説明

繊維構造物の防弾性能の強化のためのポリマー添加剤

繊維と、約−40℃〜約0℃のガラス転移温度を有する高粘度ポリマー約1〜約15重量%とから作製され、銃弾抵抗性物品を作製するために有用な繊維構造物。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2004年6月21日に出願された米国特許仮出願第60/581,473号からの優先権の利益を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本発明は、低ガラス転移温度粘性ポリマー接着剤で含浸された繊維構造物およびそれから作製された物品に関する。
【背景技術】
【0003】
多くの可撓性防護服(body armor)構造体は弾道発射体を十分に止めるが、鈍的外傷を伴う衝撃が依然として、防護ベストなどの物品において相当な負傷または死を招くことがある。鈍的外傷の高レベルの低減は、衝撃のエネルギーを散逸および広げることによって達成することができる。
【0004】
以前から、鈍的外傷を低減させるために体の近くにより剛性の層が設けられているが、これは、弾道貫通抵抗をかなり損ない、防護服の重量を増す一方で、快適さを低下させることが知られている。
【0005】
国際出願(特許文献1)には、防弾布および他の関連繊維含有防弾シートに含浸された溶剤であった粘弾性ポリマー流体が開示されている。ガラス転移温度(T)の好ましい範囲は−128℃〜−40℃である。0.25Pas〜2.5×10Pasの低粘度が考えられる。
【0006】
非特許文献1および非特許文献2は両方とも、布に含浸された中粘度ポリマー流体について記載している。添加剤は、−115℃の低いTを有した。それらは、予想されたように潤滑効果があった。
【0007】
ロウズ(Rhoades)らに付与された特許文献2には、加えられた力の率に比例して強くなるポリマー、潤滑剤、および/または充填剤成分のエネルギー吸収性媒体が開示されている。ポリボロシロキサンポリマー流体および他の水素結合ポリマー流体混合物は、ダイラタント(剪断増粘)特性を示す。
【0008】
特許文献3および非特許文献3は、防弾繊維と共に粒子の剪断増粘懸濁液を考察する。
【0009】
特許文献4および特許文献3には、パウチ内またはポリアラミドパネルの裏面に剪断増粘粒子懸濁液を有するポリアラミド布が記載されている。
【0010】
特許文献5には、防弾繊維および布への、カーボンブラック、ヒュームドシリカ(ナノシリカ)および少量の接着剤「グルー」からなる代表的な組成物を有するダイラタント乾燥粉末の適用が開示されている。
【0011】
特許文献6は、接着力調節剤でコーティングされ、母材樹脂中に埋め込まれたアラミド織布の硬質複合材を考察した。摩擦の低減および界面の弱化は、改良された防弾性能につながった。布において摩擦が大きすぎる場合、または母材が非常に剛性である場合、弾道抵抗(ballistic resistance)はひどく損なわれる。
【0012】
特許文献7は、低いT、高分子量エラストマーを繊維層のための接着剤母材材料として使用した。これらは、一方向防弾層に可撓性を提供した。
【0013】
特許文献8には、単層または多層パッケージまたは積層体に、有機ダイラタンシー剤であるコーティングされた乾燥粉末を含有する平らな構造物の少なくとも1つの層を含んでなるアンチボリスチックプロテクティブクロージング(antiballistic protective clothing)のための材料が記載されている。
【0014】
高い弾道抵抗を保持したまま、可撓性の防護服において鈍的外傷抵抗性を改良することが望ましい目的である。さらに、防弾ベストの快適さを増し、重量を低下させることが、達成されるべき望ましい性質である。
【0015】
【特許文献1】国際公開第2004/074761A1号パンフレット
【特許文献2】米国特許第6,701,529号明細書
【特許文献3】米国特許第3,649,426号明細書
【特許文献4】国際公開第00/46303号パンフレット
【特許文献5】米国特許第5,776,839号明細書
【特許文献6】米国特許第5,229,199号明細書
