説明

給電システム及び電気推進船

【課題】エネルギー効率が高く、急激な負荷変動にも対応可能な給電システム及び電気推進船を提供する。
【解決手段】電力を必要とする負荷対象1と、負荷対象1に電力を供給する複数の発電機2と、各発電機2を駆動させる駆動源3と、発電機2により発生した電力を蓄える二次電池4と、発電機2により発生した電力の分配や二次電池4の充放電を制御する制御手段5と、を有し、制御手段5は、負荷対象1の仕事量に応じて発電機2の駆動台数を制御するとともに、負荷対象1の仕事量に対して発電機2の駆動台数が不足してから負荷対象1の仕事量に必要な駆動台数の発電機2が駆動するまでの間、二次電池4により負荷対象1に電力を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の発電機を利用した給電システム及び電気推進船に関し、特に、急激な負荷変動に対応可能な給電システム及び電気推進船に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の低減や速度制御の容易性の観点等から電気推進船が注目されている(例えば、特許文献1、特許文献2等参照)。フェリーやタンカーのように航行距離が比較的長い船舶では、運航スケジュールが予め定まっており、一般に、出港→増速→定常運転→減速→寄港の運航スケジュールにより操船される。かかる船舶では、急激な負荷変動が少なく、計画された運航スケジュールに従って給電システムを制御すればよく、電気推進船にするメリットが大きい。
【0003】
ここで、特許文献1に記載の電気推進船は、給電システム中にキャパシタ(蓄電池)を配置して、予備推進用及び船内供給用として使用できるようにしたものである。また、特許文献2に記載の電気推進船は、給電システム中に蓄電池を配置して発電機が故障した場合の非常用として使用できるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−24187号公報
【特許文献2】特開平11−266532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、浚渫船、揚土渫船、構造物築造船、曳航船・押船(タグボート)や交通船等の作業補助船、測量船等の調査船、油回収船等の環境整備船、特殊作業船等のいわゆる作業船や漁労に供する船では、運航スケジュールが定まっておらず給電システムの制御が煩雑である、建造コストを抑制したい等の理由からディーゼルエンジンを主機とするディーゼル推進船から電気推進船への切り替えが遅れている。
【0006】
例えば、いわゆるタグボートでは、指示待ちの待機時間が長く、ディーゼルエンジンに低負荷運転を強いている。ここで、図5は、タグボートのエンジン負荷率と稼動時間率の関係を示す図である。横軸はエンジン負荷率(%)を示し、縦軸は稼動時間率(%)を示している。なお、図5に示したデータは、タグボートの稼動状況を30日間計測した結果である。図5に示したように、タグボートは、エンジン負荷率が20%以下の状態で使用されることが多く、平均エンジン負荷率は約16%であった。ディーゼルエンジンの低負荷運転は、エネルギー効率が悪く、燃料の不完全燃焼も生じやすく環境負荷が高い。また、急発進や低負荷運転から最大運転負荷への急加速のような急激な負荷変動を必要とする機会も多く、さらにエネルギー効率が悪く、環境負荷が高くなってしまう。
【0007】
本発明は、上述した問題点に鑑み創案されたものであり、エネルギー効率が高く、急激な負荷変動にも対応可能な給電システム及び電気推進船を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、電力を必要とする負荷対象と、該負荷対象に電力を供給する複数の発電機と、該各発電機を駆動させる駆動源と、前記発電機により発生した電力を蓄える二次電池と、前記発電機により発生した電力の分配や前記二次電池の充放電を制御する制御手段と、を有する給電システムにおいて、前記制御手段は、前記負荷対象の仕事量に応じて前記発電機の駆動台数を制御するとともに、前記負荷対象の仕事量に対して前記発電機の駆動台数が不足してから前記負荷対象の仕事量に必要な駆動台数の発電機が駆動するまでの間、前記二次電池により前記負荷対象に電力を供給する、ことを特徴とする給電システムが提供される。
【0009】
