説明

給湯装置

【課題】水位センサの通電ドリフトに起因する誤差を適切に解消し、浴槽の水位を正確に判断することが可能な給湯装置を提供する。
【解決手段】浴槽4に基準供給量Q0の湯水が供給された際に、水位センサSaにより計測されるセンサ計測水位Ldと所定の基準水位L0とに基づいて、浴槽4の水位Laが判断される、給湯装置Aであって、La=Ld+Lcの式に基づいて水位Laが求められ、ただし、Lcは、通電ドリフト補正用の値であって、センサ計測水位Ldに関連する数値と補正係数Kとを用いて求められ(Lc≧0、Lc<0のときはLc=0)、Lcを求める際には、センサ計測水位Ldに基づき浴槽水位の推定暫定値Leが予め求められ、補正係数Kとして、L0≧Leのときは第1の補正係数K1が、L0<Leのときは第2の補正係数K2が用いられ、K1>K2の関係にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽への湯張り機能を備えた給湯装置に関する。
【背景技術】
【0002】
給湯装置としては、浴槽に湯を張る場合に、湯水量を指定するのではなく、浴槽の水位(目標水位)を指定して湯張りを行なうように構成されたものがある。このような給湯装置において、浴槽の水位が所望の目標水位となるように制御する手法としては、次のような手法がよく用いられている。
まず、給湯装置の試運転時においては、浴槽に所定の湯量ずつ(たとえば10Lずつ)湯張り動作を繰り返し行ない、その湯張り動作の都度、給湯装置の循環ポンプを駆動させて、給湯装置と浴槽とを接続する循環配管内に湯水が循環するか否かを、循環配管内に備えた水流スイッチのオン/オフ状態によって判断する。水流スイッチがオンした時点、またはその後にさらに少量(たとえば10L)の追加湯張りを行なった時点において、水位センサによって検出される水位を基準水位とする。試運転では、その基準水位になる迄の湯水供給量を、基準供給量として所定の記憶手段に記憶させる。前記試運転後に通常の湯張り運転を行なう際には、まず浴槽に前記基準供給量だけ湯水を供給し、その際の水位を水位センサを利用して検出する。この検出値に基づき、目標水位までの追加の湯水供給量を決定し、この湯水供給量だけ、さらに浴槽に湯水供給を行なう。
【0003】
しかしながら、前記した従来技術においては、次に述べるように改善すべき余地があった。
【0004】
すなわち、給湯装置で使用される水位センサは、たとえば半導体式圧力センサなどを利用したものであり、使用時には通電がなされ、湯水からの圧力を受けるとその圧力に応じた電気信号を出力する構成が一般的である。このような構成の水位センサの多くは、通電時間の経過に伴って出力値が変化する現象(以下、「通電ドリフト」という)を生じる。水位センサにおける通電ドリフトは、たとえば図2に示すような特性を示し、測定対象の水位に変化がなくても、水位センサへの通電時間が経過するにしたがって水位センサの出力値は変化する。また、水位センサへの継続した通電時間が一定時間を超えると、出力値は一定の値に収束する。水位センサの通電ドリフトでは、通電時間の経過に伴って出力値は徐々に低下するのが一般的である。このような通電ドリフトが生じたのでは、浴槽に基準供給量だけ湯水を供給した際に水位センサを利用して検出される水位は、実際の水位よりも低めとなる。したがって、このような低めの水位に基づいて、目標水位までの追加の湯水供給量を決定したのでは、湯張り完了後における実際の浴槽水位は目標水位よりも高くなる不具合を生じる。
【0005】
前記した不具合を解消する手段としては、水位センサによる計測水位が通電ドリフトに起因して実際の水位よりも低めとなる誤差を解消するための補正を行なうことが考えられる。しかしながら、そのような補正を単に一律に行なうだけでは、次のような不具合を生じてしまう。
すなわち、浴槽への湯張り開始時において、浴槽に基準供給量だけ湯水を供給した際に、水位センサによる計測水位が基準水位を超える場合がある。このような事態は、たとえば浴槽への湯張り開始時に浴槽に少量の残水が存在するといったことに起因して発生し、水位センサの通電ドリフトに起因するものではない。このため、そのような場合にまで通電ドリフトに対処するための補正を画一的に行なったのでは、実情に則しないこととなってしまう。
【0006】
従来においては、水位センサの出力値の誤差の影響を少なくしつつ、浴槽への湯張りを行なうための手段として、特許文献1,2に記載された手段がある。ところが、このような手段では、次に述べるように、前記した不具合を適切に解消することは困難である。
