説明

結核菌検出法

【課題】検査期間が短く、感度が高く、定量性を有し、しかも安全性が高い結核菌検出法およびそのためのキットを提供する。
【解決手段】被検体を液体培養して得られた培養液と、呈色標識抗MPB64蛋白抗体とを混合し、次いで、第二抗MPB64蛋白抗体を含浸させて形成された捕捉部位を備えてなるクロマト展開用膜担体に、この混合液をクロマト展開せしめ、MPT64蛋白またはMPB64蛋白と呈色標識抗MPB64蛋白抗体との結合物の前記捕捉部位での捕捉の呈色の有無により、ヒト型結核菌またはウシ型結核菌の有無を判断することからなり、前記呈色標識抗MPB64蛋白抗体の抗体がモノクローナル抗体であることを特徴とする結核菌検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結核菌検出法に関し、さらに詳細には、たとえば、喀痰のような被検体中のヒト型結核菌またはウシ型結核菌の存否を検査するための検出方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
結核菌は分類学的には抗酸性菌に属する菌群である。結核菌には、ヒト型結核菌(ミコバクテリウム ツベルクローシス Mycobacterium tuberculosis)、ウシ型結核菌(ミコバクテリウム ボビス Mycobacterium bovis)、ネズミ型結核菌(ミコバクテリウム ミクロチ Mycobacterium microti)、トリ型結核菌(ミコバクテリウム アビウム Mycobacterium avium)および冷血動物結核菌などが知られている。しかして、これらの中でヒトの結核症に関与するのは、ほとんど全てヒト型結核菌であるが、稀には、ウシ型結核菌による感染がある。また、ヒト型結核菌およびウシ型結核菌以外のミコバクテリウム属に属する微生物は、非定型抗酸菌と呼ばれている。
【0003】
一方、ヒトの結核症の従来の診断法としては、所謂、「ナイアシン産生試験」が広く行なわれている。
このナイアシン産生試験は、結核症疑罹患患者の、たとえば、喀痰、暖めた1重量%滅菌食塩水をエアロゾルとしてネプライザーで深く吸入させて咳とともに喀出される痰、胃洗浄液、糞便および尿などのそれぞれの被検体を培地に培養して増殖せしめた結核菌から沸騰蒸留水で抽出し、抽出液中のナイアシンの存否を知ることによって、被検体中の結核菌の存否を知る方法である。
【0004】
しかしながら、ナイアシン産生試験においては、93%以上の結核菌が陽性を示すが、他の抗酸菌の或る菌種、または、稀に、非定型抗酸菌でも陽性を示すため、仮令、ナイアシン産生試験が陽性であったとしても、必ずしもその菌種を結核菌であると断定することはできない。よって、一般的には、ナイアシン産生試験の他に、菌の生育速度、色素発生およびコロニーの性状などを同時に調べて、結核菌とそれ以外の抗酸菌との鑑別がなされている。
【0005】
被検体の培養によって増殖した結核菌のナイアシンは定性的化学分析手段で検知されるが、この定性的化学分析は感度が低く、正確な検査結果を得るためには、多量のナイアシンが必要とされる。また、この定性的化学分析においては数工程にわたる分析学操作が行なわれるが、このような分析操作は菌体の飛散などによる結核菌感染の危険性が高い。したがってこれらの分析操作は、極めて安全性の高い環境で、かつ、極めて安全性の高い装置を使用し、しかも、細心の注意を払って行なわなければならないとされている。しかして、ナイアシン産生試験を実施するためには、定性的化学分析自体に多少の時間を要するだけでなく、被検体の培養を必要としこの培養には長時間かかるので、結果的には分析に長時間が費やされることになる。
【0006】
一方、このナイアシン産生試験は、被検体を液体培養で行なう場合と固体培養で行なう場合とがある。
前者は、たとえば、米国などで行なわれており、被検体の培養期間は短縮されるが、作業時における結核菌感染の危険性が大きく、高度に安全な施設および装置が必要とされる。
本邦では、後者が行なわれており、結核菌感染の危険性は軽減されるが、分析結果が判明するまでに2ヵ月間程度の長期間が必要とされている。
しかして、後者においては、作業時における結核菌感染の危険性は軽減されはするが、依然として、安全性の高い環境で、かつ、安全性の高い装置を使用し、しかも、細心の注意を払われなければならないとされている。
【0007】
蛋白質MPT64(以下、MPT64蛋白 と記す)はヒト型結核菌(ミコバクテリム ツベルクローシス Mycobacterium tuberculosis)が特異的に産生し、菌体外へ分泌するミコバクテリアル プロテイン(Mycobacterial protein)であり、また、蛋白質MPB64(以下、MPB64蛋白 と記す)と同一の物質であることが知られている。
他方、MPB64蛋白は、BCG菌株のウシ型結核菌(ミコバクテリウム ボビス BCG(Mycobacterium bovis BCG)(以下、BCG菌 と記す)によって産生され菌体外に分泌されるミコバクテリアル プロテインである。
エム.ハーボー(M.Harboe)は、このMPB64蛋白をBCG菌から分離、精製して、その性質などについて研究して報告している(Infection and Inmmunity 1986, Vol.52, No.1, 293〜302)。
【0008】
また、特開平1−247094号公報においても、MPB64蛋白は、ヒトに感染して結核症と酷似した症状を呈する非定型抗酸菌によっては産生されないが、ウシ型結核菌のBCG菌によって産生され、かつMPT64蛋白と同一物質であるというBCG菌およびヒト型結核菌のそれぞれに特異な蛋白質であるとしている。
【0009】
従って、このことは抗MPB64蛋白抗体は抗原をMPB64蛋白とする抗体であるが、同時にMPT64蛋白の抗体でもあることを意味する。
従って、病原性的には無害なBCG菌を培養し、その培養液からBCGによって産生されたMPB64蛋白を抽出、精製し、該MPB64蛋白を抗原として抗MPB64蛋白抗体を作成し、その抗体を用いた抗原抗体反応(免疫反応)によって被検体中の結核菌を検出することにより、ヒトの結核症を明確、かつ迅速に判別することができる結核症の簡便な診断法を確立することが可能となる。
【0010】
