説明

絶縁電線

【課題】 導体表面にエポキシ樹脂を硬化剤により硬化させた樹脂層を有する絶縁電線において、高温処理によっても密着性が低下しない樹脂層を形成させる。
【解決手段】 導体に、変性度5%以上でTHEICによって置換されたビスフェノール類とビスフェノール型エポキシ樹脂とを重合させたTHEIC変性フェノキシ樹脂(不揮発分)100質量部に対して、ブロックイソシアネートなどの硬化剤5〜30重量部を含む樹脂組成物を塗布、焼き付けしてエポキシ樹脂が硬化された樹脂層を形成する。そして、好ましくは当該樹脂層の上層にポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリエステル及びポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の樹脂を主体とする別の樹脂層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
モーターなどのいわゆる巻線などにおいて絶縁被膜が破損されるとレアー不足やアース不良等が発生することに鑑み、機械的強度並びに加工性の向上を図ると共に、芯線などの導体との密着性を向上させることが絶縁電線に求められている。
【0003】
このような状況下において、例えば特許第3766447号公報(特許文献1)には、芳香族ポリアミド系塗料、ポリイミド系塗料、ポリアミドイミド系塗料、ポリエステルイミド系塗料、ポリエステル系塗料、ポリウレタン系塗料等の被膜形成樹脂に、当該被膜形成樹脂と異なる金属不活性剤としてのアセチレン類やアルキノール類、アミン類と、前記塗料中の樹脂成分と異なる第2のフェノール樹脂、エポキシ樹脂やメラミン樹脂などの硬化性樹脂とを用いた絶縁被膜形成用の塗料が開示されている。
【0004】
また、特開平10−334735号公報(特許文献2)には、ポリイミド系樹脂にメラミンが添加されたポリイミド系樹脂を含む絶縁被膜形成用の塗料が開示されている。これらの樹脂塗料を導体の表面に塗布、焼き付けることによって、導体との密着性が高く、かつ、容易に破損されないなど機械的強度が強くしかも加工性にも優れた絶縁電線が得られる。
【0005】
【特許文献1】特許第3766447号公報
【特許文献2】特開平10−334735号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらの絶縁塗料を用いた場合であっても、絶縁電線に大電流が流れた場合には導体が発熱し、その温度上昇によって絶縁被膜の軟化や劣化を引き起こして、レアー不足やアース不良等が発生する虞が考えられる。そこで、密着性や機械的強度が高く、加工性に優れるだけでなく、さらなる耐熱性も望まれた。
【0007】
また、いわゆる巻線においてはコイルへの巻き付け時の際に生じる摩擦や摩耗を軽減すべく、含浸ワニス処理を施したり、絶縁電線を複数本撚り合わせた後、加熱処理により線間を融着処理したりすることが行われる場合がある。この場合に、上記塗料を用いると、中でもメラミン樹脂を用いた場合には、含浸ワニス処理や融着処理時に高温下にさらされた後に、導体との密着性が低下し、被膜のみが延伸したり、導体の露出を生じる場合があった。
【0008】
そこで、本願発明者らは、上記問題点を解決すべく、エポキシ樹脂に硬化剤を混合して硬化させた樹脂層を導体表面に形成させたプライマー層を形成した絶縁電線を開発し、特許出願を行っている。この樹脂層は、エポキシ樹脂、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂にこれらの硬化剤であるメラミン化合物やイソシアネート化合物を添加した樹脂組成物を導体に塗布、硬化させたものである。この結果、導体との密着性が向上するだけでなく、ワニス含浸処理時の高温処理時においても密着性が低下しない絶縁電線が得られることになった。
【0009】
しかしながら、この絶縁電線は、耐熱性、特に過酷な条件下でテストが行われるJIS2倍荷重耐軟化温度試験において、汎用されているポリエステルイミド樹脂ワニスや高密着タイプのポリエステルイミド樹脂ワニスを用いた場合よりも劣るものであった。
【0010】
本願発明は、このような状況下に鑑みてなされたものであって、本願発明は、導体表面にエポキシ樹脂を硬化剤により硬化させた樹脂層を有する絶縁電線において、高温処理によっても密着性が低下しない樹脂層を形成させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本願発明者は鋭意努力したところ、上記エポキシ樹脂として、THEIC変性フェノキシ樹脂を用いることにより上記目的が達成されることを見いだし、本願発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の絶縁電線は、導体と当該導体表面を被覆する、エポキシ樹脂が硬化剤により硬化された樹脂層を有する絶縁電線であって、前記エポキシ樹脂は、THEIC変性フェノキシ樹脂であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、ワニス含浸処理や融着処理などのように高温にさらされることによっても導体との密着性が低下せず、機械的強度や可とう性などの加工性にも優れた絶縁電線が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、導体と当該導体表面を被覆する、THEIC変性エポキシ樹脂が硬化剤により硬化された樹脂層を有する絶縁電線である。