綱類通過装置、綱類通過装置を備えた海苔網薬剤処理装置および綱類通過装置を備えた海苔作業船
【課題】簡易かつ安価な構成によって、海苔網に連結された綱類を薬剤処理の際にスムーズかつ安定的に通過させることができる綱類通過装置、綱類通過装置を備えた海苔網薬剤処理装置および綱類通過装置を備えた海苔作業船を提供すること。
【解決手段】薬剤処理の際に、海苔網5に連結された海苔網展張用の綱類21a,21bを、船体に固定された一対の綱類通過部材19,20のそれぞれの内側端部に摺接させつつ通過させること。
【解決手段】薬剤処理の際に、海苔網5に連結された海苔網展張用の綱類21a,21bを、船体に固定された一対の綱類通過部材19,20のそれぞれの内側端部に摺接させつつ通過させること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、綱類通過装置、綱類通過装置を備えた海苔網薬剤処理装置および綱類通過装置を備えた海苔作業船に係り、特に、海苔の養殖場に展張されている海苔網を海苔作業船上に掬い上げて各種の薬剤処理を施すのに好適な綱類通過装置、綱類通過装置を備えた海苔網薬剤処理装置および綱類通過装置を備えた海苔作業船に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、海苔の養殖は、海苔網に浮子を取付けて海面部分に浮かすようにして展張して錨で止める浮き流し方式や、海中に立設した支柱に海苔網を係留して展張した支柱方式により行なわれている。この両方式の使い分けは、養殖場の立地条件により決定されている。
【0003】
前記支柱方式を採用している海苔の養殖場は、支柱を立てることのできる海岸に近く、水深の浅いところであり、海の干潮時に海苔網が海面から離間して、日中には天日により海苔に付着した雑菌の殺菌効果が大きく、海苔の養殖には望ましい方法である。
【0004】
このような海苔の養殖においては、海苔網および海苔網に繁殖する海苔の表面に、海水の水垢やゴミ等の浮遊物が付着したり、雑菌が繁殖したりするなど、海苔の品質を低下させる要因があった。
【0005】
そこで、従来から、海苔の養殖においては、高品質で健康な海苔を育成し、収穫率を向上させる観点から、海苔の刈り取りから刈り取りの間の期間に、二回から三回程度、海苔網および海苔網に繁殖した海苔に対して、酸処理に代表される各種の薬剤を用いた薬剤処理を施すことが行われていた。このような薬剤処理は、海苔の刈り取り後における海苔網に対しても施されていた。
【0006】
このような薬剤処理に際しては、海苔作業船における甲板が形成された船体上部に薬剤処理槽を設け、この薬剤処理槽内に、各種の薬剤からなる処理液を貯留させた状態において、海面に展張されている海苔網に対して海苔作業船を自走させるとともに、海苔作業船の船首に設けられた案内部材(例えば、特許文献1における符号Eを参照)を用いることによって、海苔網を海苔作業船上に掬い上げるようになっていた。そして、海苔網を海苔作業船上に掬い上げた後にも、さらに海苔作業船の自走を続けることによって、海苔作業船上に掬い上げられた海苔網を薬剤処理槽に導き、この薬剤処理槽に貯留された処理液中に浸漬させることによって薬剤処理を施すようになっていた。そして、薬剤処理を施した後の海苔網は、海苔作業船のさらなる自走によって薬剤処理槽を通過して船尾側に移動し、船尾から海面に戻ることによって再び海面に展張されるようになっていた。
【0007】
このような薬剤処理の際には、海苔網にともなって、海苔網に連結された吊り綱が、海苔作業船上における左右の舷側の近傍を通過することになる。
【0008】
このとき、薬剤処理を適切に行うには、海苔網とともに吊り綱が海苔作業船上をスムーズに通過することが必要となる。そこで、本出願人は、これまでにも、吊り綱等の綱類が海苔作業船上をスムーズに通過するようにすることができる特許文献1に記載の綱類通過装置を提案している。
【0009】
この特許文献1に記載の綱類通過装置によれば、下方部材と、この下方部材上に接離自在にして載置されている上方部材と、上方部材を下方部材に対して一定位置に保持する上方部材保持機構とを有することによって、上方部材と下方部材との間を通過する綱類が、上方部材を持ち上げるようにして船尾側へスムーズに通過することが可能とされていた。
【0010】
【特許文献1】特開平10−150884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
さらに、この種の綱類通過装置には、より簡易かつ安価な構成によって、綱類による海苔作業船上の通過をスムーズかつ安定的に行わせることが求められるようになった。
【0012】
そこで、本発明は、このような点に鑑みなされたものであり、簡易かつ安価な構成によって、海苔網の薬剤処理の際における海苔網に連結された綱類による海苔作業船上の通過をスムーズかつ安定的に行わせることができる綱類通過装置、綱類通過装置を備えた海苔網薬剤処理装置および綱類通過装置を備えた海苔作業船を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するため、本発明の請求項1に係る綱類通過装置は、海苔網に薬剤処理を施すための薬剤処理槽が形成された海苔作業船の上部における左右の両舷側の近傍にそれぞれ固定され、前記薬剤処理の際に、前記海苔網に連結された互いに異なる海苔網展張用の綱類を、船幅方向における内側にそれぞれ摺接させつつ船首側から前記薬剤処理槽を経て船尾側に通過させるように形成された一対の綱類通過部材であって、一方の綱類通過部材における前記網類を摺接させる内側端部と、他方の綱類通過部材における前記綱類を摺接させる内側端部との間の前記船幅方向の間隔が、船首側から薬剤処理槽側に向かうにしたがって狭くなり、かつ、薬剤処理槽側から船尾側に向かうにしたがって広くなるような形状に形成され、さらに、前記海苔網が前記内側端部の下方を通るように形成された一対の綱類通過部材を有することを特徴としている。そして、このような構成によれば、薬剤処理の際に、海苔網に連結された海苔網展張用の綱類を、船体に固定された一対の綱類通過部材のそれぞれの内側端部に摺接させつつ海苔作業船上を通過させることが可能となる。
【0014】
また、請求項2に係る綱類通過装置は、請求項1において、前記一方の綱類通過部材における前記内側端部と前記他方の綱類通過部材における前記内側端部との間の前記船幅方向の間隔のうちの少なくとも前記薬剤処理槽に対応する範囲における間隔が、前記海苔網に装着された伸子棒の幅よりも狭く形成されていることを特徴としている。そして、このような構成によれば、一対の綱類通過部材における両綱類通過部材間の船幅方向の間隔が伸子棒の幅よりも狭く形成された部位を、薬剤処理槽における海苔網に対する上方からの押さえとして機能させることが可能となる。
【0015】
さらに、請求項3に係る綱類通過装置は、請求項1または請求項2において、前記内側端部が、船首側から薬剤処理槽側に向かうにしたがって前記船幅方向における内側に傾く形状に形成された第1の内側端部と、この第1の内側端部に、前記薬剤処理槽における船首側の部位に対応する位置において連なり、船体全長方向に平行な形状に形成された第2の内側端部と、この第2の内側端部に、前記薬剤処理槽における船尾側の部位に対応する位置において連なり、薬剤処理槽側から船尾側に向かうにしたがって前記船幅方向における外側に傾く形状に形成された第3の内側端部とによって形成されていることを特徴としている。そして、このような構成によれば、第1の内側端部によって、船首側から薬剤処理槽に向かう海苔網に連結された綱類の通過を確保し、第2の内側端部によって、薬剤処理中の海苔網に連結され綱類の通過を確保し、第3の内側端部によって、薬剤処理後に船尾側に向かう海苔網に連結された綱類の通過を確保することが可能となる。
【0016】
さらにまた、請求項4に係る海苔網薬剤処理装置は、海苔作業船の上部に形成された薬剤処理槽を有し、この薬剤処理槽に貯留された薬剤の処理液中に、前記海苔作業船上に掬い上げられた海苔網を浸漬させることによって、前記海苔網に薬剤処理を施す海苔網薬剤処理装置において、前記海苔作業船の上部における左右の両舷側の近傍にそれぞれ固定され、前記薬剤処理の際に、前記海苔網に連結された互いに異なる海苔網展張用の綱類を、船幅方向における内側にそれぞれ摺接させつつ船首側から前記薬剤処理槽を経て船尾側に通過させるように形成された一対の綱類通過部材であって、一方の綱類通過部材における前記網類を摺接させる内側端部と、他方の綱類通過部材における前記綱類を摺接させる内側端部との間の前記船幅方向の間隔が、船首側から薬剤処理槽側に向かうにしたがって狭くなり、かつ、薬剤処理槽側から船尾側に向かうにしたがって広くなるような形状に形成され、さらに、前記海苔網が前記内側端部の下方を通るように形成された一対の綱類通過部材を有する綱類通過装置を備えたことを特徴としている。そして、このような構成によれば、薬剤処理の際に、海苔網に連結された海苔網展張用の綱類を、船体に固定された一対の綱類通過部材のそれぞれの内側端部に摺接させつつ海苔作業船上を通過させることが可能となる。
【0017】
また、請求項5に係る海苔網薬剤処理装置は、請求項4において、前記綱類が、海中に立設された支柱に前記海苔網を吊すための吊り綱とされ、かつ、前記綱類通過部材における前記内側端部に摺接しつつ前記海苔網を前記薬剤の処理液中に浸漬させることが可能な長さに形成されていることを特徴としている。そして、このような構成によれば、吊り綱に連結された海苔網の薬剤処理の際に、吊り綱を綱類通過部材における内側端部に摺接させつつ海苔作業船上を通過させながら、海苔網を薬剤の処理液中に確実に浸漬させることが可能となる。
