説明

継手リンクユニット付き無給油チェーン

【課題】プレート強度の低下を回避し、チェーン製造負担を軽減し、遊嵌プレートと継手ピンとの間からの潤滑油の漏出を防止し、遊嵌プレートをチェーン幅方向に確実に位置決めし、潤滑油の外部漏出と外部塵埃の侵入を防止する継手リンクユニット付き無給油チェーンを提供すること。
【解決手段】チェーン本体110と継手リンクユニット120とからなり、内プレート113から突出したブシュ突出端部112aが圧入プレート122および遊嵌プレート123のブシュ軸支用環状凹部122a、123aにより囲繞支持され、弾性シール部材130が遊嵌プレート123と継手用締結手段124との間に介在した状態で継手ピン121の外周面に対して密に嵌合されている継手リンクユニット付き無給油チェーン100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動用ローラチェーン、搬送用コンベヤチェーンなどに用いるチェーン本体が継手リンクユニットによって無端状に連結されてなる継手リンクユニット付き無給油チェーンに係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、前後一対のブシュの両端部を内プレートに圧入嵌合してなる内リンクと前記ブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対のピンの両端部を外プレートに圧入嵌合してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結されたチェーン本体と、該チェーン本体の両端に位置するブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の継手ピンと該継手ピンの基端部を圧入嵌合する外プレートと前記継手ピンの先端部を遊嵌する継手プレートと該継手プレートの外側面から突出したピンを継手プレートに締結するクリップとから構成されて前記チェーン本体の両端を相互に連結する継手リンクとからなるシールチェーンが知られている。
【0003】
そして、従来のシールチェーンでは、チェーン本体の両端に位置するブシュと該ブシュ内に貫通する継手ピンとの間に注入された潤滑油の外部漏出を防止するシール手段として、シールリングが継手リンクの外プレートおよび継手プレートと該外プレートおよび継手プレートに対向するチェーン本体の内プレートとの間に配設されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2007−205545号公報(特許請求の範囲、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前述したような従来のシールチェーンでは、継手リンクの外プレートおよび継手プレートと該外プレートおよび継手プレートに対向するチェーン本体の内プレートとの間を密封して継手ピンとブシュとの間に注入された潤滑油の密封効果を持続させるために、シールリングが押圧状態で配置されており、このような押圧状態の押圧力によって、外プレートおよび継手プレートと内プレートとの間の相対的な屈曲抵抗、すなわち、チェーン自体の屈曲抵抗が大きくなるという問題があった。
【0005】
また、シールリングが外プレートや継手プレートや内プレート等に対して摺接摩耗することに起因して密封効果が低下することを防止するために、シールリングと接触する外プレートおよび継手プレートの内側面と内プレートの外側面の表面粗さを小さくする表面仕上げ加工を施す必要があり、その表面仕上げ加工の加工負担が増加するという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、従来の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、プレート強度の低下を回避しつつチェーン製造負担を大幅に軽減するとともに、チェーン稼動時における継手リンクユニットの継手ピンとチェーン本体のブシュとの間に封入された潤滑油の外部漏出と外部塵埃の侵入を確実に防止して、しかも、遊嵌プレートの継手ピン孔の内周面と継手ピンの外周面との間からの潤滑油の漏出を防止するとともに遊嵌プレートをチェーン幅方向に確実に位置決めして、さらに、チェーン本体の連結ピンとブシュとの間に封入された潤滑油の外部漏出と外部塵埃の侵入を防止する継手リンクユニット付き無給油チェーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る本発明は、前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合してなる内リンクと前記ブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の連結ピンの両端部を左右一対の外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結されたチェーン本体と、該チェーン本体の両端に位置するブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の継手ピンと該継手ピンの基端部を前後一対の継手ピン圧入孔に圧入嵌合する圧入プレートと前記継手ピンの先端部を前後一対の継手ピン孔に遊嵌する遊嵌プレートと該遊嵌プレートの外側面から突出した継手ピンの先端部を遊嵌プレートの外側面に位置決めして締結する継手用締結手段とで構成されて前記チェーン本体の両端を相互に連結する継手リンクユニットとからなり、前記ブシュの内周面と継手ピンおよび連結ピンの外周面との間に潤滑油を封入してなる継手リンクユニット付き無給油チェーンにおいて、前記チェーン本体の両端に位置する内プレートの外側面から一部突出したブシュ突出端部が、前記継手リンクユニットの圧入プレートおよび遊嵌プレートの内側面を凹陥させてオフセット状態で外側面に膨出させたブシュ軸支用環状凹部によりそれぞれ囲繞支持されているとともに、前記遊嵌プレートの継手ピン孔の内周面と継手ピンの外周面との間からの潤滑油の外部漏出を阻止する弾性シール部材が、前記遊嵌プレートと継手用締結手段との間に介在した状態で継手ピンの外周面に対して密に嵌合されていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0008】
請求項2に係る本発明は、請求項1記載の構成に加えて、前記弾性シール部材が遊嵌プレートの最外側面に固着されていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0009】
請求項3に係る本発明は、請求項1または請求項2記載の構成に加えて、前記弾性シール部材のピン孔内周縁部が、前記継手ピンの外周面に形成されたシール部材嵌着用溝部に嵌合していることにより、前述した課題を解決したものである。
【0010】
請求項4に係る本発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の構成に加えて、前記継手用締結手段が、前記継手ピンの先端部に形成したクリップ嵌着用溝部に嵌着されるクリップ本体部と該クリップ本体部から遊嵌プレートの外側面に向けて立脚するリップ部とを有していることにより、前述した課題を解決したものである。
【0011】
請求項5に係る本発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の構成に加えて、前記遊嵌プレートが継手ピンの先端部側を縮径してなるプレート遊嵌用小径部に遊嵌されていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0012】
請求項6に係る本発明は、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の構成に加えて、前記遊嵌プレートが、圧印加工により形成された環状圧印部を継手ピン孔の周囲に有していることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0013】
請求項7に係る本発明は、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の構成に加えて、前記チェーン本体の内プレートの外側面から一部突出したブシュ突出端部が、前記チェーン本体の外プレートの内側面を凹陥させてオフセット状態で外側面に膨出させたブシュ軸支用環状凹部によりそれぞれ囲繞支持されていることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0014】
なお、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンで言うところの「オフセット状態」とは、ブシュ軸支用環状凹部とそれ以外のプレート部分とがプレート厚み方向にずれて段差状を呈している状態を意味している。
また、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンで言うところの「圧印加工」とは、材料を部分的に圧縮することで圧縮部分の強度を向上させる加工を意味している。
【発明の効果】
【0015】