抗MPB64蛋白抗体を使用した結核菌の検査薬および検出方法として、たとえば、特開平7−110332号公報記載の方法が知られている。この方法における免疫学的方法として、逆受身血球凝集反応(RPHA)、逆受身ラテックス凝集反応(RPLA)および固相酵素免疫測定法(ELISA)などが記載されている。
前二者においては凝集時間が、たとえば、3時間程度と長く、感度が低く、かつ定量性は全くないなどの不都合な問題がある。
後者においては、前二者に比較して試験操作が煩雑で、かつ通常は特殊な機械を使用する関係上、安全キャビネット中での実施が容易ではないなどの欠点がある。
【特許文献1】特開平7−110332号公報
【非特許文献1】Infection and Immunity 1986, Vol.52, No.1, 293〜302
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、上記のような従来技術における欠点を解決し、被検体の採取から検査結果判明までの期間が短く、感度が高く、半定量性を有し、しかも、安全性が高い結核菌の検出法を開発すべく、鋭意、研鑚を重ねた結果、たとえば、抗MPB64蛋白抗体に金ゾルの分散粒子である金コロイド粒子のような呈色標識物質を結合せしめた呈色標識抗MPB64蛋白抗体を調製し、これを使用することにより上記の従来技術における欠点を解決することができるとの新知見を得、この知見に基づいて、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、被検体を液体培養して得られた培養液と、呈色標識抗MPB64蛋白抗体とを混合し、次いで、第二抗MPB64蛋白抗体を含浸させて形成された捕捉部位を備えてなるクロマト展開用膜担体に、この混合液をクロマト展開せしめ、MPT64蛋白またはMPB64蛋白と呈色標識抗MPB64蛋白抗体との結合物の前記捕捉部位での捕捉の呈色の有無により、ヒト型結核菌またはウシ型結核菌の有無を判断することからなり、前記呈色標識抗MPB64蛋白抗体の抗体がモノクローナル抗体であることを特徴とする結核菌検出方法である。
【0013】
本発明の好ましい実施形態によれば、本発明は、少なくとも、試料添加用部材、呈色標識抗体含浸部材、クロマト展開用膜担体および吸収用部材を有し、上記呈色標識抗体含浸部材および上記クロマト展開用膜担体には前記呈色標識抗MPB64蛋白抗体および第二抗MPB64蛋白抗体がそれぞれ含浸されており、上記試料添加用部材は上記呈色標識抗体含浸部材に積層され、上記クロマト展開用膜担体はその上流側端部が上記呈色標識抗体含浸部材に被覆されるとともに該呈色標識抗体含浸部材に連接され、上記吸収用部材はその上流側端部が上記クロマト展開用膜担体に積層されるとともに該クロマト展開用膜担体と連接してなるクロマト法テストストリップを用い、前記液体培養して得られた培養液を前記試料添加用部材に灌注することによって行われる。
【0014】
前記呈色標識抗MPB64蛋白抗体において、抗MPB64蛋白抗体に結合せしめられる呈色標識物質は、コロイド状金属または着色ラテックスであることが好ましい。
前記第二抗MPB64蛋白抗体は、前記呈色標識抗MPB64蛋白抗体と異なる部位で抗原抗体反応するものであることが好ましい。
前記クロマト法テストストリップはケースに収容されていてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
被検体は、主として結核症疑罹患患者および被検患者のそれぞれの喀痰などであるが、たとえば、滅菌食塩水のエアロゾルを吸入させて咳とともに喀出される痰、胃洗浄液、糞便および尿などのそれぞれをも使用することができる。
被検体は、常法により、固体培養または液体培養がなされる。
【0016】
固体培養の場合には、たとえば、試験管工藤PD固形斜面培地(協和薬品工業株式会社の商品)を使用して、37℃で培養される。この斜面に培養された結核菌に蒸留水を添加して培養期間中に菌体外に分泌された培養物を抽出し、この結核菌混在溶液を試料として検査に供する。
液体培養の場合には、たとえば、被検体液と水酸化ナトリウム水溶液とを混合して、この混合液から菌体を遠心分離によって分離し、分離された菌体を、たとえば、デュボス液体培地(ベクトン・デッキンソン社の商品)で37℃で培養した培養液を試料として検査に供する。
【0017】
MPB64蛋白は、たとえば、上記の、エム.ハーボーの分離、精製法のようなそれ自体公知の方法で調製される。
すなわち、ミコバクテリウム ボビスに属するBCG菌東京株のようなMPB64蛋白産生能力を有する菌株を、たとえば、ソートン培地のような液体培地で培養して得られた培養液から、塩析、透析、カラムクロマトグラフィおよび電気泳動などによる蛋白質の同定を逐次経由して精製MPB64蛋白が得られる。
【0018】
抗MPB64蛋白抗体は、このようにして得られた精製MPB64蛋白を抗原として、常法によって得られた単クローン抗体および多クローン抗体のいずれであってもよい。
単クローン抗体は、たとえば、ケラーミルシュタインの方法によって得られる。また、多クローン抗体は、好ましくは、ヤギを免疫して得られる。
【0019】
このようにして得られた抗MPB64蛋白抗体は、呈色標識物質と結合せしめられて呈色標識抗MPB64蛋白抗体とされる。
呈色標識物質には、たとえば、コロイド状金属および着色ラテックスなどがある。
コロイド状金属の代表例として、金ゾル、銀ゾル、セレンゾル、テルルゾルおよび白金ゾルなどのそれぞれの分散粒子である金属コロイド粒子を挙げることができる。
【0020】
コロイド状金属の粒子の大きさは、通常は、直径3〜60nm程度とされる。
また、着色ラテックスの代表例としては、赤色および青色などのそれぞれの顔料で着色されたポリスチレンラテックスなどの合成ラテックスを挙げることができる。ラテックスとして天然ゴムラテックスのような天然ラテックスを使用することができる。着色ラテックスの大きさは、直径数拾nm乃至数百nm程度から選択することができる。
これらの呈色標識物質は、市販品をそのまま使用することができるが、場合によりさらに加工し、または、それ自体公知の方法で製造することもできる。
【0021】
抗MPB64蛋白抗体と呈色標識物質との結合は常法によって行なわれる。すなわち、たとえば、呈色標識物質が金ゾルの分散粒子である金コロイド粒子の場合には、通常は、抗MPB64蛋白抗体と金ゾルとを室温乃至常温下で数分間、長くても10分間、混合することによって両者を物理的に結合せしめることが可能である。
