説明

繊維束配列装置のボビン保持装置

【課題】ボビンの交換時間を短縮して繊維束配列装置の稼働率を高めることができる繊維束配列装置のボビン保持装置を提供する。
【解決手段】ボビン保持装置11は、ボビンBを貫通する状態でボビンBを一体回転可能に支持する支持軸15を備え、支持軸15の第1端部側にギヤ16が一体回転可能に設けられている。ボビンBは第1のボビン受け部材及び第2のボビン受け部材を介して支持軸15に支持され、支持軸15にはボビンBを挟むようにベアリング20,21が設けられている。支持軸15は、支持軸15が水平に延びる状態でベアリング20,21を上方から載置可能に開放された支持部13a,14aを有する支持ブラケット13,14に、ベアリング20,21が設けられた箇所でそれぞれ支持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維束配列装置のボビン保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材は軽量の構造材料として広く使用されている。繊維強化複合材のうち、三次元織物(三次元繊維構造体)を強化材として使用したものは強度が非常に高く、航空機や自動車等の構造材に使用が考えられ、一部使用されている。このような繊維強化複合材の強化材に使用する三次元繊維構造体の製法として、繊維束(糸)が折り返し状に配列された複数の糸層を積層して少なくとも2軸配向となる積層繊維束群(積層糸群)を形成し、その積層繊維束群を各繊維束層と直交する方向に配列される厚さ方向糸で結合する三次元繊維構造体の製造方法がある。そして、積層繊維束群を形成する際に、所定ピッチで配置したピン間に繊維束を偏平な状態でかつ偏平な面が配列面に沿った状態で折り返し状に配列する繊維束配列装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1の繊維束配列装置は、ボビンから繰り出される繊維束を案内するガイドパイプを備えた繊維束配列ヘッドと、繊維束被配列部材とを相対移動させて、繊維束を繊維束被配列部材上のピンに係合させて折り返すように配列して積層繊維束群を形成する。そして、繊維束の配列時に繊維束に無理な張力が加わらない範囲において、繊維束の配列速度を速くするためには、ボビンを正転方向及び逆転方向に積極回転する必要がある。また、繊維束配列装置では形成すべき積層繊維束群の大きさにもよるが、繊維束が巻かれた満ボビンの重量が2〜4kg程度あるため、正転、逆転時にボビンが支持軸に対してスリップするのを抑制する状態で支持する必要がある。
【0004】
ボビンを積極回転するためのボビン保持装置として従来、図8に示す構成のものがある。ボビン保持装置は、プレート71上に設けられた支持ブラケット72,73に支持軸74がベアリング75,76を介して回転可能に支持され、支持軸74の一端にギヤ77が一体回転可能に固定されている。また、支持軸74には両支持ブラケット72,73の間に、ボビンBの一端を支持するボビン受け部材78と、ボビンBの内面に当接可能な当接部79aを複数備えたパンタグラフ機構79とが設けられている。パンタグラフ機構79は、支持軸74に固定された支持部材80に一端が支持された第1リンク80aと、支持軸74に摺動可能に支持された移動部材81に一端が支持された第2リンク81aとを備え、第1リンク80a及び第2リンク81aの他端が当接部79aに回動可能に連結されている。支持軸74の支持ブラケット73寄りに形成された雄ねじ部にはナット82が螺合されており、移動部材81は、ナット82との間の支持軸74に遊嵌されたパイプ83を介してナット82による締め付け力により、当接部79aがボビンBを外周側へ押圧する位置に保持されて、ボビンBを支持軸74と一体回転可能に支持する。なお、支持ブラケット73は、支持軸74が支持ブラケット72に支持された状態で、ベアリング76と共に支持ブラケット73がボビンBの当接部79aに対する着脱に支障を来さない位置まで退避可能にプレート71に固定されている。
【0005】
