説明

繊維強化複合材料とその製造方法

【課題】プリフォームとなる繊維基材の組糸構造を好適化して、複雑な3次元形状に形成されたプリフォームの組糸の密度を一定にして、繊維強化複合材料の強度を均一化し、その信頼性を向上する。
【解決手段】プリフォーム1には、賦形形状が異なる複数個の賦形部Z1〜Z7が、屈折線24に沿って設けられる。繊維基材2の編組面には、各賦形部Z1〜Z7の形成箇所に対応して、複数個の賦形編組部Y1〜Y7が設けられる。各賦形編組部Y1〜Y7における組糸4の密度が、賦形過程における各賦形部Z1〜Z7の組糸4の密度変化を補償する密度に設定される。以て、複数個の賦形編組部Y1〜Y7を備えた繊維基材2でプリフォーム1を形成して、複数個の賦形部Z1〜Z7における組糸4の密度を一定化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元形状の繊維強化複合材料とその製造方法に関し、プリフォームとなる繊維基材を作製する過程に特徴を有する。
【背景技術】
【0002】
3次元形状の繊維強化複合材料のプリフォームを得る際には、作製が容易な2次元形状の繊維基材を、当該3次元形状を有する賦形型に密着させて賦形する手法が多く採られている。このことは、例えば特許文献1および2などに公知である。
【0003】
【特許文献1】特開2006−188791号公報
【特許文献2】特開2007−144994号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記手法によれば、もともとは2次元形状の繊維基材を3次元形状に変形させるため、繊維基材には若干のシワが生じる。ここでシワとは、繊維が極端に折り曲げられた状態を指す。このシワは、後にプリフォームを繊維強化複合材料とした場合に、当該複合材料の強度低下の原因となる。シワが生じないように、2次元形状の繊維基材に切れ目を設けてから、3次元形状の賦形型に密着させることも考えられるが、その場合は、当該切れ目が新たに強度低下の原因になってしまう。
【0005】
そこで本発明者等は、プリフォームとなる繊維基材として組物を採用することを考えた。組物を構成する2方向の組糸は、織物を構成する緯糸と経糸に比べて互いに動き易く、交差角度が変化し易いという特徴がある。この組糸の動きによれば、組糸の配列を乱すことなく、繊維基材の全体形状を変化させることができる。つまり織物の場合は、3次元形状の賦形型に対して織物を正確に密着させようとすると、シワが生じるのを避けられない。しかし、組物の場合は、賦形型の形状に対応して組糸が動くので、賦形時にシワが生じることはなく、繊維強化複合材料とした際の強度を向上できる。
【0006】
このように、繊維基材として組物を採用すれば、最終的に、強度の高い繊維強化複合材料を得ることができる。しかし、賦形形状が異なる複数個の賦形部を含む複雑な3次元形状の繊維強化複合材料を製造する場合は、その強度にムラが生じるおそれがある。湾曲しない賦形部(直線部)では、組糸は互いに変位せず、組糸の密度は賦形過程の前後で変化しない。これに対し、湾曲する賦形部(湾曲部)では、組糸が互いに変位するため、その密度は賦形過程の前後で変化する。また、同じ湾曲部でも、湾曲方向または曲率が異なると、組糸の変位量が異なるため、密度の変化は異なる。つまり、繊維基材で組糸の密度を一定化しておいても、賦形過程後のプリフォームにおいて、その密度は一定にはならない。組糸の密度が一定でないプリフォームは、繊維強化複合材料とした際に強度が不均一となり、強度の低い箇所で破損し易く、信頼性に問題がある。
【0007】
