説明

給餌装置

【課題】牛等の家畜の飼料の食べ残しを減らすことができ、飼料の無駄を防止できる給餌装置を提供する。
【解決手段】給餌装置は、複数の横棒材及び縦棒材b1〜b20を連結することで上部開口2、下部開口3及び複数の側部開口4〜7を形成した柵体1と、柵体1の側部開口の下部を覆う板材10〜13とを備え、上部開口2及び下部開口3は所定の開口面積を有しており、側部開口4〜7は縦棒材により所定の水平方向の間隔Dを有しており、板材は、柵体1の側面に平行で、かつ紐15(支持手段)により柵体と鉛直方向に相対移動可能に支持されている。間隔Dは餌を与える家畜の首又は頭部の幅に対応して設定され、所定の開口面積はロールベール等の飼料の大きさに対応して設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、牛やひつじ等の家畜に餌を与える給餌装置に係り、特に、家畜が残す餌の量を少なくすることができ、餌の無駄を無くすことができる給餌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
飼料、肥料価格の高騰、また、飼料等の自給率及び土地利用率向上の観点から自給飼料増産の気運が高まっている。自給飼料利用の問題点として、ロールベール等の形で収穫後に重機を用いて飼料を保管場所に集め、牛に給餌するときに再び牛舎に飼料を移動するという飼料の集積及び運搬に対して多大な労力及びコストがかるという第1の問題点がある。これを改善するには、収穫後にロールベールを集積することなく圃場に備蓄し、牛を圃場に連れてきて給餌すれば、運搬作業が大きく軽減される。
【0003】
このとき、野外でロールベールを覆っているラップを剥がして給餌すると、食べ残しが3割以上も出てしまうところに第2の問題点が生じていた。原因としては、牛が休憩するために飼料の上に乗ってしまうことや、糞尿が飼料にかかってしまうことである。食べ残しが多いと集約的に飼料イネ栽培を行って収量を増加させる努力をしても効果が薄い。よって、野外飼養で飼料の食べ残しが少なくなる給餌技術が必要となる。
【0004】
この技術導入の派生的効果として、以下の2点があげられる。
(1)冬期でも野外で牛を飼養できるため、大きな設備投資をすることなく飼養規模の拡大を図ることができる。
(2)ロールベールを広い間隔に空けて圃場に並べて給餌することで圃場への施肥だけでなく、牛舎での糞尿処理を軽減できる。
【0005】
また、飼料の給餌には草架が用いられる場合があり、牛の体重や力に耐えられるように頑丈に設計されており重量もある。そこに牛を連れてきて給餌している。草架への飼料の運搬にはグラブローダーのような重機を用いている。簡易型として牛用や綿羊用の組み立て式の草架も開発されている。
【0006】
さらに、この種の給餌装置として、複数の牛に対して、乾草(乾いた草)や生草をロール状に束ねたロールベールを効率良く同時に採食させることが可能なロールベール用草架は、ロールベールがその長さ方向を垂直に向けて縦置きされるロール載置領域を有した底板と、底板のうちのロール載置領域より外周部分に立設され、牛の頭部が出し入れされる頭部出入穴が複数形成された側壁体と、側壁体と底板の外周部との少なくとも一方に設けられ、ロールベールをロール載置領域にガイドする複数のロール位置決めガイドと、各ロール位置決めガイドを、ロール載置領域を中心部とした半径方向に位置変更可能な複数の位置変更手段とを備えたロールベール用草架がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−280248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
草架等の従来の給餌柵は牛の体重や力でも壊れない必要があるので、牛舎等に備え付けで移動させることは考えられていないものが多い。したがって、給餌場所は牛舎周辺に限られてしまうことから、飼養規模は牛舎スペースによって制限され、また、同じところで繰り返し給餌するために糞尿処理にも多大な労力とコストがかかっている。草架やロールベールは人力で運べるものではなく、給餌にはロールベールを草架に載せる重機が必要であり、機械を維持・使用するためのコストもかかる。組み立て式の草架では、牛用は強度が必要なため組み立てに時間がかかり、また、綿羊のような中小家畜用の草架は牛の力に対する耐久性はない。
