説明

絶縁層付金属基板およびその製造方法、半導体装置およびその製造方法、太陽電池およびその製造方法、電子回路およびその製造方法、ならびに発光素子およびその製造方法

【課題】高い絶縁性を有し、かつ耐熱性、耐曲げ性、長期信頼性に優れたフレキシブルな絶縁層付金属基板およびその製造方法、この基板を用いた半導体装置およびその製造方法、この基板を用いた太陽電池およびその製造方法、この基板を用いた電子回路及びその製造方法、ならびにこの基板を用いた発光素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】絶縁層付金属基板10は、アルミニウムよりも線熱膨張係数が小さい金属からなる金属基材12の少なくとも片面にアルミニウム基材14を配した金属基板と、アルミニウム基材に形成されたアルミニウムのポーラス型陽極酸化皮膜16とを有する。陽極酸化皮膜は、バリア層部分とポーラス層部分からなり、ポーラス層部分が室温で0.10%以上の圧縮方向の歪みである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁層として陽極酸化皮膜を持ち、半導体装置、太陽電池等に用いられる絶縁層付金属基板およびその製造方法、半導体装置およびその製造方法、太陽電池およびその製造方法、電子回路およびその製造方法、ならびに発光素子およびその製造方法に関し、特に、陽極酸化皮膜が室温で圧縮方向の歪みを有する絶縁層付金属基板およびその製造方法、半導体装置およびその製造方法、太陽電池およびその製造方法、電子回路およびその製造方法、ならびに発光素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の高性能化・高機能化・小型化・軽量化に伴い、レーザー、LED、有機ELなどの発光素子、CPU、電子デバイス、電子回路などを実装する基板の小型化、薄型化、軽量化、およびフレキシブル化が求められている。フレキシブル基板としては、耐熱性の高分子フィルム、例えばポリイミド樹脂、ポリエーテルなどが用いられている。
また、半導体デバイスでは、発熱が大きいため、発煙・発火などの事故を防ぐという安全面、あるいは熱による性能低下、劣化、および故障を防ぐという信頼性の面で、熱対策が不可欠である。デバイスで発生した熱は、基板を介しての熱伝導、および空気への熱伝達と空気の対流、あるいは輻射などによって放熱するが、一般には、放熱の大部分は基板への熱伝導によってなされる。そのため、高い伝熱性を有する基板が求められており、新規な放熱材料・高熱伝導性材料が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
一般に有機材料は、極めて熱伝導性が低く(熱伝導率λ=0.2W/mK程度)、熱伝導性のフィラーとの複合化などにより、熱伝導率の向上が試みられているものの、10W/mK程度までの熱伝導率向上にとどまっており、充分とは言えない。
そこで、放熱性の高いアルミニウムを主体とし、その上に絶縁層を付与した基板が使われるようになってきた(例えば、特許文献2参照)。絶縁層として、エポキシ樹脂などの有機物を用いる手法などが提案されているが、この場合、アルミニウムと有機物の接着力が弱いことが課題であり、長期にわたっての電子機器の使用中に剥離を招く虞がある。これらを改善する試みはなされているが、充分とは言えない。
【0003】
そこで、現在、金属基材上に陽極酸化皮膜を形成して絶縁膜として利用する試みがされている(例えば、特許文献3、4参照)。
特許文献3には、金属基板と、この金属基板の少なくとも一方の面に、陽極酸化可能な金属からなる中間層を介して配設された絶縁層とを備え、絶縁層が中間層を構成する金属の陽極酸化物からなる耐熱性絶縁基板が開示されている。
特許文献3の耐熱性絶縁基板においては、金属基板に、ステンレス基板、銅基板、アルミニウム基板、チタン基板、鉄基板、鉄合金基板のいずれかを用いることが記載されている。なお、特許文献3では中間層がアルミニウムの場合、陽極酸化皮膜はAl(アルミナ)膜となる。
また、特許文献3の耐熱性絶縁基板は、センサーやマイクロリアクターに適用されるものであり、使用温度としては200℃以上を想定している。さらに、特許文献1においては、フォトリソグラフィー法によって中間層と絶縁層との積層体を所望のパターンに形成できることが記載されている。
【0004】
アルミニウムを陽極酸化してなるAl膜は、陽極酸化皮膜自体の耐熱性は非常に高い。また、Alはセラミックスであるから絶縁性もある。さらに、陽極酸化皮膜の形成自体は、工業的にロールトゥロールで行われているものであり、生産性も高い。
【0005】
また、特許文献4には、アルミニウム基板に陽極酸化により複数の細孔を有する第一の絶縁性酸化膜を形成し、細孔の部分に第二の絶縁性の膜を形成し封孔率5〜80%で封孔することにより得られる太陽電池用基板上に、光電変換層を有する太陽電池が記載されている。
【0006】
一方、特許文献5には、線熱膨張係数が小さく、軟化温度がアルミニウムより高い金属基材と、アルミニウムを複合した基材を用い、アルミニウム表面に陽極酸化皮膜を形成させる技術が開示されている。この特許文献5に開示の基板は、より高温まで軟化しないため、アルミニウムの軟化温度を超える温度領域でも耐熱性を有している。
【0007】
このような陽極酸化皮膜つきの複合基板を耐熱性絶縁基板として用いるにあたって、デバイス実装時のはんだリフロー耐性、半導体素子製造時の耐熱性、ロールトゥロールでの製造時、および可撓性基板としての耐曲げ性、長期にわたっての耐久性、強度が課題となる。これらはいずれも、陽極酸化皮膜に対して外部から応力が与えられた際に、陽極酸化皮膜がこの応力に耐えられずにクラックが生じることによって発生する問題である。
【0008】
複合基板上の陽極酸化皮膜にクラックが生じる原因は、基材の線熱膨張係数(例えば、フェライト系ステンレスであれば10ppm/K)が陽極酸化皮膜の線熱膨張係数よりも大きいことにある。ここで、陽極酸化皮膜の線熱膨張係数は、発明者により、5ppm/K程度であることが分かっている。フェライト系ステンレスの線熱膨張係数は10ppm/Kであることから、温度上昇によって、陽極酸化皮膜には5ppm/Kという線熱膨張係数差に起因する引張応力に陽極酸化皮膜が耐えきれないため、上記のようにクラックが生じると考えられる。
【0009】
例えば、基板に半導体素子などを実装する際においては、コストが低く、処理時間が短い手法であるはんだリフローの工程を用いることが多い。この手法は、実装基板全体を赤外線や熱風などによって加熱するため、基板への熱ストレスが大きい。はんだリフロー条件は、例えば、銀/スズ共晶はんだの場合は、温度210℃で30秒などであり、この工程を通しても、絶縁層にクラックなどが発生せず、基板の絶縁性が失われないことが必要である。
しかしながら、従来の陽極酸化基板を使用した場合、耐熱性に劣り、はんだリフロー工程において陽極酸化皮膜にクラックが発生し、絶縁性が低下する。
非特許文献1から明らかなように、Al基板上の陽極酸化皮膜は、120℃以上に加熱するとクラックが発生することが知られており、一度クラックが発生すると絶縁性、特にリーク電流が増大してしまうという問題を抱えている。
【0010】
また、実際の機器の使用環境では、稼動時にはデバイスからの発熱によって高温になっており、室温と高温の繰り返しにより、基板の熱膨張・収縮を繰り返すことから、経時での劣化も問題になる。
長期にわたって昇温・降温を繰り返すと、陽極酸化皮膜の内部、陽極酸化皮膜の表面、または陽極酸化皮膜と金属基材との界面に応力集中し、クラックの発生、伝播が起こりやすく、耐クラック性の点で課題がある。特に、絶縁性を必要とする電子デバイスの基板に、絶縁層として陽極酸化皮膜が形成された基板を用いる場合、絶縁層にクラックが発生すると、漏洩電流のパスとなり、絶縁性の低下要因となる。また、クラックをパスとした漏洩電流により、最悪の場合、絶縁破壊にまでつながる恐れもある。
【0011】
さらに、クラックの発生による絶縁性低下の問題は、衝撃が加わったり、ロールトゥロールでの搬送時に曲げ歪みが加わったり、といった場合にも起こりうる。
このように、陽極酸化皮膜付基板を絶縁性基板として用いることは、耐熱性、耐曲げ性、長期信頼性といった様々な点で問題がある。従来のアルミニウム単材上に形成された陽極酸化皮膜に関しては、これらの種々の問題を改善する試みが従来からなされている(例えば、特許文献6〜11参照)。
【0012】
特許文献6には、合金成分として、Mg:0.1〜2.0%(「質量%」)、Si:0.1〜2.0%、Mn:0.1〜2.0%を含有し、Fe、CrおよびCuの各含有量がそれぞれ0.03%以下に規制され、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金と、このアルミニウム合金の表面に形成された陽極酸化皮膜とを備えた陽極酸化処理アルミニウム合金が開示されている。この合金においては、陽極酸化皮膜の厚み方向には硬さが異なる部位を有し、硬さが最大の部位と最小の部位との差はビッカース硬さで5以上である。この特許文献6の陽極酸化処理アルミニウム合金では、クラックが入ったとしても、クラックの伝播が抑制されて、クラックがアルミニウム合金自体まで伸展しないようにできるとしている。
【0013】
また、特許文献7には、電子写真プロセスを利用した複写機に用いられる薄肉定着ロールにおいて、ロール素材内面から遠い側の硬度をロール素材内面に近い側よりも高硬度として、硬度差を付与することが開示されている。特許文献7の薄肉定着ロールにおいては、変形に伴う剥離に強く、耐クラック性を改善することができるとしている。
【0014】
さらに、特許文献8の樹脂塗装アルミニウム合金部材は、アルミニウム合金基材の表面部分には封孔処理を施された陽極酸化皮膜が形成され、その陽極酸化皮膜上にフッ素樹脂あるいはシリコン樹脂等の樹脂塗膜層が形成されており、陽極酸化皮膜にはネット状のクラックが形成されている。このような陽極酸化皮膜のネット状クラック内には、その上の樹脂塗膜層から連続する樹脂が侵入含浸されている。
特許文献8においては、クラック内の樹脂はネット状クラックに沿って面方向に連続、分岐したネット状をなしているため、そのクラック内の樹脂と一体化している樹脂塗膜層が陽極酸化皮膜に対して強力に保持されており、極めて高い密着性を示すことになるとしている。
【0015】
特許文献9には、真空チャンバ用の部品材料として、耐クラック性と耐腐食性が優れた陽極酸化皮膜が開示されている。アルミニウム合金基材と陽極酸化皮膜の線熱膨張係数差によって陽極酸化皮膜に力が加わり、皮膜が耐える力を上回ったときにクラックが発生するとしている。皮膜に加わる力は、ポーラス型陽極酸化皮膜の空隙率が大きくなると小さくなる一方、皮膜が耐える力は、ポーラス型陽極酸化皮膜の真密度が大きくなると大きくなるとしている。したがって、陽極酸化皮膜の空隙率と真密度が大きいほど、耐クラック性の高い陽極酸化皮膜になるとしている。
【0016】
特許文献10では、陽極酸化皮膜の構造を、陽極酸化物層中の成長方向に伸びたポアと略直角方向に交差する空孔を有する構造とすることで、導通の原因となる加熱時の割れが抑制されると記載されている。その結果、大面積の板材として用いられたとしても全面に亘って十分な絶縁性が確保できるようになるとしている。
【0017】
前述のように、内部応力の大きさと、クラックの発生は、密接に関連している。従来、陽極酸化皮膜の内部応力については、特許文献11などにおいて記載されている。特許文献11によれば、3μm以上の陽極酸化皮膜では、内部応力は引張応力になることが示されている。また、同文献では、アルミニウムの陽極酸化皮膜の強度を上げるためには、引張り方向の応力を小さくすればよいことが開示されている。室温において圧縮応力がかかっている陽極酸化皮膜は、経時変化により、陽極酸化皮膜内部、陽極酸化皮膜表面、陽極酸化皮膜のアルミニウム界面に応力集中点が生じたとしても、皮膜に圧縮歪みがかかっていることから、クラックの発生につながりにくく、耐クラック性に優れると考えられる。
なお、特許文献11と同様に、陽極酸化アルミニウム皮膜の内部応力を制御した先行研究例には、例えば、非特許文献2などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2010−47743号公報
【特許文献2】特許2630858号公報
【特許文献3】特開2009−132996号公報
【特許文献4】特開2009−267664号公報
【特許文献5】特許第4629153号公報
【特許文献6】特開2009−46747号公報
【特許文献7】特開2002−196603号公報
【特許文献8】特許第3210611号公報
【特許文献9】特開2010−133003号公報
【特許文献10】特開2000−349320号公報
【特許文献11】特開昭61−19796号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】茅島正資、莚 正勝、東京都立産業技術研究所、研究報告、第3号、2000年12月、p21
【非特許文献2】前嶋正受 外2名,アルミニウム陽極酸化皮膜の内部応力,アルトピア,2006年12月15日,Vol.36,No.12,pp.50-54
【非特許文献3】R.S. Alwittら、Journal of Electrochemical Society, Vol. 140, No.5, p.1241, (1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、圧縮応力を有する陽極酸化皮膜は、3μm未満の膜厚の場合であり、3μm以上では引張応力に転じるとされている。その理由として、以下の記載がある。
一般に、酸性の電解液中で得られる陽極酸化皮膜は、アルミニウムとの界面付近に存在するバリア層と呼ばれる緻密な層と、表面側に存在するポーラス層と呼ばれる多孔質の層からなる。このうち、バリア層は圧縮応力を有する。これは、単体のアルミニウムから陽極酸化アルミニウムが形成される際に、体積膨張を伴うためである。一方、ポーラス層は引張応力を有することが知られる。そのため、陽極酸化皮膜の膜厚が大きい場合には、陽極酸化皮膜全体ではポーラス層の影響が大きく現れ、陽極酸化皮膜全体では引張応力を示すようになることが知られる。特許文献11においては、3μm以下では圧縮応力を有するが、3μmを超えると引張応力に転じることが記載されている。
【0021】
また、特許文献11の陽極酸化皮膜は、例えば2μmの場合、6kg/mm、すなわち、54MPaの圧縮応力を示すことが開示されている。この圧縮応力値は、本明細書中で用いている歪み量に換算すると、0.03〜0.04%の圧縮歪みに相当する(アルミニウムのヤング率を150GPaと想定)。本発明者らの計測では、この程度の圧縮歪み量では、皮膜に応力を加えた場合に、クラックが発生し、さらに伸展してしまうことが明らかになった。すなわち、実使用状態においても、上述したような何らかの原因によって一旦クラックが発生すると、クラックが伸展し、ひいては絶縁層の破壊、絶縁性の低下を引き起こす。
【0022】
特許文献11と同様に陽極酸化アルミニウム皮膜の内部応力を制御した非特許文献2においても、圧縮応力が不足しており、長期の信頼性を必要とする絶縁層つき金属基板の用途には不適である。
【0023】
