説明

編地の編成方法

【課題】ベース編地部の表面に表れ、ベース編地部における非水平方向に離れた2点間に掛け渡される少なくとも2つの渡り糸部が互いに交差するように配された組織柄を備える編地の編成方法を提供する。
【解決手段】ベース編地部の編成途中で、第1始点編目11をベース編地部の編目に形成し、第1始点編目11から針床の左右方向の離れた位置に第1掛け目12を形成した後、第1終点編目13を形成することで第1渡り糸部1を形成する。次に、第2始点編目21をベース編地部の編目に形成し、第1渡り糸部1を横切るように、第2始点編目21から針床の左右方向の離れた位置に第2掛け目22を形成した後、第2終点編目23を形成することで第2渡り糸部2を形成する。そして、所定コースのベース編地部を編成した後、第1掛け目12と第2掛け目22をベース編地部に編み込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベース編地部の表面に表れ、ベース編地部における非水平方向に離れた2点間を往復するように掛け渡される渡り糸部を少なくとも2つ編成する際、それら渡り糸部が互いに交差する編地の編成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
横編機を用いて編地の途中に複数本の編糸が並列した状態で長く掛け渡されたような柄部を編成する方法として、特許文献1に記載の編地の編成方法がある。この方法では、編地のコース編成中の所定区間をミスすることで、ミスされた区間に給糸された編糸が渡り糸部となって水平方向に延ばされる。この編成を、各コースを編成する際に繰り返すことで、編地の途中に、コース方向(水平方向)に編糸が掛け渡され、その編糸がウェール方向(垂直方向)に複数本並列されたいわゆるミス柄を形成することができる。
【0003】
【特許文献1】特開2006−225776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、編地の途中で、コース方向に編糸が掛け渡され、その編糸がウェール方向に複数本並列されたようなミス柄を有する編地は既に提案されている。しかし、近年では、顧客のニーズが多様化しており、新規な組織柄の開発が望まれている。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、ベース編地部の表面に表れ、ベース編地部における非水平方向に離れた2点間を往復するように掛け渡される渡り糸部を少なくとも2つ編成する際、それら渡り糸部が互いに交差する編地の編成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、左右方向に延び、かつ前後方向に対向する少なくとも一対の針床を有し、前後の針床の少なくとも一方が左右にラッキング可能で、かつ前後の針床間で編目の目移しが可能な横編機を用いて編地を編成する方法に係る。この本発明編地の編成方法は、以下のステップ1〜ステップ8を含む編成を行うことで、ベース編地部のコース方向に交差する方向に延びる第1渡り糸部を形成した後、第1渡り糸部に交差し、かつベース編地部のコース方向にも交差する方向に延びる第2渡り糸部を形成することを特徴とする。
(ステップ1)…ベース編地部の編成途中で、第1渡り糸部の始点となる第1始点編目をベース編地部の編目に形成する。
(ステップ2)…第1始点編目から針床の左右方向の離れた位置に、第1渡り糸部の折り返し点となる第1掛け目を形成する。
(ステップ3)…第1渡り糸部の終点となる第1終点編目を前記第1始点編目、またはその近傍(3目以内)ベース編地部の編目に形成する。
(ステップ4)…第1渡り糸部の編成後に、第2渡り糸部の始点となる第2始点編目を、ベース編地部の編目に形成する。
(ステップ5)…前記第1渡り糸部を横切るように、第2始点編目から針床の左右方向の離れた位置に、第2渡り糸部の折り返し点となる第2掛け目を形成する。
(ステップ6)…第2渡り糸部の終点となる第2終点編目を前記第2始点編目、またはその近傍(3目以内)のベース編地部の編目に形成する。
(ステップ7)…第1渡り糸部と第2渡り糸部の編成が終了した後、所定コースのベース編地部を編成する。
(ステップ8)…ステップ7の後に、第1掛け目と第2掛け目をベース編地部に編み込んで固定する。
但し、第1始点編目、第2始点編目、第1終点編目、および第2終点編目は、ベース編地部の編目に直接形成しても良いし、一旦空針に掛け目を形成し、その掛け目をベース編地部の編目に目移しすることで形成しても良い。
【0007】
本発明編地の編成方法の一形態として、ステップ4の後で、ステップ5の前に、第1掛け目を挟んで第1始点編目と反対側に給糸口を位置させると共に、第1掛け目を対向する針床の編目の係止していない空針に目移しし、ステップ5の後で、ステップ6の前に、第1掛け目を挟んで第1始点編目と反対側に給糸口を位置させた後、預けおいた第1掛け目を第1始点編目を有する針床の編目の係止していない空針に移し戻すようにしても良い。
【発明の効果】
【0008】
