説明

絶対測定用変位測定装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ディジタルノギス、ディジタルマイクロメータ、ハイトゲージ等の小型計測器に適用される絶対測定用変位測定装置、特に制御部で使用するシステムクロックを切換えて消費電力を低減する絶対測定用変位測定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】計測値を液晶表示装置等に表示するディジタルノギス、ディジタルマイクロメータ、ハイトゲージ等の小型な変位測定装置として、静電容量式の変位センサを利用するものが有望である。この変位センサは、複数の送信電極を配列した第一の部材と、複数の受信電極を配列した第二の部材とをスライド可能に対向させ、前記送信電極と受信電極との間の容量値から前記第一の部材と前記第二の部材との位置関係を測定できるようにしたものである。ディジタルノギスを例にとると、長尺なメインスケールに複数の受信電極を配列し、これと対向する短寸のスライダに受信電極とはピッチの異なる複数の送信電極を配列し、複数の送信電極のそれぞれに位相のずれた送信信号を印加してスライダとメインスケールとの位置関係を測定する。この変位測定装置にも二種類あるが、基準点からの変位をインクリメントすることで現在の変位量を計測する相対方式より、現在の変位量を直接計測できる絶対方式の方が有利な面もある。例えば、電源に太陽電池を用いた場合、相対方式では暗部での測定を期待できない。これに対し、絶対方式ではスライダを移動させている間は電源を必要としないため、暗部で対象物を測定しその状態を保持して明部にノギスを移動すれば、太陽電池から供給される電力で絶対変位量が計測できる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上述した絶対測定用変位測定装置を小型で携帯可能とするにはその電源に太陽電池や小型電池を使用する。この場合、消費電力の節減がシステム設計上重要になる。特に、オフセット値を記憶する不揮発性メモリ(例えばEEPROM)の書き込み電流を作る充電回路や、システムクロックを使用して多くの計算を行う制御部(マイクロコンピュータ)、さらには測定値を表示する表示器の消費電流は無視できない。
【0004】本発明は、絶対測定用変位測定装置が変位量の変化がないときはさほどの処理を要しない点に着目し、システムクロックの周波数や制御間隔を切換えることで消費電力を低減することを目的とするものである。
【0005】上記目的を達成するため本発明は、複数の送信電極を配列した第一の部材と複数の受信電極を配列した第二の部材とをスライド可能に対向させ、前記送信電極と受信電極との間の容量値から前記第一の部材と前記第二の部材との絶対位置関係を演算手段で計算して示手段に表示する絶対測定用変位測定装置において、前記絶対位置関係が変化していると判定されている間は記演算手段を高速システムクロックで動作させ、前記絶対位置関係が変化していないと判定されている間は前記演算手段を低速システムクロックで動作させると共に記演算手段の制御回数を減少させることを特徴とする。
【0006】
【作用】制御部で使用するシステムクロックは高速になるほど消費電流が増大する。絶対測定用変位測定装置では位置変化のあった直後は高速に演算して変位量を算出する必要があるが、位置変化のない待機状態では位置変化の有無を判断する程度の処理しかないため、低速のシステムクロックでも問題ない。そこで、本発明ではシステムクロックの周波数や制御間隔を切換えることにより消費電力の低減を図る。
【0007】
【実施例】図1は本発明の一実施例を示す静電容量式の絶対測定用変位測定装置のブロック図である。同図において、1は静電容量式アブソリュートタイプの変位センサ(以下ABSセンサと呼ぶ)である。このABSセンサ1は、例えば図2に示すように構成されている。可動要素であるスライダ21は、固定要素であるメインスケール22に対し僅かの間隙を介して対向配置され、測定軸X方向に移動可能なものとなっている。スライダ21には、送信電極23が所定ピッチPt0で配設されている。送信電極23は、メインスケール22にピッチPr で配設された第1受信電極24a及び第2受信電極24bと容量結合されている。受信電極24a,24bは、その配列方向に沿って隣接するピッチPt1,Pt2の第1伝達電極25a及び第2伝達電極25bに1対1で夫々接続されている。伝達電極25a,25bは、夫々スケール21側に設けられた第1検出電極26a,26b及び第2検出電極27a,27bと容量結合されている。