非特許文献3には、陽極酸化皮膜に対して、蒸気封孔処理と呼ばれる処理を行うことによって、皮膜の内部応力を、引張応力から圧縮応力へと変化させられることが記載されている。しかしながら、圧縮応力の値は最大でも40MPa未満であり、この圧縮応力値は、同様に歪み量に換算すると、0.02〜0.03%の圧縮歪みに相当する。上述のようにこの程度の圧縮歪み量では、一旦クラックが発生すると、クラックが伸展し、ひいては絶縁層の破壊、絶縁性の低下を引き起こす。また、陽極酸化皮膜の絶縁性は、湿度に対する依存性が高く、湿度下では絶縁性が低下することが知られており、蒸気封孔処理を施すと、絶縁性そのものの低下を引き起こすため、長期の信頼性を必要とする絶縁層つき金属基板の用途には不適である。
【0024】
上述の特許文献6〜8においては、クラックの進展を抑制したり、クラックの入り方を制御したりする効果を求めるもので、本質的なクラックの発生を防止することにはならないという問題があった。
【0025】
前述のように、クラックは、陽極酸化皮膜と基材の熱膨張差による引張応力に、陽極酸化皮膜が耐えられず、破断限界を超えた場合に発生する。すなわち、破断限界となる引張応力を受ける温度が、その陽極酸化皮膜のクラック発生温度であるといえる。
ここで、陽極酸化アルミニウム皮膜の破断限界は、以下のように見積もられる。本発明者によって、通常の陽極酸化アルミニウム皮膜の有する室温における内部歪みが0.03%程度の圧縮歪みから0.06%程度の引張り歪みであること、線熱膨張係数が5ppm/K程度であることが明らかになっている。アルミニウム基板上の陽極酸化皮膜の場合、アルミニウムの線熱膨張係数は23ppm/Kであることから、温度上昇によって、陽極酸化皮膜には18ppm/Kの割合で引張歪みが加えられることになる。これを模式的に示したのが図7である。クラック発生温度が、おおよそ120〜150℃程度であることから、陽極酸化皮膜は、おおよそ0.16%〜0.23%の引張り歪みを受けるとクラックが発生することが示される。この歪み量は、一般的に、セラミックスの引張り破断限界が0.1〜0.2%程度とされていることに矛盾しない。
ここで、陽極酸化皮膜の室温における内部歪みが、圧縮歪みになっている陽極酸化皮膜を加熱した場合、図7に示すように、上記の破断限界である、0.16%〜0.23%の引張り歪みを受ける温度を上昇させることができ、クラック発生温度を高めることができると考えられる。
【0026】
特許文献11においても、内部応力が圧縮応力になっている陽極酸化皮膜が開示されているが、特許文献11の陽極酸化皮膜は、膜厚が3μmを超えると引張応力に転じることが述べられている。膜厚が3μm以下ならば、内部応力が圧縮であるが、前述のように、クラックの発生、伸展を防ぎ、長期にわたる絶縁信頼性を確保することは難しい。
また、絶縁破壊電圧の観点からは、陽極酸化皮膜の膜厚が薄い場合は、そもそも初期の絶縁性が得られず、絶縁層つき金属基板として用いることができない。本発明者らの計測から、以下に述べるように、絶縁性を確保するには、最低でも3μm程度の膜厚が必要であることから、この特許文献11で開示されている陽極酸化皮膜つき基板を、絶縁層付き金属基板として用いることは、絶縁性の点からも難しい。
【0027】
陽極酸化アルミニウムの絶縁性は、陽極酸化皮膜の膜厚に依存することが知られている。特許文献11の陽極酸化皮膜を絶縁性基板として用いようとすると、圧縮応力がかかっている膜厚が3μm程度以下では、充分な絶縁性を確保することができない。絶縁性の指標として絶縁破壊電圧に着目すると、例えば、高電圧がかかる半導体装置、太陽電池、あるいは高温での稼動が想定される半導体装置などでは、数百V以上の絶縁耐圧が必要である。例えば、太陽電池用基板としての用途では、基板上に単セルを集積させ、複数個を直列接続して数十V乃至数百Vの出力電圧を得る。200V程度の絶縁破壊電圧を得るには、3μm程度を超える厚さの陽極酸化皮膜が求められる。そのような絶縁皮膜を得るには、ポーラス層を厚くせざるを得ず、必然的に陽極酸化皮膜全体が引張応力を有することになる。そのため、半導体素子製造時の耐熱性、ロールトゥロールでの製造時、および可撓性基板としての耐曲げ性、長期にわたっての耐久性、強度の点で課題を有している。
【0028】
本発明の目的は、前記従来技術に基づく問題点を解消し、高温環境下に曝されたり、曲げ歪みを受けたり、または長期にわたって温度サイクルを経たりした場合においても、絶縁層として形成された陽極酸化皮膜のクラックの発生を抑制することができる絶縁層付金属基板およびその製造方法、この絶縁層付金属基板を用いた半導体装置およびその製造方法、太陽電池およびその製造方法、電子回路およびその製造方法、ならびに発光素子およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明は、陽極酸化皮膜の内部応力を制御し、圧縮歪みとすることによって、高温でのクラック耐性を向上させ、かつ、陽極酸化皮膜の厚さを数μm以上とすることによって、絶縁性を充分に確保しようとするものである。従来、これらを両立させた陽極酸化皮膜は存在せず、また、以下で述べるように、その原理は、先行技術とは全く異なる手段からなっている。
【0030】
本発明者らは、アルミニウムと異種金属の複合基板を基材とした場合に、後述するアニール処理と呼ばれる処理を実施することにより、ポーラス型の陽極酸化アルミニウム皮膜に高い圧縮歪みを付与できることを見いだした。アニール処理実施後に、ポーラス型の陽極酸化アルミニウム皮膜には、0.10%以上の高い圧縮歪みがかかる。この絶縁層つき基板においては、クラックの発生、伸展がないため、絶縁性低下が起こらず、長期にわたる絶縁信頼性を確保することができる。また、この基板は、従来技術の複合基板に対して、耐熱性をさらに向上させることができる利点を有する。
【0031】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様は、絶縁層付金属基板であって、アルミニウムよりも線熱膨張係数が小さい金属からなる金属基材の少なくとも片面にアルミニウム基材を配した金属基板と、前記アルミニウム基材に形成されたアルミニウムのポーラス型陽極酸化皮膜とを有し、前記陽極酸化皮膜は、バリア層部分とポーラス層部分からなり、前記ポーラス層部分が室温で0.10%以上の圧縮方向の歪みであることを特徴とする絶縁層付金属基板を提供するものである。
従来技術において、陽極酸化皮膜が有する歪みとクラック耐性の関係については、着目されてこなかった。また、歪みの大きさに関しても、ポーラス層部分が室温で引張方向の歪みを有している陽極酸化皮膜は特許文献7などにおいて公知であるが、本発明では、ポーラス層部分が室温で圧縮方向の歪みを有しており、かつ、その大きさが既存の技術では達成できない程度に大きく、これによって高い耐クラック性を実現している点で、従来公知の技術とは異なっている。
【0032】
この場合、前記歪みの大きさは、0.10〜0.25%であることが必要である。
圧縮歪みが0.10%未満では、圧縮歪みではあるものの、不充分であり、耐クラック性の効果が得られない。そのため、最終製品形態において曲げ歪みを受けたり、長期にわたって温度サイクルを経たり、外部から衝撃、または応力を受けたりした場合に、絶縁層として形成された陽極酸化皮膜にクラックが生じて、絶縁性の低下にいたる。そのため、圧縮歪みは0.10%以上が必要である。更に好ましくは、0.15%以上である。
一方、圧縮歪みの上限値は、陽極酸化皮膜が剥離したり、陽極酸化皮膜に強い圧縮歪みが加わることにより、クラックが発生したり、陽極酸化皮膜が盛り上がって平坦性が低下したり、剥離したりするため、絶縁性が決定的に低下する。そのため、圧縮歪みは0.25%以下が必要である。
【0033】
この場合、前記陽極酸化皮膜は、厚さが3〜50μmであることが好ましい。
3μm以上の膜厚を有することによる絶縁性、および、室温で圧縮応力を有することによる成膜時の耐熱性、さらに長期の信頼性の両立を図る。
膜厚は、好ましくは3μm以上50μm以下、さらに好ましくは5μm以上30μm以下、特に好ましくは5μm以上20μm以下である。
膜厚が極端に薄い場合、電気絶縁性とハンドリング時の機械衝撃による損傷を防止することができない虞がある。また、絶縁性、耐熱性が急激に低下するとともに、経時劣化も大きくなる。これは、膜厚が薄いことにより、陽極酸化皮膜表面の凹凸の影響が相対的に大きくなり、クラックの基点となってクラックが入りやすくなったり、アルミニウム中に含まれる金属不純物に由来する陽極酸化皮膜中の金属析出物、金属間化合物、金属酸化物、空隙の影響が相対的に大きくなって絶縁性が低下したり、陽極酸化皮膜が外部から衝撃、または応力を受けたときに破断してクラックが入りやすくなったりするためである。また、膜厚が3μmを下回ると、電圧を印加した際の絶縁破壊が極端に発生しやすくなり、絶縁性が失われる。結果として、陽極酸化皮膜が3μmを下回ると、絶縁性が確保できなくなるため、可撓性耐熱基板としての用途、またはロールトゥロールでの製造には向かなくなる。
【0034】
また、膜厚が過度に厚い場合、可撓性が低下すること、および陽極酸化に要するコスト、および時間がかかるため好ましくない。また、曲げ耐性や熱歪み耐性が低下する。曲げ耐性が低下する原因は、陽極酸化皮膜が曲げられた際に、表面とアルミニウム界面での引張応力の大きさが異なるため、断面方向での応力分布が大きくなり、局所的な応力集中が起こりやすくなるためであると推定される。熱歪み耐性が低下する原因は、基材の熱膨張により陽極酸化皮膜に引張応力がかかった際に、アルミニウムとの界面ほど大きな応力がかかり、断面方向での応力分布が大きくなり、局所的な応力集中が起こりやすくなるためであると推定される。結果として、陽極酸化皮膜が50μmを超えると、曲げ耐性や熱歪み耐性が低下するため、可撓性耐熱基板としての用途、またはロールトゥロールでの製造には向かなくなる。また、絶縁信頼性も低下する。
【0035】
前記陽極酸化皮膜は、ポーラス型と呼ばれる、多孔質の陽極酸化アルミニウム皮膜である。この皮膜は、バリア層とポーラス層の2層からなる。前述のように、一般にはバリア層は圧縮応力、ポーラス層は引張応力を有しているが、本発明の陽極酸化皮膜は、バリア層とポーラス層からなるポーラス型の陽極酸化皮膜であり、ポーラス層が圧縮応力を有する。そのため、3μm以上の厚膜にしても、陽極酸化皮膜全体を圧縮応力にすることができ、成膜時の熱膨張差によるクラックの発生がなく、また、室温付近での長期信頼性に優れた絶縁性皮膜を与える。
また、前記陽極酸化皮膜は、不規則なポーラス構造、または規則化されたポーラス構造のいずれであってもよい。
また、前記金属基材のヤング率は、前記陽極酸化皮膜のヤング率よりも大きく、かつアルミニウムのヤング率よりも大きいことが好ましい。
また、前記金属基板は、前記金属基材と前記アルミニウム基材とが加圧接合により一体化されたものであることが好ましい。
【0036】
また、前記圧縮歪みを有する陽極酸化皮膜は、ロールトゥロール方式によって陽極酸化されて形成されたものであることが好ましい。
また、前記圧縮歪みを有する陽極酸化皮膜は、100℃〜600℃に加熱することによって得られる陽極酸化皮膜であることが好ましく、この場合、300℃〜500℃に加熱することがより好ましい。さらに好ましくは、350℃以上である。
また、前記圧縮歪みを有する陽極酸化皮膜は、引張歪みを有する陽極酸化皮膜を加熱することによって得られる陽極酸化皮膜であることが好ましい。
また、前記圧縮歪みを有する陽極酸化皮膜を形成するための加熱時間が1秒〜100時間であることが好ましい。
また、前記圧縮歪みを有する陽極酸化皮膜は、ロールトゥロール方式によって加熱処理される製法によって得られることが好ましい。
【0037】
また、本発明の絶縁層付金属基板は、少なくともアルミニウム基材を備える金属基板と、前記金属基板の前記アルミニウム基材に形成された絶縁層とを有し、前記絶縁層は、アルミニウムの陽極酸化皮膜であり、前記陽極酸化皮膜は、室温で圧縮応力が作用しており、前記圧縮応力の大きさは、50〜300MPaである。更に好ましくは、75MPa以上、特に好ましくは100MPa以上である。
【0038】
本発明の第2の態様は、絶縁層付金属基板であって、アルミニウムよりも線熱膨張係数が小さい金属からなる金属基材の少なくとも片面にアルミニウム基材を配した金属基板と、前記アルミニウム基材に形成されたアルミニウムのポーラス型陽極酸化皮膜とを有し、前記陽極酸化皮膜は、バリア層部分とポーラス層部分からなる絶縁層付金属基板の製造方法であって、前記アルミニウム基材に前記アルミニウムの前記ポーラス型陽極酸化皮膜を形成する工程と、形成された前記ポーラス型陽極酸化皮膜に300℃〜600℃の加熱温度で加熱処理し、前記ポーラス層部分が室温で0.10%以上の圧縮方向の歪みであるポーラス型陽極酸化皮膜を形成する工程とを有することを特徴とする絶縁層付金属基板の製造方法を提供するものである。
前記金属基板は、アルミニウムとは異なる金属からなる金属基材の少なくとも片面に前記アルミニウム基材を加圧接合して一体化したものであり、前記陽極酸化皮膜は、前記アルミニウム基材の表面に形成されていることが好ましい。
【0039】
この場合、前記加熱処理工程の加熱処理条件は、前記加熱温度が300℃〜500℃に加熱することがより好ましい。さらに好ましくは350℃以上である。保持時間(加熱時間)は1秒〜100時間であることが好ましい。従来のアルミニウムのみからなる基板においては、300℃以上への加熱処理を実施すると、アルミニウムが軟化して基板としての機能を喪失したり、アルミニウムと陽極酸化皮膜の熱膨張率の差によって、陽極酸化皮膜にクラックが発生して絶縁性を喪失したり、といった問題があった。300℃という温度への加熱は、本発明の要件である、アルミニウムと異種金属の複合材を用いることによってこの温度への加熱が可能になっている。
【0040】
陽極酸化膜は水溶液中で形成される酸化被膜であり、固体内部に水分を保持していることが、例えば、Chemistry Letters Vol.34,No.9,(2005)p1286(以下、非特許文献4という)に記載されているように知られている。
非特許文献4と同様の陽極酸化膜の固体NMR測定から、100℃以上で熱処理した場合、陽極酸化膜の固体内部の水分量(OH基)が減少することが認められ、特に200℃以上で顕著だった。従って、加熱によりAl−OとAl−OHの結合状態が変化し、応力緩和(アニール効果)が生じているものと推定される。
【0041】
また、発明者らによる陽極酸化皮膜の脱水量測定から、大部分の脱水は、室温〜300℃程度までで起こることが明らかになっている。陽極酸化皮膜を絶縁膜として用いようとする場合、含まれる水分量が多いほど、絶縁性が低下するため、300℃以上で熱処理を行うことは、絶縁性を向上させる観点でも極めて有効である。本発明は、アルミニウムと異種金属の複合材を基材として用いており、300℃以上の熱処理と組み合わせることによって、アニール効果を効果的に発現させ、従来技術ではなしえない高い圧縮歪みと、少ない含水量を実現した。これによって、絶縁信頼性の高い絶縁層つき金属基板を提供する。
また、前記陽極酸化処理工程および前記加熱処理工程のうち、少なくとも一方の工程は、ロールトゥロール方式によって行われることが好ましい。
また、前記陽極酸化皮膜の厚さが3μm〜50μmであることが好ましく、加熱処理工程後、室温で0.10〜0.25%の大きさの圧縮方向の歪みが前記陽極酸化皮膜に付与されたものである。
また、前記金属基板は、アルミニウムよりもヤング率が大きい金属からなる金属基材の少なくとも片面に前記アルミニウム基材を加圧接合して一体化したものであり、前記陽極酸化皮膜は、前記アルミニウム基材の表面に形成されていることが好ましい。
