説明

繊維成形体の製造方法

【課題】 亀裂が発生し難い繊維成形体の製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の繊維成形体の製造方法は、抄造工程で抄造し且つ乾燥工程で乾燥した繊維積層体を乾燥型に保持し、乾燥した該繊維積層体の湿潤状態時の形状と同一の湿潤状態の繊維積体を、前記の乾燥した該繊維積層体に重ね合わせて両者を合体させる。前記繊維スラリーは、有機繊維、無機繊維、無機粉体および熱硬化性樹脂を含んでいることが好ましい。また、前記繊維スラリーは、熱膨張性マイクロカプセルを含んでいることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内層抄造体と外層抄造体からなる繊維成形体の製造方法としては、例えば、下記特許文献1に記載の方法が知られている。
特許文献1には、パルプ繊維等を含むスラリーから内層および外層を抄造し、所定の含水率まで乾燥させた外層と、湿潤状態の内層とを型に入れて一体化させる断熱容器の製造方法が記載されている。特許文献1では、内層と外層の形状については特に言及されていないが、内層は外層内に収納されるため、内層は外層よりも小サイズと思われるが、図2に示されている内層と外層の大きさからも、それが裏付けられている。すなわち、内層と外層は同一形状ではない。
特許文献2には、有機繊維、無機繊維およびバインダーを含有する鋳物製造用抄造部品が記載され、バインダーとしては、黒曜石やアルミナ等の無機粉体およびフェノール樹脂が挙げられている。
また特許文献3には、パルプ内に熱膨張性マイクロカプセル型発泡剤を含有させたパルプモウルドが記載されている。
【0003】
ところで、特に、有機繊維、無機繊維、無機粉体および熱硬化性樹脂を含むスラリーから厚みが薄い繊維成形体を製造する場合、抄造された湿潤状態の繊維積層体を雄または雌型に配置して雌または雄型と組み合わせて該繊維積層体を加熱押圧して繊維成形体を製造する際には、繊維成形体に亀裂が発生しやすいという問題点があり、特に、凹凸を有する肉薄繊維成形体の製造では亀裂の発生がより顕著であった。
【0004】
【特許文献1】特開2002-321776号公報
【特許文献2】特開2004-195547号公報
【特許文献3】特開平10−96200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、亀裂が発生し難い繊維成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、繊維スラリーから湿潤状態の繊維積層体を抄造する抄造工程と、前記繊維積層体を加熱された雌雄一対の乾燥型内に収容して乾燥する乾燥工程とを具備する繊維成形体の製造方法であって、前記抄造工程で抄造し且つ乾燥工程で乾燥した繊維積層体を前記雌雄いずれかの乾燥型に保持し、該乾燥した繊維積層体と該乾燥した繊維積層体の湿潤状態時の形状と同一の湿潤状態の繊維積層体とを重ね合せ、前記乾燥型を閉じて該乾燥した繊維積層体と該湿潤状態の繊維積層体とを合体させる繊維成形体の製造方法を提供することにより、前記目的を達成したものである。なお、本願における乾燥した繊維成形体とは、含水率が0〜10質量%の繊維積層体であり、湿潤状態の繊維積層体とは、含水率が60〜80質量%の繊維積層体をいう。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、亀裂が発生し難い繊維成形体の製造方法が提供される。特に、肉薄で表面に凹凸を有する繊維成形体の製造に顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
【0009】
図1と図2は、本発明の繊維成形体の製造方法を、機械部品鋳造用の鋳型(主型)の製造に適用した製造装置を模式的に示したものであり、符号1は製造装置を示す。
【0010】
製造装置1は、図3に示す半筒状の繊維成形体Pを製造するためのものであり、原料の繊維スラリーの貯留に係わる枠体2と、繊維スラリーから湿潤状態の繊維成形体を抄造する抄造型3と、抄造された繊維成形体を乾燥する乾燥型4を備えている。抄造型3は、抄造される繊維積層体の形状に対応した抄造部30を有し、抄造部30には、その表面で開口する抄造部気液流通路31がその内部に設けられ、それは吸引ポンプ等の吸引手段(図示せず)に接続されている。なお、抄造型3の表面には抄造ネット(図示せず)が配されている。なお、抄造型3は脱水型を兼ねる。すなわち、抄造型3を用いて繊維積層体の抄造と脱水が行われる。
【0011】
さらに、製造装置1の乾燥型4は、乾燥雌型41と乾燥雄型42からなる。これらの型が突き合わせられたとき、これらの型間には、製造される繊維成形体の外形形状に対応した空隙(クリアランス)が形成される。乾燥雌型41と乾燥雄型42はヒータ43を内蔵し、乾燥雌型41には、その表面で開口する乾燥型液流通路44がその内部に設けられ、それは吸引ポンプ等の吸引手段(図示せず)に接続されている。
