説明

絶縁油配合物

【課題】配合物の用途に対し充分な特性を有する絶縁油配合物を提供すること。
【解決手段】引火点がISO 2592で測定して170℃以上である基油成分と、添加剤とを含有する絶縁油配合物であって、(i)基油成分の80重量%以上は、パラフィン含有量が80重量%を超え、飽和物含有量が98重量%を超え、かつ炭素原子数がn、n+1、n+2、n+3及びn+4(但し、nは20〜35)の一連のイソパラフィンを含有するパラフィン基油である、(ii)酸化防止添加剤を含む該絶縁油配合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、基油及び添加剤を含有する絶縁油に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
US−A−6790386にはイソパラフィン基油及び添加剤を含有する絶縁油が記載されている。イソパラフィン基油は、パラフィン系真空供給原料の水素化処理、水素化異性化及び水素化により製造される。
【0003】
US−A−5912212には水素化分解したパラフィン系鉱物基油、
3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシプロピオン酸エステル、ジオクチルアミノメチルトリルトリアゾール及びジラウリルチオジプロピオネートよりなる酸化安定性潤滑油配合物が記載されている。この油は高度の酸化安定性を有する。
【0004】
WO−A−02070629にはフィッシャー・トロプシュ法で作った蝋からイソパラフィン系基油を製造する方法が記載されている。この文献によれば、100℃での動粘度が2〜9cStの基油は、絶縁油又はトランス油のような配合物の基油として使用できる。
【0005】
WO−A−02070629に記載されるように、フィッシャー・トロプシュ誘導基油の特性を有する基油を用いて絶縁油を配合することが望まれている。主な理由は、鉱物原油源から製造した同様な基油に比べて比較的簡単な製造法と共に、低温特性の優れた基油が得られるからである。
【0006】
絶縁油配合物はその用途で利用可能にするため、特定の性能を必要とする。一般的な要件は、スラッジ形成が少ないこと、高い酸化安定性を有すること、意図する用途に対し充分な常温流れ特性を有すること、意図する用途に対し充分高い引火点を有すること、及び誘電正接が昇温下で長く試験した後も低いまま残ることである。特に昇温下で高性能が要求され、絶縁油配合物中にピークの温度上昇が起こる用途では、極めて高温の引火点が要求される。同時に、配合物は良好な低温特性を保持しなければならない。
【特許文献1】US−A−6790386
【特許文献2】US−A−5912212
【特許文献3】WO−A−02070629
【特許文献4】EP−A−776959
【特許文献5】EP−A−668342
【特許文献6】US−A−4943672
【特許文献7】US−A−5059299
【特許文献8】WO−A−9934917
【特許文献9】WO−A−9920720
【特許文献10】WO−A−9410264
【特許文献11】EP−A−0582347
【特許文献12】WO−A−9220759
【特許文献13】WO−A−9201657
【特許文献14】US−A−20040065581
【特許文献15】EP−A−1054052
【特許文献16】US−A−4,824,601
【特許文献17】EP−A−1054052
【特許文献18】US−A−2002/0109127
【特許文献19】EP−A−876446
【非特許文献1】Ryland,Lloyd B.,Tamale,M.W.及びWilson,J.N.,Cracking Catalysts,Catalysis;第VII巻、編集Paul H.Emmett,Reinhold Publishing Corporation,New York、1960、pp.5−9
【非特許文献2】Kirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technologie、第3版、1981、第14巻、477〜526頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
出願人は、このような合成イソパラフィン基油から出発して絶縁油配合物を配合するのは、鉱物ベースのパラフィン系基油から出発した場合に比べて、容易ではないことを見出した。本発明の目的は、配合物の用途に対し充分な特性を有する絶縁油配合物を提供することである。この目的は以下の油配合物で達成される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の概要
引火点がISO 2592で測定して170℃以上である基油成分と、添加剤とを含有する絶縁油配合物であって、
(i)基油成分の80重量%以上は、パラフィン含有量が80重量%を超え、飽和物含有量が98重量%を超え、かつ炭素原子数がn、n+1、n+2、n+3及びn+4(但し、nは20〜35)の一連のイソパラフィンを含有するパラフィン基油である、
(ii)酸化防止添加剤を含む、
該絶縁油配合物。
【0009】
図面の簡単な説明
図1及び図2は、実施例で使用した2種のフィッシャー・トロプシュ誘導基油の炭素数分布を表す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
発明の詳細な説明
基油成分は、パラフィン含有量が80重量%を超え、飽和物含有量が98重量%を超え、かつ炭素原子数がn、n+1、n+2、n+3及びn+4(但し、nは20〜35)の一連のイソパラフィンを含有するパラフィン基油である。好ましくは基油の飽和物含有量は、IP 386で測定して、好ましくは98重量%を超え、更に好ましくは99重量%を超え、なお更に好ましくは99.5重量%を超える。基油は更にナフテン系化合物を好ましくは0〜20重量%、更に好ましくは1〜20重量%の含有量で含有する。このような基油は、例えば酸化安定性の向上を目的とする場合、前述の添加剤に対し良好な応答を示すことが見出された。基油の40℃での動粘度は、好ましくは1〜200mm/sec、更に好ましくは1〜50mm/sec、なお更に好ましくは1〜15mm/secである。基油の100℃での動粘度は、好適には2〜50mm/sec、更に好ましくは2〜25mm/sec、最も好ましくは2〜10mm/secであってよい。更に好ましくは、油配合物をトランス油として使用する場合、基油の40℃での動粘度は5〜15mm/secが好ましい。絶縁油を低温スイッチギア油として使用する場合、基油の40℃での粘度は、好ましくは1〜15mm/sec、更に好ましくは1〜4mm/secである。基油の流動点は−30℃未満が好ましい。
