絶縁体
【課題】熱、紫外線、及び薬品などへの耐性に優れ、かつ絶縁耐圧が高い絶縁体を提供する。
【解決手段】誘電率の異なる2つのセラミックスを主成分とする誘電部を有し、誘電部のうち、誘電率15未満の低い誘電率を有するものが低誘電部2とされ、誘電率15以上の高い誘電率を有するものが高誘電部3とされ、低誘電部2及び高誘電部3が、焼結によって一体化している絶縁体1とする。
【解決手段】誘電率の異なる2つのセラミックスを主成分とする誘電部を有し、誘電部のうち、誘電率15未満の低い誘電率を有するものが低誘電部2とされ、誘電率15以上の高い誘電率を有するものが高誘電部3とされ、低誘電部2及び高誘電部3が、焼結によって一体化している絶縁体1とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス絶縁機器の絶縁支持体やケーブル接続部の絶縁部材などとして使用される、セラミックスを主成分とする絶縁体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年強く求められている高電圧機器の小型化には、機器内部に電界の上昇が生じ、この高電圧機器に使用される絶縁体が高い電界に晒されるという問題がある。特に、トリプルジャンクションは、誘電率の異なる3つの物質、絶縁体−導体−絶縁媒体が交わる部位であり、形状的に鋭角な部位が形成されたとき、電界が集中する。この電界集中のために、高電圧機器では、耐電圧性能の著しい低下や、時には絶縁破壊などの機能的な障害をきたすおそれがある。
【0003】
トリプルジャンクションなどでの電界集中を緩和させるため、従来から次に述べる3つのタイプの絶縁体又は絶縁装置が考えられている。
【0004】
第1に、電界集中を緩和するために、電界緩和電極を配置する絶縁装置がある。電界緩和電極は、シールドあるいは埋込電極とも呼ばれている。電界緩和電極を配置する絶縁装置では、相間、及び対地間距離が広がり、この絶縁装置を用いる高電圧機器の大型化というデメリットがある。
【0005】
第2に、低誘電率化した絶縁体がある。一般に、この低誘電率化した絶縁体は、特許文献1及び2に示すような、誘電率の低いエポキシ樹脂からなる有機絶縁材料が用いられている。この低誘電率化した絶縁体を設ける絶縁装置では、装置の大型化を回避できる。
【0006】
第3に、電界集中を緩和させるために、発生電界に応じて誘電率の異なる絶縁部材を適切な場所に配置し、これらを接合させた絶縁体がある。特許文献3には、高電圧充電部を支持する絶縁固定具において、埋金周囲に配置されたエポキシを主体とした高い誘電率の絶縁部と、この絶縁部の周囲の特定位置に配置形成されたエポキシを主体とした低い誘電率の絶縁部とからなる固体絶縁物が開示されている。特許文献4には、ガス絶縁機器に用いる絶縁スペーサーであって、その内部にガラス、カーボン、又はアラミド等の高誘電率部材を含むエポキシ樹脂が配置され、ガス等の絶縁媒体にさらされる部位にエポキシ樹脂からなる低い誘電率の絶縁部を配置するものが開示されている。これら絶縁固定具及び絶縁スペーサーでは、電界歪や不均衡による耐電圧低下を防止し、さらに絶縁体寸法を大型化すること無く、電界緩和の性能、及び耐電圧性能が良好に発揮される。
【0007】
さらに、特許文献1〜4の絶縁体にも使用されている、エポキシ樹脂からなる絶縁部材は、成形性に優れ、無機フィラーとの混合などによる誘電率の調整も容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−130126号公報
【特許文献2】特開平5−198208号公報
【特許文献3】特開平6−84419号公報
【特許文献4】特開平11−262143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1〜4にも開示されている、エポキシなどからなる有機絶縁材料は、熱、紫外線、又は薬品などによって、変性や変形が生じやすい点に難点がある。
【0010】
また、有機絶縁材料では、セラミックスなどの無機絶縁材料に比べ、理想的破壊電界強度が小さく絶縁耐圧が低いという難点がある。これらの理想的破壊電界強度や絶縁耐圧の難点から、有機絶縁材料では、特許文献3及び4に示すように異なる誘電率の絶縁部材を接合させて電界緩和を図る際にも、各絶縁部材についての誘電率や配置の選択範囲が狭くなってしまう。具体的に述べると、有機絶縁材料では、理想的破壊電界強度や絶縁耐圧の観点から、二つの絶縁部材間の誘電率の比を小さくするように制限されるため、大きな電界緩和効果、すなわち高い絶縁耐圧性能を得ることが難しい。
【0011】
上記の問題に鑑みて、本発明の課題は、単純形状で、かつ寸法の大型化を図ること無しに絶縁耐圧が高い絶縁体を提供すること、さらに、熱、紫外線、及び薬品などへの耐性に優れた絶縁体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明者等は、種々の絶縁体の材料について鋭意検討した結果、異なる誘電率を有したセラミックスを主成分とする2以上の部材が焼結により一体化されている絶縁体を見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明によれば、以下に示す絶縁体が提供される。
【0013】
[1] 誘電率の異なる2つのセラミックスを主成分とする誘電部を有し、前記誘電部のうち、誘電率15未満の低い誘電率を有するものが低誘電部とされ、誘電率15以上の高い誘電率を有するものが高誘電部とされ、前記低誘電部及び前記高誘電部が、焼結によって一体化している絶縁体。
【0014】
[2] 前記高誘電部の誘電率が、前記低誘電部の誘電率に対して、3〜20倍である前記[1]に記載の絶縁体。
【0015】
[3] 前記高誘電部は、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、酸化銅、酸化スズ、炭化珪素、ニオブ酸リチウム、及びニオブ酸鉛よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む前記[1]又は[2]に記載の絶縁体。
【0016】
[4] 高電圧が印加される導体と接触する導体接触面と、接地部と接触する接地接触面と、絶縁媒体と接触する絶縁媒体接触面と、を有し、前記低誘電部は、前記絶縁媒体接触面を形成し、前記高誘電部は、前記高誘電部と前記低誘電部との境界が前記絶縁媒体接触面に沿うように配置されている前記[1]〜[3]のいずれかに記載の絶縁体。
【発明の効果】
【0017】
本発明の絶縁体では、二つの異なる絶縁材料にセラミクッスなどの無機絶縁材料を採用することにより、有機絶縁材料では難しかった大きな誘電率比をとることが可能になる。さらに、本発明の絶縁体では、低誘電率部材からなる絶縁物の内側に高誘電率部材を配置できる尤度が広がったことにより、電界の集中を緩和し、トリプルジャンクションにおける電界強度の低減を図れ、耐電圧性能の向上、或いは本絶縁物を含む機器の小型化を実現できる。また、本発明の絶縁体では、無機絶縁材料であるため、熱、紫外線、及び薬品などへの優れた耐性も合わせて具備させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態である絶縁体の斜視図であり、低誘電部と高誘電部との境界は透視して破線にて示している図である。
【図2】図1の絶縁体が導体と接地部との間に設けられている様子を模式的に表す斜視図である。
【図3】図2中に示すA−A’断面の一部断面図であり、導体接触面及び接地接触面それぞれに導体及び接地部が接続された状態にて表されている図である。
【図4】導体から接地部への方向に沿った高誘電部の厚みZと、トリプルジャンクション部での電界強度との関係を説明するための図である。
【図5】トリプルジャンクション部と高誘電部との距離rと、トリプルジャンクション部での電界強度との関係を説明するための図である。
【図6】導体接触面と平行な方向での高誘電部の幅Dと、トリプルジャンクション部での電界強度との関係を説明するための図である。
【図7】本発明の一実施形態である絶縁体の斜視図であり、低誘電部と高誘電部との境界は透視して破線にて示している図である。
【図8】図7中に示すA−A’断面の一部断面図であり、導体接触面及び接地接触面それぞれに導体及び接地部が接続された状態にて表されている図である。