このボビン保持装置では、繊維束が消費されたボビンBを繊維束が十分巻かれている新たなボビンBと交換する場合、先ずナット82を弛めてパンタグラフ機構79の当接部79aがボビンBを押圧している状態を解除する。次に支持ブラケット73をベアリング76と共にプレート71上から取り外し、その状態でボビンBを支持軸74に沿って移動させて取り外す。次に新たなボビンBを当接部79aの外側に遊嵌させるとともにボビン受け部材78に嵌合させる。次に支持ブラケット73をベアリング76が支持軸74に嵌挿されるようにプレート71に固定する。そして、最後にナット82を締め付けて当接部79aがボビンBを押圧する状態にしてボビンBの交換作業が完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−16347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図8に示す従来のボビン保持装置では、当接部79aとボビンBの内面との当接が解除された状態において、ボビンBの内面と当接部79aとの隙間が狭い。そのため、作業者はボビンBを取り外す際あるいは新たなボビンBを装着する際、片持ち状態の支持軸74に無理な力が加わらないように、ボビンBを支持軸74と平行な状態に保持して作業を行う必要がある。その結果、繊維束が消費されたボビンBと繊維束が十分巻かれている新たなボビンB(満ボビン)とを交換するボビン交換作業が面倒で時間が30分程度かかり、重さが2〜4kg程度のボビンBを作業者が持ち続ける必要がある。また、パンタグラフ機構79を利用してボビンBを支持軸74と一体回転可能に支持する構成は、当接部79aとボビンBの内面との摩擦力を十分大きくするのが難しいという問題もある。
【0008】
本発明は、前記従来の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、ボビンの交換時間を短縮して繊維束配列装置の稼働率を高めることができる繊維束配列装置のボビン保持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、ボビンから送り出される繊維束の配列に配列ヘッドを使用し、かつ前記配列ヘッドと繊維束被配列部材とを相対移動させて、前記繊維束を前記繊維束被配列部材上のピンに係合させて折り返すように配列して積層繊維束群を形成する繊維束配列装置のボビン保持装置である。そして、前記ボビンを貫通する状態で前記ボビンを一体回転可能に支持する支持軸と、前記支持軸の一端側に前記支持軸と一体回転可能に設けられた動力伝達手段と、前記支持軸に支持された前記ボビンを挟むように前記支持軸に設けられた摺動部材と、前記支持軸を前記摺動部材が設けられた箇所でそれぞれ支持するとともに、前記支持軸が水平に延びる状態で前記摺動部材を上方から載置可能に開放された支持部を有する支持ブラケットとを備えている。ここで、「上方から載置可能」とは、真上からだけでなく斜め上方から載置する場合も含む。
【0010】
この発明では、ボビンを繊維束配列装置に装着する場合、一端側に動力伝達手段が設けられるとともにボビンを挟むように摺動部材が設けられた支持軸を、支持ブラケットの支持部に摺動部材において支持される状態で取り付ける。支持部は摺動部材を上方から載置可能に開放されているため、支持軸に摺動部材が取り付けられたまま、支持軸を支持部に容易に載置したり、あるいは支持部から容易に離脱させたりすることができる。したがって、従来技術のような繊維束配列装置の一方の支持ブラケットを、支持軸を支持する状態から取り外して、支持軸が他方の支持ブラケットに片持ちで支持された状態においてボビンの着脱を行う場合に比較して、ボビンの交換時間を短縮することができ、繊維束配列装置の稼働率を高めることができる。また、たとえ支持軸にボビンを装着する作業に時間がかかる構成を採用しても、その作業は繊維束配列装置の稼働中に行うことができ、稼働率に支障を来さない。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記支持ブラケットは、前記支持部に載置された前記摺動部材と当接して前記摺動部材を前記支持部に保持する保持部材を備えている。支持軸、摺動部材等のその付属品及び繊維束が巻かれたボビンの合計重量によっては、ボビンが支持軸と共に摺動部材を介して支持部に安定な状態で支持されるが、前記合計重量が軽い場合は支持状態が不安定になる場合がある。しかし、この発明では保持部材が摺動部材と当接して支持部に保持するため、ボビンが支持軸と共に安定した状態で支持部に支持される。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記ボビンは、前記支持軸に一体回転可能に支持されるとともに前記ボビンの端部にそれぞれ嵌挿される嵌合部と、前記ボビンの端面に当接するボビン押圧部とを備えた第1のボビン受け部材及び第2のボビン受け部材を介して前記支持軸に支持され、前記第2のボビン受け部材は前記ボビンに対して前記動力伝達手段と反対側に設けられるとともに、前記支持軸には前記第2のボビン受け部材に当接して前記ボビン押圧部を前記ボビン側に付勢する押え部材が締結されている。
