説明

繊維液晶複合表示素子及びその製造方法

【課題】簡易な製造方法によって製造可能であり、かつ、応答時間が短い液晶表示素子、及びそのような液晶表示素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】有機重合性物質を溶解させた紡績液を静電噴霧法によって有機繊維化し、有機繊維層を一対の基板間に挟持させ、液晶を有機繊維層へ注入する。有機繊維層に液晶を充填した後、一対の基板間に挟持させてもよい。また、必要に応じて、有機繊維層に蒸熱処理を施してもよい。こうして製造された繊維液晶複合表示素子は、偏光板を有しなくても電界印加の有無によって透明/白濁のスイッチング機能を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機繊維層と液晶とを利用した液晶表示装置、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示に使用される表示材料には、低分子液晶単独のものと、低分子液晶と高分子物質とを混合したもの(高分子分散型液晶)が存在する。前者は主に液晶テレビ、携帯電話の表示部等に使用され、後者は主に電子ペーパー、遮蔽窓等に使用される。これら、従来の液晶表示装置では、シール材又はスペーサ材としてガラスファイバーが使用され、光学ガイドとしてオプティカルファイバーが使用されてきた。
【0003】
低分子液晶単独の液晶表示素子としては、基板表面に配向膜を塗布した後、ラビング処理し、ラビング方向に低分子液晶を配向させ表示素子を作製する方法が、非特許文献1に開示されている。
【0004】
一方、低分子液晶と高分子物質とを混合した液晶表示素子としては、液晶が高分子マトリクス中に分散保持された高分子分散型液晶を狭持した高分子分散型液晶表示素子の例が、特許文献1に開示されている。また、三次元網目構造を形成するポリマーネットワーク型液晶の光スイッチング素子が、特許文献2に開示されている。
【0005】
また、樹脂繊維と液晶との混合層を有し、電界印加時に配列した液晶を、電界除去時に再配列することを補助する樹脂繊維を用いた液晶光変調器が、特許文献3に開示されている。また、ゲル化剤が形成する繊維と液晶との混合層を有し、温度制御によりメモリー効果がある光変調器が、非特許文献2に開示されている。
【0006】
さらに、ゲル化剤が低温でネットワーク状の繊維を形成し、高温では粒子状に分離することを利用した液晶物理ゲルが、非特許文献3に開示されている。
【特許文献1】特開平5−216017号公報
【特許文献2】特開2000−321563号公報
【特許文献3】特開2006−267756号公報
【非特許文献1】液晶学会誌、2002年No2.P199.「液晶セルの作製方法」
【非特許文献2】繊維学会誌、2006年No5.P142.「液晶場における機能性自己組織化ファイバーの構築」
【非特許文献3】繊維と工業、Vol.62, No.5, P142-145 (2006).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、低分子液晶単独の表示素子は、駆動電圧が低く、応答時間が短いという利点を有するが、偏光板を使用するために光の利用効率が低いという欠点がある。一方、高分子分散型液晶は、高分子と液晶との屈折率の差による散乱を利用するものであり、偏光板を利用しないという利点を有するが、駆動電圧が低く、しかも応答時間が短い表示素子を作製しにくいという欠点がある。
【0008】
また、高分子分散型液晶表示素子において、高分子の組成割合を少なくしたポリマーネットワーク型液晶も開発されており、高分子分散型液晶表示素子と比べると駆動電圧が低く、応答時間が短いという利点を有するが、その反面、高分子の組成割合が非常に少なくなると、高分子と液晶の屈折率の差を利用する表示ができなくなり、偏光板が必要になる。
【0009】
