説明

綿ちりめん生地、該綿ちりめん生地に用いる緯糸及び衣服並びに綿ちりめん生地の製造方法

【課題】 綿が有する吸湿特性とちりめんが有する点接触性から、日本風土にあった爽やかな着心地と適度な張り、そして手軽で実用性に富んだ綿素材を提供する。
【解決手段】 緯糸に糊付けした綿単糸を撚り回数1000〜3000回/mで左撚りに上撚りした左撚糸の綿単強撚糸と糊付けした綿単糸を撚り回数1000〜3000回/mで右撚りに上撚りした右撚糸の綿単強撚糸とを用いると共に、経糸に糊付けした上撚りしない綿単糸を用いて織成してなる綿100%の綿ちりめん生地、当該綿ちりめん生地を縫製してなる衣服、及び、綿単糸を糊付けした後に撚り回数1000〜3000回/mで左撚りに上撚りして左撚糸緯糸とし、綿単糸を糊付けした後に撚り回数1000〜3000回/mで右撚りに上撚りして右撚糸緯糸とし、当該左撚糸緯糸及び右撚糸緯糸と糊付けした上撚りしない綿単糸の経糸とを用いて綿ちりめん生地を織成し、この後に糊を洗い落とす綿ちりめん生地の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、綿ちりめん生地、該綿ちりめん生地に用いる緯糸及び衣服並びに綿ちりめん生地の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、緯糸又は経糸の一部に綿糸を使用したちりめん生地は汎用されている。また、緯糸に合成繊維と綿繊維とよりなる糸を用いて織成したちりめん生地を縫製してなるシャツ(特許文献1)や経糸或いは緯糸に綿糸と麻糸とを交互に使ったサッカーやシワのでる織物(特許文献2)が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭61−102401号公報
【特許文献2】特開昭63−112746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
日本各地で織られていた和装用綿織物が殆ど消滅したのは、生活スタイルが変って日々の生活において着物を着なくなったのが第一の要因であるが、オシャレ着として着物を着用した場合でも従来の綿織物の物理的欠点である放湿性の悪さや毛羽立ちによる裾さばきの悪さが問題視されていた。
【0005】
そこで、本発明は、前記問題点を解消し、日本風土にあった爽やかな着心地と適度な張り、手軽で実用性に富んだ綿素材を得ることを技術的課題としてその具現化をはかるべく研究・実験を重ねた結果、綿単糸を強撚糸化して緯糸に使用し、経糸には上撚りしない綿単糸を使用して綿ちりめん生地を織成することにより前記技術的課題を達成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって解決できる。
【0007】
即ち、本発明に係る綿ちりめん生地は、緯糸に糊付けした綿単糸を撚り回数1000〜3000回/mで左撚りに上撚りした左撚糸の綿単強撚糸と糊付けした綿単糸を撚り回数1000〜3000回/mで右撚りに上撚りした右撚糸の綿単強撚糸とを用いると共に経糸に糊付けした上撚りしない綿単糸を用いて織成してなる綿100%の綿ちりめん生地である。
【0008】
また、本発明に係る緯糸は、前記綿ちりめん生地に用いる糊付けした綿単糸を撚り回数1000〜3000回/mで左撚りに上撚りした左撚糸の綿単強撚糸緯糸である。
【0009】
また、本発明に係る緯糸は、前記綿ちりめん生地に用いる糊付けした綿単糸を撚り回数1000〜3000回/mで右撚りに上撚りした右撚糸の綿単強撚糸緯糸である。
【0010】
また、本発明に係る衣服は、前記綿ちりめん生地を縫製してなるものである。
【0011】
さらに、本発明に係る綿ちりめん生地の製造方法は、綿単糸を糊付けした後に撚り回数1000〜3000回/mで左撚りに上撚りして左撚糸緯糸とし、綿単糸を糊付けした後に撚り回数1000〜3000回/mで右撚りに上撚りして右撚糸緯糸とし、当該二種類の緯糸と糊付けした上撚りしない綿単糸の経糸とを用いて綿ちりめん生地を織成し、この後に糊を洗い落とすようにしたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、綿単糸を強く撚った綿単撚糸の左・右撚糸を各緯糸に用いると共に、上撚りしない綿単糸を経糸に用いて綿ちりめん生地を織成しているので、綿が有する吸湿特性とちりめんが有する点接触性から、日本風土にあった爽やかな着心地と適度な張り、そして手軽で実用性に富んだ綿素材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
実施の形態1.
