説明

繊維強化樹脂製ゴルフクラブ用シャフトの製造方法

【課題】ゴルフクラブ用シャフトの基本的な性能を損なうことなく、意匠性にも優れた繊維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフトを製造する方法を提供する。
【解決手段】複数の強化繊維を一方向に引き揃えて樹脂で含浸した強化繊維プリプレグ(21 〜23,25 〜27) を巻回して形成した層と、一層以上の多軸織物(24)を巻回してなる層とを含む繊維強化樹脂製ゴルフクラブ用のシャフトの製造方法である。成形にあたり、多軸織物(24)を積層しようとする強化繊維プリプレグ(21 〜23,25 〜27) のうちの一枚以上に、予め多軸織物(24)を貼り合わせて一体化しておき、貼り合わせたのちにマンドレル(10)上に巻回して成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂層からなるゴルフクラブ用シャフトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブ用シャフトは、ゴルフという競技において、飛距離を増大させること、方向性を安定させることが要求される最も重要な性能であるが、近年意匠性についても重要度が増してきている。背景には、従来のゴルフクラブは、ゴルフクラブヘッド、シャフト、グリップを一体として製造販売されてきたが、それぞれを自分の好みで選択し、ゴルフクラブとして組み立てる「カスタムメイド化」が進んできたため、ゴルフクラブの外観での差別化を要望する傾向が強くなったことが挙げられる。
【0003】
ゴルフクラブ用シャフトの意匠性向上のために最も広く用いられる手法は、塗装で差別化を持たせることである。従来は、黒等の単色で塗装を施していたが、意匠性を向上させるため、グラデーション等を用いた2色以上の多色塗装、さらに多色印刷などを施すことで他のシャフトとの差別化を図ることが近年のシャフトの主流となっている。
【0004】
しかしながら、このような塗装による差別化は、色に変化を持たせるため何層も塗装を行う必要があり工程が長くなること、また、塗装によるシャフトの重量の増加、外径が太くなる等、シャフトの性能に少なからず影響を及ぼすことが問題となっている。
【0005】
これに対し、特許文献1(特開2002−191735号公報)では、繊維強化樹脂層からなるゴルフクラブシャフトの表層に、金属線層を配置し、その上に透視し得る低弾性繊維樹脂層を有するゴルフクラブシャフトの製造方法を開示している。
【0006】
特許文献1によれば、立体的な奥行きを持つ意匠的に優れたゴルフクラブシャフトを製造できるとある。確かに、この方法によれば立体的な奥行きを持つ意匠的に優れたゴルフクラブシャフトを製造できるため、複雑な塗装をする必要がなく、塗装による重量増加を防ぐことが可能であるが、繊維強化樹脂層に比較して金属線層は比重が大きいため、金属線層の付与による重量の増加、また、金属線の種類によっては、金属線自体の剛性が高すぎて巻き付けが困難であるという問題を有している。
【0007】
一方で、例えば特許文献2(特開平7−241359号公報)及び特許文献3(特開2006−61473号公報)には、シャフト素材の一部として、緯糸がシャフト素材の軸線と直交する方向に向き、傾斜糸が同軸線に対して傾いた3軸織物層を通常の繊維強化樹脂層に組み合わせて用いることを開示している。
【0008】
特許文献2は、シャフト素材のバット側の一定長さ部分に、内層プリプレグと外層プリプレグとの間に3軸織物層を介装させて3軸織物部分を設け、シャフト素材のチップ側の最も内層に、中間部分より曲げ剛性の高い先端補強層を設けて先端補強部分とし、3軸織物部分と先端補強部分との先端部の切断長さを異ならせて切断することにより、先調子、中調子、元調子と云った調子の異なるゴルフクラブシャフトを製造することを提案している。
【0009】
