説明

締付作業支援装置

【課題】カメラを使用した締付作業の支援装置について、製造コストを削減しつつ締付工具の検出精度を向上させること。
【解決手段】締付作業支援装置1のデータ処理手段5は、締付作業前に、カメラ4の画像データから締付工具に設けられた識別マークを示す識別データを取得して記憶する。そして、締付作業支援装置1のデータ処理手段5は、締付作業中に、カメラ4の画像データに対して、締付作業前に記憶された識別データの検出を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の組立ラインで、ワークに形成された複数の締め付け位置で、締付部品を締付工具によって締め付ける締付作業を支援する締付作業支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、例えば自動車の組立ライン等において、組立対象のワークに形成された複数の穴のそれぞれに例えばボルト等の締付部品をトルクレンチ等の締付工具によって締め付ける作業が行なわれている。
【0003】
このような手作業による締付作業では、締付部品の取り付け忘れ等の作業ミスが発生する可能性がある。
【0004】
この問題に対して、例えば、特許文献1では、ボルトへの1回の締め付けの毎にトルクレンチから出力する信号をカウントして、このカウント回数が、予め決まっているボルト1本当りの締付回数にボルトの本数を乗じた値となった場合に作業の終了とする締付作業の支援装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−85647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この特許文献1に開示された装置では、例えば予め決まっているボルト1本当りの締付回数が1回の場合には、何れかのボルトを2回締め付けてしまった場合に、1本のボルトの締め付けが忘れられていても、作業終了としてしまう事態が発生する可能性がある。
【0007】
このような問題に対して、締付作業をカメラで撮影してトルクレンチのボルトに嵌合する部位が所定の締付位置に移動することを検出して、全ての所定の締付位置でトルクレンチが検出された場合に作業終了とする締付作業の支援装置が考えられる。しかし、このような装置の場合には、トルクレンチを高精度に検出するためには、カメラの画像を高精度にする必要があり、そのためには収差の少ないレンズを備えた高価なカメラを使用しなければならなかった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、カメラを使用した締付作業の支援装置について、製造コストを削減しつつ締付工具の検出精度を向上させることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために創案された本発明に係る締付作業支援装置は、ワークの複数の締め付け位置で、締付部品を締付工具によって締め付ける締付作業を支援する締付作業支援装置であって、前記締付工具に設けられた識別マークと、前記ワークの締付作業領域を撮影して画像データを生成するカメラと、前記締付作業前に、前記カメラで前記識別マークを撮影して生成された画像データから、前記識別マークを示す識別データを取得して記憶する識別データ記憶部と、前記締付作業前に、前記カメラの画像データに対して、前記複数の締付位置のそれぞれに対応した位置において前記識別データの検出を行なう検出領域を設定する検出領域設定部と、前記締付作業時に、前記カメラの画像データにおける各検出領域で前記識別データが検出されるか否かを判断する識別データ判断部とを備えたことに特徴づけられる。
【0010】
この構成であれば、締付作業前に作業領域を撮影するカメラと、締付作業時に締付作業領域を撮影するカメラとは同じである。このため、締付作業前の画像データと、締付作業時の画像データとは、カメラのレンズの収差によって発生する歪み、ぼけ等が実質的に同一となる。これにより、この締付作業前と締付作業時の画像データを比較した場合、収差による画像の歪み、ボケ等は相殺される。識別マークの識別データは、締付作業前の画像データから取得され、識別マークの識別データを検出する対象は、締付作業時の画像データである。従って、締付作業時に識別マークの識別データを検出する精度に対して、カメラのレンズの収差による悪影響は抑制される。よって、この支援装置では、収差が比較的多いレンズを備えた安価なカメラを使用することによって、製造コストを削減しつつ締付工具の検出精度を向上させることが可能である。