本発明編地の編成方法によれば、コース方向と交差する方向に離れた2点間を往復するように掛け渡された第1渡り糸部および第2渡り糸部が、互いに交差するように配された新規なデザインの編地を編成することができる。形成する渡り糸部の数を多くすれば、様々な組織柄(例えば、格子柄など)をデザインとすることも可能である。なお、後で編成される第2渡り糸部は、先に編成される第1渡り糸部の後側(ベース編地部の表面側)に配される。
【0009】
また、ステップ4と5の間、およびステップ5と6の間で第1掛け目を前後の針床間で目移しすることで、後から編成される第2渡り糸部を、第1渡り糸部よりも前側(ベース編地部の表面から離れた側)に配置することができる。この編成方法と、上段の編成方法を組み合わせることで、複数の渡り糸部が織物のように交差するネット状柄を編成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、左右方向に延び、かつ、前後方向に互いに対向する前後一対の針床(前針床FBと後針床BB)を有し、後針床が左右にラッキング可能で、しかも、前後の針床間で編目の目移しが可能な2枚ベッドの横編機を用いて渡り糸部を有する筒状編地を編成する例を説明する。渡り糸部は、ベース編地部Bにおける非水平方向に離れた2点間を往復するように掛け渡され、ベース編地部Bの表面上に表れる編糸からなる。
【0011】
図1は、渡り糸部を設けた筒状編地の一部を示す模式図である。この筒状編地は、ベース編地部Bの表面に、渡り糸部1〜4が織物のように交差するネット状柄を形成している。以下、渡り糸部1と2、渡り糸部1と3の編成手順を主として説明する。
【0012】
<編成手順1>
図2は、ベース編地部Bに渡り糸部1と2を編成する手順を示す編成工程図である。図2において、左欄は編成工程の番号を、右欄はその編成工程における編成状態を示す。また、右欄中の●はその編成工程で新たに形成される編目を、○は編針に係止される編目を、V字は掛け目を示す。なお、説明の便宜上、図2では、編針の数を実際よりも少なく表示している。
【0013】
まず、S1は、図1における渡り糸部1と2の下端部まで筒状のベース編地部Bを針抜き状態で編成した状態を示す。そして、S2では、渡り糸部1,2がベース編地部Bの表面側に位置するように、FBの針f、h、j、lに係止される編目を対向するBBの針f、h、j、lに目移しする。
【0014】
次に、S3では、ベース編地部Bを編成するための給糸口から編糸を給糸させ、FBの針nに編目(第1始点編目11)を形成した後、給糸口を紙面左に移動させてFBの針eに掛け目(第1掛け目12)を形成し、給糸口を紙面右に移動させてFBの針nに編目(第1終点編目13)を形成する。このS3により、渡り糸部(第1渡り糸部)1が形成される。なお、渡り糸部1は、ベース糸とは異なる編糸で形成してもかまわない。
【0015】
S4では、S2でBBに預けておいた編目をFBの元の針f、h、j、lに返し、渡り糸部1が、筒状編地の表面に配されるようにする。また、S4では、図示していないが、FBに編目を返した状態とした後、FBの編針l、j、h、fで新たな編目を編成し、給糸口を編針eよりも左側に位置させておく。
【0016】
S5では、FBの針h、j、lに係止される編目を対向するBBの空針h、j、lに目移しする。そして、S6では、FBの針fに編目(第2始点編目21)を形成した後、給糸口を紙面右に移動させてFBの針mに掛け目(第2掛け目22)を形成し、給糸口を紙面左に移動させてFBの針fに編目(第2終点編目23)を形成する。これらの工程により、渡り糸部(第2渡り糸部)2が形成される。
【0017】
S7では、BBの針h、j、lに預けておいた編目をFBの元の針h、j、lに移し戻す。この工程により、渡り糸部1と2が、筒状編地の表面に配置される。ここで、後から形成される渡り糸部2は、図1に示すように、先に形成される渡り糸部1の後側(ベース編地部Bの表面側)に配される。
【0018】
S7以降は、所定のコース数だけ周回編成を行って、ベース編地部Bを筒状に編成した後、FBの針e、mの掛け目を、ベース編地部Bの編目が係止される針にBBの空針を使って目移しする。例えば、針eの掛け目をFBの針dに、針mの掛け目をFBの針nに目移しする。つまり、掛け目を目移しして重ね目を設け、再びベース編地部Bの編成を開始すれば、折り返し点がベース編地部Bに編み込まれて、図1に示す渡り糸部1、2が完成する。
【0019】
<編成手順2>
次いで、図1の渡り糸部1と3の編成手順を図3に基づいて説明する。先に述べたように、図2の編成工程に従って編成を行えば、後に形成される渡り糸部2は、先に形成される渡り糸部1の後側(ベース編地部Bの表面側)に配されるが、図1に示す渡り糸部3は、渡り糸部1よりも後に形成されるにも拘らず、渡り糸部1の前側(ベース編地部Bの表面から離れた側)に配されている。
【0020】
図3は、渡り糸部1と3の編成手順について、渡り糸部の編成状態を経時的に示す編成イメージ図である。この図では針床を省略している。また、丸で囲まれるT+数字で編成の順番を示す。図3中、●は編目を、V字は掛け目を、▼は給糸口を、太線はその編成工程で給糸口から給糸された編糸を示す。なお、この図3では、給糸口の移動の軌跡を示すように編糸を表示しており、実際の編糸の長さを反映したものではない。
【0021】
まず、図3のT1では、図2のS2〜S5と同様の編成を行い、渡り糸部(第1渡り糸部)1を形成する。そして、渡り糸部(第2渡り糸部)3の始点となる編目(第2始点編目31)を形成した後、給糸口をFBの掛け目12よりも紙面左側に位置させる(T2)。