本発明の絶縁電線に用いられる導体としては、従来から絶縁電線に用いられている導体と同様な導体が用いられ、銅線やアルミニウム線などが例示される。
【0015】
本発明において、導体表面を被覆する樹脂層に用いられるエポキシ樹脂はTHEIC変性フェノキシ樹脂であって、THEIC(トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート)によって変性されたフェノキシ樹脂である。本願においてTHEIC変性フェノキシ樹脂とは、重量平均分子量が約30000以下の低分子量ビスフェノール型エポキシ樹脂とビスフェノール類とTHEICを用いて重合されたビスフェノール型エポキシ樹脂であって、この中でも分子量が大きなエポキシ樹脂、具体的には重量平均分子量が20000以上のビスフェノール型エポキシ樹脂を意味する。言い換えると、THEIC変性とは、エポキシ樹脂をビスフェノール類を用いて重合する際、重合に必要なビスフェノール類の一部をTHEICに置き換えて重合したことを意味する。
【0016】
本発明において、ビスフェノール型エポキシ樹脂とはビスフェノール類とエピクロルヒドリンとから得られるビスフェノール型エポキシ樹脂を意味する。このビスフェノールとしては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、3,4,5,6−ジベンゾ−1,2−オキサホスファン−2−オキサイドヒドロキノンなどが例示される。
【0017】
好ましいビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールAとエピハロヒドリンとから得られるビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールFとエピハロヒドリンとから得られるビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールSとエピハロヒドリンとから得られるビスフェノールS型エポキシ樹脂が例示される。また、これらの各種エポキシ樹脂は、単独で用いるだけでなく、2種以上のエポキシ樹脂を混合して用いることも可能である。
【0018】
このビスフェノール型エポキシ樹脂と重合されるビスフェノールも特に限定されることなく、上記ビスフェノール型エポキシ樹脂の製造に用いられる各種のビスフェノール類が用いられる。ビスフェノールA型のビスフェノールに限られず、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型のビスフェノール類を用いることも可能である。また、エポキシ樹脂を構成するビスフェノール類と、エポキシ樹脂と重合するビスフェノール類は同一又は同型のビスフェノールを用いるのが好ましいが、異なる型に属するビスフェノールを用いることも可能である。
【0019】
本発明のTHEIC変性フェノキシ樹脂は、ビスフェノール型エポキシ樹脂とビスフェノール類及びTHEICの重合により製造される。つまり、これらの成分を下記に述べるような各種の有機溶媒に溶解させ、重合用触媒(重合促進剤、重合開始剤など)を用いて重合させる。重合の方法として特別な方法を用いる必要はなく、溶解液を攪拌しながら適宜加熱すればよい。用いられる重合用触媒として、例えば、トリエチルアミンなどのモノアミンやテトラメチルエチレンジアミンなどのジアミン、トリエチレンジアミンなど環状アミンに代表される各種第三級アミンやスタナスオクトエートなどの有機金属触媒などが例示される。また、原則としてビスフェノール型エポキシ樹脂1当量に対して、ビスフェノール類とTHEICの両者の合計として1当量が重合される。
【0020】
本発明はTHEICによって変性されたフェノキシ樹脂を用いることにより、変性していないフェノキシ樹脂を用いた場合に比べて、耐熱性に良好な樹脂層が形成されることが見いだされたことにより完成されたものである。フェノキシ樹脂の変性度、すなわちTHEICの使用量に対応して耐熱性の指標の一つであるJIS2倍耐軟化温度が変化し、THEICの変性度が高くなれば耐軟化温度が上昇する。本発明においては、例えばTHEICの変性度を10%以上とすることにより、JIS2倍耐軟化温度を370℃以上にすることができる。従って、本発明においては、THEIC変性度の下限値は5%、好ましくは10%である。また、その上限値は30%、好ましくは20%である。30%を超える場合には、樹脂層の強度が低下する虞があり、配合量に応じた耐軟化温度の上昇が見込めないからでもある。なお、フェノキシ樹脂のTHEIC変性度とは、ビスフェノール類と置き換えられるTHEIC量を意味し、重合に用いられるTHEIC(A当量)とビスフェノール類(B当量)の合計量に対して用いられるTHEIC量(A当量)の割合(=A/(A+B)×100%)で示される。