【図9】比較例1の一様な誘電率の絶縁体の斜視図である。
【図10】図9中に示すA−A’断面の一部断面図であり、導体接触面及び接地接触面それぞれに導体及び接地部が接続された状態にて表されている図である。
【図11A】実施例1の絶縁体における電位分布を表す図である。
【図11B】実施例1の絶縁体における電界分布を表す図である。
【図12A】比較例1の絶縁体における電位分布を表す図である。
【図12B】比較例1の絶縁体における電界分布を表す図である。
【図13A】比較例2の絶縁体における電位分布を表す図である。
【図13B】比較例2の絶縁体における電界分布を表す図である。
【図14A】比較例3の絶縁体における電位分布を表す図である。
【図14B】比較例3の絶縁体における電界分布を表す図である。
【図15】実施例1、及び比較例1〜3の絶縁体についてのトリプルジャンクション部での電界の強度を比較するグラフである。
【図16】実施例1、及び比較例1〜3の絶縁体ついての、導体から接地部への方向に沿った各位置での絶縁媒体接触面上の電界の強度を表すグラフである。
【図17A】実施例2の絶縁体における電位分布を表す図である。
【図17B】実施例2の絶縁体における電界分布を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0020】
1.絶縁体:
1−1.本発明の絶縁体の基本的な実施形態:
図1は、本発明の技術範囲に属する絶縁体1の斜視図である。本発明の絶縁体1は、セラミックスを主成分とし、異なる誘電率を有している、低誘電部2と高誘電部3とが焼結によって一体化しているものである。高誘電部3は、誘電率15以上であり、低誘電部2は、誘電率15未満である。なお、本明細書において、低誘電部2及び高誘電部3の誘電率について、高い、又は、低い、と述べるが、これは低誘電部2の誘電率と、高誘電部3の誘電率とを比較するときの相対的な評価である点に留意する。
【0021】
ここでいう「焼結により一体化」とは、低誘電部2と高誘電部3とが接触している境界21において、低誘電部2の主成分であるセラミックスの原料となるセラミックス粉末と、高誘電部3の主成分であるセラミックスの原料となるセラミックス粉末とが焼結によって結合し、低誘電部2と高誘電部2との結合が保持されていることをいう。
【0022】
また、このような焼結によって、絶縁体1としての使用に十分に耐えうるような低誘電部2と高誘電部2との結合を実現する程度に、低誘電部2及び高誘電部3にセラミックスが含まれていることを、「セラミックスを主成分とする」という基準にする。
【0023】
本発明の絶縁体1は、これを構成する低誘電部2及び高誘電部3が共にセラミックスを主成分とするため、エポキシ樹脂に代表される有機材料からなる絶縁体1と比較して、熱、紫外線、及び薬品などによる劣化も少ない。
【0024】
焼結による一体化により、本発明の絶縁体1は、低誘電部2と高誘電部3とが直接的に結合する。そのため、本発明の絶縁体1では、低誘電部2と高誘電部3との結合に接着剤などの電界に影響を及ぼしうる他の部材を排除できる。よって、本発明の絶縁体1では、電界の設計する際、低誘電部2及び高誘電部3それぞれの誘電率を単純に考慮すればよく、当業者であれば、シミュレーションによる電界の設計を容易に適用できる。なお、シミュレーションについては、実施例において一具体例を詳しく述べる。
【0025】
図1に示す絶縁体1は高誘電部3が低誘電部2の中に埋め込まれている形態になっているが、本発明の絶縁体1では、絶縁体1の仕様に応じ、絶縁媒体接触面13の一部が高誘電部3から形成される形態であってもよい。このような形態であっても、シミュレーションにより低誘電部2及び高誘電部3の最適な配置を見つけ出すことができる。
【0026】
本発明の絶縁体1は、上述の基本的な実施形態を備える限りにおいて、用途に応じて、形状・大きさなどを自由に設計できる。次に、本発明の絶縁体1について、誘電率、成分などに関する具体的な形態を説明しつつ、好ましい実施形態についても述べていく。
【0027】
1−2.低誘電部と高誘電部との間の誘電率比:
本発明の絶縁体1では、高誘電部3の誘電率が、低誘電部の誘電率に対して、3〜20倍であると好ましい。誘電率の比率を大きくすることにより電界の集中を緩和する作用が高まるため、本発明の絶縁体1は、トリプルジャンクション部61などにおいて、特許文献1及び2に示される均一かつ低誘電率化した絶縁材料よりも、優れた電界緩和の効果を実現できる。
【0028】
1−3.低誘電部の成分:
低誘電部2の主成分となるセラミックスは、低誘電部2の誘電率を15未満とし、低誘電部2と高誘電部3との焼結による一体化を実現させるものであればよい。
【0029】
低誘電部2の主成分となるセラミックスとしては、例えば、各種ガラス、アルミナ、ムライト、ジルコニア、窒化アルミ、窒化珪素、炭化珪素、コージェライトなどがある。また、低誘電部2は、ここに挙げたセラミックスが複数含まれるものであってもよい。
【0030】
1−4.高誘電部の成分:
高誘電部3の主成分となるセラミックスは、高誘電部3の誘電率を15以上とし、低誘電部2と高誘電部3との焼結による一体化を実現させるものであればよい。
【0031】
高誘電部3の主成分となるセラミックスとしては、例えば、各種ガラス、アルミナ、ムライト、ジルコニア、窒化アルミ、窒化珪素、炭化珪素、コージェライトなどがある。また、高誘電部3は、ここに挙げたセラミックスが複数含まれるものであってもよい。
【0032】
さらに、高誘電部3は、誘電率を高めるため、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、酸化銅、酸化スズ、炭化珪素、ニオブ酸リチウム、及びニオブ酸鉛よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。ここに挙げた成分の選択と量については、高誘電部3の誘電率、主成分となるセラミックスの種類などに応じて設定できる。
【0033】
1−5.導体と接地との間に設けられる絶縁体としての実施形態:
図2は、図1に示す本発明の絶縁体1が、高電圧が印加される導体31と接地部32との間に設けられている様子を模式的に示す。このように、本発明の絶縁体1は、導体31と接地部32との間を支持する絶縁支持体として使用できる。なお、絶縁支持体は、碍子、スペーサー、ブッシングなどとも呼ばれている。
【0034】
本発明の絶縁体1では、図2に示すような絶縁支持体として使用するとき、絶縁体1の表面について、次の面が規定される。
【0035】
図1及び図2を参照し述べると、本発明の絶縁体1の表面のうち、導体31と接触する表面は導体接触面11とし、接地部32と接触する表面は接地接触面12とし、絶縁媒体と接触する表面は絶縁媒体接触面13とする。
【0036】
本発明の絶縁体1の表面のうち、導体接触面11と絶縁媒体接触面13とが交わる箇所は、交点部14とする。
【0037】
図3は、図2中に示すA−A’断面の一部を表す。絶縁体1が導体31及び接地部32に接続されているとき、交点部14は、誘電率の異なる3つの物質、絶縁体1、導体31、及び絶縁媒体33が交わる、いわゆるトリプルジャンクション部61にあたる。トリプルジャンクション部61では、図3に示すように、絶縁媒体33を挟んで絶縁体1と導体31とが鋭角を形成したとき、電界が集中する。
【0038】
本発明の絶縁体1は、低誘電部2が絶縁媒体接触面13を形成していると好ましい。また、このとき、高誘電部3は、絶縁媒体接触面13、特にトリプルジャンクション部61における電界の集中を緩和させるような形状と配置にて設けられていると好ましい。
【0039】
1−6.本発明の絶縁体の利点:
絶縁媒体の破壊電圧は様々な要因により一義的に比較するのは困難であるが、通常、アルミナなどの無機絶縁材料の理想的破壊電界は1000kV/mmといわれており、対して、エポキシなどの有機絶縁材料の理想的破壊電界は100kV/mmといわれている。本発明の絶縁体1は、セラミックを主成分とする無機絶縁材料のみから構成されているため、有機絶縁材料では困難と考えられている、低誘電部2と高誘電部3との間の大きな誘電率比の設定、及び高誘電部3をトリプルジャンクション部61に近接させた特殊な配置などが可能になる。このように無機絶縁材料からなることに起因した本発明の絶縁体1の利点については、実施例においてシミュレーションを用い詳しく述べる。