【0012】
次に、本発明の繊維成形体の好ましい製造方法の一例を、図1及び図2を参照して説明する。
【0013】
まず、図1(a)及び図2(a)に示すように、枠体2と抄造型3を組み合わせて原料スラリー貯留空間を形成したものを2セット用意し、その1セットの前記空間に、原料スラリーを供給する。該原料スラリーは、水、有機繊維、無機繊維、無機粉末、熱硬化性樹脂及び熱膨張性マイクロカプセルを含有している。原料スラリーの固形分濃度は0.05〜2質量%に設定するのが好ましい。また、後述の亀裂修復効果を向上させる観点から、原料スラリーには熱膨張性マイクロカプセルを含有させておくのが好ましい。
【0014】
次に、抄造型気液流通路31を吸引ポンプで吸引して、抄造型3の抄造部30表面の抄造ネット上に繊維積層体を形成させ、枠体内に原料スラリーが存在しない状態にする。次いで、吸引ポンプによる吸引を継続して繊維積層体から水をある程度除去し、枠体2と抄造型3を分離させて抄造型3の表面に載置された湿潤状態の繊維積層体(含水率は、約70質量%)を得る。なお、湿潤状態の繊維積層体の含水率は60〜80%になるようにする。
【0015】
次に、図1(c)に示すように、湿潤状態の繊維積層体を載置した抄造型3と乾燥雌型41を突き合せて、抄造型気液流通路31から空気を噴射させると共に、乾燥型気液流通路44を吸引ポンプで吸引し乾燥雌型41の表面に湿潤状態の繊維成形体を吸着させる。
【0016】
次いで、図1(e)に示すように、湿潤状態の繊維積層体を内面に吸着保持した乾燥雌型41と乾燥雄型42を突き合せて湿潤状態の繊維積層体を挟みつけ、それを乾燥させる。両乾燥型の温度を130℃〜200℃に保ち、乾燥型気液流通路44からの吸引を継続する。予め設定した乾燥時間の後、図1(f)に示すように、乾燥気液流通路44から前述の方法により、空気を噴射させて乾燥雌型41と乾燥雄型42を分離させ、乾燥雄型42の表面に乾燥した繊維積層体が載置された状態にする。以上、第1工程である。
【0017】
以上の第1工程を実施している間に、図2(a)に示すように、枠体2と抄造型3のもう一つのセットの原料スラリー貯留空間に、前記の原料スラリーを供給し、前述の方法に準じて湿潤状態の繊維積層体を製造して、図2(b)に示すように、それを乾燥雌型41の表面に保持しておく。なお、湿潤状態の繊維積層体は、第1工程で製造された乾燥した繊維積層体の湿潤時の繊維積層体と同一形状である。
【0018】
次いで、図2(c)、(d)に示すように、乾燥雌型の内表面に湿潤状態の繊維積層体を保持した状態とし、図2(e)に示すように、該乾燥雄型42と第1工程で製造された乾燥した繊維積層体を載置した乾燥雌型41を突き合わせて、両繊維積層体を合体させ、それぞれの型の温度を130℃〜200℃に保ち、合体した繊維積層体を乾燥させて一体化し、予め設定した乾燥時間を経ると、図2(f)に示すように、目的とする繊維成形体を得るが、該繊維成形体を型から取り出す際には、乾燥型気液流通路から空気を噴射させて乾燥雌型41と乾燥雄型42を分離させるとよい。以上が、第2工程である。なお、乾燥型に設けられたヒータは、乾燥型を加熱するためのものである。
【0019】
本発明に係わる有機繊維としては、木材パルプ、非木材パルプ等の各種パルプ繊維が挙げられる。また、バージンパルプ、古紙由来のパルプのいずれのパルプも使用することができる。本願発明に係わる無機繊維としては、炭素繊維、セラミックス繊維、スラグウール、グラスウール等が挙げられ、無機粉体としては、黒鉛、シリカ、アルミナ、マグネシア、酸化チタン、酸化鉄等が挙げられる。本発明に係わる熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。更に、固形分として、無機粉体又は無機繊維、或いは無機粉体と無機繊維の合計が主成分であるスラリーを用いると、本願発明の効果がより顕著に発揮される。主成分とは、固形分の50質量%以上を占めることを意味する。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。水中に、下記の成分を分散させて固形分が約1質量%のスラリーを調製した。
・無機粉体(鱗状黒鉛):78(単位は質量部、以下同様)、
・無機繊維(東レ(株)製の炭素繊維、商品名「トレカチョップ」、繊維長さは3mm、収縮率は0.1%):4、
・有機繊維(新聞古紙由来のパルプ繊維、平均繊維長は1mm、フリーネス(CFS)は150cc):4、
・熱膨張性マイクロカプセル(松本油脂製薬(株)製の商品名「マツモトマイクロスフェアーF-793D」):12
・熱硬化性樹脂(エア・ウォーター・ベルパール(株)製の商品名「S890」):12。
【0021】
<第1工程>