【特許文献7】米国特許第5,354,605号明細書
【特許文献8】米国特許第5,854,143号明細書
【非特許文献1】ブリスコー,B.J.(Briscoe,B.J.)、モタメディ,F.(Motamedi,F.)著、「糸および布の機構における界面摩擦と潤滑の役割(“Role of interfacial friction and lubrication in yarn and fabric mechanics”)」、TextileResearch Journal 1990年 6(12)、697頁
【非特許文献2】ブリスコー,B.J.、モタメディ,F.著、「アラミド布の弾道衝撃特性:界面摩擦の影響(“The ballistic impact characteristics of aramid fabrics: the influence of interface friction”)」、Wear 1992年 158(1−2)、229頁
【非特許文献3】リー,Y.S.ら(Lee,Y.S.)著、「剪断増粘流体を利用する高度防護服(N.J. Advanced Body Armor Utilizing Shear Thickening Fluids)」、第23回軍科学会議(23rd Army Science Conference)、2002年
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、繊維と、約−40℃〜約0℃のガラス転移温度を有する高粘度ポリマー約1〜約15重量%とを含んでなる繊維構造物、およびかかる繊維状繊維から作製された保護物品に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明において、低いガラス転移温度を有する1つもしくはそれ以上の高粘度ポリマー接着剤を繊維構造物上にコーティングするかまたは含浸する。高粘度ポリマー接着剤は、ポリマーまたは接着剤として様々に称されてもよい。また、用語「含浸された」が用いられるとき、それはコーティングを包含するように意図されるとも理解されるべきである。鈍的外傷抵抗性を改良しつつ、すぐれた弾道抵抗が維持される。裏面変形(BFD)は鈍的外傷の指標であり、すなわち、BFDが小さくなると、保護デバイスを身に着けている人が受ける外傷がそれだけ少なくなる。先行技術のシステムと異なり、この低レベルの含量は多くの異なったタイプの繊維構造物において有効であることがわかった。低レベルにおいて繊維構造物に含浸された液体接着剤は、弾道衝撃条件下で組織(weave)中のフィラメントの滑り摩擦を改良することによって本質的に摩擦向上剤(friction enhancer)として作用する。さらに、本発明の材料は、防護服などの物品において弾道貫通抵抗を維持するかまたはわずかに改良しつつ、裏面変形(BFD)の低減をもたらす。BFDは、本願明細書全体にわたってミリメートル(mm)単位で表される。
【0018】
また、本発明は、約−40℃〜0℃のTを有する高粘度接着剤を約1〜15重量パーセントで含浸された(またはコーティングされた)高性能繊維構造物の1つもしくはそれ以上の層を含んでなる物品である。ガラス転移温度は、10℃/分の加熱速度において示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定された。転移の中心点はTとして選択された。Tは、本願明細書全体にわたって℃単位で表される。
【0019】
本発明の接着剤とは対照的に、固体接着剤母材は、他のより剛性の添加剤およびならびに接着剤添加剤が約15重量%もしくはそれ以上存在するために非常に剛性であるかまたは摩擦が非常に大きい系がそうであるように、弾道貫通抵抗の低減をもたらす。以下に記載するように、かかる挙動は、高速度発射体によって多層に衝撃を加えられる時のように、含浸された布の摩擦および剛性が非常に大きい場合に予想される。
【0020】