前記制御手段は、前記負荷対象の仕事量に対して前記発電機の駆動台数が不足する状態が一定時間経過した後、前記負荷対象の仕事量に必要な駆動台数の発電機を駆動させるように構成されていてもよい。また、前記制御手段は、前記負荷対象の仕事量に対して前記発電機の駆動台数が超過する状態が一定時間経過した後、前記負荷対象の仕事量に不要な駆動台数の発電機を停止させるように構成されていてもよい。
【0010】
また、前記制御手段は、前記二次電池の充電率が第一基準値を下回った場合に、前記発電機の必要台数を駆動させて余剰電力を前記二次電池の充電に分配するように構成されていてもよい。さらに、前記制御手段は、前記二次電池の充電率が前記第一基準値よりも高い第二基準値を上回った場合に、前記負荷対象の仕事量に不要な駆動台数の発電機を停止させつつ前記二次電池を充電するように構成されていてもよい。
【0011】
また、前記制御手段は、前記負荷対象への電力供給を前記発電機から前記二次電池に切り換えてから前記負荷対象への電力供給を停止するように構成されていてもよい。
【0012】
また、前記給電システムは、例えば、負荷対象が船舶推進用のスクリューと該スクリューを駆動する電動モータとにより構成される電気推進船に使用される。さらに、前記制御手段は、前記電気推進船が停泊中の場合に、陸上側から電力を供給して二次電池を充電させるように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
上述した本発明の給電システム及び電気推進船によれば、必要な発電機が立ち上がるまでのタイムラグに生じる不足電力を二次電池により供給できるようにしたことにより、急発進や低負荷運転から最大運転負荷への急加速のような急激な負荷変動にも円滑に対応することができる。また、負荷対象の仕事量に応じて駆動する発電機の台数を制御したことにより、給電システムのエネルギー効率を向上させることができ、タグボートのような低負荷運転を強いられやすい負荷対象であっても効率よく運転することができ、環境負荷も低減することができる。さらに、不要な発電機を停止させる際に生じている余剰電力を二次電池に充電したことにより、発電機の駆動台数制御と二次電池の充放電とを効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る給電システムを示す全体構成図である。
【図2】制御手段の作用を示す図であり、(A)は船内負荷率と発電機駆動台数と二次電池の充放電との関係を示し、(B)は蓄電池充電率を示している。
【図3】図2における部分詳細図であり、(A)はA部、(B)はB部、(C)はC部、(D)はD部、(E)はE部、を示している。
【図4】本発明に係る給電システムの変形例及び適用例を示す図であり、(A)は第一変形例、(B)は第二変形例、(C)は適用例、を示している。
【図5】タグボートのエンジン負荷率と稼動時間率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図1〜図4を用いて説明する。ここで、図1は、本発明に係る給電システムを示す全体構成図である。
【0016】
図1に示すように、本発明の給電システムは、電力を必要とする負荷対象1と、負荷対象1に電力を供給する複数の発電機2と、各発電機2を駆動させる駆動源3と、発電機2により発生した電力を蓄える二次電池4と、発電機2により発生した電力の分配や二次電池4の充放電を制御する制御手段5と、を有し、制御手段5は、負荷対象1の仕事量に応じて発電機2の駆動台数を制御するとともに、負荷対象1の仕事量に対して発電機2の駆動台数が不足してから負荷対象1の仕事量に必要な駆動台数の発電機2が駆動するまでの間、二次電池4により負荷対象1に電力を供給するように構成されている。
【0017】
前記負荷対象1は、電力の供給を受けて外部に対して仕事をする機器である。図1に示した実施形態では、負荷対象1は船舶推進用のスクリューSとスクリューSを駆動させる電動モータMとにより構成されている。ここでは、負荷対象1が二個の場合(例えば、左舷側及び右舷側の各々にスクリューSが配置された場合)を図示しているが、負荷対象1は一個でもよいし、三個以上であってもよい。
【0018】
前記発電機2は、動力を電力に変換する機器である。ここでは、発電機2として交流発電機を使用しているが、直流発電機であってもよい。かかる発電機2の装備台数は、多い方がより細やかな運転台数制御を行うことができるが、配置スペースや運転形態等を総合的に勘案して決定する。また、発電機2の下流側の給電ライン21には、制御手段5、変圧器22、電力変換装置23、充放電装置24等の機器が配置されている。電力変換装置23は、交流/直流を適宜変換しながら電力負荷対象1への電力供給及び二次電池4の充放電を制御する機器である。また、充放電装置24は、交流/直流を適宜変換しながら二次電池4の充放電を制御する機器である。
