説明

縦シュート

【課題】 鉄筋がたて込んでいる場合であっても容易に型枠内に挿入して、基準通りの施工を行うことが可能な縦シュートを提供する。
【解決手段】 複数の棒状部材20の上端部付近を、伸縮性を有する連結部材30により連結して筒体を形成し、縦シュート10とする。各棒状部材20は、粗骨材が筒体内から飛び出さない程度の間隔を隔てて連結する。任意の位置において隣り合う棒状部材20の間に掛け渡すことにより、隣り合う棒状部材20の間隔を鉄筋50の直径と同程度に保持するコマ部材40を備える。コマ部材40は、棒状部材20に対して着脱可能である。棒状部材20は、長繊維を樹脂で固めて作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート供給管から吐出するコンクリートを上方から下方へ向かって案内するための縦シュートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
所定以上の高さを有する型枠内にコンクリートを打設する際には、粗骨材の分離を防止するためにシュートを用いている。この点、土木学会コンクリート標準示方書では、「型枠が高い場合には、シュートの吐出口を打込み面近くまで下げてコンクリートを打ち込まなければならない。この場合、シュートの吐出口と打込み面までの高さは、1.5m以下を標準とする。」旨の記載がある。
【0003】
従来、コンクリート打設に用いるシュートについて種々の提案がなされている。例えば、粗骨材の分離を防止するとともに、構造物に対する制約が少なく、容易に取り扱うことができる縦シュートが開示されている(特許文献1参照)。この特許文献1に記載された縦シュートは、コンクリートの打設高さよりも長い筒形の弾性部材で、その長手方向に打設高さよりも長く、かつ部分的に開閉自在な割れ目を設けたものである。この縦シュートを用いてコンクリートを打設するには、縦シュートに設けた割れ目内にコンクリート供給管の筒先を挿入し、コンクリートの打ち上がり高さに応じて順次、縦シュートを引き上げてゆく。
【0004】
【特許文献1】特開平4−306360号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、土木学会コンクリート標準示方書には、シュートの吐出口から打込み面までの高さを1.5m以内としなければならない旨が記載されており、施工者はこの基準を遵守してコンクリート打設を行わなければならない。
しかしながら、鉄筋コンクリート構造物では鉄筋が邪魔になり、シュートを型枠下方まで差し込むことが難しい場合がある。特に、近年のコンクリート構造物は、耐震設計により壁や柱を横断する剪断補強筋が増加したため、シュートの挿入が困難な場合が多い。この際、シュートを用いずに、鉄筋上面にコンクリート供給管の筒先を位置させてコンクリートを打設したのでは、コンクリート中の粗骨材が型枠内を落下する過程で鉄筋や型枠に勢いよく衝突して飛び跳ねてしまう。このため、粗骨材が分離してしまい、構造物にジャンカや空隙等の欠陥を生じるおそれがある。
【0006】
そこで、フレキシブルホースを鉄筋の間に挿入して型枠下部まで垂らし、このフレキシブルホース内にコンクリート供給管の筒先を挿入してコンクリートを打設する試みがなされている。
しかしながら、この方法では、フレキシブルホースが鉄筋の間を通過する際に断面が絞られて狭隘部が形成され、上方から落下したコンクリートはこの狭隘部を通過できずにフレキシブルホースの上部から溢れ出してしまうという問題があった。このような問題は、上述した特許文献1に記載された技術でも、同様に生じ得るものである。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、鉄筋がたて込んでいる場合であっても容易に型枠内に挿入して、基準通りの施工を行うことが可能な縦シュートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の縦シュートは、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を有している。
すなわち、本発明の縦シュートは、コンクリート供給管から吐出するコンクリートを上方から下方へ向かって案内するための縦シュートであって、複数の棒状部材の上端部付近を、伸縮性を有する連結部材により連結して筒体を形成したことを特徴とするものである。筒体は、矩形、円形、楕円形等、どのような断面形状を有していてもよく、型枠内の配筋状態に応じて適宜変更して実施することができる。
【0009】