【0040】
2.絶縁体の製造方法:
本発明の絶縁体1の製造方法は、従来公知の様々な方法を採用できる。例えば、射出成型、スリップキャスト、コールドアイソスタティックプレス、スラリーディップ、ドクターブレード法、及びゲルキャスト法などがある。
【0041】
ゲルキャスト法とは、セラミックス粉末、分散媒、及びゲル化剤を少なくとも含むスラリーを調製し、次いでこのスラリーを成形型の内部の成形空間に注型してゲル化させることにより成形体を形成し、さらにこの成形体を焼成することによってセラミックス製品を製造する方法である。ゲルキャスト法では、低誘電部2と高誘電部3とが複雑な形状にて組み合されることにも対応でき、一体化している低誘電部2と高誘電部3との境界21に欠陥が生じにくい利点もある。例えば、特開2001−335371号公報にゲルキャスト法が詳しく説明されている。
【0042】
例えば、次に述べるゲルキャスト法を用いる製造方法によって、本発明の絶縁体1を製造できる。
【0043】
2−1.ゲルキャスト法による成形及び焼成の概要:
ゲルキャスト法を用いる絶縁体の製造方法の一実施形態では、低誘電部2の型がとれる成形型と、低誘電部2と高誘電部3とが一体化した形状の型がとれる成形型を用意する。
【0044】
まず、低誘電部2の型がとれる成形型の成形空間内に低誘電部2のためのスラリーを注型してゲル化させ、低誘電部2のもとになる成形体を作製する。
【0045】
次いで、低誘電部2と高誘電部3とが一体化した形状の型がとれる成形型の成形空間の所定の場所に、先に成形された低誘電部2のもとになる成形体を配置し、残余の成形空間に高誘電部3のためのスラリーを注型してゲル化させることにより、低誘電部2と高誘電部3からなる絶縁体1のための成形体を作製する。
【0046】
続いて、この成形体を焼成することにより、低誘電部2の主成分であるセラミックスの原料となるセラミックス粉末と、高誘電部3の主成分であるセラミックスの原料となるセラミックス粉末とが境界21において焼結によって結合するため、低誘電部2と高誘電部3とが焼結によって一体化した絶縁体1ができる。
【0047】
低誘電部2と高誘電部3とが複雑な形の境界21を有して結合しているときには、2以上の成形型を用意して、低誘電部2及び高誘電部3の成形体を部分的に成形し、この部分的な成形を段階的に行うことにより、低誘電部2と高誘電部3からなる絶縁体1のための成形体を作りあげる方法を採用できる。
【0048】
また、高誘電部3が、誘電率の異なる複数の領域41から形成されるときには、上述の低誘電部2及び高誘電部3の成形と同様の方法を適用すればよい。すなわち、各領域41の誘電率に応じたスラリーを調製し、それぞれ領域41の形状の型がとれる成形型を用意して段階的に成形していけばよい。
【0049】
2−2.スラリー:
低誘電部2、及び高誘電部3を形成するためのスラリーは、セラミックス粉末、分散剤、バインダーなどを混合させて調製する。
【0050】
低誘電部2、及び高誘電部3を形成するためのスラリーの調製は、セラミックス粉末、分散剤、ゲル化剤などから調製し、場合によっては無機フィラーを適宜添加することにより、誘電率を調整しつつ行う。
【0051】
以上のようなゲルキャスト法では、成形型を使用するため、各部の寸法誤差を小さくできる。また、既に成形体の時点において、低誘電部2及び高誘電部3が所望の形状・配置にて一体の状態になるため、低誘電部2と高誘電部3とが焼結によって確実に一体化する。
【0052】
この絶縁体1の製造方法では、焼成の後、低誘電部2又は高誘電部3をトリミングして、電界の集中の緩和に適する形状に仕上げることもできる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
3−1.シミュレーションによるトリプルジャンクション部での電界集中の緩和の検討:
ここでは、図1に示す円錐台形の絶縁体1を想定したシミュレーションの一例を説明する。高誘電部3は、真円の断面の両端が開いた円筒形状であり、高誘電部3の円筒形状の軸19に沿った両端が平行になっている。このような高誘電部3が、高誘電部3の円筒形状の軸19を絶縁体1の円錐台形の軸20に合わせて低誘電部2の中に埋め込まれ、高誘電部3の一方の端部が導体接触面11に現れている。そのため、絶縁体1を導体接触面11は、軸19,20を中心として同心円状に、中心に低誘電部2、中間に高誘電部3、外周に低誘電部2という配置から構成される。
【0055】
図3は、図1及び図2中のA−A’断面の一部を表す、導体31及び接地部32に接続された絶縁体1の断面であり、軸19、20を含むように切られている。この円錐台形の絶縁体1では、導体接触面11が小さく接地接触面32が大きいため、導体31と絶縁媒体接触面13との間が鋭角になる。そのため、この図に示す絶縁体1では、導体接触面11と絶縁媒体接触面13とが交わる交点部14が、(電極)導体−絶縁物沿面−絶縁媒体の三要素が接触するトリプルジャンクション部61にあたり、導体31に高電圧をかけたときには電界が集中しやすくなる。
【0056】
高誘電部3の端部のうち、トリプルジャンクション部61に最も近い端部、換言すると交点部14に最も近い端部を交点側端部30とする。図3に示す絶縁体1において、交点側端部30は、導体接触面11上にある。
【0057】
まとめると、図1〜3に示す絶縁体1では、低誘電部2が、絶縁媒体接触面13を形成している。さらに、高誘電部3は、低誘電部2と高誘電部3との境界21が絶縁媒体接触面13に沿うように配置されている。具体的に述べると、高誘電部3の配置は、交点部14近傍、すなわちトリプルジャンクション部61近傍において、高誘電部3の交点側端部30から接地部32に向かって形成されている境界21aが絶縁媒体接触面13に沿うようになされている。
【0058】
上述の形態の絶縁体1において、低誘電部2と高誘電部3との誘電率比を10とし、絶縁媒体を真空としたときのシミュレーションの結果を、高誘電部3の形状及び配置に関する3つのパラメータに注目し、図3の断面図、及び図4〜6に示すデータを参照しつつ説明する。
【0059】
第1のパラメータは、高誘電部3の厚みZである。図3を参照し述べると、高誘電部3の厚みZは、導体接触面11上に現れている高誘電部3の一方の端部から他方の端部までの長さである。また、高誘電部3の厚みZは、絶縁媒体接触面13に沿うように交点側端部30から接地部32に向かって形成されている境界21aの長さにも比例している。
【0060】
図4のグラフでは、高誘電部3の厚みZとトリプルジャンクション部61での電界強度との関係をシミュレーションにて算出した結果が示されている。図1〜3に示す低誘電部2及び高誘電部3の形状と配置のケースでは、高誘電部3の厚みZが2.6mm以上あるとき、トリプルジャンクション部61の電界強度が十分に小さい、すなわちトリプルジャンクション部61での電界集中が緩和される。なお、高誘電部3の厚みZが2.6mm以上という数値は、後で述べる高誘電部3の幅D、交点側端部30とトリプルジャンクション部61との距離r、電圧、導体31と絶縁媒体接触面13との角度θによらないことがシミュレーションで判明している。さらに、高誘電部3の厚みZが2.6mm以上のときには、接地部32の側にある境界21bに発生する内部電界集中が、トリプルジャンクション部61に影響を及ぼさない。
【0061】
第2のパラメータは、高誘電部3の交点側端部30と交点部14(トリプルジャンクション部61)との距離rである。
【0062】
図5のグラフでは、距離rとトリプルジャンクション部61での電界強度との関係をシミュレーションにて算出した結果が示されている。なお、図5のグラフのシミュレーションでは、前述の高誘電部3の厚みZが2.6mmに設定されている。図5のグラフから、距離rが、小さいときほどトリプルジャンクション部61での電界強度が小さくなる、すなわちトリプルジャンクション部61での電界集中が緩和されることがわかる。距離rが0mmのとき、すなわち高誘電部3の交点側端部30が交点14(トリプルジャンクション部61)と一致するとき、トリプルジャンクション部61での電界強度が最も小さくなる。
【0063】