【0007】
特許文献1に記載された手段では、浴槽への湯張り動作が実行される都度、浴槽に基準供給量の湯水が供給された時点における水位センサの出力値(基準値)を順次更新するようにしている。しかしながら、このような手段では、水位センサの通電ドリフトに対応してきめ細かな補正を行なうことは難しい。また、前記の基準値が高くなる方向に更新された場合には、これに伴って目標水位に対応する水位センサの出力値も高くなる結果、湯張り完了後の水位が目標水位よりもかなり高くなる虞も生じてしまう。
【0008】
一方、特許文献2に記載された手段では、浴槽の湯水を排水する際に得られる水位センサからの出力値を利用して、湯張り制御グラフの基準点となる水圧を補正するようにしている。また、湯水温度の変化に起因して水位センサからの出力値に誤差が発生することを解消するための補正も行なうように構成されている。このような手段によれば、浴槽に湯水を供給する際の動圧や、温度条件の変化に起因する水位センサの検出誤差を少なくすることは可能であるものの、やはり通電ドリフトに起因する誤差を適切に解消することは難しい。なお、通電ドリフトに起因する水位検出の誤差は、温度変化に起因する水位検出の誤差と比較して相当に大きいのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3,305,861号公報
【特許文献2】特許第3,162,517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであって、水位センサの通電ドリフトに起因する誤差を適切に解消し、浴槽の水位を正確に判断することが可能な給湯装置を提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0012】
本発明により提供される給湯装置は、浴槽への湯張り動作の試運転が行なわれる際には、前記浴槽の水位が所定の水位以上となるように前記浴槽への湯水供給がなされ、この湯水供給量が基準供給量Q0として記憶されるとともに、この基準供給量Q0に相当する湯水供給がなされた時点において、水位センサを利用して検出される浴槽の水位が基準水位L0として記憶されるように構成され、前記試運転後の湯張り運転時においては、前記浴槽に前記基準供給量Q0だけ湯水が供給されたときに、前記水位センサを利用して計測されるセンサ計測水位Ldに基づいて、前記浴槽の水位Laが判断されるように構成されている、給湯装置であって、
La=Ld+Lc
の式に基づいて、前記浴槽の水位Laが求められる。
ただし、Lcは、通電ドリフト補正用の値であって、前記センサ計測水位Ldに関連する数値と、補正係数Kとを用いて求められ(ただし、Lc≧0であり、Lc<0のときには、Lc=0とする)、
前記通電ドリフト補正用の値Lcを求めるときには、前記センサ計測水位Ldに基づき前記浴槽の水位の推定暫定値Leが予め求められ、
前記補正係数Kとしては、L0≧Leの場合には、第1の補正係数K1が用いられる一
方、L0<Leの場合には、第2の補正係数K2が用いられ、これら第1および第2の補正係数K1,K2は、K1>K2の関係とされていることを特徴としている。
【0013】
このような構成によれば、センサ計測水位Ldを補正して浴槽の実際の水位Laを判断する場合に、L0≧Leの場合には、補正係数Kとして大きめの第1の補正係数K1が用いられ、その補正幅が大きくなる。L0<Leの場合には、補正係数Kとして第2の補正係数K2が用いられ、その補正幅は小さくなる。L0≧Leとなる現象は、水位センサの通電ドリフトが主要因であると考えられ、L0<Leとなる現象は、たとえば浴槽への残水があった場合など、通電ドリフトとは別の要因であると考えられる。このため、本発明によれば、水位センサの通電ドリフトを要因とする誤差については、前記補正処理によって適切に無くし、または少なくすることができる。その一方、水位センサの通電ドリフトとは別の事項を要因として、浴槽の水位の推定暫定値Leが基準水位L0を上回った際には、通電ドリフトの場合ほど大きな幅で補正がなされないこととなるために、実際の浴槽の水位の値として、実情に則した値とすることができる。このようなことから、浴槽の水位Laを正確な値とし、この水位Laに基づいて所望の目標水位またはこれに近い水位での浴槽への湯張り動作を適切に行なうことが可能となる。
【0014】
本発明において、好ましくは、前記浴槽の水位の推定暫定値Leは、
Le=Ld+Lc’
の式(ただし、Lc’は、前回の通電ドリフト補正用の値)に基づいて求められるように構成されている。