前記のスラリーを用いて、前述の方法に準じて湿潤状態の繊維積層体(含水率:70質量%)を抄造し、次いで、この繊維積層体を乾燥雌型と乾燥雄型で挟みつけて加熱押圧して厚みが1mmの図3で示されるような形状の乾燥した繊維積層体(含水率:略0質量%)を得た。なお、乾燥させるときの温度は180℃であった。この繊維積層体のコーナー部分には亀裂が認められた。
【0022】
<第2工程>
前記のスラリーを用いて、乾燥した前記繊維積層体の製造とは別に、前述の方法に準じて湿潤状態の繊維積層体(乾燥した前記繊維積層体の湿潤時と同一形状であり、含水率:70質量%、厚みは1mm)を製造した。次いで、これら乾燥した繊維積層体と湿潤状態の繊維積層体を、前述の方法に準じて重ね合わせて 乾燥雌型と乾燥雄型で加熱押圧して、図3に示す厚みが1mmの繊維成形体(含水率:略0質量%)を製造した。なお、加熱押圧時の温度は180℃であった。
【0023】
第1工程が従来の方法であるが、この方法では、繊維積層体には亀裂が発生した。第1工程と第2工程を合わせた工程が本発明の方法であるが、この方法で製造された繊維積層体は、前述の乾燥した繊維成形体の亀裂が修復され、亀裂の発生は全く認められず、その表面は平滑であった。また、亀裂が発生した繊維積層体に比べ、本発明の方法で製造された繊維成形体は密度が高く緻密なことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の繊維成形体の製造方法は、種々の繊維成形体の製造に広く応用できるが、有機繊維よりも無機粉体あるいは無機繊維を主成分とするスラリーから抄造された肉薄で表面に凹凸のある繊維成形体の製造に特に好適に使用できる。繊維成形体の用途は特に制限されないが、鋳物製造用部材、各種容器、各種管等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の繊維成形体の製造方法を鋳型(主型)の製造に適用した実施形態の<第1工程>を模式的に示す図であり、(a)は枠体と抄造型が組み合わされて形成された原料スラリー貯留空間に原料スラリーが貯留されている状態を示す図、(b)は抄造された湿潤状態の繊維積層体が抄造型の表面に載置された状態を示す図、(c)は湿潤状態の繊維積層体が抄造型と乾燥雌型で挟まれた状態を示す図、(d)は湿潤状態の繊維積層体が乾燥雌型の内表面に保持された状態を示す図、(e)は湿潤状態の繊維積層体が乾燥雌型と乾燥雄型で加熱押圧されている状態を示す図、(f)は乾燥した繊維積層体が乾燥雄型の表面に載置された状態を示す図である。
【図2】本発明の繊維成形体の製造方法を鋳型(主型)の製造に適用した実施形態の<第2工程>を模式的に示す図であり、(a)、(b)及び(c)は図1の(a)、(b)及び(c)と同様であり、(d)は第2工程で得られた湿潤状態の繊維積層体を保持した乾燥雌型と、第1工程で得られた乾燥した繊維積層体を載置した乾燥雄型を突き合わせる前の状態を示す図、(e)は(d)の乾燥雌型と乾燥雄型が突き合わされて繊維積層体が乾燥せられている図、(f)は(e)の乾燥が終了して目的とする繊維成形体が得られた状態を示す図である。
【図3】本発明の繊維成形体の製造方法で製造される繊維成形体の一例を示す斜視図であるが、これは実施例で製造された鋳物製造部材の一種である鋳型(主型)である。
【符号の説明】
【0026】
1 繊維成形体の製造装置
2 枠体
3 抄造型
30 抄造部
31 抄造型気液流通路
4 乾燥型
41 乾燥雌型
42 乾燥雄型
43 ヒータ
44 乾燥型気液流通路
P 繊維成形体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維スラリーから湿潤状態の繊維積層体を抄造する抄造工程と、前記繊維積層体を加熱された雌雄一対の乾燥型内に収容して乾燥する乾燥工程とを具備する繊維成形体の製造方法であって、
前記抄造工程で抄造し且つ乾燥工程で乾燥した繊維積層体を前記雌雄いずれかの乾燥型に保持し、該乾燥した繊維積層体と該乾燥した繊維積層体の湿潤状態時の形状と同一の湿潤状態の繊維積層体とを重ね合せ、前記乾燥型を閉じて該乾燥した繊維積層体と該湿潤状態の繊維積層体とを合体させる繊維成形体の製造方法。
【請求項2】
前記繊維スラリーが、有機繊維、無機繊維、無機粉体および熱硬化性樹脂を含む請求項1記載の繊維成形体の製造方法。
【請求項3】
前記繊維スラリーが熱膨張性マイクロカプセルを含む請求項2記載の繊維成形体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−322123(P2006−322123A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148747(P2005−148747)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】