説明

絶縁材料の金属腐蝕性試験方法

【課題】新絶縁材料の開発のためのリサーチで、多数の絶縁材料の金属腐蝕性試験を定量的かつ迅速に行なう。
【解決手段】絶縁材料1を純水2に浸漬して抽出液1aを作製し、その抽出液1aへの金属溶解速度から絶縁材料1の金属腐蝕性を評価する。金属溶解速度は、評価対象金属からなる金属電極5及び参照用電極6を抽出液1a及び参照用純水4に浸漬し、電極5、6間の電位差から評価する。あるいは、抽出液1aを2分し、一方に金属を浸漬・溶解したのち両抽出液に呈色反応試薬を投入して呈色を比較することで金属溶解量を定量する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁材料の金属に対する腐蝕性の評価方法に関し、とくに絶縁材料と共に使用される金属材料に対するその絶縁材料の腐蝕特性を迅速に評価するための絶縁材料の腐蝕性試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の絶縁材料として難燃性の絶縁樹脂材料が広く用いられている。例えば、トランジスタ、ダイオード又は集積回路の封止用樹脂、プリント基板の絶縁樹脂、コネクタ等の電子部品を構成する絶縁樹脂あるいはケーブル被覆材を構成する絶縁樹脂である。これらの樹脂は、難燃性を付与するためにBr等のハロゲン元素やSbを含むハロゲン系難燃剤、或いは柔軟性及び安定性を保持するために鉛を含む柔軟剤及び安定剤が添加されている。
【0003】
しかし、かかるハロゲン元素、Sb又は鉛を含む材料の電子機器への使用は、環境汚染を防止する目的から、例えばヨーロッパのRoHS(特定危険物質の使用禁止規定)指令等において禁止されつつある。このため、難燃性絶縁樹脂やケーブル被覆材等の絶縁材料についても、RoHS指令等に対応したハロゲンフリー、Sbフリー及びPbフリーの新絶縁材料の開発が進められている。
【0004】
かかる新絶縁材料の開発では、新絶縁材料の金属に対する腐蝕性が小さいことが重要である。電子機器の小型化に伴い、電子機器に用いられる金属部分、例えば集積回路及び回路基板の配線、あるいは集積回路のリードフレームやコネクタの接点等も、ますます微細化している。かかる電子機器の微細な金属部分は、絶縁材料あるいは絶縁材料から溶出した各種成分に接触すると、電蝕、マイグレーションによる不良を引き起こすことがある。このような電蝕及びマイグレーションは電子機器の信頼性を損なう。従って、新絶縁材料は、単に添加される難燃剤、柔軟剤及び安定剤がハロゲンフリー、Pbフリーであるのみならず、新絶縁材料が電子機器に使用された場合に、その電子機器に使用されている金属材料に対する腐蝕性が小さいことが重要視される。
【0005】
従来のBrを含むハロゲン系難燃剤を含有する絶縁材料(例えば、封止用絶縁樹脂)又はPbを含む柔軟剤若しくはPbを含む安定剤を含有する絶縁材料(例えば、ケーブル被覆用絶縁樹脂)(以下、「ハロゲン等を含む絶縁材料」という。)について、電蝕及びマイグレーションの評価又は試験が行なわれてきた。そして、その評価に基づき、優れた耐電蝕性と優れた難燃性、柔軟性又は安定性を有する絶縁性材料が開発され、実用に提供されている。
【0006】
これらハロゲン等を含む絶縁材料の電蝕性の評価は、評価すべき絶縁材料を用いてダミーの電子機器を製造し、このダミーの電子機器の信頼性試験を行い、この試験中に発生しする電気的な短絡を観察することでなされていた。この信頼性試験は、高温高湿、高温高圧、高電圧ストレス条件等の多様な環境下で500〜1000時間という長時間の放置試験である。
【0007】
しかし、新絶縁材料の開発、とくに有望な材料を発見するためのスクリーニング工程では、候補に選定された多くの絶縁材料について信頼性を評価しなければならない。かかる多数の絶縁材料に対して、長時間の信頼性試験を行なうことは実用的ではない。また、高温高湿環境を維持する高価な信頼性試験装置を要するため、開発コストが高くなる。そこで、簡便な装置で短時間に評価できる試験方法として、絶縁材料から溶出する腐食性イオンを評価する方法が考案され、実用化されている。
【0008】