なお、本発明の第2の態様においては、本発明の第1の態様の絶縁層付金属基板のいずれの金属基板も用いることができる。
【0042】
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様の絶縁層付金属基板を用いたことを特徴とする半導体装置を提供するものである。
この場合、本発明の第1の態様の絶縁層付金属基板の加熱処理が施されてなる絶縁層付金属基板上に半導体素子が形成された半導体装置において、加熱処理後、前記絶縁層付金属基板の温度を室温に下げることなく連続的に、前記絶縁層付金属基板上に前記半導体素子を形成してもよい。前記半導体素子の形成温度は、前記加熱処理の加熱温度より高い温度であることが好ましい。このとき、前記絶縁層付金属基板および前記半導体素子を、一貫したロールトゥロール方式により形成してもよい。
また、本発明の第1の態様の絶縁層付金属基板上に半導体素子が形成された半導体装置において、前記絶縁層付金属基板および前記半導体素子を、一貫したロールトゥロール方式により形成してもよい。
【0043】
本発明の第4の態様は、本発明の第2の態様の絶縁層付金属基板の製造法によって絶縁層付金属基板を製造する工程と、前記絶縁層付金属基板上に半導体素子を形成する工程とを有し、前記絶縁層付金属基板を製造する工程および前記半導体素子を形成する工程を、一貫してロールトゥロール方式によって行うことを特徴とする半導体装置の製造方法を提供するものである。
本発明の第2の態様の絶縁層付金属基板の製造法によって絶縁層付金属基板を製造する場合、加熱処理後、前記絶縁層付金属基板の温度を室温に下げることなく連続的に、前記絶縁層付金属基板上に前記半導体素子を形成してもよい。前記半導体素子の形成温度は、前記加熱処理の加熱温度より高い温度であることが好ましい。この場合、前記絶縁層付金属基板を製造する工程および前記半導体素子を形成する工程を、一貫してロールトゥロール方式によって行ってもよい。
【0044】
本発明の第5の態様は、本発明の第1の態様の絶縁層付金属基板を用いたことを特徴とする太陽電池を提供するものである。
この場合、前記絶縁層付金属基板に化合物系光電変換層が形成されていることが好ましい。
また、前記光電変換層は、少なくとも1種のカルコパイライト構造の化合物半導体で構成されることが好ましい。
また、前記光電変換層は、Ib族元素と、IIIb族元素と、VIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体で構成されることが好ましい。
また、前記光電変換層において、前記Ib族元素は、CuおよびAgからなる群より選択された少なくとも1種のものであり、前記IIIb族元素は、Al、GaおよびInからなる群より選択された少なくとも1種のものであり、前記VIb族元素は、S、SeおよびTeからなる群から選択された少なくとも1種のものであることが好ましい。
【0045】
本発明の第1の態様の絶縁層付金属基板の加熱処理が施されてなる絶縁層付金属基板に少なくとも化合物系光電変換層が形成された太陽電池において、加熱処理後、前記絶縁層付金属基板の温度を室温に下げることなく連続的に、前記絶縁層付金属基板上に前記化合物系光電変換層を形成してもよい。前記化合物系光電変換層の形成温度は、前記加熱処理の加熱温度より高い温度であることが好ましい。このとき、前記絶縁層付金属基板および前記化合物系光電変換層を一貫したロールトゥロール方式により形成してもよい。
また、本発明の第1の態様の絶縁層付金属基板の加熱処理が施されてなる絶縁層付金属基板に少なくとも化合物系光電変換層が形成された太陽電池において、前記絶縁層付金属基板および前記化合物系光電変換層を一貫したロールトゥロール方式により形成してもよい。
【0046】
本発明の第6の態様は、本発明の第2の態様の絶縁層付金属基板の製造法によって前記絶縁層付金属基板を製造する工程と、前記絶縁層付金属基板上に少なくとも化合物系光電変換層を成膜する成膜工程とを有し、前記絶縁層付金属基板を製造する工程および前記成膜工程を、一貫してロールトゥロール方式によって行うことを特徴とする太陽電池の製造方法を提供するものである。
第2の態様の絶縁層付金属基板の製造法によって絶縁層付金属基板を製造する場合、前記加熱処理工程後、製造された前記絶縁層付金属基板の温度を室温に下げることなく連続的に、前記絶縁層付金属基板上に少なくとも前記化合物系光電変換層を形成してもよい。前記化合物系光電変換層の形成温度は、前記加熱処理の加熱温度より高い温度であることが好ましい。この場合、前記絶縁層付金属基板を製造する工程および前記成膜工程を、一貫してロールトゥロール方式によって行ってもよい。
【0047】
本発明の第7の態様は、本発明の第1の態様の絶縁層付金属基板を用いたことを特徴とする電子回路を提供するものである。
この場合、本発明の第1の態様の絶縁層付金属基板の加熱処理が施されてなる絶縁層付金属基板上に電子素子が形成された電子回路において、加熱処理後、前記絶縁層付金属基板の温度を室温に下げることなく連続的に、前記絶縁層付金属基板上に前記電子回路を形成してもよい。前記電子回路の形成温度は、前記加熱処理の加熱温度より高い温度であってもよい。このとき、前記絶縁層付金属基板および前記電子回路を、一貫したロールトゥロール方式により形成してもよい。
また、本発明の第1の態様の絶縁層付金属基板上に電子素子が形成された電子回路において、前記絶縁層付金属基板および前記電子素子を、一貫したロールトゥロール方式により形成してもよい。
【0048】
本発明の第8の態様は、本発明の第2の態様の絶縁層付金属基板の製造法によって前記絶縁層付金属基板を製造する工程と、前記絶縁層付金属基板上に電子素子を形成する工程とを有することを特徴とする電子回路の製造方法を提供するものである。
この場合、前記絶縁層付金属基板を製造する工程および前記電子素子を形成する工程を、一貫してロールトゥロール方式によって行ってもよい。
本発明の第2の態様の絶縁層付金属基板の製造法によって絶縁層付金属基板を製造する場合、加熱処理工程後、製造された前記絶縁層付金属基板の温度を室温に下げることなく連続的に、前記絶縁層付金属基板上に前記電子素子を形成してもよい。前記電子素子の形成温度は、前記加熱処理の加熱温度より高い温度であってもよい。この場合、前記絶縁層付金属基板を製造する工程および前記電子素子を形成する工程を、一貫してロールトゥロール方式によって行ってもよい。
【0049】
本発明の第9の態様は、本発明の第1の態様の絶縁層付金属基板を用いたことを特徴とする発光素子を提供するものである。
この場合、本発明の第1の態様の絶縁層付金属基板の加熱処理が施されてなる絶縁層付金属基板上に発光デバイスが形成された発光素子において、加熱処理後、前記絶縁層付金属基板の温度を室温に下げることなく連続的に、前記絶縁層付金属基板上に前記発光デバイスを形成してもよい。前記発光デバイスの形成温度は、前記加熱処理の加熱温度より高い温度であってもよい。このとき、前記絶縁層付金属基板および前記発光デバイスを、一貫したロールトゥロール方式により形成してもよい。
また、本発明の第1の態様の絶縁層付金属基板上に発光デバイスが形成された発光素子において、前記絶縁層付金属基板および前記発光デバイスを、一貫したロールトゥロール方式により形成してもよい。
【0050】
本発明の第10の態様は、本発明の第2の態様の絶縁層付金属基板の製造法によって前記絶縁層付金属基板を製造する工程と、前記絶縁層付金属基板上に発光デバイスを形成する工程とを有することを特徴とする発光素子の製造方法を提供するものである。
この場合、前記絶縁層付金属基板を製造する工程および前記発光デバイスを形成する工程を、一貫してロールトゥロール方式によって行ってもよい。
第2の態様の絶縁層付金属基板の製造法によって絶縁層付金属基板を製造する場合、加熱処理工程後、製造された前記絶縁層付金属基板の温度を室温に下げることなく連続的に、前記絶縁層付金属基板上に前記発光デバイスを形成してもよい。前記発光デバイスの形成温度は、前記加熱処理の加熱温度より高い温度であってもよい。この場合、前記絶縁層付金属基板を製造する工程および前記発光デバイスを形成する工程を、一貫してロールトゥロール方式によって行ってもよい。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、少なくともアルミニウム基材を備える金属基板の表面に形成された絶縁層として、アルミニウムのポーラス型陽極酸化皮膜を設け、この陽極酸化皮膜において、少なくともポーラス層部分が室温で圧縮方向の歪みを有するものとし、この歪みの大きさを0.10〜0.25%とすることにより、経時変化により、陽極酸化皮膜の内部、陽極酸化皮膜の表面、または陽極酸化皮膜と金属基材との界面に応力集中しても、陽極酸化皮膜に圧縮歪みがかかっていることから、クラックの発生につながりにくく、耐クラック性が優れた絶縁層付金属基板を得ることができる。
本発明の絶縁層付金属基板は、絶縁層として、アルミニウムのポーラス型陽極酸化皮膜を用いており、このアルミニウムの陽極酸化皮膜は、セラミックスであることから、高温でも化学変化を起こしづらく、クラックが発生しなければ信頼性の高い絶縁層として用いることができる。このことから、本発明の絶縁層付金属基板は、熱歪みに強く、500℃以上の高温環境下に曝されても性能劣化のない絶縁層付金属基板を得ることができる。また、3μm以上の膜厚を有することから、高い絶縁性を有する絶縁層付金属基板を得ることができる。
【0052】
このことによる効果は、前述の特許文献11と比較した場合に明らかである。すなわち、特許文献11では、ポーラス層に相当する多孔層が内部応力として圧縮応力と引張応力とが混在している。これに対して、本発明は、ポーラス層が、内部応力として引張応力を有することなく、圧縮応力状態にある点で、本発明は、従来技術とは構成が相違しており、加えて、従来技術ではなしえなかった高い圧縮応力状態を実現している。そのため、高い絶縁信頼性を有する基板を得ることができる。
【0053】
また、本発明によれば、アルミニウム基材を備える金属基板を用いることができるため、可撓性を有し、これにより、ロールトゥロールプロセスで、半導体装置、太陽電池等を製造することができるため、生産性を向上させることができる。さらには、得られた太陽電池等のデバイスは、屋根、壁等の曲面に設置することも可能になる。
さらに、本発明によれば、半導体装置、太陽電池、電子回路および発光素子は、用いた絶縁層付金属基板が耐クラック性に優れ、高い絶縁性を有するため、耐久性および保存寿命が優れる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】(a)は、本発明の実施形態に係る絶縁層付金属基板を示す模式的断面図であり、(b)は、本発明の実施形態に係る絶縁層付金属基板の他の例を示す模式的断面図であり、(c)は、本発明の実施形態に係る絶縁層付金属基板の他の例を示す模式的断面図である。
【図2】複合基板の線熱膨張係数が10ppm/Kの場合において、従来の陽極酸化皮膜、および本発明の陽極酸化皮膜に加わる歪み量を模式的に示すグラフである。
【図3】縦軸にアニール温度をとり、横軸にアニール時間をとって、加熱処理条件を模式的に示すグラフである。
【図4】本発明の実施形態に係る絶縁層付金属基板を用いた薄膜太陽電池を示す模式的断面図である。
【図5】クラック長/圧痕長さを説明するための模式図である。
【図6】(a)は、実施例11のクラック長/圧痕長を測定するために形成した圧痕を示す図面代用写真であり、(b)は、比較例6のクラック長/圧痕長を測定するために形成した圧痕を示す図面代用写真である。
【図7】従来の陽極酸化皮膜に加わる歪み量を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の絶縁層付金属基板およびその製造方法、半導体装置およびその製造方法、太陽電池およびその製造方法、電子回路およびその製造方法、ならびに発光素子およびその製造方法を詳細に説明する。
【0056】
以下、本実施形態の絶縁層付金属基板について説明する。
図1(a)に示すように、基板10は、金属基材12と、アルミニウムを主成分とするアルミニウム基材14(以下、Al基材14という)と、金属基材12およびAl基材14を外部と電気的に絶縁する絶縁層16とを有する絶縁層付金属基板である。この絶縁層16は、陽極酸化皮膜により構成されている。
基板10においては、金属基材12の表面12aにAl基材14が形成されており、Al基材14の表面14aに絶縁層16が形成されている。また、金属基材12の裏面12bにAl基材14が形成されており、Al基材14の表面14aに絶縁層16が形成されている。基板10では、金属基材12と中心として、対称にAl基材14および絶縁層16が形成されている。
なお、金属基材12と2つのAl基材14とが積層されて一体化されたものを金属基板15という。
【0057】
本実施形態の基板10は、半導体装置、光電変換素子および薄膜太陽電池の基板に利用されるものであり、例えば、平板状である。基板10の形状および大きさ等は適用される半導体装置、発光素子、電子回路、光電変換素子および薄膜太陽電池の大きさ等に応じて適宜決定される。薄膜太陽電池に用いる場合、基板10は、例えば、一辺の長さが1mを超える四角形状である。
【0058】
基板10において、金属基材12には、アルミニウムとは異なる金属が用いられる。この異なる金属としては、例えば、アルミニウムおよびアルミニウム合金よりもヤング率が大きな金属または合金が用いられる。さらには、金属基材12は、熱膨張係数が絶縁層16を構成する陽極酸化皮膜よりも大きく、かつアルミニウムよりも小さいことが好ましい。さらにまた、金属基材12は、ヤング率が絶縁層16を構成する陽極酸化皮膜よりも大きく、かつアルミニウムよりも大きいことが好ましい。
上述のことを考慮すると、本実施形態においては、金属基材12に、例えば、炭素鋼およびフェライト系ステンレス鋼等の鋼材が用いられる。しかも、金属基材12に用いられる前述の鋼材は、アルミニウム合金よりも300℃以上での耐熱強度が高いため、耐熱性が良好な基板10が得られる。
【0059】
上述の金属基材12に用いられる炭素鋼は、例えば、炭素含有量が0.6質量%以下の機械構造用炭素鋼が用いられる。機械構造用炭素鋼としては、例えば、一般的にSC材と呼ばれるものが用いられる。
また、フェライト系ステンレス鋼としては、SUS430、SUS405、SUS410、SUS436、SUS444等を用いることができる。
鋼材としては、これ以外にも、一般的にSPCC(冷間圧延鋼板)と呼ばれるものが用いられる。
【0060】
なお、金属基材12は、上記以外にも、コバール合金(5ppm/K)、チタンまたはチタン合金により構成してもよい。チタンとしては、純Ti(9.2ppm/K)が用いられ、チタン合金としては、展伸用合金であるTi−6Al−4V、Ti−15V−3Cr−3Al−3Snが用いられる。これらの金属も、平板状又は箔状で用いられる。
【0061】
金属基材12の厚さは、可撓性に影響するので、過度の剛性不足を伴わない範囲で薄くすることが好ましい。
本実施形態の基板10においては、金属基材12の厚さは、例えば、10〜800μmであり、好ましくは30〜300μmである。より好ましくは50〜150μmである。金属基材12の厚さを薄くすることは、原材料コストの面からも好ましい。
金属基材12をフレキシブルなものとする場合、金属基材12は、フェライト系ステンレス鋼が好ましい。
【0062】
Al基材14は、主成分がアルミニウムで構成されるものであり、主成分がアルミニウムとは、アルミニウム含有量が90質量%以上であることをいう。