【0019】
前記駆動源3は、例えば、ディーゼルエンジン等の内燃機関が使用される。本発明では、駆動源3としてディーゼルエンジンを使用した場合であっても、複数の発電機2の各々にディーゼルエンジンが接続されていることにより、ディーゼルエンジン一台により船舶推進用のスクリューを駆動させていた従来と比べて、一台あたりのディーゼルエンジンの出力を低くすることができる。また、余剰電力を二次電池4に充電し、不足電力を二次電池4により補充することができるようにしていることから、負荷対象1の負荷変動に応じてディーゼルエンジンの出力を変動させる必要がなく定格に近い状態で運転することができる。したがって、ディーゼルエンジンのエネルギー効率を向上させることができるとともに環境負荷を低減することができる。なお、駆動源3は、蒸気タービン、風力発電、火力発電、水力発電、太陽光発電等であってもよい。
【0020】
前記二次電池4は、発電機2の発生電力の余剰電力を充電したり、負荷対象1の不足電力を補充したりする機器である。二次電池4には、例えば、鉛蓄電池、ニッケル・水素蓄電池、リチウムイオン二次電池等、種々のものを使用することができる。かかる二次電池4は、例えば、図示したように、給電ライン21中の電力変換装置23や充放電装置24に接続されて配置される。これらの二次電池4の充放電は、制御手段5の指令に基づいて電力変換装置23及び充放電装置24が処理を行う。なお、ここでは、電力変換装置23を介して接続された二次電池4と充放電装置24を介して接続された二次電池4の両方を図示したが、二次電池4の接続個数や接続箇所は、二次電池4の容量等により定められ、負荷対象1に分配される給電ライン21中の二次電池4の一部を省略してもよいし、負荷対象1に分配される給電ライン21の一部又は全てに二次電池4を接続して充放電装置24を介して接続された二次電池4を省略してもよいし、負荷対象1に分配される給電ライン21中の二次電池4を省略して充放電装置24を介して接続された二次電池4のみの構成としてもよい。
【0021】
前記制御手段5は、発電機2により発生した電力の分配、二次電池4の充放電、発電機2の駆動台数の最適化等を制御する機器である。かかる制御手段5は、いわゆる配電盤及び制御盤(又は制御コンピュータ)であり、図示したように一体に構成されていてもよいし、分離して構成されていてもよい。制御手段5は、負荷対象1に電力を供給するほか、船内給電用にも電力を供給することができるように構成されている。
【0022】
ここで、図2は、制御手段の作用を示す図であり、(A)は船内負荷率と発電機駆動台数と二次電池の充放電との関係を示し、(B)は蓄電池充電率を示している。図2(A)において、実線は船内負荷率の変動を示し、一点鎖線は発電機駆動台数の変動を示している。なお、船内負荷率とは、負荷対象1及び船内給電の各負荷率(最大負荷量に対する負荷の割合)の合計を意味している。
【0023】
図2(A)に示すように、船内負荷率が100%のときに発電機2の全台数が駆動されるように設定されており、図1に示した実施形態では四台の発電機2を使用しているため、ここでは一台の発電機2あたり25%の船内負荷率を負担するように制御される。したがって、N台の発電機2を使用した給電システムでは、各発電機2は(100/N)%の船内負荷率を負担するように制御される。そして、制御手段5は、基本的に、船内負荷率が25%を超えた場合に二台の発電機2を駆動させ、船内負荷率が50%を超えた場合に三台の発電機2を駆動させ、船内負荷率が75%を超えた場合に四台の発電機2を駆動させている。すなわち、制御手段5は、少なくとも、負荷対象1の仕事量に応じて発電機2の駆動台数を制御するように構成されている。
【0024】
また、制御手段5は、基本的に、船内負荷率(実線)が発電機駆動台数(一点鎖線)を上回った場合(図の網掛部分)には、負荷対象1に不足電力が生じているため、二次電池4から負荷対象1に給電し、船内負荷率(実線)が発電機駆動台数(一点鎖線)を下回った場合(図の斜線部分)には、給電システムに余剰電力が生じているため、二次電池4に充電するようにスイッチ41等を制御するように構成されている。すなわち、制御手段5は、少なくとも、負荷対象1の仕事量に対して発電機2の駆動台数が不足してから負荷対象1の仕事量に必要な駆動台数の発電機2が駆動するまでの間、二次電池4により負荷対象1に電力を供給するように構成されている。
【0025】
