説明

織物及びその製造方法並びに車両用シート

【課題】モール糸を構成している芯糸に対する摩擦の影響が十分に抑制されており、且つ耐摩耗性に優れる織物及びその製造方法並びに車両用シートを提供する。
【解決手段】本発明の織物は、少なくとも弾性糸を含む構成糸21、22と、芯糸31及び花糸32を有するモール糸3とが用いられており、一面及び他面を備えたものであって、構成糸のうちの少なくとも1種の糸22は、本織物の断面方向からみたときに波状になっており、一面側における波の山部の各頂点(t)同士を結んで仮想線(Lv)を形成したときに、芯糸31が仮想線(Lv)よりも他面側に位置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織物及びその製造方法並びに車両用シートに関する。更に詳しくは、モール糸を構成している芯糸に対する摩擦の影響を十分に抑制することができ、且つ耐摩耗性に優れる織物及びその製造方法並びに車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、弾性糸を含む織物が知られており、シート表皮等に利用されている。このような織物は優れた伸縮性(弾性)を備えており、シート表皮の内部に従来配置されていた発泡ウレタンがなくても、若しくは薄くても、着座者の体圧を分散させ、座り心地を損なうことなく着座者を保持することができる。
しかしながら、弾性糸にはモノフィラメントで剛直なものが使われており、表面の手触り感が粗硬であった。そこで、繊物の一部にモール糸を使い、風合いを向上させた織物が表皮材として張設された椅子が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−135707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の表皮材として用いられている弾性糸及びモール糸を含む織物においては、伸びを付与するために、熱処理によって弾性糸を収縮させている。この際、弾性糸と、モール糸などの他の構成糸との間には収縮差が生じ、弾性糸よりも収縮の度合いが小さいモール糸は隆起する。そのため、着座者の乗降、着座の際などに生じる荷重や摩擦等により、モール糸が損傷を受けて切断されてしまうという問題があった。具体的には、図3に示すように、モール糸3は、通常、複数の芯糸31と、それらの芯糸31に挟持された複数の花糸32とによって構成されており、上述の摩擦等によって、芯糸31が直接損傷を受けて切断されてしまい、芯糸31に挟持されていた花糸32が抜け落ちてしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、モール糸を構成している芯糸に対する摩擦の影響を十分に抑制することができ、且つ耐摩耗性に優れる織物及びその製造方法並びに車両用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するために、請求項1に記載の発明は、少なくとも弾性糸を含む構成糸と、芯糸及び花糸を有するモール糸と、が用いられており、一面及び他面を備えた織物であって、
前記構成糸のうちの少なくとも1種の糸は、本織物の断面方向からみたときに波状になっており、前記一面の側における波の山部の各頂点同士を結んで仮想線を形成したときに、前記芯糸が前記仮想線よりも前記他面の側に位置していることを要旨とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1記載において、前記構成糸は、保護糸を更に含むことを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1記載において、前記構成糸は、前記弾性糸と保護糸とからなり、
下記式(1)により求められる値が5〜50であることを要旨とする。
[(L−L)/L]×100 ・・・(1)
(但し、Lは保護糸の長さ(mm)、Lは弾性糸の長さ(mm)を示す。)
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3記載において、前記保護糸の繊度が100dtex以上であることを要旨とする。
【0007】
上記問題を解決するために、請求項5に記載の発明は、織物の製造方法であって、