そこで、本発明は、前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合してなる内リンクとブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の連結ピンの両端部を左右一対の外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結されたチェーン本体と、チェーン本体の両端に位置するブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の継手ピンと継手ピンの基端部を前後一対の継手ピン圧入孔に圧入嵌合する圧入プレートと継手ピンの先端部を前後一対の継手ピン孔に遊嵌する遊嵌プレートと該遊嵌プレートの外側面から突出した継手ピンの先端部を遊嵌プレートの外側面に位置決めして締結する継手用締結手段とで構成されてチェーン本体の両端を相互に連結する継手リンクユニットとからなり、ブシュの内周面と継手ピンおよび連結ピンの外周面との間に潤滑油を封入してなることにより、外部からの無給油状態で長期に亘ってチェーン駆動できるばかりでなく、以下のような特有の効果を奏することができる。
【0016】
すなわち、請求項1に係る本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンによれば、チェーン本体の両端に位置する内プレートの外側面から一部突出したブシュ突出端部が、継手リンクユニットの圧入プレートおよび遊嵌プレートの内側面を凹陥させてオフセット状態で外側面に膨出させたブシュ軸支用環状凹部によりそれぞれ囲繞支持されていることにより、このようなブシュ突出端部とブシュ軸支用環状凹部との間に生じた潤滑油の漏出径路が複雑に屈曲して油溜り機能を発揮する油溜り用ラビリンス構造となって、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力などに起因してブシュと継手ピンとの間に封入された潤滑油が内プレートの外側面と圧入プレートおよび遊嵌プレートの内側面との間から外部漏出することを抑制するとともに外部塵埃の侵入を抑制するので、チェーン本体のブシュの内周面と継手リンクユニットの継手ピンの外周面との間で生じがちな摩耗損傷を低減してチェーン摩耗伸びを長期に亘って防止できる。
【0017】
また、ブシュ軸支用環状凹部が圧入プレートおよび遊嵌プレートの内側面を凹陥させて外側面に膨出させたオフセット状態で形成されていることにより、ブシュ軸支用環状凹部の断面係数とそれ以外のプレート部分の断面係数とが同程度となるので、ブシュ軸支用環状凹部を形成することによる圧入プレートおよび遊嵌プレートの強度低下を抑制でき、また、圧入プレートおよび遊嵌プレートのプレス打ち抜き加工を行う際に、圧入プレートおよび遊嵌プレートの内側面を凹陥させて外側面へ膨出させる形状の金型を用いるだけで、圧入プレートおよび遊嵌プレートの打ち抜き加工とブシュ軸支用環状凹部の形成加工とを同時に行うことができるので、圧入プレートおよび遊嵌プレートの打ち抜き加工とは別途にブシュ軸支用環状凹部を形成する研削やミーリングなどの機械加工を圧入プレートおよび遊嵌プレートに施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0018】
また、弾性シール部材が継手ピンの外周面に対して密に嵌合されていることにより、ブシュと継手ピンとの間に注入された潤滑油が継手ピン外周面に沿って継手ピン先端部側に漏出することを防止するとともに外部塵埃が継手ピン外周面に沿ってブシュと継手ピンとの間に侵入することを回避するので、チェーン本体のブシュの内周面と継手リンクユニットの継手ピンの外周面との間で生じがちな摩耗損傷を低減してチェーンの摩耗伸びを長期に亘って防止できる。
【0019】
また、前述したように弾性シール部材を遊嵌プレートと継手用締結手段との間、すなわち、遊嵌プレートの外側面側に配置したことにより、チェーン本体の内リンクと継手リンクユニットとの相対的な屈曲運動に影響を受けがちな遊嵌プレートの内側面側に弾性シール部材を配置した場合とは異なり、チェーン稼動時における他チェーン部材と弾性シール部材との過度な摺動接触を回避できるので、弾性シール部材の摩耗損傷を防止して弾性シール部材の摩耗損傷に起因した密封効果の低下を回避できる。
【0020】
また、遊嵌プレートの外側面側において継手ピンに対して密に嵌合された弾性シール部材が遊嵌プレートのチェーン幅方向外側への揺動または片寄りを規制するので、遊嵌プレートに形成されたブシュ軸支用環状凹部とこのブシュ軸支用環状凹部に囲繞支持されたブシュ突出端部との相対的な位置関係を所定の範囲内に抑制保持して、これらブシュ突出端部とブシュ軸支用環状凹部とで構成される油溜り用ラビリンス構造による油溜り機能を確実に発揮できる。
【0021】
また、弾性シール部材が弾性体からなることにより、チェーン組み付け時に弾性シール部材が継手ピンに対して柔軟に弾性変形するので、過分な作業負担を要することなく継手ピンに対する組み付け作業を容易に達成できる。
【0022】
また、従来のシールチェーンでは、シールリングの摺接摩耗を防止して潤滑油の密封性を維持するために、外プレートおよび継手プレートの内側面と内プレートの外側面に表面粗さを小さくする表面仕上げ加工を施す必要があったが、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンでは、従来のような表面仕上げ加工を施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0023】
さらに、内プレートの外側面と圧入プレートおよび遊嵌プレートの内側面との間には、従来のシールチェーンのようにシールリングを押圧状態で配設していないので、チェーン稼動時に円滑に屈曲して周回走行できる。
【0024】
請求項2に係る本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンによれば、請求項1記載の継手リンクユニット付き無給油チェーンが奏する効果に加えて、弾性シール部材が遊嵌プレートの最外側面に固着されていることにより、継手ピンの外周面に密に嵌合した弾性シール部材のピン孔内周縁部が遊嵌プレートの継手ピン孔の内周面と継手ピンの外周面との間を密封して潤滑油の外部漏出を阻止するとともに外部塵埃の侵入を阻止するので、チェーン摩耗伸びを長期に亘って防止できる。
【0025】
また、弾性シール部材が遊嵌プレートに固着されていることにより、弾性シール部材と遊嵌プレートとを一体に取り扱うことができるので、チェーン切り継ぎ等の分解組み付け作業を容易に達成できる。
【0026】
また、前述したように遊嵌プレートに一体化された弾性シール部材を継手ピンに対して密に嵌合することで、遊嵌プレートをチェーン幅方向に位置決めして遊嵌プレートがチェーン幅方向に揺動または片寄ることを防止するので、遊嵌プレートに形成されたブシュ軸支用環状凹部とこのブシュ軸支用環状凹部に囲繞支持されたブシュ突出端部との相対的な位置関係を所定の範囲内に抑制保持して、これらブシュ突出端部とブシュ軸支用環状凹部とで構成される油溜り用ラビリンス構造による油溜り機能を確実に発揮できる。
【0027】
請求項3に係る本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンによれば、請求項1または請求項2記載の継手リンクユニット付き無給油チェーンが奏する効果に加えて、弾性シール部材のピン孔内周縁部が継手ピンの外周面に形成されたシール部材嵌着用溝部に嵌合していることにより、シール部材嵌着用溝部と弾性シール部材のピン孔内周縁部との間の接触面積が増大して弾性シール部材による密封効果が向上するので、潤滑油の外部漏出および外部塵埃の侵入をより確実に防止できる。
【0028】
また、弾性シール部材の摩耗等に起因してシール部材嵌着用溝部と弾性シール部材のピン孔内周縁部との間に隙間が生じた場合にも、このようなシール部材嵌着用溝部と弾性シール部材のピン孔内周縁部との間に生じた隙間が複雑に屈曲した油溜り用ラビリンス構造を呈するので、このような油溜り用ラビリンス構造が油溜り機能を発揮して潤滑油の外部漏出および外部塵埃の侵入を防止できる。
【0029】
また、弾性シール部材をシール部材嵌着用溝部に嵌合することで継手ピンに対する弾性シール部材の嵌合力が増大するため、前述したような弾性シール部材による遊嵌プレートのチェーン幅方向への揺動規制効果をより一層向上できる。
【0030】
請求項4に係る本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンによれば、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の継手リンクユニット付き無給油チェーンが奏する効果に加えて、継手用締結手段が継手ピンの先端部に形成したクリップ嵌着用溝部に嵌着されるクリップ本体部を有していることにより、遊嵌プレートの外側面から突出した継手ピンの先端部を遊嵌プレートの外側面にクリップ形式で容易かつ確実に位置決めでき、また、継手用締結手段がクリップ本体部から遊嵌プレートの外側面に向けて立脚するリップ部を有していることにより、このリップ部が遊嵌プレートの外側面に当接して遊嵌プレートのチェーン幅方向外側への揺動または片寄りを規制するので、遊嵌プレートに形成されたブシュ軸支用環状凹部とこのブシュ軸支用環状凹部に囲繞支持されたブシュ突出端部との相対的な位置関係を所定の範囲内に抑制保持して、これらブシュ突出端部とブシュ軸支用環状凹部とで構成される油溜り用ラビリンス構造による油溜り機能を確実に発揮できる。
