説明

線材の表面処理装置および該表面処理装置を用いた電気めっき装置

【課題】線材の表面処理に影響を与えず、高速な表面処理を行うことができ、装置の小型化を可能とする、線材の表面処理装置を提供する。
【解決手段】処理槽5の両側に、線材2の許容曲率半径以上の半径を有するガイドローラ31a〜36bがそれぞれ軸方向に1列以上配されているガイドローラ装置3a、3bと、2個以上のプーリからなるプーリ列40a〜46e、41’e〜46’aをそれぞれ有しているライン変更プーリ装置4,4’とを備えており、最初のパスラインで処理槽5を通じた線材2が、第1のライン変更プーリ装置3bの1列目、第1のガイドローラ装置4’の1列目を介してUターンして、次のパスラインで処理槽5を通じ、第2のライン変更プーリ装置3aの1列目、第2のガイドローラ装置4の1列目を介してUターンして、その次のパスラインで処理槽5を通じる方法により表面処理を行う線材の表面処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線材を連続して搬送して表面処理を行うための装置、および該線材の表面処理装置を用いた電気めっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
線材製品の製造において、雰囲気ガス、めっき液、洗浄液などの流体を収容した処理手段に線材を連続して通し、該線材の表面に種々の処理を施すことが広く行われている。
【0003】
特許文献1には、金属線材の連続処理装置、具体的には、鋼線材への電気めっき処理装置が記載されている。この装置では、複数の連続するめっき槽を備える線材連続処理部の入口と出口に1個ずつローラが設けられるとともに、各めっきの間にそれぞれ1個ずつの給電ローラが設けられている。この連続処理装置では、それ以前のめっき槽間に複数のローラが設置されていた構成との比較では、めっき槽間のローラ数が減らされているものの、複数のめっき槽が直列に設置されていることから、装置の小型化を図るには限界がある。
【0004】
特許文献2には、線材に半田、ニッケル、亜鉛などを電気めっきする装置が記載されている。この装置では、第1のターンプーリを用いて線材のパスライン(走行経路)を、めっき槽上を空走するようにUターンさせて、第1のターンプーリに対して軸方向にわずかにずれている第2ターンプーリに送り、次に、第2のターンプーリによって線材のパスラインを再度Uターンさせて、同一のめっき槽を潜通走行させて、第2のターンプーリに対して軸方向にわずかにずれている第3のターンプーリに送ることにより、金属線材に連続的に電気めっきを施している。しかしながら、この装置では、被めっき線材をUターンさせる際に、前記被めっき線材はめっき槽内を潜通走行せず、めっきされないため、Uターン回数の増加に伴う処理時間の増加により、処理の高速化を図るには問題がある。また、1つのめっき槽に線材は2回のみ潜通走行するにすぎず、所定量のめっきを施すためには、複数のめっき槽を直列に配置する必要がある点で、特許文献1と同様の問題がある。
【0005】
特許文献3には、線材に電気めっきおよび焼鈍を連続して行う装置が記載されている。この装置では洗浄槽やめっき槽内に2つのローラを設置し、複数回にわたって線材をこれらのローラに巻きつけることで処理槽の大型化を回避し、かつ、複数の処理槽を設けることなくこれらの処理を行っている。しかしながら、この装置では、洗浄槽やめっき槽の中でローラの上下に引き回された線材を処理することになるため、線材処理に影響を及ぼさない程度の許容曲率半径を有するローラを完全に処理槽内に埋没させる必要がある。このため、これらの処理槽の小型化には限界がある。また、特許文献3では、ローラの具体的な構造は開示されていないが、単にローラに複数回ワイヤを巻き回した場合、線材のパスラインが安定せずに、相互に接触する危険性もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−158075号公報
【特許文献2】特開昭63−266091号公報
【特許文献3】特開昭59−129788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、線材の表面にめっきなどの処理を施すための表面処理装置において、線材の表面処理に影響を与えず、かつ、高速な表面処理を行うことができ、さらに、装置の小型化を可能とする、線材の表面処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、線材を処理槽に通じさせてその表面を処理するための表面処理装置に関する。