【0022】
抗原であるMPB64蛋白または該蛋白質と同一物質であるMPT64蛋白(以下、MPT64蛋白をMPB64蛋白と同様に抗原と記す)と呈色標識抗MPB64蛋白抗体とは、通常の抗原抗体反応によって結合せしめられる。すなわち、たとえば、結核菌が産生する抗原であるMPB64蛋白またはMPT64蛋白を含有するかもしれない検査試料と呈色標識抗MPB64蛋白抗体との両者が混合せしめられた緩衝液中で常温乃至室温で静置することによって抗原抗体反応が行なわれ、抗原であるMPB64蛋白またはMPT64蛋白と呈色標識抗MPB64蛋白抗体との結合物(以下、単に呈色結合物と記す)が得られる。この呈色結合物は、たとえば、第二抗MPB64蛋白抗体が固定化された帯状固相担体にチャージされてクロマト展開され、そのことごとくを該第二抗MPB64蛋白抗体に捕捉せしめて、使用された呈色標識物質固有の色を呈せしめ、これにより被検体中の結核菌が検出される。
【0023】
上記の第二抗MPB64蛋白抗体は抗原であるMPB64蛋白またはMPT64蛋白に対する抗原抗体反応の結合部位が、標識抗MPB64蛋白抗体に使用された抗MPB64蛋白抗体の該抗原に対する抗原抗体反応の結合部位とは異なるものでなければならない。
【0024】
なお、結核菌の既知の菌数と第二抗MPB64蛋白抗体で捕捉される呈色結合物の呈色濃度との関係から導いた判定基準を使用することにより、被検体中に含有されている結核菌の大凡の菌数を知ることが出来る。この場合に、被検体の検査条件のすべては、判定基準を作成する際のそれらと実質的に同一とされなければならない。
【0025】
呈色結合物の第二抗MPB64蛋白抗体による捕捉は、クロマト法テストストリップによることが好ましい。
クロマト法テストストリップとは、ケースの蓋体の試料注入口から、帯状の固相担体テストストリップの一端に検査試料を灌注することによりクロマト展開が開始されて浸潤して該テストストリップの呈色標識抗体含浸部材に到達し、該部材の呈色標識抗MPB64蛋白抗体と免疫反応して呈色結合物が形成され、さらに、該呈色結合物が捕捉部位まで浸潤して捕捉部位の第二抗MPB64蛋白抗体との免疫反応により捕捉されて、捕捉部位が呈色せしめられる方法である。
【0026】
クロマト法テストストリップの調製に、たとえば、特公平7−13640号記載の方法が好適に適用される。
クロマト法テストストリップによる本発明の結核菌検出法において、被検体または被検体から得られた検査試料と呈色標識抗MPB64蛋白抗体とを予め混合した混合液をクロマト法テストストリップによりクロマト展開せしめてもよいし、また、クロマト法テストストリップに予め試料添加用部材および呈色標識抗体含浸部材をそれぞれ設け、該試料添加用部材に所定量の被検体または被検体から得られた検査試料を灌注してクロマト展開を行なう上記の方法によってもよい。
【0027】
上記のクロマト法テストストリップによって本発明の結核菌検出法を行なうために、少なくとも、ケースに収納されたクロマト法テストストリップまたは呈色標識抗体含浸部材が欠如したクロマト法テストストリップと容器に収納された呈色標識抗MPB64蛋白抗体を1組みとしてキットとすることができる。
【0028】
このキットには、さらに上記の判定基準として予め作成された蛋白濃度と呈色度との関係表を包含せしめることができる。
本発明の結核菌検出方法において、MPT64蛋白またはMPB64蛋白と呈色標識抗MPB64蛋白抗体との間の免疫反応ならびにこの免疫反応で生成せしめられた呈色結合物と第二抗MPB64蛋白抗体との間の免疫反応はいずれも数分で完結せしめられるので、検査自体は長くても15分程度で終了する。
【0029】
本発明の結核菌検出法では、他の結核菌検出方法におけると同様に、被検体の処理に際して結核菌感染を防止するように充分な注意が必要とされる。しかしながら、本発明の検出法では、結核菌が含有されているかも知れない被検体または被検体から得られた検査試料は、その少量がクロマト法テストストリップに添加されるだけであり、かつ、検査自体に要する時間は長くとも15分程度であるため、結核菌に感染する危険性は、検査の操作が煩雑で検査に長時間を有する従来の結核菌検出方法に比して少ない。
【実施例】
【0030】
本発明を実施例によって、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
1.MPB64蛋白の分離
(1) BCG菌東京株の培養
BCG菌東京株は結核予防会結核研究所から入手し、それを下記の組成を有するソートン培地500ml×20本に接種し、37℃で5週間培養して、培養液10lを得た。
【0032】
ソートン培地の組成
アスパラギン 0.4 %
くえん酸 0.2 %
くえん酸ナトリウム 0.28 %
りん酸カリウム 0.05 %
硫酸マグネシウム 0.05 %
くえん酸第1鉄アンモニウム 0.005%
グリセリン 6 %
(「%」は「重量/容量%」を示す。以下同様)
【0033】
(2) MPB64蛋白の分離・精製
1)上記(1)で得られた培養液に硫酸アンモニウム(以下、硫安 と記す)を加えて80%飽和溶液として、沈殿せしめられた蛋白質画分を遠心分離して得られたこの蛋白質画分を30mMトリス塩酸緩衝液(pH8.7)に溶解せしめ、10℃で30mMトリス塩酸緩衝液(pH8.7)に対して透析して蛋白質約9gを含有する透析液約30mlを得た。
2)この蛋白質約9gを含有する上記の溶液約30mlをDEAE・セファデックスA・50(ファルマシア バイオテク株式会社の商品)カラム(57cm×5.5cm)にチャージして、30mMトリス塩酸溶緩衝液(pH8.7)100mlを用いて上記のカラムを洗浄して溶出液を得た。
【0034】
次いで、30mMトリス塩酸緩衝・200mM塩化ナトリウム溶液(pH8.7)でクロマト展開した。このクロマト展開の溶出液に硫安を加えて70%飽和溶液として、沈殿せしめられた蛋白質画分を遠心分離して得た。この蛋白質画分を30mMトリス塩酸緩衝液(pH8.7)に溶解せしめ、10℃で30mMトリス塩酸緩衝液(pH8.7)に対して透析して蛋白質約3.5gを含有する透析液約35mlを得た。
【0035】