本発明の目的は、プリフォームとなる繊維基材の組糸構造を好適化して、複雑な3次元形状に形成されたプリフォームの組糸の密度を一定にして、繊維強化複合材料の強度を均一化し、その信頼性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、組物からなる繊維基材を作製する組成過程と、繊維基材を賦形型に密着させて賦形することにより、屈折線を備えた3次元形状のプリフォームを形成する賦形過程と、プリフォームに溶融樹脂を含浸させたのち硬化させる樹脂含浸硬化過程とを経て得られる3次元形状の繊維強化複合材料に関する。プリフォームに、賦形形状が異なる複数個の賦形部が、屈折線に沿って設けられる。繊維基材の編組面には、各賦形部の形成箇所に対応して、複数個の賦形編組部が設けられる。各賦形編組部における組糸の密度が、賦形過程における各賦形部の組糸の密度変化を補償する密度に設定される。複数個の賦形編組部を備えた繊維基材でプリフォームを形成して、複数個の賦形部における組糸の密度が一定化してあることを特徴とする。繊維基材の組糸の密度は、組糸の組角度の調整などにより変化させることができる。
【0009】
本発明に係るプリフォームの最も簡単な具体例としては、湾曲しない1個の賦形部(直線部)と湾曲する1個の賦形部(湾曲部)とで構成されるもの、あるいは、形状が異なる2個の湾曲部で構成されるものを挙げることができる。後者において形状が異なるとは、湾曲方向あるいは曲率などが異なっていることを指す。3個以上の賦形部を含むプリフォームの場合も同様に考えることができ、この場合は、同一形状の賦形部を2個以上備えていてもよい。
【0010】
具体的には、プリフォームが、湾曲する賦形部を含んで形成される。繊維基材は、組糸の間に中央糸が組み込まれた組物からなり、プリフォームの湾曲する賦形部を通るように中央糸が配置してある。
【0011】
繊維基材が平打組物からなる形態を採ることができる。もしくは繊維基材が丸打組物からなる形態を採ることができる。後者の場合は、賦形過程に先行して、丸打組物を扁平に押し潰して2層状に形成し、賦形過程において、得られた2層状の繊維基材を賦形型に密着させて、プリフォームを形成する。
【0012】
また本発明は、組物からなる繊維基材を作製する組成過程と、繊維基材を賦形型に密着させて賦形することにより、屈折線を備えた3次元形状のプリフォームを形成する賦形過程と、プリフォームに溶融樹脂を含浸させたのち硬化させる樹脂含浸硬化過程とを含む3次元形状の繊維強化複合材料の製造方法に関する。プリフォームに、賦形形状が異なる複数個の賦形部が、屈折線に沿って設けられる。繊維基材の編組面には、各賦形部の形成箇所に対応して、複数個の賦形編組部が設けられる。各賦形編組部における組糸の密度が、賦形過程における各賦形部の組糸の密度変化を補償する密度に設定される。複数個の賦形編組部を備えた繊維基材でプリフォームを形成して、複数個の賦形部における組糸の密度が一定化してあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、繊維基材の編組面に、プリフォームに設けられる各賦形部の形成箇所に対応して、複数個の賦形編組部を設け、各賦形編組部における組糸の密度を、賦形過程における各賦形部の組糸の密度変化を補償する密度に設定する。具体例を挙げると、湾曲しない賦形部(直線部)では、組糸は変位せず、その密度は変化しないので、対応する賦形編組部の組糸の密度は基準値に設定する。プリフォームの湾曲する賦形部(湾曲部)が、組糸の中心線の間隔が広がるように湾曲しており、賦形前に比べて組糸の密度が小さくなる場合は、対応する賦形編組部の組糸の密度を基準値よりも大きく設定する。逆に湾曲部が、組糸の中心線の間隔が狭まるように湾曲しており、賦形前に比べて組糸の密度が大きくなる場合は、対応する賦形編組部の組糸の密度を基準値よりも小さく設定する。密度を大きくあるいは小さく設定する際の基準値との差は、賦形過程での密度の変化に応じて定める。
【0014】
このように、繊維基材の各賦形編組部の組糸の密度を、賦形過程における組糸の密度変化を補償する密度に設定していると、賦形過程において、複数個の賦形部における組糸の密度が一定化されたプリフォームを得ることができ、最終的には、強度が均一で信頼性の高い繊維強化複合材料を得ることができる。
【0015】