芯糸及び花糸を有するモール糸と、熱収縮率の異なる2種以上の構成糸とを用いて原織物を形成する原織物形成工程と、
前記原織物を熱処理する熱処理工程と、を備えており、
前記構成糸のうちの少なくとも1種は、弾性糸であることを要旨とする。
【0008】
上記問題を解決するために、請求項6に記載の発明は、車両用シートであって、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の織物を用いたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の織物では、構成糸のうちの少なくとも1種の糸が、織物の断面方向からみたときに波状になっており、一面の側における波の山部の各頂点同士を結んで仮想線を形成したときに、芯糸が仮想線よりも他面の側に位置している。そのため、モール糸を構成している芯糸に対する摩擦の影響を十分に抑制することができ、耐摩耗性に優れる。
また、構成糸が保護糸を更に含んでいる場合には、芯糸に対する摩擦の影響をより低減することができ、耐摩耗性をより向上させることができる。
更に、構成糸が弾性糸と保護糸とからなり、上記式(1)で求められる値が5〜50である場合には、芯糸に対する摩擦の影響をより低減することができ、耐摩耗性をより向上させることができる。
また、保護糸の繊度が100dtex以上と大きい場合には、芯糸に対する摩擦の影響をより低減することができ、耐摩耗性をより向上させることができる。
【0010】
本発明の織物の製造方法では、モール糸を構成している芯糸に対する摩擦の影響を十分に抑制することができ、耐摩耗性に優れる織物を容易に製造することができる。
【0011】
本発明の車両用シートには、モール糸を構成している芯糸に対する摩擦の影響が十分に抑制され且つ耐摩耗性に優れる織物が用いられているため、耐久性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
【図1】本発明の織物を説明するための模式図である。
【図2】図1の織物におけるA−A断面の模式図である。
【図3】モール糸を説明するための模式図である。
【図4】比較例1の織物を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0014】
1.織物
本実施形態1.に係る織物は、少なくとも弾性糸を含む構成糸と、芯糸及び花糸を有するモール糸と、が用いられており、一面及び他面を備えた織物であって、
前記構成糸のうちの少なくとも1種の糸は、本織物の断面方向からみたときに波状になっており、前記一面の側における波の山部の各頂点同士を結んで仮想線を形成したときに、前記芯糸が前記仮想線よりも前記他面の側に位置していることを特徴とする。
具体的には、この織物は、図2に示すように、構成糸(21、22)のうちの少なくとも1種の糸(22)は、本織物の断面方向(図1におけるA−A断面を参照)からみたときに、波状になっており、一面側における波の山部の各頂点(t)同士を結んで仮想線(Lv)を形成したときに、モール糸(3)を構成する芯糸(31)が仮想線(Lv)よりも他面側に位置している。
【0015】
上記「構成糸」は、織物を構成する経糸及び緯糸のうちのどちらに用いられていてもよく、両者に用いられていてもよい。
この構成糸としては、少なくとも弾性糸が用いられる。更に、この構成糸としては、保護糸が用いられることが好ましい。この場合、モール糸を構成する芯糸に対する摩擦の影響をより低減することができ、耐摩耗性をより向上させることができる。
【0016】
上記「弾性糸」の材質は特に限定されないが、例えば、ポリウレタン繊維、ポリエーテルエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維等を用いて得られるものが挙げられる。
この弾性糸の形態は特に限定されず、例えば、ストレート糸であってもよいし、捲縮等が与えられた加工糸であってもよい。また、モノフィラメントであってもよいし、マルチフィラメントであってもよい。更に、弾性糸の断面形状も特に限定されない。
なかでも、好適な伸びが得られ、伸長回復性が良いことから、ポリトリメチレンテレフタレートのモノフィラメント形態が好ましい。
【0017】