Al基材14としては、例えば、アルミニウムまたはアルミニウム合金が用いられる。
Al基材14には、例えば、アルミニウムハンドブック第4版(軽金属協会(1990))に記載の公知の素材のもの、具体的には、JIS1050材、JIS1100材などの1000系合金、JIS3003材、JIS3004材、JIS3005材などの3000系合金、JIS6061材、JIS6063材、JIS6101材などの6000系合金、国際登録合金3103A等を用いることができる。
【0063】
Al基材14に用いられるアルミニウムまたはアルミニウム合金は、不要な金属間化合物を含まないことが好ましい。具体的には不純物の少ない、99質量%以上の純度のアルミニウムであることが好ましい。純度としては、例えば、99.99質量%Al、99.96質量%Al、99.9質量%Al、99.85質量%Al、99.7質量%Al、99.5質量%Al等が好ましい。このように、Al基材14のアルミニウムの純度を高めることにより、析出物に起因する金属間化合物を避けることができ、絶縁層16の健全性を増すことができる。これは、アルミニウム合金の陽極酸化を行った場合、金属間化合物が起点となって、絶縁不良を起こす可能性があり、金属間化合物が多いと、その可能性が増えることによるものである。
【0064】
特に、Al基材14は、純度が99.5質量%、99.99質量%以上のものを用いた場合、後述する陽極酸化皮膜の微細孔が規則的に形成されていること(以下、規則化ともいう)を乱すことが抑制されるため好ましい。なお、陽極酸化皮膜の規則化が乱されると、熱歪みがかかった際に、割れの起点になる。このため、Al基材14は、純度の高い方が耐熱性が優れる。
また、上述のように、Al基材14には、コストの点で有利な工業用アルミニウムも利用することができる。しかしながら、絶縁層16の絶縁性の観点から、Al基材14中にSiが析出していないものが好ましい。
【0065】
基板10において、絶縁層16は、電気絶縁性とハンドリング時の機械衝撃による損傷を防止するためのものである。この絶縁層16は、アルミニウムの陽極酸化によって形成される陽極酸化皮膜(アルミナ膜、Al膜)により構成されるものである。
絶縁層16を形成する陽極酸化皮膜は、室温(23℃)で、圧縮方向Cの歪み(以下、圧縮歪みともいう)を有しており、この歪みの大きさは、0.10〜0.25%である。通常、アルミニウムの陽極酸化皮膜には、引張歪みが生じている。
圧縮歪みが0.10%未満では、圧縮歪みではあるものの、不充分であり、耐クラック性の効果が得られない。そのため、最終製品形態において曲げ歪みを受けたり、長期にわたって温度サイクルを経たり、外部から衝撃、または応力を受けたりした場合に、絶縁層として形成された陽極酸化皮膜にクラックが生じて、絶縁性の低下にいたる。そのため、圧縮歪みは0.10%以上が好ましい。更に好ましくは、0.15%以上である。一方、圧縮歪みの上限値は、絶縁層16となる陽極酸化皮膜が剥離したり、陽極酸化皮膜に強い圧縮歪みが加わることにより、クラックが発生したり、陽極酸化皮膜が盛り上がって平坦性が低下したり、剥離したりすることを考慮すると0.25%である。
【0066】
従来から、陽極酸化皮膜が絶縁層として金属基板に形成された絶縁層付金属基板において、半導体素子製造時の耐熱性、ロールトゥロールでの製造時、および可撓性基板としての耐曲げ性、長期にわたっての耐久性、強度が課題となっている。
【0067】
耐熱性の課題は、高温に曝すと金属基板の伸びに、陽極酸化皮膜が耐え切れず、陽極酸化皮膜が破断してしまうことに起因する。これは、金属基板と陽極酸化皮膜の熱膨張係数の差が大きいことによる。
【0068】
耐曲げ性の課題は、陽極酸化皮膜を外側にして曲げた場合に与えられる引張応力に、陽極酸化皮膜が耐え切れず、陽極酸化皮膜が破断してしまうことに起因する。
【0069】
耐久性、強度の課題は、以下のような外乱に伴う応力変化に、陽極酸化皮膜が耐え切れず、陽極酸化皮膜が破断してしまうことに起因する。具体的な外乱としては、陽極酸化皮膜に与長期間にわたる運転・停止などに伴う温度上昇・低下による基板の熱膨張・収縮、外部からの応力、湿度・温度・酸化などに伴う陽極酸化皮膜・半導体層・封止層などの変質・体積変化に伴う応力などがある。
【0070】
本発明者は、鋭意実験研究の結果、室温において陽極酸化皮膜に、圧縮方向の歪みを与えておくことで、半導体素子製造時の耐熱性、ロールトゥロールでの製造時、および可撓性基板としての耐曲げ性、長期にわたっての耐久性、強度を有する陽極酸化皮膜を実現できることを見出した。
室温において、陽極酸化皮膜に圧縮方向の歪みが与えられることにより、耐クラック性が向上する理由は、次のように説明できる。ここでは、例として耐熱クラック耐性向上の機構を模式的に説明するが、引張り力に対して陽極酸化皮膜の破断が抑制されるという点で、曲げ、温度変化といった外部からの応力に対する耐クラック性の向上全般にわたって同様の機構が働くことが推定される。
【0071】
前述のように、従来技術による陽極酸化皮膜は、室温において、内部歪みが0.03%程度の圧縮歪みから0.06%程度の引張り歪みである。また、陽極酸化皮膜の線熱膨張係数が5ppm/K程度であること、アルミニウムの線熱膨張係数は23ppm/Kであることから、アルミニウム基板上の陽極酸化皮膜の場合、温度上昇によって、陽極酸化皮膜には18ppm/Kの割合で引張歪みが加えられることになる。陽極酸化皮膜の破断限界である、0.16〜0.23%の引張歪みが加わると、クラックが発生する。この温度は、従来技術による陽極酸化皮膜では、90℃〜150℃である。
また、複合基板上に陽極酸化皮膜を形成した場合、基材の線熱膨張係数(例えばフェライト系ステンレスであれば10ppm/K)と、陽極酸化アルミの線熱膨張係数との差異から、温度上昇によって、陽極酸化皮膜には5ppm/Kの割合で引張歪みが加えられることになる。陽極酸化皮膜の破断限界である、0.16〜0.23%の引張歪みが加わると、クラックが発生する。この温度は、従来技術による陽極酸化皮膜では、200℃〜400℃程度である。
【0072】
一方、本発明における陽極酸化皮膜は、複合基板上に形成されており、室温において、内部歪みが圧縮歪みである。ここで、陽極酸化皮膜の線熱膨張係数は、皮膜の種類によらず、ほぼ5ppm/K程度であることが発明者によって確認されており、本発明における陽極酸化皮膜も5ppm/K程度である。したがって、温度上昇によって、陽極酸化皮膜には5ppm/Kの割合で引張歪みが加えられることになる。陽極酸化皮膜の破断限界は、皮膜の種類に因らず、0.16〜0.23%程度と推定され、この大きさの引張歪みが加わると、クラックが発生すると考えられる。
好ましい範囲である、室温において0.10%〜0.25%の圧縮歪みを有する陽極酸化皮膜の場合、5ppm/Kの割合で引張歪みが加えられると仮定すると、500℃でも0.16%の歪みはかからず、クラックは発生しない。図2には、従来の陽極酸化皮膜(引張歪み0.03%)、圧縮歪みが0.10%の場合について、陽極酸化皮膜に加わる引張歪み量を模式的に示した。図2に示すように、圧縮歪みの量を多くすることによって、クラック発生温度を飛躍的に高めることができる。実際には、陽極酸化皮膜の線熱膨張係数が必ずしも一定ではないこと、陽極酸化皮膜に含まれる水分の脱水に伴う収縮があることなどの要因で、モデル計算と完全には一致しないが、実験的にも、クラック発生温度を高めることができることが確認されている。
【0073】
室温において圧縮方向の歪みを有する陽極酸化皮膜は、具体的には以下に記載するような方法によって得られる。陽極酸化皮膜を形成したアルミニウム材を、陽極酸化皮膜が割れない程度の温度にまで昇温してアニール処理を施すことにより、室温に戻した際、陽極酸化皮膜に圧縮歪みがかかった状態に変化する。これは、高温時に陽極酸化皮膜が伸張状態において、その構造変化を生じて引張歪みが緩和し、温度が下がる際のアルミニウム材の収縮に伴って陽極酸化皮膜に圧縮歪みが生じる。このように、陽極酸化皮膜は作製したままの状態で引張歪みが生じている陽極酸化皮膜全体を、圧縮歪みに変化させることができる。すなわち、バリア層とポーラス層がいずれも圧縮歪みに変化する。以下、このように、引張歪みを圧縮歪みに変化させる効果を圧縮化効果という。この現象は、本発明者が陽極酸化アルミニウムの研究を進めていく中で発見したものである。
この圧縮化効果は、図3に模式的示すように領域αで発現しやすく、この領域αにおいて、矢印A方向に進むにつれて圧縮化効果が大きくなる。すなわち、アニール処理において、高温かつ長時間になる程、圧縮化効果が大きくなる。このことについても、本発明者は確認している。
【0074】
なお、このアニール処理による陽極酸化皮膜の圧縮化効果は、陽極酸化条件に依らず得られるものである。すなわち、陽極酸化に用いる電解液は、無機酸、有機酸、アルカリ、緩衝液、これらの混合液などの水系電解液、および有機溶媒、溶融塩などの非水系電解液を用いることができる。さらに、その電解液の濃度、電圧、温度などによって陽極酸化皮膜の構造を制御することが可能であるが、いずれの陽極酸化皮膜においてもアニール処理によって陽極酸化皮膜に生じている引張歪みを圧縮歪みに変化させることが可能である。
さらには、このアニール処理時の雰囲気は、真空中でも大気雰囲気中であっても、同様に陽極酸化皮膜の歪みを圧縮歪みに変化させる圧縮化効果が得られることを確認している。
【0075】
なお、本発明においては、圧縮歪みが付与された陽極酸化皮膜と記載しているが、歪みと応力は、材料のヤング率を係数として、弾性範囲内であれば一次の関係にあるので、圧縮応力のかかった陽極酸化皮膜としても同義である。陽極酸化皮膜のヤング率は、本発明者により、50GPa〜150GPaであることが分かっている。この値と、前述の好ましい圧縮歪みの範囲から、好ましい圧縮応力の範囲は、以下である。
【0076】
この場合、前記圧縮応力の大きさは、50MPa〜300MPaであることが好ましい。
圧縮歪みが50MPa未満では、圧縮歪みはあるものの、不充分であり、耐クラック性の効果が得られない。そのため、最終製品形態において曲げ歪みを受けたり、長期にわたって温度サイクルを経たり、外部から衝撃、または応力を受けたりした場合に、絶縁層として形成された陽極酸化皮膜にクラックが生じて、絶縁性の低下にいたる。そのため、圧縮歪みは50MPa以上が好ましい。更に好ましくは、75MPa以上、特に好ましくは100MPa以上である。
一方、圧縮歪みの上限値は、陽極酸化皮膜が剥離したり、陽極酸化皮膜に強い圧縮歪みが加わることにより、クラックが発生したり、陽極酸化皮膜が盛り上がって平坦性が低下したり、剥離したりするため、絶縁性が決定的に低下する。そのため、圧縮歪みは300MPa以下が好ましい。
【0077】
基板10において、絶縁層16の厚さは、好ましくは3μm以上50μm以下、さらに好ましくは5μm以上30μm以下、特に好ましくは5μm以上20μm以下である。絶縁層16の厚さが過度に厚い場合、可撓性が低下すること、および絶縁層16の形成に要するコスト、および時間がかかるため好ましくない。また、絶縁層16の厚さが、極端に薄い場合、電気絶縁性とハンドリング時の機械衝撃による損傷を防止することができない虞がある。
また、絶縁層16の表面18aの表面粗さは、例えば、算術平均粗さRaで1μm以下であり、好ましくは、0.5μm以下、より好ましくは、0.1μm以下である。
【0078】
なお、基板10は、金属基材12、Al基材14および絶縁層16のいずれも可撓性を有するもの、すなわち、フレキシブルなものとすることにより、基板10全体として、フレキシブルなものになる。これにより、例えば、ロールトゥロール方式で、基板10の絶縁層16に、半導体素子、光電変換素子等を形成することができる。
【0079】
また、本実施形態の基板10においては、金属基材12の両面にAl基材14および絶縁層16を設ける構成としたが、本発明においては、図1(b)に示すように、金属基材12の片面だけにAl基材14および絶縁層16を設ける構成としてもよい。このように、基板10aにおいて、金属基板15aを、ステンレス鋼の金属基材12とAl基材14との2層クラッド構造とすることにより、より薄く低コストなものとすることができる。
さらには、本実施形態では、金属基材12とAl基材14の2層構造の金属基板15としたが、本発明においては、少なくともAl基材14があればよいため、金属基材12がAl基材14と同一のAl基材からなってもよいため、金属基板がAl基材のみからなっていてもよく、図1(c)に示す基板10bのように、金属基板15bはAl基材14のみからなってもよい。また、金属基板15、15aの金属基材12は、複数層でもよい。
【0080】
次に、絶縁層16となる陽極酸化皮膜の歪みの測定方法について説明する。
【0081】
なお、以下において、陽極酸化皮膜の歪みは、厳密にはポーラス層の歪みとバリア層の歪みの両者を合わせたものであり、材料力学の公式から、両者に対して、ヤング率と膜厚を加味した加重平均となる。しかしながら、実際には、以下における歪み量をポーラス層の歪み量とみなして問題ない。ここで、ポーラス層とバリア層は、構造のみ異なる同一の化合物であることから、ヤング率は同一と推定される。したがって、陽極酸化皮膜の歪みは、ポーラス層の歪みとバリア層の歪みに対して、膜厚を加味した加重平均とみなせる。バリア層の膜厚は、陽極酸化電圧に対して、1.4nm/V程度の係数を乗じた厚さになることが知られており、厚くても数百nm程度である。したがって、ポーラス層は、通常バリア層より数倍ないし数十倍以上の厚さとなる。本発明のように好ましくは3μm以上の厚さのポーラス層では、10倍以上である。そのため、陽極酸化皮膜全体の歪みに対して、バリア層の歪みの影響はほとんど現れない。したがって、以下の手法で測定した陽極酸化皮膜の歪みは、ポーラス層の歪みとみなせる。
【0082】
本発明においては、まず、基板10の状態で陽極酸化皮膜の長さを測定する。
次に、金属基板15を溶解して、金属基板15を除去し、基板10から陽極酸化皮膜を取り出す。その後、陽極酸化皮膜の長さを測定する。
この金属基板15の除去前後の長さから、歪みを求める。
陽極酸化皮膜の長さが、金属基板15が除去後に長くなる場合、陽極酸化皮膜に圧縮力が付与されている。すなわち、陽極酸化皮膜には圧縮方向の歪みがかかっている。一方、陽極酸化皮膜の長さが金属基板15の除去後に短くなる場合、陽極酸化皮膜に引張力が付与されている。すなわち、陽極酸化皮膜には引張方向の歪みがかかっている。
【0083】
なお、金属基板15の除去前後の陽極酸化皮膜の長さは、陽極酸化皮膜の全体の長さでもよく、陽極酸化皮膜の一部分の長さでもよい。
金属基板15を溶解する場合、例えば、塩化銅塩酸水溶液、塩化水銀塩酸水溶液、塩化スズ塩酸水溶液、ヨードメタノール溶液などが用いられる。なお、金属基板15の組成に応じて、溶解するための溶液は適宜選択される。
【0084】
本発明においては、金属基板15を除去する以外にも、例えば、平面性の高い金属基材の反り・たわみ量を測定し、その後、この金属基材の片面だけに陽極酸化皮膜を形成して、陽極酸化皮膜の形成後の金属基材の反り・たわみ量を測定する。陽極酸化皮膜の形成前後の反り・たわみ量を用いて歪み量に換算する。
上述の金属基材の反り・たわみ量は、例えば、レーザを用いて光学的に精密に計測する方法により測定される。具体的には、「表面技術」58,213(2007)および「豊田中央研究所R&Dレビュー」34,19(1999)に記載されている各種の測定方法を、金属基材の反り・たわみ量の測定に用いることができる。
