説明

絶縁電線およびその製造方法

【課題】この発明は、絶縁電線の導体とエナメル層の接着強度を下げることなく、絶縁層を厚膜化し、部分放電発生電圧の高い絶縁電線を提供することを目的とする。
【解決手段】断面形状が矩形状である平角導体10と、平角導体10の外周面をエナメルで被覆して焼き付けたエナメル層30と、該エナメル層30の外周面を巻き回したPPSテープ41で被覆する絶縁テープ層40とで構成し、エナメル層30の厚さを50μm以下、且つ前記エナメル層30と前記絶縁テープ層40とで構成する絶縁層20の厚さを60μm以上に設定するとともに、エナメル層30と絶縁テープ層40との間に接着層50を介在させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、絶縁電線に関し、詳しくは絶縁性を強化した耐インバータサージ絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インバータは効率的な可変速制御装置として、多くの電気機器に取り付けられるようになってきている。インバータは数kHz〜数十kHzでスイッチングが行われ、それらのパルス毎にサージ電圧が発生する。
【0003】
インバータサージは、インバータ出力電圧の2倍近い電圧が発生し、このため、電気機器コイルを構成する材料の一つであるエナメル線のインバータサージ劣化を抑えることが求められている。
【0004】
このようなインバータサージ電圧による、絶縁電線の絶縁層の劣化は、絶縁電線間で部分放電(コロナ放電)が発生することによって生じる。これを防ぐために、絶縁層に比誘電率が低い樹脂を用いるか、絶縁層の厚さを厚くする、すなわち厚膜化する方法が考えられる。
【0005】
しかし、常用的に使用される樹脂ワニス用の樹脂に比誘電率が特別低いものは無く、また耐熱性、耐溶剤性、可撓性等の特性をあわせもった比誘電率が低い樹脂材料は少ないため、用いることは困難であった。
【0006】
また、絶縁層を厚膜化する方法として、単に、絶縁層を構成するエナメル層を多層構成とする方法があるが、この場合、焼付炉を多数回にわたって通過させる必要があり、導体とエナメル層との接着力が低下するといった問題があった。
【0007】
さらにまた、絶縁層を厚膜化する方法として、1回の焼き付けで塗布できる厚さを厚くする方法もあるが、この場合、塗布厚を厚くした樹脂ワニスの溶媒が蒸発しきれずに、形成されるエナメル層の中に気泡として残り、絶縁層の品質低下(絶縁性能低下)が起こるという問題があった。また、断面が略矩形状の平角導体の場合は、均一な絶縁層の形成が困難であるという問題もあった。
【0008】
このような状況において、絶縁層の厚い絶縁電線として、導体上に接着材を塗布し、その上に絶縁テープを巻回す絶縁電線が提案されている(特許文献1)。
しかし、特許文献1で提案される絶縁テープを巻回す絶縁電線の場合、厚みのある均一な絶縁層を容易に形成することができるが、例えば、モータのステータの組み立て加工等を施した後に、巻回した絶縁テープ間に隙間が生じ易く、部分放電が発生し易いといった問題があった。
【0009】
【特許文献1】特開2003−045239号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明は、絶縁電線の導体とエナメル層の接着強度を下げることなく、絶縁層を厚膜化し、部分放電発生電圧の高い絶縁電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、導体と、該導体の外周面をエナメルで被覆して焼き付けたエナメル層と、該エナメル層の外周面を巻き回した絶縁テープで被覆する絶縁テープ層とで構成し、前記エナメル層の厚さを50μm以下、且つ前記エナメル層と前記絶縁テープ層とで構成する絶縁層の厚さを60μm以上に設定するとともに、エナメル層と絶縁テープ層との間に接着層を介在させた絶縁電線であることを特徴とする。
【0012】
この発明の態様として、前記絶縁テープを、25度における引張弾性率が1000MPa以上、かつ250度における引張弾性率が10MPa以上である絶縁テープで構成することができる。