【0013】
この発明では、ボビンは支持軸に一体回転可能に支持される第1及び第2のボビン受け部材の嵌合部に端部が嵌合された状態で支持軸に支持される。ボビンが両ボビン受け部材の嵌合部に嵌合しただけでは、支持軸の回転が停止される際、あるいは回転方向が変更される際に、ボビンがボビン受け部材に対してスリップし易い。しかし、この発明では、ボビンは第1及び第2のボビン受け部材に設けられたボビン押圧部により両端面が押えつけられた状態で支持されるため、スリップが抑制される。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記ボビン押圧部は前記ボビンの端面と当接する部分に複数の突起が形成されており、前記ボビンは前記突起がボビンの端面にくい込み可能な材質で形成されている。したがって、この発明では、各ボビン押圧部の突起がボビンにくい込んだ状態でボビンが支持軸に支持されるため、ボビンのスリップがより抑制された状態で支持軸と一体回転する。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項3又は請求項4に記載の発明において、前記摺動部材のうち前記ボビンに対して前記動力伝達手段と反対側に設けられた摺動部材は、その外径が前記押え部材の内径及び前記第2のボビン受け部材の内径より小さく形成されている。この発明では、ボビンを交換する際、支持軸をボビンと共に支持ブラケットの支持部から取り外した状態で、支持軸から押え部材及び第2のボビン受け部材を、支持軸に摺動部材が固定されたままで取り外すことができる。そのため、支持軸に対する摺動部材の脱着作業の分、支持軸に対するボビンの交換作業時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ボビンの交換時間を短縮して繊維束配列装置の稼働率を高めることができる繊維束配列装置のボビン保持装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)はボビン保持装置の模式正面図、(b)は左側面図、(c)は右側面図。
【図2】支持軸、ボビン受け部材、ベアリング等の関係を示す一部省略断面図。
【図3】ボビン保持装置の模式平面図。
【図4】(a)はボビン押えプレートの正面図、(b)は(a)のA−A線断面図。
【図5】(a)は本体の正面図、(b)は(a)のB−B線断面図。
【図6】(a)は別の実施形態の部分断面図、(b)はフックボルトの模式図。
【図7】(a)は支持部の別の形状を示す模式図、(b)は別の実施形態のボビン受け部材の模式断面図。
【図8】従来技術の模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施形態)
以下、本発明をボビンから送り出される繊維束の配列に配列ヘッドを使用し、かつ前記配列ヘッドと繊維束被配列部材とを相対移動させて、繊維束を前記繊維束被配列部材上のピンに係合させて折り返すように配列して積層繊維束群を形成する繊維束配列装置のボビン保持装置に具体化した一実施形態を図1〜図5にしたがって説明する。
【0019】
図1(a)に示すように、ボビン保持装置11は、支持プレート12上に1組の支持ブラケット13,14が鉛直方向に延びる状態で固定されている。支持ブラケット13,14間には、ボビンBを貫通する状態でボビンBを一体回転可能に支持する支持軸15が支持されている。ボビンBは紙管で形成されている。支持軸15の第1端部側には動力伝達手段としてのギヤ16が支持軸15と一体回転可能に設けられている。支持ブラケット13の下部には減速機付きのモータ17が固定され、その出力軸に駆動ギヤ18が一体回転可能に固定されている。また、支持ブラケット13にはギヤ16及び駆動ギヤ18に噛合するアイドルギヤ19が回転可能に支持され、モータ17の正逆回転により駆動ギヤ18、アイドルギヤ19及びギヤ16を介して支持軸15が正逆回転されるようになっている。