【0031】
請求項5に係る本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンによれば、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の継手リンクユニット付き無給油チェーンが奏する効果に加えて、遊嵌プレートが継手ピンの先端部側を縮径してなるプレート遊嵌用小径部に遊嵌されていることにより、このような継手ピンと遊嵌プレートとの間に生じた潤滑油の漏出径路が複雑に屈曲した油溜り用ラビリンス構造を呈するので、遊嵌プレートの継手ピン孔の内周面と継手ピンの外周面との間からの潤滑油の外部漏出および外部塵埃の侵入をより確実に防止できる。
【0032】
また、プレート遊嵌用小径部が継手ピンの先端部側を縮径してなることにより、継手ピンの基端部とプレート遊嵌用小径部との間に形成された段差部分に遊嵌プレートの継手ピン孔内周縁部を当接させて遊嵌プレートのチェーン幅方向内側への揺動または片寄りを規制できるので、遊嵌プレートに形成されたブシュ軸支用環状凹部とこのブシュ軸支用環状凹部に囲繞支持されたブシュ突出端部との相対的な位置関係を所定の範囲内に抑制保持して、これらブシュ突出端部とブシュ軸支用環状凹部とで構成される油溜り用ラビリンス構造による油溜り機能を確実に発揮でき、また、前述した弾性シール部材や継手用締結手段のリップ部を用いて遊嵌プレートのチェーン幅方向外側への揺動または片寄りを規制することで、チェーン幅方向外側およびチェーン幅方向内側、すなわち、チェーン幅方向両側への遊嵌プレートの揺動または片寄りを確実に規制でき、さらに、継手ピンの基端部とプレート遊嵌用小径部との間に形成された段差部分に遊嵌プレートの継手ピン孔内周縁部を接触させた状態で遊嵌プレートのチェーン幅方向両側への揺動を規制することで、遊嵌プレートの継手ピン孔の内周面と継手ピンの外周面との間を完全に密封できる。
【0033】
請求項6に係る本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンによれば、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の継手リンクユニット付き無給油チェーンが奏する効果に加えて、遊嵌プレートが圧印加工により形成された環状圧印部を継手ピン孔の周囲に有していることにより、チェーン引張力が継手ピンを介して遊嵌プレートに作用した際に疲労破壊を生じがちな継手ピン孔の周囲の疲労強さを向上できるので、長期にわたってチェーン寿命を維持できる。
【0034】
請求項7に係る本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンによれば、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の継手リンクユニット付き無給油チェーンが奏する効果に加えて、チェーン本体の内プレートの外側面から一部突出したブシュ突出端部が、チェーン本体の外プレートの内側面を凹陥させてオフセット状態で外側面に膨出させたブシュ軸支用環状凹部によりそれぞれ囲繞支持されていることにより、このようなブシュ突出端部とブシュ軸支用環状凹部との間に生じた潤滑油の漏出径路が複雑に屈曲して油溜り機能を発揮する油溜り用ラビリンス構造となって、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力などに起因してブシュと連結ピンとの間に封入された潤滑油が内プレートの外側面と外プレートの内側面との間から外部漏出することを抑制するとともに外部塵埃の侵入を抑制するので、チェーン本体のブシュの内周面とチェーン本体の連結ピンの外周面との間で生じがちな摩耗損傷を低減してチェーンの摩耗伸びを長期に亘って防止できる。
【0035】
また、ブシュ軸支用環状凹部がチェーン本体の外プレートの内側面を凹陥させて外側面に膨出させたオフセット状態で形成されていることにより、ブシュ軸支用環状凹部の断面係数とそれ以外のプレート部分の断面係数とが同程度となるので、ブシュ軸支用環状凹部を形成することによる外プレートの強度低下を抑制でき、また、外プレートのプレス打ち抜き加工を行う際に、外プレートの内側面を凹陥させて外側面へ膨出させる形状の金型を用いるだけで、外プレートの打ち抜き加工とブシュ軸支用環状凹部の形成加工とを同時に行うことができるので、外プレートの打ち抜き加工とは別途にブシュ軸支用環状凹部を形成する研削やミーリングなどの機械加工を外プレートに施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0036】
また、チェーン本体の外プレートの内側面と内プレートの外側面との間には、従来のシールチェーンのような押圧状態で配置されたシールリングを別部品として設けていないので、チェーン稼動時に円滑に屈曲して周回走行するとともにチェーン部品点数の増加を回避できる。
【0037】
また、従来のシールチェーンでは、シールリングの摺接摩耗を防止して潤滑油の密封性を維持するために、シールリングと摺接する部材の表面に表面粗さを小さくする表面仕上げ加工を施す必要があったが、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンでは、従来のような表面仕上げ加工を施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明は、前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合してなる内リンクとブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の連結ピンの両端部を左右一対の外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結されたチェーン本体と、チェーン本体の両端に位置するブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の継手ピンと継手ピンの基端部を前後一対の継手ピン圧入孔に圧入嵌合する圧入プレートと継手ピンの先端部を前後一対の継手ピン孔に遊嵌する遊嵌プレートと遊嵌プレートの外側面から突出した継手ピンの先端部を遊嵌プレートの外側面に位置決めして締結する継手用締結手段とで構成されてチェーン本体の両端を相互に連結する継手リンクユニットとからなり、ブシュの内周面と継手ピンおよび連結ピンの外周面との間に潤滑油を封入してなる継手リンクユニット付き無給油チェーンにおいて、チェーン本体の両端に位置する内プレートの外側面から一部突出したブシュ突出端部が、継手リンクユニットの圧入プレートおよび遊嵌プレートの内側面を凹陥させてオフセット状態で外側面に膨出させたブシュ軸支用環状凹部によりそれぞれ囲繞支持されているとともに、遊嵌プレートの継手ピン孔の内周面と継手ピンの外周面との間からの潤滑油の外部漏出を阻止する弾性シール部材が、遊嵌プレートと継手用締結手段との間に介在した状態で継手ピンの外周面に対して密に嵌合されて、プレート強度の低下を回避しつつチェーン製造負担を大幅に軽減するとともに、チェーン稼動時における継手リンクユニットの継手ピンとチェーン本体のブシュとの間に封入された潤滑油の外部漏出と外部塵埃の侵入を確実に防止して、しかも、遊嵌プレートの継手ピン孔の内周面と継手ピンの外周面との間からの潤滑油の漏出を防止するとともに遊嵌プレートをチェーン幅方向に確実に位置決めして、さらに、チェーン本体の連結ピンとブシュとの間に封入された潤滑油の外部漏出と外部塵埃の侵入を防止するものであれば、その具体的な実施の形態は如何なるものであっても何ら構わない。
【0039】
例えば、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンは、ローラチェーン、ブシュチェーンのいずれのものがその対象であっても差し支えないが、ローラチェーンの場合には、スプロケットとの噛み合いが円滑となるため、チェーンの摩耗を防止するので、より好ましい。
【0040】
本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンに用いる弾性シール部材の具体的な材質については、耐油性、耐摩耗性および弾性を備えたものであれば、合成ゴム、天然ゴム、合成樹脂などの如何なるものであっても良く、また、遊嵌プレートの最外側への固着手段については、接着、焼き付けなどの如何なる手段であっても良い。
【0041】
また、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンに組み込まれる継手リンクユニットの継手ピンを遊嵌プレートに締結する具体的な締結手段は、継手ピンの先端部に形成されたクリップ嵌着用溝部に嵌着されるクリップ、継手ピンの先端部に形成された貫通孔に貫通させる割りピン、継手ピンの先端部に形成された貫通孔に貫通させるスプリングピンなどのいずれであっても良い。
【0042】