【0009】
前記特許文献1に記載のロールベール用草架は、構成が複雑であり、重量が大きくなりコストも上昇してしまうという問題点がある。また、軽量の給餌装置では、牛が柵を移動させてしまい、細断調製された稲発酵粗飼料が給餌柵から外にこぼれてしまい、こぼれた飼料は牛が食べないため無駄となっていた。さらに、飼料を囲まないで牛に供給すると、牛が飼料の上に乗り、踏みつけて無駄になり、飼料の上に糞尿をして廃棄する場合もあった。このため、飼料の無駄が多くなっていた。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、野外でのロール状に梱包された飼料の給餌でも、飼料が広がって無駄になることを防止でき、牛等の家畜の食べ残しを減らすことができる給餌装置を提供することにある。また、組み立てが不要であり、軽量で剛性があり、壊れ難い給餌装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成すべく、本発明に係る給餌装置は、複数の横棒材と縦棒材とを連結することで上部開口、下部開口及び複数の側部開口を形成した柵体と、該柵体の前記側部開口の下部を覆う板材とを備える給餌装置であって、前記側部開口は縦棒材により所定の水平方向の間隔を有しており、前記板材は、前記柵体の側面に平行で、かつ支持手段により該柵体に鉛直方向に相対移動可能に支持されていることを特徴としている。
【0012】
前記のごとく構成された本発明の給餌装置は、ロール状に梱包された飼料(ロールベール)を柵体で囲み、柵体の側部開口の下部を覆うように下端部に沿って柵体と相対移動可能に板材を設置しているため、柵体が家畜により持ち上げられても飼料が柵体の外部にこぼれることがなくなる。また、家畜が飼料の上に乗って飼料に糞尿をかけることが防止される。この結果、ロールベール等の飼料の食べ残しを減らすことができ、廃棄等のコストを削減できるためコストを抑えることができる。柵体は複数の横棒材と縦棒材とを組み合わせて連結するため、軽量で剛性を高くすることができ、牛等の家畜が力を加えても柵体が移動して変形や破壊が防止される。
【0013】
本発明に係る給餌装置の好ましい具体的な態様としては、前記所定の間隔は、餌を与える家畜の首又は頭部の幅に対応して設定され、前記上部開口、下部開口の少なくとも一方の開口面積はロールベール等の飼料の大きさに対応して設定されることを特徴としている。この構成によれば、柵体の側部開口を縦棒材により分割して形成された所定の間隔から柵体内に家畜は首又は頭部を通して餌を食することができ、胴体部分を柵体に入れることが防止される。また、柵体の上部開口、下部開口の少なくとも一方の開口面積はロールベール等の飼料を通過させることができ、地面上に置かれた飼料に柵体を容易に被せて飼料を囲むことができ、給餌の作業を簡素化できる。
【0014】
さらに、本発明に係る給餌装置の好ましい具体的な他の態様としては、前記柵体は直方体に形成され、前記上部開口及び下部開口は外周の4本の横棒材により正方形に形成され、前記側面は外周の4本の横棒材及び複数の縦棒材により複数の縦長長方形に分割されることを特徴としている。この構成によれば、例えば柵体を持ち上げて、下面の大きい開口面積を通してロールベール等の飼料に柵体を容易に被せることができる。また、上面の大きい開口面積を通してロールベール等の飼料を柵体の上から投入することもできる。
【0015】
そして、前記横棒材は湾曲させて周回状に形成され、該周回状に形成された2つの横棒材を前記複数の縦棒材で連結して前記柵体を円柱状に形成してもよい。このように構成すると、柵体を円柱状に形成することでより軽量化することができる。また、前記複数の縦棒材及び横棒材は、ジョイントにより着脱可能に連結されることが好ましい。これにより、給餌装置を使用しないときには柵体を解体することができ、収納も容易に行える。