【0011】
また、この構成では、締付作業時に、検出領域に対して識別データの検出を行なう。すなわち、検出を行なう領域が、カメラで撮影されて生成された画像データの全体ではなく、検出領域に限定されている。これによって、検出の処理時間を短縮でき、また、検出に必要な記憶容量を減少させることができ、これによっても締付作業を支援する装置の製造コストを削減することが可能となる。
【0012】
上記の構成において、前記識別マークが、前記締付部品を締め付ける際の前記締付工具の回転軸上に設けられてもよい。
【0013】
本発明の装置では、検出領域に対して識別マークの識別データを検出する。従って、締付工具によって締付部品を締め付ける際に、識別マークが締付位置から離れていると、検出領域を広くしなければならない。検出領域が広いと、締付工具によって締付部品を締め付けていない場合も識別マークの識別データを検出する可能性があるので、装置の締付工具に対する検出精度が低下する。
【0014】
これに対し、本構成のように識別マークが、締付部品を締め付ける際の締付工具の回転軸上に設けられていれば、締付工具によって締付部品を締め付ける際に、識別マークが締付位置付近に位置するので、検出領域を小さくすることができる。これによって、締付工具によって締付部品を締め付けていない場合に識別マークの識別データを検出することを抑制でき、装置の締付工具に対する検出精度が向上する。また、検出の処理時間を短縮でき、また、検出に必要な記憶容量を減少させることができ、これによっても締付作業を支援する装置の製造コストを削減することが可能となる。
【0015】
上記の構成において、前記識別マークの外形が円形状であり、この円の中心が前記回転軸上にあってもよい。
【0016】
このような構成であれば、締付工具によって締付部品を締め付ける際に、締付工具を回転しても、識別マークの外形の画像が変化しない。従って、締付作業前の画像データにおける締付工具の回転位置と、締付作業時の画像データにおける締付工具の回転位置が異なっていても、識別マークの識別データを検出することができる。このため、識別マークの識別データの検出が容易となるので、装置の締付工具に対する検出精度を向上させることができる。
【0017】
上記の構成において、前記締付作業前に、前記カメラで前記識別マークを撮影して生成された画像データから、前記識別マークの色データを取得して記憶する色データ記憶部と、前記締付作業時に、前記カメラの画像データから取得された前記識別マークの色データと、前記色データ記憶部に記憶された前記識別マークの色データとが同一か否かを判断する色データ判断部とを備えていてもよい。
【0018】
このような構成の装置では、例えば、締付作業時に取得された識別マークの色データと、締付作業前に記憶された識別マークの色データとが異なる場合に、締付作業を不良とすれば、以下に説明するように、締付作業で、作業者が締付工具を間違えたことを検出することができる。
【0019】
締付作業の作業現場には、通常、複数種類の締付工具が配備されている。このような場合に、色の異なる識別マークを、それぞれの締付工具に設けておく。そして、締付作業前に、この締付作業に使用する締付工具の識別マークの色データを、支援装置の色データ記憶部に記憶させる。次に、この締付作業を開始する。すると、使用されるべき締付工具とは異なる締付工具を作業者が使用すると、色データ判断部がカメラの画像データから取得された識別マークの色データと、色データ記憶部に記憶された識別マークの色データとが異なると判断する。従って、支援装置によってこの締付作業が不良とされる。このように、締付作業で、作業者が締付工具を間違えたことを検出することができる。
【0020】
上記の構成において、前記識別マークが複数色で構成され、各色の周縁が同心状の円形状であってもよい。
【0021】
