説明

縦射出ダイカスト装置及びダイカスト法

【課題】サージ圧によりプランジャチップの外周面と金型スリーブの内周面との間に溶湯が差し込むことを防止することができる縦射出ダイカスト装置の提供。
【解決手段】縦射出ダイカスト装置1は、固定型10と、該固定型10と共にキャビティ34を画成する可動型20と、該キャビティ34と連通するように該固定型10に配設された固定スリーブ30と、該固定スリーブ30に接続される鋳込スリーブ43と、キャビティ33に向けて溶湯を射出するプランジャチップ43とを備えている。プランジャチップ43はキャビティ34に向けて金属溶湯Mを充填する。固定スリーブ30の下端部の内径D2は該鋳込スリーブの内径D1よりも大きく形成され、該プランジャチップ43が上限位置に至った際に該プランジャチップ41の少なくとも上端が進入する部分の該固定スリーブ30の内径D3は該固定スリーブ30の下端部の内径D2よりも小さく形成されている

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縦射出ダイカスト装置及び該装置を用いるダイカスト法に関し、特に、スリーブ内においてプランジャチップを上昇させ、金型のキャビティに向けて溶湯を縦方向に射出する縦射出ダイカスト装置及び該装置を用いるダイカスト法に関する。
【背景技術】
【0002】
スリーブ内においてプランジャチップを上昇させ、金型のキャビティに向けて溶湯を縦方向(上下方向)に射出する縦射出ダイカスト装置は、下記特許文献1により公知である。特許文献1の縦射出ダイカスト装置は、鋳込スリーブを傾転させて溶湯を給湯した後に鋳造機スリーブを起立、上昇させて固定スリーブと接合し、プランジャチップを上昇させて溶湯を金型のキャビティに射出するものである。固定スリーブに鋳込スリーブを接合させてプランジャチップを上昇させる際、固定スリーブの内孔と鋳込スリーブの内孔との芯が合っていない場合には、プランジャチップが固定スリーブの内孔をかじったり、強くこすれ合ったりするという問題があることから、特許文献1の縦射出ダイカスト装置は、固定スリーブの内径を、鋳込スリーブの内径よりも0.2〜3mm大きく形成するようにしている。ここで、内径の差を3mm以下とする理由は、プランジャチップが上昇した時にプランジャチップの外周面と固定スリーブの内周面との間に溶湯が差し込むことを防ぐ必要がある為であると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平6−88118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ダイカスト法では充填時間を短縮し、溶湯の温度低下を最小にして製品の品質を向上させることが行われているが、射出速度を上げると射出完了時の衝撃でサージ圧が発生するので、特許文献1のように固定スリーブと鋳込スリーブの内径孔の差を3mm以下に設定していたとしても、プランジャチップの外周面と固定スリーブの内周面との間に溶湯が差し込み、プランジャチップを下降させる際に差し込んだ溶湯による凝固層(バリ)でプランジャチップがかじるという問題が生じてしまう。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、プランジャチップの外周面と固定スリーブの内周面との間にサージ圧により溶湯が差し込むことを防止することができる縦射出ダイカスト装置及び該装置を用いるダイカスト法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の縦射出ダイカスト装置1は、固定型10と、該固定型10と共にキャビティ34を画成する可動型20と、該キャビティ34と連通するように該固定型10に配設された固定スリーブ30と、該固定スリーブ30に接続される鋳込スリーブ43と、該キャビティ34に向けて溶湯Mを射出するプランジャチップ41とを備える縦射出ダイカスト装置1において、該固定スリーブ30の下端部の内径D2は該鋳込スリーブ43の内径D1よりも大きく形成され、該プランジャチップ41が上限位置に至った際に該プランジャチップ41の少なくとも上端が進入する部分の該固定スリーブ30の内径D3は該固定スリーブ30の下端部の内径D2よりも小さく形成されていることを特徴とする。
【0007】
ここで、該プランジャチップ41の上端には小径部41aが形成されており、該小径部41aの外周面と該鋳込スリーブ43の内周面との間のクリアランスは金属溶湯Mが浸入しないように設定され、該小径部41aの外周面と該固定スリーブ30の下端部の内周面との間のクリアランスCは溶湯が浸入できるように設定されていることが好ましい。
【0008】
また、本発明のダイカスト法は縦射出ダイカスト装置1を用いてダイカストを行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、プランジャチップの外周面と固定スリーブの内周面との間にサージ圧により溶湯が差し込むことを防止することができる等の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態における縦射出ダイカスト装置を示す、概略断面図である。
【図2】本発明の実施形態における縦射出ダイカスト装置の概略断面図であって、固定スリーブに鋳込スリーブが接続された状態を示す。
【図3】本発明の実施形態における縦射出ダイカスト装置の概略断面図であって、プランジャチップが上限位置まで上昇した状態を示す
【図4】本発明の実施形態における縦射出ダイカスト装置の要部拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係る縦射出ダイカスト装置について図1乃至図4に基づき説明する。なお、図3及び図4においては溶湯Mの図示を省略している。縦射出ダイカスト装置1は、固定型10と可動型20とを備えている。固定型10は、固定ホルダ11と固定ダイス12とにより構成されており、それらを金型スリーブ30が挿通している。具体的には、略円筒状の金型スリーブ30は、固定ホルダ11に形成されたスリーブ孔11aと、固定ダイス12に形成されたスリーブ孔12aとを挿通している。固定ホルダ11の下方にはスリーブ孔11aよりも大径のスリーブ挿入孔11bが形成されており、金型スリーブ30の下端から外側に向かって突出形成された鍔部30aを収容している。スリーブ挿入孔11b内における鍔部30aの下側にはロケートリング31が配置され、金型スリーブ30を位置決めしている。ロケートリング31は、後述する鋳込スリーブ43の外径よりも大きな内径を有している。可動型20は、可動ホルダ21と可動ダイス22とにより構成されており、可動ダイス22には分流子23が固定されている。可動型20は図示せぬ型開閉機構により図1の上下方向に移動可能に構成されており、図1に示す型閉め状態にされると、固定型10と可動型20によりランナー32、ゲート33及びキャビティ34が画成され、金型スリーブ30の内孔と連通する。
【0012】
縦射出ダイカスト装置1は、固定型10の下方に傾動可能な射出装置40を備えている。射出装置40は図示せぬ射出シリンダを備え、この射出シリンダのピストンロッドに図示せぬカップリングを介してプランジャチップ41を先端に有するプランジャロッド42が連結されている。プランジャチップ41の上端には小径部41aが形成されている。射出装置40は鋳込スリーブ43を備えており、この鋳込スリーブ43内にプランジャチップ41が摺動可能に配置されている。射出装置40は全体が傾動可能であり、射出装置40を傾動させてアルミニウム合金溶湯等の溶湯Mを鋳込スリーブ43内に供給した後に起立させると図1に示す状態になる。プランジャチップ41の小径部41aの外周面と鋳込スリーブ43の内周面の間のクリアランスは1.0mm以下とされていることから、図1に示す状態においては該クリアランスに溶湯Mは浸入しない。
【0013】
鋳込スリーブ43は固定型10に対して上下動可能であり、図1に示す状態から鋳込スリーブ43が上昇すると鋳込スリーブ43の上端部はスリーブ挿入孔11bとロケートリング31を挿通して固定スリーブ30の下端部に突き合わされ、鋳込スリーブ43の上端部と固定スリーブ30の下端部が接続される(図2参照)。図2に示されるように、固定スリーブ30の下端部の内径D2(例えば200.7mm)は鋳込スリーブ43の上端部の内径D1(例えば200.0mm)よりも大きく形成されており、鋳込スリーブ43と固定スリーブ30の内孔芯が多少ずれた場合であってもプランジャチップ41を円滑に上昇させることが可能になっている。プランジャチップ41の小径部41aの外周面と固定スリーブ30の下端部の内周面の間のクリアランスC(図4参照)は1.5mmとされており、プランジャチップ41が射出シリンダにより上昇されて固定スリーブ30の下端部に進入すると、溶湯Mが該クリアランスCに侵入する。該クリアランスCに侵入した溶湯Mは即座に凝固し、小径部41aの外周面の周りにはリング状のバリが生成されることになる。
【0014】
固定スリーブ30の内孔はテーパ部30bを備えており、固定スリーブ30の内径D2は図2にAで示す位置から上方に向かって徐々に縮径している。そして、Bで示す位置において内径D3(例えば200.2mm)に至り、この内径D3が固定スリーブ30の上端まで連続している。溶湯Mをキャビティ34に充填する場合、プランジャチップ41は図2に示される位置から図3に示される上限位置まで上昇するが、この上限位置は図2においてBで示す位置よりも上方になっており、プランジャチップ41はテーパ部30bに案内されてスムーズに上昇し、プランジャチップ41が上限位置に至った際にはプランジャチップ41の全体が内径D3の部分に進入する。プランジャチップ41が図3に示す上限位置に至って溶湯Mの射出が完了すると、射出完了時の衝撃でサージ圧が発生して溶湯Mがプランジャチップ41の外周面と固定スリーブ30の内周面との間に差し込もうとするが、内径D3の部分でのプランジャチップ41の上端の外周面と固定スリーブ30の内周面との間のクリアランスは1.0mm以下に設定されているので、溶湯Mの差し込みを防止することができる。また、上述したとおり、プランジャチップ41の小径部41aの外周面の周りにリング状のバリが生成されるようにしているので、プランジャチップ41の外周面と固定スリーブ30の内周面との間はリング状のバリでシールされることになり、溶湯Mの差し込みが更に防止される。
【0015】
次に、縦射出ダイカスト装置1を用いたダイカスト法について説明する。ダイカスト法においては、先ず、図示せぬ型開閉機構で可動型20を固定型10に対して下降させて型締めを行い、固定型10と可動型20によりキャビティ33を画成する。次に、射出装置40を傾動させて鋳込スリーブ43内に溶湯Mを供給する。溶湯Mの鋳込スリーブ43への供給が完了したら、射出装置40を起立させて図1に示す状態とする。次に、鋳込スリーブ43を上昇させ、鋳込スリーブ43の上端部が固定スリーブ30の下端部に接続される図2に示す状態とする。次に、図示せぬ射出シリンダによりプランジャチップ41を図3に示す上限位置まで上昇させて溶湯Mをキャビティ33に向けて射出する。次に、型開閉機構で可動型20を上昇させて型開きを行い、ダイカスト品を図示せぬ押出しピンにより可動型20から押出してダイカスト品の取り出しを行う。そして、プランジャチップ41と鋳込スリーブ43を図1に示す位置まで下降させる。以上がダイカスト法である。
【0016】
縦射出ダイカスト装置1を用いたダイカスト法によれば、プランジャチップ41が図3に示す上限位置に至って溶湯Mの射出が完了すると、射出完了時の衝撃でサージ圧が発生して溶湯Mがプランジャチップ41の外周面と固定スリーブ30の内周面との間に差し込もうとするが、プランジャチップ41の上限位置においてはプランジャチップ41の外周面と固定スリーブ30の内周面との間のクリアランスが小さく設定されているので、溶湯Mが差し込むことが防止される。従って、プランジャチップ41のかじりを防止して円滑にダイカスト法を繰り返すことができる。また、プランジャチップ41が上限位置に至るまでの間にプランジャチップ41の小径部41aの周りにリング状のバリが生成されるようにしているので、プランジャチップ41の外周面(小径部41の外周面)と固定スリーブ30の内周面との間がリング状のバリでシールされ、サージ圧による溶湯Mの差込をより効果的に防止することができる。
【0017】
本発明の縦射出ダイカスト装置及びダイカスト法は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変形や改良が可能である。例えば、上述した実施形態においては、プランジャチップ41が上限位置に至った際にはプランジャチップ41の全体が固定スリーブ30の内径D3の部分に進入していたが、プランジャチップ41が上限位置に至った際にプランジャチップ41の下部は固定スリーブ30内に進入せずに鋳込スリーブ43内に位置していてもよく、プランジャチップ41が上限位置に至った際にプランジャチップ41の少なくとも上端が、固定スリーブ30の下端部の内径D2よりも内径が小さくされている部分(内径D3の部分)に進入するように構成されていればよい。
【符号の説明】
【0018】
1 縦射出ダイカスト装置
10 固定型
11 固定ホルダ
12 固定ダイス
20 可動型
21 可動ホルダ
22 可動ダイス
23 分流子
30 固定スリーブ
31 ロケートリング
32 ランナー
33 ゲート
34 キャビティ
40 射出装置
41 プランジャチップ
41a 小径部
42 プランジャロッド
43 鋳込スリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定型と、該固定型と共にキャビティを画成する可動型と、該キャビティと連通するように該固定型に配設された固定スリーブと、該固定スリーブに接続される鋳込スリーブと、該キャビティに向けて溶湯を射出するプランジャチップとを備える縦射出ダイカスト装置において、該固定スリーブの下端部の内径は該鋳込スリーブの内径よりも大きく形成され、該プランジャチップが上限位置に至った際に該プランジャチップの少なくとも上端が進入する部分の該固定スリーブの内径は該固定スリーブの下端部の内径よりも小さく形成されていることを特徴とする縦射出ダイカスト装置。
【請求項2】
該プランジャチップの上端には小径部が形成されており、該小径部の外周面と該鋳込スリーブの内周面との間のクリアランスは溶湯が浸入しないように設定され、該小径部の外周面と該金型スリーブの下端部の内周面との間のクリアランスは溶湯が浸入できるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の縦射出ダイカスト装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の縦射出ダイカスト装置によりダイカストを行うことを特徴とするダイカスト法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−110934(P2012−110934A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261872(P2010−261872)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000006943)リョービ株式会社 (471)