【0011】
基油の引火点は、ASTM D92で測定して170℃以上、好ましくは175℃を超え、更に好ましくは180℃を超える。基油の引火点は油の用途に依存する。出願人は、特許請求した基油の引火点が所定の粘度において鉱油誘導基油に比べて高く、有利であることを見出した。イソパラフィン系成分が存在すると、揮発性を増大し、こうして引火点を低下させることを考慮すると、これは意外である。特にvk100(100℃での動粘度)が6mm/secを超えると共に、引火点が250℃を超える基油は、耐火性絶縁油配合物に有利に使用できる。動粘度が比較的低く、引火点が高い本発明の基油成分は、低温性能も耐酸化性も向上した絶縁油配合物を配合できる。これは、全体的な高温暴露が起こる、及び/又は絶縁油に高温ピーク又はいわゆるホットスポットが生じる、及び/又はnth2e絶縁油配合物含有装置の大きさ又は熱交換能力の制約のため、温度上昇が絶縁油によって容易に延期できない用途には特に重要である。このような装置又は用途の例は、小型の高能力トランス、又は安全スイッチである。ナフテン系化合物の含有量及びこのような連続系列のイソパラフィンは、フィールド脱着/フィールドイオン化(FD/FI)質量分光法で測定できる。この方法では、まず基油サンプルを、移動相としてヘキサン(測定法に記載)の代りにペンタンを用いる他は定量的高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)法IP368/01を用いて、極性(芳香族)相と非極性(飽和物)相とに分離する。
【0012】
次に、フィールド脱着/フィールドイオン化(FD/FI)インターフェースを備えたFinnigan MAT90質量分光計を用いて飽和物フラクション及び芳香族フラクションを分析する。なお、FI(“ソフト”イオン化技術)は、このような特定基油フラクションの炭化水素種の炭素数及び水素欠陥を定量するのに使用される。
【0013】
質量分析での化合物種の分類は、形成された特徴的なイオンにより決定され、普通、“z数”で分類される。この分類は全ての炭化水素種について一般式C2n+zで示される。飽和物相は芳香族相とは別に分析されるので、同じ理論量又はn数を有する他の異なるイソパラフィンの含有量を測定することが可能である。分光分析計の結果は、市販のソフトウエア(Sierra Analytics LLC,3453 Dragoo Park Drive,Modesto,California GA95350 USAから入手できるpoly 32)を用いて処理し、各炭化水素種の相対割合を測定する。
【0014】
前述のような連続イソパラフィン系列を有する基油は、好ましくはパラフィン蝋の水素化異性化、次いで更に好ましくは溶剤脱蝋又は接触脱蝋のような或る種の脱蝋により得られる。パラフィン蝋はスラック蝋であってよい。更に好ましくはパラフィン蝋は、高純度で更にはパラフィン含有量が多いこと、及びこのような蝋から、炭素原子数がn、n+1、n+2、n+3及びn+4(但し、nは20〜35)の連続系列のイソパラフィンを所望の分子量範囲で含有する生成物が得られることから、フィッシャー・トロプシュ誘導蝋である。このようなフィッシャー・トロプシュ蝋から誘導した基油は、本明細書ではフィッシャー・トロプシュ誘導基油と言う。
【0015】
前記フィッシャー・トロプシュ誘導基油の製造に使用可能なフィッシャー・トロプシュ法の例は、例えばいわゆるSasolの商用スラリー相蒸留物技術、Shell中間蒸留物合成法及び“AGC−21”ExxonMobil法がある。これらの方法及びその他の方法は、例えばEP−A−776959、EP−A−668342、US−A−4943672、US−A−5059299、WO−A−9934917及びWO−A−9920720に更に詳細に説明されている。通常、フィッシャー・トロプシュ合成生成物は、炭素原子数が1〜100、更には100を超える炭化水素を含有する。この炭化水素生成物は、ノーマルパラフィン、イソパラフィン、酸素化生成物及び不飽和生成物を含有する。
【0016】
基油が所望イソパラフィン生成物の1種である場合は、比較的重質のフィッシャー・トロプシュ誘導原料を用いるのが有利かも知れない。比較的重質のフィッシャー・トロプシュ誘導原料は、炭素原子数30以上の化合物を30重量%以上、好ましくは50重量%以上、更に好ましくは55重量%以上含有する。更に、フィッシャー・トロプシュ誘導原料中の炭素原子数が60以上の化合物と炭素原子数30以上の化合物との重量比は、少なくとも0.2、好ましくは少なくとも0.4、最も好ましくは少なくとも0.55である。フィッシャー・トロプシュ誘導原料は、ASF−α値(Anderson−Schulz−Flory連鎖成長ファクター)が少なくとも0.925、好ましくは少なくとも0.935、更に好ましくは少なくとも0.945、なお更に好ましくは少なくとも0.955のC20+フラクションを含有することが好ましい。このようなフィッシャー・トロプシュ誘導原料は、前述のような比較的重質のフィッシャー・トロプシュ生成物を生成するいずれの方法でも得られる。全てのフィッシャー・トロプシュ法がこのような重質生成物を生成するのではない。好適なフィッシャー・トロプシュ法はWO−A−9934917に記載されている。
【0017】
フィッシャー・トロプシュ生成物は、硫黄及び窒素含有化合物を含有しないか、或いは極めて微量含有する。これは、殆ど不純物を含まない合成ガスを使用するフィッシャー・トロプシュ反応で誘導された生成物に普通のことである。硫黄及び窒素水準は、一般に現在、硫黄に対しては5mg/kg、窒素に対しては1mg/kgをそれぞれの検出限界とする限界未満である。
【0018】
本方法は一般にフィッシャー・トロプシュ合成法、水素化異性化工程及び任意に流動点降下工程を含む。水素化異性化工程及び任意に流動点降下工程は、
(a)フィッシャー・トロプシュ生成物を水素化分解/水素化異性化する工程、
(b)工程(a)の生成物を1種以上の蒸留物燃料フラクションと、基油又は基油中間体フラクションとに分離する工程、
を含む。
【0019】
工程(a)で得られた基油の粘度及び流動点が所望どおりであれば、更に処理する必要はなく、この油は本発明の基油として使用できる。必要ならば、基油中間体フラクションの流動点は、工程(c)において、工程(b)で得られた油を溶剤脱蝋又は好ましくは接触脱蝋により降下させ、こうして好ましい低流動点を有する油が得られる。基油の所望粘度は、基油中間体フラクション又は脱蝋油から蒸留により、所望粘度と一致する好適な沸点範囲の生成物に単離して得られる。蒸留は真空蒸留工程が好ましい。