このような構成の装置では、識別マークが複数色で構成されるので、同一の外形の識別マークで、色で区別できる数を多くすることができる。また、識別マークの各色の周縁が同心状の円形状であるので、識別マークの外形が円形状である識別マークの外形が円形状であり、この円の中心が前記回転軸上にある場合と同様の理由で、装置の締付工具に対する検出精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、カメラを使用した締付作業の支援装置について、製造コストを削減しつつ締付工具の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る締付作業支援装置を示す概略側面図である。
【図2】ワークの概略平面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るトルクレンチを示す図であり、(A)が平面図、(B)が側面図、(C)が要部拡大平面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る識別マークの変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について図面に基づき説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施形態に係る締付作業支援装置を示す概略側面図である。この締付作業支援装置1は、締付作業に対して支援を行なうものである。より詳しくは、支援装置1は、締付作業での作業ミスを検出するものである。この締付作業は、図2に例示するワーク2に形成された複数の穴2aのそれぞれに、締付部品(図示省略)を締付工具によって回転させて締め付けることによって取り付けるものである。従って、穴2aの位置が締付部品を締付工具で締め付ける締付位置である。締付部品は、本実施形態ではボルトであるが、例えばねじ等でもよい。締付工具は、本実施形態では、図3に例示するトルクレンチ3であるが、例えば、ドライバ、スパナ、インパクトレンチ等であってもよい。
【0026】
図1に示すように、締付作業支援装置1は、カメラ4、データ処理手段5、及びモニタ等のデータ表示手段6、および図3に例示する識別マーク7を主要な構成要素とする。
【0027】
カメラ4は、ワーク2に対して締付作業を行なう領域を撮影して画像データを生成する。締付作業中には、カメラ4とワーク2は相対的に移動しない。本実施形態では、カメラ4はワーク2の上方に固定され、ワーク2の全体を含む領域を撮影する。
【0028】
ワーク2は、作業台8の所定位置に位置決めされて配置される。作業台8には、作業台8を一定の経路で作業領域の間を移動させる移動機構(図示省略)が設けられており、これにより、作業台8は移動可能であると共に、締付作業を行なうための所定位置に停止可能である。また、ワーク2は、図2に示すように、ボルトが取り付けられる穴2aが上側の面に形成されている。
【0029】
データ処理手段5は、例えばコンピュータ等であるが、必要に応じて、これに接続する別体の電子機器を有してもよい。データ処理手段5は、識別データ記憶部5aと、検出領域設定部5bと、識別データ判断部5cとを有する。後に詳述するが、識別データ記憶部5aは、締付作業前に、カメラ4で識別マーク7を撮影して生成された画像データから、識別マーク7を示す識別データを取得して記憶する。検出領域設定部5bは、締付作業前に、画像データに対して、穴2aの位置のそれぞれに対応した位置において識別データの検出を行なう検出領域Rを設定する。識別データ判断部5cは、締付作業時に、画像データにおける各検出領域Rで識別データが検出されるか否かを判断する。
【0030】
データ処理手段5には、カメラ4が接続されており、カメラ4で撮影された画像データが送られてくる。データ処理手段5には、データ処理手段5への指示やデータ入力等のために、マウス、キーボード等の入力手段(図示省略)が接続されている。また、データ処理手段5には、データ表示手段6が接続されており、データ処理手段5により、データ表示手段6にカメラ4の画像データや各種のデータが表示される。更に、作業者に異常を知らせるために、例えばブザーやランプ等の報知手段(図示省略)がデータ処理手段5に接続されている。
【0031】
