説明

編機での張力設定方法および編機

【課題】 使用する弾性糸の張力の設定を簡易的に行い、編地製品の再現性を良好にして品質を向上させることが可能な、編機での張力設定方法および編機を提供する。
【解決手段】 ゴム糸5を張って、糸切れ検出スイッチ7による糸切れが検出されなければ、CPU13のプログラム動作で自動的に張力を設定する。ゴム糸送り装置8からゴム糸5を送り出して、張力を緩める。糸切れとして検出されればゴム糸5の送り出しを停止して、基準の張力設定を行う。さらにノズル9から空気を吹き出しながらゴム糸5を一定量だけゴム糸送り装置8が巻き戻して、張力を設定する。ノズル9から空気を吹き出すので、ゴム糸送り装置8からゴム糸コーン6側に戻すゴム糸5が案内部材8dの孔の周囲などに堆積して絡まるのを防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編地の編成に弾性糸を使用する編機での張力設定方法および編機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、編機で編成する編地のうち、大きな伸縮性を要する部分には、編地自体を編成する編糸や、編地に挿入する挿入糸として、ゴム糸などとも呼ばれる弾性糸を使用する場合がある。弾性糸は、ポリウレタン繊維やポリエーテル・エステル系繊維などの弾性的な伸縮性が大きい繊維を素材として製造される。伸縮性の大きい繊維素材が芯繊維となり、表面側を覆う他の繊維と組合せて、カバードヤーンやコアスパンヤーンなどとして使用される場合もある。
【0003】
編機へのゴム糸の給糸を、正逆回転可能なモータを具備したゴム糸供給装置によって行い、モータを逆回転させてゴム糸に送り方向に対して逆方向に張力を掛ける技術も開示されている(たとえば、特許文献1参照。)。逆方向に張力を掛けることによって、靴下や手袋などの編地製品に、狭く収縮したゴム幅部分を形成することができる。また、編糸として弾性糸を使用し、供給長さと糸張力とを制御することによって、編成される編地で部分的にゲージ風合いを変化させる技術も開示されている(たとえば、特許文献2参照。)所望の張力で編糸を編機に供給することが可能な編糸供給装置の構成も開示されている(たとえば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開平3−130443号公報
【特許文献2】再表2004−094712号公報
【特許文献3】米国特許第3858416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1や特許文献2に開示されているように、弾性糸を使用すれば、編成時の張力を変化させて、編成後の収縮状態を変化させ、編地に変化を与えることができる。ただし、この変化を制御するためには、使用する弾性糸の特性を求めるという事前の準備作業が必要である。必要な弾性糸の特性としては、張力と伸び率や送り量との関係などがある。張力と伸び率などとの関係を事前に測定するためには、測定装置と手間とが必要となる。
【0005】
弾性糸を使用する編地製品の生産では、同等の編地製品を繰返して編成するために、各編地製品を同一の編成条件で編成することが必要となる。使用する弾性糸の張力などの特性を事前に測定しておいても、編成時の張力に変動があれば、編地製品の品質の低下として反映されてしまう。特許文献3に記載されているような張力センサを備える編機であれば、張力を厳密に測定して編地を編成することが期待される。しかしながら、張力センサのみを備えても、所望の張力を設定して編地を編成することはできない。特に張力を自動的に設定するためには、張力センサとともに、張力センサが検出する張力が設定すべき張力となるように制御しうる構成も備えることが必要となる。そのような構成を備えることは、編機のコストを上昇させてしまう。
【0006】
