説明

繊維強化複合材料用三次元織物およびその成形方法

【課題】 強度が高く、かつ含浸したときの浸透度の高い繊維強化複合材料用三次元織物を提供するとともに、その三次元織物を成形するときに大型の専用の装置を必要とせず、種々の三次元織物を容易に成形することができる繊維強化複合材料用三次元織物の成形方法を提供する。
【解決手段】 長繊維を二次元に織り上げた織布1からなり、その織布1を積層した織布層2と、その織布層2を貫いて固定するピン3と、からなることを特徴とする繊維強化複合材料用三次元織物であって、略回転体形状の芯部材4に、軟質材5を巻き、その上に織布1を巻いて織布層2を成形し、その織布層2の表面から軟質材5まで到達するようにピン3を刺し込んで織布層2を固定し、その後芯部材4および軟質材5を取り外すことにより略回転体形状の三次元織物を成形する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、繊維強化複合材料に配向性やその製品に要求される性能に応じた特性を発現させる繊維強化複合材料用三次元織物およびその成形方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】現在、繊維強化複合材料は軽量かつ高強度であることから、航空宇宙関係、自動車関係、医療関係およびスポーツ関係などの分野で幅広く使用され、ニーズにあった複合材料の設計と、設計された複合材料を成形する技術が求められている。特に、長繊維を複合材料の基材として利用することにより、さまざまな複合材料の配向性やその製品に要求される性能に応じた特性などを発現させることができる。この長繊維は直径7〜140μmの連続的な繊維であるため、この長繊維を編み上げることにより容易に立体的な複合材料の基材を成形することができる。この立体的な複合材料の基材を繊維強化複合材料用三次元織物という。
【0003】繊維強化複合材料用三次元織物でも、平板形状のものは通常ニッティング法やスティッチング法などの成形方法により成形することができる。ニッティング法とは織布を積層した織布層に繊維を機械的に縫い付けて織布層を固定する方法であり、スティッチング法とは織布を積層した織布層に柔らかい繊維を針に通して刺し込むことにより織布層を固定する方法である。
【0004】また、円筒形状などの複雑な繊維強化複合材料用三次元織物は、フィラメントワインディング法という方法により成形することができる。図4はフィラメントワインディング法により繊維強化複合材料用三次元織物を成形するときの概念図である。フィラメントワインディング法とは、簡単にいうと、長繊維8をロービング9により束にし、テンショナー10およびレジンバス11を介し、マンドレル12に巻き付けて繊維強化複合材料用三次元織物を成形する方法である。長繊維8をマンドレル12に巻き付けるには、モーター13によりマンドレル12の軸14を回転させ、シャトル15をモーター13、ギアボックス16、チェーン17、ドライブリンクチェーン18およびトラック19の作用により軸14方向(図の矢印方向)に移動させる。このマンドレル12の回転とシャトル15の移動によりいろいろな巻き方をすることができる。
【0005】これらの方法で成形した繊維強化複合材料用三次元織物を、例えばCVI法などにより繊維強化複合材料化してセラミックス基繊維強化複合材料(CMC)を成形する。CVI法とは、原料ガスを充填した中に、この三次元織物を含浸し、そこで化学反応により生成したセラミック物質を含浸された三次元織物の間隙に充填する方法である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上述したニッティング法やスティッチング法では、大型の専用の装置を必要とし、しかも平板形状以外の繊維強化複合材料用三次元織物を製作することが難しい。また、フィラメントワインディング法では、長繊維をマンドレルに巻き付けるだけであるため、巻き付けられた層間が半径方向に強化されておらず、また巻き付けられた層間が密になりすぎてしまい、成形された繊維強化複合材料用三次元織物を繊維強化複合材料化のために含浸したときに、ガスやポリマーなどが浸透しにくく繊維強化複合材料化後の強度が低くなってしまう。さらに、図4に示すように装置が大型で複雑である。
