説明

縮れ状炭素繊維とその製法

【課題】導電性、熱伝導性や強度向上のためのフィラー材として、さらに、水素やメタンもしくは各種気体を吸蔵する吸着材や触媒担体としても有用で安価な縮れ状炭素繊維を提供すること。
【解決手段】縮れ状の炭素繊維であって、内部に中空構造を持つ多層構造を有し、内層部の炭素構造がヘリンボーン構造を含むものであり、外層部の炭素構造が内層部の炭素構造と異なる炭素構造である縮れ状炭素繊維。炭素源及び/または触媒源と硫黄源を加熱帯域において接触させる気相成長炭素繊維の製造方法において、硫黄源中の硫黄原子のモル数を触媒金属原子のモル数との比で2.0以上にする縮れ状炭素繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属、樹脂、セラミックス他の各種の材料に添加して、導電性や熱伝導性を改善するために使用するフィラー材として、あるいはFED(フィールドエミッションディスプレー)用の電子放出素材として、更には水素やメタン、もしくは各種気体を吸蔵する媒体として、また、各種電池の特性改善材料等のフィラー材として、さらに、触媒担体等に好適に用いられる縮れ状炭素繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気相法炭素繊維は、1980年代後半から研究が始まり、炭化水素等のガスを金属触媒の存在下で気相熱分解することによって直径が1000nm以下、長さが数10μm程度の炭素繊維が得られることがわかってきた。
【0003】
たとえば、ベンゼン等の有機化合物を原料とし、触媒としてフェロセン等の有機遷移金属化合物をキャリアーガスとともに高温の反応炉に導入し、基板上に生成させる方法(特許文献1)、浮遊状態で気相法炭素繊維を生成させる方法(特許文献2)、あるいは反応炉壁に成長させる方法(特許文献3)等が開示されている。
【0004】
これら製法によれば、比較的細くて導電性や熱伝導性に優れ、アスペクト比の大きい炭素繊維が得られ、10〜200nm程度の繊維外径で、アスペクト比が10〜500程度のものが既に量産されている。
【0005】
また、このような気相法炭素繊維よりも更に細い炭素繊維として、飯島らによりヘリウムガス中でアーク放電により炭素電極を蒸発させた煤の中から、カーボンナノチューブが発見された。このカーボンナノチューブの直径は1〜30nmであり、アスペクト比の大きな直線状繊維で、気相法炭素繊維と同様に炭素六角網面の結晶が繊維の軸を中心に年輪状に幾重にも重なり閉じられており、その内部が中空である微細炭素繊維である。
【0006】
一方、これらの直線状炭素繊維以外に、縮れ状炭素繊維も知られている。たとえば特許文献4には、捲縮度0.5〜50%、繊維外径0.05〜4μm、アスペクト比が100以上の中実な年輪構造の炭素繊維が提供されている。このような縮れ状炭素繊維は、直線状炭素繊維と比較して、マトリクス中での繊維同士のネットワーク形成が容易であり、捲縮を有することで、フィラーとして、金属、樹脂、セラミックスなどに充填した際に繊維同士が絡合し、接触割合が高くなるために、電気伝導性が向上することが開示されている。しかしながら、アスペクト比が100以上と非常に大きい為に、金属、樹脂、セラミックスなどへの分散性に課題がある。また、非特許文献1にも、同様の縮れ状の繊維が開示されているが、電子顕微鏡内での合成という極めて特殊かつ、産業的でない条件下の合成であり、得られた炭素繊維の構造や特性についても開示されていない。
【0007】
アスペクト比の大きな炭素繊維は、フィラー材として、金属、樹脂、セラミックスなどのマトリクス成分と混練する際の分散性に課題があり、マトリクス中に均一に分散させることが困難であり、所望の特性を得ようとした場合に必要以上のフィラーが必要であったり、分散工程に特殊な分散機が必要であったりして、経済的でないなどの問題点を有していた。
【0008】
アスペクト比の大きな炭素繊維の分散性を向上させる取り組みとして、炭素繊維を粉砕するなどして、機械的に切断したり、化学的処理によって繊維長を短くすることも知られている。しかし、余分な工程が必要となり、経済的でないばかりか、特に、直線状の短い繊維では繊維同士のネットワークが生じにくく、電気伝導特性などが充分に発揮されないという欠点を有していた。
【0009】
また、これらの炭素繊維は、炭素六角網面の結晶が年輪状に巻かれ積層した構造を示し、その内部には極めて細い中空部を有する繊維である。このような年輪状の構造を有する炭素繊維では、その繊維表面が不活性であるために、フィラー用途だけでなく、水素やメタンもしくは各種気体を吸蔵する吸着材や触媒担体などの用途にも用いられることはなかった。
【0010】
そこで、これらの炭素繊維の構造を変える試みとして、ヘリンボーン(herringbone)型あるいは炭素が繊維軸に垂直に積層した型の中空部の無い炭素繊維(プレート型繊維)が開示されている(非特許文献2)。これらの、炭素繊維は非常に活性な表面を持つことが示されている。また、特許文献5には、内部に中空構造を持つ多層構造で、内部の炭素構造が、ヘリンボーン構造あるいは炭素が繊維軸に垂直に積層した形を含むものであって外層部の炭素構造が年輪状構造を含む多層炭素繊維が開示されている。これらの繊維はこれまでの気相法炭素繊維等と同様に、直線状のアスペクト比の大きな繊維であり、フィラー材として使用した際の分散性に劣り、実用化に至っていない。
【0011】
さらに、気相法炭素繊維類似の炭素化合物として、単層カーボーンナノホーンが知られており、水素やメタンもしくは各種気体を吸蔵する吸着材や触媒担体への利用についても開示されている(特許文献6)。これらの単層カーボンナノホーンは管状部の直径が2〜3nm、繊維長が30nm、比表面積が約300m2/gである。繊維外径から円柱体を想定し、算出される比表面積は1000m2/g程度であり、非常に微細な炭素化合物ではあるが、繊維外径数nmのカーボンナノチューブでも同等の比表面積が期待され、繊維外径を勘案すれば、特異的な比表面積を持っているとは言えない。したがって、水素やメタンなどの吸蔵材や、触媒担体等として使用する際に必要な比表面積を得ようとすれば、細い繊維を使用することになる。一般的に細い繊維は生産性に劣る為に、コストが高く、このような材料を使用するのは経済性に乏しい。
【0012】
同様に、生成した炭素繊維を表面処理などの後処理を加えることで、活性化し、高比表面積の炭素繊維を得ることも知られているが、表面処理などの工程が必要であり、経済的でない。
【0013】
このように、気相法炭素繊維、カーボンナノチューブなどの炭素化合物を、フィラー材として用いた場合、その分散性を向上させつつ、電気伝導度や熱伝導度などの優れた特性を発現し、同時に、非常に大きな比表面積を持つことで、ガスの吸着媒体や触媒担体などの用途に好適で、安価な炭素繊維はこれまでに存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭60−27700号公報
【特許文献2】特開昭60−54998号公報
【特許文献3】特許2778434号公報
【特許文献4】特開昭61−225319号公報
【特許文献5】特開2003−73930号公報
【特許文献6】特開2002−159851号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Journal of Catalysis 30,86-95(1973)
【非特許文献2】Langmuir.,11,3862-3866,(1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記問題点に鑑み、導電性、熱伝導性や強度向上のためのフィラー材として、さらに、水素やメタンもしくは各種気体を吸蔵する吸着材や触媒担体としても有用で安価な縮れ状炭素繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、導電性、熱伝導性や強度向上の機能を併せ持ったフィラーとして、気相法炭素繊維の構造を改良し、従来とは違った形状、炭素構造を持ち、繊維外径から円柱体を仮定して計算される値に比べて、非常に大きな比表面積を有する新しい縮れ状炭素繊維を完成させた。
【0018】
〔1〕縮れ状の炭素繊維であって、内部に中空構造を持つ多層構造を有し、内層部の炭素構造がヘリンボーン構造を含むものであり、外層部の炭素構造が内層部の炭素構造と異なる炭素構造であることを特徴とする縮れ状炭素繊維。
〔2〕縮れ状の炭素繊維であって、内部に中空構造を持たない多層構造を有し、中心部の炭素構造が炭素繊維軸に垂直な炭素層を積層した形状を含むものであり、外層部の炭素構造が内部の炭素構造と異なる構造であることを特徴とする縮れ状炭素繊維。
〔3〕炭素繊維軸に垂直な炭素層が、1層又は複数層の炭素層からなる各群がその端面で別の群と連続又は接合して、その断面が多重の折り返し及び/又は輪状をなしていることを特徴とする上記〔2〕に記載の縮れ状炭素繊維。
〔4〕外層部の炭素構造が年輪状構造を含む物であることを特徴とする上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の縮れ状炭素繊維。
〔5〕下記式(1)で定義される捲縮度が0.5%以上であることを特徴とする上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の縮れ状炭素繊維。
捲縮度(%)=(繊維長さ−繊維末端間距離)/(繊維長さ)×100 (1)
〔6〕繊維外径が2〜500nm、繊維長が50μm以下であることを特徴とする上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の縮れ状炭素繊維。
〔7〕実測された比表面積が下記式(2)で定義される繊維径換算比表面積の1.5倍以上であることを特徴とする上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の縮れ状炭素繊維。
繊維径換算比表面積(m2/g)=2000/繊維外径(nm) (2)
〔8〕X線回折法でもとめた002面の面間隔(d002)が0.34nm以下、ラマン散乱スペクトルの1341〜1349cm-1のバンドのピーク高さ(Id)と1570〜1578cm-1のバンドのピーク高さ(Ig)の比(Id/Ig)が0.35以上であることを特徴とする上記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の縮れ状炭素繊維。
〔9〕気相成長炭素繊維であることを特徴とする上記〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の縮れ状炭素繊維。
〔10〕上記〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の縮れ状炭素繊維を5容積%以上含む炭素繊維混合物。
〔11〕炭素源及び/または触媒源と硫黄源を加熱帯域において接触させる気相成長炭素繊維の製造方法において、硫黄源中の硫黄原子のモル数を触媒金属原子のモル数との比で2.0以上にすることを特徴とする〔9〕に記載の縮れ状炭素繊維の製造方法。
〔12〕加熱帯域において硫黄源中の硫黄原子の気相濃度が0.0001mol/NL以上であることを特徴とする上記〔11〕に記載の縮れ状炭素繊維の製造方法。
〔13〕硫黄源が、イオウ、チオフェン、硫化水素からなる群より選ばれた少なくとも一つを含むことを特徴とする上記〔11〕又は〔12〕に記載の縮れ状炭素繊維の製造方法。
〔14〕炭素源が、CO、CO2、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、エチレン、プロピレン、ブタジエン、アセチレン、ベンゼン、トルエン、キシレンからなる群より選ばれた少なくとも一つを含むことを特徴とする上記〔11〕〜〔13〕のいずれかに記載の縮れ状炭素繊維の製造方法。
〔15〕下記(A)、(B)の群から選ばれる少なくとも1種の化合物を添加成分として加熱帯域に供給することを特徴とする上記〔11〕〜〔14〕のいずれかに記載の縮れ状炭素繊維の製造方法。
(A)沸点もしくは分解温度のいずれか低い方が180℃以上である有機化合物
(B)分子量が200以上である有機化合物重合体。
〔16〕加熱帯域の温度が約1200℃を越えて1350℃以下であることを特徴とする上記〔11〕〜〔15〕のいずれかに記載の縮れ状炭素繊維の製造方法。
〔17〕上記〔11〕〜〔16〕の製造方法により得られた縮れ状炭素繊維を、さらに非酸化性雰囲気下で、800℃〜1500℃に加熱することを特徴とする縮れ状炭素繊維の製造方法。
〔18〕上記〔11〕〜〔17〕の製造方法により得られた縮れ状炭素繊維を、さらに非酸化性雰囲気下で、2000℃〜3000℃に加熱することを特徴とする縮れ状炭素繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の縮れ状炭素繊維は、その形状が縮れ状であり金属、樹脂、セラミックスなどのマトリクス中でのネットワーク構造を取りやすい為に、高熱伝導性、高電気伝導性の高強度複合体が得られ、さらに、繊維外径に比し非常に大きな比表面積を有するために、水素ガスや、メタンなどの吸着能に優れ、水素貯蔵材や各種ガスの吸蔵材や触媒担体としても好適である。加えて、酸処理や粉砕処理などの処理を行わなくても、繊維長の短い繊維が容易に得られるため、金属、樹脂、セラミックスへの分散が容易な繊維を安価に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1(A)及び(B)は実施例1の縮れ状炭素繊維の走査型顕微鏡写真である。
【図2】実施例1の縮れ状炭素繊維の透過型顕微鏡写真(内層部がヘリンボーン型)である。
【図3】実施例1の縮れ状炭素繊維の模式図(内層部がヘリンボーン型繊維の断面図)である。
【図4】実施例1の縮れ状炭素繊維の透過型顕微鏡写真(中心部がプレート型)である。
【図5】実施例1の縮れ状炭素繊維の模式図(中心部がプレート型繊維の断面図)である。
【図6】実施例1の縮れ状炭素繊維の透過型顕微鏡写真(中心部がプレート状の折り畳み構造)である。
【図7】縦型反応炉の一例を示す模式図である。
【図8】実施例7の縮れ状炭素繊維の透過型顕微鏡写真(中心部がプレート状の折り畳み構造)である。
【図9】実施例7の縮れ状炭素繊維の模式図(中心部がプレート型の折り畳み構造の断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(縮れ状炭素繊維の形状)
本発明の縮れ状炭素繊維は、図1に示すような縮れ状の炭素繊維であることが第1の特徴である。縮れ状の炭素繊維には前述の様に、いくつかの先行例が示されているものの、本発明における縮れ状繊維は、これらの先行例と比較して、内部の炭素構造に大きな違いがあり、これらの違いによって本発明の炭素繊維は従来にない高比表面積を持つものと推定される。
【0022】
本発明の縮れ状炭素繊維は、その縮れ状の形態のために、直線状の繊維と比較して、金属、樹脂、セラミックスなどに配合した際に、炭素繊維同士のネットワークを形成しやすく、熱伝導性、電気伝導性などが向上しやすいという特徴を持つ。繊維外径、繊維長さ、マトリクスへの配合量、混練方法などの諸条件によって、その最適な形状は異なる。繊維形状、繊維外径、繊維長は一般的には、電子顕微鏡を用いて、観察、測定される。後述の捲縮度のように、電子顕微鏡を用いて、形状を定量化することが可能な場合もあるが、多くの場合は繊維同士の重なり等の影響が大きく、良好な分散状態の電子顕微鏡写真が得られないためにその縮れ度合いを正確に測定できない場合が多く、定量的に表現することは困難である。
【0023】
繊維の縮れ形態を定量化する一つの方法として、特許文献4に示されている様な電子顕微鏡写真からその捲縮度を算出することが可能な場合がある。上記公報では、40μm以上の長い繊維を対象にしているが、本発明の縮れ状炭素繊維においては、繊維長が50μm以下のものも含まれるため、そのままの方法は適用できない。このような場合には、下記式(1)で捲縮度を算出することができる。
【0024】
捲縮度(%)=(繊維長さ−繊維末端間距離)/(繊維長さ)×100 (1)
ここで、繊維長さ、繊維末端間距離ともに電子顕微鏡写真上での測定値である。すなわち、二次元平面上へ投影された繊維長、繊維末端間距離であり、現実の値よりも短くなっている。
【0025】
本発明の炭素繊維では、捲縮度は0.5%以上が好ましく、5%以上がさらに好ましく、10%以上が最適である。捲縮度が小さいと、複合材料中で炭素繊維のネットワークが形成されにくく、好ましくない。
【0026】
(炭素構造)
本発明における縮れ状炭素繊維の第2の特徴はその炭素繊維の積層構造にある。本発明の炭素繊維の代表例の一つを図2の透過型電子顕微鏡写真、および図3の模式図に示した。模式断面図3−Aにおいては、炭素シート(黒鉛または、黒鉛に近い結晶の層、炭素層、炭素六角網平面あるいはグラフェンともいうことがある。)を実線で示した。このような内部に中空構造を持つ2層以上の多層構造で、内部の炭素構造が、ヘリンボーン構造を含むものであって外層部の炭素構造がヘリンボーン構造以外の炭素構造(例えば、炭素シートが円筒状に重なり合っている年輪構造)であることが特徴である。ヘリンボーン構造とは炭素層が繊維軸に対して、平行ではなくある傾きを持ち、傾きの角度が繊維軸に対して、ほぼ90度を示さない積層構造である。
【0027】
本発明の中空構造の径d0(図3−B)は従来の年輪状繊維の中空径よりも大きく、縮れ状炭素繊維の外径dの10%〜80%の大きさとなる。中空部分は所々炭素層で空間が閉じていても良いし、貫通していても良い、中空部分が連続していても、不連続で存在していても良い。
【0028】
内層部の構造は少なくとも一部がヘリンボーン型の炭素構造になっていればよく、例えば、透過型電子顕微鏡で観察した場合に、図3−Aで示される内層部の全面積に対して、ヘリンボーン型の炭素構造の面積が20%以上、好ましくは40%以上さらに好ましくは50%以上であればよい。
【0029】
この内層部の大きさは、内層部の径d1が1.1d0≦d1かつ、d1≦0.9dの範囲であることが好ましい。この範囲より内層部が小さい場合はガス吸蔵能力が劣り、これよりも大きくなると、縮れ状炭素繊維の強度が低下することがある。
【0030】
外層部の構造は内層部と異なる炭素構造であればいかなる構造でも良い。縮れ状炭素繊維の強度の点から年輪状の積層構造が好ましい。例えば、炭素層(炭素シート)が年輪状に巻いている構造、あるいは炭素層が年輪状には巻いているが、完全なグラフェン(炭素六角網平面)の円筒ではなく、所々切れていたり、2層の炭素層が1層に結合したりしても良い。また、縮れ状炭素繊維の繊維軸に対しての垂直方向の断面は、完全な円でなく、楕円や多角形でもよい。また、この外層部表面に熱分解炭素が存在しても良い。
【0031】
さらに、図4の透過型電子顕微鏡写真および図5の模式図に示したような内部に中空構造を持たない多層構造で、中心部の炭素の構造が、炭素繊維軸にほぼ垂直な炭素層を積層した形状(プレート構造)を含むものであって、外層部の炭素構造が中心部の炭素構造と異なる炭素構造であることが特徴である。
【0032】
中心部の構造は少なくとも一部がプレート型の炭素構造になっていればよく、例えば、透過型電子顕微鏡で観察した場合に、中心部の全面積に対して、プレート型の炭素構造の面積が20%以上、好ましくは40%以上さらに好ましくは50%以上であればよい(図5−A)。
【0033】
さらに、図8の透過型顕微鏡写真及び図9の模式図に示したような、炭素繊維軸にほぼ垂直な炭素層の末端でその上部または、下部の別の炭素層と連続(接合)して多重に折り返し及び/又は輪状に閉じた構造であることが特徴である。これらの折り返し及び/又は輪状の接合構造は1層毎でも良いし、複数層の炭素層からなる群毎に別の炭素層群と接合し、多重の折り返し及び/又は輪状構造を形成しても良い。さらに、複数層の炭素層からなる各群毎にその両端がそれぞれ異なる層数の炭素層で、上部の炭素層群、下部の炭素層群と接合し、その両端で異なる折り返し及び/又は輪状構造を形成しても良い。また、中心部の炭素層の端部で一部が外層部の一部(その内側部分の炭素層)に接合し連続することができ、また従って炭素層の群の一部が一旦外層部の一部に連続した後隣の群の炭素層ではなく離れた炭素層の群へ連続することができる。
【0034】
この中心部の縮れ状炭素繊維に占める太さは、中心部の径d1が縮れ状炭素繊維の外径dの90%以内の範囲であることが好ましい。この範囲よりも中心部の径が大きくなると、縮れ状炭素繊維の強度が低下することがある。
【0035】
外層部の構造は中心部と異なる炭素構造であればいかなる構造でも良い。縮れ状炭素繊維の強度の点から年輪状の積層構造が好ましい。例えば、炭素層が年輪状に巻いている構造、あるいは炭素層が年輪状には巻いているが、完全なグラフェン(炭素六角網平面)の円筒ではなく、所々切れていたり、2層の炭素層が1層に結合したりしても良い。また、縮れ状炭素繊維の繊維軸に対しての垂直方向の断面は、完全な円でなく、楕円や多角形でもよい。また、この外層部表面に熱分解炭素が存在しても良い。
【0036】
本発明の縮れ状炭素繊維は何れの形態においても、従来の気相法炭素繊維にみられた単層年輪状構造ではなく、多層構造の内部構造に特徴がある。単層のヘリンボーン型繊維、プレート状繊維とは外部に年輪状の構造を持つという点で異なっており、特許文献5に示されている様な多層構造の繊維とは、前述の繊維形状(縮れ状)の点で大きく異なっている。この違いが、金属、樹脂、セラミックスへの分散性と、金属、樹脂、セラミックス中での繊維のネットワーク形成のしやすさを両立させているものと推定される。このような内部構造の物性へ与える影響については明確ではないが、後述するような本発明の縮れ状炭素繊維の特徴の一つである高比表面積を与える一因をなすものと推定している。
【0037】
一般的に、炭素材料の結晶性を評価する手法として、炭素六角網平面(002)面の面間隔(d002)と、ラマン散乱スペクトルの1341〜1349cm-1のバンドのピーク高さ(Id)と1570〜1578cm-1のバンドのピーク高さ(Ig)の比(Id/Ig)が知られている。
一般的な年輪状構造を有する炭素繊維は、d002が0.34nm以上、Id/Igが0.30以下であるが、本発明の炭素繊維は、上述の炭素繊維の構造のために、d002が0.34nm以下で、ラマン散乱スペクトルのId/Igが0.35以上であることが好ましく、0.40以上がさらに好ましい。
【0038】
(繊維外径、繊維長、アスペクト比)
本発明における縮れ状炭素繊維の第3の特徴はその繊維外径、繊維長とアスペクト比にある。これまでにも、低アスペクト比の炭素繊維を得ようとする検討は数多くなされており、例えばアスペクト比の大きな炭素繊維を粉砕などの処理を施すことによって、所定のアスペクト比の炭素繊維を得る方法がある。これらの方法では、粉砕処理などの別の処理を行う必要があり、それ故、経済的ではない。本発明によれば、必要に応じて、低アスペクト比の炭素繊維を直接反応で得られることから、経済的効果は大きい。
【0039】
繊維外径dとしては、2〜500nmが好ましく、2〜200nmがさらに好ましく20〜200nmが最適である。繊維外径は細い方が金属、樹脂、セラミックスなどにフィラーとして同じ重量を添加した場合の繊維本数が増加するため、熱伝導性や、電気伝導性が向上しやすい。繊維外径が小さすぎると分散性に劣り、所望の特性が得られない傾向にある。
【0040】
繊維長については、使用する用途などによって、その最適値は異なるため特に制限されない。以下に示すような短繊維よりもむしろ長繊維が好ましい場合もある。この場合のアスペクト比の好ましい範囲は30以上であり、100以上がもっとも好ましい。樹脂などのフィラー成分として使用する場合、その混練方法などによっても異なるが、マトリクス中への分散が容易のため短繊維が好ましい。この場合の繊維長としては50μm以下がよく、0.01〜50μm以下がさらに好ましく0.01〜20μmが最適である。繊維長は長すぎると分散性が悪化し、短すぎると繊維同士がネットワーク構造を取りにくくなるために好ましくない。この場合の短繊維のアスペクト比(繊維長/繊維外径)は100以下であり、5〜100が好ましく、5〜30が最も好ましい。
【0041】
(比表面積)
本発明における縮れ状炭素繊維の第4の特徴は窒素吸着を用いたBET法で算出された比表面積(以下、単に比表面積という場合はBET法により測定されたものを指す。)にある。比表面積の大きな炭素材料としては、前述の単層カーボンナノホーンや、単層カーボンナノチューブなどがあげられるが、本発明の縮れ状炭素繊維はその繊維外径のわりには非常に大きな比表面積を持つ(つまり、非常に活性な表面を持つ)ことが特徴である。したがって、同一の表面積を必要とした場合には、従来の炭素繊維材料と比較して、本発明の縮れ状炭素繊維では繊維外径の太い物を使用しても充分である。一般的に、繊維外径を細くしようとすると、繊維を合成する際の生産性が悪くなるだけでなく、金属、樹脂、セラミックスなどに充填する際の分散性が悪化し、ハンドリング特性も低下するので、経済的でない。つまり、本発明の縮れ状炭素繊維はあえて細い繊維を製造せずとも十分な表面積を確保することができる。
【0042】
繊維外径が細くなることによって、その比表面積が増加するのは自明である。しかし、その繊維外径に対しての比表面積の大きさを評価するのは一般的には困難であるが、本発明では以下のようにして評価した。円柱状の繊維を仮定した場合、アスペクト比が5〜100程度であれば、その円柱の比表面積は、その直径によってほぼ一義的に決定される。このような、円柱体を想定した場合の比表面積(SA)は、繊維外径をD、繊維長をL、密度をρとすると、SA=(2πD2/4+DπL)/(π(D/2)2Lρ)であり、ここで、アスペクト比Ar=L/Dとすれば、SA=(2/Ar+4)/Dρとなり、4>>2/Arであるので、SA≒4/Dρとなる。ここで、ρ=2g/cm3と仮定(経験上、多くの場合この値前後となる)すれば、SA=2000/Rとなる。そこで、繊維径換算比表面積を式(2)の様に定義すると、本発明の縮れ状炭素繊維の実測された比表面積は繊維径換算比表面積の1.5倍以上であり、2倍以上が好ましく、3倍以上がさらに好ましい。
【0043】
繊維径換算比表面積(m2/g)=2000/繊維外径(nm) (2)
比表面積が大きいと、触媒として使用した場合の担持サイトの数が増加するため、良好な触媒担体となる。また、比表面積が大きいことで、水素ガスや、メタンなどの吸着量が大きく、水素貯蔵材や各種ガスの吸蔵材として好適な材料となる。
【0044】
本発明によれば、表面処理などの特別な後処理を用いなくとも、上述のような高比表面積の縮れ状炭素繊維を直接合成できることから、非常に経済的である。
【0045】
(製造方法)
本発明の縮れ状炭素繊維は気相法にて製造することができる。すなわち、還元性のガスを含むキャリアガスの存在下で、炭素化合物と触媒とを加熱帯域で接触させることにより気相法炭素繊維を製造する際に、その製造条件を下記に示すように厳密に調製することで製造可能となる。個々の製造条件は、使用する反応装置、炭素化合物、触媒などによって異なるために、一義的に決定することはできないが、良好な一例を示すと以下の通りとなる。
【0046】
(炭素化合物)
炭素繊維の原料となる炭素化合物としては、CCl4、CHCl3、CH2Cl2、CH3Cl、CO、CO2、CS2等が好適に使用可能である。加えて、これらの他の有機化合物全般も使用可能である。特に有用性の高い炭素化合物の一例を挙げると、CO、CO2等の無機ガス、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等のアルカン類;エチレン、プロピレン、ブタジエン等のアルケン類;アセチレン等のアルキン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン等の単環式芳香族炭化水素;インデン、ナフタリン、アントラセン、フェナントレン等の縮合環を有する多環式化合物;シクロプロパン、シクロペンタン、シクロヘキサン等のシクロパラフィン類;シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン等のシクロオレフィン類;ステロイド等の縮合環を有する脂環式炭化水素化合物などが挙げられる。
【0047】
更に、これらの炭化水素に酸素、窒素、硫黄、リン、ハロゲン等が含まれた誘導体、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の含酸素化合物;メチルチオール、メチルエチルスルフィド、ジメチルチオケトン等の含硫黄脂肪族化合物;フェニルチオール、ジフェニルスルフィド等の含硫黄芳香族化合物;ピリジン、キノリン、ベンゾチオフェン、チオフェン等の含硫黄又は含窒素複素環式化合物;クロロホルム、四塩化炭素、クロルエタン、トリクロルエチレン等のハロゲン化炭化水素;また単体ではないが天然ガス、ガソリン、灯油、重油、クレオソート油、テレピン油、樟脳油、松根油、ギヤー油、シリンダ油等も使用することができる。これらの混合物を用いることももちろん可能である。特に、ここで例示した含硫黄化合物は炭素源であると同時に後述の硫黄源としても作用する。
【0048】
炭素繊維生成能、コストの点から更に好ましい炭素化合物として、CO、CO2、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、エチレン、プロピレン、ブタジエン、アセチレン、ベンゼン、トルエン、キシレンおよびこれらの混合物が挙げられる。
【0049】
(触媒)
本発明の製造方法に使用することのできる触媒は、炭素繊維の成長を促進する物質である限り、特に制限されない。好適な触媒としては、IUPACが1990年に勧告した18族型元素周期表でいう3〜12族からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む触媒が挙げられる。更には3、5,6,8,9,10族からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む触媒が好ましく、鉄、ニッケル、コバルト、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金および希土類元素を含む触媒が特に好ましい。
【0050】
(触媒前駆体化合物)
上記した触媒に代えて、または上記した触媒と組み合わせて、加熱帯域において熱分解し、場合によっては更に還元されて、上記触媒を与えることができる触媒前駆体化合物を、出発原料として使用することも可能である。なお、特許請求の範囲でいう、「触媒」にはこの触媒前駆体化合物も含まれる。
【0051】
触媒前駆体化合物としては、上記の「触媒」の説明で示したような金属を与える化合物が好適に使用可能である。より具体的には、18族型元素周期律表の3〜12族からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む金属化合物が好ましく、更には3、5,6,8,9,10族からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物が好ましく、特に、鉄、ニッケル、コバルト、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金および希土類元素を含む化合物が最も好ましい。
【0052】
また、これらの主成分に1〜17族からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む金属化合物を触媒の修飾成分(いわゆる助触媒)として加えて、主成分である金属の触媒性能を修飾することも可能である。
【0053】
このような触媒前駆体化合物の一例であるフェロセンは加熱帯域において熱分解し、触媒である鉄微粒子を生成する。
【0054】
なお、触媒前駆体として有機物などの炭素含有物質を用いた場合には、それ自身が同時に炭素源としての効果も有するため、別に炭素源を使用しなくてもよい。
【0055】
(担体)
上記した触媒および/または触媒前駆体化合物を、必要に応じて担体に担持させて用いることも可能である。これらの担体としては、加熱帯域に於いて安定な化合物が好ましく、これらの化合物の一例として、アルミナ、シリカ、ゼオライト、マグネシア、チタニア、ジルコニア、グラファイト、活性炭、炭素繊維などが挙げられる。
【0056】
(触媒等の使用量)
触媒、あるいは触媒前駆体化合物の使用量は、触媒金属のモル数と炭素化合物中の炭素モル数との比率にして0.000001〜1が好ましく、0.00001〜0.1が更に好ましく、0.0001〜0.005が最適である。このモル数の比が0.000001より小さいと、触媒が不足し炭素繊維数が減少したり炭素繊維外径が増大する傾向が生ずるため好ましくない。他方、上記のモル数の比が1より大きいと、経済的でないばかりか、触媒として機能しなかった粗大化した触媒粒子が炭素繊維に混在する傾向が生ずるため好ましくない。なお、上記の炭素化合物中の炭素原子モル数比率の計算においては、炭素化合物だけでなく、触媒前駆体化合物や溶媒に由来する炭素原子も含めるものとする。
【0057】
(硫黄化合物)
本発明の縮れ状炭素繊維の製造方法の特徴の一つとして硫黄化合物を併用することにある。硫黄化合物は、これまで繊維外径等の調製等を目的に使用されており、通常の添加量としては触媒として用いる金属のモル数と硫黄のモル数は等量前後あるいはそれ以下であり、本発明におけるような大過剰量で用いた例では、生成した繊維の形態、炭素構造、比表面積などは明確にされていなかった。本発明では硫黄を大過剰量で用いた場合に炭素繊維の構造が特異でありかつ有用であることを見出した。本発明では、硫黄源の量を通常では考えられないような大過剰量用いることにより本発明の縮れ状炭素繊維を得ることが可能となった。このような、硫黄の大過剰領域で本発明の縮れ状繊維が生成するメカニズムについては、明確ではないが、硫黄が金属触媒に対して多量に存在することで、反応系中での硫黄原子と触媒金属粒子との接触回数が増加し、これに伴って硫黄が触媒金属との固溶体を形成したり、触媒金属表面へ物理的、化学的に吸着しやすくなることによって、触媒あるいは触媒表面が組成、状態変化を起こし、通常とは異なった形態で、炭素繊維が生成するためであると推定している。
【0058】
このような硫黄化合物としては、特に限定されないが、イオウ、硫化水素、2硫化炭素、各種硫化物および硫酸塩などの無機硫黄化合物の他、チオール類、ジスルフィド類、スルフィド類、スルホキシド類、スルホン類、スルホニウム塩類、スルホニウムイミド類、スルフェン酸類、スルフィン酸類、スルホン酸類、チオールスルフィナート類、チオールスルホナート類、アザスルホニウム塩類、スルフィルイミン類、スルホキシイミン類、スルフェニル誘導体、スルフィニル誘導体、スルホニル誘導体、チオフェン誘導体、ベンゾチオフェン誘導体等の有機硫黄化合物が好適に用いられる。上記の内さらに好ましい化合物としては、チオフェン、メチルチオフェン、エチルチオフェン、テトラハイドロチオフェン、テトラクロロチオフェン、ブロモチオフェン、チアノルビフェニレン、チオフェン−2−カルボン酸エチル、ベンゾチオフェン、メチルベンゾチオフェン、3-アミノベンゾチオフェン−2−カルボン酸メチル、3−フェニルベンゾチオフェン−2−カルボン酸、エタンチオール、エタンジチオール、プロパンチオール、ブタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール等のアルキルチオール類、ベンゾチオール、ニトロフェニルチオール、トルエンチオール、ジメルカプトベンゼン、メルカプトエタノール、メルカプトメタノール、メルカプトフェノール、メルカプト酢酸、メルカプト安息香酸、メルカプトプロピオン酸、メルカプトコハク酸、ジメチルスルフイド、ジブチルスルフィド、ジベンジルスルフィド、メチルオクチルスルフィド、ベンジルアルキルスルフィド、ジフェニルスルフィド、ジフェニルジスルフィド、メチルフェニルスルホキシド、ベンジルピリジンスルホキシド、メチルメチルチオメチルスルホキシド、フェニルビニルスルホン、ジブチルスルホン、ペンタメチレンスルホン、ジメチルフェニルスルホニルメチルスルホナート、ベンジルp−トリルスルホン、ジメチルフェニルメチルスルホンなどが用いられる。これらのうち、イオウ、チオフェン、硫化水素等が最も好ましい。これらの硫黄化合物はガス状にし、キャリアガスの一成分として用いることも可能であり、溶媒に溶解させて供給してもよい。もちろん該炭素化合物、該触媒前駆体化合物中に硫黄を含有する物質を用いても良い。
【0059】
供給する硫黄源中の硫黄原子のモル数は触媒金属原子のモル数との比が2.0以上が好ましく、さらには2.0〜25が好ましく、より好ましくは3.5以上、さらには3.5〜25、特に3.5〜20が好ましいが、5以上が好ましい場合もある。硫黄の気相濃度が低すぎると縮れ状繊維が生成しないだけでなく、直線状の繊維や、球状炭素粒子が生成し、好ましくない。
【0060】
供給する硫黄の総モル数は反応器中の気相濃度として0.0001mol/NL以上であることが望ましく、0.0003mol/NL以上がさらに好ましい。なお、ここでの気相濃度は添加する硫黄のモル数(硫黄原子としてのモル数)を反応器に供給する成分の内、標準状態で気体であるものの容量で除したものである。
【0061】
なお、硫黄源として、チオフェンなどの有機硫黄化合物を用いた場合には、炭素源としての効果も同時に有するので、特に、別の炭素源を使用しなくてもいい。
【0062】
(添加成分)
更に、必要に応じて、以下に示すような添加成分を必要に応じて加えることで請求項に示したような特異な炭素構造の縮れ状繊維を製造することができる。さらに、このような添加成分の使用によって、縮れ状繊維の比表面積が増加し、生成量も増加する傾向があるので好ましい。
【0063】
なお、これらの添加成分中の炭素分も、炭素源としての効果も同時に有することは、言うまでもなく、特に、別の炭素源を使用しなくてもよい。
【0064】
添加成分としては、1気圧での沸点もしくは分解温度のいずれか低い方が180℃以上である有機化合物あるいは、分子量が200以上である有機化合物重合体が好ましい。ここでいう分解温度は10mg程度のサンプルを熱分析装置を用い窒素などの不活性ガス雰囲気中10℃/minで昇温させた場合に50%の重量減少が生じる温度で規定される。
【0065】
このような添加成分としては、炭素数が10以上の飽和、不飽和炭化水素類および高級アルコール、オレフィン類、ハロゲン化エチレン類、ジエン類、アセチレン誘導体、スチレン誘導体、ビニルエステル誘導体、ビニルエーテル誘導体、ビニルケトン誘導体、アクリル酸・メタクリル酸誘導体、アクリル酸エステル誘導体、メタクリル酸エステル誘導体、アクリルアミド・メタクリルアミド誘導体、アクリロニトリル・メタクリロニトリル誘導体、マレイン酸・マレイミド誘導体、ビニルアミン誘導体、フェノール誘導体、メラミン類・尿素誘導体、アミン誘導体、カルボン酸・カルボン酸エステル誘導体、ジオール・ポリオール誘導体、イソシアナート・イソチオシアナート誘導体、からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機化合物およびそれらの重合体が挙げられる。
【0066】
上記添加成分として更に好ましい化合物として、オクチルアルコール、デシルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイン酸、ステアリン酸、アジピン酸、リノール酸、エルカ酸、ベヘン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、カプリン酸、カプリル酸、ヘキサン酸およびそれらのナトリウム、カリウム塩、マロン酸ジメチル、マレイン酸ジメチル、フタル酸ジブチル、フタル酸エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジウンデシル、フタル酸ジトリデシル、フタル酸ジブトキシエチル、フタル酸エチルヘキシルベンジル、アジピン酸エチルヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジブトキシエチル、トリメリット酸エチルヘキシル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリオキシエチレングリコールジメチルエーテル、ポリオキシエチレングリコールグリセリンエーテル、ポリオキシエチレングリコールラウリルエーテル、ポリオキシエチレングリコールトリデシルエーテル、ポリオキシエチレングリコールセチルエーテル、ポリオキシエチレングリコールステアリルエーテル、ポリオキシエチレングリコールオレイルエーテル、ポリプロピレングリコールジアリルエーテル、ポリオキシエチレングリコールノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレングリコールオクチルエーテル、ステアリン酸ポリプロピレングリコールエステル、ジ2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリアセタール、ポリテトラヒドロフラン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリウレタン、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネイト、ポリアミド、ポリフェニレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0067】
(炭素繊維の製造方法)
本発明の縮れ状炭素繊維の製造方法は、一般的に気相法で炭素繊維の合成に用いられる手法であれば特に限定されない。汎用性、経済性の点からは、一例として、図8に示すような反応装置が好適に使用可能である。
【0068】
縦型の環状加熱炉6中に石英製あるいは、炭化珪素などのセラミックス製の反応管5を設置し、入口部より、あらかじめ混合した、キャリアガスを導入する。キャリアガスとしては、水素、窒素、ヘリウム、アルゴン、クリプトン、またはこれらの混合ガスを用いることができる。好ましいキャリアガスは水素を1mol%以上、さらには、30mol%以上、好ましくは85mol%以上含んだガスである。
【0069】
触媒源、原料炭化水素、硫黄源、添加成分はその形態によって、適切な供給方法が選択できる。原料炭素化合物、硫黄源が常温で気体の場合にはガスとしてキャリアガスと混合して供給し、液体の場合には気化させてからキャリアガスと混合して供給するか、もしくは液状で加熱帯域に噴霧することが好ましい。触媒として、担持型触媒を用いる場合は担持型触媒を予め加熱帯域(反応ゾーン)に設置し、加熱して必要な前処理を行った後に原料炭素化合物等を供給するのが好ましい。前処理した担持型触媒を系外から連続、もしくはパルス的に供給するのが更に好ましい。
【0070】
触媒、あるいは触媒前駆体化合物さらには、硫黄源、添加成分を液体である原料炭素化合物に溶解させたり、適当な溶媒に溶解させ、加熱帯域に連続的、あるいはパルス的にフィードする方法や触媒、あるいは触媒前駆体化合物、硫黄源を直接、気化あるいは固体状のまま、加熱帯域に連続的、あるいはパルス的にフィードする方法が最も好ましい。
【0071】
(反応器)
反応器の形式についても、特に限定されず、所定の加熱帯温度、滞留時間が得られれば一般的に炭素繊維の製造に用いられるものを使用することが可能である。汎用性、経済性の点からは、特に、図7で示したような縦型反応器や、横型反応器が好ましい。
【0072】
(加熱帯温度)
加熱帯域の温度は使用する炭素化合物の種類によって大きく異なるが、一般的に600℃以上1500℃以下であることが望ましく、更に望ましくは800℃以上1350℃以下で、約1200℃を越えて1350℃以下が最適である。温度が低すぎると収率が低く、高すぎると球状炭素粒子などが生成しやすくなる。
【0073】
(滞留時間)
本発明において、加熱帯域での滞留時間は、加熱帯域の長さとキャリアガスの流量により調整することができる。好ましい滞留時間は、使用する反応装置、炭素化合物の種類によって、大きく異なる可能性があるが、一般的には0.0001秒〜2時間以内がよく、0.001〜100秒が更に好ましく、0.01〜30秒が最も好ましい。滞留時間が短すぎると、炭素繊維が充分に生成しない傾向があり、他方、滞留時間が長すぎると、太い繊維が多く得られる傾向がある。
【0074】
(熱処理)
本発明の縮れ状炭素繊維は、通常気相熱分解法で得られるが、得られた生成物そのまま、あるいは得られた縮れ状炭素繊維にさらに熱処理を加えてもよい。熱処理は気相熱分解法等で得られた生成物をアルゴンなどの非酸化性雰囲気で800℃〜1500℃に加熱焼成して行われる。この処理によって、タール分などの揮発成分が除去され、特に内層部がプレート状の繊維を含む縮れ状炭素繊維については、内層部が折り畳み状及び/又は輪状構造の繊維の割合が増加する傾向にある。
【0075】
ついで、さらにアルゴンなどの非酸化性雰囲気で2000−3000℃で加熱処理することも可能である。この処理によって、黒鉛化が進行し、炭素網層の結晶化が進行し、特に内層部がプレート状の繊維を含む縮れ状炭素繊維については、内層部が折り畳み状及び/又は輪状構造の繊維の割合が増加し、内層部がプレート状の繊維は全くなくなるか、存在しても極わずかとなる。
【0076】
さらに、硼素化合物と混合したり、硼素化合物のガスと接触させる等の硼素化合物存在下で2000〜3500℃の熱処理を行っても良い。このホウ素処理においては、結晶があまり発達していない1500℃以下で熱処理された炭素繊維を用いるのがよい。その結果、縮れ状炭素繊維に硼素あるいは硼素化合物を含んでも良い。
【0077】
(用途)
本発明の縮れ状炭素繊維はセラミックス、金属、樹脂などの材料(マトリクス成分)に配合することで、当該材料の性能を格段に向上させることが可能となる。
【0078】
本発明の縮れ状炭素繊維は、材料の機械的強度を向上させる方法においても有用であり、この場合には所望の機械的強度を得るのに有効量の縮れ状炭素繊維を当該材料に配合する。
【0079】
本発明の縮れ状炭素繊維は、材料の電気伝導性を向上させる方法においても有用であり、この場合には所望の電気伝導率を得るのに有効量の縮れ状炭素繊維を当該材料に配合する。
【0080】
本発明の縮れ状炭素繊維は、材料の熱伝導性を向上させる方法においても有用であり、この場合には所望の熱伝導率を得るのに有効量の縮れ状炭素繊維を当該材料に配合する。
【0081】
本発明の縮れ状炭素繊維は、物体を電磁放射線から遮蔽する方法においても有用であり、この場合には有効遮蔽量の縮れ状炭素繊維を当該物体に配合する。
【0082】
マトリクス成分としては、エラストマー、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などがあげられる。好ましいマトリクス成分の具体例としては、ポリアミド、ポリスチレン、ポリカーボネイト、ポリエステル、ポリエーテル、ポリイミド、ポリフェニレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオキシベンゾイル、ポリエーテルイミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。特に熱伝導性の向上を目的にシリコーンオイル、シリコーン樹脂などへ配合することで、放熱用熱伝導性ペースト材、接着剤、ゴムシートとして有用である。
【0083】
また、このようなマトリクス成分の別の一例としては、無機ポリマー、セラミックス材料、ポリマー無機酸化物、カーボン材料などがあげられる。さらに、その具体例としては、ガラス繊維、板ガラス、及びその他成形ガラス、ケイ酸塩セラミックス、ならびに酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒素化ケイ素、酸化ジルコニウム、ムライト、コージェライトなどの耐火性セラミックスがあげられる。
【0084】
さらに、そのほかの例として、金属をマトリクス成分とすることも可能である。好ましい金属としては、アルミニウム、マグネシウム、鉛、銅、タングステン、チタン、ニオブ、ハフニウム、バナジウム、ならびにこれらの金属の少なくとも一種を含む合金及び混合物が挙げられる。特に本発明の縮れ状炭素繊維をアルミニウム、マグネシウム等やこれらの金属の少なくとも一種を含む合金ならびに混合物に配合することで、軽量で高強度の金属材料が得られる。
【0085】
また、本発明の縮れ状炭素繊維は上記以外の他の種々の用途でも有用である。その一例として、電極または電解キャパシタープレートに本発明の縮れ状炭素繊維を混合し、これら電極またはプレートの表面積を増加させる方法が挙げられる。また、リチウムイオン電池や、鉛蓄電池などの各種2次電池用の電極に配合することで、電池容量などの諸特性を向上させることも可能である。
【0086】
本発明の縮れ状炭素繊維は非常に大きな比表面積を持つため、水素、メタンなどの各種のガスの吸着媒体として使用でき、特に燃料電池などに使用される水素貯蔵材として好適である。
【0087】
さらに、適当な触媒を本発明の縮れ状炭素繊維に担持させることも可能である。本発明の炭素繊維は、特別な処理を施さなくても、高比表面積、高活性であるため、通常、炭素繊維を触媒担体として使用する際に施される前処理が不要で、経済的である。このような触媒の使用例としては、燃料電池用の白金触媒や、脱SOx、NOx用の環境触媒などが挙げられる。
【0088】
また、本発明の縮れ状炭素繊維は基板等の上に例えば、垂直配向させることによりFED(フィールドエミッションディスプレー)用の電子放出素材としても、好適に使用される。
【実施例】
【0089】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0090】
[試薬類]
1.炭素化合物
ベンゼン:和光純薬工業(株)製 特級試薬
シクロヘキサン:和光純薬工業(株)製 特級試薬
2.触媒前駆体化合物
フェロセン:日本ゼオン(株)製
3.硫黄源
粉末硫黄:関東化学(株)製 試薬
チオフェン:和光純薬工業(株)製 特級試薬
4.添加成分
ポリプロピレングリコール:日本油脂(株)製 D-400(分子量:400、分解温度290℃)
【0091】
流動パラフィン:和光純薬工業(株)製 試薬
【0092】
[比表面積の測定]
比表面積はユアサアイオニクス製のBET比表面積計(CHEMBET−3000)を用いて、窒素気流中250℃で15分間脱気後の窒素吸着量からBET法によって、算出した。
【0093】
[分解温度の測定]
添加成分の分解温度は示差熱分析計(Seiko Instruments社製DTA-TG SSC/5200)にて、窒素ガス流量200cc/minで試料約10mgを10℃/minの昇温速度で600℃まで加熱した。この時50質量%の重量減少が生じたときの温度を読み取り分解温度とした。
【0094】
[炭素繊維の合成]
(実施例1)
図7に示した石英製反応管5(内径31mm、外径36mm、加熱帯域の長さ約400mm)を備えた縦型炉にて、N2気流中で1250℃にまで昇温し、その後、N2の供給を絶ち、代わって、反応管内にキャリアガスとしてH2を流した。温度が安定した後に、表1に示した原料組成物を小型ポンプを用いて10分の間原料噴霧ノズル4から供給した。尚、表中の仕込み組成はベンゼン溶液中の質量%で表記した。
【0095】
反応の結果、反応管内および回収容器内に黒色の生成物が生成した。降温後、この生成物を回収し、回収量を使用した原料中の炭素総量で除して回収率を求めた。また、走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子(株)製JEOL JSM−T330A型)、透過型電子顕微鏡(TEM、(株)日立製作所製H−2200型)で回収容器中の生成物を観察した。図1(A)(B)は走査型電子顕微鏡写真の一例である。繊維外径、繊維長、捲縮度については、20,000〜100,000倍の走査型顕微鏡写真から、約100本の繊維について測定した平均値を表1に示した。なお、繊維外径については、同一繊維内でも変動が大きかったため、同一繊維について、数箇所測定し、その平均値をその繊維の代表値とし、約100本の代表値の平均値を求めた。図2、図4、図6には透過型電子顕微鏡写真を示す。
【0096】
図1の電子顕微鏡写真に見られるように、炭素繊維は縮れ状である。図2の透過型電子顕微鏡写真によれば、内部に中空構造を有し、内層部の炭素構造がヘリンボーン構造を含み、外層部の炭素構造が内層部と異なる年輪状構造である炭素繊維が観察される。図4の透過型電子顕微鏡写真によれば、内部に中空構造を有さず、内層部の炭素構造がプレート状構造であり、外層部の炭素構造が内層部と異なる年輪状構造である炭素繊維が観察される。図6の透過型電子顕微鏡写真によれば、内部に中空構造を有さず、内層部の炭素層の群が折り返し及び/又は輪状構造であり、外層部の炭素構造が内層部と異なる年輪状構造である炭素繊維が観察される。この実施例の炭素繊維はこのような炭素繊維の混合物である。
【0097】
(実施例2〜5)
表1に示した反応液組成と反応液フィード量以外は、実施例1と同様に実施した。
【0098】
実施例2においては、外観は実施例1と同様に、縮れ状であったが、炭素構造は内部に中空構造を有し、内層部の炭素構造がヘリンボーン構造を含み、外層部の炭素構造が内層部と異なる年輪状構造である炭素繊維が主体であった。
【0099】
実施例3〜5においても、外観は実施例1と同様に、縮れ状であった。炭素構造は、(i)内部に中空構造を有し、内層部の炭素構造がヘリンボーン構造を含み、外層部の炭素構造が内層部と異なる年輪状構造である炭素繊維;(ii)内部に中空構造を有さず、内層部の炭素構造がプレート状構造であり、外層部の炭素構造が内層部と異なる年輪状構造である炭素繊維;及び、(iii)内部に中空構造を有さず、内層部の炭素層の群が折り返し及び/又は輪状構造であり、外層部の炭素構造が内層部と異なる年輪状構造である炭素繊維が観察された。実施例4,5においては、相対的に(i)の繊維の割合が多かった。
【0100】
(実施例6)
実施例1で得られた炭素繊維をアルゴン気流中1100℃で10分間処理した。繊維外径、繊維長は処理の前後で変化はなかった。比表面積は100m2/gであり、処理前と変化はなかった。炭素繊維の外観は処理の前後で変化はなく、縮れ状であった。炭素構造は処理前と同じ、(i)内部に中空構造を有し、内層部の炭素構造がヘリンボーン構造を含み、外層部の炭素構造が内層部と異なる年輪状構造である炭素繊維;(ii)内部に中空構造を有さず、内層部の炭素構造がプレート状構造であり、外層部の炭素構造が内層部と異なる年輪状構造である炭素繊維;(iii)内部に中空構造を有さず、内層部の炭素層の群が折り返し及び/又は輪状構造であり、外層部の炭素構造が内層部と異なる年輪状構造である炭素繊維の混合物であったが、処理前(実施例1)と比較すると、相対的に(ii)の炭素繊維の割合が減少し、(iii)の炭素繊維の割合が増加した。
【0101】
(実施例7)
実施例6で得られた炭素繊維をさらに、アルゴン気流中2800℃で10分間処理した。繊維外径、繊維長は処理の前後で変化はなかった。比表面積は100m2/gであり、処理前と変化はなかった。炭素繊維の外観は処理の前後で変化はなく、縮れ状であった。炭素構造は、(i)内部に中空構造を有し、内層部の炭素構造がヘリンボーン構造を含み、外層部の炭素構造が内層部と異なる年輪状構造である炭素繊維;(iii)内部に中空構造を有さず、内層部の炭素層の群が折り返し及び/又は輪状構造であり、外層部の炭素構造が内層部と異なる年輪状構造である炭素繊維の混合物であった。また、図8に示した透過型電子顕微鏡写真のようにそれぞれの炭素網層がはっきりと鮮明に確認された。図9に図8の炭素繊維の模式図を示す。
【0102】
(比較例1〜3)
表1に示した条件で実施例1と同様に実施した。透過型電子顕微鏡による観察で、これらの繊維はいずれも年輪状の炭素積層構造を持つことを確認した。なお、比較例1においては、大型縦型電気炉を用い、SiC製の反応管(内径360mm、加熱帯域の長さ2000mm)を用いた。
【0103】
(実施例8)
実施例6で得られた炭素繊維について、X線回折法によって炭素六角網平面(002)面の面間隔(d002)を測定したところ、0.337nmであった。また、ラマン散乱スペクトルの1341〜1349cm-1のバンドのピーク高さ(Id)と1570〜1578cm-1のバンドのピーク高さ(Ig)の比(Id/Ig)は、0.5であった。
(比較例4)
比較例1で得られた炭素繊維について実施例8と同様に測定を実施したところ、d002が0.339nm、Id/Igが0.2であった。
【0104】
【表1】

【0105】
実施例1−7では、反応器の加熱帯域へ供給する硫黄濃度を高くすることで本発明の縮れ状炭素繊維を得ることができた。実施例1,3ではポリプロピレングリコール、流動パラフィン等の添加成分を添加することにより、炭素繊維の回収率、BET比表面積が増加し、内部に中空構造を有さず、内層部の炭素構造がプレート状構造であり、外層部の炭素構造が内層部と異なる年輪状構造である炭素繊維の生成量の増加が確認された。実施例4では、シクロヘキサンを炭素源とした場合でも実施例1−3と同等の縮れ状繊維を得ることができた。実施例5では、アスペクト比の比較的大きな縮れ状の長繊維を得ることができた。実施例6,7では、熱処理によって内層部の炭素層の群が折り返し及び/または輪状構造である縮れ状短繊維の生成量の増加が確認された。
【符号の説明】
【0106】
1 空部分
2 中心部分
3 外層部分
4 原料供給ノズル
5 反応管
6 環状加熱炉
7 回収容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縮れ状の炭素繊維であって、内部に中空構造を持つ多層構造を有し、内層部の炭素構造がヘリンボーン構造を含むものであり、外層部の炭素構造が内層部の炭素構造と異なる炭素構造であることを特徴とする縮れ状炭素繊維。
【請求項2】
縮れ状の炭素繊維であって、内部に中空構造を持たない多層構造を有し、中心部の炭素構造が炭素繊維軸に垂直な炭素層を積層した形状を含むものであり、外層部の炭素構造が内部の炭素構造と異なる構造であることを特徴とする縮れ状炭素繊維。
【請求項3】
炭素繊維軸に垂直な炭素層が、1層又は複数層の炭素層からなる各群がその端面で別の群と連続又は接合して、その断面が多重の折り返し及び/又は輪状をなしていることを特徴とする請求項2に記載の縮れ状炭素繊維。
【請求項4】
外層部の炭素構造が年輪状構造を含む物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の縮れ状炭素繊維。
【請求項5】
下記式(1)で定義される捲縮度が0.5%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の縮れ状炭素繊維。
捲縮度(%)=(繊維長さ−繊維末端間距離)/(繊維長さ)×100 (1)
【請求項6】
繊維外径が2〜500nm、繊維長が50μm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の縮れ状炭素繊維。
【請求項7】
実測された比表面積が下記式(2)で定義される繊維径換算比表面積の1.5倍以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の縮れ状炭素繊維。
繊維径換算比表面積(m2/g)=2000/繊維外径(nm) (2)
【請求項8】
X線回折法でもとめた002面の面間隔(d002)が0.34nm以下、ラマン散乱スペクトルの1341〜1349cm-1のバンドのピーク高さ(Id)と1570〜1578cm-1のバンドのピーク高さ(Ig)の比(Id/Ig)が0.35以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の縮れ状炭素繊維。
【請求項9】
気相成長炭素繊維であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の縮れ状炭素繊維。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれかに記載の縮れ状炭素繊維を5容積%以上含む炭素繊維混合物。
【請求項11】
炭素源及び/または触媒源と硫黄源を加熱帯域において接触させる気相成長炭素繊維の製造方法において、硫黄源中の硫黄原子のモル数を触媒金属原子のモル数との比で2.0以上にすることを特徴とする請求項9に記載の縮れ状炭素繊維の製造方法。
【請求項12】
加熱帯域において硫黄源中の硫黄原子の気相濃度が0.0001mol/NL以上であることを特徴とする請求項11に記載の縮れ状炭素繊維の製造方法。
【請求項13】
硫黄源が、イオウ、チオフェン、硫化水素からなる群より選ばれた少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項11又は12に記載の縮れ状炭素繊維の製造方法。
【請求項14】
炭素源が、CO、CO2、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、エチレン、プロピレン、ブタジエン、アセチレン、ベンゼン、トルエン、キシレンからなる群より選ばれた少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項11〜13のいずれかに記載の縮れ状炭素繊維の製造方法。
【請求項15】
下記(A)、(B)の群から選ばれる少なくとも1種の化合物を添加成分として加熱帯域に供給することを特徴とする請求項11〜14のいずれかに記載の縮れ状炭素繊維の製造方法。
(A)沸点もしくは分解温度のいずれか低い方が180℃以上である有機化合物
(B)分子量が200以上である有機化合物重合体。
【請求項16】
加熱帯域の温度が約1200℃を越えて1350℃以下であることを特徴とする請求項11〜15のいずれかに記載の縮れ状炭素繊維の製造方法。
【請求項17】
請求項11〜16の製造方法により得られた縮れ状炭素繊維を、さらに非酸化性雰囲気下で、800℃〜1500℃に加熱することを特徴とする縮れ状炭素繊維の製造方法。
【請求項18】
請求項11〜17の製造方法により得られた縮れ状炭素繊維を、さらに非酸化性雰囲気下で、2000℃〜3000℃に加熱することを特徴とする縮れ状炭素繊維の製造方法。

【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−189832(P2010−189832A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101996(P2010−101996)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【分割の表示】特願2004−245101(P2004−245101)の分割
【原出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】