また、本発明の縦シュートは、上述した構成に加えて、各棒状部材は、粗骨材が筒体内から飛び出さない程度の間隔を隔てて連結されていることを特徴とするものである。隣り合う棒状部材間の間隔は、粗骨材の粒径等により適宜変更して実施することができる。
【0010】
また、本発明の縦シュートは、上述した構成に加えて、任意の位置において隣り合う棒状部材の間に掛け渡すことにより、隣り合う棒状部材の間隔を鉄筋径と同程度に保持するコマ部材を備え、該コマ部材は、棒状部材に対して着脱可能であることを特徴とするものである。コマ部材の大きさは、型枠内に配筋された鉄筋径に応じて適宜変更して実施することができる。
【0011】
また、本発明の縦シュートは、上述した構成に加えて、棒状部材は、長繊維を樹脂で固めて作成することを特徴とするものである。具体的には、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維等の長繊維を用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の縦シュートによれば、棒状部材の上端部付近が連結部材により連結されているため、型枠内に挿入された棒状部材は筒状となって縦シュートが形成される。この際、棒状部材の下端部が拘束されずにフリーな状態となっているため、鉄筋を除けながら各棒状部材を型枠内へ容易に挿入することができる。
【0013】
また、連結部材は伸縮性を有するため、鉄筋を除けながら各棒状部材を型枠内へ挿入する際に、棒状部材の間隔を容易に調整することができる。すなわち、鉄筋が存在する箇所では棒状部材の間隔が広がり、鉄筋が存在しない箇所では棒状部材の間隔が狭まるため、配筋状態に合致した筒状の縦シュートを形成することができる。
【0014】
また、予め棒状部材間に間隔を設けた構成とすることにより、鉄筋が密に配設されている場合であっても、棒状部材を型枠内へ容易に挿入することができる。
【0015】
また、鉄筋を除けて棒状部材を挿入しなければならない箇所において、棒状部材の間にコマ部材を掛け渡して、隣り合う棒状部材の間隔を鉄筋径と同程度に保持することにより、上方から下方へ向かって棒状部材をほぼ真っ直ぐな状態とすることができる。
【0016】
また、長繊維を樹脂で固めて棒状部材を形成することにより、軽量かつ折れにくい棒状部材とすることができる。
【0017】
このように、本発明の縦シュートでは、鉄筋がたて込んでいる場合であっても容易に型枠内に挿入して、土木学会コンクリート標準示方書の規定を遵守した施工を行うことが可能であるため、ジャンカや空隙・空洞等の欠陥がないコンクリート構造物を施工することができる。
また、コンクリート構造物に欠陥が生じることがないので、予定外の調査費用や補修費用が発生せず、施工費用の上昇を抑制するとともに、施工会社の信用を高めるという副次的効果を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明に係る縦シュートの実施形態を説明する。
図1〜図6は、本発明の実施形態に係る縦シュートに関するもので、図1は縦シュートの正面図、図2は縦シュートの平面図、図3は縦シュートの斜視図、図4はコマ部材がない場合の棒状部材を示す説明図、図5はコマ部材を用いた場合の棒状部材を示す説明図、図6はコマ部材の平面図である。また、図7及び図8は、本発明の実施形態に係る縦シュートを用いたコンクリート打設を示す説明図で、図8は図7におけるA矢視図である。
【0019】
本発明の実施形態に係る縦シュートは、耐震設計により壁や柱を横断する剪断補強筋を増加させた場合のように、鉄筋がたて込んだ型枠内へコンクリートを打設する際に好適に用いられるものである。
【0020】
<全体の構成>
この縦シュート10は、図1〜図3に示すように、複数の棒状部材20を備えており、この棒状部材20の上端部付近の2箇所を、伸縮性を有する連結部材30により連結して筒体を形成している。このように、本発明の実施形態に係る縦シュート10は、棒状部材20の上端部付近の2箇所が連結部材30により拘束されており、棒状部材20の下端部が拘束されずにフリーな状態となっている。
【0021】
また、図2及び図3に示すように、縦シュート10の断面形状は略正方形となっている。この縦シュート10は、コンクリートポンプに連結されたコンクリート供給管の筒先を挿入できる程度の内径を有している。具体的には、開口部の一辺の長さが25〜30cm程度に設定されている。また、縦シュート10の長さは、型枠の高さを勘案して決定する。具体的には、縦シュート10の下部におけるコンクリートの自由落下距離が1.5m以下であるとともに、縦シュート10の上部にコンクリート供給管の筒先を挿入することを考慮すると、型枠の高さと同程度の長さとすることが好ましい。
【0022】
なお、縦シュート10の断面形状は略正方形に限られず、型枠の形状及び配筋状態に応じて適宜変更して設定することができ、例えば、長方形、円形、楕円形等、どのような断面形状であってもよい。この際、一般的な施工現場では、筒体の内径(筒体の一辺の長さまたは直径)が、上述したように25〜30cm程度に設定される。なお、縦シュートには、挿入時に挿入が容易に行えるように形状を保持するための型枠保持枠を取り付ける。
【0023】
<棒状部材>
棒状部材20は、長繊維を樹脂で固めて作成されている。長繊維としては、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維等を用いることができる。このように、長繊維を樹脂で固めて棒状部材20を作成することにより、棒状部材20の強度及び靱性が向上して破断し難くなるため、繰り返し使用が可能となる。
【0024】
ところで、土木学会コンクリート標準示方書における規定の目的は、鉄筋や型枠に衝突した粗骨材が大きく跳ねて、モルタル分から粗骨材が分離することを防止することにある。したがって、縦シュート10は、剛性を有していたり、完全な連続体であったり、水密性を有している必要はなく、鉄筋や型枠に衝突して飛び跳ねた粗骨材が縦シュート10の外部へ飛び出さない形態であればよい。そこで、本実施形態では、粗骨材が縦シュート10内から飛び出さない程度の間隔を隔てて各棒状部材20を連結している。具体的には、1cm程度の間隔を隔てて隣り合う棒状部材20同士を連結している。
【0025】
<連結部材>
連結部材30は、伸縮性のある布やゴムからなる。この連結部材30により、棒状部材20の上端部付近を連結して筒体を形成する。本実施形態では、棒状部材20の上端部付近の2箇所において、連結部材30により棒状部材20を連結しているが、連結箇所は2箇所に限られず、棒状部材20及び連結部材30の材質や、縦シュート10の大きさ等に応じて、適宜変更して実施することができる。なお、連結箇所が1箇所であると、この連結箇所を回動支点として棒状部材20が上下方向に回動するおそれがあるため、連結箇所は2箇所以上であることが好ましい。連結箇所を2箇所以上とすることにより、棒状部材20の上部において確実に筒体を形成することができる。
【0026】
<コマ部材>
図4に示すように、本発明の実施形態に係る縦シュート10を型枠内に挿入する際に挿入方向の途中に鉄筋50が存在すると、棒状部材20を真っ直ぐに挿入することができない場合がある。すなわち、図4に示すように、隣り合う一組の棒状部材20に着目すると、棒状部材20の上端部付近は連結部材30により拘束されているため、各棒状部材20が鉄筋50に押されて傾斜し、上端部付近では一組の棒状部材20が接近して間隔が狭くなり、下端部付近では一組の棒状部材20の間隔が大きくなる。このような状態となってしまうと、縦シュート10の下方で筒体を形成することができなくなり、縦シュート10としての役目を果たさなくなる。
【0027】
そこで、本発明の実施形態に係る縦シュート10は、コマ部材40を備えている。このコマ部材40は、任意の位置において隣り合う棒状部材20の間に掛け渡すことにより、隣り合う棒状部材20の間隔を鉄筋50の直径と同程度に保持する役目を果たす。
また、コマ部材40は、棒状部材20に対して着脱可能となっており、図6に示すように、隣り合う棒状部材20の外周部にそれぞれ填り込む一組の止着部41と、一組の止着部41の間を繋ぐ架橋部42とを備えている。図6に示す例では、断面略C字状の止着部41としているが、止着部41の形状はこれに限られるものではなく、隣り合う棒状部材20の外周部にそれぞれ填め込むことができれば、断面略U字状、断面略コ字状等、どのような形状であってもよい。この止着部41は、弾性及び可撓性を有するゴムやプラスチック等により形成される。
【0028】
また、架橋部42は、型枠内に配設された鉄筋50の直径とほぼ同程度の長さに設定されている。型枠内に、それぞれ直径の異なる複数種類の鉄筋50が配設されている場合には、架橋部42の長さがそれぞれ異なる複数種類のコマ部材40を用意しておき、鉄筋50の直径に応じて使用するコマ部材40を選択すればよい。
【0029】
コマ部材40は、図5に示すように、棒状部材20の挿入方向の途中に鉄筋50が存在する場合に使用する。すなわち、鉄筋50を除けて棒状部材20を挿入する必要がある任意の位置で、隣り合う棒状部材20の外周部にそれぞれ止着部41を取り付ける。棒状部材20は、伸縮性を有する連結部材30により連結されているため、コマ部材40を取り付けることにより、隣り合う棒状部材20の間隔が広がって、ほぼ鉄筋50の直径と同程度となり、上方から下方へ向かって棒状部材20をほぼ真っ直ぐな状態とすることができる。
【0030】
<コンクリートの打設工程>
次に、本発明の縦シュート10を用いてコンクリートを打設する工程について説明する。
本発明の縦シュート10を用いてコンクリートを打設するには、図7及び図8に示すように、型枠60内へ縦シュート10を挿入し、縦シュート10の上部にコンクリートポンプに連結されたコンクリート供給管70の筒先を挿入する。この際、コンクリート圧送時の脈動により、縦シュート10の上部から筒先が飛び出さないように、適当な手段を用いて筒先を縦シュート10に固定する。
【0031】
棒状部材20は、上端部付近が伸縮性を有する連結部材30により連結されるとともに、下端部は拘束されずにフリーな状態となっている。したがって、棒状部材20の挿入に際して、連結部材30を伸張方向に引っ張ることにより、隣り合う棒状部材20の間隔が広がり、鉄筋50を除けながら各棒状部材20を型枠60内へ容易に挿入することができる。また、隣り合う棒状部材20は、連結部材30により間隔が狭まる方向へ付勢力が加えられているため、必要以上に棒状部材20の間隔が広がることはなく、適正な形状の筒体が形成される。
【0032】
また、棒状部材20の挿入方向の途中に鉄筋50が存在した場合には、鉄筋50の配設位置に対応する一組の棒状部材20の間にコマ部材40を取り付ける。棒状部材20にコマ部材40を取り付けることにより、隣り合う棒状部材20の間隔を鉄筋50の直径と同程度に保持して、上方から下方へ向かって棒状部材20をほぼ真っ直ぐな状態として、適正な形状の筒体が形成される。
【0033】
そして、筒体の下部におけるコンクリート80の自由落下距離が1.5m以下となるように設定して、コンクリート80の打設を開始する。その後、コンクリート80の打設の進行に合わせて、縦シュート10の横方向の位置をずらすとともに、筒体の下部におけるコンクリート80の自由落下距離が1.5m以下となるように縦シュート10を引き上げながら、コンクリート80の打設を行う。この際、上述した工程と同様に、任意の位置にコマ部材40を取り付ける。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態に係る縦シュートの正面図。
【図2】本発明の実施形態に係る縦シュートの平面図。
【図3】本発明の実施形態に係る縦シュートの斜視図。
【図4】コマ部材がない場合の棒状部材を示す説明図。
【図5】コマ部材を用いた場合の棒状部材を示す説明図。
【図6】コマ部材の平面図。
【図7】本発明の実施形態に係る縦シュートを用いたコンクリート打設を示す説明図。
【図8】本発明の実施形態に係る縦シュートを用いたコンクリート打設を示す説明図(図7におけるA矢視図)。
【符号の説明】
【0035】
10 縦シュート
20 棒状部材
30 連結部材
40 コマ部材
41 止着部
42 架橋部
50 鉄筋
60 型枠
70 コンクリート供給管
80 コンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート供給管から吐出するコンクリートを上方から下方へ向かって案内するための縦シュートであって、
複数の棒状部材の上端部付近を、伸縮性を有する連結部材により連結して筒体を形成したことを特徴とする縦シュート。
【請求項2】
各棒状部材は、粗骨材が筒体内から飛び出さない程度の間隔を隔てて連結されていることを特徴とする請求項1に記載の縦シュート。
【請求項3】
任意の位置において隣り合う棒状部材の間に掛け渡すことにより、隣り合う棒状部材の間隔を鉄筋径と同程度に保持するコマ部材を備え、
該コマ部材は、棒状部材に対して着脱可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載の縦シュート。
【請求項4】
前記棒状部材は、長繊維を樹脂で固めて作成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の縦シュート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−223443(P2008−223443A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−67720(P2007−67720)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【Fターム(参考)】