説明

絶縁電線

【課題】 導体表面にエポキシ樹脂を硬化剤により硬化させた樹脂層を有する絶縁電線において、高温処理によっても密着性が低下しない樹脂層を形成させる。
【解決手段】 導体に、ビスフェノールA系エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂100質量部に対して、ブロックイソシアネートなどの硬化剤5〜30重量部及びアルミナなどの無機フィラー1〜30質量部を含む樹脂組成物を塗布、焼き付けしてエポキシ樹脂が硬化された樹脂層を形成する。そして、好ましくは当該樹脂層の上層にポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリエステル及びポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の樹脂を主体する別の樹脂層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
モータなどのいわゆる巻線などにおいて絶縁被膜が破損されるとレアー不良やアース不良等が発生することに鑑み、機械的強度並びに加工性の向上を図ると共に、芯線などの導体との密着性を向上させることが絶縁電線に求められている。
【0003】
このような状況下において、例えば特許第3766447号公報(特許文献1)には、芳香族ポリアミド系塗料、ポリイミド系塗料、ポリアミドイミド系塗料、ポリエステルイミド系塗料、ポリエステル系塗料、ポリウレタン系塗料等の被膜形成樹脂に、当該被膜形成樹脂と異なる金属不活性剤としてのアセチレン類やアルキノール類、アミン類と、前記塗料中の樹脂成分と異なる第2のフェノール樹脂、エポキシ樹脂やメラミン樹脂などの硬化性樹脂とを用いた絶縁被膜形成用の塗料が開示されている。
【0004】
また、特開平10−334735号公報(特許文献2)には、ポリイミド系樹脂にメラミンが添加されたポリイミド系樹脂を含む絶縁被膜形成用の塗料が開示されている。これらの樹脂塗料を導体の表面に塗布、焼き付けることによって、導体との密着性が高く、かつ、容易に破損されないなど機械的強度が強くしかも加工性にも優れた絶縁電線が得られる。
【0005】
【特許文献1】特許第3766447号公報
【特許文献2】特開平10−334735号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらの絶縁塗料を用いた場合であっても、絶縁電線に大電流が流れた場合には導体が発熱し、その温度上昇によって絶縁被膜の軟化や劣化を引き起こし、レアー不良やアース不良等が発生する虞が考えられる。そこで、密着性や機械的強度が高く、加工性に優れるだけでなく、さらなる耐熱性も望まれた。
【0007】
また、インサート時(ステータへのコイル挿入時)に生じる摩擦や摩耗を軽減すべく、含浸ワニス処理を施したり、絶縁電線を複数本撚り合わせた後、加熱処理により線間を融着処理することが行われる場合がある。この場合に、上記塗料を用いると、中でもメラミン樹脂を添加した樹脂を用いた場合には、含浸ワニス処理や融着処理時に高温下にさらされた後に、導体との密着性が低下し、被膜のみが延伸されたり、導体の露出を生じる場合があった。
【0008】
そこで、本願発明者らは、上記問題点を解決すべく、エポキシ樹脂に硬化剤を混合して硬化させた樹脂層を導体表面に形成させたプライマー層を形成した絶縁電線を開発し、特許出願を行っている。この樹脂層は、エポキシ樹脂、例えば、ビスフェノールA系エポキシ樹脂にこれらの硬化剤であるメラミン化合物やイソシアネート化合物を添加した樹脂組成物を導体に塗布、硬化させたものである。この結果、導体との密着性が向上するだけでなく、ワニス含浸処理時の高温処理時においても密着性が低下しない絶縁電線が得られることになった。
【0009】
しかしながら、この絶縁電線は、耐熱性、特に過酷な条件下でテストが行われるJIS2倍荷重耐軟化温度試験において好ましくない場合があり、さらに耐熱性を向上することが望まれた。
【0010】
