説明

給紙装置および画像形成装置

【課題】多用なシート材種においても環境変動や経時変動に対して安定して分離動作を行うことができる給紙装置および画像形成装置を提供すること。
【解決手段】分離部7が、給紙トレイ16に積載されたシート束6から最上部のシート6aを摩擦力により分離する摩擦分離部13と、給紙トレイ16に積載されたシート束6から最上部のシート6aを不平等電界による吸着力で分離する静電吸着分離部14と、摩擦分離部13および静電吸着分離部14のシート搬送方向下流に配置され、摩擦分離部13または静電吸着分離部14の少なくとも一方により分離されたシート6aを搬送する搬送ローラ対8と、を有し、摩擦分離部13と静電吸着分離部14とをシート搬送方向に直交する方向の投影面が重なるように配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給紙装置および画像形成装置に関し、より詳しくは、摩擦力によりシートの分離を行う摩擦分離手段と静電吸着力によりシートの分離を行う静電吸着分離手段を備えた給紙装置およびこの給紙装置を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真複写機、ファクシミリ、プリンタ等の画像形成装置に搭載され記録紙や原稿等のシートを給紙する給紙装置としては、ゴム等の高摩擦係数を有する材料でローラやベルトとして形成された摩擦部材によりシート束から1枚のシートを分離する摩擦分離方式が広く採用されてきた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
摩擦分離方式は構成が簡単であるが、大きな摩擦力を得るためにバネ等により摩擦部材をシート面に圧接させる必要があり、また、ゴム等の高摩擦係数を有する摩擦部材は経時的または環境により表面の摩擦係数が変化するため給紙性能の安定性に欠けるという問題があった。特に給紙装置が搭載される画像形成装置がプリンタである場合は、ユーザーの多様化により、普通紙だけではなくコート紙やラベル紙など様々な機能のシートが用いられてきており、その数および種類が増加傾向にあり、表面の摩擦係数が極端に小さいシート、温度により摩擦力が変化するシート、積載されたシート同士が吸湿状態により密着した状態等の場合には、従来の摩擦分離方式だけでは分離が難しい場合があった。
【0004】
また、摩擦による分離が難しいシートでも、空気の吸引により負圧部を作りシートを吸着して搬送するエア吸引方式により解決することが可能な場合もあるが、エア吸引方式は摩擦分離方式と比べて給紙性能は安定しているが、エア吸引時の騒音が大きく、装置も大型化し、更にコストも掛かるために、一般的な事務所等で使用する機器としては難点があった。
【0005】
また、積層されたシート束の進行方向端面に対向する方向からエアを吹き付けてシートをさばき、最上部のシートを摩擦ローラにより分離搬送する方式もあるが、騒音、装置の大きさ、コスト等においてエア吸引方式と同様の問題があった。
【0006】
また、積載されたシート束の上面に対設され給紙方向に移動する無端誘電体ベルトと、無端誘電体ベルトの表面に交番する電圧を印加して交番する電荷パターンを形成する帯電部材と、無端誘電体ベルトを除電する除電部材とを有し、無端誘電体ベルト上の帯電電荷によって発生する電界により吸着力を発生させることにより、シート束から最上部のシートを分離して給紙方向へ移動させる静電吸着分離方式を採用した給紙装置が知られている(例えば、特許文献2〜4参照)。なお、特許文献2、3には、正と負の2つの櫛歯状の電極を一定のギャップを設けて交互に噛み合わせて、電極間の電界により発生する吸着力により、シート束から最上部のシートを分離して給紙方向へ移動させることが開示されている。
【0007】
無端誘電体ベルト上に発生する電界をシートに作用させて吸着力を発生させる上記の方式の場合、環境条件やシートの抵抗値などにより分離および搬送に必要な吸着力を発生させることができずにシートの不送りが発生してしまったり、無端誘電体ベルトとシートが接触してから一定時間は最上部のシートだけではなくその下の複数のシートにも電界による吸着力が作用するためシートの重送が発生してしまうため、これらを防止するために、無端誘電体ベルトとシートを接触させてから一定時間後に分離動作を行ったり、シートの物性値を測定した後にその測定値に応じて無端誘電体ベルト上に印加する電荷量と電荷間の距離と吸着時間の3つを制御したり、無端誘電体ベルトに重送阻止部材を圧接させて重送を防止するようにした技術も知られている。