また、この発明の態様として、前記導体を、断面形状が矩形状である平角導体で構成することができる。
【0013】
また、この発明は、予め導体の外周面をエナメル層で被覆したエナメル被覆導体の外周面に接着層を塗布・焼付する接着層焼付工程と、該接着層を塗布・焼付したエナメル被覆導体を予熱する予熱工程と、該エナメル被覆導体の前記接着層の外周面に絶縁テープをテープ巻により巻回すテープ巻き工程とで構成し、前記予熱工程を、前記接着層が軟化する温度まで予熱する絶縁電線の製造方法であることを特徴とする。
【0014】
この発明の態様として、導体を所定形状に、伸線及び圧延の少なくとも一方を行う伸線工程と、伸線された導体の外周面をエナメルで被覆し、焼き付けてエナメル層を形成するエナメル焼付工程と、前記テープ巻き工程で絶縁被覆された前記絶縁電線を巻き取る巻取り工程とを有し、前記伸線工程、前記エナメル焼付工程、前記接着層焼付工程、前記予熱工程、前記テープ巻き工程、及び前記巻取り工程をこの順でタンデムに行うことができる。
【0015】
また、この発明は、予め導体の外周面をエナメル層で被覆したエナメル被覆導体の外周面に、内面に接着層を有する絶縁テープをテープ巻により巻回すテープ巻き工程と、外周面に前記絶縁テープを巻回したエナメル被覆導体を、前記接着層が軟化する温度まで加熱する加熱工程とで構成する絶縁電線の製造方法であることを特徴とする。
【0016】
この発明の態様として、導体を所定形状に、伸線及び圧延の少なくとも一方を行う伸線工程と、伸線された導体の外周面をエナメルで被覆し、焼き付けてエナメル層を形成するエナメル焼付工程と、前記加熱工程で加熱された前記絶縁電線を巻き取る巻取り工程とを有し、前記伸線工程、前記エナメル焼付工程、前記テープ巻き工程、前記加熱工程、及び前記巻取り工程をこの順でタンデムに行うことができる。
【0017】
上記絶縁テープは、例えば、温度による変形の少ないポリエステルイミドやポリイミド等の樹脂性テープや、ガラス系テープあるいは繊維系テープであることを含む。
【0018】
上記タンデムに行うは、例えば、前記接着層焼付工程で接着層が焼き付けられたエナメル被覆導体を巻取りボビンに一旦巻き取り、巻き取られたエナメル被覆導体を巻取りボビンにから繰り出して予熱工程を実行するといった不連続な工程でなく、途中で導体を巻き取ることなく上記工程を一連の工程とする製造方法であることをいう。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、絶縁電線の導体とエナメル層の接着強度を下げることなく、絶縁層を厚膜化し、部分放電発生電圧の高い絶縁電線を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の絶縁電線1は、図1に示すように、断面形状が矩形状である平角導体10と、平角導体10の外周面をエナメルで被覆して焼き付けたエナメル層30と、該エナメル層30の外周面を巻き回したPPSテープ41で被覆する絶縁テープ層40とで構成し、エナメル層30の厚さを50μm以下、且つ前記エナメル層30と前記絶縁テープ層40とで構成する絶縁層20の厚さを60μm以上に設定するとともに、エナメル層30と絶縁テープ層40との間に接着層50を介在させている。なお、図1は絶縁電線1の断面図による説明図を示している。
【0021】
前記絶縁テープ層40を構成するPPSテープ(ポリフェニレンサルファイドテープ)41は、25度における引張弾性率が1000MPa以上、かつ250度における引張弾性率が10MPa以上である絶縁テープである。
【0022】
上記構成の絶縁電線1について詳述すると、絶縁電線1は、中心となる平角導体10と、この平角導体10の外周面を被覆し、エナメル層30と絶縁テープ層40とで構成する絶縁層20と、エナメル層30及び絶縁テープ層40の間に介在し、エナメル層30と絶縁テープ層40とを接着する接着層50とで構成している。
平角導体10は、厚さ1.8mm×幅2.5mmで、四隅の面取り半径r=0.5mmの断面略矩形状で形成している。
【0023】
