説明

織機の糸張力装置

【課題】ブラシ機構を用いることなく、ボビンの過剰な糸巻き出しを抑制し、シャトル移動の十分な高速化を図れることができる織機の糸張力装置を提供する。
【解決手段】糸張力装置は、経糸(縦糸)の周囲を回転移動するシャトルに設けられたボビンの糸の張力装置であって、ボビンの回転軸の周囲に設けられた複数の翼と、シャトルの停止位置でボビンの糸の巻きだし回転方向とは逆方向に翼に風圧を付与する空気噴出し部と、空気噴出し部に空気を送り込むエアーコンプレッサーと、エアーコンプレッサーに対してシャトルの停止と同期した制御信号を送る制御部とを備えた構成とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織機の糸張力装置、特に、スワイベル織機の糸張力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地場産業である繊維産業において、特に低価格品については中国等が安い人件費と品質向上競争力アップが顕著である。また近年、製造型小売業を中心とした低価格品と、欧米の高級ブランドに代表される高級品が売れ筋となる二極化が進んでいる。また、中国の織物品質が向上により、中国産織物による中国国内での縫製が増加している。
【0003】
かかる状況から、日本の国内織産地の生産量、とりわけ播州織産地の生産量も減少している。
播州織の歴史の中には、大正11年開発のラペット織、昭和24年開発のスワイベル織、昭和28年開発のループ織等があり。それらは刺繍として使われてきた。現在、播州織技法のスワイベル織を用いて、織物産地では過去に例のない新しい縫製品を製造、納期短縮、コストダウン、高付加価値化を目指して数々の研究が行われている。
【0004】
一方、上述のスワイベル織機やシャトル織機においては、緯糸(横糸)や横糸としてのスワイベル糸を移動させるシャトルが存在する。かかるシャトルには糸を掴んで移動するものや、シャトル自体に糸を巻きだすための小型のボビンが取り付けられているものがある。
ボビンがシャトルに取り付けられている場合、シャトルが移動する勢いで、ボビンから糸が過剰に巻き出されることがある。
従来、このようなボビンから糸の過剰な巻き出しを防止するために、ボビンの回転を抑制するようなブラシがボビンの周囲に設けられていた(例えば、特許文献1を参照。)。
【0005】
しかしながら、上述した納期短縮やコストダウンを図るべく生産性を向上するために、シャトルの移動を高速化した場合、上記のブラシを用いる方法は、シャトルの高速化に糸の巻き出しが追従できず、十分なシャトル移動の高速化を図る障害となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2003−505167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した如く、従来のブラシを用いてボビンの過剰な糸巻き出しを抑制する機構では、シャトル移動の十分な高速化を図ることが困難であるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明では、ブラシ機構を用いることなく、ボビンの過剰な糸巻き出しを抑制し、シャトル移動の十分な高速化を図れることができる織機の糸張力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、試行錯誤の上、様々な機構を検討した結果、地域固有のスワイベル織機や一般のシャトル織機にも適用可能な機構を完成するに至った。
【0010】
すなわち上述の問題に鑑みて、本発明の糸張力装置は、経糸(縦糸)の周囲を回転移動するシャトルに設けられたボビンの糸の張力装置であって、下記(1)〜(4)を備えた構成とされる。
(1)ボビンの回転軸の周囲に設けられた複数の翼
(2)シャトルの停止位置でボビンの糸の巻き出し回転方向とは逆方向に上記の翼に風圧を付与する空気噴出し部
(3)上記の空気噴出し部に空気を送り込むエアーコンプレッサー
(4)上記のエアーコンプレッサーに対してシャトルの停止と同期した制御信号を送る制御部
【0011】
かかる構成によれば、ブラシ機構を用いることなく、ボビンの過剰な糸巻き出しを防止し、シャトル移動の十分な高速化を図れることができる。
シャトルが高速に移動する場合、ボビンが過剰に糸を巻き出すことになる。シャトルが停止した時点で空気噴出し部から空気を送り出して、ボビンの回転軸の周囲に設けられた翼に噴き付ける。翼に噴き出すれた空気の風圧によって、ボビンには糸の巻き出し回転方向とは逆方向にモーメントが生じる。逆方向のモーメントによりボビンが糸の巻き出し回転方向とは逆方向に回転し、ボビンに糸が巻き戻されることになるのである。
かかる機構により、ブラシ機構を用いることなく、ボビンの過剰な糸巻き出しを防止し、シャトル移動の十分な高速化を図るのである。
【0012】