【0085】
また、以下のように、絶縁層16となる陽極酸化皮膜の歪みを測定してもよい。この場合、まず、アルミニウムの薄膜の長さを測定する。次に、アルミニウムの薄膜に陽極酸化皮膜を形成し、このときのアルミニウムの薄膜の長さを測定する。陽極酸化皮膜形成前後のアルミニウムの薄膜の長さから縮み量を求め、更に歪み量に換算する。
【0086】
なお、金属基板15を除去する方法以外は、金属基板15を残したままの状態で陽極酸化皮膜の歪み量を計測する方法であるため、金属基板15の影響を完全に排除し切れているとは言い難い。このため、金属基板15を除去する方法であれば、金属基板15の影響を受けずに陽極酸化皮膜そのものの歪み量を直接計測できる。このため、本発明における歪み量の計測は、正確に陽極酸化皮膜の歪み量を計測することができる金属基板15を除去する方法を用いることが好ましい。
【0087】
また、陽極酸化皮膜の内部応力は、陽極酸化皮膜のヤング率と、陽極酸化皮膜に存在する歪み量から材料力学の公式より算出することができる。なお、歪み量は、上述のようにして求めればよい。
【0088】
一方、陽極酸化皮膜のヤング率は、基板10のままの状態で陽極酸化皮膜に対して、押し込み試験機、ナノインデンター等を用いた圧子押し込み試験により求めることができる。
また、陽極酸化皮膜のヤング率は、基板10から金属基板15を除去し、陽極酸化皮膜を取り出し、この取り出した陽極酸化皮膜について、押し込み試験機、ナノインデンター等を用いた圧子押し込み試験によっても求めることができる。
【0089】
さらには、アルミニウム等の金属薄膜に陽極酸化皮膜を形成した試料、または基板10から陽極酸化皮膜だけを取り出し、この取り出した陽極酸化皮膜に対して、引張試験をするか、または動的粘弾性を測定する等によって陽極酸化皮膜のヤング率を求めてもよい。
【0090】
なお、押し込み試験で薄膜のヤング率を計測する場合、金属基板15の影響を受けることがあるため、一般的には押し込み深さを薄膜の厚さの3分の1程度以内に抑える必要がある。このため、厚さが数十μm程度の陽極酸化皮膜のヤング率を正確に計測するためには、押し込み深さが数百nm程度でもヤング率が測定できるナノインデンターを用いてヤング率を測定することが好ましい。
なお、上述以外の方法を用いてヤング率の測定を行ってもよいことは言うまでもない。
【0091】
次に、本実施形態の基板10の製造方法について説明する。
まず、金属基材12を準備する。この金属基材12は、形成する基板10の大きさにより、所定の形状および大きさに形成されている。
次に、金属基材12の表面12aおよび裏面12bに、Al基材14を形成する。これにより、金属基板15が構成される。
金属基材12の表面12aおよび裏面12bに、Al基材14を形成する方法としては、金属基材12とAl基材14との密着性が確保できる一体化結合ができていれば、特に限定されるものではない。このAl基材14の形成法としては、例えば、蒸着法、スパッタ法等の気相法、メッキ法、および表面清浄化後の加圧接合法を用いることができる。Al基材14の形成法としては、コストと量産性の観点からロール圧延等による加圧接合が好ましい。例えば、厚さが50μmのAl基材を厚さが150μmのステンレス鋼の金属基材12に圧接により、クラッド加工して金属基板15を形成した場合、得られた金属基板15は、熱膨張係数を約10ppm/Kにまで下げることができる。
【0092】
次に、金属基板15を伸長させ、この状態で金属基板15のAl基材14の表面14aおよび裏面12bに絶縁層16として陽極酸化皮膜を形成する。以下、絶縁層16である陽極酸化皮膜の形成方法について説明する。
なお、陽極酸化処理については、例えば、公知のいわゆるロールトゥロール方式の陽極酸化処理装置により行うことができる。
【0093】
絶縁層16である陽極酸化皮膜を形成する場合、金属基材12を陽極とし、陰極と共に電解液に浸漬させ、陽極陰極間に電圧を印加することにより陽極酸化皮膜を形成することができる。このとき、金属基材12が電解液に接触すると、Al基材14と局部電池を形成するため、電解液に接触する金属基材12をマスキングフィルム(図示せず)により、マスクして絶縁しておく必要がある。すなわち、Al基材14の表面14a以外の金属基板15の端面および裏面をマスキングフィルム(図示せず)を用いて絶縁しておく必要がある。なお、陽極酸化処理時のマスクの方法は、マスキングフィルムを用いるものに限定されるものではない。マスクの方法としては、例えば、Al基材14の表面14a以外の金属基板15の端面および裏面をジグを用いて保護する方法、ゴムを用いて水密を確保する方法、レジストを用いて保護する方法等を用いることができる。
陽極酸化処理前には、必要に応じてAl基材14の表面14aに洗浄処理・研磨平滑化処理等を施す。
【0094】
陽極酸化処理後に、マスキングフィルム(図示せず)を剥がすことにより、上述の基板10を得ることができる。
また、枚葉処理する場合には、治具を用いて陽極酸化槽に金属基板15を固定して金属基板15を伸長させた状態にし、陽極酸化処理を行うことが好ましい。
【0095】
陽極酸化処理は、この分野で従来行われている方法を用いることができる。陽極酸化に用いる電解液は、無機酸、有機酸、アルカリ、緩衝液、これらの混合液等の水系電解液、ならびに有機溶媒、溶融塩等の非水系電解液を用いることができる。具体的には、硫酸、シュウ酸、クロム酸、ギ酸、リン酸、マロン酸、ジグリコール酸、マレイン酸、シトラコン酸、アセチレンジカルボン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グリオキシル酸、フタル酸、トリメリト酸、ピロメリット酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、およびアミドスルホン酸等の酸浴液の単独のまたは2種以上を組み合わせた水溶液または非水溶液の中で、Al基材14に直流または交流を流すと、Al基材14の表面14aに、陽極酸化皮膜を形成することができる。陽極酸化時の陰極としてはカーボンまたはAl等が使用される。
【0096】
また、陽極酸化処理には、上述の酸浴液以外に、アルカリ溶液を用いることができる。このアルカリ溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、リン酸ナトリウム等を用いることができる。さらには、陽極酸化処理に、非水系を用いることができる。この非水系のものとしては、ホルムアミド−ホウ酸浴、NMF(N−メチルホルムアミド)−ホウ酸浴、エタノール−酒石酸浴、DMSO(ジメチルスルホキシド)−サリチル酸浴等を用いることができる。なお、NMF−ホウ酸浴とは、N−メチルホルムアミドにホウ酸を溶解させた電解液のことである。
【0097】
陽極酸化処理時には、各Al基材14の表面14aから略垂直方向に酸化反応が進行し、各Al基材14の表面14aに陽極酸化皮膜が生成される。陽極酸化皮膜は、多数の平面視略正六角形状の微細柱状体が隙間なく配列し、各微細柱状体の中心部には丸みを帯びた底面を有する微細孔が形成され、微細柱状体の底部にはバリア層(通常、厚さ0.02〜0.1μm)が形成されたポーラス型となる。
このようなポーラス構造を有する陽極酸化皮膜は、非ポーラス構造の酸化アルミニウム単体膜と比較して膜のヤング率が低いものとなり、曲げ耐性および高温時の熱膨張差により生じるクラック耐性が高いものとなる。
【0098】
絶縁層16である陽極酸化皮膜の好ましい厚さは、上述のように、好ましくは3μm以上50μm以下、さらに好ましくは5μm以上30μm以下、特に好ましくは5μm以上20μm以下である。
この厚さは、定電流電解、定電圧電解の電流、電圧の大きさおよび電解時間により制御可能である。
なお、ホウ酸等の中性電解液で電解処理すると、ポーラスな微細柱状体が配列した陽極酸化皮膜でなく緻密な陽極酸化皮膜(非ポーラスな酸化アルミニウム単体膜)となる。酸性電解液でポーラスな陽極酸化皮膜を生成後に、中性電解液で再電解処理するポアフィリング法によりバリア層の層厚を大きくした陽極酸化皮膜を形成してもよい。バリア層を厚くすることにより、より絶縁性の高い皮膜とすることができる。
【0099】
ポアフィリング処理に用いる電解液はホウ酸水溶液が好ましく、ホウ酸水溶液にナトリウムを含むホウ酸塩を添加した水溶液が好ましい。ホウ酸塩としては、八ほう酸二ナトリウム、テトラフェニルほう酸ナトリウム、テトラフルオロほう酸ナトリウム、ペルオキソほう酸ナトリウム、四ほう酸ナトリウム、メタほう酸ナトリウムなどがある。これらのホウ酸塩は、無水または水和物として入手することができる。
【0100】
ポアフィリング処理に用いる電解液として、0.1〜2mol/Lのホウ酸水溶液に、0.01〜0.5mol/Lの四ほう酸ナトリウムを添加した水溶液を用いることが特に好ましい。アルミニウムイオンは0〜0.1mol/L溶解していることが好ましい。アルミニウムイオンは、電解液中へポアフィリング処理により化学的または電気化学的に溶解するが、予めホウ酸アルミニウムを添加して電解する方法が特に好ましい。また、アルミニウム合金中に含まれる微量元素が溶解していても良い。
【0101】
本実施形態において、ポーラス構造の陽極酸化皮膜は、微細孔が規則的に形成されていること、すなわち、規則化されたポーラス構造であってもよい。
【0102】
ポーラス構造の陽極酸化皮膜において、微細孔を規則的に形成するには、例えば、以下に示す自己規則化法と呼ばれる陽極酸化処理により形成することができる。
この自己規則化法は、陽極酸化皮膜の微細孔(マイクロポア)が規則的に配列する性質を利用し、規則的な配列をかく乱する要因を取り除くことで、規則性を向上させる方法である。具体的には、高純度のアルミニウムを使用し、電解液の種類に応じた電圧で、長時間(例えば、数時間から十数時間)かけて、低速で陽極酸化皮膜を形成させ、その後、脱膜処理を行う。
この自己規則化法においては、微細孔の径は、印加電圧に依存するので、印加電圧を制御することにより、ある程度所望の微細孔の径を得ることができる。
【0103】
自己規則化法の代表例としては、J.Electrochem.Soc.Vol.144,No.5,May 1997,p.L128、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.35(1996)Pt.2,No.1B,L126、Appl.Phys.Lett,Vol.71,No.19,10 Nov 1997,p.2771が知られている。
【0104】
また、これらの公知文献に記載されている方法では、陽極酸化皮膜を溶解させて除去する脱膜処理に、50℃程度のクロム酸とリン酸の混合水溶液を用いて、12時間以上をかけている。なお、沸騰した水溶液を用いて処理すると、規則化の起点が破壊され、乱れるので、沸騰させないで用いる。
【0105】
微細孔が規則的に形成された陽極酸化皮膜は、アルミニウム部分に近くなるほど規則性が高くなってくるので、一度、脱膜して、アルミニウム部分に残存した陽極酸化皮膜の底部分を表面に出して、規則的な窪みを得る。したがって、脱膜処理においては、アルミニウムは溶解させず、酸化アルミニウムである陽極酸化皮膜のみを溶解させる。
その結果、これらの公知文献に記載されている方法では、微細孔の微細孔径は種々異なるが、微細孔径のばらつき(変動係数)は3%以下となっている。
【0106】
例えば、自己規則化法による陽極酸化処理としては、酸濃度1〜10質量%の溶液中で、アルミニウム部材を陽極として通電する方法を用いることができる。陽極酸化処理に用いられる溶液としては、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、アミドスルホン酸等を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0107】
陽極酸化処理後に、絶縁層16となる陽極酸化皮膜が形成された金属基板15をアニール処理する。これにより、絶縁層16に、0.10〜0.25%の圧縮歪みが付与された基板10を形成することができる。
なお、アニール処理は、例えば、陽極酸化皮膜に対して、600℃以下の温度で行う。また、アニール処理は、加熱温度が300℃〜600℃、保持時間(加熱時間)が1秒〜100時間のアニール条件で行うことが好ましい。アニール条件を変えることにより、所定の圧縮歪みとすることができる。上述の如く、図3に示すように、アニール条件としては、加熱温度を高く、保持時間を長くすることにより、陽極酸化皮膜の圧縮歪みを大きくすることができる。
【0108】
アニール処理の加熱温度は、300℃未満では、十分な圧縮化効果を得ることができない。一方、アニール処理の加熱温度が、600℃を超えると、金属基板と陽極酸化皮膜との熱膨張係数の差により陽極酸化皮膜が割れてしまう虞がある。このように、アニール処理は、陽極酸化皮膜が破壊しない程度の温度で行う必要がある。アルミニウムとは異なる金属からなる金属基材の少なくとも片面にアルミニウム基材が設けられている金属基板を用いる場合は、高温ほどアルミニウムと金属基材の界面に金属間化合物が形成され、甚だしい場合には界面の剥離にいたる虞があるため、好ましくは500℃以下である。
【0109】
また、アニール処理の保持時間は、わずかでも圧縮化効果を得ることができるため、1秒以上とする。一方、アニール処理の保持時間は、100時間を超えて行っても圧縮化効果が飽和してしまうため、上限を100時間とする。
長時間ほどアルミニウムと金属基材の界面に金属間化合物が形成され、甚だしい場合には界面の剥離にいたる虞があり、また、生産性の点からも、好ましくは10時間以下、さらに好ましくは2時間以下、特に好ましくは30分以下である。
【0110】
本実施形態の基板10においては、室温時に陽極酸化皮膜の内部応力を圧縮状態とし、その歪みの大きさを0.10〜0.25%とすることによって、絶縁層16の陽極酸化皮膜に圧縮歪みがかかっていることから、クラックの発生につながりにくく、耐クラック性が優れる。絶縁層付金属基板を得ることができる。
しかも、基板10は、絶縁層16としてアルミニウムの陽極酸化皮膜を用いており、このアルミニウムの陽極酸化皮膜は、セラミックスであることから、高温でも化学変化を起こしづらく、クラックが発生しなければ信頼性の高い絶縁層として用いることができる。このため、基板10は、熱歪みに強く、耐熱性基板として用いることができる。
【0111】
また、基板10において、絶縁層16の陽極酸化皮膜を圧縮歪み状態にすることによって、ロールトゥロールプロセスでの一貫生産を経験してもクラックが発生にしにくく、耐曲げ歪み性を有する。
なお、室温で引張歪みが作用している場合には、一旦、割れ、クラックが生じてしまうと、その割れ、クラックを開くように引張力が作用するため、割れ、クラックが開いた状態となってしまう。これにより、基板は絶縁性を保つことができなくなる。
【0112】
基板10を太陽電池等に用いた場合、この太陽電池を屋外に設置して、過酷な温度変化、外部からの衝撃、または経時変化によるAl基材14、絶縁層16の陽極酸化皮膜の欠陥の発生等があっても、絶縁性に対する長期の信頼性を得ることができる。
【0113】
また、基板10を、例えば、500℃以上の高温環境下に曝した場合、金属基板15が引張方向E(図1(a)参照)に伸びて、絶縁層16の陽極酸化皮膜と金属基板15の熱膨張係数の差によって陽極酸化皮膜が受ける引張応力が低減されて、割れ、クラック等の不良が生じなくなる。これにより、耐熱温度の向上を図ることができる。このように、500℃以上の高温環境下に曝されても、性能劣化のない基板10を得ることができる。このため、光電変換層のさらなる高温成膜が実現でき、高効率な薄膜太陽電池を作製することができる。