【0018】
さらに、請求項6に係る海苔網薬剤処理装置は、請求項4または請求項5において、前記海苔網における薬剤処理方向の端部が、この端部に臨む側綱と連結手段を介して連結されており、前記薬剤処理の際に、前記側綱が、前記連結手段を介して前記海苔網との連結状態を保持しつつ前記一対の綱類通過部材の上部を通るように形成されていることを特徴としている。そして、このような構成によれば、海苔網を海面における所定の位置に安定的に保持することが可能となる。
【0019】
さらにまた、請求項7に係る海苔作業船は、船体上部に、海苔網に薬剤処理を施すための薬剤処理槽が形成された海苔作業船において、船体上部における左右の両舷側の近傍にそれぞれ固定され、前記薬剤処理の際に、前記海苔網に連結された互いに異なる海苔網展張用の綱類を、船幅方向における内側にそれぞれ摺接させつつ船首側から前記薬剤処理槽を経て船尾側に通過させるように形成された一対の綱類通過部材であって、一方の綱類通過部材における前記網類を摺接させる内側端部と、他方の綱類通過部材における前記綱類を摺接させる内側端部との間の前記船幅方向の間隔が、船首側から薬剤処理槽側に向かうにしたがって狭くなり、かつ、薬剤処理槽側から船尾側に向かうにしたがって広くなるような形状に形成され、さらに、前記海苔網が前記内側端部の下方を通るように形成された一対の綱類通過部材を有する綱類通過装置を備えたことを特徴としている。そして、このような構成によれば、薬剤処理の際に、海苔網に連結された海苔網展張用の綱類を、船体に固定された一対の綱類通過部材のそれぞれの内側端部に摺接させつつ通過させることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の請求項1に係る綱類通過装置によれば、薬剤処理の際に、海苔網に連結された海苔網展張用の綱類を、船体に固定された一対の綱類通過部材のそれぞれの内側端部に摺接させつつ通過させることができるので、海苔網の薬剤処理の際に、海苔網に連結された綱類による海苔作業船上の通過を、簡易かつ安価な構成によってスムーズかつ安定的に行わせることができる。
【0021】
また、請求項2に係る綱類通過装置によれば、一対の綱類通過部材における両部材間の船幅方向の間隔が伸子棒の幅よりも狭く形成された部位を、薬剤処理槽における海苔網に対する上方からの押さえとして機能させることができるので、請求項1に係る綱類通過装置の効果に加えて、さらに、薬剤処理をより安定的に行うことができる。
【0022】
さらに、請求項3に係る綱類通過装置によれば、第1の内側端部によって、船首側から薬剤処理槽に向かう海苔網に連結された綱類の通過を確保し、第2の内側端部によって、薬剤処理中の海苔網に連結され綱類の通過を確保し、第3の内側端部によって、薬剤処理後に船尾側に向かう海苔網に連結された綱類の通過を確保することができるので、請求項1または請求項2に係る綱類通過装置の効果に加えて、さらに、薬剤処理の際に綱類をより適正に通過させることができる。
【0023】
さらにまた、請求項4に係る海苔網薬剤処理装置によれば、簡易かつ安価な構成によって、海苔網に連結された綱類をスムーズかつ安定的に通過させながら薬剤処理を行うことができる。
【0024】
また、請求項5に係る海苔網薬剤処理装置によれば、支柱方式の海苔の養殖場における海苔網の薬剤処理を、簡易な構成によって円滑かつ安定的に行うことができる。
【0025】
さらに、請求項6に係る海苔網薬剤処理装置によれば、海苔網を海面における所定の位置に安定的に保持することができるので、支柱に係留された海苔網を海苔作業船上に適切に掬い上げて薬剤処理を確実に行うことができる。
【0026】
さらにまた、請求項7に係る海苔作業船によれば、薬剤処理の際に、簡易かつ安価な構成によって、海苔網に連結された綱類をスムーズかつ安定的に通過させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図1乃至図11を参照して説明する。
【0028】
図1乃至図3は、本発明に係る海苔作業船の実施形態を示したものである。図1および図2に示すように、本実施形態の海苔作業船1における甲板が形成された船体上部における船尾側には、作業者が搭乗して操舵を行う操舵室2が配設されている。
【0029】
また、海苔作業船1の船尾には、スクリュ等の図示しない推進装置が配設されており、この推進装置によって海苔作業船1が海上を自走可能とされている。
【0030】
操舵室2に対して船首側の近傍位置には、薬剤処理槽としての酸処理槽3が形成されており、この酸処理槽3には、薬剤の処理液としての酸処理液が貯留されるようになっている。
【0031】
そして、この酸処理槽3においては、酸処理液が貯留された状態において、図4および図5に示す海苔網5の設置構造6によって海面に展張された海苔網5を海苔作業船1上への掬い上げ後に浸漬させることによって、当該海苔網5に対する酸処理が行われるようになっている。海苔網5およびその設置構造6の詳細については後述する。
【0032】
図1に戻って、船体上部における船首側には、掬い上げ部材7が配設されており、この掬い上げ部材7は、平面略U字形状の外枠部9と、この外枠部9の内側に、船幅方向に所定の間隔を設けて形成された船体全長方向に長尺な二本の第1案内部10と、外枠部9の内側に形成された第1案内部10を横断する二本の横断部11とによって形成されている。
【0033】
掬い上げ部材7は、使用状態において先端部が海中に没するようになっており、この海中に没した先端部を海苔網5の下に潜り込ませつつ海苔作業船1を海苔網5側に自走させることによって、海苔網5を掬い上げるようになっている。また、この掬い上げ部材7は、ヒンジ部12に回動自在に支持されており、このヒンジ部12を支点とした回動動作によって、先端部を、海中に没する位置から船体上に退避させることが可能とされている。この掬い上げ部材7の回動動作は、図示しないモータの駆動力を用いて行うようにしてもよい。また、掬い上げ部材7は、回動自在に支持されているものに限る必要はなく、例えば、ワイヤの繰り出し動作および巻き上げ動作によって、前後に進退可能に保持されているものであってもよい。
【0034】
第1案内部10は、海中から掬い上げられた海苔網5を下方から保持するようになっているとともに、この海苔網5を保持した状態における海苔作業船1の自走にともなって、海苔網5を船首側から酸処理槽3側へと案内するようになっている。なお、第1案内部10は、海苔網5に装着された伸子棒14に直交する平面形状を有しているため、この第1案内部10への伸子棒14の引っ掛かりを防止して海苔網5を酸処理槽3側へと適正に案内することができるようになっている。
【0035】
船体上部における酸処理槽3に対して船首側の位置には、平面上において第1案内部10と同一線上に位置する二本の第2案内部15が配設されており、これら第2案内部15上には、海苔作業船1の自走にともなって、第1案内部10を通過した後の海苔網5が移動するようになっている。そして、第2案内部15は、第1案内部10を通過した後の海苔網5を下方から保持するとともに、この海苔網5を保持した状態における海苔作業船1の自走にともなって、海苔網5をさらに酸処理槽3側へと案内するようになっている。なお、第2案内部15も、伸子棒14に直交する平面形状を有しているため、この第2案内部15への伸子棒14の引っ掛かりを防止して海苔網5を適正に案内することができるようになっている。
【0036】
そして、船体上部には、本実施形態における綱類通過装置17が配設されており、この綱類通過装置17は、酸処理槽3とともに、本発明に係る薬剤処理装置としての酸処理装置を構成している。
【0037】
綱類通過装置17は、船体上部における左右の両舷側の近傍にそれぞれ固定された右舷側綱類通過部材19および左舷側綱類通過部材20からなる一対の綱類通過部材19,20を有しており、これら一対の綱類通過部材19,20は、左右対称形状に形成されている。
【0038】
両綱類通過部材19,20は、酸処理の際に、海苔網5における伸子棒14の長手方向の両端部に連結された海苔展張用の綱類としての互いに異なる吊り綱21a,21bを、船幅方向における内側にそれぞれ摺接させつつ船首側から酸処理槽3を経て船尾側に通過させるようになっている。
【0039】
より具体的には、両綱類通過部材19,20は、船首側から船尾側に向かって順に、第1摺接部23、第2摺接部24および第3摺接部25の横断面円形状の棒状の3つの摺接部23,24,25を有している。
【0040】
第1摺接部23は、船首側から酸処理槽3における船首側の部位に対応する(上方から臨む)位置にわたって形成されいるとともに、図1に示すように、その平面形状が、船首側から酸処理槽3側に向かうにしたがって船幅方向における内側に傾く直線形状に形成され、また、図2に示すように、その側面形状が、鉛直上方に湾曲した曲線形状に形成されている。さらに、第1摺接部23の外周面における船幅方向の内側の部位は、綱類通過部材19,20における第1の内側端部27とされており、この第1の内側端部27には、海苔網5に連結された吊り綱21a,21bが、最初に摺接するようになっている。
【0041】