【0008】送信電極23は、7つおきに共通接続されて一群が8電極の複数の電極群を構成している。これらの電極群には、それぞれ位相が45°ずつずれた8相の周期信号a,b,…,hが駆動信号Sdとして供給されるようになっている。これらの駆動信号Sdは、より具体的には、図3に示すように、高周波パルスでチョップされた信号となっており、図1の送信波形発生回路2から生成出力されるようになっている。送信電極23に駆動信号Sdが供給されることにより生ずる電場パターンのピッチWt は、送信電極23のピッチPt0の8倍であり、このピッチWt は、受信電極24a,24bのピッチPrのN(例えば3)倍に設定されている。したがって、8つの連続する送信電極23に対しては常に3乃至4つの受信電極24a,24bが容量結合されることになる。受信電極24a,24bは、三角形状(又はsin 波形状)の電極片を相互に挟み合う形で配設してなるものである。各受信電極24a,24bで受信される信号の位相は、送信電極23と受信電極24a,24bとの容量結合面積によって決定されるが、これはスライダ21とメインスケール22との相対位置によって変化する。
【0009】受信電極24a,24bと伝達電極25a,25bとが同一ピッチで形成されていれば、検出電極26a,26b,27a,27bは、単にスケール21のx方向位置がピッチPr だけ変化する毎に繰り返される周期信号を検出することになるが、このABSセンサ1では、粗い変位量、中間の変位量及び細かい変位量の3つのレベルの変位量を検出するため、伝達電極25a,25bが、実際には受信電極24a,24bに対して夫々D1 ,D2 だけ偏位するようになっている。偏位量D1 ,D2 は、夫々基準位置x0 からの測定方向の距離xの関数で、下記数1のように表すことができる。
【0010】
【数1】
D1(x) =(Pr −Pt1)x/PrD2(x) =(Pr −Pt2)x/Pr
【0011】伝達電極25a,25bをこのように受信電極24a,24bに対して偏位させ、検出電極26a,26b,27a,27bをピッチWr1(=3Pt1),Wr2(=3Pt2)の波形パターンとすることにより、検出電極26,27からは、偏位量D1(x) ,D2(x) に応じた大きな周期に検出電極24a,24b単位の小さな周期が重畳された検出信号B1 ,B2 ,C1 ,C2 を得ることができる。図4はこの信号B1 ,B2 の位相成分を電極間容量として示したものである。信号B1 ,B2 は大きな周期が逆相、小さな周期が同相である。従って両信号の差から大きな周期の信号が、また両信号の和から小さな周期の信号が得られる。信号C1 ,C2 についても同様である。ここで、検出信号B1 ,B2 の大きな周期が小さな周期の数十倍、検出信号C1 ,C2 の大きな周期が検出信号B1 ,B2 の大きな周期の数十倍になるように電極パターンを設定することにより、下記数2の演算で各レベルの変位を得ることができる。
【0012】
【数2】
C1 −C2 (粗スケール)
B1 −B2 (中スケール)
(B1 +B2 )−(C1 +C2 ) (密スケール)
【0013】これらの演算は、図1の粗スケール復調回路3、中スケール復調回路4及び密スケール復調回路5で行なわれるようになっている。復調は、具体的には、図3に示した送信波形のチョップ周波数でのサンプリング、ミキシング、低域ろ波、2値化等の処理を経て、エッジに位相情報を担った矩形波の位相信号CMPを生成することにより行なわれる。
【0014】各スケール復調回路3,4,5から出力される位相信号CMPCOA.、CMPMED.、CMPFINEは、夫々粗位相検出回路6、中位相検出回路7、密位相検出回路8に入力されている。これらの位相検出回路6〜8は、図5に示すように、位相信号CMPの立ち上がりタイミング(立ち下がりでもよい)でカウンタ9のカウント値をラッチするようになっている。カウンタ9は、0°の駆動信号Sdに同期した基準位相信号CPOの1周期で0からNまでをカウントするので、各位相検出回路6〜8には夫々位相信号CMPと基準位相信号CPOとの位相差に相当するカウント値がラッチされることになる。
【0015】これらの位相検出回路6〜8で夫々ラッチされた計数値は、合成回路10で重み付けられて合成される。また、合成回路10には、オフセット記憶部11に記憶されたオフセット値も供給されており、合成値のオフセット量を調整するようになっている。このオフセット記憶部11は、例えばEEPROM等の不揮発性メモリからなっている。合成回路10の出力は、演算回路12において、例えば電極配列ピッチを実寸法値に変換される。そして、得られた実寸法値は、LCD表示器13に表示されるようになっている。そして、これらの各回路には、ソーラセル14で発生しレギュレータ15で安定化させた電源電圧VDDが供給され、この電源供給によって装置が作動するようになっている。