以上のように本発明は、賦形過程における密度変化を補償できるように、繊維基材の組糸の密度を設定するものであり、同じ繊維基材と賦形型を用いる限り、密度の変化は同一であることを前提としている。これを常に同一にするためには、各組糸に常に同じ動きをさせる必要がある。しかし、プリフォームの湾曲部においては、組糸が予定とは異なる動きをする場合がある。湾曲部内には、組糸が互いに大きく動く箇所と、あまり動かない箇所とがあり、組糸の動きを常に同じにするためには、これらの箇所を常に同一にする必要がある。しかし、全ての組糸が比較的自由に動ける状態にあると、これらの箇所が賦形する度に異なってしまう場合があり、組糸の密度が一定でない不良品のプリフォームが度々製造されてしまう。
【0016】
そこで本発明では、組糸の間に中央糸を組み込むようにした。中央糸の周辺部では組糸の動きが拘束されるので、プリフォームの湾曲部を通るように中央糸を配置しておけば、湾曲部内で組糸の動かない箇所を定めることができる。そして、組糸の動かない箇所が定まると、組糸の動く箇所も自然と定まる。つまり、湾曲部内の組糸の動きを常に同一にすることができる。換言すれば、組糸が常に予定した通りに動くようになる。これにより、プリフォームの組糸の密度をより確実に一定化できる。
【0017】
繊維基材を平打組物とした場合は、賦形前の加工を必要とせず、その状態のままで賦形型に密着させて賦形することができるので、繊維強化複合材料の製造工程の工数を削減することができる。一方、繊維基材を丸打組物とした場合は、扁平に押し潰すという簡単な作業で2層状に形成することができ、プリフォームの強度、すなわち、繊維強化複合材料の強度を容易に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(第1実施形態) 本発明に係る繊維強化複合材料とその製造方法の第1実施形態を、図1から図11を用いて説明する。ここでの繊維強化複合材料は、繊維基材2を作製する組成過程と、繊維基材2を賦形型3に密着させて賦形することによりプリフォーム1を形成する賦形過程と、プリフォーム1に溶融樹脂を含浸させたのち熱硬化させる樹脂含浸硬化過程とを経て、得ることができる。繊維基材2は、多数の組糸4を組んで成る平打組物である。以下ではまず、平打組物2を作製する組成過程について、図2から図5を用いて説明する。
【0019】
平打組物2を組成するための平打組機は、図2および図3に示すように、中心部が開口する円板状のプレート5と、プレート5に穿設された軌道6に沿って走行する多数のボビンキャリア7などで構成される。マンドレル8は、径方向より軸方向に長い中空円筒状に形成されており、プレート5の開口9の中心部を上下方向に貫通するように配置される。各ボビンキャリア7は、下部が軌道6内に収まるキャリアと、キャリアの上側に装着されたボビンと、ボビンに巻き付けられた組糸4の繰出機構とを備える。組糸4は、複数のガラス繊維あるいはカーボン繊維などを束ねた繊維束である。マンドレル8を上方向に移動させながら、各ボビンキャリア7を軌道6に沿って走行させることにより、マンドレル8の外周面上に組糸4を順次組み付けることができる。
【0020】
図2に示すように軌道6は、全体として、無限大の記号(∞)を複数個横一列に繋げたものを円形状に湾曲させたような形状を呈している。具体的には、軌道6は、各ボビンキャリア7が蛇行しながら平面視で時計回り方向に周回する往路11と、蛇行しながら反時計回り方向に周回する復路12と、往路11の終点から復路12の始点に繋がる第1折り返し点13と、復路12の終点から往路11の始点に繋がる第2折り返し点14とを備える。往路11と復路12は多数の箇所で交錯している。
【0021】