【0007】本発明は上記課題を解決するために創案されたものである。すなわち、積層された層間を強化するとともに、繊維強化複合材料化のために含浸したときにガスやポリマーなどが浸透し易い繊維強化複合材料用三次元織物を提供し、さらにその三次元織物を成形するときに大型の専用の装置を必要とせず、平板形状や円筒形状のみならず略回転体形状の三次元織物であっても、容易に成形することができる繊維強化複合材料用三次元織物の成形方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、長繊維を二次元に織り上げた織布からなり、その織布を積層した織布層と、その織布層を貫いて固定するピンとからなることを特徴とする繊維強化複合材料用三次元織物が提供される。
【0009】また、上記ピンが樹脂で固めたヤーンであることが好ましく、さらに上記織布層が帯状の織布を幾重にも巻くことにより成形されたものであることが好ましい。
【0010】さらに本発明によれば、略回転体形状の芯部材に、軟質材を巻き、その上に織布を巻いて織布層を成形し、その織布層の表面から軟質材まで到達するようにヤーンを樹脂で固めたピンを刺し込んで織布層を固定し、その後芯部材および軟質材を取り外すことにより略回転体形状の三次元織物を成形することを特徴とする繊維強化複合材料用三次元織物の成形方法が提供される。
【0011】また、上記略回転体形状の芯部材が円筒形状のカーボンであることが好ましく、さらに上記軟質材がグラファイトシートであることが好ましい。
【0012】本発明によれば、長繊維を二次元に織り上げた織布からなり、その織布を積層した織布層と、その織布層を貫いて固定するピンとから構成することにより、層間の強化された繊維強化複合材料用三次元織物を容易に成形することができ、この三次元織物を繊維強化複合材料化のために含浸したときに、ピンがガスやポリマーなどを内部に浸透させる案内となるため、繊維強化複合材料化後の強度を向上させることができる。また、このように三次元織物を略回転体形状などに成形してもピンを刺し込んでいるため、その形状を維持することができる。
【0013】さらに本発明によれば、所望の形状の芯部材に、グラファイトシートなどの軟質材を巻き、その上に織布を巻いて織布層を成形し、その織布層の表面から軟質材まで到達するようにヤーンを樹脂で固めたピンを刺し込んで織布層を固定し、その後芯部材および軟質材を取り外すことにより略回転体形状の三次元織物を成形しているので、大型の装置を必要とせず容易に繊維強化複合材料用三次元織物を成形することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好ましい実施の形態を図1から図3を参照して説明する。なお、各図において、従来と共通する部分には同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0015】図1は本発明の繊維強化複合材料用三次元織物の側面図であり、図2はその断面図である。これらの図に示す実施の形態は、長繊維を二次元に織り上げた帯状の織布1からなり、その織布1を幾重にも巻いて円筒形状に積層した織布層2と、その織布層2を貫いて固定するピン3と、からなる繊維強化複合材料用三次元織物である。なお、この三次元織物の内径は50mm程度であり、織布層の厚さは3mm程度である。
【0016】上記ピン3は樹脂で固めたヤーンであり、このピン3を積層された織布層2に刺し込むことにより、織布層2を固定してばらけるのを防止するとともに、層間を強化する役割を果たしている。さらに、この三次元織物を繊維強化複合材料化するために含浸するときには、このピン3が本織物の内部にまでガスやポリマーなどを浸透させる案内となり、繊維強化複合材料化後の強度を高めることができる。
【0017】図3は本発明の繊維強化複合材料用三次元織物を成形する方法を示す図である。本発明の繊維強化複合材料用三次元織物は、円筒形状のカーボンである芯部材4に、グラファイトシートなどの軟質材5を巻き、その上に織布1を巻いて織布層2を成形し、その織布層2の表面からグラファイトシート5まで到達するように上述のピン3を手作業で刺し込んで織布層2を固定し、その後略回転体形状の芯部材4およびグラファイトシート5を取り外すことにより成形する。
【0018】このように成形することにより、ピン3がグラファイトシート5に刺さるため、芯部材4にピン3が衝突して破損するのを防ぐことができる。また、ピン3を刺し込む作業を機械化してもよいし、刺し込む角度を変化させることにより配向性や製品に合わせた特質を発現させるようにしてもよい。