【0015】
このような構成によれば、浴槽の水位の推定暫定値Leとして、たとえばセンサ計測水位Ldの値をそのまま用いた場合よりも、その推定暫定値Leを実際の浴槽の水位に近い値とすることが可能となる。したがって、L0≧LeまたはL0<Leの条件にしたがって第1および第2の補正係数K1,K2のいずれかを選択する場合に、その選択を適正なものとする上で好ましい。
ただし、本発明において、浴槽の水位の推定暫定値Leとしては、前記構成とは異なり、たとえばLe=Ldとすることもできる。
【0016】
本発明において、好ましくは、前記通電ドリフト補正用の値Lcは、
Lc=Lc’+K{L0−(Ld+Lc’)}
の式に基づいて求められるように構成されている。
【0017】
このような構成によれば、いわゆる積分方式で通電ドリフト補正用の値Lcが求められている。水位センサの通電ドリフトに起因する計測水位の誤差は、時間の経過とともに拡大し、かつ一定の大きさで収束する傾向を示すため、積分方式を適合させ易く、補正用の値Lcを求めるための数式を簡易にしつつ、浴槽の水位Laを適正なものとすることができる。
【0018】
本発明において、好ましくは、前記補正係数Kは、前記水位センサへの通電時間が長くなるほど、その数値は小さくなり、かつ前記通電時間が所定以上になった以降は一定値である。
【0019】
このような構成によれば、補正係数Kを用いて算出される通電ドリフト補正用の値Lcを、水位センサの通電ドリフトに起因する計測水位の誤差の変化に的確に対応させた値とすることができる。
【0020】
本発明において、好ましくは、前記通電ドリフト補正用の値Lcは、
Lc=K(|L0−Ld|)
の式に基づいて求められ、前記補正係数Kは、前記水位センサへの通電時間が長くなるほど、その数値は大きくなり、かつ前記通電時間が所定以上になった以降は一定値である。
【0021】
前記したような構成によっても、浴槽の水位Laとして、水位センサの通電ドリフトに起因する誤差が適切に減じられた正確な値を得ることが可能である。
【0022】
本発明において、好ましくは、前記浴槽の水位Laを求めるときには、試運転時において前記浴槽に供給された湯水の温度または目標給湯温度と、今回の湯張り動作時において前記浴槽に供給された湯水の温度または目標給湯温度とに基づき、前記水位センサについての温度補償用の補正がさらに行なわれるように構成されている。
【0023】
このような構成によれば、温度補償用の補正がさらに行なわれるために、浴槽の水位をより正確に判断することが可能である。
【0024】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る給湯装置の一例を示す概略説明図である。
【図2】水位センサの通電ドリフトの特性の一例を示す説明図である。
【図3】補正係数Kの具体例を示す説明図である。
【図4】図1に示す給湯装置において試運転が行なわれる場合の制御部の動作処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図5】図1に示す給湯装置において試運転後の浴槽への湯張りが行なわれる場合の制御部の動作処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0027】
図1に示す給湯装置Aは、給湯装置本体部1、この給湯装置本体部1と浴槽4とを繋ぐ配管部35a,35b、およびリモコンRを具備している。
【0028】
給湯装置本体部1は、カラン6への給湯機能、浴槽4への自動湯張り機能、および風呂追い焚き機能を備えており、その基本的な構成自体は、従来既知のものと同様である。すなわち、この給湯装置本体部1は、ガスバーナ10a,10b、ファン11、熱交換器12a,12b、および制御部2を備えている。この給湯装置本体部1において、入水口30aに供給された水は配管部30を通過して熱交換器12aに供給されて加熱され、この加熱により生成された湯が配管部31,32を通過してカラン6に供給される。配管部31には、配管部34が分岐接続されており、この配管部34に設けられている開閉弁V1を開状態とした際には、配管部34,35aを介して浴槽4に湯水を供給することが可能である。
【0029】
浴槽4には、湯水循環路35が接続されている。この湯水循環路35は、浴槽4に取り付けられた循環アダプタ35d、配管部35a,35b、および熱交換器12bと配管部35a,35bとを繋ぐ内部配管部35cを具備している。この湯水循環路35に設けられている循環ポンプP1を駆動させることにより、浴槽4の湯水を汲み上げて熱交換器12bに供給し、かつこの湯水を加熱させてから浴槽4に戻す風呂追い焚き動作が可能である。湯水循環路35には、水位センサSa、水流センサSb、温度センサScが取り付けられている。