【特許文献1】特開2000−85999号公報
【特許文献2】特許3159727号公報
【特許文献3】特開平4−350031号公報
【特許文献4】特開2002−211777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、無端誘電体ベルトとシートを接触させてから一定時間後に分離動作を行う従来の給紙装置は、分離動作を高速化することができないという問題があった。
【0009】
また、分離対象のシート物性値に基づいて無端誘電体ベルトの電荷状態等を制御する従来の給紙装置は、シートを分離してから物性値を測定する必要があり、1枚目のシートに対しては物性値の測定および無端誘電体ベルトの電荷状態等の制御を行うことができず、また、物性の異なるシートが混載されている場合には適用できないという問題があった。
【0010】
また、無端誘電体ベルトに重送措置部材を圧接させる従来の給紙装置は、複数枚目のシート先端にも電界による吸着力が発生している状態のため、重送阻止部材で確実にシートを分離することは、幅広い条件を考慮すると困難であるという問題があった。
【0011】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、多用なシート材種においても環境変動や経時変動に対して安定して分離動作を行うことができる給紙装置および画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る給紙装置は、複数枚のシートを積載する給紙トレイと、前記給紙トレイ上の複数枚のシートから1枚のシートを分離して搬送する分離部と、を備えた給紙装置において、前記分離部が、前記給紙トレイに積載された複数枚のシートから最上部のシートを摩擦力により分離する摩擦分離手段と、前記給紙トレイに積載された複数枚のシートから最上部のシートを不平等電界による吸着力で分離する静電吸着分離手段と、前記摩擦分離手段および前記静電吸着分離手段のシート搬送方向下流に配置され、前記摩擦分離手段または前記静電吸着分離手段の少なくとも一方により分離されたシートを搬送する搬送手段と、を有し、前記摩擦分離手段と前記静電吸着分離手段とを前記搬送手段によるシート搬送方向に直交する方向の投影面が重なるように配置したことを特徴とする。
【0013】
この構成により、シートに対する分離作用が異なる摩擦分離手段と静電吸着分離手段とを搬送手段によるシート搬送方向に直交する方向の投影面が重なるように配置したので、分離対象とするシートに摩擦分離手段と吸着分離手段とが同時に作用し、摩擦分離手段と静電吸着分離手段とが双方の苦手とする条件を互いに補いながら確実にシートを分離することができる。したがって、多用なシート材種においても環境変動や経時変動に対して安定して分離動作を行うことができる。
【0014】
また、摩擦分離手段と静電吸着分離手段とを搬送手段によるシート搬送方向に直交する方向の投影面が重なるように配置したので、摩擦分離手段および静電吸着分離手段と搬送手段との位置関係を、摩擦分離手段のみを備える従来の給紙装置と同等にすることができ、摩擦分離手段と静電吸着分離手段とを同時に備えることにより装置が大型化することを防止することができる。
【0015】
また、本発明に係る給紙装置は、前記給紙トレイに積載されたシートを前記摩擦分離手段に押圧する第1の押圧手段と、前記給紙トレイに積載されたシートを前記静電吸着分離手段に押圧する第2の押圧手段と、を有し、前記第1の押圧手段と前記第2の押圧手段が互いに異なる押圧力を発生することを特徴とする。
【0016】
この構成により、第1の押圧手段と第2の押圧手段により、摩擦分離手段と静電吸着分離手段にそれぞれ適切な押圧力を与えることができるので、摩擦分離手段と静電吸着分離手段は安定してシートの分離および搬送を行うことができる。
【0017】
また、本発明に係る給紙装置は、前記摩擦分離手段が、前記給紙トレイに積載された複数枚のシートのうち最上部のシートを吸着して搬送するベルトと、前記複数枚のシートの最上部のシート以外のシートが前記ベルトにより搬送されることを阻止する重送阻止部材と、前記重送阻止部材を前記ベルトに向って付勢する付勢手段と、前記付勢手段による付勢力を変更する付勢力変更手段と、を有することを特徴とする。
【0018】