第3のパラメータは、高誘電部3の幅Dである。図3を参照し述べると、高誘電部3の幅Dは、導体31に対して平行に、交点側端部30から絶縁体1の軸20に向かう方向に測られる高誘電部3の長さである。
【0064】
図6のグラフでは、高誘電部3の幅Dとトリプルジャンクション部61での電界強度との関係をシミュレーションにて算出した結果が示されている。図6のグラフから、図1〜3に示す低誘電部2及び高誘電部3の形状と配置のケースにおいて、高誘電部3の幅Dが3mm以上のとき、トリプルジャンクション部61での電界強度が十分に小さい、すなわちトリプルジャンクション部61での電界集中が緩和されることがわかる。これは、高誘電部3の幅Dが3mm以上あれば、境界21a全体に沿って電位を引き込む効果が十分に現れ、結果、トリプルジャンクション部61近傍の電界は弱まるからである。
【0065】
以上のシミュレーションの結果から、図1〜3に示す低誘電部2及び高誘電部3の形状と配置のケースにおいて、高誘電部3の厚みZが2.6mm以上、高誘電部30の交点側端部30と交点部14(トリプルジャンクション部61)との距離rが0mm、高誘電部3の幅Dが3mm以上のとき、トリプルジャンクション部61での電界集中が十分に緩和されることが判明した。次に、上述の高誘電部3の形状及び配置を備えた絶縁体1における、低誘電部2と高誘電部3との誘電率比、及び材質との関係に着目してシミュレーションした結果を述べる。
【0066】
3−2.低誘電部と高誘電部の誘電率比の検討:
3−2−1.絶縁体の構成:
図1、図7及び図9に示す円錐台形の絶縁体1についてのシミュレーションをした。次に述べる実施例1及び比較例1〜3の絶縁体1は、導体接触面11の直径20mm、接地接触面12の直径40mm、高さ10mmの円錐台形とし、絶縁体1の導体接触面11には100kVの電圧がかかる導体31を接続し、絶縁媒体33は真空とした。絶縁体1の材質、誘電率比については、次に述べるものに設定した。
【0067】
(実施例1)
上述の、図1〜3に示す低誘電部2及び高誘電部3の形状と配置と同じであり、上述のシミュレーションにおいてトリプルジャンクション部61での電界集中の十分な緩和が示された形態である、高誘電部3の厚みZが2.6mm、高誘電部30の交点側端部30と交点部14(トリプルジャンクション部61)との距離rが0mm、高誘電部3の幅Dが3mmとなるように設定した。低誘電部2及び高誘電部3が、ともにセラミックスを主成分とする無機絶縁材料からなり、低誘電部2の誘電率が8、高誘電部3の誘電率が80とした。
【0068】
(実施例2)
図7は、実施例2の絶縁体1の斜視図である。図8は、図7中のA−A’断面の一部断面図であり、導体接触面11及び接地接触面12それぞれに導体31及び接地部32が接続された状態にて表されている。高誘電部3は、直径20mm、高さ10mmの円柱形状として絶縁体1の中心に配置した。実施例2の絶縁体1において、交点側端部30は、交点部14(トリプルジャンクション部61)に一致し、境界21aは、絶縁媒体接触面13に沿って交点側端部30から接地接触面12まで形成されている。
【0069】
(比較例1)
図9の斜視図及び図10の断面図に示す、エポキシ樹脂の有機絶縁材料からなり、誘電率5にて一様な円錐台形の絶縁体1とした。
【0070】
(比較例2)
低誘電部2及び高誘電部3は、ともにエポキシ樹脂からなる有機絶縁材料とし、低誘電部2の誘電率が5、高誘電部3の誘電率が9とした以外は、実施例1に同じとした。
【0071】
(比較例3)
低誘電部2及び高誘電部3は、ともにエポキシ樹脂からなる有機絶縁材料とし、低誘電部2の誘電率が5、高誘電部3の誘電率が50とした以外は、実施例1に同じとした。
【0072】
3−2−2.シミュレーションの結果及び評価:
シミュレーションにより得られた電位分布について、実施例1は図11A、比較例1は12A、及び比較例2は図13A、比較例3は図14Aに示す。シミュレーションにより得られた電界分布について、実施例1は図11B、比較例1は12B、及び比較例2は図13B、比較例3は図14Bに示す。さらに、実施例1及び比較例1〜3の絶縁体1について、トリプルジャンクション部61での電界強度を図15のグラフに示す。なお、図15のグラフに示すトリプルジャンクション部61での電界強度は、比較例1におけるトリプルジャンクション部61での電界強度を100した相対値にて表す。
【0073】
誘電率5にて一様な比較例1の絶縁体1よりも、低誘電部2と高誘電部3とからなる、実施例1、比較例2及び比較例3の絶縁体1では、トリプルジャンクション部61での電界強度が小さいことが判明した。さらに、誘電部2と高誘電部3とからなる絶縁体1でも、低誘電部2と高誘電部3との間の誘電率比が大きい実施例1及び比較例3の絶縁体1は、比較例2の絶縁体1と比べ、トリプルジャンクション部61での電界強度がより小さいことが判明した。
【0074】
なお、図11B及び図14B中の矢頭にて示すように、実施例1及び比較例3の絶縁体1では、低誘電部2と高誘電部3との境界21に内部電界集中が生じることが判明した。この内部電界中の程度は、セラミックスを主成分とする無機絶縁材料からなる実施例1の絶縁体1では内部絶縁破壊は生じないが、エポキシ樹脂の有機絶縁材料からなる比較例3の絶縁体1では内部絶縁破壊が生じることが予想されるものであった。
【0075】
図16のグラフは、実施例1及び比較例1〜3の絶縁体1について、導体接触面11から接地接触面12への方向に沿った絶縁媒体接触面13上の各位置での電界強度を示す。図16のグラフの縦軸の上限(Z=10mm)は、トリプルジャンクション部61に相当する。比較例1の絶縁体1では、トリプルジャンクション部61における電界強度が著しく大きい。比較例2の絶縁体1では、比較例1と比べ、トリプルジャンクション部61における電界強度の増大は若干和らいでいた。実施例1及び比較例3の絶縁体1では、トリプルジャンクション部61での電界強度が小さく、むしろ導体接触面11と接地接触面12との中間の位置での絶縁媒体接触面13上で電界強度が大きいことが判明した。
【0076】
図17A及び図17Bは、それぞれ実施例2の絶縁体1における電位分布及び電界分布を表す。低誘電部2と高誘電部3との境界21aが、絶縁媒体接触面13に沿って交点側端部30から接地接触面12まで形成されている形態においても、トリプルジャンクション部61での電界集中の緩和がなさることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、ガス絶縁機器の絶縁支持体やケーブル接続部の絶縁部材などとして使用される、セラミックスを主成分とする絶縁体として利用できる。
【符号の説明】
【0078】
1:絶縁体、2:絶縁媒体接触部、3:高誘電率部、11:導体接触面、12:接地接触面、13:絶縁媒体接触面、14:交点部、19:円筒形状の軸、20:円錐台形の軸、21:境界、21a:境界、21b:境界、31:導体、32:接地部、33:絶縁媒体、61:トリプルジャンクション部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス絶縁機器の絶縁支持体やケーブル接続部の絶縁部材などとして使用される、セラミックスを主成分とする絶縁体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年強く求められている高電圧機器の小型化には、機器内部に電界の上昇が生じ、この高電圧機器に使用される絶縁体が高い電界に晒されるという問題がある。特に、トリプルジャンクションは、誘電率の異なる3つの物質、絶縁体−導体−絶縁媒体が交わる部位であり、形状的に鋭角な部位が形成されたとき、電界が集中する。この電界集中のために、高電圧機器では、耐電圧性能の著しい低下や、時には絶縁破壊などの機能的な障害をきたすおそれがある。
【0003】
トリプルジャンクションなどでの電界集中を緩和させるため、従来から次に述べる3つのタイプの絶縁体又は絶縁装置が考えられている。
【0004】
第1に、電界集中を緩和するために、電界緩和電極を配置する絶縁装置がある。電界緩和電極は、シールドあるいは埋込電極とも呼ばれている。電界緩和電極を配置する絶縁装置では、相間、及び対地間距離が広がり、この絶縁装置を用いる高電圧機器の大型化というデメリットがある。
【0005】