また、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンに組み込まれるチェーン本体のブシュの具体的な態様については、何らの加工を施していない通常のブシュ、その内部に無数の気孔を有するように金属粉末を圧縮成形して融解点以下の温度で焼結することで得られた多孔質材に潤滑油を含浸させた焼結含油金属材料から成形されたブシュなどのいずれであっても構わないが、焼結含油金属材料からなるブシュを採用した場合には、ブシュが優れた潤滑油の徐放性を発揮して、すなわち、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力などに起因してブシュの内部に形成された無数の気孔に含浸された潤滑油がブシュの内周面と継手ピンおよび連結ピンの外周面との間に徐々に滲み出すので、ブシュの内周面と継手ピンおよび連結ピンの外周面との間の摺接摩耗を低減でき、特に、前述した焼結含油金属材料が、鉄、銅、ニッケル、クロムモリブデン鋼などを配合してなる混合金属粉末を圧縮形成するとともに6.0g/cm〜7.0g/cmの焼結密度で焼結することで成形されている場合には、ブシュがチェーン張力に起因する剪断力および衝撃力を受けるための強靱性能や多くの潤滑油を含浸させて長期に亘ってブシュと継手ピンおよび連結ピンとの間に潤滑油を供給する含油性能および徐放性能の両方をバランス良く兼ね備えて充分に発揮できる。
【0043】
また、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンにおいて用いられる潤滑油の具体的な種類については、潤滑性や耐劣化性を備えたものであれば如何なるものであって良く、特に、ポリαオレフィンやポリオールエステルなどの合成系炭化水素を基油とする合成油を採用した場合には、優れた粘性、潤滑性、耐劣化性を発揮して、ブシュの内部に形成された気孔に目詰まりを生じさせることなくブシュの気孔から長期に亘ってブシュと継手ピンおよび連結ピンとの間に滲み出て摺接摩耗を抑制できる。
【0044】
また、チェーン本体のブシュの内周面とチェーン本体の連結ピンの外周面との間、および、チェーン本体のブシュの内周面と継手リンクユニットの継手ピンの外周面との間に潤滑油を供給する油溜り溝が、継手ピンおよび連結ピンの外周面、または、ブシュの内周面、または、継手ピンおよび連結ピンの外周面およびブシュの内周面に刻設されている場合には、より多くの潤滑油を封入して継手ピンおよび連結ピンとブシュとの間に潤滑油を継続的に供給するので、継手ピンおよび連結ピンの外周面とブシュの内周面の摺動摩耗を長期に亘って低減してチェーン摩耗伸びをより一層防止することができる。
【0045】
また、チェーン本体の外プレートの内側面と継手リンクユニットの圧入プレートおよび遊嵌プレートの内側面と、チェーン本体の内プレートの外側面とが相互に近接対向するラビリンス構造形成粗面、いわゆる、ラビリンス構造を形成し得る粗面を備えている場合には、これら内側面と外側面との間には油溜り用ラビリンス構造が形成されているので、継手ピンおよび連結ピンとブシュとの間に注入された潤滑油のシール効果をより一層向上させることができ、ブシュと継手ピンおよび連結ピンとの間に注入された潤滑油が外部に漏れ出すことを防止できるとともに外部から塵埃が侵入することを防止できる。
【0046】
そして、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンにおいて用いられる遊嵌プレート、圧入プレート、および外プレートに形成されたブシュ軸支用環状凹部の具体的な態様については、その膨出面が座面よりも大きな外径を有していることにより、各プレートに形成された段差部分の断面係数がそれ以外のプレート部分の断面係数よりも大きくなるように設計されているのが好ましい。
また、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンにおいて用いられるブシュの内径および外径、連結ピンの外径、継手ピンの外径、前述したブシュ軸支用環状凹部の内径に関する具体的な寸法関係については、チェーン進行方向に引張力を受けるチェーン稼動時、すなわち、内リンクが外リンクおよび継手リンクユニットに対してチェーン進行方向に偏在した際に、ブシュの内周面と継手ピンおよび連結ピンの外周面とが接触して、ブシュ突出端部の外周面とブシュ軸支用環状凹部の内周面とが相互に接触することを完全に阻止するように設計されているのがより好ましい。
さらに、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンにおいて用いられるブシュのチェーン幅方向への長さ、左右一対でチェーン幅方向に離間配置された外プレートの内側面の相互間隔、チェーン幅方向に離間配置された遊嵌プレートの内側面と圧入プレートの内側面との相互間隔、前述したブシュ軸支用環状凹部のチェーン幅方向への座ぐり深さに関する具体的な寸法関係については、チェーン稼動時に内リンクが外リンクおよび継手リンクユニットに対してチェーン幅方向にスキュー、揺動、若しくは、片寄りを生じた際にも、ブシュ突出端部がブシュ軸支用環状凹部から外れることを回避するように設計されているのが好ましい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の第1実施例である継手リンクユニット付き無給油チェーン100を図面に基づいて説明する。
ここで、図1は、本発明の第1実施例である継手リンクユニット付き無給油チェーンの全体概要図であり、図2は、図1に示す継手リンクユニット付き無給油チェーンの分解組み付け図であり、図3は、図1に示す継手リンクユニット付き無給油チェーンの断面図であり、図4は、継手用締結手段の変形例を示す斜視図である。
【0048】
まず、本発明の第1実施例である継手リンクユニット付き無給油チェーン100は、図1および図2に示すように、チェーン本体110と、このチェーン本体110の両端を相互に連結する継手リンクユニット120とから構成されている。
【0049】
チェーン本体110は、図1および図2に示すように、ローラ111を外嵌した前後一対のブシュ112の両端部を左右一対の内プレート113のブシュ圧入孔に圧入嵌合してなる内リンク114と、ブシュ112内にそれぞれ貫通する前後一対の連結ピン115の両端部を左右一対の外プレート116のピン圧入孔に圧入嵌合してなる外リンク117とが、チェーン長手方向に交互に連結されることで構成されている。
【0050】
また、継手リンクユニット120は、図1乃至図3に示すように、チェーン本体110の両端に位置するブシュ112内にそれぞれ貫通する前後一対の継手ピン121と、継手ピン121の基端部を前後一対の継手ピン圧入孔に圧入嵌合する圧入プレート122と、継手ピン121の先端部を前後一対の継手ピン孔に遊嵌する遊嵌プレート123と、遊嵌プレート123の外側面から突出した継手ピン121の先端部に形成されたクリップ嵌着用溝部121dに嵌着されて継手ピン121の先端部を遊嵌プレート123の外側面に位置決めして締結する継手用締結手段124としてのクリップとから構成されている。
なお、前述した遊嵌プレート123は、一般に継手プレートと称されている。
【0051】
そして、チェーン本体110のブシュ112の内周面とチェーン本体110の連結ピン115の外周面との間、および、チェーン本体110のブシュ112の内周面と継手リンクユニット120の継手ピン121の外周面との間には、潤滑油が封入されている。
【0052】
なお、前述した継手ピン121を遊嵌プレート123に締結する継手用締結手段124として、図4に示すように、継手ピン121の先端部に形成された貫通孔に貫通させる割りピンを採用しても良く、また、継手ピン121の先端部に形成された貫通孔に貫通させるスプリングピンを採用しても良い。
【0053】
そこで、本実施例の継手リンクユニット付き無給油チェーン100が最も特徴とするチェーン本体110のブシュ112および外プレート116、継手リンクユニット120の圧入プレート122および遊嵌プレート123、弾性シール部材130の具体的な形態について図1乃至図5により詳しく説明する。
【0054】
まず、図1および図2に示すように、チェーン本体110の外プレート116は、内側面を凹陥させて、すなわち、凹ませて陥らせてオフセット状態で外側面に膨出させたブシュ軸支用環状凹部116aを備えており、このブシュ軸支用環状凹部116aが、チェーン本体110の内プレート113の外側面から一部突出したブシュ突出端部112aを囲繞支持している。
【0055】
また、図1乃至図3に示すように、継手リンクユニット120の圧入プレート122および遊嵌プレート123は、内側面を凹陥させてオフセット状態で外側面に膨出させたブシュ軸支用環状凹部122a、123aをそれぞれ備えており、このブシュ軸支用環状凹部122a、123aが、前述したチェーン本体110の両端に位置する内プレート113の外側面から一部突出したブシュ突出端部112aを囲繞支持している。
【0056】
なお、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーン100で言うところの「オフセット状態」とは、ブシュ軸支用環状凹部116a、122a、123aとそれ以外のプレート部分とがずれて段差状を呈している状態を意味している。
【0057】
