説明

繊維束の開繊方法と、その方法に使用する装置

【課題】 本発明は、任意本数の高強度繊維束を一挙に高速かつ簡便に開繊を行うことができ、しかも構成繊維が幅方向へ平行かつ一様な密度に整列した状態の高品質な開繊繊維束や開繊糸シートを高能率に製造できる合理的な繊維束の開繊方法と、その方法に使用する開繊装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、給糸体又は給糸クリールから繊維束を送り出す一方、この繊維束に緊張と弛緩との張力変化を交互に連続させ、こうして張力変化を伴いながら移動する繊維束を、その移動進路に沿って数珠繋ぎに配設された流体通流部から成る流体通流開繊機構に架線状態で順々に移動させ、これらの流体通流部を移動する際に前記繊維束が流体との接触抵抗によって流体通過方向へ撓曲され、かつ、当該接触抵抗を受けて繊維結束が弛められて形成された当該繊維束の間隙に流体を通過させて開繊作用を履歴させ、張力変化と流体通過との相互作用によって繊維束を拡幅開繊させて目的を達成するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維束の開繊技術、より詳しくは、所望される任意本数の繊維束を、乱流のない流動流体に複数回にわたり連続的に波状に撓ませながら繰り返し接触させつゝ移動させ、要すれば、この開繊作用を受けながら移動する繊維束に対して当該移動方向とは交差する方向へ断続的に局部押圧を加えて繰り返し張力変化を与え、更に要すれば、開繊進行途上にある開繊繊維束に対して開繊幅方向へ直線的な進退摩擦を付与して、高品質の開繊繊維束および開繊糸シートを量産することができる繊維束の開繊方法とその方法に使用する開繊装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のとおり、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などの強化繊維とエポキシ樹脂などのマトリックス樹脂とからなる繊維強化複合材料は、軽量にして機械的強度や耐食性にも優れているところから、釣り竿やゴルフシャフトのごとき一般消費者のための耐久消費材、産業機械の構成部品など、さらには航空機・ロケットなど幅広い分野で用いられている。しかして、この繊維強化複合材料の成形体を製造する方法としては、前記強化繊維から成るプリプレグシート(preimpregnation sheet)の繊維間にマトリクス樹脂を含浸せしめた中間材料を用いるのが一般的である。そして、近年においては製品に対する軽量化の要請が高まり、より均一で薄いプリプレグシートが求められるようになってきた。
【0003】
もし、そのような均一で薄いプリプレグシートが大量かつ安価に得られるならば、薄肉成形体を量産できるだけではなく、一方向へ整然と引き揃えられた繊維シートは縦横斜めに繊維の向きを様々に組み合わせて積層させることにより多重プリプレグシートにアレンジすることも可能にする。そして、そのような積層プリプレグシートが実現されて、これを使用して繊維強化製品を製することができたならば、その製品の破壊強度を大幅に向上する。このような産業各分野の要請から、繊維束を構成する繊維が幅方向に平行で、しかも全体的に薄くて繊維の分布密度も一様な開繊繊維シートの合理的製造技術が必要になってきているのである。
【0004】
また、プリプレグシートの製造に関しては、開繊した強化繊維束の材料コストの低減化も要求される。均一で薄いプリプレグシートを作る場合には、通常、フィラメント数の少ない強化繊維束を一方向に引揃えて使うのが簡単である。しかし、フィラメント数の少ない強化繊維束は高価であることから、フィラメント数の多い強化繊維束を使用しなければならなくなる。そこで、フィラメント数の多い強化繊維束を開繊して、薄い強化繊維束シートを作り、これを用いて相対的に安価で、薄くて繊維並びの均一なプリプレグシートを得る技術が必要となるのである。
【0005】
従来、繊維束を開繊する方法としては、丸棒で繊維束を扱いて構成繊維を延し広げる方法、水流や高圧空気流を当てゝ構成繊維を幅方向へ散ける方法、そして超音波で各繊維を振動させ散けさせる方法等が知られている。例えば、丸棒で扱く方法としては、軸方向に振動する回転ロールに繊維束を接触通過させ開繊させる方法(特開昭56−43435号公報)、30〜90°に配置された複数本のロールに繊維束を接触通過させて開繊させる方法(特公平3−31823号公報)などがある。また、水流や高圧空気流を作用させる方法としては、高圧流体を繊維束に当てゝ開繊させる方法(特開昭52−151362公報)、移動する繊維束に当該移動方向に対し垂直に流体当てゝ、その際の流体分散力によって開繊させる方法(特開昭57−77342公報)があり、さらに超音波を利用する方法としては、軸方向に超音波振動している丸棒に直交方向に繊維束を接触させ開繊させる方法(特開平1−282362号公報)などがある。
【0006】
しかしながら、上記何れの従来方法にあっても、収束方向へ復元力の働く繊維束に対して、繊維束を引っ張りながら走行させ物理的な力を付加して繊維を強制的に幅方向へ移動させ開繊させようとする。このため、開繊幅は広くならず、かつ繊維は傷付き、毛羽立ち・繊維切れなどを生ずる。この場合、繊維束の走行速度を高めるならば、丸棒で扱く方法にあっては丸棒と繊維束の摩擦抵抗が大きくなりより繊維切れが生じ易くなるし、水流を作用させる方法では水の乾燥に大きなエネルギーを必要とするなどの難点が生ずる。このように従来においては、繊維束を高速、かつ連続安定して幅広く開繊することは難しく、有効な技術が未だ確立されていなかったのである。
【0007】
ところが、かゝる状況下で本発明者らは、特許第3049225号「開繊シートの製造方法、および開繊シート製造装置」、特許第3064019号「マルチフィラメント開繊シートの製造方法、およびその製造装置」を提案し、繊維束を撓ませた状態にして繊維束の移動方向と直行方向に吸引空気流を作用させることにより、繊維束を幅広く、かつ繊維分布が良好な開繊繊維束を製造することに成功した。この方法では、繊維束が撓んでいることにより、繊維束を構成する各繊維が幅方向に無理なく移動できる、つまり、幅方向に開繊し易い状態となり、この状態にある繊維束に吸引空気流を作用させ、各繊維間に空気を通過させることにより、繊維分散性の良い、幅広な開繊を実施できるようになったのである。
【0008】
しかしながら、本発明者が先に提案した開繊技術においても、フロントフィーダ、吸引風洞管、バックフィーダ、撓み測定センサーなどを1単位とした開繊機構を必要とする。そして、繊維束の繊維をより均一に分散させ、もっと幅広く薄く開繊させようとするならば、そのような開繊機構を何連も連続的に縦列的に設置し徐々に開繊を進行させる必要があり、装置の大型化となっていた。また、多数本の繊維束を幅方向に並べ、同時に開繊を進行させようとするならば、前記の開繊機構を幅方向にも並列させなければならず、さらに装置が大型化・複雑化する問題を生じているのである。
【特許文献1】特開昭56−43435号公報
【特許文献2】特公平3−31823号公報
【特許文献3】特開昭52−151362公報
【特許文献4】特開昭57−77342公報
【特許文献5】特開平1−282362号公報
【特許文献6】特許第3049225号公報
【特許文献7】特許第3064019号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、開繊繊維束を製造する従来技術に前述の如き技術的隘路があったのに鑑みて為されたものであって、構成繊維が幅方向へ平行かつ一様な密度に整列した状態の高品質な開繊繊維束および開繊糸シートを高能率に製造することができる合理的な繊維束の開繊方法と、その方法を有利に実施することができる開繊装置を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明の他の目的は、FRPやFRTP成形品などの補強基材として使用するに足るだけの十分に広幅で、構成繊維の間にも高粘度の溶融熱可塑性樹脂を円滑かつ一様に含浸させ得る樹脂浸透性の優れた繊維束の開繊方法と、それに使用する開繊装置を提供することにある。
【0011】
また、本発明の他の目的は、高強度繊維(例えば、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、アロマティック・ポリアミド繊維など)の集束した繊維束を省スペースで安価に開繊して広幅の開繊繊維束に加工することができる経済的な繊維束の開繊方法と、その装置を提供するにある。
【0012】
さらに、本発明の他の目的は、任意本数の高強度繊維束を一挙に高速かつ簡便に開繊を行うことができる方法と装置を提供するにある。
【0013】
本発明の更に他の目的は、以下の説明において一層具体的に解説してゆくものとする。
【課題を解決するために採用した手段】
【0014】
本発明者が上記課題を解決するために採用した方法的手段と機械的手段は、添附図面を参照して説明すれば、次のとおりである。
【0015】
まず、本発明に係る“繊維束の開繊方法”は、給糸体11(ボビン、コーン、チーズ等)から繊維束Tmを解舒して送り出す一方、こうして送り出されてくる前記繊維束Tmを、複数の流体通流部31a・31b・31c・…が当該繊維束の移動進路に沿って数珠繋ぎに連接して成る流体通流開繊機構3の前記流体通流部31a・31b・31c・…の各々に架線状態を成して渡る如く移動させ、これら各流体通流部を移動する際に当該繊維束が流体との接触抵抗によって流体通過方向へ撓曲され、かつ、この流体接触抵抗を受けて繊維結束Tmが弛められて形成された当該繊維束の間隙に前記流体を通過させることによって繊維同士の間隔を幅方向に広げて開繊を進行せしめ、こうして開繊作用を受ける当該繊維束を、上流側に位置する流体通流部31aから下流側に位置する流体通流部31b・31c・…へと順々に連続通過せしめることによって流体と繊維束との接触面積を次第に拡大させ、当該繊維束を累進的に拡幅開繊させてゆく点に特徴がある。
【0016】
また、本発明に係る“繊維束の開繊方法”は、給糸体11から送り出されてくる繊維束Tmを、その移動方向とは交差する方向へ局部的に進退往復させることによって、移動過程にある当該繊維束の張力を緊張・弛緩・緊張・…と交互に繰り返し変化させ、こうして張力変化を伴いながら移動する繊維束Tmを、複数の流体通流部31a・31b・31c・…が当該繊維束の移動進路に沿って数珠繋ぎに連接して成る流体通流開繊機構3の前記流体通流部31a・31b・31c・…の各々に架線状態を成して渡る如く移動させ、これら各流体通流部を移動する際に当該繊維束が流体との接触抵抗により流体通過方向へ撓曲され、かつ、この流体接触抵抗を受けて繊維結束が弛められて形成された当該繊維束の間隙に前記流体を通過させることによって繊維同士の間隔を幅方向に広げて開繊を進行せしめ、こうして開繊作用を受ける当該繊維束を、上流側に位置する流体通流部31aから下流側に位置する流体通流部31b・31c・…へと順々に連続通過せしめることによって流体と繊維束Tmとの接触面積を次第に拡大させ、当該繊維束を累進的に拡幅開繊させてゆく点に特徴がある。ちなみに、この場合、給糸体1から解舒される繊維束Tmの逆流戻りを阻止しながら送り出し、逆流戻りが阻止された箇所から下流を移動する繊維束Tmの張力を、その移動方向とは交差する方向へ局部的に屈伸させることにより緊張・弛緩・緊張・弛緩・…と交互に反復的に変化させるならば効果的であり、そしてまた、最下流に位置する前記流体通流部31cから送り出されてくる繊維束Tmに対し、開繊幅方向への直線的な進退摩擦を付与するならば更に一層効果的である。
【0017】
次に、本発明に係る“繊維束の開繊方法”は、給糸クリール1の各給糸体11から解舒されてくる多数の繊維束Tm・Tm・…から成る繊維束群を平行かつ同一平面に整列させて送り出す一方、こうして送り出されてくる前記繊維束群の各々の繊維束Tmを、複数の流体通流部31a・31b・31c・…が当該繊維束の移動進路に沿って数珠繋ぎに連接して成る流体通流開繊機構3の前記流体通流部31a・31b・31c・…の各々に架線状態を成して渡る如く移動させ、これら各流体通流部を移動する際に各々の繊維束Tmが流体との接触抵抗によって流体通過方向へ撓曲され、この流体接触抵抗を受けて繊維結束が弛められて形成された当該各繊維束Tmの間隙に流体を通過させ繊維同士の間隔を幅方向に広げて開繊を進行せしめ、こうして開繊が進行して同一平面上を移動する開繊繊維束Ts・Ts・…から成る開繊繊維束群が形成する幅面を、当該開繊繊維束群の移動方向とは交差する方向へ局部的に屈伸させて移動過程にある当該開繊繊維束の張力を緊張・弛緩・緊張・…と交互に反復的に張力変化させることにより、前記流体開繊機構3の流体通流部31a・31b・31c・…の各々での開繊作用を更に増進できる点に特徴がある。