第2に、低誘電率化した絶縁体がある。一般に、この低誘電率化した絶縁体は、特許文献1及び2に示すような、誘電率の低いエポキシ樹脂からなる有機絶縁材料が用いられている。この低誘電率化した絶縁体を設ける絶縁装置では、装置の大型化を回避できる。
【0006】
第3に、電界集中を緩和させるために、発生電界に応じて誘電率の異なる絶縁部材を適切な場所に配置し、これらを接合させた絶縁体がある。特許文献3には、高電圧充電部を支持する絶縁固定具において、埋金周囲に配置されたエポキシを主体とした高い誘電率の絶縁部と、この絶縁部の周囲の特定位置に配置形成されたエポキシを主体とした低い誘電率の絶縁部とからなる固体絶縁物が開示されている。特許文献4には、ガス絶縁機器に用いる絶縁スペーサーであって、その内部にガラス、カーボン、又はアラミド等の高誘電率部材を含むエポキシ樹脂が配置され、ガス等の絶縁媒体にさらされる部位にエポキシ樹脂からなる低い誘電率の絶縁部を配置するものが開示されている。これら絶縁固定具及び絶縁スペーサーでは、電界歪や不均衡による耐電圧低下を防止し、さらに絶縁体寸法を大型化すること無く、電界緩和の性能、及び耐電圧性能が良好に発揮される。
【0007】
さらに、特許文献1〜4の絶縁体にも使用されている、エポキシ樹脂からなる絶縁部材は、成形性に優れ、無機フィラーとの混合などによる誘電率の調整も容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−130126号公報
【特許文献2】特開平5−198208号公報
【特許文献3】特開平6−84419号公報
【特許文献4】特開平11−262143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1〜4にも開示されている、エポキシなどからなる有機絶縁材料は、熱、紫外線、又は薬品などによって、変性や変形が生じやすい点に難点がある。
【0010】
また、有機絶縁材料では、セラミックスなどの無機絶縁材料に比べ、理想的破壊電界強度が小さく絶縁耐圧が低いという難点がある。これらの理想的破壊電界強度や絶縁耐圧の難点から、有機絶縁材料では、特許文献3及び4に示すように異なる誘電率の絶縁部材を接合させて電界緩和を図る際にも、各絶縁部材についての誘電率や配置の選択範囲が狭くなってしまう。具体的に述べると、有機絶縁材料では、理想的破壊電界強度や絶縁耐圧の観点から、二つの絶縁部材間の誘電率の比を小さくするように制限されるため、大きな電界緩和効果、すなわち高い絶縁耐圧性能を得ることが難しい。
【0011】
上記の問題に鑑みて、本発明の課題は、単純形状で、かつ寸法の大型化を図ること無しに絶縁耐圧が高い絶縁体を提供すること、さらに、熱、紫外線、及び薬品などへの耐性に優れた絶縁体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明者等は、種々の絶縁体の材料について鋭意検討した結果、異なる誘電率を有したセラミックスを主成分とする2以上の部材が焼結により一体化されている絶縁体を見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明によれば、以下に示す絶縁体が提供される。
【0013】
[1] 誘電率の異なる2つのセラミックスを主成分とする誘電部を有し、前記誘電部のうち、誘電率15未満の低い誘電率を有するものが低誘電部とされ、誘電率15以上の高い誘電率を有するものが高誘電部とされ、前記低誘電部及び前記高誘電部が、焼結によって一体化している絶縁体。
【0014】
[2] 前記高誘電部の誘電率が、前記低誘電部の誘電率に対して、3〜20倍である前記[1]に記載の絶縁体。
【0015】
[3] 前記高誘電部は、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、酸化銅、酸化スズ、炭化珪素、ニオブ酸リチウム、及びニオブ酸鉛よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む前記[1]又は[2]に記載の絶縁体。
【0016】
[4] 高電圧が印加される導体と接触する導体接触面と、接地部と接触する接地接触面と、絶縁媒体と接触する絶縁媒体接触面と、を有し、前記低誘電部は、前記絶縁媒体接触面を形成し、前記高誘電部は、前記高誘電部と前記低誘電部との境界が前記絶縁媒体接触面に沿うように配置されている前記[1]〜[3]のいずれかに記載の絶縁体。
【発明の効果】
【0017】
本発明の絶縁体では、二つの異なる絶縁材料にセラミクッスなどの無機絶縁材料を採用することにより、有機絶縁材料では難しかった大きな誘電率比をとることが可能になる。さらに、本発明の絶縁体では、低誘電率部材からなる絶縁物の内側に高誘電率部材を配置できる尤度が広がったことにより、電界の集中を緩和し、トリプルジャンクションにおける電界強度の低減を図れ、耐電圧性能の向上、或いは本絶縁物を含む機器の小型化を実現できる。また、本発明の絶縁体では、無機絶縁材料であるため、熱、紫外線、及び薬品などへの優れた耐性も合わせて具備させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態である絶縁体の斜視図であり、低誘電部と高誘電部との境界は透視して破線にて示している図である。
【図2】図1の絶縁体が導体と接地部との間に設けられている様子を模式的に表す斜視図である。
【図3】図2中に示すA−A’断面の一部断面図であり、導体接触面及び接地接触面それぞれに導体及び接地部が接続された状態にて表されている図である。
【図4】導体から接地部への方向に沿った高誘電部の厚みZと、トリプルジャンクション部での電界強度との関係を説明するための図である。
【図5】トリプルジャンクション部と高誘電部との距離rと、トリプルジャンクション部での電界強度との関係を説明するための図である。
【図6】導体接触面と平行な方向での高誘電部の幅Dと、トリプルジャンクション部での電界強度との関係を説明するための図である。
【図7】本発明の一実施形態である絶縁体の斜視図であり、低誘電部と高誘電部との境界は透視して破線にて示している図である。
【図8】図7中に示すA−A’断面の一部断面図であり、導体接触面及び接地接触面それぞれに導体及び接地部が接続された状態にて表されている図である。
【図9】比較例1の一様な誘電率の絶縁体の斜視図である。
【図10】図9中に示すA−A’断面の一部断面図であり、導体接触面及び接地接触面それぞれに導体及び接地部が接続された状態にて表されている図である。
【図11A】実施例1の絶縁体における電位分布を表す図である。
【図11B】実施例1の絶縁体における電界分布を表す図である。
【図12A】比較例1の絶縁体における電位分布を表す図である。
【図12B】比較例1の絶縁体における電界分布を表す図である。
【図13A】比較例2の絶縁体における電位分布を表す図である。
【図13B】比較例2の絶縁体における電界分布を表す図である。
【図14A】比較例3の絶縁体における電位分布を表す図である。
【図14B】比較例3の絶縁体における電界分布を表す図である。
【図15】実施例1、及び比較例1〜3の絶縁体についてのトリプルジャンクション部での電界の強度を比較するグラフである。
【図16】実施例1、及び比較例1〜3の絶縁体ついての、導体から接地部への方向に沿った各位置での絶縁媒体接触面上の電界の強度を表すグラフである。
【図17A】実施例2の絶縁体における電位分布を表す図である。
【図17B】実施例2の絶縁体における電界分布を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0020】
1.絶縁体:
1−1.本発明の絶縁体の基本的な実施形態:
図1は、本発明の技術範囲に属する絶縁体1の斜視図である。本発明の絶縁体1は、セラミックスを主成分とし、異なる誘電率を有している、低誘電部2と高誘電部3とが焼結によって一体化しているものである。高誘電部3は、誘電率15以上であり、低誘電部2は、誘電率15未満である。なお、本明細書において、低誘電部2及び高誘電部3の誘電率について、高い、又は、低い、と述べるが、これは低誘電部2の誘電率と、高誘電部3の誘電率とを比較するときの相対的な評価である点に留意する。
【0021】