3)この蛋白質約3.5gを含有する上記の溶液約35mlをDEAE・セファロースCL−6B(ファルマシア バイオテク株式会社の商品)カラム(64cm×3.6cm)にチャージして、30mMトリス塩酸緩衝液(pH 8.7)約700mlを用いて上記のカラムを洗浄した。
次いで、30mMトリス塩酸緩衝液(pH 8.7)および30mMトリス塩酸緩衝・200mM塩化ナトリウム溶液(pH8.7)を用いて塩化ナトリウム濃度0から200mMまでの濃度勾配法によりクロマト展開し、その展開液を20mlずつのフラクションとして採取した。フラクション番号105番から121番までの展開液を集めた。この展開液に硫安を加えて70%飽和溶液として沈殿せしめられた蛋白質画分を遠心分離して得た。この蛋白質画分を30mMトリス塩酸緩衝液(pH8.7)に溶解せしめて、10℃で30mMトリス塩酸緩衝液(pH 8.7)に対して透析して蛋白質約0.7gを含有する透析液約7mlを得た。
【0036】
この展開液約360mlを、分画分子量が10,000のポアサイズを有する限外濾過膜を使用した吸引式限外濾過により、5℃で約6mlになるまで濃縮し、次いで、10℃で30mMトリス塩酸緩衝液(pH 8.7)に対して透析して透析液約7mlを得た。この溶液約7mlを常法により凍結乾燥を行ない、蛋白質約0.7gを含有する凍結乾燥品を得た。
【0037】
4)この蛋白質0.7gを含有する凍結乾燥品を精製水7mlに溶解せしめ、その全量をDEAE・セファロースCL−6B(ファルマシア バイオテク株式会社の商品)カラム(45cm×3.0cm)にチャージして、30mMトリス塩酸緩衝・3M尿素・40mM塩化ナトリウム溶液(pH 7.5)と30mMトリス塩酸緩衝・3M尿素・90mM塩化ナトリウム溶液(pH7.5)を用いて塩化ナトリウム濃度40mMから90mMまでの濃度勾配法によりクロマト展開し、その展開液5mlずつをフラクションとして採取した。
【0038】
それぞれのフラクションの少量をポリアクリルアミドゲルの固相担体にスポッティングして電気泳動した後に、クマシーブリリアントブルー染色によって得られた電気泳動像において分子量約23,000の蛋白質のバンドが認められた各フラクションを集めた。この溶液を分画分子量10,000のポアサイズを有する限外濾過膜を使用した吸引式限外濾過により、5℃で約2mlになるまで濃縮し、次いで10℃で30mMトリス塩酸緩衝液(pH 8.7)に対して透析して透析液約2.5mlを得た。この溶液約2.5mlを常法により凍結乾燥を行ない、蛋白質約60mgを含有する凍結乾燥品を得た。
【0039】
5)この蛋白質約60mgを含有する凍結乾燥品を精製水2mlに溶解せしめ、その全量をDEAE・セファロースCL−6B(ファルマシア バイオテク株式会社の商品)カラム(34cm×2.7cm)にチャージし、次いで、30mMトリス塩酸緩衝・60mM塩化ナトリウム溶液(pH8.7)を用いてカラムを洗浄した。
【0040】
次に、30mMトリス塩酸緩衝・60mM塩化ナトリウム溶液(pH8.7)と30mMトリス塩酸緩衝・110mM塩化ナトリウム溶液(pH 8.7)を用いて塩化ナトリウム濃度60mMから110mMまでの濃度勾配法によりクロマト展開し、その展開液1mlずつをフラクションとして採取した。それぞれのフラクションの少量をポリアクリルアミドゲルの固相担体にスポッティングして電気泳動した後に、クマシーブリリアントブルー染色によって得られた電気泳動像において分子量約23,000の蛋白質のバンドが認められた各フラクションを集めた。
【0041】
この溶液を、分画分子量10,000のポアサイズを有する限外濾過膜を使用した吸引式限外濾過により、5℃で約1mlになるまで濃縮した。次いで、10℃で30mMトリス塩酸緩衝液(pH8.7)に対して透析して透析液約1.3mlを得た。この溶液約1.3mlを常法により凍結乾燥を行ない、蛋白質約6mgを含有する凍結乾燥品を得た。
【0042】
6)最後に、この蛋白質約6mgを含有する凍結乾燥品を精製水1mlに溶解せしめ、その全量をセファクリルS−200(ファルマシア バイオテク株式会社の商品)カラム(30cm×2cm)にチャージし、次いで、30mMトリス塩酸緩衝・0.5mM塩化ナトリウム溶液(pH7.5)を用いてクロマト展開し、この展開液を0.5mlずつのフラクションとして採取した。それぞれのフラクションの少量をポリアクリルアミドゲルの固相担体にスポッティングして電気泳動した後に、クマシーブリリアントブルー染色によって得られた電気泳動像において分子量約2,3000の蛋白質のバンドが認められた各フラクションを集めた。この溶液を分画分子量10,000のポアサイズを有する限外濾過膜を使用した吸引式限外濾過により、5℃で約1mlになるまで濃縮し、次いで、10℃で30mMトリス塩酸緩衝液(pH8.7)に対して透析して透析液約1.3mlを得た。この溶液約1.3mlを常法により凍結乾燥を行ない、蛋白質約5mgを含有する凍結乾燥品を得た。 このようにして得られた分子量約23,000のこの蛋白質のデスク電気泳動(7.7%アクリルアミドゲル)では単一ピークの泳動像を示したので、このMPB64蛋白は純度が高いものと判断された。
【0043】
2.抗MPB64蛋白単クローン抗体(マウス)の作成
(1) MPB64蛋白投与マウス(BALB/C系)の脾臓細胞とマウスミエローマ細胞(P3U1)との細胞融合
1)上記1.で得られた精製MPB64蛋白を用いて、ケラー−ミルシュタインの方法(G.Kohker and C.Milstein;Eur. J. Immunol. 6:511-519,1976)にしたがって細胞融合を行ないハイブリドーマを調製した。
【0044】
すなわち、上記1.で得られた精製MPB64蛋白溶液(200μg/ml)500μlとフロイント不完全アジュバント500μlとを常法により乳化するまで混合し、この混合乳化液500μlをBALB/C系マウス(雌、4週齢)の腹腔内に投与して免疫を行なった。前回投与の2週間後に、上記と同様にして調製された混合乳化液40μlを上記のマウス腹腔内に、再度、投与した。
さらに、その2週間後に精製MPB64蛋白の生理食塩水溶液(200μg/ml)を上記のマウス腹腔内に投与して最終免疫を行なった。
【0045】
2)最終免疫から3日後にマウスを屠殺して、直ちにその脾臓を無菌的に取り出した。この脾臓を約10mlの無菌RPMI−1640培地が入れてある直径60mmのシャーレに入れ、脾臓の長軸に沿って鋏で切れ目を入れ、手早く脾臓をピンセットで圧迫しつつ細胞を遊離せしめた。この細胞をナイロンメッシュを通過せしめられて、新たな無菌RPMI−1640培地に浮遊せしめて脾臓細胞浮遊液を得た。
