説明

繊維用親水化剤及びそれを含有する繊維

【課題】吸収性を必要とする熱可塑性合成繊維、特にポリオレフィン系不織布について優れた初期親水性と耐久親水性を付与することの可能な繊維用親水化剤を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるアルケニルフェノールの1種または2種以上にアルキレンオキサイドを付加した化合物を含有してなることを特徴とする繊維用親水化剤。


(式中、Rは炭素数13〜17のアルケニル基、AOは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を表し、nは1〜20の整数である。2種類以上のアルキレンオキシ基を付加する場合はブロック付加、又はランダム付加のいずれであってもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、初期親水性及び耐久親水性に優れた繊維用親水化剤に関するものであり、詳しくは、紙おむつ、生理用ナプキン、ウェットティッシュ、ワイパー、フィルター等の親水性の必要な熱可塑性合成繊維用の親水化剤に関する。更に詳しくは、親水化剤組成中にアルケニルフェノールアルキレンオキサイド付加物を含有してなる熱可塑性合成繊維用親水化剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系やポリエステル系等の熱可塑性合成繊維は疎水性であるため、従来から親水性を付与する方法が開示されている。特に紙おむつや生理用ナプキン等の衛生材料の着用時には発汗、尿、体液等による不快感を回避するために、これら製品の表面材が濡れやすく、しかもその濡れやすさが短時間で発揮されることが重要であると考えられている。そのため、通常、これらの製品の表面材を構成している繊維、例えばポリオレフィン系繊維には、短時間で液を吸収することが要求される。また、紙おむつ等は、自分で排泄物を処理できない幼児、老人、病人等が着用するものであり、吸収容量の増大、濡れ防止性の向上により1回の着用で必ずしも1回の排泄物が処理されるとは限らず、これら衛生材料等の表面材には、耐久親水性が強く要求される。
【0003】
従来、上記の表面材等の繊維に親水性を付与する方法としては下記(1)〜(3)に示すような方法が知られている。
【0004】
(1)疎水性樹脂に親水化剤を練り込み、紡糸した繊維により親水性の繊維集合体を得る方法。この方法としては、例えば、ポリマーにポリエチレングリコールを混合し、溶融混練後、繊維を製造する方法(特許文献1)や、アルキルスルホン酸ナトリウム塩を混合し繊維化する方法(特許文献2)等がある。
(2)親水性低分子化合物を付着させる方法。この方法としては、ポリオレフィン系繊維と親和性の高い脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤を付着させる方法(特許文献3)、ポリグリセリン脂肪酸エステルを用いる方法(特許文献4)等がある。
(3)プラズマ処理、コロナ放電処理等の物理的処理を施す方法。この方法としては、減圧下で酸素を高周波エネルギーで励起して処理し、表面をカルボニル化する方法(特許文献5)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭49−529号公報
【特許文献2】特開平5−272006号公報
【特許文献3】特開昭63−6166号公報
【特許文献4】特開平2−216265号公報
【特許文献5】特開昭50−73976号公報
【0006】
しかしながら、上記(1)の方法は、十分な親水性能を発揮するまで親水化剤を疎水性樹脂中に添加すると、樹脂との相溶性の問題で紡糸時に糸切れが発生する等で生産性が低下する。親水化剤が比較的早期に繊維表面にブリードアウトした場合でも、親水性が長期に持続せず耐久性の面で不十分といった問題がある。また、上記(2)の方法は簡便ではあるが、初期親水性には優れているが、期待する液透過性が不十分である。また、一旦水が通過すると乾燥された後は水の透過性が大幅に低下してドライタッチになるのに非常に時間がかかるなど耐久性の面で問題がある。上記(3)の方法は、改質により生じた極性基の経時変化により、経時的に親水性が劣化しやすく、しかも改質には特殊な装置を使用し、多量の熱や電気を要するため経済的ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、紙おむつや生理用ナプキン等の衛生材料の表面材に用いた場合に液広がりが少なく吸収性能に優れ、更には湿潤時における耐久親水性に優れた繊維用親水化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を達成するために鋭意研究した結果、上記課題に最適な親水化剤を見いだし、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は、下記一般式(1)で表されるアルケニルフェノールの1種または2種以上にアルキレンオキサイドを付加した化合物を含有してなる繊維用親水化剤である。