【0016】
前記板材は前記柵体の内側に紐により緩く支持されていることが好ましく、紐に限らず金具等で緩く支持するように構成してもよい。前記柵体は地面上に設置され、前記板材はその下端面が地面に接するように立てられた状態で支持されることが好ましい。この構成によれば、柵体が持ち上げられても、板材が地面上に接しているため、飼料が柵体の外部にこぼれることが防止され、飼料の無駄を省くことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の給餌装置は、ロールベール等の飼料の食べ残しを減らすことができ、飼料の廃棄コストを削減することができる。また、構成が簡単であり、給餌作業を簡略化することができる。さらに、給餌装置を構成する柵体は構成が簡単で軽量であり、剛性が高く形成されており、牛等の家畜が体当たりしても柵体が移動し、変形や破壊が防止され、餌も外部に飛び散らない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る給餌装置の一実施形態を構成する柵体の基本形状の斜視図。
【図2】図1の柵体の基本形状の模式図。
【図3】図1の柵体の基本形状にさらに縦棒を付加した柵体の斜視図。
【図4】図3の柵体と板材とを組み合わせた給餌装置の斜視図。
【図5】図4に示す給餌装置の水平方向の断面図。
【図6】(a)は図5のA−A線に沿う要部断面図、(b)は柵体の移動時の要部断面図。
【図7】(a)は図4の給餌装置を地面から持ち上げた状態の側面図、(b)は給餌装置に飼料を入れ、牛が食べている状態の側面図、(c)は牛が柵体を持ち上げた状態の側面図。
【図8】(a)は本発明に係る給餌装置の他の実施形態の棒材を示す模式図、(b)はその面構成を示す模式図。
【図9】柵体に板材を支持する支持手段の他の実施形態を示し、(a)は要部正面図、(b)はその平面図。
【図10】柵体の他の実施形態を示す要部斜視図。
【図11】柵体のさらに他の実施形態を示すジョイント部分の要部斜視図。
【図12】柵体のジョイントの変更例を示し、(a)は柵体の棒材を3方向に連結するジョイントの分解斜視図、(b)は棒材を2方向に連結するジョイントの分解斜視図。
【図13】給餌装置のさらに他の実施形態を示す要部斜視図。
【図14】図13の柵体が持ち上げられた状態の要部斜視図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る給餌装置の一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る給餌装置を構成する柵体の基本形状である直方体の斜視図、図2は、その模式図、図3は図1の直方体に縦棒材を追加して立面の間隔を狭めた柵体の斜視図、図4は柵体と板材とを組み合わせた給餌装置の斜視図、図5は図4の水平方向に沿う断面図である。
【0020】
図1〜5において、本実施形態の給餌装置は餌(飼料)としてロールベールRを囲む柵体1と、ほぐされたロールベールを構成する干し草が柵体1の下部から柵体の外部にはみ出さないようにするための板材10〜13とから構成される。柵体1はロールベールを囲む直方体の形状をしており、縦、横が2m程度で、高さが1.2m程度の大きさであり、多数の横棒材と縦棒材を溶接により連結することで上部開口2、下部開口3及び複数の側部開口4,5,6,7が形成されている。上部開口2及び下部開口3を形成する棒材は水平面で形成され、側部開口4,5,6,7を形成する棒材は鉛直面で形成されている。これにより、上部開口2を構成する上面と下部開口3を構成する下面とは平行に形成され、対向する側部開口4〜7を構成する側面同士も平行となる。
【0021】
給餌装置の柵体1は、円柱状のロールベールRを収容できる大きさの形状であり、牛等の家畜が乗り越えることができない高さを有している。棒材としては、本実施の形態では、3〜4cm四方の断面形状を有するステンレスの角パイプを使用しており、家畜等により圧力が加わっても変形しないような頑丈な角パイプを溶接して直方体状に形成している。柵体1は20本の横棒材及び縦棒材を連結し、上面及び下面が上部開口2及び下部開口3として開口する底の無い形状で、側面も側部開口4〜7で開口している骨組だけの構造となっている。