【0015】
本実施の形態に係る綿ちりめん生地は、緯糸に糊付けした綿単糸を撚り回数1000〜3000回/mで左撚りに上撚りした左撚糸の綿単強撚糸と糊付けした綿単糸を撚り回数1000〜3000回/mで右撚りに上撚りした右撚糸の綿単強撚糸とを用い、経糸に糊付けした上撚りしない綿単糸を用いて織成したものである。
【0016】
前記綿単糸は、綿100%の30番手から60番手を使用すればよく、30番手の綿単糸の場合には、例えば、染色乾燥した8.5Kg(12反分)の綿単糸に対して糊付け天日乾燥後9.8Kgとなる重量程度の糊を付着させ、糊付け乾燥後の綿単糸を八丁撚糸機(湿式)で撚り回数1000〜3000回/mで撚って右撚糸と左撚糸との二種類の綿単強撚糸をつくり緯糸とする。当該綿単強撚糸緯糸において撚糸の撚り回数が1000回/m未満では、シボが弱く、ちりめん独特の風合いが出ないので好ましくなく、撚り回数が3000回/mを超えると綿糸に過大な歪みが加わり、伸度が極端に落ちて撚糸工程で20%強の糸切れが発生するので、製織合格製品の割合が極端に落ちるから好ましくない。
【0017】
前記綿100%の30番手から60番手の綿単糸において、前記と同様にして糊付けして上撚りを掛けないで綿単糸経糸とする。
【0018】
前記糊付けは、製織時に糸切れや毛羽立ちが起こらないように筬の滑りを良くするためである。
【0019】
前記綿単糸経糸に前記綿単強撚糸緯糸の右撚糸と左撚糸とを交互に打ち込んで綿ちりめん生地を織成し、織上がった後に綿ちりめん生地の糊を落とす。緯糸の強撚糸は右撚糸と左撚糸の二種類を準備して製織において交互に織り込んで行くことで綿ちりめん独特のシボ風合いが得られる。
【0020】
前記綿ちりめん生地によりゆかたを縫製する。
【0021】
なお、本実施の形態においては、右撚糸と左撚糸との各緯糸を交互に打ち込んだが、必ずしも交互である必要はなく、織り方によって二越し、三越しに打ち込んでもよい。さらに、前記二種類の緯糸に加えて他の従来の緯糸が打ち込まれていてもよい。
【0022】
本実施の形態では、綿単糸に糊付けして乾燥させた後に八丁撚糸機(湿式)で撚りを掛けたので、撚り回数1000〜3000回/mの右撚糸緯糸と左撚糸緯糸を得ることができ、糊付けして乾燥させた上撚りを掛けない綿単糸を経糸に用いたので、筬の滑りが良く、製織時に糸切れや毛羽立ちが起こらない。
【0023】
また、本実施の形態では、強い撚りの綿単糸の左・右撚糸緯糸と上撚りしない綿単糸の経糸とにより織成した綿ちりめん生地であるから、日本風土にあった爽やかな着心地と適度な張り、そして手軽で実用性に富んだ綿素材を提供することができ、また、当該綿ちりめん生地を縫製したゆかたであるから、温暖化による高温多湿の環境下でもべとつかず着心地の良いゆかたを提供できる。
【0024】
実施の形態2.