また、特許文献3によれば、シャフトの長手方向に斜交した炭素繊維を備えた熱硬化性樹脂の捩り剛性保持層と、長手方向に平行に引き揃えた炭素繊維を備えた熱硬化性樹脂の曲げ剛性保持層とを備えたゴルフクラブシャフトにおいて、前記捩り剛性保持層は平織り織物に熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグを前記経糸と緯糸がシャフトの長手方向に斜交するようにシャフト状に捲回し硬化せしめた平織り織物層11と、緯糸がシャフトの長手方向に平行または垂直な方向になるように3軸織物をシャフト上に捲回し硬化せしめた3軸織物層12とを備えている。これにより、飛距離及び方向の安定性が良好で、且つ満足できる飛距離が確保できるとともに、打ち易さに優れ、特にパターを含むアイアンクラブに最適なゴルフクラブシャフトを提供できるとしている。
【0010】
ところで、上述のような炭素繊維からなる多軸織物は、マンドレル等に織物単体で巻き付けようとすると、柔らかく可撓性に富むため、繊維の配向角度にずれが生じ易く、単体で巻き付けることは難しい。繊維方向がずれてしまうと所望の剛性や強度が発揮されない。更に、例えば最外層にガラス繊維強化層を設けて、その内層の多軸織物が透視できるようにする場合には、前述のごとく繊維方向が乱れて、折角の多軸織物がもつ特有の立体的な構造も崩れてしまい、視覚的に著しく損なわれたものとなる。
【0011】
また、多軸織物はその構造上空隙部分が存在するため、シャフトに成形したときにボイドが形成されてしまい、シャフトの機械的強度が低下してしまう恐れがある。
【0012】
一般に、強化繊維織物はドレープ性が高いため、管状体に巻き付けることが容易である反面、既述したとおり織目がずれ易く、また多軸織物を最外層に用いると研磨の際に織目が削れてしまうため、強度的にも意匠的にも採用することが難しいという問題を抱えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−191735号公報
【特許文献2】特開平7−241359号公報
【特許文献3】特開2006−61473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ゴルフクラブ用シャフトの基本的な性能を損なうことなく、意匠性にも優れた繊維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフトを製造する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
多軸織物をゴルフクラブ用シャフトに適用するとき、上述のとおり多軸織物は柔らか過ぎるため強化繊維の配向角に乱れが生じてしまい、高品質のゴルフクラブ用シャフトを製造することが難しい。
かかる課題を解消するために、本発明は以下の構成を採用した。
すなわち、複数の強化繊維を一方向に引き揃えて樹脂で含浸したプリプレグシートを巻回して形成した層と、一層以上の多軸織物を巻回してなる層を含む繊維強化樹脂製ゴルフクラブ用シャフトの製造方法にあって、多軸織物と強化繊維プリプレグとを予備接着して一体化し、これをマンドレル上に巻回して成型する。
【0016】
多軸織物に予備接着させる強化繊維プリプレグとして、炭素繊維プリプレグ又はガラス繊維プリプレグを用いることが好ましく、しかも、好ましくは多軸織物と予備接着する強化繊維プリプレグの樹脂含有率を30重量%以上とする。通常は、多軸織物を炭素繊維プリプレグに予備接着して管状に巻き付けるが、特に意匠性を強調したいときは、ガラス繊維プリプレグに多軸織物を予備接着させるとともに、ガラス繊維プリプレグが最外層となるように巻き付ける。
【発明の効果】
【0017】
本発明の繊維強化樹脂製ゴルフクラブ用シャフトの製造方法によると、多軸織物を管状に巻き付けるとき、予め他の強化繊維プリプレグに貼り付けて一体化したのち、一緒に巻き付けるため、多軸織物を構成する強化繊維の配向を乱すことがなく、容易に巻き付けることができる。また、このように強化繊維の配向性に乱れを生じさせないで巻き付けることができるため、多軸織物に特有の立体的構造に由来して繊維強化樹脂層に高い意匠性が実現でき、複雑な塗装をすることもなく優れた意匠外観性が得られる。また多軸織物は、その繊維が多方向性をもつため、ゴルフクラブ用シャフトの基本的な性能を損なうことがなく、高品質のゴルフクラブ用シャフトを製造できる。
【0018】
多軸織物を強化繊維プリプレグに予備接着するとき、通常、予備接着する強化繊維プリプレグに多軸織物が貼り付き難いため、強化繊維プリプレグの樹脂含有率は高くすることが好ましい。その樹脂含有率は30%以上であることが好ましく、より好ましくは33%以上である。かかる樹脂含有率の強化繊維プリプレグに多軸織物を貼り付けることによって、成形過程で多軸織物に樹脂が確実に含浸して、シャフト完成時に多軸織物層にボイドが形成されるのを防ぐことができる。