以下、図2及び図3に基づいて、時系列に制御手段5の作用について説明する。ここで、図3は、図2における部分詳細図であり、(A)はA部、(B)はB部、(C)はC部、(D)はD部、(E)はE部、を示している。
【0026】
まず、図2(A)に示したように、負荷対象1等に電力を開始する前に少なくとも一台の発電機2を立ち上げておくことが好ましい。発電機2を立ち上げて定格運転状態になるまで一定のタイムラグ(例えば、数分程度)を要するためである。勿論、電力開始と同時に必要な台数の発電機2を立ち上げ、タイムラグの間は二次電池4により電力を供給するようにしてもよい。
【0027】
いま、時間t1までの船内負荷率は25%であるため、時間t1までは一台の発電機2が駆動される。そして、図3(A)に示すように、船内負荷率が50%に達する時間t1から時間x1だけ経過した後、二台目の発電機2を立ち上げる。さらに、船内負荷率が75%に達する時間から時間x1だけ経過した後、三台目の発電機2を立ち上げる。ここで、時間x2は、発電機2が定格運転状態になるまでのタイムラグである。したがって、二台目の発電機2は時間t1から時間(x1+x2)だけ経過した後に定格運転を開始し、それよりも若干遅れて三台目が定格運転を開始する。すなわち、制御手段5は、負荷対象1の仕事量に対して発電機2の駆動台数が不足する状態が一定時間経過した後、負荷対象1の仕事量に必要な駆動台数の発電機2を駆動させるように構成されている。
【0028】
また、時間t2までの船内負荷率は50〜75%の範囲内であるため、時間t2までは三台の発電機2が駆動されている。そして、図3(B)に示すように、船内負荷率が50%まで低下した時間t2から時間y1だけ経過した後、一台の発電機2を停止させる。さらに、船内負荷率が25%まで低下した時間から時間y1だけ経過した後、もう一台の発電機2を停止させる。すなわち、制御手段5は、負荷対象1の仕事量に対して発電機2の駆動台数が超過する状態が一定時間経過した後、負荷対象1の仕事量に不要な駆動台数の発電機2を停止させるように構成されている。なお、ここでは最終的に船内負荷率が0〜25%の範囲内に落ち着いたため、一台の発電機2により電力を供給している。
【0029】
その後、船内負荷率が一時的に急激に上昇し、時間t3に船内負荷率が25%に達し、さらに50%も超えているが、図3(C)に示したように、船内負荷率に対して発電機駆動台数が不足する時間が時間x1よりも短いため、発電機2を駆動させずに、不足電力は二次電池4により供給している。時間x1の設定時間は、負荷対象1の性質や使用環境によって変動するものであり、船内負荷率のデータを取得して、不足電力を発電機2で供給する場合と二次電池4により供給する場合とを峻別し、境界値を算出して設定することが好ましいが、作業者の経験に基づいて設定するようにしてもよい。時間x1は、例えば、数十秒程度の時間に設定される。
【0030】
また、船内負荷率が一時的に急激に上昇し、時間t4に船内負荷率が25%に達し、さらに50%も超えているが、図3(D)に示したように、船内負荷率が上下動を繰り返して最終的に25〜50%の範囲内に収束した場合には、船内負荷率が25%を超えている時間が時間x1を超え、船内負荷率が50%を超えている時間が時間x1を超えていないため、一台の発電機2のみ追加で駆動させる。
【0031】
また、図3(E)に示すように、時間t5に二次電池充電率が第一基準値αを下回った場合には、発電機2の必要台数(ここでは四台)を駆動させて余剰電力を二次電池4の充電に分配し、急速充電を行う。この急速充電時に駆動させる発電機2の必要台数は、時間t5における船内負荷率を発電機2で補いつつ余剰電力を発生させることができる台数である。また、余剰電力がより多く発生するように駆動台数を増やすことにより、より急速充電を行うことができる。かかる制御状態では、船内負荷率の数値とは無関係に、時間t5の時点で直ちに各発電機2を駆動させる。このとき、時間x2のタイムラグが生じるため、この間の不足電力は二次電池4から供給することになる。したがって、第一基準値αは、少なくとも、駆動している発電機2が存在しない状態から全ての発電機2を同時に立ち上げたときに生じ得る最大の不足電力(時間x2×船内負荷率100%の面積分)を補うことができる電力を充電した状態となるように設定しなければならない。言い換えれば、どのような場合であっても二次電池充電率の下限値γが0とならないように、第一基準値αを設定しなければならない。
【0032】