図3(C)に拡大して示すように、識別マーク7は、トルクレンチ3に設けられている。本実施形態では、識別マーク7は、紙製で、トルクレンチ3における角ドライブ3aとは反対側の面に貼り付けられている。識別マーク7は、本実施形態では、外形が円形状であり、色が単一の赤色である。トルクレンチ3は、締付作業を行なう際には、その角ドライブ3aに、ボルトの頭に嵌合する所定のソケットを装着し、把持部3bを握って使用する。トルクレンチ3は、ボルトを締め付ける際に、ボルトと共に回転軸Oを中心に回転するが、識別マーク7の中心は、トルクレンチ3のこの回転軸Oの上にある。
【0032】
以上のように構成された支援装置1について、その動作と使用方法を、作業現場での作業に沿って以下に説明する。
【0033】
作業現場では、管理者による支援装置1の設定作業が行なわれ、次に作業者によるワーク2へのボルトの締付作業が行なわれる。
【0034】
まず、この管理者による支援装置1の設定作業について説明する。
【0035】
最初に、管理者が、支援装置1を起動すると、カメラ4に撮影された画像データが、データ処理手段5に送られると共に、データ表示手段6に表示される。このカメラ4に撮影された画像データの送信と表示は、支援装置1の停止まで、連続して行なわれる。
【0036】
次に、管理者が、入力手段を介してデータ処理手段5に指示し、データ処理手段5を設定用の状態とする。ワーク2は、作業台8を介して、カメラ4に対して締付作業時と同一位置に配置されている。次に、管理者が、ワーク2における穴2aの位置の設計データを入力する。また、管理者は、検出領域Rの大きさを決めるパラメータを、所望の検出の精度に合わせて入力する。検出領域Rは、図2に示すように、カメラ4の画像データ内でワーク2の穴2aのそれぞれを1つづつ含むものである。
【0037】
すると、データ処理手段5の検出領域設定部5bが、検出領域Rの位置と大きさを算出して検出領域Rを設定する。また、データ処理手段5は、この検出領域Rを示す枠をデータ表示手段6に表示させる。この検出領域Rの枠は例えば黄色である。
【0038】
この検出領域Rの設定の際に、検出領域Rの位置は、カメラ4の画像データからデータ処理手段5によって検出された画像データ上のワーク2の位置と、入力されたワーク2における穴2aの位置の設計データとから、データ処理手段5の検出領域設定部5bによって自動的に算出される。また、検出領域Rの大きさは、入力された検出領域の大きさを決めるパラメータからデータ処理手段5の検出領域設定部5bによって自動的に算出される。本実施形態では、検出領域Rは、正方形であり、各検出領域Rの中心が、各穴2aの中心に一致する。また、データ処理手段5の検出領域設定部5bによって、検出領域Rには、その識別のために例えば通し番号等の識別番号が付けられ、各種データ処理に使用されるが、この番号がデータ表示手段6に表示されてもよい。
【0039】
次に、管理者が、識別マーク7を貼り付けたトルクレンチ3に、ソケットを装着し、このトルクレンチ3によってワーク2に対してボルトの締付作業を行なう。そして、管理者が、ワーク2の穴2aでボルトを締め付けた後に、トルクレンチ3がボルトの頭に嵌合したままの状態にする。
【0040】
そして、管理者は、カメラ4で撮影された静止画の画像データから、データ表示手段6に表示されている画像データを参照しながら、入力手段を介して画像データ内の識別マーク7を含む範囲を指定することによって、識別マーク7の画像データを指定する。これにより、データ処理手段5の識別データ記憶部5aは、この画像データから識別マーク7を示す識別データを取得して記憶する。
【0041】
ここで、識別データとは、識別マーク7の画像データそのものであってもよいし、識別マーク7の画像データそのものでなく、画像データに基づいて得られた濃度変化カーブや、その変曲点の位置等、識別マーク7の特徴を示すデータであってもよい。また、識別マーク7の画像データは、識別マーク7のみの画像だけでもよいし、識別マーク7の周辺の画像データを含んでもよい。
【0042】
なお、本実施形態では、ボルトを締め付けた際の画像データが、識別マーク7の画像データに指定されているが、この指定される画像データは、ボルトを締め付けた際のものでなくとも、カメラ4で撮影した識別マーク7が含まれる画像データであればよい。
【0043】
