説明

線維芽細胞の増殖の弱毒化

【課題】プロテオグリカンの改変を通じて、線維性細胞の異常な形成に関連する状態の処置のための方法および組成物を提供すること。コラーゲン合成を調節するため、TGFβの産生を減少させるため、線維芽細胞の増殖もしくは遊走を減少させるため、細胞由来のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンを放出させるため、および線維芽細胞状上で増殖因子結合部位を減少させるための方法および組成物を提供すること。強皮症、乾癬、ケロイド、肺線維症および外科的癒着のような線維芽細胞の過剰増殖に関する障害を処置するための方法および組成物を提供すること。
【解決手段】高度に精製された、特定のグリコサミノグリカン分解酵素(コンドロイチナーゼBおよびコンドロイチナーゼAC)を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、線維性組織の形成を阻害するための、コンドロイチナーゼBおよびコンドロイチナーゼAC、グリコサミドグリカン分解酵素を使用する方法および組成物である。
【背景技術】
【0002】
細胞表面上および細胞外基質中のプロテオグリカンは、可変性のグリコサミノグリカン鎖を含み、これは、ヘパラン硫酸およびコンドロイチン硫酸A、BまたはCを含む。いくつかのプロテオグリカンは、1つのタイプのグリコサミノグリカンのみを含むが、他は、ヘパラン硫酸およびコンドロイチン硫酸の混合物を含む(Jacksonら、Physiol.Rev.71:481−530、1991)。細胞外プロテオグリカンは、細胞および組織のための骨格構造を形成し、そして細胞関連プロテオグリカンと共に、細胞接着、細胞遊走、および細胞増殖を制御する際の主な機能を有する。プロテオグリカンおよびそれらの成分の一部の機能は、細胞代謝におけるヘパリン硫酸およびヘパラン硫酸の役割にかなりの重点を置いて、総括的に研究されている(Kjellen,L.およびLindahl,U.(1991)Ann.Rev.Biochem.60:443−475;Vlodavskyら(1995)Thrombosis Haemostasis 74:534−540;Yayonra(1991)Cell 64:841−848)。コンドロイチン硫酸グリコサミノグリカンを含む、プロテオグリカンの生物学的活性、および特に、細胞増殖でのそれらの効果について、ほとんど知られていない。
【0003】
グリコサミノグリカン合成の2種のインヒビター(クロレートおよびβ−キシロシド(β−xyloside))を、細胞周期の制御に対するヘパランとコンドロイチン硫酸プロテオグリカンとの相対的な寄与を試験するために使用した(Kellerら(1989)Biochem.28:8100−8107;Miaoら(1995)J.Cell.Biochem.57:713−184;Schwartz,N.B.(1977)J.Biol.Chem.252:6316−6321)。しかし、これらの化合物の両方は、硫酸化グリコサミノグリカンの全タイプの発現を阻害する。現在、コンドロイチン硫酸A、BまたはCの合成または発現を選択的に遮断し得るインヒビターは存在しない。しかし、細胞由来のヘパリン硫酸またはコンドロイチン硫酸A、BまたはCのいずれかを除去し得る、特定のグリコサミノグリカンリアーゼが、利用可能である。コンドロイチナーゼは、以下の種々の細菌種から単離された:Flavobacterium heparinum、Aeromonas sp.、Proteus vulgaris、Aurebacterium sp.およびBacillus theraiotamicron(Linhardtら(1986)Appl.Biochem.Biotech.12:135−175;Linnら(1983)J.Bacteriol.156:859−866;Michellacciら(1987)Biochim.Biophys.Acta.923:291−301;ならびにSatoら(1986)Agric.Biol.Chem.50:1057−1059)。
【0004】
コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの活性を試験したほとんどの研究(Lyonら(1998)J.Biol.Chem.273:271−278;Maedaら(1996)J.Biol.Chem.271:21446−21452;Milevら(1998)J.Biol.Chem.267:21439−21442;Rapraeger、1989、およびSchmidtら(1992)J.Biol.Chem.267:19242−19247)は、このような酵素の一つである、のコンドロイチナーゼABC(Proteus vulgaris由来、Yamagataら(1968)J.Biol.Chem.243:1523−1535)を利用した。このコンドロイチナーゼABCは、全てのコンドロイチン硫酸(コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸Cおよびコンドロイチン硫酸B)を分解する。コンドロイチナーゼABCは、1以上のタイプのコンンドロイチン硫酸で作用するので、この酵素を利用する、個々のタイプのコンドロイチン硫酸の生物学的な活性を決定することは、可能ではない。
【0005】
細胞増殖における、コンドロイチン硫酸Aプロテオグリカンまたはコンドロイチン硫酸Bプロテオグリカンまたはコンドロイチン硫酸Cプロテオグリカンの役割についての証拠としては、創傷治癒において生じるような迅速な細胞増殖の間のアップレギュレーション(PencおよびGallo(1998)J.Biol.Chem.273:28116−28121;Yeoら(1991)Amer.J.Pathol.138:1437−1450)ならびに休止細胞でのダウンレギュレーション(Taoら(1997)Atherosclerosis135:171−179)を示すデータが挙げられる。このような研究により、細胞表面コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの分泌および発現と細胞増殖との間に関係が存在し得ることが示唆される。
【0006】