この構成により、ベルトの吸着力が給紙トレイ上の最上部のシート以外のシートに作用しても重送阻止部材がシートの重送を阻止するため、最上部のシート以外のシートに吸着力が作用しなくなるまで時間を消費する必要がなくなるので、摩擦分離手段によるシートの分離と搬送を高速に行うことができる。
【0019】
また、本発明に係る画像形成装置は、上記の給紙装置を備えたことを特徴とする。
【0020】
この構成により、上記の給紙装置を備えた画像形成装置においても、多用なシート材種を用いても環境変動や経時変動に対して安定して分離動作を行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、多用なシート材種においても環境変動や経時変動に対して安定して分離動作を行うことができる給紙装置および画像形成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態に係る給紙装置およびこの給紙装置を備えた画像形成装置の概略構成図である。図2は、本発明の実施の形態に係る給紙装置の構成を示す斜視図である。図3は、本発明の実施の形態に係る給紙装置の分離部を示す斜視図である。図4は、本発明の実施の形態に係る給紙装置の静電吸着分離部を示す斜視図である。図5〜図7は、本発明の実施の形態に係る給紙装置の静電吸着分離部を示す側面図である。図8(a)〜(d)は、本発明の実施の形態に係る給紙装置の帯電および除電のための電圧波形の例を示す図である。図9は、本発明の実施の形態に係る給紙装置の静電吸着分離部を示す側面図である。図10は、本発明の実施の形態に係る給紙装置の静電吸着分離部を示す側面図である。図11は、本発明の実施の形態に係る給紙装置の静電吸着分離部の他の例を示す斜視図である。図12は、本発明の実施の形態に係る給紙装置の底板を示す斜視図である。なお、画像形成装置は、複写機、ファクシミリ装置、複写機能とファクシミリ機能等を備えた複合機等の機能を有するものである。
【0024】
まず、構成について説明する。
【0025】
図1に示すように、複写機として構成された画像形成装置1は、原稿を読取る原稿読取部2と、給紙部4から給紙されたシート(記録紙)6aに対し原稿読取部2が読取った画像を形成する画像形成部3と、画像形成部3にシート6aを給紙する給紙部4とを備えている。なお、本実施の形態の画像形成装置では、画像形成部3と給紙部4とは分割可能となっている。
【0026】
給紙部4には、給紙装置5が配置されており、給紙装置5は、給紙トレイ16(図2参照)内に積層されて配置されたシート束6(複数のシート)の最上面に当接し、シート束6から最上部の1枚のシート6aを分離して搬送方向下流側に給紙する分離部7を備えている。シート6aは、分離部7により分離されて搬送路50内に移送される。搬送路50内に移送されたシート6aは、搬送ローラ対8により移送され、転写装置9において画像形成部3で形成されたトナー画像が転写され、このトナー画像が定着器10において熱転写され、排紙ローラ対11により排紙トレイ12に排出される。なお、画像形成装置1は、上述した電子写真方式の他、例えばインクジェット方式等の他の方式を採用してもよく、また、複写機として構成する他に、ファクシミリ装置、印刷機または複合機として構成してもよい。
【0027】
図2、図3に示すように、給紙装置5は、シート束6を積載する給紙トレイ16を有するとともに、分離部7として摩擦分離部13と静電吸着分離部14とを備える。摩擦分離部13と静電吸着分離部14は、分離されたシート6aの搬送方向に直交する方向の投影面が重なるように配置されており、シート6aに対して摩擦分離部13と静電吸着分離部14とが同時に分離動作を行うようになっている。すなわち、摩擦分離部13と静電吸着分離部14は、矢印で示す搬送方向と直交する方向(シート6aの幅方向)に並列に配置されている。なお、図2では、摩擦分離部13が2つ、静電吸着分離部14が1つ配置されているが、摩擦分離部13と静電吸着分離部14の数はこれに限定されるものではなく、例えば、摩擦分離部13が1つ、静電吸着分離部14が2つ配置されていてもよい。すなわち、摩擦分離部13と静電吸着分離部14とが少なくともそれぞれ1つ配置されていればよい。
【0028】
図2では、摩擦分離部13における実施例として、重送阻止部材31a、31cを使用し、シート6a、送りローラ34、重送阻止部材31a、31cの摩擦差を利用してシート束6からシート6aを分離するフリクションパット分離方式を例に挙げているが、これに限定されるものではなく、摩擦分離部13がいわゆる戻し分離方式の構成を有していてもよい。