【0030】
水位センサSaは、たとえば半導体式圧力センサである。浴槽4の水位計測は、浴槽4の水位が循環アダプタ35dよりも高い状態の際に可能であり、湯水循環路35内に浴槽4の湯水を汲み上げて充満させてから、循環ポンプP1を停止させた状態において、湯水循環路35の圧力を検出することにより可能である。水位センサSaは、図2を参照して先に説明したのと同様な通電ドリフト現象を生じる。なお、水位センサSaへの通電は、たとえば給湯装置Aへの電源投入がなされている期間中は継続して行なわれるように構成されている。ただし、これに限定されるものではない。
【0031】
リモコンRは、通信線Lを介して制御部2との間でデータ通信が可能であり、表示部50や複数の操作スイッチ51a,51bを有している。このリモコンRでは、浴槽4への自動湯張り動作の条件として、湯張り温度に加え、目標水位Ltを設定することが可能である。目標水位Ltの設定は、たとえば表示部50に浴槽4の水位を示す画像が表示された状態において、水位アップまたはダウンを指示可能な操作スイッチ51aを操作して行なうことが可能である。
【0032】
制御部2は、マイクロコンピュータを用いて構成されており、予め記憶された制御プログラムや各種のデータ、およびリモコンRのスイッチ操作などに対応して給湯装置本体部1の各部の動作制御や種々のデータ処理を実行する。この制御部2は、浴槽4への湯張り(自動湯張り)動作を行なう場合に、浴槽4の水位を所望の目標水位Ltに正確に設定することができるように、試運転時および試運転後の湯張り動作時には、所定の制御を実行するように構成されている。その詳細については後述する。
【0033】
次に、前記した給湯装置Aの作用について説明する。併せて、制御部2の動作処理手順の一例について、図4および図5のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0034】
この給湯装置Aの試運転が行なわれる際には、制御部2が所定のデータを取得して記憶する学習が行なわれる。試運転時の基本的な動作制御自体は、従来技術と同様とすることができる。すなわち、まず浴槽4には湯水を所定量ずつ(たとえば10Lずつ)繰り返して供給する(S1)。このような湯水供給が行なわれる都度、制御部2は、循環ポンプP1を駆動させて、水流センサSbによって水流が検出されるか否かを判断する(S2)。浴槽4の水位が循環アダプタ35dよりも高い水位となって、湯水循環路35に湯水が循環すると、水流が検出される(S2:YES)。制御部2は、このような水流が検出されると、その後にさらに所定量(たとえば10L)の湯水を浴槽4に供給し(S3)、その供給を終えた時点での湯水供給量(総量)を、基準供給量Q0として記憶し、またその際に水位センサSaを利用して計測される浴槽の水位を基準水位L0として記憶する(S4)。また、湯水温度も記憶する。なお、前記したステップS3は、省略することが可能である。
【0035】
その後は、追加の湯水供給がなされ、制御部2は、水位センサSaを利用した水位検出を行なうことにより、浴槽4の面積や、所定の目標水位Ltまでの湯水量などを学習し、そのデータを記憶する(S5)。前記した試運転は、給湯装置Aの設置後において行なわれる他、給湯装置Aの電源がオフにされた後に再起動されたような場合にも行なわせることが可能である。もちろん、特定のスイッチ操作によって実行させるように構成することもできる。試運転が完了したか否かは、それ用のフラグを利用するなどして制御部2が判断可能である。湯張り動作を開始する際に、制御部2が試運転を完了していないと判断した場合には、前記した試運転のモードの湯張りがなされ、試運転が完了していると判断した場合には、通常のモードの湯張りがなされることとなる。
【0036】
前記した試運転後において、浴槽4への湯張りを行なう旨のスイッチ操作があると(S11:YES)、制御部2は、試運転後の湯張り動作の回数(運転回数)をカウントして
記憶し(S12)、湯張り動作を実行させる。湯張り動作の回数をカウントするのは、水位センサSaへの通電時間の長さを湯張り回数で判断し、通電時間の判断の簡素化を図っているからである。湯張り回数が多くなるほど、水位センサSaへの通電時間が長くなっているものと判断することが可能である。また、湯張り動作は、一般的には、24時間に1回程度の頻度で実行されるために、水位センサSaへの通電時間を湯張り回数で判断したとしても、余り大きな誤差はない。もちろん、本発明においては、水位センサSaへの通電時間をそのまま計測するように構成してもよい。この場合、通電時間の計測は、時分の単位でなくてもよく、たとえば日数単位でもよい。