創傷治癒における最近の研究により、コンドロイチン硫酸Bプロテオグリカンが創傷治癒の体液中に高濃度で存在し、そして創傷領域にこれらのプロテオグリカンを付加することにより、治癒を促進し得ることを見出した(PencおよびGallo,1998)。創傷治癒におけるコンドロイチン硫酸Bの作用機構は未知であるが、これらのプロテオグリカンが、細胞増殖に直接的または間接的に影響を与える得る可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、プロテオグリカンの改変を通じて、線維性細胞の異常な形成に関連する状態の処置のための方法および組成物を提供することは、本発明の目的である。
【0008】
コラーゲン合成を調節するため、TGFβの産生を減少させるため、線維芽細胞の増殖もしくは遊走を減少させるため、細胞由来のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンを放出させるため、および線維芽細胞状上で増殖因子結合部位を減少させるための方法および組成物を提供することが、本発明の別の目的である。
【0009】
強皮症、乾癬、ケロイド、肺線維症および外科的癒着のような線維芽細胞の過剰増殖に関する障害を処置するための方法および組成物を提供することが、本発明のさらなる目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要旨)
高度に精製された、特定のグリコサミノグリカン分解酵素(コンドロイチナーゼBおよびコンドロイチナーゼAC)は、線維増殖性疾患を処置するために使用される。コンドロイチン硫酸B、およびより重要でない範囲で、コンドロイチン硫酸AもしくはCの細胞表面からの酵素学的な除去により、細胞上の増殖因子レセプターを効果的に減少させ、これにより、このような増殖因子に対して細胞増殖応答を減少させる。さらに、コンドロイチン硫酸を除去することにより、主な細胞外基質成分のひとつであるコラーゲンの分泌を減少させる。線維芽細胞の増殖阻害とコラーゲン合成阻害との組合せを介して、コンドロイチナーゼBまたはコンドロイチナーゼACでの処理により、乾癬、強皮症、ケロイドおよび外科的癒着において見出された線維芽組織のサイズを減少させる。
・本発明はまた、以下を提供する:
・(項目1) 線維性組織形成を調節するための方法であって、
上記方法は、その処置の必要がある個体に対して、有効量のデルマタン硫酸分解酵素またはコンドロイチン硫酸分解酵素を投与する工程;
を包含する、方法。
・(項目2) 項目1に記載の方法であって、上記酵素は、細菌性のデルマタン硫酸分解酵素またはコンドロイチン硫酸分解酵素からなる群から選択され得、そしてFlavobacterium heparinum由来のコンドロイチナーゼACFlavobacterium heparinum由来のコンドロイチナーゼBBacteroides種由来のコンドロイチン硫酸分解酵素Proteus vulgaris由来のコンドロイチン硫酸分解酵素Microcossus由来のコンドロイチン硫酸分解酵素Vibrio種由来のコンドロイチン硫酸分解酵素Arthrobacter aurescens由来のコンドロイチン硫酸分解酵素哺乳動物細胞由来のアリールスルファターゼB、哺乳動物細胞由来のN−アセチルガラクトサミン−6−スルファターゼ、および哺乳動物細胞由来の+イズロネートスルファターゼからなる群より選択され得、これらの酵素は、細菌における組換えヌクレオチド配列およびそれらの組み合わせから発現され得る、方法。
・(項目3) 項目1に記載の方法であって、上記酵素は、哺乳動物酵素であり得る、方法。
・(項目4) 項目1に記載の方法であって、上記酵素は、細菌酵素であり得る、方法。
・(項目5) 項目4に記載の方法であって、上記コンドロイチナーゼは、コンドロイチナーゼBであり得る、方法。
・(項目6) 項目1に記載の方法であって、上記個体は、皮膚障害を有し得る、方法。
・(項目7) 項目1に記載の方法であって、上記皮膚障害は、強皮症または乾癬であり得る、方法。
・(項目8) 項目1に記載の方法であって、上記個体は、ケロイド瘢痕を有し得るか、またはケロイド瘢痕の危険性があり得るか、あるいは肺線維症を有し得る、方法。
・(項目9) 項目1に記載の方法であって、上記酵素は、全身投与され得る、方法。
・(項目10) 項目1に記載の方法であって、上記酵素は、処置の必要な部位にかまたはその部位付近に、局所的または局在的に投与され得る、方法。
・(項目11) 項目1に記載の方法であって、上記酵素は、制御された放出処方物および/または持続性放出処方物の形態で投与され得る、方法。
・(項目12) 器官線維症を含む障害の処置を必要とする個体に投与するための処方物であって、上記処方物は、線維症を阻害するために有効な量のデルマタン硫酸分解酵素またはコンドロイチン硫酸分解酵素と、薬学的に受容可能なキャリアとを含み得、上記投与量は、創傷治癒のために有効な量とは異なり得る、処方物。
・(項目13) 項目12に記載の処方物であって、上記酵素は、Flavobacterium heparinum由来のコンドロイチナーゼAC、Flavobacterium heparinum由来のコンドロイチナーゼB、Bacteroides種由来のコンドロイチン硫酸分解酵素、Proteus vulgaris由来のコンドロイチン硫酸分解酵素、Microcossus由来のコンドロイチン硫酸分解酵素、Vibrio種由来のコンドロイチン硫酸分解酵素、Arthrobacter aurescens由来のコンドロイチン硫酸分解酵素からなる群より選択され得、これらの酵素は、細菌における組換えヌクレオチド配列およびそれらの組み合わせから発現され得る、処方物。
・(項目14) 上記酵素が、哺乳動物酵素であり得る、項目12に記載の処方物。
・(項目15) 上記酵素が、細菌性コンドロイチナーゼであり得る、項目12に記載の処方物。
・(項目16) 上記コンドロイチナーゼが、コンドロイチナーゼBであり得る、項目15に記載の処方物。
・(項目17) 上記酵素が、制御された持続性放出処方物であり得る、項目12に記載の処方物。
・(項目18) コラーゲン合成を阻害するのに有効な投与量であり得る、項目12に記載の処方物。
・(項目19) 肺への送達のために有効なエアロゾル処方物の形態であり得る、項目12に記載の処方物。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(発明の詳細な説明)
コンドロイチン硫酸A、BまたはC、およびヘパラン硫酸を含むグリコサミノグリカンは、細胞表面(これらはサイトカインおよび増殖因子のためのコレセプターとして作用する)上および細胞外間隙(これらは細胞外物質の構造を形成し、組織および器官の支持および組織化構造として役立つ)に位置するプロテオグリカンの硫酸化ポリサッカリド成分である。
【0012】