ここでいう「焼結により一体化」とは、低誘電部2と高誘電部3とが接触している境界21において、低誘電部2の主成分であるセラミックスの原料となるセラミックス粉末と、高誘電部3の主成分であるセラミックスの原料となるセラミックス粉末とが焼結によって結合し、低誘電部2と高誘電部2との結合が保持されていることをいう。
【0022】
また、このような焼結によって、絶縁体1としての使用に十分に耐えうるような低誘電部2と高誘電部2との結合を実現する程度に、低誘電部2及び高誘電部3にセラミックスが含まれていることを、「セラミックスを主成分とする」という基準にする。
【0023】
本発明の絶縁体1は、これを構成する低誘電部2及び高誘電部3が共にセラミックスを主成分とするため、エポキシ樹脂に代表される有機材料からなる絶縁体1と比較して、熱、紫外線、及び薬品などによる劣化も少ない。
【0024】
焼結による一体化により、本発明の絶縁体1は、低誘電部2と高誘電部3とが直接的に結合する。そのため、本発明の絶縁体1では、低誘電部2と高誘電部3との結合に接着剤などの電界に影響を及ぼしうる他の部材を排除できる。よって、本発明の絶縁体1では、電界の設計する際、低誘電部2及び高誘電部3それぞれの誘電率を単純に考慮すればよく、当業者であれば、シミュレーションによる電界の設計を容易に適用できる。なお、シミュレーションについては、実施例において一具体例を詳しく述べる。
【0025】
図1に示す絶縁体1は高誘電部3が低誘電部2の中に埋め込まれている形態になっているが、本発明の絶縁体1では、絶縁体1の仕様に応じ、絶縁媒体接触面13の一部が高誘電部3から形成される形態であってもよい。このような形態であっても、シミュレーションにより低誘電部2及び高誘電部3の最適な配置を見つけ出すことができる。
【0026】
本発明の絶縁体1は、上述の基本的な実施形態を備える限りにおいて、用途に応じて、形状・大きさなどを自由に設計できる。次に、本発明の絶縁体1について、誘電率、成分などに関する具体的な形態を説明しつつ、好ましい実施形態についても述べていく。
【0027】
1−2.低誘電部と高誘電部との間の誘電率比:
本発明の絶縁体1では、高誘電部3の誘電率が、低誘電部の誘電率に対して、3〜20倍であると好ましい。誘電率の比率を大きくすることにより電界の集中を緩和する作用が高まるため、本発明の絶縁体1は、トリプルジャンクション部61などにおいて、特許文献1及び2に示される均一かつ低誘電率化した絶縁材料よりも、優れた電界緩和の効果を実現できる。
【0028】
1−3.低誘電部の成分:
低誘電部2の主成分となるセラミックスは、低誘電部2の誘電率を15未満とし、低誘電部2と高誘電部3との焼結による一体化を実現させるものであればよい。
【0029】
低誘電部2の主成分となるセラミックスとしては、例えば、各種ガラス、アルミナ、ムライト、ジルコニア、窒化アルミ、窒化珪素、炭化珪素、コージェライトなどがある。また、低誘電部2は、ここに挙げたセラミックスが複数含まれるものであってもよい。
【0030】
1−4.高誘電部の成分:
高誘電部3の主成分となるセラミックスは、高誘電部3の誘電率を15以上とし、低誘電部2と高誘電部3との焼結による一体化を実現させるものであればよい。
【0031】
高誘電部3の主成分となるセラミックスとしては、例えば、各種ガラス、アルミナ、ムライト、ジルコニア、窒化アルミ、窒化珪素、炭化珪素、コージェライトなどがある。また、高誘電部3は、ここに挙げたセラミックスが複数含まれるものであってもよい。
【0032】
さらに、高誘電部3は、誘電率を高めるため、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、酸化銅、酸化スズ、炭化珪素、ニオブ酸リチウム、及びニオブ酸鉛よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。ここに挙げた成分の選択と量については、高誘電部3の誘電率、主成分となるセラミックスの種類などに応じて設定できる。
【0033】
1−5.導体と接地との間に設けられる絶縁体としての実施形態:
図2は、図1に示す本発明の絶縁体1が、高電圧が印加される導体31と接地部32との間に設けられている様子を模式的に示す。このように、本発明の絶縁体1は、導体31と接地部32との間を支持する絶縁支持体として使用できる。なお、絶縁支持体は、碍子、スペーサー、ブッシングなどとも呼ばれている。
【0034】
本発明の絶縁体1では、図2に示すような絶縁支持体として使用するとき、絶縁体1の表面について、次の面が規定される。
【0035】
図1及び図2を参照し述べると、本発明の絶縁体1の表面のうち、導体31と接触する表面は導体接触面11とし、接地部32と接触する表面は接地接触面12とし、絶縁媒体と接触する表面は絶縁媒体接触面13とする。
【0036】
本発明の絶縁体1の表面のうち、導体接触面11と絶縁媒体接触面13とが交わる箇所は、交点部14とする。
【0037】
図3は、図2中に示すA−A’断面の一部を表す。絶縁体1が導体31及び接地部32に接続されているとき、交点部14は、誘電率の異なる3つの物質、絶縁体1、導体31、及び絶縁媒体33が交わる、いわゆるトリプルジャンクション部61にあたる。トリプルジャンクション部61では、図3に示すように、絶縁媒体33を挟んで絶縁体1と導体31とが鋭角を形成したとき、電界が集中する。
【0038】
本発明の絶縁体1は、低誘電部2が絶縁媒体接触面13を形成していると好ましい。また、このとき、高誘電部3は、絶縁媒体接触面13、特にトリプルジャンクション部61における電界の集中を緩和させるような形状と配置にて設けられていると好ましい。
【0039】
1−6.本発明の絶縁体の利点:
絶縁媒体の破壊電圧は様々な要因により一義的に比較するのは困難であるが、通常、アルミナなどの無機絶縁材料の理想的破壊電界は1000kV/mmといわれており、対して、エポキシなどの有機絶縁材料の理想的破壊電界は100kV/mmといわれている。本発明の絶縁体1は、セラミックを主成分とする無機絶縁材料のみから構成されているため、有機絶縁材料では困難と考えられている、低誘電部2と高誘電部3との間の大きな誘電率比の設定、及び高誘電部3をトリプルジャンクション部61に近接させた特殊な配置などが可能になる。このように無機絶縁材料からなることに起因した本発明の絶縁体1の利点については、実施例においてシミュレーションを用い詳しく述べる。
【0040】
2.絶縁体の製造方法:
本発明の絶縁体1の製造方法は、従来公知の様々な方法を採用できる。例えば、射出成型、スリップキャスト、コールドアイソスタティックプレス、スラリーディップ、ドクターブレード法、及びゲルキャスト法などがある。
【0041】
ゲルキャスト法とは、セラミックス粉末、分散媒、及びゲル化剤を少なくとも含むスラリーを調製し、次いでこのスラリーを成形型の内部の成形空間に注型してゲル化させることにより成形体を形成し、さらにこの成形体を焼成することによってセラミックス製品を製造する方法である。ゲルキャスト法では、低誘電部2と高誘電部3とが複雑な形状にて組み合されることにも対応でき、一体化している低誘電部2と高誘電部3との境界21に欠陥が生じにくい利点もある。例えば、特開2001−335371号公報にゲルキャスト法が詳しく説明されている。
【0042】
例えば、次に述べるゲルキャスト法を用いる製造方法によって、本発明の絶縁体1を製造できる。
【0043】
2−1.ゲルキャスト法による成形及び焼成の概要:
ゲルキャスト法を用いる絶縁体の製造方法の一実施形態では、低誘電部2の型がとれる成形型と、低誘電部2と高誘電部3とが一体化した形状の型がとれる成形型を用意する。
【0044】
まず、低誘電部2の型がとれる成形型の成形空間内に低誘電部2のためのスラリーを注型してゲル化させ、低誘電部2のもとになる成形体を作製する。
【0045】
次いで、低誘電部2と高誘電部3とが一体化した形状の型がとれる成形型の成形空間の所定の場所に、先に成形された低誘電部2のもとになる成形体を配置し、残余の成形空間に高誘電部3のためのスラリーを注型してゲル化させることにより、低誘電部2と高誘電部3からなる絶縁体1のための成形体を作製する。
【0046】
続いて、この成形体を焼成することにより、低誘電部2の主成分であるセラミックスの原料となるセラミックス粉末と、高誘電部3の主成分であるセラミックスの原料となるセラミックス粉末とが境界21において焼結によって結合するため、低誘電部2と高誘電部3とが焼結によって一体化した絶縁体1ができる。