この方法は、絶縁材料から溶出する物質中に含まれる、一般に腐食性が認められているイオン、例えば塩化物イオン等の塩素系イオン及び硫酸イオン等の硫黄系イオン、の量を評価する。これら塩素系イオン及び硫酸系イオンの金属腐蝕特性は良く知られており、これらのイオン量から絶縁材料の金属腐蝕性を評価することができる。(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0009】
上述の溶出イオンを評価する方法は、従来のハロゲン等を含む絶縁材料には良い評価結果を与えることが知られている。しかし、新絶縁材料、例えば水酸化アルミニウム又は水酸化カルシウム等の金属水酸化物を用いた水酸化金属系難燃剤、ホウ素化合物を用いたホウ素系難燃剤あるいはシリカフィラーを用いたフィラー系難燃剤が添加された新絶縁材料が有望とされ開発が進められているが、これらの新絶縁材料の評価方法としての適否は十分には解明されていない。即ち、これらの新絶縁材料から溶出するイオンには、上述した塩素系イオン及び硫黄系イオンの他に、多様なイオンが含まれることが多い。例えば、イオンクロマトグラフによる分析では、酢酸イオン、蟻酸イオン、しゅう酸イオン又は燐酸イオンが検出されることが多く、さらには同定されていない不明なイオンのピークが観測されることも多い。
【0010】
現在、これらのイオンの金属腐蝕性は十分には解明されておらず、また、これらのイオンが同時に存在する溶液の金属腐蝕性も解明されていない。このため、これらのイオン量から絶縁材料の金属腐蝕性を評価する従来の評価方法は、必ずしも正当な評価結果をあたえるとは限らない。例えば、金属腐蝕性が大きい塩素系及び硫黄系イオンを僅かしか含まなくても、大きな金属腐蝕性、例えばマイグレーションを引き起こす新絶縁材料も知られている。
【0011】
このため、絶縁材料から溶出する未知の物質を含む全ての物質が同時に存在する溶液について、金属腐蝕性を評価する方法が考案された。(例えば、特許文献3参照)。
【0012】
図3は従来の絶縁材料の金属腐蝕性の試験方法の工程図であり、絶縁材料から溶出する全ての物質が同時に存在する溶液について金属腐蝕性を評価する方法の工程を表している。
【0013】
この方法では、図3(a)を参照して、まず、容器3内に、純水2と粉砕された絶縁材料1を入れ、高温、高圧下に放置し、純水1中に絶縁材料1の成分を溶出させた抽出液1aを作製する。
【0014】
次いで、図3(b)及び図3(c)を参照して、主面に2本の配線32、33を近接して配置した配線パターンが形成された回路基板31を、抽出液1a中に浸漬する。そして、配線32と配線33の間に電源34から定電圧を印加し、電流の時間変化を測定する。浸漬時間が長くなり配線32、33の腐蝕が進行するとともに、配線32、33間を流れる電流が増加するので、配線の腐蝕量を評価することができる。なお、配線32、33は評価すべき金属材料から作られる。
【0015】
しかし、この方法では、配線32、33、即ち金属材料の腐蝕特性を定量的に評価することは難しい。なぜなら、配線32、33の腐蝕は、配線32、33の全体が一様に進行するのではなく、局所的に集中して進行する。その結果、配線32、33の一部に局所的に腐蝕生成物が形成され、配線32、33間の隙間を局所的に狭くする。配線32、33間に流れる電流のかなりの部分は、この局所的に狭くされた隙間を流れる電流からなる。この隙間の狭窄の程度及び個数は偶発的要因に依存しており、従って電流の時間変化も偶発的要因に大きく影響されるので、これから腐蝕の程度を定量的に評価することは難しいからである。
【0016】
このため、この方法では、同様の測定を金属腐蝕特性が知られている絶縁材料についてもおこない、その結果と評価対象である新絶縁材料の評価結果とを比較することで、金属腐蝕性を相対的に評価している。
【特許文献1】特開平7−63721号公報
【特許文献2】特開平9−297116号公報
【特許文献3】特開昭63−284828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述したように、新絶縁材料の開発には多種類の絶縁材料の金属腐蝕性を評価する必要があるが、評価すべき金属材料及び評価すべき絶縁材料を組み合わせて製造された多数のダミーの電子機器を信頼性試験する従来の方法では、試験時間が長くなり実用に適さない。
【0018】
