説明

繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法

【目的】 補強用繊維への熱可塑性樹脂融液の含浸性が良好で、且つ繊維の切断が少ない引き抜き成形法の開発。
【構成】 ダイボックス3内に円形もしくは山形状の開繊体5を所定位置に上下より互い違いに配置し、溶融樹脂と共に補強用繊維1と開繊させながら引き抜く繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は補強用繊維に熱可塑性樹脂を被覆、含浸させる繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。この樹脂組成物は高剛性、耐衝撃性、耐クリープ性を要求される自動車部品、建材、ならびに産業資材分野の部品に利用される。
【0002】
【従来の技術】従来熱可塑性樹脂と強化繊維を複合した組成物からなる成形用材料を製造する方法としては、(1)適当な長さ(通常3〜6mm)に切断した繊維と粉末、もしくは粒状の熱可塑性樹脂を混合し、押出成形機にて押出し、切断して成形材料を得る方法(2)樹脂を溶剤に溶解もしくは懸濁し、それに長繊維を連続的に浸漬し、溶剤を乾燥除去し、然るべき後これを切断して成形材料を得る方法(3)長繊維を連続的に開始剤を含むモノマーもしくは反応性を有するオリゴマーに浸漬し、これを加熱重合して、然るべき後これを切断して成形材料を得る方法(4)樹脂を押出成形機により可塑化溶融し、溶融物の吐出側に長繊維束を連続的に導入し、繊維に溶融樹脂を浸透させ押出し、これをペレットに切断して成形材料とする電線被覆類似の引抜成形法またはプルトルージョン法等が知られている。
【0003】(1)の方法では使用する繊維の初期長をあまり大きくすることが出来ないことや押出機にて混合する時に繊維の粉砕が生じるため繊維による補強効果が減じるという問題点がある。
【0004】(2)の方法では使用した溶剤を回収する必要があり、工程が長くなると同時に設備が大規模なものとなってコストへの影響が大きい。
【0005】(3)の方法による場合は使用可能な熱可塑性樹脂が限られている点や重合工程が複雑となり、その制御が困難であるという欠点を有する。
【0006】以上の各方法に対し、(4)の方法は装置、工程とも簡単であり、製造工程中に繊維の粉砕を伴わず、成形材料中の繊維の長さは任意に選択できるため補強効果が高い。しかし繊維の凝集が生じやすく、マトリックス樹脂が繊維束の各単繊維間に十分浸透、つまり含浸せず、分散の悪い製品となる傾向があった。特に補強効果を増すために繊維の配合量を増すことはこの凝集を一層高め、本来補強されるべき製品の強度が低下したり、製品の外観が悪化したり、極端な場合では繊維の束がペレットから抜け落ちることさえあり、補強性能、外観、安全性、衛生性において問題を有していた。
【0007】この改善のため、例えば特公昭43−7448、特公昭43−7468、特公昭52−10140、特公昭55−16825の様に繊維の進行方向に対し、直角方向から樹脂を供給するようにダイ(クロスヘッドダイ)を工夫した提案があるが、根本的な個々の繊維フィラメントに対するマトリックス樹脂の含浸性と樹脂組成物中での個々の繊維の分散性は不十分であった。また樹脂の含浸性を向上させるため溶融粘度の低い、つまり低分子量の樹脂を使用したり、低分子量添加剤を多量に混合し、溶融物の粘度を低下させたりする方法や、またダイボックスの温度を高めに設定し溶融物の粘度を下げる等の方法が知られている。しかしこれらの方法では粘度低下させる幅にも限界があり、さらに得られた成形材料の物性面、特に耐衝撃性、長期信頼性に問題が生じていた。
