法でリン酸ソーダを使用することも非特許文献2により知られている。
さらに、特許文献2、非特許文献3には、12モリブドリン酸を水に溶解し、水酸化ナトリウムでpHを上げた後に、塩化アンモニウム、塩酸を加えて結晶を沈殿させる方法、あるいは、沈殿物を遠心分離機にかけて、ヘテロポリモリブデン酸塩の粒子を得ることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭50−23013号公報
【特許文献2】特開平3−37116号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J.Anal.Appl.Pynolysis78(2007)p.363−370
【非特許文献2】無機化合物・錯体辞典, 1997,p.1412−1419
【非特許文献3】日本化学会誌,1981,No.3,p.336−342
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の製造方法において、硝酸塩が使用される場合には、排水処理設備が必要となり、また、リンモリブデン酸塩を300℃程の温度で使用する場合は残留成分のガスが発生するため排ガス処理設備が必要となる。
また、沈殿物をろ過する処理を行う場合には、粒子が微細であれば、目詰まり対策のために段階的なろ過が可能な設備が必要になり、また、処理に時間も要することになる。
さらに、遠心分離を行って粒子を得る場合には、少量ずつバッチで処理しなければならないため生産性に劣る。
従来技術においては、上記のような問題点があるため、このような煩雑な操作を行うことなく、また、特別の設備を必要とすることなく、結晶粒度が小さいヘテロポリモリブデン酸塩を製造する方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく、ヘテロポリモリブデン酸塩の製造工程について、鋭意研究を行なったところ、以下の知見を得たのである。
【0007】
ヘテロポリモリブデン酸水溶液をアルカリで処理することによってヘテロポリモリブデン酸塩を製造するに際し、塩が生成析出した懸濁液を減圧加熱濃縮し、得られたスラリーを温風乾燥することで、結晶粒度の小さい微細結晶を短時間で大量に製造することができること。
また、ヘテロポリモリブデン酸水溶液を処理するアルカリとして、アンモニア水溶液、アンモニアの炭酸塩、炭酸水素塩や、カリウムの水酸化塩、炭酸塩、炭酸水素塩を用いることで、副生成物を水や二酸化炭素だけにすることができるため、後処理設備の設置が必要となくなること。
【0008】
この発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、
「(1) ヘテロポリモリブデン酸水溶液を攪拌しながら、この中へアルカリを投入し、ヘテロポリモリブデン酸塩が生成析出した懸濁液を調製し、この懸濁液を80℃以下で減圧加熱濃縮してヘテロポリモリブデン酸塩のスラリーを形成し、このスラリーを90℃以下で乾燥することを特徴とする結晶粒度が小さいヘテロポリモリブデン酸塩の製造方法。
(2) 上記のアルカリは、アンモニア水溶液、アンモニアの炭酸塩、炭酸水素塩、カリウムの水酸化塩、炭酸塩、炭酸水素塩の固体または水溶液のいずれかであることを特徴とする前記(1)に記載の結晶粒度が小さいヘテロポリモリブデン酸塩の製造方法。」
に特徴を有するものである。
【0009】
以下に、本発明の製造方法について、より具体的かつ詳細に説明する。
【0010】
本発明のヘテロポリモリブデン酸塩の製造方法は、概略、以下の工程により行われる。