本願発明はこのような状況下に鑑みてなされたものであって、導体表面にエポキシ樹脂を硬化剤により硬化させた樹脂層を有する絶縁電線において、高温処理によっても密着性が低下しない絶縁電線を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本願発明者は鋭意努力したところ、上記樹脂層の中にアルミナなどの無機フィラーを配合することにより上記目的が達成されることを見いだし、本願発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の絶縁電線は、導体と、当該導体表面を被覆する、エポキシ樹脂が硬化剤により硬化された樹脂層を有する絶縁電線であって、前記樹脂層はアルミナなどの無機フィラーを含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、ワニス含浸処理や融着処理などのように高温にさらされることによっても導体と被膜の密着性が低下せず、機械的強度や可とう性などの加工性にも優れた絶縁電線が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、導体と、当該導体表面を被覆する、エポキシ樹脂が硬化剤により硬化された樹脂層を有する絶縁電線であって、樹脂層にアルミナに代表される無機フィラーを含ませた絶縁電線に係るものである。すなわち、本発明の絶縁電線における導体表面を被覆する絶縁層は、硬化剤によってエポキシ樹脂が硬化されたいわゆる熱硬化性樹脂からなり、この熱硬化性樹脂中にアルミナなどが配合されたものである。
【0015】
本発明の絶縁電線に用いられる導体としては、従来から絶縁電線に用いられている導体と同様な導体が用いられ、銅線やアルミニウム線などが例示される。
【0016】
本発明において用いられるエポキシ樹脂は、末端に反応性のエポキシ基を持つ熱硬化型の合成樹脂であれば特に限定されるものではない。このようなエポキシ樹脂として、グリシジルエーテルタイプ、グリシジルアミンタイプ、グリシジルエステルタイプ、オレフィン酸化タイプ(脂環式タイプ)のものがあるが、これらのいずれのタイプのものでもよい。グリシジルエーテルタイプのものとして、例えばエピハロヒドリンと活性水素化合物とから得られるエポキシ樹脂、具体的には、ビスフェノール類とエピクロルヒドリンとから得られるビスフェノール系エポキシ樹脂、オルソクレゾールなどのクレゾール類とホルムアルデヒドとから得られるクレゾールノボラック型エポキシ樹脂やオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、多官能単量体から得られる多官能単量体型エポキシ樹脂が例示される。
【0017】
これらの中でも、ビスフェノールとエピクロルヒドリンなどのエピハロクロルヒドリンとから得られるビスフェノール系エポキシ樹脂が好ましく、この中でも分子量が大きないわゆるフェノキシ樹脂、すなわち概ね重量平均分子量が50000以上のビスフェノール系エポキシ樹脂がより好ましく用いられる。
【0018】
ビスフェノールとしては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、3,4,5,6−ジベンゾ−1,2−オキサホスファン−2−オキサイドヒドロキノンなどが例示される。
【0019】
好ましいビスフェノール系エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールAとエピハロヒドリンとから得られるビスフェノールA系エポキシ樹脂、ビスフェノールFとエピハロヒドリンとから得られるビスフェノールF系エポキシ樹脂、ビスフェノールSとエピハロヒドリンとから得られるビスフェノールS系エポキシ樹脂が例示される。また、これらの各種エポキシ樹脂は、単独で用いるだけでなく、2種以上のエポキシ樹脂を混合して用いることも可能である。
【0020】
エポキシ樹脂の平均分子量(重量平均分子量)としても特に制限されるものではないが、耐熱性及び密着性を高める観点からは好ましくは30000〜100000、よりこの好ましくは50000〜80000である。
【0021】
本発明においては、エポキシ樹脂だけを塗布したり、或いはポリエステルイミドやポリアミドイミド、ポリエステルやポリイミド樹脂などに混合するだけでは不十分であって、硬化剤を用いて硬化させることが必要である。この硬化剤はエポキシ樹脂と反応して3次元的な網状構造を形成させる機能を果たし、この機能を果たすことができるものであれば硬化剤も特に限定されるものでもなく、エポキシ樹脂の硬化剤として汎用されている各種の硬化剤、例えば、尿素やメラミン化合物、イソシアネート系化合物、アミノポリアミド樹脂、メチルテトラヒドロ無水フタル酸などの脂環式酸無水物の他、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物などが例示される。これらの硬化剤は、目的とする絶縁電線の特性に合わせて適宜選択されるが、本発明の目的を考慮する上では、これらの中でも、メラミン化合物やイソシアネート系化合物の硬化剤が好適に用いられる。
【0022】