【0020】
工程(a)の水素化転化/水素化異性化反応は、水素及び触媒の存在下で行うことが好ましい。このような触媒は、該反応に好適であるとして当業者に知られているものから選択できる。その幾つかを以下に詳細に説明する。触媒は,原則として、当該技術分野でパラフィン系分子の異性化に好適であることが知られているいかなる触媒であってもよい。一般に好適な水素化転化/水素化異性化触媒は、非晶質シリカ−アルミナ(ASA)、アルミナ、弗素化アルミナ、モレキュラシーブ(ゼオライト)又はこれら2種以上の混合物のような耐火性酸化物担体上に水素化成分を担持して構成される。本発明の水素化転化/水素化異性化工程に適用される好ましい触媒の第一の種類は、水素化成分として白金及び/又はパラジウムを含む水素化転化/水素化異性化触媒である。非常に好ましい水素化転化/水素化異性化触媒は、非晶質シリカ−アルミナ(ASA)担体上に白金及びパラジウムを担持して構成される。白金及び/又はパラジウムは、担体の全重量に対し元素として計算して、好適には0.1〜5.0重量%、更に好適には0.2〜2.0重量%存在する。両方存在する場合、白金対パラジウムの重量比は、広範な限界内で変化してよいが、好適には0.05〜10、更に好適には0.1〜5の範囲である。ASA触媒上の好適な貴金属の例は、例えばWO−A−9410264及びEP−A−0582347に開示されている。弗素化アルミナ担体上の白金のような他の好適な貴金属基触媒は、例えばUS−A−5059299及びWO−A−9220759に開示されている。
【0021】
好適な第二の種類の水素化転化/水素化異性化触媒は、少なくとも1種の第VIB族金属、好ましくはタングステン及び/又はモリブデンと、少なくとも1種の第VIII族非貴金属、好ましくはニッケル及び/又はコバルトとを水素化成分として含む触媒である。通常、両金属は酸化物、硫化物又はそれらの組合わせで存在してよい。第VIB族金属は、触媒の全重量に対し元素として計算して、好適には1〜35重量%、更に好適には5〜30重量%の量で存在する。第VIII族非貴金属は、担体の全重量に対し元素として計算して、好適には1〜25重量%、好ましくは2〜15重量%の量で存在する。特に好適であることが判っている、この種の水素化転化触媒は、弗素化アルミナ上にニッケル及びタングステンを担持してなる触媒である。
【0022】
前記非貴金属系触媒は硫化物形態で使用することが好ましい。使用中、触媒を硫化物形態に維持するには、原料中に若干の硫黄が存在する必要がある。原料中には硫黄が好ましくは10mg/kg以上、更に好ましくは50〜150mg/kgの範囲で存在する。
【0023】
非硫化物形態で使用できる好ましい触媒は、第VIII族非貴金属、例えば鉄、ニッケルを、第IB族金属、例えば銅と共同で酸性支持体上に担持して構成される。銅は、パラフィンのメタンへの水素化分解を抑えるために存在することが好ましい。触媒の細孔容積は、水吸収法で測定して好ましくは0.35〜1.10ml/gmの範囲であり、表面積はBET窒素吸着法で測定して好ましくは200〜500m/gmの範囲であり、また嵩密度は0.4〜1.0g/mlの範囲である。触媒支持体は、アルミナが5〜96重量%、好ましくは20〜85重量%の広範囲で存在してよい非晶質シリカ−アルミナ製が好ましい。シリカ含有量は、SiOとして、好ましくは15〜80重量%の範囲である。支持体は、バインダー、例えばアルミナ、シリカ、第IVA族金属酸化物、及び各種粘土、マグネシア等、好ましくはアルミナ又はシリカを少量、例えば20〜30重量%含有してもよい。
【0024】
非晶質シリカ−アルミナ微小球体の製造については、Ryland,Lloyd B.,Tamale,M.W.及びWilson,J.N.,Cracking Catalysts,Catalysis;第VII巻、編集Paul H.Emmett,Reinhold Publishing Corporation,New York、1960、pp.5−9に記載されている。
この触媒は、溶液からこれら金属を支持体上に同時に含浸し、100〜150℃で乾燥し、次いで空気中、200〜550℃で焼成して製造される。第VIII族金属は約15重量%以下、好ましくは1〜12重量%の量で存在し、一方、第IB族金属は、通常、これより少量、第VIII族金属に対して、例えば1:2〜約1:20の重量比の量で存在する。
【0025】
通常の触媒を以下に示す。
Ni、重量% 2.5〜3.5
Cu、重量% 0.25〜0.35
Al−SiO重量% 65〜75
Al(バインダー)重量% 25〜30
表面積 290〜325m/g
細孔容積(Hg) 0.35〜0.45ml/g
嵩密度 0.58〜0.68g/ml
【0026】
他の種類の好適な水素化転化/水素化異性化触媒は、ゼオライト材料、好適には少なくとも1種の第VIII族金属成分、好ましくはPt及び/又はPdを水素化成分として含有するモレキュラシーブ型材料をベースとする触媒である。好適なゼオライト材料及びその他のアルミノシリケート材料としては、ゼオライトβ、ゼオライトY、超安定Y、ZSM−5、ZSM−12、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−48、MCM−68、ZSM−35、SSZ−32、フェリエライト、モルデナイト、及びSAPO−11、SAPO−31のようなシリカ−アルミノホスフェートが挙げられる。好適な水素化転化/水素化異性化触媒の例は、例えばWO−A−9201657に記載されている。これら触媒の組合わせも可能である。極めて好適な水素化転化/水素化異性化方法は、ゼオライトβ又はZSM−48をベースとする触媒を使用する第一工程と、ZSM−5、ZSM−12、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−48、MCM−68、ZSM−35、SSZ−32、フェリエライト、モルデナイトをベースとする触媒を用いる第二工程とを含む方法である。後者の群のうち、ZSM−22、ZSM−23及びZSM−48が好ましい。このような方法の例は、US−A−20040065581に記載されている。この文献は、白金及びゼオライトβを含む第一工程触媒と白金及びZSM−48を含む第二工程触媒とを用いる方法を開示している。
【0027】