また、第2摺接部24は、第1摺接部23における酸処理槽3側の端部に、酸処理槽3における船首側の部位に対応する位置において連設されているとともに、この位置から酸処理槽3における船尾側の部位に対応する(上方から臨む)位置にわたって形成されている。また、第2摺接部24は、船体全長方向に平行かつ水平な直線形状に形成されている。第2摺接部24の外周面における船幅方向の内側の部位は、綱類通過部材19,20における第2の内側端部28とされており、この第2の内側端部28には、第1の内側端部27に摺接しつつ第1の内側端部27を通過した後の吊り綱21a,21bが摺接するようになっている。
【0042】
さらに、第3摺接部25は、第2摺接部24における船尾側の端部に、酸処理槽3における船尾側の部位に対応する位置において連設されているとともに、この位置から操舵室2の近傍位置にわたって形成されている。また、第3摺接部25は、酸処理槽3側から船尾側に向かうにしたがって船幅方向における外側かつ鉛直上方に傾く直線形状に形成されている。第3摺接部25の外周面における船幅方向の内側の部位は、綱類通過部材19,20における第3の内側端部29とされており、この第3の内側端部29には、第2の内側端部28に摺接しつつ第2の内側端部28を通過した後の吊り綱21a,21bが摺接するようになっている。
【0043】
さらにまた、このような各摺接部23,24,25の形状により、右舷側綱類通過部材19の内側端部27,28,29と、左舷側綱類通過部材20の内側端部27,28,29との間の船幅方向の間隔は、船首側から酸処理槽3側に向かうにしたがって狭くなり、かつ、酸処理槽3側から船尾側に向かうにしたがって広くなっている。
【0044】
また、吊り綱21a,21bが綱類通過部材19,20における内側端部27,28,29に摺接しつつ海苔作業船1上を通過する際に、吊り綱21a,21bに連結された海苔網5は、内側端部27,28,29の下方すなわち綱類通過部材19,20の下方を通るようになっている。
【0045】
さらに、本実施形態において、右舷側綱類通過部材19における内側端部27,28,29と左舷側綱類通過部材20における内側端部27,28,29との間の船幅方向の間隔は、第1の内側端部27における船首側の所定範囲および第3の内側端部29における船尾側の所定範囲を除いて、伸子棒14の幅よりも狭く形成されている。このような両綱類通過部材19,20における綱類通過部材19,20間の船幅方向の間隔が伸子棒14の幅よりも狭く形成された部位は、綱類通過部材19,20の下方を通る海苔網5に対して、海苔網5が上方へ離脱しようとしてもこれを防止する上方からの押さえとして機能させることができる。すなわち、海苔網5が伸子棒14とともに通過経路から上方に離脱しようとしても、伸子棒14が綱類通過部材19,20に当接することによって離脱を防止することができる。これにより、海苔網5を酸処理槽3に確実に導いて酸処理を安定的に行わせることが可能となる。
【0046】
このような綱類通過部材19,20は、第1摺接部23と第2摺接部24との境界部、第2摺接部24と第3摺接部25との境界部および第3摺接部25の船尾側端部からそれぞれ船幅方向の外側に延出された延出部26a,26b,26cを介して図示しない舷側の側壁部の内側に固定されている。
【0047】
なお、綱類通過部材19,20は、例えば、アルミニウム等の軽量で安価な金属材料に接合等の加工を施すことによって形成してもよい。
【0048】
さらに、船体上部における操舵室2の上部には、平面上において第1案内部10および第2案内部15と同一線上に位置する二本の第3案内部30が配設されている。これら第3案内部30の側面形状は、酸処理槽3における船尾側の端部から、船尾側に向かって上方に直線状に傾斜して操舵室2の最上面に至った後に、この操舵室2の最上面に沿って船尾側に向かってほぼ水平な直線状に延在した屈曲形状に形成されている。この第3案内部30上には、海苔作業船1の自走にともなって、酸処理後の海苔網5が移動するようになっている。そして、第3案内部30は、酸処理後の海苔網5を下方から保持するとともに、この海苔網5を保持した状態における海苔作業船1の自走にともなって、海苔網5を船尾側へと案内するようになっている。なお、第3案内部30も、伸子棒14に直交する平面形状を有しているため、この第3案内部30への伸子棒14の引っ掛かりを防止して海苔網5を適正に案内することができるようになっている。
【0049】
また、船体上部であって両綱類通過部材19,20に対して船幅方向における外側の位置には、左舷側側綱案内部32および右舷側側綱案内部33がそれぞれ配設されている。両側綱案内部32,33の側面形状は、船首側から酸処理槽3における船尾側端部に至るまでは、水平な直線形状に形成され、酸処理槽3における船尾側端部から船尾側に至るまでは、第3案内部30に対して上部近傍に位置するようにして第3案内部30に沿った屈曲形状に形成されている。両側綱案内部32,33は、酸処理の際に、図4および図5に示す海苔網5に連結された側綱35を下方から保持するとともに、この側綱35を保持した状態における海苔作業船1の自走にともなって、側綱35を船尾側へと案内するようになっている。
【0050】
なお、側綱35は、船首側から酸処理槽3における船首側の部位に至るまでは、掬い上げ部材7および第1摺接部23の上面に保持されて案内されるようになっている。
【0051】
次に、このような海苔作業船1による酸処理が行われる海苔網5について詳述すると、この海苔網5は、図4および図5に示す設置構造6によって海面に展張されている。この設置構造6は、複数の海苔網5を所定の間隔を設けて並列に配置するようになっており、各海苔網5の間には、複数の支柱36が、海苔網5の配置方向(図4における横方向)に直交する方向(縦方向)に等間隔を設けるようにして、それぞれ海中に立設されている。各支柱36のうちの海苔網5の配置方向に直交する方向の両端位置に立設された複数の支柱36を除いた残余の支柱36には、吊り綱21a,21bが固定されており、この吊り綱21a,21bに海苔網5が連結されていることによって、海苔網5が支柱36に吊されるようにして海面に展張されている。各海苔網5には、海苔網5の配置方向に長尺とされたプラスチック等からなる複数の伸子棒14が、長手方向に直交する方向に所定の間隔を設けて装着されている。各伸子棒14は、海苔網5の形状の変形を抑制して、海苔網5の展張を安定ならしめている。
【0052】
本実施形態において、吊り綱21a,21bは、綱類通過部材19,20における内側端部27,28,29に摺接しつつ海苔網5を酸処理槽3に貯留された酸処理液中に浸漬させることが可能な長さに形成されている。
【0053】
さらに、本実施形態において、海苔網5における配置方向に直交する方向(すなわち、酸処理方向)の端部5aに臨む位置には、側綱35が、支柱36に上下動自在に遊嵌された浮動環39に連結固着されるようにして配設されており、この側綱35は、海苔網5の端部5aと連結手段としての連結綱38を介して連結されている。これにより、海苔網5が、海面における所定位置に安定的に保持されるようになっている。
【0054】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0055】
本実施形態において、海苔網5の酸処理を行うには、図6に示すように、設置構造6によって海面に展張された海苔網5に対して、海苔網5の端部5aに向かって海苔作業船1を自走させる。なお、このとき、海苔作業船1は、掬い上げ部材7の先端部が海中に没した使用状態となっている。
【0056】
そして、海苔作業船1が海苔網5に到達すると、海苔作業船1の掬い上げ部材7が側綱35および海苔網5の下方に潜り込み、この状態でさらに海苔作業船1を海苔網5側に自走させると、側綱35および海苔網5が、掬い上げ部材7によって海面から掬い上げられる。このとき、側綱35が掬い上げられると、浮動環39も支柱36に沿って上昇させられる。
【0057】
次いで、海苔網5を掬い上げた海苔作業船1をさらに自走させると、側綱35および海苔網5は、掬い上げ部材7における第1案内部10によって、下方から保持されつつ船首側から酸処理槽3側へと案内される。
【0058】
そして、綱類通過部材19,20における船首側の端部に到達した側綱35は、図7に示すように、この綱類通過部材19,20の上面に摺接しつつさらに船尾側へと案内される。一方、側綱35に続いて綱類通過部材19,20の手前に到達した海苔網5は、第1案内部10上から第2案内部15上へと移行し、この第2案内部15によって酸処理槽3側へと案内されながら、綱類通過部材19,20の下方を通る。なお、側綱35と海苔網5とは、終始連結綱38によって連結されている。
【0059】
次いで、さらに海苔作業船1の自走を続けると、図8に示すように、綱類通過部材19,20の下方を通る海苔網5に連結された吊り綱21a,21bが、綱類通過部材19,20における第1の内側端部27に摺接しつつ海苔作業船1上を通過する。このとき、海苔網5に先行する側綱35は、綱類通過部材19,20の上面から側綱案内部32,33上へ移行しており、この側綱案内部32,33上に保持されつつ船尾側へと案内されている。
【0060】