【0020】
図2に示すように、支持軸15には支持軸15に支持されたボビンBを挟むように摺動部材としてのベアリング20,21が設けられ、支持軸15は、ベアリング20が設けられた箇所で支持ブラケット13の支持部13aに、ベアリング21が設けられた箇所で支持ブラケット14の支持部14aにそれぞれ支持されている。支持部13aに支持されるベアリング20は支持部14aに支持されるベアリング21より大径のものが使用されている。図1(b),(c)に示すように、支持部13a,14aは、支持軸15が水平に延びる状態でベアリング20,21を上方から載置可能に開放された形状、例えば略U字状に形成されるとともに、ベアリング20,21が支持部13a,14aに載置された状態で支持軸15を水平に支持するようになっている。
【0021】
支持ブラケット13,14は、支持部13a,14aに載置されたベアリング20,21と当接してベアリング20,21を支持部13a,14aに保持する保持部材22,23をそれぞれ備えている。保持部材22,23は2個のちょうボルト24により支持ブラケット13,14に固定されている。図3に示すように、各保持部材22,23には、2個のちょうボルト24を弛めた状態で、一方のちょうボルト24を回動中心として保持部材22,23がベアリング20,21の移動に支障を来さない退避位置まで回動可能とするガイド溝22a,23aが形成されている。
【0022】
図2に示すように、ボビンBは、第1のボビン受け部材25A及び第2のボビン受け部材25Bを介して支持軸15に支持されている。第1のボビン受け部材25A及び第2のボビン受け部材25Bは、支持軸15に一体回転可能に支持されるとともにボビンBの端部にそれぞれ嵌挿される嵌合部26aを有する本体26と、ボビンBの端面に当接するボビン押圧部としてのボビン押えプレート27とがねじ28により固定されて構成されている。
【0023】
図4(a),(b)に示すように、ボビン押えプレート27は円板状に形成されるとともに、ねじ28が螺合するねじ孔27aが複数(例えば、4個)形成されている。図2に示すように、ねじ28は本体26側からねじ孔27aに螺合される。また、ボビン押えプレート27は、直径がボビンBの外径より大きく形成されるとともに、ボビンBの端面と当接する側の外周寄りに複数の突起27bが形成されている。突起27bは断面三角形状の突条がボビン押えプレート27の中心を中心とした放射方向に延びるように形成されている。
【0024】
第1のボビン受け部材25A及び第2のボビン受け部材25Bの本体26は、図5(a),(b)に示すように、円環状に形成されるとともに、ボビン押えプレート27のねじ孔27aと対応する箇所にねじ孔27aより大径の孔26bが形成されている。また、本体26には支持軸15に対して一体回転可能に固定するためのキー溝26cと、図示しないキーを固定するねじ(図示せず)の収容部26dが形成されている。
【0025】
図2に示すように、第2のボビン受け部材25BはボビンBに対してギヤ16と反対側に設けられるとともに、支持軸15には第2のボビン受け部材25Bのボビン押えプレート27に当接してそのボビン押えプレート27をボビンB側に付勢する押え部材としての押えナット29が螺合されている。押えナット29の外周面には、押えナット29を回動する際の摩擦抵抗を高めるためにローレット加工が施されている。支持軸15には第1のボビン受け部材25Aのボビン押えプレート27側の端面と当接して第1のボビン受け部材25Aがベアリング20側へ移動するのを規制する段差部が形成されている。押えナット29がボビン押えプレート27をベアリング20側へ押圧するように雄ねじ部15aに螺合されることにより、第1のボビン受け部材25Aがその段差部と係合してボビンBが支持軸15の所定位置に固定されるようになっている。また、押えナット29がボビン押えプレート27をベアリング20側へ付勢することにより、ボビンBの両端面がそれぞれボビン押えプレート27の突起27bに押圧されて、突起27bがボビンBの端面にくい込むようになっている。
【0026】
