説明

繊維強化樹脂成形体及びその製法

【発明の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
本発明は、繊維強化樹脂成形体及びその製法に関するもので、より詳細には、熱可塑性樹脂のマトリックスと、このマトリックスに積層乃至埋設された分子配向及びシラン架橋超高分子ポリエチレン繊維の補強層とから成り、高弾性率及び高強度等の機械的特性に優れ、電気的特性にも優れた繊維強化樹脂成形体に関する。本発明はまたその製造方法にも関する。
(従来の技術)
特開昭58−171951号公報には、超高分子量のポリエチレン繊維又はポリプロピレン繊維の網状組織、及びポリエチレン結晶或又はポリプロピレン結晶域を有し融点又は粘着点がポリオレフィン繊維の融点よりも少くとも3℃低い重合物から成るマトリックスとから成る複合構造物が記載されており、この複合物は理論推定値よりも高い実測強度を示し、この複合物の強度増加の原因は、成形時に生ずる繊維の結晶性損失を補って余りあるある種の好ましい作用に基づくものであろうことも記載されている。
(発明が解決しようとする問題点)
超高分子量ポリエチレンの延伸繊維は、高い弾性率及び高い引張強度を有するが、ポリエチレン本来の欠点、即ち耐熱性に劣るという欠点をそのまま有している。
一般に、ポリエチレンの分子配向により、或いはポリエチレンの架橋によりポリオレフインの耐熱性が向上すること自体は公知であるが、この従来技術における耐熱性の向上には自ら限界があり、所詮はポリエチレンの融点が110乃至140℃の比較的低い範囲にあるという制約を根本的には免れないものであって、本発明者等の知る限り、ポリエチレンの成形体を180℃の温度に10分間曝した後においては、殆んどのものが融解し、その強度が失われるのである。
かくして、ポリオレフィン繊維を、その融点よりも高い温度において熱可塑性樹脂のマトリックスと複合化し、その複合構造物中にポリオレフィン繊維が本来の配向結晶化状態において存在するような繊維強化樹脂成形体は未だ知られるに至っていない。
従って、本発明の目的は、熱可塑性樹脂のマトリックスとこれに積層乃至埋設されたポリオレフィン繊維の補強層との複合構造を有し、この複合構造中にポリオレフィン繊維が本来の配向結晶状態において存在し、その結果として著しく高い弾性率と機械的強度とが付与される繊維強化樹脂成形体及びその製法を提供するにある。
本発明の他の目的は、オレフィン系樹脂のマトリックスと、これに積層乃至埋設された分子配向及びシラン架橋超高分子量ポリエチレン繊維との複合構造を有し、高弾性率、高強度、耐衝撃性、耐クリープ性等の機械的性質や、軽量性、電気的特性等に優れている繊維強化樹脂成形体及びその製法を提供するにある。
(問題点を解決するための手段)
本発明によれば、融点又は軟化点が220℃以下の熱可塑性樹脂のマトリックスと、該マトリックスに積層乃至埋設された分子配向及びシラン架橋超高分子量ポリエチレン繊維の補強層の少なくとも1層とから成り、該補強層が超高分子量ポリエチレン繊維の配向結晶構造を実質上保有していることを特徴とする繊維強化樹脂成形体が提供される。
本発明によればまた、分子配向及びシラン架橋超高分子量ポリエチレンのフィラメント、或いはこのフィラメントから成る不織布、織布又は編布を面方向に配置し且つその端部を拘束した状態で、融点又は軟化点が220℃以下の熱可塑性樹脂の溶融物と合体させることを特徴とする繊維強化樹脂成形体の製造方法が提供される。
(作用)
本発明は、超高分子量ポリエチレンの分子配向シラン架橋繊維を拘束条件下で、融点又は軟化点が220℃以下の熱可塑性樹脂と該樹脂が溶融状態で複合構造に合体させると、形成される複合構造中に、前記繊維の配向結晶構造が実質上保有されるという新規発見に基づくものである。
本明細書において、熱可塑性樹脂の融点乃至軟化点とは、融点を有するものについては一義的に融点を意味し、融点を有しないものについて軟化点を意味するものである。
本発明において使用する補強繊維は、超高分子量ポリエチレンにシラン類をグラフトさせたものを成形し、この成形物を延伸した後シラン架橋を行うことにより製造されるが、この延伸架橋成形体は、これを構成する少なくとも一部の重合体鎖の融点が原料超高分子量ポリエチレン本来の融点に比して、拘束条件下において顕著に向上しているという新規な特性を有する。尚拘束条件下とは、繊維に積極的な緊張は与えらえていないが、自由変形が防止されるように端部が固定されている条件あるいは枠等の他の物体に巻かれている条件等を意味する。
即ち、本発明に用いる超高分子量ポリエチレンの分子配向シラン架橋体は一般に、拘束状態で示差走査熱量計で測定したとき、二回目昇温時の主融解ピークとして求められる超高分子量ポリエチレン本来の結晶融解温度(Tm)よりも少なくとも10℃高い温度に少なくとも2個の結晶融解ピーク(Tp)を有すると共に、全融解熱量当りのこの結晶融解ピーク(Tp)に基ずく融解熱量が40%以上及び温度範囲Tm+35℃〜Tm+120℃における高温側融解ピーク(Tp1)に基づく融解熱量の総和が全融解熱量当り5%以上であるという特性を有している。
重合体の融点は、重合体中の結晶の溶解に伴うものであり、一般に示差走査熱量計での結晶溶解に伴なう吸熱ピーク温度として測定される。この吸熱ピーク温度は、重合体の種類が定まれば一定であり、その後処理、例えば延伸処理や架橋処理等によってそれが変動することは殆んどなく、変動しても、最も変動する場合として良く知られている延伸熱処理でも高々15℃程度高温側へ移動するに留まる。
添付図面第1図は、本発明に用いる超高分子量ポリエチレンの分子配向シラン架橋フィラメント(繊維)を拘束条件下に測定した示差走査熱量計における吸熱曲線であり、第2図は原料超高分子量ポリエチレンの吸熱曲線であり、第3図は第2図の超高分子量ポリエチレンの延伸フィラメントについてのやはり拘束条件下での吸熱曲線であり、第4図は第2図の超高分子量ポリエチレンにシラン架橋を行った未延伸フィラメントについての拘束条件下での吸熱曲線である。尚、原料や処理条件の詳細については後述する例を参照されたい。
これらの結果から、超高分子量ポリエチレンの単なる延伸物やシラン架橋物では、未処理の超高分子量ポリエチレンと殆んど同じ約135℃に結晶融解に伴なう吸熱ピークを示し、またシラン架橋物ではピーク面積(融解熱量)が未処理のものピーク面積に比して減少しているのに対して、本発明に用いる延伸架橋戦域では、未処理の超高分子量ポリエチレンの融解ピーク温度の位置には小さいピークが残留するが、大きいピークはむしろかなり高温側に移行していることがわかる。