エナメル層30は、エナメルワニスを塗布・焼付して構成しており、さらに詳しくは、1層あたり5μmの厚さのエナメル膜30aを4層重ねて層厚20μmのエナメル層30を形成している(図1中a部拡大図参照)。
【0024】
平角導体10の外周面をエナメル層30で被覆したエナメル線の外周面には、ワニス化したPPSU接着材(ポリスルフォン)による、層厚2μmの接着層50を形成している。
【0025】
さらに、接着層50の外周面には、重なることないように巻回したPPSテープ41による絶縁テープ層40を形成している。なお、PPSテープ41は厚み40μm×幅420mmであり、絶縁テープ層40は、1層巻きのPPSテープ41により層厚40μmで形成している。
【0026】
このような構成の絶縁電線1は、丸銅線を所定形状に伸線及び圧延を行って平角導体10を形成する伸線工程と、平角導体10の外周面をエナメルで被覆し、焼き付けてエナメル層30を形成するエナメル焼付工程と、エナメル層30の外周面に接着層50を塗布・焼付する接着層焼付工程と、接着層50を塗布・焼付したエナメル線を予熱する予熱工程と、エナメル線の接着層50の外周面にPPSテープ41をテープ巻により巻回すテープ巻き工程と、前記テープ巻き工程で絶縁被覆された絶縁電線1を巻き取る巻取り工程によって製造されている。
【0027】
上記予熱工程は、前記接着層焼付工程で施された接着層50が軟化する温度まで予熱する。さらに、前記伸線工程、前記エナメル焼付工程、前記接着層焼付工程、前記予熱工程、前記テープ巻き工程、及び前記巻取り工程は、この順でタンデムに行っている。
【0028】
なお、上記工程で製造される絶縁電線1は、図2に示す絶縁電線製造装置100を用いて製造される。図2は、絶縁電線製造装置100のブロック図を示している。
絶縁電線製造装置100は、供給装置110と、伸線機120と、焼鈍炉130と、コーティング装置140と、焼付炉150と、引取装置160と、予熱装置170と、巻回装置180と、冷却装置190と、個別引取装置200と、巻取機210とで構成し、供給装置110を上流とし、巻き取り装置210を下流としてこの順で配置している。
【0029】
供給装置110は、巻きつけられた導体を伸線機120に送り出す装置である。なお、本実施例においては、直径3.5mmの丸型断面の丸銅線を導体として送り出している。
【0030】
伸線装置120は、自由に回転する、上下左右1対のロールによって導体を圧延し、ダイスに導体を通過させて伸線する装置である。伸線装置120は、丸銅線を略矩形状の平角導体に加工するため、上下左右1対のロール向かい合うロールで圧延し、さらに厚さ・幅・面取り半径が規定された寸法の孔を有するダイスに導体(丸銅線)を通し、引抜いて細く寸法精度の高い伸線加工を行っている。
【0031】
なお、本実施例においては、供給装置110によって送り出された直径3.5mmの丸型断面の導体(丸銅線)を、4段重ねの1対の略平行に並べられたフリーロールにて1.950mm×2.690mm(厚さ×幅)となるように圧延加工し、1.803mm×2.503mm(厚さ×幅)で四隅の面取り半径r=0.5mmの平角形状のダイヤモンドダイスを用いて引抜き加工し、1.8×2.5mm(厚さ×幅)で四隅の面取り半径r=0.5mmの断面略矩形状の平角導体10を形成している。
【0032】
焼鈍炉130は、所定形状に引き抜き加工された平角導体10を焼き鈍し、伸線装置120における圧延・引抜伸線加工で生じた平角導体10の歪みを除去し、柔軟化する装置である。
【0033】
コーティング装置140は、エナメル層30を構成するポリアミドイミド樹脂を主体としたエナメルワニスや、接着層50を構成するワニス化したPPSU接着材をコーティングする装置である。
焼付炉150は、コーティング装置140でコーティングされたエナメルワニスやPPSU接着材を平角導体10に焼付ける装置である。
【0034】
引取装置160は、モータ等の駆動機構により回転し、エナメル層30や接着層50が施されたエナメル線に張力を掛けつつ引き取る装置である。
予熱装置170は、熱風によって、接着層50で被覆されたエナメル線を予熱する熱風循環式予熱機(ヒータ容量24Kwで熱風温度max600度、長さは1200mm)である。