【0018】
また、本発明に係る“繊維束の開繊方法”は、給糸クリール1の各給糸体11から解舒されてくる多数の繊維束Tm・Tm・…から成る繊維束群を平行かつ同一平面に整列させて送り出す一方、こうして送り出されてくる前記繊維束群の各々の繊維束Tmを、複数の流体通流部31a・31b・31c・…が当該繊維束の移動進路に沿って数珠繋ぎに連接して成る流体通流開繊機構3の前記流体通流部31a・31b・31c・…の各々に架線状態を成して渡る如く移動させ、これら各流体通流部を移動する際に各々の繊維束Tmが流体との接触抵抗によって流体通過方向へ撓曲され、この流体接触抵抗を受けて繊維結束が弛められて形成された当該各繊維束の間隙に流体を通過させ繊維同士の間隔を幅方向に広げて開繊を進行させ、こうして開繊が進行して同一平面上を移動する開繊繊維束Ts・Ts・…から成る開繊繊維束群に対し、幅方向への直線的な進退摩擦を付与して隣接する各々の開繊繊維束Ts・Ts同士の側辺に位置する繊維同士を接線状態に寄り添わせて、全体が一様な開繊繊維シートTwに形成してゆく点に特徴がある。ちなみに、この場合においては、当該繊維束群に対して、前記幅方向への直線的な進退摩擦を付与するのに先立って、開繊繊維束群が形成する幅面を、当該開繊繊維束群の移動方向とは交差する方向へ局部的に屈伸させて移動過程にある当該繊維束の張力を緊張・弛緩・緊張・…と交互に反復的な張力変化を与えるならば開繊効果は一層に向上する。
【0019】
なお、本発明に係る“繊維束の開繊方法”は、上記の開繊加工が施されてゆくプロセスにおいて、流体通流開繊機構3を構成する流体通流部31a・31b・31c・…の各々の中に通過繊維束の撓み量を確保する浮き抑えブリッジ35が配設されたものを使用することができ、かゝるガイドロール36によって繊維束の撓み量を確保できる点にも特徴が存する。
【0020】
次に、本発明者が上記課題を解決するため機械的手段として採用したところの繊維束の“開繊装置”は、繊維束Tmが巻き付けられた給糸体(ボビン、コーン、チーズなど)11、又はそのような給糸体11を多数装備した給糸クリール1と;この給糸体11又は給糸クリール1からから繊維束Tm又は繊維束群Tm・Tm・…を一定張力で解舒して当該繊維束の引戻りを抑制しながら送り出す繊維束供給機構2と;こうして送り出されてくる繊維束Tm又は繊維束群Tm・Tm・…の移動進路に沿って配設されており、移動する当該繊維束又は繊維束群を架線状に支持した状態にて直交方向へ流体を接触・通過させることによって前記繊維束又は繊維束群を流体通過方向へ撓曲させながら開繊せしめる流体通流部31a・31b・31c・…が数珠繋ぎに連接して成る流体通流開繊機構3と;移動過程にある繊維束Tmの張力を緊張・弛緩・緊張・弛緩・…と交互に変化させる張力与除機構4(図3参照)という機構手段を採用した点に特徴がある。
【0021】
さらに、本発明に係る“開繊装置”は、繊維束Tmが巻き付けられた給糸体11、又はそのような給糸体11を多数装備した給糸クリール1と;この給糸体11又は給糸クリール1からから繊維束Tm又は繊維束群Tm・Tm・…を一定張力で解舒して当該繊維束の引戻りを抑制しながら送り出す繊維束供給機構2と;こうして送り出されてくる繊維束Tm又は繊維束群Tm・Tm・…の移動進路に沿って配設されており、移動する当該繊維束又は繊維束群を架線状に支持した状態にて直交方向へ流体を接触・通過させることによって前記繊維束又は繊維束群を流体通過方向へ撓曲させつつ開繊せしめる流体通流部31a・31b・31c・…が数珠繋ぎに連接して成る流体通流開繊機構3と;移動過程にある繊維束の張力を緊張・弛緩・緊張・弛緩・…と交互に変化させる張力与除機構4に加え、開繊途上にある繊維束又は繊維束群を構成する各々の繊維に当接させた状態で幅方向へ進退運動して擦りによる進退摩擦を付与する横摺り進退摺接機構6を採用した点に特徴がある。
【0022】
そこで、本発明を構成する要素に関連して若干の補足説明すれば、次のとおりである。
(1)まず、本発明の対象とする繊維束は、FRTP(Fiber Reinforced Thermo−Plastics)やFRP(Fiber Reinforced Plastics)やFRPの補強基材として使用される炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、ポリオキシメチレン(polyoxymethylene)繊維、アロマティック・ポリアミド繊維などのごとき従来周知の多数の高強度繊維を集束させたマルチフィラメント形態のものが主流であるが、金属繊維や通常の合成繊維を多数本集束させた繊維束を除くものではなくて、必要に応じて、その他あらゆるマルチフィラメント形態の繊維束も対象とすることが可能である。また、本発明は、1本の繊維束でも多数本の繊維束でも開繊処理することが可能である。
(2)次に、繊維束に接触させて当該繊維束を開繊拡幅せしめるための作動流体の利用形式としては、気体(空気・水蒸気など)の流れである気流の運動エネルギーを利用するもの、水その他の液体の流れである液流の運動エネルギーを利用するもの、また気体と液体との混合流である気液二相流(liquid−vapor phase flow)の運動エネルギーを利用するものが選べる。
(3)流体通流開繊機構3を構成する流体通流部31・32・33・34・…に関しては、流体速度は全て同じであってもよく、異なっていてもよい。例えば、流体速度が大→小、又は小→大と変化させ、前記各通流部の流体速度を変え、開繊状態によって効率的な流体速度を選択することも可能である。
(4)さらに、注釈しておくと、本発明においては、繊維束Tmが当該移動進路に沿って配列された流体通流開繊機構3つまり流体通流部31・32・33・34・…上を通過するとき、繊維束を構成する各繊維が幅方向に移動して開繊できるようにし、あわせて撓ませることが必要であり、対象とする繊維束の物性・移動速度などを考慮して当該繊維束Tmの張力と流体の流速を設定するものとする。しかして、繊維束Tmの張力が大き過ぎたり、流体の流速が緩やか過ぎたりすると、当該繊維束は撓まずに単に流体通流部31・32・33・34・…上を通過するだけになり、円滑な開繊が営めなくなってしまう。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、以上に説明したとおり、給糸クリールから多数の繊維束を同一平面に並ぶ如く平行に同速度で解舒して送り出し、送り出した各々の繊維束を、複数の流体通流部が当該繊維束の移動進路に沿って数珠繋ぎに連接して成る流体通流開繊機構の前記流体通流部の各々に架線状態で移動させ、これらの流体通流部を移動する際に前記各繊維束は流体との接触抵抗によって流体通過方向へ撓曲させ、かつ、当該接触抵抗で弛んだ当該繊維束を構成する繊維間に流体を通過させるといった流体力学的メカニズムを利用しているので、隣接する各々の繊維束側辺の繊維同士が平行かつ一様な密度で接線状態に寄り添った状態の理想的な拡幅開繊繊維束を高能率に製造することができる。
【0024】
また、本発明においては、給糸体又は給糸クリールから1条の繊維束又は複数条の繊維束の集合群である繊維束群を、その引戻りを抑制しながら送り出す一方、こうして送り出された当該繊維束に対し緊張・弛緩・緊張・弛緩・…と張力変化を与えながら移動進路に沿って直列的に配設された複数の流体通流部(流体通流開繊機構)上を架線状態で移動させ、これらの流体通流部を移動する際に前記各繊維束は流体との接触抵抗によって流体通過方向へ撓曲せしめ、かつ、当該接触抵抗で弛んだ当該繊維束を構成する繊維間に流体を通過させるというメカニズムを採用しているので、繊維束単位で各々を開繊して開繊繊維束を製造する場合においても、また複数条の繊維束から成る繊維束群の隣接する繊維束側辺の繊維同士が平行かつ一様な密度で接線状態に寄り添った状態の理想的な広幅の開繊繊維シートを製造する場合においても高能率に開繊処理を行うことができる。
【0025】
また、本発明によれば、緊張・弛緩・緊張・弛緩・…と交互に張力変化する開繊繊維束に対して、幅方向への直線的な進退摩擦を付与する方法を採用しているため、開繊繊維束を製造する場合でも、広幅の開繊繊維シートを製造する場合でも、繊維損傷が少なくて、しかも繊維の均一分散性の良い開繊繊維束や開繊糸シートを得ることができるのであり、FRPやFRTP成形品などの補強基材として使用するに足るだけの十分に広幅で、構成繊維の間にも高粘度の溶融熱可塑性樹脂を円滑かつ一様に含浸させ得る樹脂浸透性の優れた良質の開繊シートを安価に提供することが可能となる。
【0026】
さらに、本発明は、給糸体又は給糸体を複数装備した給糸クリールと、繊維束供給機構と複数の流体通流部を備える流体通流開繊機構と、そして、繊維束の張力を緊張・弛緩・緊張・弛緩・…と交互に変化させる張力与除機構とを基本要素とした極めて簡素な装置によって、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、ポリオキシメチレン繊維、アロマティック・ポリアミド繊維などから成る高強度繊維束を省スペースに効率的に拡幅開繊することができるので、得られる開繊繊維束の製造コストは安価となり、製品自体は良質であるので、経済的的にも非常に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】 本発明の第1実施例である“繊維束の開繊方法”に用いる装置例1を側面から見た機構説明図である。
【図2】 図1の装置例1を上方から見た機構説明図である。
【図3】 図3の[a][b]は張力与除機構の動作に応じて流体通流部を通過する繊維束に及ぶ緊張・弛緩の影響を説明するために示したモデル図である。
【図4】 本発明の第2実施例である“繊維束の開繊方法”に用いる装置例2を側面から見た機構説明図である。
【図5】 図4の装置例2を上方から見た機構説明図である。
【図6】 本発明の第3実施例である“繊維束の開繊方法”に用いる装置例2を上方から見た機構説明図である。
【図7】 本発明の第3実施例である“繊維束の開繊方法”に別途用いられる装置例3を側面から見た機構説明図である。
【図8】 図7の装置例3を上方から見た機構説明図である。
【図9】 本発明の第3実施例である“繊維束の開繊方法”に別途用いられる装置例4を側面から見た機構説明図である。
【図10】 図9の装置例4を上方から見た機構説明図である。
【図11】 本発明の第3実施例である“繊維束の開繊方法”に別途用いられる装置例5を側面から見た機構説明図である。
【図12】 本発明の第3実施例である“繊維束の開繊方法”に別途用いられる装置例6を側面から見た機構説明図である。
【図13】 本発明の第4実施例である“繊維束の開繊方法”に用いられる装置例7を側面から見た機構説明図である。
【図14】 本発明の第4実施例である“繊維束の開繊方法”において、開繊繊維束を重ね合わせて開繊繊維束群とし、さらに開繊糸シートにしてゆく状態を表わした説明用モデル図である。
【図15】 本発明の第4実施例である“繊維束の開繊方法”において、開繊糸シートを上下重ね合わせて開繊繊維束群とし、さらに開繊糸シートにしてゆく状態を表わした説明用のモデル図である。
【図16】 本発明の第5実施例である“繊維束の開繊方法”の実施に用いる装置例8を側面から見た機構説明図である。
【図17】 図16に示される装置例8を上方から見た機構説明図である。
【図18】 本発明の第6実施例である“繊維束の開繊方法”の実施に用いる装置例9を側面から見た機構説明図である。
【図19】 図18に示される装置例9を上方から見た機構説明図である。
【図20】 本発明の第6実施例である“繊維束の開繊方法”の実施に用いる別の装置例10を側面から見た機構説明図である。
【図21】 図20に示される装置例10を上方から見た機構説明図である。
【図22】 装置例10における流体通流機構部の内部構造を拡大して示した拡大機構説明図である。
【図23】 図22のA−A視断面説明図である。
【図24】 本発明の第6実施例である“繊維束の開繊方法”の実施に用いる別の装置例11を側面から見た機構説明図である。
【図25】 本発明の第6実施例である“繊維束の開繊方法”の実施に用いる別の装置例12を上方から見た機構説明図である。