【0025】
本実施の形態に係る綿ちりめん生地の製造方法は、綿100%の30番手から60番手の綿単糸を使用し、例えば、30番手の綿単糸において染色乾燥した8.5Kg(12反分)の綿単糸に対して糊付け天日乾燥後9.8Kgとなる重量程度の糊を付着させる糊付工程と、糊を乾燥させる工程と、乾燥後の糊付綿単糸を張力を掛けながらスピンドル管に巻き取る工程と、八丁撚糸機(湿式)により一定の張力(22.5g(6匁)〜67.5g(18匁)の錘)を掛けながら糊付綿単糸を撚り回数1000〜3000回/mで撚って右撚糸と左撚糸とを得る綿単強撚糸工程と、前記綿単強撚糸工程で得た右撚糸と左撚糸との各綿単強撚糸を緯糸に用い、前記巻き取る工程で得た綿単糸を経糸に用いて右撚糸緯糸と左撚糸緯糸とを交互に織成して平織りの綿ちりめん生地を得る製織工程と、前記製織工程で得た綿ちりめん生地の糊を洗い落とす処理工程とを備えている。
【0026】
前記糊を乾燥させる工程において、経糸とする綿単糸においては、当該綿単糸を糊付機に通して均一に糊付けした後、自動乾燥させてもよく、緯糸とする綿単糸においては、気候条件にもよるが糊桶に一晩程浸けた後、自然乾燥させて糊を強く付着させればよい。これにより、八丁撚糸機で撚糸した糸の良さが綿ちりめん風合いを独特なものとする。
【0027】
前記処理工程を経た綿ちりめん生地を用いてゆかたを縫製すれば、綿ちりめん生地のゆかたを提供できる。
【実施例】
【0028】
綿100%の30番手の綿単糸に染色乾燥した8.5Kg(12反分)の綿単糸に対して糊付け天日乾燥後9.8Kgとなる重量の糊を付着させ、当該糊付綿単糸を乾燥させた後、糊付綿単糸を張力を掛けながらスピンドル管に巻き取り、八丁撚糸機(湿式)により22.5g(6匁)〜67.5g(18匁)の錘の張力を掛けながら糊付綿単糸を撚り回数2000回/mで右撚りと左撚りの上撚りに撚って右撚糸と左撚糸との各綿単強撚糸を得た。次に、綿100%の30番手の綿単糸を使用して前記と同様にして糊付け乾燥した後、スピンドル管に巻き取って糊付綿単糸の経糸を得た。次に、前記経糸に前記左・右強撚糸の各緯糸を交互に織り成して平織りの綿ちりめん生地を得た。次に、綿ちりめん生地の糊を洗い落としてゆかたを縫製した。
【0029】
比較例
【0030】
綿100%の従来の市販ゆかたを用意した。なお、当該市販ゆかたは生地巾44インチのドビー織で経糸に40番手綿単糸+21番手綿単糸の綿単糸を使用し、緯糸に20番手綿単糸を使用して製織されたもので、経糸及び緯糸とも撚糸としての上撚りは掛かっていない。
【0031】
前記実施例のゆかたと前記比較例の従来品ゆかたについて、男性5名、女性10名をモニターとして、着用時の「シャリ感」、「裾さばき」、「着やすさ」及び「着心地」に関する評価試験を実施した。結果を表1に示す。なお、「−」は良くないを表し、「+」は若干良いを表し、「++」は良いを表し、「+++」は非常に良いを表す。
【0032】
【表1】

【0033】
また、快適性を生地の通気性試験によって評価した。測定条件はカトーテック株式会社製KES-F8-AP1通気性試験機により測定、測定条件は測定環境:20℃,65%RH、試料面積:6.28cm、流量:25.1cm/s。通気抵抗R(Kpa・s/m)が大きい程、通気性の悪い生地であることを表す。
【0034】
通気性試験の結果は、前記実施例のゆかたにおいて、通気抵抗Rの平均値が0.025、標準偏差が0.0009に対して、従来品のゆかたにおいては、通気抵抗Rの平均値が0.029、標準偏差が0.0028であった。
【0035】
さらに、カトーテック株式会社製KES測定装置を用いてゆかたの風合い度を測定した。結果を表2に示す。なお、表中、「2HB/B」は曲げ変形における弾性成分とヒステリシス成分の比であり、「2HG/G」はせん断変形における弾性成分とヒステリシス成分の比であり、これらの値が大きい値となるほど着用による型崩れや皺が発生しやすいことを表す。「MMD/SMD」は表面粗さSMDに対する摩擦係数の変動MMDの比であり、小さな値を持つほど表面のタッチが滑らかであることを表す。「WC/W」は単位面積当たりの重量に対する圧縮仕事量の比であり、大きな値を持つほど繊維の充実度の割りに柔らかいことを表す。「WC/T」は厚さに対する圧縮エネルギーの比であり、大きな値を持つほど柔らかいことを表す。「W/T」は厚さに対する単位面積当たりの重量比であり、小さな値を持つほど空気の含有量が大きく、ふっくらとしていることを表す。