【0029】
図4に示すように、静電吸着分離部14は、駆動ローラ17と従動ローラ18とに巻掛けられた誘電体からなる無端状のベルト19を備えている。ベルト19は10Ω・cm以上の抵抗を有する誘電体、例えば、厚さ100μm程度のポリエチレンテレフタレート等のフィルムで構成されている。また、ベルト19には、ベルト19とともに従動するローラ状の帯電電極21が接している。
【0030】
図5に示すように、ベルト19は、抵抗が10Ω・cm以上の誘電体からなる表層19aと、抵抗が10Ω・cm以下の導体からなる裏層19bとを有する2層構造となっている。帯電電極21は、ベルト19の裏層19bを接地された対向電極として使用しているため、ベルト19の表層19aに接した位置であればどこに設けてもよい。またシート束6の位置もベルト19に対して吸着面積を充分に取れる位置に設定されている。
【0031】
駆動ローラ17の表面は、抵抗値が10Ω・cm程度の導電性ゴム層から構成され、従動ローラ18の表面は金属から構成されている。駆動ローラ17および従動ローラ18は接地されている。駆動ローラ17は、ベルト19からシート6aを曲率により分離するのに適した小径となっている。すなわち、駆動ローラ17の径を小さく設定して曲率を大きくすることにより、ベルト19に吸着されて分離および搬送されたシート6aが、駆動ローラ17から離れて搬送方向下流側のガイド部材26により形成される搬送路50に入ることができるようになっている。
【0032】
帯電電極21は、本実施の形態では、ベルト19が駆動ローラ17に巻回された位置の近くでベルト19に接するように配置されている。帯電電極21は、交流を発生する帯電電源24に接続されている。帯電電極21のベルト19の回転方向上流側で、かつ、シート束6とベルト19の分離位置より下流側には、交番電源である除電電源25に接続された除電電極22がベルト19に当接又は近接して設置されている。帯電電源24および除電電源25は、搬送ローラ対8にシート6aの先端が当接する位置でベルト19上の吸着力が除去されているように制御される。なお、除電電極22は必ずしも必要ではないため省略することができる。以下、除電電極22を備えないものとして説明を行う。
【0033】
図6に示すように、ベルト19は、駆動ローラ17を軸として、押上部材27bに押上げられた底板28上のシート束6のうち最上部のシート6aの上面前端部に位置し、シート6aと接触可能に配置される。底板28は回動支点28dを支点として押上部材27bにより回動するように他端を持ち上げることによりシート6aをベルト19に付勢するようになっている。また、ベルト19、駆動ローラ17および従動ローラ18は、底板28の傾斜変化に応じて姿勢が変更できるように支持されている。
【0034】
図7に示すように、底板28は、ラック&ピニオン形式のシート押上部29bにより平行を保ったまま上下に移動するように構成してもよく、その場合、ベルト19、駆動ローラ17および従動ローラ18は、給紙装置5内に位置が固定された状態としてもよい。また、給紙装置5は、最上部のシート6aの上下方向の位置を検知するセンサ30を備えており、ベルト19とシート6aとの間隔や接触圧を適正に制御することが可能となっている。
【0035】
このように構成された給紙装置5においては、給紙信号により図示しない電磁クラッチが入り、駆動ローラ17が回転駆動され、周動を開始したベルト19には、帯電電極21を介して帯電電源24より交番電圧が印加され、ベルト19の表面には交流電源周波数とベルト19の周動速度に応じたピッチ(ピッチは4mm〜15mm程度とするのがよい)で交番する電荷パターンが形成される。帯電電源24は交流の他直流を高低交互の電位に変化させたものでもよく、本実施の形態ではベルト19の表面に対して4KVの振幅を持った交流を印加している。
【0036】
図8(a)に示すように、電圧を制御して帯電および除電を行うことができ、印加電圧を低くすることによって、ベルト19上の電荷パターンを除去する。また、図8(b)は、電源周波数を高くすることによって、ベルト19上に形成する電荷パターンのピッチを細かくすることで、ベルト19のMaxwellの応力に基づく吸着力を低減させる例である。これらは直流電源を交番させた方形波であるが、図8(c)、(d)に示すように、交流を用いる場合も同様である。
【0037】