【0009】
特に、本発明の表面処理装置は、該処理槽の両側に、ガイドローラ装置とライン変更プーリ装置とを備えることを特徴とする。
【0010】
このうち、前記処理槽の両側に配置される第1および第2のガイドローラ装置は、前記線材の許容曲率半径以上の半径を有するガイドローラがそれぞれ軸方向に1列以上配されている。
【0011】
また、該ガイドローラ装置のそれぞれと前記処理槽との間に配置される第1および第2のライン変更プーリ装置は、2個以上のプーリからなるプーリ列をそれぞれ1列以上有している。各プーリ列においては、相互に軸方向および高さ方向に位置がずれている2個以上のプーリが、最初のプーリに接してから最後のプーリに接するまでの前記線材の経路を仮想円弧とした場合の半径が、前記線材の許容曲率半径以上となるように、順次備えられている。これらのガイドローラ装置およびライン変更プーリ装置は、最初のパスラインで処理槽を通じた線材が、第1のライン変更プーリ装置の1列目、第1のガイドローラ装置の1列目を介してUターンして、次のパスラインで処理槽を通じ、その後、第2のライン変更プーリ装置の1列目、第2のガイドローラ装置の1列目を介してUターンして、さらに次のパスラインで処理槽を通じるように構成されている。
【0012】
なお、前記第1および第2のライン変更プーリ装置の各プーリ列の高さは、前記第1および第2のガイドローラ装置の各ガイドローラの半径(すなわち、線材の許容曲率半径)の長さ以下であることが好ましい。
【0013】
以上の構成から理解されるように、各ガイドローラ装置のローラおよびライン変更プーリ装置のプーリ列が、少なくとも1列ずつ備えられることにより、線材は処理槽に3回通じることが可能となる。本発明では、これらの列数は任意に設定することが可能であり、第2のガイドローラ装置の1列目を介してUターンして、3つめのパスラインで処理槽を通過した線材は、同様に、第1のライン変更プーリ装置の2列目、第1のガイドローラ装置の2列目を介して、4つめのパスラインで処理槽を通過させ、第2のライン変更プーリ装置の2列目、第2のガイドローラ装置の2列目を介して、5つめのパスラインで処理槽を通過させるようにすることができる。
【0014】
なお、本発明を、巻き出しローラから巻き出された線材に対する最初の処理工程に適用する場合、前記最初のパスラインに、線材の巻き出しローラと、前記第2のガイドローラ装置に備えられ、線材の許容曲率半径以上の半径を有する予備ガイドローラと、前記第2のライン変更プーリ装置にさらに備えられ、相互に高さ方向に位置がずれている2個以上のプーリが、最初のプーリに接してから最後のプーリに接するまでの前記線材の経路を仮想円弧とした場合の半径が、前記線材の許容曲率半径以上となるように、順次備えられている予備プーリ列とを備えるようにして、前記巻き出しローラから巻き出された線材が、該予備ガイドローラおよび該予備プーリ列を介して、前記処理槽の最初のパスラインに通じるように構成する。
【0015】
一方、本発明を、処理後の線材が巻き取りローラに巻き取られる最後の処理工程に適用する場合、前記第2のライン変更プーリ装置の最終列および前記第2のガイドローラ装置の最終列を介してUターンして、最終のパスラインで処理槽を通じた線材を巻き取るための、巻き取りローラをさらに備えるようにする。
【0016】
本発明は、任意の処理槽を用いた表面処理工程のいずれにも適用させることはできるが、特に、前記処理槽内に設けられ、少なくとも前記線材を通じさせる複数のスリットが形成されている壁を有し、処理液をオーバーフローさせるように構成されている処理治具と、該処理治具に接続され、該処理液を供給する噴き上げ配管と、前記処理槽に接続され、オーバーフローした処理液を返送する戻り配管と、前記噴き上げ配管と前記戻り配管に接続され、該処理液を循環させるポンプとをさらに備える構造に、好適に適用される。
【0017】
また、本発明の線材の表面処理装置は、任意の表面処理工程に適用できるが、特にめっき処理工程に用いられる電気めっき装置として適用することが好ましい。この場合、本発明の表面処理装置のほか、前記処理槽の少なくも前後いずれかに線材にマイナスの電位を印加できる給電ユニットを配置し,前記処理槽内に処理液にプラスの電位を印加できる電極板を配置すればよい。