【0035】
巻回装置180は、予熱したエナメル線の外周面の接着層50のPPSU接着材が柔らかいうちにPPSテープ41を巻回する装置である。なお、巻回装置180は、PPSテープ41の厚みを必要に応じて任意に選ぶことができる構成である。
【0036】
冷却装置190は、PPSテープ41の巻回しによって絶縁テープ層40が形成された絶縁電線1を水槽により冷却するとともに、冷却後にエアを吹き付けて乾燥させる装置である。
個別引取装置200は、モータ等の駆動機構により回転し、冷却装置190で冷却・乾燥された絶縁電線1に張力を掛けつつ引き取る装置である。
【0037】
巻き取り装置210は、個別引取装置200で引き取った絶縁電線1を、巻取りボビンに巻き取る装置である。
なお、焼付炉150の通過速度として低速が要求されるため、絶縁電線製造装置100の施工速度は、焼付炉150における平角導体10の通過速度に合わせて5〜15m/分に設定されている。
【0038】
上記構成の絶縁電線製造装置100を用いた絶縁電線1の製造方法について、以下で詳述する。
上述したように、絶縁電線1の製造方法は、丸銅線を所定形状に圧延して平角導体10を形成する伸線工程と、平角導体10の外周面をエナメルで被覆し、焼き付けてエナメル層30を形成するエナメル焼付工程と、エナメル層30の外周面に接着層50を塗布・焼付する接着層焼付工程と、エナメル層30で被覆されたエナメル線を予熱する予熱工程と、エナメル線のエナメル層30の外周面にPPSテープ41をテープ巻により巻回すテープ巻き工程と、前記テープ巻き工程で絶縁被覆された絶縁電線1を巻き取る巻取り工程とで構成されている。
【0039】
前記伸線工程は、供給装置110から供給された直径3.5mmの丸銅線を、伸線装置120において、フリーロールによる圧延加工、及び上述のダイヤモンドダイスを用いて引抜く伸線加工によって、1.8×2.5mm(厚さ×幅)で四隅の面取り半径r=0.5mmの平角導体10を形成する。
【0040】
前記伸線工程で形成された平角導体10は、焼鈍炉130で焼鈍する焼鈍工程を経て、次工程であるエナメル焼付工程及び接着層焼付工程に移行する。
平角導体10の外周面をエナメルで被覆し、焼き付けてエナメル層30を形成するエナメル焼付工程及びエナメル層30の外周面に接着層50を塗布・焼付する接着層焼付工程は、コーティング装置140でエナメルワニスが塗布された平角導体10を焼付炉150で焼付し、これを複数回繰り返して必要な層厚のエナメル層30を形成する。接着層50も同様の工程でコーティング装置140及び焼付炉150を用いて形成する。
【0041】
詳しくは、平角導体10の形状と相似形のダイスを使用して、ポリアミドイミド樹脂ワニスを平角導体10の外周面へコーティングし、450度に設定した炉長8mの焼付炉内を、焼き付け時間40秒となる速度で通過させ、この1回の焼き付け工程で厚さ5μmのエナメル膜30a(図1a部拡大図参照)を形成する。
これを繰り返し4回行うことで層厚20μmの4層構造のエナメル層30で被覆されたエナメル線を形成する。
【0042】
そのエナメル線を、ワニス化したPPSU接着材でコーティングして、エナメル膜30aの形成と同様に、焼付炉150を通過させて焼付・塗布し、厚さ2μmの接着層50を有するエナメル線を形成する。そして、焼付炉150を通過した接着層50を有するエナメル線を、引取装置160で張力を掛けつつ引き取り、次の予熱工程に移行する。
【0043】
エナメル層30の外周面を接着層50で被覆したエナメル線を予熱する予熱工程は、設定温度450度とした予熱装置170を通過させ、線の表面温度を250度まで加熱する。なお、この予熱温度250度は、前記接着層焼付工程で形成された接着層50が軟化する温度であり、さらには、接着層50のガラス転移温度よりも高い温度であり、加熱された接着層50を溶融状態にすることができる。
【0044】
次のテープ巻き工程は、上記予熱工程で加熱されたエナメル線の接着層50の表面が柔らかいうちに、巻回装置180で、厚み40μm×幅420mmであるPPSテープ41をテープ巻により巻回して絶縁テープ層40を形成する。