衝撃の間、低T接着剤を有する布の応答に関して、これらの系の歪速度依存を考慮することが重要である。これを実験的に理解する1つの方法は、周波数依存動的機械的方法を適用することである。試験のために、不活性ガラス支持布がポリ(ビニルプロピオネート)(PVP)またはポリ(ヘキシルメタクリレート)(PHM)のどちらかで含浸された。PHMをトルエンで溶液から堆積させ、トルエンを除去した。これらの試料を周波数依存動的機械的分析(DMA)において使用した。実験および装置は標準であり、「支持されたポリマーを研究するための動的機械的分析器の使用(“Use of a Dynamical Mechanical Analyzer to Study Supported Polymers”)」、スタークウェザー(Starkweather),H.W.、ギリ(Giri),M.R.著、J.Appl.Polym.Sci.1982年、27、1243頁に記載されている。周波数依存ガラス転移は、損失信号の最大値として分析された。周波数の極値をとると、0.1Hzおよび30HzにおいてPHMのTは、それぞれ、−18.5℃〜−2℃の範囲であった。同じ周波数の範囲について、PVPのTは、3℃〜12.5℃の範囲であった。これらは、PHMおよびPVPについて、それぞれ、40kcal/モルおよび65kcal/モルの活性化エネルギーに相当した。弾道事象の非常に高い歪速度は、変形の高い相当周波数に寄与する(>>10Hz)。この高い歪速度は、PVPおよびPHMを液体からガラス状固体相に容易に変換する。例えば、10Hzにおいて、PHMのこの活性化エネルギーに基づいたTは、25℃にシフトされる。この値は、弾道衝撃によって起こされた高い歪速度下で室温においてPHMでさえ十分にガラス相にされることを示す。
【0021】
本発明において用いられた高粘度接着剤のTは、約−40℃〜約0℃の範囲になり、好ましくは約−35〜約−10℃の範囲になる。これらの材料について、弾道事象からの高い歪速度は、周波数依存Tを室温よりも高くシフトするのに十分であり、粘性接着剤を剛性ガラス状固体に変換する。低いTおよび「流体」性質のために、これらの接着剤は、静的条件下で快適な防護ベストを作製するための可撓性の布を提供する。ガラス転移が約−40C未満である場合、歪速度は、系をガラス相に変換するのに十分に高くはない。
【0022】
上記の通り、接着剤は高粘度ポリマー流体であるべきである。それらは、弾性固体、非常に高分子量のポリマー、半結晶性弾性固体、または架橋弾性固体であってはならない。これらのようなポリマーは、貫通抵抗を低減させることがあり、より剛性であり、それによって快適さの低減の原因となる。さらに、低レベルにおいて適用された固体接着剤は、特に、自己加熱性でなく、布が実質的に変形されると有効性を失う。
【0023】
これらの高粘度接着剤は、中程度から比較的大きい摩擦を与える。約−40℃〜約0℃の範囲のTを有する高粘度接着剤について、乾燥布対照試料上での大きな摩擦は、BFDとよく相関し、性能の利点に寄与する。含浸された添加剤の粘度もまた、布の剛性と相関する。
【0024】
に加えて、本発明において用いられた接着剤はまた、それらの分子量(Mw)および粘度によって特性付けられうる。分子量は重量平均であり、典型的に、ゲル透過クロマトグラフィーによって測定される。粘性流体ポリマーの分子量は、例えば、約20,000〜400,000g/モルの範囲であってもよい。粘性流体ポリマーの所望の粘度範囲は、約2×10〜約1013ポアズである。粘度は典型的に室温において測定されるが、概して、ここにおいて提供されるような本発明の接着剤の粘度は室温において非常に高いので、標準技術によって測定することができない。その場合、粘度は、高温溶融粘度から、メルトフローインデックス特性付けまたは他の定性的なレオロジー特性付けを外挿することによって推定される。ポリマー流体のゼロ剪断粘度の特性付けのために適用された1つの代表的な方法は、コーン・アンド・プレートレオメトリーまたは毛細管粘度測定法である。上記の範囲外の低い粘度は典型的に、高いMwを有する場合でも、低いTを有するシロキサン流体の場合のように、性能を低減させる。これらの材料は、潤滑のために摩擦を低減させる。ブリスコー,B.J.(Briscoe,B.J.)、モタメディ,F.(Motamedi,F.)著、「アラミド布の弾道衝撃特性:界面摩擦の影響(“The ballistic impact characteristics of aramid fabrics: the influence of interface friction”)」、Wear 1992 158(1−2)、229頁)によって記載されているように、これは、好ましくない防弾性能と相関させられた。