また、基板10を用いることにより、例えば、薄膜太陽電池の製造をロールトゥロールで行えるようになり、生産性を大きく向上させることができる。
【0114】
また、基板10において、金属基板15を、ステンレス鋼材の金属基材12とAl基材14との2層クラッド構造とした場合、陽極酸化処理はステンレス鋼材の金属基材12を保護して処理することになり、絶縁層16の陽極酸化皮膜は、Al基材14の表面14aにのみ形成され、金属基板15の裏面はステンレス鋼材がむき出しとなる。しかし、大気雰囲気でアニール処理することによって、ステンレス鋼材のむき出しの面にFeが主体の鉄系酸化物膜が形成される。この酸化膜は、例えば、太陽電池の光電変換層の成膜時に、セレンを用いた場合、ステンレスの耐Se腐食膜として機能する。このため、光電変換層の成膜時にセレンを用いる太陽電池には有用な基板となる。
【0115】
次に、本実施形態の絶縁層付金属基板を用いた薄膜太陽電池について説明する。
図4は、本発明の実施形態に係る絶縁層付金属基板を用いた薄膜太陽電池を示す模式的断面図である。
【0116】
図4に示す本実施形態の薄膜太陽電池30は、太陽電池モジュール又はこの太陽電池モジュールを構成する太陽電池サブモジュールとして用いられるもので、例えば、接地された略長方形状の金属基板15及び金属基板15上に形成された電気的な絶縁層16からなる基板10と、絶縁層16上に形成されたアルカリ供給層50と、アルカリ供給層50に形成され、直列に接続された複数の発電セル54、複数の発電セル54の一方に接続される第1の導電部材42、およびその他方に接続される第2の導電部材44からなる発電層56とを有する。なお、ここでは、1つの発電セル(太陽電池セル)54と、これに対応する基板10、およびアルカリ供給層50の各部分からなるものを光電変換素子40と呼ぶが、図4に示す薄膜太陽電池30自体を光電変換素子と呼んでもよい。
【0117】
本実施形態の薄膜太陽電池30においては、上述の基板10の片側の表面、すなわち、一方の絶縁層16の表面16aにアルカリ供給層50が形成されている。
この薄膜太陽電池30は、複数の光電変換素子40と、第1の導電部材42と、第2の導電部材44とを有する。
【0118】
光電変換素子40は、薄膜太陽電池30を構成するものであり、基板10と、アルカリ供給層50と、裏面電極32、光電変換層34、バッファ層36および透明電極38により構成される発電セル(太陽電池セル)54とを備える。
上述のように、絶縁層16の表面16aにアルカリ供給層50が形成されている。このアルカリ供給層50の表面50aに、発電セル54の裏面電極32と光電変換層34とバッファ層36と透明電極38とが順次積層されている。
【0119】
裏面電極32は、隣り合う裏面電極32と分離溝(P1)33を設けて導電性のアルカリ供給層50の表面50aに形成されている。分離溝(P1)33を埋めつつ光電変換層34が裏面電極32の上に形成されている。この光電変換層34の表面にバッファ層36が形成されている。これらの光電変換層34とバッファ層36とは、裏面電極32にまで達する溝(P2)37により、他の光電変換層34とバッファ層36と離間されている。この溝(P2)37は、裏面電極32の分離溝(P1)33とは異なる位置に形成されている。
【0120】
また、この溝(P2)37を埋めつつバッファ層36の表面に透明電極38が形成されている。
透明電極38、バッファ層36および光電変換層34を貫き裏面電極32に達する開口溝(P3)39が形成されている。薄膜太陽電池30においては、各光電変換素子40は、裏面電極32と透明電極38により、基板10の長手方向Lに、電気的に直列に接続されている。
【0121】
本実施形態の光電変換素子40は、集積型の光電変換素子(太陽電池セル)と呼ばれるものであり、例えば、裏面電極32がモリブデン電極で構成され、光電変換層34が、光電変換機能を有する半導体化合物、例えば、CIGS層で構成され、バッファ層36がCdSで構成され、透明電極38がZnOで構成される。
なお、光電変換素子40は、基板10の長手方向Lと直交する幅方向に長く伸びて形成されている。このため、裏面電極32等も基板10の幅方向に長く伸びている。
【0122】
図4に示すように、右側の端の裏面電極32上に第1の導電部材42が接続されている。この第1の導電部材42は、後述する負極からの出力を外部に取り出すためのものである。本来、右側の端の裏面電極32上には光電変換素子40が形成されるが、例えば、レーザースクライブまたはメカニカルスクライブにより、光電変換素子40を取り除いて、裏面電極32を表出させている。
【0123】
第1の導電部材42は、例えば、細長い帯状の部材であり、基板10の幅方向に略直線状に伸びて、右端の裏面電極32上に接続されている。また、図4に示すように、第1の導電部材42は、例えば、銅リボン42aがインジウム銅合金の被覆材42bで被覆されたものである。この第1の導電部材42は、例えば、超音波半田により裏面電極32に接続される。
【0124】
この第2の導電部材44は、後述する正極からの出力を外部に取り出すためのものである。第2の導電部材44も、第1の導電部材42と同様に細長い帯状の部材であり、基板10の幅方向に略直線状に伸びて、左端の裏面電極32に接続されている。本来、左端の裏面電極32上には光電変換素子40が形成されるが、例えば、レーザースクライブまたはメカニカルスクライブにより、光電変換素子40を取り除いて、裏面電極32を表出させている。
【0125】
第2の導電部材44は、第1の導電部材42と同様の構成のものであり、例えば、銅リボン44aがインジウム銅合金の被覆材44bで被覆されたものである。
第1の導電部材42と第2の導電部材44とは、錫メッキ銅リボンでもよい。また、第1の導電部材42および第2の導電部材44、それぞれの接続も超音波半田に限定されるものではなく、例えば、導電性接着剤、導電性テープを用いて接続してもよい。
【0126】
なお、本実施形態の光電変換素子40の光電変換層34は、例えば、CIGSで構成されており、公知のCIGS系の太陽電池の製造方法により製造することができる。
また、裏面電極32の分離溝(P1)33、裏面電極32にまで達する溝(P2)37、裏面電極32に達する開口溝(P3)39は、レーザースクライブまたはメカニカルスクライブにより形成することができる。
【0127】
薄膜太陽電池30では、光電変換素子40に、透明電極38側から光が入射されると、この光が透明電極38およびバッファ層36を通過し、光電変換層34で起電力が発生し、例えば、透明電極38から裏面電極32に向かう電流が発生する。なお、図4に示す矢印は、電流の向きを示すものであり、電子の移動方向は、電流の向きとは逆になる。このため、光電変換部48では、図4中、左端の裏面電極32が正極(プラス極)になり、右端の裏面電極32が負極(マイナス極)になる。
【0128】
本実施形態において、薄膜太陽電池30で発生した電力を、第1の導電部材42と第2の導電部材44から、薄膜太陽電池30の外部に取り出すことができる。
なお、本実施形態において、第1の導電部材42が負極であり、第2の導電部材44が正極である。また、第1の導電部材42と第2の導電部材44とは極性が逆であってもよく、光電変換素子40の構成、薄膜太陽電池30構成等に応じて、適宜変わるものである。
また、本実施形態においては、各光電変換素子40を、裏面電極32と透明電極38により基板10の長手方向Lに直列接続されるように形成したが、これに限定されるものではない。例えば、各光電変換素子40が、裏面電極32と透明電極38により幅方向に直列接続されるように、各光電変換素子40を形成してもよい。
【0129】
光電変換素子40において、裏面電極32および透明電極38は、いずれも光電変換層34で発生した電流を取り出すためのものである。裏面電極32および透明電極38は、いずれも導電性材料からなる。光入射側の透明電極38は透光性を有する必要がある。
【0130】
裏面電極32は、例えば、Mo、Cr、またはW、およびこれらを組合わせたものにより構成される。この裏面電極32は、単層構造でもよいし、2層構造等の積層構造でもよい。裏面電極32は、Moで構成することが好ましい。
また、裏面電極32の形成方法は、特に制限されるものではなく、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法等の気相成膜法により形成することができる。
【0131】
裏面電極32は、一般的に厚さが800nm程度であるが、裏面電極32は、厚さが200nm〜600nmであることが好ましく、200nm〜400nmであることがより好ましい。このように裏面電極32の膜厚を一般的なものよりも薄くすることにより、後述するように、光電変換層34へのアルカリ供給層50からのアルカリ金属の拡散速度を上げることができる。しかも、裏面電極32の材料費を削減でき、更には裏面電極32の形成速度も速くすることができる。
【0132】
透明電極38は、例えば、Al、B、Ga、Sb等が添加されたZnO、ITO(インジウム錫酸化物)、またはSnOおよびこれらを組合わせたものにより構成される。この透明電極38は、単層構造でもよいし、2層構造等の積層構造でもよい。また、透明電極38の厚さは、特に制限されるものではなく、0.3〜1μmが好ましい。
また、透明電極38の形成方法は、特に制限されるものではなく、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法等の気相成膜法または塗布法により形成することができる。
【0133】
バッファ層36は、透明電極38の形成時の光電変換層34を保護すること、透明電極38に入射した光を光電変換層34まで透過させるために形成されている。
このバッファ層36は、例えば、CdS、ZnS、ZnO、ZnMgO、またはZnS(O、OH)およびこれらの組合わせたものにより構成される。
バッファ層36は、厚さが、0.03〜0.1μmが好ましい。また、このバッファ層36は、例えば、CBD(ケミカルバスデポジション)法により形成される。
【0134】
光電変換層34は、透明電極38およびバッファ層36を通過して到達した光を吸収して電流が発生する層であり、光電変換機能を有する。本実施形態において、光電変換層34の構成は、特に制限されるものではなく、例えば、少なくとも1種のカルコパイライト構造の化合物半導体で構成される。また、光電変換層34は、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であってもよい。
【0135】
さらに光吸収率が高く、高い光電変換効率が得られることから、光電変換層34は、CuおよびAgからなる群より選択された少なくとも1種のIb族元素と、Al、GaおよびInからなる群より選択された少なくとも1種のIIIb族元素と、S、Se、およびTeからなる群から選択された少なくとも1種のVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることが好ましい。この化合物半導体としては、CuAlS、CuGaS、CuInS、CuAlSe、CuGaSe、CuInSe(CIS)、AgAlS、AgGaS、AgInS、AgAlSe、AgGaSe、AgInSe、AgAlTe、AgGaTe、AgInTe、Cu(In1−xGa)Se(CIGS)、Cu(In1−xAl)Se、Cu(In1−xGa)(S、Se)、Ag(In1−xGa)Se、およびAg(In1−xGa)(S、Se)等が挙げられる。
【0136】
光電変換層34は、CuInSe(CIS)、および/又はこれにGaを固溶したCu(In、Ga)Se(CIGS)を含むことが特に好ましい。CISおよびCIGSはカルコパイライト結晶構造を有する半導体であり、光吸収率が高く、高い光電変換効率が報告されている。また、光照射等による効率の劣化が少なく、耐久性に優れている。
【0137】
光電変換層34には、所望の半導体導電型を得るための不純物が含まれる。不純物は隣接する層からの拡散、および/又は積極的なドープによって、光電変換層34中に含有させることができる。光電変換層34中において、I−III−VI族半導体の構成元素および/又は不純物には濃度分布があってもよく、n型、p型、およびi型等の半導体性の異なる複数の層領域が含まれていても構わない。
例えば、CIGS系においては、光電変換層34中のGa量に厚み方向の分布を持たせると、バンドギャップの幅/キャリアの移動度等を制御でき、光電変換効率を高く設計することができる。
【0138】
光電変換層34は、I−III−VI族半導体以外の1種又は2種以上の半導体を含んでいてもよい。I−III−VI族半導体以外の半導体としては、Si等のIVb族元素からなる半導体(IV族半導体)、GaAs等のIIIb族元素およびVb族元素からなる半導体(III−V族半導体)、およびCdTe等のIIb族元素およびVIb族元素からなる半導体(II−VI族半導体)等が挙げられる。光電変換層34には、特性に支障のない限りにおいて、半導体、所望の導電型とするための不純物以外の任意成分が含まれていても構わない。
また、光電変換層34中のI−III−VI族半導体の含有量は、特に制限されるものではない。光電変換層34中のI−III−VI族半導体の含有量は、75質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、99質量%以上が特に好ましい。
【0139】
なお、本実施形態においては、光電変換層34が、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなる化合物半導体で構成される場合、金属基材12は炭素鋼またはフェライト系ステンレス鋼により構成され、裏面電極32は、モリブデンにより構成されることが好ましい。
【0140】
CIGS層の成膜方法としては、1)多源同時蒸着法、2)セレン化法、3)スパッタ法、4)ハイブリッドスパッタ法、および5)メカノケミカルプロセス法等が知られている。
【0141】
1)多源同時蒸着法としては、
3段階法(J.R.Tuttle et.al,Mat.Res.Soc.Symp.Proc.,Vol.426(1996)p.143.等)と、ECグループの同時蒸着法(L.Stolt et al.:Proc.13th ECPVSEC(1995,Nice)1451.等)とが知られている。
前者の3段階法は、高真空中で最初にIn、Ga、及びSeを基板温度300℃で同時蒸着し、次に500〜560℃に昇温してCu及びSeを同時蒸着後、In、Ga、及びSeをさらに同時蒸着する方法である。後者のECグループの同時蒸着法は、蒸着初期にCu過剰CIGS、後半でIn過剰CIGSを蒸着する方法である。
【0142】
CIGS膜の結晶性を向上させるため、上記方法に改良を加えた方法として、
a)イオン化したGaを使用する方法(H.Miyazaki, et.al, phys.stat.sol.(a),Vol.203(2006)p.2603.等)、
b)クラッキングしたSeを使用する方法(第68回応用物理学会学術講演会 講演予稿
集(2007秋 北海道工業大学)7P−L−6等)、
c)ラジカル化したSeを用いる方法(第54回応用物理学会学術講演会 講演予稿集(2007春 青山学院大学)29P−ZW−10等)、