そして、水温15度に設定した長さ1200mmの冷却装置190の冷却水槽を通過させて冷やすとともに乾燥させて絶縁電線1を完成させる。
【0045】
さらに、冷却・乾燥された絶縁電線1を個別引取装置200で、張力を掛けつつ引き取り、巻き取り装置210を用いて、絶縁電線1を巻取りボビンに巻き取って(巻き取り工程)、絶縁電線1の製造は終了する。
【0046】
なお、上述した絶縁電線1を製造する、前記伸線工程、前記焼鈍工程、前記エナメル焼付工程、前記接着層焼付工程、前記予熱工程、前記テープ巻き工程、及び前記巻取り工程は、この順のタンデム工程で行っており、上述したように絶縁電線1の製造速度は、エナメル焼付工程、前記接着層焼付工程における焼付炉150の通過速度に設定されている。
【0047】
このように、断面形状が矩形状である平角導体10と、平角導体10の外周面をエナメルで被覆して焼き付けたエナメル層30と、該エナメル層30の外周面を巻き回したPPSテープ41で被覆する絶縁テープ層40とで構成した絶縁電線1は、エナメル層30の厚さを50μm以下、且つ前記エナメル層30と前記絶縁テープ層40とで構成する絶縁層20の厚さを60μm以上に設定するとともに、エナメル層30と絶縁テープ層40との間に接着層50を介在させたことにより、絶縁電線の導体とエナメル層の接着強度を下げることなく、絶縁層を厚膜化して、部分放電発生電圧を向上することができる。
【0048】
詳述すると、最近の電気機器では、500Vのサージ電圧に耐えうるような絶縁電線が求められている。換言すると、即ち部分放電発生電圧が500V以上である絶縁電線が求められおり、これら比誘電率3〜4の樹脂をエナメル層に用いた場合、部分放電発生電圧を目標の500V以上にするには、経験からエナメル層の厚さは60μm以上必要である。
【0049】
しかし、このような厚さのエナメル層を形成するためにエナメルワニスを厚く塗布することは難しく、さらにエナメルは高価で費用が掛かる。殊に、導体が断面略矩形状である平角導体の場合において、全周に均一にエナメルワニスを厚く塗布することが難しい。したがって、エナメルを厚く塗布することで所望の絶縁性能を満足する高品質な絶縁電線を得ることは技術的に難しい。
【0050】
また、均一に塗布できる厚さのエナメル層を多数重ねて上記厚さを確保する場合、例えば、塗付・焼付の回数が10回を超え、導体の表面に酸化銅からなる膜が成長し、導体とエナメル層との密着力が低下するという問題がある。
【0051】
また、一方で、絶縁テープを巻き回したテープ巻線は絶縁層を均一に厚くすることが容易であるが、絶縁テープによる絶縁層を均一に厚くした場合、例えば、モータのステータの組み立て加工等を施した後、絶縁テープ間に隙間が生じ易く、部分放電が発生し易いという問題がある。
【0052】
そこで、絶縁電線1は、要求される耐熱性に基づいてエナメル層30の層厚を50μm以下である20μmに設定するとともに、要求される部分放電耐圧に基づいて絶縁層20の層厚を60μmに設定し、PPSテープ41の厚さをこれに合致する必要な厚さ40μmに設定した。
【0053】
これにより、絶縁電線1は、20μmのエナメル層30の外側に40μmの絶縁テープ層40を設け、間に接着層50を介在させ、エナメル線のエナメル層30の外周面にPPSテープ41をテープ巻により巻回すテープ巻き工程の前工程に、エナメル線を予熱する予熱工程を設定したことにより、所望の絶縁性能を有する層厚60μmの絶縁層20を有する絶縁電線を構成することができる。
【0054】
また、20μmのエナメル層30を、5μmのエナメル膜30aを4層重ねて構成し、すなわち焼付炉150の通過回数を4回に抑えたことにより、エナメルワニスを塗布・焼付したエナメル層30と平角導体10との間の密着力(40g/mm)以上を得ることができる。
【0055】
また、エナメル線に単にPPSテープ41を巻回しても、巻線加工時にすぐにはがれてしまうという問題が生じるが、PPSU接着材をエナメル層30の外周面に塗布・焼付し、予熱工程にて接着層50を加熱して柔らかくし、接着層50が柔らかいうちにPPSテープ41を巻回することにより、その密着力は引き剥がし法(ピール強度)で100g/mm以上を得ることができる。