フィッシャー・トロプシュ生成物に対する前述のようにシリカ−アルミナ担体を含む非晶質触媒を用いる第一水素化異性化工程に続いて、モレキュラシーブを含む触媒を用いる第二水素化異性化工程を組合わせると、本発明で使用される基油の製造法として好ましいことが確認された。第一及び第二の水素化異性化工程を直列流で行なうことが更に好ましい。これら2つの工程を前記非晶質及び/又は結晶質触媒の床を含む単一の反応器で行なうことが最も好ましい。
【0028】
工程(a)では原料は、触媒の存在下、高温高圧で水素と接触させる。温度は通常、175〜380℃、好ましくは250℃より高く、更に好ましくは300〜370℃の範囲である。圧力は通常、10〜250バール、好ましくは20〜80バールの範囲である。水素は、ガスの1時間当り空間速度 100〜10000Nl/l/hr、好ましくは500〜5000Nl/l/hrで供給できる。炭化水素原料は、重量の1時間当り空間速度 0.1〜5kg/l/hr(原料質量/触媒床容積/時間)、好ましくは0.5kg/l/hrを超え、更に好ましくは2kg/l/hr未満で供給してよい。水素対炭化水素原料比は、100〜5000Nl/kg、好ましくは250〜2500Nl/kgの範囲であってよい。
【0029】
1パス当り370℃よりも高い沸点を有する原料が、370℃より低い沸点を有するフラクションまで反応する原料の重量%として定義する、工程(a)での転化率は、好ましくは少なくとも20重量%、更に好ましくは少なくとも25重量%であるが、好ましくは80重量%以下、更に好ましくは65重量%以下である。前記定義で使用される原料は、工程(a)の全炭化水素原料であり、したがって工程(b)で得られるような高沸点フラクションを任意に再循環させた分も含まれる。
【0030】
工程(b)では工程(a)の生成物は、1つ以上の蒸留物燃料フラクションと、 所望の粘度特性を有する基油又は基油前駆体フラクションとに分離される。流動点が所望の範囲でなければ、基油の流動点は、脱蝋工程(c)、好ましくは接触脱蝋により更に降下させる。このような実施態様では、工程(a)の生成物の広沸点範囲のフラクションを脱蝋するのが更に有利かも知れない。そうすると、得られる脱蝋生成物から、所望の粘度を有する基油及び油が蒸留により有利に単離できる。脱蝋は、例えばWO−A−02070629(この文献はここに援用する)に記載されるように、接触脱蝋で行なうことが好ましい。必要ならば、脱蝋工程(c)の原料の最終沸点は、工程(a)の生成物の最終沸点以下であってよい。
【0031】
油配合物の添加剤成分(ii)は酸化防止添加剤である。特に前述の基油と酸化防止剤との組合わせは、IEC 61125Cの酸化試験で試験すると、油の全酸価の値が著しく向上することが見出された。基油は、唯一の添加剤として、酸化防止剤と組合わせてもよいし、或いは以下に説明するような他の添加剤と一緒に組合わせてもよい。この酸化防止剤は、いわゆるヒンダードフェノール系又はアミン系の酸化防止剤、例えばナフトール、立体障害の1価、2価及び3価フェノール、立体障害の2核、3核及び多核フェノール、アルキル化又はスチレン化ジフェニルアミン又はイオノール誘導ヒンダードフェノールである。特に関心のある酸化防止添加剤は、2,6−ジ−t−ブチルフェノール(IRGANOX TM L140,CIBA)、ジ−t−ブチル化ヒドロキソトルエン(BHT)、メチレン−4,4’−ビス−(2,6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス−(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)、1,6−ヘキサメチレン−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−ヒドロキシヒドロシンナメート)(IRGANOX TM L109,CIBA)、((3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル)メチル)チオ)酢酸、C10〜C14イソアルキルエステル(IRGANOX TM L118,CIBA)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロ桂皮酸、C〜Cアルキルエステル(IRGANOX TM L135,CIBA)、テトラキス−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル)メタン(IRGANOX TM 1010,CIBA)、チオジエチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)(IRGANOX TM 1035,CIBA)、オクタデシル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート(IRGANOX TM 1076,CIBA)及び2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノンよりなる群から選ばれる。これらの製品は公知で市販品として入手できる。これらのうち最も特に関心のあるのは3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロ桂皮酸−C〜Cアルキルエステルである。
【0032】
アミン系酸化防止剤の例は、芳香族アミン系酸化防止剤、例えばN,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1,4−ジメチル−ペンチル)−p−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1−エチル−3−メチル−ペンチル)−p−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1−メチル−ヘプチル)−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジシクロヘキシル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、
N,N’−ジ(ナフチル−2−)−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−(1−メチルヘプチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N’−シクロヘキシル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、4−(p−トルエン−スルホアミド)ジフェニルアミン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、ジフェニルアミン、N−アリルジフェニルアミン、4−イソプロポキシ−ジフェニルアミン、N−フェニル−1−ナフチルアミン、N−フェニル−2−ナフチルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、例えばp,p’−ジ−tert−オクチルジフェニルアミン、4−n−ブチルアミノフェノール、4−ブチリルアミノフェノール、4−ノナノイルアミノフェノール、4−ドデカノイルアミノフェノール、4−オクタデカノイルアミノフェノール、ジ(4−メトキシフェニル)アミン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−ジメチルアミノメチルフェノール、2,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、1,2−ジ(フェニルアミノ)エタン、1,2−ジ〔(2−メチルフェニル)アミノ〕エタン、1,3−ジ(フェニルアミノ)プロパン、(o−トリル)ビグアニド、ジ〔4−(1’,3’−ジメチルブチル)フェニル〕アミン、tert−オクチル化N−フェニル−1−ナフチルアミン、モノ−及びジ−アルキル化tert−ブチル−/tert−オクチル−ジフェニルアミンの混合物、2,3−ジヒドロ−3,3−ジメチル−4H−1,4−ベンゾチアジン、フェノチアジン、N−アリルフェノチアジン、tert−オクチル化フェノチアジン、3,7−ジ−tert−オクチルフェノチアジンである。可能なアミン系酸化防止剤は、EP−A−1054052の式VIII及びIXによる化合物も挙げられる。これらの化合物はUS−A−4,824,601にも記載されている。これらの文献はここに援用する。
【0033】
酸化防止添加剤の含有量は、好ましくは2重量%未満、更に好ましくは1重量%未満である。この含有量は、この油配合物を絶縁油として使用する場合のような特定の用途では好ましくは0.6重量%未満である。酸化防止剤の含有量は、好ましくは10mg/kgを超える。酸化防止剤が唯一の添加剤として存在するか、或いは少なくともP−又はS−化合物の不存在下及び銅不動態化剤(passivator)の不存在下であれば、酸化防止剤の含有量は、好ましくは0.01〜0.4重量%、更に好ましくは0.04〜0.3重量%である。なお更に好ましくは本発明の絶縁油配合物には、ジ−t−ブチル化ヒドロキソトルエン酸化防止添加剤が10mg/kg〜0.3重量%存在する。
【0034】
この油配合物は、時には静電放電抑制剤又は金属失活剤とも言われる銅不動態化剤も存在することが好ましい。可能な銅不動態化添加剤の例は、N−サリチリデンエチルアミン、N,N’−ジサリチリデンエチルアミン、トリエチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸、燐酸、クエン酸及びグルコン酸である。更に好ましくはレシチン、チアジアゾール、イミダゾール、ピラゾール及びそれらの誘導体である。なお更に好ましくはジアルキルジチオ燐酸亜鉛、ジアルキルジチオカルバメート、ベンゾトリアゾール及びそれらのテトラヒドロ誘導体である。
【0035】
式(II)の化合物が最も好ましく、式(III)で表される任意に置換されたベンゾトリアゾールがなお更に好ましい。
【化1】



【化2】

【0036】
式中、Rは水素、或いは式(IV)
【化3】

又は式(V)
【化4】

で表される基であってよく、cは0、1、2又は3であり、Rは直鎖又は分岐鎖のC1〜4アルキル基である。Rはメチル又はエチルであり、cは1又は2であることが好ましい。Rはメチレン又はエチレン基であり、更に好ましくはR及びRは水素、或いは同じか又は異なる、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1〜18のアルキル基、好ましくは炭素原子数1〜12の分岐鎖アルキル基であり、R及びRは同じか又は異なる炭素原子数3〜15、好ましくは4〜9のアルキル基である。
【0037】
好ましい化合物は、1−〔ビス(2−エチルヘキシル)アミノメチル〕ベンゾトリアゾール、メチルベンゾトリアゾール、ジメチルベンゾトリアゾール、エチルベンゾトリアゾール、エチルメチルベンゾトリアゾール、ジエチルベンゾトリアゾール及びそれらの混合物である。前述のような銅不動態化添加剤は、US−A−5912212、EP−A−1054052及びUS−A−2002/0109127に記載されている。これらの文献はここに援用する。これらのベンゾトリアゾール化合物は、油配合物を絶縁油として使用した場合、静電放電抑制剤としても作用するので好ましい。以上の銅不動態化添加剤は、CIBA Ltd Baselスイスから製品名IRGAMET 39、IRGAMET 30及びIRGAMET 38Sとして、またCIBAの商標Rometとしても市販されている。
【0038】
油配合物中の銅不動態化剤の含有量は、好ましくは1mg/kgを超え、更に好ましくは5mg/kgを超える。実用的な上限は、油配合物の特定の用途に依存して変化し得る。例えば絶縁油用の油の誘電(絶縁)放電性能の向上を所望する場合は、高濃度の銅不動態化添加剤を添加するのが望ましいかも知れない。この濃度は3重量%以下である。しかし、出願人は本発明の利点は、1000mg/kg未満、更に好ましくは300mg/kg未満、なお更に好ましくは50mg/kg未満の濃度でも得られることを見出した。
【0039】
1〜1000mg/kgの硫黄又は燐を含有する添加剤も添加剤成分(ii)の一部であれば、所望の特性は更に高まることが見出された。好ましい硫黄及び燐含有化合物は、スルフィド、ホスフィド、ジチオホスフェート及びジチオカルバメートである。有機ポリスルフィドを使用するのが好ましい。ここでポリスルフィドとは、2個のスルフィド原子が直接結合した少なくとも1つの基を含むことを意味する。好ましいポリスルフィド化合物はジスルフィド化合物である。好ましいポリスルフィド化合物は、式(I)で表される。
−(S)−R (I)
【0040】
式中、aは2、3、4又は5であり、R及びRは、同一でも異なってもよく、各々、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1〜22のアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基、炭素原子数7〜20のアルキルアリール基又は炭素原子数7〜20のアリールアルキル基であってよい。好ましくはアリールアルキル基であり、更に好ましくは任意に置換されたベンジル基である。更に好ましくはR及びRは、独立にベンジル基、又は直鎖又は分岐鎖のドデシル基から選ばれる。可能な硫黄及び燐含有化合物及びここで述べた好ましい化合物は、前述のUS−A−5912212に成分(b)として記載されている。この文献はここに援用する。好適なジスルフィド化合物の例は、ジベンジルジスルフィド、ジ−tert−ドデシルジスルフィド及びジドデシルジスルフィドである。本発明の絶縁油配合物の硫黄含有量は4重量%未満である。油配合物中の硫黄又は燐添加剤の含有量は、配合物に対し、好ましくは0.1重量%未満、更に好ましくは800mg/kg未満、なお更に好ましくは400mg/kg未満である。下限は好ましくは1mg/kg、更に好ましくは10mg/kg、最も好ましくは50mg/kgである。この油配合物は、基油として、独占的に前述のような基油又はこれと他の基油と組合わせて含有する。別の基油は、全絶縁油配合物に対し、好適には20重量%未満、更に好ましくは10重量%未満含有する。このような基油の例は、鉱物ベースのパラフィン型又はナフテン型基油及び合成基油、例えばエステル、ポリα−オレフィン、ポリアルキレングリコール等である。油配合物の生分解性を向上するにはエステルが有利である。出願人は、100℃での動粘度が1〜3mm/secの低粘度基油に対しては、油の生分解性がISO 14593に従って容易に生分解可能なものとして認定されることを見出した。フィッシャー・トロプシュ誘導基油は、例えばEP−A−876446に記載されるように、生分解可能の特性を持っている可能性がある。しかし、この文献ではCEC−L−33−T82試験を用いて測定した。出願人は、今回、フィッシャー・トロプシュ誘導基油であって、EP−A−876446に開示された基油の特性を有する基油は、ISO 14593に言明された更に正確な試験法では必ずしも容易には生分解可能であるとは見出されなかった。CEC−L−32−T82試験及びCEC−L−33−A−93として知られる最近の該試験の改訂版は、ISO 14593で測定された最終の生分解性に比べて、生分解性を多く見積もりできることが広く知られている。
【0041】
追加のエステル基油の含有量は、好ましくは1〜30重量%、更に好ましくは5〜25重量%である。好適なエステル化合物は、エステル化条件下で脂肪族モノ−、ジ−及び/又はポリ−カルボン酸とイソ−トリデシルアルコールとの反応で誘導できるエステル化合物である。エステル化合物の例は、オクタン−1,8−ジオン酸、2−エチルヘキサン−1,6−ジオン酸及びドデカン−1,12−ジオン酸のイソトリデシルエステルである。好ましいエステル化合物は、ペンタエリスリトール(=PET)と分岐鎖又は直鎖脂肪酸、好ましくはC6〜C10酸とのエステル化で作られる、いわゆるペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(PETエステル)である。このエステルは、不純物としてのアルコール成分としてジ−PETを含有してよい。
【0042】
実質的に単独の基油成分としてフィッシャー・トロプシュ誘導基油を用いるのが特に有利であることが見出された。ここで実質的とは、油配合物中の基油成分の70重量%を超え、更に好ましくは90重量%を超え、最も好ましくは100重量%が前記詳細に説明したフィッシャー・トロプシュ誘導基油であることを意味する。
【0043】
油配合物の硫黄含有量は、好ましくは0.5重量%未満、更に好ましくは0.15重量%未満である。油配合物中の大部分の硫黄源は、鉱物ベース基油成分を追加した場合、この追加基油に含まれる硫黄、及び本発明の油配合物中に存在してよい任意の硫黄含有添加剤である。
【0044】
成分(ii)については前述のような添加剤の他に、別の添加剤も存在してよい。この種の添加剤は特定の用途に依存する。限定を意図するものではないが、可能な添加剤は、分散剤、洗浄剤、粘度改質性重合体、炭化水素型又は酸素化炭化水素型流動点降下剤、乳化剤、解乳化剤、汚染防止添加剤及び摩擦改良剤である。これら添加剤の特定例は、例えばKirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technologie、第3版、1981、第14巻、477〜526頁に記載されている。好適には分散剤は無灰分分散剤、例えばポリブチレンスクシンイミドポリアミン又はマンニッヒ塩基型分散剤である。好適には洗浄剤は、過剰塩基化金属洗浄剤、例えば前記一般教本に記載されるようなホスフェート、スルホネート、フェノレート又はサリチレート型である。好適には粘度改質剤は、粘度改質性重合体、例えばポリイソブチレン、オレフィン共重合体、ポリメタクリレート及びポリアルキルスチレン並びに水素化ポリイソプレン星形重合体(Shellvis)である。好適な消泡剤の例は、ポリジメチルシロキサン、及びポリエチレングリコールエーテル及び同エステルである。
【0045】
油配合物の発泡性(gassing)を改良するには、芳香族化合物を0.05〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%添加することが好ましい。好ましい芳香族化合物は、例えばテトラヒドロナフタレン、ジエチルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン、“Shell Oil 4697”、“Shellsol A150”(両方ともShell Deutschland GmbHから得られる製品)として市販されているアルキルベンゼンの混合物である。他の好ましい芳香族化合物の混合物は、2,6−ジ−t−ブチルフェノールと2,6−ジ−t−ブチルクレゾールとの混合物で構成される。油配合物は、2,6−ジ−t−ブチルフェノール0.1〜3重量%と2,6−ジ−t−ブチルクレゾール0.1〜2重量%とを1:1〜1:1.5の重量比で含有することが好ましい。
【0046】
油配合物に対して更に粘土処理することが好ましい。
したがって、本発明は更に、フィッシャー・トロプシュ合成生成物から誘導された基油成分と添加剤とを含有する、粘土処理した絶縁油配合物であって、(i)基油成分の80重量%以上は、パラフィン含有量が80重量%を超え、飽和物含有量が98重量%を超え、かつ炭素原子数がn、n+1、n+2、n+3及びn+4(但し、nは20〜35)の一連のイソパラフィンを含有するパラフィン基油である、(ii)酸化防止添加剤を含む該絶縁油配合物に関する。
【0047】
好ましくは粘土処理は油配合物に対して行なわれ、更に好ましくは、硫黄又は燐含有添加剤が存在すれば、硫黄又は燐含有添加剤を含有する油配合物に対して行なわれる。粘土処理を行なった後、油配合物には酸化防止剤及び銅不動態化剤を添加することが好ましい。粘土処理は油配合物から極性化合物を除去するための周知の処理である。更にこの処理は、油配合物の色調、化学的及び熱的安定性を向上するために行なわれる。この処理は、以上述べた添加剤を加える前に、部分的に配合した油配合物に対して行なってよい。粘土処理法は、例えばLubricant Base Oil and Wax Processing,Avilino Sequeira,Jr,Marcel Dekker,Inc.,New York,1994,ISBN 0−8247−9256−4,p229〜232に記載されている。出願人は、フィッシャー・トロプシュ誘導基油と鉱油誘導基油とのブレンド及び酸化防止添加剤をベースとする絶縁油配合物の酸化安定性が粘土処理により向上することを見出した。
【0048】
前記油配合物は、酸化安定性が良好で、スラッジ形成が少なく、しかも低温粘度値が優れていることから、特に絶縁油として使用するのに適している。利用例は、スイッチギア、トランス、レギュレーター、サーキットブレーカー、電力プラント反応器、ケーブル及びその他の電気機器である。好ましい絶縁油の用途は、トランス油及び低温スイッチギア油である。これらの用途は、当業者には周知で、例えば潤滑剤及び関連製品,Dieter Klamann,Verlag Chemie GmbH,Weinheim,1984,p330〜337に記載されている。ナフテン系基油ベースの絶縁油を前記用途に用いた際、よく起こる問題は、−30℃での動粘度が高すぎることである。このような油を低温、特に0℃未満で始動させる必要のある用途に使用すると、この高粘度は絶縁油に必要な放熱に悪影響を与える。設備の過熱が起こる可能性がある。出願人は、本発明の油配合物を用いる際、特に基油の40℃での動粘度が1〜15mm/secで流動点が−30℃未満、更に好ましくは−40℃未満であると、前記所望の特性を有する絶縁油が得られることを見出した。更にこの絶縁油は、昇温下で長く試験した後も誘電正接が非常に低い。低い誘電正接は、絶縁油を使用する用途において電力損失が低いことを示す。誘電正接は時間の経過により殆ど増大しないので、特にナフテン系の絶縁油配合物に比べて、油は極めて効率的に利用される。
【0049】
本発明の他の実施態様では油配合物は、好ましくは低温スイッチギア配合物として使用される。従来の低温スイッチギア配合物は、低粘稠の鉱物基油を使用して配合されている。しかし、公知の低温スイッチギア液による問題は、(低)粘度特性の結果、引火点が低いことである。この問題は、極めて低い粘度を必要とする北極領域で一層関連がある。出願人は、今回、前述のような基油、特にフィッシャー・トロプシュ誘導基油を使用すると、低温で優れた粘度特性を有するスイッチギア液配合物が得られ、この配合物を低温スイッチギア配合物として使用するのに好適であることを見出した。別の利点は、この基油が極めて重大なスイッチ操作、例えばいわゆる高負荷グリッドでのスイッチ操作下でスイッチギア液を安全に使用できる高い引火点を有することである。
【0050】
前述のような低温スイッチギア油は、運転時の油の温度が0℃を超え、定期的に、特に1年につき10回を超えて0℃未満、更に好ましくは−5℃未満の温度で始動を必要とする用途に使用可能である。
他の好ましい絶縁油の用途は、耐火性絶縁油としての用途である。この用途では基油の100℃での動粘度は、好ましくは6mm/secを超え、更に好ましくは7mm/secを超え、好適には12mm/sec未満である。この粘度範囲のパラフィン系基油は、250℃を超え、好ましくは260℃を超える高い引火点を有し、このような用途に極めて好適であることが見出された。この種の配合物は、燃焼性が低く、かつ火に対する安全特性の向上が必要である。この絶縁油は、室内又は地下環境で使用されるトランス油として好適に使用される。
【0051】
出願人は、低粘度基油が容易に生分解可能であることを見出した。この生分解性は、前述のような配合物にエステルベースの基油を加えると、生分解性が更に向上することを見出した。したがって、本発明の別の実施態様では、油配合物は、該配合物中に生分解性基油を必要とする用途に有利に使用できる。特にこの油配合物は、電気機動機器、特に電車、電気自動車又はハイブリッド車のトランス油として使用される。また油配合物は、例えば国立公園、保護地域、水質保護地域、飲料水貯蔵施設等の環境に敏感な地域に有利に使用できる。
【実施例】
【0052】
本発明を以下の非限定的実施例で説明する。これらの実施例では大別して4種の異なる基油を使用した。フィッシャー・トロプシュ誘導基油(CTL BOという)1種、ナフテン型基油2種(ナフテン系1及びナフテン系2という)及び鉱物パラフィン系基油1種である。これら基油の特性を第1表に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
実施例1
第1表のナフテン系1、鉱物パラフィン基油1及びGTL基油1から出発して第2表の添加剤添加計画1〜8に従って、5種の異なる油混合物を作った。これら全ての油混合物について、IEC 61125 Cによる164時間/120℃での酸化試験に従ってスラッジの形成量を測定した。この値が低いほど、スラッジは少ない。その結果も第2表に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
添加剤添加計画1〜5による全ての油混合物について、IEC 61125 Cによる164時間/120℃での酸化試験を用いて全酸価も測定した。この値が低いほど、酸化合物の形成は少なくなる上、油配合物は一層酸化安定性となる。その結果を第3表に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
実施例2
第4表に示す計画に従って4種の油混合物を製造した。このうち2種の油混合物に対しTonsil 411粘土(Sued Chemie,Munchen (D)から得られる)を用いて粘土処理を行なった。粘土処理後、酸化防止剤及び銅不動態化添加剤を加えた。これら油混合物の特性を測定し、更に油混合物に対し、500時間/120℃でのIEC酸化試験を行なった。
【0059】
【表4】

【0060】
第4表に示すように、フィッシャー・トロプシュ誘導基油をベースとする配合物は、優れた酸化安定性と共に、−30℃で低い粘度を有する。第4表の混合物Zの発泡性は、第5表に示すように、芳香族溶剤の添加により向上できる。
【0061】
【表5】

【0062】
実施例3
第1表のGTL基油1、2、3を用い、第6表に示す配合に従って、3種の油配合物A〜Cを作った。これらの油配合物A〜Cに対しTonsil 411粘土(Sued Chemie,Munchen (D)から得られる)を用いて粘土処理を行なった。粘土処理後、酸化防止剤及び銅不動態化添加剤を加えた。これら油混合物の特性を測定し、更に油混合物に対し、500時間/120℃でのIEC酸化試験を行なった。
これらの油を第6表に示す試験法で試験した。その結果から、絶縁油用として優れた油であることが判る。
【0063】
【表6】

【0064】
実施例4
ISO 14593に従って4種の油混合物の生分解性を試験した。その結果を第7表に示す。第7表から判るように、IEC 60296規格によるトランス油用の生分解可能な基油又は基油混合物が得られる。専らエステル基油を用いた油配合物は、40℃での動粘度規格に適合しなかった。原則としてエステル基油は、フィッシャー・トロプシュ誘導基油よりも製造困難であり、したがって高価なので、この事は有利である。
【0065】
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例で使用したフィッシャー・トロプシュ誘導基油の炭素数分布を表す。
【図2】実施例で使用したフィッシャー・トロプシュ誘導基油の炭素数分布を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引火点がISO 2592で測定して170℃以上である基油成分と、添加剤とを含有する絶縁油配合物であって、
(i)基油成分の80重量%以上は、パラフィン含有量が80重量%を超え、飽和物含有量が98重量%を超え、かつ炭素原子数がn、n+1、n+2、n+3及びn+4(但し、nは20〜35)の一連のイソパラフィンを含有するパラフィン基油である、
(ii)酸化防止添加剤を含む、
該絶縁油配合物。
【請求項2】
パラフィン基油は、40℃での動粘度が1〜200mm/secである請求項1に記載の配合物。
【請求項3】
パラフィン基油は、40℃での動粘度が1〜15mm/secで、かつ流動点が−30℃未満であり、また配合物は芳香族化合物を0.05〜10重量%含有する請求項2に記載の配合物。
【請求項4】
パラフィン基油が、フィッシャー・トロプシュ誘導蝋の水素化異性化及び引続き脱蝋により得られる請求項1〜3のいずれか1項に記載の配合物。
【請求項5】
酸化防止剤が唯一の添加剤であり、該酸化防止添加剤の含有量が0.04〜0.4重量%である請求項1〜4のいずれか1項に記載の配合物。
【請求項6】
銅不動態化添加剤も存在する請求項1〜5のいずれか1項に記載の配合物。
【請求項7】
銅不動態化剤が、式(II)の化合物又は式(III)で表される任意に置換されたベンゾトリアゾール化合物
【化1】



【化2】


(但し、Rは水素、或いは式(IV)
【化3】


又は式(V)
【化4】


で表される基であってよく、cは0、1、2又は3であり、Rは直鎖又は分岐鎖のC1〜4アルキル基、Rはメチレン又はエチレン基であり、R及びRは水素、或いは同じか又は異なる、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1〜18のアルキル基、好ましくは炭素原子数1〜12の分岐鎖アルキル基であり、R及びRは同じか又は異なる炭素原子数3〜15のアルキル基である)である請求項6に記載の配合物。
【請求項8】
がメチル又はエチルであり、cが1又は2である請求項7に記載の配合物。
【請求項9】
酸化防止添加剤がフェノール系又はアミン系酸化防止剤である請求項1〜8のいずれか1項に記載の配合物。
【請求項10】
ジ−t−ブチル化ヒドロキソトルエン酸化防止添加剤が10mg/kg〜0.3重量%存在する請求項9に記載の配合物。
【請求項11】
硫黄又は燐を含有する添加剤が1〜1000mg/kg含まれる請求項1〜10のいずれか1項に記載の配合物。
【請求項12】
硫黄含有添加剤が式
−(S)−R
(但し、aは2、3、4又は5であり、R及びRは同じでも異なってもよく、各々、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1〜22のアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基、炭素原子数7〜20のアルキルアリール基又は炭素原子数7〜20のアリールアルキル基であってよい)
で表される請求項11に記載の配合物。
【請求項13】
前記有機ポリスルフィドの含有量が50〜800mg/kgである請求項12に記載の配合物。
【請求項14】
配合物の硫黄含有量が4重量%未満である請求項1〜13のいずれか1項に記載の配合物。
【請求項15】
基油成分を粘土処理し、次いで粘土処理後、酸化防止添加剤及び、銅不動態化剤が存在すれば、該銅不動態化剤を添加することを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の絶縁油配合物の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の配合物を絶縁油として使用する方法。
【請求項17】
運転中、温度が0℃を超える場合、1年に付き10回より多く0℃未満の温度で始動させる用途への請求項16に記載の使用法。
【請求項18】
絶縁油がトランス用のトランス油として使用される請求項16又は17に記載の使用法。
【請求項19】
絶縁油がスイッチギア用のギア油として使用される請求項16又は17に記載の使用法。



【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−544458(P2008−544458A)
【公表日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−517506(P2008−517506)
【出願日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際出願番号】PCT/EP2006/063439
【国際公開番号】WO2006/136594
【国際公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
【Fターム(参考)】