支持軸15は、第1及び第2のボビン受け部材25A,25Bと対応する部分との間と、押えナット29が螺合される雄ねじ部15aよりベアリング21の装着部側とが小径に形成されている。2個のベアリング20は、支持軸15の段差部及び規制リングにより位置決めされた状態でベアリングワッシャ30及びベアリングナット31により支持軸15に固定されている。図2に示すように、2個のベアリング21は互いに当接するとともに支持軸15の段差部及び規制リング32により位置決めされた状態でボルト33により支持軸15に固定されている。
【0027】
ボビンBに対してギヤ16と反対側に設けられたベアリング21は、その外径が押えナット29のねじ径及び第2のボビン受け部材25Bの内径より小さく形成されている。即ち、第2のボビン受け部材25B及びボビンBが、ベアリング21が支持軸15に固定された状態で、支持軸15から取り外し可能に構成されている。
【0028】
次に前記のように構成されたボビン保持装置11の作用を説明する。
ボビン保持装置11は、支持プレート12が繊維束配列装置の所定の位置に固定された状態で使用される。モータ17が正転駆動されると駆動ギヤ18、アイドルギヤ19、ギヤ16を介して支持軸15と共にボビンBが正転駆動されて繊維束がボビンBから送り出され、モータ17が逆転駆動されると支持軸15と共にボビンBが逆転駆動されて繊維束がボビンBに巻き戻される。そして、繊維束の配列時に繊維束に無理な張力が加わらないようにボビンBが正転方向及び逆転方向に積極回転される。形成すべき積層繊維束群の大きさにもよるが、繊維束が巻かれたボビンBの重量が2〜4kg程度あるため、正転、逆転時にボビンBが支持軸15に対してスリップするのを抑制する必要がある。ボビンBは、支持軸15に対して一体回転可能に支持された第1のボビン受け部材25A及び第2のボビン受け部材25Bに嵌合されただけでなく、第1及び第2のボビン受け部材25A,25Bのボビン押えプレート27によって両端面を押圧されているため、スリップが抑制された状態で支持軸15と一体回転する。
【0029】
ボビンBに巻かれた繊維束の量が少なくなると、そのボビンBを繊維束が十分巻かれた新たなボビンBと交換する必要がある。ボビンBの交換作業は、繊維束配列装置の稼働を停止させた状態で行われる。ボビンBの交換作業はボビンBのみを交換するのではなく、繊維束が十分巻かれた新たなボビンBやギヤ16、ベアリング20,21等が装着された支持軸15を予め準備しておき、ボビンBを支持軸15ごと交換する。交換作業は、先ず、保持部材22,23を固定しているちょうボルト24を弛める。次に保持部材22,23を一方のちょうボルト24を中心にして図3に2点鎖線で示すように、退避位置へ回動させる。その状態で支持軸15を持って上方へ移動させて、ボビンBを支持軸15と共に支持ブラケット13,14から取り外す。次に新たなボビンB等が装着された支持軸15を、ベアリング20が支持部13aに、ベアリング21が支持部14aに載置される状態で支持ブラケット13,14間に懸け渡す。次に保持部材22,23をベアリング20,21と当接する位置に回動させた後、各ちょうボルト24を締め付けると交換作業が完了する。即ち、従来のボビン保持装置と異なり、ボビンBの交換作業の際にボビンBを支持軸15に装着する作業を行う必要がない。そのため、ボビンBの交換作業に伴う繊維束配列装置の稼動停止時間が短くなる。
【0030】
一方、支持ブラケット13,14から取り外された支持軸15に装着されているボビンBは、繊維束が十分巻かれた新たなボビンBと交換される。この交換作業は、例えば、ギヤ16が下側になるように支持治具を用いて支持軸15を支持した状態で行われる。その状態で先ず押えナット29を弛めて支持軸15から取り外し、次に第2のボビン受け部材25B及びボビンBを順に取り外す。ベアリング21の外径が押えナット29のねじ径や第2のボビン受け部材25Bの内径より小さく形成されているため、ベアリング21を支持軸15に固定したまま第2のボビン受け部材25B及び押えナット29を取り外すことができる。次に新たなボビンBを第2のボビン受け部材25Bと共に支持軸15に挿通させ、ボビンBの一端を第1のボビン受け部材25Aに嵌合させる。最後に、押えナット29を支持軸15に挿通させるとともに雄ねじ部15aに螺合させて締め付け固定する。
【0031】
この実施形態では次の効果を有する。