【図26】 図26は、図25に示す装置例12の繊維束摺接機構におけるガイドロールとクランクモータとクランクとリンクとの連接関係を平面的に示した拡大説明図である。
【図27】 クランクモータの回転運動が進退運動に変換されてガイドロールに伝達される構造を表わした構造説明図である。
【図28】 本発明の第6実施例である“繊維束の開繊方法”の実施に用いる別の装置例13を側面から見た機構説明図である。
【図29】 本発明の第6実施例である“繊維束の開繊方法”の実施に用いる別の装置例14を側面から見た機構説明図である。
【図30】 本発明の第6実施例である“繊維束の開繊方法”の実施に用いる別の装置例15を側面から見た機構説明図である。
【図31】 本発明の第6実施例である“繊維束の開繊方法”の実施に用いる別の装置例16を上方から見た機構説明図である。
【図32】 本発明の第7実施例である“繊維束の開繊方法”の実施に用いる装置例17を側面から見た機構説明図である。
【図33】 本発明の第7実施例である“繊維束の開繊方法”の実施に用いる装置例18を側面から見た機構説明図である。
【図34】 本発明の第3実施例を更に発展させて開繊シートの表裏面に樹脂シートを含浸させてプリプレグシートを製造する変形例を示した機構説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明が具体的に実施される場合の好ましい形態を例示的に掲げつゝ添付図面を引用しながら、本発明の内容を更に詳細に説明する。
【0029】
〔第1実施例〕
本発明の第1実施例としては、図1〜図3に図示する装置例1の開繊装置を用いて繊維束(1条)を開繊する具体的仕組みについて説明するものとする。
【0030】
〔装置例1〕
図1および図2において符号11にて指示するものは、長尺の繊維束Tmを多層に巻付けて成るボビン形式の給糸体であって、給糸モータ12の出力軸に連結したボビン軸12aに横置状態に支承されており、給糸モータ12の回転によって繊維束Tmを繰り出し解舒可能になっている。本実施例の処理対象とする繊維束Tmとしては、炭素繊維束、ガラス繊維束、アラミド繊維束、セラミックス繊維束などの高強度繊維から成る強化繊維束、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトンなどの熱可塑性の合成繊維繊維を引き揃えた熱可塑性樹脂繊維束などがある。もっとも、加撚された繊維束は、撚りを完全に戻さなければ連続的に開繊できないため理論的には可能であっても、コスト的には無撚繊維束又は予め撚りの戻された解撚繊維束を用いるものとする。
【0031】
次に、符号2で指示するものは繊維束供給機構である。この繊維束供給機構2は、給糸体11から解舒され繰り出されてくる繊維束Tmを所定位置に支持する回転可能な案内ロール21と;この案内ロール21より下流側で前記繊維束Tmを支持する回転可能な前後一対の支持ロール22・22と;この支持ロール22・22と前記案内ロール21の間に回転自在に配設され、かつ、其処を通過する繊維束Tmに当接し張力変化に応じて昇降することにより当該繊維束の張力を一定の張力に保たせるための張力安定ロール24aと;この張力安定ロール24aの上限位置を検知する上限センサー25aおよび下限センサー25bと;下流側の前記支持ロール22に圧接して繊維束Tmを挟み付けて回転するニップロール23aと;このニップロールに送り方向へのみ回転させ、繊維束Tmが引き戻りしないように繊維束搬送方向と逆方向には回転しない一方向回転クラッチ23bとから構成されている。
【0032】
装置例1において給糸体11から引き出されてくる繊維束Tmの張力の安定は、次のように実現される。即ち、上記した繊維束の供給機構においては、張力安定ロール24aは通過する繊維束Tmの張力が上がると上方へ移動し、張力が下がると下方へ移動する。そして、張力安定ロール24aの上昇位置が上限位置に達したときには上記上限センサー25aが検知して、その信号が上記給糸用モーター12に入力されて給糸体11の回転を増速し、繊維束Tmの繰出量が増加させると張力安定ロール24aは下降する。そして、当該張力安定ロール24aが下限位置に達すると、上記の下限センサー25bが検知する。すると今度は、その下限位置信号が給糸用モーター12に入力されて給糸体11の回転が減速され、繊維束Tmの繰出量が減少する。かくして、装置例1における繊維束Tmの張力は常に安定に保つことができる。
【0033】
こうして一定の初期張力を与えられた繊維束Tmは、支持ロール22とニップロール23aとの間を走行するが、装置例1にあってはニップロール23aに一方向回転クラッチ23bが付設してあるので逆方向には回転せず、後述の下流側に配設される張力与除機構が繊維束に対し緊張・弛緩・緊張・弛緩・…の作用を与えてもニップロール23aより上流側には影響が及ぶことなく、繊維束Tmは移動進路に沿って一定張力で繰り出されることになる。
【0034】
次に、図1・2の符号3で指示するものは風洞管方式の流体通流開繊機構である。同図中の装置例1にあっては、上面の開口が流体通流部31aとして機能する吸引風洞管が用いられている。この流体通流部31aは、前記繊維束Tmが移動する方向に沿って当該移動進路と同一レベルで配設されており、当該流体通流部31aの出入り側には通過する繊維束Tmを一定レベルに支持するガイドロール32が配設されている。そして、装置例1における吸引風洞管としての流体通流部31aには吸気ポンプ34が接続されており、適宜に流量調整バルブ33を調節して吸気ポンプ34を作動させれば流体通流部31aに所要流速の吸引気流が発生されるようになっている。
【0035】
また次に、符号4で指示するものは張力与除機構であり、流体通流開繊機構3の下流に一定間隔をもって水平配置された前後1対の支持ロール41と41との間に配設されている。しかして、装置例1における張力与除機構4は、下端に押圧ロール42aを有する昇降ロッド42と;この昇降ロッド42に屈伸自在に連結されたクランクアーム43と;このクランク軸43に連接する回転ロータ43aを出力軸に備えたクランクモータ44とによって構成されており、クランクモータ44が駆動して回転ロータ43aが回転されることによりクランクアーム43を介して生起される昇降ロッド42の昇降動作に応じて、押圧ロール42aが開繊途上にある繊維束に対し押下げ・離間動作を繰り返すことによって、当該繊維束の張力を緊張・弛緩・緊張・弛緩・…と交互に変化させることになる。この張力与除機構4は、開繊途上にある繊維束を一定レベルに支持する支持ロール41と41の間に配設されている。なお、装置例1においては、クランクモーター44の回転速度を変動させることにより、当該繊維束Tmの緊張・弛緩・緊張・弛緩・…の反復サイクルを調節できるように構成してある。
【0036】
一方、流体通流開繊機構3の流体通流部31aでは、繊維束Tmが支持ロール22とニップロール23aとの挟圧部を通過して架線状態で渡る途上にあるのであるが、当該繊維束は下流側に配設された張力与除機構4の押圧ロール42aによって緊張・弛緩・緊張・弛緩・…と張力の急激な変化が反復的に与えられているのであって、その影響は前記支持ロール22とニップロール23aに挟圧された範囲にまで及ぶ。このため、かゝる緊張・弛緩・緊張・弛緩・…の状態にある繊維束Tmに対して吸引気流が作用すると、図3の[a]⇔[b]に示されるように、当該繊維束の張力が緊張から弛緩へ移行するときは(図3の[a]→[b])、当該繊維束は気流の通過方向へ撓曲して流体通流部31a内に存する繊維長が瞬間的に長くなり幅方向へ開繊し易い状態となるのである。即ち、当該繊維束の弛緩によって隣接する構成繊維間の緊張が緩んで隣接繊維の間への気流が通過量が増大して強力な開繊が営まれることになるのである。逆に、当該繊維束の張力が弛緩から緊張へ移行するときは(図3[b]→[a])、流体通流部31aにおける当該繊維束の撓み量が減少することになり、この際、通過繊維束は開繊された糸列状態を維持したまゝ、これらの構成各繊維は恰も吸引気流に梳られる如く真直な状態に引き揃えられることになる。
【0037】
かくして、開繊された繊維束つまり開繊繊維束Tsは、引取り機構5により引取られる。引取り機構5は引取りロール51と引取り用モーター52から構成されている。ちなみに補足しておくと、繊維束の移動速度は当該引取り用モーター52の回転速度によって決定されるのであり、図示しない速度設定器によりモーター52を制御して自由に変更調節をすることができる。また、引取り機構5の下流には、開繊繊維束Tsを巻き取る巻取装置(図示せず)が配設されるのであり、更に要すれば、前記開繊繊維束Tsに各種樹脂などのマトリックス含浸処理を施すプリプレグ加工装置(図示せず)を連設することも可能である。
【0038】
〔第2実施例〕
本発明の第2実施例としては、図4〜図5に図示される装置例2の開繊装置を使用して多数条の開繊繊維束を得る具体的仕組みについて説明する。
【0039】
〔装置例2〕
図4および図5において符号1で指示するものは、長尺の繊維束Tmを多層に巻き付けた多数(装置例2では、5本)のボビン型給糸体11を横置状態に多段並置して構成した給糸クリールである。そして、前述の装置例1と同様に、装置例2における給糸体11の各々には給糸モータ12が付設されており、これら給糸モータ12の回転によって各給糸体11から繊維束Tmを繰り出し解舒可能になっている。
【0040】
しかして、給糸クリール1の給糸体11・11・…からは、多数本の繊維束Tmを解舒されて引き出される。引き出された各々の繊維束Tm・Tm・…は、これら各々の繊維束Tmに対応して設置された繊維束供給機構2に引き取られることになる。装置例2における繊維束供給機構2の各給糸体11に対応する部分の基本的構成は前述の装置例1と同様であって、給糸体11から解舒され繰り出されてくる繊維束Tmを所定位置に支持する回転可能な案内ロール21と;この案内ロール21より下流側で前記繊維束Tmを支持する回転可能な前後一対の支持ロール22・22と;この支持ロール22・22と前記案内ロール21の間に回転自在に配設され、かつ、其処を通過する繊維束Tmに当接し張力変化に応じて昇降することにより当該繊維束の張力を一定の張力に保たせるための張力安定ロール24aと;この張力安定ロール24aの上限位置を検知する上限センサー25aおよび下限センサー25bと;下流側の前記支持ロール22に圧接して繊維束Tmを挟み付けて回転するニップロール23aと;このニップロールに送り方向へのみ回転させ、繊維束Tmが引き戻りしないように繊維束搬送方向と逆方向には回転しない一方向回転クラッチ23bとから構成されている。たゞ、装置例2にあっては、給糸クリール1の給糸体11・11・…が多段式に横置してあるので、繰り出される繊維束Tm・Tm・…を同一レベルの平行状態に整列させて整然とした繊維束群の状態に整える必要があるため、上下一対の整列ガイドロール26・26が付加してある。この整列ガイドロール26・26は、前記供給機構2から多段状に繰り出されてくる多数の繊維束Tm全てを同一レベルに挟み付けて、これら各々の繊維束を同一平面上に平行に整然と並ぶ繊維束群Tm・Tm・…に規制するものである。それゆえ、後述の張力与除機構による当該繊維束群に対する張力変動は、整列ガイドロール26・26に阻止されて其処より上流に影響を及ぼすことはない。
【0041】
かくして、繊維束供給機構2に引き取られる繊維束Tm・Tm・…の各々は、前述の装置例1の場合と同様、張力安定ロール24a・24a・…は其処を通過する何れかの繊維束Tmの張力が上がると該当する張力安定ロール24aが上方へ移動し、逆に、張力が下がると該当する張力安定ロール24aが下方へ移動するのであり、上昇する張力安定ロール24aの位置が上限位置に達したときは上限センサー25aが検知して、その信号が上記給糸用モーター12を制御して給糸体11の回転を増速し、繊維束Tmの繰出量を増加させて繊維束Tmの張力を下げ、逆に、張力が下がって当該張力安定ロール24aが下限位置に達したときには、上記の下限センサー25bが検知する。すると、その下限位置信号が給糸用モーター12に入力されて給糸体11の回転が減速され、繊維束Tmの繰出量が減少することによって繊維束Tmの張力は上昇する。そして、このような繊維束供給機構2のセルフコントロール作用により繊維束Tm・Tm・…の張力は全て常に安定に保ちながら、整列ガイドロール26・26に案内され、繊維束群Tm・Tm・…として同一レベルの平行状態に整列されることになる。
【0042】