(a)ヘテロポリモリブデン酸を溶解させた水溶液に対して、アンモニア水溶液、アンモニアの炭酸塩、炭酸水素塩(例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム)、あるいは、カリウムの水酸化塩、炭酸塩、炭酸水素塩(例えば、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム)の固体または水溶液を添加すると、ヘテロポリモリブデン酸アンモニウムあるいはヘテロポリモリブデン酸カリウムの生成析出した懸濁液が得られる。
(b)次いで、この懸濁液を、80℃以下の温度で減圧加熱濃縮し、ヘテロポリモリブデン酸塩のスラリーを得る。
(c)次いで、上記スラリーを90℃以下の温度で加熱乾燥し、ヘテロポリモリブデン酸塩の微結晶が凝集した塊を得る。
(d)次いで、得られた微結晶が凝集した塊を解砕し、250μmの篩で篩い分けすることにより、結晶粒度が小さいヘテロポリモリブデン酸アンモニウムあるいはヘテロポリモリブデン酸カリウムを製造することができる。
【0011】
この発明では、ヘテロポリモリブデン酸を溶解させた水溶液に対して、アンモニア水溶液、アンモニアの炭酸塩、炭酸水素塩(例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム)、あるいは、カリウムの水酸化塩、炭酸塩、炭酸水素塩(例えば、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム)の固体または水溶液を添加することから、副生成物は水や二酸化炭素だけになるため、後処理設備の設置が必要となくなる。さらに、残留する副生成物が形成されないことから、高純度のヘテロポリモリブデン酸塩を製造することができる。
【0012】
ヘテロポリモリブデン酸1molに対するアンモニア水またはカリウムの水酸化塩の好適な添加量は2.5〜3.0molであり、また、ヘテロポリモリブデン酸1molに対するアンモニウムまたはカリウムの炭酸塩の好適な添加量は1.2〜1.5molであり、また、ヘテロポリモリブデン酸1molに対するアンモニウムまたはカリウムの炭酸水素塩の好適な添加量は2.5〜3.0molである。
【0013】
また、ヘテロポリモリブデン酸アンモニウムあるいはヘテロポリモリブデン酸カリウムの生成析出した懸濁液を、80℃以下の温度で減圧加熱濃縮するのは、高温による粒子の粗大化や粒子形状の変化を防ぐという理由による。
【0014】
上記減圧加熱濃縮で得られたスラリーを、90℃以下の温度で加熱乾燥するのは、高温による粒子の粗大化や粒子形状の変化を防ぐという理由による。
【0015】
スラリーを加熱乾燥することによって、ヘテロポリモリブデン酸塩の微結晶が凝集した塊が得られるが、これを乳鉢で解砕し、250μmの篩を通すことによって、平均結晶粒度0.3〜2.0μmの、非常に微細な結晶粒度を有するヘテロポリモリブデン酸塩を製造することができる。
そして、この結晶粒度の小さいヘテロポリモリブデン酸塩は、純度を高めるための水洗処理等を行わなくても、高純度のものとして製造される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、従来のように特別の後処理を行う必要はなく、また、特別の処理設備を必要とすることなく、結晶粒度の小さい、しかも高純度のヘテロポリモリブデン酸塩を、効率的に工業的な規模で製造することができるから、工業的な価値は非常に大きい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)は、実施例1により製造されたヘテロポリモリブデン酸アンモニウムの走査型電子顕微鏡写真、(b)は、比較例1により製造されたヘテロポリモリブデン酸アンモニウムの走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図2】実施例1、比較例1により製造されたヘテロポリモリブデン酸アンモニウムの赤外分光分析法によるIRスペクトルを示す。
