説明

繊維機械

【課題】駆動モータのトルク変動を利用して高い効率でトラバースを行うことができる繊維機械を提供する。
【解決手段】自動ワインダは、糸をトラバースさせるための糸ガイドと、当該糸ガイドを往復駆動するトラバースガイド駆動モータ45と、を備える。トラバースガイド駆動モータ45は、磁石63が取り付けられるロータ62と、コイル66が取り付けられるステータ61と、を備える。トラバース作業において、糸ガイドがトラバースストロークの少なくとも何れかの端部に位置しているときにトラバースガイド駆動モータ45のトルクが大きくなるように、糸ガイド、磁石63が取り付けられるロータ62、及びステータ61の配置関係が設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維機械が備えるトラバース装置に関するものであり、詳細には糸をトラバースさせる糸ガイドを駆動するための駆動モータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動ワインダ等の繊維機械において、アーム式のトラバース装置やベルト式のトラバース装置をサーボモータやステップモータ等の駆動モータで駆動する構成が従来から知られている。この種の繊維機械を開示したものに例えば特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−193334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような駆動モータでは、駆動モータが無励磁状態のときの糸ガイドの位置を安定させるために、糸ガイドの中心と駆動モータ内に配置される磁石の磁極の変わり目とが、トラバースストロークの中心線上に位置するように当該糸ガイドをトラバースアームやベルト部材等を介して駆動モータの出力軸に取り付けることが行われている。
【0005】
しかし、駆動モータでは、磁石(磁極)のレイアウト等の構造を要因とするトルクリップル(トルク変動)が発生することがある。トルクリップルが発生すると、ロータの回転角度に応じてトルクが変動してしまうため、トラバースストロークの決まった位置でトルクが弱まってしまう。この点、上記特許文献1のような駆動モータの構成では、トルクリップルを考慮していないため、トルクが最も必要とされる反転位置でトルクが小さくなってしまうことがあった。従って、従来の構成は、駆動モータのトルクを効率的に活用するという観点から改善の余地があった。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、駆動モータのトルク変動を利用して高い効率でトラバースを行うことができる繊維機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
本発明の観点によれば、以下のように構成される繊維機械が提供される。即ち、繊維機械は、糸をトラバースさせるための糸ガイドと、当該糸ガイドを往復駆動する駆動モータと、を備える。前記駆動モータは、磁石が取り付けられるロータと、コイルが取り付けられるステータと、を備える。トラバース作業において、前記糸ガイドがトラバースストロークの少なくとも何れかの端部に位置しているときに前記駆動モータのトルクが大きくなるように、前記糸ガイド、前記ロータ及び前記ステータの配置関係が設定されている。
【0009】
これにより、大きなトルクが必要なトラバースストロークの端部で駆動モータのトルクを大きくすることができるので、糸ガイドの反転に要する時間を短縮することができる。従って、パッケージの耳高や綾落ち等を効果的に防止できる。また、駆動モータのトルクを効率的に活用することによって、駆動モータに掛かる負荷を抑えることができるので、駆動モータの発熱を低減することができ、駆動モータの寿命を改善することができる。
【0010】
前記の繊維機械は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記糸ガイドの糸を係合させる部分が前記トラバースストロークの中心位置にあるときに、前記磁石の磁極の変わり目が、前記糸ガイドの糸を係合させる部分と前記ロータの回転中心とを結ぶ糸ガイド仮想線に対して所定角度傾くように前記磁石を前記ロータに取り付ける。
【0011】
これにより、トラバースストロークの所望の位置(例えばトラバースストロークの端部)で駆動モータのトルクがピークに達する構成を簡易に実現できる。
【0012】
前記の繊維機械は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記ステータは、前記コイルが前記ロータを挟んで対向して配置されるように構成されており、前記ロータの軸方向で見たときに、前記ロータを挟んで対向配置される前記コイルの中心線であるコイル仮想線の全てが、トラバースストロークの中心位置と前記ロータの回転中心とを結ぶ仮想的な直線であるトラバースストローク中心線と重なることなく、かつ、前記コイル仮想線の1つが当該トラバースストローク中心線に対して所定角度傾くように構成される。
【0013】
これにより、トラバースストロークの所望の位置(例えばトラバースストロークの端部)で駆動モータのトルクがピークに達する構成を簡易に実現できる。
【0014】
また、前記の繊維機械は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記コイルが通電していない無励磁状態で、前記糸ガイド及び前記駆動モータを前記ロータの軸方向で見たときに、前記糸ガイドの糸を係合させる部分から前記ロータの回転中心までを結ぶ糸ガイド仮想線が、トラバースストロークの中心位置から前記ロータの回転中心までを結ぶ仮想的な直線であるトラバースストローク中心線に対して所定角度傾くように当該糸ガイドを配置する。
【0015】
これにより、トラバースストロークの所望の位置(例えばトラバースストロークの端部)で駆動モータのトルクがピークに達する構成を簡易に実現できる。
【0016】
