説明

緩衝性靴底要素を有する運動靴

足前部の領域に少なくとも一つの靴底要素(6)を含む外部靴底(1)を有する運動靴であって、少なくとも一つの靴底要素(6)が、走っている時に地面に着地する度に発生する減速の縮小に寄与するように、最初に地面に着地し、アスファルト、コンクリート、及び床などの硬い地面に対して制限された表面摩擦を付与できる材料から形成されている。一般に、靴底要素は、耐摩耗性の合成材料から作られており、足前部下の外側に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルトなどの硬い地面上で用いるための緩衝装置を有する靴に関する。より詳細には、本発明は、足の前部(以下、足前部と称する)にも良好な緩衝を付与するように設計された外部靴底を有する運動靴に関する。
【背景技術】
【0002】
運動靴又はスポーツシューズが、足の後部(以下、足後部と称する)に良好な緩衝を有することは良く知られている。緩衝は、可撓性材料層が、好ましくは、空気のトラップポケット(trapped pocket)及びゲル状緩衝材と組み合わされて提供され得る。
【0003】
足後部下の緩衝に相応し、足後部下の緩衝率よりもやや低い足前部下の緩衝を有する、所謂「全緩衝型運動靴」と呼ばれる靴も提供されている。この種の緩衝は、上下方向の動作の緩衝に効果的である。
【0004】
しかしながら、利用分野によっては、水平方向の動きの緩衝が重要とされる場合もある。これは、アスファルトのような硬い地面を高い速度で走るとともに、足前部が足の踵(以下、足踵部と称する)よりも早く地面に接触するように走る競技走者に特に関連している。足前部の着地に関する一般的な問題は、着用している運動靴が、足が地面に着地する度に急な減速(retardation)を生じる高摩擦を有する靴底を有しているので、足と足首にかかる水平方向のひずみ(緊張)が非常に高いことである。一方、踵で着地する走者にとってこの問題はあまり重要ではない。というのは、踵で着地する場合、足踵部から足前部の方向に回転動作が得られるためである。競技用の運動靴の場合、可能な限り最小の荷重が望ましいとされており、このため、足前部下のみならず足後部においても緩衝材の使用量の削減が行われるので、この問題は特に重要である。
【0005】
以上のような欠点を軽減する努力が成されてきたが、最適な解決法は提供されておらず、特に、競技用に設計された運動靴、即ち、超軽量の運動靴に対しては、最適な解決法がいまだに提供されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許出願公開第2733605号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
独国特許出願公開第2733605号には、靴底の端部に波型の外形を設け、靴底の左右に弾性のリブを設けて、長手方向に一定の可撓性を付与する運動靴が開示されている。この運動靴は、地面に着地する時、一定の可撓性を付与するが、水平方向の緩衝の範囲は、リブの高さとそれらの可撓性によって制限される。また、この特許明細書に開示されている運動靴は、競技用としては不適格であると思われる。
【課題を解決するため手段】
【0008】
上記の問題を解決するために、本発明の目的は、走者が、高速で走っている間、即ち、靴の前部が靴の踵部よりも早く地面に着地する時、水平方向に特に良好な緩衝を有する運動靴を提供することである。
【0009】
上記の目的は、請求項1に記載されている運動靴の形態によって達成される。「硬い地面」という用語は、アスファルト、コンクリート、他のコンパクト地面などの地面をいう。また、本発明の運動靴は、合成地面の異なるタイプの軟質の地面にも限られた範囲で機能することができる。
【0010】
好ましい実施の形態は、従属クレームによって開示されている。
【0011】
本発明による運動靴を使用した場合に得られる特徴は、運動靴の前部が運動靴の踵部と同じ早さで、または、運動靴の前部が靴の踵部より早く地面に着地するように走る場合、地面と運動靴の間に生じる摩擦が削減されることである。地面、速さ、及び走り方にもよるが、運動靴は、ステップ(踏付け)毎に制限された距離だけ摺動する。摺動距離は、一般に、1〜3cmであり、速度、地面の種類、地面の傾き次第で、4〜5cm以上となる。これによって、ユーザの足と足首の様々な接合部に掛かる荷重が軽減され、踏付け長さが長くなり、これによって、走る速さが速くなる。体重が前方の爪先方向へ移動する時、摩擦は再び高くなり、次の踏付けまでの蹴り上げ(キックオフ)の瞬間では、プレート(摩擦削減部分)が地面に接触していないため、摩擦は再びその最高になる。
【0012】
足前部が先に地面に着地する方法で走る場合でも、足、即ち、靴底が地面に着地した直後、靴底に回転が生じる。この回転は、部分的には足の前方にかけて生じ、部分的には外側(やや爪先側)から内側(親指側)にかけて生じる。しかしながら、回転運動をより深く研究すると、前方への回転動作が大きくなる前に、後方への回転動作の初期段階が発生するなど、上述した内容よりもずっと複雑であることが分かる。しかしながら、本発明は、踏付け毎の完全な動作パターンの科学的な理解に基づいて成されているわけではない。むしろ、本発明において重要なことは、地面との摩擦を削減する特定の靴底要素が、主に、靴底の外側部に配置されることで、着地段階において、靴底が、できるだけ早く地面に接触することができるという点にある。また、靴底の内側部が靴底要素の大きな面積を占めていないということは更に重要であり、これは靴底の内側部は蹴り上げ時の把持力を更に低下させるからである。
【0013】
本発明において、靴底要素は外部靴底に適合して作成された少なくとも一枚のプレートの形態を有する。一般に、外部靴底は、プレート(又は複数のプレート)と略同じ形状の少なくとも一つの凹部を含む。これらのプレートは、永久に、着脱可能に、及び/または、交換可能に、靴底に取り付けることができる。
【0014】
主として、上下方向に発生する減速を緩和するために好適とされる従来の緩衝性の圧縮可能材料が、外部靴底の下、及び/または、プレートと外部靴底の間に配置され得る。
【0015】
外部靴底の凹部に取り付けられた分離したプレートに代えて、外部靴底と一体的に作られた靴底要素を使用してもよい。これによって、運動靴の着用中に靴底要素を紛失する心配がなくなる。更に、対応する摩擦係数を有する硬度から他の摩擦係数を有する硬度まで、硬度を段階的に変化させることができる。但し、このタイプの靴底要素は磨耗されても交換不可能である。
【0016】
靴底要素の地面との摩擦を所望のように制御するための方法はいろいろある。一つの方法は、ある材料の硬度を調整することである。一般に、ある材料から作られた靴底要素の硬度が高いほど、摩擦係数は低くなる。いかなる状況下でも、本発明の靴底要素は、通常、外部靴底の他の部分より硬い。このように、材料も摩擦に影響を与え得る。本発明による靴底要素は、合成材料で作られることが好ましいが、所望の低摩擦が得られれば、いかなる合成材料が使用されてもよい。実用性と経済的な理由から、靴底要素が運動靴の他の部分より早く磨耗するのを防止するために、靴底要素には耐摩耗性の高い材料を使う必要がある。いくつかの実施の形態によれば、本発明の靴底要素が運動靴の外部靴底の他の部分とは異なる材料によって作られることが好ましい。
【0017】
本発明のいくつかの実施の形態による運動靴が、図面を参照することによって、以下に説明されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の運動靴の靴底を示す平面図である。
【図2】図1とほぼ同じであるが、図1とはわずかに異なる位置に本発明の靴底要素を置いた時の図である。
【図3】二つの分離した靴底要素を有する本発明の実施の形態の靴底を示す図である。
【図4】図3に示された二つの靴底要素が一部重なり合ったときの変形例を示す図である。
【図5a】図1に示された靴底を線V−Vで切断したときの靴底を示す側面図である。
【図5b】図5aの拡大詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明による運動靴を下から見た時の靴底を示す。靴底は、爪先部2、踵部3、外側部4、及び内側部5を有する。靴底の特徴的な部分は、摩擦を削減できると共に、足前部下の略外側に配置されている特定の靴底要素6である。靴底の長手方向延長線を横切る点線は、ユーザの幅方向の足底弓(foot arch)の最も高い部分を示している。足前部は、上記点線より前方の足の部分として理解されたい。
【0020】
図2には、本発明による運動靴の靴底の他の変形例が示されている。この変形例によれば、特定の靴底要素6’は、足の外側部から延び、やや内側部よりに位置しているが、その主要部分は外側部にある。
【0021】
図3は、本発明による運動靴の靴底の更に他の変形例を示す。この場合、靴底の前部の主として外側に配置されている二つの分離した靴底要素6a及び6bが提供されている。これらの要素は分離されているが、互いに接近して配置されている。
【0022】
図4は、図3に示された運動靴の靴底の変形例であり、二つの靴底要素6a’と6b’が互いに一部オーバーラップしているように見える。その一部は、「靴底要素6a’にオーバーラップしている」靴底要素6b’の一部に対応している靴底要素6a’を切り抜いた切抜きであってもよい。また、本発明による靴底要素は、二つ以上(図示しない)設けてもよいが、この場合、大きさが重要でない限り、摩擦が抑制された少なくとも一つの靴底要素を足の前方の内側部に配置することが望ましい。
【0023】
図3における靴底要素6a及び6bは、互いに異なる特性を有する。例えば、靴底要素6a及び6bは、異なる硬度を有し、例えば、アスファルトなどの地面に対して異なる摩擦を付与する。つまり、通常、最初に地面に着地する靴底要素6aのアスファルトに対する摩擦は靴底要素6bより低い。靴底要素6bの摩擦は靴底要素6aより高いが、靴底の他の部分よりも低い。また、図4の靴底要素6a’及び6b’についても同様である。
【0024】
図5aにおいて、図1の線V−Vに沿って切断された靴底の側断面図が示されている。図示されている靴底の厚さは、靴底の他の寸法に合わせて大きく描かれている。図5bにおいて、図5aの拡大断面図(円内)が示されている。図5bによれば、靴底要素6が、δ(デルタ)によって示されている程度、靴底から突出していることが理解されよう。このような高さの差を設けることは必須ではないが、設けた場合の高さは、0.5〜5mmの範囲であることが好ましい。これによって、地面の表面があまり平らでない場合でも、または、ユーザの足における回内運動(pronation movement)が減少している場合に、特定の靴底要素が最初に地面に着地する確率が高くなる。
【0025】
図5a及び図5bには、靴底1に固定された靴底要素を支持又は保持するために靴底要素の一部又は円周全体にわたって長手フランジを含む靴底要素が示されている。これは、本発明において必要不可欠な特徴ではなく、靴底要素6が靴底1に接触している全体部分又は実質的な部分に対して靴底要素6を靴底1に好適に取り付ける方法としては十分ではない。好ましい取り付け機構は、接着又は加硫(vulcanization)による取り付け方法である。靴底の部分の一部又は全体を覆って一般に靴底の上に配置される緩衝要素(又は複数の緩衝要素)以外に、靴底1と靴底要素6の間の層8内には、靴底要素6のための特定の緩衝要素又は緩衝材が配置され得る。緩衝材8は、弾性があり、いくつかの実施の形態において、緩衝材8は、少なくとも突出部「δ(デルタ)」の大きさ、即ち、靴底要素と靴底1の他の部分の間の高さの差に等しい厚さを有し、これによって、地面を踏付ける度に、靴底要素が靴底の他の部分の高さまで圧縮される。場合によっては、緩衝材8は、上下方向と水平方向の両方における緩衝に寄与する。
【0026】
靴底要素は、一般に高い耐磨耗性を有する合成材料から作られる。合成材料は、アスファルト、コンクリート、敷石などの地面に対して摩擦を付与する硬度、特に表面硬度を有する。上記のような地面に対して合成材料が付与する摩擦は、靴底1がこのような地面に対して付与する摩擦よりも低い。また、靴底要素は、強度及び摩擦係数に関するその特性に一層対応できるように、繊維又は粒子を含むこともできる。
【0027】
(乾燥)アスファルト及び(乾燥)コンクリートに対する靴底要素の摩擦係数は、0.8未満、好ましくは、0.1〜0.6、より好ましくは、0.2〜0.4であることが好ましい。
【0028】
靴底要素6が、足前部下、即ち、図1〜図4における靴底の幅方向の点線より前方、に配置されている靴底の部分の面積の少なくとも15%を占める部分を有することが更に一層好ましい。図3に示されるように、靴底要素が一つより多い場合、これらの靴底要素の合計が上述の相対的な面積に一致する必要がある。
【0029】
また、本発明による靴底要素は、主に靴底下の外側に配置されている。即ち、靴底要素の最も大きい部分又は靴底要素全体が、靴底1に沿った仮想中心線の外側に配置されている。一般に、靴底要素の面積の少なくとも75%が、靴底の長手方向に沿った仮想中心線の外側部に配置されていることがより好ましい。
【0030】
図では、右足運動靴の靴底のみが示されている。同じ原理が一足の運動靴の両方に適用可能であり、「外側」及び「内側」の意味は、左足運動靴の靴底の図面が、図1〜図4の鏡面画像として見えることを示唆していることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
足前部の領域に少なくとも一つの靴底要素(6)を含む外部靴底(1)を有する運動靴であって、
前記少なくとも一つの靴底要素(6)が、走っている時に前記地面に着地する度に発生する減速の縮小に寄与するように、最初に地面に着地し、
前記少なくとも一つの靴底要素(6)が、硬い地面に対して制限された表面摩擦を付与する材料から形成されていることを特徴とする、運動靴。
【請求項2】
前記靴底要素(6)が、前記足前部下の略外側に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の運動靴。
【請求項3】
前記靴底要素(6)の面積の少なくとも75%が、前記足前部に沿った仮想中心線の外側にあることを特徴とする、請求項2に記載の運動靴。
【請求項4】
前記靴底要素(6)が、前記外部靴底(1)に使用される少なくとも一つのプレート形状であることを特徴とする、請求項1に記載の運動靴。
【請求項5】
前記外部靴底(1)が、前記少なくとも一つのプレート形状と略同じ形状を有する凹部を含むことを特徴とする、請求項3に記載の運動靴。
【請求項6】
前記靴底要素(6)が、前記外部靴底(1)の一体部分を含むことを特徴とする、請求項1に記載の運動靴。
【請求項7】
前記靴底要素(6)の表面硬度が、前記外部靴底(1)の他の部分の表面硬度よりも高いことを特徴とする、請求項1に記載の運動靴。
【請求項8】
前記靴底要素(6)が、前記外部靴底(1)の他の部分の材料とは異なる材料から作られていることを特徴とする、請求項1に記載の運動靴。
【請求項9】
前記靴底要素(6)が、前記外部靴底(1)の周囲部分より、0.5〜5mm突出していることを特徴とする、請求項1に記載の運動靴。
【請求項10】
前記靴底要素(6)と前記外部靴底(1)の間には、圧縮可能緩衝材(8)が配置され、踏付け毎に圧縮可能緩衝材(8)が前記靴底要素(6)の全体又は一部分を前記外部靴底(1)内へ沈ませることを特徴とする、請求項1に記載の運動靴。
【請求項11】
前記靴底要素(6)が、耐磨耗性の高い合成材料から作られていることを特徴とする、請求項1に記載の運動靴。
【請求項12】
前記合成材料の耐摩耗性及び摩擦係数の表面特性を改良するために、前記合成材料が繊維又は粒子によって補強されていることを特徴とする、請求項11に記載の運動靴。
【請求項13】
乾燥アスファルト及びコンクリートに対する前記靴底要素(6)の摩擦係数が、0.8未満であることを特徴とする、請求項1に記載の運動靴。
【請求項14】
アスファルト及びコンクリートに対する前記靴底要素(6)の摩擦係数が、0.1〜0.6であり、より好ましくは、0.2〜0.4であることを特徴とする、請求項13に記載の運動靴。
【請求項15】
前記靴底要素(6)が、前記足前部下に位置している前記靴底の部分の面積の少なくとも15%を占めていることを特徴とする、請求項1に記載の運動靴。
【請求項16】
前記靴底要素(6)が、対応表面に対してそれぞれ異なる摩擦を付与できる少なくとも二つの分離した靴底要素(6a、6b)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の運動靴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a−5b】
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【公表番号】特表2010−509021(P2010−509021A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537105(P2009−537105)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【国際出願番号】PCT/NO2007/000396
【国際公開番号】WO2008/066388
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(509135658)
【Fターム(参考)】