【0019】
意匠性を重視する場合には、最外層にガラス繊維プリプレグを配するようにすると、内側の多軸織物が透視できるだけでなく、成形後の研磨仕上げの際にも多軸織物に損傷を与えることがなく、ゴルフクラブ用シャフトとして高品質が保証される上に意匠性に優れたものとなる。
【0020】
以下、好適な実施形態をもって、本発明の構成と作用効果について図面を参照しながら具体的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のゴルフクラブ用シャフトの第1実施例を示すプリプレグの裁断形状と、マンドレルへの巻き付け順序とを示す説明図である。
【図2】マンドレルの概略説明図である。
【図3】本発明のゴルフクラブ用シャフトの第2実施例を示すプリプレグの裁断形状と、マンドレルへの巻き付け順序とを示す説明図である。
【図4】上記実施例に用いられる多軸織物の一例を示す4軸織物の組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のゴルフクラブ用シャフトの製造方法は、所定の裁断形状と寸法を有する複数枚のプリプレグをマンドレルに順次巻き付け積層した後、加熱硬化して複数の繊維強化樹脂層から構成されるゴルフクラブ用シャフトを製造する。例えば、図1に示すような裁断形状と寸法とをもつ第1〜第7の巻き付けシートを、マンドレルの軸線方向所定位置に順次巻き付けたのち、加熱硬化して複数の繊維強化樹脂層から構成されるゴルフクラブ用シャフトを製造する。
【0023】
図1によれば、繊維強化樹脂層の強化繊維が、シャフト軸方向に対し±45°の方向に配向された2枚のプリプレグ21をマンドレル10の外周を半周ずれるように細径端で9mm、太径端で21mmずらした状態で、それぞれのプリプレグを貼り合わせた第1の巻き付けシートをマンドレル10に巻き付け、最内層にバイアス層を形成したのち、繊維強化樹脂層の強化繊維が実質的にシャフト軸方向に配向された1枚のプリプレグ22からなる第2の巻き付けシートをシャフト細径端側に300mmの長さで巻き付けて先端補強層を形成する。次いで、同じく繊維強化樹脂層の強化繊維が実質的にシャフト軸方向に配向された1枚のプリプレグ23からなる第3の巻き付けシートをシャフト全長(1165mm)にわたり巻き付けて第1ストレート層を形成する。
【0024】
第1ストレート層が形成されたのち、第4の巻き付けシートとして4軸織物(多軸織物)24が巻き付けられる。この4軸織物24は、図4に示すように、90°に交差する縦糸24a及び横糸24b、+45°と−45°の方向を向いて配される第1及び第2の斜め糸24c,24dの4本の糸を構成糸とする織物である。本明細書では、多軸織物の例として4軸織物を例に挙げているが、例えば特許文献2及び3に記載されている3軸織物や、或いはそれ以上の多軸織物を用いることもできる。これらの織物に使用される糸は、糸の交差部分でクリンプ高さが大きくなることを防ぐため、繊度が小さく繊維方向が平行である多数のフィラメントからなる偏平糸を用いることが出来る。
【0025】
かかる構成をもつ多軸織物は、柔らかく糸が互いにずれやすいため、これを直接管状に巻き付けることは難しい。
そこで、本発明では4軸織物24をシート状態で予め他の強化繊維プリプレグに貼り合わせる。こうして強化繊維プリプレグに貼り合わされた4軸織物は繊維間のずれがなくなり、その配向角も変動せずに織物形態が安定し、マンドレル10に貼り合わされた強化繊維プリプレグと共に巻き付ければ、安定した織物構造を維持させたまま容易に巻き付けることができるようになる。
【0026】
図1の例によれば、4軸織物24を第2ストレート層を構成する繊維強化樹脂層の強化繊維が実質的にシャフト軸方向に配向された第5の巻き付けシートである1枚のプリプレグ25に予め貼り合わせておく。このとき、プリプレグ25の樹脂含有率が他のプリプレグの樹脂含有率と同等である場合には、立体構造をもつ4軸織物にプリプレグ25の樹脂が十分に浸透しにくく貼り合わせにくいため、貼り合わせ相手であるプリプレグ25の樹脂含有率を他のプリプレグの樹脂含有率より大きくする。その樹脂含有率は30%以上、好ましくは33%以上とする。こうして貼り合わされた4軸織物24を第2ストレート層を構成するプリプレグ25と共に、第1ストレート層の表面に巻き付けて、4軸織物層と第2ストレート層とを形成する。