次いで、装置例2では、繊維束供給機構2の整列ガイドロール26・26を通過した繊維束群Tm・Tm・…は、同一平面上を平行に整列した状態で流体通流開繊機構3、張力与除機構4、さらに引取りロール5へと移動してゆく。しかして、装置例2の開繊装置を構成する繊維束供給機構2、流体通流開繊機構3、張力与除機構4、および引取り機構5は、前述の装置例1における対応する各々の構成と実質的には大略同じであるが、装置例2の開繊装置にあっては多数条(5条)の繊維束Tmの開繊を行う必要上、若干の設計変更が加えられている。そこで、装置例2の開繊装置における流体通流開繊機構3、張力与除機構4、および引取り機構5の相違点について補足的説明をしておく。なお、繊維束供給機構2については、既に具体的な説明をしているので、重複を避ける。
【0043】
まず、装置例2における流体通流開繊機構3は装置例1と同様に風洞管方式であるが、次の点で相違がある。即ち、装置例2における流体通流開繊機構3にあっては、繊維束群Tm・Tm・…の横幅全体に対して吸引気流を作用させる必要があることから、吸引幅の広い広口吸引風洞管を流体通流部31a・31b・31cとして上流から下流に3つ連設している。これらの流体通流部31a・31b・31cの吸引口は、繊維束群Tm・Tm・…の移動進路に沿って同一レベルで配設されており、かつ、これら各々の流体通流部31a・31b・31cの吸引口の出入り側には通過する全繊維束Tmを一定レベルに支持するガイドロール32が配設してある。これら流体通流部31a・31b・31cの各々は、吸気ポンプ34・34・34の駆動に応じ吸引気流を発生するのであるが、これらの吸気ポンプ34には流量調整バルブ33・33・33が各々付設してあるので、これら各々の流量調整バルブ33を適宜に調節することによって、流体通流部31a・31b・31cの吸引気流の流速を各別に自由に調節することができる。
【0044】
次に、装置例2における張力与除機構4は、下端に押圧ロール42aを有する昇降ロッド42と;この昇降ロッド42に屈伸自在に連結されたクランクアーム43と;このクランク軸43に連接する回転ロータ43aを出力軸に備えたクランクモータ44とによって構成されている点では装置例1の張力与除機構と基本的構成は同じであり、上流側と下流側に一定間隔をもって横架した支持ロール41と41との間に設置されている。たゞ、装置例2にあっては、平行状態で移動してくる繊維束群Tm・Tm・…全体の横幅が広いので、その全幅を押圧するに足るサイズの押圧ロール42aを昇降ロッド42の下端に配設している。
【0045】
しかして、張力与除機構4のクランクモータ44が駆動し回転ロータ43aが回転すると、その回転はクランクアーム43を介し昇降ロッド42の昇降運動として伝動して、開繊途上にある繊維束群Tm・Tm・…に対し押圧ロール42aが押下げ・離間動作して、当該繊維束の張力を緊張・弛緩・緊張・弛緩・…と一定のタイミングで交互に変化せしめ、その張力変化の影響は上流の整列ガイドロール26・26にまで及んで其処で挟圧阻止される。かくして、流体通流開繊機構3の流体通流部31a・31b・31cを通過する繊維束群Tm・Tm・…は前記張力与除機構4の押圧ロール42aによって緊張・弛緩・緊張・弛緩・…といった張力変化が付与されることになる。そして、かゝる張力変化の下で当該繊維束群全体に吸引気流が作用すると、繊維束群の弛緩時には隣接する構成繊維かの緊張が緩んで隣接繊維の間への気流が通過量が増大して強力に開繊が進行する一方、張力が弛緩から緊張へ移行するときは当該繊維束群は開繊された糸列状態を維持したまゝ、これらの構成各繊維は恰も吸引気流に梳られる如く真直な状態に引き揃えられることになる。かゝる作用は装置例1の場合と同様である。
【0046】
そして、上記流体通流開繊機構3において開繊されて拡幅し、張力与除機構4によって一定タイミングの張力変化が与えられた開繊繊維束群Ts・Ts・…は、引取り機構5に引き取られることになる。装置例2における引取り機構5は、上下一対の引取りロール51・51と、この引取りロール51・51を駆動するモータ52とにより構成されているが、拡幅された多数本の開繊繊維束Tsを同時に巻き取る必要があるため、引取りロール51・51としては相応の幅サイズのものが採用されている。
【0047】
〔第3実施例〕
第3実施例は、前述の装置例2と同一構成の開繊装置を使用して1枚の開繊糸シートを製造する本発明の具体的適用例であって、多数条の繊維束Tm・Tm・…が開繊されて1枚の開繊糸シートTwになるプロセスは図6に示される。
【0048】
第3実施例において使用する開繊装置は、前述の装置例2と同一構成であるので説明を省略する。第3実施例においても、第2実施例と同様に多数条の繊維束Tm・Tm・…を開繊処理するのである。第2実施例の場合と異なっているのは次の点である。
【0049】
即ち、第3実施例における多数条の繊維束Tm・Tm・…の開繊処理は、各繊維束Tmの最大開繊幅を予め画定し、その最大開繊幅に照応する間隔に各繊維束Tmを配列を設定させて、繊維束Tm・Tm・…を給糸クリール1から送り出し、繊維束供給機構2、流体通流開繊機構3(流体通流部31a・31b・31c)、張力与除機構4へと移動させてゆくのであり、流体通流開繊機構3の吸引気流と張力与除機構4における緊張・弛緩・緊張・弛緩・…の張力変化との相乗効果による開繊作用を受けてゆく過程において徐々に開繊が進行し、隣接する繊維束Tm・Tmの側辺に位置する繊維同士を接線状態に寄り沿わせて一枚の開繊糸シートTwに一体化させる方法である。
【0050】
まず、本発明の第3実施例については、図7〜図8に図示される装置例3の開繊装置を使用して多数条の開繊繊維束を得る具体的仕組みについて説明する。
【0051】
〔装置例3〕
第3実施例に用いられる装置例3の開繊装置は、張力与除機構4と引取り機構5との間に、恰もヴァイオリンの弦(strings)に弓毛(bow hair)を当て引くように、移動してくる開繊繊維束Tsに対して幅方向への直線的な進退摩擦を付与する進退摺接機構6を配設している点において、装置例2と相違する。換言すると、装置例3の開繊装置は、進退摺接機構6以外の構成については装置例2の開繊装置と変わるところがないということである。
【0052】
しかして、装置例3の開繊装置における進退摺接機構6は、移動してくる開繊繊維束Tsに対し幅方向に線接触するように配設されたボゥバー(bow bar)61・61と;このボゥバーを前記開繊繊維束Tsに対して幅方向への進退運動を伝達するクランク機構(62・63)と;このクランク機構(62・63)に進退運動を生起せしめるクランクモータ64とから構成されている。ちなみに、前記ボゥバー61・61としては、何れもステンレス鋼の丸パイプを梨地仕上げして摩擦係数を高くしたものが使用されている。
【0053】
しかして、張力与除機構4を通過して移動してきた開繊繊維束Tsは、進退摺接機構6を通過する際に、進退運動を反復するボゥバー61・61に会合することになり、其処で幅方向への直線的な進退摩擦が付与される。すると、開繊繊維束Tsを構成している各々の繊維は恰もヴァイオリンの弦が弓毛に摩接されるごとく、繊維一本一本が摩られて、このとき、もし繊維同士が固結した部分があったとしても柔らかく解ぐされて、開繊繊維束Tsが全体的に一様に分散した状態の良質の開繊糸シートTwに仕上がることになる。
【0054】
〔装置例4〕
つぎに、第3実施例の方法は、図9〜図10に図示する装置例4の開繊装置によっても実施することができる。
【0055】
装置例4の開繊装置は、流体通流開繊機構3の流体通流部31a・31b・31cの各々に、当該各通流部を通過する繊維束Tm・Tm・…の最低撓み量を確保するための浮き抑えブリッジ35をレベル調節可能に配設した点に特徴があり、の構成は装置例3と同じである。
【0056】
この装置例4の開繊装置により第3実施例の方法を実施する場合には、流体通流部31a・31b・31cを通過する繊維束Tm・Tm・…の全てを、これら流体通流部31a・31b・31cの各々に配設されている浮き抑えブリッジ35の下側へ潜らせて吸引気流を通気させることになる。このため、通過する繊維束Tm・Tm・…が張力与除機構4の作用等によって張力が増大しても、繊維束Tmは抑えブリッジ35に当接して直伸化が阻止されるので、それ以上に撓み量より小さくならない。それゆえ、吸引気流と繊維束Tm・Tm・…との最低必要な接触面積が確保されることになるので、流体通流開繊機構3における開繊作用は安定する。
【0057】
〔装置例5〕
また次に、第3実施例の方法は、図11に図示する装置例5の開繊装置によっても実施することができる。
【0058】
この装置例5の開繊装置が装置例4と相違する点は、流体通流開繊機構3の流体通流部31a・31b・31cの上方に熱風機などの加熱器7を配設して流体通流部31a・31b・31cに向けて熱風を吹き付けるようにしたことであり、その他は装置例4と同じである。
【0059】
しかして、装置例5の開繊装置は、開繊対象の繊維束Tm・Tm・…が合成樹脂系サイジング剤で結合されている場合に顕著な効果を発揮する。図示の装置例5では加熱器7として熱風機を採用しているので、加熱器7から吹き付ける熱風が繊維束Tm・Tm・…を固結しているサイジング剤が軟化して繊維同士の結合が緩むことになり、流体通流部31a・31b・31cにおける吸引気流の開繊作用を促進させるからである。ちなみに、熱風温度はサイジング剤の種類によるが、エポキシ系サイジング剤であれば80〜150℃の熱風でサイジング剤を十分に軟化させることができる。なお、加熱器7としては、遠赤外線加熱器、高周波加熱器などを用いることも可能である。
【0060】
〔装置例6〕
また、第3実施例の方法は、図12に図示する装置例6の開繊装置でも実施できる。
【0061】
この装置例6の開繊装置が装置例5と相違する点は、繊維束Tm・Tm・…が移動する方向へ長く開口した吸引風洞管の流体通流開繊機構3を採用し、かつ、この流体通流開繊機構3の吸引開口部が上流から下流に等間隔に仕切られて流体通流部31a・31b・31cを構成してあることであり、その他の点は上記装置例5と同一である。しかして、この装置例6の開口装置にあっては、各々一つの流量調整バルブ33と吸気ポンプ34で流体通流開繊機構3を構成できるので、製作コストを低減化でき、しかも操作も単純化することができる点において有利である。
【0062】
〔第4実施例〕
第4実施例は、流体通流部31a・31b・31cの上方に熱風機などの加熱器7を配設して流体通流部31a・31b・31cに向けて熱風を吹き付けるようにした前述の装置例5と殆ど同じ構成の流体通流開繊機構3を設けた複合開繊装置を使用して、開繊繊維束又は開繊糸シートを製した後、これらを更に重ね合わせて開繊糸シートに調製する本発明の具体的適用例であって、そのプロセスは図13〜図15に示される。
【0063】
〔装置例7〕
図13には第4実施例に用いる開繊装置が示される。この装置例7の開繊装置は、給糸クリール1、繊維束一方向供給機構2、流体通流開繊機構3、加熱器7、そして案内ロール8を一組とした構成を上下に配設したものであって、合流ロール9、張力与除機構4、進退ボゥバー61・61を備えた進退摺接機構6、さらに引取り機構5を具備している。
【0064】
この装置例7の開繊装置は、上下に配設された各々の給糸クリール1から多数条(5条)の繊維束Tm・Tm・…を解舒して引き出し、各々の繊維束供給機構2によって繊維束の移動方向へ一定張力を与えつゝニップロールと一方向回転クラッチとにより繊維束Tm・Tm・…が逆流しない状態で各々の流体通流開繊機構3へ移動せしめる。各々の流体通流開繊機構3に移動した繊維束Tm・Tm・…は其処で、下流の張力与除機構4が発生する緊張・弛緩・緊張・弛緩・…の反復的張力変化の影響を反復的に履歴し、かゝる張力変化の影響の下で吸引気流の作用で開繊が進行する。かくして、各々の繊維束Tmは開繊繊維束、又は開繊糸シートに形態変化を遂げて、各々の案内ロール8により、合流ロール9の方向に向かって移動する。そして、合流ロール9において、上下の開繊繊維束、又は開繊糸シートが重ね合わせられ、積重状態の開繊繊維束群となって、張力与除機構4を経由して、進退ボゥバー61・61を備えた進退摺接機構6に移動する。かくして、張力与除機構4により前記積重開繊繊維束群に対して緊張・弛緩・緊張・弛緩・…の張力変化が発生して、この状態にある開繊繊維束群は進退摺接機構6の進退ボゥバー61・61による幅方向への進退摩擦が付与される。すると、上側に位置する開繊繊維束又は開繊糸シートを構成する各々の繊維と、下側に位置する開繊繊維束又は開繊糸シートを構成する各々の繊維とが均一に混繊されて繊維混合性の良い一様な開繊糸シートに調製されて引取り機構5に引き取られ、図示しない巻取ビーム等に巻き取られるのである。