メラミン化合物としては、例えばメチル化メラミン、ブチル化メラミン、メチロール化メラミン、ブチロール化メラミンなどが例示される。
【0023】
イソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタンなどの炭素数5〜18の脂環式イソシアネート、キシリレインジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネエート(TMXDI)などの芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート、これらの変性物などが例示される。上記の硬化剤は、それぞれ単独で用いても、また2以上の化合物を混合して用いることもできる。
【0024】
また、本発明においては、導体への塗布を考慮し、後述するように有機溶媒にエポキシ樹脂などを混合した樹脂組成物として使用されることが一般的である。この際の安定性を考慮して、ブロックイソシアネートタイプの硬化剤が好適に用いられる。
【0025】
ブロックイソシアネートは、前記イソシアネート化合物がブロック剤で保護されたものである。ブロック剤は、イソシアネート基に付加し、常温では安定であるが、その解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生しうる化合物である。ブロック剤としては、例えば、アルコール類、フェノール類、ε−カプロラクタム、ブチルセロソルブなどが例示されるが、これらに限定されるものではない。アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなど炭素数1〜4程度の脂肪族アルコールやベンジルアルコールなどの芳香族アルコール、シクロヘキサノールなどの脂環式アルコールが例示される。また、フェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノールなどが例示されるが、取り扱い性などの観点からアルコール類をブロック剤として用いるのが好ましい。また、ブロックイソシアネートは、解離温度が好ましくは80〜160℃、より好ましくは90〜130℃のものが好適である。
【0026】
本発明においては、このような硬化剤とエポキシ樹脂を硬化させる必要があるが、得られた樹脂層の特性を考慮して、エポキシ樹脂と硬化剤の量比が適宜決定される。つまり、硬化剤の量が少なければ機械的強度や耐熱性が不足するなどの事態が考えられ、多ければ加工性が低下するなど好ましくない樹脂層となる虞がある。このため、本発明においては、エポキシ樹脂100質量部に対して少なくとも硬化剤が5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、さらに望ましくは20質量部以上であり、その上限は多くても200質量部以下、好ましくは150質量部以下、さらに望ましくは100質量部以下であり、さらに50質量部以下でも良い。
【0027】
本発明においては、樹脂層中に無機フィラーが添加される。無機フィラーとして、例えば、アルミナやシリカ、酸化マグネシウム、炭化ケイ素、炭化チタンなどが例示され、これらの無機フィラーの1種又は2種以上が用いられる。これらの無機フィラーの中でもアルミナが好適である。アルミナは通常粉末として用いる。アルミナの粒子径も特に制約を受けるものではなく、例えば平均粒子径(個数平均径)が10μm以下、さらに好ましくは5μm以下、望ましくは1μm以下であるものを用いるのがよく、分散性の観点からは平均粒子径が1μm以下のアルミナ微粉末を用いるのが望ましい。また、アルミナの結晶形として、αアルミナ、βアルミナ、γアルミナなどがあるが、いずれの結晶形を用いてもよいが、アルミナの安定性の観点などからはαアルミナを用いるのが好ましい。他の無機フィラーの粒子径も同様である。
【0028】
無機フィラーの使用量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、少なくとも1質量部以上、好ましくは5質量部、より好ましくは10質量部以上である。5質量部以上の使用により、JIS2倍耐軟化温が400℃以上の樹脂層を形成させることができる。また、その上限は多くとも100質量部、好ましくは50質量部、より好ましくは30質量部である。多くなりすぎると、加工性や機械的強度が低下するだけでなく、密着性が低下する虞を生じるだけでなく、使用量に見合う効果が得られない。
【0029】