【0027】
4軸織物層と第2ストレート層とを形成したのち、繊維強化樹脂層の強化繊維が実質的にシャフト軸方向に配向された第6の巻き付けシートである1枚のプリプレグ26を巻き付けたのち、シャフト先端側に直角三角形状に裁断された第7の巻き付けシートであるプリプレグ27を巻き付け外径調整層を形成する。この外径調整層を形成したのち、ポリプロピレンテープで巻きつけ固定し、図示せぬ加熱炉中にて加熱硬化して複数の繊維強化樹脂層から構成されるゴルフクラブ用シャフトを製造する。前記外径調整層及び上記先端補強層の巻き付け順序は、図1に示す順序である必要はなく、クラブの性能等により任意に決めることが可能である。また、シャフトのヘッド側端部にストレート層からなる外径調整層及び上記先端補強層を巻き付けているが、この工程は省略することもでき、或いは巻き付けられる複数のプリプレグ層の間に2層以上介入させることもできる。
【0028】
図示例によれば、ストレート層の層数を3層としているが、この層数は任意であり、要求されるゴルフクラブとしての性能に応じて適宜決められる。また、本実施形態では第1及び第2ストレート層との間に4軸織物24を介装しているが、この4軸織物24の介装位置も任意であり、4軸織物24の立体構造に依存する意匠性を重視する場合には、後述するように、最外層に内部を透視できるプリプレグを配するとともに、その内側の層に4軸織物24を配することが好ましい。
【0029】
本発明のゴルフクラブ用シャフトの製造方法において使用されるプリプレグを構成するマトリックス樹脂には、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を使用することができるが、好ましくは熱硬化性樹脂が用いられる。
熱可塑性樹脂としては、ポリアミド系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、及びこれらの混合樹脂を用いることができる。一方、熱硬化性樹脂としては、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂、ユリア系樹脂、メラミン系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、およびこれらの混合樹脂を使用することができる。中でも、エポキシ系樹脂は硬化収縮率が少なく、高い剛性と靭性値を有するので、最も好ましく使用される。
【0030】
本発明のゴルフクラブ用シャフトの製造方法で使用される繊維強化樹脂層を構成する繊維は、金属繊維、ボロン繊維、炭素繊維、ガラス繊維、セラミクス繊維などの無機系繊維、アラミド繊維、その他の高強力合成繊維などを使用することができる。無機繊維は軽量、かつ高強力であることから好ましく使用される。中でも、炭素繊維は、比強度、比剛性に優れるので最適である。さらには、意匠性を強調する場合には、最外層に以降の研磨処理を考慮してガラス繊維を使うことが好ましい。
これらの繊維は、単独または混合して使用できる。また、長繊維、短繊維、及びこれらの混合繊維など、繊維の長さを特に規定するものではない。ただし、4軸織物24を構成する繊維は長繊維であることが好ましい。
【0031】
通常、繊維強化樹脂層で構成されるゴルフクラブ用シャフトの製造方法は、加熱硬化後に細径端部と太径端部をカットして長さを調整する。このカット後の長さが目的の長さとなるように設定する。例えば、図1に示すように、1,165mmの全長のゴルフクラブ用シャフトを得ようとする場合、細径端部を11mmカットし、太径端部を11mmカットするときは、成形シャフト長を1,143mmに設定する。
【0032】
マンドレル10は金属製であれば特に材質を限定するものでないが、テーパー等の加工が容易であること、耐久性に優れる観点から、鉄製であることが好ましい。マンドレル10に、図1に示すように、各プリプレグ21〜23,25〜27及び4軸織物24を巻き付けることになるが、加熱硬化後マンドレル10から繊維強化樹脂層を取り外す際、脱型が容易になるよう予めマンドレル10に離型剤を塗布しておくことが好ましい。
【0033】
本発明のゴルフクラブ用シャフトの製造方法では、まずマンドレル10に繊維強化樹脂層の強化繊維が、シャフト軸方向に対し±30°〜±60°の方向に配向されたプリプレグ21からなるバイアス層を巻き付ける。なお、プリプレグ21に使用される強化繊維は、炭素繊維が、比強度、比剛性に優れるので最適である。ここで、第1層を構成する前記バイアス層は実質2層からなり、この2層をシャフト周方向に実質的に半周ずらして予め張りつけている。実質的に半周ずらすとは、例えばシャフトの細径端部の外周が20mmで、太径端部の外周が40mmであった場合、プリプレグ27をプリプレグ26に対し、シャフトの細径端部側を10mm、太径端部側を20mmずらして貼り付けるということを意味する。
【0034】
ゴルフクラブ用シャフトの部分的な強度補強や剛性向上のため、図1の第2の巻き付けシートに示す形状の先端補強層を、前記バイアス層の次に、巻き付けることができ、これらは複数枚あってもよい。なお、この補強層に使用される補強強化繊維も、炭素繊維が、比強度、比剛性に優れるので最適である。
【0035】
次に繊維強化樹脂層の補強繊維が、実質的にシャフト軸方向に配向されたプリプレグ23からなる第1ストレート層を巻き付ける。この第1ストレート層の表面に4軸織物24を巻き付ける。
【0036】
ここで、4軸織物24を単独で扱おうとすると、同織物は柔軟に過ぎ、各織目において縦糸24a、横糸24b、斜め糸24c,24dが互いにずれやすく、織目が崩れてしまい、本来の4軸織物がもつ美しさを失ってしまう。そこで図示例にあっては、この4軸織物24を巻き付ける前に、その上層となるプリプレグ25からなる第2ストレート層に4軸織物24を予め貼り付けておく。その結果、4軸織物24は第2ストレート層と一体化され、可撓性に富むものの織り形態は安定化し、織目を崩すことなく容易に巻き付けることが可能となる。ここでは、4軸織物24を第2ストレート層に予め貼り付けているが、第1ストレート層に予め貼り付けておくようにしてもよい。また、4軸織物24の巻き付け位置は、図1に示す例に限らず、例えば第2ストレート層と第3ストレート層との間に介装させてもよく、図示例に限定されない。ただ、4軸織物24をプリプレグに貼り付けるとき、通常のプリプレグの樹脂含有量では、4軸織物24の内部まで樹脂が含浸しにくく接着強度も弱い。そこで、本発明では4軸織物24を予め貼り付けるプリプレグの樹脂含有率を、通常の樹脂含有率よりも高い30重量%以上としている。
【0037】
4軸織物24に用いる強化繊維の1本の繊維束における総繊維数は、1,000〜12,000フィラメントであることが好ましい。1,000フィラメントより少ないと織布状の組織が小さくなり過ぎ、また12,000フィラメントより多いと、織布状の組織が大きくなり過ぎて意匠性が損なわれるため好ましくない。なお、ゴルフクラブの外観として最も好ましいのは、1,000〜6,000フィラメントである。
【0038】
前記4軸織物の単位面積あたりの重量は、使用する強化繊維比重によるが、強化繊維が炭素繊維の場合には30g/m2 〜250g/m2 が、強化繊維がアラミド繊維の場合には10g/m2 〜100g/m2 が好ましい。
【0039】
強化繊維が炭素繊維の場合、250g/m2 より大きいと織布を形成する強化繊維と4軸織物の外層に巻き付けるストレート層の強化繊維の屈曲が大きくなり、シャフト表面の平滑性が損なわれるばかりではなく、強化繊維としての強度が低下し、さらにプリプレグと予備接着したのちのドレープ性も損なわれるため好ましくない。また、30g/m2 より小さいと織布の空隙が大きくなり、補強効果や意匠性が損なわれるため好ましくない。
【0040】
使われる強化繊維の繊維束は1,000〜12,000フィラメントからなり、且つその繊維束の幅が1mm〜5mmであることが好ましい。1mmより小さいと、織布の空隙が大きくなり過ぎ、表面の平滑性補強効果や意匠性が損なわれるため好ましくなく、5mmより大きいと格子状の模様が大きくなり過ぎて意匠性に劣るため好ましくない。なお、ゴルフクラブの外観として最も好ましいのは、1mm〜3mmである。
【0041】
4軸織物24に使用される強化繊維は、金属繊維、ボロン繊維、炭素繊維、ガラス繊維、セラミクス繊維などの無機系繊維、アラミド繊維、その他の高強力合成繊維などを使用することができる。無機繊維は軽量、かつ高強力であることから好ましく使用される。中でも、炭素繊維が、比強度、比剛性に優れるので最適である。
【0042】
4軸織物24に用いる補強繊維の弾性率は特に制限はないが、240GPa以上の炭素繊維であることが好ましい。240GPaより小さいとゴルフクラブ用シャフトとして十分な剛性を得ることができず、補強が必要となり、重量が重くなる等の問題が生じるからである。なお、補強繊維の弾性率が400GPaより大きいと繊維の引張強度が低くなり、また織布自体の剛性が高くなりすぎて、プリプレグのドレープ性が損なわれるため、補強繊維の弾性率は、240GPa〜400GPaとすることが好ましい。
【0043】
図示例では4軸織物24を使っているが、この織物は4軸に限らず、例えば3軸であっても、6軸であってもよく、これらの多軸織物であれば、その織物構造からシャフト軸方向、軸方向に直交する方向、軸方向に斜めの方向に構成糸を配向できるため、シャフトの曲げ、および潰し剛性を向上させることができる。
【0044】
ゴルフクラブ用シャフトの細径端部の外径を調整するには、図1に第2及び第7の巻き付けシートのような形状の補強層を最初に、あるいは途中、あるいは最後に巻き付けてもよく、これらは1個でも複数個あってもよい。なお、これら補強層のプリプレグに使用される補強繊維に制限はないが、炭素繊維が、比強度、比剛性に優れるので最適である。
【0045】
ゴルフクラブとしての意匠性を重視する場合には、既述したとおり、最外層にガラス繊維強化樹脂からなるプリプレグを巻き付ける。この場合のプリプレグに用いられるガラス繊維の形態は、織布、不織布、一方向に引き揃えられた状態のいずれでもよい。マトリックス樹脂は、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を使用することができるが、好ましくは熱硬化性樹脂が用いられ、特に接着強度や耐熱性などの特性が高く透明度も高いことからエポキシ樹脂が好適である。
【0046】
最外層のガラス繊維強化樹脂からなるプリプレグの厚みについて、特に制限はないが、巻き付けた後のガラス繊維強化樹脂層の厚みが30μm〜100μmである必要がある。繊維強化樹脂製ゴルフクラブ用シャフトは、加熱成形後に表面の凹凸除去およびフレックス調整のため、表面を研磨加工する。そのため、巻き付けた後のガラス繊維強化樹脂層の厚みが30μmより小さいと、研磨加工時にガラス繊維強化樹脂層と共に多軸織物層も研磨されたり、多軸織物層の凹凸が残って表面平滑性が損なわれる等の問題がある。また、巻き付けた後のガラス繊維強化樹脂層の厚みが100μmより大きいと、ガラス繊維の比重が重いため、ゴルフクラブ用シャフトの重量が重くなる問題があるため好ましくない。ガラス繊維強化樹脂層の厚みが30μm〜100μmとなるように巻き付けると、これらの問題が解消され、表面平滑性に優れ、意匠性に優れたゴルフクラブ用シャフトを得ることができる。
【0047】
以上説明した本発明の一実施形態によるゴルフクラブ用シャフトの製造方法によれば、多軸織物が高い意匠性を有し、糸ずれなく巻き付けることが可能となり、その織物構造に由来してゴルフクラブ用シャフトの基本的な性能を向上させるだけでなく、従来のように複雑な塗装をしなくても優れた意匠性を有するゴルフクラブ用シャフトを製造することを可能とする。
【実施例】
【0048】
次に、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明する。
実施例1〜4および比較例1で作製するゴルフクラブ用シャフトの材料(プリプレグ)を表1に示す。また、これらの実施例1〜4および比較例1に使用した4軸織物は材料を、次に示す。
<4軸織物の使用材料>
・炭素繊維4軸織物
使用繊維(縦、横、斜めとも):炭素繊維トウ(弾性率240GPa、1,000フィ
ラメント)
打ち込み本数:縦 8本/インチ
横 8本/インチ
斜め 5.6本/インチ
厚さ: 0.165mm
重量: 73g/m2
実施例中の使用材料、ゴルフクラブ用シャフトの振動数、捩れ角の測定は以下の通りである。
(使用材料)
・プリプレグ
【0049】
【表1】

【0050】
<シャフト振動数の測定>
ゴルフクラブ用シャフトに、ヘッドを模した196gの重りをシャフト細径側先端部に装着し、シャフト太径側先端部から180mmまでの位置を市販のゴルフクラブ用振動数計に空気圧300KPaで固定した。装着した重り部分に手で振動を加えゴルフクラブ用シャフトの固有振動数を測定した。
【0051】
<捩れ角>
ウッド用ゴルフクラブ用シャフトはシャフト細径側先端からシャフト細径側先端部から50mmのまで位置と、シャフト細径側先端部から1,035mmの位置からシャフト細径側先端部から1,067mmまでの位置を固定し、シャフトに138.5kgf・mmのトルクを負荷したしたときの捩れ角を測定した。
巻き付けプリプレグシートは表2に示す材料をそれぞれ用意した。
【実施例1】
【0052】
<マンドレル>
図2に示す形状のマンドレル10(鉄製)を用意した。このマンドレル10は、全体の長さL3にあって、その細径端P1から長さL1の位置(切換点)P2まで、その外径が直線的に漸増し、切換点P2から長さL2の大径端P3まで、その外径は一定である、鉄製の円筒体からなる。本実施例による前記マンドレル10の各部位における具体的な外径、長さ、テーパー度は以下のとおりである。
【0053】
細径端P1の外径は5.00mm、切換点P2の外径は13.50mm、この切換点P2から太径端P3までは同一外径であり、その外径は13.50mmである。細径端P1から切換点P2までの長さL1は1,000mm、切替点P2から太径端P3までの長さL2は500mmである。マンドレル10の全体長さL3は1,500mmとなる。また、細径端P1から切替点P2までのテーパー度は8.50/1000とされている。
【0054】
<プリプレグの裁断及び巻き付け>
第1〜第7の巻き付けシートを、図1に示す各プリプレグ(4軸織物を含む)21〜27に切り出した。
【0055】
第1層目は、第1の巻き付けシートからなる2枚のプリプレグ21,21を、シャフトの長手軸方向に対し+45°と−45°に裁断し、実質的に半周ずれるようずらして、それぞれをフュージングプレスを用いて貼り合わせてバイアス層とした。なお、サイズについては、図1に示すとおり調整をした。
【0056】
第2層目の、第2巻き付けシートから切り出したプリプレグ22は、シャフトの長手軸方向に繊維が配向しており、図1に示すサイズに調整して先端補強層を得た。
【0057】
第3層目の、第3の巻き付けシートから切り出したプリプレグ23は、シャフトの長手軸方向に繊維が配向しており、全長が1,165mmであり、図1に示すサイズに調整して第1ストレート層を得た。
【0058】
第4層目の、第4の巻き付けシートを切り出した炭素繊維製の4軸織物24であり、この4軸織物24を第5層目の第5の巻き付けシートを切り出したプリプレグ25からなる第2ストレート層にフュージングプレスを用いて貼り合わせて4軸織物とストレート層との4層目及び5層目の重合層を得た。
【0059】
第6層目の、第6の巻き付けシートを切り出したプリプレグ26は、シャフトの長手軸方向に繊維が配向しており、図1に示すサイズに調整して第6ストレート層とした。
【0060】
第7層目である第6の巻き付けシートを裁断したプリプレグ26は、シャフトの長手軸方向に繊維が配向しており、図1に示すサイズに調整して外径調整層とした。
【0061】
それぞれの寸法形状に切り出したプリプレグ(4軸織物を含む。)21〜27を順番にマンドレル10に巻き付けた。巻き付けは、マンドレルの細径端部から100mmを巻き付けの端部とした。4軸織物24は、第2ストレート層を構成するプレプレグ25に貼り合わせたのちに巻き付けた。このときの巻き付けは容易であり、シャフトの細径端部のプリプレグが大きく屈曲する部分も緩みもなく、4軸織物24の織目が崩れずに、縦横糸24a,24b及び90°に交差する2本の斜め糸24c,24dがそれぞれずれることなく巻き付けることができた。
【0062】
続いて、厚さ20μm、幅30mmの熱収縮性を有するポリプロピレンテープ(図示せず。)を巻き付けピッチ2mmで巻き付け固定し、マンドレル10に形成したシャフト素管を得た。
【0063】
シャフト素管を硬化炉に入れ、145℃で2時間加熱してプリプレグの樹脂の硬化処理を行った後、ポリプロピレンテープとマンドレル10とを取り除いた。得られたゴルフクラブ用シャフト素管の両端を11mmカットして全長を1143mmとした。また得られた研磨前のゴルフクラブ用シャフト素管の細径端の外径は8.5mmで、シャフト振動数が245cpmとなるように研磨機で研磨を行って、実施例1のゴルフクラブ用シャフトを得た。研磨後のゴルフクラブ用シャフトの重量は53g、捩れ角は6°であった。
【0064】
さらに、ゴルフクラブ用シャフトの細径側先端から100mmの位置と太径側先端から100mmの位置でシャフトを切断し、その断面を研磨して光学顕微鏡を用いて100倍で観察ししたところ、4軸織物層に若干のボイドが観察された。
【比較例1】
【0065】
実施例1と同じプリプレグと炭素繊維4軸織物を同寸法で切り出した。実施例1と同じマンドレルで同じ位置にバイアス層から第1ストレート層を順次巻きつけた。さらに、炭素繊維4軸織物を第1ストレート層の上に単独で巻き付けようとしたところ、4軸織物の繊維の方向が乱れうまく巻きつけることが出来なかった。
【実施例2】
【0066】
表2に示すプリプレグと炭素繊維4軸織物を図1に示す寸法で切り出した。第2ストレート層と炭素繊維4軸織物は実施例1と同じ方法で貼り合せた。さらに実施例1と同じ方法で成形、研磨を行い、先端外径8.5mm、振動数245cpm、重量53g、捩れ角6.0°のゴルフクラブ用シャフトを得た。
【0067】
得られたシャフトの断面を、実施例1と同じ位置で観察したところ、4軸織物層に僅かなボイドが認められた。
【実施例3】
【0068】
表2に示すプリプレグと炭素繊維4軸織物を図1に示す寸法で切り出した。第2ストレート層と炭素繊維4軸織物は実施例1と同じ方法で貼り合せた。さらに実施例1と同じ方法で成形、研磨を行い、先端外径8.5mm、振動数245cpm、重量53g、捩れ角6.0°のゴルフクラブ用シャフトを得た。
【0069】
得られたシャフトの断面を、実施例1と同じ位置で観察したところ、4軸織物層にボイドが認められなかった。
【実施例4】
【0070】
表2に示すプリプレグと炭素繊維4軸織物を図2に示す寸法で切り出した。第7の巻き付け層である保護層と炭素繊維4軸織物は実施例1と同じ方法で貼り合せた。さらに実施例1と同じ方法で成形、研磨を行い、先端外径8.5mm、振動数245cpm、重量53g、捩れ角6.0°のゴルフクラブ用シャフトを得た。
【0071】
得られたシャフトの断面を、実施例1と同じ位置で観察したところ、4軸織物層にボイドが認められず、シャフト外表面に透明のクリア塗装を施したところ、目視で炭素繊維4軸織物が認識できる意匠性の高いゴルフクラブ用シャフトが得られた。
【0072】
【表2】

【符号の説明】
【0073】

10 マンドレル
24 4軸織物(多軸織物)
24a 縦糸
24b 横糸
24c, 24d 斜め糸
21〜23, 25〜27 プリプレグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の強化繊維を一方向に引き揃えて樹脂で含浸した強化繊維プリプレグを巻回して形成した層と、一層以上の多軸織物を巻回してなる層とを含む繊維強化樹脂製ゴルフクラブ用のシャフトの製造方法であって、
多軸織物と強化繊維プリプレグとを予備接着して一体化し、マンドレル上に巻回して成型する、繊維強化樹脂製ゴルフクラブ用シャフトの製造方法。
【請求項2】
多軸織物と予備接着する強化繊維プリプレグが炭素繊維プリプレグである請求項1記載の繊維強化樹脂製ゴルフクラブ用シャフトの製造方法。
【請求項3】
多軸織物と予備接着する強化繊維プリプレグがガラス繊維プリプレグであり、ガラス繊維プリプレグが最外層に配されてなる請求項1記載の繊維強化樹脂製ゴルフクラブ用シャフトの製造方法。
【請求項4】
多軸織物と予備接着する強化繊維プリプレグの樹脂含有率が30重量%以上である請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化樹脂製ゴルフクラブ用シャフトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−246823(P2010−246823A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101726(P2009−101726)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(506266746)エムアールシーコンポジットプロダクツ株式会社 (35)
【Fターム(参考)】