弾性糸の特性を事前に測定しないでも、熟練した作業者の手の感覚等での張り具合として張力を適正に調整することができる可能性はある。糸送り装置からの送り量を編地製品の編成データに応じて制御しながら編成すれば、所望の状態で編地製品を得ることが期待される。しかしながら、多くの編地製品を連続して生産する際に、編地製品毎に作業者が張力を手作業で設定することは、生産性を低下させてしまう。また、手作業による適正な張力設定には高度の技術を要し、不適切な設定で張力にばらつきが生じると、編地製品の再現性が悪くなって、品質が低下するおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、使用する弾性糸の張力の設定を簡易的に行い、編地製品の再現性を良好にして品質を向上させることが可能な、編機での張力設定方法および編機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、弾性糸の送り状態を調整可能な糸送り装置を備える編機で弾性糸の張力を設定する方法であって、
糸送り装置から編機への弾性糸の供給経路に、弾性糸の張力として設定すべき張力よりも小さい基準の張力を検出するとON/OFFの作動状態が変化する検出スイッチを設けておき、
糸送り装置での弾性糸の送り状態を、検出スイッチが基準の張力を検出するように調整する基準検出ステップと、
基準の張力の検出後、糸送り装置で、設定すべき張力に対応して予め定められる量の弾性糸を引き戻して、張力を増大させる張力設定ステップとを、
含むことを特徴とする編機での張力設定方法である。
【0009】
また本発明は、前記検出スイッチが検出する基準の張力よりも大きい張力で張るように、前記糸送り装置から前記編機に弾性糸をセットし、
前記基準検出ステップでは、検出スイッチが基準の張力を検出するまで、張力を緩めるように弾性糸を送り出すことを特徴とする。
【0010】
また本発明は、前記検出スイッチが検出する基準の張力よりも小さい張力で緩むように、前記糸送り装置から前記編機に弾性糸をセットし、
前記基準検出ステップでは、検出スイッチが基準の張力を検出するまで、張力を張るように弾性糸を戻すことを特徴とする。
【0011】
また本発明は、前記編機が弾性糸の糸切れを検出するための糸切れ検出スイッチを備えるときに、前記検出スイッチとして糸切れ検出スイッチを利用することを特徴とする。
【0012】
さらに本発明は、弾性糸の送り状態を調整可能な糸送り装置を備える編機であって、
糸送り装置からの弾性糸の供給経路に設けられ、弾性糸の張力として設定すべき張力よりも小さい基準の張力を検出するとON/OFFの作動状態が変化する検出スイッチと、
糸送り装置を予め設定されるプログラムに従って制御し、糸送り装置での弾性糸の送り状態を、検出スイッチが基準の張力を検出するように調整する基準検出ステップと、基準の張力の検出後、糸送り装置で、設定すべき張力に対応して予め定められる量の弾性糸を引き戻して、張力を増大させる張力設定ステップとを実行させる制御装置とを、
含むことを特徴とする編機である。
【0013】
また本発明で、前記検出スイッチは、水平方向に作動するように設置されることを特徴とする。
【0014】
また本発明で、前記糸送り装置が弾性糸を戻す側には、弾性糸の絡まり防止機構が設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、弾性糸の送り状態を調整可能な糸送り装置を備える編機で弾性糸の張力を設定するために、糸送り装置から編機への弾性糸の供給経路に検出スイッチを設けておき、基準検出ステップと張力設定ステップとを含む方法で、弾性糸の張力を設定することができる。検出スイッチは、設定すべき張力よりも小さい基準の張力を検出すればよいので、張力を数字的に認識しうるように測定する張力測定装置などよりも、安価に設置することができる。基準検出ステップで、基準の張力はON/OFFの作動状態の変化で検出すればよいので、簡易的に基準の張力を検出することができる。張力設定ステップでは、基準の張力の検出後、糸送り装置で、設定すべき張力に対応して予め定められる量の弾性糸を引き戻して、張力を増大させればよいので、弾性糸の張力を編地製品毎に再現し、品質を向上させることができる。
【0016】
また本発明によれば、基準検出ステップの前に、糸送り装置から編機に弾性糸を基準の張力よりも大きい張力で張るようにセットする。検出スイッチが検出する基準の張力が小さければ、容易に弾性糸のセットを行うことができる。基準検出ステップでは、検出スイッチが基準の張力を検出するまで、張力を緩めるように弾性糸を送り出すので、基準の張力に達すれば検出スイッチの作動状態が変化して、容易に基準の張力検出も可能となる。
【0017】