本発明においては、上記成分は有機溶媒に均一に分散させた樹脂組成物として提供され、当該樹脂組成物を導体表面に塗布、硬化させることにより樹脂層が形成される。用いられる有機溶媒も特に限定されるものではない。有機溶媒として、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサエチルリン酸トリアミド、γ−ブチロラクトンなどの極性有機溶媒をはじめ、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類、ジクロロメタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、クレゾール、クロルフェノールなどのフェノール類、ピリジンなどの第三級アミン類などが例示され、これらの有機溶媒はそれぞれ単独であるいは2種以上を混合して用いられる。
【0030】
有機溶媒の量は特に限定されるものではなく、エポキシ樹脂と硬化剤、アルミナとを均一に分散させることができる量であればよい。通常、エポキシ樹脂100質量部に対し、好ましくは5質量部以上、好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは30質量部以上であるが、多すぎると適切な塗膜を形成することができず、この観点からは多くても200質量部以下、好ましくは150質量部以下、さらに好ましくは100質量部以下である。
【0031】
この樹脂組成物には、本発明の目的が阻害されない範囲内で、絶縁塗料の流動性を改善するために、例えばテトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラヘキシルチタネートなどのチタン系化合物、ナフテン酸亜鉛、オクテン酸亜鉛などの亜鉛化合物、硬化促進剤、酸化防止剤、レベリング剤などの添加剤を配合しても差し支えない。また、無機フィラーの混合に際して均一な分散樹脂組成物を得る観点から、予め上記有機溶媒に分散した上でエポキシ樹脂の分散液に混合するのが好ましいといえる。
【0032】
この樹脂組成物は導体表面に塗布、硬化されて樹脂層に形成される。塗布の方法も特に制約されるものではなく、例えば浸漬法などの常法が用いられる。塗布後は、常温〜300℃の温度で塗膜を自然乾燥又は加熱乾燥させることにより、樹脂層を形成する。
【0033】
なお、エポキシ樹脂と硬化剤とを十分に反応させる観点からは、自然乾燥ではなく、樹脂組成物を導体上に塗布した後、焼き付けることが好ましい。焼き付けは、常法によって行うことができる。焼き付け温度は、エポキシ樹脂と硬化剤との反応や、高温処理による樹脂層の劣化を防止する観点から、150〜400℃、好ましくは200〜400℃である。また、硬化剤としてブロックイソシアネートを用いる場合には、ブロック剤を解離させて硬化剤として機能させるために、その解離温度以上の温度に加熱するのが好ましい。また、焼き付けは1回だけでもよく、2回以上行っても良い。
【0034】
こうして得られた樹脂層はそのまま外皮として用いることもできるが、巻線としての利用の観点や耐熱性、耐摩耗性、機械的強度、耐油性、耐薬品性、絶縁性の観点などからプライマー層として用いられ、この樹脂層上に1乃至複数の別な樹脂層が形成される。このような観点から、エポキシ樹脂を硬化させた樹脂層の膜厚は、従来のエステルイミド樹脂などをプライマー層とした場合と同様な厚みに設定される。具体的には、樹脂層(焼き付け後の厚み)の厚みが0.5〜5μm、好ましくは1〜5μmとなるように前記樹脂組成物が塗布される。
【0035】
この樹脂層(プライマー層)の上に積層される樹脂層としては、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルやポリイミドなど、従来から絶縁電線などの被膜に用いられる公知である種々の樹脂を含む絶縁塗料が用いられる。これらの樹脂は単独で用いることもできるし、2以上の樹脂を混合して用いてもよい。また、積層される樹脂層はこれらの樹脂を主体として用いていればよく、これらの樹脂以外に、耐熱性の向上や耐摩耗性や滑り性を改良する目的などでその他の樹脂や添加剤を配合した樹脂層を排除する意味ではない。また、これらの樹脂層の上層に、潤滑性を付与すべく、公知である種々の潤滑層を設けることも可能である。なお、本発明においてはこれらの樹脂層はエポキシ樹脂を硬化した樹脂層の上層に設けられるが、その形成方法は従来の方法と何ら変わるところがない。積層される樹脂層は1層に限られず、複数の層を積層してもよいのは言うまでもない。
【0036】
また、上層に設けられる樹脂層の膜厚も適宜定めることができるが、絶縁電線の樹脂層全体(プライマー層を含めて)として、通例20〜200μm程度、好ましくは20μm〜100μm程度の膜厚に形成される。