また、絶縁材料の抽出液から特定イオンのみを定量し、これに基づき金属腐蝕性を評価する方法は、各種の物質が溶出するハロゲンフリーあるいはPbフリーの新絶縁材料を適切に評価できない場合がある。また、抽出液中の全てのイオンを定量するのは長い時間と多大な手間を必要とし、開発コストが高くなる。
【0019】
さらに、絶縁材料の成分を純水中に抽出して、その中に電圧が印加された近接する配線が形成された回路基板を浸漬し、電流の時間変化から配線金属の腐蝕性を評価する方法では、偶発的要因が電流の時間変化に寄与するため、金属の腐蝕の程度を定量的に評価することが難しいという問題がある。このため、腐蝕特性が知られた絶縁材料を基準として比較し評価しているが、これでは、基準となる腐蝕特性が知られた絶縁材料を準備しなければならず、かかる基準となる絶縁材料を準備できない新絶縁材料についてはこの方法を適用することは難しい。
【0020】
本発明は、新絶縁材料に対しても、基準となる絶縁材料を用いず、簡便な装置で迅速にかつ定量的に金属腐蝕性を評価することができる絶縁材料の金属腐蝕性試験方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するための本発明の第1構成は、絶縁材料の成分を純水中に抽出した抽出液中に金属を浸漬して、その金属の溶解速度を測定する。そして、測定された溶解速度に基づき絶縁材料のその金属に対する腐蝕性を評価する絶縁材料の金属腐蝕性評価方法として構成する。
【0022】
上記本発明の第1構成では、抽出液中に評価すべき金属を浸漬し、金属の溶解速度を測定する。そして、その溶解速度から抽出液の腐食性を評価する。
【0023】
金属の溶解速度は、定量的にかつ迅速に測定することができる。さらに、参照用の絶縁材料からの抽出液を必要としない。また、金属の腐食性、例えば腐食速度あるいは腐食の可否及び進行速度は、溶解速度から定量的に推定することができる。従って、参照用の絶縁材料を用いることなく、迅速に定量的な絶縁材料の金属腐食性を評価することができる。
【0024】
本発明の第2構成は、上記第1構成の金属の溶解速度の測定を、評価すべき金属からなる金属電極を抽出液中及び参照用純水中にそれぞれ浸漬し、これらの金属電極間の電極電位差から推定する。金属電極の電極電位は、金属の抽出液中への溶解の可否及び溶解速度を示している。従って、電極電位から抽出液の腐食性を定量的に推定することができる。この電極電位は、例えば電位差計のような簡便な測定器を用いて、しかも迅速に測定することができる。
【0025】
上記第2構成では、抽出液の電極電位を、参照用純水の電極を参照電極として測定する。さらに、参照用純水中に基準電極、例えばPt電極やその他の標準電極を浸漬し、これを参照用電極として用いることもできる。
【0026】
本発明の第3構成は、上記第1構成の金属の溶解速度の測定を、抽出液を2分し、その一方に金属を浸漬して金属の成分を前記抽出液に溶解させたのち、両方に呈色反応試薬を加え、金属を溶解した抽出液の呈色を他方の抽出液(金属を浸漬していない抽出液)を参照用として測定する。
【0027】
本第3構成では、予め知られている金属について、その成分の溶出量を測定するのみで絶縁材料の金属腐食性を評価することができる。従って、従来の評価方法のように、抽出液中に含まれる多くの物質を同定し定量する方法に比べて、非常に簡便である。また、金属の成分ごとの溶出量、即ち溶出速度を測定することができる。このため、金属材料の選定にも適用することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、抽出液中への金属の溶出速度を測定するのみで、絶縁材料の金属腐食性を評価することができる。このため、簡便な装置を用いて、迅速に定量的な絶縁材料の金属腐食性試験を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図1は本発明の第1実施形態の試験方法を説明する断面工程図である。本発明の第1実施形態は、電極電位を測定して絶縁材料の金属腐食性を評価する試験方法に関する。
【0030】
図1(a)を参照して、本発明の第1実施形態では、まず、純水2を入れた蒸留装置の容器3を準備する。次いで、評価すべき絶縁材料を粉砕して、この粉砕された絶縁材料1を容器内3の純水2中に浸漬する。さらに純水2を100℃で10〜20時間煮沸して、絶縁材料1を抽出した抽出液1aを作製した。なお、蒸留装置は、純水2の蒸気を冷却凝結させて再び純水2中に還流する。さらに、密閉型の蒸留装置を用い、純水2を、例えば120℃〜130℃の高温高圧に保持して抽出を早くすることもできる。
