説明

繊維集合体

【課題】屈曲性が高いなど実用的な機械的強度を有し、生体親和性、細胞接着能、耐熱性、耐薬品性を有するなど所望性能を有する繊維集合体を提供する。
【解決手段】前記繊維集合体は、無機成分を主体とする無機系化合物で被覆された有機繊維を含み、且つ、前記無機系化合物が被膜を形成していないことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養基材、断熱材、濾過材等として使用できる繊維集合体に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞を生体内の環境に近づけた状態で培養するため、細胞を三次元培養することによる組織形成誘導技術がある。この培養担体として、フィルム、粒子、中空糸、繊維集合体、発泡体などが知られている。
しかしながら、これら培養担体は三次元培養に必要な表面積が不十分であるため、細胞の高密度培養が困難であったり、生体内環境に類似した細胞の組織形成能を保有していない場合が多い。
【0003】
このような従来の培養担体の問題点を解決し、三次元培養できる培養担体として、「エレクトロスピニング法により作製したナノファイバーを含むスキャフォールド」が提案されている(特許文献1)。具体的な実施例においては、シリカ、ポリビニルアルコール(PVA)からなるナノファイバーを使用している。
しかしながら、このようなナノファイバーを含むスキャホールドは実用的な機械的強度、細胞接着能を有するものではなかった。例えば、ゾルゲル法によって作製したシリカからなるナノファイバーは、紡糸後、溶媒の乾燥や焼成過程において、収縮することによる基材の割れが生じやすい。また、焼成を行わないシリカゲルファイバーは、柔軟性はあるものの十分な強度がない。一方、焼成を行ったシリカファイバーは、強度はあるが曲げによって容易に破砕されるなど屈曲性が低く、様々な培養方法に適した基材の作製が困難であった。
また、PVAからなるナノファイバーは、図1及び図2にヒト肝癌由来細胞株(HepG2)を培養した場合を示すように、細胞との接着性が極めて低く、個々の細胞の存在は認められたが、培養時間の経過における細胞の増殖は全く認められなかった。
【0004】
また、断熱材、濾過材等の用途において、耐熱性、耐薬品性などの観点からガラス繊維の集合体を用いられている場合があるが、曲げによって容易に破砕されるなど屈曲性が低く、より実用的な機械的強度の優れるものが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−319074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、従来技術の前記課題を解決し、屈曲性が高いなど実用的な機械的強度を有し、生体親和性、細胞接着能、耐熱性、耐薬品性を有するなど所望性能を有する繊維集合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、本発明による、無機成分を主体とする無機系化合物で被覆された有機繊維を含み、且つ、前記無機系化合物が被膜を形成していないことを特徴とする、繊維集合体により解決することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の繊維集合体は、有機繊維のもつ屈曲性が高いなどの実用的な機械的強度を有すると同時に、無機成分を主体とする無機系化合物で被覆されていることによる生体親和性、細胞接着能、耐熱性、耐薬品性を有するなどの所望性能を有する繊維集合体である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】従来技術である、PVAからなるナノファイバーシート上で培養したヒト肝癌由来細胞株HepG2の状態(培養14日目)を示す、図面に代わる走査型電子顕微鏡(SEM)写真(倍率=300倍)である。
【図2】図1に示すHepG2細胞の状態(培養14日目)を示す、図面に代わるSEM写真(倍率=600倍)である。
【図3】比較例1で調製したポリプロピレン製不織布の構造を示す、図面に代わるSEM写真である。
【図4】比較例3で調製したシリカ不織布の構造を示す、図面に代わるSEM写真である。
【図5】実施例1で調製したシリカ不織布の構造を示す、図面に代わるSEM写真である。
【図6】比較例1で調製したポリプロピレン製不織布上で培養したヒト骨肉腫細胞株MG63の状態(培養14日目)を示す、図面に代わるSEM写真である。
【図7】比較例2で調製したプラズマ処理ポリプロピレン製不織布上で培養したMG63細胞の状態(培養14日目)を示す、図面に代わるSEM写真である。
【図8】比較例3で調製したシリカ不織布上で培養したMG63細胞の状態(培養14日目)を示す、図面に代わるSEM写真である。
【図9】実施例1で調製したシリカ不織布上で培養したMG63細胞の状態(培養14日目)を示す、図面に代わるSEM写真である。
【図10】比較例1〜3、実施例1で調製した各不織布上でのMG63細胞の細胞増殖能(不織布当たりの細胞数の経時的変化)を示すグラフである。