【0065】
ちなみに、図14には上下に開繊繊維束を重ね合わせて積重状態に配列された開繊繊維束群が開繊糸シートに調製されるプロセスのモデル図、図15には開繊糸シートを上下に重ね合わせた積重状態に配列された開繊糸シートが混繊開繊糸シートに調製されるプロセスのモデル図を表している。
【0066】
さらに、念のため附言しておくと、図13から図15に具体例として示す第4実施例においては、上下2段、各々で得られた開繊繊維束群を重ね合わせ、混繊させて、開繊糸シートとする場合を示しているが、重ね合わせるられる開繊繊維束群は3段以上の多段方式あっても良い。
【0067】
また、重ね合わせる開繊繊維束群は同種の繊維束ばかりではなく、異種の繊維束を組み合わせても良い。例えば、炭素繊維束と炭素繊維束、ポリプロピレン樹脂繊維束とポリプロピレン樹脂繊維束などの同種の組み合わせ、炭素繊維束とガラス繊維束、炭素繊維束とアラミド繊維束などの異種の強化繊維束の組み合わせ、そして、炭素繊維束とポリプロピレン繊維束、ガラス繊維束とナイロン6樹脂繊維束などの強化繊維束と熱可塑性樹脂繊維束の組み合わせを各々に行い、混繊させて、開繊糸シートとしても良い。
【0068】
そこで、前述の第1実施例〜第4実施例についての実施試験例を挙げ、本発明の実際上の作用を検証しておく。
【0069】
〔試験例1〕
本発明の第1実施例の作用を検証する事例として、図1に図示する装置例1の流体通流開繊機構3の上方に更に加熱器として熱風機を付設して構成した開繊装置を用いて、1条の炭素繊維束を開繊処理した実施試験例について説明する。
【0070】
この実施試験においては、単糸直径7μmのカーボン・モノフィラメントを12,000本集束せしめた炭素繊維束12K(三菱レイヨン株式会社=パイロフィルTR50S)を試験材料として使用している。この実施試験では、張力安定ロール24aにより繊維束Tmの初期張力40gをに調整して、風洞管方式の流体通流開繊機構3に送り込んだ。ちなみに、この実施試験に用いた開繊装置は、次のようなものである。
(1)流体通流部31aの横幅は40mm、移動方向への長さは30mmの開口サイズであり、繊維束のない開放状態において20m/secの吸引気流を作用させた。
(2)開繊装置の流体通流部31aの出入口には直径10mmの梨地仕上げのステンレス鋼材製の固定ロールがガイドロール32として配設されている。
(3)流体通流部31aに向けて付設した加熱器(熱風機)は120℃の熱風を連続的に吹付け可能である。
(4)張力与除機構4はクランクモーター44の回転数が350rpm、ロッド42の繊維束を下側に押し付けるストロークを20mmに設計されている。
(5)引取り機溝5による繊維束の引取り速度は10m/minに設定してある。
【0071】
この実施試験においては、開繊処理前の原糸の状態で幅5mm、厚み0.15mmであった炭素繊維束12Kが、幅20mm、厚さ0.04mmの開繊繊維束Tsに調製することができた。製品としても、この開繊繊維束Tsは開繊幅が安定し、かつ、繊維の配列も分散性も良好な状態であることが確認された。
【0072】
〔試験例2〕
図4に示す前述の装置例2における流体通流開繊機構3の上方に、加熱器7(熱風機)を付加し、この流体通流開繊機構3を構成する各流体通流部31a・31b・31cの中域内部にも深さ10cmの位置に浮き抑えブリッジ35・35・35を付加して、炭素繊維束5本の同時開繊を行い、5本の開繊繊維束を製造した。この実施試験においては、炭素繊維束として、高弾性率(540GPa)の炭素繊維6000本を集束せしめた炭素繊維束6K(東レ株式会社:商品名「トレカM55JB」)を使用した。なお、通常の汎用炭素繊維の弾性率は、約240GPaである。
【0073】
この試験例2においては、5条の繊維束Tmが幅方向に10mm間隔で並ぶように5巻の給糸ボビン11を配設し、各張力安定ロール24aにより5条の繊維束Tm全部が張力25gになるように設定して、3つの吸引風洞管形式の流体通流部31a・31b・31cを連設した流体通流開繊機構3に送り込んだ。この実施試験に用いた開繊装置は、次のようなものである。
(1)流体通流部31a・31b・31cの各々は幅50mm、移動方向への長さは30mmの開口サイズを有し、繊維束のない開放状態で20m/secの吸引気流を作用させた。
(2)開繊装置の流体通流部31aの出入口には直径10mmの梨地仕上げのステンレス鋼材製の固定ロールがガイドロール32として配設されている。
(3)流体通流部31a・31b・31cに向けて付設した加熱器(熱風機)は120℃の熱風を連続的に吹付け可能である。
(4)張力与除機構4におけるクランクモーター44の回転数を350rpm、ロッド42の繊維束を下側に押し付けるストロークを20mmに設計されている。
(5)引取り機溝5による繊維束の引取り速度は10m/minに設定してある。
【0074】
この実施試験においては、開繊処理前の原糸の状態で幅1mm、厚み0.2mmであった炭素繊維束6Kが、幅8mm、厚さ0.03mmの5条の開繊繊維束Tsに調製できた。また、高弾性率の炭素繊維束であるにも拘わらず、繊維切れは非常に少なく、繊維の並びも整然と一様であり、繊維分散性の良い状態にて開繊を実施できていることが確認できた。
【0075】
〔試験例3〕
この試験例3においては、図11に示す装置例5により、炭素繊維束16本の同時開繊を行い、開繊糸シートを製造した。炭素繊維束としては、単糸直径7μmのカーボン・モノフィラメントを12,000本集束せしめた炭素繊維束12K(三菱レイヨン株式会社=パイロフィルTR50S)を試験材料として使用している。
【0076】
この実施試験においては、16本の繊維束Tm・Tm・…が幅方向に20mm間隔で並ぶように16巻の給糸ボビン11を配設し、これら各々の繊維束Tm全部が張力安定ロール24aによって張力40gになるように設定して、吸引風洞管式の流体通流部31a・31b・31cから成る流体通流開繊機構3に送り込んだ。流体通流部31a・31b・31cは、各々、幅320mm、移動方向への長さは30mmの開口サイズを有し、繊維束のない開放状態で25m/secの吸引気流作用させた。これら各々の流体通流部には、移動方向の中域、繊維束が架線した状態から深さ10mmの位置に、直径10mmの浮き抑えブリッジ35・35・35が配設してある。この浮き抑えブリッジ35・35・35としては、表面が梨地仕上げのステンレス綱の丸棒から成る固定ロールが用いられている。そして、各々の流体通流部に対向して配設させた加熱器(熱風機)7から120℃の熱風を吹き付けた。また、張力与除機構4はクランクモーター44の回転数を350rpm、ロッド42の繊維束を下側に押し付けるストロークを20mmに設定した。さらに、進退摺接機構6は、表面が梨地仕上げを施したステンレス丸棒から成る2本の進退ボゥバー61・61を配設し、クランクモーター65の回転数200rpm、前記進退ボゥバー61・61の進退ストロークを4mmに設定して開繊糸シートに幅方向の進退摩擦を付与した。この場合における引取り機構5による繊維束の引取り速度を10m/minに設定して開繊を実施した。
【0077】
この実施試験では、開繊処理前の原糸の状態で幅5mm、厚み0.15mmであった炭素繊維束12Kの各々が幅20mmの開繊繊維束Tsとなり、近接して隣り合った全ての開繊繊維束Ts・Ts・…の側辺の繊維同士を接線状態に添合した状態に整然と並び、構成繊維は全体として密度が一様に分散した状態となり、幅320mm、厚さ0.04mmの開繊糸シートTwに調製された。
【0078】
〔試験例4〕
この試験例4においては、図12に示す装置例6により、炭素繊維束16本の同時開繊を行い、開繊糸シートを製造した。炭素繊維束としては、単糸直径7μmのカーボン・モノフィラメントを12,000本集束せしめた炭素繊維束12K(三菱レイヨン株式会社=パイロフィルTR50S)を試験材料として使用している。
【0079】
この実施試験においては、16本の繊維束Tm・Tm・…が幅方向に20mm間隔で並ぶように16巻の給糸ボビン11を配設し、各々のこれら各々の繊維束Tm全部が張力安定ロール24aにより張力40gになるように設定して、繊維束の移動方向に沿って長い口径を有する吸引風洞管の開口部を一定間隔に区分して流体通流部31a・31b・31cとした流体通流開繊機構3に送り込んだ。この流体通流開繊機構3は吸引風洞管であって、横幅320mm、移動方向に区分された流体通流部31a・31b・31cの各々の渡り長さは30mmのサイズに構成されている。ガイドロール32には直径10mmの表面なし地仕上げしたステンレス丸棒を固定して使用した。流体通流部31bでは、繊維束のない開放した状態で25m/secの吸引気流が作用するように流体調整バルブ33を調整して吸気ポンプ34を作動させた。また、区分形成された各々の流体通流部31a・31b・31cには、移動方向長さの中域で深さ10mmの位置に直径10mmの浮き抑えブリッジ35・35・35が配設してある。そして、流体通流開繊機構3の上方の加熱器(熱風機)7から120℃の熱風を連続的に吹き付けた。また張力与除機構4はクランクモーター44の回転数を350rpm、押圧ロール42aが繊維束を下方へ押し付けるストロークを20mmに設定した。一方、進退摺接機構6は、クランクモータ65を回転数200rpm、ボゥバー61・61の進退ストローク量を4mmに設定して、通過する開繊糸シートTwの表面を全幅にわたり往復的に摩擦すると共に、引取り機構5により10m/minにて引取り速度にて開繊糸シートTwを調製した。
【0080】
この実施試験においては、開繊処理前の原糸の状態で幅5mm、厚み0.15mmであった炭素繊維束12Kが、各々、横幅20mmに開繊した開繊繊維束Tsとなり、近接して隣り合った全ての開繊繊維束Ts・Ts・…の側辺の繊維同士が接線状態に寄り添って構成繊維が全体的に一様に整列した状態の幅320mm、厚さ0.04mmの開繊糸シートTwが調製された。
【0081】
〔試験例5〕
この試験例4においては、図13に示す装置例7により、炭素繊維束16本の同時開繊を行い、開繊糸シートを製造した。炭素繊維束としては、単糸直径7μmのカーボン・モノフィラメントを12,000本集束せしめた炭素繊維束12K(三菱レイヨン株式会社=パイロフィルTR50S)を試験材料として使用している。
【0082】
上段と下段の給糸クリール1・1から供給される繊維束Tm・Tm・…の各々が、幅方向に40mm間隔で並ぶように、上段の給糸クリール1に8巻の給糸ボビン11を、下段の給糸クリール1に8巻の給糸ボビン11を各々セットした。なお、上段から供給される繊維束Tm・Tm・…と下段から供給されて移動走行する繊維束Tm・Tm・…は、隣り同士の間隔が20mm空くように位置設定してある。そして、各々の張力安定ロール24aにより各々の繊維束Tmに張力40gを調整し、上・下段に配置された吸引風洞管式の流体通流部31a・31b・31cを具備した流体通流開繊機構3に送り込んだ。上段および下段の各々の流体通流部31a・31b・31cは、それぞれ横幅が320mm、長さが40mmの開口サイズであって、繊維束の存しない開放状態で25m/secの吸引気流を作用させた。これらの流体通流部31a・31b・31cの各々の中域には、上縁から深さ10mmの位置に直径10mmの浮き抑えブリッジ35・35・35が配設してある。そして、この流体通流開繊機構3の上方に対向配設された加熱器(熱風機)7からは120℃の熱風を吹き出している。また、張力与除機構4はクランクモーター44の回転数を200rpm、押圧ロール42aストロークを20mmに設定する一方、進退摺接機構6におけるボゥバー61・61の進退ストローク量は4mmに設定して、通過する開繊糸シートTwの表面を全幅にわたり往復的に摩擦すると共に、引取り機構5により10m/minにて引取り速度にて開繊糸シートTwを調製した。
【0083】
この実施試験においては、開繊処理前の原糸の状態で幅5mm、厚み0.15mmであった炭素繊維束12Kが、上段および下段の流体通流開繊機構3を通過した際には、横幅40mmに開繊された開繊繊維束Tsとなって、近接して隣り合った全ての開繊繊維束Ts・Ts・…の側辺の繊維同士が接線状態に寄り添った開繊糸シートTw・Twとして上段および下段の開繊ルートの流体通流開繊機構3・3から送り出され、各々、案内ロール8・8を経て、合流ロール9により合流重ね合わせられ、進退摺接機構6により、構成繊維が全体的に一様に分散した状態に混繊した、横幅320mm、厚さ0.04mmの開繊糸シートTwに調製された。