【0021】
本発明においては、エポキシ樹脂だけを導体表面に塗布、焼き付けしたり、或いはポリエステルイミドやポリアミドイミド、ポリエステルやポリイミド樹脂などにエポキシ樹脂を混合するだけでは不十分であって、硬化剤を用いて硬化させることが必要である。この点において、特許文献1に記載されているように単にエポキシ樹脂などの硬化性樹脂を配合した樹脂層とは全く異なるものである。本発明における硬化剤はエポキシ樹脂と反応して3次元的な網状構造を形成させる機能を果たし、この機能を果たすことができるものであれば硬化剤も特に限定されるものでもない。エポキシ樹脂の硬化剤として汎用されている各種の硬化剤が用いられ、例えば、尿素やメラミン化合物、イソシアネート系化合物、アミノポリアミド樹脂、メチルテトラヒドロ無水フタル酸などの脂環式酸無水物の他、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物などが例示される。これらの硬化剤は、目的とする絶縁電線の特性に合わせて適宜選択されるが、本発明の目的を考慮する上では、これらの中でも、イソシアネート系化合物やメラミン化合物の硬化剤が好適に用いられる。
【0022】
メラミン化合物としては、例えばメチル化メラミン、ブチル化メラミン、メチロール化メラミン、ブチロール化メラミンなどが例示される。
【0023】
イソシアネート系化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタンなどの炭素数5〜18の脂環式イソシアネート、キシリレインジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート、これらの変性物などが例示される。上記の硬化剤は、それぞれ単独で用いても、また2以上の化合物を混合して用いることもできる。
【0024】
また、本発明においては、導体への塗布を考慮し、後述するように有機溶媒にエポキシ樹脂などを混合した樹脂組成物として使用されることが一般的である。この際の安定性を考慮して、ブロックイソシアネートタイプの硬化剤が好適に用いられる。
【0025】
ブロックイソシアネートは、前記イソシアネート化合物がブロック剤で保護されたものである。ブロック剤は、イソシアネート基に付加し、常温では安定であるが、その解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生しうる化合物である。ブロック剤としては、例えば、アルコール類、フェノール類、ε−カプロラクタム、ブチルセロソルブなどが例示されるが、これらに限定されるものではない。アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなど炭素数1〜4程度の脂肪族アルコールやベンジルアルコールなどの芳香族アルコール、シクロヘキサノールなどの脂環式アルコールが例示される。また、フェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノールなどが例示されるが、取り扱い性などの観点からアルコール類をブロック剤として用いるのが好ましい。また、ブロックイソシアネートは、解離温度が好ましくは80〜160℃、より好ましくは90〜130℃のものが好適である。
【0026】
本発明においては、このような硬化剤とエポキシ樹脂を硬化させる必要があるが、得られた樹脂層の特性を考慮して、エポキシ樹脂と硬化剤の量比が適宜決定される。つまり、硬化剤の量が少なければ機械的強度や耐熱性が不足するなどの事態が考えられ、多ければ加工性が低下するなど好ましない樹脂層となる虞がある。このため、本発明においては、THEIC変性エポキシ樹脂(不揮発分として)100質量部に対して少なくとも硬化剤が5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、さらに望ましくは20質量部以上でありる。また、その上限は多くても200質量部以下、好ましくは150質量部以下、さらに望ましくは100質量部以下であり、さらに50質量部以下でも良い。
【0027】