【0025】
適切な性質を有する液体接着剤は、懸濁重合、乳化重合または溶融重合としておよびブレンドまたはコポリマーの形態においてなど多くの方法で形成されうる。ここにおいて高粘度接着剤として有用なポリマーの例には、ポリ(ビニルプロピオネート)、ポリ(ヘキシルメタクリレート)、ポリ(イソプロピルアクリレート)、およびエチレン/メチルアクリレートコポリマー(そこでエチレン含量は38重量パーセントであり、メチルアクリレート含量は62重量パーセントである)などがある。
【0026】
繊維構造物は、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレンまたはポリプロピレン)、ポリイミド、ポリエステル、ポリ(ビニルアルコール)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリアラミド、例えばデラウェア州、ウィルミントンのE.I.デュポン・ドゥ・ヌムール・アンド・カンパニー(E.I.du Pont de Nemours and Company,Wilmington,DE)(デュポン(DuPont))によって商品名ケブラー(KEVLAR)(登録商標)として販売されたポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)の他、ポリアレーンアゾール(polyareneazoles)およびポリピリダゾール(polypyridazole)、例えばポリピリドビスイミダゾール(polypyridobisimidazole)などのポリマーから製造された繊維から作製されてもよい。ポリピリドビスイミダゾールは、バージニア州、リッチモンドのマゲラン・システムズ・インターナショナル(Magellan Systems International,Richmond VA)から商品名M5(登録商標)として入手可能である。繊維の靭性は、すぐれた弾道貫通抵抗を提供するためにASTMD−885によって少なくとも約900Mpaであるべきである。好ましくは、繊維はまた、少なくとも約10Gpaの弾性率を有する。
【0027】
高性能繊維構造物は、編布、織布、一織(uniweave)構造物、一方向シート、多方向シート(例えば、約20〜90度の角度において交差する繊維を有するシート)、不織層(例えば、フェルト)、またはさらに単繊維などの多くの形態をとることができる。繊維構造物は、本発明の単独繊維構造物のより多くの10、20、40、または60層の形態をとってもよい。
【0028】
加工された層が衝撃点から離れて裏面に配置されてもよく、または中間に配置されてもよく、もしくは防護服の性能を最適にするためにいずれかの他の方法で配置されてもよい。ポリマーの濃度は、加工された層の各々について同じであってもよく、もしくはパックを通して剛性の所望の変化を提供するために層ごとに変化してもよい。加工された層は、層ごとに変化してもよい布構造物のタイプからなるパックにおいて使用可能である。
【0029】
固体エラストマーとは明らかに異なった流れおよび弾性率の性質を有する高粘度接着剤を防弾布に含浸した。弾道貫通抵抗と裏面変形(鈍的外傷の尺度)との両方の望ましく高いレベルが、どのくらいの数の層が加工されるかに応じてポリアラミド布中に約1〜約15重量%の添加剤レベルの範囲で見出された。このタイプの系は、最近使用されている布ベストにおいて良好な鈍的外傷保護を提供するために必要とされる面密度に比較して約20〜30%の軽量化をもたらすと考えられる。高粘度接着剤は本発明において用いられるとき、それらが本発明において望ましい液体接着剤性能を生じさせることができるガラス転移温度Tを有し、繊維構造物においての粘度および摩擦の効果によって裏面変形を制御する。
【0030】