次いで、さらに海苔作業船1の自走を続けると、図9、図10に示すように、海苔網5が、酸処理槽3に貯留された酸処理液中に浸漬される。このとき、酸処理槽3に対して上部近傍に位置する綱類通過部材19,20における第1〜第3の内側端部27,28,29間の船幅方向の間隔が、海苔網5の伸子棒14の幅よりも狭く形成されていることによって、綱類通過部材19,20を、海苔網5に対する上方からの押さえとして機能させることができ、海苔網5を酸処理液中に安定的に浸漬させることができる。また、海苔網5に連結された吊り綱21a,21bが十分な長さに形成されていることにより、吊り綱21a,21bのテンションによって海苔網5が上方に引っ張られることはなく、酸処理槽3中において吊り綱21a,21bを弛ませて第1〜第3の内側端部27,28,29に順次摺接させることができる。なお、図10は、吊り綱21a,21bが綱類通過部材19,20における第2の内側端部28に摺接している状態を示している。これにより、海苔網5をさらに確実に酸処理液中に浸漬させることができ、より安定的な酸処理を施すことができる。
【0061】
次いで、さらに海苔作業船1の自走を続けると、図11に示すように、海苔網5に先行する側綱35は、側綱案内部32,33によってさらに船尾側に案内され、海苔網5は、酸処槽3内から第3案内部30上へと移行し、この第3案内部30によって船尾側へと案内される。このとき、第3案内部30によって案内される海苔網5に連結された吊り綱21a,21bは、綱類通過部材19,20における第3の内側端部29に摺接しつつ海苔作業船1上を通過する。
【0062】
そして、船尾側に案内された海苔網5は、側綱35に続いて船尾から海面に戻されて海面に再び展張する。
【0063】
以上述べたように、本実施形態によれば、酸処理の際に、海苔網5に連結された吊り綱21a,21bを、船体に固定された綱類通過部材19,20の内側端部27,28,29に摺接させつつ海苔作業船1上を通過させることができるので、簡易かつ安価な構成によって、吊り綱21a,21bをスムーズかつ安定的に通過させることができる。
【0064】
なお、本発明は、前述した実施の形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。例えば、本発明を、酸処理以外の海苔の健全育成を促進させる公知の薬剤処理、例えば、電界水、濃塩分水等を用いた処理に適用してもよいことは勿論である。
【0065】
さらに、前述した実施形態における海苔作業船1は、海苔網5に対する酸処理を行う機構のみを備えているが、本発明は、このような構成に限定されるものではなく、例えば、酸処理槽3に対して船首側の近傍位置に、海苔網5に繁殖した海苔を刈り取る刈り取り機構を設けるようにしてもよい。このような場合であっても、本実施形態における綱類通過装置17を用いることによって、海苔の刈り取り後における海苔網5の酸処理を行うにあたって、吊り綱21a,21bをスムーズかつ安定的に通過させることができ、酸処理を安定的に行うことができる。
【0066】
さらにまた、綱類通過部材19,20は、前述した内側端部27,28,29を有する板状の部材であってもよい。
【0067】
また、連結綱38は、必要に応じて複数本設けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に係る綱類通過装置、海苔網薬剤処理装置および海苔作業船の実施形態を示す平面図
【図2】図1の右側面図
【図3】図1の背面図
【図4】本発明に係る綱類通過装置、海苔網薬剤処理装置および海苔作業船の実施形態において、酸処理に用いる海苔網およびその設置構造を示す平面図
【図5】図4の斜視図
【図6】本発明に係る綱類通過装置、海苔網薬剤処理装置および海苔作業船の実施形態において、海苔網の掬い上げ開始前の状態を示す図
【図7】本発明に係る綱類通過装置、海苔網薬剤処理装置および海苔作業船の実施形態において、海苔網、吊り綱および側綱による海苔作業船上の通過状態を示す概略斜視図
【図8】本発明に係る綱類通過装置、海苔網薬剤処理装置および海苔作業船の実施形態において、図7の次工程における海苔網、吊り綱および側綱による海苔作業船上の通過状態を示す概略斜視図
【図9】本発明に係る綱類通過装置、海苔網薬剤処理装置および海苔作業船の実施形態において、図8の次工程における海苔網、吊り綱および側綱による海苔作業船上の通過状態を示す概略斜視図
【図10】本発明に係る綱類通過装置、海苔網薬剤処理装置および海苔作業船の実施形態において、図9と同一の工程における酸処理槽への海苔網の浸漬状態を示す概略横断面図
【図11】本発明に係る綱類通過装置、海苔網薬剤処理装置および海苔作業船の実施形態において、図9の次工程における海苔網、吊り綱および側綱による海苔作業船上の通過状態を示す斜視図
【符号の説明】
【0069】
1 海苔作業船
3 酸処理槽
5 海苔網
14 伸子棒
17 綱類通過装置
18 酸処理装置
19 右舷側綱類通過部材
20 左舷側綱類通過部材
21a,21b 吊り綱
27 第1の内側端部
28 第2の内側端部
29 第3の内側端部
36 支柱
38 連結綱
【技術分野】
【0001】
本発明は、綱類通過装置、綱類通過装置を備えた海苔網薬剤処理装置および綱類通過装置を備えた海苔作業船に係り、特に、海苔の養殖場に展張されている海苔網を海苔作業船上に掬い上げて各種の薬剤処理を施すのに好適な綱類通過装置、綱類通過装置を備えた海苔網薬剤処理装置および綱類通過装置を備えた海苔作業船に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、海苔の養殖は、海苔網に浮子を取付けて海面部分に浮かすようにして展張して錨で止める浮き流し方式や、海中に立設した支柱に海苔網を係留して展張した支柱方式により行なわれている。この両方式の使い分けは、養殖場の立地条件により決定されている。
【0003】
前記支柱方式を採用している海苔の養殖場は、支柱を立てることのできる海岸に近く、水深の浅いところであり、海の干潮時に海苔網が海面から離間して、日中には天日により海苔に付着した雑菌の殺菌効果が大きく、海苔の養殖には望ましい方法である。
【0004】
このような海苔の養殖においては、海苔網および海苔網に繁殖する海苔の表面に、海水の水垢やゴミ等の浮遊物が付着したり、雑菌が繁殖したりするなど、海苔の品質を低下させる要因があった。
【0005】
そこで、従来から、海苔の養殖においては、高品質で健康な海苔を育成し、収穫率を向上させる観点から、海苔の刈り取りから刈り取りの間の期間に、二回から三回程度、海苔網および海苔網に繁殖した海苔に対して、酸処理に代表される各種の薬剤を用いた薬剤処理を施すことが行われていた。このような薬剤処理は、海苔の刈り取り後における海苔網に対しても施されていた。
【0006】
このような薬剤処理に際しては、海苔作業船における甲板が形成された船体上部に薬剤処理槽を設け、この薬剤処理槽内に、各種の薬剤からなる処理液を貯留させた状態において、海面に展張されている海苔網に対して海苔作業船を自走させるとともに、海苔作業船の船首に設けられた案内部材(例えば、特許文献1における符号Eを参照)を用いることによって、海苔網を海苔作業船上に掬い上げるようになっていた。そして、海苔網を海苔作業船上に掬い上げた後にも、さらに海苔作業船の自走を続けることによって、海苔作業船上に掬い上げられた海苔網を薬剤処理槽に導き、この薬剤処理槽に貯留された処理液中に浸漬させることによって薬剤処理を施すようになっていた。そして、薬剤処理を施した後の海苔網は、海苔作業船のさらなる自走によって薬剤処理槽を通過して船尾側に移動し、船尾から海面に戻ることによって再び海面に展張されるようになっていた。
【0007】
このような薬剤処理の際には、海苔網にともなって、海苔網に連結された吊り綱が、海苔作業船上における左右の舷側の近傍を通過することになる。
【0008】
このとき、薬剤処理を適切に行うには、海苔網とともに吊り綱が海苔作業船上をスムーズに通過することが必要となる。そこで、本出願人は、これまでにも、吊り綱等の綱類が海苔作業船上をスムーズに通過するようにすることができる特許文献1に記載の綱類通過装置を提案している。
【0009】
この特許文献1に記載の綱類通過装置によれば、下方部材と、この下方部材上に接離自在にして載置されている上方部材と、上方部材を下方部材に対して一定位置に保持する上方部材保持機構とを有することによって、上方部材と下方部材との間を通過する綱類が、上方部材を持ち上げるようにして船尾側へスムーズに通過することが可能とされていた。
【0010】
【特許文献1】特開平10−150884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
さらに、この種の綱類通過装置には、より簡易かつ安価な構成によって、綱類による海苔作業船上の通過をスムーズかつ安定的に行わせることが求められるようになった。
【0012】