【0037】
湯張り動作の実行に際しては、まず浴槽4に所定量以上の湯水が存在するか否かを確認する(S13)。この確認動作は、たとえば浴槽4に10L程度の湯水を供給してから循環ポンプP1を駆動し、水流センサSbによって水流が検出されるか否かにより行なうことが可能である。水流が検出されれば、浴槽4に湯水が存在すると判断される。この場合の動作制御は、本発明に余り関連するものではないが、たとえば浴槽4の水位が目標水位Ltに達しており、かつ湯水温度が低めであれば追い焚き動作を実行し、また目標水位Ltに達していない場合には、目標水位Ltまでの必要湯水量を浴槽4に供給するといった制御がなされる(S13:NO,S20)。
【0038】
前記とは異なり、浴槽4に所定量以上の湯水が存在しないと判断された場合には、制御部2は、試運転時に記憶した基準供給量Q0の湯水を浴槽4に供給し、その時点におけるセンサ計測水位Ldを検出する(S13:YES,S14)。また、制御部2は、温度センサScを利用して湯水温度も検出する(S15)。
【0039】
その後、制御部2は、センサ計測水位Ldを補正し、水位センサSaの通電ドリフトに起因する誤差を無くし、または少なくした浴槽4の水位Laを判断する。この場合、次のような式1〜式3を利用し、浴槽4の水位Laが算出される(S16)。
La=Ld+Lc …式1
Lc=Lc’+K{L0−(Ld+Lc’)} …式2
Le=Ld+Lc’ …式3
【0040】
式1および式2において、Lcは、通電ドリフト補正用の値であって、Lc≧0である。式2において、通電ドリフト補正用の値Lcが、Lc<0となった場合には、Lc=0が採用される。また、通電ドリフト補正用の値Lcとしては、一定の値(たとえば、150mm)を最大値Lcmaxとして設定しておき、Lc>Lcmaxとなった場合には、Lc=Lcmaxを採用することもできる。
式2において、Lc’は、前回の浴槽への湯張り動作時に求められた通電ドリフト補正用の値(前回の通電ドリフト補正用の値Lc)である。したがって、試運転後に初めて湯張りを行なう際には、Lc’=0である。
式2において、Kは、補正係数であるが、これについては後述する。
式3において、Leは、浴槽4に基準供給量Q0の湯水が供給された際における浴槽の水位の推定暫定値である。
【0041】
式2における補正係数Kとしては、第1および第2の補正係数K1,K2があり、これらは、後述するように、K1>K2の関係にある。基準水位L0と浴槽の水位の推定暫定値Leとの高さがどのような関係であるかに応じて、第1および第2の補正係数K1,K2のうち、いずれか一方が選択される。より具体的には、第1の補正係数K1は、L0≧Leの場合に用いられ、第2の補正係数K2は、L0<Leの場合に用いられる。
【0042】
第1および第2の補正係数K1,K2としては、たとえば図3に示すような値が採用される。
同図に示す第1の補正係数K1は、試運転後における浴槽への湯張り回数が多くなるに連れて、その値は、「1」「2/3」「1/2」「1/5」といったふうに小さくなる。ただし、11回目以降においては、「1/5」に固定されている。
第2の補正係数K2は、第1の補正係数K1と同様に、試運転後における浴槽への湯張り回数が多くなるに連れてその値は減少し、最終的には一定値に固定される。ただし、この第2の補正係数K2は、第1の補正係数K1が「1」の場合には「1/2」、第1の補正係数K1が「2/3」の場合には「1/4」といったふうに、常に、第1の補正係数K1よりも小さい値となるように設定されている。
【0043】
前記したような処理によれば、浴槽4の水位Laは、前記した式1に基づき、センサ計測水位Ldに通電ドリフト補正用の値Lcが加えられて算出される。したがって、水位センサSaの通電ドリフトに起因して水位センサSaによるセンサ計測水位Ldが本来の水位よりも低めとなる現象を生じても、前記した補正により、浴槽4の水位Laについての誤差、すなわち通電ドリフトに起因する誤差を無くし、または少なくすることができる。
【0044】