【0016】本装置の各部にはクロック発生回路16で発生したシステムクロックを供給する。このシステムクロックを直接使用するか分周して使用するかは各部の条件による。カウンタ9で使用するクロックCKもこの一種である。この他に演算回路12や位相検出回路68等でもクロックが必要である。但し、ノギス等ではスライダ21が移動していない停止時間の方が長く、しかも絶対方式では停止状態で演算する必要が殆どないため、主として表示制御等を行えば足りる。そこで本発明では停止状態になったらシステムクロックを低速側に切換え、さらに制御間隔を長くすることで消費電流の節減を図る。
【0017】システムクロックの切換えは制御部17において行う。図6はこの制御部17の処理を示すフローチャートである。最初はステップS1で高速システムクロックを選択する。そしてこの状態で全体を動作させステップS2でABSセンサを制御する。ここで各部の処理結果が得られたら最終的な結果、つまり距離を表示器に表示する。ステップS3がこの表示処理である。つぎにステップS4で移動判定を行う。これは前回の測定値と今回の測定値との差が一定値(たとえばaμm)を越えたら移動ありと判定し、そうでなければ停止していると判定する論理をとる。ここで移動したと判定されたらステップS1へ戻るが、移動していない、つまり停止状態にあると判定されたらステップS5へジャンプして低速システムクロックを選択する。これで各部の動作周期は長くなるので、その分消費電流が減少する。加えてステップS6で所定の時間待ちを行ってからステップS2へ戻るようにしているので、これで制御間隔が長くなり一層消費電流を削減できる。
【0018】一例を挙げると、高速システムクロックは200kHz、低速システムクロックは32kHzである。これにより移動中は一秒間に10回の割合で測定が行われるが、停止中は2回の割合に減少する。尚、移動判定は迅速に行う必要があるが、停止判定には多少時間をかけても良い。
【0019】
【発明の効果】以上述べたように本発明によれば、絶対測定用変位測定装置において、可動要素の移動中と停止中とでシステムクロックの周波数や制御間隔を切換えるようにしたので、消費電力の節減を図ることができる。このため、小型電池や太陽電池等を使用しても長時間動作させることができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例を示すブロック図である。
【図2】 ABSセンサの構成図である。
【図3】 送信信号の波形図である。
【図4】 受信信号の波形図である。
【図5】 図1の動作波形図である。
【図6】 本発明のフローチャートである。
【符号の説明】
1…ABSセンサ、9…カウンタ、12…演算回路、13…LCD表示器、16…クロック発生回路、17…制御部、21…スライダ、22…メインスケール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数の送信電極を配列した第一の部材と複数の受信電極を配列した第二の部材とをスライド可能に対向させ、前記送信電極と受信電極との間の容量値から前記第一の部材と前記第二の部材との絶対位置関係を演算手段で計算して表示手段に表示する絶対測定用変位測定装置において、前記絶対位置関係が変化していると判定されている間は前記演算手段を高速システムクロックで動作させ、前記絶対位置関係が変化していないと判定されている間は記演算手段を低速システムクロックで動作させると共に前記演算手段の制御回数を減少させることを特徴とする絶対測定用変位測定装置。

【図1】
image rotate


【図3】
image rotate


【図2】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図6】
image rotate


【特許番号】第2568322号
【登録日】平成8年(1996)10月3日
【発行日】平成9年(1997)1月8日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−116856
【出願日】平成3年(1991)4月19日
【公開番号】特開平4−320913
【公開日】平成4年(1992)11月11日
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【参考文献】
【文献】特開 昭64−9313(JP,A)
【文献】特開 昭62−287116(JP,A)
【文献】特開 昭61−213605(JP,A)