【0018】
給電ユニットについては、給電ローラなどの任意の構成を採用することができるが、本発明のめっき装置においては、導電性の回転軸に固定された2つのプーリと、該2つのプーリの間に、前記2つのプーリを通る線材を押さえて、前記導電性の回転軸が回転しうる抱き角度を前記2つのプーリに付与するように配置されているプーリとを備えるプーリ列を複数列有する、給電ユニットを好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、線材の表面処理を高速化しつつ、小型である線材の表面処理装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による装置構成の実施形態を示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図2】ライン変更プーリ装置の実施形態を示す概略斜視図である。
【図3】給電ユニットの実施形態を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図を参照しながら詳細に説明する。特に、本発明をめっき装置に適用した場合を中心に説明するが、本発明はめっき装置に限定されることはなく、また、以下の詳細な説明は、本発明の範囲を画定するものではない。
【0022】
本発明の線材の表面処理装置は、線材(2)を処理槽(5)に通じさせてその表面を処理するためのものである。本発明は、処理槽を用いた表面処理工程に広く適用できる。そのような、表面処理工程としては、雰囲気ガスを用いた表面処理、洗浄液を用いた表面洗浄処理、めっき液を用いためっき処理などがある。また、洗浄およびめっきのように連続的な工程のそれぞれに適用することも可能である。
【0023】
なお、以下の説明では、線材(2)として線径0.23〜1.00mmの銅製のワイヤの表面に電気めっきにより貴金属(銀、パラジウムなど)を被覆させる工程を例として、各構成部材の形状および大きさなどに言及するが、これらの形状および大きさは、本発明の適用される用途や線材の種類などに応じて、適宜変更可能である。
【0024】
図1に示すとおり、本発明の表面処理装置は、処理槽(5)の両側に、ガイドローラ装置(3a、3b)とライン変更プーリ装置(4、4′)とを備える。
【0025】
このうち、処理槽(5)の両側に配置される第1のガイドローラ装置(3b)と第2のガイドローラ装置(3a)には、線材(2)の許容曲率半径以上の半径を有するガイドローラ(31a〜36a、31b〜36b)がそれぞれ軸方向に1列以上、図示の例では6列ずつ配されている。図示の例では、それぞれのガイドローラ(31a〜36a、31b〜36b)の半径は、225mmであり、線材(2)の許容曲率半径である220mmより大きくなっている。
【0026】
各ガイドローラは、たとえば、それぞれ軸受を介して独立した回転軸に支持されるように構成してもよく、それぞれ軸受を介して共通する回転軸に支持されるように構成してもよい。図示の例では、各ガイドローラの間隔は80mmとなっている。
【0027】
また、ガイドローラ装置(3a、3b)のそれぞれと処理槽(5)との間に配置される、第1のライン変更プーリ装置(4′)と第2のライン変更プーリ装置(4)には、2個以上のプーリからなるプーリ列(41〜46、41′〜46′)がそれぞれ1列以上、図示の例では6列ずつ備わっている。
【0028】
図1および図2から理解されるように、各ライン変更プーリ装置(4、4′)の各プーリ列(41〜46、41′〜46′)には、相互に軸方向および高さ方向に位置がずれている2個以上のプーリ、図示の例では5つずつのプーリ(たとえば、41a〜41e、41′a〜41′e)が順次配されている。プーリの数は任意であり、装置構成に応じて、経路全体の仮想曲率半径が、線材(2)の許容曲率半径以上となる限り、適宜所望の個数によって構成することができる。なお、図2には、第2のライン変更プーリ装置(4)のみを示すが、第1のライン変更プーリ装置(4′)の構成は、後述する予備プーリ(40a〜41e)を備えないほか、各プーリ列(41′〜46′)が、第2のライン変更プーリ装置(4)の各プーリ列(41〜46)と対称的に配置されたものとなる。
【0029】
図示の例では、各プーリ列(41〜46、41′〜46′)の各プーリの半径は、32mmであり、これ自体は線材(2)の許容曲率半径である220mmより小さい。