【0022】
すなわち、2m程度の長さの横棒材8本と、1.2m程度の長さの縦棒材12本を溶接して直方体の柵体1を形成している。具体的には、2m程度の長さの横棒材b1、b2、b3、b4を直角に連結して正方形の上部開口2を形成し、2m程度の長さの横棒材b5、b6、b7、b8を同様に直角に連結して正方形の下部開口4を形成し、上部開口3を形成する横棒材と下部開口3を形成する横棒材とを1.2m程度の長さの4本の縦棒材b9〜b12で連結して4つの側部開口4〜7を構成して図1に示すような直方体としており、角部に位置する4本の縦棒材の間に8本の縦棒材b13〜b20を溶接して図3に示すような柵体1の形状に構成している。柵体1の重量は約30kg程度となっているため、人手による運搬も可能となっている。
【0023】
柵体1の上部開口2と下部開口3は外周を形成する横棒材のみで中央は開放空間となっている。すなわち、柵体1の上部開口2は横棒材b1〜b4で正方形に形成され、下部開口3は横棒材b5〜b8で正方形に形成され、正方形の内部には棒材が無い状態となっている。このため、上部開口2及び下部開口3は、直径が1〜1.3m程度で長さも1〜1.3m程度の大きさのロールベールRが通過できる開口面積に設定されている。ロールベールRの重量は直径や長さによって異なるが、おおよそ数100kg程度となっている。
【0024】
柵体1の側面は鉛直面で前記のように4面あり、4面の側部開口4〜7は長方形で、4つの側面には中間位置に縦棒材b13〜b20が所定の間隔で平行状態に固定されている。すなわち、側部開口4は横棒材b1、b5と、縦棒材b9、b10と、中間の縦棒材b13、b14で形成され、側部開口5は横棒材b2、b6と、縦棒材b10、b11と、中間の縦棒材b15、b16で形成され、側部開口6は横棒材b3、b7と、縦棒材b11、b12と、中間の縦棒材b17、b18で形成され、側部開口7は横棒材b4、b8と、縦棒材b12、b9と、中間の縦棒材b19、b20で形成されている。このように本実施形態では、4つの側部開口の長方形には水平方向に60〜70cm間隔で中間に2本の縦棒材が溶接固定され、各側部開口はそれぞれ3つの細長長方形に分割されている。
【0025】
1つの側部開口について、より詳細に説明すると、例えば、側部開口4では、コーナーの縦棒材b9、b10の間に中間縦棒材b13、b14が溶接により連結され、60〜70cm間隔Dで3つの縦長長方形の空間が形成されている。この水平方向の60〜70cmの間隔Dは牛の頭部が通り、肩部が通らない間隔となっている。他の3つの側開口5〜7も、同様に牛の頭部が通り、肩部が通らない間隔Dに設定されており、このため、牛は側部開口の縦長の空間に首を通して柵体1の内部に頭部を入れることができる構成となっている。間隔Dは給餌する家畜の種類に合わせて設定する。牛の場合、間隔Dは60〜70cmが好ましいが、ひつじの場合も、同様に頭部が通り、肩部が通らない間隔が好ましく、家畜に合わせて間隔を決めることが好ましい。柵体1は前記のように溶接等で多数の棒材が連結され、一体化しているため組み立てが不要となっている。
【0026】
このように構成された柵体1の下方には、側部開口の下部を覆うべく、この柵体を形成する棒材の内側に板材10〜13が立てられた状態で側面に沿って支持されている。4枚の板材10〜13はそれぞれ水平方向の長さが2mより短く、4隅の縦棒材b9〜b12の内側に緩く入る長さに設定され、高さが30cm程度で、厚さが数cmに設定されている。板材10〜13は合板や木製板材、樹脂製板材等、適宜の材質のものを用いることができる。板材10〜13は、図5に示されるように、それらの長手方向の端部が互いに入れ違うように組み合わされている。
【0027】