また本発明によれば、基準検出ステップの前に、糸送り装置から編機に弾性糸をセットする際には、基準の張力よりも小さい張力で緩むようにすればよいので、容易にセットすることができる。基準検出ステップでは、検出スイッチが基準の張力を検出するまで、張力を張るように弾性糸を戻せばよいので、張力が小さい範囲で、容易に張力設定の準備を行うことができる。
【0018】
また本発明によれば、編機が弾性糸の糸切れを検出するための糸切れ検出スイッチを備えるときに、検出スイッチとして糸切れ検出スイッチを利用するので、張力設定のために新たに検出スイッチを設ける必要がなく、安定した張力設定を安価に実現することができる。
【0019】
さらに本発明によれば、弾性糸の送り状態を調整可能な糸送り装置を備える編機で、糸送り装置からの弾性糸の供給経路に、弾性糸の張力として設定すべき張力よりも小さい基準の張力を検出するとON/OFFの作動状態が変化する検出スイッチを設ける。制御装置は、糸送り装置を予め設定されるプログラムに従って制御し、基準検出ステップと張力設定ステップとを実行させるように制御するので、自動的に弾性糸の張力の設定を簡易的に行い、編地製品の再現性を良好にして品質を向上させることができる。
【0020】
また本発明によれば、検出スイッチは、水平方向に作動するように設置されるので、弾性糸の自重の影響を受けないで基準の張力を検出することができる。
【0021】
また本発明によれば、糸送り装置が弾性糸を戻す側には、空気を吹出すノズルなど、弾性糸の絡まり防止機構が設けられるので、戻して緩んでいる弾性糸の糸送り装置などへの絡まりを防止し、編成時の送り出しに支障が生じないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、本発明の実施の一形態としての編機1の全体的な構成を簡略化して示す。各構成部分の相対的な向きや大きさも、説明の便宜上、変更していることがある。編機1は、針床2の長手方向に沿ってキャリッジ3が往復走行しながら、編地を編成する。針床2には多数の編針が並設され、キャリッジ3に搭載されるカム機構で駆動されて編成動作を行う。キャリッジ3の走行時には、ヤーンフィーダ4が連行され、編地を形成するための編糸を編針に供給する。編機1には複数のヤーンフィーダ4が備えられ、キャリッジ3が連行するヤーンフィーダ4を切り替えることによって、編糸を切り替えることができる。弾性糸であるゴム糸5も、1つのヤーンフィーダ4を介して供給される。ただし、ゴム糸5以外の編糸については、図示を省略している。
【0023】
ゴム糸5の供給経路には、長いゴム糸5が巻き付けられ、ゴム糸5を供給するゴム糸コーン6、ゴム糸5の糸切れを検出する糸切れ検出スイッチ7、および送り量と送り方向とを制御可能なゴム糸送り装置8が含まれる。編機1で、たとえば手袋や靴下など、比較的編幅が小さい編地製品を専用的に編成する場合、針床2の長さは汎用の横編機に比較して短くなる。このような編機1では、編糸を上方から供給して、キャリッジ3の走行方向で編糸の供給条件に差が生じるのを防ぐ。編糸を上方から供給するためには、編機1の上方で方向を変換すればよい。たとえばゴム糸5では、供給源となるゴム糸コーン6は、編機1の下方に設置する。編機1の上方には、糸切れ検出スイッチ7を設け、アーム7aの先端にプーリ7bを設けてゴム糸5を掛ける。プーリ7bで下方から供給されるゴム糸5を下方のヤーンフィーダ4に折り返す際に、ゴム糸コーン6のゴム糸5を使い切っていれば、ゴム糸5の張力が低下し、アーム7aを介してマイクロスイッチのON/OFFが切り替わって、糸切れとして検出される。何らかの原因で、ゴム糸5が切断されるときも、糸切れ検出スイッチ7はON/OFFを切り替える。
【0024】
マイクロスイッチのON/OFFの切り替えは、a接点やb接点などの接点形式や、アーム7aからの機械的な駆動の形式で変更可能である。糸切れ検出スイッチ7としては、糸切れがなく、張力がある程度以上大きい状態でOFFとなり、張力が小さくなるとONとなって糸切れを検出するような形式で使用される。マイクロスイッチは、操作する速度と無関係に、接点間の開閉が高速で行われるスナップアクション機構を備えており、スナップアクション機構は一定以上の負荷が掛れば作動する。このようなスナップアクション機構に弾性糸の張力が作用するようにしておけば、糸切れを一定の負荷が掛るか否かとして検出することができる。
【0025】
