説明

結核の予防ワクチン

【課題】 MTB−Cの毒性菌株の細胞壁断片を含む免疫療法薬を使用し、これによりヒト型結核菌により引き起こされる結核の予防的治療薬を調剤することである。
【解決手段】 結核の予防薬を生成するため、ヒト型結核菌複合体(MTB−C)の毒性菌株の細胞壁断片を含む免疫療法薬の使用において、前記免疫療法薬の製造法は、(A)ヒト型結核菌複合体(MTB−C)の毒性菌株を、3週間以上の培養期間で、培養するステップと、(B)非イオン性界面活性剤の存在下で、前記細胞の培養菌を均質化するステップと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結核の予防薬を生成するため、ヒト型結核菌複合体(MTB−C)の毒性菌株の細胞壁断片を利用した免疫療法薬の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
結核は、ヒト型結核菌複合体の病原菌により引き起こされる慢性感染症疾患である。ヒト型結核菌複合体は、ヒト型結核菌(M. tuberculosis)、ウシ型結核菌(M. bovis)、ネズミ由来結核菌(M. microti)、好気性結核菌(M. africanum)の種を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】スペイン特許第2231037−A1号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】E. Ribi et al., Nature 1963, 198, pages 1214 to 1215
【非特許文献2】D.P. Pal et al., Indian J. Med. Res. 1977, 65, pages 340 to 345
【非特許文献3】G.K. Khuller et al., Folia Microbiol., 1992, 37, pages 407 to 412
【非特許文献4】E.M. Agger et al., Scand. J. Immunol., 2002, 56, pages 443 to 447
【非特許文献5】I.M. Orme Vaccine, 2006, 24, pages 2 to 19
【非特許文献6】S.H.E. Kaufmann, Nature Rev. Immunol. 2006, 6, 699-704
【0005】
世界保健機関(WHO)によれば、結核の症状を示す新たな患者が8百万人世界中で毎年記録されており、そのうち約3百万人が死に至る。実際に、世界中で20億人以上の感染者が存在し、9千万人から1億人が毎年新たに感染している。
【0006】
結核の予防治療として現在用いられているワクチンは、BCG(Bacillus Calmette-Guerin:カルメット−ゲラン桿菌(BCGワクチンの調製に使うウシ型結核菌の弱毒化された−菌株)と称する菌株のバクテリアとウシ型結核菌の弱毒化した変異体を利用している。
【0007】
ヒト型結核菌の毒性のあるいは弱毒性の(或いは無毒化した)菌株の細胞壁断片を利用した結核予防の様々なワクチンは、従来文献に記載されている。ワクチンの組成に使用される補助薬(adjuvant)が、ワクチンの有効性に大きな影響を及ぼすと記載されている。
【0008】
非特許文献1は、無毒化したBCG菌株の細胞壁断片と鉱油を含む組成物で行った免疫化分析について記載する。この細胞壁断片は、鉱油の中での前記の菌株の培養物の均質化プロセスにより得られる。この組成物は、従来のワクチン(BCG)よりも有効である。しかし、非特許文献1は、細胞壁断片は、鉱油が存在しない水で均質化して生成した場合には、如何なる免疫反応(immunological response)も示さないと、記載している。
【0009】
非特許文献2は、毒性のH37Rv菌株の細胞壁断片と鉱油で生成したワクチンを開示する。この場合には、細胞壁断片は、水溶相で死細胞を均質化し、その後鉱油をこの組成物に加えて生成している。同文献によれば、水溶相で均質化された細胞壁断片は、免疫原ではなく、また鉱油の存在がワクチンを有効にするために必要であると、記載する。