管理者は、この識別マーク7の画像データの指定を、ワーク2の穴2aのそれぞれにボルトを締め付けた際について行なう。ワーク2の全ての穴2aについて識別マーク7の画像データの指定が終了したら、次に、この識別マーク7の画像データの中から、後述するテンプレートマッチングのテンプレートとして使用するものを各検出領域Rについて選択する。本実施形態では、各検出領域Rに対して、その検出領域Rが含む穴2aにボルトを締め付ける際に指定した識別マーク7の画像データを選択する。しかし、本発明はこれに限定されず、例えば全ての検出領域Rに対して、1つの識別マーク7の画像データを選択してもよい。データ処理手段5は、各検出領域Rについて、どの画像データが選択されたかを記憶する。
【0044】
管理者は、全ての検出領域Rについて、この識別マーク7の画像データの選択が終了したら、その後、管理者がデータ処理手段5の設定用の状態を解除する。これで、管理者による支援装置1の設定作業は終了である。
【0045】
次に、作業者によるワーク2へのボルトの締付作業について説明する。ここでは、管理者による設定作業後に、支援装置1が起動したままの状態とする。なお、本実施形態では、1つのボルトに対するトルクレンチ3による締付回数は1回とする。
【0046】
最初に、作業者が、入力手段を介してデータ処理手段5を締付作業支援用の状態とする。そして、作業者は、入力手段を介してデータ処理手段5に支援開始を指示する。すると、締付作業の対象のワーク2が作業台8に固定された状態で、作業台8が図示省略の移動機構によって移動されてきて所定の位置で停止する。この時も、データ処理手段5によって、図2に示すように、ワーク2の画像と検出領域Rの枠がデータ表示手段6に表示されている。この枠の色は例えば黄色である。
【0047】
その後、作業者が、ソケットを装着したトルクレンチ3によってワーク2の各穴2aに対してボルトの締付作業を順次行なっていく。
【0048】
支援開始を指示されると、データ処理手段5は、次のような動作を行なう。データ処理手段5の識別データ判断部5cが、カメラ4で撮影された画像データにおける各検出領域Rに対して、その検出領域R用に選択された識別マーク7の識別データをテンプレートとして使用して、テンプレートマッチングを行なう。これによって、識別データ判断部5cは、各検出領域Rに識別マーク7の識別データが検出されるか否かを判断する。そして、データ処理手段5は、検出領域R内で識別データが検出された場合には、その検出領域Rを記憶する。この時に、データ処理手段5は、データ表示手段6に表示されている検出された検出領域Rの枠の色を例えば緑色に変更する。
【0049】
もし、識別データが検出された検出領域Rが、既に識別データが検出された検出領域Rである場合には、その検出領域Rの穴2aに1度締め付けられたボルトを再び締め付けるという所謂2度締めをしていると考えられる。従って、この場合には、データ処理手段5が、「ボルトの2度締め」とデータ表示手段6に表示させると共に、報知手段を作動させる。また、データ処理手段5が、データ表示手段6に表示されている対応する検出領域Rの枠の色を例えば赤色に変更する。この場合には、作業者が、データ表示手段6で、赤色の枠となっている検出領域Rを確認する。そして、その検出領域Rの穴2aに締め付けられたボルトは締め付けられ過ぎているので、作業者がそのボルトを1度緩めて締め付け直す。そして、作業者は、「ボルトの2度締め」の表示をデータ表示手段6から消去し、報知手段を停止させ、対応する検出領域Rの枠の色を緑色にするように、データ処理手段5に指示する。その後、作業者は締付作業を再開する。
【0050】
また、データ処理手段5は、全ての検出領域Rで識別データが検出されたか否かを判断する。データ処理手段5が全ての検出領域Rで識別データが検出されたと判断した場合には、締付作業が終了したと考えられる。従って、データ処理手段5は、作業台8の移動機構を作動させて、これにより、締付作業の終了したワーク2を、次の別作業用の領域に移動すると共に、新たなワーク2をこの締付作業領域に移動してくる。
【0051】
一方、データ処理手段5が、まだ、全ての検出領域Rで識別データが検出されていないと判断した場合に、所定時間内に、新たに検出領域Rで識別データが検出されるか否かを判断する。
【0052】
所定時間内に、新たに検出領域Rで識別データが検出された場合は、継続して作業者による締付作業が行なわれたと考えられる。従って、再び、上述したように、データ処理手段5は、全ての検出領域Rで識別データが検出されたか否かを判断する。
