説明

給湯装置及び給湯方法

【課題】大気圧力の変動など周囲環境が変化しても溶湯を貯留しているラドル内の保持圧力の変動を小さくし、搬送中に溶湯が漏れ出して滴下することのない給湯装置及び給湯方法を提供すること。
【解決手段】真空吸引型の給湯装置において、内部に溶湯を貯留するラドルと、ラドルの下端部に設けられた開閉可能な給湯口と、給湯口を開閉する給湯口開閉手段と、ラドルの上側に取り付けられた蓋板と、蓋板に支持されラドル内の溶湯の湯面を検知する溶湯量検知手段と、蓋板に設けられラドル内の気体を吸引する接続口に配管接続された真空吸引装置と、を備えるとともに、溶湯の取り込みを完了した後のラドル内気体圧力の変動を低減する圧力調整タンクを真空吸引装置に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金やマグネシウム合金などの溶融金属をダイカストマシン等の竪型スリーブ又は横型スリーブに供給する給湯装置及び給湯方法に係り、特に、保持炉からラドル内への溶湯の取り込みを吸引して行なうことで酸化物により汚染されていない清浄な溶湯を短時間で効率よく安定的に射出スリーブへ供給することができる給湯装置及び給湯方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム合金、マグネシウム合金等の軽合金の溶融金属である溶湯をダイカストマシンなどの射出スリーブに供給する場合は、例えば、ダイカストマシンの近傍に専用の保持炉を設置し、この保持炉からラドル(取鍋)により、一定量の溶湯を汲み取り(計量)、搬送、注湯を行なう方法が実用の主流をなしていた。
【0003】
例えば図6に示すように、溶湯Mを貯留する底面内側から上方に突設して溶湯溜りを形成する導管11が、底面外側に垂下して配され給湯口12としたラドル13を有するラドルユニット10を用い、給湯口12を開いた状態で導管11の下部を保持炉の溶湯Mに浸漬し、ラドル13内の気体を真空吸引することにより保持炉内の溶湯Mをラドル13内に取り込み、湯面の検知手段14で湯面を検知して給湯口12を閉じることにより溶湯Mの取り込みを完了する。次いで、ラドル13内の真空吸引を保持した状態でラドル13を保持炉から引き上げ、射出スリーブまで搬送、真空吸引を停止するとともに給湯口12を開き不活性ガスをラドル13内に供給して溶湯Mを射出スリーブへ注湯する吸引開閉式の給湯装置10及び給湯方法(特許文献1参照)が開示されている。
【0004】
この従来型の給湯装置のラドルユニット10の給湯口開閉手段15に用いる遮蔽板16はカップを上下に反転させた逆凹状に形成され、湯溜りを形成する導管11の上部に当接して溶湯のシール部を形成する構成となっており、このシール部では溶湯の酸化凝固物の付着が発生し、この場合にはシール性が低下、溶湯が漏れ出し易くなる。一方、溶湯を吸引して取り込んだラドル上部の空隙は吸引した溶湯の自重に相当する真空吸引圧により保持され溶湯は大気圧力と均衡し、シール部に酸化膜が形成されても表面張力の作用により溶湯は容易に漏れ出して滴下することはない。
【0005】
上記ラドルユニット10では、ラドルの上蓋17には湯面の検知棒手段14やシール部の開閉手段15の駆動シャフトがシール18を介して移動自在に設けられ、また図示しない不活性ガスを供給する機器類も設けられている。構成した機器類の摺動部に設けた漏れを防ぐためのシール部材や給湯装置10の蓋に設けたシール18では気体の漏れを完全に遮断することはできない。そして前述したように、ラドル内は所定の吸引量に設定された真空発生手段により吸引保持されている。
ところで、大気圧や外気温の変化やラドルの温度上昇等の運転環境が変化するとこれら構成機器のシール特性も変化し、シール隙間からの外気の吸入量と真空吸引量とのバランスが崩れ、ラドル内を保持している吸引圧力を容易に変動させる。そして、ラドル給湯口のシール部に酸化膜が形成された状態でラドル内の圧力が変動して所定の圧力よりも高くなると、表面張力が崩れ溶湯が漏出し、また、ラドル内の圧力が所定の圧力よりも低くなると、シール部から外気を溶湯中に吸引することとなる。