通電ドリフト補正用の値Lcは、式2に基づいて求められるが、L0≧Leの場合には、補正係数Kとして、大きめの第1の補正係数K1が用いられるために、この場合の補正幅は比較的大きなものとすることができる。これに対し、L0<Leの場合には、補正係数Kとして小さめの第2の補正係数K2が用いられるために、この場合の補正幅は比較的小さくなる。L0≧Leとなる現象は、水位センサの通電ドリフトが主要因であると考えられるが、L0<Leとなる現象は、たとえば浴槽への残水があったことに起因するなど、通電ドリフトに起因するものではなく、比較的特殊な事情に原因するものである。このため、このような場合には、センサ計測水位Ldを補正する際には慎重を期すべきである処、前記した処理では、補正幅が比較的小さくされるために、そのような事情に合致することとなる。
【0045】
前記した式2は、前回の通電ドリフト補正用の値Lc’が、今回の補正にも利用された積分方式とされている。また、補正係数K(第1および第2の補正係数K1,K2)は、図3に示したように、浴槽への湯張り回数が多くなるにしたがって順次小さくなり、最終的には一定の値に固定されている。このようなことから、前記の式2に基づいて得られる通電ドリフト補正用の値Lcは、図2に示した水位センサSaの通電ドリフトの特性に合致した適正なものとなる。また、浴槽の水位の推定暫定値Leについては、式3に基づいて求められており、センサ計測水位Ldに前回の通電ドリフト補正用の値Lc’を加えて補正したものとしているために、センサ計測水位Ldをそのまま推定暫定値Leとして用いる場合と比較すると、推定暫定値Leを実際の浴槽の水位に近い値とすることが可能となる。したがって、L0≧LeまたはL0<Leの条件にしたがって第1および第2の補正係数K1,K2のいずれかを選択する場合に、その選択を適正なものとする上でより好ましいものとなる。ただし、推定暫定値Leを、Le=Ldとしてもかまわないことは先に述べたとおりである。
【0046】
制御部2は、前記のようにして浴槽4の水位Laを算出した後には、この水位Laに対し、水位センサSaの温度補償用の補正をさらに行なう(S17)。この補正は、試運転時の湯水温度と今回の湯張り動作時の湯水温度に基づいて行なわれる。より具体的には、制御部2は、水位センサSaについての温度と出力値との相関関係についてのデータを記憶しており、このデータと前記した2種類の湯水温度とを照合することにより、温度補償用の補正値αを求める。この補正値αは、正、負、ゼロのいずれにもなり得る。補正値αを求めるのに利用される湯水温度は、温度センサScを利用して検出される実際の湯水温度に代えて、リモコンRで設定される目標給湯温度とすることもできる。このような温度補償用の補正がなされる場合、浴槽の水位La’は、La’=La+αで求めればよい。通電ドリフト補正に加えて、温度補償用の補正がさらに行なわれれば、浴槽の水位として
、より適正な値を得ることが可能である。
【0047】
制御部2は、前記のようにして浴槽の水位La’を算出した後には、この水位La’に基づき、目標水位Ltまでの追加の湯水供給量Q1を算出し、かつこの算出した量だけ浴槽4に追加の湯水供給を実行させる(S18,S19)。本実施形態では、既述したように、浴槽の水位La’として適正な値が得られるために、浴槽4への湯張りを目標水位Ltとなるように的確に行なうことが可能である。
【0048】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係る給湯装置の各部の具体的な構成は、本発明が意図する範囲内において種々に設計変更自在である。
【0049】
本発明においては、La=Ld+Lc の式1に基づいて、浴槽4の水位を求める場合に、通電ドリフト補正用の値Lcを、次の式4に基づいて求めることもできる。
Lc=K(|L0−Ld|) …式4
ここで、補正係数Kとしては、L0≧Leの場合には第1の補正係数K1が用いられる一方、L0<Leの場合には第2の補正係数K2が用いられ、K1>K2である点は、上述した実施形態の場合と同様である。また、通電ドリフト補正用の値Lcは、一定の値(たとえば150mm)を最大値Lcmaxとして設定しておき、Lc>Lcmaxとなった場合には、Lc=Lcmaxを採用することが可能な点も、上述した実施形態と同様である。なお、式4においては、前述した式2の場合とは異なり、前回の湯張り時の通電ドリフト補正用の値Lc’が用いられておらず、積分方式ではない。このため、第1および第2の補正係数K1,K2については、水位センサへの通電時間が長くなるに連れてその値を徐々に大きくしていき、所定時間に達した時点で一定の値に固定されるものとされる。
【0050】