【0053】
一方、新たに検出領域Rで識別データが検出されないで、所定時間経過する場合は、ボルトの取り付け忘れと考えられる。従って、この場合には、データ処理手段5が、「ボルトの取り付け忘れ」とデータ表示手段6に表示させると共に、報知手段を作動させる。この場合には、作業者が、データ表示手段6で、黄色の枠の検出領域Rを確認し、その検出領域Rに対応する穴2aに、ボルトを取り付けて締め付ける。そして、作業者は、「ボルトの取り付け忘れ」の表示をデータ表示手段6から消去し、報知手段を停止させるように、データ処理手段5に指示する。すると、再び、上述したように、データ処理手段5は、全ての検出領域Rで識別データが検出されたか否かを判断する。
【0054】
また、新たに検出領域Rで識別データが検出されないで、所定時間内に、作業者自身が、ワーク2の移動が行なわれないことにより、全ての穴2aの締め付けが終了していないことに気付く場合がある。この場合も、作業者が、データ表示手段6で、黄色の枠の検出領域Rを確認し、その検出領域Rに対応する穴2aに、ボルトを取り付けて締め付ける。この場合は、上述した所定時間内に、新たに検出領域Rで識別データが検出された場合に相当する。
【0055】
1つの締付作業が終了し、新たなワーク2が締付作業領域に移動されて停止すると、作業者は、入力手段を介してデータ処理手段5に支援開始を指示する。すると、データ処理手段5が、前回の取り付け作業中に識別した検出領域Rのデータを初期化し、画面表示手段に表示された検出領域Rの枠の色を黄色に戻す。
【0056】
この後、作業者は、新たな締付作業を開始する。以降、同様にして、作業者が、ワーク2の締付作業を繰り返す。
【0057】
全てのワーク2の締付作業が終了後、作業者が、データ処理手段5に指示してデータ処理手段5を締付作業支援用の状態から解除して、支援装置1を停止する。
【0058】
以上のように構成された支援装置1では、次のような効果を享受できる。
【0059】
支援装置1では、締付作業前に作業領域を撮影するカメラ4と、締付作業時に締付作業領域を撮影するカメラ4とは同じである。このため、締付作業前の画像データと、締付作業時の画像データとは、カメラ4のレンズの収差によって発生する歪み、ぼけ等が実質的に同一となる。例えば、カメラ4のレンズの収差によって締付作業前の画像データで識別マーク7の外形が楕円状となった場合、締付作業時の画像データでもカメラ4のレンズの収差によって識別マーク7の外形が同様の楕円状になる。このため、この締付作業前と締付作業時の画像データを比較した場合、収差による画像の歪み、ボケ等は相殺される。テンプレートマッチングのテンプレートとして使用される識別マーク7の識別データは、締付作業前の画像データから取得され、テンプレートマッチングによる検出の対象は、締付作業時の画像データである。従って、締付作業時に識別マーク7の識別データをテンプレートマッチングによって検出する精度に対して、カメラ4のレンズの収差による悪影響は抑制される。よって、この支援装置1では、収差が比較的多いレンズを備えた安価なカメラ4を使用することによって、製造コストを削減しつつトルクレンチ3の検出精度を向上させることが可能である。
【0060】
上記実施形態では、ワーク2が作業台8と共に自動で移動されていたが、例えば作業台8が移動せず、作業台8上のワーク2の交換を手作業で行なう場合、上記実施形態の支援装置1の動作では、次のような事態が発生し得る。すなわち、支援装置1が「ボルトの取り付け忘れ」を検出した時点で、作業者が既にワーク2の交換を手作業で行なってしまっており、ボルトを取り付け忘れたワークを作業台8に戻す事態が発生しうる。これは、所定時間内に新たに検出領域Rで識別マーク7の識別データが検出されるか否かの判断を行なうため、この所定時間内に、作業者自身が締付作業を終了したと判断した場合、ワーク2を手作業で交換するからである。このような問題を解決するために、全ての検出領域Rで識別データが検出されたか否かの判断を、例えば、作業者自身が、ワーク2の締付作業が終了したと判断した時点で、データ処理手段5に指示することによって行なってもよい。このようにすれば、全ての検出領域Rで識別データが検出されたか否かの判断だけで、「ボルトの取り付け忘れ」を検出できるため、所定時間内に新たに検出領域Rで識別データが検出されるか否かの判断が不要になるので、上述のような問題は発生しない。