また、非特許文献3に開示されている液晶物理ゲルを応用した液晶表示素子では、加熱した上で電場をOn/Offし、再び冷却しなければ、光透過状態と光散乱状態とを変化させることができない。
【0010】
さらに、製造方法については、高分子分散型液晶表示素子及びポリマーネットワーク型液晶表示素子は、共に紫外線照射によって高分子を重合する工程が必須であり、低分子液晶単独の表示素子は、基板をラビング処理する工程が必須である。
【0011】
本発明は、簡易な製造方法によって製造可能であり、従来の液晶表示素子が有する上記欠点を克服する液晶表示素子、及びそのような液晶表示素子に製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、一対の基板間に有機繊維層と液晶を挟持させることにより、有機繊維と液晶との屈折率差に起因する散乱機構を利用し、電圧制御で散乱の大きさが調整可能な液晶表示装置として機能させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
具体的に、本発明は、
一対の基板と、
それら基板間に挟持される少なくとも有機繊維層及び液晶と、から構成され、
基板間に電界をかけることにより、液晶の屈折率が変化し、有機繊維と液晶との屈折率差に変化を生じることを特徴とする繊維液晶複合表示素子に関する(請求項1)。
【0014】
本発明の繊維液晶複合表示素子は、有機繊維層と液晶との屈折率の違いによって、透明状態と白濁状態の二つの状態を表示することが可能であり、偏光板を必要としない。すなわち、透明/白濁のスイッチング機能を示す。また、製造工程が簡易で、専用の設備を要しないため、製造コストも低い。さらに表示駆動は温度制御ではなく、電圧駆動によって透明/白濁のスイッチングを行なう。
【0015】
なお、本発明の繊維液晶複合表示素子では、有機繊維は液晶の配列を安定化させるために利用されているのではなく、有機繊維と液晶の屈折率差を生じる表示材料の1つとして利用されている。また、有機繊維及び液晶以外の成分を構成とすることができる。
【0016】
また、本発明は、
有機重合性物質を溶解させた紡績液を準備する準備工程と、
前記紡績液を静電噴霧法によって基板上に有機繊維層として形成させる噴霧工程と、
有機繊維層を挟持するように、有機繊維層が形成された基板に別の基板を積層する積層工程と、
一対の基板間に挟持させた有機繊維層に液晶を注入する液晶注入工程と、
を有する繊維液晶複合表示素子の製造方法に関する(請求項3)。
【0017】
さらに、本発明は、
有機重合性物質を溶解させた紡績液を準備する準備工程と、
前記紡績液を静電噴霧法によって基板上に有機繊維層として形成させる噴霧工程と、
基板上の有機繊維層に液晶を充填する液晶充填工程と、
有機繊維層を挟持するように、有機繊維層が形成された基板に別の基板を積層する充填後積層工程と、
を有する繊維液晶複合表示素子の製造方法に関する(請求項4)。
【0018】

また、本発明は、
有機重合性物質を溶解させた紡績液を準備する準備工程と、
前記紡績液から静電噴霧法によって有機繊維集合体を作製する集合体作製工程と、
前記有機繊維集合体を有機繊維層として一対の基板間に挟持する積層工程と、
一対の基板間に挟持させた有機繊維層に液晶を注入して保持させる液晶注入工程と、
を有する繊維液晶複合表示素子の製造方法に関する(請求項5)。
【0019】
さらに、本発明は、
有機重合性物質を溶解させた紡績液を準備する準備工程と、
前記紡績液から静電噴霧法によって有機繊維集合体を作製する集合体作製工程と、
前記有機繊維集合体を有機繊維層として基板上に乗せ、液晶を充填する液晶充填工程と、
有機繊維層を挟持するように、有機繊維層が形成された基板に別の基板を積層する充填後積層工程と、
を有する繊維液晶複合表示素子の製造方法に関する(請求項6)。
【0020】