Flavobacterium heparinum由来の超精製した2つの酵素、コンドロイチナーゼB(この唯一の基質は、コンドロイチン硫酸Bである)およびコンドロイチナーゼAC(この基質は、コンドロイチン硫酸AおよびCである)は、異なるコンドロイチン硫酸の活性間の区別、およびこれらのヒト皮膚線維芽細胞増殖への影響を直接評価することを可能にさせる。コンドロイチン硫酸プロテオグリカンは、細胞増殖を促進するという前提から始まり、今度は、コンドロイチンB、およびより少ない程度でコンドロイチンAまたはCを除去することが、細胞増殖を阻害することが実証された。
【0013】
高度に精製されたグリコサミノグリカン分解酵素(好ましくは、Flavobacterium heparinum由来)の使用によって線維症プロセスにおける事象を阻害する方法が、実施例において実証される。
【0014】
(酵素処方物)
(酵素)
実施例に記載されるコンドロイチナーゼBおよびコンドロイチナーゼACは、Flavobacterium heparinum由来のグリコサミノグリカン分解酵素である。両方の酵素は、i)細胞からのコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの放出;ii)細胞上の増殖因子結合部位の減少;iii)線維芽細胞増殖の減少;iv)TGFβ産生の減少、およびv)コラーゲン合成の減少およびそれによる線維性組織形成の減少によって細胞増殖および細胞外基質合成に関連する相互作用を調節する。
【0015】
グリコサミノグリカンは、異なる位置に硫酸基を保有する、交互にヘキソサミン残基およびヘキスロン残基からなる分枝していないポリサッカリドである。このクラスの分子は、二糖骨格の組成により3つのファミリーに分けられ得る。これらは:ヘパリン/ヘパラン硫酸(HexA−GlcNAc(SO4));コンドロイチン硫酸(HexA−GalNAc);およびケラタン硫酸(Gal−GlcNAc)である。
【0016】
代表的なグリコサミノグリカン分解酵素として、Flavobacterium heparinum由来のヘパリナーゼ1、Flavobacterium
heparinum由来のヘパリナーゼ2、Flavobacterium heparinum由来のヘパリナーゼ3、Flavobacterium heparinum由来のコンドロイチナーゼAC、およびFlavobacterium heparinum由来のコンドロイチナーゼB、Bacteroides種由来のヘパリナーゼ、Flavobacterium Hp206由来のヘパリナーゼ、Cytophagia種由来のヘパリナーゼ、Bacteroides種由来のコンドロイチン硫酸分解酵素、Proteus vulgaris由来のコンドロイチン硫酸分解酵素、Microcossus由来のコンドロイチン硫酸分解酵素、Vibrio種由来のコンドロイチン硫酸分解酵素、Arthrobacter aurescens由来のコンドロイチン硫酸分解酵素、細菌中で組換えヌクレオチド配列から発現されるこれらの酵素およびこれらの組み合わせが挙げられる。グリコサミノグリカンを分解する他の酵素は、哺乳動物細胞中に存在し、へパラナーゼ、アリールスルファターゼB、N−アセチルガラクトサミン−6−スルファターゼ、およびイズロネートスルファターゼを含む。
【0017】
コンドロイチン硫酸のファミリーは、硫酸化されていないコンドロイチン硫酸、過硫酸化されたコンドロイチン硫酸、および硫酸官能基の数および位置の異なるコンドロイチン硫酸A〜Eと命名された7つのサブタイプを含む。さらに、コンドロイチンBはまた、デルマタン硫酸と言われ、代替のヘキスロン酸位置においてイズロン酸が主な残基であることが異なる。
【0018】
コンドロイチン硫酸A,BおよびCは、哺乳動物に見出される主な形態であり、細胞分化、接着、酵素的経路およびホルモン相互作用を含む種々の生物学的活性の調節に関与し得る。コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの存在は、以下により報告されるような組織損傷および血管損傷への応答における細胞増殖後期で上昇する。Yeoら、Am.J.Pathol.138:1437〜1450、1991、RichardsonおよびHatton、Exp.Mol.Pathol.58:77〜95、1993、およびForresterら、J.Am.Coll.Cardiol.17:758〜769、1991。コンドロイチン硫酸はまた、Tabasら、J.Biol.Chem.、268(27):20419〜20432、1993により記載されるように血管の疾患およびリポタンパク質取り込みの進行に関与する事象に関連付けられている。
【0019】
コンドロイチナーゼは、以下いくつかの細菌種から単離されてきた:Flavobacterium heparinum、Aerommonas sp.、Proteus vulgaris、Aurebacterium sp.およびBacillus thetaiotamicron(Linhardtら、1986;Linnら、J.Bacteriol.156:859〜866、1983;Michelacciら、Biochim.Biophys.Acta.923:291〜201、1987;およびSatoら、Agric.Biol.Chem.50:1057〜1059、1986)。Ibex Technologies R and D、Inc.らによるPCT/US95/08560「Chondroitin Lyase Enzymes」は、天然に産生されるコンドロイチナーゼの精製、特にコンドロイチンBからのコンドロイチンACの分離方法、ならびに組換えコンドロイチナーゼの発現および精製方法を記載する。コンドロイチン硫酸を分解する哺乳動物の酵素として、アリールスルファターゼB、N−アセチルガラクトサミン−6−スルファターゼ、およびイズロネートスルファターゼが挙げられる。
【0020】
本明細書中で記載される方法および組成物において有用なこれらの酵素は、細胞、特に線維芽細胞表面上のプロテオグリカン、最も好ましくは、細胞増殖および/または遊走および/または遺伝子(特にコラーゲン)発現に関与するレセプターとして貢献するプロテオグリカンを切断する。
【0021】
(処方物)