弾性糸の繊度は特に限定されず、例えば、30〜10000dtexであることが好ましく、より好ましくは50〜2000dtexであることが好ましい。
【0018】
弾性糸の伸長弾性率(10%伸長時)は、80〜100%であることが好ましく、より好ましくは90〜100%である。尚、この伸長弾性率は、JIS L1013 8.9 b)B法により、10%伸長時まで引きのばして測定することができる。
【0019】
弾性糸の熱収縮率は、5〜30%であることが好ましく、より好ましくは10〜20%である。
尚、この熱収縮率は、弾性糸に初荷重8.82(mN)×10×表示dtexを加え、かせ長50cm、巻き数5の小かせを作り、荷重を取り除いた後、180℃で90秒加熱し、初荷重を加え、かせ長を測り、式[(50−l)/50]×100で測定することができる(但し、lは、180℃で90秒間の熱処理後の長さ(cm)を示す)。
【0020】
上記「保護糸」は、上記弾性糸よりも機械的強度が高いものであることが好ましい。具体的には、弾性糸よりも引張強さが大きいものであることが好ましい。
保護糸の材質は特に限定されないが、例えば、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維等を用いて得られるものが挙げられる。
保護糸の形態は特に限定されず、例えば、ストレート糸であってもよいし、捲縮等が与えられた加工糸であってもよい。また、モノフィラメントであってもよいし、マルチフィラメントであってもよい。更に、保護糸の断面形状も特に限定されない。
【0021】
保護糸の引張強さは、JIS L1013 8.5.1 標準時試験における「切断時の強さ」により評価することができ、定速伸長形試験機を用い、つかみ間隔を25(cm)、引張速度を30(cm/min)で測定する。この値が10N以上であることが好ましく、より好ましくは50N以上である。
【0022】
保護糸の繊度は特に限定されないが、大きいことが好ましい。具体的には、100dtex以上であることが好ましく、より好ましくは500dtex以上、更に好ましくは1000dtex以上である。この繊度が100dtex以上である場合には、芯糸に対する摩擦の影響をより低減することができ、耐摩耗性をより向上させることができる。
【0023】
保護糸の熱収縮率は、上記弾性糸よりも小さいことが好ましい。この保護糸の熱収縮率は0〜20%であることが好ましく、より好ましくは0〜10%である。尚、この熱収縮率は、上述の弾性糸の場合と同様に測定することができる。
【0024】
また、実施形態1.に係る織物では、上記構成糸は弾性糸と保護糸とからなり、下記式(1)により求められる値が5〜50であるものとすることができる。この値が5〜50である場合には、芯糸に対する摩擦の影響をより低減することができ、耐摩耗性をより向上させることができるため好ましい。
【0025】
[(L−L)/L]×100 ・・・(1)
(但し、Lは保護糸の長さ(mm)、Lは弾性糸の長さ(mm)を示す。)
尚、式(1)における各糸の長さは、本実施形態における織物から裁断して得られる正方形の試験片(一辺;100mm)を構成する各糸の長さを示す。但し、試験片は、その各辺が織物を構成する経糸又は緯糸の織方向に平行となるように織物から裁断されたものとする。
【0026】
上記「モール糸」は、織物を構成する経糸及び緯糸のうちのどちらに用いられていてもよく、両者に用いられていてもよい。このモール糸は、通常、芯糸(31)と、複数の芯糸に挟持された花糸(32)とから構成されている(図3参照)。
上記「芯糸」の材質は特に限定されないが、例えば、ポリアミド繊維、ポリエステル系繊維等を用いて得られるものが挙げられる。なかでも、花糸をより強固に挟持できるという観点から、熱により花糸や他の芯糸と融着するものが好ましい。
この芯糸の形態は特に限定されず、例えば、ストレート糸であってもよいし、捲縮等が与えられた加工糸であってもよい。また、モノフィラメントであってもよいし、マルチフィラメントであってもよい。なかでも、マルチフィラメントが好ましい。更に、芯糸の断面形状も特に限定されない。
【0027】
芯糸の繊度は特に限定されないが、30〜1000dtexであることが好ましく、より好ましくは100〜500dtexである。
【0028】
上記「花糸」としては、例えば、フィラメント糸等が用いられる。