第5図は、第1図の試料をセカンド・ラン(第1図の測定を行った後、2回目の昇温測定)に賦したときの吸熱曲線を示す。第5図の結果から再昇温の場合には結晶融解の主ピークは未処理の超高分子量ポリエチレンの融解ピーク温度と殆んど同じ温度に表われ、第5図の測定時には試料中の分子配向は殆んど消失していることから、第1図の試料における吸熱ピークの高温側への移行は、繊維中での分子配向と密接に関連していることを示している。
本発明に用いる配向架橋繊維において、結晶融解温度が高温側に移行する理由は、未だ十分には解明されるに至っていないが、本発明者等はこの理由を次のように推定している。即ち、シラングラフト超高分子量ポリエチレンを延伸操作に賦すると、シラングラフト部分が選択的に非晶部となり、この非晶部を介して配向結晶部が生成する。次いで、この延伸繊維をシラノール縮合触媒の存在下に架橋させると、非晶部に選択的に架橋構造が形成され、配向結晶部の両端がシラン架橋で固定された構造となる。通常の延伸繊維では、配向結晶部両端の非晶部分から結晶融解が進行するのに対して、本発明に用いる延伸架橋繊維では、配向結晶部両端の非晶部が選択的に架橋され、重合体鎖が動きにくくなっているため、配向結晶部の融解温度が向上するものと認められる。
本発明に用いる超高分子量ポリエチレンの分子配向シラン架橋繊維では、該ポリエチレンの本来の融点よりも高い温度においても、その繊維形態は勿論のこと、配向結晶形態が維持されることから、この繊維を拘束条件下に、溶融状態にある熱可塑性樹脂に積層乃至埋設させることにより、引張り強度、曲げ強度、弾性率、耐衝撃性等の機械的性質に優れた繊維強化樹脂成形体を得ることができる。
(好適態様の説明)
繊維強化樹脂成形体本発明の繊維強化樹脂成形体の一例を示す第6図において、この成形体1は融点又は軟化点が220℃以下の熱可塑性樹脂のマトリックス2と該マトリックス2中に埋設され或いは該マトリックス2と積層された分子配向及びシラン架橋超高分子量ポリエチレン繊維の補強層3とから成っている。この繊維補強層3は一層又は二層以上の多層で設けられていてもよい。第6図に示す具体例では、繊維落補強層3は熱可塑性樹脂のマトリックス中に完全に埋設されていて、成形体の両表面4a,4bは実質上熱可塑性樹脂のみから成っているが、第7図の具体例に示す通り、繊維補強層3は樹脂マトリックスと一体に積層された形で、表面4a,4bの一方又は両方に或いはその近傍に存在していてもよい。
本発明の繊維強化樹脂形成体では、繊維補強層3を構成するシラン架橋超高分子量ポリエチレン繊維がその配向結晶構造を実質上保存している。この補強層3は、成形体1の全面にわたって埋設乃至積層され、且つ成形体1の少なくとも一軸方向に指向している分子配向及びシラン架橋超高分子量ポリエチレンのフィラメントテープ、或いはこのフィラメントから成る不織布、織成物又は編成物から成っている。
繊維補強層と熱可塑性樹脂マトリックスとの割合いは、用途や厚み等によってもかなり変化するが、一般的に言って、繊維補強層が全体の20乃至80容積%、特に40乃至70容積%を占めるような割合いが存在するのが望ましい。
繊維補強層の容積比が上記範囲よりも少ない場合には、繊維補強による引張り強度、曲げ強度、弾性率、耐衝撃性、耐クリープ性等の改善が十分でなく、また容積比が上記範囲を越えて多くなると、一体化した繊維強化樹脂成形品への成形が困難となる傾向がある。
補強層本発明に用いる分子配向及びシラン架橋超高分子量ポリエチレン繊維は、極限粘度〔η〕が5dl/g以上の超高分子量ポリエチレン、シラン化合物、ラジカル開始剤及び稀釈剤を含む組成物を熱成形し、シラン化合物がグラフトされた超高分子量ポリエチレンの成形物を延伸し、延伸中又は延伸後に該成形物の延伸成形体中にシラノール縮合触媒を含浸させ、次いで該延伸成形体を水分と接触させて架橋することにより製造される。
超高分子量ポリエチレン(A)とは、デカリン溶媒135℃における極限粘度〔η〕が5dl/g以上、好ましくは7ないし30dl/gの範囲のものである。
かかる超高分子量ポリエチレンとは、エチレンあるいはエチレンと少量の他のα−オレフィン、例えばプロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキサセン等とを所謂チーグラー重合より、重合することにより得られるポリエチレンの中で、遥かに分子量が高い範■のものである。
一方、グラフト処理に使用するシラン化合物としては、グラフト処理と架橋処理とが可能なシラン化合物であれば任意のものでもよく、このようなシラン化合物は、ラジカル重合可能な有機基と加水分解可能な有機基との両方を有するものであり、下記一般式RnSiY4-n …(1)
式中、Rはラジカル重合可能なエチレン系不飽和を含む有機基であり、Yは加水分解可能な有機基であり、nは1又は2の数であるで表わされる。
ラジカル重合性有機基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、シクロヘキセニル基等のエチレン系不飽和炭化水素基や、アクリルオキシアルキル基、メタクリルオキシアルキル基等のエチレン系不飽和カルボン酸エステル単位を含有するアルキル基等を挙げることができるが、ビニル基が好適である。加水分解可能な有機基としては、アルコキシ基やアシルオキシ基等が挙げられる。
シラン化合物の適当な例は、これに限定されないが、ビニルトルエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン等である。
先ず、上記超高分子量ポリエチレン、シラン化合物、ラジカル開始剤及び稀釈剤を含む組成物を溶融押出等により熱成形することによりシラングラフトと成形とを行う。即ち、ラジカルよりシラン化合物の超高分子量ポリエチレンへのグラフトが生じる。
ラジカル開始剤としては、この種のグラフト処理に使用されているラジカル開始剤は全て使用でき、例えば有機ペルオキシド、有機ペルエステル、チロニトリル、ジメチルアゾイソブチレートがある。超高分子量ポリエチレンの溶融混練条件下でグラフトを有効に行うためには、ラジカル開始剤の半減期温度が100乃至200℃の範囲にあることが望ましい。
シラングラフト超高分子量ポリエチレンの溶融成形を可能にするために、上記成分と共に稀釈剤を配合する。このような希釈剤としては、超高分子量ポリエチレンに対する溶剤や、超高分子量ポリエチレンに対して相溶性を有する各種ワックス状物が使用される。
前記超高分子量ポリエチレン100重量部当りシラン化合物は0.1乃至10重量部、特に0.2乃至5.0重量部、ラジカル開始剤は触媒量、一般に0.01乃至3.0重量部、特に0.05乃至0.5重量部及び稀釈剤は9900乃至33重量部、特に1900乃至100重量部の量で使用するのがよい。