局所的な適用のために、グリコサミノグリカン分解酵素は、キャリアと合わされ、その結果、適用部位での所望の活性に基づく有効投与量が送達される。局所的な適用のために、現在は、いくつかの軟膏およびクリームが他の治療剤のために使用される;これらの任意の1つがコンドロイチナーゼBまたはACの適用のために使用され得る。局所的組成物は、例えば、乾癬のような疾患の治療のために皮膚に適用され得る。キャリアは、軟膏、クリーム、ゲル、ペースト、泡、エアロゾル、坐剤、パッド、またはゲル状スティックであり得る。局所的な適用のために、現在、いくつかの軟膏およびクリームが使用される;これらの任意の1つがコンドロイチナーゼBまたはACの適用のために使用され得る。局所的な組成物は、薬学的に受容可能な賦形剤(例えば、緩衝化生理食塩水、鉱油、植物油(例えば、コーン油またはラッカセイ油)、石油ゼリー、ミグリオール(Miglyol)182、アルコール溶液、もしくはリポソームまたはリポソーム様産物)中の有効量のグリコサミノグリカン分解酵素からなる。
【0022】
局所投与または全身投与のための組成物は、一般的に不活性の希釈物を含む。例えば、注射剤のために、コンドロイチナーゼBまたはACは、生理学的に平衡化緩衝溶液中に調製され得る。非経口、皮内、皮下、または局所適用のために使用さる溶液または懸濁液は、以下の成分を含み得る:滅菌希釈物(例えば、注射用水、生理食塩液溶液、不揮発油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶媒);抗細菌剤(例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン);抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、または亜硫酸水素ナトリウム);キレート剤(例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸);緩衝剤(例えば、酢酸塩、クエン酸塩、リン酸塩)および塩化ナトリウムまたはデキストロースのような張度調整のための薬剤。非経口調製物は、アンプル、使い捨て可能なシリンジ、ガラスまたはプラスチック製の多回用量バイアル中に封入され得る。
【0023】
指向される内服局所適用のために、この組成物は、錠剤またはカプセル剤の形態である得、これは以下の任意の成分、または類似の性質の化合物を含み得る:結合剤(例えば、微結晶性セルロース、トラガントガムまたはゼラチン);賦形剤(例えば、デンプンまたは乳糖、崩壊剤(例えば、アルギン酸、プリモゲル(Primogel)、またはコーンスターチ);滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウムまたはステローツ(Sterotes));またはグリダント(例えば、コロイド状二酸化ケイ素)。投薬単位形態がカプセルである場合、上記型の材料に加えて、脂肪油のような液体キャリアを含み得る。さらに、投薬単位形態は、投薬単位の物理的形態を改変する種々のその他の材料(例えば、糖衣、セラック、腸溶剤)を含み得る。任意のこれらの処方物はまた、グリコサミノグリカン分解酵素にも細胞にも有害な影響を与えない、保存剤、抗酸化剤、抗生物質、免疫抑制剤、および他の生物学的に有効な薬剤、または薬学的に有効な薬剤を含み得る。
【0024】
グリコサミノグリカン分解酵素はまた、選択された部位で制御された期間にわたってグリコサミノグリカン分解酵素を放出する生体適合性の高分子移植物との組み合わせで投与され得る。好ましい生分解性の高分子の材料の例として、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリグリコール酸、ポリエステル(例えば、ポリ乳酸)、ポリグリコール酸、ポリエチレン酢酸ビニル、ならびにこれらのコポリマーおよび混合物が挙げられる。好ましい非生分解性高分子材料の例として、エチレン酢酸ビニルコポリマーが挙げられる。
【0025】
(組み合わせで投与され得る他の治療剤)
グリコサミノグリカン分解酵素は、単独または他の治療剤との組み合わせで投与され得る。例えば、この酵素は、抗菌剤、サイトカインおよびケモカイン(例えば、TNFα、TGFβ、I1−1、I1−6)に対する抗体、および抗炎症剤(例えば、コルチゾン)とともに投与され得る。
【0026】
他の組み合わせは、当業者に明らかである。
【0027】
(処置方法)
細胞の過剰増殖は、慢性疾患(例えば、乾癬、水腫性硬化症および肺性線維症)の特徴である。これらの疾患のそれぞれが、関連する器官を構成する個々の細胞型の複雑な相互作用を示す。一般論として、これらの疾患は制御されていない細胞増殖およびコラーゲンおよびグリコサミノグリカンの過剰な沈着により特徴付けられる(LiuおよびConnolly(1998)、Sem.Cutaneous Med.and Surg.17:3〜11;およびPhan,S.H.Fibrotic mechanisms in lung disease、Immunology of Inflammation、P.A.Ward編、New York:Elsevier、1983、121〜162頁)。コラーゲンは、線維性瘢痕組織の主な成分であると考えられるが、最近の研究は、硫酸化グリコサミノグリカンがこのような疾患を生じるコラーゲンの沈着および組織再構築にとって非常に重要であり得ることが示された(Bensadounら(1996)、Amer.J.Respir.Crit.Care Med.154:1819〜1828)。このような疾患の全てにおいてキーとなる細胞は、線維芽細胞である。線維芽細胞増殖およびマトリックスの分泌は、組織の厚さおよび密度の非常な増加の原因である。線維芽細胞は、外科手術後の接着および熱傷のような傷害後に形成するケロイドにおける過剰な瘢痕組織に主に寄与する。線維芽細胞増殖ならびにコラーゲンおよびグリコサミノグリカンの分泌を制御するメカニズムは複雑である。線維芽細胞を活性化する物質として、他の細胞および線維芽細胞自体により産生されるサイトカイン、ケモカインおよび増殖因子が挙げられる。このようなサイトカインの1つは、コラーゲン合成のキーとなるコントローラー、TGFβである。TGFβは線維芽細胞により分泌され、それ自身の分泌を高めるためにフィードバックされ得、線維芽細胞マトリックス産生および線維芽細胞増殖の両方を増加する。TGFβ活性は、特定のレセプターの相互作用を介して媒介され、硫酸化グリコサミノグリカンは、それらおよび他のマトリックスタンパク質と会合する(Segariniら(1989)、Molecular Endocrinol.3:261〜272)。
【0028】