ゴム糸コーン6と糸切れ検出スイッチ7のプーリ7bとの間には、ゴム糸送り装置8が設けられる。ゴム糸送り装置8は、送りローラ8aをモータ8bで回転駆動し、回転の角変位量で送り量を調整することができる。モータ8bは、回転方向を切り替えることもでき、一方側への回転方向の切り替えではゴム糸5を送り出し、他方側への回転方向の切り替えではゴム糸5を戻す。ゴム糸5が確実に送りローラ8aの表面に接触するように、ゴム糸5は、送りローラ8aと押さえローラ8cとの間に挟まれている。押さえローラ8cは、ゴム糸5を送り出すローラ8aの表面に押しつけて挟むように、ばねで付勢されている。モータ8bの他方側への回転でゴム糸5がゴム糸コーン6側へ戻されるときに、ゴム糸5は緩んでいるので、ゴム糸5が通る孔を有する案内部材8dで孔の周囲に堆積し、再び送り出す際などに送りローラ8aなどに絡まるおそれもある。ゴム糸5が堆積しなくても、静電気によって送りローラ8aなどに絡まるおそれもある。このようなゴム糸5の絡まりを防ぐための絡まり防止機構として、ゴム糸コーン6側への張力を付与するエアノズル9を設けることが好ましい。
【0026】
エアノズル9を設けて、ゴム糸送り装置8からゴム糸コーン6側に戻すゴム糸5に沿って空気などを吹き出せば、高速でゴム糸5を戻しても、ゴム糸5を確実に案内部材8dの孔へ案内し、孔の周囲への堆積を防ぐことができる。このような絡まり防止機構としてのエアノズル9を設ける位置は、ゴム糸送り装置8から離すこともできる。
編機1の全体的な制御のために、制御装置10が設けられる。制御装置10には、操作入力部11、表示部12、CPU13、メモリ14、編成駆動部15、給糸駆動部16およびノズル9からの空気の吹出しを制御するノズル駆動部17が含まれる。操作入力部11には、編機1を操作する作業者からの指示などが入力される。表示部12では、編機1の動作状態の表示などが行われる。操作入力部11への操作入力の結果は、CPU13に入力される。CPU13には、糸切れ検出スイッチ7など、編機1の各部からの信号信号も入力される。CPU13は、メモリ14に予め格納してあるプログラムに従うゴム糸5の張力設定動作を自動的に行うように制御することもできる。メモリ14には、操作入力部11への操作入力への応答や、表示部12への表示に関する制御プログラムも予め格納される。
【0027】
手袋や靴下を編地製品として編成する編機1では、針床2での編針の選針を、選針ドラムなどで機械的に行う。また、編糸やゴム糸5を切断するカッタや、先端を保持するルーパなども設けられる。編成時のこれらの制御は、CPU13が編成駆動部15を介して行う。また、ゴム糸送り装置8の制御は、CPU13が給糸駆動部16を介して行う。メモリ14には、各編地製品を編成する途中の段階で、たとえばキャリッジ3の1行程毎に送り出すべきゴム糸5の量を、制御データとして設定しておく。ノズル駆動部17は、圧縮空気の供給経路に設けられる開閉弁18を駆動し、ノズル9からの空気の吹出しを制御する。
【0028】
以上のような構成の編機1では、編糸やゴム糸5を作業者が編機1にセットした後、編地製品を順次、自動的に編成することができる。編地製品の自動的な編成は、従来から行われているけれども、本実施形態の編機1では、編地製品のガーメント単位で、ゴム糸5の張力の初期設定も自動的に行うことができる。
【0029】
図2は、図1の編機1で、制御装置10に自動的なゴム糸5の初期設定を行わせる一つの手順を概略的に示す。ステップa0から手順を開始し、ステップa1では作業者がゴム糸コーン6を編機1に装着し、ゴム糸コーン6から引き出すゴム糸5をゴム糸送り装置8および糸切れ検出スイッチ7を介してヤーンフィーダ4から針床2のルーパなどにセットする。ステップa2では、ゴム糸5を張る。ゴム糸5の張りが不充分で張力が弱いと、ステップa3で糸切れ検出スイッチ7が糸切れとして検出してしまう。ステップa3で糸切れとして検出されるときは、ステップa2に戻る。ステップa3で糸切れが検出されなければ、ステップa4で、操作入力部11に対してゴム糸5のセットが終了したことを示す操作を行う。
【0030】
ステップa5以降の手順は、CPU13のプログラム動作で自動的に行われる。ステップa5では、ゴム糸送り装置8からゴム糸5を送り出して、張力を緩める。ステップa6では、張力の緩みを、糸切れ検出スイッチ7が糸切れとして検出するか否かを判断する。糸切れが検出されなければ、ステップa5に戻る。ステップa6で糸切れとして、張力の緩みが検出されれば直ちにステップa7でゴム糸5の送り出しを停止する。ゴム糸5の張力は、糸切れ検出スイッチ7が糸切れとして検出する基準値となる。すなわち、ステップa5からステップa7までは、基準検出ステップとなる。ステップa8では、ノズル9から空気を吹き出しながらゴム糸5を一定量だけゴム糸送り装置8が巻き戻す。ノズル9から空気を吹き出すので、ゴム糸送り装置8からゴム糸コーン6側に戻すゴム糸5が案内部材8dの孔の周囲などに堆積して絡まるのを防ぐことができる。
【0031】
ゴム糸送り装置8の送りローラ8aと押さえローラ8cとでゴム糸5が挟まれる部分から針床2のルーパなどでゴム糸5の先端が保持されている部分までの供給経路の長さは一定とみなすことができる。この一定長のゴム糸5から一定量だけ巻き戻されるので、残るゴム糸5は、糸切れ検出の張力下では一定長と一定量との差の長さとなるけれども、一定長となるように伸びて、伸び率に対応するだけ張力が増大する。すなわち、ステップa8は、張力設定ステップとなる。
【0032】
ステップa9では、1ガーメントの編地製品の編成を行う。糸切れ検出スイッチ7は、本来の機能である糸切れの検出動作を行う。ステップa10では、予定の生産個数を編成しているか否かなどで、編成終了か否かを判断する。終了でないと判断するときは、ゴム糸5の張力は糸切れ検出スイッチ7が糸切れを検出する張力よりも大きいので、ステップa5に戻る。ステップa10で生産終了と判断するときは、ステップa11で編成を終了する。このような手順で、1ガーメント毎に張力の自動的な初期設定を行うことができる。ゴム糸5は、弾性変形する範囲で、伸び率と張力とに比例などの一定の対応関係があるので、伸び率を一定にしてガーメント毎の編成を開始することで、張力のガーメント毎に張力の初期設定を行い、累積誤差を解消させて再現性のよい編地製品を編成することができる。なお、累積誤差の発生の程度が小さいときは、複数のガーメント単位で初期設定を行い、ガーメント毎に初期設定を行う場合よりも生産効率を向上させることもできる。また、編成の途中でゴム糸5が糸切れしたり、ゴム糸コーン6のゴム糸5を使い切って、新たなゴム糸コーン6に交換した後に、編成を再開したり続行したりする場合も、ステップa0以下と同様な手順で張力の設定を行うことができる。ただし、ゴム糸5の先端は、編成途中の編地を係止する編針で保持することになる。また、設定する張力も、編地の編成の進行に合わせて、初期設定とは異ならせるようにすることもできる。
【0033】
図3は、図1の編機1で、制御装置10に自動的なゴム糸5の初期設定を行わせる他の手順を概略的に示す。ステップb0から手順を開始し、ステップb1では作業者がゴム糸コーン6を編機1に装着し、ゴム糸コーン6から引き出すゴム糸5をゴム糸送り装置8および糸切れ検出スイッチ7を介してヤーンフィーダ4から針床2のグリッパなどにセットする。ステップb2では、ゴム糸5を緩める。ゴム糸5の張力が強いと、ステップb3で糸切れ検出スイッチ7が糸切れとして検出しない。ステップb3で糸切れとして検出されないときは、ステップb2に戻る。ステップb3で糸切れが検出されれば、ステップb4で、操作入力部11に対してゴム糸5のセットが終了したことを示す操作を行う。
【0034】
ステップb5以降の手順は、CPU13のプログラム動作で自動的に行われる。ステップb5では、ゴム糸送り装置8がゴム糸5を巻き戻して、張力を強める。ステップb6では、張力の増大を、糸切れ検出スイッチ7が糸切れとして検出しないか否かを判断する。糸切れとして検出されれば、ステップb5に戻る。ステップb6で糸切れとして検出されなければ、張力の緩みが解消されて基準の張力を超えたことになり、さらにステップb7でゴム糸5の巻き戻しを一定量だけ行い、巻き戻しを停止する。ゴム糸5の張力は、糸切れ検出スイッチ7が糸切れとして検出する基準値から、一定量の巻き戻しで伸びる伸び率に対応する張力に設定される。一定量の巻き戻しを行う際には、ノズル9から空気を吹き出すので、ゴム糸送り装置8からゴム糸コーン6側に戻すゴム糸5が案内部材8dの孔の周囲などに堆積して絡まるのを防ぐことができる。
【0035】
ステップb8では、1ガーメントの編地製品の編成を行う。ステップb9では、予定の生産個数を編成しているか否かなどで、編成終了か否かを判断する。終了でないと判断するときは、ゴム糸5の張力は糸切れ検出スイッチ7が糸切れを検出する張力よりも大きいので、ステップb10では、ゴム糸5を緩める。ゴム糸5の張力が強いと、ステップb11で糸切れ検出スイッチ7が糸切れとして検出しない。ステップb11で糸切れとして検出されないときは、ステップb10に戻る。ステップb11で糸切れとして検出されれば、ステップb5に戻る。ステップb9で編成終了と判断するときは、ステップb12で編成を終了する。このような手順で、1ガーメント毎に張力の自動的な初期設定を行うこともできる。複数ガーメント毎の初期設定や、糸切れ後の編成再開や継続も、図2と同様に行うことができる。
【0036】
図4は、本発明の実施の他の形態としての編機21の全体的な構成を簡略化して示す。図1の編機1と対応する部分には同一の参照符を付し、重複する説明を省略する。編機21では、糸切れ検出スイッチ7の外に、基準検出スイッチ27を備えるゴム糸送り装置28を用いる。基準検出スイッチ27は、検出プーリ28aの水平方向の変位に応じてON/OFFを切り替える。検出プーリ28aは、送りローラ8aと押えローラ8cとの間から糸切れ検出スイッチ7のプーリ7bに至るゴム糸5が掛けられ、張力に応じて変位する。検出プーリ28aは水平方向に変位して作動するので、ゴム糸5の自重の影響を受けずに、基準の張力を設定することができる。張力設定の際の制御では、図2および図3の糸切れ検出スイッチ7についての部分を、基準検出スイッチ27に置換えればよい。
【0037】
このように基準検出スイッチ27を糸切れ検出スイッチ7とは別に設ける場合は、糸切れ検出スイッチ7は糸切れの検出のみに使用することができる。基準の張力の検出は、糸切れを検出しない張力の範囲で行われることが望ましく、基準の張力は糸切れ検出の張力よりも大きくしておく。基準検出スイッチ28で糸切れ検出も兼用し、糸切れ検出スイッチ7は用いないようにすることもできる。
【0038】
ゴム糸送り装置28がゴム糸5を急速に戻す際の絡まり防止機構としては、戻しアーム29を用いる。戻しアーム29は、特開2005−120531号に開示されている巻戻しアームと同等である。戻しアーム29を作動させると、実線で示す休止状態29aから二点鎖線で示す作動状態29bのように旋回変位し、ゴム糸5を実線で示す通常状態5aから二点鎖線で示す戻し状態5bのように引込んで、緩みをとることができる。戻しアーム29の駆動は、制御装置30にアーム駆動部37を設けて、CPU13による制御で行うことができる。なお、戻しアーム29に代えて、図1のノズル9を用いることもできる。また、戻しアーム29を図1でノズル9に代えて用いることもできる。
【0039】
絡まり防止機構としてノズル9のようなエア式と、戻しアーム29のようなアーム式とを比較すると、エア式の方が好ましい。アーム式では、アームの旋回で緩みを吸収するので、アームの長さや旋回量により、送りローラ8aが緩みなく巻戻す量には制限が生じ、巻戻す量が多い場合に対応させることができない。エア式では、空気の吹出しのON/OFFの制御のみで緩みをとるので、送りローラ8aが緩みなく巻戻す量には制限がなく、巻戻す量が多くても対応させることができる。また、アーム式では、ゴム糸5の送り時に不要な張力がかかるおそれがあるのに対し、エア式では、空気の吹出しをOFFにすれば、ゴム糸5の送り時には不要な張力をかける心配がなくなる。さらに、ノズル9のようなエア式では、ノズル9と開閉弁18とで主要部分を構成することができるので、アームや、アーム先端への弾性糸の案内部材や、アームの旋回駆動源などを必要とする戻しアーム29のようなアーム式よりも、構成や制御も簡単になるからである。
【0040】
図2と図3とに示す手順は、ステップa1またはステップb1でのゴム糸5のセット時に、糸切れを検出するか否かで自動的に判別させることもできる。すなわち、ゴム糸5のセット時に、作業者はステップa4またはステップb4に示すセット終了の操作を行うだけにする。CPU13は、糸切れ検出スイッチ7のON/OFFの切り替え状態を調べ、糸切れ検出とはならないようにゴム糸5が張られていれば、図2のステップa5以下の手順に移行し、糸切れ検出となるようにゴム糸5が緩んでいれば、図3のステップb5以下の手順に移行すればよい。
【0041】