【0047】
低誘電部2と高誘電部3とが複雑な形の境界21を有して結合しているときには、2以上の成形型を用意して、低誘電部2及び高誘電部3の成形体を部分的に成形し、この部分的な成形を段階的に行うことにより、低誘電部2と高誘電部3からなる絶縁体1のための成形体を作りあげる方法を採用できる。
【0048】
また、高誘電部3が、誘電率の異なる複数の領域41から形成されるときには、上述の低誘電部2及び高誘電部3の成形と同様の方法を適用すればよい。すなわち、各領域41の誘電率に応じたスラリーを調製し、それぞれ領域41の形状の型がとれる成形型を用意して段階的に成形していけばよい。
【0049】
2−2.スラリー:
低誘電部2、及び高誘電部3を形成するためのスラリーは、セラミックス粉末、分散剤、バインダーなどを混合させて調製する。
【0050】
低誘電部2、及び高誘電部3を形成するためのスラリーの調製は、セラミックス粉末、分散剤、ゲル化剤などから調製し、場合によっては無機フィラーを適宜添加することにより、誘電率を調整しつつ行う。
【0051】
以上のようなゲルキャスト法では、成形型を使用するため、各部の寸法誤差を小さくできる。また、既に成形体の時点において、低誘電部2及び高誘電部3が所望の形状・配置にて一体の状態になるため、低誘電部2と高誘電部3とが焼結によって確実に一体化する。
【0052】
この絶縁体1の製造方法では、焼成の後、低誘電部2又は高誘電部3をトリミングして、電界の集中の緩和に適する形状に仕上げることもできる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
3−1.シミュレーションによるトリプルジャンクション部での電界集中の緩和の検討:
ここでは、図1に示す円錐台形の絶縁体1を想定したシミュレーションの一例を説明する。高誘電部3は、真円の断面の両端が開いた円筒形状であり、高誘電部3の円筒形状の軸19に沿った両端が平行になっている。このような高誘電部3が、高誘電部3の円筒形状の軸19を絶縁体1の円錐台形の軸20に合わせて低誘電部2の中に埋め込まれ、高誘電部3の一方の端部が導体接触面11に現れている。そのため、絶縁体1を導体接触面11は、軸19,20を中心として同心円状に、中心に低誘電部2、中間に高誘電部3、外周に低誘電部2という配置から構成される。
【0055】
図3は、図1及び図2中のA−A’断面の一部を表す、導体31及び接地部32に接続された絶縁体1の断面であり、軸19、20を含むように切られている。この円錐台形の絶縁体1では、導体接触面11が小さく接地接触面32が大きいため、導体31と絶縁媒体接触面13との間が鋭角になる。そのため、この図に示す絶縁体1では、導体接触面11と絶縁媒体接触面13とが交わる交点部14が、(電極)導体−絶縁物沿面−絶縁媒体の三要素が接触するトリプルジャンクション部61にあたり、導体31に高電圧をかけたときには電界が集中しやすくなる。
【0056】
高誘電部3の端部のうち、トリプルジャンクション部61に最も近い端部、換言すると交点部14に最も近い端部を交点側端部30とする。図3に示す絶縁体1において、交点側端部30は、導体接触面11上にある。
【0057】
まとめると、図1〜3に示す絶縁体1では、低誘電部2が、絶縁媒体接触面13を形成している。さらに、高誘電部3は、低誘電部2と高誘電部3との境界21が絶縁媒体接触面13に沿うように配置されている。具体的に述べると、高誘電部3の配置は、交点部14近傍、すなわちトリプルジャンクション部61近傍において、高誘電部3の交点側端部30から接地部32に向かって形成されている境界21aが絶縁媒体接触面13に沿うようになされている。
【0058】
上述の形態の絶縁体1において、低誘電部2と高誘電部3との誘電率比を10とし、絶縁媒体を真空としたときのシミュレーションの結果を、高誘電部3の形状及び配置に関する3つのパラメータに注目し、図3の断面図、及び図4〜6に示すデータを参照しつつ説明する。
【0059】
第1のパラメータは、高誘電部3の厚みZである。図3を参照し述べると、高誘電部3の厚みZは、導体接触面11上に現れている高誘電部3の一方の端部から他方の端部までの長さである。また、高誘電部3の厚みZは、絶縁媒体接触面13に沿うように交点側端部30から接地部32に向かって形成されている境界21aの長さにも比例している。
【0060】
図4のグラフでは、高誘電部3の厚みZとトリプルジャンクション部61での電界強度との関係をシミュレーションにて算出した結果が示されている。図1〜3に示す低誘電部2及び高誘電部3の形状と配置のケースでは、高誘電部3の厚みZが2.6mm以上あるとき、トリプルジャンクション部61の電界強度が十分に小さい、すなわちトリプルジャンクション部61での電界集中が緩和される。なお、高誘電部3の厚みZが2.6mm以上という数値は、後で述べる高誘電部3の幅D、交点側端部30とトリプルジャンクション部61との距離r、電圧、導体31と絶縁媒体接触面13との角度θによらないことがシミュレーションで判明している。さらに、高誘電部3の厚みZが2.6mm以上のときには、接地部32の側にある境界21bに発生する内部電界集中が、トリプルジャンクション部61に影響を及ぼさない。
【0061】
第2のパラメータは、高誘電部3の交点側端部30と交点部14(トリプルジャンクション部61)との距離rである。
【0062】
図5のグラフでは、距離rとトリプルジャンクション部61での電界強度との関係をシミュレーションにて算出した結果が示されている。なお、図5のグラフのシミュレーションでは、前述の高誘電部3の厚みZが2.6mmに設定されている。図5のグラフから、距離rが、小さいときほどトリプルジャンクション部61での電界強度が小さくなる、すなわちトリプルジャンクション部61での電界集中が緩和されることがわかる。距離rが0mmのとき、すなわち高誘電部3の交点側端部30が交点14(トリプルジャンクション部61)と一致するとき、トリプルジャンクション部61での電界強度が最も小さくなる。
【0063】
第3のパラメータは、高誘電部3の幅Dである。図3を参照し述べると、高誘電部3の幅Dは、導体31に対して平行に、交点側端部30から絶縁体1の軸20に向かう方向に測られる高誘電部3の長さである。
【0064】
図6のグラフでは、高誘電部3の幅Dとトリプルジャンクション部61での電界強度との関係をシミュレーションにて算出した結果が示されている。図6のグラフから、図1〜3に示す低誘電部2及び高誘電部3の形状と配置のケースにおいて、高誘電部3の幅Dが3mm以上のとき、トリプルジャンクション部61での電界強度が十分に小さい、すなわちトリプルジャンクション部61での電界集中が緩和されることがわかる。これは、高誘電部3の幅Dが3mm以上あれば、境界21a全体に沿って電位を引き込む効果が十分に現れ、結果、トリプルジャンクション部61近傍の電界は弱まるからである。
【0065】
以上のシミュレーションの結果から、図1〜3に示す低誘電部2及び高誘電部3の形状と配置のケースにおいて、高誘電部3の厚みZが2.6mm以上、高誘電部30の交点側端部30と交点部14(トリプルジャンクション部61)との距離rが0mm、高誘電部3の幅Dが3mm以上のとき、トリプルジャンクション部61での電界集中が十分に緩和されることが判明した。次に、上述の高誘電部3の形状及び配置を備えた絶縁体1における、低誘電部2と高誘電部3との誘電率比、及び材質との関係に着目してシミュレーションした結果を述べる。
【0066】
3−2.低誘電部と高誘電部の誘電率比の検討:
3−2−1.絶縁体の構成:
図1、図7及び図9に示す円錐台形の絶縁体1についてのシミュレーションをした。次に述べる実施例1及び比較例1〜3の絶縁体1は、導体接触面11の直径20mm、接地接触面12の直径40mm、高さ10mmの円錐台形とし、絶縁体1の導体接触面11には100kVの電圧がかかる導体31を接続し、絶縁媒体33は真空とした。絶縁体1の材質、誘電率比については、次に述べるものに設定した。
【0067】
(実施例1)