【0010】
非特許文献3によれば、フロインドの不完全アジュバンド(Freund's incomplete adjuvant)で形成したヒト型結核菌の弱毒性のH37Ra菌株の様々な細胞壁断片の保護効用について記載するが、この場合も鉱油を含んでいる。
【0011】
非特許文献4は、毒性のH37Rv菌株の細胞壁断片を含むワクチンは、それが陽イオン界面活性剤である臭化ジメチルジオクタデシルアンモニウム(dimethydioctadecylammonium)を補助薬として含む場合に、有効であると、述べている。同時に、同非特許文献4は、均質化したヒト型結核菌ワクチンによる効力判定は、上記の補助薬を含まない場合には、マウスモデル(murine model)の結核菌に対し一般的なレベルの耐性を示さないとも、述べている。
【0012】
非特許文献5は、結核の新たな予防ワクチンの最新の研究報告であるが、従来のBCGワクチンは、成人の結核予防に有効でないと、述べている。同時に同文献5は、様々な種類のワクチン(タンパク質とのサブユニット・ワクチン、DNAとのワクチン、ウィルスと組み合わせたワクチン、遺伝子組み換え型菌株ワクチン)に対する複数の候補を効力検定しており、新たな展開が期待される。
【0013】
ヒト型結核菌に起因する感染症を防止する予防ワクチンで、弱毒化したBCG菌株を利用した現在のワクチンよりも有効性の高い予防ワクチンの必要性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、MTB−Cの毒性菌株の細胞壁断片を含む免疫療法薬を使用することであり、ヒト型結核菌により引き起こされる感染症の予防的治療薬を調剤することである。
【0015】
特許文献1は、ヒト型結核菌複合体(MTB−C)の毒性菌株を含む細胞壁断片を含む免疫療法薬を調剤する方法を開示する。同時に、それを含む組成物と、他の薬剤と組み合わせた結核の混合治療への応用についても開示する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本明細書は、結核の予防的治療を調剤するために、前記免疫療法薬の使用方法を開示する。
【0017】
本発明の目的は、結核の予防薬を生成するため、ヒト型結核菌複合体(MTB−C)の毒性菌株の細胞壁断片を含む免疫療法薬の使用を開示することである。前記免疫療法薬の製造法は、(A)ヒト型結核菌複合体(MTB−C)の毒性菌株を、3週間以上の培養期間で、培養するステップと、(B)非イオン性界面活性剤の存在下で、前記細胞の培養物を均質化するステップとを有する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この毒性菌株は、ヒト型結核菌複合体(MTB−C)の如何なる毒性菌株でもよい。この分野の研究者により最も広く使用されている毒性菌株の一つは、H37Rvと称する菌株である。これは、英国のロンドンにある菌株寄託機関(NCTC:National Collection of Type Cultures)に保管(保管番号:NC007416)されており、そこで入手可能である。
【0019】
この毒性菌株は、当業者に公知の培養媒体内に植菌することにより培養される。
培養媒体の一例は、ミドルブルック(Middlebrook)7H10または7H10の寒天培養基、ソートン(Sauton)の培養媒体、プロスカウアー・ベック(Proskauer-Beck)の培養媒体である。
【0020】
毒性菌株の培養期間は、3週間以上で、好ましくは3−4週間である。その培養温度は、好ましくは34℃と38℃の間である。
【0021】
培養が終了すると、細胞は、特許文献1に開示された方法により、分離される。
【0022】
活性細胞(live cell)の均質化プロセスは、非イオン性の界面活性剤の存在下で行う。好ましくは、中性pH(pH6から8の間)の緩衝媒体中で行う。緩衝媒体の一例は、PBS緩衝液(燐酸塩で緩衝した食塩水)である。