【図3】(a)は、実施例2により製造されたヘテロポリモリブデン酸カリウムの走査型電子顕微鏡写真、(b)は、比較例2により製造されたヘテロポリモリブデン酸カリウムの走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図4】実施例2、比較例2により製造されたヘテロポリモリブデン酸カリウムの赤外分光分析法によるIRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を、以下、実施例を用いて説明する
【実施例1】
【0019】
以下の手順で、本発明のヘテロポリモリブデン酸アンモニウムを製造した。
(a)1.5Lの純水中に、ヘテロポリモリブデン酸(自社製品)の結晶1.0kgを投入し、完全に溶解し、0.29mol/Lの濃度のヘテロポリモリブデン酸水溶液を調製する。
(b)上記ヘテロポリモリブデン酸水溶液を、マグネチックスターラーで500rpmの回転数で攪拌し、この中へ、1.61mol/Lの濃度のアンモニア水を60ml/minの流量で添加する。
(c)上記アンモニア水を添加すると同時にヘテロポリモリブデン酸アンモニウムの結晶が析出を始めるが、アンモニア水を合計796ml添加した後、さらに、ヘテロポリモリブデン酸水溶液の攪拌を30分程度継続させ、ヘテロポリモリブデン酸アンモニウムの結晶析出反応を完了した懸濁液を生成する。
(d)ヘテロポリモリブデン酸アンモニウムが析出した上記懸濁液を、ロータリーエバポレーターを使用して、40rpmで回転させ、かつ、液温を60℃に維持した状態で減圧濃縮する。
(e)上記懸濁液が濃縮されスラリー状になったら、該スラリーを容器に移し、これを恒温乾燥機に入れて70℃で24時間乾燥する。
(f)上記乾燥により、微結晶が凝集した塊になったヘテロポリモリブデン酸アンモニウムが形成されるが、これを乳鉢で解砕し、250μmの篩で篩い分ける。
そして、上記(a)〜(f)の工程により、結晶粒度が小さく、かつ、高純度の本発明のヘテロポリモリブデン酸アンモニウムが製造される。
図1(a)に、製造されたヘテロポリモリブデン酸アンモニウムの走査型電子顕微鏡写真を、また、図2に製造されたヘテロポリモリブデン酸アンモニウムの赤外分光分析法により得られたIRスペクトルを示す。
【実施例2】
【0020】
また、以下の手順で、本発明のヘテロポリモリブデン酸カリウムを製造した。
(a)1.5Lの純水中に、ヘテロポリモリブデン酸(自社製品)の結晶1.0kgを投入し、完全に溶解し、0.29mol/Lの濃度のヘテロポリモリブデン酸水溶液を調製する。
(b)3.66mol/Lの濃度になるように粒状水酸化カリウムを添加した水酸化カリウム水溶液を、マグネチックスターラーで500rpmの回転数で攪拌されている上記ヘテロポリモリブデン酸水溶液中へ、60ml/minの流量となるように添加する。
(c)上記水酸化カリウム水溶液を添加すると同時にヘテロポリモリブデン酸カリウムの結晶が析出し始めるが、水酸化カリウム水溶液を合計850ml添加した後、さらに、ヘテロポリモリブデン酸水溶液の攪拌を30分程度継続させ、ヘテロポリモリブデン酸カリウムの結晶析出反応を完了した懸濁液を生成する。
(d)ヘテロポリモリブデン酸カリウムが析出した上記懸濁液を、ロータリーエバポレーターを使用して、40rpmで回転させ、かつ、液温を60℃に維持した状態で減圧濃縮する。
(e)上記懸濁液が濃縮されスラリー状になったら、該スラリーを容器に移し、これを恒温乾燥機に入れて70℃で24時間乾燥する。
(f)上記乾燥により、微結晶が凝集した塊になったヘテロポリモリブデン酸カリウムが形成されるが、これを乳鉢で解砕し、250μmの篩で篩い分ける。
そして、上記(a)〜(f)の工程により、結晶粒度が小さく、かつ、高純度の本発明のヘテロポリモリブデン酸カリウムが製造される。