そこで、本発明は、このような点に鑑みなされたものであり、簡易かつ安価な構成によって、海苔網の薬剤処理の際における海苔網に連結された綱類による海苔作業船上の通過をスムーズかつ安定的に行わせることができる綱類通過装置、綱類通過装置を備えた海苔網薬剤処理装置および綱類通過装置を備えた海苔作業船を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するため、本発明の請求項1に係る綱類通過装置は、海苔網に薬剤処理を施すための薬剤処理槽が形成された海苔作業船の上部における左右の両舷側の近傍にそれぞれ固定され、前記薬剤処理の際に、前記海苔網に連結された互いに異なる海苔網展張用の綱類を、船幅方向における内側にそれぞれ摺接させつつ船首側から前記薬剤処理槽を経て船尾側に通過させるように形成された一対の綱類通過部材であって、一方の綱類通過部材における前記網類を摺接させる内側端部と、他方の綱類通過部材における前記綱類を摺接させる内側端部との間の前記船幅方向の間隔が、船首側から薬剤処理槽側に向かうにしたがって狭くなり、かつ、薬剤処理槽側から船尾側に向かうにしたがって広くなるような形状に形成され、さらに、前記海苔網が前記内側端部の下方を通るように形成された一対の綱類通過部材を有することを特徴としている。そして、このような構成によれば、薬剤処理の際に、海苔網に連結された海苔網展張用の綱類を、船体に固定された一対の綱類通過部材のそれぞれの内側端部に摺接させつつ海苔作業船上を通過させることが可能となる。
【0014】
また、請求項2に係る綱類通過装置は、請求項1において、前記一方の綱類通過部材における前記内側端部と前記他方の綱類通過部材における前記内側端部との間の前記船幅方向の間隔のうちの少なくとも前記薬剤処理槽に対応する範囲における間隔が、前記海苔網に装着された伸子棒の幅よりも狭く形成されていることを特徴としている。そして、このような構成によれば、一対の綱類通過部材における両綱類通過部材間の船幅方向の間隔が伸子棒の幅よりも狭く形成された部位を、薬剤処理槽における海苔網に対する上方からの押さえとして機能させることが可能となる。
【0015】
さらに、請求項3に係る綱類通過装置は、請求項1または請求項2において、前記内側端部が、船首側から薬剤処理槽側に向かうにしたがって前記船幅方向における内側に傾く形状に形成された第1の内側端部と、この第1の内側端部に、前記薬剤処理槽における船首側の部位に対応する位置において連なり、船体全長方向に平行な形状に形成された第2の内側端部と、この第2の内側端部に、前記薬剤処理槽における船尾側の部位に対応する位置において連なり、薬剤処理槽側から船尾側に向かうにしたがって前記船幅方向における外側に傾く形状に形成された第3の内側端部とによって形成されていることを特徴としている。そして、このような構成によれば、第1の内側端部によって、船首側から薬剤処理槽に向かう海苔網に連結された綱類の通過を確保し、第2の内側端部によって、薬剤処理中の海苔網に連結され綱類の通過を確保し、第3の内側端部によって、薬剤処理後に船尾側に向かう海苔網に連結された綱類の通過を確保することが可能となる。
【0016】
さらにまた、請求項4に係る海苔網薬剤処理装置は、海苔作業船の上部に形成された薬剤処理槽を有し、この薬剤処理槽に貯留された薬剤の処理液中に、前記海苔作業船上に掬い上げられた海苔網を浸漬させることによって、前記海苔網に薬剤処理を施す海苔網薬剤処理装置において、前記海苔作業船の上部における左右の両舷側の近傍にそれぞれ固定され、前記薬剤処理の際に、前記海苔網に連結された互いに異なる海苔網展張用の綱類を、船幅方向における内側にそれぞれ摺接させつつ船首側から前記薬剤処理槽を経て船尾側に通過させるように形成された一対の綱類通過部材であって、一方の綱類通過部材における前記網類を摺接させる内側端部と、他方の綱類通過部材における前記綱類を摺接させる内側端部との間の前記船幅方向の間隔が、船首側から薬剤処理槽側に向かうにしたがって狭くなり、かつ、薬剤処理槽側から船尾側に向かうにしたがって広くなるような形状に形成され、さらに、前記海苔網が前記内側端部の下方を通るように形成された一対の綱類通過部材を有する綱類通過装置を備えたことを特徴としている。そして、このような構成によれば、薬剤処理の際に、海苔網に連結された海苔網展張用の綱類を、船体に固定された一対の綱類通過部材のそれぞれの内側端部に摺接させつつ海苔作業船上を通過させることが可能となる。
【0017】
また、請求項5に係る海苔網薬剤処理装置は、請求項4において、前記綱類が、海中に立設された支柱に前記海苔網を吊すための吊り綱とされ、かつ、前記綱類通過部材における前記内側端部に摺接しつつ前記海苔網を前記薬剤の処理液中に浸漬させることが可能な長さに形成されていることを特徴としている。そして、このような構成によれば、吊り綱に連結された海苔網の薬剤処理の際に、吊り綱を綱類通過部材における内側端部に摺接させつつ海苔作業船上を通過させながら、海苔網を薬剤の処理液中に確実に浸漬させることが可能となる。
【0018】
さらに、請求項6に係る海苔網薬剤処理装置は、請求項4または請求項5において、前記海苔網における薬剤処理方向の端部が、この端部に臨む側綱と連結手段を介して連結されており、前記薬剤処理の際に、前記側綱が、前記連結手段を介して前記海苔網との連結状態を保持しつつ前記一対の綱類通過部材の上部を通るように形成されていることを特徴としている。そして、このような構成によれば、海苔網を海面における所定の位置に安定的に保持することが可能となる。
【0019】
さらにまた、請求項7に係る海苔作業船は、船体上部に、海苔網に薬剤処理を施すための薬剤処理槽が形成された海苔作業船において、船体上部における左右の両舷側の近傍にそれぞれ固定され、前記薬剤処理の際に、前記海苔網に連結された互いに異なる海苔網展張用の綱類を、船幅方向における内側にそれぞれ摺接させつつ船首側から前記薬剤処理槽を経て船尾側に通過させるように形成された一対の綱類通過部材であって、一方の綱類通過部材における前記網類を摺接させる内側端部と、他方の綱類通過部材における前記綱類を摺接させる内側端部との間の前記船幅方向の間隔が、船首側から薬剤処理槽側に向かうにしたがって狭くなり、かつ、薬剤処理槽側から船尾側に向かうにしたがって広くなるような形状に形成され、さらに、前記海苔網が前記内側端部の下方を通るように形成された一対の綱類通過部材を有する綱類通過装置を備えたことを特徴としている。そして、このような構成によれば、薬剤処理の際に、海苔網に連結された海苔網展張用の綱類を、船体に固定された一対の綱類通過部材のそれぞれの内側端部に摺接させつつ通過させることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の請求項1に係る綱類通過装置によれば、薬剤処理の際に、海苔網に連結された海苔網展張用の綱類を、船体に固定された一対の綱類通過部材のそれぞれの内側端部に摺接させつつ通過させることができるので、海苔網の薬剤処理の際に、海苔網に連結された綱類による海苔作業船上の通過を、簡易かつ安価な構成によってスムーズかつ安定的に行わせることができる。
【0021】
また、請求項2に係る綱類通過装置によれば、一対の綱類通過部材における両部材間の船幅方向の間隔が伸子棒の幅よりも狭く形成された部位を、薬剤処理槽における海苔網に対する上方からの押さえとして機能させることができるので、請求項1に係る綱類通過装置の効果に加えて、さらに、薬剤処理をより安定的に行うことができる。
【0022】
さらに、請求項3に係る綱類通過装置によれば、第1の内側端部によって、船首側から薬剤処理槽に向かう海苔網に連結された綱類の通過を確保し、第2の内側端部によって、薬剤処理中の海苔網に連結され綱類の通過を確保し、第3の内側端部によって、薬剤処理後に船尾側に向かう海苔網に連結された綱類の通過を確保することができるので、請求項1または請求項2に係る綱類通過装置の効果に加えて、さらに、薬剤処理の際に綱類をより適正に通過させることができる。
【0023】
さらにまた、請求項4に係る海苔網薬剤処理装置によれば、簡易かつ安価な構成によって、海苔網に連結された綱類をスムーズかつ安定的に通過させながら薬剤処理を行うことができる。
【0024】
また、請求項5に係る海苔網薬剤処理装置によれば、支柱方式の海苔の養殖場における海苔網の薬剤処理を、簡易な構成によって円滑かつ安定的に行うことができる。
【0025】
さらに、請求項6に係る海苔網薬剤処理装置によれば、海苔網を海面における所定の位置に安定的に保持することができるので、支柱に係留された海苔網を海苔作業船上に適切に掬い上げて薬剤処理を確実に行うことができる。
【0026】
さらにまた、請求項7に係る海苔作業船によれば、薬剤処理の際に、簡易かつ安価な構成によって、海苔網に連結された綱類をスムーズかつ安定的に通過させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図1乃至図11を参照して説明する。
【0028】
図1乃至図3は、本発明に係る海苔作業船の実施形態を示したものである。図1および図2に示すように、本実施形態の海苔作業船1における甲板が形成された船体上部における船尾側には、作業者が搭乗して操舵を行う操舵室2が配設されている。
【0029】
また、海苔作業船1の船尾には、スクリュ等の図示しない推進装置が配設されており、この推進装置によって海苔作業船1が海上を自走可能とされている。
【0030】
操舵室2に対して船首側の近傍位置には、薬剤処理槽としての酸処理槽3が形成されており、この酸処理槽3には、薬剤の処理液としての酸処理液が貯留されるようになっている。
【0031】
そして、この酸処理槽3においては、酸処理液が貯留された状態において、図4および図5に示す海苔網5の設置構造6によって海面に展張された海苔網5を海苔作業船1上への掬い上げ後に浸漬させることによって、当該海苔網5に対する酸処理が行われるようになっている。海苔網5およびその設置構造6の詳細については後述する。
【0032】
