説明

絶縁電線及びその製造方法

【課題】エナメル層を被覆する際の焼付け工程において発泡の発生を防止でき、耐熱性や耐傷性にも優れている絶縁電線及びその製造方法を提供する。
【解決手段】絶縁電線W1は、複数の導線1aを撚り合わせた撚り線からなる導体1と、導体1の外周に被覆された押出層2と、押出層2の外周に被覆されたエナメル層3とを有する。押出層2及びエナメル層3により絶縁皮膜を構成している。押出層2は、熱可塑性樹脂で作られており、耐熱性及び又は非晶性を備えた樹脂で作られている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体の外周に絶縁皮膜を被覆してなる絶縁電線及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車、各種電気・電子機器等の分野においては、耐熱性や耐傷性の要求に伴い、導体の外周に絶縁皮膜を被覆してなる絶縁電線が用いられている。
【0003】
従来の絶縁電線としては、例えば導体の外周にワニスを塗布し、これを焼付けることにより、エナメル層を被覆したものが知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−237525号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の絶縁電線では、エナメル層を被覆する際の焼付け工程において、導体表面に傷が付いていると、ワニスが蒸発する時に、その傷を起点として発泡が発生する場合がある。
【0005】
特に、複数の導線を撚り合わせた撚り線の場合には、撚り工程で導体表面に傷が付きやすく、仮に傷が付かなかったとしても、個々の導線と導線との隙間にワニスが入り込み、ワニスの塗布状態が不均一となり、そこを起点として発泡が発生しやすくなる。
【0006】
このような発泡の発生により、絶縁皮膜に空洞が残存し、製品の品質を著しく低下させるという課題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、エナメル層を被覆する際の焼付け工程において発泡の発生を防止でき、耐熱性や耐傷性にも優れている絶縁電線及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の絶縁電線は、導体の外周に絶縁皮膜を被覆してなる絶縁電線において、
前記導体は、複数の導線を撚り合わせた撚り線であり、
前記絶縁被覆は、導体の外周に被覆された押出層と、前記押出層の外周に被覆されたエナメル層とを有する、
を有することを特徴とするものである。
【0009】
前記押出層は、例えば、熱可塑性樹脂で作られている。
【0010】
押出層は、耐熱性及び又は非晶性を備えた樹脂で作られているのが望ましい。
【0011】
前記導体が金属からなり、前記導体と押出層との間には、前記金属による前記押出層の劣化を防止するための樹脂劣化抑制層が形成されていてもよい。
【0012】
本発明の絶縁電線の製造方法は、
複数の導線を撚り合わせて導体を形成する工程と、
前記導体の外周に押出層を被覆する工程と、
前記押出層の外周にエナメル層を被覆する工程と、
を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、導体の外周に直接押出層を被覆しているので、エナメル層を被覆する際の焼付け工程において発泡の発生を防止でき、製品の品質を向上させることができる。
【0014】
また、押出層の外周にエナメル層を被覆しているので、耐熱性や耐傷性を向上させることができる。
【0015】
請求項2に係る発明によれば、上記効果を確実に奏することができる。
【0016】
請求項3に係る発明によれば、押出層の樹脂が耐熱性の特性を備えている場合には、焼付け工程の際、押出層の一部が分解して発泡することを防止でき生産性が向上し、非晶性の特性を備えている場合には、溶剤によって押出層の表面近傍が溶解するので、押出層とエナメル層との密着性を良好にできる。
【0017】
請求項4に係る発明によれば、金属との接触による樹脂の劣化を抑制することができる。これは、金属導体上に直接樹脂層を被覆した場合、金属の触媒作用によって樹脂が酸化され、樹脂層の劣化が促進されることがあるため、金属導体と押出層の間に樹脂劣化抑制層を設けることによって、樹脂の劣化を抑制することができる。
【0018】
請求項5に係る発明によれば、上記効果を奏する絶縁電線を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態例に係る絶縁電線を示す断面図である。
【0020】
本発明の実施形態例に係る絶縁電線W1は、複数の導線1aを撚り合わせた撚り線からなる導体1と、導体1の外周に被覆された押出層2と、押出層2の外周に被覆されたエナメル層3とを有する。押出層2及びエナメル層3により絶縁皮膜を構成している。
【0021】
導体1は、例えば、銅,銅合金,アルミニウム,アルミニウム合金又はそれら金属の組み合わせ等で作られている。
【0022】
押出層2は、例えばポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)等の熱可塑性樹脂で作られている。
【0023】
エナメル層3は、例えばポリエステル等のエナメル樹脂で作られている。
【0024】
本発明者らは、絶縁被覆が押出層とエナメル層で構成されている場合(実施例(1))、エナメル層だけで構成されている場合(比較例(1))、押出層だけで構成されている場合(比較例(2))における発泡の有無、耐熱性(温度上昇軟化)・耐傷性について比較する実験を行った。
【0025】
また、本発明者らは、押出層2の樹脂の特性が、熱可塑性ポリイミド(PI)、熱可塑性ポリアミドイミド(PAI)等のように耐熱性・非晶性を備えている場合(実施例(1))、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等のように耐熱性・結晶性を備えている場合(実施例(2))、ポリカーボネート(PC)、ポリサルホン(PSU)等のように汎用性・非晶性を備えている場合(実施例(3))、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のように汎用性・結晶性を備えている場合(比較例(3))におけるエナメル層と押出層との密着性、生産性についての実験を行った。表1はその実験結果を示す。ここで耐熱性、汎用性とは、熱分解温度を示す指標である5%重量減少温度が500℃以上であるものをここでは高耐熱エンプラとし、500℃未満のものを汎用性エンプラとする。
【0026】
【表1】