板材10〜13は柵体1の4つの側部開口4〜7を形成する側面に対して、内側に平行に並設して立てられており、板材の上辺に近い位置に開けられた貫通孔14,14に紐15を通して縦棒材に取り付けられている。紐15は緩く結ばれており、柵体1と板材10〜13とが間隙を空けて連結されている。このため、柵体1と板材とは鉛直方向に相対移動可能となっている。すなわち、柵体1が持ち上げられ、柵の下端の横棒材と地面との間に隙間ができても、図6に示されるように、板材10がその重量で下方に距離Lだけ相対移動して地面GLに接触しているため、板材が地面と柵体1との隙間を埋めるように構成されている。
【0028】
前記の如く構成された本実施形態の給餌装置の動作について以下に説明する。複数の棒材b1〜b20を連結して上部開口2、下部開口3及び複数の側部開口4〜7を構成した柵体1の下辺に沿って、板材10〜13を組み付ける。すなわち、柵体1の内側の4つの側面に沿って板材を1枚ずつ立てた状態で並べ、板材の貫通孔14,14に紐15を通して側面を構成する縦棒材に縛り付ける。本実施の形態では、1枚の板材は2本の縦棒材に2本の紐15,15で連結させるこれにより、柵体1に4枚の板材10〜13が緩く支持される。
【0029】
このあと、板材10〜13が支持された柵体1を人手、あるいは重機等で持ち上げて野外の地面上に置かれたロールベールRを囲むように地面上に設置する。柵体1を持ち上げると、図7(a)に示すように、板材10〜13は下方に距離Lだけ相対移動して下がった状態となる。給餌に際して、重さが数100kgのロールベールRを移動させることなく、30kg程度の柵体1を持ち上げてロールベールRの周囲を囲むことができるため、作業が容易となる。これにより、ロールベールRは柵体1に囲まれるため、牛等の家畜がロールベールRに乗って糞尿をかけることが防止される。
【0030】
牛等の家畜は、図7(b)に示されるように、直方体状の柵体1の4つの側部開口に60〜70cmの間隔で形成された間隔Dから首を入れて、内部に位置する餌(ロールベールをほぐした餌)R1を食べることができる。水平方向の間隔Dを形成する長方形は、縦長の長方形であり、牛が柵体1内に頭部を入れて上下に移動することができるため、餌を食べやすくなっている。図7(c)に示されるように、牛が首を持ち上げて柵体1を持ち上げても、柵体1の下方には相対移動可能に板材10〜13が支持されているため、持ち上げられた側の板材が柵体1に対して下方に相対移動し、柵体1の下端の横棒と地面GLとの間に隙間が形成されず、餌R1が柵体1の外部に散乱することは無い。
【0031】
本発明の給餌装置を構成する柵体1に牛等の家畜が体当たりすると、軽量で剛性の高い柵体は変形せずに地面上を滑って移動するため、柵体の破壊が防止される。柵体1が移動しても内部の餌は柵体1の板材10〜13に押されて移動するため、柵体の外部に散乱することは無い。すなわち、従来の給餌装置では、家畜による破壊を防止するため頑丈にしており、重量を大きく構成していたが、本発明の給餌装置では、柵体は軽量でも剛性が高く、家畜から加えられた圧力に抗することなく、移動して圧力を吸収するため、破壊することが防止される。
【0032】
干し草が柵体1の外部に散乱すると、散乱した干し草を牛は食べないため、廃棄することになるが、本発明では干し草の散乱が板材10〜13により防止され、飼料の無駄を無くすことができコストダウンを達成することができる。柵体1の高さと板材10〜13の高さを調整することにより、牛が首を上げたときに柵体1の下方に隙間ができないように設定することが好ましい。
【0033】
なお、前記の動作説明では、柵体1に板材10〜13を連結支持したあと、柵体1を持ち上げてロールベールの周囲に設置したが、この代わりに、先ずロールベールを囲むように柵体1を設置し、その後に、柵体1の内側に板材10〜13を立てかけて、紐15,15により柵体1を構成する縦棒材に縛ることで連結させるようにしてもよい。
【0034】
本発明の他の実施形態を図8に基づき詳細に説明する。図8(a)は本発明に係る給餌装置の他の実施形態の棒材を示す模式図であり、(b)はその面構成を説明するための模式図である。なお、この実施形態は前記した実施形態に対し、柵体の上部の開口の形状が異なることを特徴とする。そして、他の実質的に同等の構成については同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0035】