そして、二次電池充電率が、第一基準値αよりも高い第二基準値βを上回った場合に、負荷対象1の仕事量に不要な駆動台数の発電機2を停止させる。図3(E)では、二次電池充電率が第二基準値βを上回った時間t6における船内負荷率が0〜25%の範囲内であるため必要な発電機2は一台である。したがって、不要な発電機2は三台であり、この三台の発電機2の駆動を停止させることとなる。
【0033】
また、図2(A)のF部に示すように、二次電池4の充電率が十分に高く(例えば、第二基準値β以上)、船内負荷率が低い場合(例えば、25%以下)には、全ての発電機2を停止させて二次電池4のみで電力を供給するようにしてもよい。この場合、時間x1による発電機駆動台数制御は作動しないようにしておく。
【0034】
また、図2(A)のG部に示すように、負荷対象1への電力供給を停止する場合には、無駄な電力が発生しないように、全ての発電機2を停止させて、負荷対象1への電力供給を発電機2から二次電池4に切り換えて負荷対象1への電力供給を停止するようにしてもよい。この場合も、時間x1による発電機駆動台数制御は作動しないようにしておく。また、全ての発電機2を停止する時間t7は、負荷対象1への電力供給を停止する時間t8までの残り時間とその後に必要となるであろう船内負荷率との積によって算出される予測電力を補うだけの電力が二次電池4に充電されている必要があるため、二次電池充電率と時間t8までの残り時間とを監視しながら設定される。この場合、第一基準値αによる二次電池充電率制御は作動しないようにしておく。
【0035】
上述した本発明に係る給電システムの実施形態によれば、必要な発電機2が立ち上がるまでのタイムラグ(時間x2)に生じる不足電力を二次電池4により供給することができ、急発進や低負荷運転から最大運転負荷への急加速のような急激な負荷変動にも円滑かつ迅速に対応することができる。また、負荷対象1の仕事量に応じて駆動する発電機2の台数を制御したことにより、給電システムのエネルギー効率を向上させることができ、タグボートのような低負荷運転を強いられやすい負荷対象1であっても効率よく運転することができ、環境負荷も低減することができる。さらに、不要な発電機2を停止させる際に生じている余剰電力を二次電池4に充電したことにより、発電機2の駆動台数制御と二次電池4の充放電とを効果的に行うことができる。
【0036】
また、発電機2は船内負荷率100%と同等の総容量を持ち、負荷対象1に課せられた急激な負荷変動により、駆動している発電機2の発電量とのアンバランスが発生したときに、発電機2の起動時間中に二次電池4を放電(負荷対象1等への給電)し、発電機2の停止時間中に二次電池4を充電するようにしたことにより、各発電機2における急激な負荷変動が起こらないようにして、できるだけ最適な運転台数と運転負荷での運転状態を長時間保つことができる。さらに、船内負荷率の一部を単に蓄電池で補う従来のシステムに比べて、必要とされる二次電池4の容量を低く抑え、建造コストや設置スペースを低減することができる。
【0037】
次に、本発明に係る給電システムの変形例及び適用例について説明する。ここで、図4は、本発明に係る給電システムの変形例及び適用例を示す図であり、(A)は第一変形例、(B)は第二変形例、(C)は適用例、を示している。なお、図1に示した実施形態と同じ構成部品については同じ符号を付し、重複した説明を省略する。
【0038】
図4(A)に示した給電システムの第一変形例は、負荷対象1が一個の船舶推進用のスクリューSとそれを駆動する複数の電動モータMとにより構成されたものである。このようにスクリューSが一個の電気推進船に対しても本発明の給電システムを適用することができ、上述した実施形態と同様の効果を奏する。なお、かかる第一変形例では、スクリューSに対してどの電動モータMからどれだけ動力を供給するかの制御が必要となるが、かかる制御は、上述した制御手段5が行ってもよいし、別途配置された制御装置により行うようにしてもよい。なお、図示しないが、負荷対象1は、複数のスクリューS(例えば、二個)と複数の電動モータM(例えば、三個)とを有し、複数の電動モータMにより動力が分配されて各スクリューSに伝達されるように構成されていてもよい。
【0039】
図4(B)に示した給電システムの第二変形例は、負荷対象1が電気推進船以外で使用される他の電力消費機器6の場合を示している。負荷対象1は、例えば、クレーン、アンローダ等の荷役機械、掘削機や運搬機械等の建設機械、プラントや工場内で使用されるポンプ、空調設備、搬送設備、産業機械設備等である。ここでは、二台の発電機2、一つの二次電池4、一つの電力消費機器6の構成を図示したが、第一変形例のように複数の二次電池4を配置してもよいし、複数の電力消費機器6に接続するようにしてもよい。