防護服は、本発明の主な適用である。含浸された高性能繊維構造物を、縫製などの標準的なベスト作製方法によって防護服に製造することができる。防護服は、貫通抵抗、鈍的外傷、およびNIJ 100−98を通して国立司法研究所(National Institute of Justice)によって確立された他の要求条件を満たすために製造業者によって組み立てられる。NIJ 100−98によって、弾道パネルが単一ユニットに集成される方法は製造業者ごとに異なる。ある場合には、多層がパネルの全端縁の周りにバイアス縫合され、ある場合には、層をいくつかの位置においてタック縫い合わせする。縦または横の縫合の多数の列で布を集成する製造業者があり、全弾道パネルをキルティング製品にする製造業者もある。縫合がパネルの弾道抵抗性の性質を損なう証拠はない。代わりに、縫合は、使用された布のタイプに応じて、特に鈍的外傷の場合、全体的な性能を改良する傾向がある。
【実施例】
【0031】
実施例に、改良されたBFDを与える様々なポリマーならびに適切な比較例を説明するために粘性液体ポリマーが記載される。米国特許第5,229,199号明細書に記載されているように、これまで、文献の多くが、「接着剤」母材またはエラストマー樹脂をポリアラミド布に加えることによって防弾性能を低減することを示唆することは注目に価する。例えば、母材が非常に剛性なので摩擦が布において非常に高い場合、ポリアラミド布から作製されたベストの弾道抵抗はひどく損なわれる。
【0032】
PVP、ポリ(ヘキシルメタクリレート)、ポリ(イソプロピルアクリレート)、ポリ(ビニルエチルエーテル)、ポリ(イソブチルアクリレート)、ポリ(イソブチルアクリレート)、およびポリ(ジメチルシロキサン)は、ニューヨーク州、オンタリオのサイエンティフィック・ポリマー・プロダクツ社(Scientific Polymer Products Inc.,Ontario,NY)から得られた。ポリ(フェニルメチルシロキサン)およびポリ(ジフェニルシロキサン−コ−ジメチルシロキサン)は、ペンシルベニア州、タリタウンのゲレスト社(Gelest,Inc.,Tullytown,PA)から得られた。エチレン/メチルアクリレート(38/62)コポリマーおよびエチレン/メチルアクリレート/ブチルアクリレートターポリマーは、デュポン(DuPont)から得られたが、しかしながら、エチレン/メチルアクリレートコポリマーはここで用いられるとき、実験銘柄である。
【0033】
弾道、プルアウト、および他の試験のための布は、例えば転写法を用いて溶融体からか、または溶液コーティングによってポリマーで含浸される。溶液コーティングについては、溶液はポリマーを約5〜20重量%で含有し、残りが溶剤である。ポリマー溶液を布上に広げ、次いで溶剤を蒸発させる。含浸は、高粘度接着剤溶液を高性能繊維構造物と接触させるためにブラッシング、噴霧、または浸漬することによって行うことができる。添加されたポリマー溶液の体積を用いて、デュポンから入手可能なケブラー(Kevlar)(登録商標)ブランド布などのポリアラミド布中の添加剤の最終重量パーセントを制御する。
【0034】
繊維プルアウト試験をインストロン試験機(Instron)で行い、潤滑剤および接着剤による布表面加工の結果としての糸の摩擦改良を検査する。この試験は、バスヘノフ,S.(Bazhenov,S.)著、「防弾アラミド布によるエネルギーの散逸(“Dissipation of Energy by Bulletproof Aramid Fabric”)」,J.Mat.Sci.,32,1997年,4167頁に記載されているように、840デニールの単一ポリアラミドフィラメントが、クランプされた布の幅100mmの単層を通して引っ張られる時の摩擦を考察する。本質的に、単一ポリアラミドストランドを引き抜くための最大力をインストロン試験機または他の負荷検出デバイスで記録する。
【0035】
防弾試験は、マグナム0.357銅で被覆された鉛銃弾を用いて国立司法研究所レベルII保護のための裏面変形を低減するために適した材料を開発するために行われる。裏面変形試験を行うために、粘土床に保たれた典型的に多層のポリアラミド布パネルに衝撃を加え、約1425フィート/秒の公称ストライク速度を有する弾道事象によるミリメートル(mm)単位の窪みの深さを測定する。