【0009】
【化2】

(式中、Rは炭素数13〜17のアルケニル基、AOは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を表し、nは1〜20の整数である。2種類以上のアルキレンオキシ基を付加する場合はブロック付加、又はランダム付加のいずれであってもよい。)
【0010】
本発明の好ましい態様として前記アルケニルフェノールの1種または2種以上がカルダノールである前記の繊維用親水化剤がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
前記一般式(1)において、Rは炭素数13〜17のアルケニル基を表す。Rの構造には特に限定はないが、不飽和結合数は1以上であればよく、直鎖構造であってもまた分岐構造であってもよい。
【0012】
前記一般式(1)で表される化合物はどのような方法で製造されたものであってもよい。通常は、アルケニルフェノールの1種または2種以上に塩基性触媒の存在下アルキレンオキサイドを付加する方法で得ることが出来る。
【0013】
前記アルケニルフェノールには、工業的に製造された純品または複数種の混合物のほか、植物等の天然物から抽出・精製された純品または複数種の混合物として存在するものも含まれる。例えば上記カシューナッツ殻等から抽出され、カルダノールと総称される、3−[8(Z),11(Z),14−ペンタデカトリエニル]フェノール、3−[8(Z),11(Z)−ペンタデカジエニル]フェノール、3−[8(Z)−ペンタデセニル]フェノール、3−[11(Z)−ペンタデセニル]フェノールや、いちょうの種子および葉、ヌルデの葉等から抽出される3−[8(Z),11(Z),14(Z)−ヘプタデカトリエニル]フェノール、3−[8(Z),11(Z)−ヘプタデカジエニル]フェノール、3−[12(Z)−ヘプタデセニル]フェノール、3−[10(Z)−ヘプタデセニル]フェノール等が挙げられる。これらの中で、分解性が良好であるカルダノールが好適に使用できる。
※出典:独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)ホームページ
【0014】
前記一般式(1)において、AOはアルキレンオキシ基を表し、nは1〜20の整数であり、アルキレンオキシ基はエチレンオキシ基、プロピレンオキシ基及びブチレンオキシ基が挙げられ、それぞれのアルキレンオキシ基の単独での付加、又は2種類以上のアルキレンオキシ基を付加する場合はブロック付加、又はランダム付加のいずれであってもよい。
【0015】
以下、本発明の内容を具体的に説明する。
本発明の繊維用親水化剤は、熱可塑性合成繊維としてポリオレフィン繊維、フィブリル化ポリオレフィン繊維、低融点のポリエステル繊維、ナイロン繊維、塩ビ繊維等に使用できる。その中でもポリオレフィン繊維に用いることが好ましく、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブデン−1、ポリメチルペンテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体などから任意に一あるいは二以上選択して使用することができる。
【0016】
また、本発明の親水化剤は、不織布、織編物などの布帛に使用することができる。不織布の形態としては、サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、スパンレース不織布、ニードルパンチ不織布などの主としてステープル繊維からなる不織布、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布などの長繊維からなる不織布、湿式抄造法による湿式不織布、エアレイ不織布などの短繊維からなる不織布、あるいはこれらの積層体を用途に応じて決定することができる。
【0017】
本発明の親水化剤を付与された不織布は、紙おむつや生理用ナプキン等の衛生材料の吸収性を必要とする表面材、お尻拭き、ウェットティッシュ、化粧綿、ワイパー、フィルター等に用いることができる。
【0018】
上記繊維に親水化剤を付着させる方法としては、エマルジョンや溶液にして塗布する方法か予めマスターバッチ等を作製し繊維製造時に樹脂に混練する方法でも良い。
【0019】