本発明においては、上記成分は有機溶媒に均一に分散させた樹脂組成物として提供され、当該樹脂組成物を導体表面に塗布、硬化させることにより樹脂層が形成される。このときに用いられる有機溶媒も特に限定されるものではない。有機溶媒として、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサエチルリン酸トリアミド、γ−ブチロラクトンなどの極性有機溶媒をはじめ、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類、ジクロロメタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、クレゾール、クロルフェノールなどのフェノール類、ピリジンなどの第三級アミン類などが例示され、これらの有機溶媒はそれぞれ単独であるいは2種以上を混合して用いられる。
【0028】
有機溶媒の量は特に限定されるものではなく、エポキシ樹脂と硬化剤を均一に分散させることができる量であればよい。通常、エポキシ樹脂100質量部に対し、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは30質量部以上であるが、多すぎると適切な塗膜を形成することができず、この観点からは多くても200質量部以下、好ましくは150質量部以下、さらに好ましくは100質量部以下である。
【0029】
この樹脂組成物には、本発明の目的が阻害されない範囲内で、必要に応じて、シリカ、酸化マグネシウム、炭化ケイ素、炭化チタンなどのフィラー、絶縁塗料の流動性を改善するために、例えばテトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラヘキシルチタネートなどのチタン系化合物、ナフテン酸亜鉛、オクテン酸亜鉛などの亜鉛化合物、硬化促進剤、酸化防止剤、レベリング剤などの添加剤を配合しても差し支えない。
【0030】
この樹脂組成物は導体表面に塗布、硬化されて樹脂層に形成される。塗布の方法も特に制約されるものではなく、例えば浸漬法などの常法が用いられる。塗布後は、常温〜300℃の温度で塗膜を自然乾燥又は加熱乾燥させることにより、樹脂層を形成する。
【0031】
なお、エポキシ樹脂と硬化剤とを十分に反応させる観点からは、自然乾燥ではなく、樹脂組成物を導体上に塗布した後、焼き付けることが好ましい。焼き付けは、常法によって行うことができる。焼き付け温度は、エポキシ樹脂と硬化剤との反応や、高温処理による樹脂層の劣化を防止する観点から、150〜400℃、好ましくは200〜400℃である。また、硬化剤としてブロックイソシアネートを用いる場合には、ブロック剤を解離させて硬化剤として機能させるために、その解離温度以上の温度に加熱するのが好ましい。また、焼き付けは1回だけでもよく、2回以上行っても良い。
【0032】
こうして得られた樹脂層はそのまま外皮として用いることもできるが、巻線としての利用の観点や耐熱性、耐摩耗性、機械的強度、耐油性、耐薬品性、絶縁性の観点などからプライマー層として用いられ、この樹脂層上に1乃至複数の別な樹脂層が形成される。このような観点から、エポキシ樹脂を硬化させた樹脂層の膜厚は、従来のエステルイミド樹脂などをプライマー層とした場合と同様な厚みに設定される。具体的には、樹脂層(焼き付け後の厚み)の厚みが0.5〜5μm、好ましくは1〜5μmとなるように前記樹脂組成物が塗布される。
【0033】
この樹脂層(プライマー層)の上に積層される樹脂層としては、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルやポリイミドなど、従来から絶縁電線などの被覆に用いられる公知である種々の樹脂を含む絶縁塗料が用いられる。これらの樹脂は単独で用いることもできるし、2以上の樹脂を混合して用いてもよい。また、積層される樹脂層はこれらの樹脂を主体として用いていればよく、これらの樹脂以外に、耐熱性の向上や耐摩耗性や滑り性を改良する目的などでその他の樹脂や添加剤を配合した樹脂層を排除する意味ではない。また、これらの樹脂層の上層に、潤滑性を付与すべく、公知である種々の潤滑層を設けることも可能である。なお、本発明においてはこれらの樹脂層はエポキシ樹脂を硬化した樹脂層の上層に設けられるが、その形成方法は従来の方法と何ら変わるところがない。積層される樹脂層は1層に限られず、複数の層を積層してもよいのは言うまでもない。
【0034】
また、上層に設けられる樹脂層の膜厚も適宜定めることができるが、絶縁電線の樹脂層全体(プライマー層を含めて)として、通例20〜200μm程度、好ましくは20μm〜100μm程度の膜厚に形成される。
【0035】
このように、本発明の絶縁電線は、THEIC変性フェノキシ樹脂を硬化剤にて硬化した樹脂層を有するために、被膜と導体の密着性がよく、ワニス含浸処理や融着処理などの高温処理時においても導体からの遊離等がなく、汎用されている高密着エステルイミド樹脂を被覆したときと同程度の耐軟化性を有する絶縁電線が提供される。
【実施例1】
【0036】
次に実施例に基づき、本発明についてさらに詳細に説明する。
まず、プライマー層を形成するTHEIC変性フェノキシ樹脂を製造した。