【0023】
この均質化プロセスは、超音波による分解、あるいは機械的均質化装置と組み合わせた他の手段でも行うことができる。この他の手段の一例は、直径が1mmでシリカ製あるいはジルコニア/シリカ製のビーズを用いて行われる。ここで使用される機械的均質化装置は、BioSpec BeadBeater(登録商標)モデル(細胞粉砕装置)である。
【0024】
ヒト型結核菌複合体(MTB−C)は、均質化プロセスで破砕され、小さな細胞壁断片が得られる。
【0025】
均質化プロセスで使用される非イオン性の界面活性剤は、エトキシル酸アルキルフェノール類(alkylphenol ethoxylates)、エトキシル酸ソルビタンエステル類(sorbitan ester ethixykates)、又はそれらの混合物からなるグループから選択される。
【0026】
より好ましくは、非イオン性の界面活性剤は、エトキシル酸オクチルフェノール(octylphenol ethoxylates)のグループから選択される。より好ましくは、エチレン酸化物(etylene oxide)を7−8モル含むエトキシル酸オクチルフェノールが用いられる。この界面活性剤は、Triton X−114(登録商標)の名称で市販されている。
【0027】
均質化ステップで使用される非イオン性の界面活性剤の均等質(homogenate細胞構造を細かく破壊して得る均一な懸濁液)の全重量に対する割合は、1−10重量%であり、より好ましくは、3−6重量%である。
【0028】
細胞壁断片を含む均質化した均等質に、従来の処理を施して、断片化していない細胞と可溶化した組成物を分離し廃棄する。特許文献1に開示された異なる速度での遠心分離と緩衝溶液での洗浄が用いられる。細胞壁断片を含む沈殿物が、上記の純化プロセスの後に、得られる。この沈殿物は、PBS緩衝液内に拡散して、従来の処理を施して、MTB−C細胞の完全な不活性化を行う。このMTB−C細胞は、断片化プロセスと純化プロセスの後でも依然として見えることもある。上記の処理は、化学的プロセス、物理的プロセスの何れかである。化学的プロセスは、ホルムアルデヒドによる処理であり、物理的プロセスは、オートクレーブ法(高圧蒸気殺菌法)による処理と低温殺菌による処理である。
【0029】
不活性化処理の後に得られたPBS緩衝液内で拡散している細胞壁断片を、低温乾燥して貯蔵を容易にする。このために、拡散液をガラス瓶の中に入れて低温乾燥する。この低温乾燥の温度は、−15℃〜−25℃で、0.1〜0.5mbarの真空中で行う。
【0030】
低温乾燥プロセスの後に得られたガラス瓶は、ヒト型結核菌複合体(MTB−C)の細胞壁断片を含む免疫療法薬を含み、これを低温(例、−70℃)で貯蔵する。
【0031】
上記したように本発明の目的は、結核の予防薬を生成するため、ヒト型結核菌複合体(MTB−C)の毒性菌株の細胞壁断片を利用した免疫療法薬の使用である。
【0032】
結核の予防治療薬は、細胞壁断片、選択的事項としては、薬理上許容可能な希釈液、補助薬または賦形剤を利用した免疫療法薬である。この結核の予防治療薬は、燐酸塩を緩衝した食塩水、水様液、乳剤あるいはリポソームの形態で、得られる。
【0033】
この薬剤は、リポソームの形態が好ましい。
【0034】
リポソームは、従来の補助脂質と特許文献1に開示された当業者に公知の方法で、得られる。
【0035】
このリポソームは、ホスファリピド(リン脂質)とステロールを含む。ホスファチドは、中性あるいは負の正味電荷を有する。
【0036】
使用されるホスファリピドは、ホスファチジルコリン(phosphatidylcholine)、ホスファチジルセリン(phosphatidylserine)とホスファチジルイノシトール(phosphatidylinositol)を含む。
【0037】