また、図2および図3に示すように、ピン孔を中心に有した扁平状の弾性シール部材130が、継手ピン121の外周面に密に嵌合された状態で遊嵌プレート123と継手用締結手段124との間に介在しており、すなわち、遊嵌プレート123の外側面側において継手ピン121の外周面にそのピン孔内周縁部を密着させた状態で嵌合されており、遊嵌プレート123の継手ピン孔の内周面と継手ピン121の外周面との間からの潤滑油の外部漏出を阻止するようになっている。
なお、この弾性シール部材130の具体的な態様は、前述したようなピン孔を中心に有した扁平状のものに限られるものではなく、例えば、Oリングなどを採用しても良い。
【0058】
また、継手リンクユニット120の遊嵌プレート123は、圧印加工により形成された環状圧印部123bを継手ピン孔の周囲に有しており、チェーン引張力が継手ピン121を介して遊嵌プレート123に作用した際に疲労破壊を生じがちな継手ピン孔の周囲の疲労強さを向上するようになっている。
なお、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーン100で言うところの「圧印加工」とは、材料を部分的に圧縮することで圧縮部分の強度を向上させる加工を意味している。
【0059】
このようにして得られた本実施例の継手リンクユニット付き無給油チェーン100は、継手リンクユニット120の圧入プレート122および遊嵌プレート123が内側面を凹陥させてオフセット状態で外側面に膨出させたブシュ軸支用環状凹部122a、123aを備えているとともに、このブシュ軸支用環状凹部122a、123aがチェーン本体110の両端に位置する内プレート113の外側面から一部突出したブシュ突出端部112aを囲繞支持している。
したがって、このようなブシュ突出端部112aとブシュ軸支用環状凹部122a、123aとの間に生じた潤滑油の漏出径路が複雑に屈曲して油溜り機能を発揮する油溜り用ラビリンス構造L1となって、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力などに起因してブシュ112と継手ピン121との間に封入された潤滑油が内プレート113の外側面と圧入プレート122および遊嵌プレート123の内側面との間から外部漏出することを抑制するとともに外部塵埃の侵入を抑制するので、チェーン本体110のブシュ112の内周面と継手リンクユニット120の継手ピン121の外周面との間で生じがちな摩耗損傷を低減してチェーン摩耗伸びを長期に亘って防止できる。
【0060】
また、ブシュ軸支用環状凹部122a、123aが、継手リンクユニット120の圧入プレート122および遊嵌プレート123の内側面を凹陥させて外側面に膨出させたオフセット状態で形成されている。
したがって、ブシュ軸支用環状凹部122a、123aの断面係数とそれ以外のプレート部分の断面係数とが同程度となるので、ブシュ軸支用環状凹部122a、123aを形成することによる圧入プレート122および遊嵌プレート123の強度低下を抑制でき、また、圧入プレート122および遊嵌プレート123のプレス打ち抜き加工を行う際に、圧入プレート122および遊嵌プレート123の内側面を凹陥させて外側面へ膨出させる形状の金型を用いるだけで、圧入プレート122および遊嵌プレート123の打ち抜き加工とブシュ軸支用環状凹部122a、123aの形成加工とを同時に行うことができるので、圧入プレート122および遊嵌プレート123の打ち抜き加工とは別途にブシュ軸支用環状凹部122a、123aを形成する研削やミーリングなどの機械加工を圧入プレート122および遊嵌プレート123に施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0061】
そして、弾性シール部材130が、継手ピン121の外周面に密に嵌合された状態で遊嵌プレート123と継手用締結手段124との間に介在している。
したがって、ブシュ112と継手ピン121との間に注入された潤滑油が継手ピン121の外周面に沿って継手ピン121の先端部側に漏出することを防止するとともに外部塵埃が継手ピン121の外周面に沿ってブシュ112と継手ピン121との間に侵入することを回避するので、チェーン本体110のブシュ112の内周面と継手リンクユニット120の継手ピン121の外周面との間で生じがちな摩耗損傷を低減してチェーンの摩耗伸びを長期に亘って防止できる。
【0062】
また、弾性シール部材130を遊嵌プレート123と継手用締結手段124との間、すなわち、遊嵌プレート123の外側面側に配置したことにより、チェーン本体110の内リンク114と継手リンクユニット120との相対的な屈曲運動に影響を受けがちな遊嵌プレート123の内側面側に弾性シール部材130を配置した場合とは異なり、チェーン稼動時における他チェーン部材と弾性シール部材130との過度な摺動接触を回避できるので、弾性シール部材130の摩耗損傷を防止して弾性シール部材130の摩耗損傷に起因した密封効果の低下を回避できる。
【0063】
また、遊嵌プレート123の外側面側において継手ピン121に対して密に嵌合された弾性シール部材130が遊嵌プレート123のチェーン幅方向外側への揺動または片寄りを規制するので、遊嵌プレート123に形成されたブシュ軸支用環状凹部123aとこのブシュ軸支用環状凹部123aに囲繞支持されたブシュ突出端部112aとの相対的な位置関係を所定の範囲内に抑制保持して、これらブシュ突出端部112aとブシュ軸支用環状凹部123aとで構成される油溜り用ラビリンス構造L1による油溜り機能を確実に発揮できる。
【0064】
また、弾性シール部材130が弾性体からなることにより、チェーン組み付け時に弾性シール部材130が継手ピン121に対して柔軟に弾性変形するので、過分な作業負担を要することなく継手ピン121に対する組み付け作業を容易に達成できる。
【0065】
また、従来のシールチェーンでは、シールリングの摺接摩耗を防止して潤滑油の密封性を維持するために、外プレートおよび継手プレートの内側面と内プレートの外側面に表面粗さを小さくする表面仕上げ加工を施す必要があったが、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーン100では、従来のような表面仕上げ加工を施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0066】
また、内プレート113の外側面と圧入プレート122および遊嵌プレート123の内側面との間には、従来のシールチェーンのようにシールリングを押圧状態で配設していないので、チェーン稼動時に円滑に屈曲して周回走行できる。
【0067】
また、チェーン本体110の外プレート116が内側面を凹陥させてオフセット状態で外側面に膨出させたブシュ軸支用環状凹部116aを備えているとともに、ブシュ軸支用環状凹部116aがチェーン本体110の内プレート113の外側面から一部突出したブシュ突出端部112aを囲繞支持している。
したがって、このようなブシュ突出端部112aとブシュ軸支用環状凹部116aとの間に生じた潤滑油の漏出径路が複雑に屈曲して油溜り機能を発揮する油溜り用ラビリンス構造L3となって、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力などに起因してブシュ112と連結ピン115との間に封入された潤滑油が内プレート113の外側面と外プレート116の内側面との間から外部漏出することを抑制するとともに外部塵埃の侵入を抑制するので、チェーン本体110のブシュ112の内周面とチェーン本体110の連結ピン115の外周面との間で生じがちな摩耗損傷を低減してチェーンの摩耗伸びを長期に亘って防止できる。
【0068】
また、ブシュ軸支用環状凹部116aが、チェーン本体110の外プレート116の内側面を凹陥させて外側面に膨出させたオフセット状態で形成されている。
したがって、ブシュ軸支用環状凹部116aの断面係数とそれ以外のプレート部分の断面係数とが同程度となるので、ブシュ軸支用環状凹部116aを形成することによる外プレート116の強度低下を抑制でき、また、外プレート116のプレス打ち抜き加工を行う際に、外プレート116の内側面を凹陥させて外側面へ膨出させる形状の金型を用いるだけで、外プレート116の打ち抜き加工とブシュ軸支用環状凹部116aの形成加工とを同時に行うことができるので、外プレート116の打ち抜き加工とは別途にブシュ軸支用環状凹部116aを形成する研削やミーリングなどの機械加工を外プレート116に施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0069】
また、チェーン本体110の外プレート116の内側面と内プレート113の外側面との間には、従来のシールチェーンのような押圧状態で配置されたシールリングを別部品として設けていないので、チェーン稼動時に円滑に屈曲して周回走行するとともにチェーン部品点数の増加を回避できる。
【0070】
また、従来のシールチェーンでは、シールリングの摺接摩耗を防止して潤滑油の密封性を維持するために、シールリングと摺接する部材の表面に表面粗さを小さくする表面仕上げ加工を施す必要があったが、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーン100では、従来のような表面仕上げ加工を施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0071】