本発明では、補正係数K(第1および第2の補正係数K1,K2)の具体的な値は問わない。ただし、K1>K2の関係は維持する必要がある。水位センサの温度補償用の補正は、行われることが好ましいものの、行なわれない構成とすることもできる。また、浴槽の水位を求める場合に、温度補償用の補正とは異なる種類の補正を、さらに追加で行なってもかまわない。
【0051】
本発明でいう「試運転」は、給湯装置の設置直後の運転動作のみを指称するものでないことは既述したとおりであり、運転の具体的な時期は問わない。基準供給量Q0や基準水位L0などのデータを取得して記憶するための処理を伴う運転であれば、本発明でいう試運転に該当する。
【0052】
本発明に係る給湯装置は、ガス給湯装置などのいわゆる瞬間式のものに代えて、たとえば貯湯タンクを備えた貯湯式の給湯装置とすることもできることは言う迄もない。
【符号の説明】
【0053】
A 給湯装置
Sa 水位センサ
Sc 温度センサ
L0 基準水位
Lc 補正用の値
La 浴槽の水位(基準供給量の湯水が浴槽に供給されたときの)
Ld センサ計測水位
Le 浴槽の水位の推定暫定値
Lt 目標水位
K 補正係数
K1,K2 第1および第2の補正係数(補正係数Kとしての)
Q0 基準供給量
Q1 追加の湯水供給量
2 制御部
4 浴槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴槽への湯張り動作の試運転が行なわれる際には、前記浴槽の水位が所定の水位以上となるように前記浴槽への湯水供給がなされ、この湯水供給量が基準供給量Q0として記憶されるとともに、この基準供給量Q0に相当する湯水供給がなされた時点において、水位センサを利用して検出される浴槽の水位が基準水位L0として記憶されるように構成され、
前記試運転後の湯張り運転時においては、前記浴槽に前記基準供給量Q0だけ湯水が供給されたときに、前記水位センサを利用して計測されるセンサ計測水位Ldに基づいて、前記浴槽の水位Laが判断されるように構成されている、給湯装置であって、
La=Ld+Lc
の式に基づいて、前記浴槽の水位Laが求められ、
ただし、Lcは、通電ドリフト補正用の値であって、前記センサ計測水位Ldに関連する数値と、補正係数Kとを用いて求められ(ただし、Lc≧0であり、Lc<0のときには、Lc=0とする)、
前記通電ドリフト補正用の値Lcを求めるときには、前記センサ計測水位Ldに基づき前記浴槽の水位の推定暫定値Leが予め求められ、
前記補正係数Kとしては、L0≧Leの場合には、第1の補正係数K1が用いられる一方、L0<Leの場合には、第2の補正係数K2が用いられ、これら第1および第2の補正係数K1,K2は、K1>K2の関係とされていることを特徴とする、給湯装置。
【請求項2】
請求項1に記載の給湯装置であって、
前記浴槽の水位の推定暫定値Leは、
Le=Ld+Lc’
の式(ただし、Lc’は、前回の通電ドリフト補正用の値)に基づいて求められるように構成されている、給湯装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の給湯装置であって、
前記通電ドリフト補正用の値Lcは、
Lc=Lc’+K{L0−(Ld+Lc’)}
の式に基づいて求められるように構成されている、給湯装置。
【請求項4】
請求項3に記載の給湯装置であって、
前記補正係数Kは、前記水位センサへの通電時間が長くなるほど、その数値は小さくなり、かつ前記通電時間が所定以上になった以降は一定値である、給湯装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の給湯装置であって、
前記通電ドリフト補正用の値Lcは、
Lc=K(|L0−Ld|)
の式に基づいて求められ、前記補正係数Kは、前記水位センサへの通電時間が長くなるほど、その数値は大きくなり、かつ前記通電時間が所定以上になった以降は一定値である、給湯装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の給湯装置であって、
前記浴槽の水位Laを求めるときには、試運転時において前記浴槽に供給された湯水の温度または目標給湯温度と、今回の湯張り動作時において前記浴槽に供給された湯水の温度または目標給湯温度とに基づき、前記水位センサについての温度補償用の補正がさらに行なわれるように構成されている、給湯装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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