リポソームの主要構成分は、通常、ホスファチジルコリン(phosphatidylcholine)である。これは、合成物、あるいは天然素材から分離した物である。頻繁に使用される市販品は、大豆由来のレシチンである。このレシチンは、ホスファチジルコリンを主に含むホスファリピドの複合混合物である。
【0038】
ステロールは、リポソームの調剤の際に使用され、コレステロールと胆汁酸塩である。
【0039】
リポソームは、好ましくは、大豆由来のレシチンとコール酸ナトリウム(sodium cholate)の混合物から生成される。
【0040】
リポソームは、選択的事項として、このリポソームの安定性を向上するための添加剤を含む。この添加剤の一例は、脂質酸化防止剤として機能するビタミンEである。
【0041】
このリポソームは、1ミクロン以下のものが99.9%を占める。
【0042】
このリポソームを、凍結乾燥化処理し、かくして、凍結乾燥されたリポソームの形態の免疫療法薬が得られる。
【0043】
免疫療法薬を含む薬剤を、1回あるいは複数回(のドーズで)投薬する。複数回(のドーズで)投薬では、ある一定の間隔をあけて、免疫療法薬を投与する。好ましくは、2回の投薬は、2〜5週間の間隔をあけて、好ましくは3〜4週間の間隔をあけて、行う。
【0044】
この薬剤は、粘膜を通して投薬することができる。例えば、目の粘膜、鼻腔内の粘膜、口内の粘膜、胃の、腸管の粘膜、膣の粘膜、尿路の粘膜を通して投与する。又は非経口で、例えば、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射、静脈注射、腹腔内注射で投薬する。非経口の投薬が好ましい。
【0045】
適切な一回の投薬量(ドーズ)は、いくつかのパラメータに依存する。このパラメータは、治療対象と投薬方法による。好ましくは、ドーズ(一回の投薬量)は、1μg〜1000μgで、より好ましくは25μg〜700μg、さらに好ましくは50μg〜200μgである。
【0046】
ヒト型結核菌複合体(MTB−C)の毒性菌株の細胞壁断片を含む薬剤は、他の結核予防薬のワクチンと共に投与することもできる。これに関しては、非特許文献6に記載されている。この一例としては、BCGワクチン、サブユニット・ワクチン、組み換えBCGワクチンである。
【0047】
ワクチンの組み合わせは、同時に、あるいは接種(投与)間隔を開けた2回の接種で行うこともできる。その接種間隔は、数年にわたる場合もある
【0048】
接種間隔を開けた場合、最初の接種(投与)は、結核予防のワクチンを投与し、その後、ヒト型結核菌複合体(MTB−C)の毒性菌株の細胞壁断片を含む薬剤を投与する。後者の薬剤は、最初に接種されたワクチンの再励起剤(追加抗原刺激剤)として、機能する。
【0049】
意外なことに、ヒト型結核菌複合体(MTB−C)の毒性菌株の細胞壁断片を利用した免疫療法薬を含む薬剤の投与は、Th1型のインターフェロン・ガンマ(γ)を生成できる。このTh1型のインターフェロンγは、ヒト型結核菌特有の抗原に対し反応を示す。前記抗原は、Ag85BとAg85Aとを含む。これらはAg85複合体の一部である。このAg85BとAg85Aは、低分子量(low molecular)のタンパク質の族からなり、バクテリアの培養が対数増殖期(log phase)にある時、かなりの量生成される。この低分子重量のタンパク質は、細胞壁の生合成で重要な役目を担う。
【0050】
従来のBCGワクチンは、Ag85複合体の抗原に対し免疫的反応を示さないことが観測されている。これは、低い保護機能を示す結果となる。
【0051】
前記免疫療法薬でワクチン接種しその後毒性のH37Rv菌株を感染させたネズミの肺の中に存在する生存能力のある病原菌の数は、制御グループのネズミに存在する生存能力のある病原菌の数(その数は、従来のBCGワクチンでワクチンを施したネズミの病原菌の数と同等である)よりも少ないことが見出された。
【0052】
以下の実施例は、本発明の一実施例の詳細を示す。
【実施例1】
【0053】
ヒト型結核菌により引き起こされた感染症に対する予防ワクチンとしての免疫療法薬の効能。