電荷パターンが形成されたベルト19は、従動ローラ18に巻回された位置で最上部のシート6aの上面前端部に当接しているので、誘電体であるシート6aにはベルト19の表面の電荷パターンにより形成される不平等電界により、Maxwellの応力が働き、最上部のシート6aのみがベルト19に吸着、保持および搬送された後、ベルト19から曲率により分離され、搬送方向へ繰り出され、ガイド部材26に形成された搬送路50を通って搬送ローラ対8により画像形成部3に搬送される。
【0038】
電荷パターンによる吸着力は吸着した瞬間からある一定時間は、最上部のシート6a以外にも作用するが、一定時間経過した後には最上部のシート6aにしか作用せず、2枚目のシート6b以下には作用しない。すなわち、十分に時間をおくことで、重送阻止部材31bを備えていなくてもシート束6から最上部のシート6aを分離することができる。しかし、この場合、給紙速度を遅らせることになり生産性の悪化を招いてしまう。よって、図9に示すように、2枚目のシート6bの進行を阻止する重送阻止部材31bをベルト19に当接させるように配置することが望ましい。搬送ローラ対8とベルト19の線速は同一にされており、搬送ローラ対8がタイミングを取って間欠駆動されているような場合はベルト19も間欠駆動されるように制御される。
【0039】
ベルト19はシート6aの後端が従動ローラ18の対向位置に達する前に2枚目のシート6bがベルト19に吸着されないようにしている。また、駆動ローラ17の部分でのベルト19からの用紙の分離は曲率分離によるが、分離を一層確実にするために図10に示すように分離爪32を設けてもよい。シート6aは、搬送ローラ対8に挟持された後はベルト19の影響を受けることなく、搬送ローラ対8の搬送力のみによって搬送される。また、紙粉やその他のごみが静電吸着分離部14の吸着動作に悪影響を与えることを防止するため、ベルト19は、図示しないクリーニング機構を有している。また、上記の説明では、ベルト19にローラ状の電極で電荷を与えてベルト19上に電界を発生させるようになっているが、ベルト19に電荷を与える方法はこれに限定されるものではなく、板状のプレート(金属製や樹脂製)やブラシ状電極をベルト19に接触させるようにしてもよく、また、のこぎり歯状電極をベルト19から微小距離だけ離した状態で配置してもよい。
【0040】
図11に示すように、正と負の2つの櫛歯状の電極40を、ベルト19の移動方向と直交する方向で向い合うようにベルト19上に配置してもよい。ベルト19の両端には、それぞれパターンを露出した被給電部41があり、この被給電部41を通して、正と負の高圧電源42によって電極40に正または負の電圧を印加することにより電界が発生し、シート6aを吸着する力が発生する。
【0041】
駆動軸33には、図示しない駆動源との間に図示しないクラッチが設けられており、シート6aが搬送ローラ対8に到達した後には、駆動が遮断され回転自由となり、分離部7により生じる駆動源の負荷が低減されるようになっている。
【0042】
また、静電吸着分離部14のベルト19に電荷を与えたり除電したりする場合、ベルト19を回転させる必要があり、その際、摩擦分離部13も同時に回転してしまうと、最上部のシート6aは、底板28により押圧され、送りローラ34と密着しているため移動してしまい、不具合を起こすことが考えられる。よって、摩擦分離部13の送りローラ34と駆動軸33の間には、駆動の連結と切断が任意で制御できるように、電磁クラッチ等が設けられている。
【0043】
さらに、摩擦分離部13の送りローラ34と静電吸着分離部14の駆動ローラ17との回転周速が異なる場合には、同一シート内の主走査位置により、線速の違いが生じ、シート6aの斜行や、しわ、破れが発生する恐れがある。よって、摩擦分離部13の送りローラ34と静電吸着分離部14のベルト19は、それぞれ同一の線速にする必要がある。例えば、送りローラ34とベルト19に同一駆動源を用いた場合は、送りローラ34とベルト19とが同一線速になるよう、これらの径を同一にしたり、減速等を行うことが必要である。
【0044】
ここで、摩擦分離部13と静電吸着分離部14の制御方法に関して説明する。静電吸着分離部14が採用する静電吸着分離方式は、シート6aの電気抵抗が高い場合に、必要とする吸着力を得るのに時間が掛かるといったことや、2枚目のシート6b以下に作用する吸着力が減少するのに時間が掛かるといった問題があり、シート6aの電気抵抗が低い場合に、吸着力が小さいなどの問題がある。