【図11】比較例1〜3、実施例1で調製した各不織布上に対するMG63細胞の細胞接着率の相対比(培養1日後)を示すグラフである。
【図12】比較例1で調製したポリプロピレン製不織布上で培養したヒト肝癌由来細胞株HepG2の状態(培養14日目)を示す、図面に代わるSEM写真である。
【図13】比較例2で調製したプラズマ処理ポリプロピレン製不織布上で培養したHepG2細胞の状態(培養14日目)を示す、図面に代わるSEM写真である。
【図14】比較例3で調製したシリカ不織布上で培養したHepG2細胞の状態(培養14日目)を示す、図面に代わるSEM写真である。
【図15】実施例1で調製したシリカ不織布上で培養したHepG2細胞の状態(培養14日目)を示す、図面に代わるSEM写真である。
【図16】比較例1〜3、実施例1で調製した各不織布上でのHepG2細胞の細胞増殖能(不織布当たりの細胞数の経時的変化)を示すグラフである。
【図17】比較例1〜3、実施例1で調製した各不織布上に対するHepG2細胞の細胞接着率の相対比(培養1日後)を示すグラフである。
【図18】比較例1で調製したポリプロピレン製不織布上で培養したチャイニーズハムスター卵巣細胞由来株CHO−K1の状態(培養14日目)を示す、図面に代わるSEM写真である。
【図19】比較例2で調製したプラズマ処理ポリプロピレン製不織布上で培養したCHO−K1細胞の状態(培養14日目)を示す、図面に代わるSEM写真である。
【図20】比較例3で調製したシリカ不織布上で培養したCHO−K1細胞の状態(培養14日目)を示す、図面に代わるSEM写真である。
【図21】実施例1で調製したシリカ不織布上で培養したCHO−K1細胞の状態(培養14日目)を示す、図面に代わるSEM写真である。
【図22】比較例1〜3、実施例1で調製した各不織布上でのCHO−K1細胞の細胞増殖能(不織布当たりの細胞数の経時的変化)を示すグラフである。
【図23】比較例1〜3、実施例1で調製した各不織布上に対するCHO−K1細胞の細胞接着率の相対比(培養1日後)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の繊維集合体は、無機成分を主体とする無機系化合物で被覆された有機繊維を含み、且つ、前記無機系化合物が被膜を形成していない。本発明の繊維集合体は、無機成分を主体とする無機系化合物で被覆された有機繊維を主体としてなるか、あるいは、無機成分を主体とする無機系化合物で被覆された有機繊維のみからなることができる。
【0011】
本明細書において、「有機繊維を主体としてなる」とは、繊維集合体に対して有機繊維が50mass%以上占めていることを意味し、好ましくは60mass%以上、より好ましくは70mass%以上、更に好ましくは80mass%以上、更に好ましくは90mass%以上であることを意味する。
また、「無機成分を主体とする」とは、無機系化合物の内、無機成分が50mass%以上を占めていることを意味し、60mass%以上を占めているのがより好ましく、75mass%以上を占めているのがより好ましい。
【0012】
本発明で用いる有機繊維としては、実用的な機械的強度、例えば、高い屈曲性を示す繊維である限り、特に限定されるものではないが、例えば、ポリアミド系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリエチレン系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリウレタン系繊維、メタ型、パラ型の芳香族繊維、ポリアミドイミド繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、芳香族ポリエーテルアミド繊維、ポリベンツイミダゾール繊維などを挙げることができる。
【0013】
本発明で用いる「無機成分を主体とする無機系化合物」(以下、単に「無機系化合物」と称することがある)は、所望性能、例えば、生体親和性、細胞接着能、耐熱性、耐薬品性を付与することができる限り、特に限定されるものではないが、特には、金属アルコキシドの加水分解・縮合物であることが好ましい。例えば、SiO、Al、B、TiO、ZrO、CeO、FeO、Fe、Fe、VO、V、SnO、CdO、LiO、WO、Nb、Ta、In、GeO、PbTi、LiNbO、BaTiO、PbZrO、KTaO、Li、NiFe、SrTiOなどの金属酸化物を挙げることができる。これらの金属酸化物は、一成分の酸化物から構成されていても、二成分以上の酸化物から構成されていても良い。例えば、SiO−Alのニ成分から構成することができる。
【0014】
本発明の繊維集合体では、繊維集合体を構成する前記の有機繊維の繊維表面全体が前記無機系化合物で被覆されていることもできるし、あるいは、その繊維表面の一部のみが無機系化合物で被覆されていることもできる。無機系化合物により付与される生体親和性、細胞接着能、耐熱性、耐薬品性を有するなど所望性能を発揮できるように、繊維表面全体が無機系化合物で被覆されているのが好ましい。
また、本発明の繊維集合体では、繊維集合体の空隙を有効に利用できるように、無機系化合物の被膜が形成されていない。