この実験例で使われた免疫療法薬は、特許文献1の実施例2の方法で製造した。
【0054】
ヒト型結核菌複合体(MTB−C)の毒性菌株の細胞壁断片を利用した免疫療法薬の有効性を、年齢が6週間から8週間で、特定の病原体のないC57BL/6型の雌のネズミで、評価した。
【0055】
ネズミを、それぞれが12匹からなる3つのグループに分け、各グループに以下のワクチン接種を行った。
(1)ワクチンを投与しない(制御グループ)、
(2)特許文献1の実施例2で得られた免疫療法薬285μgを、2回(実験の3週間目と6週間目)で皮下に接種した。
(3)BCGのデーニッシュ菌株(Statens Serum Institute, Denmark:デンマーク政府によって、1902年に設立され、ジフテリアの抗毒素・血清などの供給をその起源とする研究所)の2×10のコロニーの形成ユニットを、実験のゼロ週間目で皮下に接種した。
【0056】
ヒト型結核菌複合体の毒性菌株(H37Rvパスツール)は、対数増殖期中期(mid-log phase)までプロスカウアー・ベック(Proskauer-Beck)の培養媒体内で培養し、これを感染用として用いた。使用するまで、温度−70℃で1mlのアリコート内で貯蔵した。
【0057】
ネズミを、前記の毒性菌株で、実験の9週間目に、ミドルブルック・エアゾール(Middlebrook aerosol)感染装置内に、入れることにより、霧状物質で感染させた。この感染装置は、ネズミの肺の中に、約10−50の生存能力のある病原菌の植菌を提供する。
【0058】
肺の中の生存能力のある病原菌の数は、ネズミの霧状感染の3週間後(即ち、実験の12週目)に決定した。これにより37℃で4週間、ミドルブルック7H11の寒天培養基内の肺の均質化物の一連の拡散が引き起こされた。この肺は、1mlの2回蒸留水の存在下で、均質化した。
【0059】
表1の結果は、肺の中で確認された1ml当たりコロニ形成ユニット(CFU:colony forming units)を対数で表示した。
表1
ネズミのグループ ワクチン Log10CFU/ml
1 何もしない(制御グループ) 6.42±0.24
2 リポソームでカプセル化した免疫療法薬 5.72±0.30
3 BCG 5.71±0.58
【0060】
ワクチンを投与しないネズミの第1グループと、ワクチンを投与したネズミの第2,3のグループとの間の差異は、統計学上意味のあるものである。
【0061】
第2グループのネズミの肺の中の生存能力のある病原菌の数は、第1グループのネズミの肺の中の生存能力のある病原菌の数よりも少ない。第2グループのネズミの病原菌の数は、第3グループのネズミの病原菌の数にほぼ等しい。
【0062】
それゆえに、ヒト型結核菌複合体(MTB−C)の毒性菌株の細胞壁断片を用いた免疫療法薬のワクチン投与は、ヒト型結核菌により引き起こされる感染に対し良好な保護を達成する。
【実施例2】
【0063】
ヒト型結核菌により引き起こされた感染症に対するThl反応の生成器としての免疫療法薬の有効性。
この実験例で使われた免疫療法薬は、特許文献1の実験例2の方法により準備した。
【0064】
ヒト型結核菌複合体(MTB−C)の毒性菌株の細胞壁断片を利用した免疫療法薬の有効性を、年齢が6週間から8週間で、特定の病原体のないC57BL/6型の雌のネズミで、生体外実験で、評価した。
【0065】
ネズミは、それぞれが4匹からなるグループに分け、各グループに以下のワクチン投与を行った。
(1)実験の3週間目と6週間目に塩水を皮下に接種した(制御グループ)。
(2)特許文献1の実施例2で得られた免疫療法薬285μgを、2回(実験の3週間目と6週間目)に、皮下に接種した。
(3)BCGのデーニッシュ菌株の2×10のコロニー形成ユニットを、1回実験のゼロ週間目に皮下に接種し、塩水を3週間目と6週間目に皮下に接種した。
(4)ヒト型結核菌複合体の毒性菌株(H37Rvパスツール)の2×10のコロニー形成ユニットを、1回実験の3週間目に皮下に接種し、塩水を6週間目に皮下に接種した。