【0045】
また、摩擦分離部13が採用する摩擦分離方式は、シート6aの摩擦係数が小さい場合や、シート同士の密着力が強い場合に、不送りや重送などの問題が発生するという問題がある。すなわち、摩擦分離部13と静電吸着分離部14には、互いに異なる弱点が存在する。したがって、摩擦分離部13と静電吸着分離部14がシート6aに同時に作用させることにより、幅広い環境やシート6aの材質等の条件に対して、極めて安定かつ確実な分離動作を行うことができる。
【0046】
ここで、環境条件の検知は、例えば、温湿度計を給紙装置5に内蔵させることで実現できる。また、シート6aの材質に関する情報の取得は、図示しない操作部からユーザが入力操作または選択操作を行うことにより実現できる。
【0047】
本実施の形態の給紙装置5では、静電吸着分離部14は、ベルト19に帯電を行わない場合は吸着力が発生しないため、ベルト19に帯電をさせないで摩擦分離部13のみを使用すれば、従来の摩擦分離方式のみを用いることができる。
【0048】
また、摩擦分離部13と静電吸着分離部14とでは、必要とする給紙圧(シート6aと送りローラ34の密着力、およびシート6aとベルト19の密着力)が異なる。静電吸着分離部14に関しては、静電気力で吸着力が発生するのでシート6aをベルト19に押し当てる力は無くても問題ない。よって、静電吸着分離部14に与える給紙圧は、シート6aをベルト19に近づけるだけの力でよい。一方、摩擦分離部13では、シート6aの給紙圧により摩擦力を発生させて搬送力を得ているので、ある程度の圧力を加える必要がある。そこで、図12に示すように、底板28を、静電吸着分離部用底板28bと、摩擦分離部用底板28a、28cとに分割して、静電吸着分離部用底板28bと、摩擦分離部用底板28a、28cとにそれぞれ異なる上方への押上力を与えることにより、摩擦分離部13と静電吸着分離部14とで異なった給紙圧を得ることができる。給紙圧は、例えば、バネにより発生させるとともにバネをソレノイド等で引きこむことにより解除したり、偏心カムにより無段階の変更および解除をすることができる。静電吸着分離部14だけを用いる場合には、摩擦分離部13の給紙圧を解除し、シート6aに対して、摩擦分離部13での搬送力が生じないようにすることが可能である。
【0049】
また、静電吸着分離部14と摩擦分離部13に付勢される重送阻止部材31a、31b、31cの押圧(分離圧)は独立して変更できるようになっており、摩擦分離部13だけを用いる場合は、静電吸着分離部14に付勢される重送阻止部材31bの押圧(分離圧)を解除し、静電吸着分離部14だけを用いる場合は、摩擦分離部13に付勢される重送阻止部材31a、31cの押圧(分離圧)を解除することで、不要な分離圧を生じさせないようにすることができる。例えば、図9に示すように、静電吸着分離部14の重送阻止部材31bはバネ55bによりベルト19に付勢され、バネ55bは偏心カム56bにより圧縮されているが、これと同様の機構を摩擦分離部13の重送阻止部材31a、31cが備えることにより、重送阻止部材31a、31b、31cの押圧(分離圧)を独立して変更することができる。なお、摩擦分離部13または静電吸着分離部14の何れかにおいて分離圧を解除したときは同じ分離部の給紙圧も解除することにより、更なる性能の向上が可能である。
【0050】
次に動作を説明する。
【0051】
図示しない駆動源と連結された駆動軸33が回転することで、摩擦分離部13の送りローラ34と静電吸着分離部14の駆動ローラ17が回転する。摩擦分離部13では、最上部のシート6aと送りローラ34との摩擦力により、最上部のシート6aが搬送方向に移動する。また、静電吸着分離部14でも、最上部のシート6aをベルト19により吸着して搬送方向に搬送する。なお、2枚目のシート6b以下は、摩擦分離部13および静電吸着分離部14によりシート6aと同時に搬送しそうになっても、重送阻止部材31a、31b、31cにより移動が制限される。このため、最上部のシート6aのみが、搬送ローラ対8に搬送される。
【0052】
以上のように、本実施の形態に係る給紙装置5は、分離部7が、給紙トレイ16に積載されたシート束6から最上部のシート6aを摩擦力により分離する摩擦分離部13と、給紙トレイ16に積載されたシート束6から最上部のシート6aを不平等電界による吸着力で分離する静電吸着分離部14と、摩擦分離部13および静電吸着分離部14のシート搬送方向下流に配置され、摩擦分離部13または静電吸着分離部14の少なくとも一方により分離されたシート6aを搬送する搬送ローラ対8と、を有し、摩擦分離部13と静電吸着分離部14とを搬送ローラ対8によるシート搬送方向に直交する方向の投影面が重なるように配置している。