実施例に示されるように、グリコサミノグリカン分解酵素は、特定の適用に適切であるようにコラーゲン合成、線維芽細胞増殖または線維芽細胞遊走を調節するために効果的な投薬量で処置されるべき部位に投与され、細胞からコンドロイチン硫酸プロテオグリカンを放出し;細胞状の増殖因子結合部位を減少し、そしてこれにより線維性組織形成を減少する。局所、局在、皮内、または全身適用のいずれかである。
【0029】
コンドロイチナーゼBまたはコンドロイチナーゼACは、例えば、強皮症、乾癬およびケロイドの損傷に局所的に適用され得;または、例えば、ケロイドおよび外科手術の融合部へ皮下(局在的に)注射され得る。これらのコンドロイチナーゼはまた、全身的に使用され、静脈内注射または直接的な肺へのエアロゾル投与を介して肺線維症を処置し得る。
【実施例】
【0030】
(実施例)
本発明は、以下の制限ではない実施例を参照することによりさらに理解される。
【0031】
(実施例1:酵素基質特異性)
コンドロイチナーゼB(EC番号なし)およびコンドロイチナーゼAC(EC4.2.2.5)は、Flavobacterium heparinumで発現される組換えタンパク質である(PCT/US/95/08560「Chondroitin Lyase Enzymes」)。速度論的な分光光度的アッセイ(基本的にはPCT/US95/0856に記載されるように実施した)を使用して比活性および基質特異性を各酵素について決定した。これらのアッセイにおいて、酵素の濃度は、0.25IU/mlであり、基質濃度は0.5mg/ml(コンドロイチン硫酸Bおよびコンドロイチン硫酸AC)または0.75mg/ml(ヘパラン硫酸)であった。酵素の特異的活性は:コンドロイチナーゼBについて97IU/mgおよびコンドロイチナーゼACについて221IU/mgであった。
【0032】
超精製コンドロイチナーゼBおよびコンドロイチナーゼACの基質特異性を酵素のコンドロイチン硫酸B、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C、およびヘパラン硫酸を分解する能力を試験することにより決定した。表1に示すように、両酵素は、対応する硫酸化グリコサミノグリカンに対して活性であった(他のグリコサミノグリカンのいずれかに対しては0.2%以下の活性を有する)。これらの結果は、本願で使用される精製されたコンドロイチナーゼBおよび精製されたコンドロイチナーゼACの基質特異性を確認する。
(表1:グリコサミノグリカンに対する酵素活性の比較)
【0033】
【表1】

【0034】
酵素活性を各基質でのIU/mlとして、および各基質に対する相対的な活性として示す。相対的な活性を、好ましい基質(コンドロイチナーゼBに対してCSB、コンドロイチナーゼAC対してCSA。CSB=コンドロイチン硫酸B;CSA=コンドロイチン硫酸A;CSC=コンドロイチン硫酸C;HS=ヘパラン硫酸)について100%とした後に決定した。基質濃度は500mcg/ml(CSB、CSA、CSC)または750mcg/ml(HS)であった。
【0035】
(実施例2:グリコサミノグリカンの細胞からの除去)
細胞からの硫酸化グリコサミノグリカン除去におけるコンドロイチナーゼBおよびコンドロイチナーゼACの有効性を35Sとともにインキュベーションすることにより標識されたグリコサミノグリカンを含有する細胞を使用して調べた。線維芽細胞を24ウェルのプレートに6×104細胞/ウェルの密度で10%血清を含有するDMEM中にプレートした。24時間後、培地を10%血清および25μCi/mlのNa235SO4を含むフィッシャー培地に替え、2.5日間インキュベーションを続けた。培地を除去し、細胞をDMEMで2回リンスし、次に示されたようにコンドロイチナーゼBまたはコンドロイチナーゼACで処置した。培地を除去し、放射性活性を決定した。酵素による硫酸化グリコサミノグリカンの細胞からの放出をコンドロイチナーゼ処置細胞のcpm/ウェルから非処置細胞のcpm/ウェルを差し引いて表した。
【0036】
細胞を1.0IU/mlのコンドロイチナーゼBに37℃で種々の時間曝露した。図1Aに示されるように、コンドロイチナーゼBによる硫酸化GAGの最大放出は、1時間の酵素への曝露後に達成された。コンドロイチナーゼBの濃度を変えて線維芽細胞を1時間処理したさらなる実験を行った。図1Bは、硫酸化グリコサミノグリカンの線維芽細胞からの放出はまた、使用されるコンドロイチナーゼBの濃度に依存することを示す。
【0037】
コンドロイチナーゼACによる硫酸化GAGの放出を0.1および1.0IU/mlの酵素で線維芽細胞を1または2時間処置することにより調べた。図2に示されるように、硫酸化GAGのコンドロイチナーゼACによる放出は、時間および用量の両方に依存した。最大放出は、1.0IU/mlの酵素で2時間処置した後に達成された。
【0038】
(実施例3:bFGF結合への影響)
ヨウ素化された(iodinated)bFBFをDupont NEN(比活性が1200Ci/mmmolより大きい)から得た。線維芽細胞を48ウェルの培養皿にプレートし、コンフルーエンスまで増殖させた。結合アッセイの前に、細胞を培地または酵素で増殖アッセイについて記載したように処理した。酵素処置の次に、細胞を冷却し、結合アッセイを4℃で行った。結合緩衝液(DMEM、25mM HEPES、0.05%ゼラチン)中25ng/mlの125I−bFGFのみ、または結合緩衝液中に加えた25μg/mlの標識していないbFGFとともに細胞を1時間インキュベートした。bFGFとのインキュベーション後、細胞を氷冷結合緩衝液で2回洗浄した。グリコサミノグリカンに結合した125I−bFGFを洗浄緩衝液(20mMのHEPES、pH7.4中の2M NaCl)を使用して2回のリンスで除去した。レセプターに結合した125I−bFGFを洗浄緩衝液(pH4.0)(FannonおよびNugent(1996)、J.Biol.Chem.271:17949〜17956)を使用して2回洗浄することにより除去した。
【0039】
多数の増殖因子が、細胞表面上のヘパラン硫酸プロテオグリカンに結合することが示されてきた。しかし、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンに結合する増殖因子に関する情報はほとんどない。従って、コンドロイチナーゼBおよびコンドロイチナーゼACの線維芽細胞に結合するような増殖因子(bFGF)への効果を調べた。コンドロイチンB処理した細胞では、細胞表面のグリコサミノグリカンおよびレセプターの両方に結合するbFGFの量が酵素濃度の増加とともに減少した(図3)。グリコサミノグリカンに特異的な結合は、使用された最高の酵素濃度(10IU/ml)で51±6%(n=3)まで有意に減少した。レセプターの結合は、1.0および10IU/mlでそれぞれ32±9%(n=3)および31±8%(n=3)まで有意に減少した。