溶融混練は一般に150乃至300℃、特に170乃至270℃の温度で行なうのが望ましく、配合はヘンシェルミキサー、V型ブレンダー等による乾式ブレンドで行ってもよいし、或いは単軸或いは多軸押出機を用いる溶融混合で行ってもよい。
溶融混合物を棒糸口金を通して押出し、フィラメントの形に成形する。この場合、棒糸口金より押出された溶融物にドラフト、即ち溶融状態での引き伸しを加えることもできる。溶融樹脂のダイ・オリフィス内での押出速度V0と冷却固化した未延伸物の巻き取り速度Vとの比をドラフト比として次式で定義することができる。
ドラフト比=V/V0 …(2)
かかるドラフト比は混合物の温度及び超高分子量ポリエチレンの分子量等によるが通常3以上、好ましくは6以上とすることができる。
得られる未延伸フィラメントを延伸処理する。シラングラフトポリエチレンフィラメントの延伸は、一般に40乃至160℃、特に80乃至145℃の温度で行うのが望ましい。未延伸フィラメントを上記温度に加熱保持するための熱媒体としては、空気、水蒸気、液体媒体の何れをも用いることができる。しかしながら、熱媒体として、前述した稀釈剤を溶出除去することができる溶媒でしかもその沸点が成形体組成物の融点よりも高いもの、具体的にはデカリン、デカン、灯油等を使用して、延伸操作を行なうと、前述した稀釈剤の除去が可能となると共に、延伸時の延伸むらの解消並びに高延伸倍率の達成が可能となる。
延伸操作は、一段或いは二段以上の多段で行うことができる。延伸倍率は、所望とする分子配向効果にも依存するが、一般に5乃至80倍、特に10乃至50倍の延伸倍率となるように延伸操作を行えば満足すべき結果が得られる。
上記延伸中或いは延伸後の成形物中にシラノール縮合触媒を含浸させ、次いで延伸成形体を水分と接触させて架橋を行わせる。
シラノール縮合触媒としては、それ自体公知のもの、例えばジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクトエート等のジアルキル錫ジカルボキシレート;チタン酸テトラブチルエステル等の有機チタネート;ナフテン酸鉛等を用いることができる。これらのシラノール縮合触媒は、液体媒体中に溶解させた状態で、未延伸成形体或いは延伸成形体と接触させることにより、これらの成形体中に有効に含浸させることができる。例えば、延伸処理を液体媒体中で行う場合には、この延伸液体媒体中にシラノール縮合触媒を溶解しておくことにより、延伸操作と同時に、シラノール縮合触媒の成形体への含浸処理を行うことができる。
成形体中で含浸されるシラノール縮合触媒の量は、所謂触媒量でよく、直接その量を規定することは困難であるが、一般には、未延伸或いは延伸剤の成形体と接触する液体媒体中に、10乃至100重量%、特に25乃至75重量%の量でシラノール縮合触媒を添加し、この液体媒体とフィラメントとを接触させることにより、満足すべき結果が得られる。
延伸成形体の架橋処理は、シラノール縮合触媒を含浸させたシラングラフト超高分子量ポリエチレンの延伸成形体を水分と接触させることにより行われる。架橋処理条件としては50乃至130℃の温度で、3乃至24時間、延伸成形体と水分との接触を行わせるのが有利である。この目的のために、水分は熱水或いは熱水蒸気の形で延伸成形体に作用させるのがよい。この架橋処理時に、延伸成形体を拘束条件下におき、配向緩和を防止するようにすることもでき、或いは逆に非拘束条件下において、或る程度の配向の緩和が生じるようにしてもよい。
尚、延伸成形体を架橋処理した後、更に延伸処理(通常3倍以下)を行うと、引張強度の機械的強度が更に改善される。
本発明で用いる分子配向及びシラン架橋超高分子量ポリエチレン繊維は、拘束条件下において、超高分子量ポリエチレン本体の結晶融解温度(Tm)に比してはるかに高い温度にも結晶融解ピーク(Tp)を示すという驚くべき特徴を有している。
超高分子量ポリエチレン本来の結晶融解温度(Tm)は、この繊維を一度完全に融解した後冷却して、成形体における分子配向を緩和させた後、再度昇温させる方法、所謂示差操作型熱量計におけるセカンド・ランで求めることができる。
前に説明した第1図から明らかな通り、本発明で用いるフィラメントは、超高分子量ポリエチレン本来の結晶融解温度(Tm)よりも少なくとも10℃高い温度に、少なくとも2個の結晶融解ピーク(Tp)を有し、しかも全融解熱量当りのこの結晶融解ピーク(Tp)に基づく融解熱量が40%以上、特に60%以上であるという特徴を有する。
一般に、本発明で用いる繊維における結晶融解ピーク(Tp)は、温度範囲Tm+35℃〜Tm+120℃における高温側融解ピーク(Tp1)と、温度範囲Tm+10℃〜Tm+35℃における低温側ピーク(Tp2)との2つに表われることが多く、Tmの融解ピークそのものは著しく小さい。
尚、高温側融解部(Tp1)は成形体のシラングラフト量が少ない場合には融解曲線に明確な極大点(ピーク)が現われず、ブロードな極大点(ピーク)あるいは低温側融解部(Tp2)の高温側にTm+35℃〜Tm+120℃に亘ってショルダーもしくははすそ(テール)として現われることが多い。
又、Tmの溶解ピークが極端に小さい時は、Tp1の融解ピークショルダーに隠れ確認できない場合もある。仮にTmの融解ピークがなくても超高分子量ポリエチレンフィラメントの機能にはなんら差し障りはない。Tm+35℃〜Tm+120℃における高温側融解ピーク(Tp1)と温度範囲Tm+10℃〜Tm+35℃における低温側融解ピーク(Tp2)はそれぞれ試料の調製条件や、融点の測定条件によりさらに2つ以上の融解ピークに分かれる場合もある。
これらの高い結晶融解ピーク(Tp1,Tp2)は、超高分子量ポリエチレンフィラメントの耐熱性を顕著に向上させるように作用するものであるが、高温の熱履歴後での強度保持率向上に寄与するのは、高温側融解ピーク(Tp1)であると思われる。
従って、温度範囲Tm+35℃〜Tm+120℃の高温側融解ピーク(Tp1)に基ずく融解熱量の総和は、全融解熱量当り5%以上、特に10%以上であることが望ましい。
又、高温側融解ピーク(Tp1)に基ずく融解熱量の総和が上述の値を満している限りにおいては、高温側融解ピーク(Tp1)が主たるピークとして突出して現われない場合、つまり小ピークの集合体もしくはブロードなピークになったとしても、耐熱性は若干失なわれる場合もあるが、耐クリープ特性については優れている。
成形体における分子配向の程度は、X線回析法、複屈折法、螢光偏光法等で知ることができる。本発明に用いる延伸シラン架橋フィラメントの場合、例えば呉祐吉、久保喜一郎:工業化学雑誌第39巻、992頁(1939)に詳しく述べられている半価巾による配向度、即ち式