本発明の繊維液晶複合表示素子の製造方法では、静電噴霧法によって基板上に直接形成された有機繊維層、又は別途静電噴霧法によって製造された有機繊維集合体(好ましくは、シート状)を、一対の基板間に挟持させて、有機層に液晶を注入するという単純な工程によって液晶表示素子を製造することが可能である。また、複雑な工程又は時間のかかる工程がないため、汎用設備を用いて実施することができ、偏光板が不要なことと相俟って、コストを低く抑えることも可能である。
【0021】
なお、1枚の基板上の有機繊維層(又は有機繊維集合体)に液晶を充填し、その後、一対の基板間に有機繊維層(又は有機繊維集合体)を挟持させるように、もう1枚の基板を積層させれば、有機繊維層への液晶充填に時間がかからない。このため、大型基板を使用する場合には、一対の基板を積層させた後に液晶を注入する方法よりも、製造時間を短縮することが可能である。
【0022】
本発明の繊維液晶複合表示素子の製造方法では、前記液晶注入工程又は前記液晶充填工程の前に、前記有機繊維層を水蒸気処理及び加熱処理する蒸熱処理工程をさらに有することが好ましい(請求項7)。ここで、水蒸気処理とは80℃以上の水蒸気を繊維に噴射する処理をいい、加熱処理とは80℃以上150℃以下の温度で5分以上1時間以下加熱して、有機繊維層又は有機繊維集合体を乾燥させることをいう。
【0023】
有機繊維層を構成する有機繊維は、ポリアクリロニトリル、ナイロン66又はポリ乳酸であり、繊維径が0.05μm以上2μm以下であることが好ましい(請求項2,8)。
【発明の効果】
【0024】
本発明の繊維液晶複合表示素子は、偏光板が不要であり、応答時間も短い。また、本発明の繊維液晶複合表示素子の製造方法によれば、ポリマー重合工程も不要であり、簡易かつ安価な工程によって、本発明の繊維液晶複合表示素子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下に限定されない、
本発明の繊維液晶複合表示素子の製造方法について、工程フローチャートの一例を、図1に示す。まず、ステップS1として、有機重合性物質を溶解させた紡績液を準備する(準備工程)。有機重合性物質としては、ポリ乳酸、ポリアクリロニトリル又はナイロンが好ましい。これら有機重合性物質は、ジメチルフォルムアミド、クロロホルム、蟻酸等の有機溶媒に溶解させて紡績液とする。このとき、紡績液中の有機重合性物質の濃度は、10重量%以上20重量%以下とすることが好ましい。
【0026】
次に、ステップS2として、ステップS1で調製した紡績液を、静電噴霧法によって基板上に有機繊維層として形成させる(噴霧工程)。ここでは、静電噴霧装置に前記紡績液を注入し、極板間距離1cmあたりに換算して、1kV〜2kVの高電圧を噴霧ノズルに印加し、アースを施した基板に向けて静電噴霧する。その結果、基板上には有機繊維が層状(シート状)に形成される。
【0027】
有機繊維の繊維径は、0.05μm以上2μm以下に調整することが好ましい。繊維径が0.05μm未満又は2μm超では散乱が小さくなるという問題が生じる。なお、有機繊維層の空隙率を50%にすることが望ましいが、実施例のポリアクリロニトリル繊維は空隙率約85%である。
【0028】
なお、ステップS2のように、静電噴霧法によって基板状に直接有機繊維層を形成すれば、最も簡易な工程で本発明の繊維液晶複合表示素子を製造することが可能である。しかし、準備工程で調製した紡績液を、別途、静電噴霧法によって有機繊維集合体(好ましくは、シート状)として形成しておき、その後、当該有機繊維シートを有機繊維層として、ステップS4で一対の基板間に挟持させても、本発明の繊維液晶複合表示素子を製造することが可能である(シート作製工程)。
【0029】
この場合、有機繊維集合体は、公知の技術を用いて製造することができ、基板の大きさに合わせて適宜カットすればよい。有機繊維集合体を予めストックしておくことが可能であり、後述するステップS3及び/又はカットまで予め行った有機繊維集合体をストックしておくこともできる。