【0061】
上記実施形態の支援装置1では、ボルトの2度締めとボルトの取り付け忘れを検出するだけであったが、他の作業ミスも検出するようにすることができる。
【0062】
例えば、次のようにすれば、締め付け順を間違えたことを検出できる。まず、設定作業の際に、データ処理手段5に、ワーク2のボルトの締め付け順を記憶させる。そして、締付作業時に、検出領域Rで識別データが検出される順番を検出して、記憶されている締め付け順と同じか否かをデータ処理手段5に判断させる。記憶している締め付け順と異なる場合には、データ処理手段5が、「締め付け順の間違え」との旨をデータ表示手段6に表示させると共に、報知手段を作動させる。
【0063】
上記実施形態では、識別マーク7は、円形状の外形であり、単一な色であるが、本発明はこれに限定されない。例えば、外形については、正方形、正六角形等でもよい。ただし、締付作業中に、トルクレンチ3の方向がどのような向きであってもカメラ4の画像で同じ形状となる円形が検出し易いので好ましい。また、識別マーク7は、複数の色で構成されてもよい。例えば図4に示す識別マーク7では、外形が円形状であり、異なるハッチングで示す複数色で構成されており、各色の周縁が同心状の円形状である。このように、識別マーク7が、複数色で構成されていれば、この識別マークと同様の色の模様等が存在し難くなるので、別の模様等が識別マーク7として誤検出される可能性が低下する。これによって、支援装置1のトルクレンチ3に対する検出精度を向上させることができる。
【0064】
また、識別マーク7は、色を異ならせて色を識別することによって、同一の外形であっても、区別が可能となる。特に、図4に例示したように、識別マーク7が複数色から構成される場合には、同一の外形で区別可能な数を多くできる。この区別を行なうための具体的な手法としては、例えば次のようなものが挙げられる。まず、例えば表1に示すように、色と数字(カラーコード)を対応させる。これによって、識別マーク7の各色に対応するカラーコードを所定の順番に並べて識別マーク7に固有の識別コードを形成する。そして、その識別コードで識別マーク7を区別する。なお、この手法では、1つの識別コードの数字が全て同じもの、すなわち識別マーク7が単色のものも1つとして区別される。
【0065】
【表1】

【0066】
所定の外形の識別マーク7について、使用可能な色の種類の数を、1つの識別マーク7を構成する色の数の回数だけ乗算すれば、その識別マーク7を色で区別できる数が算出できる。例えば、図4に示すような3色で構成される識別マーク7の場合、表1のような10色が使用可能であれば、識別マーク7を色で区別可能な数は、10×10×10=1000個である。
【0067】
このような色で識別可能な識別マーク7を利用すれば、上記の支援装置1による検出の種類を豊富にすることができる。例えば、複数種類のトルクレンチ3が置き場に配置されている場合に、締付作業に使用されているトルクレンチ3の種類が正しいか否か検出することができる。この場合の支援装置1について、以下に詳述する。
【0068】
この場合には、データ処理手段5は、識別データ記憶部5a、検出領域設定部5b、識別データ判断部5cの他に、色データ記憶部と、色データ判断部とを有する。色データ記憶部は、締付作業前に、カメラ4で識別マーク7を撮影して生成された画像データから、識別マーク7の色データを取得して記憶する。色データ判断部は、締付作業時に、カメラ4で生成された画像データから取得された識別マーク7の色データと、色データ記憶部に記憶された識別マーク7の色データとが同一か否かを判断する。
【0069】
管理者による支援装置1の設定作業において、置き場に配置されている複数種類のトルクレンチ3のそれぞれに、色で識別した場合に異なる識別マーク7を、上記実施形態と同位置に貼り付ける。そして、設定作業で、管理者が、上記実施形態と同様にして識別マーク7の画像データを指定する際に、データ処理手段5の色データ記憶部が、この識別マーク7の画像データから識別マーク7の色データを取得し、カラーコードを使用して識別コードを作成し、記憶する。
【0070】