【0066】
ネズミを第7週で実験用に殺しその脾臓を摘出し、L-glutamine-RPMI(Gibco)を5ml含むチューブ内に浸した。このチューブを氷の中に実験の終了時まで浸した。この脾臓を、機械的に分解し、縣濁液を直径が70μmのナイロンメッシュで濾過した。その後、これを10分間300gの力で遠心分離した。ペレット剤を、Trisと塩化アンモニウムを2回蒸留水中に溶かした15mlの溶液で、再形成し、この細胞に対し崩壊を行った。8分後、それらを20mlのL-glutamine-RPMIで洗浄し、10分間300g(重力加速度)の力で遠心分離した。
【0067】
かくして得られたペレット剤を、5mlのL-glutamine-RPMIで再度縣濁し、この縣濁液を直径70μmのナイロンメッシュで濾過した。この細胞を、ノイバウエル・チャンバ(Neubauer chamber)でカウントした。
【0068】
ネズミの脾臓からの細胞を1×10細胞(cell)/井戸(well)の比率で、皿上に植菌し、200μlの完全な培養媒体(CCM:complete culture medium)で培養した。この完全な培養媒体は、非活性化したウシ胎仔血清と、ペニシリンと、ストレプトマイシンと、ピルビン酸塩ナトリウム(sodium pyruvate)と、2−メルカプトエタノールで補充したL-glutamine-RPMIからなる。あるいはヒト型結核菌抗原で補充した200μlの完全な培養媒体からなる。ヒト型結核菌抗原は、10μg/mlの抗原PPD(デンマーク、Statens Serum Institut社製)と、5μg/mlのESAT−6、Ag85A、Ag85B(ドイツ連邦共和国、Lionex Diagnostics and Therapeutics GmbH社製)である。
【0069】
この細胞を5%COの雰囲気で37℃で培養した。96時間後、皿を10分間300gの力で遠心分離し、それらの上澄みを収集した。
【0070】
この上澄みを凍らせて、この状態で少なくとも24時間維持した後、インターフェロン−ガンマ(γ)内容物を、二重サンドイッチELISA技術(double sandwich ELISA technique)を適用し、マウス・インターフェロンγ(Diaclone)用に特定のモノクローナル抗体を用いて、解析した。
【0071】
表2は、log10pg/mlで表した平均インターフェロンγ濃度である。このインターフェロンγは、ヒト型結核抗原に対するネズミの各グループに誘導された。

表2
グループ 接種材料 抗原
制御 PPD ESAT−6 Ag85B Ag85A
1 制御 0 0 0 0 0
2 リポソームで 0 2.57 0 2.69注1 2.53注1
カプセル化した免疫治療法薬剤
3 BCG 0 2.01注3 0 0 0
4 H37Rv 0 3.06注3 2.86注2,3 2.76注3 2.50注3

注1 グループ2と3の間に統計的な有意差がある。
注2 グループ2と4の間に統計的な有意差がある。
注3 グループ3と4の間に統計的な有意差がある。
【0072】
表2の結果によれば、ヒト型結核菌の毒性の株菌の細胞壁断片を利用するリポソームでカプセル化した免疫療法薬で行った2つの植菌は、ヒト型結核菌特有の抗原に対するインターフェロンγの生成を誘導できることを意味する。これは、それらが、Th1型の保護反応を誘導することを意味する。
【0073】
リポソームでカプセル化した免疫療法薬により、抗原PPD、Ag85BとAg85Aに対し、誘導された反応は、ヒト型結核菌の毒性のH37Rv菌株により培養されたネズミのグループに対する反応と大幅な差はない。前記の反応は、従来のワクチンであるBCG株菌を接種したネズミのグループの反応よりも良好である。その理由は、PPDのみに対する反応を誘導し、Ag85BとAg85Aに対しては反応を誘導しないからである。
【0074】
毒性菌株で接種したネズミのグループのみが、抗原ESAT−6に対する反応を誘導することができる。
【0075】