マンドレル8の外周面には、図3および図4に示すように、マンドレル8の軸方向に並ぶ多数のピン16からなる一対のピン列17・17が突出するように形成してあり、各ピン16の先端は、軌道6の折り返し点13・14に指向している。また、プレート5の上面から各ピン列17に向けて、一対の棒状のガイド18・18が配置される。詳しくは、各ガイド18は、軌道6の往路11と復路12に囲まれた折り返し点13・14の近接位置を基端として、そこから上斜め方向に伸びるように配置されている。図4に示すように、ボビンキャリア7が折り返し点13(14)に接近すると、当該ボビンキャリア7の組糸4がガイド18の基端部に引っ掛かる。そこからボビンキャリア7がさらに進むと、引っ掛かった組糸4はガイド18の先端方向に進み、やがて図4に実線で示すように、ガイド18の先端から1つのピン16に移る。ピン16に引っ掛かった組糸4は、図3に示すように、それまでとは逆方向に周回するようにマンドレル8に巻き付けられる。
【0022】
図5は、マンドレル8に対する組糸4の組み付けが完了した状態を示しており、多数の組糸4で構成された1つの組成体20が、マンドレル8の外周面上に形成されている。組成体20の横断面はC字形状を呈する。この組成体20をマンドレル8から分離すると、図6に示すような帯状の平打組物2が得られる。
【0023】
図6に示すように、平打組物2の幅方向両端部には、平打組物2の長手方向に伸びる中央糸22がそれぞれ配置される。中央糸22は、組成過程において、各ガイド18の基端に隣接する位置からマンドレル8の軸方向に送給されており、組糸4がマンドレル8に巻き付けられる際に組糸4の間に組み込まれる。中央糸22は組糸4と同様に繊維束からなる。中央糸22を構成する繊維は、組糸4のそれと同じでもよく、また異なっていてもよい。図6において符号Lで示した想像線は、平打組物2を幅方向に等分する二等分線である。2本の中央糸22・22は、二等分線Lと平行であり、また二等分線Lに対して対称である。
【0024】
組成過程に次いで行われる賦形過程では、図7(a)に示すように、繊維基材2を賦形型3に密着させて賦形することにより、3次元形状のプリフォーム1を形成する。賦形型3は、形成対象となるプリフォーム1の形状に対応して成形されており、この賦形型3の形状に合致するように平打組物2を賦形することにより、所望する形状のプリフォーム1を得ることができる。賦形過程ではまず、平打組物2の長手方向の一端側を賦形型3に密着させる。その状態から、密着の範囲を他端側へと広げていき、平打組物2の全体を賦形型3に密着させたところで、賦形過程は完了となる。この作業は手作業で行われる。
【0025】
図7に示すようにプリフォーム1は、湾曲する1本の屈折線24と、屈折線24に連続する2個の構成面25・25とからなり、断面はV字形状を呈する。屈折線24の形成箇所は、図6に示した平打組物2の二等分線Lに一致する。平打組物2を密着させる作業は、図6に示した二等分線Lに沿う折り目を平打組物2に対して先に設けてから行うこともできる。符号26はプリフォーム1の遊端線を示しており、各遊端線26の近傍に1本の中央糸22が配置される。賦形過程において中央糸22は、その周辺部で組糸4を拘束するため、遊端線26の長さ寸法は平打組物2の長手方向寸法にほぼ等しい。図7(b)に示すように、2個の構成面25・25および2本の中央糸22・22は、屈折線24の全体を含む垂直面Xに対して対称である。完成したプリフォーム1は、賦形型3に密着した状態のまま、次の樹脂含浸硬化過程に移される。賦形型3から離型すると、目的の繊維強化複合材料が完成する。
【0026】
図1に示すように、本実施形態に係るプリフォーム1は、屈折線24に沿って一列に並ぶ7個の賦形部Z1〜Z7を備えており、湾曲しない賦形部(直線部)Z1・Z3・Z5・Z7と、湾曲する賦形部(湾曲部)Z2・Z4・Z6とが交互に配置される。3個の湾曲部Z2・Z4・Z6のうち両端側の湾曲部Z2・Z6は、屈折線24がV字断面の頂角方向に凸曲状に湾曲する凸湾曲部であり、中間の湾曲部Z4は、凸湾曲部Z2・Z6とは逆方向に湾曲する凹湾曲部である。各湾曲部Z2・Z4・Z6の曲率は、屈折線24の全長にわたって一定であり、両凸湾曲部Z2・Z6の曲率は等しい。
【0027】