図3(a)に、製造されたヘテロポリモリブデン酸カリウムの走査型電子顕微鏡写真を、また、図4に、製造されたヘテロポリモリブデン酸カリウムの赤外分光分析法により得られたIRスペクトルを示す。
【実施例3】
【0021】
実施例1、実施例2と同様な方法により、マグネチックスターラーで500rpmの回転数で攪拌されている0.29mol/Lの濃度のヘテロポリモリブデン酸水溶液中へ、炭酸カリウム水溶液を添加することにより、結晶粒度が小さく、かつ、高純度の本発明のヘテロポリモリブデン酸カリウムを製造した。
【0022】
表1に、実施例1〜3で得られた各種ヘテロポリモリブデン酸塩の成分分析値を示す。
図1〜3および表1から、本発明の製造方法により製造したヘテロポリモリブデン酸塩は、結晶粒度が小さく、かつ、高純度であることがわかる。
【0023】
比較のために、以下の工程で、ヘテロポリモリブデン酸アンモニウム、ヘテロポリモリブデン酸カリウムを製造した。
【比較例1】
【0024】
以下の工程で、比較例1のヘテロポリモリブデン酸アンモニウムを製造した。
(a)330mlの純水中に、25%アンモニア水(大盛化工株式会社、試薬特級)を167ml入れ撹拌し、4.63mol/Lの濃度のアンモニア水溶液を調製する。
(b)上記(a)に酸化モリブデン(太陽鉱工)を100g入れ撹拌し完全に溶解させる。
(c)純水を600mlに対して、硝酸(比重1.38、和光純薬、一級)を117ml、リン酸(85%、和光純薬、試薬一級)を10ml入れ撹拌し、そこに硝酸アンモニウム(和光純薬、試薬一級)を83g入れて完全に溶解させる。
(d)上記(a)と(b)で調製した水溶液をマグネチックスターラーで500rpmの回転数で撹拌しているところへ、上記(c)で調製した水溶液を60ml/minで定量ポンプを使用して添加する。半分ほど添加した頃から鮮やかな黄色の結晶が析出してくる。
(e)上記(c)で調製した水溶液を全量添加したあとも、撹拌を30分ほど続けて、反応完了とする。
(f)沈殿物を吸引ろ過した後、容器に移し恒温乾燥器へ入れて70℃で24時間乾燥する。
(g)乾燥した結晶は凝集した塊になっているので乳鉢で解砕し、250μmの篩いで篩分することにより、ヘテロポリモリブデン酸アンモニウムを製造した。
図1(b)に、製造されたヘテロポリモリブデン酸アンモニウムの走査型電子顕微鏡写真を、また、図2に、製造されたヘテロポリモリブデン酸アンモニウムの赤外分光分析法により得られたIRスペクトルを示す。
【比較例2】
【0025】
以下の工程で、比較例2のヘテロポリモリブデン酸カリウムを製造した。
(a)330mlの純水中に、粒状の水酸化カリウム(キシダ化学株式会社、試薬特級)92g入れ完全に溶解させ、4.22mol/Lの濃度の水酸化カリウム水溶液を調製する。
(b)上記(a)に酸化モリブデン(太陽鉱工)を100g入れ撹拌し完全に溶解させる。
(c)純水を600mlに対して、硝酸(比重1.38、和光純薬、一級)を117ml、リン酸(85%、和光純薬、試薬一級)を10ml入れ撹拌し、そこに硝酸カリウム(和光純薬、試薬一級)を105g入れて完全に溶解させる。
(d)上記(a)と(b)で調製した水溶液をマグネチックスターラーで500rpmの回転数で撹拌しているところへ、上記(c)で調製した水溶液を60ml/minで定量ポンプを使用して添加する。半分ほど添加した頃から鮮やかな黄色の結晶が析出してくる。
(e)上記(c)で調製した水溶液を全量添加したあとも、撹拌を30分ほど続けて、反応完了とする。
(f)沈殿物を吸引ろ過した後、容器に移し恒温乾燥器へ入れて70℃で24時間乾燥する。
(g)乾燥した結晶は凝集した塊になっているので乳鉢で解砕し、250μmの篩いで篩分することにより、ヘテロポリモリブデン酸カリウムを製造した。