【0031】
次いで、図1(b)を参照して、抽出液1a中に評価すべき金属からなる金属電極5及びPt電極7を浸漬する。さらに、参照用純水4を準備し、この参照用純水4中に評価すべき金属からなる金属電極(参照用電極6)及び、Pt電極7を浸漬する。そして、抽出液1a中に浸漬されたPt電極7と参照用純水4中に浸漬されたPt電極7とを電気的に接続し、金属電極5と参照用電極6間の電位差を電位差計8で測定した。
【0032】
この金属電極5と参照用電極6間の電位差は、評価すべき金属に対する抽出液1aと参照用純水4との活動度の相違に対応している。参照用純水に対する金属の腐食性はよく知られているから、この電位差に基づき抽出液1aの金属腐食性を定量的に評価することができる。
【0033】
このPt電極7は、基準電極として機能し、抽出液1aと参照用純水4間の電位差を電気化学的に定まる値に保持する。必要ならば、予めこの電位差を測定しておき、この値を用いて電位差計の測定値を補正することもできる。また、Pt電極7を用いず、抽出液1aと参照用純水4とを電気的に接触させてもよい。
【0034】
さらに、参照用電極6を基準電極、例えばPt電極とすることもできる。このとき、参照用電極6は、抽出液1aに対する基準電極として機能する。また、参照用純水4を用いず、抽出液1a中のPt電極7を基準電極として金属電極5の電極電位を測定することもできる。このとき、Pt電極7に代えて標準電極を用いることで、より精密に電極電位を測定することもできる。
【0035】
また、電位差計8の代わりに、分極測定装置を用いて腐食電圧及び腐食電流を測定し、これらに基づいて金属腐食性を評価してもよい。分極測定法を用いることで、電極の形状等の影響を少なくすることができる。
【0036】
図2は本発明の第2実施形態の試験方法を説明する断面工程図である。本発明の第2実施形態は、抽出液中に溶解した金属量を比色分析により測定して絶縁材料の金属腐食性を評価する試験方法に関する。
【0037】
図2(a)を参照して、本発明の第1実施形態では、まず、純水2を入れた蒸留装置の容器3中に評価すべき絶縁材料1を粉砕して高温高圧下で煮沸し、純水2中に絶縁材料1の成分が溶けだした抽出液1aを作製する。この工程は、既述の第1実施形態の抽出液作製工程と同じである。
【0038】
次いで、図2(b)を参照して、抽出液1aを2分し、それぞれ容器10a及び容器10bに収納する。そして、容器10a内に収納された抽出液1a中に評価すべき金属からなる金属片11を、例えば半日〜1日浸漬する。必要ならば、容器10aをその金属が用いられる電子機器の環境温度あるいは高温に保持する。この浸漬により、容器10a内の抽出液1a中に金属片11の成分が溶解する。
【0039】
次いで、容器10a及び容器10b中に、金属片11の評価すべき成分の金属イオンに対して呈色反応する呈色反応試薬を添加する。この呈色反応試薬は、例えば、評価すべき成分Cuイオンに対してPAR(4−(2−Pyridylazo)resorcinol)、クプリゾン又はビシンコニンが、評価すべき成分Feイオンに対してピピリジル又は1.10フェナントロリンが、評価すべき成分Niイオンに対してジメチルグリオキシムが用いられる。また、金属片11の評価すべき成分は、その金属に含まれる成分の中で最も腐食可能性が高くかつ多量に含有されるものを選択することが好ましい。例えば、Cu又はCu合金を配線に使用する用途ではCuイオンを、42アロイをリードフレームに使用する用途ではFeイオン又はNiイオンを選択することができる。
【0040】
次いで、図2(c)を参照して、容器10a中の抽出液1a及び容器10b中の抽出液10bをそれぞれ、分光光度計の試料セル9a及び参照用セル9bに収容し、試料セル9a中の抽出液1aの吸光度を参照用セル9b中の抽出液1bの光吸収を参照して測定する。この吸光度の測定結果から、試料セル9a中の抽出液1aに溶解している金属成分を定量する。この定量された溶解量に基づき、抽出液1a中へのその金属成分の溶解速度、即ち腐食速度を算出し、この溶解速度を絶縁材料1の金属腐食性の評価基準とした。