そして、遊嵌プレート123が、圧印加工により形成された環状圧印部123bを継手ピン孔の周囲に有している。
したがって、チェーン引張力が継手ピン121を介して遊嵌プレート123に作用した際に疲労破壊を生じがちな継手ピン孔の周囲の疲労強さを向上できるので、長期にわたってチェーン寿命を維持できるなど、その効果は甚大である。
【0072】
次に、本発明の第1実施例である継手リンクユニット付き無給油チェーン100の変形例を図5に示す。
ここで、第1実施例の変形例である継手リンクユニット付き無給油チェーン100における継手ピン121以外の構成は前述した第1実施例である継手リンクユニット付き無給油チェーン100と全く同じであるため、継手ピン121以外の構成についてはその説明を省略する。
【0073】
そこで、第1実施例の変形例である継手リンクユニット付き無給油チェーン100が最も特徴とする継手ピン121について説明する。
すなわち、図5に示すように、継手ピン121の外周面には、先端部側を縮径してなる継手ピン121の基端部よりも小径なプレート遊嵌用小径部121aが形成されており、このプレート遊嵌用小径部121aに遊嵌プレート123が遊びを有した状態で外嵌されている。
【0074】
そして、遊嵌プレート123は、図5に示すように、継手ピン121に対して密に嵌合された弾性シール部材130を用いて、継手ピン121の基端部とプレート遊嵌用小径部121aとの間に形成された段差部分121cに遊嵌プレート123の継手ピン孔内周縁部を接触させた状態でチェーン幅方向に固定されており、遊嵌プレート123の継手ピン孔の内周面と継手ピン121の外周面との間を完全に密封している。
【0075】
なお、本変形例では、図5に示すように、継手ピン121の基端部とプレート遊嵌用小径部121aとの間に形成された段差部分121cに遊嵌プレート123の継手ピン孔内周縁部を接触させているが、この継手ピン121の基端部とプレート遊嵌用小径部121aとの間に形成された段差部分121cと遊嵌プレート123の継手ピン孔内周縁部との間に隙間を設けても良く、すなわち、遊嵌プレート123をチェーン幅方向に完全に固定することなく配置しても良く、この場合には、このような継手ピン121と遊嵌プレート123との間に生じた潤滑油の漏出径路が複雑に屈曲して油溜り用ラビリンス構造L2を呈するので、遊嵌プレート123の継手ピン孔の内周面と継手ピン121の外周面との間からの潤滑油の外部漏出および外部塵埃の侵入を確実に防止できるようになっている。
【0076】
このようにして得られた第1実施例の変形例である継手リンクユニット付き無給油チェーン100は、遊嵌プレート123が、継手ピン121の先端部に形成されたプレート遊嵌用小径部121aに遊嵌されている。
したがって、前述したように弾性シール部材130を遊嵌プレート123の外側面側において継手ピン121に密に嵌合して遊嵌プレート123のチェーン幅方向外側へ揺動または片寄りを規制したことに加えて、継手ピン121の基端部とプレート遊嵌用小径部121aとの間に形成された段差部分121cに遊嵌プレート123の継手ピン孔内周縁部を当接させて遊嵌プレート123のチェーン幅方向内側への揺動または片寄りを規制できるので、チェーン幅方向外側およびチェーン幅方向内側、すなわち、チェーン幅方向両側への遊嵌プレート123の揺動または片寄りを規制して、遊嵌プレート123のブシュ軸支用環状凹部123aとこのブシュ軸支用環状凹部123aに囲繞支持されたブシュ突出端部112aとの相対的な位置関係をさらに確実に保持できるとともに、前述したように継手ピン121に圧嵌された弾性シール部材130を用いて継手ピン121の基端部とプレート遊嵌用小径部121aとの間に形成された段差部分121cに遊嵌プレート123の継手ピン孔内周縁部を接触させた状態で遊嵌プレート123をチェーン幅方向に固定することで、遊嵌プレート123の継手ピン孔の内周面と継手ピン121の外周面との間を完全に密封できるなど、その効果は甚大である。
【0077】
つぎに、本発明の第2実施例である継手リンクユニット付き無給油チェーン200について、図6に基づいて以下に説明する。
ここで、本発明の第2実施例である継手リンクユニット付き無給油チェーン200における弾性シール部材230以外の構成は、前述した第1実施例の継手リンクユニット付き無給油チェーン100と全く同じであるため、第1実施例の継手リンクユニット付き無給油チェーン100に関する明細書、および、図1乃至図5に示す100番台の符号を200番台の符号に読み替えることによって、弾性シール部材230以外の構成についてはその説明を省略する。
【0078】
そこで、本実施例の継手リンクユニット付き無給油チェーン200が最も特徴とする弾性シール部材230の具体的な形態について詳しく説明する。
すなわち、図6に示すように、ピン孔を中心に有した扁平状の弾性シール部材230が、継手ピン221の外周面に対して密着させた状態で遊嵌プレート223の最外側面、すなわち、遊嵌プレート223の外側面側に膨出形成されたブシュ軸支用環状凹部223aの座面に固着されており、遊嵌プレート223の継手ピン孔の内周面と継手ピン221の外周面との間からの潤滑油の外部漏出を阻止するようになっている。
【0079】
このようにして得られた本実施例の継手リンクユニット付き無給油チェーン200は、弾性シール部材230が、継手ピン221の外周面に対して密着した状態で遊嵌プレート223の最外側面に固着されている。
したがって、継手ピン221の外周面に密着した弾性シール部材230のピン孔内周縁部が遊嵌プレート223の継手ピン孔の内周面と継手ピン221の外周面との間を密封して潤滑油の外部漏出を阻止するとともに外部塵埃の侵入を阻止するので、チェーン摩耗伸びを長期に亘って防止できる。
【0080】
また、弾性シール部材230を遊嵌プレート223と継手用締結手段224との間、すなわち、遊嵌プレート223の外側面側に配置したことにより、チェーン本体210の内リンク214と継手リンクユニット220との相対的な屈曲運動に影響を受けがちな遊嵌プレート223の内側面側に弾性シール部材230を配置した場合とは異なり、チェーン稼動時における他チェーン部材と弾性シール部材230との過度な摺動接触を回避できるので、弾性シール部材230の摩耗損傷を防止して弾性シール部材230の摩耗損傷に起因した密封効果の低下を回避できる。
【0081】
また、弾性シール部材230が弾性体からなることにより、チェーン組み付け時に弾性シール部材230が継手ピン221に対して柔軟に弾性変形するので、過分な作業負担を要することなく継手ピン221に対する組み付け作業を容易に達成できる。
【0082】
また、弾性シール部材230を遊嵌プレート223に固着していることにより、このような弾性シール部材230と遊嵌プレート223とを一体に取り扱うことができるので、チェーン切り継ぎ等の分解組み付け作業を容易に達成できる。
【0083】
また、前述したように遊嵌プレート223に一体化された弾性シール部材230を継手ピン221に対して密に嵌合することで、遊嵌プレート223をチェーン幅方向に位置決めして遊嵌プレート223がチェーン幅方向に揺動または片寄ることを防止するので、遊嵌プレート223に形成されたブシュ軸支用環状凹部223aとこのブシュ軸支用環状凹部223aに囲繞支持されたブシュ突出端部212aとの相対的な位置関係を所定の範囲内に抑制保持して、これらブシュ突出端部212aとブシュ軸支用環状凹部223aとで構成される油溜り用ラビリンス構造L1による油溜り機能を確実に発揮できるなど、その効果は甚大である。
【0084】
つぎに、本発明の第3実施例である継手リンクユニット付き無給油チェーン300について、図7に基づいて以下に説明する。
ここで、本発明の第3実施例である継手リンクユニット付き無給油チェーン300における弾性シール部材330以外の構成は、前述した第1実施例の継手リンクユニット付き無給油チェーン100と全く同じであるため、第1実施例の継手リンクユニット付き無給油チェーン100に関する明細書、および、図1乃至図5に示す100番台の符号を300番台の符号に読み替えることによって、弾性シール部材330以外の構成についてはその説明を省略する。
【0085】
そこで、本実施例の継手リンクユニット付き無給油チェーン300が最も特徴とする弾性シール部材330の具体的な形態について詳しく説明する。
すなわち、図7に示すように、ピン孔を中心に有した扁平状の弾性シール部材330が、この弾性シール部材330のピン孔内周縁部を継手ピン321の外周面に形成されたシール部材嵌着用溝部321bに嵌合させた状態で遊嵌プレート323の最外側面、すなわち、遊嵌プレート323の外側面側に膨出形成されたブシュ軸支用環状凹部323aの座面に固着されており、遊嵌プレート323の継手ピン孔の内周面と継手ピン321の外周面との間からの潤滑油の外部漏出を阻止するようになっている。
【0086】
なお、継手ピン321に形成されたシール部材嵌着用溝部321bおよび弾性シール部材330のピン孔内周縁部の具体的な形状については、図7に示すような断面矩形状の溝および内周縁部で形成されているが、図8に示すような断面半球形状の溝および内周縁部で形成しても良く、この場合には、弾性シール部材330と一体化させた遊嵌プレート323を継手ピン321に対して組み付ける際に、断面半球形状で形成された弾性シール部材330のピン孔内周縁部がシール部材嵌着用溝部321bやクリップ嵌着用溝部321dに対して引っ掛かることを回避して柔軟に弾性変形するので、シール部材嵌着用溝部321bに対する組み付け作業をより円滑に達成できるようになっている。