図3(b)に、製造されたヘテロポリモリブデン酸カリウムの走査型電子顕微鏡写真を、また、図4に製造されたヘテロポリモリブデン酸カリウムの赤外分光分析法により得られたIRスペクトルを示す。
【0026】
表1に、比較例1、比較例2によって製造されたヘテロポリモリブデン酸塩の成分分析値と、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定した平均粒子径D50を示す。
表1から、実施例1〜3で得られたヘテロポリモリブデン酸塩は、アンモニア水では91質量%(実施例1)、カリウム塩では93質量%以上(実施例2、3)の純度を有し、一方、比較例1、比較例2のそれは、せいぜいアンモニウム塩では89質量%(比較例1)、カリウム塩では91質量%(比較例2)の純度であるから、実施例1〜3のヘテロポリモリブデン酸塩は、比較例1、比較例2のそれと比べると、高純度であることがわかる。(なお、ここでは、MoOとPとNH又はKの合計値を純度とした。)
また、実施例1〜3及び比較例1、比較例2で得られたヘテロポリモリブデン酸塩の結晶粒度を、電子顕微鏡影像の任意の粒子を100個選択しその平均粒度を測定したところ、実施例1〜3の平均結晶粒度は、それぞれ、1.1μm、0.9μm、0.9μmであるのに対して、比較例1、比較例2のそれは10.3μm、9.4μmであることから、本発明の製造方法によって、結晶粒度の小さいものが得られていることがわかる。
【0027】
【表1】

【実施例4】
【0028】
アルカリとして、炭酸アンモニウムを用いて、以下の手順で、本発明のヘテロポリモリブデン酸アンモニウムを製造した。
(a)1.5Lの純水中に、ヘテロポリモリブデン酸(自社製品)の結晶1.0kgを投入し、完全に溶解し、0.29mol/Lの濃度のヘテロポリモリブデン酸水溶液を調製する。
(b)上記ヘテロポリモリブデン酸水溶液を、マグネチックスターラーで500rpmの回転数で攪拌し、この中へ、1.60mol/Lの濃度の炭酸アンモニウム水溶液を60ml/minの流量で添加する。
(c)上記炭酸アンモニウム水溶液を添加すると同時にヘテロポリモリブデン酸アンモニウムの結晶が析出を始めるが、炭酸アンモニウム水溶液を全量(400ml)添加した後、さらに、ヘテロポリモリブデン酸水溶液の攪拌を30分程度継続させ、ヘテロポリモリブデン酸アンモニウムの結晶析出反応を完了した懸濁液を生成する。
(d)ヘテロポリモリブデン酸アンモニウムが析出した上記懸濁液を、ロータリーエバポレーターを使用して、40rpmで回転させ、かつ、液温を60℃に維持した状態で減圧濃縮する。
(e)上記懸濁液が濃縮されスラリー状になったら、該スラリーを容器に移し、これを恒温乾燥機に入れて70℃で24時間乾燥する。
(f)上記乾燥により、微結晶が凝集した塊になったヘテロポリモリブデン酸アンモニウムが形成されるが、これを乳鉢で解砕し、250μmの篩で篩い分ける。
上記(a)〜(f)の工程により、結晶粒度が小さく、かつ、高純度の本発明のヘテロポリモリブデン酸アンモニウムが製造される。
【実施例5】
【0029】
アルカリとして、炭酸水素アンモニウムを用いて、以下の手順で、本発明のヘテロポリモリブデン酸アンモニウムを製造した。
(a)1.5Lの純水中に、ヘテロポリモリブデン酸(自社製品)の結晶1.0kgを投入し、完全に溶解し、0.29mol/Lの濃度のヘテロポリモリブデン酸水溶液を調製する。
(b)上記ヘテロポリモリブデン酸水溶液を、マグネチックスターラーで500rpmの回転数で攪拌し、この中へ、1.60mol/Lの濃度の炭酸水素アンモニウム水溶液を60ml/minの流量で添加する。
(c)上記炭酸水素アンモニウム水溶液を添加すると同時にヘテロポリモリブデン酸アンモニウムの結晶が析出を始めるが、炭酸水素アンモニウム水溶液を全量(800ml)添加した後、さらに、ヘテロポリモリブデン酸水溶液の攪拌を30分程度継続させ、ヘテロポリモリブデン酸アンモニウムの結晶析出反応を完了した懸濁液を生成する。