【0030】
ただし、最初のプーリ(たとえば、41′a、41e)に接してから最後のプーリ(41′e、41a)に接するまでの線材(2)の経路を仮想円弧とした場合の半径が、線材(2)の許容曲率半径以上となるようになっている。図示の例では、上記仮想円弧の半径は225mmとなっている。
【0031】
このように構成することで、図1に示すとおり、第1および第2のライン変更プーリ装置(4、4′)の各プーリ列の高さは、第1および第2のガイドローラ装置(3b、3a)の各ガイドローラの半径(すなわち、線材の許容曲率半径)の長さ以下とすることができる。図示の例では、たとえば、最初のプーリ(41a)の高さを基準とすると、2番目から5番目(41b〜41e)のプーリの高さはそれぞれ、44mm、77mm、97mm、105mmとなっている。このようにライン変更プーリー装置を構成することで、線材(2)が接するプーリーを小型化、軽量化することができるため、プーリーの慣性を低減し、線材に負荷される張力を結果として低減することが可能である。
【0032】
なお、それぞれのプーリは、それぞれの高さごとに共通する回転軸に軸受を介して支持されている。これにより、線材(2)の摩擦によってトルクがかかった際に、各プーリ(41a〜46e)は、従動して回転するようになっている。また、各プーリ列(41〜46、41′〜46′)は、それぞれ同一ピッチで支持されている。図示の例では、80mmごとであり、これはガイドローラ(3a、3b)の配列ピッチと同じである。
【0033】
また、各列におけるプーリの配置は、軸方向に相互にずれるようになっている。図示の例では、8mmずつ相互にずれるようになっている。このようにして、各プーリは、線材(2)を次のパスラインへ順次複数回にわたって案内すること、および、次のガイドローラ(31a〜36a、31b〜36b)へ複数回に分けてスムーズに線材(2)を案内することという2つの目的が達成される。なお、上記のずらし量は、等間隔であることが好ましいが、必要に応じて、各ずらし量を変化させることも可能である。
【0034】
これらのガイドローラ装置(3a、3b)およびライン変更プーリ装置(4、4′)は、最初のパスラインで処理槽(5)を通じた線材が、第1のライン変更プーリ装置(4′)の1列目のプーリ列(41′)、第1のガイドローラ装置(3b)の1列目のガイドローラ(31b)を介してUターンして、次のパスラインで処理槽(5)を通じ、その後、第2のライン変更プーリ装置(4)の1列目のプーリ列(41)、第2のガイドローラ装置(3a)の1列目のガイドローラ(31a)を介してUターンして、さらに次のパスラインで処理槽を通じるように構成されている。
【0035】
このようにして、処理槽(5)を通ずる線材(2)のパスラインを、処理槽(5)の幅方向もしくは各装置の回転軸の軸方向に所定間隔をおいて複数形成することができる。
【0036】
図示の例では、処理槽(5)の両側で、それぞれ6列を有するガイドローラ装置(3a、3b)およびライン変更プーリ装置(4、4′)を介して、最初のパスラインを含めて、パスラインが40mm間隔で合計13本形成されることになる。すなわち、両側の各装置は、相手方側に対して40mmずつ位置が軸方向にずれているほか、基本的には対称的な構成は位置となっている。
【0037】
なお、パスラインの本数は、処理槽(5)の長さや表面処理の用途や線材の表面に被覆される被覆材料の量に基づいて、任意に決定される。よって、本発明の各装置においては、公知の手段により、それぞれの列数を任意に設定できたり、各ローラないしはプーリの間隔を任意に設定できたりするように構成することもできる。
【0038】
本発明の表面処理装置は、複数ある工程のうち、中間の処理工程において用いる場合には、最初のパスラインは、前工程から送り出された線材を、必要に応じて、別途のガイドローラにより高さを調整した上で、処理槽(5)に通じさせ、第1のライン変更プーリ装置(4′)の1列目のプーリ列(41′)に導けばよい。また、最後のパスラインは、第2のライン変更プーリ装置(4)の最終列(46)および第2のガイドローラ装置(3a)の最終列のローラ(36a)を介して、送り返されて処理槽(5)を通じたのち、次の工程に送り出すようにすればよい。
【0039】