【0087】
このようにして得られた本実施例の継手リンクユニット付き無給油チェーン300は、弾性シール部材330が、この弾性シール部材330のピン孔内周縁部を継手ピン321の外周面に形成されたシール部材嵌着用溝部321bに嵌合させた状態で遊嵌プレート323の最外側面に固着されている。
したがって、弾性シール部材330のピン孔内周縁部が遊嵌プレート323の継手ピン孔の内周面と継手ピン321の外周面との間を密封して潤滑油の外部漏出を阻止するとともに外部塵埃の侵入を阻止するので、チェーン摩耗伸びを長期に亘って防止でき、また、弾性シール部材330のピン孔内周縁部がシール部材嵌着用溝部321bに嵌合していることにより、シール部材嵌着用溝部321bと弾性シール部材330のピン孔内周縁部との間の接触面積が増大して弾性シール部材330による密封効果が向上するので、潤滑油の外部漏出および外部塵埃の侵入をより確実に防止できる。
【0088】
また、弾性シール部材330を遊嵌プレート323と継手用締結手段324との間、すなわち、遊嵌プレート323の外側面側に配置したことにより、チェーン本体310の内リンク314と継手リンクユニット320との相対的な屈曲運動に影響を受けがちな遊嵌プレート323の内側面側に弾性シール部材330を配置した場合とは異なり、チェーン稼動時における他チェーン部材と弾性シール部材330との過度な摺動接触を回避できるので、弾性シール部材330の摩耗損傷を防止して弾性シール部材330の摩耗損傷に起因した密封効果の低下を回避できる。
【0089】
また、弾性シール部材330が弾性体からなることにより、チェーン組み付け時に弾性シール部材330が継手ピン321に対して柔軟に弾性変形するので、過分な作業負担を要することなく継手ピン321に形成されたシール部材嵌着用溝部321bに対する組み付け作業を容易に達成できる。
【0090】
また、弾性シール部材330を遊嵌プレート323に固着していることにより、このような弾性シール部材330と遊嵌プレート323とを一体に取り扱うことができるので、チェーン切り継ぎ等の分解組み付け作業を容易に達成できる。
【0091】
また、弾性シール部材330の摩耗等に起因してシール部材嵌着用溝部321bと弾性シール部材330のピン孔内周縁部との間に隙間が生じた場合にも、このようなシール部材嵌着用溝部321bと弾性シール部材330のピン孔内周縁部との間に生じた隙間が複雑に屈曲した油溜り用ラビリンス構造L2を呈するので、このような油溜り用ラビリンス構造L2が油溜り機能を発揮して潤滑油の外部漏出および外部塵埃の侵入を防止できる。
【0092】
また、遊嵌プレート323に固着した弾性シール部材330を継手ピン321の外周面に形成されたシール部材嵌着用溝部321bに嵌合させることで、遊嵌プレート323をチェーン幅方向に確実に位置決めして遊嵌プレート323がチェーン幅方向に揺動または片寄ることを防止するので、遊嵌プレート323に形成されたブシュ軸支用環状凹部323aとこのブシュ軸支用環状凹部323aに囲繞支持されたブシュ突出端部312aとの相対的な位置関係を所定の範囲内に抑制保持して、これらブシュ突出端部312aとブシュ軸支用環状凹部323aとで構成される油溜り用ラビリンス構造L1が油溜り機能を確実に発揮できるなど、その効果は甚大である。
【0093】
つぎに、本発明の第4実施例である継手リンクユニット付き無給油チェーン400について、図9乃至図11に基づいて以下に説明する。
ここで、本発明の第4実施例である継手リンクユニット付き無給油チェーン400における弾性シール部材430と継手用締結手段424と継手ピン421以外の構成は、前述した第1実施例の継手リンクユニット付き無給油チェーン100と全く同じであるため、第1実施例の継手リンクユニット付き無給油チェーン100に関する明細書、および、図1乃至図5に示す100番台の符号を400番台の符号に読み替えることによって、弾性シール部材430と継手用締結手段424と継手ピン421以外の構成についてはその説明を省略する。
【0094】
そこで、本実施例の継手リンクユニット付き無給油チェーン400が最も特徴とする弾性シール部材430と継手用締結手段424と継手ピン421の具体的な形態について詳しく説明する。
すなわち、図9に示すように、ピン孔を中心に有した扁平状の弾性シール部材430が、この弾性シール部材430のピン孔内周縁部を継手ピン421の外周面に形成されたシール部材嵌着用溝部421bに嵌合させた状態で遊嵌プレート423の最外側面、すなわち、遊嵌プレート423の外側面側に膨出形成されたブシュ軸支用環状凹部423aの座面に固着されており、遊嵌プレート423の継手ピン孔の内周面と継手ピン421の外周面との間からの潤滑油の外部漏出を阻止するようになっている。
【0095】
なお、継手ピン421に形成されたシール部材嵌着用溝部421bおよび弾性シール部材430のピン孔内周縁部の具体的な形状については、図9に示すような断面矩形状の溝および内周縁部で形成されているが、断面半球形状の溝および内周縁部で形成しても良く、この場合には、弾性シール部材430と一体化させた遊嵌プレート423を継手ピン421に対して組み付ける際に、断面半球形状で形成された弾性シール部材430のピン孔内周縁部がシール部材嵌着用溝部421bやクリップ嵌着用溝部421dに対して引っ掛かることを回避して柔軟に弾性変形するので、シール部材嵌着用溝部421bに対する組み付け作業をより円滑に達成できるようになっている。
【0096】
また、継手用締結手段424は、図9乃至図11に示すように、継手ピン421の先端部に形成したクリップ嵌着用溝部421dに嵌着されるクリップ本体部424aと、このクリップ本体部424aの外縁から遊嵌プレート423の外側面に向けて立脚するリップ部424bとを有しており、クリップ本体部424aをクリップ嵌着用溝部421dに嵌着することで遊嵌プレート423の外側面から突出した継手ピン421の先端部を遊嵌プレート423の外側面にクリップ形式で容易かつ確実に位置決めできるとともに、リップ部424bによって弾性シール部材430を覆うことで弾性シール部材430の損傷を防止して弾性シール部材430の損傷に起因して生じがちな密封効果の低下を回避できるようになっている。
【0097】
また、継手ピン421の外周面には、図9に示すように、先端部側を縮径してなる継手ピン421の基端部よりも小径なプレート遊嵌用小径部421aが形成されており、このプレート遊嵌用小径部421aに遊嵌プレート423が遊びを有した状態で外嵌されている。
【0098】
そして、遊嵌プレート423は、図9に示すように、前述した継手用締結手段424のリップ部424bを遊嵌プレート423の外側面に当接させることで、継手ピン421の基端部とプレート遊嵌用小径部421aとの間に形成された段差部分421cに遊嵌プレート423の継手ピン孔内周縁部を接触させた状態でチェーン幅方向に固定されており、遊嵌プレート423の継手ピン孔の内周面と継手ピン421の外周面との間を完全に密封している。
【0099】
なお、本実施例では、図9に示すように、継手ピン421の基端部とプレート遊嵌用小径部421aとの間に形成された段差部分421cに遊嵌プレート423の継手ピン孔内周縁部を接触させているが、この継手ピン421の基端部とプレート遊嵌用小径部421aとの間に形成された段差部分421cと遊嵌プレート423の継手ピン孔内周縁部との間に隙間を設けても良く、すなわち、遊嵌プレート423をチェーン幅方向に完全に固定することなく配置しても良く、この場合には、このような継手ピン421と遊嵌プレート423との間に生じた潤滑油の漏出径路が複雑に屈曲して油溜り用ラビリンス構造L2を呈するので、遊嵌プレート423の継手ピン孔の内周面と継手ピン421の外周面との間からの潤滑油の外部漏出および外部塵埃の侵入をより確実に防止できるようになっている。
【0100】
このようにして得られた本実施例の継手リンクユニット付き無給油チェーン400は、弾性シール部材430が、この弾性シール部材430のピン孔内周縁部を継手ピン421の外周面に形成されたシール部材嵌着用溝部421bに嵌合させた状態で遊嵌プレート423の最外側面に固着されている。
したがって、弾性シール部材430のピン孔内周縁部が遊嵌プレート423の継手ピン孔の内周面と継手ピン421の外周面との間を密封して潤滑油の外部漏出を阻止するとともに外部塵埃の侵入を阻止するので、チェーン摩耗伸びを長期に亘って防止でき、また、弾性シール部材430のピン孔内周縁部がシール部材嵌着用溝部421bに嵌合していることにより、シール部材嵌着用溝部421bと弾性シール部材430のピン孔内周縁部との間の接触面積が増大して弾性シール部材430による密封効果が向上するので、潤滑油の外部漏出および外部塵埃の侵入をより確実に防止できる。
【0101】