以上の説明では、編機1,21として、手袋や靴下を編成する比較的針床2が短い横編機に本発明を適用しているけれども、針床が長い汎用の横編機や、丸編機など、よこ編み用の各種編機や、たて編み用の編機にも、同様に本発明を適用することができる。本発明は、簡易的方法であり、厳密に張力を設定することはできないけれども、編地の仕上りにおいて問題ない範囲で再現性良く実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の一形態としての編機1の全体的な構成を簡略化して示すブロック図である。
【図2】図1の編機1で、制御装置10に自動的なゴム糸5の初期設定を行わせる一つの手順を概略的に示すフローチャートである。
【図3】図1の編機1で、制御装置10に自動的なゴム糸5の初期設定を行わせる他の手順を概略的に示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の他の形態としての編機21の全体的な構成を簡略化して示すブロック図である。
【符号の説明】
【0043】
1,21 編機
5 ゴム糸
7 糸切れ検出スイッチ
8,28 ゴム糸送り装置
9 ノズル
10,30 制御装置
13 CPU
14 メモリ
27 基準検出スイッチ
29 戻しアーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性糸の送り状態を調整可能な糸送り装置を備える編機で弾性糸の張力を設定する方法であって、
糸送り装置から編機への弾性糸の供給経路に、弾性糸の張力として設定すべき張力よりも小さい基準の張力を検出するとON/OFFの作動状態が変化する検出スイッチを設けておき、
糸送り装置での弾性糸の送り状態を、検出スイッチが基準の張力を検出するように調整する基準検出ステップと、
基準の張力の検出後、糸送り装置で、設定すべき張力に対応して予め定められる量の弾性糸を引き戻して、張力を増大させる張力設定ステップとを、
含むことを特徴とする編機での張力設定方法。
【請求項2】
前記検出スイッチが検出する基準の張力よりも大きい張力で張るように、前記糸送り装置から前記編機に弾性糸をセットし、
前記基準検出ステップでは、検出スイッチが基準の張力を検出するまで、張力を緩めるように弾性糸を送り出すことを特徴とする請求項1記載の編機での張力設定方法。
【請求項3】
前記検出スイッチが検出する基準の張力よりも小さい張力で緩むように、前記糸送り装置から前記編機に弾性糸をセットし、
前記基準検出ステップでは、検出スイッチが基準の張力を検出するまで、張力を張るように弾性糸を戻すことを特徴とする請求項1記載の編機での張力設定方法。
【請求項4】
前記編機が弾性糸の糸切れを検出するための糸切れ検出スイッチを備えるときに、前記検出スイッチとして糸切れ検出スイッチを利用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の編機での張力設定方法。
【請求項5】
弾性糸の送り状態を調整可能な糸送り装置を備える編機であって、
糸送り装置からの弾性糸の供給経路に設けられ、弾性糸の張力として設定すべき張力よりも小さい基準の張力を検出するとON/OFFの作動状態が変化する検出スイッチと、
糸送り装置を予め設定されるプログラムに従って制御し、糸送り装置での弾性糸の送り状態を、検出スイッチが基準の張力を検出するように調整する基準検出ステップと、基準の張力の検出後、糸送り装置で、設定すべき張力に対応して予め定められる量の弾性糸を引き戻して、張力を増大させる張力設定ステップとを実行させる制御装置とを、
含むことを特徴とする編機。
【請求項6】
前記検出スイッチは、水平方向に作動するように設置されることを特徴とする請求項5記載の編機。
【請求項7】
前記糸送り装置が弾性糸を戻す側には、弾性糸の絡まり防止機構が設けられることを特徴とする請求項5または6記載の編機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−95244(P2008−95244A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−278865(P2006−278865)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】