賦形過程において、各直線部Z1・Z3・Z5・Z7では組糸4は変位していないが、各湾曲部Z2・Z4・Z6では組糸4が互いに変位している。各遊端線26の近傍には中央糸22が配置されており、この中央糸22の周辺部では組糸4が拘束されるので、各湾曲部Z2・Z4・Z6の組糸4は、屈折線24側で大きく変位している。凸湾曲部Z2・Z6の屈折線24上では、賦形前と比べて隣接する組糸4の中心線の間隔が広がって、繊維束からなる組糸4の幅寸法が大きくなり、組糸4の密度が小さくなる。一方、凹湾曲部Z4の屈折線24上では、賦形前と比べて隣接する組糸4の中心線の間隔が狭まって、組糸4の幅寸法が小さくなり、組糸4の密度が大きくなる。
【0028】
以上のように、屈折線24の周辺部の組糸4の密度は、凸湾曲部Z2・Z6では賦形前より小さくなり、凹湾曲部Z4では大きくなり、そして直線部Z1・Z3・Z5・Z7では変化しない。そのため、平打組物2で組糸4の密度を一定にしていると、賦形過程を経たプリフォーム1では、各賦形部Z1〜Z7で密度がバラバラになってしまう。組糸4の密度が一定でなければ、繊維強化複合材料とした際に強度が不均一となる。本実施形態の繊維強化複合材料は、使用形態において、屈折線24の周辺部に最も大きい負荷が掛かることが想定されており、複合材料の信頼性の向上のためには、屈折線24の周辺部の強度を均一化する必要がある。そして、強度の均一化のためには、屈折線24の周辺部の組糸4の密度を一定化する必要がある。
【0029】
そこで本実施形態では、図8に示すように、平打組物2の編組面に、各直線部Z1・Z3・Z5・Z7に対応する賦形編組部(直線編組部)Y1・Y3・Y5・Y7と、各湾曲部Z2・Z4・Z6に対応する賦形編組部(湾曲編組部)Y2・Y4・Y6とをそれぞれ設けた。そして、湾曲編組部Y2・Y4・Y6の組糸4の密度を、賦形過程における組糸4の密度変化を補償する密度に設定した。具体的には、直線編組部Y1・Y3・Y5・Y7の組糸4の密度を基準値に設定する。凸湾曲部Z2・Z6では賦形過程で密度が小さくなるので、それに対応する凸湾曲編組部Y2・Y6の密度を基準値より大きく設定する。凹湾曲部Z4では賦形過程で密度が大きくなるので、それに対応する凹湾曲編組部Y4の密度を基準値より小さく設定する。各湾曲編組部Y2・Y4・Y6の密度の基準値との差は、対応する各湾曲部Z2・Z4・Z6での密度の変化に応じて設定する。密度の変化は、湾曲部Z2・Z4・Z6の曲率などにより定まる。以上のように各賦形編組部Y1〜Y7の密度を設定しておくと、平打組物2を賦形してプリフォーム1を形成したときに、屈折線24の周辺部の組糸4の密度が一定となる。
【0030】
各賦形編組部Y1〜Y7で組糸4の密度が異なる平打組物2は、組成過程において組糸4の組角度を順次変化させることにより、作製することができる。組角度とは、マンドレル8の中心軸に対して組糸4がなす鋭角のことであり、これが90°に近付くほど組糸4の密度は大きくなる。組角度を変更する手段としては、ボビンキャリア7からの組糸4の繰出角度を変更する方法の他、マンドレル8の移動速度あるいはボビンキャリア7の走行速度を変更する方法などを適用することができる。これらの方法を単独または組み合わせて適用して組角度を変化させると、組糸4が引っ掛かるピン16の間隔がそれまでとは変化する。つまり、組角度を大きくするほど間隔は小さくなり、逆に組角度を小さくするほど間隔は大きくなる。組角度を大きくしたとき、1本のピン16に2本以上の組糸4が引っ掛かることがないように、各ピン列17のピン16の間隔は充分に小さく設定されている。
【0031】
図8において符号θ1〜θ3は、平打組物2の各賦形編組部Y1〜Y7での2方向の組糸4の交差角度を示しており、組糸4の組角度が大きくなるほど交差角度は小さくなる。組糸4の密度が基準値である直線編組部Y1・Y3・Y5・Y7の交差角度θ1と比較して、組角度が大きく組糸4の密度が大きい凸湾曲編組部Y2・Y6では、交差角度θ2がθ1より小さい。また、組角度が小さく組糸4の密度が小さい凹湾曲編組部Y4では、交差角度θ3がθ1より大きい。
【0032】