前記の繊維機械においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、繊維機械は、出力軸と、第1係合部と、伝達部材と、第2係合部と、を備える。出力軸は、前記糸ガイドを駆動するために前記ロータに接続される。第1係合部は、前記無励磁状態での前記糸ガイドの位置を決めるために前記出力軸に形成される。前記伝達部材は、前記糸ガイドを支持する。前記第2係合部は、前記伝達部材を出力軸に接続するために前記第1係合部に対応するように当該伝達部材に形成される。前記第2係合部は、当該第2係合部が前記第1係合部に係合したときに、前記無励磁状態において、前記糸ガイドの糸を係合させる部分から前記ロータの回転中心までを結ぶ糸ガイド仮想線が前記トラバースストローク中心線に対して所定角度傾くように構成されている。
【0017】
これにより、トラバースストロークの所望の位置(例えばトラバースストロークの端部)でトルクを大きくする構成を簡素に実現できるので、製造コストを低減できる。また、第2係合部が形成される位置を様々に異ならせた伝達部材を用意しておけば、伝達部材の交換によって、トルクを大きくする位置を容易に変えることができる。従って、パッケージの形状に合わせてトルクをトラバース端部で大きくすることができる構成をシンプルに実現できる。
【0018】
前記の繊維機械においては、前記糸ガイドはトラバースアームに支持されており、当該トラバースアームが前記駆動モータによって駆動されることで前記糸ガイドによる糸のトラバースが行われることが好ましい。
【0019】
これにより、反転位置での負荷が大きいトラバースアームの往復動を駆動モータのトルクを効率的に活用して行うことができる。
【0020】
前記の繊維機械においては、前記糸ガイドはベルト部材に支持されており、当該ベルト部材を前記駆動モータによって往復動することで前記糸ガイドによる糸のトラバースが行われることが好ましい。
【0021】
これにより、ベルトの動きを反転させる際にトルク変動のピークに達するように前記所定角度を設定することで、ベルト駆動を利用したトラバース作業を効率化できる。
【0022】
前記の繊維機械においては、コーン形状のパッケージを巻き取る場合に、トラバースストロークの一端にある前記糸ガイドが他端よりも強い力で反転するように前記配置関係が設定されることが好ましい。
【0023】
これにより、端部の一側と他側で径が異なるコーン形状のパッケージにおいて、目的に応じたトラバース制御を行うことができる。例えば、コーン形状のパッケージの大径側で鋭くターンするようにトルク変動のピークを設定することで、大径側での綾落ちを効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動ワインダが備えるワインダユニットの概略的な構成を示した模式図及びブロック図。
【図2】第1実施形態の糸ガイドとトラバースガイド駆動モータとの関係を概略的に示した模式図。
【図3】第1実施形態のトラバースガイド駆動モータの内部を概略的に示した模式図。
【図4】第2実施形態のトラバースガイド駆動モータの内部を概略的に示した模式図。
【図5】第3実施形態のトラバースアームを示した正面図。
【図6】第3実施形態の糸ガイドとトラバースガイド駆動モータとの関係を概略的に示した模式図。
【図7】第4実施形態の糸ガイドとトラバースガイド駆動モータとの関係を概略的に示した模式図。
【図8】従来技術及び本発明を適用した場合のトラバースストローク、トラバースガイド駆動モータの機械角及びトルクの関係の一例を示したグラフ。
【図9】従来技術及び本発明を適用した場合のトラバースストローク、トラバースガイド駆動モータの機械角及びトルクの関係の一例を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は本発明の一実施形態に係る繊維機械としての自動ワインダが備えるワインダユニット10の概略的な構成を示した模式図及びブロック図である。
【0026】
図1に示すワインダユニット10は、給糸ボビン21から解舒される糸20をトラバースさせながらコーン形状の巻取ボビン22に巻き付けて、所定長で所定形状のパッケージ30とするものである。なお、巻取ボビン22の形状としては、コーン形状に限らず、円筒形状であっても良い。本実施形態の自動ワインダ(糸巻取機、繊維機械)は、並べて配置された複数のワインダユニット10と、その並べられた方向の一端に配置された図略の機台制御装置と、この機台制御装置の正面に備えられた図略の設定器と、を備えている。
【0027】
それぞれのワインダユニット10は、巻取ユニット本体16と、ユニット制御部50と、を備えている。
【0028】
ユニット制御部50は、例えば、CPUと、RAMと、ROMと、I/Oポートと、を備えて構成されている。前記ROMには、巻取ユニット本体16の各構成を制御するためのプログラムが記録されている。前記I/Oポートには、前記設定器のほか、当該巻取ユニット本体16が備える各構成(後述)が接続されており、制御情報の通信が可能に構成されている。
【0029】
前記巻取ユニット本体16は、給糸ボビン21と接触ローラ29との間の糸走行経路中に、給糸ボビン21側から順に、糸解舒補助装置12と、テンション付与装置13と、スプライサ装置14と、クリアラ(糸品質測定器)15と、を配置した構成となっている。
【0030】
糸解舒補助装置12は、給糸ボビン21の芯管に被さる規制部材40を給糸ボビン21からの糸の解舒と連動して下降させることにより、給糸ボビン21からの糸の解舒を補助するものである。規制部材40は、給糸ボビン21から解舒された糸の回転と遠心力によって給糸ボビン21上部に形成されたバルーンに対し接触し、当該バルーンを適切な大きさに制御することによって糸の解舒を補助する。規制部材40の近傍には前記給糸ボビン21のチェース部を検出するための図略のセンサが備えられており、このセンサがチェース部の下降を検出すると、それに追従して前記規制部材40を例えばエアシリンダ(図略)によって下降させることができる。
【0031】
テンション付与装置13は、走行する糸20に所定のテンションを付与するものである。テンション付与装置13としては、例えば、固定の櫛歯36に対して可動の櫛歯37を配置するゲート式のものを用いることができる。可動側の櫛歯37は、櫛歯同士が噛み合わせ状態又は解放状態になるように、例えばロータリ式に構成されたソレノイド38により回動することができる。このテンション付与装置13によって、巻き取られる糸20に一定のテンションを付与し、パッケージ30の品質を高めることができる。なお、テンション付与装置13には、上記ゲート式のもの以外にも、例えばディスク式のものを採用することができる。