【0056】
このように、絶縁電線1は、エナメル層30と平角導体10との密着力を低減することなく、エナメル層30と絶縁テープ層40との密着性を高め、均一な絶縁層20を構成することができる。したがって、絶縁電線としての絶縁性能を確実に、そして容易に、向上することができる。
【0057】
また、絶縁層20のうち外側層である絶縁テープ層40を構成するPPSテープ41の厚さが最初から決まっているため、全周方向・長手方向における均一な層厚の絶縁層20を構成することができる。
【0058】
したがって、例えば、樹脂の塗付・焼付のみ構成する絶縁層や、樹脂を押出・焼付して構成する絶縁層と比較して、均一な絶縁性能の絶縁層20を有した絶縁電線を構成することができる。また、樹脂の塗付・焼付や、押出・焼付による絶縁層では特に均一な層厚を確保し難いコーナー部分においても、他の面と同じ層厚さの絶縁層20を構成することができる。
【0059】
なお、絶縁電線1は、特別な技術を用いなくても均一な絶縁層厚さの絶縁層20を有する電線を構成できるため、変圧器やモータのステータコイル等をこの絶縁電線1で構成した場合に、絶縁フィルムや保護テープなどの相間紙(絶縁紙)を削減できるといった効果も有している。
【0060】
また、絶縁テープ層40を構成するPPSテープ41を、25度における引張弾性率が1000MPa以上、かつ250度における引張弾性率が10MPa以上である絶縁テープで構成したことにより、耐摩耗性、耐熱老化特性、耐溶剤性の所望の特性を有する絶縁電線1を構成することができる。
【0061】
詳しくは、25度での引張弾性率が1000MPa以上であれば、常温で行われる耐摩耗特性が2000g以上(質量)を達成させることができ、250度での引張弾性率が10MPa以上であれば、180度で行われる熱老化特性が300hを達成することができる。また、前記の二項目を満足させる樹脂であれば、残る必要特性である耐溶剤性も常温および150度において良好な結果を達成できる。したがって、絶縁層20を構成する絶縁テープ層40としての所望の特性を満足することができる。
【0062】
なお、断面が略矩形状の平角導体10を用いたが、例えば、絶縁電線1の別の実施例の断面図による説明図である図3に示すように、断面形状が丸型である丸型導体10aや、断面形状が楕円状である楕円導体10bを用いてよい。さらには、銅性の導体のみならず、銅合金、アルミあるいはアルミ合金等の電線用導体を用いてもよい。
【0063】
また、上記実施例では、エナメル層30の外周面をPPSU接着材による接着層50を被覆し、PPSテープ41を巻き回す前に、予熱工程で接着層50を加熱したが、PPSテープの内面に耐熱性の高い接着材を塗布し、テープ巻き回し後に加熱してもよい。
【0064】
この場合、導体を所定形状に、伸線及び圧延の少なくとも一方を行う伸線工程と、伸線された平角導体10の外周面をエナメルで被覆し、焼き付けてエナメル層30を形成するエナメル焼付工程と、平角導体10の外周面がエナメル層30で被覆されたエナメル線の外周面に、内面に耐熱性の高い接着材による接着層を有するPPSテープをテープ巻により巻回すテープ巻き工程と、外周面にPPSテープを巻回したエナメル線を、前記接着層が軟化する温度まで加熱する加熱工程と、前記加熱工程で加熱された絶縁電線を巻き取る巻取り工程とで構成する製造方法で製造することができる。
【0065】
なお、前記伸線工程、前記エナメル焼付工程、前記テープ巻き工程、前記加熱工程、及び前記巻取り工程をこの順でタンデムに行うことができる。この製造方法の場合、上述の製造方法における予熱工程に対応する加熱工程はテープ巻き工程の後に行われればよく、接着層焼付工程を省略することができる。
【0066】
また、PPSテープ41の代用として、溶融材料を配合したガラス・繊維系テープなどを用いてもよく、溶融材料としてエポキシ樹脂系接着材・アクリル樹脂系接着材・フェノール樹脂系接着材などを用いることができる。
さらには、PPSテープ41の代用として、テープ状のものでなくとも、ガラス・アラミッド紙、マイカなどを用いてもよい。
【0067】