【0040】
bFGF結合データのスキャッチャードプロット分析により、コンドロイチナーゼB処理した細胞上のレセプターの数が、コントロールと比較して減少することが見出され、ここで結合親和性変化はなかった(図4)。コンドロイチナーゼB処置した線維芽細胞は、1.8(±0.6)×105のレセプターを有したが、一方、処置していない線維芽細胞は、3.0(±0.8)×105のレセプターを有した。コンドロイチナーゼ処理した線維芽細胞における結合親和性は、コントロールにおける16.7±2.9nMと比較して15.3±3.6nMであった(n=5)。
【0041】
コンドロイチナーゼACは、線維芽細胞に結合するbFGFを阻害する効果がより少なかった。bFGFの結合は、0.01〜1.0IU/mlのコンドロイチナーゼACによっては影響されなかったが、10IU/mlで有意な阻害が見出された。10IU/mlのコンドロイチナーゼACで、GAGおよびレセプターとの特異的な結合は、それぞれ46±2%、および54±3%まで阻害された。
【0042】
(実施例4:増殖に対する効果)
ヒト皮膚線維芽細胞を、Clonetics,Inc.,San Diego,CAから入手した。細胞をDMEM(1%抗生物質、および10%血清を含む)中で培養した。増殖アッセイを以前に記載されたように行った(DenholmおよびPhan(1989)Amer.J.Pathol.,134:355−363)。簡潔には、細胞を10%血清含有DMEM中にプレーティングし;24時間後、培地を無血清培地と置き換え、そしてインキュベーションをさらに24時間続けた。次いで、細胞を、無血清のDMEM単独か、または指定された濃度の酵素を含む無血清のDMEMのいずれかを用いて、37℃で1時間処理した。酵素処理の後、細胞をDMEMを用いて1回リンスし、次いで10%血清含有DMEMを加え、そして48時間インキュベートした。bFGFを使用する実験において、100pg/ml bFGFを含むか、または含まないDMEM(2mg/ml BSAを含む)を使用した。各々の実験についてのコントロールは:(ネガティブ)無血清培地中でインキュベートした未処理の細胞、および(ポジティブ)10%血清含有DMEM中でインキュベートした未処理の細胞であった。ウェル当たりの細胞数をCyQuantアッセイ法(Molecular
Probes,Eugene,OR)を用いて定量した。蛍光/ウェルを、CytoFluor Series 4000 蛍光プレートリーダー(PerSeptive Biosystems)を使用して決定し、そして細胞数を標準曲線から計算した。ネガティブコントロールにおける細胞/ウェルの平均数は、3.0±0.3×104であり、ポジティブコントロールに関しては9.0±0.8×104であった(平均±標準誤差;n=10)。各々の実験についてのコントロールに基づいて、データを%阻害として表し、ここで%阻害=1−[(細胞数/ウェル 酵素処理)/(細胞数/ウェル 未処理)]×100%である。
【0043】
コンドロイチナーゼBまたはコンドロイチナーゼACを用いた線維芽細胞の処理が、これらの細胞の増殖に対して効果を有するかどうかを決定するために、実験を行った。細胞を、0.01〜10IU/mlのコンドロイチナーゼBで1時間予め処理した場合(図5A、黒丸)、10%胎仔ウシ血清(血清)に応答した線維芽細胞の増殖が、用量依存型で阻害された。コンドロイチナーゼB処理線維芽細胞についての増殖の最大阻害は、0.3〜10IU/mlで、47〜63%であった。線維芽細胞のコンドロイチナーゼAC処理もまた、血清に対する増殖応答を、用量依存型で阻害した(図5B、黒丸)。1.0〜10IU/ml用量のコンドロイチナーゼACで、19〜44%の阻害がみられた。
【0044】
結合実験により、コンドロイチナーゼBおよびコンドロイチナーゼACでの処理が線維芽細胞に対するbFGF結合を減少させたことが明らかになったので、線維芽細胞増殖実験を、血清の代わりに、bFGFを使用して、繰り返した。コンドロイチナーゼBを用いたコンドロイチン硫酸Bの除去は、bFGFに対する増殖応答を、用量依存型で阻害した(図5A、白ヌキ丸)。しかしながら、bFGFに応答する増殖の阻害は、血清に対する応答の阻害に必要であった濃度より、高濃度の酵素を必要とした。1.0IU/mlより低いコンドロイチナーゼB濃度では、阻害は観察されず;最大阻害は、10IU/mlの濃度で、26±4%であった。レセプターへのbFGF結合に対するコンドロイチナーゼBの効果と、細胞増殖に対する効果との間には、有意な相関があった(r2=0.987、p<0.003)。
【0045】
線維芽細胞のコンドロイチナーゼAC処理は、bFGFに応答する線維芽細胞の増殖に対する効果を、ほとんど有さなかった(図5B,白ヌキ丸)。bFGF結合と同様に、増殖の阻害を検出するためには、10IU/mlのコンドロイチナーゼACが必要であった。
【0046】
(実施例5:線維芽細胞におけるコラーゲン合成の阻害)
コラーゲンの合成および分泌に対するコンドロイチナーゼBの効果を、ELISAアッセイにおいて試験した。ヒト皮膚線維芽細胞を、96ウェルプレートに、1×104細胞/ウェルの密度で、10%血清を含む培地中にプレーティングした。3日後、培地を、50μg/mlのアスコルビン酸を含む無血清培地に交換し、インキュベーションを24時間以上続けた。細胞を、0〜10IU/mlのコンドロイチナーゼBで1時間処理し、次いで、無血清培地を用いて1回洗浄し、そして25 ng/ml TGF−βを含むか、または含まない新しい培地(アスコルビン酸を含む)を加えた。次いで、線維芽細胞を、37℃で72時間インキュベートした。培地を細胞から除去し、そして細胞を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液中0.02M NH4OHおよび0.5%Tritonの溶液を5分間加えることによって溶解した。残った細胞外マトリックスをPBSを用いて2回洗浄した。細胞外マトリックスのコラーゲン含量を、直接ELISAを使用(一次抗体として抗ヒトI型コラーゲンマウスモノクローナル抗体を、そして二次抗体としてホースラディシュペルオキシダーゼ結合抗マウスヤギ抗体を用いる)してアッセイした。450nmの吸光度をマルチウェル分光光度計で読み取ることによって、コラーゲンを定量した。ウェル当たりのコラーゲンの量は、種々の濃度のヒトI型コラーゲンの標準曲線より計算された。