ただし、本発明を、巻き出された線材に対する最初の処理工程に適用する場合、および、処理後の線材が最終的な製品となる最後の処理工程に適用する場合、さらには、図1に示すように、巻き出しと巻き取りの両方が行われる単独の処理工程に適用する場合、それぞれ、最初のパスラインの前方および最終のパスラインの後方に、それぞれ巻き出しローラ(1)と、巻き取りローラ(7)を配置すればよい。
【0040】
特に、本発明では、最初のパスラインに、線材の巻き出しローラ(1)と、第2のガイドローラ装置(3a)に備えられ、線材の許容曲率半径以上の半径を有する予備ガイドローラ(30a)と、第2のライン変更プーリ装置(4)にさらに備えられ、相互に高さ方向に位置がずれている2個以上のプーリ(40a〜40e)が、最初のプーリ(40a)に接してから最後のプーリ(40e)に接するまでの線材(2)の経路を仮想円弧とした場合の半径が、線材(2)の許容曲率半径以上となるように、順次備えられている予備プーリ列(40)とを備えるようにして、巻き出しローラ(1)から巻き出された線材が、予備ガイドローラ(30)および予備プーリ列(40)を介して、処理槽(5)の最初のパスラインに通じるように構成することで、綿材についていた巻き癖が修正され、スムーズな線材(2)の巻き出しが可能となる。
【0041】
なお、予備ガイドローラ(30)および予備プーリ列(40)を構成するプーリ(40a〜40e)の構成は、第1のガイドローラ(31〜36)および第1のライン変更プーリ装置(4)の各プーリ(41a〜46e)までと基本的には同じである。ただし、プーリ(40a〜40e)は、パスラインを変更する機能が不要であることから、軸方向において同じ位置に配置される。
【0042】
本発明の表面処理装置において、処理槽(5)の構成については任意であり、線材(2)に施す表面処理に応じて、適宜最良の構成を採用することができる。たとえば、洗浄、めっき、ウェットエッチング、潤滑剤などの塗布処理においては、図1(b)に示すように、処理槽(5)の底面に処理治具(6)を設けることが好ましい。処理治具(6)は、たとえば、処理槽の底面を矩形状に区切る側壁から構成される。該側壁には、少なくとも線材(2)を通じさせる複数のスリット(図示せず)がパスラインに応じて形成されている。ただし、該スリットからは、処理液の漏出は制限され、処理液は側壁上をオーバーフローするように構成される。図示の例では、処理槽(5)の大きさは、長さ1350mm×幅800mm×高さ220mmであり、処理治具(6)の大きさは長さ1050mm×幅560mm×高さ150mmである。これから理解されるように、本発明において処理治具(6)は非常にコンパクトな構成とすることができる。
【0043】
処理治具(6)には、底面側において、噴き上げ配管(10)と接続していて、噴き上げ配管(10)を介して、底面側より洗浄液やエッチング液などの薬液が供給され瑠用になっている。また、これらの薬液は処理治具(6)の側壁を越えてオーバーフローするようになっており、処理治具(6)からオーバーフローした薬液は、処理槽(5)の底面であって、処理治具(6)の外側に接続された戻り配管(11)を通じて、受槽(8)に返送および貯留され、ポンプ(9)によって再び噴き上げ配管(10)を通り、処理治具(6)に供給されるようになっている。このような構成により、薬液の循環使用が可能となる。
【0044】
以上のような構成により、線材(2)は、第2のライン変更プーリ装置(4)の予備列の各プーリ(40a〜40e)を通じて、最初のパスラインに入り、処理槽(5)に設置された処理治具(6)内を通過して、所定時間の処理が施される。処理槽(5)を出た後、そのパスライン上に最初のプーリ(41′a)が設置されている第1のライン変更プーリ装置(4′)の1列目のプーリ列(41′)を通過して、順次軸方向位置を変更しながら最後のプーリ(41′e)から第1のガイドローラ装置(3b)の第1列のガイドローラ(31b)の下側に導かれ、ガイドローラ(31b)によって折り返され、折り返された線材(2)は2番目のパスラインに入り、再度処理槽(5)内へと導かれる。
【0045】
なお、ガイドローラ装置(3a、3b)の各ローラの上側頂点を、処理槽(5)のパスラインと一致させることで、パスライン高さへの案内を目的とした別のライン変更プーリ装置が不要となる。なお、パスライン高さとガイドローラ(3a、3b)の各ローラの上側頂点が異なる場合でも、ライン変更プーリ装置(4)と同様の構成からなる、処理槽(5)のパスライン高さまで導くためのライン変更プーリ装置を別に設けることで、対応することも可能である。