図1に戻って、船体上部における船首側には、掬い上げ部材7が配設されており、この掬い上げ部材7は、平面略U字形状の外枠部9と、この外枠部9の内側に、船幅方向に所定の間隔を設けて形成された船体全長方向に長尺な二本の第1案内部10と、外枠部9の内側に形成された第1案内部10を横断する二本の横断部11とによって形成されている。
【0033】
掬い上げ部材7は、使用状態において先端部が海中に没するようになっており、この海中に没した先端部を海苔網5の下に潜り込ませつつ海苔作業船1を海苔網5側に自走させることによって、海苔網5を掬い上げるようになっている。また、この掬い上げ部材7は、ヒンジ部12に回動自在に支持されており、このヒンジ部12を支点とした回動動作によって、先端部を、海中に没する位置から船体上に退避させることが可能とされている。この掬い上げ部材7の回動動作は、図示しないモータの駆動力を用いて行うようにしてもよい。また、掬い上げ部材7は、回動自在に支持されているものに限る必要はなく、例えば、ワイヤの繰り出し動作および巻き上げ動作によって、前後に進退可能に保持されているものであってもよい。
【0034】
第1案内部10は、海中から掬い上げられた海苔網5を下方から保持するようになっているとともに、この海苔網5を保持した状態における海苔作業船1の自走にともなって、海苔網5を船首側から酸処理槽3側へと案内するようになっている。なお、第1案内部10は、海苔網5に装着された伸子棒14に直交する平面形状を有しているため、この第1案内部10への伸子棒14の引っ掛かりを防止して海苔網5を酸処理槽3側へと適正に案内することができるようになっている。
【0035】
船体上部における酸処理槽3に対して船首側の位置には、平面上において第1案内部10と同一線上に位置する二本の第2案内部15が配設されており、これら第2案内部15上には、海苔作業船1の自走にともなって、第1案内部10を通過した後の海苔網5が移動するようになっている。そして、第2案内部15は、第1案内部10を通過した後の海苔網5を下方から保持するとともに、この海苔網5を保持した状態における海苔作業船1の自走にともなって、海苔網5をさらに酸処理槽3側へと案内するようになっている。なお、第2案内部15も、伸子棒14に直交する平面形状を有しているため、この第2案内部15への伸子棒14の引っ掛かりを防止して海苔網5を適正に案内することができるようになっている。
【0036】
そして、船体上部には、本実施形態における綱類通過装置17が配設されており、この綱類通過装置17は、酸処理槽3とともに、本発明に係る薬剤処理装置としての酸処理装置を構成している。
【0037】
綱類通過装置17は、船体上部における左右の両舷側の近傍にそれぞれ固定された右舷側綱類通過部材19および左舷側綱類通過部材20からなる一対の綱類通過部材19,20を有しており、これら一対の綱類通過部材19,20は、左右対称形状に形成されている。
【0038】
両綱類通過部材19,20は、酸処理の際に、海苔網5における伸子棒14の長手方向の両端部に連結された海苔展張用の綱類としての互いに異なる吊り綱21a,21bを、船幅方向における内側にそれぞれ摺接させつつ船首側から酸処理槽3を経て船尾側に通過させるようになっている。
【0039】
より具体的には、両綱類通過部材19,20は、船首側から船尾側に向かって順に、第1摺接部23、第2摺接部24および第3摺接部25の横断面円形状の棒状の3つの摺接部23,24,25を有している。
【0040】
第1摺接部23は、船首側から酸処理槽3における船首側の部位に対応する(上方から臨む)位置にわたって形成されいるとともに、図1に示すように、その平面形状が、船首側から酸処理槽3側に向かうにしたがって船幅方向における内側に傾く直線形状に形成され、また、図2に示すように、その側面形状が、鉛直上方に湾曲した曲線形状に形成されている。さらに、第1摺接部23の外周面における船幅方向の内側の部位は、綱類通過部材19,20における第1の内側端部27とされており、この第1の内側端部27には、海苔網5に連結された吊り綱21a,21bが、最初に摺接するようになっている。
【0041】
また、第2摺接部24は、第1摺接部23における酸処理槽3側の端部に、酸処理槽3における船首側の部位に対応する位置において連設されているとともに、この位置から酸処理槽3における船尾側の部位に対応する(上方から臨む)位置にわたって形成されている。また、第2摺接部24は、船体全長方向に平行かつ水平な直線形状に形成されている。第2摺接部24の外周面における船幅方向の内側の部位は、綱類通過部材19,20における第2の内側端部28とされており、この第2の内側端部28には、第1の内側端部27に摺接しつつ第1の内側端部27を通過した後の吊り綱21a,21bが摺接するようになっている。
【0042】
さらに、第3摺接部25は、第2摺接部24における船尾側の端部に、酸処理槽3における船尾側の部位に対応する位置において連設されているとともに、この位置から操舵室2の近傍位置にわたって形成されている。また、第3摺接部25は、酸処理槽3側から船尾側に向かうにしたがって船幅方向における外側かつ鉛直上方に傾く直線形状に形成されている。第3摺接部25の外周面における船幅方向の内側の部位は、綱類通過部材19,20における第3の内側端部29とされており、この第3の内側端部29には、第2の内側端部28に摺接しつつ第2の内側端部28を通過した後の吊り綱21a,21bが摺接するようになっている。
【0043】
さらにまた、このような各摺接部23,24,25の形状により、右舷側綱類通過部材19の内側端部27,28,29と、左舷側綱類通過部材20の内側端部27,28,29との間の船幅方向の間隔は、船首側から酸処理槽3側に向かうにしたがって狭くなり、かつ、酸処理槽3側から船尾側に向かうにしたがって広くなっている。
【0044】
また、吊り綱21a,21bが綱類通過部材19,20における内側端部27,28,29に摺接しつつ海苔作業船1上を通過する際に、吊り綱21a,21bに連結された海苔網5は、内側端部27,28,29の下方すなわち綱類通過部材19,20の下方を通るようになっている。
【0045】
さらに、本実施形態において、右舷側綱類通過部材19における内側端部27,28,29と左舷側綱類通過部材20における内側端部27,28,29との間の船幅方向の間隔は、第1の内側端部27における船首側の所定範囲および第3の内側端部29における船尾側の所定範囲を除いて、伸子棒14の幅よりも狭く形成されている。このような両綱類通過部材19,20における綱類通過部材19,20間の船幅方向の間隔が伸子棒14の幅よりも狭く形成された部位は、綱類通過部材19,20の下方を通る海苔網5に対して、海苔網5が上方へ離脱しようとしてもこれを防止する上方からの押さえとして機能させることができる。すなわち、海苔網5が伸子棒14とともに通過経路から上方に離脱しようとしても、伸子棒14が綱類通過部材19,20に当接することによって離脱を防止することができる。これにより、海苔網5を酸処理槽3に確実に導いて酸処理を安定的に行わせることが可能となる。
【0046】
このような綱類通過部材19,20は、第1摺接部23と第2摺接部24との境界部、第2摺接部24と第3摺接部25との境界部および第3摺接部25の船尾側端部からそれぞれ船幅方向の外側に延出された延出部26a,26b,26cを介して図示しない舷側の側壁部の内側に固定されている。
【0047】
なお、綱類通過部材19,20は、例えば、アルミニウム等の軽量で安価な金属材料に接合等の加工を施すことによって形成してもよい。
【0048】
さらに、船体上部における操舵室2の上部には、平面上において第1案内部10および第2案内部15と同一線上に位置する二本の第3案内部30が配設されている。これら第3案内部30の側面形状は、酸処理槽3における船尾側の端部から、船尾側に向かって上方に直線状に傾斜して操舵室2の最上面に至った後に、この操舵室2の最上面に沿って船尾側に向かってほぼ水平な直線状に延在した屈曲形状に形成されている。この第3案内部30上には、海苔作業船1の自走にともなって、酸処理後の海苔網5が移動するようになっている。そして、第3案内部30は、酸処理後の海苔網5を下方から保持するとともに、この海苔網5を保持した状態における海苔作業船1の自走にともなって、海苔網5を船尾側へと案内するようになっている。なお、第3案内部30も、伸子棒14に直交する平面形状を有しているため、この第3案内部30への伸子棒14の引っ掛かりを防止して海苔網5を適正に案内することができるようになっている。
【0049】
また、船体上部であって両綱類通過部材19,20に対して船幅方向における外側の位置には、左舷側側綱案内部32および右舷側側綱案内部33がそれぞれ配設されている。両側綱案内部32,33の側面形状は、船首側から酸処理槽3における船尾側端部に至るまでは、水平な直線形状に形成され、酸処理槽3における船尾側端部から船尾側に至るまでは、第3案内部30に対して上部近傍に位置するようにして第3案内部30に沿った屈曲形状に形成されている。両側綱案内部32,33は、酸処理の際に、図4および図5に示す海苔網5に連結された側綱35を下方から保持するとともに、この側綱35を保持した状態における海苔作業船1の自走にともなって、側綱35を船尾側へと案内するようになっている。
【0050】
なお、側綱35は、船首側から酸処理槽3における船首側の部位に至るまでは、掬い上げ部材7および第1摺接部23の上面に保持されて案内されるようになっている。
【0051】