【0032】
スプライサ装置14は、クリアラ15が糸欠点を検出して行う糸切断時、又は給糸ボビン21からの解舒中の糸切れ時等に、給糸ボビン21側の下糸と、パッケージ30側の上糸とを糸継ぎするものである。このような上糸と下糸とを糸継ぎする糸継装置としては、機械式のものや、圧縮空気等の流体を用いるもの等を使用することができる。
【0033】
クリアラ15は、糸20の太さを検出するための図略のセンサが配置されたクリアラヘッド49と、このセンサからの糸太さ信号を処理するアナライザ52と、を備えている。クリアラ15は、前記センサからの糸太さ信号を監視することにより、スラブ等の糸欠陥を検出するように構成されている。前記クリアラヘッド49の近傍には、前記クリアラ15が糸欠点を検出したときに直ちに糸20を切断するためのカッタ39が設けられている。
【0034】
前記スプライサ装置14の下側及び上側には、給糸ボビン21側の下糸を捕捉してスプライサ装置14に案内する下糸案内パイプ25と、パッケージ30側の上糸を捕捉してスプライサ装置14に案内する上糸案内パイプ26と、が設けられている。また、下糸案内パイプ25と上糸案内パイプ26は、それぞれ軸33,35を中心にして回動可能に構成されている。下糸案内パイプ25の先端には吸引口32が形成され、上糸案内パイプ26の先端にはサクションマウス34が備えられている。下糸案内パイプ25及び上糸案内パイプ26には適宜の負圧源がそれぞれ接続されており、前記吸引口32及びサクションマウス34に吸引流を発生させて、上糸及び下糸の糸端を吸引捕捉できるように構成されている。
【0035】
前記巻取ユニット本体16は、巻取ボビン(紙管、芯管)22を着脱可能に支持するクレードル23と、巻取ボビン22の周面又はパッケージ30の周面に接触して従動回転可能な接触ローラ29と、を備えている。また、巻取ユニット本体16は、糸20をトラバースさせるためのアーム式のトラバース装置27をクレードル23近傍に備えており、このトラバース装置27によって糸20を綾振りしながらパッケージ30に糸20を巻き取ることが可能に構成されている。
【0036】
前記クレードル23は回動軸48を中心に回動可能に構成されており、巻取ボビン22への糸20の巻取に伴う糸層径の増大を、クレードル23が回動することによって吸収できるように構成されている。また、クレードル23及びトラバース装置27は、図1に示すようにコーン形状のパッケージ30を形成可能に構成されている。
【0037】
前記クレードル23の巻取ボビン22を挟持する部分にはパッケージ駆動モータ41が取り付けられており、このパッケージ駆動モータ41によって巻取ボビン22を回転駆動して糸20を巻き取るように構成されている。パッケージ駆動モータ41のモータ軸は、巻取ボビン22をクレードル23に支持させたときに、当該巻取ボビン22と相対回転不能に連結されるようになっている(いわゆるダイレクトドライブ方式)。このパッケージ駆動モータ41の動作はパッケージ駆動制御部42により制御され、このパッケージ駆動制御部42はユニット制御部50からの運転信号を受けて前記パッケージ駆動モータ41の運転/停止を制御するように構成している。
【0038】
また、前記クレードル23にはパッケージ回転センサ43が取り付けられており、このパッケージ回転センサ43は、クレードル23に取り付けられた巻取ボビン22の回転(巻取ボビン22に形成された糸層31の回転)を検出するように構成している。この巻取ボビン22の回転検出信号は、パッケージ回転センサ43から、前記パッケージ駆動制御部42や前記ユニット制御部50へ送信される。更に、前記回転検出信号は、後述するトラバース制御部46に入力される。
【0039】
また、前記回動軸48には、クレードル23の角度(回動角)を検知するための角度センサ(パッケージ径取得部)44が取り付けられている。この角度センサ44は例えばロータリエンコーダからなり、クレードル23の角度に応じた角度信号をユニット制御部50に対して送信するように構成されている。クレードル23はパッケージ30が巻き太るに従って角度が変化するので、クレードル23の回動角を前記角度センサ44によって検出することにより、パッケージ30の糸層の径を検知することができる。これにより、トラバース装置27をパッケージ糸層径に応じて制御することで、糸の綾振りを適切に行うことができる。また、前記角度センサ44で取得された糸層31の径は、ユニット制御部50からパッケージ駆動制御部42へ転送される。
【0040】
前記トラバース装置27は、トラバースアーム(伝達部材)28と、糸ガイド11と、トラバースガイド駆動モータ(駆動手段)45と、を主要な構成として備えている。トラバースアーム28は、支軸のまわりに旋回可能に構成した細長状のアームとして構成されている。糸ガイド11は、前記トラバースアーム28の先端に保持されており、フック状に構成される。トラバースガイド駆動モータ45は、トラバースアーム28を駆動するためのものであって、サーボモータにより構成されている。トラバース装置27は、トラバースアーム28を図1の矢印のように往復旋回運動させることにより、糸20の綾振りを行う構成になっている。
【0041】
このトラバースガイド駆動モータ45の作動はトラバース制御部46により制御される。このトラバース制御部46は、専用のマイクロプロセッサによるハードウェア等から構成されており、ユニット制御部50からの信号を受けてトラバースガイド駆動モータ45の運転/停止を制御するように構成されている。
【0042】
また、トラバース装置27にはロータリエンコーダからなるトラバースガイド位置センサ47が備えられている。トラバース装置27は、このトラバースガイド位置センサ47によって、トラバースアーム28の旋回位置(ひいては、糸ガイド11の位置)を検出し、位置信号をトラバース制御部46へ送信できるように構成されている。
【0043】
次に、図2を参照して、糸ガイド11とトラバースガイド駆動モータ45の位置関係について説明する。図2は、第1実施形態の糸ガイド11とトラバースガイド駆動モータ45との関係を概略的に示した模式図である。
【0044】