【0022】
次に、掛け目12を、FBからBBに目移しする(T3)。そして、給糸口を右に移動させて掛け目(第2掛け目32)をFBの空針に形成した後(T4)、T3でBBに預けおいた掛け目12よりも給糸口を左に移動させる(T5)。T3で渡り糸部1の掛け目12をBBに預けておくことにより、T4,T5で給糸口から給糸される編糸は、渡り糸部1の前側を通る。
【0023】
最後に、T3でBBに預けておいた掛け目12をFBに戻し(T6)、給糸口を右に移動させて、T2で形成した編目31に連続する新たな編目33(第2終点編目)を形成し、渡り糸部3の終点を固定する(T7)。
【0024】
T7が終了したら、編成手順1と同様に、所定の周回編成を行った後、掛け目12,32をベース編地部Bに編み込むことでベース編地部Bの表面上に編糸を渡らせた渡り糸部1,3を形成できる。
【0025】
以上の編成手順1および2を組み合わせることで、複数の渡り糸部が織物のように交差するネット状の柄組織を有する編地を編成できる。渡り糸部をネット状に交差させるには、任意の2つの渡り糸部について、図2または図3に示す編成方法のいずれかを行えば良い。例えば、図1の渡り糸部2と4との関係は、渡り糸部4が後に編成されるため、図2に示す編成方法を実施すれば良い。
【0026】
なお、ベース編地部Bは、円筒状の編地だけではなく、渡り糸部が渡る部分を編成しないようにするC字状の編成で開口部を有する編地や平面的な編地でも良い。また、本実施形態では、始点編目と終点編目の両方をベース編地部Bの編目に直接形成したが、これら始点編目と終点編目は、まず空針に掛け目として形成した後、目移しによりベース編地部Bの編目に重ねても良い。
【0027】
また、ベース編地部Bを、図2により、針抜き(1針置き)の状態で示しているが、空針を使わない総針の状態であっても、トランスファージャック(日本特許3408735号参照)の使用やホールディング(日本特許2946325号参照)を活用すれば編成が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例に係る方法により得られた筒状編地の一部を示す概略図である。
【図2】互いに交差する渡り糸部を形成するための編成手順を示す編成工程図である。
【図3】互いに交差する渡り糸部を形成するための編成手順を示す編成イメージ図である。
【符号の説明】
【0029】
B ベース編地部
1、2、3、4 渡り糸部
11 第1始点編目 21、31 第2始点編目
12 第1掛け目 22、32 第2掛け目
13 第1終点編目 23、33 第2終点編目


【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右方向に延び、かつ前後方向に対向する少なくとも一対の針床を有し、前後の針床の少なくとも一方が左右にラッキング可能で、かつ前後の針床間で編目の目移しが可能な横編機を用いて編地を編成する方法であって、
以下のステップ1〜ステップ8を含む編成を行うことで、ベース編地部のコース方向に交差する方向に延びる第1渡り糸部を形成した後、第1渡り糸部に交差し、かつベース編地部のコース方向にも交差する方向に延びる第2渡り糸部を形成することを特徴とする編地の編成方法。
ベース編地部の編成途中で、第1渡り糸部の始点となる第1始点編目をベース編地部の編目に形成するステップ1。
第1始点編目から針床の左右方向の離れた位置に、第1渡り糸部の折り返し点となる第1掛け目を形成するステップ2。
第1渡り糸部の終点となる第1終点編目を前記第1始点編目、またはその近傍のベース編地部の編目に形成するステップ3。
第1渡り糸部の編成後に、第2渡り糸部の始点となる第2始点編目を、ベース編地部の編目に形成するステップ4。
前記第1渡り糸部を横切るように、第2始点編目から針床の左右方向の離れた位置に、第2渡り糸部の折り返し点となる第2掛け目を形成するステップ5。
第2渡り糸部の終点となる第2終点編目を前記第2始点編目、またはその近傍のベース編地部の編目に形成するステップ6。
第1渡り糸部と第2渡り糸部の編成が終了した後、所定コースのベース編地部を編成するステップ7。
ステップ7の後に、第1掛け目と第2掛け目をベース編地部に編み込んで固定するステップ8。
【請求項2】
ステップ4の後で、ステップ5の前に、第1掛け目から第1始点編目と反対側に給糸口を位置させると共に、第1掛け目を対向する針床の編目の係止していない空針に目移しし、
ステップ5の後で、ステップ6の前に、第1掛け目から第1始点編目と反対側に給糸口を位置させた後、預けおいた第1掛け目を第1始点編目を有する針床の編目の係止していない空針に移し戻すことを特徴とする請求項1に記載の編地の編成方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−133055(P2010−133055A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310615(P2008−310615)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】