次に、このような海苔作業船1による酸処理が行われる海苔網5について詳述すると、この海苔網5は、図4および図5に示す設置構造6によって海面に展張されている。この設置構造6は、複数の海苔網5を所定の間隔を設けて並列に配置するようになっており、各海苔網5の間には、複数の支柱36が、海苔網5の配置方向(図4における横方向)に直交する方向(縦方向)に等間隔を設けるようにして、それぞれ海中に立設されている。各支柱36のうちの海苔網5の配置方向に直交する方向の両端位置に立設された複数の支柱36を除いた残余の支柱36には、吊り綱21a,21bが固定されており、この吊り綱21a,21bに海苔網5が連結されていることによって、海苔網5が支柱36に吊されるようにして海面に展張されている。各海苔網5には、海苔網5の配置方向に長尺とされたプラスチック等からなる複数の伸子棒14が、長手方向に直交する方向に所定の間隔を設けて装着されている。各伸子棒14は、海苔網5の形状の変形を抑制して、海苔網5の展張を安定ならしめている。
【0052】
本実施形態において、吊り綱21a,21bは、綱類通過部材19,20における内側端部27,28,29に摺接しつつ海苔網5を酸処理槽3に貯留された酸処理液中に浸漬させることが可能な長さに形成されている。
【0053】
さらに、本実施形態において、海苔網5における配置方向に直交する方向(すなわち、酸処理方向)の端部5aに臨む位置には、側綱35が、支柱36に上下動自在に遊嵌された浮動環39に連結固着されるようにして配設されており、この側綱35は、海苔網5の端部5aと連結手段としての連結綱38を介して連結されている。これにより、海苔網5が、海面における所定位置に安定的に保持されるようになっている。
【0054】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0055】
本実施形態において、海苔網5の酸処理を行うには、図6に示すように、設置構造6によって海面に展張された海苔網5に対して、海苔網5の端部5aに向かって海苔作業船1を自走させる。なお、このとき、海苔作業船1は、掬い上げ部材7の先端部が海中に没した使用状態となっている。
【0056】
そして、海苔作業船1が海苔網5に到達すると、海苔作業船1の掬い上げ部材7が側綱35および海苔網5の下方に潜り込み、この状態でさらに海苔作業船1を海苔網5側に自走させると、側綱35および海苔網5が、掬い上げ部材7によって海面から掬い上げられる。このとき、側綱35が掬い上げられると、浮動環39も支柱36に沿って上昇させられる。
【0057】
次いで、海苔網5を掬い上げた海苔作業船1をさらに自走させると、側綱35および海苔網5は、掬い上げ部材7における第1案内部10によって、下方から保持されつつ船首側から酸処理槽3側へと案内される。
【0058】
そして、綱類通過部材19,20における船首側の端部に到達した側綱35は、図7に示すように、この綱類通過部材19,20の上面に摺接しつつさらに船尾側へと案内される。一方、側綱35に続いて綱類通過部材19,20の手前に到達した海苔網5は、第1案内部10上から第2案内部15上へと移行し、この第2案内部15によって酸処理槽3側へと案内されながら、綱類通過部材19,20の下方を通る。なお、側綱35と海苔網5とは、終始連結綱38によって連結されている。
【0059】
次いで、さらに海苔作業船1の自走を続けると、図8に示すように、綱類通過部材19,20の下方を通る海苔網5に連結された吊り綱21a,21bが、綱類通過部材19,20における第1の内側端部27に摺接しつつ海苔作業船1上を通過する。このとき、海苔網5に先行する側綱35は、綱類通過部材19,20の上面から側綱案内部32,33上へ移行しており、この側綱案内部32,33上に保持されつつ船尾側へと案内されている。
【0060】
次いで、さらに海苔作業船1の自走を続けると、図9、図10に示すように、海苔網5が、酸処理槽3に貯留された酸処理液中に浸漬される。このとき、酸処理槽3に対して上部近傍に位置する綱類通過部材19,20における第1〜第3の内側端部27,28,29間の船幅方向の間隔が、海苔網5の伸子棒14の幅よりも狭く形成されていることによって、綱類通過部材19,20を、海苔網5に対する上方からの押さえとして機能させることができ、海苔網5を酸処理液中に安定的に浸漬させることができる。また、海苔網5に連結された吊り綱21a,21bが十分な長さに形成されていることにより、吊り綱21a,21bのテンションによって海苔網5が上方に引っ張られることはなく、酸処理槽3中において吊り綱21a,21bを弛ませて第1〜第3の内側端部27,28,29に順次摺接させることができる。なお、図10は、吊り綱21a,21bが綱類通過部材19,20における第2の内側端部28に摺接している状態を示している。これにより、海苔網5をさらに確実に酸処理液中に浸漬させることができ、より安定的な酸処理を施すことができる。
【0061】
次いで、さらに海苔作業船1の自走を続けると、図11に示すように、海苔網5に先行する側綱35は、側綱案内部32,33によってさらに船尾側に案内され、海苔網5は、酸処槽3内から第3案内部30上へと移行し、この第3案内部30によって船尾側へと案内される。このとき、第3案内部30によって案内される海苔網5に連結された吊り綱21a,21bは、綱類通過部材19,20における第3の内側端部29に摺接しつつ海苔作業船1上を通過する。
【0062】
そして、船尾側に案内された海苔網5は、側綱35に続いて船尾から海面に戻されて海面に再び展張する。
【0063】
以上述べたように、本実施形態によれば、酸処理の際に、海苔網5に連結された吊り綱21a,21bを、船体に固定された綱類通過部材19,20の内側端部27,28,29に摺接させつつ海苔作業船1上を通過させることができるので、簡易かつ安価な構成によって、吊り綱21a,21bをスムーズかつ安定的に通過させることができる。
【0064】
なお、本発明は、前述した実施の形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。例えば、本発明を、酸処理以外の海苔の健全育成を促進させる公知の薬剤処理、例えば、電界水、濃塩分水等を用いた処理に適用してもよいことは勿論である。
【0065】
さらに、前述した実施形態における海苔作業船1は、海苔網5に対する酸処理を行う機構のみを備えているが、本発明は、このような構成に限定されるものではなく、例えば、酸処理槽3に対して船首側の近傍位置に、海苔網5に繁殖した海苔を刈り取る刈り取り機構を設けるようにしてもよい。このような場合であっても、本実施形態における綱類通過装置17を用いることによって、海苔の刈り取り後における海苔網5の酸処理を行うにあたって、吊り綱21a,21bをスムーズかつ安定的に通過させることができ、酸処理を安定的に行うことができる。
【0066】
さらにまた、綱類通過部材19,20は、前述した内側端部27,28,29を有する板状の部材であってもよい。
【0067】
また、連結綱38は、必要に応じて複数本設けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に係る綱類通過装置、海苔網薬剤処理装置および海苔作業船の実施形態を示す平面図
【図2】図1の右側面図
【図3】図1の背面図
【図4】本発明に係る綱類通過装置、海苔網薬剤処理装置および海苔作業船の実施形態において、酸処理に用いる海苔網およびその設置構造を示す平面図
【図5】図4の斜視図
【図6】本発明に係る綱類通過装置、海苔網薬剤処理装置および海苔作業船の実施形態において、海苔網の掬い上げ開始前の状態を示す図
【図7】本発明に係る綱類通過装置、海苔網薬剤処理装置および海苔作業船の実施形態において、海苔網、吊り綱および側綱による海苔作業船上の通過状態を示す概略斜視図
【図8】本発明に係る綱類通過装置、海苔網薬剤処理装置および海苔作業船の実施形態において、図7の次工程における海苔網、吊り綱および側綱による海苔作業船上の通過状態を示す概略斜視図
【図9】本発明に係る綱類通過装置、海苔網薬剤処理装置および海苔作業船の実施形態において、図8の次工程における海苔網、吊り綱および側綱による海苔作業船上の通過状態を示す概略斜視図
【図10】本発明に係る綱類通過装置、海苔網薬剤処理装置および海苔作業船の実施形態において、図9と同一の工程における酸処理槽への海苔網の浸漬状態を示す概略横断面図
【図11】本発明に係る綱類通過装置、海苔網薬剤処理装置および海苔作業船の実施形態において、図9の次工程における海苔網、吊り綱および側綱による海苔作業船上の通過状態を示す斜視図
【符号の説明】
【0069】
1 海苔作業船
3 酸処理槽
5 海苔網
14 伸子棒
17 綱類通過装置
18 酸処理装置
19 右舷側綱類通過部材
20 左舷側綱類通過部材
21a,21b 吊り綱
27 第1の内側端部
28 第2の内側端部
29 第3の内側端部
36 支柱
38 連結綱
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海苔網に薬剤処理を施すための薬剤処理槽が形成された海苔作業船の上部における左右の両舷側の近傍にそれぞれ固定され、前記薬剤処理の際に、前記海苔網に連結された互いに異なる海苔網展張用の綱類を、船幅方向における内側にそれぞれ摺接させつつ船首側から前記薬剤処理槽を経て船尾側に通過させるように形成された一対の綱類通過部材であって、一方の綱類通過部材における前記網類を摺接させる内側端部と、他方の綱類通過部材における前記綱類を摺接させる内側端部との間の前記船幅方向の間隔が、船首側から薬剤処理槽側に向かうにしたがって狭くなり、かつ、薬剤処理槽側から船尾側に向かうにしたがって広くなるような形状に形成され、さらに、前記海苔網が前記内側端部の下方を通るように形成された一対の綱類通過部材を有すること