図8において、この実施形態の柵体1Aは、前記の実施形態と同様に直方体をしており、上部開口2、下部開口3、及び4つの側部開口4〜7を有している。そして、4隅に位置する縦棒材b9〜b12の間に中間縦棒材b13〜b20が連結され、水平方向に牛等の首が入る所定の間隔が形成されている。また、2点鎖線で示すように、柵体1Aの下方には、4辺に沿って板材10〜13が柵体と鉛直方向に相対移動可能に支持されている。
【0036】
図8に示す実施形態の柵体1Aでは、上部開口2を構成する横棒材b1〜b4は直角に溶接で連結され、コーナー部分に火打ち梁状に斜棒材c1〜c4が溶接で連結されている。柵体1Aの上部開口2は4つの斜棒材に開口面積が小さくなっているが、上面の正方形のコーナーを斜棒材で連結して開口面積が小さくなっても、ロールベールが貫通できる大きさに設定されている。この実施形態の柵体1Aでは、前記の柵体1と比較して、上面を補強しているためより剛性を高めることができ、牛等の家畜により破壊される可能性が低くなる。なお、下部開口3を形成する下面の4隅にも、同様に火打ち梁状の斜棒材を連結して、さらに剛性を増やすように構成することもできる。
【0037】
つぎに、柵体に板材を支持する支持手段の他の例について、図9を参照して説明する。図9は支持手段の他の例を示しており、(a)は要部正面図、(b)はその平面図である。図9において、給餌装置の柵体1,1Aの1つの側部開口を形成する側面は長方形状をしており、その側面を構成する棒材の一部として、横棒材b5、中間縦棒材b13、b14が示されている。柵体には、板材10(11〜13)が金具16,16と、ナット17,17により連結支持される。
【0038】
すなわち、板材10の上辺の近傍には、2つの貫通孔が形成され、この貫通孔にU字状の金具16の脚片が挿入され、ナット17でねじ止め固定されている。金具16は板材10を支持する縦棒材b13、b14の断面積より大きく屈成されており、縦棒材との間に大きな隙間が形成されている。このため、柵体1,1Aが牛等により斜めに持ち上げられても、板材10は自由に相対移動できる構成となっており、地面との間に隙間ができても、この隙間を塞ぐことができる。また、紐15による板材の支持に比較して、耐久性を上げることができる。
【0039】
柵体の他の実施形態を図10に基づいて説明する。前記の実施形態では、柵体を構成する棒材はステンレスの角パイプで、各パイプが溶接で連結される例を示したが、図10の例では横棒材b21、b22、縦棒材b23、b24は丸パイプを使用している。この丸パイプの材質は金属、樹脂管等を適宜使用できるが、図示の例では鋼管に樹脂を被覆したパイプを使用しており、これらのパイプはジョイントJ1、J2を用いて連結されている。ジョイントJ1は柵体の角部に用いられ、棒材を3方向に連結するものであり、ジョイントJ2は柵体の側面部に用いられ、棒材を2方向に連結するものである。この実施形態では、ジョイントが樹脂製で、樹脂で被覆された丸パイプを溶着して連結している。
【0040】
柵体を構成するために多数の棒材を連結するジョイントの変更例を、図11を参照して説明する。図11に示すジョイントJ3は、金属製の鋳物であり、X方向、Y方向、Z方向に棒材である丸パイプを連結するものである。このため、直方体の柵体を形成するとき、各角部に用いることができる。3方向に延出する丸穴部分に棒材を挿入し、丸穴部分の貫通孔とパイプの貫通孔とを合わせて、ボルトBを挿入し、ナットNでねじ止めることで、3本の棒材b21〜b23を相互に直角方向に連結することができ、必要に応じて分解することもできる。このジョイントJ3は、図10のジョイントJ1に対応するものであり、ジョイントJ2に対応する2方向に棒材を連結するジョイントも、図示していないがボルト及びナットを挿入して連結、分解するように構成することができる。このように構成されたジョイントJ3等を用いることで柵体を容易に作成することができ、使用しないときには容易に解体することができる。
【0041】