上述の、図1〜3に示す低誘電部2及び高誘電部3の形状と配置と同じであり、上述のシミュレーションにおいてトリプルジャンクション部61での電界集中の十分な緩和が示された形態である、高誘電部3の厚みZが2.6mm、高誘電部30の交点側端部30と交点部14(トリプルジャンクション部61)との距離rが0mm、高誘電部3の幅Dが3mmとなるように設定した。低誘電部2及び高誘電部3が、ともにセラミックスを主成分とする無機絶縁材料からなり、低誘電部2の誘電率が8、高誘電部3の誘電率が80とした。
【0068】
(実施例2)
図7は、実施例2の絶縁体1の斜視図である。図8は、図7中のA−A’断面の一部断面図であり、導体接触面11及び接地接触面12それぞれに導体31及び接地部32が接続された状態にて表されている。高誘電部3は、直径20mm、高さ10mmの円柱形状として絶縁体1の中心に配置した。実施例2の絶縁体1において、交点側端部30は、交点部14(トリプルジャンクション部61)に一致し、境界21aは、絶縁媒体接触面13に沿って交点側端部30から接地接触面12まで形成されている。
【0069】
(比較例1)
図9の斜視図及び図10の断面図に示す、エポキシ樹脂の有機絶縁材料からなり、誘電率5にて一様な円錐台形の絶縁体1とした。
【0070】
(比較例2)
低誘電部2及び高誘電部3は、ともにエポキシ樹脂からなる有機絶縁材料とし、低誘電部2の誘電率が5、高誘電部3の誘電率が9とした以外は、実施例1に同じとした。
【0071】
(比較例3)
低誘電部2及び高誘電部3は、ともにエポキシ樹脂からなる有機絶縁材料とし、低誘電部2の誘電率が5、高誘電部3の誘電率が50とした以外は、実施例1に同じとした。
【0072】
3−2−2.シミュレーションの結果及び評価:
シミュレーションにより得られた電位分布について、実施例1は図11A、比較例1は12A、及び比較例2は図13A、比較例3は図14Aに示す。シミュレーションにより得られた電界分布について、実施例1は図11B、比較例1は12B、及び比較例2は図13B、比較例3は図14Bに示す。さらに、実施例1及び比較例1〜3の絶縁体1について、トリプルジャンクション部61での電界強度を図15のグラフに示す。なお、図15のグラフに示すトリプルジャンクション部61での電界強度は、比較例1におけるトリプルジャンクション部61での電界強度を100した相対値にて表す。
【0073】
誘電率5にて一様な比較例1の絶縁体1よりも、低誘電部2と高誘電部3とからなる、実施例1、比較例2及び比較例3の絶縁体1では、トリプルジャンクション部61での電界強度が小さいことが判明した。さらに、誘電部2と高誘電部3とからなる絶縁体1でも、低誘電部2と高誘電部3との間の誘電率比が大きい実施例1及び比較例3の絶縁体1は、比較例2の絶縁体1と比べ、トリプルジャンクション部61での電界強度がより小さいことが判明した。
【0074】
なお、図11B及び図14B中の矢頭にて示すように、実施例1及び比較例3の絶縁体1では、低誘電部2と高誘電部3との境界21に内部電界集中が生じることが判明した。この内部電界中の程度は、セラミックスを主成分とする無機絶縁材料からなる実施例1の絶縁体1では内部絶縁破壊は生じないが、エポキシ樹脂の有機絶縁材料からなる比較例3の絶縁体1では内部絶縁破壊が生じることが予想されるものであった。
【0075】
図16のグラフは、実施例1及び比較例1〜3の絶縁体1について、導体接触面11から接地接触面12への方向に沿った絶縁媒体接触面13上の各位置での電界強度を示す。図16のグラフの縦軸の上限(Z=10mm)は、トリプルジャンクション部61に相当する。比較例1の絶縁体1では、トリプルジャンクション部61における電界強度が著しく大きい。比較例2の絶縁体1では、比較例1と比べ、トリプルジャンクション部61における電界強度の増大は若干和らいでいた。実施例1及び比較例3の絶縁体1では、トリプルジャンクション部61での電界強度が小さく、むしろ導体接触面11と接地接触面12との中間の位置での絶縁媒体接触面13上で電界強度が大きいことが判明した。
【0076】
図17A及び図17Bは、それぞれ実施例2の絶縁体1における電位分布及び電界分布を表す。低誘電部2と高誘電部3との境界21aが、絶縁媒体接触面13に沿って交点側端部30から接地接触面12まで形成されている形態においても、トリプルジャンクション部61での電界集中の緩和がなさることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、ガス絶縁機器の絶縁支持体やケーブル接続部の絶縁部材などとして使用される、セラミックスを主成分とする絶縁体として利用できる。
【符号の説明】
【0078】
1:絶縁体、2:絶縁媒体接触部、3:高誘電率部、11:導体接触面、12:接地接触面、13:絶縁媒体接触面、14:交点部、19:円筒形状の軸、20:円錐台形の軸、21:境界、21a:境界、21b:境界、31:導体、32:接地部、33:絶縁媒体、61:トリプルジャンクション部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電率の異なる2つのセラミックスを主成分とする誘電部を有し、
前記誘電部のうち、誘電率15未満の低い誘電率を有するものが低誘電部とされ、誘電率15以上の高い誘電率を有するものが高誘電部とされ、
前記低誘電部及び前記高誘電部が、焼結によって一体化している絶縁体。
【請求項2】
前記高誘電部の誘電率が、前記低誘電部の誘電率に対して、3〜20倍である請求項1に記載の絶縁体。
【請求項3】
前記高誘電部は、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、酸化銅、酸化スズ、炭化珪素、ニオブ酸リチウム、及びニオブ酸鉛よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1又は2に記載の絶縁体。
【請求項4】
高電圧が印加される導体と接触する導体接触面と、接地部と接触する接地接触面と、絶縁媒体と接触する絶縁媒体接触面と、を有し、
前記低誘電部は、前記絶縁媒体接触面を形成し、
前記高誘電部は、前記高誘電部と前記低誘電部との境界が前記絶縁媒体接触面に沿うように配置されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の絶縁体。
【請求項1】
誘電率の異なる2つのセラミックスを主成分とする誘電部を有し、
前記誘電部のうち、誘電率15未満の低い誘電率を有するものが低誘電部とされ、誘電率15以上の高い誘電率を有するものが高誘電部とされ、
前記低誘電部及び前記高誘電部が、焼結によって一体化している絶縁体。
【請求項2】
前記高誘電部の誘電率が、前記低誘電部の誘電率に対して、3〜20倍である請求項1に記載の絶縁体。
【請求項3】
前記高誘電部は、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、酸化銅、酸化スズ、炭化珪素、ニオブ酸リチウム、及びニオブ酸鉛よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1又は2に記載の絶縁体。
【請求項4】
高電圧が印加される導体と接触する導体接触面と、接地部と接触する接地接触面と、絶縁媒体と接触する絶縁媒体接触面と、を有し、
前記低誘電部は、前記絶縁媒体接触面を形成し、
前記高誘電部は、前記高誘電部と前記低誘電部との境界が前記絶縁媒体接触面に沿うように配置されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の絶縁体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【図15】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【図15】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【公開番号】特開2010−232016(P2010−232016A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78368(P2009−78368)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
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