【0046】
折り返された線材(2)が、処理槽(5)へと導入され、処理治具(6)にて所定時間の処理が施された後、同パスライン上に最初のプーリ(4e)が設置されたライン変更プーリ装置(4)の1列目のプーリ列(41)へと導入される。上述の通り、ライン変更プーリ装置(4)の1列目以降の各列の配置構成は、ライン変更プーリ装置(4′)と対称ではあるが、同様の構成となっているである。ライン変更プーリ装置(4)により、線材(2)は、3番目のパスラインに入り、第2のガイドローラ装置(3a)の1列目のガイドローラ(31a)の下側に導かれ、ガイドローラ(31a)によって折り返され、折り返された線材(2)は3番目のパスラインに入り、再度処理槽(5)内へと導かれる。
【0047】
このようにして、処理に必要な時間まで折り返しを繰り返し、必要な時間だけ処理された線材(2)は、第2のライン変更プーリ装置(4)および第2のガイドローラ装置(3a)を介して、最終のパスラインに入って、処理槽(5)に導かれ、処理された後、巻き取りローラ(7)によって巻き取られる。
【0048】
上記の構成により処理槽(5)の幅方向が許す限り、線材(2)を折り返して表面処理を施すことができるため、装置長は伸びることなく、所定の処理時間の確保が可能となる。
【0049】
また、折り返しを行うガイドローラ(3a、3b)は処理液の外にあるため、線材(2)の仕掛けが容易となる。さらに、近似的に許容曲率半径以上となるよう配置されたライン変更プーリ装置(4、4′)によって、線材(2)の許容曲率半径に左右されることなく、パスラインの変更が可能とあり、かつ、すべてのパスラインが処理治具(6)に平行に進入するように構成できる。このため、線材(2)が通過するために設けるスリットを小さくすることも可能であり、該スリットからの液漏れも少ないので、ポンプを小型化することもできる。
【0050】
処理治具(6)内の処理液は受槽(8)に溜められており、ポンプ(9)によって噴き上げ配管(10)を通して圧送される。処理治具(6)よりオーバーフローした処理液は処理槽(5)に設置された戻り配管(11)によって受槽(8)へと戻される。これにより、必要な液量は線材(2)を浸す程度で十分であり、ガイドドローラを処理液内に設けた場合と異なり、処理液の量が線材の許容曲率半径に左右されることがないため、処理槽(5)の小型化も可能となる。
【0051】
次に、図3を用いて、上記の表面処理装置を用いた線材の電気めっき装置について説明する。すなわち、本発明の線材の表面処理装置は、任意の表面処理工程に適用できるが、特にめっき処理工程に用いられる電気めっき装置として適用することが好ましい。この場合、上記の表面処理装置のほか、処理槽(5)の少なくも前後いずれかに線材(2)にマイナスの電位を印加できる給電ユニット(15)を配置し,処理槽(5)内に処理液にプラスの電位を印加できる電極板(図示せず)を配置すればよい。
【0052】
給電ユニット(15)については、給電ローラなどの任意の構成を採用することができるが、図3に示す給電ユニット(15)の一例においては、導電性の回転軸(14a)に固定された2つのプーリと、該2つのプーリの間に、前記2つのプーリを通る線材を押さえて、導電性の回転軸(14a)が回転しうる抱き角度を上記の2つのプーリに付与するように配置されているプーリとを備えるプーリ列を複数列有している。
【0053】
なお、給電ユニット(15)における列数は、すべてのパスライン数に対応する。たとえば、ライン変更プーリ装置(4、4′)がそれぞれn列である場合、パスラインは、2n+1の数となり、よって、給電ユニットの列数は、2n+1となる。たとえば、図2のライン変更プーリ装置(4)では、最初のパスラインに対応する予備列を除き6列であるから、給電ユニット(15)の列数は、図3に示すように、最初のパスラインも含めて、13列となる。
【0054】