【0084】
以上、本発明の第1実施例〜第4実施例に関する実施試験例について説明してきたが、更に以下においては、本発明の他の実施例について説明を進めてゆく。
【0085】
〔第5実施例〕
本発明の第5実施例である“繊維束の開繊方法”を、図16と図17に図示する装置例8に基いて説明すると、次のとおりである。
【0086】
図16および図17において、給糸体であるボビン11・11・11から繊維束供給機構2によって引き出される束径5mmの炭素繊維マルチフイラメント繊維束Tm(三菱レイヨン株式会社:品番「TR50S」=径7μmのカーボン・モノフィラメントが12,000本集束)は、前記供給機構2におけるロール列21〜22(23a)を通過する際に10m/minの速度で流体通流開繊機構3へ送り出される。
【0087】
流体通流開繊機構3に送り込まれた繊維束Tmは、上流から下流へ移動する際に吸引気流(風速=20m/sec)の作用する流体通流部31a・31b・31c・31dの開口風洞を架線状態を成して順々に渡り辷りながら移動することになる。そして、このとき吸引気流に接触した前記繊維束Tmは、気流との接触抵抗によって吸引気流の方向へ撓曲されることになり、気流との接触面積が増大する。かくして、繊維束Tmと気流との接触面積が大きくなると、当該繊維束を構成する繊維間に気流が通過して繊維束Tmの結合が弛んで開繊が始まる。こうして、上流側の流体通流部31aから下流側の流体通流部31b→31cへと繊維束Tmが移動してゆく裡に段々に開繊が進行してゆき、最下流の流体通流部31dを通過したときには、約25mmの開繊繊維束Tsが得られた。
【0088】
〔装置例8〕
図16および図17には、上記した第5実施例の“繊維束の開繊方法”に使用する開繊装置が示される。
【0089】
即ち、図16および図17に符号1で指示されるものはボビン形式の給糸体11であり、このボビン11には繊維束Tmが解舒可能に糸巻されている。
【0090】
次に、符号2で指示するものは繊維束供給機構であって、前後に一定間隔をもって配設され、上記給糸体11から引き出されてくる繊維束Tmを所定レベル位置に支持せしめる一対の支持ロール21・22と;給糸体11に連なる繊維束Tmを上下から挟み付けて所定速度で回転して引き出す一方向ドライブロール23・23と;回転自在な張力安定ロール24aを下端に備えたダンパー部材であって、前記支持ロール22と22との間に配設されており、前記張力安定ロール24aは給糸体11から引き出されてくる繊維束Tmに対し常時一定の圧力で当接することによって、繊維束Tmの張力が所定以下に減少して当該ロール圧よりも劣勢なときには当該繊維束に当接している張力安定ロール24aが繊維束の屈曲量を増大せしめて所定張力に達して均衡するまで押圧し続けて張力を上昇させ、逆に、繊維束Tmの張力が所定以上に強くて当該ロール圧よりも優勢なときには当該繊維束に当接している張力安定ロール24aが押負けにより退縮して繊維束の屈曲量が減少し所定張力に至るまで退縮させて、移動繊維束Tmの張力を一定に保持する張力調整ダンパー24とより構成されている。かくして、この繊維束供給機構2から引き出され前記一方向ドライブロール23・23を通過した繊維束Tmは、後述の流体通流開繊機構へ送り込まれることになる。
【0091】
次に、符号3で指示するものは風洞管方式の流体通流開繊機構である。この流体通流開繊機構3は、図16と図17に示される装置例8においては、上面の開口が各々流体通流部31a・31b・31c・31dとして機能する吸引風洞管が4連用いられている。即ち、前記流体通流部31a・31b・31c・31dは、上記繊維束Tmの移動進路に沿って同一レベルで配設されており、これら各々の流体通流部31a・31b・31c・31dの出入り側には通過する繊維束Tmを一定レベルに支持するためのガイドロール32・32・32・32・32が各々配設されている。また、装置例1の吸引風洞管の各々には吸気ポンプ34・34・34・34が接続されており、適宜に流量調整バルブ33・33・33・33で気流調節して各吸気ポンプ34を作動させれば流体通流部31a・31b・31c・31dに必要な風速の吸引気流が発生し、これら流体通流部31a・31b・31c・31d上を通過する繊維束Tmは気流との接触抵抗により吸引気流の方向へ撓曲されると共に、当該繊維束を構成する繊維間に気流が通過することになるので、開繊作用が生ずる。
【0092】
また、図面上、符号51で指示するものは、上記流体通流部31a・31b・31c・31d上を通過して拡幅開繊された開繊繊維束Tsを10m/minの速度で引き取る引取りロールであり、こうして引取りロール51・51を通過した開繊繊維束Tsは巻取ビームBに巻き取られる。
【0093】
〔第6実施例〕
本発明の第6実施例である“繊維束の開繊方法”を、図18と図19に図示する装置例9に基いて説明すると、次のとおりである。
【0094】
給糸クリール1のボビン11・11・11から繊維束供給機構2にて引き出される束径5mmの炭素繊維マルチフイラメント繊維束Tm・Tm・Tm(三菱レイヨン株式会社:品番「TR50S」=径7μmのカーボン・モノフィラメントが12,000本集束)は、前記供給機構2の一方向ドライブロール23・23の間を通過する際に同一平面上に等間隔かつ平行に並んで何れも同速度で流体通流開繊機構3へ送り込まれる。
【0095】
流体通流開繊機構3に送り込まれた繊維束Tm・Tm・Tmは、上流から下流へ移動する際に吸引気流(風速=20m/sec)が作用している流体通流部31a・31b・31c・31dの開口風洞を架線状態を成して順々に渡り辷りながら移動することになる。そして、このとき吸引気流に接触した前記繊維束Tm・Tm・Tmは、気流との接触抵抗によって吸引気流の方向へ撓曲されることになり、気流との接触面積が増大する。かくして、繊維束Tm・Tm・Tmと気流との接触面積が大きくなると、当該繊維束を構成する各々の繊維の間に気流が通過して繊維束Tmの結合が弛み開繊が始まる。こうして、上流側の流体通流部31aから下流側の流体通流部31b→31cへと繊維束Tm・Tm・Tmが移動してゆく裡に段々に開繊が進行してゆき、最下流の流体通流部31dを通過したとき、これら繊維束Tm・Tm・Tmの隣接する各々の側辺の繊維同士が接線状態に寄り添った幅が約60mmの広幅の開繊繊維シートTwとなった。
【0096】
〔装置例9〕
図18および図19には、上記した第6実施例の“繊維束の開繊方法”に使用する装置例9としての開繊装置が示される。
【0097】
即ち、図18と図19において、符号1で指示されるものは給糸クリールであり、ボビン形式の給糸体11・11・11が3巻仕掛けられてあり、これら各ボビン11には繊維束Tmが解舒可能に巻束してある。なお、図面上、前記給糸体11は3巻だけが図示してあるが、図示しないペッグ(peg)機構を介して巻数を適宜変更することが可能である。
【0098】
次に、符号2で指示するものは繊維束供給機構であり、上記給糸体11・11・11から繊維束Tm・Tm・Tmを解舒して引き出し、これら繊維束Tm・Tm・Tmを同一平面に並べて同速度で平行に送り出す一方向ドライブロール23・23と;この一方向ドライブロール23・23と前記各給糸体11との間に介在して引き出されてくる繊維束Tm・Tm・Tmの各々を所定位置に支持する多段配置(図示では、3段)の支持ロール21・22と;前後に隣り合う支持ロール21と22との間に配設されて回転自在な張力安定ロール24aを下端に備えたダンパー部材であって、この張力安定ロール24aは給糸体11・11・11から引き出されてくる各段の繊維束Tm・Tm・Tmの各々に常時一定の圧力で当接して、何れかの繊維束Tmの張力が所定以下に減少したときには当該繊維束に当接している張力安定ロール24aが所定張力に達するまで押圧することにより張力を上昇させ、逆に何れかの繊維束Tmの張力が所定以上に上昇したときには当該繊維束に当接している張力安定ロール24aが繊維束の張力に押されて退縮する均衡動作により繊維束Tmの張力を一定に保持する各段の張力調整ダンパー24とから構成されている。かくして、この繊維束供給機構2から送り出される繊維束Tm・Tm・Tmは、一方向ドライブロール23・23のロール間を通過する際に同一平面上に等間隔かつ平行に並んで何れも一定の張力で後記の流体通流開繊機構へ送り込まれることになる。
【0099】
次に、符号3で指示するものは風洞管方式の流体通流開繊機構である。図18と図19に示す装置例9にあっては、上面の開口が各々流体通流部31a・31b・31c・31dとして機能する4つの吸引風洞管が用いられている。即ち、前記流体通流部31a・31b・31c・31dは、上記一方向ドライブロール23・23によって同一平面の整列状態で同一速度で平行に送り出されてくる繊維束Tm・Tm・Tmの移動進路に沿って同一レベルで配設されており、これら各々の流体通流部31a・31b・31c・31dの出入り側には通過する繊維束Tmを一定レベルに支持するためのガイドロール32・32・32・32・32が各々配設されている。しかして、装置例1の吸引風洞管の各々には吸気ポンプ34・34・34・34が接続されており、適宜に流量調整バルブ33・33・33・33で気流調節して各吸気ポンプ34を作動させれば流体通流部31a・31b・31c・31dに必要な風速の吸引気流が発生され、これら流体通流部31a・31b・31c・31d上を通過する繊維束Tm・Tm・Tmは気流との接触抵抗により吸引気流の方向へ撓曲されると共に、当該繊維束を構成する繊維間に気流が通過することになるので、開繊作用が生ずる。
【0100】
また、図面上、符号51・51で指示するものは、上記流体通流部31a・31b・31c・31d上を通過して拡幅開繊された開繊繊維束Twを10m/minの速度で引き取る引取りロールであり、こうして引取りロール51・51を通過した開繊繊維束Twは巻取ビームBに巻き取られてゆくことになる。
【0101】
〔装置例10〕
図20〜図23には、上記した第6実施例の“繊維束の開繊方法”に使用する別の装置例10が示される。しかして、この装置例10は、上記装置例9の流体通流部31a・31b・31c・31dの各々に繊維束Tm・Tm・…の移動方向に直交するごとく浮き抑えブリッジ35・35・35・35を付加した点に差異があり、その他の構成は前述の装置例9と変わるところがない。この装置例10によって繊維束の開繊を実施する場合には、各繊維束Tmの各々を前記浮き抑えブリッジ35の各々に潜らせてから気流に接触させるので、流体通流部31a・31b・31c・31dを移動する繊維束Tm・Tm・Tmが直伸化したり最小撓み量が一定限度以下に下がったりはせず、気流との接触面積が確保されて開繊効率が良好となる。なお、念のため附言しておくと、装置例10においては、浮き抑えブリッジ35のレベル位置は図示しない周知の架設機構により適宜に上げ下げ変更することも可能である。
【0102】
さらに附言するならば、装置例10におけるように流体通流部31a・31b・31c・31dの各々の内部に浮き抑えブリッジ35を配設した場合には、図23に示すように開繊移動中の繊維束Tmは両端近傍に位置する繊維のみが浮き抑えブリッジ35に接触して、中央部位の繊維は吸引風圧で引かれて浮き抑えブリッジ35から離れた状態で当該繊維束Tmは進路に沿って移動することになる。このため、気流の通流により拡幅開繊される繊維束Tmは中央部位と両側部位における繊維に長さムラが生ずることはなくて、分散性の良好で拡幅量の大きい広幅の開繊繊維束を得ることができる。
【0103】
〔装置例11〕
図24には、上記第6実施例の“繊維束の開繊方法”に使用する装置例10とは別の装置例11が示される。この装置例11は、一方向ドライブロール23・23と最上流の流体通流部31aの導入側のガイドロール32との間に進退押圧ロール型の張力与除機構4を付加した点が前述の装置例3と異なり、その他の構成は装置例10と同じである。装置例10において採用している張力与除機構4は、横長のロッド部材であって、給糸クリールから同一平面に並行して同速度で送り出されてくる多数の繊維束Tm・Tm・Tmの横幅全体を、交差方向つまり上から下へと局部的に屈伸せしめることによって移動過程にある当該各々の繊維束の張力を一斉に緊張・弛緩・緊張・…と交互に繰り返し変化させるものである。前記ドライブロール23・23と最上流の流体通流部31aの導入側のガイドロール32との間において移動中の繊維束Tm・Tm・Tmが、このような断続的押圧が付与されると、その揉み作用によって押圧を受けた部分における各々の繊維束Tmを構成する繊維同士の結合は弛まると共に、其処から流体通流部31a・31b・31c・31dの方向へ移動する繊維束Tm・Tm・Tmの張力は一定のタイミングで緊張・弛緩・緊張・…と繰り返し変化することになる。そして、かゝる繊維同士の結合は弛められた繊維束Tm・Tm・Tmの張力変化は流体通流部31a・31b・31c・31dおいて当該各繊維束が吸引気流に接触した際に微妙な開繊効果を発揮することになる。即ち、繊維束Tm・Tm・Tmの張力が弛緩したとき、流体通流部31a・31b・31c・31dの各々を移動する当該繊維束は大きく撓曲して吸引気流の通気面積の増大により開繊が促進されることになる一方、この流体開繊通流機構3から下流においては各々の繊維束Tmの張力変化は前記各流体通流部で吸収されて均一となって巻取ビームBに整然と巻き取られることになるのである。