式中、H゜は赤道線上最強のパラトロープ面のデバイ環に沿って強度分布曲線の半価幅(゜)である。
で定義される配合度(F)が0.90以上、特に0.95以上となるように分子配向されていることが、耐熱性や機械的性質の点で望ましい。
また、シランのグラフト量は、延伸架橋成形体を135℃の温度でp−キシレン中で4時間抽出処理を行って、未反応のシランや含有される稀釈剤を抽出除去し、重量法或いは原子吸光法でSiの定量を行うことにより求めることができる。本発明に用いる繊維のシラングラフト量は、超高分子量ポリエチレン当りのSi重量%として表わして、0.01乃至5重量%、特に0.035乃至3.5重量%の範囲にあることが、耐熱性の点で望ましい。即ち、グラフト量が上記範囲よりも少ない場合には架橋密度が本発明の場合に比して小さく、一方上記範囲よりも多い場合には結晶性が低下して、何れも耐熱性が不十分となる。
本発明に用いる分子配向−シラン架橋繊維では、繊維を構成する少なくとも一部の重合体鎖の結晶融解温度が前述したように著しく高温側に移行していることから、極めて耐熱性に優れており、160℃での10分間の熱履歴を与えた後での強度保持率が80%以上、好ましくは180℃で10分間の熱履歴を与えた後での強度保持率が60%以上、特に80%以上、さらには200℃で5分間の熱履歴を与えた後での強度保持率が80%以上であるという、従来の超高分子量ポリエチレンからは全く予想だにできない驚くべき耐熱性を示す。
また本発明に用いるフィラメントは耐熱クリープ特性、例えば荷重;30%破断荷重、温度;70℃の条件下で未架橋フィラメントが1分間放置後50%以上の伸びを示すに対して該フィラメントは30%以下、更には20%以下と極めて優れている。
また、本発明に用いるフィラメントは更に荷重:50%破断荷重、温度:70℃の条件下で未架橋物が1分間を待たずして伸長破断するのに対して、1分間放置後の伸びは20%以下を示す。
また、この成形体は、グラフトされ且つ架橋されたシラン類を含むことから、接着性、特に種々の樹脂類との接着性にも優れており、この事実は後述する例を参照することにより容易に了解されよう。
更に、このフィラメントは超高分子量ポリエチレンから成り、しかも有効に分子配向が付与されていることから、機械的特性にも優れており、例えば延伸フィラメントの形状で20GPa以上の弾性率と1.2GPa以上の引張強度を示す。
分子配向シラン架橋フィラメントの単繊維の繊度は、特に制限はないが、強度の点で一般に0.5乃至20デニール、特に1乃至10デニールの範囲にあることが望ましい。
このフィラメントは、一般にマルチフィラメント、マルチフィラメント合撚糸、これから成る不織布、織布或いは編布の形で熱可塑性樹脂に対する繊維補強層として使用される。
重合体マトリックス本発明に用いるマトリックス用熱可塑性重合体は、融点又は軟化点が220℃以下のものでなければならない。融点又は軟化点が220℃を越えると、繊維強化樹脂成形体中に組込まれた分子配向及びシラン架橋超高分子量ポリエチレン繊維がその配向結晶構造を実質的に失うようになる。用いるマトリックス用熱可塑性重合体は、好ましくは100乃至200℃、特に150乃至180℃の融点乃至軟化点を有するものが望ましい。
このようなマトリックス重合体の好適なものとして、低−、中−又は高−密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、結晶性プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体等の結晶性のオレフィンの単独重合体又は共重合体や;エチレン・プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−非共ジエン共重合体ゴム、エチレン等のα−オレフィンと、ブタジエン等の共役ジエン或いはエチリデンノルボルネン或いはジシクロペンタジエン等の非共役ジエン等との共重合体等のオレフィン系エラストマー;更には、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−塩化ビニル共重合体、イオン架橋オレフィン共重合体等のオレフィンとそれ以外のエチレン系不飽和単量体との共重合体等を挙げることができる。これらのオレフィン系マトリックス重合体は繊維補強層との熱接着性に特に優れている。
繊維強化樹脂成形体の製造には、用いる重合体のメルトフローレートCASTMD−1238、が1g/10min以上のもの、特に5g/10min以上のものが望ましい。
勿論使用し得る熱可塑性重合体は、上に例示したものに限定されず、融点又は軟化点が前記範囲内にあるものであれば、他の重合体であってもよく、例えばポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、ABS樹脂等のスチレン系樹脂や;軟質塩化ビニル樹脂塩化ビニリデン−アクリル共重合体、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン、塩素化ビニル樹脂等の塩素含有重合体;ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−アクリル酸エチル共重合体等のアクリル系重合体;ナイロン−11、ナイロン−12、ナイロン6/ナイロン66共重合体等の低融点ポリアミド類;エチレン・テレフタレート/イソフタレート共重合体ポリエステル、エチレン/ブチレン・テレフタレート共重合ポリエステルの如き低融点乃至低軟化点ポリエステル等を用いることもできる。
本発明に用いる熱可塑性重合体マトリックスには、それ自体公知の配合剤、後えば滑剤乃至離型剤、酸化防止剤、軟化剤乃至可塑剤、充填剤、着色剤、発泡剤、架橋剤等の1種又は2種以上の公知の処方に従って配合することができる。
製法本発明の成形体は、前述した種々の形態の繊維補強層を、面方向に配置し且つ例えば少なくともその端部を拘束した状態において、前述した熱可塑性樹脂の溶融物と合体させることにより製造される。
繊維補強層と熱可塑性樹脂の溶融物との合体は種々の方法で行われる。例えば、予じめ形成された熱可塑性樹脂のフィルム乃至シートと、繊維補強層とを重ね合せ、熱可塑性樹脂が溶融するのが、補強層中の超高分子量ポリエチレン繊維の廃坑結晶構造が実質上保持される温度で、この重ね合せたものを圧着させる。この圧着操作はホットプレスのようにバッチ操作乃至半連続操作で行ってもよいし、また熱ロールプレスのように連続的に行ってもよい。この圧着操作の際、繊維補強層はその端部が拘束されていることが重要であり、これは例えば、プレス用基板に繊維を予じめ巻き付けて端部を拘束するか、或いは繊維補強層に、圧着操作の際、適当なテンションを加えておくことにより達成される。繊維が機械長手方向とこれに直角方向とに配列している場合には、これら両方向に繊維の自由収縮を許容しないようにテンションをかけておけばよい。
また、別法として、熱可塑性樹脂の溶融状態での押出物と、繊維補強層とを重ね合わせ、両者を圧着して合体させることもできる。例えば、2層の繊維補強層の間に熱可塑性樹脂を押出して、これらを合体させてもよいし、また単層の繊維補強層の両側に熱可塑性樹脂を押出してこれらを一体化してもよい。勿論、複数層の繊維補強層と複数層の熱可塑性樹脂押出物とを交互に重ね合せ、圧着一体化を行うこともできる。
本発明による繊維強化樹脂成形体は、二次元状の形状のものに限定されない。例えば、繊維補強層を、フィラメント或いはこのフイラメントの不織布、織成物又は編成物の形で環状に配置し、サーキュラーダイを通して熱可塑性樹脂を環状に押出し、前記ダイ内又はダイ外で両者を一体化すれば管状の繊維強化樹脂成形体が得られる。また、電線や光ケーブルを芯として、上記成形法を適用すると、繊維強化成形体のシースを形成させることができる。
(発明の効果)
本発明によれば、分子配向及びシラン架橋超高分子量ポリエチレン繊維を、拘束条件下において、熱可塑性重合体の溶融物と一体化させることにより、前記重合体のマトリックス中に前記繊維の配合結晶構造を実質上保有した状態で繊維補強層として存在させることができる。
それ故、この成形体には前記繊維の優れた引張特性が付与され、更にこの繊維はシラン変性されていることにより、ポリエチレンのみならず、他の重合体との接着性にも優れており、かくして高弾性率、高強度の成形体が得られる。
また、ポリオレフィンマトリックスを用いた場合には、電気絶縁性に優れており、エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂を使用したマトリックスに比して、誘導損失も少なく、電気的特性に優れている。
(実施例)
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明のその要旨を越えない限りそれらの実施例に制約されるものではない。
実式例1<シラン架橋延伸超高分子量ポリエチレン繊維の調製>グラフト化および紡糸超高分子量ポリエチレン(極限粘度〔η〕=8.20dl/gの)の粉末:100重量部に対してビニルトリメトキシシラン(信越化学製):10重量部及び2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン(日本油脂製:商品名、パーヘキサ25B):0.1重量部を均一に配合した後、超高分子量ポリエチレン100重量部に対してパラフィンワックスの粉末(日本精蝋製、商品名、ルバックス1266、融点=69℃):370重量部添加混合し混合物を得た。次いで該混合物をスクリュー式押出機(スクリュー径=20mmφ、L/D=25)を用いて、設定温度200℃で溶融混練を行ない、引き続き、該溶融物をオリフィス径2mmのダイより紡糸し、シラングラフト完了した。紡糸繊維は180cmのエアーギャップで室温の空気にて冷却固化し、未延伸超高分子量ポリエチレンシラングラフト繊維とした。この未延伸糸は800デニールであり、紡糸時のドラフト比率は36.4.であった。また、この際の巻き取り速度は90m/minであった。
シラングラフト量の定量上記方法にて調製された未延伸グラフト繊維約8gを135℃に加熱保持したp−キシレン200ccに溶解した。次いで常温にて過剰のヘキサン中に超高分子量ポリエチレンを析出させ、パラフィンワックスと未反応シラン化合物を除去した。この後、重量法にてSi重量%で求めたグラフト量は0.57重量%であった。
延伸前記の方法で超高分子量ポリエチレン混合物から紡糸されたグラフト化未延伸繊維を次の条件で延伸し配向延伸繊維を得た。三台のゴデットロールを用いてn−デカンを熱媒とした延伸槽にて二段延伸を行った。このとき第一延伸槽内温度は110℃、第2延伸槽内温度は120℃であり槽の有効長はそれぞれ50cmであった。延伸に際しては第1ゴデットロールの回転速度を0.5m/minとして第3ゴデットロールの回転数を変更することにより、所望の延伸比の繊維を得た。又、第2ゴデットロールの回転速度は、安定延伸可能な範囲で適宜選択した。但し、延伸比は第1ゴデットロールと第3ゴデットロールとの回転比より計算して求めた。
得られた繊維を減圧下、室温にて乾燥し延伸超高分子量ポリエチレンシラングラフト繊維とした。
架橋触媒の含浸前記方法で調製されたシラン化合物グラフト超高分子量ポリエチレンの配向繊維をさらに架橋する場合には延伸第2延伸槽に熱媒としてn−デカンおよびn−デカンと等量のジブチル錫ジラウレートの混合物を用い、パラフィンワックスを抽出すると同時に、ジブチル錫ジラウレートを繊維中に含浸した。得られた繊維は、減圧下室温にてデカン臭のなくなるまで乾燥した。
架橋この後繊維は沸水中で12時間放置して架橋を完了させた。
ゲル分率を測定上記方法にて得られたシラン架橋延伸超高分子量ポリエチレン繊維約0.4gをパラキシレン200mlの入っているコンデンサーを装置した三角フラスコに投入し、4時間沸騰状態にて撹拌した。次いで不溶物をステンレス製300meshの金網でロ過した。80℃の減圧下で乾燥後、秤量し不溶物の重量を求めた。ゲル分率は以下の式で求めた。


上記の調製試料のゲル分率は51.4%であった。
引張弾性率・引張強度および破断点伸度はインストロン万能試験機1123型(インストロン社製)を用いて室温(23℃)にて測定した。クランプ間の試料長は100mmで引張速度100mm/minとした。但し、引張弾性率は初期弾性率である。計算に必要な繊維断面積はポリエチレンの密度を0.96g/cm3として繊維の重量と長さを測定して求めた。
この様にして得られたシラン架橋延伸超高分子量ポリエチレン繊維の物性を表1に示す。


又、二回目昇温時の主融解ピークとして求められる超高分子量ポリエチレン本来の結晶融解温度(Tm)は132.2℃であり、Tpに基づく融解熱量の全結晶融解熱量に対する割合、およびTp1に基づく融解熱量の全結晶の融解熱量に対する割合はそれぞれ73%と22%であった。この時Tp2の主たるものは151.0℃であり、Tp1の主たるものは226.5℃であった。
クリープ特性の評価クリープテストは、熱応力歪測定装置TMA/SS10(セイコー電子工業株式会社製)を用いて試料長1cm、雰囲気温度70℃で行なった。破断荷重の30%荷重での結果を第8図R>図に示す。本実施例で調製したシラン架橋延伸超高分子量ポリエチレン繊維(試料−1)は、後述の比較例1で調製した延伸超高分子量ポリエチレン繊維(試料−2)と比較していづれの場合も著しくクリープ特性が改良されていることが分る。
また、雰囲気温度70℃において、室温での破断荷重の50%に相当する荷重で行なったクリープ試験で、荷重直後から1分、2分および3分後の伸びを表2に示した。


熱履歴後の強度保持率熱履歴試験は、ギヤーオープン(パーフェクトオープン:田葉井製作所製)内に配置することによって行なった。試料は、約3mの長さでステンレス枠の両端に複数個の滑車を装置したものに折り返しかけて試料両端を固定した。この際試料両端は試料がたるまない程度に固定し、積極的に試料には張力をかけなかった。結果を表3に示す。


表3から本実施例に用いたシラン架橋延伸超高分子量ポリエチレン繊維は脅くべき耐熱強度保持特性を有していることが分る。
X線回析による配向度の測定繊維はフィリップス型ホルダーに10ないし20回巻きつけて、片側を切り離し、束状にして測定に供した。配向度は赤道線上に現われるポリエチレン結晶の(110)面反射をディフラクトメーターで計測し反射強度分布を求めた。計算は前述の呉らの方法に従った。この様にして求めた配向度は0.955であった。
<繊維強化樹脂成形体の成形>マトリックス用樹脂として高密度ポリエチレン粉末(極限粘度〔η〕=2.3dl/g,融点127℃)を用い、また前述の方法で調製したシラン架橋延伸超高分子量ポリエチレン繊維を強化繊維として用い、以下の方法で繊維強化樹脂成形体を得た。150×150mmの正方形空間があり外周の幅が15mmである厚さ1mmのステンレス金枠に前述のシラン架橋延伸超高分子量ポリエチレン繊維を互い違いに直交する方向に表裏計8層になる様に巻きつけた。このとき各層で、各隣接繊維が互に密着はするが、しかし重なり合ぬ様に務めた。この後、積層に必要としたシラン架橋延伸超高分子量ポリエチレン繊維と同重量の上述高密度ポリエチレン粉末を金枠空間部積層面に均一に載せて、該金枠を二枚のステンレスプレートにはさみ、次いで加熱プレスにて、170℃、6分間加熱、各圧した。このとき加圧力は50kg/cm2になる様に調整した。この後水冷プレスにて冷却し、成形を終了した。次いで金枠中央空間部の周囲を切り離し物性測定用の試料を得た。
得られた試料の厚みは1.5mmでシラン架橋延伸超高分子量繊維含有量は50容積%であった。該試料の曲げ弾性率、曲げ強度の測定はインストロン万能試験機1123型(インストロン社製)を用いて室温(23℃)でJIS K6911(ASTM D790)に基づいて行った。このとき試験片試料は、50mm×25mmの曲げ試験用矩形ダンベルで前述の試料を繊維に直交する用に打ち抜き調製した。得られた試料の曲げ強度、および曲げ弾性率を表4に示す。


引張降伏強度、引張弾性率はJIS K6760(ASTM D638−68に基づいて測定した。但し、この時の試験片はJIS 2号ダンベルで前述の試料を繊維に直交した向で打ち抜くことにより調製した。結果を表5に示す。


後述する比較例2と比較してポリエチレン繊維の常識を越える高温成形を行った後も、十分に強化繊維としての効果を発揮していることが分る。
実施例2<繊維強化樹脂成形体の成形>マトリックス用樹脂としてポリプロピレン粉末(極限粘度〔μ〕=2.0dl/g,融点=160℃)を用い、また強化繊維として実施例1に記載した方法で調製するシラン架橋延伸高分子量ポリエチレン繊維を用い、以下の条件で繊維強化樹脂成形体を成形する。150mm×150mmの正方形空間があり外周の幅が15mmある厚さ1mmのステンレス金枠に上述のシラン架橋延伸超高分子量ポリエチレン繊維を直交方向に互い違いに表裏計8層になる様に巻きつける。このとき各層で各隣接繊維が互に密着し又、重り合ぬ様に務める。この後、積層に必要としたシラン架橋延伸超高分子量ポリエチエン繊維と同重量の上述のポリプロピレン粉末を金枠空間部積層面に載せて、該金枠を二枚のステンレスプレートではさみ加熱プレスにて180℃、6分間加圧、加熱する。このときの加圧力は、25kg/cm2である。次いで水冷却プレスにて冷却し成形を完了する。得られる繊維強化樹脂成形体の厚みは1.5mmであり、このシラン架橋延伸高分子量ポリエチレン繊維の今有量は47容量%である。実施例1記載の方法で測定する該繊維強化樹脂成形体の曲げ弾性率、曲げ強度を表6に示す。


さらに、実施例1記載の方法で測定する引張降伏強度、引張弾性率を表7に示す。


比較例1.超高分子量ポリエチレン延伸繊維の調製超高分子量ポリエチレン(極限粘度〔η〕=8.20)の粉末:100重量部と実施例1に記載のパラフィンワックスの粉末:320重量部とを実施例1に記載の方法で紡糸した。このときドラフト比は25倍で未延伸糸繊度は1000デニールであった。次いで同様に延伸し延伸繊維を得た。得られた繊維の物性を表8に示す。


本繊維(試料−2)の融解特性曲線を第3図に示した。二回目昇温時の主融解ピークとして求められる本来の結晶融解温度Tmは132.2℃でTpに基づく融解熱量の全結晶融解熱量に対する割り合いおよびTp1に基づく融解熱量の全結晶融解熱量に対する割合いは、それぞれ32.1%、と1.7%であった。
クリープ特性は、実施例1の<クリープ特性の評価>の項に記載された方法で測定した。結果を第8図に示した。
また、実施例1に記載の方法と同様に行なったクリープ特性の測定(雰囲気温度=70℃、荷重=室温での破断荷重の50%の荷重)では、荷重直後に試料が破断した。接着力は、実施例1の<接着性の評価>の項に記載された方法で測定した。結果は実施例1と合せて第9図に示した。
熱履歴後の強度保持率の測定は、実施例1の<熱履歴後の強度保持率>の項に記載した方法で行なったがオーブン温度180℃で放置時間10分を待たずして完全に融解した。
<繊維強化樹脂成形体の成形>マトリックス用樹脂として実施例1に記載された高密度ポリエチレン粉末を用い、実施例1に記載された方法により、加熱プレスにて、170℃、6分間加熱、加圧することにより前述の超高分子量ポリエチレン繊維積層物を上述の高密度ポリエチレン中に包埋し、繊維強化樹脂成形体の成形を試みた。冷却後、成形体内部の繊維層を目視で観察したところ、繊維は溶融し、島となって分散していた。またこの成形体の物性は後述の比較例2の試料−Cと同じであった。
比較例2.マトリックス用樹脂として実施例1に記載された高密度ポリエチレン粉末を用い、加熱プレス成形機にて170℃6分間加熱、加圧し、このあと冷却プレス成形機で再び加圧、冷却することにより、高密度ポリエチレンプレス成形物を得た。実施例1に記載された方法で測定した曲げ強度、曲げ弾性率を表9に示す。


又、実施例1に記載された方法で測定された引張降伏強度、引張弾性率を表10に示す。


比較例3.マトリックス用樹脂として実施例2に記載されたポリプロピレン粉末を用い、プレス成形機にて180℃、6分間加圧、加熱し、この後、冷却プレス成形機で再び、加圧、冷却することによりポリプロピレンプレス成形物を得た。実施例1に記載された方法で測定した曲げ強度、曲げ弾性率を表11に示す。


又、実施例1記載の方法で測定された引張降伏点強度、引張弾性率を表12に示す。


実施例3.<繊維強化樹脂成形体の成形>マトリックス用樹脂としてナイロン12粉末(相対粘度=2.45、融点=176℃)を用い、また実施例1に記載の方法で調製したシラン架橋延伸超高分子量ポリエチレン繊維を強化繊維として用いて、以下の方法で繊維強化樹脂成形体を得る。150mm×150mmの正方形空間があり外周の幅が15mmである厚さ1mmの正方形ステンレス金枠に上述のシラン架橋延伸超高分子量ポリエチレン繊維を直交方向に互い違いに表裏計8層になる様に巻きつける。このとき各層で各隣接繊維が互に密着しかつ、重なり合ぬ様に務める。この後、積層に必要としたシラン架橋延伸超高分子量ポリエチレン繊維と同重量の上述ナイロン12粉末を金枠積層面に載せて、該金枠を二枚のステンレスプロートではさみ、加熱プレス成形機にて195℃、6分間加圧、加熱する。このときの加圧力は50kg/cm2である。これに先立ってナイロン12粉末は105℃で12時間、窒素雰囲気下で乾燥する。次いで水冷プレス成形機にて加圧、冷却し成形を完了する。得られる繊維強化樹脂成形体の厚みは1.5mmであり、そのシラン架橋延伸超高分子量ポリエチレン繊維の含有量は52容積%である。実施例1に記載の方法で測定する外線強化樹脂成形体の曲げ弾性率、曲げ強度を表13に示す。


さらに実施例1に記載した方法で測定する引張降伏強度、引張弾性率を表14に示す。


比較例4.マトリックス用樹脂として実施例3に記載されたナイロン12粉末を用い、加熱プレス成形機に195℃6分間加熱加圧し、このあと冷却プレス成形機で再び加圧、冷却することよりナイロン12プレス成形物を得た。実施例1に記載された方法で測定した曲げ強度、曲げ弾性率を表15に示す。


又、実施例1に記載された方法で測定された引張降伏強度、引張弾性率を表16に示す。


【図面の簡単な説明】
第1図には実施例1の方法にて調製したシラン架橋延伸超高分子量ポリエチレン繊維の拘束条件下に測定した示差走査熱量計における第一回目昇温時の吸熱曲線を示した。
第2図は実施例1で用いた超高分子量ポリエチレン粉末を200℃で厚さ100μのプレスシートに成形したものの第一回目昇温時の吸熱曲線を示した。
第3図には比較例1で調製した未グラフト延伸超高分子量ポリエチレン繊維の第一回目昇温時の吸熱曲線を示した。
第4図には実施例1でシラングラフトされた未延伸糸のパラフィンワックスを常温でヘキサンにより抽出し、次いでジブチル錫ジラウレートを含浸させ、さらに実施例1の方法で架橋した試料の第一回目昇温時の吸熱曲線を示した。さらに第5図には第1図のシラン架橋延伸超高分子量ポリエステル繊維の第2回目昇温時(セカンドラン)の吸熱曲線を示した。
第6図、および第7図は、成形された繊維強化樹脂成形体の概略図(実施例での積層数とは異なるが)を示した。
また第8図は、実施例1及び比較例1で調製された延伸配向超高分子量ポリエチレン繊維についてのクリープ性を示す線図であり、室温で測定した破断荷重の30%の荷重で、70℃の雰囲気下で測定した結果である。
第9図は実施例1にて調製した、シラン架橋延伸超高分子量ポリエチレン繊維と比較例1にて調製した配向超高分子量ポリエチレン繊維とについての接着性試験において埋込み長さと引き抜き力との関係を示す線図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】融点又は軟化点が220℃以下の熱可塑性重合体のマトリックスと、該マトリックスに積層乃至埋設された分子配向及びシラン架橋超高分子量ポリエチレン繊維の補強層の少なくとも1層とから成り、該補強層が超高分子量ポリエチレン繊維の配向結晶構造を実質上保有していることを特徴とする繊維強化樹脂成形体。
【請求項2】前記分子配向及びシラン架橋超高分子量ポリエチレン繊維が、拘束状態で示差走査熱量計で測定したとき、二回目昇温時の主融解ピークとして求められる超高分子量ポリエチレン本来の結晶融解温度(Tm)よりも少なくとも10℃高い温度に少なくとも2個の結晶融解ピーク(Tp)を有すると共に、全融解熱量当りのこの結晶融解ピーク(Tp)に基づく融解熱量が40%以上及び温度範囲Tm+35℃〜Tm+120℃における高温側融解ピーク(Tp1)に基づく融解熱量の総和が全融解熱量当り5%以上であるという特性を有するものである特許請求の範囲第1項記載の繊維強化樹脂成形体。
【請求項3】熱可塑性重合体がオレフィン系重合体である特許請求の範囲第1項記載の繊維強化樹脂成形体。
【請求項4】前記補強層は、成形体の全面にわたって積層乃至埋設され、且つ成形体の少なくとも一軸方向に指向している分子配向及びシラン架橋超高分子量ポリエチレンのフィラメント、或いはこのフィラメントから成る不織布、織布又は編布から成る特許請求の範囲第1項記載の成形体。
【請求項5】分子配向及びシラン架橋超高分子量ポリエチレンのフィラメント、或いはこのフィラメントから成る不織布、織布又は編布を面方向に配置し且つその端部を拘束した状態で、融点又は軟化点が220℃以下の熱可塑性樹脂の溶融物と合体させることを特徴とする繊維強化樹脂成形体の製造方法。

【第1図】
image rotate


【第2図】
image rotate


【第7図】
image rotate


【第3図】
image rotate


【第4図】
image rotate


【第5図】
image rotate


【第6図】
image rotate


【第8図】
image rotate


【第9図】
image rotate


【公告番号】特公平7−84034
【公告日】平成7年(1995)9月13日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭62−131396
【出願日】昭和62年(1987)5月29日
【公開番号】特開昭63−296927
【公開日】昭和63年(1988)12月5日
【出願人】(999999999)三井石油化学工業株式会社