図2に示すように、トラバースガイド駆動モータ45の出力軸51の適宜位置には、キー結合のためのモータ側キー溝(第1係合部)53が形成されている。出力軸51は丸棒状に形成されており、前記モータ側キー溝53は断面輪郭が矩形となるように形成されている。一方、トラバースアーム28の基端側には、前記出力軸51を差し込むための軸孔65と、キー結合のためのキー溝(第2係合部)72と、がそれぞれ形成されている。軸孔65は円形の貫通孔として形成されており、キー溝72は断面輪郭が矩形となるように形成されている。キー溝72は軸孔65の縁部の1箇所に形成されており、軸孔65とキー溝72とで一体的な鍵孔状の空間が形成されている。モータ側キー溝53とトラバースアーム28のキー溝72とは、互いに対応するように形成されている。このモータ側キー溝53の位置をキー溝72に合わせた状態で、適宜のキー部材を介して出力軸51とトラバースアーム28を係合させる。これによって、トラバースアーム28の基端側がトラバースガイド駆動モータ45に対し相対回転不能に連結される。
【0045】
トラバースアーム28が軸孔65の中心を回転中心として左右方向に往復旋回運動されることによって、当該トラバースアーム28の先端側に支持される糸ガイド11が円弧状の軌跡を描いて往復動される。この糸ガイド11が糸をトラバースする範囲であるトラバースストロークTSは、形成するパッケージ30の形状に応じてトラバース制御部46に予め設定されており、このトラバースストロークTSに応じてトラバースガイド駆動モータ45の駆動が制御される。
【0046】
なお、以下において、糸ガイド11の糸を係合する部分とトラバースガイド駆動モータ45の出力軸51(後述するロータ62)の回転中心とを結ぶ仮想直線を糸ガイド仮想線100と称して説明する。また、トラバースストロークTSを二等分するように垂直に交わる仮想的な直線(即ち、トラバースストロークTSの中心位置とロータ62の回転中心とを結ぶ仮想直線)をトラバースストローク中心線90と称して説明する。
【0047】
図2に示すように、トラバースアーム28がトラバースストロークTSの中心に相当する位置にあるときは、糸ガイド仮想線100がトラバースストローク中心線90と重なるように、モータ側キー溝53及びトラバースアーム28のキー溝72の向きが設定されている。
【0048】
次に、図3を参照して、本実施形態のトラバースガイド駆動モータ45の構造について説明する。図3は、第1実施形態のトラバースガイド駆動モータ45の内部を概略的に示した模式図である。
【0049】
図3に示すように、本実施形態のトラバースガイド駆動モータ45は、ハウジング60と、ステータ61と、コイル66と、ロータ62と、磁石63と、を主要な構成として備えている。
【0050】
ハウジング60は、トラバースガイド駆動モータ45の各部品を支持するためのものであり、その中央部で図略のベアリングを介してロータ62を回転可能に支持するように構成されている。ロータ62には磁石63が取り付けられるとともに、前記出力軸51が固定されている。
【0051】
ステータ61はハウジング60に固定されるとともに、複数のステータ歯64を備えている。ステータ歯64のそれぞれは、外周のヨーク部からロータ62に向けて径方向内側に突出しており、ロータ62の外周を囲うように周方向に等間隔で6個並べて配置されている。コイル66は、磁界を発生させて磁石63が取り付けられるロータ62を回転させるためのものであり、前記ステータ歯64に電線を巻き付けて構成されている。磁石63は、機械角90度ごとにN極とS極が交互に配置された4極で構成されており、ロータ62の表面に取り付けられている。
【0052】
図2及び図3に示すように、糸ガイド11の糸を係合させる部分がトラバースストローク中心線90上にあるとき(トラバースストローク中心線90と前記糸ガイド仮想線100が重なっているとき)に、前記磁石のN極とS極との変わり目の1つ(磁極境界線80)が糸ガイド仮想線100に対して角度A(所定角度)で傾くように配置されている。この角度Aは磁石63の磁極の変わり目同士がなす角(90度)と異なるため、図3に示すように、この状態では、4つある磁極の変わり目の何れも糸ガイド仮想線100と重なっていない。
【0053】
角度Aはゼロより大きい任意の値であり、この角度を適宜の値に設定することでトルク変動の位相を変化させることができる。即ち、トラバースガイド駆動モータ45等の電気モータにおいては一般に、出力軸51がどの回転位相にあってもステータ61とロータ62との磁気的吸引力を一定にすることは難しく、出力軸51の回転位相に応じてトルクがある程度変動することが避けられない(トルク変動)。本明細書では、出力軸51の回転位相に応じてトルクが変化する対応関係を、「トルク変動の位相」と定義する。そして、出力軸51の回転位相(言い換えれば、糸ガイド11の位置)とトルクとの対応関係は、出力軸51に取り付けられる磁石63の位相を適宜変化させることで、任意に変更することができる。
【0054】
従って、角度Aを適切な値に設定することで、トルクの大きさがトラバースストロークTSの端部でピークに到達するようにトラバースガイド駆動モータ45を構成することができる。本実施形態では、トラバースアーム28に支持される糸ガイド11が、コーン状のパッケージ30における大径側の端部(図面において右側)で素早くターンできるように前記角度Aが設定されている。言い換えれば、角度Aは、糸ガイド11がトラバースストロークの大径側端部近傍に到達したときにトラバースガイド駆動モータ45のトルクがピークを迎えるように設定されている。
【0055】
以上に示したように、第1実施形態の自動ワインダは以下のように構成される。即ち、自動ワインダは、糸をトラバースさせるための糸ガイド11と、当該糸ガイド11を往復駆動するトラバースガイド駆動モータ45と、を備える。トラバースガイド駆動モータ45は、磁石63が取り付けられるロータ62と、コイル66が取り付けられるステータ61と、を備える。トラバース作業において、糸ガイド11がトラバースストロークTSの少なくとも何れかの端部に位置しているときに、トラバースガイド駆動モータ45のトルクが大きくなるように、糸ガイド11、磁石63が取り付けられるロータ62及びステータ61の配置関係が設定される。
【0056】