【0104】
〔装置例12〕
図25〜図27には、上記第6実施例の“繊維束の開繊方法”に使用する亦別の装置例12が示される。この装置例12は、流体通流部31a・31b・31c・31dの出入り側に繊維束Tm・Tm・Tmを一定のレベル位置に支持するために配設する各々のガイドロール32・32・32・32・32を長さ方向(繊維束の幅方向)へ進退往復可能に構成して進退摺接機構6の機能を保有させた点が前述の装置例9と異なり、その他の構成は装置例9と何ら変わらない。即ち、装置例12におけるガイドロール32・32・32・32・32は、図25〜図27に示すごとく、何れもクランクモータ32aによって駆動されるクランク32bに周知のリンク機構32cに連接されており、クランクモータ32aが回転すると、クランク32bは当該モータの回転運動を進退運動に変換してリンク機構32cに伝達し、ガイドロール32・32・32・32・32を一斉に進退運動させることになる。しかして、装置例13における繊維束摺接機構Mと線状に接触しながら移動する繊維束Tm・Tm・Tmを構成する繊維は、ガイドロール32・32・32・32・32の幅方向への進退往復運動により、恰もヴァイオリンの弦が弓(bow bar)に摩接されるごとく、繊維一本一本が摩られて、このとき、もし繊維同士が固結した部分があったとしても柔らかく解ぐされて、流体通流部31a・31b・31c・31dにおける吸引気流の通気作用と相俟ってが高まって開繊効率が大幅に向上する。
【0105】
〔装置例13〕
図28には、上記第6実施例の“繊維束の開繊方法”に使用する更に別の装置例13が示される。この装置例13は、流体開繊通流機構3の流体通流部31a・31b・31c・31dの各々に対向して加熱器(熱風機)7・7・7・7を配設した点が相違し、その他の構成と前述の装置例9と同様である。この装置例13は、開繊対象の繊維束Tm・Tm・Tmを構成する繊維が合成樹脂系サイジング剤によって結合されている場合に有効であり、各加熱器(熱風機)7から120℃程度の熱風を吹き出されると、各繊維束Tmを結合しているサイジング剤が軟化5て流体通流部31a・31b・31c・31dにおける吸引気流による開繊作用が大幅に促進するのである。
【0106】
〔装置例14〕
図29には、上記第6実施例の“繊維束の開繊方法”に使用する更に亦別の装置例14が示される。この装置例14は、流体開繊通流機構3における各々の流体通流部が、繊維束の移動方向に沿って長い口径を有する吸引風洞管の開口部を一定間隔に区分して流体通流部31a・31b・31c・31dを構成した点が前述の装置例9と異なり、その他の基本的構成は装置例9と同様である。この装置例14は、装置例9と比較して吸気ポンプ34および流量調整バルブ33が各々1つで足りるので、製作コストが安価で操作も簡単である。
【0107】
〔装置例15〕
図30には、上記第6実施例の“繊維束の開繊方法”に使用する更に別の装置例15が示される。この装置例15は、上記装置例14と比較すると流体通流部31a・31b・31c・31dの各々に浮き抑えブリッジ35・35・35・35を配設した点が異なり、その他の構成は装置例14と同じである。そして、この浮き抑えブリッジ35の作用は、前述の装置例9における浮き抑えブリッジ35と同じである。
【0108】
〔装置例16〕
図31には、上記した第6実施例の“繊維束の開繊方法”に使用する亦別の装置例16が示される。この装置例16は、前述の装置例9と比較して流体通流部31a・31b・31c・31dの各々に風止板31s・31s・31s・31sを被蓋して当該箇所を移動する繊維束Tmの幅に対応する開口面積に限定構成した点のみが相違し、その他の構成は装置例9と同様である。この装置例17におけるように封止板31s・31s・31s・31sを流体通流部31a・31b・31c・31dの開口部に被せておくと、吸引気流のエネルギー損失が節約することができ、ランニングコストが有利となる。
【0109】
〔第7実施例〕
本発明の第7実施例である“繊維束の開繊方法”を、図32に示す装置例17に基いて説明すると、次のとおりである。
【0110】
クリール1のボビン11・11・11から繊維束供給機構2にて引き出される束径5mmの炭素繊維マルチフイラメント繊維束Tm・Tm・Tm(三菱レイヨン株式会社:品番「TR50S」=径7μmのカーボン・モノフィラメントが12,000本集束)は、前記供給機構2の一方向ドライブロール23・23の間を通過する際に同一平面上に等間隔かつ平行に並んで何れも同速度で流体通流開繊機構3へ送り込まれる。
【0111】
流体通流開繊機構3に送り込まれた繊維束Tm・Tm・Tmは、上流のドライブロール23・23から送り出されて下流の巻取ビームBの方向へ移動する過程で、80℃の循環水流(流速=5m/sec)が流れている流体通流部31a・31b・31c・31dの密封液管の中を通過する。この際、これらの繊維束Tmは、水密に構成された各ヤーン通孔hから密封液管である流体通流部31a・31b・31c・31dの循環水流の中を架線状態を成して順々に渡り潜って通り抜ける。そして、このとき循環水流に接触した前記繊維束Tm・Tm・Tmは、当該水流との接触抵抗により循環水流の流れ方向へ撓曲され水流との接触面積が徐々に拡大されてゆく。繊維束Tm・Tm・Tmと水流との接触面積が大きくなってくると、当該繊維束を構成する繊維間に水が通過して繊維束Tmの結合が弛み開繊が始まることになる。かくして上流側の流体通流部31aから下流側の流体通流部31b→31cへと繊維束Tm・Tm・Tmが移動してゆく裡に徐々に開繊が進行し、最下流の流体通流部31dを通過したときには、これら繊維束Tm・Tm・Tmの隣接する各々の側辺の繊維同士が接線状態に寄り添った状態の横幅が約75mmの広幅の開繊繊維束Twに開繊される。
【0112】
〔装置例17〕
図32には、上記第7実施例の“繊維束の開繊方法”に使用する装置例17が示される。即ち、図32において、符号1で指示されるものは給糸クリールであり、ボビン形式の給糸体11・11・11が3巻仕掛けられてあり、これら各ボビン11には繊維束Tmが解舒可能に糸巻されている。また、符号2で指示するものは繊維束供給機構であり、上記給糸体11・11・11から繊維束Tm・Tm・Tmを解舒して引き出し、これら繊維束Tm・Tm・Tmを同一平面に並べて平行に送り出す一方向ドライブロール23・23と;このドライブロール23・23と前記各々の給糸体11との間に介在して引き出されてくる繊維束Tm・Tm・Tmを所定位置に支持するロール列21・22・22・…と;前後に隣り合うロール21と22との間に配設されて回転自在な張力安定ロール24aを下端に備えたダンパー部材24とによって構成されている。しかして、装置例17における給糸クリール1と繊維束供給機構2の構成は前述の装置例9の場合と変わるところがない。
【0113】
次に、図32において符号3で指示するものは、循環水流方式の流体通流開繊機構である。この流体通流開繊機構3においては、ヤーン通孔hが設けられた拡径チューブ型の密封液管から成る4連の流体通流部31a・31b・31c・31dが採用されている。即ち、前記拡径チューブ型の密封液管からなる流体通流部31a・31b・31c・31dは、上記繊維束Tm・Tm・Tmの移動進路に沿って同一レベル位置にヤーン通孔h・h・…を有し、これら各々の流体通流部のヤーン通孔h・h・…の各々の出入り側には通過する繊維束Tmを一定レベルに支持するためのゴム製ガイドロール32が水密保持を兼ねて配設してある。しかして、装置例10の密封液管式流体通流部31a・31b・31c・31dの各々には液循環ポンプ34・34・34・34が接続されており、適宜に流量調整バルブ33・33・33・33で流量調節して各液循環ポンプ34を作動させるならば液循パイプ3c・3c・3c・3cを経由して流体通流部31a・31b・31c・31dに必要な流速の循環水流が生起されて、これら流体通流部31a・31b・31c・31dのヤーン通孔h・h・…を通過する繊維束Tm・Tm・Tmは水流との接触抵抗により循環水流の流れ方向へ撓曲されると共に、当該繊維束を構成する繊維の間に循環水が通過することになるので、開繊作用が進行する。
【0114】
そして、上記した最下流に位置する流体通流部31dの出口側には引取ロール51が配設されており、同流体通流部31dのヤーン通孔hから拡幅開繊されて出てきた開繊繊維シートTwは10m/minの速度で引取りロール51・51に引き取られて巻取ビームBに巻き取られることになる。なお、図32中の符号8で指示するものは、湿潤状態で最下流の流体通流部31dのヤーン通孔hから出てくる開繊繊維束Twの水分を除く周知の乾燥ロールである。
【0115】
〔装置例18〕
図33には、上記した第7実施例の“繊維束の開繊方法”に使用する装置例18が示される。この装置例18では繊維束の移動方向に沿って長い管径を有する拡径チューブ型の密封液管から成る流体開繊通流機構3が採用されており、この流体開繊通流機構3における各々の流体通流部は当該密封液管の長径内管部を一定間隔に区分して流体通流部31a・31b・31c・31dを形成した点が前述の装置例17と異なっており、その他の基本的構成は装置例17と同様である。この装置例18は、装置例17と比較して液循環ポンプ34および流量調整バルブ33が各々1つ製作できるので、製作コストが安価であり、操作も簡単である。
【0116】
本明細書と図面に具体的に例示する本発明の実施の形態は概ね上記のとおりであるが、本発明は前述の実施形態例に限定されるもので決してなく、「特許請求の範囲」記載内において種々の変形実施が可能であることは言うまでもないのであり、例えば、以下に掲げる変更例が本発明の技術的範囲に属することはいうまでもない。
(1)前述の第1〜第7実施例および装置例1〜18においては、給糸クリール1は、3巻〜5巻の繊維束Tmを処理するものを例示して説明しているが、繊維束Tmの処理条数は前述の数に限定されるものでなく、給糸クリール1に仕掛ける給糸体11を増やすことにより任意巻数(条数)の繊維束Tmを処理することが可能である。
(2)また、前述の第1〜第7実施例および装置例1〜18においては、各流体通流部31a・31b・31c・31dの内部に配設する浮き抑えブリッジ35は丸棒状のものを採用していたが、中央部分が太いエンタシス型(entasis)の丸棒材を用いることも望ましい。
(3)また、本発明の実施の必要上、流体開繊通流機構3の流体通流部31a・31b・31c・31dに対向して熱風式の加熱器7を配設する例を挙げている事例があるが、必ずしも熱風式に限られるわけではなく、超音波発振器、あるいは遠赤外線放射器などを採択することも可能である。
(4)また、前述の第7実施例においては、繊維束Tmを開繊抵抗を付与する作動流体として80℃の循環水流を用いる例を挙げて説明したが、冷水あるいは温水を用いることも可能であり、さらには気泡水などの気液二相流を用いて繊維束Tmを構成する繊維に気泡を衝突させて破砕し微細化した気泡を前記衝突の振動で弛んだ繊維間へ通流させて開繊を促進することも可能である。
(5)さらに、本発明の第3実施例に関しては、装置例5(図9参照)の下流側に沿って、図34に示すごとく、生成されてくる開繊シートTwに対し、その上下面へ樹脂シートSt・Stを供給して重ね合わせ、さらに前記樹脂シートSt・Stの各々の外面にリリース・シートRs・Rsを添合させて接合機Hにて開繊シートTwの上下面に樹脂シートを溶融一体化した後、この溶融一体化によって得られたプリプレグシートPを分離して巻取ロールRに納めるといった樹脂含浸工程を付加することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明に係る繊維束の開繊方法と装置を採用実施するならば、給糸体ないしは給糸クリールから1条ないしは多数の繊維束を同一平面に並ぶ如く平行に同速度で解舒して送り出し、送り出した各々の繊維束を当該繊維束の移動進路に沿って配設された複数の流体通流部に架線状態で移動させ、これらの流体通流部を移動する際に当該繊維束は流体との接触抵抗によって流体通過方向へ撓曲せしめ、かつ、当該接触抵抗で弛んだ繊維束を構成する繊維間に流体を通過させるというメカニズムを採用しているので、高能率に開繊繊維束を製造することができ、また多数の繊維束を開繊する場合には隣接する各々の繊維束側辺の繊維同士が平行かつ一様な密度で接線状態に寄り添った状態の均質かつ高品質の開繊糸シートを量産率に製造することが可能であり、産業上非常に有益である。
