説明

総蛋白質の定量方法およびそれに用いる総蛋白質定量用キット

【課題】検体中の干渉物質の影響を回避できる総蛋白質の新規定量方法およびそれに用いる新規定量用キットを提供することを課題とする。
【解決手段】検体と、2 以上のアルコール性水酸基を有するアミン、二糖およびシクロデキストリン類からなる群から選ばれるアルコール類を含む第 1 試薬とを混和させ、次いで、ビウレット試薬を含む第 2 試薬を添加してビウレット反応させることにより、検体中の干渉物質の影響を回避して、検体中の総蛋白質を正確に定量することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床検査分野で使用可能な検体中の干渉物質の影響を回避できる総蛋白質の定量方法およびそれに用いる総蛋白質定量用キットに関する。更に詳細には、本発明は、2 以上のアルコール性水酸基を有するアミン、二糖およびシクロデキストリン類からなる群から選ばれるアルコール類を用いて検体中の干渉物質の影響を回避できる総蛋白質の定量方法およびそれに用いる総蛋白質定量用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
血液中の蛋白の量は肝臓における蛋白質の製造機能や腎臓機能に関連していると考えられる。そのため、検体中の総蛋白質の定量は、慢性肝炎、肝硬変、膠原病、多発性骨髄腫、高蛋白血症、肝障害、肝硬変、ネフローゼ症候群、栄養不良、消化吸収障害等の診断のため、幅広く実施されている。
そのような蛋白質の定量としては、ビウレット法、Lowry 法、Bicinchonianate 法(BCA法)、Bradford 法等の呈色反応による定量方法が知られている。臨床検査の分野においては、総蛋白質の定量法として、ビウレット法は、発色感度が蛋白質の種類に関係なく一定であること、繁用の自動分析装置への適応が可能であることから、最も用いられている。
【0003】
しかし、ビウレット法では、乳ビ、溶血、ビリルビンや、血漿増量薬として使用されるデキストラン等が干渉物質となり、測定値に誤差を生じることがある。そこで、このような誤差を補正するために、デュマス(Doumas)らの方法(非特許文献1)、すなわち、銅を含まない別の試薬で検体盲検を取り演算する方法が知られている。しかし、この方法では、1つの測定項目を測定するのに、2 回測定して総蛋白質値を計算するため、通常の測定項目の2倍の時間を必要とするという問題があった。
デキストランの影響回避のため、デキストラナーゼを含む第 1 試薬とビウレット試薬を含む第 2 試薬からなる 2 試薬法を用いた総蛋白質測定試薬も開発されている(特許文献1)。この方法は、1つの測定項目を一回で測定できるという長所がある。しかし、酵素は、通常、高価であるため試薬コストが高くなったり、また、安定性を確保しにくい場合もあったり、ロット間で反応性が異なるという場合もある。
【0004】
【特許文献1】特開2002−350448号公報
【非特許文献1】Doumas, et al., Clin. Chem., Vol.27, No.10, 1981
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の課題は、上記問題を解決し、容易に入手できる化合物を用いて検体中のデキストランの影響を回避し、正確に定量可能な総蛋白質の定量方法および総蛋白質定量用キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決することを目的として鋭意研究した結果、2 以上のアルコール性水酸基を有するアミン、二糖またはシクロデキストリン類を用いることによって検体中の干渉物質の影響を回避でき、総蛋白質を正確に定量可能であることを見出し本発明を完成させた。
従って、本発明は、2 以上のアルコール性水酸基を有するアミン、二糖およびシクロデキストリン類からなる群から選ばれるアルコール類を用いることを特徴とする検体中の総蛋白質の定量方法に関する。
更に本発明は、2 以上のアルコール性水酸基を有するアミン、二糖およびシクロデキストリン類からなる群から選ばれるアルコール類を含む総蛋白質定量用キットに関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、2 以上のアルコール性水酸基を有するアミン、二糖およびシクロデキストリン類からなる群から選ばれるアルコール類を用いることよって、容易に入手できる化合物により検体中のデキストランの影響を回避して、正確に総蛋白質の定量が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で対象とする検体としては、ヒトから採取される血清、血漿、血液、尿などが挙げられる。
本発明では、検体中の総蛋白質量を定量する際に、デキストランなどの干渉物質の影響を回避するために、2 以上のアルコール性水酸基を有するアミン、二糖およびシクロデキストリン類からなる群から選ばれるアルコール類を用いる。なかでも、2 以上のアルコール性水酸基を有するアミンが、緩衝作用も有するので好ましい。