各列のプーリは、水平方向の高さにおいて、両側のプーリの上端が中間のプーリの下端よりも高くなるように配置される。また、各列は、線材(2)が導入される最初のプーリについては給電プーリであり、その他のプーリは従動プーリとなっている。すなわち、線材(2)は、第2のガイドローラ(3a)および第2のライン変更プーリ装置(4)の予備列を通過した後、最初のパスラインに対応する給電ユニット(15)の第1列において、給電プーリ(13a)の上側を通り給電された後、従動プーリ(12a)の下側に導かれる。給電プーリ(13a)は従動プーリ(12a)によって押さえ込まれた線材(2)の摩擦によって、回転軸(14a)が回転しうる程度に抱き角度を与えられる。従動プーリ(12a)を通過した線材(2)は、従動プーリ(12b)の上側を通って、処理槽(5)内へ導かれる。すなわち、給電ユニット(15)の第1列により、第1のパスラインを通過する線材(2)に給電がなされる。
【0055】
第1のライン変更プーリ装置(4′)の1列目によりパスラインを変更させられ、第1のガイドローラ(3b)の1列目によって折り返されて、処理槽(5)の2番目のパスラインより出てきた線材(2)は、第2列の給電プーリ(13b)の上側を通り給電される。この第2列により、2番目のパスラインを通過する線材(2)に給電がなされる。同様に、給電プーリ(13b)は、従動プーリ(12c)によって押さえ込まれた線材の摩擦によって回転軸(14a)が回転しうる程度に抱き角度を与えられる。従動プーリ(12c)の下側、および、従動プーリ(12d)の上側を通り、線材(2)は、第1のライン変更プーリ装置(4)および第1のガイドローラ装置(3a)の1列目により折り返され、第1列と同様の構成である、給電ローラ(15)の第3列に導入され、給電プーリ(13c)、従動プーリ(12e、12f)を介して、処理槽(5)に導入される。これにより、3番目のパスラインを通過する線材(2)に給電がなされる。
【0056】
このようにして、線材(2)は、所定の処理が行われるまで折り返されるが、給電ユニット(15)の各列ごとに、各パスライン用の給電が行われる。このように、図3の構成では、折り返された線材(2)は進行方向が異なるため、同じ回転軸にある給電プーリの隣のプーリは必ず従動プーリとして設置される必要がある。
【0057】
図3の態様では、給電ユニット(15)は、処理槽(5)の前側に設置されているが、その設置は、前、後、または前後の両者でもよい。処理槽(5)の後ろ側に設置する場合には、第1のパスラインを通過した線材が1列目の給電ローラ(13a)と接触するように構成される。また、前後の両方に設置する場合、同様の構成とすることもできるが、列数を減じて、前側に設置される給電ユニット(15)に奇数のパスラインの給電を担当させ、後側に設置される給電ユニットに偶数のパスラインの給電を担当させるようにしてもよい。
【0058】
なお、プーリのうち、給電プーリ(13a、b、c、…)は、回転軸(14a)に直接、すなわち、回転軸(14a)と共に、回転するように外嵌固定される。一方、従動プーリ(12a、b、c、…)は、回転軸(14a)に軸受を介して相対的に回転可能に外嵌固定される。したがって、給電ユニット(15)における回転軸(14a)は、線材の摩擦により回転する給電ローラ(13a、b、c…)に応じて回転するため、配線部にはロータリーソレノイド(16)を設置する必要がある。よって、ロータリーソレノイド(16)から給電され、回転軸(14a)を介して、給電プーリ(13a、b、c…)に給電されるため、回転軸(14a)と給電プーリ(13a、b、c…)の材質については、導電性の良好な金属とすることが望ましい。
【0059】
なお、導電性の金属からなる軸受を介して、給電プーリ(13a、b、c…)を回転軸(14a)に対して回転可能に外嵌固定して、回転軸(14a)自体は回転しないように構成することも可能である。この場合には、ロータリーソレノイド(16)以外の回転軸への給電手段を採りうる。
【0060】
一方、従動プーリ(12a、b、c…)に用いられる材質としては、絶縁性を有するもの、たとえば塩化ビニールやポリプロピレンなどの絶縁性樹脂を用いることができる。
【0061】
給電ユニット(15)により、線材(2)には、マイナスの電位が印加される。一方、処理治具(6)内には、電極板(図示せず)を設け、該電極板は直流電源(図示せず)と接続してプラスの電位を印加できるように構成される。
【0062】
給電ユニット(15)の各プーリの大きさについては、ライン変更プーリ装置(4、4′)を構成する各プーリと同様とすることも可能である。図示の例では、給電プーリおよび従動プーリともに、直径が32mmであって、両側のプーリと中間のプーリの高さのずれは0〜10mmの間で可変である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