【0019】上述した実施の形態においては、円筒形状のカーボンである芯部材4を使用して繊維強化複合材料用三次元織物を成形したが、円錐などの回転体のような形状のものでもよいし、平板形状のものにも応用することができる。また、芯部材4の材質はカーボンでなくても金属などのようにある一定の形状を維持できるものであればよい。
【0020】グラファイトシート5は厚さが2〜3mmの紙のような軟質材であるが、グラファイトシート5に限らずピン3が刺さる程度の柔らかさを有する軟質材であればよい。
【0021】成形した三次元織物を繊維強化複合材料化するために含浸する前に、芯部材4およびグラファイトシート5を取り外さなければならないが、ピン3は織布層2との摩擦力により抜けることはない。
【0022】このピン3により三次元織物の半径方向の強度を高くすることができる。また、上述したようにフィラメントワインディング法では、直に長繊維を巻き付けているため層間が密になりすぎてしまうが、本発明によれば、長繊維を二次元に織り上げた帯状の織布1を幾重にも巻いて積層して織布層2を成形しているため、層間には僅かな間隙が存在し、この三次元織物を繊維強化複合材料化のために含浸させたときには、ピン3に案内されて三次元織物内部の層間の間隙にまでガスやポリマーなどが浸透し、繊維強化複合材料化後の強度を高くすることができる。また、織布2、芯部材4および軟質材5の大きさを変更するだけで、三次元織物を所望の大きさに成形することができる。
【0023】なお、本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【0024】
【発明の効果】上述した本発明の繊維強化複合材料用三次元織物およびその成形方法によれば、大型の専用の装置を必要とせず、芯部材と軟質材を利用するだけで容易に、強度が高く、繊維強化複合材料化するときの浸透度の高い繊維強化複合材料用三次元織物を成形することができる。また、芯部材の形状を変更するだけで種々の形状、大きさの繊維強化複合材料用三次元織物を成形することができる、などの優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の繊維強化複合材料用三次元織物の側面図である。
【図2】図1の断面図である。
【図3】本発明の繊維強化複合材料用三次元織物の成形方法を示す図である。
【図4】フィラメントワインディング法により繊維強化複合材料用三次元織物を成形するときの概念図である。
【符号の説明】
1 織布
2 織布層
3 ピン
4 芯部材
5 軟質材(グラファイトシート)
8 長繊維
9 ロービング
10 テンショナー
11 レジンバス
12 マンドレル
13 モーター
14 軸
15 シャトル
16 ギアボックス
17 チェーン
18 ドライブリンクチェーン
19 トラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】 長繊維を二次元に織り上げた織布からなり、その織布を積層した織布層と、その織布層を貫いて固定するピンとからなることを特徴とする繊維強化複合材料用三次元織物。
【請求項2】 上記ピンが樹脂で固めたヤーンである請求項1記載の繊維強化複合材料用三次元織物。
【請求項3】 上記織布層が、帯状の織布を幾重にも巻くことにより成形された請求項1または請求項2記載の繊維強化複合材料用三次元織物。
【請求項4】 略回転体形状の芯部材に、軟質材を巻き、その上に織布を巻いて織布層を成形し、その織布層の表面から軟質材まで到達するようにヤーンを樹脂で固めたピンを刺し込んで織布層を固定し、その後芯部材および軟質材を取り外すことにより略回転体形状の三次元織物を成形することを特徴とする繊維強化複合材料用三次元織物の成形方法。
【請求項5】 上記略回転体形状の芯部材が円筒形状のカーボンである請求項4記載の繊維強化複合材料用三次元織物の成形方法。
【請求項6】 上記軟質材がグラファイトシートである請求項4または請求項5記載の繊維強化複合材料用三次元織物の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開平9−141774
【公開日】平成9年(1997)6月3日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−301287
【出願日】平成7年(1995)11月20日
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【出願人】(000228338)日本カーボン株式会社 (19)