(1)ボビン保持装置11は、ボビンBを貫通する状態でボビンBを一体回転可能に支持する支持軸15の第1端部側にギヤ16が一体回転可能に設けられ、前記ボビンBを挟むようにベアリング20,21が設けられている。支持軸15は水平に延びる状態で、ベアリング20,21が設けられた箇所で支持ブラケット13,14の支持部13a,14aに載置された状態で支持される。支持部13a,14aは、支持軸15が水平に延びる状態でベアリング20,21を上方から載置可能に開放されている。したがって、繊維束が消費されたボビンBを繊維束が十分巻かれた新たなボビンBと交換する交換作業時間を従来技術に比べて短縮することができ、繊維束配列装置の稼働率を高めることができる。また、たとえ支持軸15にボビンBを装着する作業に時間がかかる構成を採用しても、その作業は繊維束配列装置の稼働中に行うことができ、稼働率に支障を来さない。
【0032】
(2)支持ブラケット13,14は、支持部13a,14aに載置されたベアリング20,21と当接してベアリング20,21を支持部13a,14aに保持する保持部材22,23を備えている。支持軸15、その付属品(ベアリング20,21等)及び繊維束が巻かれたボビンBの合計重量によっては、ボビンBが支持軸15と共にベアリング20,21を介して支持部13a,14aに安定な状態で支持されるが、前記合計重量が軽い場合は支持状態が不安定になる場合がある。しかし、この実施形態では保持部材22,23がベアリング20,21と当接して支持部13a,14aに保持するため、ボビンBが支持軸15と共に安定した状態で支持部13a,14aに支持される。
【0033】
(3)保持部材22,23はそれぞれ2個のちょうボルト24により支持ブラケット13,14に固定されるとともに、両ちょうボルト24を弛めた状態で一方のちょうボルト24を中心に回動させてベアリング20,21の移動に支障を来さない退避位置に配置可能に構成されている。したがって、ちょうボルト24を支持ブラケット13,14から取り外した状態で支持軸15を取り外す場合に比べて交換時間を短縮することができる。
【0034】
(4)ボビンBは、支持軸15に一体回転可能に支持されるとともにボビンBの端部にそれぞれ嵌挿される嵌合部26aと、ボビンBの端面に当接するボビン押圧部(ボビン押えプレート27)とを備えた第1のボビン受け部材25A及び第2のボビン受け部材25Bを介して支持軸15に支持されている。第2のボビン受け部材25BはボビンBに対してギヤ16と反対側に設けられるとともに、支持軸15には第2のボビン受け部材25Bに当接してボビン押圧部をボビンB側に付勢する押えナット29が螺合されている。そして、ボビンBは第1及び第2のボビン受け部材25A,25Bのボビン押圧部により両端面が押えつけられた状態で支持されるため、ボビンBが両ボビン受け部材25A,25Bに嵌合しただけの構成に比べて、支持軸15の回転が停止される際、あるいは回転方向が変更される際に、スリップが抑制される。
【0035】
(5)ボビン押圧部はボビンBの端面と当接する部分に複数の突起27bが形成されており、ボビンBは突起27bがボビンBの端面にくい込み可能な材質で形成されている。したがって、各ボビン押圧部の突起27bがボビンBにくい込んだ状態でボビンBが支持軸15に支持されるため、ボビンBのスリップがより抑制された状態で支持軸15と一体回転する。
【0036】
(6)第1のボビン受け部材25A及び第2のボビン受け部材25Bは、支持軸15に一体回転可能に支持されるとともにボビンBの端部にそれぞれ嵌挿される嵌合部26aを有する本体26と、ボビンBの端面に当接するボビン押圧部としてのボビン押えプレート27とがねじ28により固定されて構成されている。したがって、ボビン押圧部に複数の突起27bを備えた構成の第1及び第2のボビン受け部材25A,25Bの製造が、本体26とボビン押圧部とが一体に形成された場合に比べて簡単になる。また、本体26とボビン押えプレート27の材質を別にすることで、ボビンBの端面に突起27bがくい込み易く、しかも全体として軽量化あるいはコスト低減を図った第1及び第2のボビン受け部材25A,25Bを得ることも可能になる。
【0037】
(7)ボビンBは紙管で形成されているため、ボビン押圧部に形成された突起27bがくい込み易く強度の確保されたボビンBを低コストで製造することができる。