花糸の形態は特に限定されず、例えば、ストレート糸であってもよいし、捲縮等が与えられた加工糸であってもよい。また、モノフィラメントであってもよいし、マルチフィラメントであってもよい。更に、花糸の断面形状も特に限定されない。
【0029】
花糸の繊度は特に限定されないが、30〜300dtexであることが好ましく、より好ましくは50〜100dtexである。
【0030】
また、実施形態1.に係る織物の組織や糸の配列方法は特に限定されない。例えば、平織り、綾織り、朱子織り等の組織を挙げることができる。更に、織物の密度及び目付等も特に限定されず、用途等に応じて、任意の織成条件が採用される。
特に、実施形態1.に係る織物は、経糸に少なくとも構成糸を用いており、緯糸に少なくともモール糸を用いているものとすることができる。
【0031】
2.織物の製造方法
本実施形態2.に係る織物の製造方法は、芯糸及び花糸を有するモール糸と、熱収縮率の異なる2種以上の構成糸とを用いて原織物を形成する原織物形成工程と、前記原織物を熱処理する熱処理工程と、を備えており、前記構成糸のうちの少なくとも1種は、弾性糸であることを特徴とする。
【0032】
上記「原織物形成工程」では、芯糸及び花糸を有するモール糸と、熱収縮率の異なる2種以上の構成糸とを用いることにより、原織物が形成される。
上記「原織物」の組織や糸の配列方法は特に限定されない。
また、上記「構成糸」としては、上記「弾性糸」以外に、保護糸が用いられていることが好ましい。尚、モール糸及び構成糸(弾性糸、保護糸)については、上述の実施形態1.の織物における説明を適用することができる。
【0033】
上記「熱処理工程」では、原織物形成工程において得られた原織物が熱処理される。
熱処理の条件は、織物を構成する糸の種類等に応じて適宜調整することができる。例えば、加熱温度は130〜190℃(特に150〜180℃)とすることができる。また、加熱時間は1〜5分(特に1〜2分)とすることができる。
【0034】
特に、実施形態2.に係る織物の製造方法では、構成糸として、弾性糸と、この弾性糸よりも熱収縮率が小さい保護糸を用いることが好ましく、この熱処理工程においては、弾性糸を縮めることが好ましい。尚、各構成糸においては、原織物形成工程前の段階で予め熱処理を施しておくことで、熱処理工程における熱収縮の度合いを調整することもできる。
【0035】
この実施形態2.に係る織物の製造方法によれば、構成糸の熱収縮率の違いを利用することにより、図2に示すように、構成糸のうちの少なくとも1種の糸(22)が、織物(1)の断面方向(図1におけるA−A断面を参照)からみたときに、波状になっており、一面側における波の山部の各頂点(t)同士を結んで仮想線(Lv)を形成したときに、モール糸を構成する芯糸(31)が仮想線(Lv)よりも他面側に位置している織物を製造することができる。そのため、モール糸を構成している芯糸に対する摩擦の影響を十分に抑制することができ、耐摩耗性に優れる織物を容易に製造することができる。
【0036】
3.車両用シート
本実施形態3.に係る車両用シートは、上記実施形態1.に係る織物を用いたことを特徴とする。
上記織物は、モール糸を構成している芯糸に対する摩擦の影響が十分に抑制され、且つ耐摩耗性に優れたものであるため、耐久性に優れた車両用シートを得ることができる。更には、織物における弾性糸及びモール糸の存在により、着座者を保持するのに適度な伸長性と摩擦力を備えた車両用シートを得ることができる。
尚、本実施形態3.に係る車両用シートにおいては、織物の一面側[図2における仮想線(Lv)が形成される側]を表面とすることが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[実施例1及び2]
〔1−1〕織物の製造
経糸として弾性糸及び保護糸を用い、緯糸としてモール糸及び弾性糸を用いて原織物を作成した後、得られた原織物を熱処理(加熱温度;180℃、加熱時間:2分)することにより、実施例1及び2の各織物を得た。
尚、各実施例において使用した糸及び製織条件の詳細を以下に示す。
【0038】
実施例1に使用した糸の詳細
<経糸>
(1)弾性糸;PTTモノフィラメント(80dtex)、引張強さ(切断時の強さ):2N、熱収縮率(温度:180℃):15%