【0053】
このため、シート6aに対する分離作用が異なる摩擦分離部13と静電吸着分離部14とを搬送ローラ対8によるシート搬送方向に直交する方向の投影面が重なるように配置したので、分離対象とするシート6aに摩擦分離部13と静電吸着分離部14とが同時に作用し、摩擦分離部13だけでは確実な分離を行うことができない条件(環境や紙種等)においては、静電吸着分離部14が主体となって分離を行い、静電吸着分離部14だけでは確実分離を行うことができない条件では、摩擦分離部13が主体となって分離を行うので、摩擦分離部13と静電吸着分離部14とが双方の苦手とする条件を互いに補いながら確実にシート6aを分離することができる。したがって、多用なシート材種においても環境変動や経時変動に対して安定して分離動作を行うことができる。
【0054】
また、摩擦分離部13と静電吸着分離部14とを搬送ローラ対8によるシート搬送方向に直交する方向の投影面が重なるように配置したので、摩擦分離部13および静電吸着分離部14と搬送ローラ対8との位置関係を、摩擦分離手段のみを備える従来の給紙装置と同等にすることができ、摩擦分離部13と静電吸着分離部14とを同時に備えることにより装置が大型化することを防止することができる。
【0055】
また、本実施の形態に係る給紙装置5は、給紙トレイ16に積載されたシート束6を摩擦分離部13に押圧する押上部材27a、27cまたはシート押上部29a、29cと、給紙トレイ16に積載されたシート束6を静電吸着分離部14に押圧する押上部材27bまたはシート押上部29bと、を有し、押上部材27a、27cまたはシート押上部29a、29cと、押上部材27bまたはシート押上部29bとが互いに異なる押圧力を発生するよう構成されている。
【0056】
この構成により、押上部材27a、27b、27cまたはシート押上部29a、29b、29cにより、摩擦分離部13と静電吸着分離部14にそれぞれ適切な押圧力を与えることができるので、摩擦分離部13と静電吸着分離部14は安定してシート6aの分離および搬送を行うことができる。
【0057】
また、本実施の形態に係る給紙装置5は、摩擦分離部13が、給紙トレイ16に積載されたシート束6のうち最上部のシート6aを吸着して搬送するベルト19と、シート束6の最上部のシート6a以外がベルト19により搬送されることを阻止する重送阻止部材31bと、重送阻止部材31bをベルト19に向って付勢するバネ55bと、バネ55bによる付勢力を変更する偏心カム56bと、を有する。
【0058】
この構成により、ベルト19の吸着力が給紙トレイ16上のシート束6の最上部のシート6a以外に作用しても重送阻止部材31bが重送を阻止するため、最上部のシート6a以外に吸着力が作用しなくなるまで時間を消費する必要がなくなるので、摩擦分離部13によるシート6aの分離と搬送を高速に行うことができる。
【0059】
また、本実施の形態に係る画像形成装置1は、給紙装置5を搭載したことにより、多用なシート材種を用いても環境変動や経時変動に対して安定して分離動作を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上説明したように、本発明に係る給紙装置および画像形成装置は、多用なシート材種においても環境変動や経時変動に対して安定して分離動作を行うことができるという効果を有し、摩擦力によりシートの分離を行う摩擦分離手段と静電吸着力によりシートの分離を行う静電吸着分離手段を備えた給紙装置およびこの給紙装置を備えた画像形成装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施の形態に係る給紙装置およびこの給紙装置を備えた画像形成装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る給紙装置の構成を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る給紙装置の分離部を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る給紙装置の静電吸着分離部を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る給紙装置の静電吸着分離部を示す側面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る給紙装置の静電吸着分離部を示す側面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る給紙装置の静電吸着分離部を示す側面図である。