ここで、翼は、ボビンの糸の巻き付け部以外の部位に設けられる。例えば、ボビンの軸受け部近傍に設けられるもので、ボビンの軸方向に平行な面を有するものである。また、ボビンの軸方向に平行でなくとも風車の如く空圧によりボビンに対して回転力を与えられるものでも構わない。
また、翼は少なくとも2つ以上必要であり、好適には4枚から6枚の翼が必要である。これは、ボビンの停止状態にかかわらず、風圧を効率的に翼に付加させるためである。
【0013】
また、空気噴出し部とは、シャトルの停止位置で、ボビンに設けられた翼の少なくとも1つにボビンの糸の巻き出し回転方向とは逆方向に回転力が加わるように、上記の翼に風圧を付与する、すなわち、空気を噴き付けるものである。
また、空気噴出し部には、エアーコンプレッサーから流出する空気が送り込まれるようチューブが連結されている。そして、このエアーコンプレッサーに対してシャトルの停止と同期した制御信号を送る制御部が設けられている。
【0014】
以上の糸張力装置は、スワイベル糸を移動させるスワイベル織機に好適に用いられるものである。スワイベル織の場合、ミシンのように2本の糸が絡んで縫製したものと異なり、着物を縫う手縫製と同じであるため、肌が弱い人でも縫い目で擦れたりしなくなる。なお、スワイベル織は、織物素材に特段制限はなく、綿、ウール、アクリル、ポリエステル、レーヨン、シルクなどの全ての素材が使用対象となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の糸張力装置によれば、ブラシ機構を用いることなく、ボビンの過剰な糸巻き出しを抑制し、シャトル移動の十分な高速化を図れることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】スワイベルボビンの一実施形態を示す外観斜視図
【図2】スワイベルボビンに設けられた複数の翼の例図
【図3】回転移動するシャトルの一実施形態を示す外観図
【図4】本発明の糸張力装置の一実施形態を示す図
【図5】シャトルとスワイベルボビンの動作説明図
【図6】経糸に対するスワイベルボビンの動作説明図
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明していく。ただし、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更または変形が可能である。
【実施例1】
【0018】
実施例1の糸張力装置を説明する。
実施例1の糸張力装置は、経糸の周囲を回転移動するシャトルに設けられたボビンの回転軸の周囲に複数の翼が設けられている。
図1はスワイベルボビンの外観斜視図を示している。図1において、13は糸巻き出し部であり、15はヤーン(糸)ガイドであり、17はヤーンガイド15に設けられた糸送り出し孔であり、19はスワイベルボビン留めスプリングである。また、21は鍔であり、23はボビン回転体である。図1に示すように、ボビンは糸巻き出し部13と鍔23で仕切られたボビン回転体23の周囲に、翼11aが回転軸と平行な面を形成するように設けられている。
図2に示すように、翼は、図1で示したスワイベルボビン1のボビン回転体23の周囲に、等間隔に4〜6枚設けられている。図2(1)は4枚の翼(11a〜11d)を示しており、図2(2)は5枚の翼(11a〜11e)を示しており、図2(3)は6枚の翼(11a〜11f)を示している。
【0019】
図1の矢印Aの方向に空気が噴出されると、翼11aに風圧がかかり、スワイベルボビン1の回転軸を中心にモーメントが発生する。シャトルの停止位置でスワイベルボビン1の糸の巻き出し回転方向とは逆方向(図1の矢印Bの方向)に、翼11aに風圧を付与する空気噴出し部(図示せず)を設けることにより、過剰に巻き出された糸をスワイベルボビン1の糸巻き出し部13に巻き戻すことができ、その結果、スワイベル糸10に一定の糸張力を持たせることができることになる。
【0020】
空気噴出し部は、エアーコンプレッサー(図示せず)を用いて空気を送り込む。このエアーコンプレッサーの制御は、例えば、シャトルの停止を検出して、停止と同期したON信号を送り、一定時間後(例えば、500ms後)にOFFする。これらの制御は制御部(図示せず)で行う。
【0021】
図3は、回転移動するシャトルの外観図を示している。図3に示すように、シャトル3は一部の輪の形状を呈しており、シャトル3の中央には、図1で示したボビン1が設けられている。
また、シャトルの内周側には、櫛歯31が設けられている。櫛歯31は後述するシャトル駆動体(図示せず)の櫛歯と噛み合うことによりモーター等の機構を用いてシャトル3を動作させることができる。
【0022】
図4は、本発明の糸張力装置の一実施形態を示す図である。
図4において、5はシャトル駆動用ギア用ブラケットであり、6はシャトル駆動モーター用ブラケットである。また、7は圧縮エアーホールであり、8は空気送出チューブであり、図示しないエアーコンプレッサーと連結されている。また、9は空気噴出し部であり、上述したようにここから空気が噴出されることによりスワイベルボビンの糸張力が調整されることになる。
図4に示す実施例1の糸張力装置は、上述したスワイベルボビン1及びシャトル3が組み込まれたものであり、シャトル3は、エアー又はリニアによりシャトル駆動部4の周囲を高速に移動する。シャトル駆動部4は、円形形状から中心を離れた位置で一部カットされた形状を呈している。そのため、シャトル3がシャトル駆動体4の周囲を移動する際に、シャトル3とシャトル駆動体4のカットされた側の間に空間が生じることになる。後述するが、この空間に経糸を配置することで、経糸の周囲にスワイベル糸10が横糸として織り込まれることになる。
【0023】
シャトル3が高速にシャトル駆動体4の周囲を移動すると、スワイベルボビン1からスワイベル糸10が過剰に巻き出されることになる。
そこで、シャトル3の停止位置(図4に示す状態)で、エアーコンプレッサー(図示せず)から空気(Air)を送り込み、空気送出チューブ8を介して空気噴出し部9から空気を噴出させる。
スワイベルボビン1は上述の如く翼が設けられており、噴出した空気が翼に当たることで、スワイベルボビン1が糸巻き出し方向とは逆方向に回転する。
従って、過剰に巻き出されたスワイベル糸10が、再びスワイベルボビン1に巻き取られることになり、スワイベル糸10に適度な張力を付与させることができる。
【0024】
次に、図5を用いて、シャトルとスワイベルボビンの動作を説明する。スワイベルボビン1が設けられたシャトル3が、シャトル駆動体の周囲を1周移動する様子を図5(1)〜(6)に示す。図5(1)はシャトルの停止状態である。スワイベルボビン1の翼に空気が噴き出され、順に図5(2)、図(3)、・・・とシャトル3が時計回りに回転していき状態が遷移していく。図5(2)〜(5)から、シャトル3がシャトル駆動体4の周囲を移動する際に、シャトル3とシャトル駆動体4のカットされた側の間に空間が生じることがわかる。
【0025】
また、図6を用いて、経糸に対するスワイベルボビンの動作を説明する。ここで、図6(1)〜(6)は、それぞれ図5(1)〜(6)のシャトルの動作に対応したものである。図6では、スワイベルボビン1と経糸2だけを示している。スワイベルボビン1が時計回りに回転して、3本の経糸2の周囲にスワイベル糸若しくはスワイベルを形成する緯糸(横糸)がその周りを回転してスワイベルを形成していく様子がわかる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の糸張力装置は、スワイベル織機やシャトル織機に有用である。
【符号の説明】
【0027】
1 スワイベルボビン
2 経糸(縦糸)
3 シャトル
4 シャトル駆動部
5 シャトル駆動用ギア用ブラケット
6 シャトル駆動モーター用ブラケット
7 圧縮エアーホール
8 空気送出チューブ
9 空気噴出し部
10 スワイベル糸
11a〜11f 翼
13 糸巻き出し部
15 ヤーンガイド
17 糸送り出し孔
19 スワイベルボビン留めスプリング
21 鍔
23 ボビン回転体
31 櫛歯


【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸(縦糸)の周囲を回転移動するシャトルに設けられたボビンの糸の張力装置であって、
前記ボビンの回転軸の周囲に設けられた複数の翼と、
前記シャトルの停止位置で前記ボビンの糸の巻き出し回転方向とは逆方向に前記翼に風圧を付与する空気噴出し部と、
前記空気噴出し部に空気を送り込むエアーコンプレッサーと、
前記エアーコンプレッサーに対して前記シャトルの停止と同期した制御信号を送る制御部と、
を備えたことを特徴とする糸張力装置。
【請求項2】
前記翼がボビンの回転軸の周囲に等間隔に4〜6枚設けられたことを特徴とする請求項1に記載の糸張力装置。
【請求項3】
前記シャトルはスワイベル糸を移動させるスワイベル織機のシャトルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の糸張力装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−208304(P2011−208304A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76402(P2010−76402)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(502406203)株式会社片山商店 (9)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【出願人】(800000057)公益財団法人新産業創造研究機構 (99)
【Fターム(参考)】