【0036】
試料布は、840デニールのポリアラミド糸を用いる平織構造を有し、5.8オンス/平方ヤードの公称面重量を有した。15インチ×15インチの大きさの21のかかる層が、パネルの端縁をテープで止めた後、ポリアラミド縫糸を用いて「X」パターンに縫われた。別記しない限り、21層のうちの10層が液体ポリマー接着剤で加工され、粘土床に最も接近しているように配置された。
【0037】
50はフィート/秒(ft/s)単位の臨界速度として定義され、そこで銃弾の半分がパネルによって完全に止められ、半分がパネルを貫通する。以下の実施例において、適用可能であるとき、V50は粘土によって支持されたパネルについて測定された。
【0038】
実施例1〜2および比較例A〜B
ポリ(ビニルプロピオネート)(PVP)の濃度が繊維のプルアウトに与える効果は、ポリアラミド布で測定された。PVPは、ニューヨーク州、オンタリオのサイエンティフィック・ポリマー・プロダクツ社(Scientific Polymer Products Inc.,Ontario,NY)から得られた。摩擦はプルアウト力に関連し、表1に示されるように比較的低い濃度においても濃度と共に実質的に増加する。この表においてPVPの重量パーセントは、添加剤の乾燥レベル対ポリアラミド布の重量に基づいている。
【0039】
【表1】

【0040】
実施例3〜5および比較例C
上記の通り摩擦の適度な増加は、PVP液体接着剤10重量%までを含浸された約0.84ポンド/平方フィート(psf)の坪量を有するポリアラミド布層を含有する系の場合については裏面変形(BFD)の改良に寄与する。これは、表2においてV50によって測定された時に弾道貫通抵抗を維持し、改良もしつつ達成される。
【0041】
【表2】

【0042】
表2に示されるように弾道貫通抵抗およびBFDの良好な性能がケブラー(Kevlar)(登録商標)布において約8〜10重量%の添加剤(PVP)レベルで見出される。しかしながら、15重量%の濃度は、大きな摩擦のために弾道貫通抵抗の低減を示した。
【0043】
比較例D〜F
比較例は、ビニルエステル硬質樹脂母材を有する固体接着剤を含浸された1.26ポンド/平方フィート(psf)の坪量を有するケブラー(Kevlar)(登録商標)ポリアラミドの布を用いて準備された。
【0044】
【表3】

【0045】
母材樹脂の濃度増加によるV50のほとんど全体的な低下が表3に示される。
【0046】
実施例6〜10および比較例G〜N
ポリアラミド布が以下のように低重量分率の低ガラス転移ポリマーで含浸された。
9重量%および15重量%のPVP(それぞれ実施例6、7)、10重量%のPHM(実施例8)、8重量%のポリ(イソプロピルアクリレート)(実施例9)、8重量%のエチレン/メチルアクリレート(38/62)コポリマー(実施例10)。
【0047】
一切の添加されたポリマーなしにポリアラミド層の21層が比較例Gとして使用された。
【0048】
比較目的でポリアラミド布が、以下のポリマーで含浸された。8重量%のポリアクリロニトリル−ブタジエン液体(比較例H)、9重量%のポリ(イソブチルアクリレート)(比較例I)、9重量%のポリ(ビニルエチルエーテル)(比較例J)および8.8重量%のエチレン/メチルアクリレート/ブチルアクリレート(37/50/13)ターポリマー(比較例K)。
【0049】
また、ポリアラミド布が、以下のように低いないし非常に低いガラス転移温度を有する約10重量%のシロキサンで含浸された。ポリ(フェニルメチルシロキサン)(比較例L)、ポリ(ジフェニルシロキサン−コ−ジメチルシロキサン)(比較例M)、ポリ(ジメチルシロキサン)(比較例N)。
【0050】
その高分子量(すなわち、比較例N、ポリジメチルシロキサン、すなわち、シリコーン油、Mw=94Kg/モル)のためにシロキサンの1つはかなり粘性であるけれども、BFDの改良を示すものはない。
【0051】
上に記載したように、15重量%を上回るPVPの濃度は、大きな摩擦を与え、弾道貫通抵抗の低減につながる(より低いV50、表2)。
【0052】
【表4】

【0053】