図9は、プリフォーム1の直線部Z1・Z3・Z5・Z7の組糸4の構成を拡大して示す図であり、組糸4の交差角度φ1および幅寸法W1は任意の位置で等しい。これら直線部Z1・Z3・Z5・Z7では、賦形過程で組糸4が動かないことから、賦形過程の前後で交差角度および幅寸法は変化しておらず、交差角度φ1は、直線編組部Y1・Y3・Y5・Y7の交差角度θ1に等しい。
【0033】
図10(a)は、平打組物2の凸湾曲編組部Y2・Y6を示しており、ここでは組糸4の交差角度θ2および幅寸法V2が任意の位置で等しい。これら凸湾曲編組部Y2・Y6で幅寸法V2は、直線編組部Y1・Y3・Y5・Y7に比べて組角度を大きくしている関係で、直線編組部Y1・Y3・Y5・Y7のそれより若干小さくなっている。
【0034】
図10(b)は、凸湾曲編組部Y2・Y6が凸曲してできるプリフォーム1の凸湾曲部Z2・Z6を示す。ここで組糸4の交差角度は、交差箇所が屈折線24に近寄るほど小さくなっており、屈折線24上(φ21)で最小、遊端線26上(φ22)で最大となる。一方、組糸4の幅寸法は、屈折線24に近寄るほど大きくなっており、屈折線24上で最大、遊端線26上で最小となる。遊端線26上の幅寸法W22は、その近傍に配置された中央糸22により組糸4が拘束されるために、凸湾曲編組部Y2・Y6での幅寸法V2にほぼ等しい。屈折線24上の幅寸法W21は、着目すべき点として、直線部Z1・Z3・Z5・Z7での幅寸法W1にほぼ等しい。つまり、屈折線24の周辺部の組糸4の密度は、直線部Z1・Z3・Z5・Z7と凸湾曲部Z2・Z6とでほぼ等しい。なお、凸湾曲部Z2・Z6において、組糸4の交差角度とは、交差する組糸4の長手方向の中心線どうしがなす角のうち小さい方の角度を指し、組糸4の幅方向とは、前記中心線に直交する方向を指す。次の図11(b)に示す凹湾曲部Z4でも同様とする。
【0035】
図11(a)は、平打組物2の凹湾曲編組部Y4を示しており、ここでは組糸4の交差角度θ3および幅寸法V3が任意の位置で等しい。この凹湾曲編組部Y4で幅寸法V3は、直線編組部Y1・Y3・Y5・Y7に比べて組角度を小さくしている関係で、直線編組部Y1・Y3・Y5・Y7のそれより若干大きくなっている。
【0036】
図11(b)は、凹湾曲編組部Y4が凹曲してできるプリフォーム1の凹湾曲部Z4を示す。ここで組糸4の交差角度は、交差箇所が屈折線24に近寄るほど大きくなっており、屈折線24上(φ31)で最大、遊端線26上(φ32)で最小となる。一方、組糸4の幅寸法は、屈折線24に近寄るほど小さくなっており、屈折線24上で最小、遊端線26上で最大となる。遊端線26上の幅寸法W32は、その近傍に配置された中央糸22により組糸4が拘束されるために、凹湾曲編組部Y4での幅寸法V3にほぼ等しい。屈折線24上の幅寸法W31は、着目すべき点として、直線部Z1・Z3・Z5・Z7での幅寸法W1にほぼ等しい。つまり、屈折線24の周辺部の組糸4の密度は、直線部Z1・Z3・Z5・Z7と凹湾曲部Z4とでほぼ等しい。
【0037】
以上のように本実施形態では、屈折線24の周辺部の組糸4の密度が一定であるプリフォーム1を得ることができ、最終的に、屈折線24の周辺部の強度が均一な繊維強化複合材料を製造できる。この複合材料は、屈折線24の周辺部に大きい負荷が掛かっても破損し難く、信頼性の高いものである。
【0038】
(第2実施形態) 本発明に係る繊維強化複合材料の第2実施形態を、図12を用いて説明する。本実施形態は、各中央糸22を屈折線24の近傍に配置する点が、先の第1実施形態と相違する。この配置によれば、屈折線24の近傍で組糸4の動きが拘束されるので、屈折線24の長さ寸法は平打組物2の長手方向寸法にほぼ等しい。
【0039】
賦形過程において各湾曲部Z2・Z4・Z6の組糸4は、遊端線26側で大きく変位している。凸湾曲部Z2・Z6の遊端線26上では、賦形前と比べて隣接する組糸4の中心線の間隔が狭まって、組糸4の幅寸法が小さくなり、組糸4の密度が大きくなる。そのため、凸湾曲部Z2・Z6に対応する平打組物2の凸湾曲編組部Y2・Y6では、組糸4の密度が基準値より小さく設定してある。一方、凹湾曲部Z4の遊端線26上では、賦形前と比べて隣接する組糸4の中心線の間隔が広がって、組糸4の幅寸法が大きくなり、組糸4の密度が小さくなる。そのため、凹湾曲部Z4に対応する平打組物2の凹湾曲編組部Y4では、密度が基準値より大きく設定してある。本実施形態のプリフォーム1は、各遊端線26の周辺部で組糸4の密度が一定である。