【0046】
3)上記の脾臓細胞浮遊液をRPMI−1640培地と混合し、フィコールペイクを用いる比重遠心法によって赤血球を除去して得られた脾臓細胞を、無菌RPMI−1640無血清培地中に浮遊せしめた。
【0047】
4)他方、マウス骨髄腫細胞P3U1(以下、P3U1細胞 と記す)をウシ胎児血清10容量%を含有されてなる無菌RPMI−1640培地で培養増殖させた後に、遠心分離(250×G)してP3U1細胞を分離し、この細胞を無菌RPMI−1640培地で2回洗浄して、無菌RPMI−1640培地に浮遊せしめP3U1細胞浮遊液を得た。
【0048】
5)上記2)の脾臓細胞浮遊液と上記4)のP3U1細胞浮遊液とを混合し、遠心分離(250×G)によってこの混合液から両者の細胞を分離した。分離されたこの両者の細胞を分子量4,000のポリエチレングリコールが40%含有されてなる無菌RPMI−1640培地(pH7.4)1mlに懸濁して37℃で6分間静置して、脾臓細胞とP3U1細胞とを融合せしめてハイブリドーマとした。
【0049】
次いで、これらの細胞に無菌RPMI−1640培地を加えて全量10mlとし、この細胞浮遊液を遠心分離(250×G)してこれらの細胞を分離した。これらの細胞にウシ胎児血清が10容量%含有されてなる無菌RPMI−1640培地10mlを加えて、これらの細胞を浮遊せしめた。この細胞浮遊液を遠心分離(250×G)して液分を除去し、細胞を得た。
【0050】
6)この細胞にHAT培地を加えて1×106個/mlの細胞浮遊液とし、この細胞浮遊液の100μlずつを96穴(ウエル)プラスチック マイクロタイタープレート(住友ベークライト株式会社の商品)の各ウエルに分注し、インキュベーター中で炭酸ガスが5容量%含有されてなる空気の存在下37℃で培養した。
【0051】
7)培養開始後1日目に、さらに、HAT培地を各ウエルに100μlずつ加え、以後 2日目、3日目、8日目および11日目のそれぞれには、培養液の半分である100μlを取り除き、その替りにHAT培地100μlを補充しつつ培養を続行した。培養後14日目には、ハイブリドーマが存在するウエルには1ウエルあたり平均2〜3個のハイブリドーマのコロニーが認められた。このウエルでは、培養開始から約2週間後にはハイブリドーマが充分増殖したので、この時点で培養上澄液の抗体力価を固相酵素免疫測定法(ELISA法)を用いて検定した。
【0052】
8)固相酵素免疫測定法は、予め抗原であるMPB64蛋白が固相化せしめられたELISA用プラスチック マイクロタイタープレートのウエルに、これらのハイブリドーマが培養された50μlの培養液を加えて37℃で1時間静置し、この培養液を除去した後、0.05%Tween20含有生理食塩水で洗浄する。次いで50μlのペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウス免疫グロブリン溶液を加えて、37℃で1時間静置して免疫反応せしめて、該ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウス免疫グロブリン溶液を除去し、0.05%Tween20含有生理食塩水で洗浄する。さらに、このウエルに4−アミノアンチピリン、過酸化水素およびフェノールからなる通常のペルオキシダーゼ発色系の試薬を加えて発色せしめて常法にしたがって抗体の力価を求めた。
一方、抗体を産生しているウエル中のハイブリドーマについては、限界希釈法によるクローニング操作を3回繰り返し行なった。
その結果、抗MPB64蛋白抗体を安定に産生するクローン化細胞5株を得た。
【0053】
(2) 単クローン抗体の精製
1週間前に1匹あたり2,6,10,14−テトラメチルペンタンデカン0.5mlを腹腔内に注射されたBALB/C系マウスの腹腔内に上記のクローン化細胞株のうち抗MPB64蛋白抗体の生産量が特に多いクローン化細胞懸濁液(107個/ml)0.5mlを注射し、その1週間後に抗MPB64蛋白抗体を含む腹水を該マウス1匹あたり5〜10ml得た。
【0054】
この腹水を、50mMトリス塩酸緩衝・150mM塩化ナトリウム溶液(pH8.5)で平衡化されたプロテインA(ファルマシア バイオテック株式会社の商品)カラムにチャージした。次いで、50mMトリス塩酸緩衝・150mM塩化ナトリウム液(pH8.5)でカラムを洗浄した後、100mMくえん酸塩緩衝・150mM塩化ナトリウム溶液(pH5.0)で上記の抗MPB64蛋白抗体を溶出せしめた。
【0055】
上記の抗MPB64蛋白抗体溶出液を10℃で20mMりん酸塩緩衝・150mM塩化ナトリウム溶液(pH7.4)に対して透析した後、防腐剤として最終濃度が0.1%溶液となるようにアジ化ナトリウム(NaN3)を添加した。
【0056】
3.金コロイド標識抗体および青色ラテックス標識抗体の作成
(1) 金ゾルの調製
99mlの超純水を沸騰させ、この沸騰水に塩化金酸(片山化学工業株式会社の商品)溶液(塩化金酸濃度1%)1mlを加え、さらにその1分後に、くえん酸ナトリウム溶液(くえん酸ナトリウム濃度1%)1.5mlを加えて5分間沸騰させて後に、室温に放置して冷却した。次いで、この溶液を200mM炭酸カリウム溶液でpH9.0に調製し、これに超純水を加えて全量を100mlとして金ゾルを得た。
【0057】
(2) 金コロイド標識抗体の調製
上記2.で得られた抗MPB64蛋白マウス単クローン抗体の蛋白換算重量1μg(以下、抗体の蛋白換算重量を示すとき、単にその重量の数値のみを示す )と上記の金ゾル1mlとを混合し、室温で2分間静置して、この抗体のことごとくを金ゾルの分散粒子であるコロイド粒子と結合させた。これに最終濃度が1%となるように10%ウシ血清アルブミン(以下、BSA と記す)水溶液を加えて上記の抗体に結合せしめられた金コロイド粒子の表面をブロックした。この溶液を遠心分離(5,600×G、30分間)して抗MPB64蛋白マウス単クローン抗体を結合したコロイド粒子の表面がBSAでブロックされた金コロイド標識抗体を沈殿せしめて集めた。
この金コロイド標識抗体を、10%サッカロース・1%BSA・0.5%トリトン(Triton)−X100を含有する50mMトリス塩酸緩衝液(pH 7.4)に再懸濁して精製金コロイド標識抗体溶液を得た。