つぎに、本発明の給餌装置を構成する柵体を組み立てるためのジョイントの変形例を、図12を参照して説明する。図12(a)は3方向に棒材を連結するジョイントJ4を示しており、(b)は2方向に棒材を連結するジョイントJ5を示している。図12(a)に示すジョイントJ4は、図3,4に示される柵体1の角部として、例えば左下の角部を形成するものであり、縦棒材b23と、横棒材b25、b26とを連結するものである。ジョイントJ4は金属板材をプレス成形した2つの部材を組み合わせて構成されるものであり、一方の部材は縦棒材の外周の3/4を巻回する縦棒部と、これに連続して横棒の半周を覆う2つの横棒部とを有しており、他方の部材は縦棒材の1/4を巻回する縦棒部と、これに連続して横棒の半周を覆う2つの横棒部とを有しており、2つの部材を2本のボルトBとナットNで締め付けることで3本の棒材b23、b25、b26を挟み、強固に連結することができるものである。
【0042】
図12(b)に示すジョイントJ5は、図3,4に示される柵体1の角部以外の連結部に用いられるものであり、例えば、下側の横棒材b27と、縦棒材b28とを連結するものである。ジョイントJ5は金属板材からプレス成形した2つの部材を組み合わせて構成されるものであり、2つの部材は同一形状である。2つの部材は略T状を2つ割にしたものであり、縦棒材及び横棒材の半周を覆う形状の3つの突部を有している。2つの部材を1本のボルトBとナットNで締め付けることで横棒材b27と、縦棒材b28とを挟み、強固に連結することができるものである。このように、本発明の給餌装置を構成する柵体は、棒材を溶接したもの、ジョイントで連結したものや、ジョイントは樹脂製のもの、あるいは金属製のもの等、適宜の材質を用いてもよい。
【0043】
さらに、給餌装置の他の実施形態を、図13,14を参照して説明する。図13は柵体のさらに他の実施形態に、他の板材を支持した給餌装置を示す斜視図であり、図14は図11の柵体を傾斜させた状態を示している。この実施形態の柵体1Bは、複数の横棒材として横棒材b31を湾曲させて周回状に形成し、円周状の上リング部を形成し、横棒材b32を湾曲させて周回状に形成し、円周状の下リング部を形成し、上下のリング部を10本の縦棒材b33〜b42を溶接して連結して円柱状に形成している。すなわち、2本の横棒材と、10本の縦棒材で柵体10Bを構成している。
【0044】
横棒材b31,32は35mm角のステンレス角パイプを使用して円周状に湾曲させ、縦棒材b33〜b42は30mmの直径の丸パイプを使用している。柵体1Bの直径は2.2mに設定され、高さは1〜1.2mに設定されている。10本の縦棒材は等間隔に連結され、中心角で36度になっており、牛等の頭部が進入する横方向の間隔は約62cmとなっている。この柵体1Bの場合、間隔は10個あり、最大10頭の家畜に同時に餌を与えることができる構成となっている。この柵体1Bは、前記の柵体1,1Aの縦棒材が12本であるのに対して10本で、2本少ない構成となっており、直方体のタイプより軽量化を図ることができる。
【0045】
この柵体1Bにも、側部開口の下部を覆う10枚の板材20〜29が柵体の内部に側面に沿って配置されている。板材20〜29は木板が使用され、厚さが15mm、高さが30cm、長さが約60cmとなっている。10枚の板材は下方の端部に形成された貫通孔に紐30,30…を通して相互に連結され、上部中央に形成された貫通孔に紐31,31…を通して縦棒材に相対移動可能に支持されている。なお、この実施形態でも、板材の支持手段として紐以外を用いて、板材を縦棒材に支持するように構成してもよいのは勿論である。
【0046】
このように構成された柵体1Bと板材20〜29で構成される給餌装置においても、図14に示されるように、牛等の家畜が柵体1Bを頭部で持ち上げても、柵体のみが持ち上がり、板材20〜29は地面に接した状態が保たれ、ロールベール等をほぐした餌R1が柵体1Bの外部に広がることが防止される。この実施形態においても、家畜の伸び上がる高さと、柵体1Bの高さ、及び板材20〜29の高さを設定することで、柵体1Bが持ち上げられたときに板材20〜29と地面との間に隙間ができないように設定することが好ましい。