これにより、大きなトルクが必要なトラバースストロークTSの端部でトラバースガイド駆動モータ45のトルクを大きくすることができるので、糸ガイド11の反転に要する時間を短縮することができ、パッケージ30の耳高や綾落ち等を効果的に防止できる。また、トラバースガイド駆動モータ45のトルクを効率的に活用することによって、トラバースガイド駆動モータ45に掛かる負荷を抑えて発熱を低減することができる。これによって、トラバースガイド駆動モータ45の寿命を延ばすことができる。
【0057】
また、本実施形態の自動ワインダは、以下のように構成される。即ち、糸ガイド11の糸を係合させる部分がトラバースストロークTSの中心位置にあるときに、磁石63の磁極の変わり目の全てが糸ガイド仮想線100と重ならず、かつ、前記磁極の変わり目の1つ(磁極境界線80)が糸ガイド仮想線100に対して角度Aだけ傾くように、ロータ62に磁石63を取り付ける。
【0058】
これにより、ロータ62に取り付ける磁石63の角度を適宜定めることで、トラバースストロークTSの所望の位置(例えばトラバースストロークTSの端部)でトラバースガイド駆動モータ45のトルクがピークに達する構成を簡易に実現できる。
【0059】
また、本実施形態の自動ワインダにおいては、糸ガイド11はトラバースアーム28に支持されており、当該トラバースアーム28がトラバースガイド駆動モータ45によって駆動されることで糸ガイド11による糸のトラバースが行われる。
【0060】
これにより、反転位置での負荷が大きいトラバースアーム28の往復動を、駆動モータのトルクを効率的に活用して行うことができる。
【0061】
また、本実施形態の自動ワインダは、コーン形状のパッケージ30を巻き取る場合に、トラバースストロークTSの一端(大径側)にある糸ガイド11が他端(小径側)よりも強い力で反転するように角度Aが設定される。
【0062】
これにより、端部の一側と他側で径が異なるコーン形状のパッケージ30において、目的に応じたトラバース制御を行うことができる。本実施形態では、コーン状のパッケージ30において大径側での糸道の鋭いターンを実現すべく、当該大径側端部でトルクがピークに達するように角度Aを設定している。これにより、解舒時の糸切れを高い確率で引き起こす大径側での綾落ちを効果的に防止できる。ただし、事情によっては、小径側を大径側よりも強い力で反転するように所定角度を設定することもできる。
【0063】
次に、図4を参照して、第2実施形態の自動ワインダが備えるトラバースガイド駆動モータ145の構造について説明する。図4は、第2実施形態のトラバースガイド駆動モータ145の内部を概略的に示した模式図である。なお、第2実施形態においては、トラバースガイド駆動モータ145以外の構成については前述の第1実施形態と同様であるので、その他の構成の説明は省略する。また、トラバースガイド駆動モータ145の構成においても、第1実施形態と同一及び類似するものについては図面に同一の符号を付してその説明を省略する場合がある。
【0064】
図4に示すように、本実施形態においてトラバースガイド駆動モータ145が備えるステータ161は、第1実施形態と同様にステータ歯164を有している。このステータ歯164は、ロータ62に向けて径方向に突出しており、ロータ62の外周を囲うように周方向に等間隔で6個並べて配置されている。図4に示すように、ステータ161に取り付けられるコイル66は、それぞれのコイル66がロータ62を挟んで対向するように配置されている。この対向配置されるコイル66のそれぞれの中心(コイル66を巻き付けているステータ歯164の中心)を結んだ仮想的な直線をコイル仮想線70とする。即ち、このコイル仮想線70は当該コイル66の中心線となっており、図4のようにステータ歯164を6個配置したステータ161の場合は、60度ずつ角度が異なる3本のコイル仮想線70を考えることができる。
【0065】
そして本実施形態においては、これらのコイル仮想線70が何れもトラバースストローク中心線90と一致しないように、ステータ161がハウジング60に支持されている。即ち、全てのコイル仮想線70がトラバースストローク中心線90に対して傾いた状態となっている。なお、第2実施形態では、前記糸ガイドの糸を係止する部分がトラバースストローク中心線90上にあるときに、磁石163の磁極境界線の少なくとも1つがトラバースストローク中心線90と一致するように、当該磁石163がロータ62に取り付けられている。
【0066】
本実施形態では図4に示すように、複数のコイル仮想線70の中の1つが、前記トラバースストローク中心線90と角度Bをなすようにステータ161の取付位相が設定されている。この角度Bは、第1実施形態の角度Aと同様にゼロより大きい値であり、任意の大きさに定めることができる。コイル仮想線70はステータ161の位置によって決まるものであるため、ステータ161の取付位置をロータ62の軸を中心としてズラすことによって、ステータ161に取り付けられているコイル66が励磁されるタイミングにおける糸ガイドの位置が機械的に変更されることになる。この角度Bを適宜設定して前記トルク変動の位相を変化させることで、トラバースストロークTSの端部でトルクの大きさがピークに到達するように設定することができる。なお、上記の角度Bは、任意のコイル仮想線70とトラバースストローク中心線90の関係で考えることができる。
【0067】
以上に示したように、第2実施形態の自動ワインダは以下のように構成される。即ち、ステータ161は、コイル66がロータ62を挟んで対向して配置されるように構成されており、ロータ62の軸方向で見たときに、コイル仮想線70の全てがトラバースストローク中心線90と重なることなく、かつ、当該コイル仮想線70の1つが前記トラバースストローク中心線90に対して角度Bだけ傾くように構成する。
【0068】
これにより、コイル仮想線70がトラバースストローク中心線90に対して所定角度傾くようにステータ161の位置を適宜設定することで、トラバースストロークの所望の位置(例えばトラバースストロークの端部)でトラバースガイド駆動モータ145のトルクがピークに達するようにする構成を簡易に実現できる。また、このようにトラバースガイド駆動モータ145のトルクを効率良く活用できるので、トラバースガイド駆動モータ145に掛かる負荷を抑えて発熱を低減できる。
【0069】