【0030】
次に、ステップS3として、基板上の有機繊維層(又は別途製造した有機繊維集合体)に100℃の水蒸気を10分間〜30分間吹きかけ、水蒸気処理する。その後、さらに80℃以上150℃以下で10分間以上60分間以下の時間、加熱処理する。この水蒸気処理及び加熱処理する工程(蒸熱処理工程)は、任意の工程であり、透明/白濁のスイッチングの駆動電圧を下げるという効果が発揮される。
【0031】
次に、ステップS4として、有機繊維層を挟持するように、有機繊維層が形成された基板に別の基板を積層する(積層工程)。すなわち、ステップS2において形成された有機繊維層をサンドイッチするように、一対の基板を重ね合わせる。このとき、有機繊維層の厚みを2μm以上に調整することが好ましい。厚みが2μm未満では散乱が小さくなるという問題があるためである。
【0032】
一方、有機繊維層の厚みが大きくなると駆動電圧が上昇するため、20μm以下に調整することが好ましく、15μm以下に調整することがより好ましい。
【0033】
上述したように、有機繊維集合体を別途製造する場合には、有機繊維集合体(好ましくは、シート状)を有機繊維層として、ステップS4において、一対の基板間に挟持させればよい。この場合にも、有機繊維層の厚みは、2μm以上20μm以下に調整することが好ましく、2μm以上15μm以下に調整することがより好ましい。
【0034】
最後に、ステップS5として、一対の基板に挟持させた有機繊維層に液晶を注入して保持させる(液晶注入工程)。注入する液晶としてはネマティック液晶が好ましく、有機繊維層の空気を真空脱気しながら、基板間から液晶を吸引させて注入することが好ましい。
【0035】
しかし、基板が大きい場合には、ステップS4で一対の基板間に有機繊維層を挟持させてから、ステップS5で液晶を有機繊維層に吸引注入させようとすると、注入に非常に時間がかかってしまう。この場合、ステップS4の代わりに、有機繊維層を形成させた1枚の基板(又は別途製造した有機繊維集合体を乗せた1枚の基板)について、液晶を滴下するなどして有機繊維層に液晶を充填し(液晶充填工程)、その後、もう1枚の基板を積層してセルを製造する(充填後積層工程)方が、短時間で液晶を注入することができる。いずれの方法であっても、液晶注入後は、一対の基板間を密閉する。
【0036】
なお、有機繊維層に注入又は充填し、保持させる成分は、液晶に限定されない。例えば、液晶以外に色素を注入又は充填することによって液晶表示素子をカラー化することも可能である。
【0037】
ここで、噴霧工程及び注入工程の模式図を、図2に示す。また、ステップS4によって製造された繊維液晶複合表示素子を上面及び断面から見た模式図を、図3(a)及び図3(b)にそれぞれ示す。本発明の繊維液晶複合表示素子では、電界をかけても有機繊維自体は何の変化も起こさない。しかし、液晶は電界をかけると配向性が変化するため、有機繊維と液晶との屈折率が変化する。このため、電界無印加時と電界印加時で、表示素子を光透過状態(透明)と光散乱状態(不透明)に変化させることが可能である。有機繊維は液晶配向を拘束する力があり、この拘束力によって、電圧除去時に液晶が元の配列に戻ることができる。
【0038】
以下、本発明の繊維液晶複合表示素子及びその製造方法について、実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
[実施例1及び実施例2]
本発明の実施例1及び実施例2として、有機重合性物質としてポリアクリロニトリルを用いた繊維液晶複合表示素子を製造した。
(準備工程)
まず、準備工程として、ポリアクリロニトリルをジメチルフォルムアミドに溶解させ、濃度10重量%の紡績液とした。
(噴霧工程)