(8)ベアリング20,21のうちボビンBに対してギヤ16と反対側に設けられたベアリング21は、その外径が押えナット29のねじ径、第2のボビン受け部材25Bの内径より小さく形成されている。したがって、ボビンBを交換する際、支持軸15をボビンBと共に支持ブラケット13,14の支持部13a,14aから取り外した状態で、支持軸15から押えナット29及び第2のボビン受け部材25Bを支持軸15にベアリング21が固定されたままで取り外すことができる。そのため、支持軸15に対するベアリング21の脱着作業の分、支持軸15に対するボビンBの交換作業時間を短縮することができる。
【0038】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように構成してもよい。
○ 図6(a)に示すように、支持軸15の一端に形成されたねじ孔34にアイレットボルト35を螺合して、ボビンBを支持軸15と共に持ち運ぶ際に、指をアイレットボルト35に引っかけて持つようにしてもよい。この場合、片手で容易に持ち運ぶことができる。アイレットボルト35は運搬の際にのみ取り付けて、支持軸15を支持ブラケット13,14に支持した後は、取り外してもよい。また、ベアリング21を支持軸15に固定するボルト33に代えてアイレットボルトを使用してもよい。この場合、アイレットボルトは第2のボビン受け部材25B及び押えナット29の支持軸15への着脱に支障を来さない大きさにする必要がある。また、アイレットボルトに代えて図6(b)に示すようなフックボルト36を使用してもよい。
【0039】
○ 支持部13a,14aは、支持軸15が水平に延びる状態でベアリング20,21を上方から載置可能に開放された形状であればよく、支持軸15を真上からだけでなく、例えば、図7(a)に示すように斜め上方から載置可能な形状としてもよい。
【0040】
○ ベアリング20,21に代えて、すべり軸受けなどの他の摺動部材を採用してもよい。
○ 第2のボビン受け部材25Bに当接してボビン押圧部としてのボビン押えプレート27をボビンB側に付勢する押え部材として押えナット29に代えて、内径がベアリング21の外径より小さく形成された環状(筒状)の押え部材を支持軸15に締め付け固定(締結)してもよい。
【0041】
○ 保持部材22,23を省略してもよい。支持軸15、その付属品(ベアリング20,21等)及び繊維束が巻かれたボビンBの合計重量や支持部13a,14aの形状によっては、ボビンBが支持軸15と共にベアリング20,21を介して支持部13a,14aに安定な状態で支持される。
【0042】
○ 保持部材22,23を退避位置と押圧位置との間を回動可能とする構成として、保持部材22,23を回動させる際に回動中心となる一方のねじ28に代えて、保持部材22,23に軸部を突設し、他方のねじ28のみで保持部材22,23を締め付ける構成としてもよい。この場合、2本のねじ28を使用する構成に比べて、保持部材22,23を締め付けられた状態から解除する作業や締め付けが解除された状態から締め付けられた状態にする作業時間が半分になる。
【0043】
○ 保持部材22,23を退避位置と押圧位置との間を回動可能とせず、固定用のねじ28及び保持部材22,23を13a、支持部14aから取り外した状態で支持軸15の着脱を行う構成としてもよい。
【0044】
○ 保持部材22,23は必ずしもベアリング20,21と当接する部分が平面に限らず、例えば、ベアリング20,21の外周面と同じ曲率の円弧面やベアリング20,21の外周面と複数個所で当接する凹面を有する形状であってもよい。
【0045】
○ ボビン押えプレート27の突起27bは断面三角形状の突条に限らず、例えば、円錐や角錐であってもよい。
○ ボビン押えプレート27に突起27bを設ける代わりに、ボビン押えプレート27のボビン端面に押圧される面にローレット加工を施したり、押圧される面を梨子地面にしたりすることにより摩擦力を上げるようにしてもよい。
【0046】
○ 第1のボビン受け部材25A及び第2のボビン受け部材25Bは、本体26とボビン押えプレート27とがねじ28で固定された構成に限らない。例えば、図7(b)に示すように、本体26の外周部にボビンBの端面に当接するボビン押圧部としてフランジ部37を形成してもよい。そして、フランジ部37とボビンBの端面との間の摩擦抵抗を高めるために、フランジ部37に突起37aを形成したり、ローレット加工を施したり、梨子地加工を施したりしてもよい。なお、図7(b)では突起37aは断面された箇所以外のものの図示を省略している。