d)光励起プロセスを利用した方法(第54回応用物理学会学術講演会 講演予稿集(2007春 青山学院大学)29P−ZW−14等)等が知られている。
【0143】
2)セレン化法は2段階法とも呼ばれ、最初にCu層/In層または(Cu−Ga)層/In層等の積層膜の金属プリカーサをスパッタ法、蒸着法、または電着法などで成膜し、これをセレン蒸気またはセレン化水素中で450〜550℃程度に加熱することにより、熱拡散反応によってCu(In1−xGa)Se等のセレン化合物を生成する方法である。この方法を気相セレン化法と呼ぶ。このほか、金属プリカーサ膜の上に固相セレンを堆積し、この固相セレンをセレン源とした固相拡散反応によりセレン化させる固相セレン化法がある。
【0144】
セレン化法においては、セレン化の際に生ずる急激な体積膨張を回避するために、金属プリカーサ膜に予めセレンをある割合で混合しておく方法(T.Nakada et.al,, Solar Energy Materials and Solar Cells 35(1994)204-214.等)、及び金属薄層間にセレンを挟み(例えば、Cu層/In層/Se層…Cu層/In層/Se層と積層する)多層化プリカーサ膜を形成する方法(T.Nakada et.al,, Proc. of 10th European Photovoltaic Solar Energy Conference(1991)887-890. 等)が知られている。
【0145】
また、グレーデッドバンドギャップCIGS膜の成膜方法として、最初にCu−Ga合金膜を堆積し、その上にIn膜を堆積し、これをセレン化する際に、自然熱拡散を利用してGa濃度を膜厚方向で傾斜させる方法がある(K.Kushiya et.al, Tech.Digest 9th Photovoltaic Science and Engineering Conf. Miyazaki, 1996(Intn.PVSEC-9,Tokyo,1996)p.149.等)。
【0146】
3)スパッタ法としては、
CuInSe多結晶をターゲットとした方法、CuSeとInSeをターゲットとし、スパッタガスにHSe/Ar混合ガスを用いる2源スパッタ法(J.H.Ermer,et.al, Proc.18th IEEE Photovoltaic SpecialistsConf.(1985)1655-1658.等)、および
Cuターゲットと、Inターゲットと、SeまたはCuSeターゲットとをArガス中でスパッタする3源スパッタ法(T.Nakada,et.al, Jpn.J.Appl.Phys.32(1993)L1169-L1172.等)が知られている。
【0147】
4)ハイブリッドスパッタ法としては、前述のスパッタ法において、CuとIn金属は直流スパッタで、Seのみは蒸着とするハイブリッドスパッタ法(T.Nakada,et.al., Jpn.Appl.Phys.34(1995)4715-4721.等)が知られている。
【0148】
5)メカノケミカルプロセス法は、CIGSの組成に応じた原料を遊星ボールミルの容器に入れ、機械的なエネルギーによって原料を混合してCIGS粉末を得、その後、スクリーン印刷によって基板上に塗布し、アニールを施して、CIGSの膜を得る方法である(T.Wada et.al, Phys.stat.sol.(a), Vol.203(2006)p2593等)。
【0149】
その他のCIGS成膜法としては、スクリーン印刷法、近接昇華法、MOCVD法、及びスプレー法(ウェット成膜法)などが挙げられる。例えば、スクリーン印刷法(ウェット成膜法)またはスプレー法(ウェット成膜法)等で、Ib族元素、IIIb族元素、及びVIb族元素を含む微粒子膜を基板上に形成し、熱分解処理(この際、VIb族元素雰囲気での熱分解処理でもよい)を実施するなどにより、所望の組成の結晶を得ることができる(特開平9−74065号公報、特開平9−74213号公報等)。
【0150】
アルカリ供給層50は、光電変換層34(CIGS層)にアルカリ金属、例えば、Naを拡散させるために、光電変換層34の成膜時に、例えば、アルカリ金属を供給するためのものである。本実施形態においては、アルカリ供給層50は、ソーダライムガラスで構成することが好ましい。アルカリ供給層50をソーダライムガラスで構成する場合、例えば、RFスパッタ法を用いることができる。
なお、アルカリ供給層50は、単層構造でもよいし、組成の異なるものが積層された複数層構造でもよい。
【0151】
なお、アルカリ金属としては、Li、Na、K、Rb、及びCsが挙げられる。アルカリ土類金属としてはBe、Mg、Ca、Sr、及びBaが挙げられる。これらの中でも、化学的に安定でハンドリングが容易な化合物が得られやすいこと、加熱によってアルカリ供給層50から放出されやすいこと、及び光電変換層34の結晶性向上効果が高いことから、Na、K、Rb、及びCsから選ばれた少なくとも1種のアルカリ金属が好ましく、Na及び/又はKがより好ましく、Naが特に好ましい。
【0152】
また、アルカリ供給層50の膜厚が厚いと剥離しやすくなるため、アルカリ供給層50の厚さは、50〜200nmが好ましい。
本実施形態においては、アルカリ供給層50のアルカリ金属の含有量(濃度)が十分に高いため、アルカリ供給層50の膜厚が50nm〜200nmでも、光電変換層34に変換効率を向上させるに十分なアルカリ金属を供給することができる。
【0153】
次に、本実施形態の薄膜太陽電池30の製造方法について説明する。
まず、上述のようにして形成された基板10を用意する。
次に、基板10の一方の絶縁層16の表面16aに、アルカリ供給層50として、例えば、ソーダライムガラス膜を、成膜装置を用いてRFスパッタ法により形成する。
次に、アルカリ供給層50の表面50aに裏面電極32となるモリブデン膜を、例えば、成膜装置を用いて、スパッタ法により形成する。
次に、モリブデン膜を、例えば、レーザースクライブ法を用いて第1の位置をスクライブして、基板10の幅方向に伸びた分離溝(P1)33を形成する。これにより、分離溝(P1)33により互いに分離された裏面電極32が形成される。
【0154】
次に、裏面電極32を覆い、かつ分離溝(P1)33を埋めるように、光電変換層34(p型半導体層)となる、例えば、CIGS層を上述のいずれかの成膜方法により、成膜装置を用いて形成する。
次に、CIGS層上にバッファ層36となるCdS層(n型半導体層)を、例えば、CBD(ケミカルバス)法により形成する。これにより、pn接合半導体層が構成される。
次に、レーザースクライブ法を用いて分離溝(P1)33の第1の位置とは異なる第2の位置をスクライブして、基板10の幅方向に伸びた、裏面電極32にまで達する溝(P2)37を形成する。
【0155】
次に、バッファ層36上に、溝(P2)37を埋めるように、透明電極38となる、例えば、Al、B、Ga、Sb等が添加されたZnO層を、成膜装置を用いて、スパッタ法または塗布法により形成する。
次に、レーザースクライブ法を用いて分離溝(P1)33の第1の位置および溝(P2)37の第2の位置とは異なる第3の位置をスクライブして、基板10の幅方向に伸びた、裏面電極32にまで達する開口溝(P3)39を形成する。こうして、基板10およびアルカリ供給層50の積層体上に、複数の発電セル54を形成し、発電層56を形成する。
【0156】
次に、基板10の長手方向Lにおける左右側の端の裏面電極32上に形成された各光電変換素子40を、例えば、レーザースクライブまたはメカニカルスクライブにより取り除いて、裏面電極32を表出させる。次に、右側の端の裏面電極32上に第1の導電部材42を、左側の端の裏面電極32上に第2の導電部材44を、例えば、超音波半田を用いて接続する。
これにより、図4に示すように、複数の光電変換素子40が直列に接続された薄膜太陽電池30を製造することができる。
【0157】
次いで、得られた薄膜太陽電池30の表面側に封止接着層(図示せず)、水蒸気バリア層(図示せず)および表面保護層(図示せず)を配置し、薄膜太陽電池30の裏面側、すなわち、基板10の裏面側に封止接着層(図示せず)およびバックシート(図示せず)を配置して、例えば、真空ラミネート法によりラミネート加工してこれらを一体化する。これにより、薄膜太陽電池モジュールを得ることができる。
【0158】
本実施形態の薄膜太陽電池30においては、室温時に絶縁層16の陽極酸化皮膜の内部応力を圧縮状態とし、歪みの大きさを0.05〜0.25%とした基板10を用いることにより、例えば、光電変換層34を形成する際に、500℃を超える高温環境下に基板10をさらしても、陽極酸化皮膜と金属基板15の熱膨張係数の差によって、陽極酸化皮膜が受ける引張応力を低減し、割れ、クラック等の発生を抑制することができる。このため、500℃以上で光電変換層34として化合物半導体を形成することができる。光電変換層34を構成する化合物半導体は、高温で形成した方が、光電変換特性を向上させることができるため、光電変換特性を向上させた光電変換層34を有する光電変換素子40を製造することができる。
また、本実施形態の薄膜太陽電池30においては、使用中に、基板10の絶縁層16に割れ、クラックが生じても、絶縁層16には圧縮歪みが生じているため、その割れ、クラックが開くことが抑制され絶縁性(耐電圧特性)が保たれる。これにより、長期信頼性が確保され、耐久性および保存寿命に優れた薄膜太陽電池30を得ることができる。しかも、薄膜太陽電池モジュールについても耐久性および保存寿命が優れる。
【0159】
さらには、アルカリ供給層50を設けることにより、光電変換層34(CIGS層)へのアルカリ金属の供給量を精密かつ再現性良く制御できる。これにより、光電変換素子40の変換効率を高めることができるとともに、光電変換素子40を歩留まりよく製造することができる。
【0160】
また、本実施形態においては、基板10は、ロールトゥロール方式で製造されるものであり、可撓性を有する。このため、光電変換素子40、薄膜太陽電池30も、例えば、基板10を長手方向Lに搬送しつつ、ロールトゥロール方式で製造することができる。このように、薄膜太陽電池30を安価なロールトゥロール方式で製造することができるため、薄膜太陽電池30の製造コスト低くすることができる。これにより、薄膜太陽電池モジュールのコストを低くすることができる。
【0161】
光電変換層34(CIGS層)の形成時に500℃以上に昇温されるが、この昇温時までにアニール処理を行い、絶縁層16が圧縮歪みを有する基板としておけばよい。このため、例えば、上述のアニール処理がされていない陽極酸化皮膜が形成されたままの状態のものを基板として用いて、例えば、ロールトゥロール方式で基板を搬送しつつ、上述の加熱温度が300℃〜600℃、保持時間が1秒〜100時間のアニール条件でアニール処理を行い、室温において圧縮相当の歪み量を有する絶縁層16とし、その後、基板の温度を室温まで下げることなく、上述のように裏面電極32、光電変換層34(CIGS層)等の光電変換素子40を構成するものを順次形成してもよい。ここで、室温において圧縮相当の歪み量とは、工程中、アニール処理直後の基板を室温に戻した際に、圧縮歪みとなるだけの歪み量を指す。アニール処理の温度と、以降の裏面電極32、光電変換層34(CIGS層)等の形成温度は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。特に光電変換層34(CIGS層)の形成温度は、500℃以上であることが多いため、アニール処理の温度より高い場合が多い。その場合、アニール処理から連続的に昇温させることにより、再加熱の工程がなくなり、低コスト化の点で好ましい。裏面電極32、光電変換層34(CIGS層)等の形成温度がアニール処理の温度より低い場合であっても、連続的に降温させることにより、再加熱の工程がなくなり、低コスト化が可能になる。
【0162】
なお、本実施形態の薄膜太陽電池30においては、アルカリ供給層50に含まれるアルカリ金属が基板10に拡散するのを防止するとともに、光電変換層34へのアルカリ金属の拡散量を増加させるために、拡散防止層をアルカリ供給層50と絶縁層16との間に設けてもよい。この場合、光電変換層34へのアルカリ金属の拡散量を増加させることができるため、より変換効率の良い光電変換素子40を得ることができる。
また、拡散防止層を設けることにより、アルカリ供給層の厚さを薄くしても、変換効率の良い光電変換素子を得ることができる。本実施形態においては、アルカリ供給層50の厚さを薄くすることができるため、アルカリ供給層50の作成時間を短くすることができ、光電変換素子40、ひいては薄膜太陽電池30の生産性を向上させることができる。しかも、アルカリ供給層50が剥離の起点となることも抑制することができる。
【0163】
拡散防止層は、例えば、窒化物で構成することができ、更には絶縁体であることが好ましい。
具体的には、拡散防止層としては、窒化物である場合、TiN(9.4ppm/K)、ZrN(7.2ppm/K)、BN(6.4ppm/K)、AlN(5.7ppm/K)を用いることができる。このうち、拡散防止層は、基板10の絶縁層16、アルミニウム陽極酸化皮膜との熱膨張係数差が小さい材料であることが好ましいことから、ZrN、BN、AlNが好ましい。これらのうち、絶縁体は、BN、AlNであり、これらが、拡散防止層としては、より好ましい。
また、拡散防止層は、酸化物で構成してもよい。この場合、酸化物としては、TiO(9.0ppm/K)、ZrO(7.6ppm/K)、HfO(6.5ppm/K)、Al(8.4ppm/K)を用いることができる。拡散防止層は、酸化物で構成した場合でも、更には絶縁体であることが好ましい。
【0164】
ここで、酸化物膜は膜中にNaを含有することにより、基板10へのNaの拡散を防止するが、窒化物膜は膜中にNa等のアルカリ金属を含有しにくく、窒化物膜内への拡散を妨げることにより、アルカリ供給層よりも上層のCIGS層へのNaの拡散を促していると考えられる。このことから、拡散防止層としては、窒化物の拡散防止層の方が酸化物の拡散防止層よりも光電変換層34(CIGS層)中へのアルカリ金属を拡散させる効果が得られる。このため、窒化物の拡散防止層の方がより好ましい。
【0165】
拡散防止層は、厚さが厚い方が、基板10への拡散防止機能と、光電変換層34へのアルカリ金属の拡散量を増加させる機能が高まるため好ましい。しかしながら、膜厚が厚い場合、剥離の起点になることから、拡散防止層は、厚さが10nm〜200nmであることが好ましく、より好ましくは10nm〜100nmである。
【0166】
本実施形態においては、更に拡散防止層を絶縁体で構成することにより、基板10の絶縁性(耐電圧特性)を更に向上させることができる。しかも、上述のように、基板10は耐熱性に優れる。これにより、耐久性および保存寿命がより優れた薄膜太陽電池30とすることができる。このため、薄膜太陽電池モジュールについても耐久性および保存寿命が更に優れる。
【0167】
なお、本実施形態においては、基板10を薄膜太陽電池の基板に用いたが、本発明は、これに限定されるものではない。基板は、例えば、熱電素子を用いて、温度差を利用して発電する熱電モジュールに用いることもできる。熱電モジュールに用いる場合、熱電素子を集積し、直列に接続することができる。
【0168】
また、熱電モジュール以外にも、例えば、基板10に種々の半導体素子を形成し、半導体装置とすることもできる。この半導体装置においても、半導体素子の形成にはロールトゥロール方式を用いることができる。このため、生産性を高くするために、半導体素子の形成にロールトゥロール方式を用いることが好ましい。
【0169】