次に、上記準備工程で製造した紡績液を、静電噴霧装置を用いて繊維化し、アースを施したITO基板(1cm×2cm、厚み2mm)上に有機繊維層(ポリアクリロニトリル繊維層)を形成させた。紡績液中の電極とノズルの下端部のITO基板までの距離を10cmとした。また、電極に可変電圧器を接続し、11kVの直流電圧を印加した。
(蒸熱工程)
次に、ITO基板上に形成させたポリアクリロニトリル繊維層に、100℃の水蒸気を10分間吹きかけた。その後、ITO基板を乾燥器内で、100℃、10分間加熱し、ポリアクリロニトリル層を乾燥させた。
(積層工程)
次に、ポリアクリロニトリル繊維層が形成されたITO基板に、ポリアクリロニトリル繊維層を挟持するように(サンドイッチするように)、もう1枚、別のITO基板を重ねてセル状とした。このとき、ポリアクリロニトリル繊維層の厚みは、実施例1では2μm、実施例2では6μmとした。なお、ポリアクリロニトリル繊維層の厚みを増すことにより、コントラストを向上させることが可能である。
(液晶注入工程)
次に、上記積層工程で作製したセルを真空脱気し、基板間の隙間から正の誘電性を有する液晶(ネマティック型、5CB)をポリアクリロニトリル繊維層へと注入した。注入後、一対の基板間の隙間をシール剤によって密閉した。そして、密封後の基板を、実施例1(ポリアクリロニトリル繊維層の厚み2μm)及び実施例2(ポリアクリロニトリル繊維層の厚み6μm)の繊維液晶複合表示素子とした。
【0039】
ここで、実施例1及び実施例2の繊維液晶複合表示素子について、印加電圧と透過率との関係を表すグラフを、図4に示す。実施例1及び実施例2の繊維液晶複合表示素子のセルギャップは、ともに7.5μmである。実施例1の繊維液晶複合表示素子は、電圧無印加時にはポリアクリロニトリル繊維と液晶との屈折率の差が大きく光散乱状態(不透明)であるが、3V〜5Vの電圧を印加すると、ポリアクリロニトリル繊維と液晶との屈折率差が小さくなり、11V〜17Vの印加電圧でほぼ光透過状態(透明)となった。
【0040】
繊維層の厚みが大きい実施例2の繊維液晶複合表示素子では、電圧無印加時の散乱が大きくなるが、光透過状態とするために必要な印加電圧は高くなる。コントラストを電圧無印加時と電圧印加時の透過率の比とすると、実施例2では18となる。ここで、透過率100%とは、表示素子の構成をすべて5CBとしたときの電圧印加時の透過率である。
【0041】
実施例2の繊維液晶複合表示素子について、電圧印加(17V)開始後及び電圧印加停止後の透過率の時間変化を表すグラフを、図5に示す。電圧無印加時(電圧印加前)は透過率が約5%であったが、電圧印加開始後4ミリ秒後で約50%、10ミリ秒後で約60%にまで透過率が上昇した。そして、30ミリ秒後以降は透過率約70%で安定であった。
【0042】
逆に、電圧印加(17V)した後、電圧印加を中止した場合、電圧印加時に約70%であった透過率は、1ミリ秒後には50%以下となり、7ミリ秒後には約5%にまで低下し、それ以降も約5%で安定していた。
[実施例3及び実施例4]
次に、有機重合性物質としてナイロン66を用いた繊維液晶複合表示素子を製造した。まず、準備工程として、ナイロン66を蟻酸に溶解させ、濃度10重量%の紡績液とした。この紡績液を、集合体作製工程として、実施例1及び実施例2と同様、静電噴霧装置を用いて繊維化し、アルミ薄膜上にナイロン66繊維シート(シート状の有機繊維集合体)を作製した。なお、ここでは11kVの直流電圧を印加し、ナイロン66繊維シートは、厚みが2μm及び4μmの2種類を作製した。
【0043】
ナイロン66繊維シートとして形成されたナイロン66繊維の電子顕微鏡写真(500倍)を、図6に示す。ナイロン繊維の繊維径には0.2μm〜1μm程度の分布が見られた。
【0044】