また、絶縁電線1自体が、それほど熱履歴を受けない使用目的の場合、接着材の材料として融点の低いものを選び、本実施例の予熱温度より低くしてもよい。これにより、耐熱性の低いテープ材料を用いることができる。
【0068】
以上、この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の導体は、平角導体10、丸型導体10a、楕円導体10bに対応し、
以下同様に、
絶縁テープは、PPSテープ41に対応し、
エナメル被覆導体は、エナメル線に対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】絶縁電線の断面図による説明図。
【図2】絶縁電線製造装置のブロック図。
【図3】別の実施例の絶縁電線の断面図による説明図。
【符号の説明】
【0070】
1…絶縁電線
10…平角導体
10a…丸型導体
10b…楕円導体
20…絶縁層
30…エナメル層
40…絶縁テープ層
41…PPSテープ
50…接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、該導体の外周面をエナメルで被覆して焼き付けたエナメル層と、該エナメル層の外周面を巻き回した絶縁テープで被覆する絶縁テープ層とで構成し、
前記エナメル層の厚さを50μm以下、且つ前記エナメル層と前記絶縁テープ層とで構成する絶縁層の厚さを60μm以上に設定するとともに、
エナメル層と絶縁テープ層との間に接着層を介在させた
絶縁電線。
【請求項2】
前記絶縁テープを、
25度における引張弾性率が1000MPa以上、かつ250度における引張弾性率が10MPa以上である絶縁テープで構成した
請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記導体を、
断面形状が矩形状である平角導体で構成した
請求項1または2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
予め導体の外周面をエナメル層で被覆したエナメル被覆導体の外周面に接着層を塗布・焼付する接着層焼付工程と、
該接着層を塗布・焼付したエナメル被覆導体を予熱する予熱工程と、
該エナメル被覆導体の前記接着層の外周面に絶縁テープをテープ巻により巻回すテープ巻き工程とで構成し、
前記予熱工程を、
前記接着層が軟化する温度まで予熱することを特徴とする
絶縁電線の製造方法。
【請求項5】
導体を所定形状に、伸線及び圧延の少なくとも一方を行う伸線工程と、
伸線された導体の外周面をエナメルで被覆し、焼き付けてエナメル層を形成するエナメル焼付工程と、
前記テープ巻き工程で絶縁被覆された前記絶縁電線を巻き取る巻取り工程とを有し、
前記伸線工程、前記エナメル焼付工程、前記接着層焼付工程、前記予熱工程、前記テープ巻き工程、及び前記巻取り工程をこの順でタンデムに行う
請求項4に記載の絶縁線の製造方法。
【請求項6】
予め導体の外周面をエナメル層で被覆したエナメル被覆導体の外周面に、内面に接着層を有する絶縁テープをテープ巻により巻回すテープ巻き工程と、
外周面に前記絶縁テープを巻回したエナメル被覆導体を、前記接着層が軟化する温度まで加熱する加熱工程とで構成する
絶縁電線の製造方法。
【請求項7】
導体を所定形状に、伸線及び圧延の少なくとも一方を行う伸線工程と、
伸線された導体の外周面をエナメルで被覆し、焼き付けてエナメル層を形成するエナメル焼付工程と、
前記加熱工程で加熱された前記絶縁電線を巻き取る巻取り工程とを有し、
前記伸線工程、前記エナメル焼付工程、前記テープ巻き工程、前記加熱工程、及び前記巻取り工程をこの順でタンデムに行う
請求項6に記載の絶縁線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−56049(P2010−56049A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222946(P2008−222946)
【出願日】平成20年8月30日(2008.8.30)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】