【0047】
○ ボビンBは紙管で形成されている必要はなく、樹脂製や木製あるいは金属製としてもよい。しかし、紙管で形成した場合の方が、突起27bがボビンBの端面にくい込み易く強度の確保されたボビンBを低コストで製造することができる。また、紙管の方が軽量化し易い。
【0048】
○ ギヤ16と反対側に設けられたベアリング21は、その外径が押えナット29のねじ径及び第2のボビン受け部材25Bの内径より小さく形成されている必要はない。その場合、ボビンBを支持軸15から取り外す際にベアリング21を支持軸15から取り外す作業が必要になるが、ベアリング21としてベアリング20と同じものを使用でき、部品の種類を減らすことができる。
【0049】
○ 動力伝達手段はギヤ16に限らず、例えば、ベルト駆動されるプーリやチェーンが巻き掛けられるスプロケットであってもよい。
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
【0050】
(1)請求項3〜請求項5のいずれか一項に記載の発明において、前記第1のボビン受け部材及び第2のボビン受け部材は、前記嵌合部が形成された本体と、前記ボビン押圧部を形成するボビン押えプレートとがそれぞれ別体に形成されるとともに、締結具(例えば、ねじ)により前記本体と前記ボビン押えプレートとが固定されて構成されている。
【符号の説明】
【0051】
B…ボビン、11…ボビン保持装置、13,14…支持ブラケット、13a,14a…支持部、15…支持軸、16…動力伝達手段としてのギヤ、20,21…摺動部材としてのベアリング、22,23…保持部材、25A…第1のボビン受け部材、25B…第2のボビン受け部材、26…本体、26a…嵌合部、27…押圧部としてのボビン押えプレート、27b,37a…突起、29…押え部材としての押えナット、37…押圧部としてのフランジ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボビンから送り出される繊維束の配列に配列ヘッドを使用し、かつ前記配列ヘッドと繊維束被配列部材とを相対移動させて、前記繊維束を前記繊維束被配列部材上のピンに係合させて折り返すように配列して積層繊維束群を形成する繊維束配列装置のボビン保持装置であって、
前記ボビンを貫通する状態で前記ボビンを一体回転可能に支持する支持軸と、
前記支持軸の一端側に前記支持軸と一体回転可能に設けられた動力伝達手段と、
前記支持軸に支持された前記ボビンを挟むように前記支持軸に設けられた摺動部材と、
前記支持軸を前記摺動部材が設けられた箇所でそれぞれ支持するとともに、前記支持軸が水平に延びる状態で前記摺動部材を上方から載置可能に開放された支持部を有する支持ブラケットと
を備えた繊維束配列装置のボビン保持装置。
【請求項2】
前記支持ブラケットは、前記支持部に載置された前記摺動部材と当接して前記摺動部材を前記支持部に保持する保持部材を備えている請求項1に記載の繊維束配列装置のボビン保持装置。
【請求項3】
前記ボビンは、前記支持軸に一体回転可能に支持されるとともに前記ボビンの端部にそれぞれ嵌挿される嵌合部と、前記ボビンの端面に当接するボビン押圧部とを備えた第1のボビン受け部材及び第2のボビン受け部材を介して前記支持軸に支持され、前記第2のボビン受け部材は前記ボビンに対して前記動力伝達手段と反対側に設けられるとともに、前記支持軸には前記第2のボビン受け部材に当接して前記ボビン押圧部を前記ボビン側に付勢する押え部材が締結されている請求項1又は請求項2に記載の繊維束配列装置のボビン保持装置。
【請求項4】
前記ボビン押圧部は前記ボビンの端面と当接する部分に複数の突起が形成されており、前記ボビンは前記突起がボビンの端面にくい込み可能な材質で形成されている請求項3に記載の繊維束配列装置のボビン保持装置。
【請求項5】
前記摺動部材のうち前記ボビンに対して前記動力伝達手段と反対側に設けられた摺動部材は、その外径が前記押え部材の内径及び前記第2のボビン受け部材の内径より小さく形成されている請求項3又は請求項4に記載の繊維束配列装置のボビン保持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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