本発明においては、2 以上のアルコール性水酸基を有するアミンとしては、分子中に 2 以上のアルコール性水酸基を有するトリス系緩衝剤、分子中に 2 以上のアルコール性水酸基を有する GOOD’S 緩衝剤、分子中に 2 以上のアルコール性水酸基を有するアミノ糖などを例示できる。本発明において、トリス系緩衝剤とは、カルボン酸またはスルホン酸等の有機酸のユニットを有せずアルコール性水酸基を有する有機アミンであって、水に溶かしたとき緩衝作用を持つ緩衝剤をいう。2 以上のアルコール性水酸基を有するトリス系緩衝剤としては、例えば、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)、トリス(ヒドロキシエチル)アミン、ビス(ヒドロキシエチル)アミン、1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチルアミン、ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis-Tris)、それらの酸付加塩(例えば、塩酸塩など)等を例示できる。
【0009】
本発明において、GOOD’S 緩衝剤とは、分子中にカルボン酸またはスルホン酸等の有機酸のユニットを有する有機アミンであって、かつ水に溶かしたとき緩衝作用を持つ緩衝剤をいう。本発明に使用できる 2 以上のアルコール性水酸基を有する GOOD’S 緩衝剤としては、例えば、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)、2−ヒドロキシ−N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸(TAPSO)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸(TES)等を例示できる。
本発明においてアミノ糖とは、糖の水酸基の一部がアミノ基に置換された構造を有する化合物であり、例えば、グルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミンなどを例示できる。
本発明において二糖とは、CnH2nOn(nは5または6である)の分子式で表される単糖の 2 分子が、グリコシド結合により結合して 1 分子となったものをいう。そのような二糖としては、例えば、サッカロース、トレハロース、ラクトースを例示できる。
本発明において、シクロデキストリン類としては、例えば、α―シクロデキストリン、β―シクロデキストリン、γ―シクロデキストリンを例示できる。
【0010】
本発明に用いられる総蛋白質の定量方法は、デキストランにより呈色反応が干渉されるような定量方法であれば特に限定しない。このような定量方法として、ビウレット法、Lowry 法、Bicinchonianate 法(BCA法)等の呈色反応による定量方法を例示できる。本発明では、特に自動分析装置に適用可能な 2 試薬系のビウレット法が好適である。
本発明の方法により検体中の総蛋白質を定量するには、2 以上のアルコール性水酸基を有するアミン、二糖およびシクロデキストリン類からなる群から選ばれるアルコール類を含む総蛋白質定量用キットを用いて実施できる。2 試薬系ビウレット法を用いる場合、そのキットとしては、総蛋白質定量用キットであって、かつ、2 以上のアルコール性水酸基を有するアミン、二糖およびシクロデキストリン類からなる群より選ばれるアルコール類を含む第 1 試薬とビウレット試薬を含む第 2 試薬とから構成される総蛋白質定量用キットを用いることが好ましい。
この場合、そのキットに用いる第 1 試薬と第 2 試薬としては、第 1 試薬に 2 以上のアルコール性水酸基を有するアミン、二糖およびシクロデキストリン類からなる群から選ばれるアルコール類を含ませること以外は、従来知られている2 試薬系ビウレット法に用いるキットをそのまま使用することができる。例えば、第 1 試薬に 2 以上のアルコール性水酸基を有するアミン、二糖およびシクロデキストリン類からなる群から選ばれるアルコール類を含む緩衝液を使用し、第 2 試薬にビウレット反応に必要な銅イオンを含む成分を含んだ液を用いることができる。本発明を 2 試薬系で実施するときには、デキストランの影響回避のためのアルコール類は、第 1 試薬中、好ましくは 10〜2000 mM 程度、さらに好ましくは 50〜1000 mM 存在させると良い。
【0011】
本発明においては、第1試薬の緩衝液としては、デキストランの影響回避のために 2 以上のアルコール性水酸基を有するアミンとして、分子中に 2 以上のアルコール性水酸基を有するトリス系緩衝剤あるいは分子中に 2 以上のアルコール性水酸基を有する GOOD’S 緩衝剤を用いる場合には、それらの緩衝剤をそのまま、使用することも可能であり好ましい。
第1試薬の pH は、総蛋白質定量のため第 2 試薬と混合した際にその反応液が、アルカリ性になれば特に限定されないが、pH3〜13 であることが好ましい。
第2試薬としては、硫酸銅、EDTA 銅、硝酸銅などの銅 (II)イオンを含む化合物と、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの塩基性化合物を含むもので通常、2 試薬系ビウレット試薬の第2試薬に用いるものであれば特に限定しない。
第 2 試薬に含まれる各成分濃度は、ビウレット反応に必要な濃度の1〜5 倍、好ましくは 1.5〜3 倍であるが、第 1 試薬と第 2 試薬との添加量の比によって適宜、各成分濃度を変えることができる。なお、1倍濃度のビウレット試薬の処方の1例を表1に示す。
【表1】