【0041】
本第2実施形態では、実際の溶解量を測定する。この溶解量の呈色による試験(比色試験)は、電極電位の測定に比べて安定な定量測定である。また、第1実施形態のような比較対照としての純水も不要であり、誤差の発生機会が少ない。このため、第2実施形態では、金属腐食性の評価を安定して行うことができる。
【0042】
本第2実施形態の呈色の測定は、分光光度計による吸光度の測定でなされた。この呈色の測定は、他の周知の比色分析、例えば目視による比色試験で行うこともできる。
【0043】
表1は第1及び第2実施形態による試験結果であり、絶縁材料の金属腐食性試験の結果を表している。なお、表1中の電位差は第1実施形態で測定された電極電位差を、表1中の吸光度は第2実施形態で測定された吸光度を表している。
【0044】
【表1】

表1を参照して、絶縁材料として、水酸化金属難燃剤を含有するエポキシ樹脂A、勇気燐難燃剤を含有するエポキシ樹脂B、鉛フリーのケーブル被覆材C及び鉛安定剤を含有するケーブル被覆材を評価した。なお、評価される金属として銅配線材料を選択した。また、比較例として従来広く使用されているBr系難燃剤を含有するエポキシ樹脂を比較例として評価した。さらに、抽出液との比較のために、純水に対する金属腐食性試験の結果を示した。
【0045】
絶縁材料のエポキシ樹脂A〜エポキシ樹脂Eの順で、電位差は大きくなり、吸光度は逆に小さくなっている。これは、この順序で抽出液1a中の活動度が高く金属が溶解しやすいこと、及び、この順序で抽出液中に溶解した金属成分が多いことを示している。即ち、この順で、絶縁材料のCuに対する金属腐食性が大きいことを表している。これらの、電位差及び吸光度から算出される活動度又は溶解量は、金属の溶解の難易を定量的に表すから、これら電位差又は吸光度を、抽出液、即ち絶縁材料の金属腐食性を定量的に示す指標とすることができる。
【0046】
ケーブル被覆材Dは、電位差140mV、吸光度0.10であり、比較例のエポキシ樹脂Eの電位差150mV、吸光度0.08に非常に近い。これは、ケーブル被覆材Dは比較例のエポキシ樹脂Eに近い(ないし、僅かに大きな)銅腐食性を有することを表している。純水は240mVの電位差と0.01以下の吸光度を有し、腐食性が極めて小さいことを表している。なお、純水に対する金属電極との電位差は、標準電極の電位を参照して測定した。
【0047】
他方、エポキシ樹脂B及びケーブル被覆材Cは、それぞれ電位差70mV及び50mV、吸光度0.38及び0.40であり、比較例のエポキシ樹脂Eに比べてCu腐食性が大きなことを表している。さらに、エポキシ樹脂Aの電位差は37mV、吸光度は1.56であり、最も腐食性が大きい。なお、比較例のエポキシ樹脂Eの吸光度0.08で規格化したケーブル被覆材D〜エポキシ樹脂Aの吸光度の比は、この順で1.25、4.75、5、0、19、5である。
【0048】
表1には、抽出液1aに含まれるCuイオンをICP−MS法(高周波誘導結合プラズマ質量分析法)により測定した結果をCu溶出量として表示している。このICP−MS法で測定されたCu溶出量は、比較例のエポキシ樹脂Eで規格化した溶出量で比較すると、吸光度の測定結果とよく一致している。このことは、第2実施形態で測定される吸光度が、Cuの溶出量、即ちCuの腐食速度を定量的に表していることを裏づけている。
【0049】
さらに表1には、ダミー電子機器を温度85℃、湿度85%RHの下で500時間の信頼性試験を行った結果を示した。この試験では、電位差及び吸光度により最も腐食性が大きいと評価されたエポキシ樹脂Aのみが不良(NG)と判定された。この結論は、本発明の金属腐食性試験が電子機器の信頼性を正しく評価していること、さらにより精密に信頼性を予測することを示している。
【0050】
上記本明細書には以下の付記記載の発明が開示されている。
(付記1)絶縁材料を純水に浸漬して、前記絶縁材料の成分が前記純水中に抽出された抽出液を作製する工程と、
前記抽出液中に金属を浸漬して、前記金属の溶解速度を測定する工程とを有し、
前記溶解速度に基づき前記絶縁材料の前記金属に対する腐蝕性を評価する絶縁材料の金属腐蝕性試験方法。
(付記2)前記溶解速度の測定は、前記抽出液中及び参照用純水中にそれぞれ浸漬された前記金属からなる金属電極間の電極電位差に基づいて前記溶解速度を測定することを特徴とする付記1記載の絶縁材料の金属腐食性試験方法。