【0058】
(3) 青色ラテックス標識抗体の調製
上記2.で得られた抗MPB64蛋白マウス単クローン抗体0.25mgと10%青色ラテックス(粒径0.2μm、日本ペイント株式会社の商品)溶液を精製水で希釈して得られた1%青色ラテックス溶液1mlとを混合し、室温で30分間静置して抗MPB64蛋白マウス単クローン抗体を青色ラテックスに結合させた後、遠心分離(5,000×G、30分間)して青色ラテックスに結合せしめられた抗MPB64蛋白マウス単クローン抗体である粗青色ラテックス標識抗体を沈殿せしめて集めた。この粗青色ラテックス標識抗体を1%BSA溶液および0.85%塩化ナトリウム溶液を含有する10mMりん酸塩緩衝液(pH7.4)1mlに再分散し、遠心分離(5,000×G、30分間)するという操作を3回繰り返した。このように処理された青色ラテックス標識抗体を1%BSAおよび0.85%塩化ナトリウム溶液が含有されてなる10mMりん酸塩緩衝液(pH7.4 )20mlに分散せしめて、固形分約0.05%の精製青色ラテックス標識抗体溶液を得た。
【0059】
4.クロマト法テストストリップの作成
(1) 特公平7−13640号公報の記載に準拠してクロマト法テストストリップを作成した。
すなわち、幅5mm,長さ36mmの細長い帯状のニトロセルロース膜(メンブレンフィルター)をクロマトグラフ媒体のクロマト展開用膜担体とし、このクロマト展開始点とは逆方向末端から7.5mmの位置に、第二抗MPB64蛋白抗体3.0mg/mlが含有されてなる抗体溶液0.5μlをスポット状に塗布して、これを室温で乾燥して補足部位とした。なお、第二抗MPB64蛋白抗体とは免疫反応において、抗原であるMPT64蛋白またはMPB64蛋白に対する結合部位が、上記3.の金コロイド標識抗体または青色ラテックス標識抗体の調製に使用された抗体とは異なる結合特異性を有する抗体をいう。
【0060】
(2) また、5mm×15mmの帯状のガラス繊維不織布に上記の金コロイド標識抗体液37.5μlを含浸せしめ、これを室温で乾燥させて金コロイド標識抗体含浸部材とした。
(3) また、5mm×15mmの帯状のガラス繊維不織布に上記の青色金ラテックス標識抗体溶液37.5μlを含浸せしめ、これを室温で乾燥させて青色ラテックス標識抗体含浸部材とした。
【0061】
(4) 次に、試料添加用部材である綿布、上記の金コロイド標識抗体含浸部材または青色ラテックス標識抗体含浸部材、クロマト展開用膜担体であるニトロセルロース膜および吸収用部材である濾紙を、それぞれ粘着シートの粘着面の所定位置に貼着してクロマト法テストストリップを作成した。すなわち、粘着シートの粘着面上にクロマト展開用膜担体を貼着し、このクロマト展開用膜担体のクロマト展開の始点とは逆方向末端に、上記の金コロイド標識抗体溶液または青色ラテックス標識抗体溶液を含浸せしめて乾燥せしめられた標識抗体含浸部材のクロマト展開の始点とは逆方向末端を重ね合わせて配列せしめ、さらに、この金コロイド標識抗体含浸部または青色ラテックス標識抗体含浸部の重複部分からその全体を覆って試料添加部材を配列せしめた。
さらに、ニトロセルロース膜の他方の端には、吸収用部材の一部を重ねて配列せしめてクロマト法ストリップとした。
【0062】
5.被検体からの結核菌の検出
(1) 判定基準の作成
1)精製MPB64蛋白を生理食塩水で希釈し、MPB64蛋白の濃度がそれぞれ0.25ng/ml,0.5ng/ml,1.0ng/ml,2.0ng/ml,4.0ng/ml,8.0ng/mlおよび16.0ng/mlからなる溶液とし、これらのMPB64蛋白溶液を標準試料とした。これらの標準試料を用いて、上記のクロマト法テストストリップによる検定およびRPHA法による検定を行ない、得られた両者の結果からMPB64蛋白濃度に対する両者の方法の検出感度について比較した。
【0063】
2)抗体感作血球を特開平7−110332号公報記載の方法に準拠して調製した。
すなわち、グルタールアルデヒド固定ヒツジ赤血球の0.5%10mMりん酸塩緩衝懸濁液1容量部と、1mgのタンニン(米国NBC社)を生理食塩水100mlに溶解せしめた溶液1容量部とを混合し、室温で15分間放置した後、タンニン処理赤血球を遠心分離し、タンニン処理赤血球を生理食塩水で3回洗浄した後に、1容量部になるように生理食塩水に懸濁せしめて0.5%タンニン赤血球生理食塩水溶液を得た。
【0064】
常法にしたがってヤギを免疫して得られた抗体をアフィニティーカラムクロマト法により精製した精製抗MPB64蛋白多クローン抗体溶液(2μg/ml)1容量部と上記の0.5%タンニン赤血球生理食塩水溶液1容量部とを混合し、37℃で30分間放置した後、この液を遠心分離(1,500×G、10分間)して抗体感作赤血球を分離した。この抗体感作赤血球10mMりん酸塩緩衝液で3回洗浄した後、0.1%BSAを含有する10mMりん酸塩緩衝液に懸濁せしめて0.5%抗体感作赤血球生理食塩水溶液を調製した。
【0065】
3)金コロイド標識抗体含浸部材を用いたクロマト法テストストリップにおいて、各濃度の標準試料100μlをクロマト展開せしめ、15分後の該テストストリップにおける補足部位での赤紫色の着色の有無を肉眼で判定し、無着色を−とし、着色をその濃淡により±(疑陽性)から+++(濃厚着色)までの間を、±,+,++,+++の4段階に区分して判定基準とした。クロマト法テストストリップにおける肉眼による判定基準と標準試料の蛋白濃度との関係を表1に示した。
なお、捕捉部位における赤紫色の着色の有無および着色の濃淡は、被検体中の結核菌の有無および結核菌の大凡の菌数を表わしていることはいうまでもない。
【0066】
4)青色ラテックス標識抗体含浸部を用いて、上記同様の操作を行なったとき、上記と同様の結果が得られた。
【0067】
5)他方、RPHA法において、96ウエル プラスチック マイクロタイタープレート(住友ベークライト株式会社の製品)の各ウエルに、各濃度の標準試料5μlずつを入れ、次いで、各ウエルに上記の抗体感作赤血球生理食塩水溶液25μlを滴下し、室温で30分間静置して免疫反応を生ぜしめ、この反応後の各ウエルのおける赤血球凝集の程度を肉眼で判定して、−(無凝集)から+++(極めてよい凝集)までの間の−,±,+,++,+++の5段階に区分した。このRPHA法における肉眼判定の結果を、上記のクロマト法テストストリップでの標準試料の精製MPB64蛋白濃度に基づく判定基準と比較し、それを表1に示す。