本発明の親水化剤を塗布する場合は、水系のエマルジョン、あるいはストレートで繊維に付着させることができ、上記不織布を製造する際における紡糸及び/又は延伸工程において、通常の浸漬方法又はスプレー方式等により該親水化剤を塗布しても良い。エマルジョンの場合には水に0.05〜50重量%に希釈するが、必要に応じて乳化剤や可溶化剤を併用しても良い。ストレート給油の場合は低粘度の炭化水素化合物に0.05〜50重量%に希釈して付着させても良い。
【0020】
塗布する場合の親水化剤の付着量は、ポリオレフィン系不織布に対して、0.05〜5.0重量%であり、好ましくは0.1〜1.0重量%である。付着量が0.05重量%未満であると、十分な親水性が得られず、付着量が5.0重量%を超えると、繊維をカード処理する時に巻付きが多くなり生産性が大幅に低下したり、得られる不織布が硬く、肌触りが悪くなり、吸収性物品の表面材として適当でなくなる。
【0021】
本発明の親水化剤を樹脂に混練する場合は、公知の混合装置を用いればよく、例えば、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサーなどで混合し、公知の短軸または2軸押出機等で溶融混合して、予めマスターバッチにしておくと良い。このときポリオレフィン系樹脂には、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線防止剤などの安定剤や酸化チタン、金属石けん、カーボンブラック、顔料、抗菌剤などの添加剤を混合させても良い。
【0022】
混練する場合の親水化剤の添加量は、樹脂に対して0.1〜30重量%、好ましくは1〜20重量%混練する。混練する量が0.1重量%未満では十分な親水性が得られず、30重量%を超えると繊維強度が低下し生産性が大幅に低下するので好ましくない。
【0023】
そして、親水化剤が混練されたポリオレフィン系樹脂は、公知の溶融紡糸機を用い、溶融紡糸される。紡糸温度は、親水化剤が実質的に変質しない温度で実施され、紡糸温度200〜300℃で樹脂を押し出し、所定の繊度の紡糸フィラメントを作製する。紡糸フィラメントは、必要に応じて延伸される。延伸は、延伸温度90〜130℃、延伸倍率2倍以上で処理すると、繊維強度が向上するので好ましい。得られたフィラメントには、繊維処理剤を付着させてもよく、親水化剤を付着させると更に初期親水性が向上するので好ましい。
【0024】
ポリオレフィン系繊維から不織布を製造するには、溶融紡糸・延伸・捲縮・熱処理・カットの各工程を経て、短繊維(ステープルファイバー)を得て、次いでローラーカード方式で不織布を得る方法、あるいは溶融紡糸で直接的に不織布を作製するスパンボンド法、メルトブロー法、糸条形成過程を経た糸を短くカットし、分散・ウエブ化・交絡工程を経て得る湿式成型法等を採用することが出来る。引張破断強力の高い不織布を得るにはスパンボンド法、目付けの小さい不織布を得るには、メルトブロー法、均質度の極めて高い不織布を得るには、湿式成型法が特に好ましい。
【0025】
本発明の親水化剤を繊維に付与することにより、繊維の初期親水性に優れるとともに、耐久親水性についても著しく改善することができる。従って本発明の親水化剤は、紙おむつや生理用品等に用いられるポリオレフィン系不織布等の親水化剤として好適に使用が可能である。
【実施例】
【0026】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
<親水化剤の合成>
実施例1
カルダノール(3−[8(Z),11(Z),14−ペンタデカトリエニル]フェノール 31重量%、3−[8(Z),11(Z)−ペンタデカジエニル]フェノール 20重量%、3−[8(Z)−ペンタデセニル]フェノール 45重量%の混合物)商品名;Distilled Cashew Nut Shell Liquid(インド、SATYA CASHEW CHEMICALS社製。以下同様)を1000mlオートクレーブに300g及び水酸化カリウム0.8gを仕込み、系内を窒素置換した後120℃に昇温し、次いで系内を50mmHgの減圧にして1時間減圧脱水した。減圧脱水終了後、系内を窒素により常圧に戻し、150℃に昇温した後、この温度を保ちながらエチレンオキサイド132gをゲージ圧力0.2〜0.5MPaの加圧下で2時間かけて反応系内に導入しカルダノールのエトキシ化反応を行った。エチレンオキサイド送入終了後、さらに同温度で1時間熟成を行い、冷却後酢酸0.8gで中和し、表1に記載の親水化剤Aを得た。
【0028】
実施例2
カルダノールを1000mlオートクレーブに300g及び水酸化カリウム1.0gを仕込み、系内を窒素置換した後120℃に昇温し、次いで系内を50mmHgの減圧にして1時間減圧脱水した。減圧脱水終了後、系内を窒素により常圧に戻し、150℃に昇温した後、この温度を保ちながらエチレンオキサイド132gをゲージ圧力0.2〜0.5MPaの加圧下で2時間かけて反応系内に導入した。エチレンオキサイド送入終了後、さらに同温度で1時間熟成を行い、引き続きプロピレンオキサイド116gを温度130℃、0.2〜0.5MPaの加圧下で2時間かけて反応系内に導入した。プロピレンオキサイドを送入終了後、さらに同温度で3時間熟成を行い、冷却後酢酸1.0gで中和し、表1に記載の親水化剤Bを得た。