【0040】
図4(C)に示した給電システムの適用例は、図1に示した実施形態を適用した電気推進船7を図示したものである。かかる適用例では、負荷対象1は、スクリューS及び電動モータMを備えたポッド型推進器により構成されている。また、発電機2及び駆動源3は、複数段に積層されて配置されている。かかる電気推進船7では、従来のディーゼル推進船よりも駆動源3の一台あたりの容量やサイズが小さいこと、発電機2より下流側の各構成部品の接続(給電ライン21)を電線により配線できること等の理由から、各構成部品の配置の自由度が高く、デッドスペースを低減することができる。また、電気推進船7が岸壁に停泊中の場合に、制御手段5により陸上側から電力を供給して船内給電させつつ二次電池4を充電させるようにしてもよい。このように陸上側から給電できる場合には、停泊時の二次電池4の充電率が少ない状態であっても、無駄に発電機2を駆動させることなく二次電池4を充電することができ、電気推進船7の作業開始直後の高負荷運転にも円滑に対応することができる。
【0041】
本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0042】
1…負荷対象
2…発電機
3…駆動源
4…二次電池
5…制御手段
6…電力消費機器
7…電気推進船
21…給電ライン
22…変圧器
23…電力変換装置
24…充放電装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力を必要とする負荷対象と、該負荷対象に電力を供給する複数の発電機と、該各発電機を駆動させる駆動源と、前記発電機により発生した電力を蓄える二次電池と、前記発電機により発生した電力の分配や前記二次電池の充放電を制御する制御手段と、を有する給電システムにおいて、
前記制御手段は、前記負荷対象の仕事量に応じて前記発電機の駆動台数を制御するとともに、前記負荷対象の仕事量に対して前記発電機の駆動台数が不足してから前記負荷対象の仕事量に必要な駆動台数の発電機が駆動するまでの間、前記二次電池により前記負荷対象に電力を供給する、ことを特徴とする給電システム。
【請求項2】
前記制御手段は、前記負荷対象の仕事量に対して前記発電機の駆動台数が不足する状態が一定時間経過した後、前記負荷対象の仕事量に必要な駆動台数の発電機を駆動させる、ことを特徴とする請求項1に記載の給電システム。
【請求項3】
前記制御手段は、前記負荷対象の仕事量に対して前記発電機の駆動台数が超過する状態が一定時間経過した後、前記負荷対象の仕事量に不要な駆動台数の発電機を停止させつつ前記二次電池を充電する、ことを特徴とする請求項1に記載の給電システム。
【請求項4】
前記制御手段は、前記二次電池の充電率が第一基準値を下回った場合に、前記発電機の必要台数を駆動させて余剰電力を前記二次電池の充電に分配する、ことを特徴とする請求項1に記載の給電システム。
【請求項5】
前記制御手段は、前記二次電池の充電率が前記第一基準値よりも高い第二基準値を上回った場合に、前記負荷対象の仕事量に不要な駆動台数の発電機を停止させる、ことを特徴とする請求項4に記載の給電システム。
【請求項6】
前記制御手段は、前記負荷対象への電力供給を前記発電機から前記二次電池に切り換えてから前記負荷対象への電力供給を停止する、ことを特徴とする請求項1に記載の給電システム。
【請求項7】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載の給電システムを備え、前記負荷対象は、船舶推進用のスクリューと該スクリューを駆動する電動モータとにより構成されている、ことを特徴とする電気推進船。
【請求項8】
前記制御手段は、前記電気推進船が停泊中の場合に、陸上側から電力を供給して前記二次電池を充電させる、ことを特徴とする請求項7に記載の電気推進船。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−25799(P2011−25799A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172489(P2009−172489)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(502422351)株式会社アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド (159)