(2)保護糸(高強力糸);東レ社製、品番「702C」[ポリエステルフィラメント(560dtex/96フィラメント)双糸、撚回数:180(回/m)、撚方向:Z、引張強さ(切断時の強さ):82N]
<緯糸>
(1)モール糸;1/4.2番手、PET先染めモール、芯糸(材質:PET、繊度:280dtexの2本給糸、撚回数:900(回/m)、撚方向:Z)、花糸(材質:PET、繊度:84dtex)
(2)弾性糸;PTTモノフィラメント(110dtex)、融着タイプ、引張強さ(切断時の強さ):2.5N、熱収縮率(温度:180℃):15%
【0039】
実施例2に使用した糸の詳細
<経糸>
(1)弾性糸;東洋紡績株式会社製、「ダイヤフローラ」[ポリエステル系エラストマーモノフィラメント(330dtex)、引張強さ(切断時の強さ):10N、熱収縮率(温度:180℃):30%]
(2)保護糸;REC社製、ポリエステル糸(660dtex/70フィラメント)双糸、撚回数:180(回/m)、撚方向:Z、引張強さ(切断時の強さ):50N]
<緯糸>
(1)モール糸;1/4.2番手、PET先染めモール、芯糸(材質:PET、繊度:280dtexの2本給糸、撚回数:900(回/m)、撚方向:Z)、花糸(材質:PET、繊度:84dtex)
(2)弾性糸;東洋紡績株式会社製、「ダイヤフローラ」[ポリエステル系エラストマーモノフィラメント(500dtex)、引張強さ(切断時の強さ):13N、熱収縮率(温度:180℃):30%]
【0040】
実施例1及び2における製織条件
<製織条件>
経糸の配列;(1)×11 (2)×3
緯糸の配列;(1)×1 (2)×9
組織;平織
経糸総本数;6944本
通し巾;62in(1575mm)
経密度(羽数/通し数);16羽、7本
緯糸設定密度;70本/in
使用織機(D/JC);ドビーレピア
【0041】
〔1−2〕織物の構成
得られた実施例1及び実施例2の織物1は、図1に示すように、弾性糸(構成糸)21、保護糸(構成糸)22及びモール糸3により構成され、モール糸3の花糸32が一面側の弾性糸21の頂点よりも表面に出て触感が良好であり、地厚感のあるものであった。そして、図2に示すように、構成糸の一種である保護糸22が、織物1の断面方向(図1におけるA−A断面を参照)からみたときに、波状になっており、一面側における波の山部の各頂点(t)同士を結んで仮想線(Lv)を形成したときに、モール糸を構成する芯糸31が仮想線(Lv)よりも他面側に位置している。
また、各織物から正方形の試験片(一辺100mm)を作成した際における、下記式(1)で表される値は、それぞれ、12(実施例1)及び30(実施例2)であった。
[(L−L)/L]×100 ・・・(1)
(但し、Lは保護糸の長さ(mm)、Lは弾性糸の長さ(mm)を示す。)
【0042】
〔1−3〕実施例1及び2の織物の機械的特性(耐摩耗特性)
実施例1及び2の各織物を用いて試験片(直径130mmの円形試験片)を作成し、テーバー摩耗試験[JIS L1096.8.19.3C法(テーバー形法)]に準じて、耐摩耗特性を評価した。尚、この試験においては、試験片を、その一面側[仮想線(Lv)が形成される側]が、摩耗輪と接触する側となるように配置した。
【0043】
<試験条件>
試験機:型式「TABER ABRASION TESTER」、株式会社東洋精機製作所製
磨耗輪:CS−10
荷重:4.9N
回転数:1000回転
【0044】
<評価基準>
試験後の試験片を目視により確認し、下記の基準で評価した。尚、3級以上が合格(良好)である。
5級:状態変化なし。
4級:やや毛羽立ちがある。
3級:毛羽立ちが多い。
2級:毛羽立ちが多く、糸が細くなっている。
1級:糸切れがある。
【0045】
その結果、図2に示すように、モール糸3を構成する芯糸31が仮想線(Lv)よりも他面側に位置している実施例1及び2の各織物の耐摩耗特性は3級であり、優れた耐摩耗性を有していることが確認できた。
【0046】
[比較例1]
〔2−1〕織物の製造
経糸として弾性糸を用い、緯糸としてモール糸及び弾性糸を用いて原織物を作成した後、得られた原織物を熱処理(加熱温度;180℃、加熱時間:2分)することにより、比較例1の織物を得た。そして、実施例1と同様にして、耐摩耗特性を評価した。
尚、比較例1において使用した糸及び製織条件の詳細を以下に示す。
【0047】
<経糸>
(1)弾性糸;東洋紡績株式会社製、「ダイヤフローラ」[ポリエステル系エラストマーモノフィラメント(330dtex)、引張強さ(切断時の強さ):10N、熱収縮率(温度:180℃):30%]
<緯糸>
(1)モール糸;1/4.2番手、PET先染めモール、芯糸(材質:PET、繊度:280dtexの2本給糸、撚回数:900(回/m)、撚方向:Z)、花糸(材質:PET、繊度:84dtex)
(2)弾性糸;東洋紡績株式会社製、「ダイヤフローラ」[ポリエステル系エラストマーモノフィラメント(500dtex)、引張強さ(切断時の強さ):13N、熱収縮率(温度:180℃):30%]
【0048】
<製織条件>
経糸の配列;(1)ベタ
緯糸の配列;(1)×1 (2)×4
組織;平織
経糸総本数;6944本
通し巾;62in(1575mm)
経密度(羽数/通し数);16羽、7本
緯糸設定密度;60本/in
使用織機(D/JC);ドビーレピア
【0049】
図4に示すように、比較例1の織物においては、モール糸における芯糸31が仮想線Lvよりも一面側に位置している箇所が存在していた。そして、仮想線Lvよりも一面側に位置している芯糸31にダメージがおよんだ結果、耐摩耗特性は1級であり、比較例1の織物は十分な耐摩耗性を有していないことが確認できた。
【0050】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的及び例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲又は精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料及び実施例を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【0051】
本発明は前記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の織物及びその製造方法並びに車両用シートは、自動車等の車両関連分野、船舶関連分野、航空機関連分野、建築関連分野、家具関連分野等において広く利用される。
【符号の説明】
【0053】
1;織物、21;弾性糸(構成糸)、22;保護糸(構成糸)、3;モール糸、31;芯糸、32;花糸、t;頂点、Lv;仮想線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも弾性糸を含む構成糸と、芯糸及び花糸を有するモール糸と、が用いられており、一面及び他面を備えた織物であって、
前記構成糸のうちの少なくとも1種の糸は、本織物の断面方向からみたときに波状になっており、前記一面の側における波の山部の各頂点同士を結んで仮想線を形成したときに、前記芯糸が前記仮想線よりも前記他面の側に位置していることを特徴とする織物。
【請求項2】
前記構成糸は、保護糸を更に含む請求項1に記載の織物。
【請求項3】
前記構成糸は、前記弾性糸と保護糸とからなり、
下記式(1)により求められる値が5〜50であることを特徴とする請求項1に記載の織物。
[(L−L)/L]×100 ・・・(1)
(但し、Lは保護糸の長さ(mm)、Lは弾性糸の長さ(mm)を示す。)
【請求項4】
前記保護糸の繊度が100dtex以上である請求項2又は3に記載の織物。
【請求項5】
芯糸及び花糸を有するモール糸と、熱収縮率の異なる2種以上の構成糸とを用いて原織物を形成する原織物形成工程と、
前記原織物を熱処理する熱処理工程と、を備えており、
前記構成糸のうちの少なくとも1種は、弾性糸であることを特徴とする織物の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の織物を用いたことを特徴とする車両用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−229512(P2012−229512A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100049(P2011−100049)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】