【0037】
このように、本発明においては、アルミナを含むエポキシ樹脂を硬化剤にて硬化した樹脂層を有するために、導体との密着性がよく、ワニス含浸処理や融着処理などの高温処理時においても導体からの遊離等がなく、機械的強度、耐軟化特性、加熱劣化後BVDの特性が良好な絶縁電線が提供される。
【実施例1】
【0038】
次に実施例に基づき、本発明についてさらに詳細に説明する。エポキシ樹脂としてビスフェノールAフェノキシ樹脂(東都化成(株)社製、製品名YP−50、分子量60000〜80000のフェノキシ樹脂をクレゾール/シクロヘキサノンに溶解した溶液(固形分:30質量%))を用い、この固形分100質量部に対して、表1の実施例1〜3に示す配合比で、硬化剤であるブロック型イソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)社製、商品名MS50)とアルミナ(日本アエロジル(株)社製、AEROXIDE AluC 平均粒子径13nm)を、前記樹脂溶液に均一に混合し、樹脂組成物を得た。なお、アルミナの混合に際しては、予めアルミナ30gを、クレゾール(河野薬品社製、商品名(SCX−1))70gに添加し、ホモジナイザー(7000rpm)にて30分間攪拌した後、前記フェノキシ樹脂溶液に混合した。
【0039】
この樹脂組成物を焼き付け後の膜厚が3μmとなるように直径1.0mmの銅線表面に塗布し、炉内温度300〜400℃に設定した焼付炉内で数秒間焼き付けて硬化したエポキシ樹脂の樹脂層を形成した。
【0040】
次に、汎用ポリエステルイミド樹脂(汎用EsI:日立化成工業(株)社製、商品名Isomid40SM−45)の樹脂溶液を、焼き付け後の膜厚が25μmとなるように塗布し、炉内温度300〜400℃に設定した焼付炉内で数秒間焼き付け、第2層目の樹脂層を形成した。
【0041】
さらに、汎用PAIを焼き付け後の膜厚が5μmとなるように塗布し、上記汎用EsIと同様の条件で、第3層目の樹脂層を形成した。なお、汎用PAIは下記方法により得られたものを使用した。
【0042】
(汎用PAIの製造)
窒素ガス環境下において、無水トリメリット酸176.9g、トリメリット酸1.95g及びメチレンジイソシアネート233.2gをフラスコ内に投入し、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン536gを添加し、撹拌しながら80℃で3時間加熱した後、約4時間かけてフラスコ内の温度を120℃まで昇温し、同温度で3時間加熱した。その後、加熱をやめ、フラスコ内にキシレン134gを添加した後放冷し、不揮発分35質量%であるポリアミドイミド樹脂ワニス(汎用PAI)を得た。
【0043】
そして最後に潤滑性を高める自己潤滑PAIを焼き付け後の膜厚が2μmとなるように塗布し、上記汎用EsIと同様の条件で、表面層となる第4層目の樹脂層を形成した。なお、自己潤滑PAIは下記方法により得られたものを使用した。
【0044】
(自己潤滑PAIの製造)
上記で得られた汎用PAIの固形分量100質量部に対し、ポリエチレンワックス1.5質量部の割合で混合し、ポリアミドイミド樹脂ワニス(自己潤滑PAI)を得た。
【0045】
また、比較例として、上記エポキシ樹脂の樹脂層の代替として、汎用ポリエステルイミドワニス(汎用EsI:日立化成工業(株)社製、商品名Isomid40SM−45)と、高密着タイプのポリエステルイミドワニス(高密着EsI:大日精化工業(株)社製、商品名EH402−45No.3)を用いて第1の樹脂層(プライマー層に相当)を形成した絶縁電線(比較例1及び比較例2)を作製した。そして、各実施例及び各比較例の絶縁電線について、可とう性、ヒートショック、一方向摩耗、膜浮き、耐軟化温度、加熱劣化後BVD残率について試験を行った。その結果を表1にまとめた。なお、各試験において各実施例、各比較例共に6本の絶縁電線を用意し、数値で評価できるものについては得られた測定値の平均値を示した。
【0046】
〔可とう性〕
JIS C3003 7.可とう性 A法に準じて試験を行った。その結果、比較例1では2倍の倍率において、本実施例をはじめ比較例2を含めて肉眼での観察において亀裂等は観察されなかった。
【0047】
〔ヒートショック〕
JIS C3003 12.耐熱衝撃 A法に準じて試験を行った。その結果、比較例1では2倍の倍率において、本実施例をはじめ比較例2を含めて肉眼での観察において亀裂等は観察されなかった。
【0048】
〔一方向摩耗〕
JIS C3003 9.耐摩耗に準じて試験を行った。
【0049】
〔膜浮き試験〕