【0037】
(製造例1)
THEIC7.86質量部(0.1当量)、ビスフェノールA(2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン)92.59質量部(0.9当量)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(YD−128:東都化成(株)社製)169.56質量(1.0当量)及び触媒としてのトリエチルアミン1.37質量部(0.015当量)を、シクロヘキサノン270質量部に混合し、攪拌しながら80℃に昇温した。その後、4時間かけて140℃にまで昇温し、その後150℃にまで昇温した後、150℃で10時間保持した。そこに、シクロヘキサノン460質量部を加えて希釈し、変性度10%のTHEIC変性フェノキシ樹脂ワニス(不揮発分27%)を得た。
【0038】
(製造例2)
THEICを11.84質量部(0.15当量)、ビスフェノールAを87.84質量部(0.85当量)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(YD−128:東都化成(株)社製)170.33質量(1.0当量)及び触媒としてのトリエチルアミン1.38質量部(0.015当量)を用いた以外は、製造例1と同様にして、変性度15%のTHEIC変性フェノキシ樹脂ワニス(不揮発分27%)を得た。
【0039】
(製造例3)
THEICを15.86質量部(0.2当量)、ビスフェノールAを83.04質量部(0.8当量)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成(株)社製、商品名YD−128)171.10質量(1.0当量)及び触媒としてトリエチルアミン1.38質量部(0.015当量)を用いた以外は、製造例1と同様にして、変性度20%のTHEIC変性フェノキシ樹脂ワニス(不揮発分27%)を得た。
【0040】
上記で得た製造例1〜製造例3の各THEIC変性フェノキシ樹脂ワニス1000質量部(不揮発分270質量部)に対して、それぞれクレゾールで27%に溶解した硬化剤であるブロック型イソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)社製、商品名MS−50)を200質量部(不揮発分54質量部)を加え、樹脂組成物を得た。
【0041】
この樹脂組成物を焼き付け後の膜厚が3μmとなるように直径1.0mmの銅線表面に塗布し、炉内温度300〜400℃に設定した焼付炉内で数秒間焼き付けて硬化したエポキシ樹脂の樹脂層を形成した。
【0042】
次に、汎用ポリエステルイミド樹脂(汎用EsI:日立化成工業(株)社製、商品名Isomid40SM−45)の樹脂溶液を、焼き付け後の膜厚が25μmとなるように塗布し、炉内温度300〜400℃に設定した焼付炉内で数秒間焼き付け、第2層目の樹脂層を形成した。
【0043】
さらに、汎用PAIを焼き付け後の膜厚が5μmとなるように塗布し、上記汎用EsIの焼き付けと同様の条件で、第3層目の樹脂層を形成した。なお、汎用PAIは下記方法により得られたものを使用した。
【0044】
(汎用PAIの製造)
窒素ガス環境下において、無水トリメリット酸176.9g、トリメリット酸1.95g及びメチレンジイソシアネート233.2gをフラスコ内に投入し、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン536gを添加し、撹拌しながら80℃で3時間加熱した後、約4時間かけてフラスコ内の温度を120℃まで昇温し、同温度で3時間加熱した。その後、加熱をやめ、フラスコ内にキシレン134gを添加した後放冷し、不揮発分35質量%であるポリアミドイミド樹脂ワニス(汎用PAI)を得た。
【0045】
そして最後に潤滑性を高める自己潤滑PAIを焼き付け後の膜厚が2μmとなるように塗布し、上記汎用EsIと同様の条件で、表面層となる第4層目の樹脂層を形成した。なお、自己潤滑PAIは下記方法により得られたものを使用した。
【0046】
(自己潤滑PAIの製造)
上記で得られた汎用PAIの不揮発分100質量部に対し、ポリエチレンワックス1.5質量部の割合で混合し、ポリアミドイミド樹脂ワニス(自己潤滑PAI)を得た。
【0047】
また、比較例として、上記エポキシ樹脂の樹脂層の代替として、上記汎用ポリエステルイミドワニス(汎用EsI:日立化成工業(株)社製、商品名Isomid40SM−45)と、高密着タイプのポリエステルイミドワニス(高密着EsI:大日精化工業(株)社製、商品名EH402−45No.3)を用いて第1の樹脂層(プライマー層に相当)を形成した絶縁電線(比較例1及び比較例2)を作製した。そして、各実施例及び各比較例の絶縁電線について、可とう性、ヒートショック、一方向摩耗、膜浮き、耐軟化温度について試験を行った。その結果を表1にまとめた。なお、各試験において各実施例、各比較例共に6本の絶縁電線を用意し、数値で評価できる項目については得られた測定値の平均値を示した。