ヒト型結核菌の毒性菌株の細胞壁断片を利用した免疫療法薬は、ヒト型結核菌に特有な抗原に対しTh1型の保護反応を生成できる。これは、ヒト型結核菌により引き起こされる感染を阻止するのに有効な指標である。
【0076】
以上の説明は、本発明の一実施例に関するもので、この技術分野の当業者であれば、本発明の種々の変形例を考え得るが、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
結核の予防薬を生成するため、ヒト型結核菌複合体(MTB−C)の毒性菌株の細胞壁断片を含む免疫療法薬の使用において、前記免疫療法薬の製造法は、
(A)ヒト型結核菌複合体(MTB−C)の毒性菌株を、3週間以上の培養期間で、培養するステップと、
(B)非イオン性界面活性剤の存在下で、前記細胞の培養菌を均質化するステップと、
を有する
ことを特徴とする免疫療法薬の使用。
【請求項2】
前記培養期間は、3−4週の間である
ことを特徴とする請求項1記載の免疫療法薬の使用。
【請求項3】
前記非イオン性界面活性剤は、エトキシル酸アルキルフェノールと、エトキシル酸ソルビタン・エステルと、それらの混合物とからなるグループから選択される
ことを特徴とする請求項1又は2記載の免疫療法薬の使用。
【請求項4】
前記非イオン性界面活性剤は、エトキシル酸オクチルフェノールからなるグループから選択される
ことを特徴とする請求項3記載の免疫療法薬の使用。
【請求項5】
前記非イオン性界面活性剤は、エチレンオキシドを7−8モルの間含有するエトキシル酸オクチルフェノールから選択される
ことを特徴とする請求項4記載の免疫療法薬の使用。
【請求項6】
前記(B)ステップは、中性pHの緩衝媒体内で行われる
ことを特徴とする請求項1−5のいずれかに記載の免疫療法薬の使用。
【請求項7】
前記免疫療法薬の製造法は、
(C)断片化していない細胞と溶融した構成成分を、遠心分離手段で分離するステップと、
(D)前記細胞壁断片の断片に化学的処理または物理的処理を施して、最終的に含まれる毒性菌株の細胞を非活性化するステップと、
(E)前記ステップで得られた免疫療法薬を、低温乾燥の手段により乾燥するステップと、
をさらに有する
ことを特徴とする請求項1−6のいずれかに記載の免疫療法薬の使用。
【請求項8】
前記免疫療法薬は、リポソームの形態である
ことを特徴とする請求項1−7のいずれかに記載の免疫療法薬の使用。
【請求項9】
前記免疫療法薬は、1回または複数回に分けて投与される
ことを特徴とする請求項1−8のいずれかに記載の免疫療法薬の使用。
【請求項10】
前記免疫療法薬は、2回に分けて投与される
ことを特徴とする請求項9記載の免疫療法薬の使用。
【請求項11】
前記2回の投与は、2−3週の間隔をおいて、行われる
ことを特徴とする請求項10記載の免疫療法薬の使用。
【請求項12】
前記免疫療法薬は、他の結核予防ワクチンと組み合わせて、投与される
ことを特徴とする請求項1−11のいずれかに記載の免疫療法薬の使用。
【請求項13】
前記ワクチンは、時間をあけた2回の接種で、組み合わされる
ことを特徴とする請求項12記載の免疫療法薬の使用。
【請求項14】
最初に結核予防ワクチンを投与し、その後、MTB−Cの毒性菌株の細胞壁断片を含む免疫療法薬を投与する
ことを特徴とする請求項13記載の免疫療法薬の使用。


【公表番号】特表2010−508254(P2010−508254A)
【公表日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−533888(P2009−533888)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【国際出願番号】PCT/ES2007/000583
【国際公開番号】WO2008/053055
【国際公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(509116934)アーチバル ファルマ、エスエル. (1)
【Fターム(参考)】