JIS C3003 8.密着性の8.1a)急激伸長の場合に準じて、切れ目から被膜が浮いている部分の長さを測定した。膜浮き試験については、加熱前(初期)と、160℃の恒温槽内で6時間加熱した場合(160℃×6h)と、180℃の恒温槽内で6時間加熱した場合(180℃×6h)について試験を行った。
【0050】
〔耐軟化温度試験〕
JIS C3003 11.1 A法に準じて、耐軟化温度を測定した。なお、試験はJISに規定された荷重及びJISに規定された荷重の2倍(JIS2倍)を加えた場合の双方について行った。
【0051】
〔加熱劣化後BDV残率〕
JIS C3003 10.絶縁破壊 A法に準じて絶縁破壊電圧を測定した。そして、非加熱の状態で測定した絶縁破壊電圧を100として、加熱処理後の絶縁破壊電圧の残存率(=加熱後BDV/非加熱BDV×100%)を求めた。また、試験は、260℃の恒温槽に168時間放置したものと280℃の恒温槽に168時間放置したものについて行った。
【0052】
【表1】

【0053】
以上の結果から、高密着ポリエステルイミドを第1層目(プライマー層)の樹脂層とした場合に比べ、本発明の絶縁電線では、機械的強度(一方向摩擦)や耐軟化特性、加熱劣化後BDV残率が優れていることが判明し、アルミナの添加によって、高密着ポリエステルイミドと遜色のないJIS2倍耐軟化温度を達成することができた。なお、エポキシ樹脂100質量部(固形分)に対しアルミナを20質量部程度配合すると、加熱後に密着性が低下する傾向にあった。この点からは、アルミナの配合量は20質量部以下とするのが好ましい。
【0054】
このように、本発明の絶縁電線は、機械的強度が高く、ワニス含浸処理などのように高温に加熱した場合にでも密着性や軟化性が良好に維持されるので、モーターの小型化や高出力モーターに対応可能な絶縁電線が提供される。
【0055】
なお、上記に示された実施形態や実施例は例示であって、本発明は上記の実施形態や実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲及びこれと均等に含まれるすべての変更が本発明に含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体表面を被覆する、エポキシ樹脂が硬化剤により硬化された樹脂層を有する絶縁電線であって、
前記樹脂層は無機フィラーを含む絶縁電線。
【請求項2】
前記無機フィラーはアルミナフィラーである請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
JIS2倍耐軟化温度が400℃以上である請求項1又は2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記樹脂層がエポキシ樹脂100質量部に対し、5質量部以上30質量部以下の硬化剤を含む請求項1〜3の何れか1項に記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記樹脂層がエポキシ樹脂100質量部に対し、1質量部以上30質量部以下の無機フィラーを含む請求項1〜4の何れか1項に記載の絶縁電線。
【請求項6】
前記エポキシ樹脂がビスフェノールA系エポキシ樹脂である請求項1〜5の何れか1項に記載の絶縁電線。
【請求項7】
前記硬化剤がイソシアネートである請求項1〜6の何れか1項に記載の絶縁電線。
【請求項8】
前記樹脂層上に少なくとも1層以上の他の樹脂からなる樹脂層を有する請求項1〜7の何れか1項に記載の絶縁電線。
【請求項9】
前記他の樹脂からなる樹脂層は、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリエステル及びポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の樹脂を主体とする請求項8に記載の絶縁電線。

【公開番号】特開2010−153290(P2010−153290A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332141(P2008−332141)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(309019534)住友電工ウインテック株式会社 (67)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100104307
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 尚司
【Fターム(参考)】