このように、本発明により、線材の表面処理についての高速化を実現しつつ、線材の表面処理装置をコンパクトに構成することができ、電気めっきをはじめとする、線材の表面処理の分野において幅広く適用することが可能であることから、本発明は、その処理のさらなる効率化、低コスト化に大きく寄与するものと考えられる。
【符号の説明】
【0064】
1 巻き出しローラ
2 線材
3 ガイドローラ
4 ライン変更プーリ
5 処理槽
6 処理治具
7 巻き取りローラ
8 受槽
9 ポンプ
10 噴き上げ配管
11 戻り配管
12 従動プーリ
13 給電プーリ
14a 回転軸
15 給電ユニット
16 ロータリーソレノイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材を処理槽に通じさせてその表面を処理するための表面処理装置であって、
該処理槽の両側に配置され、前記線材の許容曲率半径以上の半径を有するガイドローラがそれぞれ軸方向に1列以上配されている第1および第2のガイドローラ装置と、
該ガイドローラ装置のそれぞれと前記処理槽との間に配置され、相互に軸方向および高さ方向に位置がずれている2個以上のプーリが、最初のプーリに接してから最後のプーリに接するまでの前記線材の経路を仮想円弧とした場合の半径が、前記線材の許容曲率半径以上となるように、順次備えられているプーリ列がそれぞれ1列以上配されている第1および第2のライン変更プーリ装置とを備え、
最初のパスラインで処理槽を通じた線材が、第1のライン変更プーリ装置の1列目、第1のガイドローラ装置の1列目を介してUターンして、次のパスラインで処理槽を通じ、その後、第2のライン変更プーリ装置の1列目、第2のガイドローラ装置の1列目を介してUターンして、さらに次のパスラインで処理槽を通じるように構成されている、線材の表面処理装置。
【請求項2】
前記第1および第2のライン変更プーリ装置の各プーリ列の高さが、前記第1および第2のガイドローラ装置の各ガイドローラの半径の長さ以下である、請求項1に記載の線材の表面処理装置。
【請求項3】
前記最初のパスラインに、線材の巻き出しローラと、前記第2のガイドローラ装置にさらに備えられ、線材の許容曲率半径以上の半径を有する予備ガイドローラと、前記第2のライン変更プーリ装置にさらに備えられ、相互に高さ方向に位置がずれている2個以上のプーリが、最初のプーリに接してから最後のプーリに接するまでの前記線材の経路を仮想円弧とした場合の半径が、前記線材の許容曲率半径以上となるように、順次備えられている予備プーリ列とを有し、前記巻き出しローラから巻き出された線材が、該予備ガイドローラおよび該予備プーリ列を介して、前記処理槽の最初のパスラインに通じるように構成されている、請求項1に記載の線材の表面処理装置。
【請求項4】
前記第2のライン変更プーリ装置の最終列および前記第2のガイドローラ装置の最終列を介してUターンして、最終のパスラインで処理槽を通じた線材を巻き取るための、巻き取りローラをさらに備える、請求項1に記載の線材の表面処理装置。
【請求項5】
前記処理槽内に設けられ、少なくとも前記線材を通じさせる複数のスリットが形成されている壁を有し、処理液をオーバーフローさせるように構成されている処理治具と、該処理治具に接続され、該処理液を供給する噴き上げ配管と、前記処理槽に接続され、オーバーフローした処理液を返送する戻り配管と、前記噴き上げ配管と前記戻り配管に接続され、該処理液を循環させるポンプとをさらに備える、請求項1に記載の線材の表面処理装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の表面処理装置と、前記処理槽の少なくとも前後いずれかに配置される給電ユニットと、前記処理槽内に配置される電極板とを備える、電気めっき装置。
【請求項7】
前記給電ユニットが、導電性の回転軸に固定された2つのプーリと、該2つのプーリの間に、前記2つのプーリを通る線材を押さえて、前記導電性の回転軸が回転しうる抱き角度を前記2つのプーリに付与するように配置されているプーリとを備えるプーリ列を複数列有する、請求項6に記載の電気めっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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