(付記3)前記参照用純水中に浸漬された前記金属電極に代えて、前記参照用純水中に浸漬された基準電極を用いることを特徴とする付記2記載の絶縁材料の金属腐食性試験方法。
(付記4)前記金属電極間の電極電位差の測定は、前記抽出液及び前記参照用純水を電気的に接続してなされることを特徴とする付記2又は3記載の絶縁材料の金属腐食性試験方法。
(付記5)前記抽出液及び前記参照用純水の電気的な接続は、前記抽出液中及び参照用純水中にそれぞれ浸漬された基準電極を配線で接続してなされることを特徴とする付記4記載の絶縁材料の金属腐食性試験方法。
(付記6)前記抽出液を2分し、一方に前記金属を浸漬して、前記金属の成分を前記抽出液に溶解させる工程と、
次いで、2分した前記抽出液の一方及び他方に前記成分の呈色反応試薬を加え、前記抽出液の一方と前記抽出液の他方との呈色を比較して前記腐蝕速度を測定することを特徴とする付記1記載の絶縁材料の金属腐蝕性試験方法。
(付記7)前記呈色の比較は、比色試験によりなされることを特徴とする付記6記載の絶縁材料の金属腐蝕性試験方法。
(付記8)前記呈色の比較は、吸光度の比較によりなされることを特徴とする付記6記載の絶縁材料の金属腐蝕性試験方法。
(付記9)前記抽出液の作製は、前記絶縁材料を高温又は高温・高圧の前記抽出用純水に浸漬して行なうことを特徴とする付記1〜8のいずれかに記載された絶縁材料の金属腐蝕性試験方法。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、多数の絶縁材料を迅速に評価する必要がある新絶縁材料の開発において、とくにスクリーニングに適用することで、簡便かつ迅速、定量的に新絶縁材料の金属腐食性を評価するために適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1実施形態の試験方法を説明する断面工程図
【図2】本発明の第2実施形態の試験方法を説明する断面工程図
【図3】従来の絶縁材料の金属腐蝕性の試験方法の工程図
【符号の説明】
【0053】
1 絶縁材料
1a 抽出液
2 純水
3、10a、10b 容器
4 参照用純水
5 金属電極
6 参照用電極
7 Pt電極(基準電極)
8 電位差計
9a 資料セル
9b 参照用セル
11 金属片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁材料を純水に浸漬して、前記絶縁材料の成分が前記純水中に抽出された抽出液を作製する工程と、
前記抽出液中に金属を浸漬して、前記金属の溶解速度を測定する工程とを有し、
前記溶解速度に基づき前記絶縁材料の前記金属に対する腐蝕性を評価する絶縁材料の金属腐蝕性試験方法。
【請求項2】
前記溶解速度の測定は、前記抽出液中及び参照用純水中にそれぞれ浸漬された前記金属からなる金属電極間の電極電位差に基づいて前記溶解速度を測定することを特徴とする請求項1記載の絶縁材料の金属腐食性試験方法。
【請求項3】
前記参照用純水中に浸漬された前記金属電極に代えて、前記参照用純水中に浸漬された基準電極を用いることを特徴とする請求項2記載の絶縁材料の金属腐食性試験方法。
【請求項4】
前記抽出液を2分し、一方に前記金属を浸漬して、前記金属の成分を前記抽出液に溶解させる工程と、
次いで、2分した前記抽出液の一方及び他方に前記成分の呈色反応試薬を加え、前記抽出液の一方と前記抽出液の他方との呈色を比較して前記腐蝕速度を測定することを特徴とする請求項1記載の絶縁材料の金属腐蝕性試験方法。
【請求項5】
前記抽出液の作製は、前記絶縁材料を高温又は高温・高圧の前記抽出用純水に浸漬して行なうことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の絶縁材料の金属腐蝕性試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−327787(P2007−327787A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157688(P2006−157688)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】