【0008】また更に個々の繊維フィラメントへの樹脂含浸性を改善する為には、例えば特公昭63−37694等に記載されている様なスプレッダー等(これはピン、バー、回転体等を含む)の利用によって繊維束を拡げ、個々の繊維が樹脂と接触しやすくする方法が知られている。しかし生産速度を上げるためにはスプレッダーの数を増やす必要があり、おのずと高粘性の溶融樹脂との接触長が長くなり、その結果抵抗力が増し張力が大きくなるという欠点があった。この事は繊維束が拡がった状態、つまり開繊している場合および溶融樹脂の粘度が高い場合はスプレッダー、ダイ内壁と繊維束との間に存在する溶融樹脂による剪断抵抗が大きくなることを意味し、これらの結果、引取りが困難になるだけでなく、補強用繊維束中の個々のフィラメントの多数が切断し、これがダイボックス内に滞留し、製造中断等の原因となる問題があった。このため特公昭63−67694(公告後補正)では溶融粘度がゼロ剪断速度で100poise以下としている。
【0009】さらに特開昭63−264326には補強用繊維引抜き方向に対して対向する2つ以上の偏向部を有するダイスが記載されている。しかしダイス内通過時の補強用繊維の偏向部での曲げられ方が大きいため、繊維フィラメントの切断が大きくなる傾向になる。また引取速度を上げた場合はさらに補強用繊維の張力が増大し、繊維切断の頻度は高くなるため、偏向部の数を増やす事が出来ず、結果として含浸性の悪い製品しか製造出来なかった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】いずれの従来技術も、ダイス内での繊維束の開繊の方法が不明確であり、繊維束への樹脂の含浸性、生産性と繊維ダメージ低減を並立させる方法は示されていないため、その改良が必要となっていた。
【0011】本発明はこれらの引抜き成形法またはプルトルージョン法を改良したもので、従来困難であった溶融粘度の高い高分子量の熱可塑性樹脂を使用可能としたものであり、個々の繊維フィラメントのマトリックスたる溶融熱可塑性樹脂中への分散性と引抜き成形での生産性を改良したものである。そして最終的には射出成形、圧縮成形等の成形をした場合、機械的、熱的強度、特に耐クリープ、耐衝撃性、製品の外観性の優れた繊維強化樹脂組成物の製造方法を開発することにより上記の目的を達成した。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明は、クロスヘッドダイを使用したプルトルージョン法にて熱可塑性樹脂で補強用繊維束を熱可塑性樹脂で被覆、含浸させる引抜成形法において、ダイボックス内に上下より互い違いに配置され、固定された開繊体を配置し、開繊体相互の頂点間の距離Lが40〜80mmでかつ開繊体相互の頂点間高さDとLとの比(D/L)が3/10〜5/10の間にあり、さらに補強用繊維と接触する開繊体の頂点の形状が繊維引抜き方向と垂直方向に連続した半径R=2.2〜3.0mmの範囲にある断面円形もしく山形状の構造体を配し、開繊体相互の間を補強用繊維を張力下、被覆、含浸時の溶融粘度がゼロ剪断速度で1000poiseより大きい熱可塑性樹脂融液と共に引き抜くことを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法を開発することにより上記目的を達成した。
【0013】本発明に使用出来る熱可塑性樹脂としては押出機で可塑化可能であれば特に制限する理由はないが、例えば例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。またこれらの樹脂のブレンド物及び各種フィラーを充填した樹脂組成物であっても構わない。さらに周知の技術としての繊維との親和性をもたせた変性樹脂の使用は特に好ましい。樹脂の溶融粘度は本発明の効果を発揮し、剛性、耐衝撃性、耐クリープ性など製品の最終性能を高めるためには、剪断速度ゼロにて、含浸、被覆時の温度での粘度が1000poiseより大きい熱可塑性樹脂の使用が適している。