ナイロン66繊維シートは、実施例1及び実施例2と同様に蒸熱処理した後、アルミ薄膜から剥がし、実施例1及び実施例2と同様に、有機繊維層(ナイロン66繊維層)として一対のITO基板間に挟持させた(積層工程)。次に、液晶5CBをナイロン66繊維層へと注入し、シール剤によって密封後の基板を、実施例3(ナイロン66繊維シートの厚み2μm)及び実施例4(ナイロン66繊維シートの厚み4μm)の繊維液晶複合表示素子とした。
【0045】
実施例3及び実施例4の繊維液晶複合表示素子について、印加電圧と透過率との関係を表すグラフを、図7に示す。繊維液晶複合表示素子のセルギャップは、ともに7.5μmである。実施例3の繊維液晶複合表示素子は、3V電圧を印加すると、ナイロン66繊維と液晶との屈折率差が小さくなり、15V〜17Vの印加電圧でほぼ光透過状態(透明)となった。
【0046】
一方、繊維層の厚みが大きい実施例4の繊維液晶複合表示素子は、電圧無印加時及び電圧印加時の両方において散乱が大きく、透過率は実施例3よりも低くなった。実施例4について、約20kV以上の印加電圧時の透過率が、実施例2と比較して低いのは、ナイロン66繊維の屈折率がポリアクリロニトリル繊維の屈折率に比べて大きいことに起因すると推定される。
【0047】
実施例4の繊維液晶複合表示素子について、電圧印加(18V)開始後及び電圧印加停止後の透過率の時間変化を表すグラフを、図8に示す。電圧無印加時(電圧印加前)は透過率が約10%であったが、電圧印加開始後4ミリ秒後で約60%にまで透過率が上昇し、それ以降も透過率は安定した。
【0048】
逆に、電圧印加(18V)した後、電圧印加を中止した場合、電圧印加時に約60%であった透過率は、20ミリ秒後には約10%にまで低下し、それ以降も約10%で安定していた。
[実施例5]
次に、有機重合性物質としてポリ乳酸を用いた繊維液晶複合表示素子を製造した。まず、準備工程として、ポリ乳酸をクロロホルムに溶解させ、濃度10重量%の紡績液とした。この紡績液を、実施例1及び実施例2と同様、静電噴霧装置を用いて繊維化し、アースを施したITO基板上に有機繊維層(ポリ乳酸繊維層)を形成させた。
【0049】
次に、ポリ乳酸繊維層の蒸熱処理は行わず、一対のITO基板間にポリ乳酸繊維層(厚み2μm)を挟持させた。そして、実施例1及び実施例2と同様にして、液晶5CBをポリ乳酸繊維層へと注入し、シール材によって密封した。この密封後の基板を、実施例5の繊維液晶複合表示素子とした。
【0050】
実施例5の繊維液晶複合表示素子について、印加電圧と透過率との関係を表すグラフを、図9に示す。繊維液晶複合表示素子のセルギャップは、7.5μmである。実施例5の繊維液晶複合表示素子は、3V電圧を印加すると、ポリ乳酸繊維と液晶との屈折率差が小さくなり、約11Vの印加電圧で透過率80%に到達し、18V以上の印加電圧では透過率94%の光透過状態(透明)となった。
【0051】
このように、本発明の繊維液晶複合表示素子は、偏光板を有しないにもかかわらず、短い応答時間で液晶表示素子として機能することが確認された。また、簡易な製造方法によって製造可能であり、製造コストも安い。
【0052】
また、別途エレクトロスピニング装置で作製された大型の有機繊維集合体(好ましくは、シート状)を利用するか、大型基板上に複数の静電噴霧装置によって有機繊維層を均質に形成させれば、大面積の表示素子を製造することも可能である。さらに、有機繊維と液晶との組み合わせによって、実施例と同じ透過型表示素子以外に、反射型表示の表示素子を製造することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の繊維液晶複合表示素子及びその製造方法は、電子ペーパー、大面積表示の掲示板、遮蔽スクリーン、高画質ディスプレイ等の技術分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の繊維液晶複合表示素子の製造方法について、工程の一例を示すフローチャートである。
【図2】噴霧工程及び注入工程の模式図である。