次に、図5及び図6を参照して、第3実施形態の自動ワインダが備えるトラバースアーム228について説明する。図5は、第3実施形態のトラバースアーム228を示した正面図である。図6は、第3実施形態の糸ガイド11とトラバースガイド駆動モータ245との関係を概略的に示した模式図である。なお、第3実施形態においても第2実施形態と同様に、第1実施形態と同一及び類似する構成については同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0070】
図5に示すように、第3実施形態のトラバースアーム(伝達部材)228の基端側には、トラバースガイド駆動モータ245の出力軸251を差し込むための軸孔65と、キー結合のためのキー溝272と、がそれぞれ形成されている。軸孔65は丸孔状に形成されており、キー溝272は断面輪郭が矩形状の溝として形成されている。
【0071】
図6に示すように、トラバースガイド駆動モータ245の出力軸251に形成されるモータ側キー溝(第1係合部)253の向きは、トラバースガイド駆動モータ245の無励磁状態において、トラバースストローク中心線90と一致している。一方、本実施形態においては図5及び図6に示すように、トラバースアーム228側のキー溝(第2係合部)272は、糸ガイド仮想線200に対して角度Cだけ傾くようにして軸孔65に形成されている。従って、キー溝272と軸孔65とで形成される鍵孔状の空間は、第1実施形態の図2に示すようなキー溝72の向きが糸ガイド仮想線100と一致する状態から糸ガイド仮想線200に対して角度Cだけ一側に傾斜している形になっている。
【0072】
従って、本実施形態のトラバースアーム228をトラバースガイド駆動モータ245の出力軸251に取り付けた場合、トラバースガイド駆動モータ245の無励磁状態では図6に示すように、糸ガイド11の糸を係止する部分と出力軸251を結ぶ仮想直線(糸ガイド仮想線200)がトラバースストローク中心線90に対して角度Cだけ傾くことになる。
【0073】
ここで、本実施形態のトラバースガイド駆動モータ245においても、第1実施形態及び第2実施形態と同様に、出力軸251の回転位相に応じてトルクがある程度変動することが避けられない。そして、前記角度Cは、出力軸251に対するトラバースアーム228の取付位相を定めるものである。従って、この角度Cは、糸ガイド11の位置に応じてトラバースガイド駆動モータ245のトルクが変化する対応関係を定めるものであるということもできる。
【0074】
この角度Cは、前述した実施形態における角度A及び角度Bと同様に、トラバースストロークTSの端部でトルクが大きくなるように適宜設定することができる。本実施形態においては、キー溝272の向きによって、トラバースガイド駆動モータ245のトルクの大きさがピークに到達する糸ガイド11の位置が決定されることになる。従って、キー溝272の角度(向き)を種々異ならせたトラバースアームを複数用意しておくことで、様々な状況に応じてトラバースアーム228を交換して適切なトラバース作業を行うことができる構成を簡素に実現できる。具体的には、複数種類のトラバースアームから、形成したいパッケージの形状(例えば、巻き幅)に応じて適宜選択したものを使用することで、より状況に即したトラバース制御を行うことが可能になる。なお、本実施形態では、前記トラバース制御部46がキー溝272の角度(キー溝272が形成される位置)に応じた制御を行うようにトラバース装置227が構成されている。また、前記設定器は、キー溝272の角度に応じたトラバース制御をユーザが選択できるように構成されている。
【0075】
そして、本実施形態の特徴はトラバースアーム228側の構成に尽きるものであるため、既存のトラバース装置に簡単に適用できる点でも有利である。例えば、既存のトラバース装置ではトラバースストロークの一側の端部で強いトルクが得られなかった場合でも、キー溝272の向きが異なるトラバースアーム228に交換するだけで、トラバース装置の交換や分解を必要とせずに、トラバースストロークTS端部での糸道の鋭いターンが得られる構成を実現することができる。
【0076】
以上に示したように、第3実施形態の自動ワインダは以下のように構成される。即ち、自動ワインダは、コイル66が通電していない無励磁状態(図6)で、糸ガイド仮想線200がトラバースストロークTSのトラバースストローク中心線90に対して角度Cだけ傾くように当該糸ガイド11を配置する。
【0077】
これにより、糸ガイド仮想線200がトラバースストローク中心線90に対して所定角度傾くように糸ガイド11を配置することで、トラバースストロークTSの所望の位置でトラバースガイド駆動モータ245のトルクがピークに達するようにする構成を簡易に実現できる。また、このようにトラバースガイド駆動モータ245のトルクを効率良く活用できるので、トラバースガイド駆動モータ245に掛かる負荷を抑えて発熱を低減できる。
【0078】
また、本実施形態の自動ワインダは、以下のように構成される。即ち、自動ワインダは、出力軸251と、モータ側キー溝253と、トラバースアーム228と、キー溝272と、を備える。出力軸251は、糸ガイド11を駆動するためにロータ62に接続される。モータ側キー溝253は、トラバースガイド駆動モータ245が前記無励磁状態のときの糸ガイド11の位置を決めるために出力軸251に形成される。トラバースアーム228は、糸ガイド11を支持する。キー溝272は、トラバースアーム228を出力軸251に接続するためにモータ側キー溝253に対応するようにトラバースアーム228に形成される。そして、キー溝272は、当該キー溝272が図略のキー部材を介してモータ側キー溝253に係合したときに、図6に示す無励磁状態において、糸ガイド仮想線200がトラバースストローク中心線90に対して角度Cだけ傾くように構成されている。
【0079】
これにより、トラバースストロークTSの所望の位置(例えばトラバースストロークの端部)でトルクを大きくする構成を簡素に実現できるので、製造コストを低減できる。また、キー溝272の角度(向き)を様々に異ならせたトラバースアームを用意しておけば、トラバースアーム228の交換だけによって、トルクを大きくする位置を容易に変えることができる。従って、パッケージ30の形状に合わせてトルクをトラバース端部で大きくすることができる構成をシンプルに実現できる。