【0040】
(第3実施形態) 本発明に係る繊維強化複合材料の第3実施形態を、図13から図15を用いて説明する。本実施形態は、プリフォーム1となる繊維基材として丸打組物2を採用する点が、先の第1実施形態と相違する。図13および図14は、丸打組物2を組成するための丸打組機を示しており、ピン16とガイド18を備えない点の他、軌道6の構成が第1実施形態とは異なっている。軌道6は、半数のボビンキャリア7が蛇行しながら平面視で時計回り方向に周回する無端状の第1軌道31と、残り半数のボビンキャリア7が蛇行しながら反時計回り方向に周回する無端状の第2軌道32とを備える。第1軌道31と第2軌道32は多数の箇所で交錯している。軌道6に沿ってボビンキャリア7が走行すると、マンドレル8の外周面上に、組糸4が螺旋状に巻き付けられる。
【0041】
マンドレル8に対する組糸4の組み付けが完了すると、図15に想像線で示すような円筒状の丸打組物2が得られる。この丸打組物2は、マンドレル8から分離した後、図15に実線で示すように、外周面側から扁平に押し潰して2層帯状に成形する。その後、賦形過程に移り、得られた2層状の丸打組物2を賦形型3に密着させて賦形することにより、プリフォーム1を形成することができる。それ以外の点は先の第1実施形態と同様であるため、同様の部材には同様の符号を付してその説明を省略する。
【0042】
その他本発明は、プリフォーム1が、曲率の異なる複数の湾曲部を備える場合、あるいは、直線部を備えずに複数個の湾曲部のみで構成される場合などにも適用することができる。プリフォーム1の湾曲部Z2・Z4・Z6のみに中央糸22を配置する形態を採ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】第1実施形態に係るプリフォームの形態を示す図である。
【図2】第1実施形態に係る平打組機の平面図である。
【図3】第1実施形態に係る平打組機の正面図である。
【図4】第1実施形態に係る平打組機のガイドとピンの作用を説明する図である。
【図5】第1実施形態に係る平打組機による組糸の組み付けが完了した状態のマンドレルの横断面図である。
【図6】第1実施形態に係る平打組物の構成を示す斜視図である。
【図7】第1実施形態に係るプリフォームが完成した状態を示す図であり、(a)が正面図、(b)が(a)のA−A線断面図である。
【図8】第1実施形態に係る平打組物の組糸の密度の大小関係を説明する図である。
【図9】第1実施形態に係るプリフォームの直線部の拡大図である。
【図10】第1実施形態に係る賦形過程での組糸の変位を示しており、(a)は、平打組物の凸湾曲編組部の拡大図、(b)は、凸湾曲編組部に対応するプリフォームの凸湾曲部の拡大図である。
【図11】第1実施形態に係る賦形過程での組糸の変位を示しており、(a)は、平打組物の凹湾曲編組部の拡大図、(b)は、凹湾曲編組部に対応するプリフォームの凹湾曲部の拡大図である。
【図12】第2実施形態に係るプリフォームの形態を示す図である。
【図13】第3実施形態に係る丸打組機の平面図である。
【図14】第3実施形態に係る丸打組機の正面図である。
【図15】第3実施形態に係る丸打組物の構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0044】
1 プリフォーム
2 繊維基材(平打組物・丸打組物)
3 賦形型
4 組糸
22 中央糸
24 屈折線
26 遊端線
Y1・Y3・Y5・Y7 繊維基材の賦形編組部(直線編組部)
Y2・Y6 繊維基材の賦形編組部(凸湾曲編組部)
Y4 繊維基材の賦形編組部(凹湾曲編組部)
Z1・Z3・Z5・Z7 プリフォームの賦形部(直線部)
Z2・Z6 プリフォームの賦形部(凸湾曲部)
Z4 プリフォームの賦形部(凹湾曲部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組物からなる繊維基材を作製する組成過程と、
前記繊維基材を賦形型に密着させて賦形することにより、屈折線を備えた3次元形状のプリフォームを形成する賦形過程と、
前記プリフォームに溶融樹脂を含浸させたのち硬化させる樹脂含浸硬化過程とを経て得られる3次元形状の繊維強化複合材料であって、
前記プリフォームに、賦形形状が異なる複数個の賦形部が、前記屈折線に沿って設けられており、
前記繊維基材の編組面には、前記各賦形部の形成箇所に対応して、複数個の賦形編組部が設けられており、
前記各賦形編組部における組糸の密度が、前記賦形過程における前記各賦形部の組糸の密度変化を補償する密度に設定されており、
複数個の前記賦形編組部を備えた前記繊維基材で前記プリフォームを形成して、複数個の前記賦形部における組糸の密度が一定化してあることを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項2】
前記プリフォームが、湾曲する賦形部を含んで形成されており、
前記繊維基材は、組糸の間に中央糸が組み込まれた組物からなり、
前記中央糸が、前記湾曲する賦形部を通るように配置してある請求項1記載の繊維強化複合材料。
【請求項3】
前記繊維基材が平打組物からなる請求項1または2記載の繊維強化複合材料。
【請求項4】
前記繊維基材が丸打組物からなり、
前記賦形過程に先行して、前記丸打組物を扁平に押し潰して2層状に形成し、
前記賦形過程において、得られた2層状の前記繊維基材を前記賦形型に密着させて、前記プリフォームが形成してある請求項1または2記載の繊維強化複合材料。
【請求項5】
組物からなる繊維基材を作製する組成過程と、
前記繊維基材を賦形型に密着させて賦形することにより、屈折線を備えた3次元形状のプリフォームを形成する賦形過程と、
前記プリフォームに溶融樹脂を含浸させたのち硬化させる樹脂含浸硬化過程とを含む3次元形状の繊維強化複合材料の製造方法であって、
前記プリフォームに、賦形形状が異なる複数個の賦形部が、前記屈折線に沿って設けられており、
前記繊維基材の編組面には、前記各賦形部の形成箇所に対応して、複数個の賦形編組部が設けられており、
前記各賦形編組部における組糸の密度が、前記賦形過程における前記各賦形部の組糸の密度変化を補償する密度に設定されており、
複数個の前記賦形編組部を備えた前記繊維基材で前記プリフォームを形成して、複数個の前記賦形部における組糸の密度が一定化してあることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記プリフォームが、湾曲する賦形部を含んで形成されており、
前記繊維基材は、組糸の間に中央糸が組み込まれた組物からなり、
前記中央糸が、前記湾曲する賦形部を通るように配置してある請求項5記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記繊維基材が平打組物からなる請求項5または6記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記繊維基材が丸打組物からなり、
前記賦形過程に先行して、前記丸打組物を扁平に押し潰して2層状に形成し、
前記賦形過程において、得られた2層状の前記繊維基材を前記賦形型に密着させて、前記プリフォームを形成する請求項5または6記載の繊維強化複合材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−58381(P2010−58381A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−226701(P2008−226701)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】