を特徴とする綱類通過装置。
【請求項2】
前記一方の綱類通過部材における前記内側端部と前記他方の綱類通過部材における前記内側端部との間の前記船幅方向の間隔のうちの少なくとも前記薬剤処理槽に対応する範囲における間隔が、前記海苔網に装着された伸子棒の幅よりも狭く形成されていることを特徴とする請求項1に記載の綱類通過装置。
【請求項3】
前記内側端部が、船首側から薬剤処理槽側に向かうにしたがって前記船幅方向における内側に傾く形状に形成された第1の内側端部と、この第1の内側端部に、前記薬剤処理槽における船首側の部位に対応する位置において連なり、船体全長方向に平行な形状に形成された第2の内側端部と、この第2の内側端部に、前記薬剤処理槽における船尾側の部位に対応する位置において連なり、薬剤処理槽側から船尾側に向かうにしたがって前記船幅方向における外側に傾く形状に形成された第3の内側端部とによって形成されていること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の綱類通過装置。
【請求項4】
海苔作業船の上部に形成された薬剤処理槽を有し、この薬剤処理槽に貯留された薬剤の処理液中に、前記海苔作業船上に掬い上げられた海苔網を浸漬させることによって、前記海苔網に薬剤処理を施す海苔網薬剤処理装置において、
前記海苔作業船の上部における左右の両舷側の近傍にそれぞれ固定され、前記薬剤処理の際に、前記海苔網に連結された互いに異なる海苔網展張用の綱類を、船幅方向における内側にそれぞれ摺接させつつ船首側から前記薬剤処理槽を経て船尾側に通過させるように形成された一対の綱類通過部材であって、一方の綱類通過部材における前記網類を摺接させる内側端部と、他方の綱類通過部材における前記綱類を摺接させる内側端部との間の前記船幅方向の間隔が、船首側から薬剤処理槽側に向かうにしたがって狭くなり、かつ、薬剤処理槽側から船尾側に向かうにしたがって広くなるような形状に形成され、さらに、前記海苔網が前記内側端部の下方を通るように形成された一対の綱類通過部材を有する綱類通過装置を備えたこと
を特徴とする海苔網薬剤処理装置。
【請求項5】
前記綱類が、海中に立設された支柱に前記海苔網を吊すための吊り綱とされ、かつ、前記綱類通過部材における前記内側端部に摺接しつつ前記海苔網を前記薬剤の処理液中に浸漬させることが可能な長さに形成されていること
を特徴とする請求項4に記載の海苔網薬剤処理装置。
【請求項6】
前記海苔網における薬剤処理方向の端部が、この端部に臨む側綱と連結手段を介して連結されており、前記薬剤処理の際に、前記側綱が、前記連結手段を介して前記海苔網との連結状態を保持しつつ前記一対の綱類通過部材の上部を通るように形成されていること
を特徴とする請求項4または請求項5に記載の海苔網薬剤処理装置。
【請求項7】
船体上部に、海苔網に薬剤処理を施すための薬剤処理槽が形成された海苔作業船において、
船体上部における左右の両舷側の近傍にそれぞれ固定され、前記薬剤処理の際に、前記海苔網に連結された互いに異なる海苔網展張用の綱類を、船幅方向における内側にそれぞれ摺接させつつ船首側から前記薬剤処理槽を経て船尾側に通過させるように形成された一対の綱類通過部材であって、一方の綱類通過部材における前記網類を摺接させる内側端部と、他方の綱類通過部材における前記綱類を摺接させる内側端部との間の前記船幅方向の間隔が、船首側から薬剤処理槽側に向かうにしたがって狭くなり、かつ、薬剤処理槽側から船尾側に向かうにしたがって広くなるような形状に形成され、さらに、前記海苔網が前記内側端部の下方を通るように形成された一対の綱類通過部材を有する綱類通過装置を備えたこと
を特徴とする海苔作業船。
【請求項1】
海苔網に薬剤処理を施すための薬剤処理槽が形成された海苔作業船の上部における左右の両舷側の近傍にそれぞれ固定され、前記薬剤処理の際に、前記海苔網に連結された互いに異なる海苔網展張用の綱類を、船幅方向における内側にそれぞれ摺接させつつ船首側から前記薬剤処理槽を経て船尾側に通過させるように形成された一対の綱類通過部材であって、一方の綱類通過部材における前記網類を摺接させる内側端部と、他方の綱類通過部材における前記綱類を摺接させる内側端部との間の前記船幅方向の間隔が、船首側から薬剤処理槽側に向かうにしたがって狭くなり、かつ、薬剤処理槽側から船尾側に向かうにしたがって広くなるような形状に形成され、さらに、前記海苔網が前記内側端部の下方を通るように形成された一対の綱類通過部材を有すること
を特徴とする綱類通過装置。
【請求項2】
前記一方の綱類通過部材における前記内側端部と前記他方の綱類通過部材における前記内側端部との間の前記船幅方向の間隔のうちの少なくとも前記薬剤処理槽に対応する範囲における間隔が、前記海苔網に装着された伸子棒の幅よりも狭く形成されていることを特徴とする請求項1に記載の綱類通過装置。
【請求項3】
前記内側端部が、船首側から薬剤処理槽側に向かうにしたがって前記船幅方向における内側に傾く形状に形成された第1の内側端部と、この第1の内側端部に、前記薬剤処理槽における船首側の部位に対応する位置において連なり、船体全長方向に平行な形状に形成された第2の内側端部と、この第2の内側端部に、前記薬剤処理槽における船尾側の部位に対応する位置において連なり、薬剤処理槽側から船尾側に向かうにしたがって前記船幅方向における外側に傾く形状に形成された第3の内側端部とによって形成されていること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の綱類通過装置。
【請求項4】
海苔作業船の上部に形成された薬剤処理槽を有し、この薬剤処理槽に貯留された薬剤の処理液中に、前記海苔作業船上に掬い上げられた海苔網を浸漬させることによって、前記海苔網に薬剤処理を施す海苔網薬剤処理装置において、
前記海苔作業船の上部における左右の両舷側の近傍にそれぞれ固定され、前記薬剤処理の際に、前記海苔網に連結された互いに異なる海苔網展張用の綱類を、船幅方向における内側にそれぞれ摺接させつつ船首側から前記薬剤処理槽を経て船尾側に通過させるように形成された一対の綱類通過部材であって、一方の綱類通過部材における前記網類を摺接させる内側端部と、他方の綱類通過部材における前記綱類を摺接させる内側端部との間の前記船幅方向の間隔が、船首側から薬剤処理槽側に向かうにしたがって狭くなり、かつ、薬剤処理槽側から船尾側に向かうにしたがって広くなるような形状に形成され、さらに、前記海苔網が前記内側端部の下方を通るように形成された一対の綱類通過部材を有する綱類通過装置を備えたこと
を特徴とする海苔網薬剤処理装置。
【請求項5】
前記綱類が、海中に立設された支柱に前記海苔網を吊すための吊り綱とされ、かつ、前記綱類通過部材における前記内側端部に摺接しつつ前記海苔網を前記薬剤の処理液中に浸漬させることが可能な長さに形成されていること
を特徴とする請求項4に記載の海苔網薬剤処理装置。
【請求項6】
前記海苔網における薬剤処理方向の端部が、この端部に臨む側綱と連結手段を介して連結されており、前記薬剤処理の際に、前記側綱が、前記連結手段を介して前記海苔網との連結状態を保持しつつ前記一対の綱類通過部材の上部を通るように形成されていること
を特徴とする請求項4または請求項5に記載の海苔網薬剤処理装置。
【請求項7】
船体上部に、海苔網に薬剤処理を施すための薬剤処理槽が形成された海苔作業船において、
船体上部における左右の両舷側の近傍にそれぞれ固定され、前記薬剤処理の際に、前記海苔網に連結された互いに異なる海苔網展張用の綱類を、船幅方向における内側にそれぞれ摺接させつつ船首側から前記薬剤処理槽を経て船尾側に通過させるように形成された一対の綱類通過部材であって、一方の綱類通過部材における前記網類を摺接させる内側端部と、他方の綱類通過部材における前記綱類を摺接させる内側端部との間の前記船幅方向の間隔が、船首側から薬剤処理槽側に向かうにしたがって狭くなり、かつ、薬剤処理槽側から船尾側に向かうにしたがって広くなるような形状に形成され、さらに、前記海苔網が前記内側端部の下方を通るように形成された一対の綱類通過部材を有する綱類通過装置を備えたこと
を特徴とする海苔作業船。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−11742(P2008−11742A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−184551(P2006−184551)
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【出願人】(000110882)ニチモウ株式会社 (52)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【出願人】(000110882)ニチモウ株式会社 (52)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】
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