【0015】
本発明の繊維集合体の態様としては、例えば、不織布のような二次元的形態、中空円筒形、円筒形などの三次元的形態などが含まれる。
【0016】
本発明の繊維集合体は、例えば、有機繊維の集合体(例えば、不織布、中空円筒形など)を形成した後に、無機系ゾル溶液を付与し、乾燥することにより、製造することができる。
【0017】
有機繊維の集合体は、従来から公知の方法によって製造できる。例えば、不織布形態の場合には、例えば、スパンボンド法、メルトブロー法、静電紡糸法、フラッシュ紡糸法などの直接法により形成したウエブ、乾式ウエブ又は湿式ウエブをケミカルボンド法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、及び/又は水流絡合法により結合して得ることができる。三次元的形態の場合には、繊維を捕集する支持体として立体的なもの(例えば、円柱)を使用すれば、中空形態を有する繊維集合体を形成できる。また、不織布形態等の二次元的形態の繊維集合体を成形することによって、三次元的形態を有する繊維集合体を形成できる。
【0018】
なお、有機繊維が無機系ゾル溶液との親和性が低い場合には、有機繊維間に被膜を形成することなく、有機繊維を無機系化合物で被覆しにくいため、有機繊維(集合体)に対して、親和性を付与又は向上させる処理を行うのが好ましい。この親和性を付与又は向上させる処理としては、例えば、スルホン化処理、フッ素ガス処理、ビニルモノマーのグラフト重合処理、界面活性剤処理、又は放電処理などを挙げることができる。
【0019】
これらの中でも有機繊維の強度を低下させることなく効果的に親和性を付与又は向上させることのできる点で、放電処理が好ましい。この放電処理として、コロナ放電処理、プラズマ処理、グロー放電処理、沿面放電処理、紫外線処理又は電子線処理を挙げることができる。放電処理の中でも、空気中の大気圧下で、それぞれが誘電体を担持する一対の電極間に、これら両方の誘電体と接触するように有機繊維集合体を配置し、これら両電極間に交流電圧を印加し、有機繊維集合体の内部空隙で放電を発生させる方法であると、有機繊維集合体の内部も親和性を付与又は向上させることができ、内部においても被膜を形成しにくいため好適である。
【0020】
形成した有機繊維集合体(好ましくは、親和性付与又は向上処理を実施した有機繊維集合体)に付与する無機系ゾル溶液としては、例えば、所望の元素を含む化合物を含む溶液(原料溶液)を、100℃以下程度の温度で加水分解させ、縮重合させることによって得ることができる。前記原料溶液の溶媒は、例えば、有機溶媒(例えばアルコール)又は水である。
【0021】
前記化合物を構成する元素は特に限定するものではないが、例えば、リチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ランタン、ハフニウム、タンタル、タングステン、水銀、タリウム、鉛、ビスマス、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、又はルテチウムなどを挙げることができる。
【0022】
前記の化合物としては、例えば前記元素の酸化物を挙げることができ、具体的には、SiO、Al、B、TiO、ZrO、CeO、FeO、Fe、Fe、VO、V、SnO、CdO、LiO、WO、Nb、Ta、In、GeO、PbTi、LiNbO、BaTiO、PbZrO、KTaO、Li、NiFe、SrTiOなどを挙げることができる。前記の無機成分は、一成分の酸化物から構成されていても、二成分以上の酸化物から構成されていても良い。例えば、SiO−Alのニ成分から構成することができる。
【0023】
前記の無機系ゾル溶液は、前記原料溶液に対して、前記化合物を縮重合させる処理を行うことにより得られる。無機系ゾル溶液中の無機系化合物の固形分濃度は、被覆する有機繊維によって適宜選択することができるが、有機繊維を被覆しやすく、また、有機繊維間に無機化合物の被膜を形成しにくように、10mass%以下であるのが好ましい。
【0024】
前記無機系ゾル溶液は、有機繊維集合体への無機系ゾル溶液の付与工程において、有機繊維集合体の内部まで均一に到達させることができる限り、粘度は特に限定されるものではない。
【0025】
無機系ゾル溶液付与工程で用いる無機系ゾル溶液は、上述のような無機成分以外に、有機成分を含んでいることができ、この有機成分として、例えば、シランカップリング剤、染料などの有機低分子化合物、ポリメチルメタクリレートなどの有機高分子化合物、などを挙げることができる。
【0026】
前記原料溶液は、前記原料溶液に含まれる化合物を安定化する溶媒(例えば、有機溶媒(例えば、エタノールなどのアルコール類、ジメチルホルムアミド)又は水)、前記原料溶液に含まれる化合物を加水分解するための水、及び加水分解反応を円滑に進行させる触媒(例えば、塩酸、硝酸など)を含んでいることができる。また、前記原料溶液は、例えば、化合物を安定化させるキレート剤、前記化合物の安定化のためのシランカップリング剤、圧電性などの各種機能を付与することができる化合物、接着性改善、柔軟性、硬度(もろさ)調整のための有機化合物(例えば、ポリメチルメタクリレート)、あるいは染料などの添加剤を含んでいることができる。なお、これらの添加剤は、加水分解を行う前、加水分解を行う際、或いは加水分解後に添加することができる。