【0014】また本発明に用いられる強化用繊維の種類としては、E−ガラス、S−ガラス等のガラス繊維、ピッチ系、ポリアクリロニトリル系等の炭素繊維、また芳香族ポリアミド繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維等の有機繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維等のセラミック系繊維、または金属繊維が単独、あるいは複合して用いられる。なお繊維の太さ、表面処理剤、集束剤の種類、量などについては一般と同じであれば使用できる。繊維強化樹脂組成物中の強化繊維の配合量は繊維の材質、繊度などにより特定することはできないが、特に本プロセス特有のものはなく、一般的に言って繊維の材質(密度)などを考慮するとほぼ10重量%から80重量%の範囲になる。
【0015】尚、本発明によって得られる繊維強化樹脂組成物の形態としては、ダイボックス出口のサイジング部(ノズル)の形状を変えることにより任意の形状、例えば棒状、シート状、L字状、円柱状等限定されるものでは無いが、通常は5〜50mmの長さに切断した成形用材料ペレットとして好適に用いられる。
【0016】以下本発明を図面を用いて説明する。図1は代表的なダイボックス構造を示す。数千本〜数万本のフィラメントからなる補強用繊維束1は、繊維導入口4より樹脂の融点以上に加熱、維持されたダイボックス3に引き揃えて連続的に供給される。その際、強化繊維はダイボックス3内部に設置され固定された開繊体5上で開繊され、この開繊された補強用繊維束に対し、一般的には繊維束の引抜き方向に垂直方向に設けられた単一もしくは複数の溶融樹脂供給口2より供給された溶融樹脂を開繊体頂点で接触、付着させることで含浸が達成される。
【0017】溶融樹脂の供給方向Aは、繊維束1が開繊体5に接する手前の隙間に供給できるように溶融樹脂供給口2を設けることが好ましい。こうすると、溶融樹脂は繊維束1と開繊体5の間で圧迫され、繊維束1の間に侵入し、含浸が良く行われるようになる。
【0018】なお、押出機等からダイボックスへ高圧で供給される溶融樹脂を直接繊維束に接触させると繊維束の配列の乱れ(弛み)、繊維束の分離が発生し、含浸の低下や繊維の切断が起こりやすくなるため、繊維束と溶融樹脂の接触は大気圧下になるように、ダイボックスの開繊体頂点と溶融樹脂注入口をあまり近接させない方が好ましい。
【0019】次に樹脂で含浸された補強用繊維束はレベル調整用ガイド6を経てダイ出口に設けられたノズル7を通過し、余分の樹脂を絞り、樹脂量をコントロールするとともに任意の断面形状に賦形され、そのまま型材とするかあるいは適当な長さに切断して繊維強化樹脂組成物とする。
【0020】図2、3は本発明に用いる開繊体5の形状、相互配置を模式的に示したものである。図2では円柱状開繊体5を配した場合を示す。開繊体相互の配置は、相互の開繊体5の距離Lと補強用繊維束1との接触点間の高さDとによって規定する。また補強用繊維束1と接触する開繊体5の先端形状は、補強用繊維引抜き方向と垂直な方向に連続した構造体であって、その曲率が半径Rによって示される。
【0021】図3では山形状開繊体5(図3は紙面に垂直方向に伸びている開繊体の断面を示す。)を配した場合を示すが、同様に隣り合った開繊体5相互の距離Lと開繊体頂点間の高さD、開繊体先端の曲率半径Rによって示される。
【0022】開繊体5間のL、D及び補強用繊維束接触面の曲率Rは、補強用繊維束1の開繊性、製造中の繊維切断の頻度に大きく影響することが判明した。即ち補強用繊維束1の開繊体先端での曲げ角度が小さい場合、つまりLとDの比率D/Lが小さい場合、補強用繊維束1の充分な開繊が達成出来ず、さらに開繊体先端での充分な面圧が発生しないため、樹脂の含浸が不充分な製品となる。一方、補強用繊維の曲げ角度が大きい場合、つまりLとDの比率D/Lが大きい場合、開繊体先端において補強用繊維束1に過大な張力が発生し、切断が増大する。
【0023】また開繊体5相互の距離Lが小さい場合繊維束の開繊性が阻害され、これが大きい場合は開繊体の個数が同一であるならダイボックスの全長が増大することを意味し、溶融樹脂の過大な滞留による分解が発生し易くなる。
【0024】開繊体先端の補強用繊維束接触面の曲率Rは特に繊維束の張力に大きく影響し、Rが大きいと繊維束引抜きに対する抵抗力が増大し、引抜きが困難になるのみならず、フィラメントが切断しやすくなり、製品外観の悪化やさらには完全に繊維束が切断し、製造中断となる重大な問題を引き起こす。また一方でRが小さい場合、開繊体先端での繊維束の曲率が小さくなるため、比較的脆い強化用繊維は切断しやすくなる。
【0025】以上の種々の観点に基づき検討した結果、L、D、Rの値をある範囲内に設定することで繊維切断を引き起こすこと無く、含浸が良好な製造方法を見出すに至った。即ち開繊体相互の頂点間の距離Lが40〜80mmでかつ開繊体相互の頂点間高さDとLとの比(D/L)が3/10〜5/10の間にあり、さらに補強用繊維と接触する開繊体の頂点の形状(曲率)がR=2.2〜3.0mmの範囲にある円形もしく山形状の開繊体を配することで、熱可塑性樹脂を使用した引抜き成形に好ましく適用できる。
【0026】開繊体5の個数は繊維束張力が繊維切断に至らない程度に増大することが出来るが、ラインスピードを上げるためには、その個数は8個以上とすることが望ましい。尚、開繊体の形状、構造やダイボックスへの固定方法は特に限定されるものではないが、上述のL,D,Rの範囲にある必要がある。
【0027】ダイボックス内の樹脂流動は主に補強用繊維束に付着した樹脂が繊維に引きずられる形でダイボックス出口側に運ばれ、その過程において主として開繊体5と補強用繊維束との間の接触面で溶融樹脂の含浸が進行する。また繊維により運ばれた余分の樹脂がノズルで絞られ、ダイボックス出口部に蓄積される。樹脂供給量が過多の場合はダイボックス出口から入口のほうまで樹脂が充満し、繊維の引抜き抵抗が大となり、望ましくない。
【0028】溶融樹脂の充満を制御し、ダイボックス内を飢餓状態に置くことによって、樹脂の抵抗による繊維のダメージが減少し、更に開繊体5での補強用繊維束1の開繊性もよく、補強用繊維束に付着した樹脂による含浸もダイボックス全般にわたって良好となる。樹脂充満状態は樹脂の種類、引取力、引取速度により異なるが、ダイボックス内部の開繊体の体積を除く全空間の容積の2/3以下、好ましくは1/2以下とするのが良い。ただし樹脂付着むら等を防止するためには少なくともダイボックス出口部付近は溶融樹脂で充満している状況が必要であるのは言うまでもない。さらにダイ内の空間部に不活性ガスを注入し、溶融樹脂の分解を抑制する処置もとることも好ましい方法である。
【0029】さらに溶融樹脂の充満位置の制御はダイボックス先端部での圧力と充満位置との関係をあらかじめ把握しておき、この関係と圧力検出からダイボックスへの樹脂供給量を制御することで実施出来る。
【0030】開繊体の形状は前記の繊維の引取方向に対して垂直に配置した円形の棒状のものや繊維接触部が半円径に加工された山形状の構造体いずれを用いることが可能であるが、山形状のもののほうが、繊維引取方向への樹脂の付着が容易であること(繊維に引きずられてダイボックス出口に移動しやすい)や樹脂の内部滞留の少なさ(空間容積が小さい)、及びダイボックス内、特に繊維と接触する開繊体への伝熱効率の点で優れている。一方、図2、3を比較すると分かるように、繊維と山形の傾斜面の間の溶融樹脂による剪断抵抗は大きくなる。本発明の開繊体として山形状開繊体を使用する場合には、図3に示される繊維接触部を頂点とする傾斜面と繊維束間のなす角度θは剪断抵抗及び空間容積が過大にならないようにするため8°〜30°とするのが好ましい。
【0031】開繊体の材質としては、伝熱係数の高い金属材料が好ましく、さらに繊維との接触による開繊体の摩耗と繊維側のダメージを防止する意味で、少なくとも接触部は硬質メッキやセラミック溶射等の耐摩耗処理と表面の平滑な仕上げが好ましい。
【0032】なお、図示したものは繊維束が一本であるが、繊維束の流れと垂直方向に延びた長い開繊体を用い、複数本の繊維束を所定間隔をおいて同時に樹脂の含浸を行い、ノズル7で1つに束ねて引き出すなどの手段を用いることもできる。
【0033】
【作用】本発明において引抜き成形法により補強用繊維束をダイボックス中に設けられた開繊体により開繊しながら溶融樹脂を含浸させる方法において、開繊体の相互位置を適切に配置し、かつ繊維束と開繊体との接触面形状を適切に設計することで繊維束のダイボックス中での繊維束の開繊を大きくし、溶融樹脂の含浸を容易にすることに加え、さらに開繊に伴う繊維束のダメージを低減させることが可能となることが判った。
【0034】即ち開繊体の相互位置はダイボックス中に於ける補強用繊維束の張力(繊維切断)及び開繊性に大きく影響し、開繊体の補強用繊維との接触面形状は特に繊維張力や接触抵抗に大きく関与し、繊維切断との相関性が大きいことが見出された。
【0035】ダイボックス中で繊維束にかかる張力は、開繊体を通過する毎に増大してゆき、ダイボックス出口で最大となるが、開繊体先端での曲げ角度や開繊体との接触面積が大きくなるほど張力の増大の度合いが大きくなる。成形時のラインスピードを上げる場合、張力はさらに増大し、加えて含浸性を高めるために開繊体数を増やすと益々張力が増大し、繊維切断の頻度が高くなる。このため、繊維切断を減少させるには少ない張力で効率よく繊維束を開繊させる必要が生じる。
【0036】上記の様な矛盾を解消するためには、本発明のような適切なダイボックス内の開繊体の形状設計が非常に有効となる。
【0037】加えて繊維束の良好な開繊と張力の増大を抑制する方法として、ダイボックス内への樹脂供給量を正確に制御し、ダイボックス内部の樹脂充満量を飢餓状態に維持することを併用すると、本発明の効果はさらに高まることがわかった。
【0038】
【実施例】以下、本発明を実施例および比較例にて具体的に説明する。
(実施例1)補強用繊維として繊維径16μmのE−ガラス繊維を約4000本引きそろえ、シランカップリング剤による表面処理と集束処理を施したガラスロービングを使用し、マトリックス樹脂としては0.5phrの無水マレイン酸変性したJIS K−7210(試験温度230℃、試験荷重2.16kgf)で測定したメルトフローレートが30g/10分のホモポリプロピレンを使用した。引抜き成形の方法は図1に示すように、径5mmの棒状開繊体を所定位置(L=70mm、D=30mm)に9個配置し、ダイボックス出口部に径3mmのノズルを取り付けたたダイボックスを使用し、ダイボックス温度はヒーターにより270℃に制御した。この温度でのゼロ剪断の樹脂溶融粘度は2500poiseである。樹脂供給は押出機に直結したダイボックス上下の2つの注入口より行った。ダイボックス内の樹脂充満量を内部空間容量の約1/2となるように押出機のスクリュー回転数を調整した。
【0039】ダイボックス入口のガラスロービングの張力を1.5kgfに維持しながら引取速度20m/minにて引抜き、ダイボックスを通して引き抜くときの引取力を荷重検出器を備えた引取機で検出した。またダイボックス内でのロービングの糸切れの状態を、成形体の表面状態観察にて実施し、以下の3水準で判定した。
【0040】○ : 良好(毛羽発生無し)
△ : やや悪い(毛羽発生多少有り)
× : 非常に悪い(ロービングの切断激しく、成形中断)
【0041】さらに樹脂の含浸状態を見るために、径が約3mmのロッド状の引抜き成形体を15cmの長さに切り、そのロッドを縦にして切断面をインク液に浸漬し、インクの上昇高さで判定した。つまり樹脂が完全に含浸していない部分は毛細管現象でインクが浸透しする。従ってインクの上昇が大きいほど含浸状態が悪いことを示す。含浸状態の判断は以下の3水準で実施した。
【0042】
○ : 良好(インク上昇長3mm以下)
△ : やや悪い(インク上昇長5mm以下)
× : 非常に悪い(インク上昇長10mm以上)
【0043】また物性を評価するためにロッド状成形体を12mmに切断し、成形用のペレットとした。次いで該ペレットを樹脂温度210℃、金型温度40℃の条件で射出成形して試験片を作製し、曲げ試験、引張試験、衝撃試験(アイゾット:ノッチ付き)、引張クリープ試験を実施した。
【0044】
引張試験: JIS K7054(23℃)
曲げ試験: JIS K7055(23℃)
IZOD衝撃試験: JIS K7110(23℃)
引張クリープ試験: JIS K7115(60℃、応力200kgf/cm2
以上の成形体の評価結果を表1に示す。
【0045】(実施例2〜4)開繊体形状(R、L、D)を表1のように変更した以外は実施例1と同一のガラスロービング、原料ポリプロピレン、装置、成形条件にて行った。評価結果を表1に示す。
【0046】(実施例5)開繊体を棒状のものから図3に示したような山形状(三角柱の一辺を曲面加工したもので、ロービングとの接触面をR=2.5、θ=17°とした)に変更した以外は、実施例1と同一のガラスロービング、原料ポリプロピレンおよび装置、成形条件にて行った。評価結果を表1に示す。
【0047】(比較例1〜5)開繊体形状(R、L、D)を表1の様に変更した以外は実施例1と同一のガラスロービング、ポリプロピレンおよび装置、成形条件にて行った。評価結果を表1に示す。
【0048】
【表1】


【0049】
【発明の効果】本発明によれば、強化繊維を熱可塑性樹脂に分散させる引抜き成形法、またはプルトルージョン法において、樹脂の粘度が高くても、また高速で引取を行ってもマトリックス樹脂の繊維への含浸性が良好で、かつ繊維の切断、引取力の増大等の問題が少なく、耐衝撃性、耐クリープ等の機械的性能及び製品外観の優れた繊維強化熱可塑性樹脂材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】引抜き成形用ダイボックスの模式図。
【図2】ダイボックス内の開繊体の模式図。
【図3】ダイボックス内の開繊体の模式図。
【符号の説明】
1 補強用繊維束
2 溶融樹脂
3 ダイ
4 繊維導入口
5 開繊体
6 レベル調整用ガイド
7 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】 補強用繊維束を熱可塑性樹脂で被覆、含浸させる引抜成形法において、ダイボックス内に上下より互い違いに配置され、固定された開繊体を配置し、開繊体相互の頂点間の距離Lが40〜80mmでかつ開繊体相互の頂点間高さDとLとの比(D/L)が3/10〜5/10の間にあり、さらに補強用繊維と接触する開繊体の頂点の形状が繊維引抜き方向と垂直方向に連続した半径R=2.2〜3.0mmの範囲にある断面円形もしく山形状の構造体を配し、開繊体相互の間を補強用繊維を張力下、被覆、含浸時の溶融粘度がゼロ剪断速度で1000poiseより大きい熱可塑性樹脂融液と共に引き抜くことを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項2】 開繊体の合計が8以上である請求項1記載の繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項3】 開繊体が山形状である請求項1または2記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】 山形状開繊体の傾斜面と補強用繊維とのなす角θが8°〜30°である請求項3記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】 ダイボックス内の溶融樹脂の充満量をダイボックスの空間容量の2/3以下に制御する請求項1〜4の何れかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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