【0036】
【表2】

【0037】
表1より、「シャリ感」、「裾さばき」、「着やすさ」及び「着心地」とも実施例のゆかたが優れ、通気性試験より、実施例のゆかたの方が快適性に優れていることが確認できた。
【0038】
さらに、表2より、「2HB/B」、「2HG/G」、「MMD/SMD」、「WC/W」及び「WC/T」において、従来品のゆかたより実施例のゆかたの方が大きな値を示していた。従って、「2HB/B」と「2HG/G」とにより、実施例のゆかたが形態保持性に優れ、仕立て栄えすることを確認でき、生地表面の粗さを示す指標「MMD/SMD」により、実施例のゆかたの方が生地表面が粗く、摩擦抵抗が大きくなっていることを確認でき、生地圧縮に対する剛軟度を示す「WC/W」と「WC/T」とにより、実施例のゆかたは繊維の充実度の割には圧縮に対して柔らかい特性を有していることを確認できた。また、「W/T」において、従来品のゆかたより実施例のゆかたの方が小さい値を示していた。従って、実施例のゆかたにふっくら感があることを確認できた。
【0039】
即ち、本発明に係る綿ちりめん生地のゆかたは、着用時の形態保持性に優れ、手触り感はちりめん特有の硬さとシャリ味感とを有し、生地の圧縮(例えば、曲げ)に対して柔らかく、着用時は手触りほどの硬さを有しないことを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、きものへの入門編として位置付けられ、若者マーケットの拡大に貢献できると有望視されているゆかたを始め、爽やかな着心地が要求される各種衣服に利用できる。
【0041】
また、本発明は、最近再び見かけるようになった伊勢木綿や片貝木綿の着物の生地として利用できる。
【0042】
さらに、本発明に係る緯糸を久留米絣や綿薩摩絣等に採用できるから、伝統産業の綿織物の復興に貢献できる。
【0043】
従って、本発明の産業上利用性は非常に高いといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緯糸に糊付けした綿単糸を撚り回数1000〜3000回/mで左撚りに上撚りした左撚糸の綿単強撚糸と糊付けした綿単糸を撚り回数1000〜3000回/mで右撚りに上撚りした右撚糸の綿単強撚糸とを用いると共に経糸に糊付けした上撚りしない綿単糸を用いて織成してなる綿100%の綿ちりめん生地。
【請求項2】
請求項1記載の綿ちりめん生地に用いる糊付けした綿単糸を撚り回数1000〜3000回/mで左撚りに上撚りした左撚糸の綿単強撚糸緯糸。
【請求項3】
請求項1記載の綿ちりめん生地に用いる糊付けした綿単糸を撚り回数1000〜3000回/mで右撚りに上撚りした右撚糸の綿単強撚糸緯糸。
【請求項4】
請求項1記載の綿ちりめん生地を縫製してなる衣服。
【請求項5】
綿単糸を糊付けした後に撚り回数1000〜3000回/mで左撚りに上撚りして左撚糸緯糸とし、綿単糸を糊付けした後に撚り回数1000〜3000回/mで右撚りに上撚りして右撚糸緯糸とし、当該二種類の緯糸と糊付けした上撚りしない綿単糸の経糸とを用いて綿ちりめん生地を織成し、この後に糊を洗い落とすことを特徴とする綿ちりめん生地の製造方法。

【公開番号】特開2007−70774(P2007−70774A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−262099(P2005−262099)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(503092939)やまと株式会社 (1)
【Fターム(参考)】