表1からわかるように、絶縁被覆が押出層とエナメル層で構成されている場合(実施例(1)、(2)、(3))は、発泡がなく、耐熱性・耐傷性が良好である。
一方、エナメル層だけで構成されている場合(比較例(1))は、耐熱性・耐傷性は良好であるが、発泡があり、押出層だけで構成されている場合(比較例(2))は、発泡はないが、耐熱性・耐傷性が悪い。
【0027】
また、押出層2の樹脂の特性として耐熱性がある場合(実施例(1)、実施例(2))は、ワニスの焼付け工程の際に、押出層2の一部が分解して発泡するのを防止できるため、生産性が良好である。
また、押出層2の樹脂の特性として非晶性がある場合(実施例(1)、実施例(3))は、ワニスの溶剤を塗布する工程の際に、ワニスの溶剤との密着性が良好であるため、エナメル層3と押出層2との密着性が向上する。
なお、押出層2の樹脂の特性として汎用性・結晶性がある場合(比較例(3))は、生産性が悪く、エナメル層と押出層との密着性も悪い。
以上から、絶縁被覆は押出層2とエナメル層3で構成され、かつ、押出層2の樹脂は耐熱性、非晶性のいずれか又は両方の特性を備えていることが望ましい。
【0028】
なお、上記表1において、実施例(1)および比較例(1)の発泡とは、エナメル層での発泡を意味し、実施例(2)、(3)および比較例(2)、(3)の発泡とは、押出層での発泡を意味している。
【0029】
図2(A)〜(C)は本発明の実施形態例に係る絶縁電線W1の製造方法を説明するための説明図である。
【0030】
まず、複数の導線1aを撚り合わせて導体1を形成する(図2(A)参照)。
【0031】
次いで、押出機(図示せず)により、導体1の周囲を樹脂で押し出して押出層2を被覆する(図2(B)参照)。
【0032】
次いで、押出層2の外周にワニスの溶剤を塗布して、焼生炉内で焼き付けることにより、エナメル層3を被覆する(図2(C)参照)。これによって、絶縁電線W1が完成する。
【0033】
本発明の実施形態例に係る絶縁電線W1によれば、導体1の外周に直接押出層2を被覆しているので、エナメル層3を被覆する際のワニスの焼付け工程において発泡の発生を防止でき、製品の品質を向上させることができる。
【0034】
また、押出層2の外周にエナメル層3を被覆しているので、耐熱性や耐傷性を向上させることができる。
【0035】
本発明の実施形態例に係る絶縁電線W1の製造方法によれば、上記効果を奏する絶縁電線を提供することができる。
【0036】
本発明の実施形態例に係る絶縁電線W1を用いて、例えばモータやトランス等のコイルに加工する場合、押出層2及びエナメル層3を結晶性の高分子材料で作り、結晶化度の低い状態で巻線加工等の加工処理を施すことができるので、曲げ等による応力を抑制でき、絶縁皮膜の剥離や破損を防止できる。
【0037】
図3(A)及び(B)は、本発明の他の実施形態例に係る絶縁電線を示す断面図である。
【0038】
図3(A)に示すように、本発明の他の実施形態例に係る絶縁電線W2では、導体1と押出層2との間に、金属との接触による樹脂の劣化を抑制するために金属酸化物又はコーディング層等からなる樹脂劣化抑制層4が形成されている。
【0039】
また、図3(B)に示すように、本発明のさらに他の実施形態例に係る絶縁電線W3では、押出層2が方形に形成され、エナメル層3が押出層2の外周に沿って方形に形成されている。
【0040】
本発明は、上記実施の形態に限定されることはなく、特許請求の範囲に記載された技術的事項の範囲内において、種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、自動車、各種電気・電子機器等の耐熱性や耐傷性を必要とする分野で利用される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態例に係る絶縁電線を示す断面図である。
【図2】(A)〜(C)は本発明の実施形態例に係る絶縁電線の製造方法を説明するための説明図である。
【図3】(A)及び(B)は、本発明の他の実施形態例に係る絶縁電線を示す断面図である。
【符号の説明】
【0043】
W1〜W3:絶縁電線
1a:導線
1:導体
2:押出層
3:エナメル層
4:樹脂劣化抑制層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の外周に絶縁皮膜を被覆してなる絶縁電線において、
前記導体は、複数の導線を撚り合わせた撚り線であり、
前記絶縁被覆は、導体の外周に被覆された押出層と、前記押出層の外周に被覆されたエナメル層とを有する、
ことを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
前記押出層は、熱可塑性樹脂で作られていることを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記押出層は、耐熱性及び又は非晶性を備えた樹脂で作られていることを特徴とする請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記導体が金属からなり、前記導体と押出層との間には、前記金属による前記押出層の劣化を防止するための樹脂劣化抑制層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つの項に記載の絶縁電線。
【請求項5】
導体の外周に絶縁皮膜を被覆してなる絶縁電線の製造方法において、
複数の導線を撚り合わせて導体を形成する工程と、
前記導体の外周に押出層を被覆する工程と、
前記押出層の外周にエナメル層を被覆する工程と、
を有することを特徴とする絶縁電線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−245667(P2009−245667A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88834(P2008−88834)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】