さらには、基板10に、発光デバイスとして、例えば、有機ELを用いたもの、LD、LEDを形成し、発光素子とすることもできる。なお、発光デバイスには、例えば、トップエミッション方式と呼ばれるものが用いられる。
また、基板10に、抵抗、トランジスタ、ダイオード、コイル等の電子素子を形成し、電子回路としてもよい。
このような発光素子、電子回路においても、発光デバイス、電子素子の形成が可能であれば、生産性を高くするためにロールトゥロール方式を用いることが好ましい。
さらには、半導体装置、電子回路および発光素子は、用いた絶縁層付金属基板が耐クラック性に優れ、高い絶縁性を有するため、耐久性および保存寿命が優れる。
【0170】
熱電モジュール、半導体装置、電子回路および発光素子の製造においても、製造工程において、陽極酸化皮膜と金属基板との熱膨張係数の差により、陽極酸化皮膜に悪影響がでるような温度、例えば、500℃以上に昇温される工程の前に、上述のようにアニール処理を行い、陽極酸化皮膜に室温において圧縮相当の歪みを付与することができれば、必ずしも圧縮歪みが付与された基板を用いる必要はない。ここで、室温において圧縮相当の歪み量とは、工程中、アニール処理直後の基板を室温に戻した際に、圧縮歪みとなるだけの歪み量を指す。
この場合、アニール処理で温度を上げた後、基板の温度を室温まで下げることなく、熱電モジュール、半導体装置、電子回路および発光素子の各製造工程に供することができる。アニール処理の温度と、以降の熱電モジュール、半導体装置、電子回路および発光素子の各製造工程のプロセス温度は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。特に半導体素子の形成温度は、500℃以上であることが多いため、アニール処理の温度より高い場合が多い。その場合、アニール処理から連続的に昇温させることにより、再加熱の工程がなくなり、低コスト化の点で好ましい。プロセス温度がアニール処理の温度より低い場合であっても、連続的に降温させることにより、再加熱の工程がなくなり、低コスト化が可能になる。
【0171】
本発明は、基本的に以上のようなものである。以上、半導体装置、太陽電池等に用いられる絶縁層付金属基板およびその製造方法、半導体装置およびその製造方法、太陽電池およびその製造方法、電子回路およびその製造方法、ならびに発光素子およびその製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良または変更をしてもよいのはもちろんである。
【実施例】
【0172】
以下、本発明の絶縁層付金属基板の実施例について具体的に説明する。
本実施例では、下記表1に示す各条件で陽極酸化、およびアニール処理を実施し、各実施例1〜18および比較例1〜8を作製した。なお、比較例1〜8のうち、比較例1、比較例3〜6、および比較例8は、アニール処理していない。
各実施例1〜18および比較例1〜8、それぞれ絶縁層を形成する陽極酸化皮膜の歪みの大きさ、ヤング率を測定し、内部応力を算出した。また、加重試験を行い、クラックの発生しやすさ、伸展しやすさを評価した。さらに、曲げ歪み試験、熱歪み試験を行い、曲げ歪み耐性、熱歪み耐性を評価した。
実施例1〜18、および比較例1〜8の作製条件を下記表1に、歪みの大きさ、ヤング率、内部応力の大きさ、荷重試験の結果を下記表2に、曲げ歪み耐性、熱歪み耐性の結果を下記表3に、それぞれ示す。
【0173】
実施例1〜18および比較例1〜8には、金属基板として、純度が99.99%の高純度アルミニウム/SUS430のクラッド材(厚さが100μmの金属基材の両面にアルミニウム基材が30μmずつ形成されている金属基板)を用いた。
【0174】
歪みの大きさは、上述のように、絶縁層付金属基板の陽極酸化皮膜の長さを計測し、その後、金属基板を溶解して取り除いた後の陽極酸化皮膜の長さを測定し、金属基板を取り除く前後の陽極酸化皮膜の長さに基づいて歪みの大きさを求めた。
ヤング率は、フィッシャーインスツルメンツ社製 PICODENTOR(登録商標) HM500Hを用いて測定した。
歪みの大きさとヤング率を用いて内部応力を求めた。
本実施例においては、300℃以上の温度でアニール処理を実施している。実施例1〜4は、比較例1に対して、300℃以上の温度でのアニール処理を施したものである。実施例5、6は、比較例6に対して、300℃以上の温度でのアニール処理を施したものである。アニール処理によって、陽極酸化皮膜が、引張歪みから、0.10%以上の圧縮歪みに変化した。実施例14〜17は、比較例8に対して、300℃以上の温度でのアニール処理を施したものである。アニール処理によって、陽極酸化皮膜が、0.03%の圧縮歪みから、0.10%以上の圧縮歪みへと大きくなった。
【0175】
以上のことから、300℃以上の温度でのアニール処理によって、陽極酸化皮膜のポーラス層の歪みを、室温で圧縮方向の歪みとすることができた。また、アニールの加熱温度が高いほど、加熱時間が長いほど、歪み量が大きくなる傾向がある。
【0176】
荷重試験は、フィッシャーインスツルメンツ社製 PICODENTOR(登録商標) HM500Hを用いて実施した。陽極酸化皮膜が基板に形成された状態で、この陽極酸化皮膜に、ベルコビッチ圧子を10μm程度押し込み、図5に示すように、圧痕100とクラック104を発生させた。圧痕100とクラック104を光学顕微鏡で観察し、圧痕100の長さLp(以下、圧痕長Lpという)と、クラック104の長さLc(以下、クラック長Lcという)を計測した。なお、ベルコビッチ圧子を10μm程度押し込んでもクラックは必ずしも発生しない。
圧痕長Lpは、圧痕100の中心100aから圧痕100の端102までの長さとした。クラック長Lcは、圧痕100の中心100aからクラック104の端106までの長さとした。
実施例11と比較例6の陽極酸化皮膜について、クラック長/圧痕長を測定するために形成した圧痕を図6(a)、(b)に示す。
【0177】
荷重試験においては、クラック長/圧痕長を、クラックの入りやすさの指標とし、下記表2に示す。クラック長/圧痕長の値が小さいほど、クラックが入りづらく、また、クラックが入ったとしても伸展しづらいことを示している。さらに、クラックが発生しなかった場合は、とりわけ高いクラック耐性を有することを示している。
比較例1〜8では、引張歪みを有する皮膜ではクラック長/圧痕長が大きく、圧縮歪みを有する皮膜ではクラック長/圧痕長が小さい傾向がある。すなわち、圧縮歪みを有する皮膜ほど、クラック耐性が高いことを示している。さらに、圧縮歪み量が0.1%以上の皮膜においては、クラックの発生が確認されなかった。すなわち、実施例1〜18の陽極酸化皮膜は、とりわけ高いクラック耐性を有することを示している。
【0178】
曲げ歪み試験においては、各実施例1〜18および比較例1〜8の絶縁層付金属基板について、それぞれ幅3cm、長さ10cmの大きさに試験片を切り出した。各試験片について、所定の曲率半径を有する治具に沿わせて曲げ、光学顕微鏡で各試験片の表面を観察した。
曲げ歪み試験においては、観察の結果、試験片にクラックが発生していない場合を○とし、試験片にクラックが発生しているものの、3cmの幅の途中で止まっている場合を△とし、クラックが試験片の全面にわたって発生している場合を×として、クラック発生の程度、すなわち、曲げ歪み耐性を評価した。
【0179】
下記表3に示すように、実施例1〜18は比較例1〜8に比べて、より小さな曲率半径まで曲げてもクラックが入らず、実施例1〜18は曲げ歪み耐性が高い。
【0180】
熱歪み試験においては、絶縁層付金属基板について、室温より各試験温度まで500K/分の急速昇温を行い、所定時間保持した後、室温まで降温した後、陽極酸化皮膜のクラック発生の有無を調べた。
クラック発生については、絶縁層付金属基板の状態での目視検査を行うとともに、金属基板を溶解して除去し、絶縁層を取り出し、絶縁層を、光学顕微鏡を用いて観察することにより行った。
クラック発生については、目視および光学顕微鏡による観察のいずれでも、クラックの発生がなかったものを○とし、目視ではクラックの発生がなく、光学顕微鏡による観察でクラックの発生があったものを△とし、目視および光学顕微鏡による観察のいずれでも、クラックの発生があったものを×とした。
【0181】
下記表3に示すように、実施例1〜18は、比較例1〜8に比べて、より高温までクラックが入らず、実施例は熱歪み耐性が高い。
また、アニール時間が長いほど、また、アニール温度が高いほど、高い温度でのクラックの発生が抑制された。
【0182】
絶縁破壊試験においては、絶縁層付金属基板について、それぞれ5cm×5cmの大きさに試験片を切り出し、各試験片に直径が3cmの上部金電極を形成した。
各試験片に、上部金電極を形成した後、上部電極とアルミ基板の間に電圧を印加し、10V刻みで徐々に印加電圧を上昇させた。絶縁破壊が起こった電圧を絶縁破壊電圧とした。
なお、印加電圧が1000Vの段階でも絶縁破壊を起こさなかった基板は、下記表3の絶縁破壊電圧の欄に1000V以上と記載した。
膜厚が10μmである実施例1〜18は、いずれも1000V以上の高い絶縁破壊電圧を有した。
一方、アニール温度が低かった比較例2、7は絶縁破壊電圧が低く、アニール処理を行わなかった比較例1、3、4、5、6、8は絶縁破壊電圧がさらに低かった。
【0183】
以上のことから、陽極酸化皮膜に0.10%以上の圧縮歪みがかかっている場合は、耐クラック性が高く、絶縁信頼性の高い絶縁層付金属基板が得られることがいえる。一方、圧縮歪みが小さい場合や引張歪みがかかっている場合は、耐クラック性が高い絶縁層付金属基板を得ることができない。
【0184】
【表1】

【0185】
【表2】

【0186】
【表3】

【符号の説明】
【0187】
10 基板
12 金属基材
14 アルミニウム基材(Al基材)
16 絶縁層
30 薄膜太陽電池
32 裏面電極
34 光電変換層
36 バッファ層
38 透明電極
40 光電変換素子
42 第1の導電部材
44 第2の導電部材
50 アルカリ供給層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層付金属基板であって、アルミニウムよりも線熱膨張係数が小さい金属からなる金属基材の少なくとも片面にアルミニウム基材を配した金属基板と、前記アルミニウム基材に形成されたアルミニウムのポーラス型陽極酸化皮膜とを有し、
前記陽極酸化皮膜は、バリア層部分とポーラス層部分からなり、前記ポーラス層部分が室温で0.10%以上の圧縮方向の歪みであることを特徴とする絶縁層付金属基板。
【請求項2】
前記陽極酸化皮膜の厚さが3μm〜50μmであることを特徴とする請求項1に記載の絶縁層付金属基板。
【請求項3】
前記金属基材は、アルミニウムよりもヤング率が大きい金属からなることを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁層付金属基板。
【請求項4】
絶縁層付金属基板であって、アルミニウムよりも線熱膨張係数が小さい金属からなる金属基材の少なくとも片面にアルミニウム基材を配した金属基板と、前記アルミニウム基材に形成されたアルミニウムのポーラス型陽極酸化皮膜とを有し、前記陽極酸化皮膜は、バリア層部分とポーラス層部分からなる絶縁層付金属基板の製造方法であって、
前記アルミニウム基材に前記アルミニウムの前記ポーラス型陽極酸化皮膜を形成する工程と、
形成された前記ポーラス型陽極酸化皮膜に300℃〜600℃の加熱温度で加熱処理し、前記ポーラス層部分が室温で0.10%以上の圧縮方向の歪みであるポーラス型陽極酸化皮膜を形成する工程とを有することを特徴とする絶縁層付金属基板の製造方法。
【請求項5】
前記加熱処理の加熱時間は、1秒〜100時間であることを特徴とする請求項4に記載の絶縁層付金属基板の製造方法。
【請求項6】
前記陽極酸化皮膜の厚さが3μm〜50μmであることを特徴とする請求項4または5に記載の絶縁層付金属基板の製造方法。
【請求項7】
前記金属基材は、アルミニウムよりもヤング率が大きい金属からなることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の絶縁層付金属基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の絶縁層付金属基板を用いたことを特徴とする半導体装置。
【請求項9】
請求項4〜7のいずれか1項に記載の絶縁層付金属基板の製造方法によって前記絶縁層付金属基板を製造する工程と、
前記絶縁層付金属基板上に半導体素子を形成する工程とを有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項10】
請求項4〜7のいずれか1項に記載の絶縁層付金属基板の製造方法によって絶縁層付金属基板を製造する工程と、
加熱処理後、前記絶縁層付金属基板の温度を室温に下げることなく連続的に、前記絶縁層付金属基板上に半導体素子を形成する工程とを有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の絶縁層付金属基板を用いたことを特徴とする太陽電池。
【請求項12】
前記絶縁層付金属基板に少なくとも化合物系光電変換層が形成されていることを特徴とする請求項11に記載の太陽電池。
【請求項13】
請求項4〜7のいずれか1項に記載の絶縁層付金属基板の製造方法によって前記絶縁層付金属基板を製造する工程と、
前記絶縁層付金属基板上に化合物系光電変換層を形成する工程とを有することを特徴とする太陽電池の製造方法。
【請求項14】
請求項4〜7のいずれか1項に記載の絶縁層付金属基板の製造方法によって絶縁層付金属基板を製造する工程と、
加熱処理後、前記絶縁層付金属基板の温度を室温に下げることなく連続的に、前記絶縁層付金属基板上に前記化合物系光電変換層が形成されたものであることを特徴とする太陽電池。
【請求項15】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の絶縁層付金属基板を用いたことを特徴とする電子回路。
【請求項16】
請求項4〜7のいずれか1項に記載の絶縁層付金属基板の製造方法によって絶縁層付金属基板を製造する工程と、
前記絶縁層付金属基板上に電子素子を形成する工程とを有することを特徴とする電子回路の製造方法。
【請求項17】
請求項4〜7のいずれか1項に記載の絶縁層付金属基板の製造方法によって絶縁層付金属基板を製造する工程と、
加熱処理後、前記絶縁層付金属基板の温度を室温に下げることなく連続的に、前記絶縁層付金属基板上に電子素子を形成する工程とを有することを特徴とする電子回路の製造方法。
【請求項18】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の絶縁層付金属基板を用いたことを特徴とする発光素子。
【請求項19】
請求項4〜7のいずれか1項に記載の絶縁層付金属基板の製造方法によって絶縁層付金属基板を製造する工程と、
前記絶縁層付金属基板上に発光デバイスを形成する工程とを有することを特徴とする発光素子の製造方法。
【請求項20】
請求項4〜7のいずれか1項に記載の絶縁層付金属基板の製造方法によって絶縁層付金属基板を製造する工程と、
加熱処理後、前記絶縁層付金属基板の温度を室温に下げることなく連続的に、前記絶縁層付金属基板上に発光デバイスを形成する工程とを有することを特徴とする発光素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図7】
image rotate

【図6】
image rotate