そして、作業者によるワーク2へのボルトの締付作業において、データ処理手段5の色データ判断部が、何れかの検出領域Rで識別マーク7の識別データが検出された場合に、その識別マーク7の色データを取得し、カラーコードを使用して識別コードを作成する。そして、データ処理手段5の色データ判断部は、この作成された識別コードと、設定作業で記憶された識別コードとが同一か否かを判断する。識別コードが異なる場合には、データ処理手段5が、トルクレンチ3を間違えているとの旨をデータ表示手段6に表示させると共に、報知手段を作動させる。以上のように、締付作業に使用されているトルクレンチ3の種類が正しいか否か検出することができる。
【0071】
また、次に説明するように、支援装置1が色相を利用して識別マーク7を識別するようにすれば、これによって、上述の色を利用して識別マーク7を識別する場合と同様に、例えば、締付作業に使用されているトルクレンチ3の種類が正しいか否か検出することができる。
【0072】
識別マーク7の色の色相を分析して、例えば、色の三原色に更にブラックを加えたCMYKのそれぞれの含有率を算出する機能を支援装置1に持たせる。識別マーク7の色が異なれば、CMYKの各含有率が異なる。従って、CMYKの各含有率によって、支援装置1が色相で識別マーク7を識別することが可能となる。同様に、CMYKの各含有率の代わりに、光の三原色RGBの各含有率を利用しても、支援装置1が識別マーク7を色相で識別可能となる。
【0073】
本発明は、締付工具以外、例えばノギス、マイクロメータ等によるワーク2における所定箇所に対する測定作業の支援にも応用することができる。
【0074】
本発明は、以上の説明に限定されることなく、その技術的思想の範囲内であれば、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 作業支援装置
2 ワーク
2a 穴
3 トルクレンチ(締付工具)
4 カメラ
5 データ処理手段
5a 識別データ記憶部
5b 検出領域設定部
5c 識別データ判断部
6 データ表示手段
7 識別マーク
O 回転軸
R 検出領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの複数の締め付け位置で、締付部品を締付工具によって締め付ける締付作業を支援する締付作業支援装置であって、
前記締付工具に設けられた識別マークと、
前記ワークの締付作業領域を撮影して画像データを生成するカメラと、
前記締付作業前に、前記カメラで前記識別マークを撮影して生成された画像データから、前記識別マークを示す識別データを取得して記憶する識別データ記憶部と、
前記締付作業前に、前記カメラの画像データに対して、前記複数の締付位置のそれぞれに対応した位置において前記識別データの検出を行なう検出領域を設定する検出領域設定部と、
前記締付作業時に、前記カメラの画像データにおける各検出領域で前記識別データが検出されるか否かを判断する識別データ判断部とを備えたことを特徴とする締付作業支援装置。
【請求項2】
前記識別マークが、前記締付部品を締め付ける際の前記締付工具の回転軸上に設けられている請求項1に記載の締付作業支援装置。
【請求項3】
前記識別マークの外形が円形状であり、この円の中心が前記回転軸上にある請求項2に記載の締付作業支援装置。
【請求項4】
前記締付作業前に、前記カメラで前記識別マークを撮影して生成された画像データから、前記識別マークの色データを取得して記憶する色データ記憶部と、
前記締付作業時に、前記カメラの画像データから取得された前記識別マークの色データと、前記色データ記憶部に記憶された前記識別マークの色データとが同一か否かを判断する色データ判断部とを備えた請求項3に記載の締付作業支援装置。
【請求項5】
前記識別マークが複数色で構成され、各色の周縁が同心状の円形状である請求項4に記載の締付作業支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−852(P2013−852A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136288(P2011−136288)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000177128)三洋機工株式会社 (35)
【Fターム(参考)】