【0012】
本発明の方法による総蛋白質の定量は、従来知られている 2 試薬系のビウレット法の方法に準じて行うことができる。例えば、検体に、前記に記載した第 1 試薬を加えて吸光度を測定し、次に第 2 試薬を加えて吸光度を測定し、液量補正後の吸光度の差を求め、あらかじめ作成しておいた検量線と比較して総蛋白質量を定量することができる。これらの測定は通常、汎用の自動分析装置で行うことができる。
【0013】
以下の実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
実施例1〜4
2 以上のアルコール性水酸基を有するアミンを用いた総蛋白質の測定
2 以上のアルコール性水酸基を有するアミンを用いて、デキストランを含む血清中の総蛋白質をビウレット法により測定し、それら緩衝剤のデキストランの影響回避の効果を検討した。
【0014】
検体
検体として、分子量約 40,000 のデキストランを 10% となるよう精製水に溶解したものと正常ヒト血清とを 1 対 1 で混合(デキストラン濃度5%相当)したものと、生理食塩水と正常ヒト血清とを 1 対 1 で混合(デキストラン濃度0%相当)したものの 2 種類を用いた。
【0015】
第1試薬
第 1 試薬は、2 以上のアルコール性水酸基を有するアミンとして、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis-Tris)等のトリス系緩衝剤、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)、2−ヒドロキシーN−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸(TAPSO)等の GOOD’S 緩衝剤を、各々 100mM となるように精製水に溶解したものを用いた。また、比較の緩衝剤として、酢酸ナトリウム 100mM(比較例1)または2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)(比較例2)、ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)(比較例3)、N−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸(CAPS)(比較例4)等の 2 以上のアルコール性水酸基を有しない GOOD’S 緩衝剤を用いた。
【0016】
第2試薬
第 2 試薬は臨床検査法提要等で示される公知のビウレット法試薬を以下のような組成で調製した。
硫酸銅(II)五水和物 24 mM
(+)−酒石酸ナトリウムカリウム四水和物 84 mM
ヨウ化カリウム 60 mM
水酸化ナトリウム 1500 mM
【0017】
測定
測定は日立7180形自動分析装置を用いて行った。検体 3μL に第 1 試薬 120μL を加え 37℃にて 5 分間加温後に、第 2 試薬 120μL を加えさらに 5 分間反応させ、自動分析装置の 2 ポイントエンド法により主波長 546 nm、副波長 700 nm での第 2 試薬添加前後の液量補正した吸光度の差を測定した。生理食塩水(0g/dL)と標準液(6.5g/dL)を用いて作成した検量線から各検体の吸光度を濃度に換算した。結果を表2に示す。
【表2】