【0047】
図6に示したように、コンドロイチナーゼBは、コラーゲンの分泌および細胞外マトリックスへ取りこみを阻害した。1IU/mlおよび10IU/mlのコンドロイチナーゼBで処理した線維芽細胞のマトリックス中のコラーゲンの量は、未処理細胞のコラーゲン量より、有意に少なかった。この効果は、コラーゲン合成がTGFβで刺激された細胞でより顕著であった。
【0048】
(実施例6:マウス皮膚器官の培養物における線維芽細胞増殖の阻害)
Flaky skinマウス(fsn/fsn)由来の皮膚を、これらの実験に使用した。Flaky skinマウスは、ヒトの乾癬にみられる病変に良く似た皮膚病変を発症する自然突然変異体である(Sunderbergら(1997)Pathobiology 65:271−286)。これらのマウスの皮膚は、7週齢までに、顕著に肥厚し、そして鱗状になる。組織学的検査によって、表皮層および真皮の広範囲な肥厚が示される。真皮の増加は、線維芽細胞の異常増殖およびこれらの細胞によるコラーゲン合成の増加に起因する。真皮の肥厚を減少させる任意の薬理学的な物質は、乾癬および強皮症のような病気の処置において有用性を有し得る。
【0049】
Flaky skinの器官培養物を利用し、線維芽細胞増殖および真皮の肥厚に対するコンドロイチナーゼBの効果を評価した。ヒト皮膚培養物に関して以前に記載されたように、培養を開始し、そして維持した(Varaniら(1994)Amer.J.Pathol.145:561−573)。皮膚を7〜9週齢のマウスから入手した。細菌による培養物の汚染を防ぐために、皮膚をDMEM(5培濃度のペニシリン/ストレプトマイシンを含む)を用いて2回洗浄した。無菌条件下で皮膚を2mm2切片に切り取り、そして1切片を、1.5mMカルシウムを含むケラチノサイト増殖培地(Clonetics)中の0、0.1、1.0、または10IU/mlのコンドロイチナーゼBと共に、96ウェルディッシュの各ウェル中に置いた。これらの培養物を、1、4および6日目に培地の交換を行って、8日間維持した。
【0050】
0、3、および7日目に、いくつかの培養物に1μCiの3H−チミジンを加え、そして24時間後(1、4、および8日目)に回収した。チミジン標識した切片を使用し、チミジンの取り込みによって測定される線維芽細胞の増殖を評価した。これらの培養物を回収し、そして以下のように定量した:培地を除去し、そして皮膚切片を、氷冷PBSを用いて2回洗浄した。氷冷50%トリクロロ酢酸(TCA)を加え、そして培養物を室温で30分間インキュベートした。TCAを除去し、切片を氷冷脱イオン水中で2回洗浄し、そして氷冷95%エタノール中で2回洗浄した。切片を室温で3時間乾燥し、次いで、mg/皮膚断片を得るために、個別に重量測定を行った。1切片当たりに取り込まれたチミジンのcpmおよび各切片の重量から計算された、cpm/mg組織を定量するために、切片をシンチレーション流体中に置き、そしてカウントした。4匹のマウスの各々について、1時点当たり最低12切片値を使用した。各々のマウスについて、未処理皮膚(培地単独)によって取り込まれた、cpm/mg組織をコントロールとした。酵素処理した皮膚の%阻害は、各々のマウスに対するコントロール値を使用して計算した。
【0051】
1日目または4日目には、線維芽細胞増殖の阻害はなかった。しかしながら、皮膚切片を1および10IU/mlのコンドロイチナーゼBを用いて8日間処理した後には、増殖の減少が観察された。図7において示されるように、細胞増殖は、1.0および10IU/mlのコンドロイチナーゼBで処理した皮膚において、それぞれ35%および48%阻害された。10IU/mlで処理した皮膚における効果は有意(p=0.002のレベル)であった(ANOVAおよびDunnetの群比較によって決定)。
【0052】
皮膚に対するコンドロイチナーゼBの効果を、染色切片においても評価した。培養を開始した日(0日目)ならびに4および8日目に、未処理の切片または酵素処理された切片を、10%緩衝化ホルマリン中で固定し、パラフィンに包埋し、切片にし、そして組織学検査のためにヘマトキシリンおよびエオシンを用いて染色した。切片化された皮膚の評価は3切片/処置/マウス/時点に基づいた。各々の切片について、較正された接眼マイクロメータを使用して、角質層、表皮および真皮の厚さを測定した。同じ切片の異なる領域内で、各層の測定を3回行った。
【0053】
組織学的評価に基づいて、角質層にも表皮にも厚さに有意な変化はなかった。しかしながら、真皮(コンドロイチナーゼBで処理した培養物中の真皮線維芽細胞を含む皮膚層)の厚さに有意な変化があった。図8に示されるように、1.0および10IU/mlのコンドロイチナーゼBで処理した皮膚切片中の真皮の厚さは、コントロールの厚さより36%および40%少なかった。真皮層の厚さの減少は、線維芽細胞の数の減少を反映し、そしてトリチウム化したチミジンの取り込みによって測定されたように、細胞増殖の減少と一致している。
【0054】
(実施例7:肺線維症のマウスモデルにおけるプロコラーゲンおよびTGFβの発現の阻害)
I型コラーゲンの合成、およびコラーゲン促進サイトカイン(TGFβ)に対するコンドロイチナーゼBの効果を、肺線維症のマウスモデルにおいて検査した。このモデルにおいて、線維症は、抗腫瘍薬物(Blenoxane(登録商標)(硫酸ブレオマイシン)の気管内注入によって、マウスの肺において誘導される。ブレオマイシン誘導線維症は、この疾患を有するマウスおよびヒトの両方における形態学、生化学およびmRNAの変化に関する研究によって立証されるように、ヒトの特発性肺線維症に非常に良く似ている。(Phan,S.H.Fibrotic mechanisms in lung disease. 「Imunology of Inflammation」P.A.Ward編、New York:Elsevier,1983,pp121−162;Zhangら、(1994)Lab.Invest.70:192−202;PhanおよびKunkel(1992)Exper.Lung Res.18:29−43)。
【0055】
これらの実験において使用したマウスは8週齢で約25gのCBA/Jであった。マウスを各群当たり6匹の3処理群に分けた。各群のマウスを以下のように処理した:
【0056】
【表2】

【0057】