【図8】(a)〜(d)は、本発明の実施の形態に係る給紙装置の帯電および除電のための電圧波形の例を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る給紙装置の静電吸着分離部を示す側面図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る給紙装置の静電吸着分離部を示す側面図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る給紙装置の静電吸着分離部の他の例を示す斜視図である。
【図12】本発明の実施の形態に係る給紙装置の底板を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0062】
1 画像形成装置
4 給紙部
5 給紙装置
6 シート束
6a、6b シート
7 分離部
8 搬送ローラ対(搬送手段)
13 摩擦分離部(摩擦分離手段)
14 静電吸着分離部(静電吸着分離手段)
16 給紙トレイ
17 駆動ローラ
18 従動ローラ
19 ベルト
19a 表層
19b 裏層
21 帯電電極
22 除電電極
24 帯電電源
25 除電電源
27a、27c 押上部材(第1の押圧手段)
27b 押上部材(第2の押圧手段)
28、28a、28b、28c 底板
29a、29c シート押上部(第1の押圧手段)
29b シート押上部(第2の押圧手段)
30 センサ
31a、31b、31c 重送阻止部材
32 分離爪
33 駆動軸
34 送りローラ
55b バネ(付勢手段)
56b 偏心カム(付勢力変更手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚のシートを積載する給紙トレイと、
前記給紙トレイ上の複数枚のシートから1枚のシートを分離して搬送する分離部と、を備えた給紙装置において、
前記分離部が、
前記給紙トレイに積載された複数枚のシートから最上部のシートを摩擦力により分離する摩擦分離手段と、
前記給紙トレイに積載された複数枚のシートから最上部のシートを不平等電界による吸着力で分離する静電吸着分離手段と、
前記摩擦分離手段および前記静電吸着分離手段のシート搬送方向下流に配置され、前記摩擦分離手段または前記静電吸着分離手段の少なくとも一方により分離されたシートを搬送する搬送手段と、を有し、
前記摩擦分離手段と前記静電吸着分離手段とを前記搬送手段によるシート搬送方向に直交する方向の投影面が重なるように配置したことを特徴とする給紙装置。
【請求項2】
前記給紙トレイに積載されたシートを前記摩擦分離手段に押圧する第1の押圧手段と、
前記給紙トレイに積載されたシートを前記静電吸着分離手段に押圧する第2の押圧手段と、を有し、
前記第1の押圧手段と前記第2の押圧手段が互いに異なる押圧力を発生することを特徴とする請求項1に記載の給紙装置。
【請求項3】
前記摩擦分離手段が、
前記給紙トレイに積載された複数枚のシートのうち最上部のシートを吸着して搬送するベルトと、
前記複数枚のシートの最上部のシート以外のシートが前記ベルトにより搬送されることを阻止する重送阻止部材と、
前記重送阻止部材を前記ベルトに向って付勢する付勢手段と、
前記付勢手段による付勢力を変更する付勢力変更手段と、を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の給紙装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の給紙装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−105807(P2010−105807A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281901(P2008−281901)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】