表1に示されるように、本発明の結核菌検出法はRPHA法に比して感度が高く、しかも半定量性があることが判る。
【0068】
【表1】

【0069】
(2) 被検体からの結核菌検出例1
1)ヒトの喀痰を結核症被検体(8例)とし、該被検体からの結核菌の検出を検討した。
すなわち、被検体5mlと、5mlの2%水酸化ナトリウム水溶液とを混合し、この混合液を室温で30分間静置した後、遠心分離(1,500×G、30分間)して生じた沈渣を回収し、この沈渣と生理食塩水とを混合し、この混合液を遠心分離(1,500×G、30分間)して生じた沈渣を再び回収し、この沈渣と生理食塩水200μlとを混合して、これを検査試料とした。
【0070】
2)この検査試料100μlを滅菌試験管にとり、この試験管にデュボス液体培地(ベクトン・デッキンソン株式会社の商品)5mlを加え、37℃で培養し、培養開始3日目の培養液について上記の本発明のクロマト法テストストリップによる結核菌の検出法およびRPHA法による結核菌の検出を行なった。
なお、培養開始7日目の培養液については、RPHA法のみによる結核菌の検出を行なった。
【0071】
対照として、上記の被検体8例の喀痰各5mlと、5mlの2%水酸化ナトリウム水溶液とを混合し、この混合液を室温で30分間静置した後、この溶液100μlを、試験管工藤PD固形斜面培地(協和薬品工業株式会社の商品)の表面に均一に接種して、37℃で56日間培養し、増殖した結核菌についてナイアシン産生試験を行なった。
【0072】
すなわち、上記の試験管工藤PD固形斜面培地の表面に1ml沸騰蒸留水を加え、該表面をほぼ水平にし5分間静置して結核菌体からナイアシンを抽出した。
この抽出液から200μlを採取し、これと4容量%アニリン・エタノール溶液100μlおよび10容量%ブロムシアン溶液とを混合した。混合してから5分後に、この混合液に結核菌に由来したナイアシンが存在すれば、混合液は黄色に発色するので、肉眼で判定して黄色に発色すれば、その被検体を陽性(+)とした。
表2にこれらの検査結果を示す。
【0073】
【表2】

【0074】
表2から、ナイアシン産生試験では試験管工藤PD固形斜面培地での培養に56日間という長期間を要するが、他方、本発明の検出法では、デュボス液体培地での培養で3日間という短期間ですみ、また、本発明の検出法ではその感度もRPHA法に比して格段と高い。
【0075】
(3) 被検体からの結核菌検出例2
1) レントゲン診断による結核症疑罹患患者8名のそれぞれの喀痰における結核菌についての検査を行なった。
すなわち、上記の各喀痰と、これと等量の2%水酸化ナトリウム水溶液とを混合し、この混合液を室温で30分間静置し、これを培養試料とした。
【0076】
2)上記培養試料100μlを試験管工藤PD固形斜面培地の表面に均一に接種して、37℃で培養し、培養開始7日目、14日目、21日目、28日目および56日目に、各試験管工藤PD固形斜面培地の表面に蒸留水500μlをそれぞれ加えて振盪し、該試験管中の液を菌体抽出試料とした。この菌体抽出試料100μlをクロマト法テストストリップにチャージしてクロマト展開せしめ、15分後の捕捉部位における赤紫色の呈色の有無および呈色の濃淡を肉眼で観察し、上記の判定基準に従って判定した。
なお、比較のために上記の各試料について、培養期間を56日間とした以外は上記と同様に培養して増殖せしめた結核菌に関して上記と同様にしてナイアシン産生試験を行なった。
これらの結果を表3に示す。
【0077】
【表3】

【0078】
なお、表3において(−)および(+)のそれぞれは、上記の試験管工藤PD固形斜面培地の表面においてコロニーが「形成されていない」および「形成された」をそれぞれ示す。
【0079】
表3では、試料の培養に試験管工藤PD固形斜面培地を使用した場合には、ナイアシン産生試験では検査結果が判明するまでに56日の長期間を要するに対して、本発明の検出方法ではナイアシン産生試験の半分の日数である培養開始28目で被検体における結核菌の存在が判定でき、しかも、極めて高感度であることを示している。
【0080】
次に、本発明の結核菌検出法において好適に使用されるクロマト法テストストリップの代表例を図面を使用してさらに具体的に説明する。
すなわち、図1はクロマト法テストストリップを示し、aは平面図、bはaで示されたクロマト法テストストリップの縦断部端面図である。
しかして、図2は図1で示されたクロマト法テストストリップを収納するためのケースを示し、aは平面図、bはaで示されたケースの縦断部端面図である。
なお、図面は原理を示すためのものであり、寸法などは正確には示されていない。
【0081】
このクロマト法テストストリップは、粘着シート 1の粘着面に、上流側(以下、図面の向かって左側を上流側、また、図面の向かって右側を下流側と記す)から順次、試料添加用部材 5、呈色標識抗体含浸部材 2、クロマト展開用膜担体 3および吸収用部材 4が貼着されている。しかして、呈色標識抗体含浸部材 2にはその全面に呈色標識抗MPB64蛋白抗体液が、また、クロマト展開用膜担体 3には第二抗MPB64蛋白抗体液がスポット状に含浸せしめられている(クロマト展開用膜担体 3においてスポット状に第二抗MPB64蛋白が含浸せしめられた箇所を以下、捕捉部31 と記す)。なお、試料添加用部材 5は該呈色標識抗体含浸部材 2に積層せしめられている。該クロマト展開用膜担体 3はその上流側端部が上記の呈色標識抗体含浸部材 2によって被覆され、かつ該呈色標識抗体含浸部材 2に連接せしめられている。
【0082】
該吸収用部材 4はその上流側端部が該クロマト展開用膜担体 3の下流側端部に積層せしめられている。
これらの粘着シート 1、呈色標識抗体含浸部材 2、クロマト展開用膜担体 3、吸収用部材 4および試料添加用部材5はいずれも細長い長方形で帯状とされている。クロマト展開用膜担体 3はクロマト展開に際してそれ自体の毛細管作用により、試料添加用部材 5にスポット状にチャージされた被検体およびその他の各種試料をクロマト展開方向である下流側に自動的に移動せしめ得る材質を有するものであればよい。
【0083】