また、弾性シール部材430を遊嵌プレート423と継手用締結手段424との間、すなわち、遊嵌プレート423の外側面側に配置したことにより、チェーン本体410の内リンク414と継手リンクユニット420との相対的な屈曲運動に影響を受けがちな遊嵌プレート423の内側面側に弾性シール部材430を配置した場合とは異なり、チェーン稼動時における他チェーン部材と弾性シール部材430との過度な摺動接触を回避できるので、弾性シール部材430の摩耗損傷を防止して弾性シール部材430の摩耗損傷に起因した密封効果の低下を回避できる。
【0102】
また、弾性シール部材430が弾性体からなることにより、チェーン組み付け時に弾性シール部材430が継手ピン421に対して柔軟に弾性変形するので、過分な作業負担を要することなく継手ピン421に対する組み付け作業を容易に達成できる。
【0103】
また、弾性シール部材430を遊嵌プレート423に固着していることにより、このような弾性シール部材430と遊嵌プレート423とを一体に取り扱うことができるので、チェーン切り継ぎ等の分解組み付け作業を容易に達成できる。
【0104】
また、弾性シール部材430の摩耗等に起因してシール部材嵌着用溝部421bと弾性シール部材430のピン孔内周縁部との間に隙間が生じた場合にも、このようなシール部材嵌着用溝部421bと弾性シール部材430のピン孔内周縁部との間に生じた隙間が複雑に屈曲した油溜り用ラビリンス構造L2を呈するので、このような油溜り用ラビリンス構造L2が油溜り機能を発揮して潤滑油の外部漏出および外部塵埃の侵入を防止できる。
【0105】
また、継手用締結手段424がクリップ本体部424aから遊嵌プレート423の外側面に向けて立脚するリップ部424bを有しているとともに、遊嵌プレート423が継手ピン421の先端部に形成されたプレート遊嵌用小径部421aに遊嵌されている。
したがって、継手用締結手段424のリップ部424bを遊嵌プレート423の外側面に当接させて遊嵌プレート423のチェーン幅方向外側へ揺動または片寄りを規制することに加えて、継手ピン421の基端部とプレート遊嵌用小径部421aとの間に形成された段差部分421cに遊嵌プレート423の継手ピン孔内周縁部を当接させて遊嵌プレート423のチェーン幅方向内側への揺動または片寄りを規制できるので、チェーン幅方向外側およびチェーン幅方向内側、すなわち、チェーン幅方向両側への遊嵌プレート423の揺動または片寄りを規制して、遊嵌プレート423のブシュ軸支用環状凹部423aとこのブシュ軸支用環状凹部423aに囲繞支持されたブシュ突出端部412aとの相対的な位置関係をさらに確実に保持できるとともに、継手ピン421の基端部とプレート遊嵌用小径部421aとの間に形成された段差部分421cに遊嵌プレート423の継手ピン孔内周縁部を接触させた状態で遊嵌プレート423をチェーン幅方向に固定することで、遊嵌プレート423の継手ピン孔の内周面と継手ピン421の外周面との間を完全に密封できる。
【0106】
そして、前述したようにチェーン幅方向両側への遊嵌プレート423の揺動または片寄りを規制することで、遊嵌プレート423がチェーン幅方向に揺動または片寄りを生じて弾性シール部材430がシール部材嵌着用溝部421bから外れることや弾性シール部材430に対して剪断力が及ぼされることを回避して、弾性シール部材430による密封効果を安定して発揮できるなど、その効果は甚大である。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の第1実施例である継手リンクユニット付き無給油チェーンの全体概要図。
【図2】図1に示す継手リンクユニット付き無給油チェーンの分解組み付け図。
【図3】図1に示す継手リンクユニット付き無給油チェーンの断面図。
【図4】継手用締結手段の変形例を示す斜視図。
【図5】第1実施例の変形例を示す断面図。
【図6】本発明の第2実施例である継手リンクユニット付き無給油チェーンの断面図。
【図7】本発明の第3実施例である継手リンクユニット付き無給油チェーンの断面図。
【図8】第3実施例の変形例を示す断面図。
【図9】本発明の第4実施例である継手リンクユニット付き無給油チェーンを示す一部断面図。
【図10】継手用締結手段を示す斜視図。
【図11】継手用締結手段を装着した状態を示す平面図。
【符号の説明】
【0108】
100、200、300、400 ・・・ 継手リンクユニット付き無給油チェーン
110、210、310、410 ・・・ チェーン本体
111、211、311、411 ・・・ ローラ
112、212、312、412 ・・・ ブシュ
112a、212a、312a、412a ・・・ ブシュ突出端部
113、213、313、413 ・・・ 内プレート
114、214、314、414 ・・・ 内リンク
115、215、315、415 ・・・ 連結ピン
116、216、316、416 ・・・ 外プレート
116a、216a、316a、416a ・・・ ブシュ軸支用環状凹部
117、217、317、417 ・・・ 外リンク
120、220、320、420 ・・・ 継手リンクユニット
121、221、321、421 ・・・ 継手ピン
121a、421a ・・・ プレート遊嵌用小径部
321b、421b ・・・ シール部材嵌着用溝部
121c、421c ・・・ 段差部分
121d、221d、321d、421d ・・・ クリップ嵌着用溝部
122、222、322、422 ・・・ 圧入プレート
122a、222a、322a、422a ・・・ ブシュ軸支用環状凹部
123、223、323、423 ・・・ 遊嵌プレート
123a、223a、323a、423a ・・・ ブシュ軸支用環状凹部
123b、223b、323b、423b ・・・ 環状圧印部
124、224、324、424 ・・・ 継手用締結手段
424a ・・・ クリップ本体部
424b ・・・ リップ部
130、230、330、430 ・・・ 弾性シール部材
L1、L2、L3 ・・・ 油溜り用ラビリンス構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合してなる内リンクと前記ブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の連結ピンの両端部を左右一対の外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結されたチェーン本体と、該チェーン本体の両端に位置するブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の継手ピンと該継手ピンの基端部を前後一対の継手ピン圧入孔に圧入嵌合する圧入プレートと前記継手ピンの先端部を前後一対の継手ピン孔に遊嵌する遊嵌プレートと該遊嵌プレートの外側面から突出した継手ピンの先端部を遊嵌プレートの外側面に位置決めして締結する継手用締結手段とで構成されて前記チェーン本体の両端を相互に連結する継手リンクユニットとからなり、前記ブシュの内周面と継手ピンおよび連結ピンの外周面との間に潤滑油を封入してなる継手リンクユニット付き無給油チェーンにおいて、
前記チェーン本体の両端に位置する内プレートの外側面から一部突出したブシュ突出端部が、前記継手リンクユニットの圧入プレートおよび遊嵌プレートの内側面を凹陥させてオフセット状態で外側面に膨出させたブシュ軸支用環状凹部によりそれぞれ囲繞支持されているとともに、
前記遊嵌プレートの継手ピン孔の内周面と継手ピンの外周面との間からの潤滑油の外部漏出を阻止する弾性シール部材が、前記遊嵌プレートと継手用締結手段との間に介在した状態で継手ピンの外周面に対して密に嵌合されていることを特徴とする継手リンクユニット付き無給油チェーン。
【請求項2】
前記弾性シール部材が、前記遊嵌プレートの最外側面に固着されていることを特徴とする請求項1記載の継手リンクユニット付き無給油チェーン。
【請求項3】
前記弾性シール部材のピン孔内周縁部が、前記継手ピンの外周面に形成されたシール部材嵌着用溝部に嵌合していることを特徴とする請求項1または請求項2記載の継手リンクユニット付き無給油チェーン。
【請求項4】
前記継手用締結手段が、前記継手ピンの先端部に形成したクリップ嵌着用溝部に嵌着されるクリップ本体部と該クリップ本体部から遊嵌プレートの外側面に向けて立脚するリップ部とを有していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の継手リンクユニット付き無給油チェーン。
【請求項5】
前記遊嵌プレートが、前記継手ピンの先端部側を縮径してなるプレート遊嵌用小径部に遊嵌されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の継手リンクユニット付き無給油チェーン。
【請求項6】
前記遊嵌プレートが、圧印加工により形成された環状圧印部を継手ピン孔の周囲に有していることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の継手リンクユニット付き無給油チェーン。
【請求項7】
前記チェーン本体の内プレートの外側面から一部突出したブシュ突出端部が、前記チェーン本体の外プレートの内側面を凹陥させてオフセット状態で外側面に膨出させたブシュ軸支用環状凹部によりそれぞれ囲繞支持されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の継手リンクユニット付き無給油チェーン。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate