説明

繊維アクチュエータ

【課題】 所望の方向に動かすことのできる繊維アクチュエータを提供する。
【解決手段】 導電性高分子およびイオン導電性高分子よりなる群から選ばれた少なくとも1種を用いた繊維形状の材料の表面の一部に、前記2種と異なる材料が積層されてなる構造を有する、または、導電性高分子およびイオン導電性高分子よりなる群から選ばれた少なくとも1種を用いた繊維形状の材料の長手方向に垂直な内径断面の一部に、前記2種と異なる材料が貫通してなる構造を有する繊維アクチュエータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維アクチュエータおよびかかるアクチュエータを用いた車両用部品に関する。さらに詳細には、例えばモーターや油圧式、空気圧式アクチュエータのように、電気や他の入力エネルギーを機械的エネルギーに変換して駆動することのできる成分を含んだ繊維アクチュエータ、およびこのようなアクチュエータを用いた車両用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的に用いられている機械式の駆動源として、モーター、油圧・空気圧式アクチュエータなどがあるが、これらは概ね金属からなるものが多く、質量、スペースを大きくとり、また必要な動力源としても多大なエネルギーを必要とするものが多い。
【0003】
また、刺激に応答するピロール系高分子を用いた材料の電気変形方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
さらに、軽量・省スペースで得られる有機材料を用いたアクチュエータの例では、特許文献2などに記載の導電性高分子は、電気化学的な酸化還元反応を利用して、有機材料の伸縮を上記課題に適用しようとするものである。しかしながら、得られた形状の具体例は、フィルム状で伸縮方向も長手方向の一例しか示されていない。
【0005】
その他、ゲルと溶媒との組合せによるアクチュエータの例では、特許文献3などに、そもそも溶媒中で駆動するゲルアクチュエータを空気中で駆動させるため、溶媒槽ごとシステムとして抱えることになり、電解液漏れや、電気分解による性能低下が起こる可能性がある。
【特許文献1】特開平11−159443号公報
【特許文献2】特開2004−162035号公報
【特許文献3】特開2004−188523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みて、これらの材料を繊維形状として得る工夫をすることにより、省スペース・省エネルギーでありながらも、所望の方向に動かすことのできる繊維アクチュエータを得ることを課題とする。
【0007】
また、本発明は、従来の有機アクチュエータにおける上記課題に着目してなされたものであって、軽量化、省スペース化が可能であると共に、入力エネルギーを機械的な出力に変換し駆動させるアクチュエータ機能を、自動車などの内装材部品に新機能を付加し提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、導電性高分子およびイオン導電性高分子よりなる群から選ばれた少なくとも1種を用いた繊維形状の材料の表面の一部に、前記2種と異なる材料が積層されてなる構造を有することを特徴とする繊維アクチュエータ、に関する。
【0009】
また、本発明は、導電性高分子およびイオン導電性高分子よりなる群から選ばれた少なくとも1種を用いた繊維形状の材料の長手方向に垂直な内径断面の一部に、前記2種と異なる材料が貫通してなる構造を有することを特徴とする繊維アクチュエータ、に関する。
【0010】
さらに、本発明は、上記繊維アクチュエータを用いた車両用部品に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の繊維アクチュエータによれば、新たな駆動方向を持つ繊維を提供することができる。
【0012】
上記繊維アクチュエータを用いた車両用部品によれば、従来の繊維材料と置き換えることにより、繊維製品に新たな機能を付与することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(繊維アクチュエータ)
本発明に係わる繊維アクチュエータは、導電性高分子、イオン導電性高分子または両者を組み合わせた繊維形状の材料において、例えば、表面の一部が上記2種と異なる材料で積層された構造を有することを特徴としている。
【0014】
一般的な繊維材料においては、図1に示すような、均一な材料からできているものや、断面で見て芯鞘構造のようなもの(図2)、サイドバイサイド構造のようなもの(図3)、海島(多芯)構造のようなもの(図4)、断面が円形ではない変形断面形状(図5、6)、中空構造(図7)などがある。これらは繊維の機能化の一つの手段として、繊維自体が自然によじれた形状になり、風合いを変える、繊維表面積を大きくして軽量化・断熱性を狙うなどに用いられる。
【0015】
本発明の意図するところは、これらの繊維の静的特性を変化させるための工夫ではなく、アクチュエーションなどの動的な特性を狙って、繊維構造の工夫と材料の工夫を組合せることによって、上記機能を実現することにある。
【0016】
従って、繊維を所望方向に変形させるために、他の材料を表面に積層することで、変形方向を制限することができる。これは積層することにより、動きが阻害される面が発生し、それにより、繊維形状としてマクロ的に見た場合には、所定方向に曲がって駆動することになる。
【0017】
本発明において繊維とは、一般に繊維製品に用いられる程度の太さのものであり、概ね1〜500μm程度の直径を持つものをいう。太さが数mmに及ぶものでは、このような機能を持つものも見受けられるが、これらの原理や製品を、編物、織物などに用いることができない。本発明の繊維アクチュエータでは、従来は難しかった編物、織物などにもアクチュエーション機能を付与できる。もちろん、数mmの太さでは用いることができないような細い空間での駆動も、本繊維アクチュエータでは可能である。
【0018】
本発明で用いられる導電性高分子は、導電性を示す高分子であれば特に制限されることはないが、例えば、アセチレン系、複素5員環系(モンマーとして、ピロールの他、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−ドデシルピロールなどの3−アルキルピロール;3,4−ジメチルピロール、3−メチル−4−ドデシルピロールなどの3,4−ジアルキルピロール;N−メチルピロール、N−ドデシルピロールなどのN−アルキルピロール;N−メチル−3−メチルピロール、N−エチル−3−ドデシルピロールなどのN−アルキルー3−アルキルピロール;3−カルボキシピロールなどを重合して得られたピロール系高分子、チオフェン系高分子、イソチアナフテン系高分子など)、フェニレン系、アニリン系の各導電性高分子やこれらの共重合体などが挙げられる(図8〜12)。なかでも、繊維として得やすい材料としては、チオフェン系導電性高分子のポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)にポリ4−スチレンサルフォネート(PSS)をドープしたPEDOT/PSS(Bayer社、Baytron P(登録))や、フェニレン系のポリパラフェニレンビニレン(PPV)などが挙げられる。
【0019】
さらに導電性高分子において、その導電性にドーパントが劇的な効果をもたらす。ここで用いられるドーパントとしては、塩化物イオン、臭化物イオンなどのハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロ硼酸イオン、六フッ化ヒ酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、チオシアン酸イオン、六フッ化ケイ酸イオン、燐酸イオン、フェニル燐酸イオン、六フッ化燐酸イオンなどの燐酸系イオン、トリフルオロ酢酸イオン、トシレートイオン、エチルベンゼンスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオンなどのアルキルベンゼンスルホン酸イオン、メチルスルホン酸イオン、エチルスルホン酸イオンなどのアルキルスルホン酸イオン、ポリアクリル酸イオン、ポリビニルスルホン酸イオン、ポリスチレンスルホン酸イオン、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)イオンなどの高分子イオンのうち、少なくとも一種のイオンが使用される。ドーパントの添加量は、導電性に効果を与える量であれば特に制限はされないが、通常、導電性高分子100質量部に対し、3〜50質量部、好ましくは10〜30質量部の範囲である。
【0020】
本発明で用いられるイオン導電性高分子には、一般に用いられているイオン交換膜(フッ素系イオン交換膜(DuPont社Nafion(登録),旭化成社Aciplex(登録)、旭硝子社Flemion(登録)))や、ポリN−イソプロピルアクリルアミド、ポリアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのヒドロゲルに、イオンを含む溶液またはイオン性液体(イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩)などを含浸させたものが挙げられる。
【0021】
導電性高分子とイオン導電性高分子とを混合した後、押し出すことにより混合物として得ることができる。それらの混合比は特に制限されることなく、任意に混合できる。
【0022】
繊維アクチュエータのタイプとしては、積層構造のものと、貫通構造のものが挙げられる。
【0023】
積層構造とは、繊維の表面の一部が繊維を構成する材料と異なる材料で積層された構造であることをいう。ここで、「表面」とは、繊維の長手方向に対して垂直に切断した断面における外周をいう。また、「表面の一部」とは、該外周の一部分であって、その一部分が、繊維の一端から他端まで連続的にまたは間欠的に続くものをいう。すなわち、導電性高分子や、イオン導電性高分子を芯とした繊維体の表面に、他の材料からなる積層体を形成するもののうち、前記導電性高分子などの表面すべてを覆うことがない状態をいう。
【0024】
繊維材料と異なる材料としては、繊維材料と異なれば特に制限はされないが、例えば、樹脂を形成するための樹脂材料、さらには熱可塑性樹脂であることが好ましい。これは、導電成分として主に高分子材料を用いることもあり、より似た材質のものと組み合わせることで、導電性高分子の動きをできるだけ阻害すること無く、繊維形状であることが可能になるからである。さらに、これを熱可塑性樹脂とすることで、その後、何がしかの製品化して用いる際に、容易にその所望の形状に成形して用いることができるからである。具体例として、ナイロン6,ナイロン66などのポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、共重合成分を含むポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル、アクリルエマルジョン、ポリエステルエマルジョンなどを単独あるいは混合して用いることもできる。
【0025】
積層構造において、繊維の長手方向に垂直な断面形状は、例えば、図13に示されるような、円形、円形以外でも、異形断面形状としては、扁平断面、中空断面、三角形やY型などの繊維形態や、繊維表面に微細な凹凸や筋を有する繊維形態などを採用することができる。かかる断面を半円、扇形、半円上、半円下、三日月、丸扇、玉子などの形状にすることにより、導電成分である導電性高分子などに通電した際、これらの高分子が縮むことにより、繊維の表面に積層された材料と長さの差が生じることで、この繊維をマクロ的に見た場合に、所定方向に曲がる挙動(アクチュエーション)を示す。後述の実施例で示されるように、XとYとで構成される面、すなわち平面上で曲がる挙動を示す。
【0026】
図13に示される断面形状では、ハッチングの種類により材質が異なることを示すが、面積の大小を問わず、2種類の材質で組み合わされていれば、本機能を発現させることができる。本明細書において、断面を示す図面をおいては、ハッチングは同じことを意味する。
【0027】
かかる断面において、導電性の駆動層を形成する面積と駆動力を拘束する拘束層を形成する面積との比率は、所定方向に曲がる挙動を示せば特に制限されることはないが、通常、1:10〜10:1、好ましくは1:3〜3:1の範囲である。この範囲とすることにより、本発明の繊維アクチュエータは所定方向に曲がる挙動を示すことができる。
【0028】
さらに、積層構造をサイドバイサイド型とすることが好ましい。ここで、サイドバイサイドとは、断面形状において、導電性の駆動層を形成する面積と駆動力を拘束する拘束層を形成する面積との比率がおよそ50%ずつであることをいう。特に、この比率とすることで、アクチュエーション機能が得られることはもちろん、本機能を持たせた繊維としての繊維自体の強度も向上する。
【0029】
また、繊維の長手方向の伸縮量を所望の量に設定する工夫として、該繊維の長手方向に、樹脂材料を分断して設置してもよい。これにより、長手方向の変形量の微調整も容易になる。
【0030】
例えば、拘束層が一端から他端まで連続したと仮定し、一端から他端までを100(体積)とした場合に、拘束層の割合が、10(体積)以上、好ましくは30体積以上の範囲である。
【0031】
他方、積層構造の他に、繊維の長手方向に垂直な内径断面の一部が導電性高分子およびイオン導電性高分子と異なる材料を貫通させた構造を持つ貫通構造とすることでも、繊維アクチュエータを得ることが可能である。なお、通常、貫通するとは、一端から他端まで達することをいうが、本発明では、貫通すべき材料が分断されていても、分断された箇所にかかる材料を加えた場合に、貫通構造とみなせる場合も含まれる。内径断面の一部を構成する材料には、樹脂材料を用いること、さらに熱可塑性樹脂であることが好ましい。ここで、内径断面の一部とは、図14〜16に示すように、繊維断面を見た際に、駆動部分となる材料、もしくは、駆動しない材料のどちらかが断面の外周のすべてを占めている形状で、かつ、その外周を占めていない方の成分が、断面の芯部に含まれている状態を示す。この形状とすることで、芯部に導電成分を用いた場合には、繊維自体の表面の耐久性は、その他の材料によることになり、樹脂材料を用いた場合には、概ね向上する。また、特に導電成分を鞘部に用いた場合には、表面に導電部分が現れることになり、導通して使用する際に、接点の接触を得やすい状態で得ることができる。
【0032】
なお、導電性高分子、イオン導電性高分子、樹脂材料、熱可塑性樹脂については、積層構造に用いられる材料と同じ材料を用いることができる。
【0033】
貫通構造において、繊維の長手方向に垂直な断面形状は、例えば、図14に示されるような円形、円形以外でも、異形断面形状としては、扁平断面、中空断面、三角形やY型などの繊維形態や、繊維表面に微細な凹凸や筋を有する繊維形態などを採用することができる。かかる断面を半円、扇形、半円上、半円下、三日月、丸扇、玉子などの形状にすることにより、導電成分である導電性高分子などに通電した際、これらの高分子が縮むことにより、繊維の表面に積層された材料との長さの差が生じることで、この繊維をマクロ的に見た際に、ある方向に曲がる挙動(アクチュエーション)を示す。後述の実施例で示されるように、XとYとで構成される面、すなわち平面上で曲がる挙動を示す。
【0034】
図14に示される断面形状では、ハッチングの種類により材質が異なることを示しているが、面積の大小を問わず、2種類の材質で組み合わされていれば、本機能を発現させることができる。
【0035】
なお、かかる断面において、導電性の駆動層を形成する面積と駆動力を拘束する拘束層を形成する面積との比率は、積層構造の場合と同じである。
【0036】
なかでも、かかる断面を芯鞘型とすることが好ましい。ここで、芯鞘型とは、断面において芯部と鞘部との面積比がおよそ50%であることを意味する。このような構成とすることにより、繊維の強度・駆動のバランスを考えた際に、機能を最もよく発現させることができる。芯部は1つに限らず、多芯(海島構造)でも同様の効果が得られる。
【0037】
さらに、芯鞘型のなかでも特に偏心型(図15〜16)であることがより好ましい。芯部と鞘部が円形の場合には、特に芯部の中心を繊維の中心から外し、偏心させておくことにより、曲がる挙動を顕著に現すことができる。
【0038】
また、繊維の長手方向の伸縮量を所望の量に設定する工夫として、該繊維の長手方向において、樹脂材料を分断して設置してもよい(図17)。図17において、(a)は電源を印加する前の状態を示し、(b)は曲がった状態を示す。これにより、長手方向の変形量の微調整も容易になる。
【0039】
(繊維アクチュエータの製造方法)
積層構造型の繊維アクチュエータは、例えば、湿式紡糸や電界重合などの方法で得られた芯部となる導電性繊維に、連続工程で積層成分として、芯部の材料とは異なる樹脂材料などの材料を積層することにより製造できる。
【0040】
以下、図面に基づいて導電性繊維などの製造方法を説明する。
【0041】
例えば、チオフェン系材料では、湿式紡糸により製造できる。図18は、本発明に係わる湿式紡糸装置の模式図である。図18に示される湿式紡糸装置20おいて、例えば、PEDOT/PSSの水分散液(Bayer社Baytron P(登録))を湿式紡糸用口金21から押し出し、押し出された繊維アクチュエータの前駆体10をアセトンなどの溶媒が入った湿式紡糸溶媒槽22を通過させる。該前駆体10は、該溶媒槽22を通過させた後、繊維送り器23を経て乾燥し、繊維巻き取り器24で巻き取って導電性高分子繊維を得る。
【0042】
他方、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリフルオレンなどのフェニレン系材料の場合には、ベンゼン環上のπ結合とそれに繋がる直鎖上のπ結合を利用して導電するタイプで、これらの導電性高分子は、エレクトロスピニング法により、繊維化することが可能である。図19は、本発明に係わるエレクトロスピニング装置の模式図である。図19に示されるエレクトロスピニング装置30において、シリンダー31のシリンダー針32の針先と、シリンダー31の下方に設置された絶縁材(土台)34上に載置された電極33との間に、電線36を介して電圧印加装置35が設けられている。例えば、ポリパラフェニレンなどのフェニレン系材料とメタノールなどのアルコールを混合して、紡糸用原液を調製する。電圧を印加しながら、調製した原液をシリンダー31のシリンダー針32の針先から電極33に向けて押し出す。この方法により、繊維アクチュエータの前駆体繊維10が電極33上に析出する。得られた前駆体繊維を真空乾燥などの公知の方法で乾燥して、繊維を得る。
【0043】
このような公知の繊維製造工程によって、積層構造型の繊維アクチュエータに用いられる駆動・センシング源となる繊維を製造することができる。
【0044】
得られた繊維に、塗布またはコーティングなどの公知の方法で、繊維の表面に繊維の材料とは別の樹脂材料などの材料を連続的に積層することができる。
【0045】
繊維の塗布またはコーティング法について、図面を用いて説明する。
【0046】
図20は、本発明に係わる湿式紡糸装置に塗布工程を設けた装置の模式図である。図20に示される湿式紡糸装置20おいて、紡糸原液を湿式紡糸用口金21から押し出し、押し出された繊維アクチュエータの前駆体10を、アセトンなどの溶媒が入った湿式紡糸溶媒槽22を通過させる。該前駆体10は、該溶媒槽22を通過した後、繊維送り器23を経て、塗布乾燥装置25で樹脂材料などを塗布、乾燥させた後、繊維アクチュエータ11を得て、繊維巻き取り器24で巻き取られる。
【0047】
図21は、本発明に係わる湿式紡糸装置にコーティング工程を設けた装置の模式図である。図21に示される湿式紡糸装置20おいて、紡糸原液を湿式紡糸用口金21から押し出し、繊維アクチュエータの前駆体10を、アセトンなどの溶媒が入った湿式紡糸溶媒槽22を通過させる。該前駆体10は、該溶媒槽22を通過した後、繊維送り器23を経て、ポリエステルエマルジョンなどが含まれるコーティング槽26に送られる。該エマルジョンを浸漬した繊維を繊維送り器23で乾燥装置27に送って乾燥させた後、繊維アクチュエータ11を得て、繊維巻き取り器24で巻き取る。
【0048】
乾燥工程の時間・温度を調整することで表面に残る樹脂量を調節することが可能であるため、さまざまな乾燥条件により、異なる断面形状のものを得ることができる。
【0049】
また、繊維の長手方向に、樹脂材料を分断して設置する方法としては、繊維の表面に間欠的に樹脂材料を含む揮発性溶液を塗布することにより得られる。
【0050】
次に、芯鞘構造の繊維アクチュエータの製造方法について説明する。
【0051】
繊維製造業では公知の芯鞘型湿式紡糸器を用いて製造する。口金の芯部からはN,N−ジメチルアセトアミドなどを溶媒とするアクリロニトリル溶液、鞘部からはポリ3,4−エチレンジオキシチオフェンにポリ4−スチレンサルフォネートをドープした材料などを、同時にN,N−ジメチルアセトアミドなどの溶媒中に吐出させ、溶媒を除去して芯鞘繊維を得ることができる。
【0052】
また、別の手法としては、湿式紡糸の場合に芯鞘型用の吐出口金を用いることで、一回の液相からの引上げで芯鞘型繊維を作成することも可能である。
【0053】
また、繊維の長手方向に、樹脂材料を分断して設置する方法としては、芯鞘型湿式紡糸器を用いる場合に、鞘部において、原液の吐出−停止を繰り返すことにより得られる。
【0054】
(車両用部品)
新たな駆動方向を持つ繊維アクチュエータを車両に適用することができる。これらのアクチュエータは、従来の繊維材料と置き換えることにより、繊維製品に新たな機能を付与することが可能になる。
【0055】
得られた繊維アクチュエータを、車両の内装材に用いられる繊維材料と置き換えることで、車両から乗員へ信号を伝達する手段や、繊維の動きにより乗り心地を改善する手段に用いることができる。
【0056】
通常の車両に用いられている電圧で、繊維アクチュエータの収縮および伸び(およそ元の位置に戻る)を繰返し行わせることができる。
【実施例】
【0057】
以下に、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。
【0058】
(実施例1)
湿式紡糸法で溶媒相にアセトン(和光化学製:019−00353)を用い、導電性高分子成分PEDOT/PSS(スタルク製Baytron P(登録))を0.5mL/hの速度でマイクロシリンジ(伊藤製作所製、MS−GLL100、針部内径260μm)から押し出すことで、約10μmの導電性高分子繊維を得た。次にこの繊維に、水系ポリエステルエマルジョン(日本NSC社製、AA−64)を表面に塗布し、25℃で24時間乾燥させた。得られた繊維は、断面形状で積層型、三日月形状となり、直径は、およそ15μmであった。
【0059】
(実施例2)
実施例1と同様に導電性高分子繊維を得、そこから連続工程で水系アクリルエマルジョン(日本NSC社、AA−64)槽に浸漬、引き上げて80℃で15分間乾燥させた。得られた繊維は、断面形状で芯鞘型、偏心円形状となり、直径は、およそ15μmであった。
【0060】
(実施例3)
芯鞘型湿式紡糸器の口金の芯部からはN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)を溶媒とするアクリロニトリル溶液(樹脂濃度25%)、鞘部からはPEDOT/PSSをそれぞれ0.5mL/hの速度でDMAc(濃度85%)中に同時に吐出させ、芯鞘繊維を得た。得られた繊維は、断面形状で芯鞘型、偏心円形状となり、直径は、およそ15μmであった。
【0061】
(実施例4)
実施例1と同様の条件であるが、針部の内径を340μmとし、繊維径13μmの導電性高分子繊維を得、そこから連続工程で水系アクリルエマルジョン(日本NSC社、AA−64)を最終繊維径が15μmになる様に塗布し、25℃で24時間乾燥させた。繊維径が得られた繊維は、断面形状で積層型、三日月形状となり、直径は、およそ15μmであった。
【0062】
(実施例5)
実施例1と同様の条件であるが、針部の内径を340μmとし、押し出し速度を0.4mL/hとすることで、繊維径12μmの導電性高分子繊維を得、そこから連続工程で水系アクリルエマルジョン(日本NSC社、AA−64)を最終繊維径が15μmになる様に塗布し、25℃で24時間乾燥させた。繊維径が得られた繊維は、断面形状で積層型、三日月形状となり、直径は、およそ15μmであった。
【0063】
(実施例6)
実施例1と同様の条件であるが、針部の内径を260μmとし、繊維径9μmの導電性高分子繊維を得、そこから連続工程で水系アクリルエマルジョン(日本NSC社、AA−64)を最終繊維径が15μmになる様に塗布し、25℃で24時間乾燥させた。繊維径が得られた繊維は、断面形状で積層型、三日月形状となり、直径は、およそ15μmであった。
【0064】
(実施例7)
実施例1と同様の条件であるが、針部の内径を260μmとし、押し出し速度を0.4mL/hとすることで、繊維径7.5μmの導電性高分子繊維を得、そこから連続工程で水系アクリルエマルジョン(日本NSC社、AA−64)を最終繊維径が15μmになる様に塗布し、25℃で24時間乾燥させた。繊維径が得られた繊維は、断面形状で積層型、三日月形状となり、直径は、およそ15μmであった。
【0065】
(実施例8)
実施例1と同様に導電性高分子繊維を得、そこから連続工程で実施例2と同様の工程で、水系アクリルエマルジョン(日本NSC社、AA−64)を3倍に希釈した浸漬槽に浸漬し、引き上げて乾燥条件80℃で15分間乾燥させた。得られた繊維は、断面形状で芯鞘型、偏心円形状となり、直径は、およそ15μmであった。
【0066】
(実施例9)
実施例1と同様に導電性高分子繊維を得、そこから連続工程で実施例2と同様の工程で、水系アクリルエマルジョン(日本NSC社、AA−64)を2倍に希釈した浸漬槽に浸漬し、引き上げて乾燥条件80℃で15分間乾燥させた。得られた繊維は、断面形状で芯鞘型、偏心円形状となり、直径は、およそ15μmであった。
【0067】
(実施例10)
実施例1と同様に導電性高分子繊維を得、そこから連続工程で実施例2と同様の工程で、水系アクリルエマルジョン(日本NSC社、AA−64)槽に浸漬、引き上げて乾燥条件85℃で15分間乾燥させた。得られた繊維は、断面形状で芯鞘型、偏心円形状となり、直径は、およそ15μmであった。
【0068】
(実施例11)
実施例1と同様に導電性高分子繊維を得、そこから連続工程で実施例2と同様の工程で、水系アクリルエマルジョン(日本NSC社、AA−64)槽に浸漬、引き上げて乾燥条件90℃で15分間乾燥させた。得られた繊維は、断面形状で芯鞘型、偏心円形状となり、直径は、およそ15μmであった。
【0069】
(実施例12)
実施例1と同様に導電性高分子繊維を得、そこから連続工程で水系アクリルエマルジョン(日本NSC社、AA−28)を最終繊維径が所定径となるように塗布し、25℃で24時間乾燥させた。繊維径が得られた繊維は、断面形状で積層型、三日月形状となり、直径は、およそ15μmであった。
【0070】
(実施例13)
エレクトロスピニング法で繊維を合成するべく、原液としてパラキシレンテトラヒドロチオフェニウムクロライドの2.5%水溶液にメタノールを50vol.%となる様に添加した溶液を用いた。これを内径340μmの針先から電圧5kVを印加して、針先より20cm下のアルミホイル基板上に、前駆体繊維を析出させた。得られた前駆体繊維を、250℃で24時間真空乾燥を行い、得られたナノファイバーを撚り糸とし、直径約10μmの繊維を得た。次にこの繊維に、水系ポリエステルエマルジョン(日本NSC社製、AA−64)を表面に塗布し、25℃で24時間乾燥させた。得られた繊維は、断面形状で積層型、三日月形状となり、直径は、およそ15μmであった。
【0071】
(実施例14)
湿式紡糸法で溶媒相にアセトン(和光化学製:019−00353)を用い、Nafion(登録)5%溶液をφ340μmの針先から実施例1と同様に押し出し、約10μmのイオン交換樹脂製繊維を得た。この繊維をN,N−ジエチル−N−メチル−(2−メチルオキシル)アンモニウムテトラフロロボレイト液中に24時間含浸した。次にこの繊維に、水系ポリエステルエマルジョン(日本NSC社製、AA−64)を表面に塗布し、25℃で24時間乾燥させた。得られた繊維は、断面形状で積層型、三日月形状となり、直径は、およそ15μmであった。
【0072】
(実施例15)
芯鞘型湿式紡糸器を使用し、口金の鞘部からはN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)を溶媒とするアクリロニトリル溶液(樹脂濃度25%)を10Hzで吐出−停止を繰り替えさせながら、0.25mL/hの速度で、芯部からはPEDOT/PSSを0.5mL/hの速度でDMAc(濃度85%)中に同時に吐出させ、芯鞘繊維を得た。得られた繊維は、断面形状で芯鞘型、偏心円形状となり、直径は、およそ15μmであった。
【0073】
(比較例1)
PET長繊維(繊維径15μm)を比較例として用いた。
【0074】
(比較例2)
実施例1のエマルジョン塗布前の繊維を用いた。
【0075】
(比較例3)
実施例13のエマルジョン塗布前の繊維を用いた。
【0076】
(比較例4)
実施例14のエマルジョン塗布前の繊維を用いた。
【0077】
〔評価試験1〕変位量試験
図22および23に示される装置を用いて評価した。
【0078】
実施例1〜15、および比較例1〜4によって得られた繊維アクチュエータを15cm用意し、該アクチュエータ11の両端を、一方を端部フリー41、その他端を端部固定42とし、電源40と結線した直径0.025mmの銅線44(ニラコ製CU−111086)を導電ペースト(藤倉化成製D−500)でつなぎ、方眼紙上で通電試験を行った。なお、端部フリー41に結線した銅線は空中に持ち上げた。この時に動いた方向、変位量を図22、23に示す方向に対して測定した。試料は、評価方向X軸に平行に置き、Y軸方向の変位は、水平方向のどちらに動いた場合も正の値とし、その最大値を表1に記載した。X軸方向の変位は、試料の収縮方向(図22において、上から下)を正の値とした。この結果を表1に示す。
【0079】
〔評価試験2〕引張り試験
実施例1〜15、および比較例1〜4によって得られた繊維を、JIS L1069に準じて、引張り試験を行った。この結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
表1から、次のことがわかる。
1.電圧を印加すると、繊維アクチュエータが収縮した。
2.比較例1では、XおよびY軸のいずれの方向にも、収縮しなかった。
3.比較例2〜4では、X軸の方向にだけ収縮した。
4.実施例では、繊維アクチュエータはXY平面において曲がった(収縮)。
【0082】
(実施例16)
実施例1の繊維材料を車両のステアリングに巻きつけ、10Hz、1Vで通電を行ったところ、運転者は通電時に振動感触を感じとることができた。振動感触を感じとることができることから、繊維材料は収縮と伸び(元の位置に戻る)を繰返し行う材料であることが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】従来の繊維の形状例を示す模式図である。
【図2】従来の芯鞘型繊維の形状例を示す模式図である。
【図3】従来のサイドバイサイド型繊維の形状例を示す模式図である。
【図4】従来の海島型繊維の形状例を示す模式図である。
【図5】従来の異型(三角)断面繊維の形状例を示す模式図である。
【図6】従来の異型(星形)断面繊維の形状例を示す模式図である。
【図7】従来の中空繊維の形状例を示す模式図である。
【図8】アセチレン系導電性高分子の化学式の一例である。
【図9】ピロール系導電性高分子の化学式の一例である。
【図10】チオフェン系導電性高分子の化学式の一例である。
【図11】フェニレン系導電性高分子の化学式の一例である。
【図12】アニリン系導電性高分子の化学式の一例である。
【図13】本発明に係わる表面層の1部が異なる材料で形成された繊維アクチュエータの断面形状を示す断面模式図である。
【図14】本発明に係わる内径断面の1部が異なる材料で形成された繊維アクチュエータの断面形状を示す断面模式図である。
【図15】本発明に係わる内径断面の1部が異なる材料で形成された繊維アクチュエータの断面形状を示す断面模式図である。
【図16】本発明に係わる内径断面の1部が異なる材料で形成された繊維アクチュエータの断面形状を示す断面模式図である。
【図17】本発明に係わる長手方向に分断して異なる材料からなる表面層を備えた繊維アクチュエータの側断面模式図である。
【図18】本発明に係わる湿式紡糸装置の模式図である。
【図19】本発明に係わるエレクトロスピニング装置の模式図である。
【図20】本発明に係わる湿式紡糸装置に塗布工程を設けた装置の模式図である。
【図21】本発明に係わる湿式紡糸装置にコーティング工程を設けた装置の模式図である。
【図22】本発明に係わる評価方法1の概略平面図である。
【図23】本発明に係わる評価方法1の概略側面図である。
【符号の説明】
【0084】
1 従来品の繊維
2a 芯鞘繊維の鞘成分
2b 芯鞘繊維の芯成分
3a サイドバイサイド型繊維の1成分
3b サイドバイサイド型繊維の3aと異なる材料からなる成分
4a 海島型繊維の海成分
4b 海島型繊維の島成分
5a 中空繊維の繊維成分
5b 中空繊維の中空部
10 繊維アクチュエータの前駆体繊維
11 繊維アクチュエータ
20 湿式紡糸装置
21 湿式紡糸用口金
22 湿式紡糸溶媒槽
23 繊維送り器
24 繊維巻き取り器
25 塗布乾燥装置
26 コーティング槽
27 乾燥装置
30 エレクトロスピニング装置
31 シリンダー
32 シリンダー針
33 電極
34 絶縁材(土台)
35 電圧印加装置
36 電線
40 電源
41 端部フリー
42 端部固定
43 試験台。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性高分子およびイオン導電性高分子よりなる群から選ばれた少なくとも1種を用いた繊維形状の材料の表面の一部に、前記2種と異なる材料が積層されてなる構造を有することを特徴とする繊維アクチュエータ。
【請求項2】
前記積層構造は、サイドバイサイド型であることを特徴とする請求項1記載のアクチュエータ。
【請求項3】
導電性高分子およびイオン導電性高分子よりなる群から選ばれた少なくとも1種を用いた繊維形状の材料の長手方向に垂直な内径断面の一部に、前記2種と異なる材料が貫通してなる構造を有することを特徴とする繊維アクチュエータ。
【請求項4】
前記貫通構造は、芯鞘型であることを特徴とする請求項3記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記芯鞘型は、偏心型であることを特徴とする請求項4記載のアクチュエータ。
【請求項6】
請求項1乃至5項のいずれか1項に記載の繊維アクチュエータの表面の一部、または、内径断面の一部を構成する材料が樹脂材料であることを特徴とする繊維アクチュエータ。
【請求項7】
前記樹脂材料は、熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項6記載のアクチュエータ。
【請求項8】
請求項1乃至7項のいずれか1項に記載の繊維アクチュエータの長手方向に、請求項6乃至7の材料は、分断されて設置されてなることを特徴とする繊維アクチュエータ。
【請求項9】
請求項1乃至8項のいずれか1項に記載の繊維アクチュエータを用いた車両用部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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