【0080】
次に、図7を参照して、第4実施形態の自動ワインダが備えるベルト式のトラバース装置327について説明する。図7は、第4実施形態の糸ガイド311とトラバースガイド駆動モータ345との関係を概略的に示した模式図である。なお、第4実施形態において、トラバース装置327以外の構成は、上記第1実施形態と同様であるので説明を省略する。また、トラバース装置327の構成においても、第1実施形態と同一又は類似であるものについては、図面に同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0081】
本実施形態のトラバース装置327は、ベルト駆動によって糸ガイド311を左右方向に往復動させることにより、パッケージ30に巻き取られる糸をトラバースするためのものである。図7に示すように、このトラバース装置327は、駆動プーリ(伝達部材)301と、2つの従動プーリ302と、ベルト303と、糸ガイド311と、トラバースガイド駆動モータ345と、を主要な構成として備えている。
【0082】
駆動プーリ301は、トラバースガイド駆動モータ345の出力軸351にキー結合で連結されており、トラバースガイド駆動モータ345の駆動力をベルト303(ひいては、糸ガイド311)に伝達することができる。2つの従動プーリ302は、駆動プーリ301の上方で左右に並んで配置されている。これらの駆動プーリ301と2つの従動プーリ302にベルト303が巻き回されている。駆動プーリ301及び従動プーリ302は、前記ベルト303が駆動プーリ301を下側の頂点とする略二等辺三角形となるように、適宜配置されている。
【0083】
糸ガイド311は、ベルト303において、2つ並べて配置された従動プーリ302の間の位置に固定されている。この糸ガイド311は、トラバースガイド駆動モータ345が無励磁状態のときは、図7のようにトラバースストローク中心線90から左右一側に若干離れた位置となるように、その取付箇所が設定されている。図7に示す状態では、糸ガイド311の糸を引っ掛ける部分と、トラバースガイド駆動モータ345の回転軸と、を結んだ糸ガイド仮想線320が、トラバースストローク中心線90に対して角度Dだけ傾いた状態となっている。
【0084】
この角度Dを適宜設定することで、トルク変動のピークをトラバースストロークTSの所望位置にもってくることができる。当該角度Dを変更するには、ベルト303に対する糸ガイド311の固定箇所を変更することが簡単であるが、駆動プーリ301に形成されたキー溝の向きを変更することで実現することもできる。この構成で、トラバースガイド駆動モータ345が駆動されて、ベルト駆動式のトラバース装置327によるトラバース作業が行われる。
【0085】
以上に示したように、本実施形態の自動ワインダにおいて、糸ガイド311はベルト303に支持されており、当該ベルト303をトラバースガイド駆動モータ345によって往復動することで当該糸ガイド311による糸のトラバースが行われる。
【0086】
これにより、ベルト303の動きを反転させる際に、トルク変動のピークに達するように角度Dを設定することで、ベルト駆動を利用したトラバース作業を効率化できる。
【0087】
次に、図8及び図9を参照して、本発明を適用した場合の効果について説明する。図8及び図9は、従来技術及び本発明を適用した場合のトラバースストロークTS、トラバースガイド駆動モータの機械角及びトルクの関係の一例をそれぞれ示したグラフである。横軸がトラバースガイド駆動モータの機械角を示し、縦軸が機械角に応じたトルクの大きさを示している。図8及び図9に示すトルク変動は、トラバースガイド駆動モータの磁石やコイルの位置等の構造的なものに起因している。従って、トラバースストロークの位置(機械角)に応じてトルクの大きさが変わり、トラバースストロークTSの同じ位置ではトルクは略一定の値を示すことになる。
【0088】
まず、図8の場合について説明する。図8(a)に示す従来技術のように、トラバースストロークTSと機械角の関係から、トラバースストロークTSの左端のトルクが右端のトルクより小さく、かつトルクの平均値を下回っていることがある。ところで、第1実施形態等で説明したように、コーン形状のパッケージの小径側又は大径側の何れかでトラバース装置の糸ガイドを素早くターンさせたいような場合がある。例えば、第1実施形態とは逆にパッケージ30の小径側(左側)で糸ガイドを素早くターンさせたいとする。このような場合に、上記第1実施形態から第4実施形態までに示した本発明の構成を適用してトルク変動の位相をズラすことで、トルクを所望の位置でピーク又はその近傍に到達させることができる。本発明を適用した図8(b)では、トラバースストロークTSの左端でトルクがピーク又はその近傍に達しており、糸ガイドを強いトルクでターンさせることが可能になっている。このように、トラバースストロークTSが任意の長さであっても、トルク変動の位相を変化させることで、トルクのピーク又はその近傍をトラバースストロークTSの所望の位置で到達させることが本発明の構成によって可能となっている。
【0089】
次に、図9の場合について説明する。図9(a)に示すように、トラバースストロークTSの両端の何れにおいても、トルクの値が最小値に近くなることがある。トラバースストロークTSと機械角の関係において、トラバースストロークTSとトルク変動のピーク間の距離(周期)の整数倍とが略一致するような場合である。このような場合では、第1実施形態から第4実施形態までに示した本発明の構成を適用してトルク変動の位相を変化させることで、図9(b)に示すように、トラバースストロークTSの両端部の何れもで、トルクがピーク又はその近傍に到達するようにトラバース装置を構成することができる。従って、図9(a)に示すようなトラバースストロークTSとトルク変動のピーク間の距離の整数倍とが略一致し、かつピークが両端からズレているような場合では、トラバースストロークTSの両端で、強いトルクを発揮させるという観点から本発明の構成が特に有効であると言える。
【0090】
以上に本発明の好適な実施形態を説明したが、上記の構成は更に以下のように変更することができる。
【0091】
上記実施形態のトラバース装置においてロータが備える磁石は4極構成のものであるが、これに代えて例えば2極構成や8極構成の磁石を採用することもできる。この場合、磁極の数に応じてステータ(コイル)の構成を適宜変更すれば良い。