【0047】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。例えば、柵体は直方体の例を示したが、多角柱等の形状でもよい。柵体が多角柱の場合は、板材は多角柱の各側面に平行に相対移動可能に支持されることは勿論である。
【0048】
また、餌としてロールベールの例を示したが、これに限られるものでなく、本発明の給餌装置は他のいかなる形状の餌にも適用できるものである。さらに、板材を柵体に支持する支持手段として紐の例を示したが、針金等で支持するように構成してもよく、金具等で支持するように構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の活用例として、この給餌装置を用いてロールベール等の飼料を無駄なく家畜に与えることができ、牛に限らず、豚やひつじ等の家畜の給餌の用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0050】
1,1A,1B:柵体、2:上部開口、3:下部開口、4,5,6,7:側部開口、10〜13:板材、14:貫通孔、15:紐(支持手段)、16:金具(支持手段)、17:ナット(支持手段)、20〜29:板材、30,31:紐(支持手段)、b1〜b8:横棒材(棒材)、b9〜b12:縦棒材(棒材)、b13〜b20:中間縦棒材(棒材)、c1〜c4:斜棒材(棒材)、b21,b22,b25〜b27,b31,b32:横棒材(棒材)、b23,b24,b27,b33〜b42:縦棒材(棒材)、D:所定の水平方向の間隔、GL:地面、R:ロールベール(飼料)、R1:ばらけた餌

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の横棒材と縦棒材とを連結することで上部開口、下部開口及び複数の側部開口を形成した柵体と、
該柵体の前記側部開口の下部を覆う板材とを備える給餌装置であって、
前記側部開口は縦棒材により所定の水平方向の間隔を有しており、
前記板材は、前記柵体の側面に平行で、かつ支持手段により該柵体に鉛直方向に相対移動可能に支持されていることを特徴とする給餌装置。
【請求項2】
前記所定の間隔は、餌を与える家畜の首又は頭部の幅に対応して設定され、前記上部開口、下部開口の少なくとも一方の開口面積はロールベール等の飼料の大きさに対応して設定されることを特徴とする請求項1に記載の給餌装置。
【請求項3】
前記柵体は直方体に形成され、前記上部開口及び下部開口は外周の4本の横棒材により正方形に形成され、前記側面は外周の4本の横棒材及び複数の縦棒材により複数の縦長長方形に分割されることを特徴とする請求項1又は2に記載の給餌装置。
【請求項4】
前記横棒材は湾曲させて周回状に形成され、該周回状に形成された2つの横棒材を前記複数の縦棒材で連結して前記柵体を円柱状に形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の給餌装置。
【請求項5】
前記複数の縦棒材及び横棒材は、ジョイントにより着脱可能に連結されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の給餌装置。
【請求項6】
前記板材は前記柵体の内側に紐により緩く支持されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の給餌装置。
【請求項7】
前記柵体は地面上に設置され、前記板材はその下端面が地面に接するように立てられた状態で支持されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の給餌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−34579(P2012−34579A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174493(P2010−174493)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】