21日目に、全てのマウスをペントバルビタールナトリウムの致死量注射によって屠殺した。肺に生理食塩水をフラッシュして血液を取り除き、そしてmRNAを抽出し、およびプロコラーゲンIおよびTGFβの発現を評価した(PhanおよびKunkel(1992;Exper.Lung Res.18:29−43)によって記載のように)。異なる処理群からのマウスの肺に含まれるmRNAの量を、ノーザンブロット分析の後のフィルムからのデンシトメトリーの読み取りから定量した。ブレオマイシンに続いてコンドロイチナーゼBで処理したマウスの肺は、プロコラーゲンI型およびコラーゲン合成促進サイトカイン(TGFβ)の両方について、顕著により少ないmRNAを含んでいた。これらの結果は、コンドロイチナーゼBが、線維症の肺において大きく増加されることが示されている2つの主要なタンパク質についてのmRNAの発現の阻害において、効果的であったことを示している。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1Aおよび1Bは、Flavobacterium heparinum由来コンドロイチナーゼBで処置した後の、線維芽細胞由来の硫酸化グリコサミノグリカンの放出の時間(図1A)または用量(図1B)を関数としたグラフである。図1Aは、示された時間(分)で、1.0 IU/mlで処置した後の、35S−グリコサミノグリカンの放出を示す。図1Bは、1時間、示された酵素の濃度で処理した後の、35S−グリコサミノグリカンの放出を示す。データは、3連で実施した2つのこのような実験の各々から、酵素処理によって放出された35S−グリコサミノグリカンのcpm/ウェルである(酵素で処理されたcpm細胞−培地のみで処理されたcpm細胞)。培地のみで放出された平均cpmは、8,160±599であった。
【図2】図2は、Flavobacterium heparinum由来のコンドロイチナーゼACで処理した後の、線維芽細胞由来の硫酸化グリコサミノグリカンの用量依存性放出と時間のグラフである。中実バーは、1時間処理後の放出を示し、そして中空バーは、2時間処理後の放出である。データは、3連で実施した2つのこのような実験の各々から、酵素処理によって放出された35S−グリコサミノグリカンのcpm/ウェルである酵素で処理されたcpm細胞−培地のみで処理されたcpm細胞)。培地のみで放出された平均cpmは、4,028±54であった。
【図3】図3Aおよび3Bは、Flavobacterium heparinum由来のコンドロイチナーゼBで処理した後の、線維芽細胞グリコサミノグリカン(GAG、図3A)およびbGFGレセプター(図3B)に対する125I−bFGFの結合のグラフである。全結合(△)、非特異的結合(○)および特異的結合(●)が示される。データは、2連で実施した5つのこのような実験の各々由来である。
【図4】図4は、培地(コントロール、●)または1.0IU/mlのFlavobacterium heparinum由来のコンドロイチナーゼB(○)で処置した線維芽細胞のレセプターに結合したbFGFのスキャッチャード分析のグラフである。データは、2連で実施した5つのこのような実験の各々由来である。
【図5】図5Aよび5Bは、10%のウシ胎児血清(血清)(●)または100pg/mlのbFGF(○)に応答する、線維芽細胞増殖での、Flavobacterium heparinum由来のコンドロイチナーゼB(図5A)およびコンドロイチナーゼAC(図5B)の用量依存効果のグラフである。データは、コンドロイチナーゼBで処理した細胞を培地のみで処置した細胞と比較した増殖の阻害%である。各点は、3連で実施した4つの実験の平均±semである。
【図6】図6は、25ng/mlのTGF−βの非存在(クロスハッチ)または存在(黒)における、0〜10IU/mlのFlavobacterium heparinum由来のコンドロイチナーゼBで処理した線維芽細胞の細胞外基質のコラーゲン含有量のグラフである。
【図7】図7は、0.1〜10IU/mlのFlavobacterium heparinum由来のコンドロイチナーゼBで8日処理した、マウス皮膚培地中での細胞増殖の阻害のグラフである。増殖を、24時間の曝露後に、皮膚部分に3H−チミジンを取り込みによって評価した。データは、コントロール(酵素なし)と比較した場合、阻害%として表現される。各バーは、3匹のマウスから採取された、36の皮膚部分の平均±semを示す。この*は、阻害は、p<0.05で実質的に有意であったことを示す。
【図8】図8は、0.1〜10IU/mlのFlavobacterium heparinum由来のコンドロイチナーゼBで8日間処置したマウスの皮膚培地中での、皮膚厚の減少のグラフである。データは、コントロール(酵素なし)と比較した減少%として表現される。各バーは、3匹のマウスの18皮膚部分から取った測定値の平均±semを表す。この*は、阻害(厚さの減少)は、p<0.05で実質的に有意であったことを示す。
【図9】図9aおよび9bは、コンドロイチナーゼBで処理したマウスの肺における、プロコラーゲンI(図9a)およびTGFβ(図9b)に対する、mRNAの発現の阻害のグラフである。処置グラフは、気管および/または腹腔それぞれに注射された経路および物質を示す。ChBは、1回注射当たり25IUの酵素であり;BLMは、ブレオマイシン硫酸の0.025ユニットの1回注射であり;そしてSALは、等しい体積の生理食塩水の注射を示す。データは、ノーザンブロットフィルムの濃度測定の読み取りによって決定されるような、一体化ユニット(×103)として表現される。各バーは、6匹のマウスの平均±semを示す。この*は、mRNA発現の減少は、マウスに与えられたBLM/SALにおいて見出される減少よりも有意に少ないことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載されるような、線維性組織の形成を阻害するための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−94850(P2008−94850A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294946(P2007−294946)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【分割の表示】特願2001−541527(P2001−541527)の分割
【原出願日】平成12年11月28日(2000.11.28)
【出願人】(506136483)バイオマリン ファーマシューティカル インコーポレイテッド (18)
【Fターム(参考)】