【0018】
表2に示すように、酢酸ナトリウム等の緩衝剤においてデキストランの影響による測定値の正誤差が見られるのに対し、2 以上のアルコール性水酸基を有するアミンである緩衝剤を用いた場合は、デキストランの影響を回避して総蛋白質が正確に測定できることが判明した。
【0019】
実施例5〜7
二糖を用いた総蛋白質の測定
二糖を用いて、デキストランを含む血清中の総蛋白質をビウレット法により測定し、それらの効果を検討した。
第 1 試薬は、二糖としてサッカロース、トレハロース、ラクトース各々を 10%(292mM)となるように生理食塩水に溶解したものを用いた。また、比較例5として、グルコースを 10%となるように生理食塩水に溶解したもの、および比較例6として無添加の生理食塩水を比較例とした。検体、第 2 試薬、測定は上記の実施例1〜4と同様に行った。結果を表3に示す。
【表3】

【0020】
表3に示すようにグルコース添加および生理食塩水のみの場合においてデキストランの影響による測定値の正誤差が見られるのに対し、二糖を用いた場合は、デキストランの影響を回避して正確に総蛋白質が測定できることが判明した。
【0021】
実施例8〜9
シクロデキストリン類を用いた総蛋白質の測定
シクロデキストリン類を用いて、デキストランを含む血清中の総蛋白質をビウレット法により測定し、シクロデキストリン類の効果を検討した。
第 1 試薬は、シクロデキストリン類としてα―シクロデキストリン、γ―シクロデキストリンを各々を 5%となるように生理食塩水に溶解したものを用いた。また、生理食塩水を用いた場合を比較例7とした。検体、第 2 試薬、測定は上記の実施例1〜4と同様に行った。結果を表4に示す。
【表4】

【0022】
表4に示すように、生理食塩水においてデキストランの影響による測定値の正誤差が見られるのに対し、α―シクロデキストリンまたはγ―シクロデキストリンを 5%となるように溶解した第 1 試薬を用いた場合にはデキストランの影響を回避できていることが判明した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2 以上のアルコール性水酸基を有するアミン、二糖およびシクロデキストリン類からなる群から選ばれるアルコール類を用いることを特徴とする検体中の総蛋白質の定量方法。
【請求項2】
検体と、2 以上のアルコール性水酸基を有するアミン、二糖およびシクロデキストリン類からなる群から選ばれるアルコール類を含む第 1 試薬とを混和させ、次いで、ビウレット試薬を含む第 2 試薬を添加してビウレット反応させて検体中の総蛋白質を定量する請求項1の定量方法。
【請求項3】
2 以上のアルコール性水酸基を有するアミンが、分子中に 2 以上のアルコール性水酸基を有するトリス系緩衝剤、分子中に 2 以上のアルコール性水酸基を有する GOOD’S 緩衝剤または分子中に 2 以上のアルコール性水酸基を有するアミノ糖である請求項1または2の定量方法。
【請求項4】
二糖が、CnH2nOn(nは5または6である)の分子式で表される単糖の2 分子がグリコシド結合により結合して 1 分子となったものである請求項1から3のいずれかの定量方法。
【請求項5】
二糖がサッカロース、トレハロースまたはラクトースである請求項1から4のいずれかの定量方法。
【請求項6】
2 以上のアルコール性水酸基を有するアミン、二糖およびシクロデキストリン類からなる群から選ばれるアルコール類を含む総蛋白質定量用キット。
【請求項7】
2 以上のアルコール性水酸基を有するアミン、二糖およびシクロデキストリン類からなる群から選ばれるアルコール類を含む第 1 試薬と、ビウレット試薬を含む第 2 試薬とから構成され、ビウレット反応により定量するための請求項6の総蛋白質定量用キット。
【請求項8】
2 以上のアルコール性水酸基を有するアミンが、分子中に 2 以上のアルコール性水酸基を有するトリス系緩衝剤、分子中に 2 以上のアルコール性水酸基を有する GOOD’S 緩衝剤または分子中に 2 以上のアルコール性水酸基を有するアミノ糖である請求項6または7の総蛋白質定量用キット。
【請求項9】
二糖が、CnH2nOn(nは5または6である)の分子式で表される単糖の2 分子がグリコシド結合により結合して 1 分子となったものである請求項6から8のいずれかの総蛋白質定量用キット。
【請求項10】
二糖がサッカロース、トレハロースまたはラクトースである請求項6から9のいずれかの総蛋白質定量用キット。


【公開番号】特開2007−240337(P2007−240337A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−63530(P2006−63530)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】