このようなラドル内の圧力変動に対処するため、運転環境の変化に連動して発生するラドル内の圧力の微少変動を検出して真空吸引量を補正する運転制御方法もあるが、微少な圧力の変動を検出して所望の圧力に制御することは煩雑であり、且つ実用的でもなく、さらには給湯装置のコスト高を招くといった問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−39764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、大気圧力の変動など周囲環境が変化しても溶湯を貯留しているラドル内の保持圧力の変動を小さくし、搬送中に溶湯が漏れ出して滴下することない給湯装置及び給湯方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため本発明の請求項1に記載の給湯装置は、金型装置のキャビティ内へ射出充填する金属の溶湯を射出スリーブへ供給する給湯装置において、内部に溶湯を貯留するラドルと、該ラドルの下端部に設けられた開閉可能な給湯口と、該給湯口を開閉する給湯口開閉手段と、前記ラドルの上側に取り付けられた蓋板と、該蓋板に支持されラドル内の溶湯の湯面を検知する溶湯量検知手段と、前記蓋板に設けられ前記ラドル内の気体を吸引する接続口に配管接続された真空吸引装置と、を備えるとともに、溶湯の取り込みを完了した後のラドル内気体圧力の変動を低減する圧力調整タンクを前記真空吸引装置に設けたことを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項2に記載の給湯装置は請求項1に記載の発明において、前記ラドルは、上部が拡径をなし下部が縮径をなしていて内部に溶湯を貯留する外筒と、該外筒の下端と外周部とが連続する底面板の中央下方向に延在し外径が前記外筒の下部の内径より小さな円筒状の導管と、該導管を貫通して前記ラドルの内径と連通する溶湯の通路で構成される給湯口からなり、前記給湯口開閉手段が前記蓋板の上側で支持されるとともに、蓋板を貫通して上下動自在に設けた弁棒を下降して前記給湯口のラドル側開口部に押し付けて給湯口を閉じ、前記弁棒を上昇させて前記給湯口を開放する構成としたことを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3に記載の給湯装置は請求項1又は請求項2に記載の発明において、ラドル内に不活性ガスを供給するための不活性ガス供給装置を、前記蓋板の接続口に配管接続して設けたことを特徴とする。
【0011】
上記の目的を達成するため本発明の請求項4に記載の給湯方法は、金型装置のキャビティ内へ射出充填する金属の溶湯を射出スリーブへ供給する給湯方法において、ラドル底面板の中央部にある給湯口を開いた状態で前記導管を保持炉の溶湯内に浸漬して前記ラドル内の気体を真空吸引することで保持炉内の溶湯をラドル内に吸引し、前記ラドル内の溶湯の湯面が上昇して溶湯量検知手段が検知し、前記給湯口を閉じてラドル内への溶湯の取り込みを完了するとともに、前記溶湯量検知手段が湯面を検知する直前のラドル内気体圧力を検出して前記ラドルと圧力調整タンクを連通することを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項5に記載の給湯方法は請求項4に記載の発明において、ラドルと圧力調整タンクが連通した状態で前記ラドルを保持炉から引き上げ、射出スリーブまで移送して前記圧力調整タンクとの連通を遮断し、前記給湯口を開くとともにラドル内に不活性ガスを供給して射出スリーブ内に溶湯を注湯することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
溶湯を取り込んだ後のラドルと連通する圧力調整タンクを設けたので、溶湯を搬送する際の圧力を保持する容積を大きくできる。このため、外乱により外気の吸い込み量が変動してもラドル内の圧力変動を小さくして抑えることができ、溶湯がラドルのシール面から漏れ出すことがない。
また、ラドルは射出スリーブへ注湯完了後に溶湯が残留しない構造としたので、溶湯に侵食されず、且つ熱伝導率が低い耐火材質又はセラミック等を使用することができる。また、ラドル底部に設けた導管の下端部を保持炉に浸漬して溶湯を取り込むので、酸化物に汚染されていない清浄な溶湯を射出スリーブへ供給できる。
【0014】
ラドルと圧力調整タンクとの連通は、所定量の溶湯を検知して取り込みを完了する直前の真空吸引中に行ない、湯面を検知した後に給湯口を閉じるに構成としたので、溶湯の計量精度が安定する。
また、射出スリーブに注湯するときに不活性ガスをラドルに供給するので、溶湯の酸化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態を示すもので、給湯装置要部の構成を説明する図面である。
【図2】溶湯を吸引するときのラドルユニット及び回路の状態を説明する図面である。
【図3】溶湯の取り込み完了直前にラドルと圧力調整タンクが連通した状態を説明する図面である。
【図4】ラドル内を吸引保持した状態を説明する図面である。
【図5】射出スリーブに溶湯を注湯するときの状態を説明する図面である。
【図6】従来型の給湯装置のラドルユニットを説明する縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて、本発明の給湯装置及び給湯方法の実施の形態について詳細に説明する。図1に示すように、本発明の給湯装置はラドルユニット100及びラドルユニット100を操作する流体機器により要部が構成される。流体機器はエア回路120及び真空吸引装置130により構成する機器と不活性ガス供給装置140により構成する機器により構成されている。ラドルユニット100は図示しないラドルの移動手段、例えば、多関節型のロボットの先端に取り付けられ、溶解したアルミニウム合金等を溶解した状態に保持する保持炉と、金型と連通して溶融したアルミニウム合金等をキャビティへ供給する射出スリーブとの間を移動自在に配される構成となっている。
【0017】
ラドルユニット100は図1に示すように、ラドル101、蓋板102、給湯口開閉手段118、ラドル101内の溶湯の湯面を検知する溶湯量検知手段106、保持炉115の溶湯の湯面を検知する湯面検知手段107により要部が構成される。
ラドル101は、上部が拡径をなし下部が縮径をなしていて内部に溶湯を貯留する外筒101aと、外筒の下端と外周部とが連続する底面板の中央下方向に延在し外径が外筒の下部の内径より小さな円筒状の導管108と、導管108を貫通してラドル101の内径と連通する溶湯の通路で形成される給湯口109を有している。
給湯口開閉手段118は、先端に弁駒103を着脱自在に設けた弁棒104、弁棒104を上下に駆動する流体圧シリンダ105により構成される。
【0018】
ラドル101の上部には蓋板102が図示しない締結手段により固着されている。蓋板102には、ラドル101内の溶湯の湯面を検知する溶湯量検知手段106及び保持炉115の溶湯Mの湯面を検知する湯面検知手段107が上下方向に調整可能に設けられている。
溶湯量検知手段106と湯面検知手段107は、制御装置が電気信号として溶湯の湯面位置を検出できる電極や熱伝対等を用いることが好ましい。また、蓋板102にはラドル101内の気体を吸引して真空状態とする真空吸引装置130、及び、不活性ガスをラドル101内に供給するための不活性ガス供給手段140の配管が接続される接続口110が設けられている。
【0019】
蓋板102には、部材111を介して弁棒104を上下に駆動する流体圧シリンダ105がシリンダロッドを下方に向けて取り付けられ、シリンダロッドは連結金具により弁棒104と接続されている。
弁棒104の先端に設けた弁駒103は流体圧シリンダ105の下方移動により給湯口109のラドル101開口部で当接してシール部を形成する構成となっており、ラドル101内に溶湯を取り込んだときに給湯口109から溶湯が漏れ出すことがない。射出スリーブ内に溶湯を注湯するときは流体圧シリンダ105の上方移動により給湯口109を開口して溶湯の流路を確保する。
【0020】
蓋板102とラドル101、弁棒104及び溶湯量検知手段106はシール手段112を介して設ける構成としたのでラドル101内を真空吸引状態或いは加圧状態としても、外部からの空気の吸い込みや、ラドル101内の気体の外部への漏れ出しを最小にすることができる。
そして、蓋板102には図示しないラドルユニット100の移動手段、例えば多関節型ロボットが取り付けられ、ラドルユニット100は保持炉115と射出スリーブとの間を移動自在として溶湯Mを搬送する構成となっている。
【0021】
次に、ラドルユニット100に接続された流体機器について、図1のエア回路120、真空吸引装置130及び不活性ガス供給装置140により説明する。
エア回路120は、弁棒を駆動する流体圧シリンダ105の操作回路とラドル101内を真空吸引する真空吸引装置により構成される。図示しない空気圧縮機などにより加圧圧縮(例えば、大気圧を基準として0.1〜0.7MPa)されたエアを供給するエア供給源を備えている。流体圧シリンダ105の操作回路は開閉弁122及びサイレンサ123により構成される。ノーマル状態で流体圧シリンダ105はピストンを下降方向に動作して弁棒104を下降させ、弁駒103で給湯口109を塞いでいる。給湯口109を開放するときは、開閉弁122のソレノイドを励磁し流体圧シリンダ105のピストンを上昇させ、弁駒103を上方へ移動させて溶湯の流路を確保する。
弁駒103の上方移動を開閉弁122のソレノイドを励磁して行なう構成としたが、これに限られるものではなく、開閉弁のソレノイドを消磁することにより動作する構成であってもよい。
【0022】
ラドル101内を真空吸引する真空吸引装置130は、流量調整弁126、開閉弁124、真空発生器125及びサイレンサ123からなる真空発生部と、ストップバルブ127、圧力調整タンク128、開閉弁129及び圧力検出器131からなる真空保持部とで構成される。開閉弁124のソレノイドを励磁して真空発生器125の一次側に圧縮空気が供給されると、真空発生器125の二次側の気体を吸引して吸い出し、供給した圧縮空気とともにサイレンサ123より排出される。この操作により、真空発生装置の二次側に真空状態を作り出す。流量調整弁126の開度を調整することにより真空吸引量を調整する。
開閉弁132により圧力調整タンク128と開閉弁129とストップ弁127を介して連通する。これにより、圧力調整タンク128及びラドル101内の真空状態が作り出される。そして、吸引ラインの真空度は圧力検出器131により検出される。
【0023】
次いで、ラドル101内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置140について説明する。
不活性ガス供給装置140は、不活性ガスボンベ、減圧弁143、144、流量調整弁146、147、及び開閉弁141、142により構成される。減圧弁144は溶湯をラドル101から排出するときの圧力を設定し、減圧弁144は溶湯をラドル101から排出後に残湯をパージするときの圧力を設定する。又、圧力調整弁146は溶湯をラドル101から排出するときの流量を設定し、圧力調整弁146は溶湯をラドル101から排出後に残湯をパージするときの流量を設定する。開閉弁141は溶湯の排出と残湯のパージ操作の切り替え用であり、開閉弁142は不活性ガスのラドル101への供給及び遮断用である。
【0024】
そして、開閉弁151によりラドル101内の真空吸引操作又は不活性ガス供給操作のいずれかを選択する。
以上説明した開閉弁、溶融量検知手段、湯面検知手段、圧力検出器は図示しない制御装置と電気的に接続されており、制御装置からの指令信号に基づいて作動し、制御装置に信号を送信することによりダイカストマシンの一連の鋳造動作と連動して給湯動作を行なう構成となっている。
【0025】
次に、このように構成されたラドルユニット100とラドルユニット100に接続された流体機器を用いて、保持炉115内に保持された溶融金属(溶湯)Mをダイカストマシンの射出スリーブ116に所要の給湯量を供給する方法について、以下に説明する。
先ず、鋳造作業開始前の準備段階では、開閉弁122のソレノイドを励磁して流体圧シリンダ105を駆動、弁駒103を上昇させ給油口109を開く。次いで、開閉弁142のソレノイドを励磁してガスボンベ内の不活性ガスをラドル101内に供給する。開閉弁142のソレノイドの励磁時間は予め定めた所定の値に設定されており、ラドル101内が不活性ガスで充満するタイミングで消磁される。この操作は、ラドル101内から酸素を含む空気を排出して不活性ガスで置換することにより、溶湯を取り込んだ際に溶湯の酸化を防ぐ目的で行なわれる。
【0026】
ラドルユニット100を移動手段により保持炉115上まで移送し、導管108の下部が溶湯Mの中に浸漬する位置まで下降させる。この下降位置は、湯面検知手段107により検出され導管108の下端が溶湯Mの湯面から5〜30mmの範囲となるように設定され、ラドル101の底面が湯面に接しない寸法とする。
このような操作では、ラドル101の底面を湯面に浸漬させるとラドルの外表面に溶湯が付着することがなく、付着した酸化物が射出スリーブ116内に落下して混入して溶湯が汚染されることがなく、清浄な溶湯を供給することができる。
【0027】
図2は、給油口109が開かれ、導管108の下部を溶湯Mの中に浸漬した下降位置で開閉弁124及び132のソレノイドと開閉弁151のソレノイドSol2を励磁、ラドル101内が真空吸引され溶湯Mを取り込んでいる状態を示している。開閉弁132と151の励磁によりラドル101と真空発生器125が連通され、開閉弁124のソレノイドを励磁により真空発生器125の一次側に圧縮空気が供給されて真空発生器125がラドル101内の気体を吸引する。これにより、ラドル101内に溶湯が吸引される。吸引したラドル101の気体はサイレンサ123から機外に排出される。
【0028】
図3は、溶湯の吸引が進行して湯面が溶湯量検知手段106による検出直前の状態を示している。溶湯の取り込みの増大に追従して吸引圧力が低下し予め定めた所定の圧力を圧力検出器131が検出したとき、開閉弁129のソレノイドを励磁して圧力調整タンク128と真空吸引ラインに連通する。
溶湯量検知手段106による湯面検出と圧力調整タンク128との連通を同じタイミングで行なうと、湯面検知位置と取り込んだ湯面(湯量)との間に誤差が生じる。湯面検知手段が湯面を検知する直前とは、湯面検知位置におけるラドル101内の吸引圧力よりも2〜4KPa高い圧力を検出するタイミングで設定される。この操作により、湯面検知位置で高い精度の溶湯の取り込みを完了することができる。
【0029】
図4は、湯面を検知して溶湯の取り込みを完了し保持炉115からラドルユニット100を上方に移動させた状態を示している。溶湯量検知手段106が湯面を検知した信号に開閉弁122、124及び132を消磁する。開閉弁122の消磁によりして流体圧シリンダ105を駆動、弁駒103を下降させ給油口109を閉じる。また、開閉弁124及び132の消磁によりラドル101内の真空吸引を停止し、ラドル101内の圧力保持は圧力調整タンク128との連通を維持することによって行なう。そして、給油口109が閉じられたことを確認して図示しない移動手段によりラドルユニット100を保持炉115から射出スリーブ116位置へ移動させる。
圧力調整タンク128の容積V1とラドル101に溶湯の取り込みを完了した後の空間容積V2(空隙)との比率は0.5〜10の範囲が好ましく、1.0〜6.0の範囲がより好ましい。
比率が0.5より小さいとラドル内の圧力変動を溶湯を保持する圧力に維持することができず湯漏れを起こし、比率が10より大きいと真空吸引工程における圧力検出後に圧力調整タンク128とラドル101が連通したときに、湯面の検知位置圧力となるまでの時間を要しサイクル効率が悪くなる。
【0030】
図5は、射出スリーブ位置へ移動して溶湯Mの注湯している状態を示している。射出スリーブ位置では開閉弁122のソレノイドを励磁して流体圧シリンダ105を駆動、弁駒103を上昇させ給油口109を開く。次いで、開閉弁129のソレノイドを消磁してラドル101内の減圧保持を停止するとともに、開閉弁151のソレノイドSol2を消磁してソレノイドSol1と開閉弁142のソレノイドを励磁する。この操作によりラドル101内は不活性ガス供給装置と連通する。そして、不活性ガスにより溶湯は加圧され射出スリーブ116に注湯される。注湯は減圧弁144の設定圧力により行なわれ、その設定圧力は0.03MPaに設定されている。
注湯するときの不活性ガスの圧力は上記数値に限定されるものではなく、好適な給湯速度が得られる圧力範囲(例えば、0.01〜0.05MPa)に設定することができる。
【0031】
図5に示す減圧弁143は、ラドル101内に残留する溶湯をパージ(排出)するときの圧力設定に用いる。溶湯をパージ(排出)は開閉弁141のソレノイドを励磁することで行なうことができ、注湯完了直近のラドル内圧力を検出し、検出した圧力が正圧となった後に実施することが好ましい。
射出スリーブ位置での注湯が完了後、ラドルユニット100を再び保持炉位置へ移動させ、次の鋳造に備えて給湯作業を行なう。
【0032】
以上説明したように、本発明の給湯装置ではラドル内に溶湯を取り込んで射出スリーブ位置まで搬送するとき、ラドル内と連通して減圧保持する圧力調整タンクを設けた。このような構成としたので、大気圧力が変化してラドル内との圧力差の変化や、蓋板に設けたシール類の特性が変化しラドル内部への大気の吸い込み量が増大してもラドル内の減圧保持圧力の変動を最小とすることができる。このため、ラドルの給湯口に酸化膜が形成されることに起因して生じる溶湯の漏れ出しを防ぐことができる。
また、ラドル底面に湯溜まりを設けない構造とするとともに、射出スリーブへ注湯した後に不活性ガスで残湯をパージする構成としたので、ラドル内に溶湯が残ることがなく全量を排出することができ、残湯による酸化膜がラドル内に形成されることがない。
【0033】
本発明の給湯方法では、所定の溶湯の取り込み完了直前のラドル内の吸引圧力を検出して圧力調整タンクと連通するようにしたので、給湯量にバラツキが生じることがない。
なお、図5において溶湯を横型の射出スリーブに注湯する構成としたが、これに限られるものではなく竪型の射出スリーブにラドルの細径部を挿入して注湯する構成であっても良い。
【符号の説明】
【0034】
100 ラドルユニット
101 ラドル
101a 外筒
102 蓋板
103 弁駒
104 弁棒
105 流体圧シリンダ
106 溶湯量検出手段
107 湯面検出手段
108 導管
109 給湯口
110 接続口
115 保持炉
116 射出スリーブ
118 給湯口開閉手段
120 エア回路
128 圧力調整タンク
130 真空吸引装置
140 不活性ガス供給装置
151 開閉弁
M 溶湯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型装置のキャビティ内へ射出充填する金属の溶湯を射出スリーブへ供給する給湯装置において、
内部に溶湯を貯留するラドルと、該ラドルの下端部に設けられた開閉可能な給湯口と、該給湯口を開閉する給湯口開閉手段と、前記ラドルの上側に取り付けられた蓋板と、該蓋板に支持されラドル内の溶湯の湯面を検知する溶湯量検知手段と、前記蓋板に設けられ前記ラドル内の気体を吸引する接続口に配管接続された真空吸引装置と、を備えるとともに、溶湯の取り込みを完了した後のラドル内気体圧力の変動を低減する圧力調整タンクを前記真空吸引装置に設けたことを特徴とする給湯装置。
【請求項2】
前記ラドルは、上部が拡径をなし下部が縮径をなしていて内部に溶湯を貯留する外筒と、該外筒の下端と外周部とが連続する底面板の中央下方向に延在し外径が前記外筒の下部の内径より小さな円筒状の導管と、該導管を貫通して前記ラドルの内径と連通する溶湯の通路で構成される給湯口からなり、前記給湯口開閉手段が前記蓋板の上側で支持されるとともに、蓋板を貫通して上下動自在に設けた弁棒を下降して前記給湯口のラドル側開口部に押し付けて給湯口を閉じ、前記弁棒を上昇させて前記給湯口を開放する構成としたことを特徴とする請求項1に記載の給湯装置。
【請求項3】
ラドル内に不活性ガスを供給するための不活性ガス供給装置を、前記蓋板の接続口に配管接続して設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の給湯装置。
【請求項4】
金型装置のキャビティ内へ射出充填する金属の溶湯を射出スリーブへ供給する給湯方法において、
ラドル底面板の中央部にある給湯口を開いた状態で前記導管を保持炉の溶湯内に浸漬して前記ラドル内の気体を真空吸引することで保持炉内の溶湯をラドル内に吸引し、前記ラドル内の溶湯の湯面が上昇して溶湯量検知手段が検知し、前記給湯口を閉じてラドル内への溶湯の取り込みを完了するとともに、前記溶湯量検知手段が湯面を検知する直前のラドル内気体圧力を検出して前記ラドルと圧力調整タンクを連通することを特徴とする給湯方法。
【請求項5】
ラドルと圧力調整タンクが連通した状態で前記ラドルを保持炉から引き上げ、射出スリーブまで移送して前記圧力調整タンクとの連通を遮断し、前記給湯口を開くとともにラドル内に不活性ガスを供給して射出スリーブ内に溶湯を注湯することを特徴とする請求項4に記載の給湯方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−121060(P2011−121060A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278363(P2009−278363)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)
【Fターム(参考)】