【0048】
〔可とう性〕
JIS C3003 7.可とう性 A法に準じて試験を行った。その結果、比較例1では2倍の倍率(2d)において、本実施例をはじめ比較例2を含めて肉眼での観察(1d)において亀裂等は観察されなかった。
【0049】
〔ヒートショック〕
JIS C3003 12.耐熱衝撃 A法に準じて試験を行った。その結果、比較例1では2倍の倍率(2d)において、本実施例をはじめ比較例2を含めて肉眼での観察(1d)において亀裂等は観察されなかった。
【0050】
〔一方向摩耗〕
JIS C3003 9.耐摩耗に準じて試験を行った。
【0051】
〔膜浮き試験〕
JIS C3003 8.密着性の8.1 a)急激伸長の項に準じて測定した。膜浮き試験については、加熱前(初期)と、160℃の恒温槽内で6時間加熱した場合(160℃×6h)と、180℃の恒温槽内で6時間加熱した場合(180℃×6h)について試験を行った。
【0052】
〔耐軟化温度試験〕
JIS C3003 11.1 A法に準じて、耐軟化温度を測定した。なお、試験はJISに規定された荷重及びJISに規定された荷重の2倍(JIS2倍)を加えた場合の双方について行った。
【0053】
【表1】

【0054】
以上の結果から、THEIC変性フェノキシ樹脂を用いることによって、非変性フェノキシ樹脂を用いた場合に比べて、耐熱性の指標である耐軟化特性を向上させることができた。具体的には、THEIC変性フェノキシ樹脂を用いることによって、JIS2倍耐軟化温度が非変性フェノキシ樹脂を用いた場合のJIS2倍耐軟化温度よりも高い350℃以上である絶縁電線を得ることができた。そして、高密着ポリエステルイミドを第1層目(プライマー層)の樹脂層とした場合と比べ、本発明の絶縁電線では、これとほぼ遜色のない機械的強度(一方向摩擦)や耐軟化特性が得られた。また、密着性の指標を示す膜浮き試験では、汎用エステルイミドよりもやや劣化する傾向にあるものの、高密着ポリエステルイミドよりも良好な結果が得られ、密着性にも優れたものであった。
【0055】
このように、本発明の絶縁電線は、機械的強度が高く、ワニス含浸処理などのように高温に加熱した場合にでも密着性や軟化性が良好に維持されるので、モーターの小型化や高出力モーターに対応可能な絶縁電線が提供される。
【0056】
なお、上記に示された実施形態や実施例は例示であって、本発明は上記の実施形態や実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲及びこれと均等に含まれるすべての変更が本発明に含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、当該導体表面を被覆する、エポキシ樹脂が硬化剤により硬化された樹脂層を有する絶縁電線であって、
前記エポキシ樹脂はTHEIC変性フェノキシ樹脂である絶縁電線。
【請求項2】
JIS2倍耐軟化温度が350℃以上である請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂のTHEIC変性度が5%以上である請求項1又は2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記樹脂層が、エポキシ樹脂100質量部に対して5質量部以上30質量部以下の硬化剤を含む樹脂組成物の硬化物である請求項1〜3の何れか1項に記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記硬化剤がイソシアネートである請求項1〜4の何れか1項に記載の絶縁電線。
【請求項6】
前記樹脂層上に少なくとも1層以上の他の樹脂からなる樹脂層を有する請求項1〜5の何れか1項に記載の絶縁電線。
【請求項7】
前記他の樹脂からなる樹脂層は、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリエステル及びポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の樹脂を主体とする請求項6に記載の絶縁電線。

【公開番号】特開2010−157457(P2010−157457A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335814(P2008−335814)
【出願日】平成20年12月29日(2008.12.29)
【出願人】(309019534)住友電工ウインテック株式会社 (67)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100104307
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 尚司
【Fターム(参考)】