【0027】
また、前記原料溶液は、無機系又は有機系の微粒子を含んでいることができる。前記無機系微粒子としては、例えば、酸化チタン、二酸化マンガン、酸化銅、二酸化珪素、活性炭、金属(例えば、白金)を挙げることができ、有機系微粒子として、色素又は顔料などを挙げることができる。また、微粒子の平均粒径は特に限定されるものではないが、好ましくは0.001〜1μm、より好ましくは0.002〜0.1μmである。このような微粒子を含んでいることによって、光学機能、多孔性、触媒機能、吸着機能、或いはイオン交換機能などを付与することができる。
【0028】
形成した有機繊維集合体(好ましくは、親和性付与又は向上処理を実施した有機繊維集合体)に無機系ゾル溶液を付与する方法は、その全体に均一に、すなわち、有機繊維集合体の外側部分と同様に、内部まで充分に無機系ゾル溶液を到達させることができる限り、特に限定されるものではないが、例えば、有機繊維集合体を無機系ゾル溶液に浸漬することにより、実施することができる。
【0029】
浸漬後の有機繊維集合体に含まれる余剰の無機系ゾル溶液は、有機繊維間に被膜を形成することがないように、通気により除去することが好ましい。前記の通気は、吸引により、及び/又は、加圧により実施することができる。有機繊維集合体は、屈強性が高いなど実用的な機械的強度を有する有機繊維から構成されているため、吸引及び/又は加圧により通気させても、厚さを潰すことがなく、内部を含む全体の繊維に無機系ゾル溶液を付与した有機繊維集合体を得ることができる。
【0030】
無機系ゾル溶液を付与した繊維集合体は、有機繊維の形態を維持できるように、有機繊維構成樹脂の融点よりも低い温度(好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上低い温度)で乾燥する。
【0031】
なお、水酸基を含む無機系化合物の場合、熱処理条件によって無機系化合物で被覆された繊維表面の水酸基量を調整することができる。繊維表面に水酸基を多くの存在させたい場合は、500℃以下、好ましくは120〜300℃の熱処理とするのが好ましい。このように500℃以下で焼成することによって、繊維単位重量あたりの水酸基量を50μmol/g以上とすることができ、好ましくは100μmol/g以上とすることができる。このように無機系化合物が前記のような量の水酸基を含むと、例えば、リン酸イオンとカルシウムイオンを含む人工体液中に浸漬することにより、繊維上にアパタイトを効率的に析出させることができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0033】
(比較例1)
メルトブロー法によりポリプロピレン製不織布(目付:20g/m)を調製した。得られたポリプロピレン製不織布の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図3に示す。
【0034】
(比較例2)
比較例1のポリプロピレン製不織布を次の条件でプラズマ処理することにより、プラズマ処理ポリプロピレン製不織布を調製した。
すなわち、空気中の大気圧下で、それぞれがポリエステルフィルムを担持する一対の電極間に、これら両方のポリエステルフィルムと接触するように不織布を配置し、これら両電極間に交流電圧を印加(電圧:60V、電流:8A、周波数:30kHz、電力:0.48kW)し、不織布の内部空隙で放電を発生させた。
【0035】
(比較例3)
金属化合物としてテトラエトキシシラン、溶媒としてエタノール、加水分解のための水、及び触媒としての硝酸を、1:7.2:7:0.0039のモル比で混合し、温度25℃、攪拌条件300rpmで15時間反応させた。反応後、酸化ケイ素の固形分濃度が4mass%となるようにエタノールで希釈し、シリカゾル溶液とした。
次いで、比較例1のポリプロピレン製不織布を前記シリカゾル溶液に浸漬した後、吸引により余剰のゾル溶液を除去した。その後、温度110℃、10分の熱処理を行って乾燥し、シリカ不織布を形成した。
得られたシリカ不織布のSEM写真を図4に示す。このシリカ不織布はシリカ被膜が形成されていた。
【0036】
(実施例1)
比較例1のポリプロピレン製不織布の代わりに、比較例2のプラズマ処理したポリプロピレン製不織布を使用したこと以外は、比較例3と同様にして、シリカ不織布を形成した。得られたシリカ不織布のSEM写真を図5に示す。このシリカ不織布はシリカ被膜が形成されていなかった。
【0037】
(細胞培養の評価)
実施例1及び比較例1〜3の不織布を、それぞれ121℃、20分の滅菌処理を行った。いずれの不織布も滅菌処理後に形態変化は認められなかった。
各不織布を用いて、以下に示す培養条件により、培養を行った。
【0038】
(1)細胞:MG63(ヒト骨肉腫細胞株、IFO 50108)
培養培地:MEM(Minimum Essential Medium、Invitrogen社)に、10%ウシ胎児血清(FBS)、抗生物質(60μg/mLペニシリン及び100μg/mLストレプトマイシン)、NEAA(Non-Essential Amino Acids Solution 10 mmol/L、Invitrogen社を0.1%になるように希釈して使用)を添加したもの。
培養環境:37℃、5%CO
播種細胞数:2×10cells/mL
サンプル形状:1×1cm角
【0039】
培養14日目におけるMG63細胞の状態を、図6(比較例1)、図7(比較例2)、図8(比較例3)、図9(実施例1)に、それぞれ、示す。また、不織布当たりの細胞数の経時的変化を図10に、培養1日後の細胞接着率を図11に、それぞれ、示す。
細胞接着能(図11)は、実施例1が最も高い接着率を示した。また、細胞増殖能評価(図10)では、比較例1〜3と比較して、実施例1が約2倍高い値を示した。比較例1〜3及び実施例1でのMG63細胞の細胞培養においては、実施例1の培養1日目における細胞接着能の効果が、実施例1と比較例1〜3の細胞増殖能に影響した。
【0040】
(2)細胞:HepG2(ヒト肝癌由来細胞株、ATCC:HB-0865、参考文献:Knowles BB, et al., Human hepatocellular carcinoma cell lines secrete the major plasma proteins and hepatitis B surface antigen., Science 209:497-499,1980.PubMed:6248960)
培養培地:Williams’s Medium E(購入会社名:シグマ社)に、10%FBS、抗生物質(60μg/mLペニシリン及び100μg/mLストレプトマイシン)、及び1mmol/L NHClを添加したもの。
培養環境:37℃、5%CO
播種細胞数:5×10cells/mL
サンプル形状:1×1cm角
【0041】
培養14日目におけるHepG2細胞の状態を、図12(比較例1)、図13(比較例2)、図14(比較例3)、図15(実施例1)に、それぞれ、示す。また、不織布当たりの細胞数の経時的変化を図16に、培養1日後の細胞接着率を図17に、それぞれ、示す。
細胞増殖能評価(図16)では、比較例1〜3と比較して、実施例1が約2倍高い値を示した。また、細胞接着能(図17)については、実施例1と比較例2が同等の高い接着率を示した。
【0042】
(3)細胞:CHO−K1(チャイニーズハムスター卵巣細胞由来、ATCC:CCL-61、参考文献:Puch TT,et al., Genetics of somatic mammalian cells III. Long-term cultivation of euploid cells from human and animal subjects., J.Exp.Med.108:945-956,4958.PudMed:13598821)
培養培地:DMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)に、10%FBS、及び抗生物質(60μg/mLペニシリン及び100μg/mLストレプトマイシン)を添加したもの。
培養環境:37℃、5%CO
播種細胞数:5×10cells/mL
サンプル形状:1×1cm角
【0043】
培養14日目におけるCHO−K1細胞の状態を、図18(比較例1)、図19(比較例2)、図20(比較例3)、図21(実施例1)に、それぞれ、示す。また、不織布当たりの細胞数の経時的変化を図22に、培養1日後の細胞接着率を図23に、それぞれ、示す。
細胞増殖能評価(図22)では、実施例1、比較例1、比較例3で細胞の増殖が見られた。また、細胞接着能(図23)については、比較例1〜3と比較して、実施例1が約2倍高い値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の繊維集合体は、例えば、培養基材、断熱材、濾過材等として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機成分を主体とする無機系化合物で被覆された有機繊維を含み、且つ、前記無機系化合物が被膜を形成していないことを特徴とする、繊維集合体。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維集合体からなる培養担体。

【図11】
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【図17】
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【図23】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−94255(P2011−94255A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248449(P2009−248449)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】