【0092】
また、第1実施形態及び第2実施形態のトラバースガイド駆動モータ45,145は、アーム式のトラバース装置27の駆動モータとして用いられているが、この構成に限定されるわけではない。例えば、第1実施形態及び第2実施形態のトラバースガイド駆動モータ45,145を、第4実施形態のようなベルト駆動式のトラバース装置に適用することもできる。
【0093】
第1実施形態ではフック状の糸ガイド11が採用されているが、糸ガイドの構成は適宜変更できる。例えば、先端側が開放されたU字状部分に糸を係合させる構成や、2本の棒状部材によって糸を挟み込んでトラバースさせる構成等に変更することができる。
【0094】
更に、上記実施形態にそれぞれ示された方法を単独で用いることに代えて、複数を組み合わせた複合的な方法で、トラバースストロークTSの端部でトラバースガイド駆動モータのトルクが大きくなるように構成することができる。例えば、上記第1実施形態では、磁極の磁極境界線80がトラバースストローク中心線90に対して所定角度だけ傾いている構成であるが、この構成に加えて、ステータ61の配置を変更することも可能である。即ち、トラバースストロークTSの端部でトラバースガイド駆動モータのトルクを大きくする構成は、糸ガイド、ステータ、磁石の配置の特徴を互いに適宜組み合わせることで実現することもできる。
【0095】
トラバースガイド駆動モータの出力軸と、前記伝達部材(トラバースアーム又は駆動プーリ)とは、キー結合で連結する構成に限定されない。例えば、モータの出力軸の先端を角棒状に形成し、伝達部材側の軸孔を対応する角孔状に形成した上で、両者を係合させることができる。
【0096】
上記実施形態のトラバース装置は、自動ワインダに限定されず、糸を綾振りながら巻き取る構成の繊維機械に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0097】
11 糸ガイド
28 トラバースアーム(伝達部材)
45 トラバースガイド駆動モータ(駆動モータ)
61 ステータ
62 ロータ
63 磁石
66 コイル
80 境界線
90 トラバースストローク中心線
253 モータ側キー溝(第1係合部)
272 キー溝(第2係合部)
TS トラバースストローク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸をトラバースさせるための糸ガイドと、
当該糸ガイドを往復駆動する駆動モータと、
を備える繊維機械において、
前記駆動モータは、
磁石が取り付けられるロータと、
コイルが取り付けられるステータと、
を備え、
トラバース作業において、前記糸ガイドがトラバースストロークの少なくとも何れかの端部に位置しているときに前記駆動モータのトルクが大きくなるように、前記糸ガイド、前記ロータ及び前記ステータの配置関係が設定されていることを特徴とする繊維機械。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維機械であって、
前記糸ガイドの糸を係合させる部分がトラバースストロークの中心位置にあるときに、前記磁石の磁極の変わり目が、前記糸ガイドの糸を係合させる部分と前記ロータの回転中心とを結ぶ糸ガイド仮想線に対して所定角度傾くように前記磁石を前記ロータに取り付けることを特徴とする繊維機械。
【請求項3】
請求項1に記載の繊維機械であって、
前記ステータは、前記コイルが前記ロータを挟んで対向して配置されるように構成されており、
前記ロータの軸方向で見たときに、前記ロータを挟んで対向配置される前記コイルの中心線であるコイル仮想線の全てが、トラバースストロークの中心位置と前記ロータの回転中心とを結ぶ仮想的な直線であるトラバースストローク中心線と重なることなく、かつ、前記コイル仮想線の1つが当該トラバースストローク中心線に対して所定角度傾くように構成されることを特徴とする繊維機械。
【請求項4】
請求項1に記載の繊維機械であって、
前記コイルが通電していない無励磁状態で、前記糸ガイド及び前記駆動モータを前記ロータの軸方向で見たときに、前記糸ガイドの糸を係合させる部分から前記ロータの回転中心までを結ぶ糸ガイド仮想線が、トラバースストロークの中心位置から前記ロータの回転中心までを結ぶ仮想的な直線であるトラバースストローク中心線に対して所定角度傾くように当該糸ガイドを配置することを特徴とする繊維機械。
【請求項5】
請求項4に記載の繊維機械であって、
前記糸ガイドを駆動するために前記ロータに接続される出力軸と、
前記無励磁状態での前記糸ガイドの位置を決めるために前記出力軸に形成される第1係合部と、
前記糸ガイドを支持する伝達部材と、
前記伝達部材を前記出力軸に接続するために前記第1係合部に対応するように当該伝達部材に形成される第2係合部と、
を備え、
前記第2係合部は、当該第2係合部が前記第1係合部に係合したときに、前記無励磁状態において、前記糸ガイドの糸を係合させる部分から前記ロータの回転中心までを結ぶ糸ガイド仮想線が前記トラバースストローク中心線に対して所定角度傾くように構成されていることを特徴とする繊維機械。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載の繊維機械であって、
前記糸ガイドはトラバースアームに支持されており、当該トラバースアームが前記駆動モータによって駆動されることで前記糸ガイドによる糸のトラバースが行われることを特徴とする繊維機械。
【請求項7】
請求項1から5までの何れか一項に記載の繊維機械であって、
前記糸ガイドはベルト部材に支持されており、当該ベルト部材を前記駆動モータによって往復動することで前記糸ガイドによる糸のトラバースが行われることを特徴とする繊維機械。
【請求項8】
請求項1から7までの何れか一項に記載の繊維機械であって、
コーン形状のパッケージを巻き取る場合に、トラバースストロークの一端にある前記糸ガイドが他端よりも強い力で反転するように前記配置関係が設定されることを特徴とする繊維機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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