粘度(ポアズ単位で表される)は、上に説明したように高温の値から外挿することによって推定され、概して次の高いオーダーに四捨五入された。しかしながら、比較例L〜Nの粘度は十分に低く、それらは約20℃において定量的に測定された。比較例Hの製造業者の測定した粘度は27℃において5000ポアズであった。
【0054】
比較例O〜Q
840デニールのケブラー(Kevlar)布を添加剤を用いずに作製した(O)。また、布を以下の固体添加剤を用いて作製した。9重量%のポリウレタン(溶剤適用された)固体、架橋された(P)および12重量%の弾性サーリン(Surlyn)(登録商標)(溶融適用された)固体、結晶性(Q)。サーリン(登録商標)はデュポン(DuPont)から入手可能である。
【0055】
【表5】

【0056】
表5の固体接着剤による結果は、剛性が高くなると比較的低い重量分率において、より不十分な弾道貫通抵抗(より低いV50)につながることを確認する。また、かかる系は液体接着剤で加工された系よりも実質的に剛性であり、これは快適さを減少させる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維と、約−40℃〜約0℃のガラス転移温度を有する高粘度ポリマー約1〜約15重量%とを含んでなる繊維構造物。
【請求項2】
ポリマーが約20,000〜400,000の分子量を有する請求項1に記載の繊維構造物。
【請求項3】
ポリマーが20℃において約2×10〜約1013ポアズの粘度を有する請求項1に記載の繊維構造物。
【請求項4】
ポリマーがポリ(ビニルプロピオネート)、ポリ(ヘキシルメタクリレート)、ポリ(イソプロピルアクリレート)、およびエチレン/メチルアクリレートコポリマーよりなる群の1つから選択される請求項1に記載の繊維構造物。
【請求項5】
繊維がポリオレフィン、ポリイミド、ポリエステル、ポリ(ビニルアルコール)、ポリベンゾイミダゾール、ポリピリドビスイミダゾール、ポリピリダゾール、ポリアレーンアゾール、およびポリアラミドよりなる群の1つから紡糸される請求項1に記載の繊維構造物。
【請求項6】
編布、織布、一織構造物、一方向シート、多方向シート、不織層、および単繊維よりなる群から選択される形態にある請求項1に記載の繊維構造物。
【請求項7】
ポリマーがポリビニルプロピオネートであり、繊維がポリアラミドである請求項1に記載の繊維構造物。
【請求項8】
請求項1に記載の繊維構造物の1つもしくはそれ以上の層を含んでなる、物品。
【請求項9】
ポリマーがポリ(ビニルプロピオネート)である請求項8に記載の物品。
【請求項10】
ポリマーがポリ(ヘキシルメタクリレート)である請求項8に記載の物品。
【請求項11】
ポリマーがポリエチレン/メチルアクリレートコポリマーである請求項8に記載の物品。
【請求項12】
繊維がポリピリドビスイミダゾールを含んでなる請求項9〜11のいずれか一項に記載の物品。
【請求項13】
繊維がポリピリダゾールを含んでなる請求項9〜11のいずれか一項に記載の物品。
【請求項14】
繊維がポリアレーンアゾールを含んでなる請求項9〜11のいずれか一項に記載の物品。
【請求項15】
繊維がポリベンゾイミダゾールを含んでなる請求項9〜11のいずれか一項に記載の物品。
【請求項16】
繊維がポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)を含んでなる請求項9〜11のいずれか一項に記載の物品。
【請求項17】
防護服である請求項8に記載の物品。
【請求項18】
加工層および未加工層の組合せを含んでなる防護服である請求項8に記載の物品。

【公表番号】特表2008−503663(P2008−503663A)
【公表日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520347(P2007−520347)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/022848
【国際公開番号】WO2006/132642
【国際公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】