(d)ヘテロポリモリブデン酸アンモニウムが析出した上記懸濁液を、ロータリーエバポレーターを使用して、40rpmで回転させ、かつ、液温を60℃に維持した状態で減圧濃縮する。
(e)上記懸濁液が濃縮されスラリー状になったら、該スラリーを容器に移し、これを恒温乾燥機に入れて70℃で24時間乾燥する。
(f)上記乾燥により、微結晶が凝集した塊になったヘテロポリモリブデン酸アンモニウムが形成されるが、これを乳鉢で解砕し、250μmの篩で篩い分ける。
上記(a)〜(f)の工程により、結晶粒度が小さく、かつ、高純度の本発明のヘテロポリモリブデン酸アンモニウムが製造される。
【実施例6】
【0030】
アルカリとして、炭酸水素カリウムを用いて、以下の手順で、本発明のヘテロポリモリブデン酸カリウムを製造した。
(a)1.5Lの純水中に、ヘテロポリモリブデン酸(自社製品)の結晶1.0kgを投入し、完全に溶解し、0.29mol/Lの濃度のヘテロポリモリブデン酸水溶液を調製する。
(b)上記ヘテロポリモリブデン酸水溶液を、マグネチックスターラーで500rpmの回転数で攪拌し、この中へ、3.66mol/Lの濃度の炭酸水素カリウム水溶液を60ml/minの流量で添加する。
(c)上記炭酸水素カリウム水溶液を添加すると同時にヘテロポリモリブデン酸カリウムの結晶が析出を始めるが、炭酸水素カリウム水溶液を全量(350ml)添加した後、さらに、ヘテロポリモリブデン酸水溶液の攪拌を30分程度継続させ、ヘテロポリモリブデン酸カリウムの結晶析出反応を完了した懸濁液を生成する。
(d)ヘテロポリモリブデン酸カリウムが析出した上記懸濁液を、ロータリーエバポレーターを使用して、40rpmで回転させ、かつ、液温を60℃に維持した状態で減圧濃縮する。
(e)上記懸濁液が濃縮されスラリー状になったら、該スラリーを容器に移し、これを恒温乾燥機に入れて70℃で24時間乾燥する。
(f)上記乾燥により、微結晶が凝集した塊になったヘテロポリモリブデン酸カリウムが形成されるが、これを乳鉢で解砕し、250μmの篩で篩い分ける。
上記(a)〜(f)の工程により、結晶粒度が小さく、かつ、高純度の本発明のヘテロポリモリブデン酸カリウムが製造される。
【0031】
上記実施例4〜6によって製造したヘテロポリモリブデン酸アンモニウム、ヘテロポリモリブデン酸カリウムのいずれについても、表1に示すように、実施例1〜3の場合と同様、高純度でしかも結晶粒度の小さいものが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上のとおり、本発明の製造方法によれば、結晶粒度が小さく、しかも、高純度のヘテロポリモリブデン酸塩が得られており、触媒、比色分析、エレクトロクロミズム材料等多方面への利用・応用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロポリモリブデン酸水溶液を攪拌しながら、この中へアルカリを投入し、ヘテロポリモリブデン酸塩が生成析出した懸濁液を調製し、この懸濁液を80℃以下で減圧加熱濃縮してヘテロポリモリブデン酸塩のスラリーを形成し、このスラリーを90℃以下で乾燥することを特徴とする結晶粒度が小さいヘテロポリモリブデン酸塩の製造方法。
【請求項2】
上記のアルカリは、アンモニア水溶液、アンモニアの炭酸塩,炭酸水素塩、カリウムの水酸化塩,炭酸塩,炭酸水素塩の固体または水溶液のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の結晶粒度が小さいヘテロポリモリブデン酸塩の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate