説明

絶縁物

【課題】金属導体、絶縁樹脂、絶縁気体が接するトリプルジャンクション周辺の電界を低減するために、金属導体の周囲に設ける電界緩和リングを容易に取り付けることができる絶縁物を提供する。
【解決手段】円柱状の金属導体1と、この金属導体のまわりを同心状に包囲する絶縁層2と、上記金属導体の外周部における上記絶縁層による包囲端部近傍の該絶縁層内に固定された電界緩和リング3とを用いて構成された絶縁物であって、上記電界緩和リングは上記金属導体の外周面に周方向に形成された溝11に係止されてなることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばスイッチギヤなどの電気機器に使用される金属導体のまわりを同心状に絶縁樹脂で包囲した絶縁物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高電圧が印加される電気機器に使用される絶縁物では、金属導体、絶縁樹脂、絶縁気体が接するトリプルジャンクション周辺の電界を低減するために、金属導体より外径が大きいリング状の部品を樹脂内部に配設したものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−19014号公報(第1頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来技術では、絶縁物のトリプルジャンクション周辺の電界緩和を行うためのリング状の部品を金属導体に固定するためにろう付け加工が行なわれていた。しかし、ろう付け加工は、1)作業時間が長い、2)金属導体が変形する可能性がある、3)金属導体が変形した場合はろう付け後に機械加工などによって成形する必要がある、などの問題点があった。
【0005】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、電界緩和リングの金属導体への取り付けにろう付けが不要で加工を容易にした絶縁物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る絶縁物は、円柱状の金属導体と、この金属導体のまわりを同心状に包囲する絶縁層と、上記金属導体の外周部における上記絶縁層による包囲端部近傍の該絶縁層内に固定された電界緩和リングとを用いて構成された絶縁物であって、上記電界緩和リングは上記金属導体の外周面に周方向に形成された溝に係止されてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、金属導体の外周面に周方向の溝を設け、電界緩和リングを該溝に装着するだけで固定されるようにしたので、ろう付け作業が不要となり加工が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1による絶縁物を示す断面図。
【図2】図1に示す電界緩和リングの外形図。
【図3】図1に示す金属導体に設けられた溝の形状とその近傍を示す要部断面図。
【図4】本発明の実施の形態1による絶縁物の変形例を示す図であり、(a)は要部断面図、(b)は電界緩和リングを係止する溝の近傍の詳細断面図。
【図5】図1に示された絶縁物の使用状態を示す図。
【図6】本発明の実施の形態2による絶縁物を構成する金属導体に設けられた溝の形状とその近傍を示す要部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1による絶縁物を示す断面図である。図において、絶縁物100は、銅もしくはアルミ合金等の金属で出来ている円柱形状の金属導体1と、この金属導体1の所定部外周部を同心状に包囲するように設けられた絶縁層2と、金属導体1の外周部における絶縁層2による図における左右の包囲端部の内側近傍にそれぞれ固定され、絶縁層2内に埋設された電界緩和リング3を用いて構成されている。絶縁層2の所定部外周には取付フランジ21が径方向に突出されている。取付フランジ21は、絶縁層2の最外部にあって、フランジ面には取付フランジ21から径方向に内外を気密保持するためのパッキングを収納するパッキン溝21a、及び絶縁物100を取り付けるための図の左右方向に貫通された取付穴(図示せず)を有している。
【0010】
絶縁層2の内部には、銅もしくはステンレス製の網で形成された接地シールド4が、金属導体1と同心状に配設されており、絶縁層2の内部及び外表面の電界分布を制御している。絶縁物11の長手方向端部においては、金属導体1、絶縁層2、及び周囲の絶縁ガスによるトリプルジャンクションAが形成される。トリプルジャンクションA付近では電界集中が発生しやすいため、電界緩和を講じる必要がある。この対策の1つとして、トリプルジャンクションAの露出を抑えるために、絶縁層2の長手方向端部からトリプルジャンクションA部分を5mm程度窪ませるように形成されている。上記電界緩和リング3は、トリプルジャンクションA付近の電位分担を小さくする対策の他の1つとして、絶縁層2の内部に設置されている。絶縁層2は、樹脂絶縁材料を用いて注型により形成される。
【0011】
本発明の典型的な特徴部分の1つは該電界緩和リング3の固定構造にあり、この実施の形態1では、金属導体1の所定部に図3に示すように断面円弧状の溝11を周方向に形成し、その溝11に、コイルばねをリング状に成形した図2に示す如き電界緩和リング3を嵌め込んで係止するようにしたものである。なお、電界緩和リング3の成形方法としては、コイルばねの両端を溶接する方法、あるいは、ガータスプリング(図示省略)を構成する方法などを適宜用いることができる。コイルの巻きピッチPが大きくなりすぎるとコイル端部の電界が高くなる可能性があるため、コイル線径Dに対してコイル巻きピッチPが概ね3倍以内になるようコイル形状を決定することが望ましい。
【0012】
また、電界緩和リング3は、金属導体1の溝11に装着した後、容易に動かないように、金属導体1へ装着した状態で概ね10kgf程度の径方向の圧縮荷重を有するようにコイル線の材質、コイル線径Dや巻き数が決定される。電界緩和リング3は金属導体1に取り付ける際、一度内径を広げて挿入し、金属導体1の端部から溝11の方向に摺動させる必要がある。そのため、溝11から金属導体1の端部までの金属導体1の直径は、電界緩和リング3を最小限に広げるだけで済むように規定される。例えば、図4の変形例に示すように金属導体1の延在方向(長手方向)における溝11の位置に対して、絶縁層2による包囲部分の中心部側の外径φ1よりも外側部方向における外径φ2を、φ1>φ2と、小さくすることは好ましい。これにより、摺動する際に発生する摩擦荷重をさらに抑制でき、摺動による金属導体1の表面の傷を抑制することが出来る。
【0013】
また、溝11の最小内径は、電界緩和リング3が上述の圧縮荷重を発生できるような寸法に規定される。また、溝11の長手方向の位置は、トリプルジャンクションAから10mm〜20mm程度離れた位置であることが望ましい。また、溝11を形成している円弧の半径は、電界緩和リング3のコイル半径より大きくなるよう規定することで、電界緩和リング3と溝11の端部が干渉せず、確実に溝11の底と電界緩和リング3が接するように構成される。また、電界緩和リング3を金属導体1の外表面を摺動させながら溝11内に取り付ける際に、金属導体1の外表面に傷がつかないよう、溝11と金属導体1の外周との境界部11aは面取り加工もしくは丸取り加工がされている。なお、溝11と電界緩和リング3は絶縁物100の図の左右両サイドに設置されており、左右とも同様に構成されている。
【0014】
図5は絶縁物の使用状態の例を示す図であり、電気機器に絶縁物100が取り付けられている構造のうち、絶縁物100周辺のみを示した図である。図5に示すように、絶縁物100は、電気機器5の例えば区画壁などの貫通穴の絶縁物取付部5aに取り付けられる。絶縁物100の両端には隣接する機器もしくは母線などと接続するための接続導体6が取り付けられる。ここで、トリプルジャンクションAにおける電界は、金属導体1、絶縁層2の端部形状、電界緩和リング3、接続導体6の端部形状によって決定されるが、主に電解緩和リング3及び接続導体6端部の曲面形状によって、トリプルジャンクションA周辺の電界は、接続導体6表面よりも十分小さな電界となっている。
【0015】
上記のように構成された実施の形態1においては、金属導体1の外周面に周方向の溝11を設け、圧縮荷重を有するコイルばねからなる電界緩和リング3をその溝11内に嵌めるだけで、溝11内から外れたり、外力がかかった時に溝11からはみ出たりすることがなく、確実に固定できる。このため、ろう付け等による固定作業を不要に出来、安価に製造出来る。これによって、取付箇所を調整する必要がなくなり、従って加工が容易で、取付作業時間も短縮することが出来る。また、ろう付け加工を不要にできることで、エネルギーの消費も削減され、環境負荷の低減にもつながる。
【0016】
また、金属導体1は、延在方向における溝11の位置に対して、絶縁層2による包囲部分の中心部側よりも外側部方向において外径を小さくしたことにより、電界緩和リング3を挿入する際の摺動荷重が低減され、金属導体1への傷つきも抑制できる。また、溝11の断面形状を円弧状としたので、溝の加工が容易である。また、溝11と金属導体1の外周との境界部11aは面取り加工もしくは丸取り加工をすることで、電界緩和リング3の挿入時に装着し易く、金属導体1に傷がつき難いという特長がある。
【0017】
実施の形態2.
図6は本発明の実施の形態2による絶縁物100の金属導体1に設けられた溝11Aの近傍を拡大して示す要部断面図である。図6において、溝11Aは、断面略V字状に形成されている。その他の構成は上記実施の形態1と同様であるので、説明を省略する。
【0018】
上記のように構成された実施の形態2においては、例えば、絶縁物100を注型金型を用いて製造する際に、絶縁層2を形成するために樹脂を金型に流入する場合に、電界緩和リング3に対して流入された樹脂による流動方向の力が金属導体1の長手方向に働くが、この実施の形態2では、溝11Aが断面V字状に形成されていることで、三角形の2点で電界緩和リング3が支持されているため、位置ずれが起きにくいという、更なる効果が得られる。
【0019】
なお、本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略することができる。
【符号の説明】
【0020】
1 金属導体、 11、11A 溝、 2 絶縁層、 21 取付フランジ、 21a パッキン溝、 3 電界緩和リング、 4 接地シールド、 5 電気機器、 5a 絶縁物取付部、 6 接続導体、 100 絶縁物、 A トリプルジャンクション。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状の金属導体と、この金属導体のまわりを同心状に包囲する絶縁層と、上記金属導体の外周部における上記絶縁層による包囲端部近傍の該絶縁層内に固定された電界緩和リングとを用いて構成された絶縁物であって、上記電界緩和リングは上記金属導体の外周面に周方向に形成された溝に係止されてなることを特徴とする絶縁物。
【請求項2】
上記溝は、断面円弧状であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁物。
【請求項3】
上記溝は、断面略V字状であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁物。
【請求項4】
上記金属導体は、延在方向における上記溝の位置に対して、上記絶縁層による包囲部分の中心部側よりも外側部方向において外径を小さくしてなることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の絶縁物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−85417(P2013−85417A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224667(P2011−224667)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】