しかして、呈色標識抗体含浸部材 2としてガラス繊維不織布が、クロマト展開用膜担体 3としてニトロセルロース膜が、吸収用部材 4として濾紙が、試料添加用部材 5として、その材質は問わないが、多孔質ポリエチレンおよび多孔質ポリプロピレンなどのような多孔質合成樹脂のシートまたはフィルム、ならびに、濾紙および綿布などのようなセルロース製の紙または織布もしくは不織布が最適である。
【0084】
捕捉部31を有するクロマト展開用膜担体 3は、捕捉部31に補足される呈色結合物の色が明確に目視できるものを使用することが好ましい。たとえば、呈色標識物質が金コロイド粒子である場合には、この金コロイド粒子は赤紫色を呈するため、その呈色結合物も赤紫色を呈するので、クロマト展開用膜担体 3の色は淡色が好ましく、白が特に好ましい。
【0085】
上記のクロマト法テストストリップは、ケース 6に収納されている。ケース 6は、通常は、合成樹脂製である。
ケース 6は、容器本体61と蓋体62とからなっている。
蓋体62の上面には上記のクロマト法テストストリップの試料添加用部材 5およびクロマト展開用膜担体 3の捕捉部31のそれぞれに対応する位置に、それぞれ、試料注入口621および判定孔622が穿設されている。
【0086】
蓋体62の試料注入口621から被検体、被検体の培養物、これらからの各種抽出液などの試料が試料添加用部材 5に灌注される。灌注された該試料は試料添加用部材 5を下流側に向かって浸潤すると同時に下方の呈色標識抗体含浸部材 2へ移行せしめられるとともに呈色標識抗体含浸部材 2の下流側方向に向かって展開せしめられる。各種の試料中に結核菌から産出されたMPT64蛋白またはMPB64蛋白が含有されていた場合には、この間にMPT64蛋白またはMPB64蛋白と呈色標識抗MPB64蛋白抗体との免疫反応によってMPT64蛋白またはMPB64蛋白と呈色標識抗MPB64蛋白抗体との呈色結合物が生成せしめられる。
【0087】
試料はさらにクロマト展開用膜担体 3を下流側に向かって展開せしめられる。この呈色結合物は展開の途次に該クロマト展開用膜担体 3の捕捉部31で捕捉されて集積せしめられ呈色する。この呈色は判定孔622から肉眼で観察される。
【0088】
[発明の効果]
本発明は簡便な方法で、かつ、短時間で、しかも、安全に、高い精度で結核菌の存否を判定することができ、さらに、試料中に存在する結核菌の菌数をも半定量することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】クロマト法テストストリップを示し、aは平面図、bはaで示されたクロマト法テストストリップの縦断部端面図である。
【図2】図1で示されたクロマト法テストストリップを収納するためのケースを示し、aは平面図、bはaで示されたケースの縦断部端面図である。
【符号の説明】
【0090】
1 粘着シート
2 呈色標識抗体含浸部材
3 クロマト展開用膜担体
31 捕捉部
4 吸収用部材
5 試料添加用部材
6 ケース
61 容器本体
62 蓋体
621 試料注入口
622 判定孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体を液体培養して得られた培養液と、呈色標識抗MPB64蛋白抗体とを混合し、次いで、第二抗MPB64蛋白抗体を含浸させて形成された捕捉部位を備えてなるクロマト展開用膜担体に、この混合液をクロマト展開せしめ、MPT64蛋白またはMPB64蛋白と呈色標識抗MPB64蛋白抗体との結合物の前記捕捉部位での捕捉の呈色の有無により、ヒト型結核菌またはウシ型結核菌の有無を判断することからなり、前記呈色標識抗MPB64蛋白抗体の抗体がモノクローナル抗体であることを特徴とする結核菌検出方法。
【請求項2】
前記呈色標識抗MPB64蛋白抗体において、抗MPB64蛋白抗体に結合せしめられる呈色標識物質がコロイド状金属である請求項1記載の結核菌検出法。
【請求項3】
前記呈色標識抗MPB64蛋白抗体において、抗MPB64蛋白抗体に結合せしめられる呈色標識物質が着色ラテックスである請求項1記載の結核菌検出法。
【請求項4】
前記第二抗MPB64蛋白抗体は前記呈色標識抗MPB64蛋白抗体と異なる部位で抗原抗体反応するものである請求項1〜3の何れか1項に記載の結核菌検出法。
【請求項5】
少なくとも、試料添加用部材5、呈色標識抗体含浸部材2、クロマト展開用膜担体3および吸収用部材4を有し、上記部材2および担体3には前記呈色標識抗MPB64蛋白抗体および第二抗MPB64蛋白抗体がそれぞれ含浸されており、上記部材5は部材2に積層され、上記担体3はその上流側端部が上記部材2に被覆されるとともに該部材2に連接され、上記部材4はその上流側端部が上記担体3に積層されるとともに該担体3と連接してなるクロマト法テストストリップを用い、前記液体培養して得られた培養液を前記試料添加用部材に灌注することによって行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記呈色標識抗MPB64蛋白抗体において、抗MPB64蛋白抗体に結合せしめられる呈色標識物質がコロイド状金属である請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記呈色標識抗MPB64蛋白抗体において、抗MPB64蛋白抗体に結合せしめられる呈色標識物質が着色ラテックスである請求項5記載の方法。
【請求項8】
前記第二抗MPB64蛋白抗体は前記呈色標識抗MPB64蛋白抗体と異なる部位で抗原抗体反応するものである請求項5〜7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記クロマト法テストストリップがケースに収容されてなる請求項5〜8の何れか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−316078(P2007−316078A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184162(P2007−184162)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【分割の表示】特願平9−282604の分割
【原出願日】平成9年9月30日(1997.9.30)
【出願人】(591011281)株式会社タウンズ (3)
【Fターム(参考)】