【図3】本発明の繊維液晶複合表示素子の模式図であり、図3(a)は上面図、図3(b)は断面図である。
【図4】実施例1及び実施例2の繊維液晶複合表示素子について、印加電圧と透過率との関係を表すグラフである。
【図5】実施例2の繊維液晶複合表示素子について、電圧印加開始後及び電圧印加停止後の透過率の時間変化を表すグラフである。
【図6】有機繊維シートとして形成されたナイロン66繊維の電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例3及び実施例4の繊維液晶複合表示素子について、印加電圧と透過率との関係を表すグラフである。
【図8】実施例4の繊維液晶複合表示素子について、電圧印加開始後及び電圧印加停止後の透過率の時間変化を表すグラフである。
【図9】実施例5の繊維液晶複合表示素子について、印加電圧と透過率との関係を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の基板と、
それら基板間に挟持される少なくとも有機繊維層及び液晶と、から構成され、
基板間に電界をかけることにより、液晶の屈折率が変化し、有機繊維と液晶との屈折率差に変化を生じることを特徴とする繊維液晶複合表示素子。
【請求項2】
前記有機繊維層を構成する有機繊維がポリアクリロニトリル、ナイロン66又はポリ乳酸であり、繊維径が0.05μm以上2μm以下である請求項1に記載の繊維液晶複合表示素子。
【請求項3】
有機重合性物質を溶解させた紡績液を準備する準備工程と、
前記紡績液を静電噴霧法によって基板上に有機繊維層として形成させる噴霧工程と、
有機繊維層を挟持するように、有機繊維層が形成された基板に別の基板を積層する積層工程と、
一対の基板間に挟持させた有機繊維層に液晶を注入して保持させる液晶注入工程と、
を有する繊維液晶複合表示素子の製造方法。
【請求項4】
有機重合性物質を溶解させた紡績液を準備する準備工程と、
前記紡績液を静電噴霧法によって基板上に有機繊維層として形成させる噴霧工程と、
基板上の有機繊維層に液晶を充填する液晶充填工程と、
有機繊維層を挟持するように、有機繊維層が形成された基板に別の基板を積層する充填後積層工程と、
を有する繊維液晶複合表示素子の製造方法。
【請求項5】
有機重合性物質を溶解させた紡績液を準備する準備工程と、
前記紡績液から静電噴霧法によって有機繊維集合体を作製する集合体作製工程と、
前記有機繊維集合体を有機繊維層として一対の基板間に挟持する積層工程と、
一対の基板間に挟持させた有機繊維層に液晶を注入して保持させる液晶注入工程と、
を有する繊維液晶複合表示素子の製造方法。
【請求項6】
有機重合性物質を溶解させた紡績液を準備する準備工程と、
前記紡績液から静電噴霧法によって有機繊維集合体を作製する集合体作製工程と、
前記有機繊維集合体を有機繊維層として基板上に乗せ、液晶を充填する液晶充填工程と、
有機繊維層を挟持するように、有機繊維層が形成された基板に別の基板を積層する充填後積層工程と、
を有する繊維液晶複合表示素子の製造方法。
【請求項7】
前記液晶注入工程又は前記液晶充填工程の前に、前記有機繊維層を水蒸気処理及び加熱処理する蒸熱処理工程をさらに有する請求項3乃至6のいずれか1項に記載の繊維液晶複合表示素子の製造方法。
【請求項8】
前記有機繊維層を構成する有機繊維がポリアクリロニトリル、ナイロン66又はポリ乳酸であり、繊維径が0.05μm以上2μm以下である請求項3乃至7のいずれか1項に記載の繊維液晶複合表示素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−185690(P2008−185690A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17694(P2007−17694)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】