【0029】
以下同様の方法で表1に示す親水化剤C〜F(実施例3〜6)を得た。また、表1に記載の親水化剤G〜Jを比較例として用いた。
【0030】
表1に記載のそれぞれの実施例及び比較例について下記の方法にて試験布を作製した。
【0031】
(1)試験布の作製(塗布法)<実施例1〜3、比較例1〜2>
表1に記載した親水化剤を水及びイソプロピルアルコールを用いて0.5%溶液となるように調製し、スパンボンド法にて作製されたポリプロピレン不織布(目付20g/m)をこの溶液に20℃×5分間浸漬させる。浸漬後の不織布は、マングルロールで絞り率が100%(絞り率%=100×(マングル処理後の不織布重量−マングル処理前の不織布重量)/マングル処理前の不織布重量)となるよう絞り、80℃×30分間送風乾燥させた。これを20℃×40%RHの恒温恒湿室で24時間放置し試験布とした。
【0032】
(2)試験布の作製(混練法)<実施例4〜6、比較例3〜4>
ポリプロピレン樹脂(三井化学株式会社製)に表1に記載した親水化剤を20重量%となるように添加し、溶融混練してマスターバッチのペレットを作製した。次にこのマスターバッチをポリプロピレン樹脂(三井化学株式会社製)に対して25重量%となるように添加して、押出機で溶融し、スパンボンド法にて長繊維不織布を得た。即ち、ポリプロピレンペレットを溶融後紡糸し、エジェクターにて牽引し、開繊した後、移動するネット上に捕集してウエブを形成した。得られた不織布を構成する長繊維の繊度は0.5デニールであった。この不織布を130℃に加熱したエンボスロールにて部分的に熱圧着し、目付が20g/m、厚みが100μmの長繊維不織布シートを得た。
【0033】
作製した試験布については、下記の評価方法を用いてそれぞれ評価を行った。
【0034】
<初期親水性の評価>
試験布を水平板上に置き、試料上10mmの高さよりビュレットを用いて0.05mLのイオン交換水を滴下させ、その水滴が完全に吸収されるまでの時間を測定した。試験結果を表2に示す。
【0035】
<耐久親水性の評価>
試験布を10cm×10cmの小片に裁断し、水平板上に置き、試料上10mmの高さよりビュレットを用いて0.2mLのイオン交換水を滴下させ、その水滴が完全に吸収されるまでの時間を測定した。測定後は試料上へ50mLのイオン交換水を全面に振りかけて通過させた後、80℃×20分間送風乾燥させ、同様の操作を繰り返し、3回目まで測定を行った。なお、測定時間が60秒を超えた時点で測定を中止とした。試験結果を表2に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
本発明の繊維用親水化剤は、紙おむつや生理用品等の吸収性を必要とする熱可塑性合成繊維、特にポリオレフィン系不織布に使用することで初期親水性を発揮し、更にはこの親水性を持続させることが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるアルケニルフェノールの1種または2種以上にアルキレンオキサイドを付加した化合物を含有してなることを特徴とする繊維用親水化剤。
【化1】

(式中、Rは炭素数13〜17のアルケニル基、AOは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を表し、nは1〜20の整数である。2種類以上のアルキレンオキシ基を付加する場合はブロック付加、又はランダム付加のいずれであってもよい。)
【請求項2】
前記アルケニルフェノールの1種または2種以上がカルダノールである請求項1に記載の繊維用親水化剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の親水化剤を0.05〜30重量%含有することを特徴とする繊維。
【請求項4】
請求項1又は2記載の親水化剤を付与することを特徴とする熱可塑性合成繊維。
【請求項5】
請求項4記載の熱可塑性合成繊維を含有することを特徴とする不織布。

【公開番号】特開2011−84824(P2011−84824A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236598(P2009−236598)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(000221797)東邦化学工業株式会社 (188)
【Fターム(参考)】