【0118】
さらに、本発明の提供する開繊装置は、給糸クリールと繊維束供給機構と繊維束の移動進路に沿って複数の流体通流部を数珠繋ぎに連接させて構成される流体通流開繊機構とを基本要素としているため極めて簡素であるうえに、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、ポリオキシメチレン繊維、アロマティック・ポリアミド繊維などの高強度繊維束を省スペースに効率的に開繊することができしかも、得られる開繊繊維束や開繊糸シートの製造コストは安価で生産性も高いから、その産業上の利用価値は頗る大きいものと云える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給糸体から繊維束を解舒して送り出す一方、こうして送り出されてくる前記繊維束を、複数の流体通流部が当該繊維束の移動進路に沿って数珠繋ぎに連接されて成る流体通流開繊機構の前記流体通流部の各々に架線状態を成して渡る如く移動させ、これら各流体通流部を移動する際に当該繊維束が流体との接触抵抗で流体通過方向へ撓曲され、かつ、この流体接触抵抗を受けて繊維結束が弛められて形成された当該繊維束の間隙に前記流体を通過させることによって繊維同士の間隔を幅方向に広げて開繊を進行せしめ、こうして開繊作用を受ける当該繊維束を、上流側に位置する流体通流部から下流側に位置する流体通流部へと順々に連続通過せしめることにより流体と繊維束との接触面積を次第に拡大させ、当該繊維束を累進的に拡幅開繊せしめることを特徴とする繊維束の開繊方法。
【請求項2】
給糸体から送り出されてくる繊維束を、その移動方向とは交差する方向へ局部的に屈伸させることにより、移動過程にある当該繊維束の張力を緊張・弛緩・緊張・…と交互に反復的に変化させ、こうして張力変化を伴いながら移動する繊維束を、複数の流体通流部が当該繊維束の移動進路に沿って数珠繋ぎに連接されて成る流体通流開繊機構の前記流体通流部の各々に架線状態を成して渡る如く移動させ、これら各流体通流部を移動する際に当該繊維束が流体との接触抵抗で流体通過方向へ撓曲され、かつ、この流体接触抵抗を受けて繊維結束が弛められて形成された当該繊維束の間隙に前記流体を通過させることによって繊維同士の間隔を幅方向に広げて開繊を進行せしめ、こうして開繊作用を受ける当該繊維束を、上流側に位置する流体通流部から下流側に位置する流体通流部へと順々に連続通過せしめることによって流体と繊維束との接触面積を次第に拡大させ、当該繊維束を累進的に拡幅開繊せしめることを特徴とする繊維束の開繊方法。
【請求項3】
給糸体から繊維束を解舒して送り出す一方、こうして送り出されてくる前記繊維束を、その移動方向とは交差する方向へ局部的に屈伸させることによって、移動過程にある当該繊維束の張力を緊張・弛緩・緊張・…と交互に反復的に張力変化させる一方、こうして張力変化を伴いながら移動する繊維束を、複数の流体通流部が当該繊維束の移動進路に沿って数珠繋ぎに連接されて成る流体通流開繊機構の流体通流部に架線状態で移動させ、この流体通流部において張力に緊張・弛緩・緊張・…と反復的変化が与えられ繊維間に流体が通流して開繊の進行する当該繊維束に対して、幅方向への直線的な進退摩擦を付与することを特徴とする繊維束の開繊方法。
【請求項4】
給糸体から解舒される繊維束の逆流戻りを阻止しながら送り出し、逆流戻りが阻止された箇所から下流を移動する繊維束の張力を、その移動方向とは交差する方向へ局部的に屈伸させることにより緊張・弛緩・緊張・弛緩・…と交互に反復的に変化させることを特徴とする請求項2記載の繊維束の開繊方法。
【請求項5】
複数の流体通流部の各々に、繊維束の撓み量を確保する浮き抑えブリッジが配設されており、これら各浮き抑えブリッジの下へ繊維束を潜らせて流体に接触させることによって当該流体通流部を移動する繊維束の撓み量が一定の限度以下に減少しないように規制したことを特徴とする請求項4記載の繊維束の開繊方法。
【請求項6】
複数の流体通流部に架線状態で移動する繊維束を、加熱することによりサイジング剤を軟化させ、軟化して繊維結合の弛んでいる当該繊維束を、複数の流体通流部が当該繊維束の移動進路に沿って数珠繋ぎに連接して成る流体通流開繊機構の前記流体通流部の各々に反復通過させて開繊することを特徴とする請求項5記載の繊維束の開繊方法。
【請求項7】
給糸クリールの各給糸体から解舒されてくる多数の繊維束から成る繊維束群を平行かつ同一平面に整列させて送り出す一方、こうして送り出されてくる前記繊維束群の各繊維束を、複数の流体通流部が当該繊維束の移動進路に沿って数珠繋ぎに連接して成る流体通流開繊機構の前記流体通流部の各々に架線状態を成して渡る如く移動させ、これら各流体通流部を移動する際に各々の繊維束が流体との接触抵抗によって流体通過方向へ撓曲され、この流体接触抵抗を受けて繊維結束が弛められて形成された当該各繊維束の間隙に流体を通過させ繊維同士の間隔を幅方向に広げて開繊を進行せしめ、こうして開繊が進行して同一平面上を移動する開繊繊維束群が形成する幅面に対し、当該開繊繊維束群の移動方向とは交差する方向へ局部的に屈伸させて移動過程にある当該繊維束の張力を緊張・弛緩・緊張・…と交互に反復的に変化せしめることにより、前記流体開繊機構の流体通流部の各々における開繊作用を更に増進させることを特徴とする繊維束の開繊方法。
【請求項8】
給糸クリールの各給糸体から解舒されてくる多数の繊維束から成る繊維束群を平行かつ同一平面に整列させて送り出す一方、こうして送り出されてくる前記繊維束群の各繊維束を、複数の流体通流部が当該繊維束の移動進路に沿って数珠繋ぎに連接して成る流体通流開繊機構の前記流体通流部の各々に架線状態を成して渡る如く移動させ、これら各流体通流部を移動する際に各々の繊維束が流体との接触抵抗によって流体通過方向へ撓曲され、この流体接触抵抗を受けて繊維結束が弛められて形成された当該各繊維束の間隙に流体を通過させ繊維同士の間隔を幅方向に広げて開繊を進行せしめ、こうして開繊が進行して同一平面上を移動する開繊繊維束群に対し、幅方向への直線的な進退摩擦を付与して隣接する各々の開繊繊維束同士の側辺に位置する繊維同士を接線状態に寄り添わせ、全体が一様な開繊繊維シートに形成することを特徴とする繊維束の開繊方法。
【請求項9】
給糸クリールの各給糸体から解舒されてくる多数の繊維束から成る繊維束群を平行かつ同一平面に整列させて送り出す一方、こうして送り出されてくる前記繊維束群の各繊維束を、複数の流体通流部が当該繊維束の移動進路に沿って数珠繋ぎに連接して成る流体通流開繊機構の前記流体通流部の各々に架線状態を成して渡る如く移動させ、これら各流体通流部を移動する際に各々の繊維束が流体との接触抵抗によって流体通過方向へ撓曲され、この流体接触抵抗を受けて繊維結束が弛められて形成された当該各繊維束の間隙に流体を通過させ繊維同士の間隔を幅方向に広げて開繊を進行せしめ、こうして開繊が進行して同一平面上を移動する開繊繊維束群が形成する幅面に対し、当該開繊繊維束群の移動方向とは交差する方向へ局部的に屈伸させて移動過程にある当該繊維束の張力を緊張・弛緩・緊張・…と交互に反復的に変化を与えることによって、前記流体開繊機構における流体通流部の各々における開繊作用を増進させる一方、こうして開繊が進行して同一平面上を移動する開繊繊維束群に対し、幅方向への直線的な進退摩擦を付与して隣接する各々の開繊繊維束同士の側辺に位置する繊維同士を接線状態に寄り添わせ、全体が一様な開繊繊維シートに形成することを特徴とする繊維束の開繊方法。
【請求項10】
繊維束が巻き付けられた給糸体、又は給糸体を多数装備した給糸クリールと;前記給糸体、又は給糸クリールからの繊維束又は繊維束群を一定張力で解舒して当該繊維束の逆流引戻りを阻止しながら当該繊維束又は繊維束群を一定平面に保持して送り出す繊維束供給機構と;この送り出されて移動してくる繊維束又は繊維束群の移動進路に沿って配設されており、この移動する当該繊維束又は繊維束群を架線状に支持した状態で直交方向へ流体を接触・通過させることによって前記繊維束又は繊維束群を流体通過方向へ撓曲させつつ開繊せしめる複数の流体通流部を数珠繋ぎに連接して成る流体通流開繊機構と;移動過程にある繊維束又は繊維束群を局部的に屈伸させて緊張・弛緩・緊張・弛緩・…と交互に反復的に張力変化せしめる張力与除機構とを包含して構成されることを特徴とする繊維束の開繊装置。
【請求項11】
張力与除機構が、下端に押圧ロールを有する昇降ロッドと;この昇降ロッドに屈伸自在に連結されたクランクアームと;このクランクアームに連接する回転ロータを出力軸に備えたクランクモータとによって構成されていることを特徴とする請求項10記載の繊維束の開繊装置。
【請求項12】
給糸体又は給糸クリールから解舒されて送り出されてくる繊維束に対し、一定の圧力で当接する張力安定ロールを備え、当該繊維束の張力が一定以下に減少し当該ロール圧よりも劣勢なときには当該繊維束に当接している張力安定ロールが繊維束の屈曲量を増大させて当該繊維束が所定の張力に達して均衡するまで押圧し続けて張力を上昇させる一方、繊維束の張力が一定以上に強くて当該ロール圧よりも優勢なときには当該繊維束に当接している張力安定ロールが押負け退縮して繊維束の屈曲量が減少し当該繊維束が所定の張力に至るまで退縮させて、移動繊維束の張力を一定に保持する張力調整機構が流体通流開繊機構より上流位置に配設されていることを特徴とする請求項10記載の繊維束の開繊装置。
【請求項13】
流体通流開繊機構を構成する複数の流体通流部の各々の内部には、繊維束又は繊維束群の移動方向に直交するごとく浮き抑えブリッジが架設されていることを特徴とする請求項10記載の繊維束の開繊装置。
【請求項14】
浮き抑えブリッジが、中太のエンタシス形状を成す円柱体に形成されていることを特徴とする請求項13記載の繊維束の開繊装置。
【請求項15】
流体通流開繊機構を構成する複数の流体通流部の各々の上部に、加熱器が対向設置されており、各々の流体通流部を架線状態で通過する繊維束又は繊維束群を加熱可能に構成したことを特徴とする請求項10記載の繊維束の開繊装置。
【請求項16】
開繊途上にある繊維束又は繊維束群に対し、当該繊維束又は繊維束群を構成する繊維に当接させた状態で幅方向へ進退運動して擦りによる進退摩擦を付与する横摺り進退摺接機構を具備したことを特徴とする請求項10記載の繊維束の開繊装置。
【請求項17】
流体通流開繊機構における各々の流体通流部が、繊維束又は繊維束群の移動方向に沿って長い口径の流体通路筒を一定間隔に区分することにより構成したことを特徴とする請求項10記載の繊維束の開繊装置。
【請求項18】
流体通流開繊機構を構成する複数の流体通流部が繊維束又は繊維束群の進入・退出して通過するヤーン通孔を有する拡径チューブ型の密封液筒であって、液体循環ポンプとの間に循環パイプを介して液体循環路を構成しており、液循環ポンプを作動させることにより前記液循パイプを経由して各流体通流部に必要な流速の循環水流が生起して、これら流体通流部のヤーン通孔を通過する繊維束又は繊維束群は水流との接触抵抗によって循環液流の流れ方向へ撓曲されると共に、当該繊維束を構成する繊維の間に循環液が通過して開繊することを特徴とする請求項10記載の繊維束の開繊装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【公表番号】特表2007−518890(P2007−518890A)
【公表日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518512(P2006−518512)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010006
【国際公開番号】WO2005/002819
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【Fターム(参考)】